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関連審決 無効2002-35025
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成14行ケ520特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12817損害賠償等請求事件 判例 特許
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 使用方法 /  頒布された刊行物 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  慣用技術 /  技術常識 /  着想 /  クレーム /  特許出願日 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 311号 審決取消請求事件
原告 大昭和精機株式会社
同訴訟代理人弁護士 森崎博之
同 三谷英弘
同訴訟代理人弁理士 稲葉良幸
同 吉永貴大
被告 エヌティーツール株式会社
同訴訟代理人弁理士 佐竹弘
同 中島知子
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/11/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が無効2002−35025号事件について平成15年6月5日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 主文と同旨 2 被告 (1) 原告の請求を棄却する。
(2) 訴訟費用は原告の負担とする。
前提となる事実
1 特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない。) (1) 被告は,発明の名称を「工具保持具」とする特許第3223219号(平成5年9月24日出願。平成13年8月17日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
(2) 原告は,平成14年1月28日,被告を被請求人として,特許庁に対し,本件特許を無効とすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,同請求を無効2002-35025号事件として審理した上,平成15年6月5日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は同月17日に原告に送達された。
2 本件特許の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の要旨は,本 件特許出願に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の「特許請求の範囲」の請求項1に記載された,次のとおりのものである。
【請求項1】 本体の軸線方向の一端には工具保持部を備え,本体の軸線方向の他端には,該本体を工作機の主軸に対して軸線が一致する状態に取付ける為に,上記主軸の端部に備わっているテーパ孔に嵌合させるようにした対応テーパ形状のシャンク部と,主軸側の引具でシャンク部を引込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッドとを備え, 上記本体における上記の工具保持部と上記のシャンク部との間の外周に備えさせた鍔部には,工作機の主軸の孔縁部端面に対して当て付ける為の鍔状の当部を上記孔縁部端面に対向させる位置に周設している工具保持具において, 上記シャンク部の外周面の外径は,上記テーパ孔に差込むことによってシャンク部の外周面がテーパ孔の内周面に当接した状態では,上記工作機の主軸に対して上記鍔状の当部が当接することのない寸法に形成してあり,上記シャンク部の内部は,上記シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,減径して,上記深部方向に向かって僅かに移動させられるような肉厚を残して中空に形成してあり, しかもそのシャンク部内側の中空部は,シャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成してあり,上記本体の外周に周設した上記鍔状の当部の位置は,上記シャンク部におけるプルスタッドに対してテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられて,上記シャンク部の外周面が減径されながら上記シャンク部がテーパ孔深部方向へ僅かに移動することにより上記主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に設定してあることを特徴とする工具保持具。
3 本件審決の理由の要旨は,次のとおりである。
(1) 本件発明と特表平3-500511号公報(甲3。以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)とを対比すると,両者は,「本体の軸線方向の一端には工具保持部を備え,本体の軸線方向の他端には,該本体を工作機の主軸に対して軸線が一致する状態に取付ける為に,上記主軸の端部に備わっているテーパ孔に嵌合させるようにした対応テーパ形状のシャンク部と,主軸側の引込み具でシャンク部を引込むためにシャンク部の先端に設けられた引込み具係合部とを備え,上記本体における上記の工具保持部と上記のシャンク部との間の外周に備えさせた鍔部には,工作機の主軸の孔縁部端面に対して当て付ける為の鍔状の当部を上記孔縁部端面に対向させる位置に周設している工具保持具において,上記シャンク部の外周面の外径は,上記テーパ孔に差込むことによってシャンク部の外周面がテーパ孔の内周面に当接した状態では,上記工作機の主軸に対して上記鍔状の当部が当接することのない寸法に形成してあり,上記シャンク部の内部は,中空に形成してあり, 上記本体の外周に周設した上記鍔状の当部の位置は,上記シャンク部における引込み具係合部に対してテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられて,上記シャンク部がテーパ孔深部方向へ僅かに移動することにより上記主軸の孔縁部の端面に上記鍔状の当部が当接するような位置に設定してある工具保持具。」である点で一致しており,次の点で相違している。 ア 本件発明では,主軸の端部にテーパ孔及び孔縁部端面が備えられているのに対し,刊行物1発明では,主軸の端部に固定した工具支持部材にテーパ孔及び孔縁部端面が備えられている点(以下「相違点1」という。)。
イ 引込み具及び引込み具係合部が,本件発明では,引具及びプルスタッドであって,「主軸側の引具でシャンク部を引き込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッド」(以下「構成A」という。)を備えているのに対し,刊行物1発明では,そのような構成Aを備えていない点(以下「相違点2」という。)。 ウ 本件発明では,シャンク部の内部は,上記シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,減径して,上記深部方向に向かって僅かに移動させられるような肉厚を残して中空に形成してあり,しかもそのシャンク部内側の中空部は,シャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成してあるのに対して,刊行物1発明では,そのようなものではない点(以下「相違点3」という。)。 (2) 相違点1について テーパ孔を主軸の端部に備えるか,主軸の端部に固定した工具支持部材に備えるかは,必要に応じて適宜なしうる設計的事項にすぎない。 (3) 相違点2について 刊行物1に記載された工具保持具は,引込み具である錠止素子が外方へ移動して引込み具係合部である第2部分に設けられた開口の凹面と突き合わされることにより,深部方向成分である工具保持具を深部方向へ引っ張る力と半径方向外方成分である第2部分を拡張する力との双方の成分を有する力が工具保持具に作用し,工具保持具は,シャンク部の外周面とテーパ孔の内周面とが締り嵌めされるとともに,第2部分が拡張して第2回転面と後方回転面とが突き合わされることにより,主軸に固定されるものである。 換言すると,刊行物1に記載された工具保持具は,このような外方へ移動する錠止素子を有する引込み具を備えた主軸に適用できるものであり,深部方向へ引っ張る力と拡張する力との双方の成分を有する力が作用して,シャンク部が深部方向へ引っ張られ第2部分が拡張することにより,シャンク部と第2部分との2箇所で主軸に固定されるという基本的構造・作用を有するものである。
これに対して,「日本工作機会工業会規格 プルスタッド」昭和50年10月・日本工作機械工業会発行(甲7。以下「刊行物5」という。)には,プルスタッドをシャンク部の先端に設けた工具保持具が記載されているものの,そのプルスタッドは,深部方向に移動する引込み具を備えた主軸に適用できるものであり,引込み具の深部方向へ引っ張る力の成分のみを工具保持具に伝えるものであり,また,工具保持具は,引込み具の作用により拡張する部分を備えているものではない。
以上のとおり,刊行物1に記載された工具保持具と刊行物5に記載された工具保持具とは,適用できる主軸が異なるので,両者の組み合わせを思い付くことは,容易なことではなく,また,仮に,両者の組み合わせを思い付いたとしても,刊行物1に記載された工具保持具のシャンク部の先端にプルスタッドを設けるには,深部方向へ引っ張る力と拡張する力との双方の成分を有する力が作用して,シャンク部が深部方向へ引っ張られ第2部分が拡張することにより,シャンク部と第2部分との2箇所で主軸に固定されるという基本的構造・作用を有する刊行物1に記載された工具保持具を,深部方向へ引っ張る力の成分のみを有する力が作用して,シャンク部が深部方向へ引っ張られることにより,シャンク部の1箇所で主軸に固定されるという構造・作用のものに変更し,さらに,引込み具係合部である第2部分に設けられた開口の凹面をプルスタッドに変更しなければならないことになり,このような刊行物1に記載された工具保持具が有する基本的構造・作用を変更することまでも容易に想到することができるものではない。
したがって,刊行物1発明と刊行物5に記載された発明とを組み合わせても,構成Aは,当業者が容易に想到することができたものではない。 また,構成Aは,刊行物1,同5,「GUHRING93」と題するカタログ・1993年9月・グーリング社発行(甲4。以下「刊行物2」という。),「DIN69893規格書」1993年7月・社団法人ドイツ規格委員会発行(甲5。以下「刊行物3」という。)及び特開平2-124204号公報(甲6。以下「刊行物4」という。)に記載された各発明を組み合わせても,当業者が容易に想到することができたものではない。 (4) 相違点3について 刊行物2は,本件特許の出願前に頒布された刊行物であるところ,同刊行物には,「シャンク部の内部は,上記シャンク部をテーパ孔の深部方向に向けて力が加えられたときに,減径して,上記深部方向に向かって僅かに移動させられるような肉厚を残して中空に形成してあり,しかもそのシャンク部内側の中空部は,シャンク部の元部側の最大径部を越えて上記鍔部寄りにも上記の肉厚と同じように減径する肉厚が得られるように鍔部の内側に向けて連続的に形成してある中空のシャンク。」の発明が記載されているものであり,刊行物1発明と刊行物2に記載された発明とは,中空のシャンクであることで技術分野が一致するので,刊行物1発明に刊行物2に記載された発明を採用し,相違点3における本件発明のように構成することに格別の困難性は見当たらない。 (5) 以上のとおり,相違点1及び3については,そのような構成を想到するこ とに格別の困難性は見当たらないものの,相違点2の構成Aについては,刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとすることができないので,本件発明は,刊行物1ないし5に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたとすることはできない。 (6) よって,原告の主張する理由及び提出した証拠方法によっては,本件特許を無効とすることはできない。
当事者の主張
(原告主張の取消事由) 本件審決は,相違点2についての判断を誤り,その結果,本件発明の進歩性に関する判断を誤ったものであり,その誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は取り消されるべきである。
1 本件審決は,刊行物1に記載の工具保持具と刊行物5に記載の工具保持具とは,適用できる主軸が異なるので,両者の組み合わせを思い付くことは,容易なことではないと判断したが,誤りである。
(1) 本件審決は,外方へ移動する錠止素子を有する引込み具を備えた刊行物1に記載の主軸と,深部方向に移動する引込み具である引具を備えた刊行物5に記載の主軸とは,主軸の構成が異なるから,刊行物1に記載の第1部分(シャンク部)にプルスタッドを組み合わせることは容易に想到できない旨認定している。
しかしながら,そもそも,刊行物1に記載の第1部分(シャンク部)の先端に,刊行物5に記載のプルスタッドを組み合わせることを容易に想到するか否かは,主軸の構成に左右されるものではなく,単に,工具保持具を取り扱う当業者が,刊行物1に記載された工具保持具の引込み具係合部を,刊行物5に記載されているプルスタッドに置き換えることを容易に想到するか否かの問題であり,この点において,本件審決の上記認定は誤りである。
(2)ア 本件特許出願日前である昭和50年9月11日制定のマシニングセンタ用ツールシャンクに使用されるプルスタッドに関する規格書である刊行物5には,4頁の「4.種類」の欄に,解説図1及び解説図2が示され,「プルスタッドは引張り機構によるつかみ部の角度により2種類に分けた。引張り機構は大別すると,解説図1のようにボールを介してツールシャンクを後方へ引張る方式(以下「ボール方式」という)と,解説図2のようにコレットによる方式(以下「コレット方式」という)とがある。」と記載されており,この記載からすれば,本件審決の認定するとおり,刊行物5には,「プルスタッドをシャンク部の先端に設けた工具保持具」に係る発明が記載されていると解される。
なお,甲12(英国特許出願公報GB2004478A・1979年4月4日公開)の2頁の図1には,中空テーパシャンク部が開示されており,この中空テーパシャンク部の端部には,甲11(「マシニングセンタ用ツールシャンクの形状・寸法」と題する規格書・昭和50年9月11日・日本工作機械工業会発行)の2頁の図1及び4頁の図3に記載されているのと同様に,刊行物5の2頁の図1,2に記載されているプルスタッドの雄ねじ部がねじ込まれる雌ねじ部と同様の雌ねじ部が形成されていることが開示されている。
したがって,引張り機構(引具)によりプルスタッドを主軸側のテーパ孔の後方へ引っ張ること,及びシャンク部の先端にプルスタッドを設けることは,本件特許出願日前に既に周知慣用技術であったものである。
イ また,工具保持具において,刊行物2に開示されたような中空テーパーシャンク部を主軸のテーパー孔の深部方向に締り嵌めさせるために中空テーパシャンク部に主軸側のテーパ孔の深部方向に向けた力を加えることは,本件特許出願日以前からの技術常識であった。
上記のとおり,刊行物1に記載された工具保持具の第1部分(シャンク部)を主軸側のテーパ孔に締り嵌めさせるためには,第1部分(シャンク部)にテーパ孔の深部方向に向けた力を加えることが必要であり,この深部方向に向けた力を加える手段として,本件特許出願日以前から周知慣用技術となっていた刊行物5に記載されているプルスタッドを刊行物1記載の第1部分(シャンク部)の端部に取り付けて,これを引具によりテーパ孔の深部方向に引き込む構成を想到することは,当業者であれば何ら困難なことではなく,当然になし得ることである。
すなわち,刊行物2に開示されたような中空テーパシャンク部を主軸側のテーパ孔に締り嵌めさせる構成において,当該中空テーパシャンク部の端部に,本件特許出願日以前から周知慣用技術であったプルスタッドを取り付けるという着想に到ることは,当業者であれば何ら困難なことではなく,当然になし得ることである。
加えて,刊行物1に記載された工具保持具の第1部分(シャンク部)の先端に,どのような構成の引込み具係合部を設けるかは,当業者が必要に応じて適宜なしうる設計的事項にすぎない。
2 本件審決は,「刊行物1に記載の工具保持具と刊行物5に記載の工具保持具 との組み合わせを思い付いたとしても,刊行物1に記載された工具保持具のシャンク部の先端にプルスタッドを設けるには,深部方向へ引っ張る力と拡張する力との双方の成分を有する力が作用して,シャンク部が深部方向へ引っ張られ第2部分が拡張することにより,シャンク部と第2部分との2箇所で主軸に固定されるという基本的構造・作用を有する刊行物1に記載された工具保持具を,深部方向へ引っ張る力の成分のみを有する力が作用して,シャンク部が深部方向へ引っ張られることにより,シャンク部の1箇所で主軸に固定されるという構造・作用のものに変更し,さらに,引込み具係合部である第2部分に設けられた開口の凹面をプルスタッドに変更しなければならないことになり,このような刊行物1に記載された工具保持具が有する基本的構造・作用を変更することまでも容易に想到することができるものではない」と判断したが,次に述べる点からして,この判断は誤りである。
(1) 刊行物1発明において,シャンク部が深部方向へ引っ張られることにより第1部分(シャンク部)が主軸に固定されるという作用と,第2部分が拡張することにより第2部分が主軸に固定されるという作用は,互いに独立した作用であり,そのような作用を有する工具保持具から,そのうちの1つの作用である,深部方向へ引っ張る力の成分を作用させて,第1部分(シャンク部)のみで主軸に固定されるという作用の工具保持具を想到するのは容易である。
(2) また,開口の凹面をプルスタッドに変更することに想到することも容易である。なぜならば,刊行物5の2頁の図面から明らかなように,そもそもプルスタッドは,テーパシャンク部とは別の部材であり,テーパシャンク部の先端部にねじ込んで固定するものだからである。したがって,シャンク部の先端部が開口部であったとしても,そこにプルスタッドを付けることに想到することは容易なのである。
3 本件審決は,構成Aは,刊行物1ないし5に記載された発明を組み合わせても,当業者が容易に想到することができたものではないと判断しているが,誤りである。
(1) 例えば,刊行物2には,「深部方向へ引張る力により,主軸側のテーパ孔に締り嵌めされる中空テーパシャンク」が記載されているので,刊行物2に記載の中空テーパシャンクに深部方向へ引っ張るためのプルスタッドを組み合わせることを想到することは容易である。
しかも,この中空テーパシャンク部の先端部にプルスタッドを設けるには,甲11に記載されているシャンク部と同様に,中空テーパシャンク部の先端部の内側に雌ねじ部を形成し,この雌ねじ部にプルスタッドに形成されている雄ねじ部を螺合させればよいのであるから,刊行物2に記載の中空テーパシャンクと刊行物5に記載のプルスタッドを組み合わせることは容易に実施できる。
さらに,刊行物2には,刊行物1とは異なり,中空テーパシャンク部が,引込み具の作用により拡張する部分を備えているという記載はない。したがって,仮に刊行物1に記載の工具保持部についての本件審決の前記第2の判断に従ったとしても,刊行物2に記載の中空テーパシャンク部は,外方へ移動する錠止素子を有する引込み具を備えた主軸にのみ適用できるものではないから,刊行物5に記載されている工具保持具と同様に,深部方向に移動する引込み具を備えた主軸に組み合わせることを想到することを妨げる要素を有しない。
以上のとおり,刊行物2に記載された中空テーパシャンク部の先端部に,刊行物5に記載されたプルスタッドを取付けることは,当業者にとって容易に想到できるものである。
(2) また,刊行物5に記載されているプルスタッドは,甲11に記載されている中実のシャンク部に取付けられるものであるが,刊行物1に記載された第1部分(中空のシャンク部)を知り得た当業者が,甲11に記載の中実のシャンク部を刊行物1に記載された第1部分(中空のシャンク部)に設計変更することもまた容易に想到することができるものである。
(被告の反論) 本件審決の相違点2についての判断は正当であり,原告主張の誤りはない。この点に関し,被告は次のとおり付言する。
1 本件発明 (1) マシニングセンタ主軸(工作機の主軸),マシニングセンタ用ツールシャンク及びプルスタッド等の工具保持具の分野において日本工作機械工業会のMAS規格による「7/24テーパ規格」のものが,本件出願当時(1993年),広く普及しており,周知であるとともに,日本国内のほぼ全メーカー(上記工作機の主軸,工具保持具の製造者)が採用していた。
本件明細書の「通常の需要者である金属加工業者が所有する工作機の主軸におけるテーパ孔に対して,工作機の主軸における孔縁を損傷することなく装着することが出来る工具保持具・・・工具保持具を提供する」(段落【0005】)という目的の記載からして,本件発明に係る工具保持具におけるシャンク部は,「日本国内のほぼ全メーカーが採用し,普及している」とされている「7/24テーパ規格」の主軸に対応合致できる工具保持具である。また,本件発明に係る工具保持具のシャンク部のテーパーの勾配が,「7/24テーパ規格」に対応するものである点については,特段の疑義はなく,これを否定する証拠もない。
「7/24テーパ規格」による工具保持部のシャンク部は,直径に対して細長い形状(最大口径寸法に対する軸芯方向長さは,1.5倍位)であって,その先端には細長いプルスタッドが付設され,「ロングテーパーホルダ」と呼ばれている。
本件発明に係るプルスタッドは,工作機械の主軸における「7/24テー パ規格」のテーパ孔に対して,「7/24テーパ規格」のシャンク部を装着した状態において,工作機の主軸におけるテーパ孔の深部に備える引具に対向する位置に,シャンク部の先端に固着されたプルスタッドが納まるような長さ寸法を必要とするのであるから,本件発明に係る「主軸側の引具でシャンク部を引込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッド」という構成要件の「シャンク部の先端に設けられたプルスタッド」とは,主軸における一定の長さ寸法で,かつ,所定の勾配に形成されているテーパ孔内の引具に対応させ得るように,所定の勾配でもって,所定の長さ寸法に形成されているシャンク部の先端に固着されているものであって,しかも,上記引具の引込み構造に対応する構成にしてあるプルスタッドを意味するものである。
(2) そして,シャンクと称されるからには,本件明細書にも記載されているよ に,以下に記載する芯ずれ防止機能を果たす領域と,芯振れ防止機能を果たす領域の2つの部分を具備するものでなければならない。
ア 芯ずれ防止について 別紙の「7/24テーパ規格の参考図面」(以下「別紙図面」という。)に現れているように,主軸2の回転中心(2b)に対して,工具保持具本体6の回転中心(6a)が平行状態「α寸法」だけ横に変移すると,当然のことながら刃物は偏心状態で回転し,加工精度が著しく悪くなる。したがって,工具保持部は,この芯ずれを防止する構成を備えなければならない。
この芯ずれを防止するための部分としては,主軸2のテーパー孔における先端開口部付近の内周壁(別紙図面中の第1要件領域36の部分)が好ましい。
すなわち,工具保持具のシャンク部10の最大径の付近(鍔に近い部分)を上記テーパ孔における先端開口部付近の内周壁に固く密着させれば,最も効率よく芯ずれを防止する機能が果たされる。
イ 芯振れ防止について 別紙図面に現れているように,主軸2の先端に工具保持具本体6を装着 して高速回転させている状態において,工具保持具本体6の先端にある刃物30に大きな横方向の力が加わった場合,主軸の回転中心(2b)に対して,工具保持具本体の回転中心(6a)の角度が「θ角」だけ傾斜すると,工具保持具本体6に装着した刃物30の先端が振れる(芯振れする)。刃物30の先端が芯振れすると,加工精度は著しく悪くなる。したがって,工具保持具は,このような芯振れを防止する構成を備えなければならない。
この芯振れを防止するための部分としては,別紙図面では,主軸2のテーパ孔における深部の内周壁(別紙図面中の第2要件領域37の部分)が好ましい。工具保持具本体6における鍔の外周を支点20として描かれる半径33の円弧33aがテーパー孔の内周面に食い込む位置が好ましい。すなわち,工具保持具のシャンク部10のテーパー孔深く挿入された部分(別紙図面中の第2要件領域37の部分)を上記テーパー孔における深部の内周面に固く密着させれば,最も効率よく芯振れ防止の機能が果たされる。
なお,別紙図面に現れているように,主軸2のテーパー孔における先端開口部付近の内周壁で,工具保持具本体6における鍔の外周を支点20として描かれる半径35の円弧35aと,接線の関係になる部分(別紙図面中の第1要件領域36の部分)は,工具保持具本体6の先端にある刃物30に大きな横方向の力が加わった場合,これに耐える力は発生せず,芯振れを防止する効果は生じない。したがって,この部分は芯振れを防止する領域にはならない。
ウ 本件発明の工具保持具は,その肉厚の構成に係わる関連部分を本件明細書の「特許請求の範囲」記載のように改良することにより,シャンク部10の先端のプルスタッドを,主軸2が備えている引具4で主軸2のテーパ孔内に引き込むだけの単純な操作で,主軸2のテーパ孔内面3aに,シャンク部10のテーパー面を縮めながら密着一体化させ,それと同時に,鍔の当部と主軸の孔縁端面との間を確実に当接させることができ,これによりシャンク部10に芯ずれを防止する機能と芯振れを防止する機能の両方を兼ね備えさせることができるものである。
2 刊行物1発明 (1) 刊行物1に示される軸部14は,テーパ孔の勾配を「1/10テーパ規格」にする「ドイツ工業規格DIN」のシャンクの系列に準ずる構成を採用しており,シャンクの長さを著しく短小(ショートテーパーホルダ)にする方式である。
刊行物1の第1図〜第3図に見られる軸部14の外周の斜面と第2図の工具支持部材34の内周面の勾配とは「ドイツ工業規格DIN」のシャンクにおける「1/10テーパ規格」と一致している。
日本工作機械工業会の規格に基づく「7/24テーパ規格」の工具保持具におけるツールシャンクのシャンク部とプルスタッドの合計寸法は,非常に長くなるが,近年,工具保持具の交換においてロボットが利用されるようになると,上記の規格の工具保持具においてはシャンク部とプルスタッドの合計寸法が長いことが作業効率の面で悪影響を及ぼすことが明らかになった。このような時代の変革に伴う事情から考案されたのが,工作機の主軸におけるテーパ孔の勾配を「1/10テーパ規格」に小さくする規格を採用することにより,シャンクの長さを著しく短小(ショートテーパーホルダ)にする方式である。
(2) 刊行物1記載の軸部14は,主軸76側の錠止素子36,錠止ロッド38 及びスタブ42の組合せからなる錠止機構を用い,錠止機構における錠止素子36の外方への移動により,錠止素子36と係合して軸部14を後方へ引き込むとともに軸部14における第2部分21を半径方向に拡張する手段を講じることによって,@第1部分19には,「半径方向の位置決めと半径方向の支持」を与えて芯ずれの防止をなさしめ,A第2部分21には,外周に向けて弾性的に拡張させることにより静的かつ動的剛性を与えて第2部分21の外周面(回転面22)に芯振れを防止する機能を与えている。
そして,刊行物1に示される軸部14の一部を構成する第1部分には,同刊行物の明細書に記載のとおり,「半径方向の位置決めと半径方向の支持を与え」て芯ずれの防止をする機能が存在するが,刊行物1の図面ないし明細書の記載内容からして,同部分に芯振れを防止する機能が存在しないことは明らかである。
また,刊行物1には,「第2部分21を外周に向けて弾性的に拡張させない」ことを条件として,第2部分21に対して「静的かつ動的剛性を与え」,第2部分21の外周面(回転面22)に芯振れを防止する機能を与えることが可能になる点の構成についても,全く記載がなく,そのような示唆もない。
3 相違点2についての判断について (1) 前記1,2に述べたところから明らかなとおり,そもそも,本件発明と刊行物1に記載の工具保持具とは,シャンク部に必須の芯ずれを防止する機能と芯振れを防止する機能の両方を備えさせるための具体的な技術思想が,相互に全く異なるものであるから,両者は具体的構成において相違があり,刊行物1に記載のものに本件発明の相違点2に係る構成の予測性があるとはいえない。
(2) 前記2に述べたところから明らかなとおり,刊行物1発明においては,軸部14の先端部である第2部分21に,「静的かつ動的剛性を与え」て,芯振れを防止する機能を発揮させるため,「軸部14を後方へ引込むと共に軸部14における第2部分21を半径方向に拡張する手段」を備えることが必須の構成要件とされている。
このような技術的要求がある軸部14の先端部である第2部分21に換ええて,主軸における深部の一方向へ引き込むためにのみ用いられ,シャンク部の先端を半径方向に拡張する機能を備えていないプルスタッドを設けることは,軸部14から外周に向けて弾性的に拡張させる部分を奪い去るものであり,軸部14における芯振れを防止する機能を失わせるものである。
したがって,刊行物1発明において,軸部14の先端部にプルスタッドを設けることは,当業者の想定し得ないことである。
(3) 刊行物1に記載の工具保持具は,シャンクの長さを著しく短小(ショートテーパーホルダ)にする方式であるから,該「工具保持具」の軸部14から,主軸の内部における引込み具(本件発明の「引具4」の相当するもの)に係合させ得るようにプルスタッドを突出させようとすれば,主軸の内部の奥深くにある引込み具に届くだけの随分と長いプスタッドを採用しなければならない。このように長いプルスタッドを該工具保持具の軸部14から主軸側のテーパ孔深く存在する引込み具に達するまで大きく突出させることは,前記2で述べた軸部14の短小である点の特長を害することを意味する。
このように折角,短い軸部14を提供しようとする場合に,それの特長を損じるような着想は,当業者においては,技術的常識からあり得ないことである。
(4) 刊行物1に記載された工具保持具の軸部14の外周の勾配は,ドイツ工業規格DINの「1/10テーパ規格」である。これに対し軸部14を装着するための主軸及び引込み具の構成は,日本工作機械工業会の規格に基づき「7/24のテーパ規格」に構成されており,ドイツ工業規格の流れに基づく「1/10テーパ規格」の軸部を受け入れることはできない。
仮に受け入れられたとしても,ドイツ工業規格DINの「1/10テーパ規格」の軸部14の外周の勾配は,「7/24テーパ規格」に構成されている主軸の外周に密着せず,両者間には芯振れを防止する効果も,芯ずれを防止する効果も生じることはなく,工具保持具(軸部14)としてはその機能を発揮し得ない。
このことは,刊行物1に記載の軸部14の先端に,どのような構成の引込み具を設けても同じことである。
この点から判断しても原告の主張は根拠がない。
当裁判所の判断
1 原告は,本件審決は,相違点2についての判断を誤り,その結果,本件発明の進歩性に関する判断を誤ったものである旨主張するので,以下判断する。
(1) 前記第2の3に記載のとおり,本件審決は,刊行物1に記載された工具保持具と刊行物5に記載された工具保持具とは,適用できる主軸が異なるので,両者の組み合わせを思い付くことは,容易なことではないと判断しているので,まず,この判断の当否について検討する。
ア 刊行物1には次のとおり記載されている。
(ア) 「半径方向の位置決めと半径方向の支持のための工具ホルダ軸部のテーパ状の第1部分と,支持部材のボアのテーパ状の部分との間の締り嵌め。」 (3頁左下欄16〜18行) (イ) 「工具部材(「工具ホルダ」の誤記と認める。)10は,先端12と,この先端に連なる軸部14と,先端12と軸部のつけねの後方突き合わせ面16とを有する。先端12は,その性質上では従来のものと変らず,シムを咬ませるための従来の工具受けポケット18と,・・・とを有するものである。」 (4頁左上欄16行〜末行) (ウ) 「後方突き合わせ面16は,工具ホルダ10が装着される工具支持部材の前方向き面と突き合されるようになっている。・・・第1図に図示のように,軸部14は,好ましくは,工具ホルダ10と一体のものであり,好ましくは,単一の鋼鉄製ワークから機械切削されたものである。」 (4頁右上欄6〜13行) (エ) 「軸部14は,少なくとも部分的に,好ましくは全体が管状のものとされている。軸部14の外表面は,2つの部分に分けられている。第1の部分19は,対象縦軸を回転中心とする第1の回転面20をを(注:「を」の重複記載は誤記と認める。)有しており,この回転面19(注:「19」は「20」の誤記と認める。)は,半径方向外方を向き,後方に向い内方にテーパ状となっている。第1図に図示のように,好ましくは,この第1の回転面は,円錐である。軸部14の第1部分の後方でこれに連なり,管状の第2の部分21が設けられている。この第2部分21は,上記第1回転面20の後方かつ内方に位置する第2の回転面22を有する。第2回転面22は,好ましくは,第1回転面20と同軸であり,また好ましくは,円筒径(注:「径」は「形」の誤記と認める。)のものである。軸部14の第2部分20(注:「20」は「21」の誤記と認める。)は,第1の(注:「の」は「と」の誤記と認める。)第2の開口24が穿孔されている。・・・第1と第2の開口24は,それぞれ第1と第2の前方を向いた突きあわせ凹面26を有し,この突き合わせ凹面26は,前方に延びると共に,軸部の内面28から半径方向に延びている。」 (4頁左下欄4行〜末行) (オ) 「第2図を参照するに,工具ホルダ10は,錠止素子36を介して工具支持部材34に弾性的に装着されている・・・錠止素子36と錠止ロッド38とスタブ42の組合せで,錠止機構を構成している。第2図に図示のように,錠止ロッド38の直径は,長て方向通路40の直径より小さくし,錠止ロッド38が,錠止時にひとりでにセンタリングしうるようになっている。錠止ロッド38の先端は,2つの従来式の円筒形の突き合わせ傾斜面44を有しており,この傾斜面により,錠止ロッド38が抜かれて第2図のように後方に維持されたときに,球体36がスタブ42内の径方向円筒開口48を通して外方に押出される。錠止ロッド38が,前方に押されて工具ホルダが解放されると,球体36は,従来式の凹面46に,受入れられて工具ホルダが除去可能となる。
錠止時,傾斜面44により錠止球体が外方に移動せしめられたときに,これら球体は,開口24内の前方を向いた突き合わせ凹面26およびスタブ42の半径方向開口48の後方を向いた凹面50とに突き合されることになる。この方法により,後方ならびに半径方向外方の双方の成分を有する力が,工具支持部材34のボア51内に挿入された工具ホルダ10の軸部に加えられる。この力の後方成分は,第1回転面20を,縦軸X-Xの周りのボアの前方回転面52に対し締り嵌めさせる。この前方回転面52は,半径方向内方を向くものであり,後方に向って径方向内方にテーパし,第2図に図示のように,好ましくは円錐状であり,軸部の第1回転面と同じ角度で内方にテーパしているものである。軸部の第1回転面20とボアの前方回転面20(注:「20」は「52」の誤記と認める。)が互に締り嵌めされると,工具ホルダの後方面16が,工具支持部材34の後方面54と突き合わせされるようになる。
軸部14に加えられる力の半径方向外方成分は,第2回転面22の少なくとも一部を,好ましくは,第1と第2の前方を向いた突き合わせ凹面26の後方領域の位置で,弾性的に拡張し,これを縦軸X-Xの周りのボアの半径方向内方向きの後方回転面56と突き合させる。ボア面56は,好ましくは,凹状円筒形となし,軸部の凸状円筒形面22に対してより完全な突き合わせを確実に行なわせるようにする。好ましくは,ボア面56の外径は,非拡張状態で,第2の回転面22の外形(注:「形」は「径」の誤記と認める。)より0.002から0.004インチ大きいものとする。」 (5頁左上欄2行〜左下欄4行) (カ) 「第2図に図示のように,工具支持部材は,ターレット,主軸,中ぐりロッドなどの大きな従来式の機械あるいはベース部材76に,・・・固定しても良い。」(6頁左上欄7〜11行) (キ) 第1図は,工具ホルダの1実施例の斜視図であり,工具ホルダ10の後方突き合わせ面16が鍔状であり,また,第1部分19の先端側に開口24を有する第2部分21が設けられていることが示されている。
イ 上記の記載によれば,刊行物1に記載された工具ホルダー10は,引込み具である錠止素子36が外方へ移動して引込み具係合部である第2部分21に設けられた開口の凹面と突き合わされることにより,深部方向成分である工具保持具を深部方向へ引っ張る力と半径方向外方成分である第2部分21を拡張する力との双方の成分を有する力が工具保持具に作用し,深部方向へ引っ張る力により工具保持具の第1部分19の外周面と工具支持部材34のテーパ孔の内周面とが締り嵌めされ,また,第2部分21が拡張して第2回転面22と工具支持部材の後方回転面56とが突き合わされることにより,主軸に固定されるものである。 そうすると,刊行物1に記載された工具ホルダは,上記のような外方へ移動する錠止素子を有する引込み具である錠止機構を備えた主軸に適用できるものであり,この機構の作用により当該工具保持具に深部方向へ引っ張る力と拡張する力との双方の成分を有する力が作用して,第1部分19が深部方向へ引っ張られ,第2部分21の第2回転面22が拡張して工具支持部材の後方回転面56と突き合わされることにより,第1部分19と第2部分21との2箇所で主軸に固定されるという構成・作用を有するものであるこということができる。
ウ 一方,本件明細書の「特許請求の範囲」の請求項1の「本体の軸線方 向の一端には工具保持具を備え,・・・主軸側の引具でシャンク部を引込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッドとを備え ,・・・工具保持具において,・・・ことを特徴とする工具保持具」との記載形式からみて,被告は上記クレームの傍線部分を含む冒頭から「工具保持具において」までが従来技術として公知であることを自認していることが明らかである。現に,刊行物5(昭和50年10月発行)の4頁の「4.種類」の欄の解説図1及び解説図2及び「プルスタッドは引張り機構によるつかみ部の角度により2種類に分けた。引張り機構は大別すると,解説図1のようにボールを介してツールシャンクを後方へ引張る方式(以下「ボール方式」という)と,解説図2のようにコレットによる方式(以下「コレット方式」という)とがある。」との記載から,同刊行物にはプルスタッドをテーパシャンク部の先端に設けた工具保持具が開示されているということができる。
プルスタッドは,主軸側の引具でシャンク部を引き込むためのものであることは技術常識であるところ,上記認定の各事実からすれば,「主軸側の引具でテーパシャンク部を引き込むためにシャンク部の先端に設けられたプルスタッド」の構成(構成A)は,本件特許出願当時周知であったと認められる。
エ ところで,刊行物5に記載されているようなプルスタッドが,深部方向に移動する引込み具を備えた主軸のみに適用できるものであること,引き込み具の深部方向へ引っ張る力のみを工具保持具に伝える機能しか有さず,したがって,プルススタッドをシャンク部の先端に設けた工具保持具においては,刊行物1に記載の工具保持具のような引込み具の作用により拡張する部分が存在しないことは,技術常識に照らして明らかである。
そうすると,刊行物5に記載の工具保持部と刊行物1に記載の工具保持部とは,本件審決の指摘するとおり,適用できる主軸が異なるものであり,また,前者が深部方向へ引っ張る力の成分のみを有する力が作用して,シャンク部が深部方向へ引っ張られ,これによりシャンク部が1箇所で主軸に固定される構成・作用のものであるのに対し,後者は,深部方向へ引っ張る力と半径方向外方へ拡張する力の両方の力の成分を有する力が作用して,第1部分19(シャンク部)が深部方向へ引っ張られて締り嵌めされ,第2部分21の第2回転部分22が拡張して工具支持部材の後方回転面56と突き合わされ,第1部分19(シャンク部)と第2部分21の2箇所で主軸に固定されるという構成・作用を有するものである点でも異なるものである。
しかしながら,刊行物1に記載の工具保持具の錠止機構及び第2部分21に設けられた開口の凹面24と刊行物5に記載の引具及びプルスタッドは,それぞれ主軸側の引込み具及び工具保持部の引込み具係合部であるという点で一致し,この点に関する限り同一の技術分野に属するものといえる。また,工具保持具に係る技術分野において,工具保持具のシャンク部(軸)と主軸とを確実に嵌合(又は接合)固定し,芯ずれ,芯振れを防止するということは共通の技術課題というべきであり,刊行物1に記載の工具保持具と刊行物5に記載の技術構成を有する工具保持具とは技術課題を共通にするものというべきである。
そうであれば,当業者において,刊行物1に記載の主軸側の引込み具及び工具保持具の引込み具係合部として,刊行物5に記載のものを採用することは容易に想到し得る程度のことというべきである。そして,前記ウのとおり,刊行物5に記載の技術事項は周知であったのであるから,刊行物1に記載の工具保持部の引込み具係合部としてプルスタッドを採用する場合には,主軸の引込み具についてもこれに合わせて変更すべきこと,また,刊行物1に記載の工具保持部の引込み具係合部としてプルスタッドを採用し,これに応じて主軸の引き込み具が変更された場合には,工具保持部の主軸への固定に関する構成も,深部方向へ引っ張る力のみが作用して,シャンク部が深部方向へ引っ張られ,これによりシャンク部が1箇所で主軸に固定される構成に変更されることは,いずれも,当業者にとっては自明のことというべきである。したがって,刊行物5に記載の工具保持部と刊行物1に記載の工具保持部とでは,適用できる主軸が異なり,また,当該工具保持部を主軸へ固定するための構成が相違するという点は,刊行物1発明に刊行物5に記載の技術事項の適用を着想することの阻害要因になるということはできない。
(2) 被告は,刊行物1発明に刊行物5に記載の技術事項を適用して相違点2に係る構成を想到することは容易でないとして縷々主張するが,以下のとおり,いずれも理由がない。
ア 被告は,本件発明に採用されている刊行物5に記載の構成を有する工具保持部と刊行物1に記載の工具保持具とは,シャンク部(軸部)に必須の芯ずれを防止する機能と芯ぶれを防止する機能の両方を備えさせるための具体的な技術思想が,相互に全く異なるものであるから,両者は具体的構成において相違があり,刊行物1に記載のものに本件発明の相違点2に係る構成の予測性があるとはいえない旨主張する。
被告の上記主張は,要するに,刊行物5に記載の構成を有する工具保持具と刊行物1記載の工具保持具とは,シャンク部が主軸に固定される構成が異なるから,刊行物1発明に刊行物5に記載の技術事項を適用することには阻害要因があるというに帰着するものと解されるところ,上記構成の相違が刊行物1発明に刊行物5に記載の技術事項の適用を着想することの阻害要因になるといえないことは,前記(1)に説示したとおりである (なお,本件発明に係る工具保持具おいて,工具保持具本体6の先端に横方向の力が加わると,主軸2の回転中心と工具保持具本体6の回転中心との間には芯振れが生じるが,技術常識に照らしてみれば,工具保持具本体6のシャンク部は主軸2のテーパ孔に嵌合固定されているから,シャンク部には工具保持具本体6の傾斜に抗する力が生じると考えられるのであって,シャンク部の領域はテーパ孔に嵌合固定されることによりすべての部分で芯振れを防止する機能を有するものと認められる。また,刊行物1において,第1部分19も,工具支持部材34に嵌合固定されることにより芯振れを防止する機能を有することは後記イに説示するとおりである。芯振れ防止の機能に関する被告の主張のうち上記認定に反する部分は採用することができない。) イ 被告は,刊行物1発明においては,軸部14の先端部である第2部分21に「静的かつ動的剛性を与え」て,芯振れを防止する機能を発揮させるため,「軸部14を後方へ引込むと共に軸部14における第2部分21を半径方向に拡張する手段」を備えることが必須の構成要件とされているところ,第2部分21をプルスタッドに換えることは,軸部14から外周に向けて弾性的に拡張するさせる部分を奪い去るものであり,軸部14における芯振れを防止する機能を失わせるものであるから,かかる置換えは,当業者の想定し得ないことである旨主張する。
そこで考えるに,刊行物1には,「本発明の工具ホルダは,工具支持部材とともに以下のような突き合わせを3箇所で使用している。すなわち,(1) 軸方向の支持と位置決めのための工具ホルダ上の後方面と工具支持部材の前方面との間の突き合わせ。(2) 半径方向の位置決めと半径方向の支持のための工具ホルダ軸部のテーパ状の第1部分と,支持部材のボアのテーパ状の部分との間の締り嵌め。(3) 不可分な半径方向支持を与えて静的かつ動的剛性を与えるための軸部の第2部分と工具支持部材のボアとの間の拡張可能の突き合わせ。」(3頁左下欄11〜21行)と記載されている。この記載に技術常識を併せれば,第1部分19は,工具支持部材のボアのテーパ状の部分に締り嵌め固定されることにより,工具ホルダ10の傾動を阻止し,芯ずれ,芯振れを防止する機能を果たすものと認められる。
そして,刊行物1に記載の主軸側の引込み具及び工具保持具の引込み具係合部として,刊行物5に記載の引具及びプルスタッドを採用する際に,プルスタッドの取り付けられるテーパシャンクを主軸側のテーパー孔に確実に締り嵌めさせ芯ずれ,芯振れの防止を図るため,テーパシャンクの口径及び長さをどのように設定するかは当業者が適宜なし得る設計事項というべきである。
刊行物1発明において,第1部分19には芯振れを防止する機能がないことを前提に,第2部分21をプルスタッドに換えることは,軸部14における芯振れを防止する機能を失わせるものであるとする被告の上記主張は採用できない。
ウ 被告は,刊行物1に記載の工具保持具は,工作機の主軸におけるテーパ孔の勾配を「1/10テーパ規格」に小さくする「ドイツ工業規格DIN」のシャンクの系列に準ずる構成を採用しており,軸部14の長さを著しく短小(ショートテーパーホルダ)にする方式のものであるところ,これに刊行物5に記載のプルスタッドを適用するとシャンク部が長くなり,短い軸部14の特長が損なわれるのであって,当業者がこのような工具保持具の特長を損なうような着想をすることはあり得ない旨主張する。
しかしながら,刊行物1には,刊行物1発明の軸部14の外周の斜面と工具支持部材34の内周面の勾配とがドイツ工業規格DINの「1/10テーパ規格」によるものであるとする記載は存在せず,また,軸部14について長さを著しく短小(ショートテーパーホルダ)にする方式が採用されていることを示唆する記載もない。したがって,刊行物1に記載の工具保持具は,軸部14の長さを著しく短小(ショートテーパーホルダ)にする方式であることを前提とする被告の上記主張は,その前提を欠き理由がない。
のみならず,工具保持具のシャンク部についてショートテーパホルダとロングテーパホルダとのいずれを採用するかは当業者がその使用目的,使用方法に応じて適宜選択し得る事項であるから,仮に,刊行物1にショートテーパ方式のテーパシャンクが開示されているとしても,そのことは,当業者において,刊行物1の開示事項を「テーパ状のシャンク」というより抽象化されたレベルで把握し,これに刊行物5に記載の技術事項の適用を想到することの妨げとなるものとは考えられない。
いずれにしても被告の上記主張は採用できない。
エ 被告は,刊行物1に記載された工具保持具の軸部14の外周の勾配は,ドイツ工業規格DINの「1/10テーパ規格」であるのに対し,本件発明において,シャンクを装着するための主軸及び引具の構成は,日本工作機械工業会の規格に基づく「7/24テーパ規格」に構成されており,ドイツ工業規格DINの流れに基づく「1/10のテーパ規格」のシャンク部を受け入れることはできないなどとし,両者におけるかかる規格の相違が刊行物1発明に基づいて本件発明の相違点2に係る構成を想到することの阻害要因になるかのように主張する。
しかしながら,刊行物1に,刊行物1発明に係る工具保持具の軸部14の外周の勾配はドイツ工業規格DINの「1/10テーパ規格」によるものであるとする記載が存在しないことは前記ウで説示したとおりである。また,本件特許の請求項1には,本件発明に係る「主軸の端部に備わっているテーパ孔」及び引具並びにシャンク部が「7/24テーパ規格」に構成されていることを明示する記載,あるいはそのことを示唆する記載はなく,したがって,これらが「7/24テーパ規格」に対応するものであると限定的に解すべき根拠はない。そうすると,被告の上記主張は,その前提を欠くものである。
のみならず,工具保持具のシャンク部についてショートテーパホルダとロングテーパホルダとのいずれを採用するかは当業者がその使用目的,使用方法に応じて適宜選択し得る事項であるから,仮に,刊行物1にショートテーパホルダ方式のテーパシャンクが開示されているとしても,そのことは,当業者において,刊行物1の開示事項を「テーパ状のシャンク」というより抽象化されたレベルで把握し,これに刊行物5に記載の技術事項の適用を想到することの妨げとなるものといえないことは前記ウに説示したとおりである。そして,また,刊行物1に記載の工具保持具のテーパシャンクにプルスタッドを取り付けて主軸側の引込み具に係合する構成を採用する場合,これらを主軸側のテーパ孔に嵌合固定するように設計するべきことは当業者にとって自明のことである。
被告の上記主張はこの点でも採用することができない。
(3) 以上検討したところによれば,本件審決の相違点2についての判断は誤りというほかなく,その誤りが本件審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由があるから,本件審決は違法として取消しを免れない。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 青蜉]
裁判官 沖中康人
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