関連審決 | 不服2007-4345 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成20行ケ10096審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10115審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10261審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10175審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10121審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 物の発明 / 製造方法 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 容易に想到(容易想到性) / 加工 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
20年
(行ケ)
10209号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告株式会社オプトニクス精密 訴訟代理人弁護士飯島澄雄 同澤田繁夫 訴訟代理人弁理士福田伸一 被告特許庁長官 指定代理 人松本貢 同大工原大二 同板橋一隆 同岩崎伸二 同小林和男 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2009/02/18 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が不服2007−4345号事件について平成20年4月14日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
全容
第1請求主文同旨第2争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「蒸着用マスク」とする発明につき,平成13年6月19日に特許出願をした(特願2001-184601号。以下「本願」という。出願当初の請求項の数は4であった。甲2 。)原告は,本願につき平成18年5月29日付け手続補正書により明細書の全文を対象に補正をし(甲5。同補正後,請求項の数は3となった,同年9月。)29日付け手続補正書により明細書の請求項1 【0013【0028 (以 ,】,】下,明細書等の段落は番号で表示する )を対象に補正をした(甲8。以下, 。 同年9月29日付け手続補正書による補正後の明細書を図面とともに「本願明細書」という。。)原告は,平成18年12月21日付けで拒絶査定を受けたので(甲9 ,平)成19年2月13日,これに対する不服の審判請求をした(不服2007-4345号,甲10 。特許庁は,平成20年4月14日 「本件審判の請求は, ) ,成り立たない 」との審決をし,その謄本は,同年5月7日,原告に送達され 。 た。 2特許請求の範囲本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。。)「被蒸着基板への蒸着用パターンがパターン形成領域内に複数の通過孔として形成された薄板状のマスク本体と,上記マスク本体におけるパターン形成領域の外周縁である接着領域に応じた形状の枠部を,被蒸着基板と同等の熱線膨張係数の素材によって上記マスク本体よりも十分な厚みを有するように形成した枠体と,からなり,上記マスク本体に外周縁へ向う均一な張力をかけた状態で,上記マスク本体と枠体とを蒸着時の加熱に対して安定した接着方法により密着状に一体化し,蒸着時の温度上昇に伴う枠体の膨張に追随してマスク本体が形状変化するようにしたことを特徴とする蒸着用マスク 」。 3審決の理由( )別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願出願前に1日本国内において頒布された刊行物である実願昭54-88031号公報(実開昭56-6022号公報)のマイクロフィルム(以下「引用文献1」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という )及び周知技 。 術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許,。 法29条2項の規定により特許を受けることができない とするものである( )審決が,本願発明に進歩性がないとの結論を導く過程において行った引2用発明の認定,本願発明と引用発明の一致点,相違点の認定,相違点に関する容易想到性の判断は,次のとおりである。 ア引用発明の認定蒸着で1〜20μmに成膜した,マスクパターンが精度よく設けられた金属薄膜と,マスクパターンが粗く設けられた蒸着膜を形成する基板材料と熱膨張の同じ材料の0.1〜1mm厚のマスク支持板と,成膜による熱膨張によるマスクパターンのズレをなくし,蒸着基板に微細なパターンの蒸着膜の形成を行うことができるマスク蒸着用マスク。 (審決3頁25ないし30行)イ一致点の認定「被蒸着基板への蒸着用パターンがパターン形成領域内に複数の通過孔として形成された薄板状のマスク本体と,上記マスク本体におけるパターン形成領域の外周縁である接着領域に応じた形状の枠部を,被蒸着基板と同等の熱線膨張係数の素材によって上記マスク本体よりも十分な厚みを有するように形成した枠体と,からなり,上記マスク本体と枠体とを蒸着時の加熱に対して安定した接着方法により密着状に一体化し,蒸着時の温度上昇に伴う枠体の膨張に追随してマスク本体が形状変化するようにしたことを特徴とする蒸着用マスク 」である点 (審決4頁19ないし27行) 。。 ウ相違点の認定本願発明では「マスク本体に外周縁へ向う均一な張力をかけた状態で」一体化しているのに対して,引用発明は「金属薄膜」に張力をかけることについては記載がない点 (審決4頁29ないし31行) 。 エ容易想到性の判断引用発明においても,引用文献1の「しかしこのように金属板をマスク支持体とするのでは,蒸着基板となるホトセラムガラス材料との熱膨張の差が大きすぎ,例えば,Niの薄膜パターンマスクとホトセラムガラス蒸着基板とでは,成膜温度300℃において20mmの巾でマスクパターンのズレは50〜70μmにもなり,そのマスクパターンあわせが不可能となるような欠点があった(引用文献1,2頁13ないし20行)との記 。」載のように,成膜温度300℃においてマスク蒸着を行うのであり,せいぜい20μmの金属薄膜は,熱膨張による反りや撓み等の変形が予想されるところ,これらを防ぐ手段として,予め膨張を吸収すべく引っ張り力を付与することは当業者であれば容易に想到し得る事項と認められる。そして,引用発明においても金属薄膜が変形を免れていることからも何某かの張力の存在は当業者であれば想起し得るものと認められる。 そして,例えば,特開2000-160323号公報(甲17)に記載されるように「例えば,有機系のEL素子等の表示素子における電極を構成する薄膜を形成する際に利用できる ( 0001 )技術として 「第 」【】,1発明に係る薄膜形成方法は,複数の開口をもつマスクと,被成膜面をもつ基体とを用い,マスクを基体の被成膜面に対面させた状態で,マスクの開口の形状を転写するように被成膜面に薄膜を成膜処理する薄膜形成方法であって,成膜処理は,マスクの反りや撓みを抑えるようにマスクに張力を付与した状態で行うこと ( 0005 )が記載されており,本願発明 」【】が属する技術分野においても 「成膜処理は,マスクの反りや撓みを抑え ,るようにマスクに張力を付与した状態で行うこと」が周知であることが窺える(その他に特開昭58-31077号公報(甲18)の特に1頁右下欄ないし2頁左上欄を参照されたい。。)してみると,引用発明において 「マスク本体に外周縁へ向う均一な張 ,力をかけた状態で (金属薄膜(マスク本体)とマスク基板を)一体化す 」ることは,当業者であれば容易になし得ることである。 上記相違点における本願発明の特定事項を採用することにより奏される効果も当業者であれば予測し得る範囲内のものである。 したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない (審決4頁33行ないし5頁20行) 。 第3原告主張の取消事由審決は,次に述べるとおり,一致点の認定の誤り(取消事由1 ,容易想到 )性の判断の誤り(取消事由2)があるから,違法として取り消されるべきである。 1一致点の認定の誤り(取消事由1)審決のした一致点の認定は,以下のとおり誤りである。 ( )「薄板状のマスク本体」について1本願発明では 「薄板状のマスク本体」は,あらかじめ,枠体と一体とな ,る前に,枠体とは別物として製作され,複数の通過孔として蒸着用パターンが形成されたものであるのに対し,引用発明では,マスク基板上に蒸着した「マスクパターンが精度よく設けられた金属薄膜」であり,薄板状のマスク本体において相違する。 ( )「枠体」について2本願発明の「枠体」は,あらかじめ,マスク本体と一体になる前に,マスク本体とは別物として,被蒸着基板と同等の熱線膨張係数の素材によって,マスク本体におけるパターン形成領域の外周縁である接着領域に応じた形状を有するように製作されたものである。 これに対し,引用発明では,金属薄膜が密着しているのは,金属薄膜形成後にエッチングされた「マスク基板」であって,?@引用発明の金属薄膜とマスク基板は,精度の違いこそあれ,共に同じマスクパターンが設けられているから,少なくとも両者の全体寸法は同一であると推測され,?Aマスク基板にも金属薄膜と同じマスクパターンが設けられているから,マスク基板は金属薄膜のパターン形成領域内にも存在すると推測され,?B引用発明の蒸着用マスクの製造工程は,マスク基板に金属を蒸着して金属薄膜を形成する工程より開始し,引用発明の金属薄膜とマスク基板は一体的である。 以上のとおり,本願発明における「マスク本体と枠体」との関係と,引用発明における「金属薄膜とマスク基板」との関係は,相違する。 ( )「一体化」について3本願発明における接着方法とは,接着剤,レーザ溶接,電気抵抗溶接を意図するものであり,本願発明の蒸着用マスクは,あらかじめでき上がっている「マスク本体」と「枠体」とを接着して密着状に一体化したものであるのに対し,引用発明の「金属薄板」と「マスク基板 (マスク支持体)は,本 」願発明のように「蒸着時の加熱に対して安定した接着方法により密着状に一体化した」ものではない。 2容易想到性の判断の誤り(取消事由2)本願発明は,マスク本体と枠体とが密着状に一体化したものであり,その一体化に際しての条件として,蒸着時(本願発明の蒸着用マスクを用いて被蒸着基板に蒸着材料を蒸着する時)の加熱に対して安定した接着方法により接着すること,当該蒸着時の温度上昇に伴う枠体の膨張に追随してマスク本体が形状変化することを特定している他に,マスク本体に外周縁へ向かう均一な張力をかけることを特定している。他方,引用発明は,ホトセラムガラスであるマスク基板上に金属薄板であるNi膜を蒸着によって成膜するものであり,その蒸着の際に,Ni膜により形成される金属薄板(マスク本体)に,膨張を吸収させるような引っ張り力を付与することは不可能である。そうすると,本願発明と引用発明は,技術思想において大きく異なり,引用発明に,既に物として成立している金属薄板(マスク本体)に張力を付与するとの周知技術を適用することはできない。 したがって,引用発明において 「マスク本体に外周縁へ向う均一な張力を ,かけた状態で」金属薄板(マスク本体)とマスク基板を一体化することは,当業者であれば容易になし得ることであるとの審決の判断は誤りである。 第4被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1一致点の認定の誤り(取消事由1)に対し( )「薄板状のマスク本体」について1原告は,本願発明における「薄板状のマスク本体」が,あらかじめ,枠体と一体となる前に,枠体とは別物として製作されたものであると主張する。 しかし,そのようなことは,本願発明の請求項には記載もなく示唆もされていないから,原告の上記主張は,本願発明の請求項に基づくものではなく,失当である。また,原告の上記主張は,製造方法に関する事項に基づいて物の発明の特定を論ずるものであるから,その点でも失当である。 ( )「枠体」について2原告は,本願発明の「枠体」は,あらかじめ,マスク本体と一体になる前に,マスク本体とは別物として,被蒸着基板と同等の熱線膨張係数の素材によって製作されたものであると主張する。しかし,そのようなことは,本願発明の請求項には記載もなく示唆もされていないから,原告の上記主張は,本願発明の請求項に基づくものではなく,失当である。また,原告の上記主張は,製造方法に関する事項に基づいて物の発明の特定を論ずるものであるから,その点でも失当である。 ( )「一体化」について3引用発明は,ホトセラムガラスであるマスク基板上に金属薄板であるNi膜を蒸着によって成膜するもので,300℃の温度で用いられ,マスクの精度を向上したものであるから,マスク基板に金属薄膜が密着状に一体化したものということができる。本願発明は,請求項の記載からして,接着方法を,「 」 具体的に特定するものではなく蒸着時の加熱に対して安定した接着方法とのみ機能的に特定するものであるから,引用発明における蒸着は,本願発明の接着方法に該当する。 2容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対し甲17,甲18,乙1,乙2によれば,マスク本体を製作する際の成膜処理時にマスク本体に張力を付与することは周知技術であり,乙1,乙2に記載されているように,張力の付与は,機械的な手段のみでなく,加熱等の他の手段によることが可能であった。乙1に「シャドーマスクを加熱した状態でフレー, 。」 ムに固定して常温に戻し 熱膨張を利用して張力を加えることも可能である( 0021 )と記載されているように,マスク本体を形成する蒸着膜を,シ 【】ャドーマスクとして使用される温度である300℃よりも更に高温に加熱した状態で蒸着により形成すれば,シャドーマスクとして用いられる状態と蒸着時の温度差に相当する熱膨張分の張力は残存し,張力が付与された状態となることは容易に理解できる。 原告は,本願発明と引用発明は異なる技術思想に基づくものであると主張する。しかし,本願発明と引用発明は共に蒸着用マスクに関するもので,マスク本体(金属薄膜)と枠体(マスク基板)の厚みはほとんど同じであるから,本願発明と引用発明が同一の技術分野に属するというべきである。 引用発明は,マスク基板上にNi膜を蒸着することによって金属薄板(マスク本体)を形成するものに限定されず,マスク基板と金属薄板(マスク本体)を別物として製作するものをも含む。仮に,引用発明を,蒸着によって金属薄板(マスク本体)を形成するものに限定して解釈したとしても,乙1,乙2によれば,機械的な手段以外の加熱等の手段によりマスクに張力を付与することが知られていたから,引用発明において 「マスク本体に外周縁へ向う均一な ,張力をかけた状態で」金属薄板(マスク本体)とマスク基板を一体化することは,当業者であれば容易になし得ることであったと認められる。 したがって,審決の容易想到性の判断に誤りはない。 第5当裁判所の判断1容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について当裁判所は,引用発明において 「マスク本体に外周縁へ向う均一な張力を ,かけた状態で」一体化することは,当業者であれば容易になし得ることであるとした審決の判断には誤りがあると解する。その理由は,次のとおりである。 ( )引用発明における金属薄膜とマスク基板の一体化について1ア引用文献1には,次のとおりの記載がある。 (ア)「蒸着膜を形成する基板に用いるマスク蒸着用マスクにおいて,マスクパターンが粗く設けられた該基板材料と同一材料或は熱膨張の同じ材料のマスク基板と,該マスク基板に比しマスクパターンが精度よく設けられた金属薄膜よりなる事を特徴とするマスク蒸着用マスク(実用。」新案登録請求の範囲。審決が「2.引用文献に記載された発明」において「 ア 」として引用する ) ()。 (イ)「しかしこのように金属板をマスク支持体とするのでは,蒸着基板となるホトセラムガラス材料との熱膨張の差が大きすぎ,例えば,Niの薄膜パターンマスクとホトセラムガラス蒸着基板とでは,成膜温度300℃において20mmの巾でマスクパターンのズレは50〜70μmにもなり,そのマスクパターンあわせが不可能となるような欠点があっ。」(。「. 」 た2頁13ないし20行 審決が 2 引用文献に記載された発明において「 イ 」として引用する ) ()。 (ウ)「このような蒸着基板のマスク蒸着用マスクを形成するには,第1図に示すように先ずマスク支持板1となる0.1〜1mm厚のフォトセラムガラスの両面をラップ加工により十分平坦にする。この上にNiを蒸着で1〜20μmに成膜してNi膜(金属板)2を形成する。これにレジスト3を塗布して所要のマスクパターン状に窓4が明くようにレジスト3のパターニングを行う。その後,第2図に示すように硝酸を含むエッチング液で所望のパターンの部分4のNi膜を除去してマスクパターン2’を形成する。次に第3図に示すようにそのマスク支持板1の裏面にレジスト5を塗布して図示の如く所望パターンの部分4より大きめの粗パターン6を形成する。更に第4図に示すようにHF(弗酸)等のエッチング液で粗パターン6部のマスク支持板1のフォトセラムガラスを除去して,マスク支持板1’のマスクパターン6’を形成する(3。」。,「. 」 頁20行ないし4頁17行 審決が2 引用文献に記載された発明において「 ウ 」として引用する ) ()。 (エ)「このようにして第5図に示すようにNi膜2の微細パターン2’をもつマスクとパターン6’をもつフォトセラムガラスのマスク支持板1’とで形成することにより,そのマスク支持板1’を備えた蒸着用マスク7を第5図に示す蒸着基板8の下面に備えて,該基板8に蒸着膜9を形成する。従って,フォトセラムガラスの蒸着基板8と同じ熱膨張をもつ同一材料でマスク支持板1’で蒸着用マスク7を形成することにより,熱膨張によるマスクパターン2’のズレをなくし,且つ蒸着基板8とパターン2’との密着性がよくなり,この際,蒸着用マスク8〔判決注「7」の誤記と認められる 〕により蒸着基板8に微細なパターン 。 。」( 。 の蒸着膜9の形成を行うことができる4頁18行ないし5頁10行審決が 「2.引用文献に記載された発明」において「 エ 」として引 , ()用する )。 イ前記アの引用文献1の記載によれば,引用発明は,前記第2,3( )ア 2の審決の認定のとおり 「蒸着で1〜20μmに成膜した,マスクパター ,ンが精度よく設けられた金属薄膜と,マスクパターンが粗く設けられた蒸着膜を形成する基板材料と熱膨張の同じ材料の0.1〜1mm厚のマスク支持板と,成膜による熱膨張によるマスクパターンのズレをなくし,蒸着基板に微細なパターンの蒸着膜の形成を行うことができるマスク蒸着用マスク」の発明が記載されていると認められる。 そして,引用文献1には 「本考案は磁気ディスク等の磁気記録装置に ,おいて,情報を記録再生するために用いられる薄膜磁気ヘッドの薄膜パターンの改良に関する(1頁12ないし14行)と記載されており,薄膜 。」磁気ヘッドの薄膜パターンであれば,単数の孔ではなく,複数個の孔を有すると解するのが合理的であるから,引用発明のマスクパターンは,複数の通過孔を有するものと認められ,金属薄膜のマスクパターンは,これらの通過孔を構成するように設けられているものと理解できる。 また,前記ア(ウ)の引用文献1の記載によれば,引用発明は,フォトセラムガラスからなるマスク支持板1の上にNiを蒸着で成膜し,金属薄膜であるNi膜2を形成するものであるところ,蒸着により成膜した金属薄膜は,下地基板の上に密着するから,引用発明において,金属薄膜とマスク基板(マスク支持体)とは 「蒸着」により密着して一体化されるもの ,と認められる。 さらに,前記ア(エ)の引用文献1の記載によれば,引用発明により完成された蒸着用マスクは,蒸着基板(8)に蒸着膜(9)を形成する際に蒸着用マスクとして使用され,微細なパターンの蒸着膜の形成を行うことができるから,金属薄膜とマスク基板(マスク支持体)との密着の状態は,蒸着膜(9)の蒸着時の加熱によって変化することはなく,金属薄膜のマスク基板(マスク支持体)への蒸着は,蒸着膜(9)の蒸着時の加熱に対して安定した接着方法であるものと認められる。 ( )マスクへの張力の付与に関する公知文献の記載2ア甲17(特開2000-160323号公報)甲17(特開2000-160323号公報,平成12年6月13日公開,発明の名称「薄膜形成方法 )には 「例えば,有機系のEL素子等の 」,表示素子における電極を構成する薄膜を形成する際に利用できる ( 00 」【01 )技術として 「第1発明に係る薄膜形成方法は,複数の開口をもつ 】,マスクと,被成膜面をもつ基体とを用い,マスクを基体の被成膜面に対面させた状態で,マスクの開口の形状を転写するように被成膜面に薄膜を成膜処理する薄膜形成方法であって,成膜処理は,マスクの反りや撓みを抑えるようにマスクに張力を付与した状態で行うこと ( 0005 )が記 」【】載されている。そして,甲17には,次のとおりの記載がある。 「 0011】第1発明に係る方法によれば,成膜処理は,マスクの反り 【や撓みを抑えるように,マスクに張力を付与した状態で行う。第1発明に係る方法によれば,マスクに張力が付与されるため,マスク,殊に,マスクの開口部分の反りや撓みが抑えられ,これにより薄膜の転写精度が向上する。第1発明に係る方法によれば,マスクやマスクホルダを引っ張る張力付与手段を用いるのが一般的である。張力付与手段としては,機械的な張力付与手段,電気的な張力付与手段を採用できる。機械的な張力付与手段としては,ねじ対偶を利用してマスクに張力を付与する方式,流体駆動シリンダ(油圧シリンダ,空圧シリンダなど)を利用してマスクに張力を付与する方式,歯車機構を利用してマスクに張力を付与する方式を採用できる。電気的な張力付与手段としては,電圧印加に伴ない歪みを発生する圧電体と,圧電体の歪みを拡大してマスクホルダやマスクに伝達する変位拡大機構とを利用して構成できる。あるいは,電気的な張力付与手段としては,超音波モータと,超音波モータの駆動力をマスクホルダやマスクに伝達する伝達機構とを利用して構成できる 」。 イ甲18(特開昭58-31077号公報)甲18(特開昭58-31077号公報,昭和58年2月23日公開,発明の名称「マスク構造体 )には,次のとおりの記載がある。 」「本発明は,半導体基板等の上に所定パターンの薄膜を形成するためのマスク構造体に関するものである(1頁左下欄13行ないし15行) 。」「本発明は以上の事情に鑑みて為され,フレームの外周とほぼ同形に作られたマスクを用い,しかも格別の治具を使用せずに弛みなくマスクを取りつけ,かつ,温度変化によるマスクの張力変動を容易に防止し得るマスク構造体を提供しようとするものである。 上記の目的を達成するため,本発明は,フレーム及び押え板がマスクと対向する面に,それぞれ環状の溝を設けるとともに,上記双方の環状溝のうちいずれか一方にリングを嵌装し,かつ,上記のリングをマスクに向けて押しつける方向に弾性力を付勢する手段を備えることを特徴とする 」。 (2頁左上欄3行ないし14行)「以上のようにしてマスク8に均一な張力を与えたマスク構造体が温度変化によって熱膨張,熱収縮した場合,マスク8に加えられた張力が過大になろうとするとコイルスプリング18が撓みを増して熱応力を吸収し,マスク8が破断しないように自動的に保護される。また,張力が過小になろうとするとコイルスプリング18の付勢力によって張力を保持され,マスク8が弛まないよう自動的に調整される。 以上説明したように,本発明は,フレームおよび押え板がマスクと接する面にそれぞれ環状の溝を設けるとともに,上記双方の環状溝のうちいずれか一方の中にリングを嵌装して,このリングをマスクに向けて弾性的に付勢する手段を備えることにより,フレームの外周とほぼ同形に作られたマスクを用い,しかも格別の治具を使用せずに弛みなくマスクを保持し,, 。」 かつ 温度変化によるマスクの張力変動を容易に防止することができる(2頁右下欄15行ないし3頁左上欄12行)ウ乙1(特開2000-173769号公報)( , 乙1 特開2000-173769号公報平成12年6月23日公開発明の名称「有機電界発光素子の製造方法 )には,次のとおりの記載が 」ある。 「 0001】【【発明の属する技術分野】本発明は,表示素子,フラットパネルディスプレイ,バックライト,インテリアなどの分野に利用可能な,有機電界発光素子の製造方法に関するものである 」。 「 0007】また,従来のマスク法はウェットプロセスを用いない一般 【的なパターニング方法である。この方法は基板前方にシャドーマスクを配置し,開口部を介して蒸着物を蒸着することでパターニングを実現するものである 」。 「 0013】上記のとおり,マスク法は適用範囲の広い好適な技術であ 【るものの,シャドーマスクの強度不足による開口部の変形や平面性の悪化が問題となっていた。特に,微細なパターニングになるほど使用するシャドーマスクの厚さも薄くなるために,この問題はより大きくなり,ディスプレイ用途などで要求されるサブミリメートルレベルの微細パターニングを高精度にかつ安定に実現することは困難であった 」。 「 0018】本発明の製造方法は,張力が加えられた状態で保持された 【シャドーマスクを用いて発光層もしくは第二電極の少なくとも一方をパターニングするものであり,発光層のみをマスク法でパターニングして,第二電極は隔壁法でパターニングすることも可能であるし,両者をマスク法でパターニングすることもできる。シャドーマスクに張力を加えることによりシャドーマスクの平面性が向上し,また,周囲の温度変化や蒸着源からの放射熱によるシャドーマスク寸法変化を抑制する効果も期待できるため,高精度な微細パターニングが実現できる 」。 「 0020】また,シャドーマスクに張力を加えながらフレームに固定 【することもできる。フレームの機械的強度が十分であればシャドーマスクは張力が加えられた状態で常に保持されるので,フレームに固定された状態でシャドーマスクを使用すればパターニングの際に張力を加えることと同じ効果が得られる。薄いシャドーマスクの取り扱いも容易となるので,この方法は本発明において好適に用いられる 」。 「 0021】フレームへの固定方法としては,機械的に張力が加えられ 【たシャドーマスクにフレームを接着することで容易に達成できる。接着手段としては,硬化性樹脂や可塑性樹脂などによる接着や,電子ビームやレーザーを利用した溶接,機械的にかしめる方法や,電着法により金属などを析出させて固定する方法などを利用することができる。このような場合に,シャドーマスクを加熱した状態でフレームに固定して常温に戻し,熱膨張を利用して張力を加えることも可能である 」。 「 0024】シャドーマスクの厚さについては厚い方が強度的に有利で 【あるが,既に述べたように厚いシャドーマスクに微細な開口部パターンを形成することは実質的に困難であり,また,マスク部分自体が蒸着の影となる問題も発生する。本発明では微細パターニングを目的としており,シャドーマスクの厚さは200μm以下であることが好ましく,100μm,, 。」 以下 80μm以下 さらには50μm以下であることがより好ましいエ乙2(実公昭54-41157号公報)乙2(実公昭54-41157号公報昭和54年12月3日公告,発明の名称「蒸着マスク支持装置 )には,次のとおりの記載がある。 」「本考案は基板上に各種の物質を蒸着する場合に使用する蒸着マスクの支持装置に関し,特に基板直径に比して蒸着された物質の径(蒸着径)およびピッチが非常に小さい場合に適した蒸着マスク支持装置を提供するものである(1欄22ないし26行) 。」「しかし,蒸着された物質の径やピッチが非常に小さくなり,基板直径と蒸着された物質の径およびピッチの比が2000〜4000:1位の細かさになると蒸着マスク2の厚さを数ミクロン以下の非常に薄いものにせざるを得ない。この場合には,蒸着マスク2がたわみやすくなり,基板1に密着させようとしても,第2図に示すように蒸着マスク2が基板1に対して均一に密着しないので精度のよい蒸着膜が得られない。 蒸着マスク2を基板に均一に密着させるには,第2図の矢印5の方向に張力を働かせればよく,このため従来第3図に示すように,支持リング6および7の間に蒸着マスク2をはさみ込み,電気溶接などによって固着させたものを真空中で700〜900℃に加熱し,結晶組織に変化を与えて蒸着マスク2を収縮させ緊張させる真空加熱方式や熱処理せずに蒸着マスク2に異種金属を電気メッキし,引張り応力によって張力をかける異種金属メッキ方式などが行われている(2欄5ないし23行) 。」オ前記アないしエの記載によれば,いずれも本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲17,甲18,乙1,乙2に記載された技術は,既に物として成立しているマスクを用い,そこに形成された孔を介して蒸着源にある蒸着用材料を被蒸着基板に蒸着する時に,当該マスクに張力を付与しようとするものであって,マスク全体の外周が固定されているもののマスクの内方(中心方向)は固定されておらず,外周からマスクを引っ張り又はマスクを収縮させることによってマスクを緊張させ,撓み等を除去し得ることを前提として,張力を与える方法を示したものであると認められ,このような技術は,複数の刊行物に記載されており,その原理は比較的単純であることから,遅くとも本願の出願当時には周知技術であったものと認められる。 ( )周知技術の引用発明への適用について 3ア引用発明は,前記( )のとおり,マスクパターンが精度よく設けられた 1金属薄膜とマスクパターンが粗く設けられたマスク基板(マスク支持体,マスク支持板)が,蒸着により密着状に一体化したものである。引用発明におけるマスク基板は,金属薄膜に設けられたマスクパターンほど精度がよくないものの,粗いマスクパターンが設けられており,それは,単に金属薄膜全体の外周を枠として囲むにとどまらず,金属薄膜の全面にわたって,金属薄膜に複数個の通過孔を形成する精度のよいマスクパターンにおおむね沿うような形態で粗いマスクパターンを形成するものと認められる。そして,引用発明の金属薄膜は,マスク基板の粗いマスクパターンに蒸着され,固定されている。このように,引用発明は,金属薄膜がその全体の外周においてのみマスク基板に密着し固定されているのではなく,金属薄膜の全面に及ぶマスク基板の粗いマスクパターンに密着し固定されている。そうすると,前記( )の甲17,甲18に記載された技術は,マス2ク全体の外周が固定されているもののマスクの内方(中心方向)は固定されておらず,外周からマスクを引っ張ることによって,マスクを緊張させ撓み等を除去し得ることを前提とするものであるところ,これを引用発明に適用しようとしても,引用発明においては,金属薄膜がマスク基板の粗いマスクパターンに密着し固定されているため,外周から金属薄膜を引っ張ることによっては,直ちに金属薄膜を緊張させその撓み等を除去し得るとは認められず,金属薄膜に外周縁へ向かう均一な張力をかけることができるとは認められない。また,本願発明のマスク本体に相当する引用発明の金属薄膜は,マスク基板上に蒸着により成膜されるものであって,マスク基板上に蒸着(すなわち,一体化)する前においては,金属薄膜として, , の形態を有していないから マスクを引っ張ることによる張力付与技術を金属薄膜のみに適用することはできない。したがって,甲17,甲18に記載の張力付与技術を,引用発明に適用して 「マスク本体に外周縁に向 ,う均一な張力をかけた状態で」一体化することは,容易になし得るということはできない。 イ前記( )のとおり,乙1に「シャドーマスクを加熱した状態でフレーム2に固定して常温に戻し,熱膨張を利用して張力を加えることも可能である( 0021 )と記載され,乙2に「支持リング6および7の間に 。」【】蒸着マスク2をはさみ込み,電気溶接などによって固着させたものを真空中で700〜900℃に加熱し,結晶組織に変化を与えて蒸着マスク2を収縮させ緊張させる真空加熱方式 (2欄16ないし20行)と記載され 」ているように,乙1,乙2には,マスクを加熱することによって張力を与えることが示されている。そして,被告は,乙1の上記記載から,マスク本体を形成する蒸着膜をシャドーマスクとして使用される温度である300℃よりも更に高温に加熱した状態で蒸着により形成すれば,シャドーマスクとして用いられる状態と蒸着時の温度差に相当する熱膨張分の張力は, 。 残存し 張力が付与された状態となることは容易に理解できると主張するしかし,上記乙1は,既に物として成立しているシャドーマスクを加熱して熱膨張させ,その状態でフレームに固定し,フレームとシャドーマスクが常温に戻るときの熱収縮の差を利用して,フレームに囲まれたマスク部分に張力を加えるという技術が開示されているにとどまり,蒸着によって形成される金属薄膜に対して張力を付与することを開示するものではない。また,蒸着等により基板上に薄膜を成膜する際に,基板と薄膜材料の熱膨張率や温度条件等,各種成膜条件を設定することにより,基板上に形成された薄膜が常温に戻ったとき,薄膜に内部応力が生じる場合があることは一般に知られているから,引用発明においても金属薄膜に内部応力が生じる可能性はあるが,蒸着で成膜されるとともに,成膜後にマスクパターンが設けられ,かつ,部分的に粗いマスクパターンのマスク基板に密着した金属薄膜において,本願発明にいうような「マスク本体に外周縁へ向う均一な張力をかけた状態で」マスク基板と一体化できるとの技術に到達することができるとは認められない。 また,上記の乙2の真空加熱方式に関する記載は,既に物として成立している蒸着マスクを加熱して結晶組織に変化を与え,支持リングで囲まれた蒸着マスクを収縮させて張力を与えることを開示するものであるから,引用発明においてマスクパターン形成後の金属薄膜に張力を付与する手段を示唆するものと解する余地がある。しかし,引用発明は,金属薄膜の所定部分がマスク基板の粗いマスクパターンに密着して固定され,金属薄膜の他の部分がマスク基板の粗いマスクパターンから突出して精度の良いマスクパターンとなるとの構成を有するものであるから,引用発明の金属薄膜に乙2の上記真空加熱方式を適用したとしても,均一な収縮が生じるとはにわかに認められず 「マスク本体に外周縁へ向う均一な張力をかけた ,状態で」一体化できるとの技術に到達することはできない。 したがって,引用発明に乙1及び乙2に開示された技術を適用しても,「マスク本体に外周縁に向う均一な張力をかけた状態で」一体化することは当業者であれば容易になし得るとはいえない。 ウ引用発明に甲17,甲18,乙1,乙2に記載された周知技術を適用しても,引用発明の金属薄膜に外周縁へ向かう均一な張力をかけた状態で金属薄膜とマスク基板を一体化すること,すなわち「マスク本体に外周縁へ向う均一な張力をかけた状態で」金属薄膜(マスク本体)とマスク基板を一体化することは,当業者であれば容易になし得ることとはいえない。 したがって 「マスク本体に外周縁へ向う均一な張力をかけた状態で」 ,金属薄膜(マスク本体)とマスク基板を一体化することは,当業者であれ,。, ば容易になし得ることであるとした審決の判断は 誤りである そのため上記の判断を前提とした,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとの審決の判断も誤りである。 2結論以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,審決には違法があるから,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
---|---|
裁判官 | 中平健 |
裁判官 | 上田洋幸 |