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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19ワ31700職務発明対価請求事件 判例 特許
平成14ワ4893特許権持分移転登録手続等請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  業務範囲 /  現在または過去の職務(現在又は過去の職務) /  予約承継 /  協議 /  技術的思想 /  創作性(創作) /  インターネット /  実質的同一 /  出願公開 /  同一の発明 /  試行錯誤 /  発明の詳細な説明 /  技術情報 /  出願審査請求 /  共同出願 /  対抗要件 /  名義変更 /  債務不履行 /  悪意 /  意匠権 /  援用権(援用) /  権利の濫用(権利濫用) /  技術的意義 /  実質的同一性 /  置き換え /  不存在 /  信義則 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  業として /  侵害 /  不法行為(民法709条) /  営業秘密 /  対価 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 12655号 特許を受ける権利の確認等請求事件
東京都千代田区<以下略>
原告カ トウ工機株式会社
同訴訟代理人弁護士飯島歩
同 生沼寿彦
同 谷口明史
同 補佐人弁理 士横井知理愛知県豊田市<以下略>
被告司工機株式会社
同訴訟代理人弁護士江川勝
同 池田和司
同 補佐人弁理 士秋山修
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/01/29
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1当事者の求めた裁判1請求の趣旨原告と被告との間において,原告が,別紙発明目録2記載の発明について,特許を受ける権利を有することを確認する。
2請求の趣旨に対する答弁(1)本案前の答弁本件訴えを却下する。
2(2)本案の答弁原告の請求を棄却する。
第2事案の概要本件は,原告が被告に対し,特許庁において審査中の被告による特許出願に係る発明について,原告の従業者等のした職務発明として特許を受ける権利承継を受けたなどと主張して,上記の権利を有することの確認を求めた事案である(なお,本件に併合提起されていた?@被告(司工機株式会社),元被告β2,元被告β1及び元被告β3に対する上記の発明に関する営業秘密についての不正競争行為を理由とする損害賠償請求に係る訴え及び?A上記元被告ら3名に対する本件請求と同様の訴えは,いずれも,取下げにより,終了した。)。
1前提となる事実(1)当事者等原告は,各種機械工具や機械部品の設計,製造,販売等を業とする株式会社である。(争いのない事実)被告は,工作機械その他各種機械器具の設計,製作,販売等を業とする株式会社である。(争いのない事実)β1は,平成16年1月15日まで原告の従業員であった者であり,現在は,被告の従業員である。(争いのない事実)β2は,平成14年10月1日から平成15年9月12日まで原告の取締役であった者であり,その後,被告の従業員となり,平成17年6月28日に被告の取締役に就任して現在に至っている。(争いのない事実)β3は,平成16年3月31日まで原告の従業員であった者であり,現在は,被告の従業員である。(争いのない事実)α1,α3及びα2は,平成15年当時,いずれも原告の従業員であった。
(争いのない事実,弁論の全趣旨)(2)原告の発明3原告は,平成14年7月ころから,「可変軸を有する工具」(マルチフィニッシャー)の名称で,マシニングセンター等の工作機械に取り付け,被加工物に対して,面取り,バリ取り,ラッピング等の加工を行う加工工具の開発を行っており,これに関し,同年10月25日,別紙発明目録1記載の発明(以下「先行発明」という。)を特許出願していた。(争いのない事実,甲3)原告において,平成15年1月ころから,先行発明に改良を施した工具「バリ取りホルダー」の開発が開始され,同年8月23日には,この開発に係る発明(以下「原告発明」という。)が完成した。(争いのない事実,甲18,弁論の全趣旨)(3)原告の業務命令と工場移転原告は,原告発明に基づく製品「バリ取りホルダー」の発売を平成16年1月に目指していたが,平成15年8月26日,これを中止する旨の業務命令を発した。(甲13の19,弁論の全趣旨)当時,原告は,原告発明の開発拠点であった名古屋工場を閉鎖する予定であり,その後,平成16年6月,名古屋工場を閉鎖して,工場を神奈川県平塚市に全面移転した。(争いのない事実,弁論の全趣旨)(4)被告による特許出願被告は,平成16年6月14日,発明の名称を「加工工具」とする別紙発明目録2記載の発明(以下「被告発明」という。)を特許出願した(特願2004-175707)。(争いのない事実,甲1)被告発明に係る特許出願は,平成17年12月22日に出願公開され(特開2005-349549),現在,審査中である。(争いのない事実,甲1,弁論の全趣旨)(5)原告発明と被告発明原告発明は,その性質上原告の業務範囲に属し,かつ,その発明をするに4至った行為が原告における従業者等の当時の職務に属する職務発明である。
(争いのない事実)また,原告発明と被告発明とは,その構成及び作用効果を同じくする同一の発明(両者の発明を総称して,以下「本件発明」といい,その公開特許公報(甲1)を,以下「本件公報」という。)である。(争いのない事実)(6)原告の就業規則等原告の就業規則(以下「規則」という。)には,次の規定がある。(争いのない事実,甲9)「(発明考案に伴う工業所有権の取扱)第62条社員が会社の業務範囲に属する事項について発明、考案した場合は、
遅延なく所定の手続きにより所属長に届け出し、その発明、考案が現在又は過去の職務に関するものであると会社が認めた場合は、工業所有権を受ける権利を会社に譲渡しなければならない。これに対する補償、その他の取扱については別に定めるところによる。」また,原告の社員職務発明考案等取扱細則(以下「細則」という。)には,次の規定がある。(争いのない事実,甲5)「(名称及び目的)第1条この規則は就業規則第63条〔ママ〕に基づき、会社業務に関する社員の発明・考案・意匠の創作に基づく特許権・実用新案権・意匠権(以下工業所有権と言う)に関する対価の支払その他の取扱いを規定し、発明・考案・意匠の創作活動を計る事を目的とする。」「(職務発明等の届出義務及び様式)第4条第1項会社業務に関する発明・考案・意匠の創作をなした時は、
社員はその内容について遅滞なく所属長を経て、会社に届5出なければならない。
第2項前項の発明・考案・意匠の創作の届出は、発明・考案報告書、譲渡証書及び発明・考案・意匠説明書をもって構成し、
別紙(1)・(2)・(3)の様式による。」「(権利の承継)第5条第1項業務に関する発明・考案・意匠の創作をなした時は、その発明・考案・意匠の創作に至った行為が会社における現在または過去の職務に属する時はその発明・考案・意匠の創作につき国内及び外国における工業所有権を出願する権利(以下出願権と言う)および工業所有権を受ける権利は、
会社がこれを承継する。
第2項前項は特許法35条、実用新案法第11条第3項および意匠法第15条第3項(改正特許法及び実用新案法平成7年7月1日施行)に準拠するものとする。
第3項現在または過去の職務に属しない時、発明・考案・意匠の創作者がその発明・考案・意匠を処分する場合は第三者に優先して会社と協議するものとする。
〔省略〕」「(発明・考案・意匠審査会の審議)第8条発明・考案・意匠審査会は、会長または副会長の諮問に応じ、次号に揚げる事項を審査する。
(1)第4条の届出による工業所有権を取得する権利の譲り受けの決定に関する事項。
〔省略〕」「(工業所有権の出願)第10条第1項会社は第8条によって工業所有権を受ける権利を取得した6場合には、審査の上必要と認められたものについては工業所有権の出願を行う。
第2項第8条の工業所有権の出願を行わないものについては会社がなお承継の必要を認めたものを除いて、その工業所有権を受ける権利を発明・考案・意匠の創作者に返還する。
〔省略〕」2争点(1)本件発明につき特許を受ける権利(以下「本件特許を受ける権利」という。)の確認を求める訴えの利益(2)本件発明の発明者(3)本件特許を受ける権利の原告に対する承継(4)本件特許を受ける権利等の原告による放棄(5)本件特許を受ける権利対抗要件の欠缺(6)信義則違反又は権利濫用第3争点に関する当事者の主張1争点(1)〔本件特許を受ける権利の確認を求める訴えの利益〕について〔被告の主張〕原告にとって,被告との間においては,性質上,特許を受ける権利の移転を求める給付の訴えこそが当事者間の紛争の抜本的解決になるのであって,本件特許を受ける権利の確認の訴えは,確認の利益を欠くものである。
したがって,本件訴えは,不適法なものとして,却下を免れない。
〔原告の主張〕特許庁においては,特許を受ける権利の帰属を確認する確定判決をもって,名義変更手続を行う実務が確立しており,この場合,被告との間において,特許出願の出願名義の変更は,原告の単独申請によって行うことができ,被告による行為は必要でない。
7したがって,本件訴えについて,原告のための確認の利益があることは明らかである。
2争点(2)〔本件発明の発明者〕について〔原告の主張〕(1)本件発明の発明者は,α1,α2及びα3である。
(2)本件発明は,先行発明の問題点を改善すべく開発に着手された。すなわち,先行発明には,「回転むら」や「トルク変動」の発生,傾斜軸を元に戻そうとする大きな力の発生による不安定な回転などの課題があり,その解決のためには,「継手部分」を改良する必要があった。
本件発明に関する「バリ取りホルダー」の開発は,主としてβ1が担当していたものの,継手部分の具体的改善策が思い付かず,原告の社内会議において,α1とα2に対してアドバイスを求めた。これに対し,α1とα2は,本件発明に応用可能な技術として,「ユニバーサルジョイント」,「スプリングジョイント」及び「等速ジョイント」などが参考になることをアドバイスした。
この結果,本件発明の請求項1,請求項5及び請求項6の「自在継手」の記載のとおり,等速ジョイントが採用され,回転むらの除去に貢献している。
なお,等速ジョイントは,本件公報の図2,符号5,51,52に該当する。
さらに,上記アドバイスは,本件公報の「他の実施例」としてもそのまま採用され,図8がスプリングジョイント,図9が等速ジョイント,図12がユニバーサルジョイントに相当する。
このように,α1とα2は,本件発明の重要な構成である「自在継手」に直接つながるアドバイスをしたから,本件発明の発明者である。
また,α3は,β1の直接の上司として,本件発明に関与し,種々のアドバイスを行っていたから,本件発明の発明者の1人である。
(3)α1は,α2とともに,β1に対し,ユニバーサルジョイントの2段階接8続として車のプロペラシャフトの事例,等速ジョイントとして前輪駆動の自動車の原動軸継手の事例を具体的にカタログなどで示し,これらの機構を本件発明に応用することにより,回転むらやトルク変動の課題を解決し得ることをアドバイスした。
このアドバイスは,本件発明の請求項5における2段の自在継手の構成に直接の影響を与えたものである。
他方,β1は,ジョイントはあくまでもホルダー内部のユニット間の動作及び回転を伝達するための部品で,回転むらやトルク変動がジョイントによって発生することがなく,各種ジョイントを検討した目的も,簡易化や軽量化,規定重量や寸法に収めることである旨の理解を示しており,誤っている。
β1においては,自在継手についての理解を誤ったまま,本件発明に係るバリ取りホルダーの開発を行っていたものというほかなく,本件公報には,複雑な自在継手を用いることによるメリットに関する直接的な記載がされていない。
しかし,この記載がないことは,逆に,β1の理解の誤りにもかかわらず,本件発明が完成したことを意味しており,α1らが発明者であることを積極的に裏付けるものである。
(4)そもそも,本件発明に係るバリ取りホルダーの構成における自在継手は,工作機械の主軸,シャンク及び吸収ロッド(原動軸)の回転をホルダー及び刃具(従動軸)の回転に伝えるために用いられる。
本件発明の課題は,「回転する刃具の傾動動作を常にスムーズに行って、
ワークの各種加工面の加工を良好に行うことができる加工工具を提供することを目的とする」(本件公報の段落【0005】)のとおり,回転する刃具の傾動動作をスムーズに行うことにある。
本件発明において,「回転する刃具の傾動動作」とは,原動軸の回転が自在継手を介して「角度の異なる」従動軸に回転として伝わることであり,こ9れらの回転がスムーズに伝達されていなければ,回転する刃具の傾動動作をスムーズに実現することができない。原動軸から従動軸へのスムーズな回転伝達が得られるジョイント(継手)の選択は,上記課題の解決に直結する重要な構成に関わるものである(なお,本件公報の段落【0045】,【0056】のほか,被告による本件発明の改良特許である特許第3868474号公報(甲21)の段落【0002】,【0005】参照)。
(5)被告の主張についてア本件発明の発明者が誰であるかを論ずる上で必要となるのは,先行発明の問題点ではなく,本件発明の課題である。
そして,被告の主張する「バリ取りホルダーが被加工物の立体形状に3次元的な動作により倣いながらバリ取り加工をすること」は,本件発明の公開特許公報に直接的な記載がない。本件発明の課題は,上記のとおり,回転する刃具の傾動動作をスムーズに行うことにある。
イ被告がいかなるジョイントによっても回転むらやトルク変動が生じないと主張するのであれば,一般的な技術的知見に反している。
自在継手とは,回転する「2軸が交差するとき、また、その交差の角度を変えたいときに広く用いられる継手」であり,単純な継手では,従動軸の回転の角度や速度の点において,原動軸から安定的に回転が伝達されない。そして,一般的な自在継手であるカルダン継手(両軸端を二股にし,十字形のピンで結合したフック形軸継手)でも,回転速度の変動とこれに伴うトルク変動が生ずる。そこで,このカルダン継手の不都合を回避するため,中間軸を置いて2個の自在継手を用い,設定角度が等しくなるように組み合わせ,互いの回転角速度変動を打ち消し合う回転方向位相に配置することで等速性が確保することが行われている。
本件発明においても,自在継手は,「前記吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と、前記ホルダーの上部と連結される第2自在継手部と10を中間軸の上部と下部に設けて構成され」(本件公報の請求項5,図2,図3,図6,図9参照),2個の自在継手の間に中間軸を置く構造を有している。本件発明の自在継手を用いた場合,原動軸の回転が安定的に従動軸に伝達されるという作用効果が生ずる。
単に,マシニングセンターATCの規定重量や寸法に合わせての改良であったり,簡易化や軽量化の要請からの工夫であれば,最も一般的で単純なカルダン継手を採用すれば十分である。しかし,これではスムーズな回転伝達によるスムーズな傾動動作が得られず,本件発明の課題が達成できないため本件発明の構成が採用されたものである。
ウなお,被告は,単純なカルダン継手が用いられなかった技術背景に関する原告の主張を誤解しており,また,一般的な自在継手であるカルダン継手の不都合を回避する方策として,中間軸を置いて2個の自在継手を用いること,すなわち,2個のジョイントを設定角度が等しくなるように組み合わせ,さらに,互いの回転角速度変動を打ち消し合う回転方向位相に配置することで等速性を確保する構成の技術的意義を正しく理解していない。
〔被告の主張〕(1)本件発明の発明者は,β1,1名である。
(2)β1は,本件発明の構想図を作成し,構想図より機能を具体化した組立図を作成し,組立図を分解した部品図,部品リストを作成し,試作品を手配した。その後,評価テストを行いながら修正を繰り返し,第2次,第3次の改良を重ねて試作を行った。
β1,1名が発明者であることは,原告の当時の「商品開発プロジェクト総合計画予定表」(甲4)の中に,ニューハイテクシリーズのバリ取りツールの担当者として,β1の氏名が記載され,バリ取りツールの組立図,構想図及び2号組立図(甲6の1・2・4)の各製図欄に,β1の氏名が記載され,商品開発打合せ会議記録(甲13の1〜31)のバリ取りホルダーの箇11所に,担当者としてβ1の氏名が記載されていることから明らかである。
すなわち,β1は,平成15年1月初旬,前任者から交替して,本件発明の開発を任されたものの,先行発明は,先端の傾きと回転が一体化して,根本的に無理があり,全く違う発想と再設計の必要があったため,その改良で問題解決が可能となるものでなく,前任者の設計図面や資料は役に立たなかった。β1は,3次元的な機構を有し,マシニングセンターに取り付けることができ,エアーや電気ではなく,機械主軸回転のみを動力源とするような今までにないホルダーの開発を構想し,開発を進めた。その結果,各部位を独立した構造体にしたことで,3次元的な動きを可能とし,余分な遠心力のかからない構造体となり,傾斜軸が傾いたときのアンバランスの発生による遠心力の振り回しもなくなり,3次元的にワーク形状に倣って,先端が縮んだり,伸びたりして,360度どの方向にも傾き加工が可能となる本件発明に結び付いた。
(3)本件発明は,請求項1に記載された構成において,自在継手を用いているものであり,その特徴は,「該自在継手の外周部の該ケース内に、多数の傾動支持ピンを下方に向けて且つばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され、該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端が該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接すること」にあり,また,その重要点は,回転と傾斜軸の分離であって,設計図上,最大回転角度が5°,ジョイント部が2°30’52”である。
本件発明の「自在継手」は,不可欠の構成要件であるものの,請求項1では何ら限定要件がなく,従来公知の自在継手の概念,技術がこれに含まれる。
この自在継手の従来公知の知識がα1にあったとしても,本件発明の特徴からして,それだけで本件発明が完成しないことは明らかである。
(4)原告の主張についてア先行発明の課題は,回転むらやトルク変動,傾斜軸を戻す力で安定した12回転が得られないことではなく,被加工物の立体形状に3次元的な動作により倣いながらバリ取り加工をすることが不十分であったことである。つまり,先行発明は,被加工物に倣うような機能がなく,バリ取りが満足にできなかったものである。
また,ジョイントは,ホルダー内部のユニット間の動作及び回転を伝達するための部品であり,回転むらやトルク変動がジョイントによって発生することはない。各種のジョイントを検討した理由は,マシニングセンターATCの許容重量,許容寸法に収め,ホルダーの可搬のほか,マシニングセンターの装脱着の簡易化と軽量化を図るためであって,本件発明に至る開発とは何ら関係がない。
なお,先行発明と本件発明とは,構造上の相違点があり(乙25),構成と作用効果を異にする全く別の技術である。
イα1,α2及びα3の3名は,本件発明には全く関与していない。せいぜい,商品開発プロジェクトチームの一員として,営業面,製造面から開発品の展開方法や開発進捗状況をチェックし,展開可能な体制を構築し,商品PR,販促,試作などの開発計画に関与したにすぎない。
α1とα2は,本件発明の開発目的を理解しておらず,β1に対してアドバイスすることができる立場にはなく,現実的にもアドバイスをしていない。ユニバーサルジョイント,スプリングジョイント,等速ジョイントなどは,本件発明の目的からみて,問題とならない部分である。
α3は,製造グループの責任者であり,本件発明の開発計画の進度チェック,試作のための製造手配,部門間調整等の概括的,間接的なことには傾注したものの,本件発明自体に直接的,具体的にかかわったことはない。
ウ本件発明の最大の課題は,先行発明では,動作が回転動作と傾斜動作が一体化してワークに倣わなかった点であり,傾斜角度が大きくなると,ホルダーにアンバランスが生じ,加工面を切削時に飛び跳ね現象が起こり,13刃具が折損して良好な加工面が得られなかったことである。本件公報の段落【0005】記載の「回転する刃具の傾動動作を常にスムーズに行って、
ワークの各種加工面の加工を良好に行うことができる加工工具を提供することを目的とする」との文言は,技術的に置き換えれば,「バリ取りホルダーが被加工物の立体形状に3次元的な動作により,倣いながらバリ取り加工をすること」の意味であり,単なる表現の問題である。
エβ1は,α1から原告の主張するようなアドバイスをされなくとも,各種継手について,製品メーカーのカタログ,インターネット,メーカーへの問い合わせ,機械工学等の本などを通じて,必要にして十分な知見があった。原告においても,ホルダーボディの外形自体の大きさやホルダーの長さが十字継手(カルダンシャフト)を使用したホルダーを開発設計する上での制約となることを承知しているはずであり,開発の当時,小型の市販品は見当たらなかった。
3争点(3)〔本件特許を受ける権利の原告に対する承継〕について〔原告の主張〕(1)原告の規則及び細則において,規則は一般準則にすぎず,職務発明についての具体的な取決めは,細則によって規律されるから,専ら細則5条1項が適用されて,発明の完成により,当然に特許を受ける権利が原告に対して承継される。
本件発明は,職務発明であるから,平成15年8月23日に完成したのと同時に,原告に対して本件特許を受ける権利承継された。
(2)また,細則5条1項を原告に予約完結権が留保された規定とみる被告の主張は,売買の一方の予約の考え方を援用するものであろうが,そのように解する規定上の根拠がなく,そもそも,予約承継は,特許法35条2項の反対解釈などから,売買とは性質が異なるものであり,理由がない。
〔被告の主張〕14(1)原告の規則及び細則において,規則62条は,工業所有権を受ける権利につき譲渡行為の存在を想定し,細則5条2項は,特許法35条1項発明者主義に準拠し,細則8条(1) 号は,細則4条の届出による工業所有権を取得する権利の譲り受けの決定に関する事項の審査を定め,細則10条1項は,細則8条の場合に限って審査の上で工業所有権の出願をすることを定め,また,原告のこれまでの実務慣行としても,細則4条1項の届出は,例外なく同条2項の「譲渡証書」を提出させて行われている。
これらによれば,原告の業務範囲に属する事項の発明による特許を受ける権利承継には,発明をした社員と原告との間で,これを譲渡する法律行為が必要であって,この譲渡行為がなくても,発明の完成と同時に原告に承継されるというものではない。その意味において,職務発明の場合の細則5条1項の「会社がこれを承継する」とは,「会社がこれを承継できる」との趣旨に解すべきである。
本件発明の発明者であるβ1は,原告との間でその特許を受ける権利の譲渡行為をしていないから,原告に本件特許を受ける権利承継されていない。
あるいは,原告は,せいぜい,本件特許を受ける権利の譲渡を求める請求権を有するにすぎない。
(2)仮に,そのように解することができないとしても,職務発明の場合の細則5条1項は,特許を受ける権利承継の予約を定めた規定,すなわち,予約承継規定であって,原告に予約完結権を認めたものとみることができる。
原告は,本件発明について,いまだ上記の予約完結権を行使していないから,本件特許を受ける権利を有していない。
4争点(4)〔本件特許を受ける権利等の原告による放棄〕について〔被告の主張〕(1)仮に,本件特許を受ける権利が原告に承継されたとしても,本件特許を受ける権利は,原告自身の業務命令によって放棄された。
15すなわち,原告は,平成15年8月9日に原告代表者自身によってタッパー関連以外の商品開発及び販売の中止を発表し,同月26日にこれを全社的に周知させたから,そのころ,本件発明の製品であるバリ取りホルダーに関して特許を受ける権利は,原告自らが放棄したことにより消滅した(被告の立場からは,特許を受ける権利の譲渡を求める請求権が放棄によって消滅した。)。
このことは,次の事実関係によって裏付けられる。
ア平成15年9月末ころ,β3が行った本件発明に係るバリ取りホルダーの特許出願の細則に基づく届出について,原告が開発中止の業務命令を理由に正式受理を拒否して書類一式を返却したことイ平成15年10月,β3が特許事務所と連携して本件発明に係るバリ取りホルダーの特許出願の準備をして原告に特許出願の上申をしたところ,原告がこれを許否したため,β3が同年12月29日に特許事務所に出願を正式に断ったことウ平成15年12月4日,原告が先行発明と同時期に開発して竹沢精機と共同出願した「ホーニング用加振アタッチメント」の特許出願についても,同社との「製造・販売提携契約書解除に関する覚書」に調印して,特許を受ける権利を放棄したこと(2)仮に,原告において,本件特許を受ける権利が存続していたとしても,上記の事実関係によれば,承継の必要がなくなったものであるから,細則10条2項により,発明者である被告に返還されるべきである。
〔原告の主張〕(1)被告の主張する放棄の裏付けとする事実関係を否認ないし争う。
原告において,中止の業務命令を発したのは,平成16年1月に製品を発売することを中止することを目的としたものであって,開発そのものを中断したのではない。その後も,現に,本件発明に係るバリ取りホルダーの開発16行為が継続している。
そして,原告において,仮に,開発を中止したとしても,特許を受ける権利の放棄までする理由はないから,放棄をしていないことは明らかである。
(2)なお,細則10条2項は,原告において承継の必要性を判断する内容の規定であり,原告において,本件訴訟を提起している以上,承継の必要性を認めているものであるから,本件特許を受ける権利が返還されることにはならない。
5争点(5)〔本件特許を受ける権利対抗要件の欠缺〕について〔被告の主張〕(1)本件発明は,平成16年6月14日,被告を出願人として,特許庁に特許出願手続(特願2004-175707)をされており,本件特許を受ける権利は,その直前,発明者であるβ1から被告に対して口頭で譲渡された。
この事実を明確にするため,β1は,平成16年7月2日付け譲渡証書(乙21)を作成し,被告に交付した。
本件発明の発明者は,前記2〔被告の主張〕のとおり,β1,1名であり,その他の原告の従業員らは発明者でないから,特許法33条3項に該当せず,β1が単独で本件特許を受ける権利を被告に譲渡したものである。
特許法34条1項は,「特許出願前における特許を受ける権利承継は,その承継人が特許出願をしなければ,第三者に対抗することができない。」と定めており,被告は,β1から本件特許を受ける権利を譲り受け,平成16年6月14日に本件発明に係る特許出願手続を了したものである。
原告は,本件特許を受ける権利について,自ら出願手続をしていないから,対抗要件を具備しておらず,被告に対抗することができない。
(2)原告の主張する背信的悪意者については,判例によると,被告において,次の?@ないし?Dの事由があることが必要と考えられるものの,そのような事由は全く存在しないから,被告は背信的悪意者ではない。
17?@本件発明に関し,発明者であるβ1と被告との間で,親族関係などの密接な関係があり,実質上両者が同一の地位にあると認められること?A被告が原告の本件特許を受ける権利の取得を認容し,これを前提とする行動をとったこと?B被告が詐欺,強迫によって原告の本件発明の出願行為を妨げたこと?C被告が,本件特許を受ける権利について,β1と原告との間の譲渡につき単なる認識を超えて,被告に譲渡することを積極的に働きかけて,β1をしてその決意をさせ,その結果,β1の承諾を得るに至り,その間に因果関係が存在すること?D被告が,原告が本件特許を受ける権利の移転につき特許出願のないことを奇貨として,これを利用し,不当な利益を得るように企画し,発明者であるβ1と通謀して権利を譲り受けたことまた,被告の側の事情のみならず,本件発明に関する原告の意識や行動についても,重要な要素であり,原告に次の?@ないし?Dの事由があることは,被告の背信性を否定する事由として評価できる。
?@原告は,先行発明について,平成14年10月25日に出願を行ったものの,3年内の出願審査請求をせず,未審査請求により,平成18年1月24日にみなし取下処分となっていることからみて,特許取得の意欲がなく,将来的に自社の開発商品として考えていなかったこと?A「バリ取りホルダー」に係る本件発明は,平成15年8月23日に完成していたにもかかわらず,原告は特許出願を行わず,同年10月にβ3が特許事務所と連絡を取りながら特許出願の準備を進め,原告に上申したところ,原告は出願を拒否したこと?B原告は,平成15年8月9日,α4社長において,タッパー関連以外の商品の開発,販売の中止を発表し,本件発明の「バリ取りホルダー」の開発が白紙撤回となって,本件特許を受ける権利も放棄されたこと18?C先行発明の「加工工具」と同時期に開発した「ホーニング用加振アタッチメント」(特願2002-304908,特開2004-136414)の特許出願について,原告は,平成15年8月9日の中止発表を受けて,同年12月4日,竹沢精機に対して特許を受ける権利を放棄したこと?D先行発明以降において,原告の「加工工具」に関連する出願は,平成14年10月25日と平成15年2月21日の2件のみであり,本件発明を含む加工工具には,無関心であること(3)原告の主張についてア誓約書は,署名をしなければ退職金の支払ができないとの脅迫的な説明や危機感から,退職後の生活費の問題もあって署名に応じたものである。
当時,β1,β2及びβ3は,本件発明は開発不要案件との認識であったから,原告の営業秘密との認識はもっていなかった。
イβ1,β2及びβ3は,本件発明に関する組立図等の資料の複製を持ち出していない。資料の持ち出しをしなくとも,設計,試作,改良を重ねる度に分解し,頭に叩き込まれており,組立図や部品図,部品表がなくても,図面の作図には,1週間もあれば,再生が可能である。
設計技術者であれば,自身が設計した案件については,設計を始めれば,改良点を含み,次々と頭に浮かび,作図には事欠かない。
ウ本件発明は,当時,原告にとって既に不要案件であったから,非秘密情報であり,β1,β2及びβ3は,そのように認識しており,悪意ではない。まして,被告との共謀などあり得ず,β1と被告との間の本件特許を受ける権利の譲渡とこれに続く本件発明の出願について,いずれも違法性を有するものではなく,被告は背信的悪意者ではない。
エなお,原告は,本件発明の開発中止を内外に通告し,「タッパー専業に回帰する」とのことで本件発明を放棄した。原告が本件発明を本当に重要19と考えているのであれば,平成15年8月23日から本件訴訟の提起まで約4年間以上放置することは考えられず,特許を取得する意思がないにもかかわらず,β1ら元従業員に対する嫌がらせとして本件訴訟を提起したとしか考えられない。
オ被告は,本件発明について,優良商品化を目指してさらなる開発を進め,その開発のため,物的投資に限定しても,立型マシニングセンター,真円度測定機,表面粗さ測定機を導入しており,被告において,企業として相当な投資をした上で商品化したものであり,フリーライドなどといわれるものではない。
〔原告の主張〕(1)被告の主張は争う。
仮に,本件発明の発明者に,α1,α2及びα3が含まれない場合でも,被告の行為は,以下のとおり,自由競争によって許容される範囲を逸脱しており,刑事罰の対象ともなり得る違法行為であることを考えると,被告は,β1からの本件特許を受ける権利の譲渡につき,いわゆる背信的悪意者であって,原告の対抗要件の欠缺を主張する正当な利益を有する者とはいえない。
(2)β1,β2及びβ3は,本件発明が原告の社内で開発された職務発明であること,本件発明に関する組立図,部品図等が原告における営業秘密であることを認識しており,β3は,原告の従業員として,特許事務所に対し,本件発明についての特許出願を依頼した。
β1,β2及びβ3は,原告を退職するにあたり,原告に対し,原告の営業秘密に属する文書,図面,磁気ディスク等を一切保有せず,当該秘密に関する権利主張を一切せず,第三者に漏洩しないことなどを約する誓約書を差し入れている。
(3)β1,β2及びβ3は,本件発明が原告における職務発明であって,原告が本来権利を有するものであることを知りながら,共謀して,本件発明が完20成した平成15年8月23日からβ3が原告を退社した平成16年3月31日までの間のいずれかの時期において,原告の管理する組立図等の資料を複製して持ち出した上,本件発明の出願に至ったものである。複製の方法は,原告の社内のコピー機を利用し,電子情報としてのCDその他の媒体に記録し,又は,電子メールを用いて送信することにより,複製したものと考えられる。
これらの行為は,営業秘密の不正取得及び不正開示,図面等の複製にかかる著作権の侵害,紙,磁気メディア等の記録媒体の窃盗といった違法行為にほかならず,この場合における原告とβ1らとの関係は,単純な二重売買における債務不履行の域にとどまるものではなく,故意の不法行為を構成し,かつ,刑事処分の対象ともなり得るものである。
(4)β1の退職日である平成16年1月15日からわずか6か月後に本件発明に係る特許出願がされていること,被告が会社として従来同種の製品の開発や製造を行っていなかったことからすれば,本件発明の特許出願に際し,被告の社内において,新たな開発が行われたとは考えられない。
さらに,本件発明の特許出願の時点において,β1は被告の従業員であり,β2は被告の取締役であったことからすると,出願人である被告が経緯をすべて認識していたものと評価することができるから,結局,被告自身が違法行為を認識しつつ,自己の利益のために,原告の発明を盗取し,本件発明の特許出願をしたものということができる。
そして,被告の役員であるβ2の行為は,不正競争防止法違反,著作権法違反及び窃盗の共謀共同正犯として,それぞれ構成要件該当性を有する違法な行為であり,不正競争防止法違反,著作権法違反については,被告も両罰規定による処罰の対象となる。
また,仮に,本件発明につき厳密な意味における営業秘密の該当性を欠くことがあったとしても,原告が開発資金を負担し,適法に特許を受ける権利21を取得した発明について,その経緯をすべて認識しつつ無償で取得し,原告に無断で特許出願に至った被告の行為は,自由競争の範囲を逸脱していることが明白である。
なお,原告が本件発明の試作品や図面等の破棄を指示したことはなく,むしろ,必要な資料であるため,意図して残されたものであり,また,本件特許を受ける権利を放棄したことがないことは,前記4〔原告の主張〕のとおりである。また,本件発明については,原告において,β1らをはじめとして人員14名が関与し,約6000万円を投じて実験装置を導入し,開発部門において,適切に情報管理をしていたものであって,被告による本件特許を受ける権利の取得は,フリーライドにほかならない。
(5)被告の主張についてア被告における?@譲渡人と譲受人の実質的同一性,?A先行行為,?B詐欺,強迫,?C積極的関与,?D不当な目的の不存在については,?@に関し,β1は被告の従業員であり,譲渡人のβ1と譲受人の被告との間に実質的同一性が肯定でき,?Aに関し,発明を承継する旨の職務発明規程のある原告において本件発明をし,退職時に秘密保持の誓約書を提出したβ1から譲渡を受けたから,先行行為があり,?Bに関し,原告の社内情報をβ1らを通じてから取得する行為は,詐欺,強迫と同等といえ,?Cに関し,β1が譲渡人かつ被告の従業員の立場で譲渡行為を行ったから,被告が積極的関与をしているといえ,?Dに関し,原告による投資のもとでされた本件発明を無償で取得することは,それ自体で不当な目的が認められ,この5類型に従っても,被告は,背信的悪意者に該当する。
イまた,原告の意識や行動に関する?@ないし?Dについても,?@に関し,先行発明に関する事情は,本件発明や本件特許を受ける権利に関する事情とはならず,権利化するか否かは経営判断に属する事柄であり,?A及び?Bに関し,原告は,本件発明の特許出願の上申を受けておらず,本件特許を受22ける権利を放棄していないし,本件訴訟の提起をしているのであるから,権利者の行動として,非難されるいわれはなく,?Cに関し,「ホーニング用加振アタッチメント」の特許出願は,本件発明とは異なる技術に関するものであって,関連性がなく,具体的な相手方との関係における特許権の取扱いは,経営判断事項であり,加工工具への関心の有無とは直結しないところであり,?Dに関し,加工工具に関する特許出願を2件行っていることは,原告として,無関心でないことを示すものであり,いずれも失当である。
6争点(6)〔信義則違反又は権利濫用〕について〔被告の主張〕(1)原告は,平成15年8月9日に原告代表者自身によってタッパー関連以外の商品開発及び販売の中止を発表し,同月26日にこれを全社的に周知させており,これは,本件発明の製品であるバリ取りホルダーについて,今後の技術開発と商品化の取組みを白紙撤回したことにほかならない。
具体的には,次のとおりである。
ア平成15年9月末ころ,β3が行った本件発明に係るバリ取りホルダーの特許出願の細則に基づく届出について,原告が開発中止の業務命令を理由に正式受理を拒否して書類一式を返却したことイ平成15年10月,β3が特許事務所と連携して本件発明に係るバリ取りホルダーの特許出願の準備をして原告に特許出願の上申をしたところ,原告がこれを拒否したため,β3が同年12月29日に特許事務所に出願を正式に断ったことウ平成15年12月4日,原告が先行発明と同時期に開発して竹沢精機と共同出願した「ホーニング用加振アタッチメント」の特許出願についても,同社との「製造・販売提携契約書解除に関する覚書」に調印して,特許を受ける権利を放棄したこと23エ平成16年3月ころまでに,名古屋から平塚への工場移転に際し,原告が本件発明に係るバリ取りホルダーの開発担当者であったβ2,β1,β3を去るにまかせて退社させ,技術者の流出を放任したことオ平成16年2月ないし3月ころ,原告が本件発明に係るバリ取りホルダーの最終試作品を工場移転にとっての不要な荷物として廃棄処分したことカ平成16年2月ないし3月ころ,β3が特許事務所から返却された特許申請のための書類一式を原告の開発中止の業務命令の趣旨に従って廃棄処分し,原告がβ3にパソコンのCADに保管されていた図面等のデータも消却させたことキ平成15年8月の盆休み前に,原告代表者がβ2に対して解雇の通告をした際,「タッパー専業メーカー」に事業を戻すため,β2を雇用する必要がなくなった旨を述べたことクそもそも,原告において,本件発明又はバリ取りホルダーに関連する開発の消極性や意欲の欠如は異常であり,先行発明の特許出願は,平成18年1月24日にみなし取下げとなり,バリ取りホルダーに係る本件発明は,これを特許出願せず,先行発明の開発以降における加工工具関連の特許出願は,「工作機械用スプレーホルダー」(平成14年10月25日出願,ただし,平成18年1月24日みなし取下げ),「吐出量制御スプレーホルダー」(平成15年2月21日出願)の2件だけであることケ本件訴訟の提起の前,原告の部長が被告と取引のある商社を来訪して本件発明の特許出願を知り,バリ取りツールの本件発明を潰す旨の感情的な発言をしたこと(2)原告は,このように,名古屋から平塚への工場移転を決定し,これを実現する機会にタッパー専業メーカーに徹することを決意して,本件発明に係るバリ取りツールについては一切開発販売を中止したのであって,本件発明に係る特許を受ける権利は,不必要なものと位置付けられ,平成16年2月な24いし3月ころに捨て去られたものである。
しかるに,原告は,被告の有するバリ取りツールの本件発明に係る特許権を潰す目的で本件訴訟を提起したものであり,本件特許を受ける権利の確認は,β2,β1及びβ3に対する嫌がらせ以外の何ものでもない。
したがって,原告の被告に対する本件特許を受ける権利の確認請求は,信義則に違反し,権利の濫用に当たるものとして許されない。
〔原告の主張〕原告の被告に対する本件特許を受ける権利の確認請求が信義則に違反し,権利の濫用に当たるものとする被告の主張を否認ないし争う。
原告は,本件特許を受ける権利を放棄しておらず,被告に対するその確認請求が権利濫用などに当たらないことは明らかである。
第4当裁判所の判断1争点(1)〔本件特許を受ける権利の確認を求める訴えの利益〕について被告は,本案前の抗弁として,原告と被告との間では,特許を受ける権利の移転を求める給付の訴えが紛争の抜本的解決になるものであって,本件特許を受ける権利の確認の訴えは確認の利益を欠くから,本件訴えは不適法であると主張する。
しかしながら,本件訴訟において,原告は,本件発明につき自らに特許を受ける権利が帰属しており,被告には特許を受ける権利が帰属していないと主張しているのであるから,被告に対し特許を受ける権利の移転を求める訴えは,原告の主張内容に合致せず,不適切であるというほかない。被告の主張する訴えが,出願人の地位の移転を求める給付の訴えをいうものと善解し得るとしても,そのような訴えとして構成することは,一見直截な方法であるかのようにみえるものの,既にされている特許出願の手続との関係で,給付判決として,これになじむかについては疑問がある。そして,特許庁の運用実務として,出願手続中に,真の権利者が出願名義人を相手方として特許を受ける権利を有す25る旨の確認判決を取得して,その確定した確認判決をもって特許庁に出願名義人の変更申請をすれば,出願名義の回復を認める取扱いをしていること(顕著な事実)からすれば,原告と被告との間におけるように,その帰属につき争いのある当事者間で特許を受ける権利の確認を求める訴えについては,確認の利益に欠けることはないというべきである。
したがって,本件訴えについては,確認の利益が認められることが明らかであり,被告の本案前の抗弁は失当である。
2争点(2)〔本件発明の発明者〕について(1)前記第2の1前提となる事実に,証拠(甲1,3,6の4,甲13の1・8・16・17,甲19,20,乙19,24,25)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア先行発明と本件発明原告において,平成14年7月ころから,「可変軸を有する工具」(マルチフィニッシャー)の名称で,マシニングセンター等の工作機械に取り付け,被加工物に対して,面取り,バリ取り,ラッピング等の加工を行う加工工具の開発が行なわれ,同年10月25日,この先行発明が原告によって特許出願された。先行発明の開発担当者は,α2であった。しかし,先行発明には,回転むらやトルク変動が作業軸に生じ,傾斜軸を元に戻そうとする力が大きく発生するなどの難点があった。
このため,原告において,平成15年1月ころから先行発明に改良を施した工具「バリ取りホルダー」の開発が開始され,同年8月23日,この開発に係る本件発明が完成した。本件発明の開発担当者は,β1であった。
イ本件公報の記載(甲1)「【発明の詳細な説明】【技術分野】【0001】26本発明は、マシニングセンター等の工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられ、主軸により刃具を回転させて、ワークの面取り、バリ取り、ラッピングなどの加工を行う加工工具に関する。」「【背景技術】【0002】従来、マシニングセンター等の工作機械の主軸に着脱可能に取り付けられ、バリ取りなどの加工を行う加工工具として、下記の特許文献1に記載されるようなバリ取り装置が知られている。このバリ取り装置は、本体ユニットを工作機械の主軸に装着可能に形成され、本体ユニットの下部にエアーモータを斜め下方に傾斜した状態で取り付け、その駆動軸の先端にバリ取り工具を取り付けて構成され、エアーモータによってバリ取り工具を回転駆動して、ワークの加工面に工具を押し当て、ワークのバリ取りを行うものである。
【特許文献1】特開平8-57758号公報」「【発明の開示】【発明が解決しようとする課題】【0003】しかし、上記のバリ取り装置は、エアーモータによりバリ取り工具を回転駆動するため、エアーモータに供給する圧力空気の供給源を必要とする問題があり、さらに、本体ユニットに対しエアーモータが上下方向に傾斜して装着され、そのエアーモータの傾斜角度により、その回転軸に装着されたバリ取り工具の傾斜方向が決まるため、各種の方向を向くワークの加工面に対し、バリ取り工具の刃先の方向を、常に適正な方向とするように、
本体ユニットの角度(向き)を制御する必要があり、そのための制御機構や制御プログラムが複雑化する問題があった。」「【0004】27また、エアーモータとその回転軸先端のバリ取り工具が予め傾斜して装着されるため、各種の傾斜角度を持ったワークの加工面に対し、工具を円滑に傾動制御することができない場合があり、加工面の角度によっては、
ワークのエッジ部のバリ取りなどの加工を良好に且つ円滑に行うことが難しいという問題があった。」「【0005】本発明は、上述の課題を解決するものであり、回転する刃具の傾動動作を常にスムーズに行って、ワークの各種加工面の加工を良好に行うことができる加工工具を提供することを目的とする。」「【発明の効果】【0013】上記構成の加工工具では、工作機械の主軸の回転により、シャンクと吸収ロッドが回転し、その吸収ロッドの回転が自在継手を介してホルダーに伝達され、ホルダーの先端に取り付けられた刃具が高速回転して、その刃具がワークに接触することにより、バリ取りなどの加工が行われる。」「【0014】高速回転する刃具の先端側面が例えばワークのエッジ部に接触し、刃具が側方からの荷重を受けると、傾動ケースがその外側のケースに対し軸線上から傾動する。このとき、この傾動により傾斜した傾動ケース内のホルダーは、主軸の回転力をシャンク、吸収ロッド、及び自在継手を介して受け、自在継手が吸収ロッドに対しホルダーを傾斜させた状態で回転駆動し、
ホルダーに設けられた摺動ホルダー先端の刃具が高速で回転駆動され、ワークのエッジ部などに生じたバリが除去される。このときの、刃具がワークの加工面を押圧する押圧力は、傾動支持ピン装置の多数の傾動支持ピンが傾動ケースの上部の受圧板を押す力によって生じ、高速回転する刃具のワーク加工面への押圧を安定して行って、バリ取りなどの加工を良好に行28うことができる。」「【0015】また、このようなホルダーの傾動時、自在継手による吸収ロッドとホルダーとの連結長さの微妙な変化や振動によってそこに軸方向の衝撃力が生じることがあるが、吸収ロッドに設けた吸収ばねと、ホルダー内に設けた摺動ホルダー用のばね部材によりそれが良好に吸収される。また、刃具がワークから受ける押上力を受ける場合があるが、このような刃具の押上力は摺動ホルダー用のばね部材により吸収され、高速回転する刃具を非常に安定して動作させることができる。」「【0016】さらに、刃具がワークから離れて刃具の回転負荷が急激に減少し、自在継手およびホルダーが傾動状態から直線状態に戻るとき、自在継手の振動や傾動ケースの反動などにより、ホルダーや刃具が暴れる(ランダムに振られる)現象が生じやすい。しかし、本加工工具では、傾動支持ピン装置の多数の傾動支持ピンがばね部材を介してその先端を傾動ケース上部の受圧板を押えるように作用し、またこの傾動支持ピン装置が回動自在で且つフリー状態でケース内に配設され、さらに傾動支持ピン装置の上側にボールベアリングをフリー状態で回転自在に配設しているため、刃具の回転負荷が変化しホルダーが直線姿勢に戻る際、傾動支持ピン装置の円周方向への動きをスムーズにして、ホルダーや刃具の暴れを防止することができる。」「【発明を実施するための最良の形態】【0017】以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は第1実施形態の加工工具の正面図を示し、図2はその縦断面図を示している。この加工工具1は、概略的には、マシニングセンターなどの工作機械の主軸に、
29そのシャンク2を嵌着して装着され、シャンク2の下部に装着された円筒形のケース3内に自在継手ロッド5と傾動ケース4が配設され、傾動ケース4内に回転可能に配設された刃具用のホルダー6が自在継手ロッド5を介してシャンク2に連結された構造を持つ。そして、ケース3は、位置決め係合部7を介して工作機械の一部の固定部分に係止されて静止し、傾動ケース4内で回転可能に保持されたホルダー6が主軸により回転駆動され、
ホルダー6の先端に装着した刃具9が回転してバリ取り加工などを行うように構成される。」「【図1】 【図2】」「【0037】高速回転する刃具9の先端側面がワークWのエッジ部に接触し、刃具9が側方からの荷重を受けると、図5、図6に示すように、傾動ケース4がその外側のケース3に対しその荷重に応じた角度、例えば最大傾斜角度で5度程度の角度範囲で、主軸の軸心から傾動する。このとき、傾動ケース4はケース3に対し球面滑り軸受け43,34を介してその球面の中心点30の周りで回動するが、この回動により傾斜した傾動ケース4内のホルダー6は、主軸10の回転力をシャンク2、吸収ロッド22、及び自在継手ロッド5を介して受け、回転駆動される。傾動ケース4と共にホルダー6が図5、図6のように傾斜したとき、ホルダー6はその上端の自在継手ロッド5との連結部より下側の球面滑り軸受け34,43の中心点を軸に傾動し、自在継手ロッド5はその中間点近傍を軸に傾動する。」「【図5】【図6】」「【0038】このため、自在継手ロッド5とホルダー6が傾動する際には、吸収ロッド22と自在継手ロッド5の連結長さ及び自在継手ロッド5とホルダー6の連結長さの微妙な変化により軸方向の振動などが発生する。このときの吸収ロッド22や自在継手ロッド5の軸方向の振動や衝撃力は、吸収ロッド22内の吸収ばね23により良好に吸収される。このように、ホルダー6が傾動する際の吸収ロッド22や自在継手ロッド5の軸方向の振動は、
31吸収ばね23により吸収されるため、刃具9がワークWに接触してホルダー6が傾動する際、刃具9の高速回転を安定して保持しながら、スムーズにホルダー6を傾動させることができる。」「【0039】また、高速回転する刃具9の先端側部にワークWの縁部に接触したとき、
刃具9がワークから受ける軸方向の押上力などは、摺動ホルダー62のばね部材67により吸収され、安定して加工を行うことができる。さらに、
図5のように、刃具9がホルダー6と共に傾動し、刃具9の先端側部が適度な接触荷重をワークWのバリの部分に付与しながら、バリを除去するが、
このワークWを刃具9の先端側部が押圧する際の押圧荷重は、ホルダー6の上端の受圧板41に印加される、傾動支持ピン装置30内のばね部材33を有する多数の傾動支持ピン32によって付与される。これらの傾動支持ピン32は円周上に多数本が配置されるため、何れの方向に刃具9とホルダー6が傾動した際にも、同様な荷重を安定して付与することができ、
ワークWのバリ取りを良好に行うことができる。」「【0040】このように、傾動支持ピン32のばね部材33のばね力が、刃具9のワークWに対する押圧荷重として作用するが、このワークWの押圧荷重を作用させる力は、上記のようにホルダー6や自在継手ロッド5の軸方向の力を吸収する吸収ばね23やばね部材67とは別個のばねで、円周上に配置された多数のばね部材33によって付与されるため、刃具9がワークWを押圧する力を安定して生じさせることができる。」「【0041】さらに、刃具9がワークWから離れた際には、刃具9とホルダー6の傾動状態を直線姿勢までスムーズに戻すことができる。特に、ホルダー6がその回転負荷を急激に低下させ且つその傾動荷重を外されて直線姿勢に戻32る際、高速回転するホルダー6の戻り動作が不安定となってホルダー6が暴れやすい、つまりホルダー6がランダムに振れるように動作して直線姿勢に戻りにくい状態が発生しやすい。」「【0042】しかし、本加工工具では、上記のように、吸収ロッド22や自在継手ロッド5に生じる軸方向の衝撃力や振動は吸収ばね23により吸収され、刃具9がワークから受ける荷重は、ホルダー本体61内のばね部材67により吸収され、さらに、ホルダー6が傾動状態から直線状態に復帰する力は、
独立した傾動支持ピン装置30内のばね部材33によって吸収されるため、
刃具9がワークWから離れる際、ホルダー6や刃具9が暴れることなく極めてスムーズに直線状に戻ることができる。また、傾動支持ピン装置30がフリー状態で配設され、且つフリー状態の第2ベアリング26を介して装着されているため、傾動時に傾動支持ピン装置30が円周方向に動いて傾動ケース4の反動などを吸収し、ホルダー6や刃具9をスムーズに直線状態に戻すことができる。」「【0043】なお、上記実施形態では、吸収ロッド22とホルダー6の連結に自在継手ロッド5を使用したが、自在継手ロッド5に代えて図8に示すようなベローズ型自在継手8を使用することもできる。このベローズ型自在継手8は、蛇腹形のベローズの上部と下部に設けた連結軸56 ,58を介して、
吸収ロッド22とホルダー本体61間に連結される。」「【0046】図9は第2実施形態の加工工具の断面図を示している。この例では、第2ベアリング86およびピンケース31の高さ位置を調整するための高さ調整ナット87を設け、吸収ロッドの回止めとなる上記回止めピン28を係合溝88と係合球(金属球)89に変更し、自在継手ロッド90の中間33部に安定化のために円盤部93を設けている。」「【図8】【図9】」「【0055】なお、上記実施形態では、吸収ロッド82とホルダー6の連結に自在継手ロッド90を使用したが、自在継手ロッド90に代えて図12に示すような2軸の軸継手を上部と下部に使用した構造の自在継手96を使用することもできる。この自在継手96は、その上部に2軸の軸継手部97が設けられ、中間軸を介した下部に同様の2軸の軸継手部98が設けられる。」34「【図12】」「【0058】以上説明したように、本発明の加工工具によれば、ホルダーや自在継手の生じる軸方向の衝撃力は吸収ロッドに設けた吸収ばねにより吸収し、刃具がワークから受ける押上力などは摺動ホルダーに設けたばね部材により吸収し、さらに、刃具がワークから傾動力を受けてホルダーが傾動した際、
その反力は傾斜支持ピン装置の円周上に配置した多数の傾動支持ピンが傾動ケースの上部の受圧板を押す力によって生じるようにし、各々の動きを別個のばね部材により吸収し或は荷重をかける構造としているから、刃具などの傾動時或は直線状態への復帰時に暴れを生じさせず、高速回転する刃具のワーク加工面への押圧をスムーズに安定して行って、バリ取りなどの加工を良好に行うことができる。」ウα1とα2の関与α1は,原告において,平成14年10月まで,製造部長を務め,平成3515年当時,営業部長兼任で技術課長,貿易課長を務めていた。
α2は,原告において,平成15年当時,営業部カスタマーソリューションサービスに所属し,商品の営業戦略の立案,新商品の発案,新規顧客の開拓等を担当していた。
α1とα2は,平成15年当時,本件発明に関し,開発担当者のβ1に対し,「ユニバーサルジョイントの2段階接続」(車のプロペラシャフトの事例),「スプリングジョイント」(鉄道模型などの事例),「等速ジョイント」(前輪駆動車の駆動軸継手の事例),「三木プリーのスプリング継手」などについて,実例やカタログを示してアドバイスをしたことがあった。
エβ1の関与β1は,昭和58年に原告に入社後,平成12年9月まで,17年間製造課研削係で研削業務に従事し,同年10月から,技術課に配属され,平成14年1月から,開発業務を担当し,平成15年1月ころ,前任者から本件発明に係るバリ取りホルダーの開発を引き継いだ。
β1は,開発を進めるにあたり,先行発明から離れて自ら構想を練り,バリ取りとして,3次元的な動きをするのに必要な機能や機構について,分析を行い,平成15年1月21日にバリ取りホルダーの第1次試作品の構想図が完成した。これは,ボディと傾斜軸(傾斜時)を固定して非回転体とし,回転による遠心力が生じないようにし,その傾斜軸内部に軸受(ベアリング)を設け,その内部で縮み機構を備えた回転軸が回転して,傾斜軸とは別の構造体として構成したものであった。
平成15年3月17日には,第1次試作品の組立が完了した(甲13の1)。もっとも,傾斜軸を固定し,内部に回転軸を設けただけでは,不十分であったため,その後,?@機械に連結された軸部は,内部でベアリングを介して回転伝達し,ボ36ディ部質量を重く,余分な回転力(遠心力)を与えず,固定体(非回転体)とする?A先端傾斜軸も,360度方向へスムーズに傾斜するのみで,傾斜時に余分な回転力(遠心力による振り回し)を与えず,ボディと同様に固定(非回転体)とする?B傾斜軸を曲げる中心部は,そこに球面すべり軸受を設け,傾斜時のワーク加工時の振動を抑えるため,しっかりと固定し,踊るような状態にならないようにし,固定体(非回転体)としてスムーズな傾斜が行える機構とする?Cボディ内部の軸部は,機械回転と同回転とし,内部のジョイントを介して,傾斜軸内部の回転軸(スピンドル)へ回転伝達がされるようにする?D傾斜軸は,大きく傾斜してもボディと同じく固定体(非回転体)として,遠心力による余分な力を受けないようにする?E傾斜軸内部の回転軸(スピンドル)は,これのみ回転体で,質量も小さく(小径),傾斜した軸方向に対して垂直方向のみに遠心力がかかり,先端に取り付く刃具のみに遠心力(この先端の遠心力は,一般的に使用されているミーリングホルダと同じ)がかかるようにする?Fこの回転軸は,上下方向の伸び,縮みの機能を持ち合わせるようにするなどの開発を行った。
さらに,平成15年5月6日までに,「切削分力の解析」を行った結果を一覧説明図(乙24)にまとめ,第2次試作品の構想図が完成した(甲13の8)。第2次試作品では,押しバネと可変圧力バネを別バネにし,ジョイントを独自に考案するとともに,第1次試作品で深溝ボールベアリングの使用によって微振動とこれによる発熱があったため,アンギュラボ37ールベアリングに変更して再設計し,最高使用回転数を刃具の使用回転に近い1万回転とした。平成15年7月中旬には,第2次試作品の組立が完成し,各機能や動作の確認が行われた(甲13の16・17)。
そして,平成15年8月23日,バリ取りホルダーの第2次試作品の改良(内部バネケースの位置の微調整ができるように改良,甲6の4)がされるなどして,本件発明として完成した。
(2)上記の事実を踏まえて,本件発明の発明者が誰かであるかを検討するに,まず,原告は,α1,α2及びα3が本件発明の発明者であると主張する。
しかしながら,α3については,本件発明の開発過程において,その技術的思想創作行為に現実に関与したことを裏付ける的確な証拠がなく,発明者であると認めることができない。また,α1及びα2については,β1に対し,ユニバーサルジョイント,スプリングジョイント,等速ジョイントなどの実例をアドバイスしたことがあること,本件公報の図12,図8,図9の示す本件発明の実施形態として,それらのジョイントが説明されていることがそれぞれ認められるものの,これらの自在継手は,従来からよく知られた形式のものであり,α1らが実例やカタログによってこれらを示したとおり,周知の存在と認められる(なお,等速ジョイントについては,本件発明の請求項5及び請求項6に言及があるものの,ユニバーサルジョイントとスプリングジョイントについては,本件発明のいずれの請求項にも言及されていない。)。そもそも,本件発明の要点は,本件公報の記載にあるとおり,これらの自在継手を使用した上で,回転する刃具の傾動動作等を加工面の角度などにかかわらず,いかにスムーズに行うかの工夫にあるのであって,α1らのアドバイスによっては,何ら課題の解決にならないものであり,せいぜい,課題の解決にあたって,抽象的な助言を与えたにとどまるものというべきである。そして,原告においても,β1が本件発明の開発担当者であることを前提として,その上で,β1が本件発明の発明者でなく,α1らが発38明者であると主張するのであるから,α1らのアドバイスや助言が本件発明の本質的な課題解決に役立っていない以上,成り立たない主張であることが明らかである。
したがって,α1,α2及びα3については,本件発明の発明者と認めることはできず,原告の主張は失当である。
次に,被告は,β1,1名が本件発明の発明者であると主張する。
本件発明は,β1において,平成15年1月ころに開発担当者となり,前任者からその開発を引き継いだものであるものの,先行発明から離れ,構想から練り直しており,いわば白紙からスタートし,試行錯誤を繰り返して,平成15年8月の完成に至ったものであり,その過程は,前記(1)の認定事実のとおりである。また,これらの事実にあらわれた開発過程は,本件発明の課題の克服の経過を示すものであり,本件公報の記載と符合するものである。
このように,β1は,本件発明における技術的思想創作行為に現実に関与したものと認めることができ,他方,この他の者については,本件訴訟の証拠関係に照らしても,創作行為への現実的な関与を認めることができない。
(3)以上によれば,原告における本件発明の発明者は,β1,1名であり,α1,α2及びα3ではないものと認められる。
3争点(3)〔本件特許を受ける権利の原告に対する承継〕について(1)原告における従業者等のした発明につき取り決めた規則及び細則のうちの主要な規定は,前記第2の1(6)のとおりである。
まず,規則62条と細則との関係については,細則は,規則62条に基づいて定められた規程ではあるものの,発明と考案のほか,規則62条に言及のない意匠を対象としていることからも,原告の業務範囲に属する発明,考案,意匠の創作の取扱いにつき具体的に取り決めた特別規程とみるのが相当である。その意味において,規則62条は,細則で取り決めた個々の規定の39存在を前提として解釈されることになる。そして,これらの細則の具体的な規定内容については,特許法35条,実用新案法11条3項,意匠法15条3項を踏まえていることから(細則5条2項),本件原告の業務範囲に属する従業者等の発明等を,従業者等の現在又は過去の職務に属する職務発明等とこれに属さない発明等との二つに分けて規定していることは明らかである。
そこで,検討するに,従業者等の発明等が原告の職務発明等であるときにおいても,規則62条の文言によれば,従業者等の届出,原告による職務関連性の認定,従業者等と原告との間の譲渡が必要であるようにも読める。他方,「(権利の承継)」と題する細則5条の1項によると,「業務に関する発明・考案・意匠の創作をなした時は」,「その発明・考案・意匠の創作に至った行為が会社における現在または過去の職務に属する時は」,「工業所有権を出願する権利」及び「工業所有権を受ける権利は、会社がこれを承継する。」と規定しており,同規定は,明らかに,届出,認定,譲渡を要せず,発明等の完成時におけるその客観的な性状に従って当然に承継がされることを趣旨としたものである。したがって,職務発明等のときには,規則62条は,細則5条1項の規定内容の趣旨から理解すべきであって,この限度で変容を受けることになる。これに対し,細則5条3項に定めるように,発明等が「現在または過去の職務に属しない時」においては,その文言のとおりに,規則62条のほか,細則4条で定める発明等の届出等を定めや細則8条で定める権利の譲受けの審査等などが意義を有するものと解することができる。
そうすると,原告の業務範囲に属し,かつ,従業者等の現在又は過去の職務に属する職務発明等にあっては,細則5条1項により,「発明・考案・意匠の創作をなした時」,すなわち,発明等の完成時に,「工業所有権を受ける権利は、会社がこれを承継する」から,本件特許を受ける権利についても,平成15年8月23日の本件発明の完成(前記第2の1(2)参照)と同時に,何らの格別の譲渡行為を要せずして,原告に承継されたものと認めるこ40とが相当である。
(2)これに対し,被告は,規則と細則の関連規定によれば,職務発明等の承継についても,個別の届出や譲渡行為が必要である旨主張する。
しかしながら,関連する規定の趣旨については,上記のとおりであるところ,被告の上記主張は,原告の業務範囲に属する発明等について,職務発明等とそれ以外の発明等とを区別せず,混然ととらえているものであるというほかなく,失当である。そもそも,細則4条8条から,その「届出」に細則5条1項に定める原告による権利の承継を阻止するような意味を読み込むことはできない(むしろ,そのような職務発明等がされたことを原告に認知させること自体が,届出等を定める規則62条や関連する細則の規定の趣旨であるものと解することができる。)。また,規則62条の「工業所有権を受ける権利を会社に譲渡しなければならない。」との規定は,その文言上,当然に承継されて格別の譲渡行為を要しないと解することと正面から矛盾しない。
さらに,被告は,原告における従前の慣行として,届出に譲渡証書を提出させていた旨を主張する。しかしながら,職務発明等については,そのような届出の有無にかかわらず,細則5条1項により,原告に承継されると解すべきことは上記のとおりである。このような譲渡証書自体には,譲渡がされたことの創設的な意味があるのではなく,承継がされたことの確認的な意味があるにとどまるものと解するのが相当である。
そうすると,原告は,細則5条1項により,本件特許を受ける権利承継を受けており,この譲渡を求める請求権を有するにすぎないということはできない。
なお,被告は,細則5条1項について,原告に予約完結権を認めた規定であって,原告において,いまだ上記の予約完結権を行使していない旨を主張する。しかし,細則5条1項をそのように解する文言上の手掛かりはなく,41規定の趣旨については,上記のとおりであるということができる。
したがって,被告の主張は,いずれも採用することができない。
(3)以上によれば,本件特許を受ける権利は,本件発明の完成と同時に,原告に承継されたものと認められる。
4争点(4)〔本件特許を受ける権利等の原告による放棄〕について(1)前記第2の1前提となる事実に,証拠(甲6の1〜5,甲8の1〜3,甲13の1〜甲15,17,乙8の1〜乙10,13〜16)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア原告における平成15年3月17日から同年12月25日までの「商品開発打ち合わせ」議事録(甲13の1〜31)には,本件発明に係るバリ取りホルダーについて,当初,発売日を平成15年5月16日と設定したものの,同年4月14日にはこれを同年5月末に,同年5月6日にはこれを同年7月1日に,同年7月7日にはこれを平成16年1月にそれぞれ変更し,平成15年8月26日には,平成16年1月の発売を業務命令により中止したことが記載されている。
他方,その後も,バリ取りホルダーについて,平成15年12月25日まで,「商品開発を早急に終息させる」としながらも,β1を担当者として,改良,組立て,テスト等を継続したことが記載されている。
イ本件発明に係るバリ取りホルダーの組立図5枚(甲6の1〜5)のうち,一番古い日付は平成15年5月5日であり,一番新しい日付は同年11月15日である。
そして,原告において,β1により,少なくとも,平成15年5月28日,同年9月18日,同年10月10日,同年12月12日,同月18日の5回にわたり,テスト加工が行われ,「試験速報」(甲14の1〜5)としてまとめられた。また,平成15年9月22日には,β1により,「バリ取リツール(二次試作品)可変用バネ再計算表」(甲15)が出図42されている。
ウ原告における平成15年12月22日から同月27日までの「営業報告書」(甲17)には,同月24日の欄に,「エンシュウ(株)」の担当者に対し,「バリ取りホルダーの件最終報告技術β3課長同行願う。」「開発延期の趣旨にてとりあえずご理解いただく」と説明したことが記載されている。
β3が原告の社長に宛てた平成15年11月25日付け,同月28日付け,同年12月17日付け,平成16年1月21日付けの「β2氏との打合せ報告書」(乙13〜16)には,本件発明に係るバリ取りホルダーを「開発中止品」として記載している。
エβ3は,平成15年10月ころ,原告の「名古屋工場技術部技術課β3」として,名古屋市所在の「γ特許事務所」に対し,本件発明に係るバリ取りホルダーの特許出願を依頼し,同月上旬,同事務所の担当者との間で,複数回にわたって折衝した。(甲8の1〜3,乙8の1〜乙10)しかし,その後,原告によって本件発明に係るバリ取りホルダーが特許出願されることはなかった。(弁論の全趣旨)(2)上記の事実関係を踏まえてみると,原告のもとで完成した本件発明は,バリ取りホルダーとして製品化される前に,その発売のみならず,これに向けた開発が業務命令によって中止されたものと認められる。
しかしながら,本件発明の完成によって承継された本件特許を受ける権利について,原告が放棄したものと推認するに足りる事実関係は,これを認めることができない。すなわち,製品の発売や開発を中止する業務命令は,会社の経営判断としてされるものであり,その時々の経営者の判断を示すものであるということはできても,製品に関わる特許を受ける権利の主体として,当該権利を放棄したことまでも示すものであるということはできず,また,その権利について,実際に特許出願をしなかったとしても,同様に,権利の43放棄を示すものであるということはできない。そして,このような事実関係以外に,仮に,本件発明に係るバリ取りホルダーに関し,その後,原告が工場移転の引越しに際して設計図面等を廃棄するなどし,開発現場の技術者であったβ1らが退職し,原告が現にタッパー専業メーカーとして事業を展開している事実があったとしても,これらの事実から,個々の特定の権利に向けられた原告の意思までも読み取ることは困難であるというほかないから,原告による本件特許を受ける権利の放棄を裏付ける徴表とはならないというべきである。なお,細則10条2項に関する被告の主張は,上記と同様にして,失当である。
このほか,原告による本件特許を受ける権利の放棄があったことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(3)以上のとおりであるから,本件特許を受ける権利は,原告によって放棄されたものと認めることはできない。
5争点(5)〔本件特許を受ける権利対抗要件の欠缺〕について(1)本件発明は,平成16年6月14日,被告によって特許出願され(特願2004-175707)ているところ(前記第2の1(4)),前記2のとおり,本件発明の発明者はβ1,1名であり,証拠(乙21)及び弁論の全趣旨によれば,β1から被告に対して本件特許を受ける権利が譲渡されたことを証する同年7月2日付け「譲渡証書」が作成され,その記載中に,「発明者を社長名にて行って下さい。」と付記されていることが認められる。他方,前記3のとおり,本件特許を受ける権利は,原告における職務発明として,β1から原告に承継され,前記4のとおり,原告によって放棄されていないものである。
したがって,本件特許を受ける権利については,発明者であるβ1を起点として,原告と被告の双方に譲渡されたことになる。
(2)被告は,原告において,本件特許を受ける権利につき特許出願を経ていな44いから,本件特許を受ける権利承継を被告に対抗することができない(特許法34条1項)旨を抗弁するのに対し,原告は,被告において,β1からの本件特許を受ける権利の譲受けにつき背信的悪意者である旨主張するので,この点を検討する。
証拠(甲10の1・2)及び弁論の全趣旨によれば,β1及びβ2は,原告を退職する際の個別の「誓約書」と題する秘密保持合意により,原告の退職後も,原告に在職中に知り得た情報について,製造開発,製造技術,設計等に関する情報などの漏洩や使用を禁じられていたことが認められ,前記第2の1(1)及び(4)によれば,β1が平成16年1月15日に原告を退職した後,同年6月14日に本件発明が特許出願され,β2が平成17年6月28日に被告の取締役に就任していることがそれぞれ明らかである。
もっとも,β1において,原告のもとから,本件発明に係る資料,図面等を複製するなどして持ち出したとする事実関係については,これを証する証拠は一切ないから,本件発明に係る特許出願は,発明者であるβ1自身が持ち合わせていた技術情報に基づくものと認めることができる。
ところで,被告においては,β1,β2及びβ3の3名について,いずれも,原告を退職した後に採用したものである(前記第2の1(1))。そして,本件特許を受ける権利の譲渡と本件発明の特許出願にあたっては,被告は,β1らから,原告における開発過程を聞き及んでいたものと容易に推測されるものの,他方で,前記4(1)のとおりの本件発明に係る商品開発が中止され,特許出願が取り止めになった経緯についても,等しく説明を受けていたものと推認できる。
また,原告において,本件特許を受ける権利承継にあたって,β1に対して報奨金等が支払われていないことが窺われるほか,前記4のとおり,本件特許を受ける権利を放棄したとまでは認められないものの,平成15年8月の本件発明の完成から,平成16年1月のβ1の退職を経て,平成19年455月の原告による本件訴訟の提起(顕著な事実)までに,3年8か月以上が経過していることも明らかであり,この間に,原告において,本件発明に係るバリ取りツールの商品開発が再開されたことを窺わせるような証拠もない。
そうすると,被告については,原告における職務発明として,β1から原告に本件特許を受ける権利が既に承継されていたことを認識していたとしても,原告の上記のような実情を前提とすれば,殊更,原告の権利取得を妨害し,これによって利益を得るような意図や目的を有していたとまで認めることはできないから,背信的悪意者に該当するということはできず,原告の主張は失当である。
(3)以上のとおりであるから,原告においては,本件発明の特許出願を経ておらず,特許法34条1項により,β1からの本件特許を受ける権利承継を被告に対抗することができないものというべきである。
6結論以上によれば,原告の請求は,その余の点を判断するまでもなく理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
46裁判官柵木澄子47発明目録11発明の名称加工工具2出願番号特願2002-3117113出願日平成14年10月25日4公開番号特開2004-1420645公開日平成16年5月20日6発明者α27出願人カトウ工機株式会社8特許請求の範囲【請求項1】工作機械の主軸に着脱自在に取り付けられて主軸の回転が伝達されるシャンクと、
衝撃吸収体を介してシャンクに支持され、前記主軸の回転軸線上で回転軸線に沿って進退可能となっているヨークと、
主軸の回転軸線と偏心した位置となるようにシャンクとヨークとの間に設けられ、
シャンクの回転をヨークに伝達するシャンクピンと、
先端で工具チップを着脱自在に保持すると共に、前記シャンクピンを介してヨークと連結されたホルダーと、
前記主軸の回転軸線との偏心位置でヨークとホルダーとを連結してヨークの回転をホルダーに伝達する係合部とを備え、
前記回転軸線を曲率中心とした曲面からなる揺動部がホルダーに形成される一方、
この揺動部を支承する軸受がシャンクに形成され、揺動部が軸受を摺動することによりホルダーが揺動可能となっていることを特徴とする加工工具。
【請求項2】前記ヨークをシャンクから軸方向への進出方向に付勢する付勢手段がヨークとシャンクとの間に配置されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項3】48前記係合部は、前記シャンクピンと軸対称となってホルダーに取り付けられた係合ピンと、この係合ピンが貫通するようにヨークに形成された係合孔とによって形成されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具。
49発明目録21発明の名称加工工具2出願番号特願2004-1757073出願日平成16年6月14日4公開番号特開2005-3495495公開日平成17年12月22日6発明者β4,β17出願人司工機株式会社8特許請求の範囲【請求項1】工作機械の主軸にシャンクを着脱自在に取り付け、該主軸の回転により該シャンクおよびホルダーに装着した刃具を回転駆動すると共に、該シャンクに対し該ホルダーおよび刃具を傾動させて加工を行う加工工具であって、
該シャンクの下端部外側にベアリングを介してケースが取り付けられ、該ケースには該主軸に装着された際、該工作機械の固定部に係合して該ケースを位置決めして静止させる位置決め係合部が設けられ、該シャンクの下端軸心部に設けた軸孔に吸収ロッドが軸方向に摺動可能に配設され、該吸収ロッドと該シャンク間には該吸収ロッドを軸方向に付勢する吸収ばねが配設され、該ケース内の下部には傾動ケースが軸線に対し傾動可能に配設され、該傾動ケース内にはホルダーがベアリングを介して回転自在に配設され、該ホルダー内には先端に工具用のチャック部を設けた摺動ホルダーが軸方向に摺動可能に配設され、該ホルダーと該摺動ホルダー間には該摺動ホルダーを軸方向に付勢するばね部材が配設され、前記吸収ロッドの下端部と該ホルダーの上端部は相互に自在継手により連結され、該自在継手の外周部の該ケース内に、多数の傾動支持ピンを下方に向けて且つばね部材により付勢して突出させてなる傾動支持ピン装置が配設され、該傾動支持ピン装置の傾動支持ピンの先端が該傾動ケースの上部に設けた受圧板に当接するこ50とを特徴とする加工工具。
【請求項2】前記傾動支持ピン装置は、円環状に形成されたピンケース内に多数の傾動支持ピンがその先端を下方に突出させて円周上に配設されると共に、各傾動支持ピンがばね部材により下方に付勢されて構成され、該傾動支持ピン装置が回動自在のフリー状態で前記ケース内に配設されたことを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項3】前記傾動支持ピン装置の上側に、ボールベアリングがフリー状態で回転自在に配設されていることを特徴とする請求項2記載の加工工具。
【請求項4】前記ケース内の前記ボールベアリングの上側に高さ調整用の調整ナットが螺合され、調整ナットのねじ込みにより該ボールベアリングの上側空間の隙間幅を調整可能とした請求項3記載の加工工具。
【請求項5】前記自在継手は、前記吸収ロッドの下部と連結された第1自在継手部と、前記ホルダーの上部と連結される第2自在継手部とを中間軸の上部と下部に設けて構成され、該第1自在継手部は該吸収ロッドに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結され、該第2自在継手部は該ホルダーに対し円周全方向に傾動可能で且つ軸方向に摺動可能に連結されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項6】前記自在継手の中間軸に円盤部が形成され、前記第1自在継手部と第2自在継手部には鋼球が嵌合する半球状の凹部が形成されると共に、前記吸収ロッドとホルダーの継手凹部内には該鋼球が嵌合する溝部が軸方向に形成されている請求項5記載の加工工具。
51【請求項7】前記傾動ケースは前記ケース内で球面滑り軸受を介して所定の角度範囲内で傾動可能に配設されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具。
【請求項8】前記ホルダーは、前記傾動ケース内で少なくとも2個のニードルベアリングを含む複数のベアリングを介して回転自在に配設されていることを特徴とする請求項1記載の加工工具。
裁判長裁判官 阿部正幸
裁判官 平田直人