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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20ワ14858特許権侵害差止請求事件 判例 特許
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事件 平成 20年 (ワ) 14530号 特許権侵害差止等請求事件
大阪市〈以下略〉
原告シ ャープ株式会社
訴訟代理人弁護 士永島孝明
同 安國忠彦
同 明石幸二郎
補佐人弁理士磯田志郎 東京都港区〈以下略〉
被告日 本サムスン株式会社
訴訟代理人弁護 士大野聖二
同 井上義隆
訴訟代理人弁理 士片山健一
同 津田理
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2009/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙イ号物件目録,別紙ロ号物件目録及び別紙ハ号物件目録記載の各製品を譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
2被告は,その占有にかかる前項の各製品を廃棄せよ。
3原告の請求のうち,被告に対し,別紙イ号物件目録,別紙ロ号物件目録及び別紙ハ号物件目録記載の各製品の生産の差止めを求める部分及びその半製品の廃棄を求める部分をいずれも棄却する。
4訴訟費用は被告の負担とする。
- 2 -5この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
1被告は,別紙イ号物件目録,別紙ロ号物件目録及び別紙ハ号物件目録記載の各製品を生産し,譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)をしてはならない。
2 被告は,その占有にかかる前項の各製品及びその半製品を廃棄せよ。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,発明の名称を「液晶表示装置」とする特許番号第3901721号の特許(以下,この特許を「本件特許1」,この特許権を「本件特許権1」という。)及び特許番号第3872798号の特許(以下,この特許を「本件特許2」,この特許権を「本件特許権2」という。),発明の名称を「液晶表示装置及びその駆動方法」とする第3744714号の特許(以下,この特許を「本件特許3」,この特許権を「本件特許権3」という。)の特許権者である原告が,被告が別紙イ号物件目録,別紙ロ号物件目録及び別紙ハ号物件目録記載の各製品の輸入,販売又その販売の申出をする行為が,本件特許権1ないし3の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項,2項に基づき,上記各製品の生産,譲渡,輸入等の差止め並びに上記各製品及びその半製品の廃棄を求める事案である。
なお,原告の本件請求は,本件特許権1ないし3のいずれかの特許権の侵害を理由とする選択的請求である。
2 争いのない事実(1) 当事者ア原告は,液晶テレビ等電気機械器具の製造,販売等を業とする株式会社である。
イ被告は,液晶テレビ等電気機械器具の売買,輸出入等を業とする株式会社である。
(2) 原告の特許権ア 本件特許権1(ア)原告は,平成11年8月13日にした特許出願(特願平11-229249号。以下「本件原出願」という。)の一部を分割して,平成18年6月28日,発明の名称を「液晶表示装置」とする発明につき特許出願(優先権主張平成10年9月18日,特願平2006-177514号。以下「本件出願1」という。)をし,平成19年1月12日,本件特許権1の設定登録(請求項の数17)を受けた。
(イ)本件特許1に係る願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」という。)。
「【請求項1】電極および垂直配向膜を有する一対の基板と,前記一対の基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶と,前記一対の基板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体と,前記一対の基板の他方に,前記第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造体と,を備え,前記第1配向規制構造体と前記第2配向規制構造体によって,電圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成され,前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む液晶表示装置。」(ウ) 本件発明1を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A電極および垂直配向膜を有する一対の基板と,B前記一対の基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶と,C前記一対の基板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体と,D前記一対の基板の他方に,前記第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造体と,を備え,E前記第1配向規制構造体と前記第2配向規制構造体によって,電圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成され,F前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含むG液晶表示装置。
イ 本件特許権2(ア)原告は,平成10年6月11日にした特許出願(特願平10-185836号)の一部を分割して出願した特許出願(特願2000-242662号)の一部を更に分割して,平成16年4月12日,発明の名称を「液晶表示装置」とする発明につき特許出願(優先権主張平成9年6月12日,特願2004-116704号。以下「本件出願2」という。)をし,平成18年10月27日,本件特許権2の設定登録(請求項の数24)を受けた。
(イ)本件特許2に係る願書に添付した特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明2」という。)。
「【請求項1】第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であって,前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段と,前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段とを備え,前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し,前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており,前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成されることを特徴とする液晶表示装置。」(ウ) 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であって,B前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段と,C前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段とを備え,D前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,E前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し,F前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており,G前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成されることを特徴とするH液晶表示装置。
ウ 本件特許権3(ア)原告は,平成11年3月19日,発明の名称を「液晶表示装置及びその駆動方法」とする発明につき特許出願(優先権主張平成10年12月8日,特願平11-75963号。以下「本件出願3」という。)をし,平成17年12月2日,本件特許権3の設定登録(請求項の数20)を受けた。
(イ)本件特許3に係る願書に添付した明細書の特許請求の範囲の請求項1及び請求項5の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明3-1」,請求項5に係る発明を「本件発明3-5」という。)。
「【請求項1】電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より小さい電圧が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制するドメイン規制手段を備える液晶表示装置において,画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電圧を印加する駆動回路を有することを特徴とする液晶表示装置。」「【請求項5】電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より小さい電圧が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制するドメイン規制手段を備える液晶表示装置の駆動方法において,画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電圧を印加することを特徴とする液晶表示装置の駆動方法。」(ウ) 本件発明3-1を構成要件に分説すると,次のとおりである。
A電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より小さい電圧が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制するドメイン規制手段を備える液晶表示装置において,B画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電圧を印加する駆動回路を有することを特徴とするC液晶表示装置。
(エ) 本件発明3-5を構成要件に分説すると,次のとおりである。
D電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より小さい電圧が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制するドメイン規制手段を備える液晶表示装置の駆動方法において,E画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電圧を印加することを特徴とするF液晶表示装置の駆動方法。
(3) 被告の行為被告は,別紙イ号物件目録記載の製品(すなわち,韓国法人のサムスン電子株式会社(以下「サムスン電子」という。)製の型番LTA400WTの液晶モジュール(以下「イ号液晶モジュール」という。)を搭載する液晶テレビ(製品型番LN40R71Bの40型液晶テレビを含む。以下「イ号液晶テレビ」という。),別紙ロ号物件目録記載の製品(すなわち,サムスン電子製の型番LTM190E4の液晶モジュール(以下「ロ号液晶モジュール」という。)を搭載する液晶モニター(製品型番SyncMaster971Pの19型液晶モニターを含む。以下「ロ号液晶モニター」という。)及び別紙ハ号物件目録記載の製品(すなわち,サムソン電子製の型番LTM300M1P01の液晶モジュール(以下「ハ号液晶モジュール」という。)を搭載する液晶モニター(製品型番SyncMaster305Tの30型液晶モニターを含む。以下「ハ号液晶モニター」という。)を輸入し,販売し,販売の申出をしている。
3 争点本件の争点は,イ号液晶モジュール又はその駆動方法が本件発明1,本件発明2,本件発明3-1又は本件発明3-5の構成要件を充足し,その技術的範囲に属するか否か(争点1),ロ号液晶モジュールが本件発明1又は本件発明2の構成要件を充足し,その技術的範囲に属するか否か(争点2),ハ号液晶モジュール又はその駆動方法が本件発明1,本件発明2,本件発明3-1又は本件発明3-5の構成要件を充足し,その技術的範囲に属するか否か(争点3),本件特許1に無効理由があり,原告の本件特許権1の行使が特許法104条の3第1項により制限されるかどうか(争点4),本件特許2に無効理由があり,原告の本件特許権2の行使が特許法104条の3第1項により制限されるかどうか(争点5),本件特許3に無効理由があり,原告の本件特許権3の行使が特許法104条の3第1項により制限されるかどうか(争点6)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(イ号液晶モジュール及びその駆動方法の構成要件充足性)(1) 原告の主張ア イ号液晶モジュールの構成(ア)イ号液晶モジュールは,負の誘電率異方性を有する液晶が使用され,垂直配向させた液晶分子とパターン加工されたITO(Indium Tin Oxide)によるフリンジ電界(斜め電界)を利用して,複数のドメイン(液晶分子の配向方向が一様な領域)を有するマルチドメイン構造にする方式の一種であるS-PVA方式(甲7)を採用している。このマルチドメイン構造を形成する現象は,平行に配置された対向電極のスリット及び画素電極のスリットに電圧を印加すると,斜め電界が発生し,スリットを境に,液晶分子がスリットに対して直交する方向にそれぞれ傾斜して配向する2種類のドメインが形成されることを利用したものである。そして,イ号液晶モジュールは,電圧を印加しない状態では液晶を垂直に配向させて黒を表示し,電圧を印加すると徐々に液晶分子を斜めに配向させて中間調を表示し(灰色表示),最終的には,液晶分子を水平に配向させて白を表示するノーマリー・ブラック・モードの垂直配向方式の液晶表示装置である。
イ号液晶モジュールに含まれる液晶パネル(以下「イ号液晶パネル」という。)は,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に液晶が狭持された構造である。対向基板には,少なくとも対向電極及び垂直配向膜(電圧を印加しない状態で液晶を垂直に配向させる配向膜。以下同じ。)が形成されており,TFT基板には,少なくとも画素電極及び垂直配向膜が形成されている。
(イ)a対向基板の対向電極は,パターン加工されており,別紙図面イ-1に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されている。
別紙図面イ-1において,図面の左下から右上の方向をa軸,a軸と直交する左上から右下の方向をb軸と定義すると,対向電極のスリットは,a軸と平行な直線成分(以下「a軸成分」という。)及びb軸と平行な直線成分(以下「b軸成分」という。)を有している。
bTFT基板の画素電極は,パターン加工されており,別紙図面イ-2に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されている。別紙図面イ-2に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成分及びb軸成分を有している。
c対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,対向基板及びTFT基板を重ね合わせると,別紙図面イ-3に示すように配置される。
イ 本件発明1の構成要件充足性(ア)イ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明の構成要件AないしGをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
aイ号液晶モジュールは,対向電極及び垂直配向膜を有する対向基板と画素電極及び垂直配向膜を有するTFT基板(一対の基板)を有しているから,構成要件Aを充足する。
bイ号液晶モジュールは,対向基板とTFT基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶を有しているから,構成要件Bを充足する。
cイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-1に示すように,対向基板に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」に当たるから,構成要件Cを充足する。
dイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-2,イー3に示すように,TFT基板に,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対して平行に延びるように設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造体」に当たるから,構成要件Dを充足する。
eイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-3に示すように,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)と画素電極のスリット(第2配向規制構造体)によって,電圧印加時において液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメイン(別紙図面イ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されるから,構成要件Eを充足する。
fイ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1配向規制構造体)は,別紙図面イ-1に示すように,凹部以外のa軸成分及びb軸成分(複数の主要部)と,周期的に成形された凹部(幅狭部)を含んでいるから,構成要件Fを充足する。
gイ号液晶モジュールは,液晶表示装置であるから,構成要件Gを充足する。
(イ)a被告は,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ないし「スリット構造」であり,「スリット構造」は,スリットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体であるが,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリット構造」に該当しないから,構成要件C,Dを充足しない旨主張する。
しかし,本件特許1に係る願書に添付した明細書及び図面(以下,これらを併せて「本件明細書1」という。甲2)には,本件発明1の「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」に,少なくとも「電極に設けられたスリット」が含まれることが示されており(請求項8,段落【0049】,【0050】),被告が主張するように「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」を限定的に解釈すべき理由はないし,また,イ号液晶モジュールの対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,その上にある配向膜が電極分だけ窪んでおり(甲10),この点からも被告の主張は理由がない。
b被告は,本件発明1の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである旨主張する。
しかし,本件発明1は,液晶表示装置に関するものであるところ,液晶表示装置は,多くの画素から構成され,それぞれの画素電極で電圧印加条件を変えることによって全体として画像を表示するものであるから,被告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,イ号液晶モジュールは,本件発明1の技術的範囲に属するから,被告によるイ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テレビの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権1の侵害に当たる。
ウ 本件発明2の構成要件充足性(ア)イ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明2の構成要件AないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
aイ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であるから,構成要件A,Hを充足する。
bイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-1に示すように,対向基板に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「第1のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Bを充足する。
cイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-2に示すように,TFT基板に設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリットは液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「第2のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Cを充足する。
dイ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面イ-1に示すように,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Dを充足する。
eイ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)は,別紙図面イ-2に示すように,a軸と平行な方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Eを充足する。
fイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-3に示すように,対向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,それぞれ互いに平行かつ交互に配置されているから,構成要件Fを充足する。
gイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-3に示すように,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン(別紙図面イ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されるから,構成要件Gを充足する。
(イ)a被告は,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態のものでなければならないが,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部及び画素電極の欠損部は,このような形態のものではないから,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない旨主張する。
しかし,本件特許2に係る願書に添付した明細書及び図面(以下,これらを併せて「本件明細書2」という。甲4)には,ドメイン規制手段として,電極形状のみで実現する例が示されており(段落【0023】,図12の(1),13),被告が主張するような限定解釈をすべき理由はない。
b被告は,本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである旨主張する。
しかし,本件発明2は,液晶表示装置に関するものであるところ,液晶表示装置は,多くの画素から構成され,それぞれの画素電極で電圧印加条件を変えることによって全体として画像を表示するものであるから,被告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,イ号液晶モジュールは,本件発明2の技術的範囲に属するから,被告によるイ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テレビの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権2の侵害に当たる。
エ 本件発明3-1,3-5の構成要件充足性(ア)イ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明3-1の構成要件AないしCをすべて充足するから,本件発明3-1の技術的範囲に属する。
aイ号液晶モジュールは,前記アのとおり,電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,液晶の配向が,電圧を印加しない時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平行に,所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,さらに,別紙図面イ-1,イ-2,イ-3に示すように,所定の電圧より小さい電圧が印加された時には,各画素内において,液晶の配向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制する画素電極のスリット及び対向電極のスリット(ドメイン規制手段)を具備する液晶表示装置であるから,構成要件A,Cを充足する。
bイ号液晶モジュールは,画素を黒表示(第1の透過率)から中間調表示(第2の透過率)に変化させる場合,画素電極に対して,最初の16.7ms(16.7×10-3秒)の間(第1の期間),中間調を表示するために本来必要とされる表示駆動電圧より大きい初期駆動電圧(第1の目標駆動電圧より大きい電圧)を印加し,次(第2の期間)に,表示駆動電圧(第1の目標電圧)を印加する外部回路(駆動回路)を有しているから(甲7の図3-1,図3-2),構成要件Bを充足する。
(イ)イ号液晶モジュールは,前記(ア)a及びbの構成を有するから,イ号液晶モジュールの駆動方法は,本件発明3-5の構成要件DないしFをすべて充足し,本件発明3-5の技術的範囲に属する。
(ウ)以上のとおり,イ号液晶モジュールは,本件発明3-1の技術的範囲に属し,また,イ号液晶モジュールの駆動方法は,本件発明3-5の技術的範囲に属し,イ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テレビを使用すれば上記駆動方法が実施されるから,被告によるイ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テレビの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権3の侵害又は間接侵害(特許法101条5号)に当たる。
(2) 被告の反論ア 本件発明1の構成要件充足性の主張に対し(ア) 構成要件C,Dの非充足a本件明細書1(甲2)には,「・・・配向規制構造体(突起又はスリットを含む構造体)・・・」(段落【0010】),「・・・図6のように突起30と突起32との組み合わせにより液晶の配向を制御するのと同様に,スリット構造44,46の組み合わせにより液晶の配向を制御することができる。」(段落【0050】)との記載があるとおり,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ないし「スリット構造」である。
そして,本件明細書1には,「・・・スリット構造44は電極18のスリットと垂直配向膜20の窪みの部分とを含む。・・・」(段落【0048】),「図10はスリット構造44(46)である線状の壁構造の例を示す断面図である。スリット構造44は例えば次のようにして形成してある。上基板14にカラーフィルタやブラックマスク等を形成した後,電極18を形成する。電極18をパターニングし,スリット18Aを形成する。スリット18Aを有する電極18の上に垂直配向膜20を形成する。このようにして,スリット構造44が形成される。」(段落【0053】),「図47は・・・図である。・・・液晶分子の配向の境界を一定位置に形成させるための手段62は対向基板の点状のスリット構造62bである。・・・」(段落【0123】)との記載があり,また,図10には,「スリット構造」の形状として「窪み」を含んでいる様子が図示され,図47には,「スリット構造」がスリットが垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体であることが図示されている。
上記各記載及び図10,47によれば,「スリット構造」は,スリットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体である。
しかるに,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリット構造」に該当しないから,「第1配向規制構造体」(構成要件C)ないし「第2配向規制構造体」(構成要件D)に当たらない。
したがって,イ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しない。
b本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,構成要件Cの「第1配向規制構造体」は「前記一対の基板の一方に設けられ」,構成要件Dの「第2配向規制構造体」は「前記一対の基板の他方に・・・設けられ」るものである。
しかし,イ号液晶モジュールのTFT基板及び対向基板(原告主張の「前記一対の基板の一方」及び「前記一対の基板の他方」)には,絶縁膜ないしカラーフィルターがそれぞれ設けられているにすぎず,「第1配向規制構造体」ないし「第2配向規制構造体」は設けられていないから,イ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しない。
(イ) 構成要件Dの非充足原告は,イ号液晶モジュールは,別紙図面イ-2,イ-3に示すように,TFT基板に,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対して平行に延びるように設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリットは「第2配向規制構造体」に当たるから,構成要件Dを充足すると主張する。
ところで,本件発明1は,画像データに対応する階調表示を得るため,本来同一の透過率を実現すべき1画素内に,透過率の異なった領域が形成され,同領域が移動することにより透過率の上昇が起きるという課題(本件明細書1の段落【0060】ないし【0062】)を解決することを目的とするものであるから,本件発明1の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである。
イ号液晶モジュールは,S-PVA(Super Patterned-ITO Vertical Alignment)技術を採用した液晶モジュールであるところ,甲7の添付資料2に,「図3にS-PVA技術の基本動作原理を示す。・・・RGBの各ピクセルは,AとBの二つのサブピクセルから成る。サブピクセルAとBは異なった電圧が加えられるため,液晶分子の傾斜角も異なる。」(52頁)との記載があるとおり,1画素(RGBの各画素)当たり2枚の画素電極を有し,それぞれ異なる電圧が印加される。このようにイ号液晶モジュールの画素電極は,2枚の異なる画素電極(第1の画素電極,第2の画素電極)により形成されているのであるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提に,本件発明1の構成要件Dの充足の有無を判断すべきである。しかるに,2枚の画素電極を1枚の画素電極であるとし,また,表示領域全体から画素電極の形状を認定し,これを前提に構成要件Dの充足の有無を論じている原告の主張は,その前提において失当である。
そして,イ号液晶モジュールの第1の画素電極は,略「く」の字型の形状を有しているところ,その電極内部には一切欠損部は設けられておらず,略「く」の字型の鈍角側の縁には略直角二等辺三角形状の微小な切欠き(欠損部)が設けられているにすぎず,原告が主張するような「(平行に)延びるよう」に設けられているものではない。
また,イ号液晶モジュールの第2の画素電極は,略「く」の字型の部分とその両端に位置する略菱形状の部分からなる形状を有しているところ,同略「く」の字型の鋭角側の縁には,略直角二等辺三角形状の微少な切欠き(欠損部)が設けられ,同略「く」の字型の部分と略台形状の部分の境界付近には,1軸と平行な直線状の切欠き(欠損部)が設けられ,第2の画素電極の略菱形状の部分にはそれぞれ2軸又は4軸に平行な直線状の切欠き(欠損部)が,2軸又は4軸に平行な直線状の切欠きの縁にそれぞれ略直角二等辺三角形状の微小な切欠き(欠損部)が設けられている。
まず,上記略直角二等辺三角形状の微少な切欠き(欠損部)が「(平行に)延びるよう」に設けられていないことは,上記と同様である。
次に,上記直線状の切欠き(欠損部)は,1軸,2軸又は4軸に平行であることから,対向電極に設けられた1軸,2軸又は4軸に平行な直線状の切欠き(欠損部)に平行となっているものの,第2の画素電極に設けられた2軸又は4軸に平行な上記直線状の切欠きに着目しても,対向電極に設けられた2軸又は4軸に平行な直線状の切欠きの長さに比して,約30%の長さでしかなく,あくまでも第2の画素電極の両端において部分的に平行となっているにすぎず,「延びるよう」に設けられているものではない。
したがって,イ号液晶モジュールの画素電極の欠損部(スリット)は,原告が主張するような,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対して平行に延びるように設けられたものではないから,イ号液晶モジュールは,構成要件Dを充足しない。
(ウ) 構成要件Eの非充足前記(ア),(イ)のとおりイ号液晶モジュールは,「第1配向規制構造体」及び「第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた・・・第2配向規制構造体」を有するものではない以上,「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」によって形成される「液晶ドメイン」がイ号液晶モジュールに存在することはないから,構成要件Eを充足しない。
(エ) 構成要件Fの非充足原告は,イ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1配向規制構造体)は,別紙図面イ-1に示すように,凹部以外のa軸成分及びb軸成分(複数の主要部)と,周期的に成形された凹部(幅狭部)を含んでいるから,構成要件Fを充足すると主張する。
ところで,「主要」とは,一般に,「中心となっていて大切な・こと(さま)」を意味するから(乙26),構成要件Fの「主要部」とは「中心となっていて大切な部分」と理解することができる。そして,「主要部」は,「中心となっていて大切な部分ではない部分」(「非主要部」)の存在を前提として,初めて存在し得る部分である。
本件明細書1(甲2)の第1実施例(図14)における各突起30,32は,同一形状からなる複数の構成単位30S,32Sから形成されているにすぎず(段落【0063】,【0064】),同一の構成単位しか設けられていない以上,「中心となっていて大切な部分ではない部分」(いわゆる「非主要部」)は存在せず,「主要部」(「中心となっていて大切な部分」)が存在する余地はない。一方で,図36(甲2)には,狭い幅を有する部分とそれ以外の部分からなる2つの構造体が示されていることから,「主要部」,「非主要部」が存在し得ることとなる。
しかるに,イ号液晶モジュールの対向電極には,概ね同一形状からなる欠損部が設けられているにすぎず,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部は,2つの構造体からなる形状によって構成されているものではないから,「主要部」が存在する余地はなく,「前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」も存在しないから,イ号液晶モジュールは,構成要件Fを充足しない。
イ 本件発明2の構成要件充足性の主張に対し(ア) 構成要件B,Cの非充足a本件明細書2(甲4)には,「ドメイン規制手段として機能するものとしては各種あるが,少なくとも1つのドメイン規制手段は,斜面を有するものである。」(段落【0017】),「(本発明を適用すればこれらの問題を解決し,)IPS型LCDの視角特性を有すると共にTN型LCDを凌ぐ応答速度のLCDが実現できる。
しかも,それぞれの基板に突起又は窪みを設けるだけで実現できるため,製造面でも容易に実現できる。」(段落【0303】)との記載があるとおり,本件明細書2は,突起又は窪みによって形成されたドメイン規制手段によって,初めて本件発明2の効果が得られることを明らかにしている。もっとも,本件明細書2の段落【0028】には,「ドメイン規制手段を片側又は両側の基板に形成する場合には,突起又は窪み又はスリットを,所定のピッチで一方向の格子状に形成することが可能である。」との記載があるが,VA方式の液晶表示装置であっても動作速度を従来と同様の良好さを確保するという本件発明2の目的(段落【0016】)は,少なくとも1つのドメイン規制手段が斜面を有する形態であることで,電圧印加時に同斜面近傍の液晶がトリガとなって他の部分の液晶についても直ちに配向させることにより実現されるのであり,単にスリットを設けただけでは,トリガを得ることができず,本件発明2の効果を奏することはできないから,段落【0028】を根拠として,スリットが形成されてさえいれば,これが直ちに「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)又は「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に該当すると解することはできない。
したがって,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態のものでなければならない。
しかるに,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,このような形態のものではないから,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない。
したがって,イ号液晶モジュールは,構成要件B,Cを充足しない。
b本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,構成要件Bの「第1のドメイン規制手段」は「前記第1の基板に設けられ」,構成要件Cの「第2のドメイン規制手段」は「前記第2の基板に設けられ」るものである。
しかし,イ号液晶モジュールのTFT基板及び対向基板(原告主張の「前記第1の基板」及び「前記第2の基板」)には,絶縁膜ないしカラーフィルターがそれぞれ設けられているにすぎず,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」は設けられていないから,イ号液晶モジュールは,構成要件B,Cを充足しない。
(イ) 構成要件Eの非充足原告は,イ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)は,別紙図面イ-2に示すように,a軸と平行な方向に延びる直線状のa軸成分とb軸と平行な方向に延びる直線状のb軸成分とを有しているから,イ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件Eを充足すると主張する。
ところで,本件発明2は,画素内での配向分割を実現し,視覚特性を改善することを目的とするものであるから(本件明細書2の段落【0016】),本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである。
イ号液晶モジュールは,S-PVA(Super Patterned-ITO Vertical Alignment)技術を採用した液晶モジュールであるところ,甲7の添付資料2に,「図3にS-PVA技術の基本動作原理を示す。・・・RGBの各ピクセルは,AとBの二つのサブピクセルから成る。サブピクセルAとBは異なった電圧が加えられるため,液晶分子の傾斜角も異なる。」(52頁)との記載があるとおり,1画素(RGBの各画素)当たり2枚の画素電極を有し,それぞれ異なる電圧が印加される。このようにイ号液晶モジュールの画素電極は,2枚の異なる画素電極(第1の画素電極,第2の画素電極)により形成されているのであるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提に,本件発明2の構成要件Eの充足の有無を判断すべきである。しかるに,2枚の画素電極を1枚の画素電極であるとし,また,表示領域全体から画素電極の形状を認定し,これを前提に構成要件Eの充足の有無を論じている原告の主張は,その前提において失当である。
そして,イ号液晶モジュールにおいては,第1の画素電極は,a軸およびb軸をいかなる方向に設定しようとも,略直角二等辺三角形状の切欠き(欠損部)しか設けられておらず,また,第2の画素電極は,略直角二等辺三角形状の微少な切欠きに加え,1軸,2軸又は4軸に平行な直線状の切欠きが設けられているものの,同直線状部分は,対向電極に設けられた1軸,2軸又は4軸に平行な直線状の切欠きの長さに比して,約30%の長さでしかない。
したがって,イ号液晶モジュールの画素電極は,原告が主張するような,直線状のa軸成分や直線状のb軸成分を有していないから,イ号液晶モジュールは,構成要件Eを充足しない。
(ウ) 構成要件Gの非充足前記(ア)のとおりイ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではない以上,「ドメイン規制手段」によって形成される「ドメイン」がイ号液晶モジュールに存在することはないから,構成要件G(「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成されること」)を充足しない。
ウ 本件発明3-1,3-5の構成要件充足性の主張に対し(ア) 構成要件A,Dの非充足本件特許3に係る願書に添付した明細書及び図面(以下,これらを併せて「本件明細書3」という。甲6)には,「ドメイン規制手段は,電極上の一部に設けた突起等により,突起部分の液晶分子を電圧無印加時において予め微小角度傾斜させるものである。この突起は,電圧を印加した時に液晶分子の配向方向を決定するトリガの役割を果し,小さなもので十分である。なお,MVA型液晶パネルでは,ドメイン規制手段で液晶分子を予め微小角度傾斜させるので,垂直配向膜にラビング処理を施す必要はない。」(段落【0006】),「なお,MVA型液晶パネルでは,駆動電圧を印加すると液晶分子の傾斜方向が土手状構造物から伝搬するため・・」(段落【0111】),「そこで,本発明は,n型液晶を垂直配向したMVA型液晶パネルを駆動する場合において,黒表示から低輝度中間調表示に切り替える場合の応答時間を短縮し,黒表示から中間調表示又は白表示に切り替える場合のオーバーシュートを低減させた駆動回路を有する液晶表示装置及びその駆動方法を提供することを目的とする。」(段落【0013】)との記載があり,また,図2において,ドメイン規制手段として「突起(40)」が図示されている。
そして,本件明細書3には,「ドメイン規制手段」が「突起」(「土手状構造物」)状の構造を有していることの効果として,「ドメイン規制手段」上の液晶分子が電圧無印加時において既に傾斜していることにより,電圧印加時に他の液晶分子の配向方向を決定するトリガの役割を得ることができ(段落【0006】),これにより「n型液晶を垂直配向したMVA型液晶パネルを駆動する場合において,黒表示から低輝度中間調表示に切り替える場合の応答時間を短縮し,黒表示から高輝度中間調表示又は白表示に切り替える場合のオーバーシュートを低減させた液晶表示装置及びその駆動方法を提供することができる。」(段落【0118】)との記載がある。
また,本件特許3の発明者である武田有広らにより執筆されたMVA型液晶に関する論文(乙19)においても,MVA型液晶のドメイン規制手段の形状が突起(「Protrusion」)であることが示されている(図1,2参照)。
したがって,本件発明3-1における「ドメイン規制手段」(構成要件A)及び本件発明3-5における「ドメイン規制手段」(構成要件D)は,電圧無引加時において液晶分子に予め微少角度傾斜を付与するものでなければならない。
しかるに,イ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,このような形態のものではないから,イ号液晶モジュールは,「ドメイン規制手段」(構成要件A,D)を有していない。
したがって,イ号液晶モジュールは,構成要件Aを充足せず,イ号液晶モジュールの駆動方法は構成要件Dを充足しない。
(イ) 構成要件B,Eの非充足本件発明3-1及び本件発明3-5の各特許請求の範囲(請求項1及び請求項5)の記載には,いずれも「画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間」との記載があるとおり,「第1の期間」とは,画素を第1の透過率から第2の透過率に変化させる期間であり,また,「第2の期間」に印加される「第1の目標電圧」は,「第2の透過率」に対応する電圧でなければならない。
したがって,原告が主張するイ号液晶パネルの画素電極に入力される電圧の測定結果のみから「第1の期間」を判別しうるものではなく,イ号液晶モジュールは,構成要件Bを充足せず,イ号液晶モジュールの駆動方法は構成要件Eを充足しない。
2 争点2(ロ号液晶モジュールの構成要件充足性)(1) 原告の主張ア ロ号液晶モジュールの構成(ア)ロ号液晶モジュールは,負の誘電率異方性を有する液晶が使用され,垂直配向させた液晶分子とパターン加工されたITO(Indium Tin Oxide)によるフリンジ電界(斜め電界)を利用して,複数のドメインを有するマルチドメイン構造にする方式の一種であるPVA方式(甲8)を採用している。このマルチドメイン構造を形成する現象は,平行に配置された対向電極のスリット及び画素電極のスリットに電圧を印加すると,斜め電界が発生し,スリットを境に,液晶分子がスリットに対して直交する方向にそれぞれ傾斜して配向する2種類のドメインが形成されることを利用したものである。そして,ロ号液晶モジュールは,電圧を印加しない状態では液晶を垂直に配向させて黒を表示し,電圧を印加すると徐々に液晶分子を斜めに配向させて中間調を表示し(灰色表示),最終的には,液晶分子を水平に配向させて白を表示する垂直配向方式の液晶表示装置である。
ロ号液晶モジュールに含まれる液晶パネル(以下「ロ号液晶パネル」という。)は,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に液晶が狭持された構造である。対向基板には,少なくとも対向電極及び垂直配向膜が形成されており,TFT基板には,少なくとも画素電極及び垂直配向膜が形成されている。
(イ)a対向基板の対向電極は,パターン加工されており,別紙図面ロ-1に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されている。別紙図面ロ-1に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成分及びb軸成分を有している。
bTFT基板の画素電極は,パターン加工されており,別紙図面ロ-2に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されている。別紙図面ロ-2に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成分及びb軸成分を有している。
c対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,対向基板及びTFT基板を重ね合わせると,別紙図面ロ-3に示すように配置される。
イ 本件発明1の構成要件充足性(ア)ロ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明の構成要件AないしGをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
aロ号液晶モジュールは,対向電極及び垂直配向膜を有する対向基板と画素電極及び垂直配向膜を有するTFT基板(一対の基板)を有しているから,構成要件Aを充足する。
bロ号液晶モジュールは,対向基板とTFT基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶を有しているから,構成要件Bを充足する。
cロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-1に示すように,対向基板に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」に当たるから,構成要件Cを充足する。
dロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-2,ロー3に示すように,TFT基板に,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対して平行に延びるように設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造体」に当たるから,構成要件Dを充足する。
eロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-3に示すように,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)と画素電極のスリット(第2配向規制構造体)によって,電圧印加時において液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメイン(別紙図面ロ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されるから,構成要件Eを充足する。
fロ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1配向規制構造体)は,別紙図面ロ-1に示すように,凹部以外のa軸成分及びb軸成分(複数の主要部)と,周期的に成形された凹部(幅狭部)を含んでいるから,構成要件Fを充足する。
gロ号液晶モジュールは,液晶表示装置であるから,構成要件Gを充足する。
(イ)被告は,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ないし「スリット構造」であり,「スリット構造」は,スリットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体であるが,ロ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリット構造」に該当しないから,構成要件C,Dを充足しない旨主張する。
しかし,前記1(1)イ(イ)aのとおり,被告が主張するように「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」を限定的に解釈すべき理由はないし,また,ロ号液晶モジュールの対向電極のスリットは,その上にある配向膜が電極分だけ窪んでおり(甲10),「第1配向規制構造体」については,この点からも被告の主張は理由がない。
(ウ)以上のとおり,ロ号液晶モジュールは,本件発明1の技術的範囲に属するから,被告によるロ号液晶モジュールを搭載するロ号液晶モニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権1の侵害に当たる。
ウ 本件発明2の構成要件充足性(ア)ロ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明2の構成要件AないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
aロ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であるから,構成要件A,Hを充足する。
bロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-1に示すように,対向基板に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「第1のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Bを充足する。
cロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-2に示すように,TFT基板に設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリットは液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「第2のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Cを充足する。
dロ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面ロ-1に示すように,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Dを充足する。
eロ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)は,別紙図面ロ-2に示すように,a軸と平行な方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Eを充足する。
fロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-3に示すように,対向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,それぞれ互いに平行かつ交互に配置されているから,構成要件Fを充足する。
gロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-3に示すように,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン(別紙図面ロ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されるから,構成要件Gを充足する。
(イ)被告は,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態のものでなければならないが,ロ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,このような形態のものではないから,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない旨主張する。
しかし,前記1(1)ウ(イ)aのとおり,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)について被告が主張するような限定解釈をすべき理由はない。
(ウ)以上のとおり,ロ号液晶モジュールは,本件発明2の技術的範囲に属するから,被告によるロ号液晶モジュールを搭載するロ号液晶モニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権2の侵害に当たる。
(2) 被告の反論ア 本件発明1の構成要件充足性の主張に対し(ア) 構成要件C,Dの非充足a前記1(2)ア(ア)aのとおり,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ないし「スリット構造」であり,この「スリット構造」は,スリットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体でなければならないところ,ロ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリット構造」に該当しないから,「第1配向規制構造体」(構成要件C)ないし「第2配向規制構造体」(構成要件D)に当たらない。
したがって,ロ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しない。
b前記1(2)ア(ア)bのとおり,本件発明1の構成要件Cの「第1配向規制構造体」は「前記一対の基板の一方に設けられ」,構成要件Dの「第2配向規制構造体」は「前記一対の基板の他方に・・・設けられ」るものであるところ,ロ号液晶モジュールのTFT基板及び対向基板(原告主張の「前記一対の基板の一方」及び「前記一対の基板の他方」)には,「第1配向規制構造体」ないし「第2配向規制構造体」は設けられていないから,ロ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しない。
(イ) 構成要件Dの非充足ロ号液晶モジュールの画素電極の欠損部は,1軸に略平行な直線状の切欠き,2軸に平行な直線状の切欠き,4軸に平行な直線状の切欠き,2軸と4軸方向に等しい長さを有する略直角二等辺三角形状の切欠きからなる。
一方,ロ号液晶モジュールの対向電極に設けられた欠損部は,1軸に略平行な直線状の切欠き,2軸に平行な直線状の切欠き,3軸に略平行な直線状の切欠き,4軸に平行な直線状の切欠き及び同切欠きのうち,前記2軸に平行な直線状の切欠き,4軸に平行な直線状の切欠きの縁にそれぞれ略直角二等辺三角形状の微小な突起が形成されている。
したがって,ロ号液晶モジュールの画素電極の欠損部には,対向電極に設けられているところの3軸に平行な直線状の切欠きが設けられておらず,一方の対向電極の欠損部には,画素電極に設けられているところの2軸と4軸方向に等しい長さを有する略直角二等辺三角形状の切欠き(欠損部)が設けられていない以上,画素電極の欠損部は,対向電極の欠損部と平行に延びるように設けられているものではない。
したがって,ロ号液晶モジュールの画素電極の欠損部(スリット)は,原告が主張するような,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対して平行に延びるように設けられたものではないから,ロ号液晶モジュールは,構成要件Dを充足しない。
(ウ) 構成要件Eの非充足前記(ア),(イ)のとおりロ号液晶モジュールは,「第1配向規制構造体」及び「第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた・・・第2配向規制構造体」を有するものではない以上,「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」によって形成される「液晶ドメイン」がロ号液晶モジュールに存在することはないから,構成要件Eを充足しない。
(エ) 構成要件Fの非充足ロ号液晶モジュールの対向電極には,概ね同一形状からなる欠損部が設けられているにすぎず,ロ号液晶モジュールの対向電極の欠損部は,2つの構造体からなる形状によって構成されているものではないから,「主要部」が存在する余地はなく,「前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」も存在しないから,イ号液晶モジュールは,構成要件Fを充足しない。
イ 本件発明2の構成要件充足性の主張に対し(ア) 構成要件B,Cの非充足前記1(2)イ(ア)と同様の理由により,ロ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらないから,ロ号液晶モジュールは,構成要件B,Cを充足しない。
(イ) 構成要件Gの非充足前記(ア)のとおり,ロ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではない以上,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」によって形成される「ドメイン」が存在しないから,構成要件Eを充足しない。
3 争点3(ハ号液晶モジュール及びその駆動方法の構成要件充足性)(1) 原告の主張ア ハ号液晶モジュールの構成(ア)ハ号液晶モジュールは,負の誘電率異方性を有する液晶が使用され,垂直配向させた液晶分子とパターン加工されたITO(Indium Tin Oxide)によるフリンジ電界(斜め電界)を利用して,複数のドメインを有するマルチドメイン構造にする方式の一種であるS-PVA方式(甲9)を採用している。このマルチドメイン構造を形成する現象は,平行に配置された対向電極のスリット及び画素電極のスリットに電圧を印加すると,斜め電界が発生し,スリットを境に,液晶分子がスリットに対して直交する方向にそれぞれ傾斜して配向する2種類のドメインが形成されることを利用したものである。そして,ハ号液晶モジュールは,電圧を印加しない状態では液晶を垂直に配向させて黒を表示し,電圧を印加すると徐々に液晶分子を斜めに配向させて中間調を表示し(灰色表示),最終的には,液晶分子を水平に配向させて白を表示する垂直配向方式の液晶表示装置である。
ハ号液晶モジュールに含まれる液晶パネル(以下「ハ号液晶パネル」という。)は,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に液晶が狭持された構造である。対向基板には,少なくとも対向電極及び垂直配向膜が形成されており,TFT基板には,少なくとも画素電極及び垂直配向膜が形成されている。
(イ)a対向基板の対向電極は,パターン加工されており,別紙図面ハ-1に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されている。別紙図面ハ-1に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成分及びb軸成分を有している。
bTFT基板の画素電極は,パターン加工されており,別紙図面ハ-2に示すような形状のスリット(電極の切れ目)が形成されている。別紙図面ハ-2に示すとおり,画素電極のスリットは,a軸成分及びb軸成分を有している。
c対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,対向基板及びTFT基板を重ね合わせると,別紙図面ハ-3に示すように配置される。
イ 本件発明1の構成要件充足性(ア)ハ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明の構成要件AないしGをすべて充足するから,本件発明1の技術的範囲に属する。
aハ号液晶モジュールは,対向電極及び垂直配向膜を有する対向基板と画素電極及び垂直配向膜を有するTFT基板(一対の基板)を有しているから,構成要件Aを充足する。
bハ号液晶モジュールは,対向基板とTFT基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶を有しているから,構成要件Bを充足する。
cハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-1に示すように,対向基板に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」に当たるから,構成要件Cを充足する。
dハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-2,ハー3に示すように,TFT基板に,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)に対して平行に延びるように設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリットは「液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造体」に当たるから,構成要件Dを充足する。
eハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-3に示すように,対向電極のスリット(第1配向規制構造体)と画素電極のスリット(第2配向規制構造体)によって,電圧印加時において液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメイン(別紙図面ハ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されるから,構成要件Eを充足する。
fハ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1配向規制構造体)は,別紙図面ハ-1に示すように,凹部以外のa軸成分及びb軸成分(複数の主要部)と,周期的に成形された凹部(幅狭部)を含んでいるから,構成要件Fを充足する。
gハ号液晶モジュールは,液晶表示装置であるから,構成要件Gを充足する。
(イ)a被告は,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ないし「スリット構造」であり,「スリット構造」は,スリットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体であるが,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリット構造」に該当しないから,構成要件C,Dを充足しない旨主張する。
しかし,前記1(1)イ(イ)aのとおり,被告が主張するように「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」を限定的に解釈すべき理由はないし,また,ハ号液晶モジュールの対向電極のスリットは,その上にある配向膜が電極分だけ窪んでおり(甲10),「第1配向規制構造体」については,この点からも被告の主張は理由がない。
b被告は,本件発明1の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである旨主張する。
しかし,本件発明1は,液晶表示装置に関するものであるところ,液晶表示装置は,多くの画素から構成され,それぞれの画素電極で電圧印加条件を変えることによって全体として画像を表示するものであるから,被告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,ハ号液晶モジュールは,本件発明1の技術的範囲に属するから,被告によるハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶モニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権1の侵害に当たる。
ウ 本件発明2の構成要件充足性(ア)ハ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明2の構成要件AないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属する。
aハ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であるから,構成要件A,Hを充足する。
bハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-1に示すように,対向基板に設けられた,対向電極のスリットを有しており,このスリットは液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「第1のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Bを充足する。
cハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-2に示すように,TFT基板に設けられた,画素電極のスリットを有しており,このスリットは液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,「第2のドメイン規制手段」に当たり,構成要件Cを充足する。
dハ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面ハ-1に示すように,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Dを充足する。
eハ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)は,別紙図面ハ-2に示すように,a軸と平行な方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有しているから,構成要件Eを充足する。
fハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-3に示すように,対向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,それぞれ互いに平行かつ交互に配置されているから,構成要件Fを充足する。
gハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-3に示すように,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン(別紙図面ハ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されるから,構成要件Gを充足する。
(イ)a被告は,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態のものでなければならないが,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,このような形態のものではないから,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない旨主張する。
しかし,前記1(1)ウ(イ)aのとおり,「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)ないし「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)について被告が主張するような限定解釈をすべき理由はない。
b被告は,本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである旨主張する。
しかし,本件発明2は,液晶表示装置に関するものであるところ,液晶表示装置は,多くの画素から構成され,それぞれの画素電極で電圧印加条件を変えることによって全体として画像を表示するものであるから,被告の上記主張は失当である。
(ウ)以上のとおり,ハ号液晶モジュールは,本件発明2の技術的範囲に属するから,被告によるハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶モニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権2の侵害に当たる。
エ 本件発明3-1,3-5の構成要件充足性(ア)ハ号液晶モジュールは,以下のとおり,本件発明3-1の構成要件AないしCをすべて充足するから,本件発明3-1の技術的範囲に属する。
aハ号液晶モジュールは,前記アのとおり,電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,液晶の配向が,電圧を印加しない時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平行に,所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,さらに,別紙図面ハ-1,ハ-2,ハ-3に示すように,所定の電圧より小さい電圧が印加された時には,各画素内において,液晶の配向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制する画素電極のスリット及び対向電極のスリット(ドメイン規制手段)を具備する液晶表示装置であるから,構成要件A,Cを充足する。
bハ号液晶モジュールは,画素を黒表示(第1の透過率)から中間調表示(第2の透過率)に変化させる場合,画素電極に対して,最初の16.7ms(16.7×10-3秒)の間(第1の期間),中間調を表示するために本来必要とされる表示駆動電圧より大きい初期駆動電圧(第1の目標駆動電圧より大きい電圧)を印加し,次(第2の期間)に,表示駆動電圧(第1の目標電圧)を印加する外部回路(駆動回路)を有しているから(甲9の図3-1,図3-2),構成要件Bを充足する。
(イ)ハ号液晶モジュールは,前記(ア)a及びbの構成を有するから,ハ号液晶モジュールの駆動方法は,本件発明3-5の構成要件DないしFをすべて充足し,本件発明3-5の技術的範囲に属する。
(ウ)以上のとおり,ハ号液晶モジュールは,本件発明3-1の技術的範囲に属し,また,ハ号液晶モジュールの駆動方法は,本件発明3-5の技術的範囲に属し,ハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶モニターを使用すれば上記駆動方法が実施されるから,被告によるハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶モニターの輸入,販売,販売の申出は,本件特許権3の侵害又は間接侵害(特許法101条5号)に当た(2) 被告の反論ア 本件発明1の構成要件充足性の主張に対し(ア) 構成要件C,Dの非充足a前記1(2)ア(ア)aのとおり,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の形状は,突起ないし「スリット構造」であり,この「スリット構造」は,スリットと垂直配向膜の「窪み」により形成される構造体でなければならないところ,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,上記「スリット構造」に該当しないから,「第1配向規制構造体」(構成要件C)ないし「第2配向規制構造体」(構成要件D)に当たらない。
したがって,ハ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しない。
b前記1(2)ア(ア)bのとおり,本件発明1の構成要件Cの「第1配向規制構造体」は「前記一対の基板の一方に設けられ」,構成要件Dの「第2配向規制構造体」は「前記一対の基板の他方に・・・設けられ」るものであるところ,ハ号液晶モジュールのTFT基板及び対向基板(原告主張の「前記一対の基板の一方」及び「前記一対の基板の他方」)には,「第1配向規制構造体」ないし「第2配向規制構造体」は設けられていないから,ハ号液晶モジュールは,構成要件C,Dを充足しない。
(イ) 構成要件Dの非充足前記1(2)ア(イ)のとおり,本件発明1の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである。
ハ号液晶モジュールは,S-PVA技術を採用した液晶モジュールであり,ハ号液晶モジュールの画素電極は,2枚の異なる画素電極(第1の画素電極,第2の画素電極)により形成されているのであるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提に,本件発明1の構成要件Dの充足の有無を判断すべきである。しかるに,2枚の画素電極を1枚の画素電極であるとし,また,表示領域全体から画素電極の形状を認定し,これを前提に構成要件Dの充足の有無を論じている原告の主張は,その前提において失当である。
そして,ハ号液晶モジュールの第1の画素電極は,略台形状であるところ,略台形状の底辺側の縁には略直角二等辺三角形状の切欠き,及び,1軸に略平行な切欠きからなる欠損部が設けられている。なお,ハ号液晶モジュールの第2の画素電極には,欠損部が一切設けられていない。
一方,第1の画素電極に対応する対向電極には,2軸に平行な直線状の切欠き,3軸に平行な直線状の切欠き,及び,4軸に平行な直線状の切欠きからなる欠損部が設けられ,また,同2軸に平行な直線状の切欠きと4軸に平行な直線状の切欠きの縁には,それぞれ略直角二等辺三角形状の微小な突起が形成されている。
したがって,ハ号液晶モジュールの2軸,3軸ないし4軸に平行な直線状の切欠きを有していない第1の画素電極の欠損部が,対向電極の欠損部と平行に延びるように設けられているものでないことは明らかであるから,ハ号液晶モジュールは,構成要件Dを充足しない。
(ウ) 構成要件Eの非充足前記(ア),(イ)のとおりハ号液晶モジュールは,「第1配向規制構造体」及び「第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた・・・第2配向規制構造体」を有するものではない以上,「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」によって形成される「液晶ドメイン」がハ号液晶モジュールに存在することはないから,構成要件Eを充足しない。
(エ) 構成要件Fの非充足ハ号液晶モジュールの対向電極には,概ね同一形状からなる欠損部が設けられているにすぎず,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損部は,2つの構造体からなる形状によって構成されているものではないから,「主要部」が存在する余地はなく,「前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」も存在しないから,ハ号液晶モジュールは,構成要件Fを充足しない。
イ 本件発明2の構成要件充足性の主張に対し(ア) 構成要件B,Cの非充足前記1(2)イ(ア)と同様の理由により,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらないから,ハ号液晶モジュールは,構成要件B,Cを充足しない。
(イ) 構成要件Eの非充足前記1(2)イ(イ)のとおり,本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきである。
ハ号液晶モジュールは,S-PVA技術を採用した液晶モジュールであり,ハ号液晶モジュールの画素電極は,2枚の異なる画素電極(第1の画素電極,第2の画素電極)により形成されているのであるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提に,本件発明1の構成要件Dの充足の有無を判断すべきである。しかるに,2枚の画素電極を1枚の画素電極であるとし,また,表示領域全体から画素電極の形状を認定し,これを前提に構成要件Eの充足の有無を論じている原告の主張は,その前提において失当である。
そして,前記ア(イ)のとおり,ハ号液晶モジュールの第2の画素電極には欠損部が設けられておらず,また,第1の画素電極の欠損部についても,1軸に略平行となるよう設けられているに過ぎず,a軸およびb軸をいかなる方向に設定しようとも,a軸およびb軸という2つの軸に平行に延びる直線状の欠損部は設けられていないから,ハ号液晶モジュールは,構成要件Eを充足しない。
(ウ) 構成要件Gの非充足前記(ア)のとおり,ハ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではない以上,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」によって形成される「ドメイン」が存在しないから,構成要件Eを充足しない。
ウ 本件発明3-1,3-5の構成要件充足性の主張に対し(ア) 構成要件A,Dの非充足前記1(1)ウ(ア)のとおり,本件発明3-1における「ドメイン規制手段」(構成要件A)及び本件発明3-5における「ドメイン規制手段」(構成要件D)は,電圧無印加時において液晶分子に予め微少角度傾斜を付与するものでなければならないところ,ハ号液晶モジュールの対向電極の欠損部(スリット)及び画素電極の欠損部(スリット)は,このような形態のものではないから,ハ号液晶モジュールは,「ドメイン規制手段」(構成要件A,D)を有していない。
したがって,ハ号液晶モジュールは,構成要件Aを充足せず,ハ号液晶モジュールの駆動方法は構成要件Dを充足しない。
(イ) 構成要件B,Eの非充足前記1(1)ウ(イ)のとおり,本件発明3-1における「第1の期間」(構成要件B)及び本件発明3-5における「第1の期間」(構成要件D)とは,画素を第1の透過率から第2の透過率に変化させる期間であり,また,「第2の期間」に印加される「第1の目標電圧」は,「第2の透過率」に対応する電圧でなければならない。
したがって,原告が主張するハ号液晶パネルの画素電極に入力される電圧の測定結果のみから「第1の期間」を判別しうるものではなく,ハ号液晶モジュールは,構成要件Bを充足せず,ハ号液晶モジュールの駆動方法は構成要件Eを充足しない。
4 争点4(本件特許権1に基づく権利行使の制限の有無)(1) 被告の主張本件特許1には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権1を行使することができない。
ア 無効理由1(新規性の欠如)(ア)本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日(平成10年9月18日)前の他の出願(優先権主張日平成10年5月20日,特願平11-140530号)であって,本件出願1の優先日後に公開特許公報(特開平11-352491号公報。乙1)が発行されたものの願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明(以下「乙1記載発明」という。)と同一であるから,本件特許1には,特許法29条の2に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙1(特開平11-212661号公報)の段落【0006】,【0007】,【0017】,【0018】,【0031】の記載及び図7によれば,乙1には,「電極および垂直配向膜を有する一対の基板」(本件発明1の構成要件A)と,「前記一対の基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶」(構成要件B)を備えた「液晶表示装置」(構成要件G)が記載されている。
bまた,乙1には,「図9(A)に示された突起パターンは・・・1つの画素領域内で4分割配向を行い,上下基板の突起211,221が交互に現われ,一側基板内において形成された突起が成す角は90度であり,隣接した2つの微小領域で方向子が成す角は90度になる。」(段落【0037】),「図10は本発明の第5実施例による液晶表示装置の平面図である。図10に示されているように,突起213,223の形態は基本的に図9(A)に示された本発明の第4実施例と類似する。即ち,カラーフィルタ基板には四角形環状の突起213が形成され,薄膜トランジスタ基板には四角形の内部に十字形の突起223が形成される。これによって,横及び縦の両方向にカラーフィルタ基板と薄膜トランジスタ基板に形成された突起が交互に現われるようになる。」(段落【0041】),「一方,図10で,カラーフィルタ基板に形成された四角形環状突起213は各辺の中間部が切れた形態に形成されているが,これは連結された形態に形成しても関係ない。」(段落【0042】),「突起213,223の幅は突起213が折り曲げられるように形成されている四角形環状の頂点から各辺の中間部の方に行くほど狭くなり,十字形突起223の中心部から端部の方に行くほど幅が狭くなる。」(段落【0043】)との記載がある。
上記各記載と図10によれば,乙1には,?@乙1の液晶表示装置のカラーフィルタ基板に設けられた突起213及び薄膜トランジスタ基板に設けられた突起223は,いずれも液晶の配向を規制するための「配向規制構造体」であり,これらの「配向規制構造体」によって,電圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成されること,?A突起213の形状は「四角形環状」,突起223の形状は「十字形」と表現されているが,「四角形環状」及び「十字形」はいずれも図10中の縦方向及び横方向に延びる線状の突起の集合として形成され,これらの線状の突起は互いに平行に延びるように設けられていること,?B少なくとも「カラーフィルタ基板に形成された四角形環状突起213」については,「各辺の中間部が連結された形態」が実質的に図示され,当該形態における各辺中間部の連結部は,縦方向及び横方向に延びる複数の線状の突起(主要部)のうちの2つの間に配置され,上記主要部よりも狭い幅を有する「幅狭部」であることが開示されている。
上記?@ないし?Bによれば,乙1の液晶表示装置のカラーフィルタ基板に設けられた突起213は,液晶の配向を規制するための線状の「第1配向規制構造体」(構成要件C),薄膜トランジスタ基板に設けられた突起223は,上記「第1配向規制構造体」に対して平行に延びるように設けられた,液晶の配向を規制するための線状の「第2配向規制構造体」(構成要件D)に該当し,「前記第1配向規制構造体と第2配向規制構造体によって,電圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成され」(構成要件E),「第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」(構成要件F)ものであるから,乙1の液晶表示装置は,構成要件CないしFの構成を備えている。
c以上によれば,乙1の液晶表示装置(乙1記載発明)は,本件発明1の構成要件AないしGの構成をすべて備えているから,本件発明1は,乙1記載発明と同一である。
イ 無効理由2(進歩性の欠如?@)(ア)本件発明1の特許請求の範囲(請求項1)の「前記第1配向規制構造体と前記第2配向規制構造体によって,電圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成され,」(構成要件E),「前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」(構成要件F)との記載部分によれば,?@第2配向規制構造体が単に「第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造体」である態様の液晶表示装置,?A第1配向規制構造体のみが「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」態様の液晶表示装置も,本件発明1に包含されることになる。
しかし,本件出願1の優先権主張(平成10年9月18日)の基礎とされた特許出願(特願平10-26489号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(乙6)には,本件発明1に包含される上記?@及び?Aの態様の液晶表示装置について開示も示唆もされておらず,本件原出願の願書に最初に添付した明細書又は図面(乙7。以下,これらを併せて「本件原出願明細書」という。)には,上記?Aの態様の液晶表示装置について開示も示唆もされていないから,本件出願1は,特許法41条2項優先権主張の要件も,同法44条1項分割出願の要件も満たさない。したがって,本件出願1について優先権を主張することはできず,また,本件出願1の出願日が本件原出願の時に遡及しないから,本件出願1の出願日は,現実の出願日である平成18年6月28日となる。
そして,本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の上記出願日前に頒布された刊行物である乙7(本件原出願の公開特許公報である特開2000-155317号公報)及び乙8(特開2000-162599号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)乙7(特開2000-155317号公報)には,ラビングレスのマルチドメイン垂直配向型(MVA型)の液晶表示装置に設けられる配向規制構造体として図36に図示されるようなスリットが開示されている。
また,乙8(特開2000-162599号公報)には,ラビングレスのマルチドメイン垂直配向型(MVA型)の液晶表示装置が備える「配向制御窓」(配向規制構造体であるスリット)として「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」を含むものが開示されている(請求項1,段落【0002】,【0003】,【0006】,【0024】,【0026】,図1等)。
そして,当業者であれば,乙7の液晶表示装置の「第1配向規制構造体」の形状を,乙8に開示されているような「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」態様のものとすることによって,本件発明1に包含される第1配向規制構造体のみが「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」態様の液晶表示装置を容易に想到することができたものである。
ウ 無効理由3(進歩性の欠如?A)(ア)仮に本件出願1が優先権主張日にされたものとみなされるとしても,本件発明1は,以下のとおり,本件出願1の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙9(特開平6-43461号公報),乙10(特開平6-194656号公報)及び乙11(特開平8-101396号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙9(特開平6-43461号公報)には,「電極および垂直配向膜を有する一対の基板」(本件発明1の構成要件A)と,「前記一対の基板の間に配置された負の誘電率異方性を有する液晶」(構成要件B)と,「前記一対の基板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」(構成要件C)と,「前記一対の基板の他方に設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造体」(構成要件D)とを備え,「前記第1配向規制構造体と前記第2配向規制構造体によって,電圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成」(構成要件E)される「液晶表示装置」(構成要件G)が開示されている(段落【0005】,【0007】,【0010】,【0011】,【0018】,【0020】,【0029】,【0030】,図1,5ないし7等)。
そうすると,本件発明1と乙9に記載された上記液晶表示装置の発明(以下「乙9記載発明?@」という。)とを対比すると,本件発明1では,線状の第2配向規制構造体が「前記第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられ」(構成要件D),かつ,「前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」(構成要件F)のに対し,乙9記載発明?@では,上記の態様の明示がない点でのみ相違する。
b乙10(特開平6-194656号公報)には,「本発明で特徴的な構造は,上下の透明電極3,4に電極の一部を取り除いたスリット7,8が設けてあることである。しかも,上部透明電極3のスリット7は,下部透明電極4のスリット8とは重ならず,ずれて配置されている。」(段落【0017】),図4の説明として「画素電極61には電極の一部を取り除いた図示のような実線でしめすスリット64が複数形成される。さらに,画素電極61と対向する共通電極にも破線で示すような電極の一部を削除したスリット65が形成される。上下の基板のスリット64と65は交互に並ぶ配置とする。」(段落【0041】)との記載があり,また,図1において「対向配置された一対の基板と,前記一対の基板上に設けられ,液晶層を挟んで互いに重なり合って表示領域を形成する一対の透明電極と,前記一対の透明電極の各々の前記表示領域における透明電極の一部が取り除かれたスリットとを有し,前記一対の透明電極の一方の透明電極の前記スリットと他方の透明電極の前記スリットとが前記表示領域内で交互に配置される」構成の液晶表示装置の基本原理が示されている。
上記各記載と図1,4によれば,「上下の基板のスリット64と65」は,いずれを「第1配向規制構造体」としても,「一対の基板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」(本件発明1の構成要件C)と「前記一対の基板の他方に,前記第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第2配向規制構造体」(構成要件D)の関係にあるといえるから,乙10には,構成要件C,D及び構成要件E(「前記第1配向規制構造体と前記第2配向規制構造体によって,電圧印加時における液晶の配向方向が互いに異なる複数の液晶ドメインが形成され」)の構成を有する液晶表示装置が開示されている。
c乙11(特開平8-101396号公報)には,「【請求項1】少なくとも表示画素を有する基板と,前記表示画素に対向する領域の一部にほぼ長方形の形状の空孔を有する透明電極を含む基板と,液晶からなる液晶パネルを構成要素に含む液晶表示装置において,前記表示画素の画素電極の対向部内の画素端付近の前記空孔幅をL1,前記表示画素の中央付近の前記空孔幅をL2としたときに,L1>L2の関係としたことを特徴とする液晶表示装置。」,「【請求項5】少なくとも表示画素を有する基板と,前記表示画素に対向する領域の一部にスリット状の空孔を有する透明電極を含む基板と,液晶からなる液晶パネルを構成要素に含む液晶表示装置において,前記空孔が,スリットの長辺の側面に少なくとも1個以上の同一の大きさの突起を有する形状であることを特徴とする液晶表示装置。」,「・・・電極分割法(・・・)は,画素の対向電極の一部に長方形の空孔が存在し,パネル内の電界分布を歪ませることで画素に複数の領域が作成され,液晶の視角方位が平均化されて広視角を実現するものである。」(段落【0007】),「・・・電極分割型パネルでドメインを画素内で安定に存在させるためには,空孔103の設計が重要であることがわかる。」(段落【0023】),「・・・コントラストが高く,配向が安定で信頼性の高い電極分割型パネルを作成するには,電極に形成する空孔形状の設計を最適にする必要がある。」(段落【0025】),「・・・画素の端近くの空孔幅をL1,画素の中央部の空孔幅をL2としたときに,L1>L2の関係を満たせば,空孔を不必要に広くする必要がなく,コントラストを高く保ったまま,配向の安定な電極分割型パネルを作成することができる。」(段落【0030】),図3の説明として「対向電極に形成した空孔303は,ソースライン300の中央部からゲートライン301に平行に線幅の異なるスリット形状を有している。このとき,空孔は画素電極の端から10μm以内は,線幅A306が10μm,それ以外の部分は,線幅B307が6μmである。」(段落【0040】),図7の説明として「対向電極に形成した空孔703は,ソースライン700の中央部からゲートライン701に平行な長方形で,側面に同一の大きさの三角形の突起が付いた形状をしている。このとき,空孔は線幅Aが4μm,三角形は,一辺Bが4μmの正三角形を,ピッチCを8μmの等間隔で作成した。」(段落【0055】),「空孔の線幅の大きさ,三角形の大きさは上記の値に限られず,光抜けの生じない程度までおおきくできる。また,上記例では,三角形のピッチは全て等間隔であるがこれは場所によって違っていても良い。」(段落【0057】),「上記例では,空孔をゲートラインに平行に形成したが,これは画素電極の対角線方向に形成しても良い。上記例では,突起を三角形としたが,突起の形状は半円形や多角形でも良い。」(段落【0058】)との記載がある。
上記各記載及び図3,7と段落【0011】,【0013】ないし【0016】等によれば,乙11の「空孔」は,「前記一対の基板の一方に設けられた,液晶の配向を規制するための線状の第1配向規制構造体」(構成要件C)に当たり,また,「空孔」の画素端近傍部を「主要部」とした場合に,「空孔」には「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」(構成要件F)が含まれるから,乙11には,構成要件C,Fが開示されている。
dそして,?@乙9,10,11の液晶表示装置は,マルチドメイン型の液晶表示装置であって,乙9,10,11記載の技術は,液晶分子の配向規制技術に関するものであり,その技術分野は同一であること,?A乙9記載発明?@は,垂直配向型(VA方式)の液晶表示装置であるのに対し,乙10,11の液晶表示装置は,TN型の液晶表示装置であり,その液晶タイプは相違するものの,マルチドメイン化のための手段(液晶配向規制手段)は実質的に同じであり(例えば,乙16,18等),液晶タイプの相違そのものは,乙9,10,11記載の技術を互いに組み合わせることの阻害要因とまではいえないことに照らすならば,当業者であれば,乙9記載発明?@において,乙10記載の「線状の第2配向規制構造体」を「前記第1配向規制構造体に対して平行に延びるように設けられた」構成(構成要件D)を採用し,「第1配向規制構造体」を乙11に開示された「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」構成(構成要件F)とすることにより,本件発明1に容易に想到することができたものである。
(2) 原告の反論ア 無効理由1(新規性の欠如)に対し被告は,乙1の液晶表示装置(乙1記載発明)は,本件発明1と同一であるから,本件特許1には特許法29条の2に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)乙1では,図10に示されるように,各液晶ドメインは,「四角形環状の突起213」内の領域及び「十字形の突起223」によって区分された4つの四角形の各領域に相当し,各領域内において,十字形の中心から対角方向に斜めの液晶分子で示される配向が形成されている。このような配向を形成するためには,「四角形環状の突起213」の「縦方向の突起」及び「横方向の突起」の双方と,「十字形の突起223」の「縦方向の突起」及び「横方向の突起」の双方が必須の構成であり,「縦方向の突起」と「横方向の突起」とは,配向規制手段としての機能を実現するため一体不可分のものである。
したがって,乙1には,「四角形環状の突起213」(被告主張の「第1配向規制構造体」)と「十字形の突起223」(被告主張の「第2配向規制構造体」)は,「縦方向の突起」と「横方向の突起」とに分離して比較することはできず,互いに「平行に延びるように設けられ」ていないから,本件発明1の構成要件C,Dの開示がない。
(イ)本件発明1は,液晶ドメインを形成するために液晶分子の配向する方向を規制する「配向規制構造体」の真上では,液晶分子が左側又は右側にランダムに傾き,左側に傾いた液晶分子と右側に傾いた液晶分子とが配向規制構造体側で近接する「逆ハの字状」の第1タイプの境界と,右側に傾いた液晶分子と左側に傾いた液晶分子とが配向規制構造体側で離れる「ハの字状」の第2タイプの境界とがランダムに形成され,これらの真上の液晶分子の配向状態は,2つの配向規制構造体に挟まれた領域に形成される液晶ドメインの配向に影響を与え,偏光板の偏光軸に対する液晶分子の配向方向を変化させ,液晶ドメインの透過率の変動を引き起こし,この透過率の変動が,表示における輝度異常として表れ,表示品質を低下させる原因となっていたことから(本件明細書1の段落【0054】ないし【0061】,【0086】ないし【0089】参照),このような課題を解決するため,複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部とを含む第1配向規制構造体」(構成要件F)と第2配向規制構造体とによって,第1配向規制構造体と第2配向規制構造体との間の液晶分子の配向方向を規制し,液晶ドメインを形成し,2つの主要部の間に「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」を配置することで,液晶ドメイン内において,少なくとも幅狭部の「上」の液晶分子の配向を第2タイプの境界に固定(規制)し,これにより,電圧印加後における配向規制構造体上の液晶分子の配向方向の変化を抑制し,液晶ドメインの透過率の変動を減少させるものである。
しかし,乙1には,配向規制構造体の真上の液晶分子の配向を規制することについての記載も示唆も存在せず,本件発明1の「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」(構成要件F)を開示していない。すなわち,乙1における各辺が連結された形態の四角形環状突起213は,「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」を備えた配向規制構造体ではないし,また,乙1における四角形環状突起213の切れた形態を,他の部分よりも狭い幅で連結したとしても,その連結部は,液晶ドメインの境界点に位置しており,配向規制構造体上の液晶分子の配向方向を規制して液晶ドメインにおける透過率の変動を減少させるものではないから,「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」に該当するものではない。
したがって,乙1には,「四角形環状の突起213」(被告主張の「第1配向規制構造体」)が「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」を有することの開示がないから,構成要件Fを開示していない。
(ウ)以上のとおり,乙1には,本件発明1の「線状の第1配向規制構造体と,それに対して平行に延びるように設けられた線状の第2配向規制構造体」(構成要件C,D)及び「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」(構成要件F)の開示がないから,本件発明1が乙1記載発明と同一であるとはいえない。
したがって,被告主張の無効理由1は,理由がない。
イ 無効理由2(進歩性の欠如?@)に対し被告は,本件原出願明細書(乙7)には,本件発明1に包含される,第1配向規制構造体のみが「複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」態様の液晶表示装置が記載されていないから,本件出願1は,分割出願の要件を満たしておらず,本件出願1の出願日は現実の出願日(平成18年6月28日)となるところ,本件発明1は,上記出願日前に頒布された刊行物である乙7,8に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたから,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)本件原出願明細書(乙7)の段落【0136】には,「図80及び図81は図75の実施例の変形例を示す図である。図80は液晶表示装置の線状の構造体と偏光板との関係を示す図,図81は図80の液晶表示装置の断面図である。上基板12は突起30を有し,下基板14はスリット46を有する。突起30及びスリット46は直角の屈曲部を有する。」との記載があり,図80には,突起30が幅の均一な線状の配向規制構造体であり,スリット46が切断部を有する線状の配向規制構造体であることが示されている。また,本件原出願明細書の段落【0085】の表1によれば,スリットを切断することは,スリットの幅を小さくすることと同じく,「第2のタイプ(?U)」の境界(右側に傾いた液晶分子と左側に傾いた液晶分子とが配向規制構造体側で離れる「ハの字状」のタイプの境界)を形成する手段の一つである,そして,前記ア(イ)のとおり,本件発明1における「主要部よりも狭い幅を有する幅狭部」(構成要件F)は,配向規制構造体上の液晶分子の配向方向を規制して液晶ドメインにおける透過率の変動を減少させるものであって,第1配向規制構造体に「第2のタイプ(?U)」の境界を形成する手段として機能するものであるから,本件原出願明細書には,「第2のタイプ(?U)」の境界形成手段のみを有する配向規制構造体を一方の基板にのみ形成する構成が開示されている。
(イ)以上のとおり,本件出願1は,本件原出願との関係で分割出願の要件を満たすから,これを満たさないことを前提とする被告主張の無効理由2は,その前提を欠き,理由がない。
ウ 無効理由3(進歩性の欠如?A)に対し被告は,本件発明1は,乙9ないし11に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたから,本件特許1には,特許法29条2項に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)被告が自認するように乙9には,本件発明1の構成要件D及びFの開示がない。
(イ)a乙10,11には,本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)の開示がない。
すなわち,本件発明1は,負の誘電率異方性を有する液晶を使用し,電圧無印加時において液晶分子を基板に対し垂直に配向させ,電圧印加時には液晶分子が倒れて基板に対し平行に配向するVA方式の液晶表示装置に関するものであり,一対の基板の一方に設けた「第1配向規制構造体」と他方に設けた「第2配向規制構造体」によって,電圧印加時において,基板に平行な面内(以下「基板面内」という。)における液晶分子の倒れる方向(配向する方向)を規制している。したがって,本件発明1の「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」とは,電圧印加時において,基板面内における液晶分子の倒れる方向を規制するものを意味する。
これに対し乙10,11は,正の誘電率異方性を有する液晶を使用し,電圧無印加時において液晶分子が基板と平行に配向し,電圧印加時には液晶分子が立ち上がって基板に対し垂直に配向するTN型の液晶表示装置に関するものであり,TN方式の液晶表示装置においては,上下基板の配向膜に互いに直交する方向のラビング処理を行って,基板面内における配向方向が90°捩れた螺旋状に液晶分子を配向させ,基板面内における液晶分子の配向方向はラビング処理によって決められた方向に固定されているため,電圧印加時において,基板面内における液晶分子の倒れる方向を規制する本件発明1の「第1配向規制構造体」(構成要件C)及び「第2配向規制構造体」(構成要件D)は存在しない。
また,乙10のスリット(64,65)や乙11の空孔(103)は,ラビングによって決まるプレチルトの方向とは異なるように,ラビング方向に沿って基板と平行に配向した液晶分子の2つの端部のうち,電圧印加時にいずれの端部を立ち上げるのかを決めるだけのものに過ぎず,VA方式の液晶表示装置である本件発明1の「第1配向規制構造体」及び「第2配向規制構造体」ではない。
b乙11には,本件発明1の「前記第1配向規制構造体は,複数の主要部と,複数の前記主要部のうちの2つの間に配置され,前記主要部よりも狭い幅を有する幅狭部と,を含む」(構成要件F)の開示がない。
すなわち,乙11には,前記aのとおり,「第1配向規制構造体」が開示されていない以上,本件発明1の構成要件Fが開示されていないことは自明である。
また,乙11の「空孔」の形態は,TN方式の液晶表示装置において発生する「逆チルト転傾線」の安定化とコントラストの向上を両立させるために採用されたもののであり(段落【0023】,【0024】,【0068】,【0069】),本件発明1の「幅狭部」のような配向規制構造体上の液晶分子の配向境界を規制するために用いられるものではない。そして,乙9は,VA方式の液晶表示装置に関するものであり,乙11に記載された「逆チルト転傾線」は発生しないので,乙9に,乙11の「空孔」の形状を適用する技術的意義は全くない。
(ウ)乙9の液晶表示装置における底面電極の形状及び上面電極に形成される切り取り部(X型切り取り部,2重Y型の切り取り部)の形状を,乙10の「スリット」又は乙11の「空孔」の形状(配置を含む。以下同じ。)に変更することは容易に想到し得るものではない。
すなわち,乙9の液晶表示装置における底面電極の形状及び上面電極に形成される切り取り部は,底面電極によって常に画素の中心へ向かって傾くように配向している液晶分子に対して,上面電極の切り取り部(X型切り取り部,2重Y型の切り取り部)によって一定の境界条件と明確な傾斜方向を確立させ,4個の明瞭な液晶ドメイン?T,?U,?V,?Wを定めるという特定の効果を得るために採用された特有のものであって(段落【0023】,【0026】),底面電極の形状及び上面電極に形成される切り取り部の形状を変更すると,上記特定の効果が得られなくなることから,底面電極の形状及び上面電極の切り取り部の形状を変更することは,当業者が適宜変更できる技術事項ではない。
また,乙10の「スリット」や乙11の「空孔」は,前記(イ)のとおり,本件発明1のようなVA方式の液晶表示装置における配向規制構造体とは目的及び作用効果が異なるものであるから,当業者は,乙9の底面電極の形状及び上面電極に形成される切り取り部の形状として,乙10の「スリット」又は乙11の「空孔」の形状を適用することは行わない。
そして,乙9は,VA方式の液晶表示装置に関する発明であり,乙11記載のTN方式の液晶表示装置において発生する「逆チルト転傾線」(前記(イ)(b))は発生しないので,乙9の液晶表示装置に,乙11の空孔の形状を適用する技術的意義は全くない。
(エ)本件発明1は,第1配向規制構造体の幅狭部によって,第1配向規制構造体の「上」の液晶分子の配向を規制し,電圧印加後における配向規制構造体上の液晶分子の配向方向の変化を抑制し,液晶ドメインの透過率の変動を減少できるという効果を有するが,この効果は,乙9,10及び11のいずれからも予測できない顕著な効果である。
すなわち,乙9,10及び11においては,配向規制構造体の上の液晶分子の配向規制構造体に沿った方向の配向乱れを規制するという課題は認識されておらず,配向規制構造体の上の液晶分子の境界を規制することの必要性を示唆する記載もない。このように,配向規制構造体の上の液晶分子の間に不安定な配向境界が発生し,これを規制しなければ配向境界位置が不規則に長時間変化して表示品質及び応答速度の低下が生じるという課題は,本件発明1の発明者が独自に見つけ出した新規な課題である。
したがって,本件発明1の上記効果は,乙9,10及び11のいずれからも予測できない顕著な効果であるから,本件発明1は,当業者が乙9ないし11に記載された発明に基づいて容易に想到できたものではない。
(オ)以上によれば,当業者といえども,乙9ないし11に記載された発明に基づいて本件発明1を容易に想到できたものではないから,被告主張の無効理由3は理由がない。
5 争点5(本件特許権2に基づく権利行使の制限の有無)(1) 被告の主張本件特許2には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権2を行使することができない。
ア 無効理由1(新規性の欠如)(ア)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙12(特開平6-301036号公報)に記載された発明(以下「乙12記載発明」という。)と同一であるから,本件特許2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙12(特開平6-301036号公報)には,「図3に示すように本発明の第1の実施例に係る液晶表示装置の電極配置は,TFT基板(22)上にITO膜からなり,縦300μm,横200μmの画素電極(22a)が形成され,その両側に幅10μm程度のゲートバスライン(22b,22c)が形成され,その上に垂直配向された分子を有する第1の垂直配向膜(23),垂直配向された液晶分子(24A)を有する液晶層,第2の垂直配向膜(25)が順次形成され,その上にITO膜からなる対向電極(26)が形成されている。」(段落【0020】),「これにより,各画素形成領域の同じ位置に開口部(26A)を設ければ,液晶分子(24A)が全画素について同じように配向されるので,多少画素ごとに液晶分子の配向方向がばらついていたとしても,図4に示すように,液晶分子(24A)の配向方向の境界線を示すディスクリネーションラインが各画素について均一に現れる。よって,画像のザラツキを抑止することが可能になる。」(段落【0023】)との記載があり,また,図2のX-X線断面図として示されている図3には,TFT基板(22)上に設けられた画素電極(22a)の端部(エッジ)が,図4には,1画素につき4本のディスクリネーションラインが図示されている。
上記各記載及び図2ないし4(別紙図面(乙12)参照)と,画素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(エッジ)が共に「ドメイン規制手段」として機能すること(甲4の段落【0044】,【0081】,【0082】参照)によれば,乙12記載の液晶表示装置は,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(本件発明2の構成要件A,H)であって,TFT基板(22)上に設けられた画素電極(22a)の端部(エッジ)及び対向電極(26)側に設けられた開口部(26A)の端部(エッジ)は,「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)であって,それぞれ「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」とを有し(構成要件D,E),「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており」(構成要件F),別紙図面(乙12)の図2の修正図の領域1ないし4に示すように又は図4に1画素につき4本のディスクリネーションラインが図示されているように,画素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(エッジ)により「前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される」構成(構成要件G)を備えている。
b以上によれば,乙12の液晶表示装置(乙12記載発明)は,本件発明2の構成要件AないしHの構成をすべて備えているから,本件発明2は,乙12記載発明と同一である。
イ 無効理由2(進歩性の欠如?@)(ア)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙16(特開平8-29812号公報),乙17(特開平7-234414号公報)及び乙27(特開平8-313923号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙16(特開平8-29812号公報)には,「第1および第2の電極の導電体部と非導電体部の対面配置によって,傾き方向が相互に逆となる2方向の斜め電界が生じ,これら電界に沿って再配列する液晶分子およびゲストの染料分子は電界の境界領域で分子配列が乱れる。・・・」(段落【0022】),「また,ベンド配列を図5(b)に示す。上下基板11,12の配向膜15,16に垂直配向膜を用い,これら膜をラビング処理し,その方向F,Rを一致されるように基板を組み合わせると,負の誘電異方性のネマティック液晶の液晶分子Mは図のように配向膜付近で処理方向F,Rに僅かに傾いた液晶配列部分と液晶層中央部の垂直方向配列部分の組み合わせになる。」(段落【0026】),「(実施例1)図4(a)に示すような構造からなる上基板11として非画素部全域にクロムからなるブラックマトリクスを形成し,各画素に屈曲ストライプパターンの非導電体部13bと導電体部13aからなるITOの共通電極13を形成したガラス基板を用い,下基板12として,導電体部14aと非導電体部14bを屈曲ストライプパターンとした,・・・画素電極14を有するガラス基板を用いた。」(段落【0039】),「・・・上下基板を対向させた状態で,上電極の導電体部13aと下電極の非導電体部14bが対面し,下電極の導電体部14aと上電極の非導電体部13bが対面する。・・・」(段落【0041】)との記載があり,また,図4には,1画素内で上下基板に複数のストライプ状に形成された電極を備えた液晶表示装置が図示されている。
上記各記載及び図4(別紙図面(乙16)参照)によれば,乙16には,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(構成要件A,H)の記載があり,同液晶表示装置の上下基板に形成された「屈曲ストライプパターン」は,液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制する「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に当たり,仮に上基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(b))を「第1のドメイン規制手段」,下基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(c))を「第2のドメイン規制手段」とすると,「第1のドメイン規制手段」は「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件D),「第2のドメイン規制手段」は「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件E)ており,これらの「屈曲ストライプパターン」を上下基板に垂直な方向から見た時には,「前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されて」(構成要件F)いることが開示されている。
b(a)乙17(特開平7-234414号公報)には,「本発明に係わる液晶組成物および液晶分子配列としては,液晶組成物は正または負の誘電率異方性を有する液晶からなり,電界を印加した際に取り得る2方向以上のチルト方向は,正の誘電率異方性を有する液晶の場合チルトアップ方向であり,負の誘電率異方性を有する液晶の場合チルトダウン方向であり,・・・」(段落【0015】),「本発明のLCDの一画素における分子配列構造の一例を図1(b)に示す。この図1(b)に示す分子配列構造は,スプレイ配列およびそれに捩じれを加えた分子配列であり,なおかつ上下基板表面における液晶分子プレチルト角が上下でほぼ等しいことを特徴としている。また電圧を印加した場合の分子配列構造を示している。すなわち,上,下基板11,12にそれぞれ画素単位で複数のストライプを形成する電極13,14を配置し,各電極の導電部13a,14aと非導電部13b,14bを等間隔とし,1/2ピッチずらして対向させる。上,下配向膜15,16の配向方向を同じ方向とし,液晶層20の液晶分子Mをスプレイ配列としている。」(段落【0021】),「また,本発明のLCDを捩じれ角0°で作成し,直交した2枚の偏光板間に各ラビング方向(セル平面で考えて上下基板で同一方向である)と一方の偏光板の吸収軸が平行となるように組み合わせると,散乱光源を用いた場合でも透過型のディスプレイとなり得る。この場合,複屈折効果を利用した光学モードとなり,前述した透過率は低下するが,光透過状態を液晶層の光散乱状態によって実現するため視角依存性が少ないといった効果を得る。特に,階調表示をした際に表示が反転するような現象が生じないため,直視型のディスプレイとして,従来のTN-LCD等より優れた表示特性を得ることができる。」(段落【0051】),「・・・電圧無印加状態(図33(a))では,液晶分子は一様に配列(垂直配向)している。これに対して電圧印加状態(図33(b))では,ITOが上下基板で対向しているところではラビング方位にチルトダウンし,逆にTFT基板のITOがない領域では斜め電界が電極ストライプ方向と直交した方向に発生するため,その方向にチルトダウンする。」(段落【0106】)との記載があり,また,図24,28には,乙16の図4と同様の図が示されており,図33には,実施例15のLCDの電圧無印加時及び電圧印加時の平面的にみた液晶分子配列が図示されている。
したがって,乙17には,乙16と同様の開示がある。
(b)また,乙17には,「・・・本発明のLCDは,各画素において,実効的に一様な分子配列とすることにより光透過状態を実現し,また2種以上の電界方向をもって,屈折レンズ効果や回折格子効果を得ることにより光散乱状態を実現する。ここで,屈折レンズ効果とは,液晶層厚方向に液晶分子が連続的に傾きを変え液晶層の屈折率が連続的に変化することにより入射した光を屈折させる効果をいう。また,回折格子効果とは,液晶分子の異常光屈折率ne と常光屈折率no とが液晶平面において規則的に交互に出現することにより液晶層に回折格子が形成され,その結果平行光が散乱する効果をいう。このような屈折レンズ効果や回折格子効果による光散乱は,2種以上の電界方向の境界部にウォール(壁)状の分子配列を形成することにより得られる。」(段落【0020】),「・・・液晶組成物として負の誘電率異方性をもつネマティック液晶組成物を用い,液晶分子配列を上下基板におけるプレチルト角が90°である完全な垂直配列としても同様の効果を得ることができる。・・・」(段落【0022】),「・・・回折格子の光散乱効果は,GALE,M.et al.:1979, J.appl.Photogr.Engng, 4,41 によると次式で示される。T=cos2 (π△nd/λ)ここで,Tは散乱される光の強度(入射光に対する強度)であり,λは入射光波長である。この式から回折格子の光散乱効果は△ndに依存する。・・・このように,本実施例は他の実施例と同様に液晶分子配列が形成する屈折レンズ効果(前述したウォール配列:液晶層厚方向に液晶分子が連続的に傾きを変え屈折率が連続的に変化することにより入射した光を屈折させる効果)に加え,明確に回折格子効果が得られる構造としている。」(段落【0103】),「・・・図示するように本実施例のLCDは実施例14に示したLCD同様,電圧を印加した状態において電極ストライプ方向,およびその直交方向偏光成分に対する屈折率が液晶分子の異常光屈折率ne と常光屈折率n0 が電極ストライプ方向の直交方向に規則的に交互に配列し,その結果,液晶層に回折格子が形成され,平行光を散乱させることができる。」(段落【0106】),「このように本発明のLCDは電圧を印加した状態において電極ストライプ方向およびその直交方向の偏光成分に対する屈折率が液晶分子の異常光屈折率ne と常光屈折率n0 が一定方向(一方向以上)に規則的に交互に配列するようにすれば,液晶層には回折格子が形成され,平行光を散乱させる効果を得ることができる。この効果を直交した 2方向の偏光成分に対して得るようにすれば,非偏光の光を散乱させることができ高いコントラスト特性が得られるようになる。こうした構成を実現させるには液晶分子のチルト方向(チルト方向およびチルトダウン方向)の自由度が無限大である初期垂直配向に誘電率異方性が負の液晶組成物を用いると容易に実現できる。」(段落【0107】)との記載がある。
上記各記載等によれば,乙17の散乱方式の液晶表示装置は,ドメイン境界部で生じる屈折効果のみを利用したものではなく,光散乱効果(回折格子効果)は液晶による複屈折によって得られるものにほかならないのであって,VA方式のものと同様にドメイン内の液晶による複屈折に起因する光散乱効果をも利用した液晶表示装置である。
加えて,乙17の段落【0107】の記載は,高いコントラスト特性を得るためには,誘電率異方性が負の液晶組成物を用い,かつ,「異常光屈折率領域(ne領域)」と「常光屈折率領域(no領域)」を直交した2方向の偏光成分に沿うように交互に配置させることが好ましいことを教示するものである。そして,このような配置は,互いに直交するストライプ状の電極(第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する電極)を用いることにより必然的に得られることは当業者にとって自明である。
すなわち,乙17には,液晶組成物として誘電率異方性が負のものを用いることとし,かつ,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する電極を用いることにより「異常光屈折率領域(ne領域)」と「常光屈折率領域(no領域)」を直交した2方向の偏光成分に沿うように交互に配置させることで,高いコントラスト特性の液晶表示装置が得られることが教示されている。
c乙27(特開平8-313923号公報)には,「【請求項1】互いに対向する2枚の基板と,これら基板面上に形成された縦方向配線および横方向配線により規定される複数の画素の各々に対応して形成された複数の素電極を有し各素電極の主面が前記2枚の基板面と略直交し,かつ隣り合う素電極の主面が互いに対極をなす櫛型壁電極と,前記2枚の基板間に設けられた櫛型壁電極の間隙に充填された液晶とを具備したことを特徴とする液晶表示素子。」,「・・・例えば,液晶として負の誘電異方性を示すn型液晶を用い,・・・」(段落【0016】),「・・・視野角を拡大するために,1画素内を複数のドメインに分割し,それぞれのドメインで櫛型壁電極を構成する素電極が異なる方向へ延びるようにしてもよい。・・・」(段落【0040】),「・・・各々の画素内には,主面が2枚の基板面と直交し,かつ隣接する主面が互いに対極をなすように,それぞれ複数の素電極11および素電極12が交互に配置され,かつこれらが1つおきに接続部で結合されて櫛型をなす櫛型壁電極10が設けられる。・・・」(段落【0042】),「図15に示すように,視野角を拡大するために,1画素内を例えば4つのドメインに分割し,それぞれのドメインで櫛型壁電極10を構成する素電極11,12が異なる方向へ延びるようにしてもよい。」(段落【0050】)との記載がある。
上記各記載と図9,15(別紙図面(乙27)参照)によれば,乙27の液晶表示装置は,「負の誘電異方性を示すn型液晶」が互いに対向する2枚の基板間に挟持された液晶表示装置であって,同液晶表示装置の「素電極11および素電極12」はいずれも「第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する」ドメイン規制手段を備えているから,乙27には,互いに対向する2枚の基板間に誘電異方性が負の液晶を挟持し,第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する第1および第2のドメイン規制手段を有する液晶表示装置が開示されている。
dそして,VA方式の液晶表示装置の構成及び他方式の液晶表示装置の動作原理との相違を技術常識として備え,VA方式の液晶表示装置における「マルチドメイン化」の必要性もまた技術常識として備える当業者が,乙16及び乙17に開示された屈曲ストライプパターン(すなわち,「第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,これらのドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置されている」態様の「ドメイン規制手段」)を,VA方式の液晶表示装置のマルチドメイン化の手段として適用してみる程度のことは,特段の創作力を要することなく想到する程度のものでしかなく,また,乙27には,互いに対向する2枚の基板間に誘電異方性が負の液晶を挟持し,第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する第1および第2のドメイン規制手段を有する液晶表示装置が開示されていることに照らすならば,本件発明2,乙16,17,27に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものである。
ウ 無効理由3(進歩性の欠如?A)(ア)本件発明2は,以下のとおり,本件出願2の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙9(特開平6-43461号公報)又は乙15(特開平7-311383号公報)に記載された発明と,乙12(特開平6-301036号公報),乙16(特開平8-29812号公報),乙17(特開平7-234414号公報)又は乙18(特開平7-43968号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙9には,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(本件発明2の構成要件A)と,「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段と,」(構成要件B)と,「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段とを備え,」(構成要件C),「前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,」(構成要件D),「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成されることを特徴とする」(構成要件G)「液晶表示装置」(構成要件H)が開示されている(段落【0005】,【0007】,【0010】,【0011】,【0018】,【0020】,【0029】,【0030】,【0032】,図1,5ないし7等)。
そうすると,本件発明1と乙9に記載された上記液晶表示装置の発明(以下「乙9記載発明?A」という。)とを対比すると,本件発明2では,「第2のドメイン規制手段」が「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有」し(構成要件E),かつ,「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置され」る(構成要件F)のに対し,乙9記載発明?Aでは,上記の態様の明示がない点でのみ相違する。
b乙15(特開平7-311383号公報)には,「この構造のセルを駆動すると,液晶ダイレクター(121)は,下側電極(101)の周縁部で配向制御傾斜部(103)に従って,左右両側の領域で互いに反対側へ傾けられる。また,上側電極(111)の中央部でも配向制御傾斜部(113L,113R)によってそれぞれ反対側へ傾けられる。即ち,液晶の連続体性のために,図11の左側のゾーンでは,液晶層(120)を挟んだ上下の配向制御傾斜部(113L,103)の作用により,液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられるとともに,右側のゾーンでは配向制御傾斜部(113R,103)の作用により,液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられる。このように配向制御傾斜部(103,113L,113R)を配置することにより,表示画素が配向ベクトルの異なる複数のゾーンに分割されるとともに,それぞれのゾーンで均一な配向状態となる。」(段落【0036】),「図12は表示画素部の平面図であり,上下両電極(101,111)の対向部分を上から見た構造を示している。表示画素の周縁を囲って下側の配向制御傾斜部(103)の帯状領域があり,内部には表示画素の対角線に沿って上側に形成された配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)のX字型の領域がある。太矢印は中間調での配向ベクトルの平面射影であり,液晶ダイレクーは全階調について平均的にこの状態にあると見なされる。尚,矢印方向は,液晶ダイレクターが,その上側を傾ける方向を表している。
図から明らかな如く,配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)により上下左右に分割された4つのゾーン(U,D,L,R)では,配向ベクトルはそれぞれの4つの方向へ向けられる。即ち,液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から,上下左右のゾーン(U,D,L,R)で,4つのそれぞれの方向へ傾けられる。尚,上で図11を用いて説明した作用は,図12においてL-R領域の断面に関するものであったが,U-D領域の断面についても全く同じ作用があることは言うまでもない。」(段落【0037】との記載がある。
上記各記載と図11,12(別紙図面(乙15)参照)によれば,乙15には,2枚の透明な基板(100,110)との間には負の誘電率異方性を有したネマチック液晶層(120)が挟持されており,電圧を印加しない状態での液晶ダイレクター(121)の初期配向は接触表面に対して垂直方向に制御される垂直配向型の液晶セルであって(本件発明2の構成要件A),上側基板と下側基板のそれぞれに,液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制する「ドメイン規制手段」が設けられており(構成要件B,C),上側電極(上側基板)に設けられた配向制御傾斜部(第1のドメイン規制手段)は,図12に図示されているように,「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件D),上側基板と下側基板のそれぞれに設けられた配向制御傾斜部(第1および第2のドメイン規制手段)によって「前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される」(構成要件G)構成を備える液晶表示装置(構成要件H)が開示されている。
そうすると,本件発明2と乙15に記載された上記液晶表示装置の発明(以下「乙15記載発明」という。)とを対比すると,本件発明2では,「第2のドメイン規制手段」が「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有」し(構成要件E),かつ,「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置され」る(構成要件F)のに対し,乙15記載発明では,上記の態様の明示がない点でのみ相違する。
c(a)乙12(特開平6-301036号公報)の図8には,「開口部(46A)がX字状に設けられている」液晶表示装置を動作させた際に「垂直配向された液晶分子(24A)」の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン(構成要件G)が図示されている。
(b)乙16(特開平8-29812号公報)には,前記イ(イ)aのとおり,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(本件発明2の構成要件A,H)の上下基板に形成された「屈曲ストライプパターン」は,液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制する「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に当たり,仮に上基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(b))を「第1のドメイン規制手段」,下基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(c))を「第2のドメイン規制手段」とすると,「第1のドメイン規制手段」(上基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(b)))は「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件D),「第2のドメイン規制手段」(下基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(c)))は「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件E)ており,これらの「屈曲ストライプパターン」を上下基板に垂直な方向から見た時には,「前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されて」(構成要件F)いることが開示されている。
(c)また,乙17(特開平7-234414号公報)には,前記イ(イ)b(a)のとおり,乙16と同様の開示がある。
(d)乙18(特開平7-43698号公報)には,「なお,本実施例は線状絶縁膜として波線状のものを形成したが,三角波状や他の曲がった形状の線状絶縁膜などに形成したりしてもよい。」(段落【0038】),「図7は,本実施例にかかる液晶表示装置を示す断面図である。この液晶表示装置は,アクティブマトリクス基板31に線状絶縁膜31dが形成され,対向基板32に線状絶縁膜32dが形成されており,線状絶縁膜31dと32dとが線状絶縁膜の幅方向にずれている。・・・」(段落【0054】),「【発明の効果】・・・本発明によれば,1つの画素に対応する部分において,電極上に,線状の絶縁膜,又は材質の異ならせた絶縁膜,又は厚みを異ならせた絶縁膜が形成されているので,電界強度が異なることにより配向状態が異なっている部分を1つの画素において形成することができる。・・・」(段落【0064】)との記載がある。
上記各記載と図3,7(別紙図面(乙18)参照)によれば,乙18には,液晶タイプがTN型の液晶表示装置において,図7のとおり,上下の基板(31,32)に「ドメイン規制手段」としての線状絶縁膜(31dと32d)が設けられているものが記載されており,図7に図示された態様の上下の基板の「ドメイン規制手段」を,図3に図示されているような「波線状」や「三角波状」あるいは「他の曲がった形状」の「ドメイン規制手段」とすることもできる旨(段落【0038】)の示唆がある。
そして,図7に図示された「ドメイン規制手段」を「三角波状の線状絶縁膜」とした場合には,乙16に開示されているのと同様の「ドメイン規制手段」となるから,乙18は,本件発明2の「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」を開示している。
d(a)乙9,12,15ないし18に開示された液晶表示装置は,「ドメイン規制手段」を備えた液晶表示装置である点で技術分野が共通することに照らすならば,乙9記載発明?A又は乙15記載発明において,乙12,乙16ないし18に基づいて,相違点に係る本件発明2の構成要件E(「第2のドメイン規制手段」が「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有」する構成)及び構成要件F(「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置され」る構成)を採用することは,当業者であれば,容易に想到することができたものである。
(b)これに対し原告は,TN方式の液晶表示装置であれば,その全てにおいて,ラビングによる配向処理が行われており,これにより電圧印加時の液晶分子の配向が規制されていることを前提に,TN方式では,電圧印加時に垂直配向していた液晶分子をどの方向に倒すかを規制するドメイン規制手段を設ける必要はないので,TN方式に関する乙18の技術から本件発明の構成を想到することはできない旨主張する。
しかし,TN方式を採用した全ての液晶表示装置において,ラビングによる配向処理が行われているわけではないことは,原告自らが出願したTN方式の液晶表示装置に関する乙28(特開平7-168187号公報)の段落【0007】,【0010】,【0041】,【0043】,【0049】,図7等)から明らかであり,また,視野角依存性の改善を実現するために,ラビングを行わないTN方式の液晶表示装置が広く知られていた事実は原告自身が認めているところであり,原告の上記主張は失当である。
(2) 原告の反論ア 無効理由1(新規性の欠如)に対し被告は,乙12の液晶表示装置(乙12記載発明)は,本件発明2と同一であるから,本件特許2には特許法29条1項3号に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)乙12の液晶表示装置は,図2に示すように(別紙図面(乙12)参照),2対向電極に開口部(26A)を設けることで,画素の中心部に向かう放射状に液晶分子(24)を配向させるものである(乙12の段落【0020】ないし【0022】)。このように乙12では,開口部(26A)が,電圧印加時において画素中心部の液晶分子を基板に垂直な方向に維持する機能を発揮させるものである。
しかし,図2を一見して明らかなように,図2に示す液晶表示装置では,対向電極の開口部(26A)は,画素のほぼ中心の領域に設けられており,いずれの方向にも延びていないから,「第1の方向に延びる直線状成分」(本件発明2の構成要件D)及び「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分も」(構成要件E)のいずれも有していない。また,被告が主張するように開口部それ自体ではなく,開口部の端部(エッジ)を「ドメイン規制手段」であると解釈すると,図3に示されるように,画素電極の左側の端部,開口部(26A)の左側の端部(エッジ),開口部(26A)の右側の端部(エッジ),画素電極の右側の端部と配置されることになって,「ドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置されている」との構成(構成要件F)を満たさなくなる。
そして,乙12の液晶表示装置では,画素の中心部に向かう放射状に液晶分子(24)を配向させるのであり,「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される」(構成要件G)ものではない。なお,図4における4本の黒い線は,一対の基板の外側表面にクロスニコル配置(偏光軸が互いに90°となる配置)された2枚の偏光板のいずれかの偏光軸の方向と,液晶分子の配向方向とが平行になることによって,光の偏光状態が変化せずに,一対の偏光板によって遮光されることにより発生したものであり,偏光板の偏光軸と平行な方向に配向された液晶分子によって形成された,光が透過されない消光模様(暗線)であり,各領域において液晶分子の配向方向が略90°異なることを意味するものではない。乙12における「液晶分子(24A)の配向方向の境界線を示すディスクリネーションライン」(段落【0023】)との記載は不適切である。
(イ)以上のとおり,乙12の液晶表示装置(乙12記載発明)は,本件発明2の構成要件DないしGの構成を備えていないから,本件発明2が乙12記載発明と同一であるとはいえない。
したがって,被告主張の無効理由1は,理由がない。
イ 無効理由2(進歩性の欠如?@)に対し被告は,本件発明2は,乙16,17,27に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたから,本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)a乙16,17は,液晶を一定に配向させた状態の透過表示と液晶の配向を乱した状態の散乱表示とを用いて表示を行う散乱方式の液晶表示装置に関するものであり,本件発明2のような,液晶を垂直配向させた状態の黒表示と液晶分子を特定の方向に配向させて複屈折性を利用した白及び中間調表示を用いて表示を行うVA方式の液晶表示装置とは動作の機構も表示の原理も全く異なるものであって,乙16,17には,本件発明2の構成要件AないしGが一切開示されていない。
b乙16の「屈曲ストライプパターン」は,本件発明2の「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)又は「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない。
乙16は,電圧無印加時には液晶分子を一様に配向させて光を透過し,電圧印加時には分子配列の乱れを生じさせて光を散乱する方式(散乱方式)の液晶表示装置であり,一画素内で多くの分子配列の乱れが生じるようにして,電圧無印加時における光の散乱を強めるために各画素の電極形状及び配置において屈曲ストライプパターンを採用している(段落【0020】ないし【0023】)。
これに対し,本件発明2では,第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段が,それぞれ,第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,これらのドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置されているため,電圧印加時には,第1及び第2のドメイン規制手段によって液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される。つまり,乙16の屈曲ストライプパターンは,分子配列の乱れを生じさせるためのものであるが,本件発明2の第1及び第2のドメイン規制手段の形状及び配置は,規則的な配向の4種類の液晶ドメインを形成するためのものであり,その機能及び効果は正反対である。また,乙16の散乱方式の液晶表示装置では,実施例において「電圧印加・・・では最小透過率0.2%と,良好な散乱状態が得られた」(【0046】)との記載があるとおり,電圧印加時において,ほとんど光が透過せず,光を透過するドメインが実質的に形成されていない。
逆に,本件発明2のように,液晶分子の配向が整った領域(ドメイン)が形成されると,配向が揃っているため,光は散乱されずその領域を透過してしまい,電圧印加時に光を散乱させて表示を行うことができなくなる。被告が主張するように,乙16において屈曲ストライプパターンの屈曲角度を略90°に設定し,略90°異なる4種類のドメインが形成されると,光は散乱されずその領域を透過してしまうことになるから,当業者は,屈曲角度を略90°に設定することは考えない。
c被告が主張する乙17の段落【0105】ないし【0107】に記載された液晶表示装置の電極は,「屈曲ストライプパターン」を有していない。すなわち,段落【0105】ないし【0107】は,実施例15に関する記載であり,実施例15の電極パターンは,実施例14と同様に(段落【0105】),図31(b)及び図31(c)に示される上電極パターン及び下電極パターンを備えているはずであるが,これらの電極パターンは,そもそも,第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有していないし,互いに平行かつ交互にも配置されていない。
また,被告は,乙17は,VA方式のものと同様にドメイン内の液晶による複屈折に起因する光散乱効果も利用した液晶表示装置である旨主張するが,VA方式の液晶表示装置は,光散乱効果を利用した液晶表示装置などではなく,液晶層に入射した光は散乱されずに液晶層を透過する必要があり,光を散乱させることは,VA方式の表示動作を根本的に阻害するのであるから,上記主張は失当である。
d乙27は,図1に示されるように,基板に平行な方向に強い電界を形成するため,基板表面に直立させた壁状の素電極11,12を交互に配置した櫛形壁電極10を備えた液晶表示装置を開示しているところ,開示された負の誘電率異方性を有する液晶を用いた液晶表示装置は,電圧無印加時にはランダムに配向し,電圧印加時には垂直に配列するものであり(段落【0016】),本件発明2の「電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(構成要件A)ではない。また,乙27の液晶表示装置は,「電圧印加時には液晶分子は溝に沿って電極に平行すなわち画面に垂直に配列する」(段落【0016】)のであるから,液晶分子の配向は櫛型壁電極の溝によって規制されるのであり,乙12は,VA方式の液晶表示装置に関する本件発明2の「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)を開示していない。また,乙27の液晶表示装置では,電圧無印加時にはランダムに配向し,電圧印加時には垂直に配列するため,図15の構成を採用しても,全ての液晶分子は電圧印加時に基板に対して垂直に配向し,「マルチドメイン化」を達成することはできない。
(イ)以上によれば,当業者といえども,乙16,17,27に記載された発明に基づいて本件発明1を容易に想到できたものではないから,被告主張の無効理由2は理由がない。
ウ 無効理由3(進歩性の欠如?A)に対し被告は,本件発明2は,乙9又は乙15に記載された発明と,乙12,16,17又は乙18に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたから,本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)乙9,12,15には,「第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段が,それぞれ,第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,これらのドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置される」(構成要件DないしF)という本件発明2の構成は開示されておらず,また,乙9,12,15で形成されるドメインは,本件発明2の「第1及び第2のドメイン規制手段によって形成される液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン」(構成要件G)と相違するものであるから,乙9,12,15には,本件発明2の構成要件DないしGが開示されていない。
すなわち,乙9,12,15には,4つの辺を有する長方形又は正方形の画素電極とX型のスリット又は突起が設けられた対向電極とを有するVA方式の液晶表示装置が開示されているが,「第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段が,それぞれ,第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,これらのドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置される」という構成(構成要件DないしF)を有するものではなく,また,対向電極に設けられたX型のスリット又は突起のため,電圧印加時には,液晶分子がX型の中心(画素の中心部)に向かって配向し,形成されるドメインは,「第1及び第2のドメイン規制手段によって形成される液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン」(構成要件G)とは異なるものである。なお,乙9,12,15のように,液晶分子が中心に向かうように配向すると,各ドメイン内で液晶の配向方向が平行にならないため,各ドメイン内の位置によって透過光の偏光状態が変化し,光の利用効率が低くなり,コントラストが低下する。
一方,本件発明2においては,構成要件DないしGの構成をすべて備え,第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段が,それぞれ,第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,第1又は第2の方向に延びる直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置されているため,略90°異なる4種類の液晶ドメインが,それぞれ広い範囲において配向の規則性が高いドメインとなり,光の利用効率を高めることができ,しかも,両側のドメイン規制手段のそれぞれから同じ配向となるように液晶が倒れるので,液晶ドメインを短時間で形成でき,応答速度を速くできるという効果を奏している。本件発明2の上記効果は,構成要件DないしGが有機的に結合することによって得られるものである。
(イ)前記イ(ア)のとおり,乙16,17には,本件発明2の構成要件AないしGが一切開示されていない。
(ウ)a乙18は,TN方式の液晶表示装置に関するものであり,乙18には,VA方式の液晶表示装置である本件発明2の構成要件AないしGが一切開示されていない。
TN方式は,ラビング処理を施した配向膜によって液晶分子の配向方向が90°捩れた螺旋状に規制されており,基板面内における液晶分子の配向方向はラビング処理によって固定され,電圧印加時に,液晶分子を基板に垂直な方向に立ち上げて配向させるものであるから,VA方式のように,電圧印加時に,垂直配向していた液晶分子をどの方向(基板に垂直な方向から見たときの配向方向)に倒すのかを規制する「ドメイン規制手段」を設ける必要はない。
なお,被告は,TN方式を採用した全ての液晶表示装置において,ラビングによる配向処理が行われているわけではないことは,乙28から明らかである旨主張する。しかし,乙28の液晶表示装置は,90°捩れ配向した液晶層を使用するものではなく,電圧を引加することにより,周囲の液晶分子を垂直配向領域側から持ち上がるように立ち上がらせるものであり(段落【0024】,【0027】),ラビング処理により,90°捩れ配向した液晶層を構成要素とする一般的なTN方式(段落【0005】,図13)の液晶表示装置ではない。
b乙18の線状絶縁膜31d,32dは,電極上に配置され,液晶に印加される電界強度を異ならせて,液晶分子が立ち上がる角度を変化させるものであって,電圧印加時に,垂直配向していた液晶分子をどの方向(基板に垂直な方向から見たときの配向方向)に倒すのかを規制する手段ではないから,本件発明2の「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)又は「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない。
また,乙18の線状絶縁膜31d,32dは,液晶分子が立ち上がる角度を変化させるだけであり,配向方向を変化させるものではないので,乙18には,電圧印加時において,基板に垂直な方向から見たときの配向方向が略90°異なる複数のドメインに分割するという技術的思想の記載も示唆もない。
(エ)以上のとおり,乙9,12,15ないし18のいずれにおいても,本件発明2の構成要件DないしGが有機的に結合することによって得られる「第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段が,それぞれ,第1の方向に延びる直線状成分と,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,これらのドメイン規制手段の直線状成分が,互いに平行かつ交互に配置されているため,電圧印加時には,第1及び第2のドメイン規制手段によって液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される。」という構成は開示されておらず,当業者といえども,乙9,12,15ないし18に基づいて上記構成(構成要件DないしG)を容易に想到できるものではない。
したがって,本件発明2は,乙9又は乙15に記載された発明と,乙12,16,17又は乙18に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものではないから,被告主張の無効理由3は理由がない。
6 争点6(本件特許権3に基づく権利行使の制限の有無)(1) 被告の主張本件特許3には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権3を行使することができない。
ア 無効理由1(進歩性の欠如)(ア)本件発明3-1,3-5は,以下のとおり,本件出願3の優先権主張日前に頒布された刊行物である乙19(A.Takeda,S.Kataoka等作成の「A Super-High-Image-Quality Multi-Domain Vertical Alignment LCD by New Rubbing-Less Technology」と題する論文。以下「タケダ論文」という。),乙20(特開平10-39837号公報)及び乙21(特開平8-123373号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許3には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)がある。
(イ)a乙19(タケダ論文)には,「電圧が印加される画素電極及び対向電極との間に液晶が設けられ,該液晶の配向が,電圧無印加時にはほぼ垂直に,所定の電圧を印加した時にはほぼ平行となり,前記所定の電圧より小さい電圧を印加した時には斜めになり,更に,前記所定の電圧より小さい電圧が印加された時に,各画素内において,前記液晶の配向の斜めになる方向が各画素内において複数になるように規制するドメイン規制手段を備える液晶表示装置」(構成要件A)が開示されている。
すなわち,乙19の図1(Figure.1)には,ADF(automatic domain formation)配向技術のコンセプトが図示され,構造物(protrusion)により形成されるスロープによって液晶(LC molecule)が擬似的に傾けられている様子が示されていること,図2(Figure.2)には,上記ADF配向技術をMVA-LCD(Multi-Domain Vertical Alignment LCD)に適用した際の,電圧オフ(Off)と電圧オン(On)の状態の液晶分子の傾斜の様子が図示されていること,図6には,4ドメインタイプのMVA-LCDとした場合のピクセル構造における,各ドメイン間の液晶分子の傾き方向が概念的に図示され,A,B,C,及びDの4つのドメインが形成されるとされていることからすれば,乙16には,構成要件Aを備えた,垂直配向方式のラビングレス・マルチドメインLCD(液晶分子の配列する向きを決めるための処理を従来のラビングなどで行わずに,基板に設けた突起により自動的に行う方式のMVA型液晶ディスプレイ)が開示されている。
b乙20(特開平10-39837号公報)には,「・・・図4(b)波形1は,従来の駆動方法(目標階調値に対応した電圧を印加する方法)により,時刻t0から時刻t3までVaを印加した場合の液晶の光学応答である。・・・図4(b)の波形3は,時刻t0から時刻t3までVcを印加した場合の液晶の光学応答である。・・・図4(b)の波形2は,時刻t0から時刻t1までVcを印加し時刻t1から時刻t3までVaを印加した場合で,すなわち,図4(a)のように電圧を印加した場合の液晶の光学応答である。従って,図4(a)のような電圧を印加することにより,1フレーム以内に液晶の応答が完了することができる。従って,階調変化の全パターンに対応する印加電圧値cをあらかじめ求めることにより,ルックアップテーブルを作ることができる。」(段落【0018】),「以下,液晶表示素子にPDLCを用いた液晶表示装置について,発明の実施形態を述べる。もちろん,TN(ツイストネマテック)型などのような他の液晶にも,本発明は適用することができる。」(段落【0019】),「・・・図7(b)の波形1,2,3は,図7(a)のt0からt1時間の印加電圧値を変化させたときの,PDLCの表示階調変化を示したものである。」(段落【0020】),「波形1はVc=Vaの場合で,すなわち,従来の駆動方法(目標階調値に対応した電圧を印加する方法)である。・・・」(段落【0021】),「・・・(b)波形2はVc>Vbでかつオーバシュートしない電圧を印加する方法(発明の構成は全く異なるが,特開平7-20828号公報と同じような電圧印加方法)がある。・・・」(段落【0022】),「図7(b)波形3は,Vc>Vbでかつ,階調dまでオーバーシュートさせるように電圧を印加したときの場合である。・・・」(段落【0024】),「本発明は,・・・その駆動方法を改善することができる」(段落【0026】)との記載がある。
上記各記載と図4,7によれば,乙20には,「画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電圧を印加する駆動回路」(構成要件B)による駆動方法が開示されている。
c乙21(特開平8-123373号公報)には,「【問題を解決するための手段】TN液晶は一般に実効値応答をするといわれ,従来のアクティブマトリクス型液晶表示装置では,ある諧調を表示する場合に液晶表示装置に印加する電圧は時間的に一定であり,液晶の応答を考慮するものではなかった。しかし,実際には液晶材料はその諧調を示す電圧より高い電圧を瞬時印加することにより,時間的にすばやく応答させることができることをわれわれは過去に見いだしている。(特許願平4-239032)」(段落【0012】),「具体的には図2に示すような,一定の電圧を印加した場合の液晶材料の応答を,図3に示すようにいったん高電圧を印加し,その後電圧を下げる方法を採用することにより,液晶材料の高速応答を可能する。なお,図2及び図3において,(a)は印加電圧,(b)は光学応答を示す。」(段落【0013】),「図2と図3を比較すれば明らかなように,液晶に対して同じ電圧を単調に印加するよりも,始めに高電圧を印加し,次に低い電圧を印加したほうが,高速応答を行わせるためにはより有効であることがわかる。・・・」(段落【0014】)との記載がある。
上記各記載と図2,3によれば,乙21には,「画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電圧を印加する駆動回路」(構成要件B)による駆動方法が開示されている。
dそして,本件発明3が属する技術分野は,液晶表示装置の技術分野であること,液晶の応答時間の短縮化が好ましいとの認識は,本件出願3の優先権主張日当時,液晶表示装置の技術分野の当業者の一般的な認識であり,TNモード液晶パネルにおいても,液晶の応答時間の短縮化が技術的課題として認識されていたことに照らすと,当業者であれば,乙19の液晶表示装置において,液晶材料の高速応答を可能とするために,乙20,21記載の液晶駆動方法(構成要件Bの構成)を適用して,本件発明3-1に容易に想到することができたものである。
(ウ)前記(イ)と同様の理由により,当業者であれば,構成要件Dを備えた,乙19の液晶表示装置の駆動方法として,乙20,21記載の液晶駆動方法(構成要件Eの構成)を採用し,本件発明3-5に容易に想到することができたものである。
イ 無効理由2(特許法36条6項1号,2号違反)(ア)本件特許3は,以下のとおり,本件発明3-1,3-5の特許請求の範囲(請求項3,5)の記載は,本件特許3に係る願書に添付した明細書の発明の詳細な説明に記載した以外の態様を含むものであって,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載された発明であること」(特許法36条6項1号)の要件(いわゆるサポート要件)に適合せず,また,特許請求の範囲(請求項3,5)の記載が不明確であって,「特許を受けようとする発明が明確であること」(同項2号)の要件に適合しないから,本件特許3は,同項1号,2号の要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(同法123条1項4号)がある。
(イ)本件発明3-1,3-5の特許請求の範囲(請求項1,5)との記載中には,「画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,前記第1の期間後の第2の期間に前記第1の目標電圧を印加することを特徴とする」(構成要件B又はE)との部分がある。
本件特許3に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書3」という。)の発明の詳細な説明には,「以上,図4,図5の結果から明らかになる通り,(1)ある画素の表示を黒表示から低輝度中間調表示に切り替える場合は,第1のフレーム期間Tf1の駆動電圧VP1を第2のフレーム期間Tf2以降の駆動電圧VP2の例えば1.25倍とし,(2)黒表示から高輝度中間調表示に切り替える場合は,駆動電圧VP1を駆動電圧VP2と同等にし,(3)黒表示から白表示に切り替える場合は,駆動電圧VP1を駆動電圧VP2の例えば1.25倍とすることが好ましい。従って,上記の(1),(3)の場合は図3(3)の波形が好ましく,上記の(2)の場合は図3(2)の波形が好ましい。なお,上記の1.25倍はあくまでも1例であり,要は上記(1)(3)の場合はVp1>Vp2にすることが必要である。」(段落【0054】)との記載があり,また,本件発明3-1,3-5がその効果を奏するには,第1の透過率から第2の透過率に変化させる際の電圧比Vp1/Vp2を第2の透過率に応じて適正化することが必要であり,第2の透過率の値によっては「Vp1>Vp2とはしないこと」が必要とされ,かかる第2の透過率に応じた電圧比Vp1/Vp2の適正化によってはじめて,?@黒表示から低輝度中間調表示に切り替える場合の応答時間の短縮と,?A黒表示から中間調表示又は白表示に切り替える場合のオーバーシュートの低減という本件発明の効果を奏することが可能となる旨(段落【0008】〜【0013】)の記載がある。
一方で,本件発明3-1,3-5の特許請求の範囲(請求項1,5)との記載中には,「画素を第1の透過率から該第1の透過率より大きい第2の透過率に変化させる場合,前記画素電極に対して,前記第2の透過率に変化させる第1の期間に前記第2の透過率に対応する第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し」との記載部分からは,第2の透過率の値によらずVp1>Vp2となるように駆動電圧制御がされることとなる。
そうすると,本件発明3-1,3-5の特許請求の範囲(請求項1,5)の記載は,発明の詳細な説明に記載した以外の態様のものを含むこととなるので,特許法36条6項1号に適合せず,また,いかなる場合にVp1>Vp2と電圧制御をすれば本件発明3-1,3-5の効果を奏することとなるのかが不明であって発明が不明確であり,同項2号に適合しない。
(2) 原告の反論ア 無効理由1(進歩性の欠如)に対し被告は,本件発明3-1,3-5は,乙19ないし21に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたから,本件特許3には,特許法29条2項に違反する無効理由がある旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(ア)乙19には,広視野角,高コントラスト比,高速応答性を有するMVA方式の液晶表示装置が開示されているが,具体的な駆動方法については記載されていない。また,乙19には,本件発明3-1及び3-5が解決しようとする,ドメイン規制手段を有するMVA方式の液晶表示装置において特有の黒表示から低輝度中間調表示に切り替える場合の応答速度がTN方式よりも遅いという課題についての記載も示唆もない。
(イ)乙20は,PDLC(高分子分散型液晶)方式の液晶表示装置及びその駆動方法に関するものであるところ(段落【0015】),PDLC方式の液晶表示装置は,散乱方式の液晶表示装置であり,電圧を印加すると,画素領域の高分子中に分散された液晶ドロップレットが同時に電界に応答し,一定の方向に配向することで光を透過する方式のものであり,本件発明3-1,3-5のようなVA方式の液晶表示装置とは,電圧印加時における液晶分子の動作が異なるものである。
また,乙21は,TN方式の液晶表示装置及びその駆動方法に関し,初めに高電圧を印加し,次に低い電圧を印加する駆動方法を開示するものであるが,TN方式の液晶表示装置は,ラビング処理を施した配向膜によって液晶分子の配向方向が90°捩れた螺旋状に規制されており,電圧を印加すると,画素領域内の液晶分子が電界に対し同時に応答し,基板に対し垂直な方向に配向することで光を透過する方式であり,VA方式の液晶表示装置とは,電圧印加時における液晶分子の動作が異なるものである。
ところで,VA方式の液晶表示装置では,ドメイン規制手段によって一部の液晶分子の配向方向が規制されているに過ぎず,電圧を印加すると,ドメイン規制手段によって配向方向が規制された一部の液晶分子がトリガとなり,その影響で画素領域内の他の液晶分子の配向方向が順に規制されていくものであり,また,VA方式の液晶表示装置は,液晶分子の複屈折性を利用するため,液晶分子の配向方向が偏光板の偏光軸と特定の条件を満たす必要があり,単に液晶分子が垂直配向から電圧に応じた傾きの配向となるだけでは所定の透過率の表示にはならず,画素領域内の液晶分子の配向が基板面内において所定の方向に規制されて初めて所定の透過率の表示となる。そして,当業者は,通常,VA方式の液晶表示装置に対し,電圧印加時における液晶分子の動作が異なる技術分野の液晶駆動方法を適用しないから,乙19に,乙20記載の散乱方式の液晶表示装置における液晶駆動方法や乙21記載のTN方式の液晶表示装置における液晶駆動方法を適用しようとしない。
(ウ)以上によれば,当業者といえども,乙19ないし21に記載された発明に基づいて本件発明3-1,3-5を容易に想到できたものではないから,被告主張の無効理由1は理由がない。
イ 無効理由2(特許法36条6項1号,2号違反)に対し被告は,本件発明3-1,3-5の特許請求の範囲(請求項1,5)の記載は,発明の詳細な説明に記載した以外の態様のものを含むこととなるので特許法36条6項1号に適合せず,また,明確性を欠くので,同項2号に適合しない旨主張する。しかし,被告の主張は,理由がない。
すなわち,本件明細書3の段落【0014】には,本件発明3-1の構成が開示されており,また,段落【0015】には,「本発明によれば,画素内の液晶を第1の透過率から第2の透過率に変化させる場合,第1の期間に第1の目標駆動電圧より大きい電圧を印加し,その後の第2の期間から第1の目標表示電圧を印加するので,微小領域の液晶の配向方向が電圧を印加した状態で種々の方向を向くMVA型液晶パネル内の液晶の配向方向を変更する時の応答時間を短縮することができる。従って,視野角が広く且つ応答特性の良い液晶表示装置を提供することができる。」との記載がある。
したがって,被告の主張に係る「黒表示から低輝度中間調表示に切り替える場合の応答時間の短縮」の効果を奏する本件発明3-1及び3-5は,本件明細書3の発明の詳細な説明に記載されている。
したがって,本件明細書3は,特許法36条6項1号,2号に適合するから,被告主張の無効理由2は理由がない。
当裁判所の判断
本件の事案に鑑み,まず,原告の被告に対する本件特許権2に基づくイ号液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ号液晶モニターに関する差止請求について判断する。
1 イ号液晶モジュールの本件発明2の構成要件充足性(争点1)について(1) イ号液晶モジュールの構成甲7(添付資料を含む。),10によれば,?@イ号液晶モジュールのパネル部分であるイ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には,赤(R),緑(G),青(B)のカラーフィルター,対向電極及び垂直配向膜が順に形成され,TFT基板の表面には,絶縁膜,画素電極及び垂直配向膜が順に形成されていること,?A対向電極は,対向基板にパターン加工されており,別紙図面イ-1に示すような形状の対向電極のスリット(対向電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,?B画素電極は,TFT基板にパターン加工されており,別紙図面イ-2に示すような形状の画素電極のスリット(画素電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,?C対向基板とTFT基板を重畳させた状態とした場合,対向電極のスリットと画素電極のスリットは,別紙図面イ-3に示すように,平行かつ交互の配置となること,?Dイ号液晶モジュールでは,S-PVA(Super Patterned-ITO Vertical Alignment)技術が採用されていることが認められる。
上記認定事実に加えて,甲7の添付資料2(原文52頁)には,「S-PVA技術へ進化」の見出しの下に,「・・・S-PVAでは,1ピクセルを二つのサブピクセルで構成する。最も単純なマルチドメイン構造の場合は1ピクセルを2ドメインで構成するが,S-PVAでは8ドメインを利用した(図2)。これにより,画像表示の視野角依存性の補正効果を向上させている。」,「図3にS-PVA技術の基本動作原理を示す。まず,画素を構成する赤(R),緑(G),青(B)の各ピクセルを二つに分割し・・・RGBの各ピクセルは,AとBの二つのサブピクセルから成る。サブピクセルAとBは異なった電圧が加えられるため,液晶分子の傾斜角も異なる。AとBの二つのサブピクセルにより実効的に8ドメインのVAセルが構成されることになる。」との記載があることを総合すると,イ号液晶パネルでは,別紙図面イ-2に示すような形状の画素電極のスリットで囲まれた部分(点線で囲まれた部分)が一つのピクセル(画素)を構成し,このピクセルは,異なった電圧が加えられる二つのサブピクセルから成ることが認められる。
(2) 構成要件充足性構成要件Aについて前記(1)の認定事実によれば,イ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には対向電極及び垂直配向膜が,TFT基板の表面には画素電極及び垂直配向膜が形成されているのであるから,イ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であることが認められ,本件発明2の構成要件A,Hを充足する。
構成要件B,Cについて原告は,イ号液晶モジュールの対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,いずれも,電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制するから,対向電極のスリットは「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)に,画素電極のスリットは「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たる旨主張する。
これに対し被告は,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは斜面を有する形態のものでなければならないが,イ号液晶モジュールの対向電極のスリット及び画素電極のスリットは,このような形態のものではないから「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」に当たらず,また,「第1の基板」ないし「第2の基板」に設けられたものではない旨主張して争っているので,以下において判断する。
(ア)本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載中には,「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」,「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」,「前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」との記載はあるが,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかが,斜面を有する形態のものでなければならないことを規定する文言はない。
(イ) 本件明細書2(甲4)には,次のような記載がある。
a特許請求の範囲として,「【請求項1】第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であって,前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段と,前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段とを備え,前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し,前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し,前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており,前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成されることを特徴とする液晶表示装置。」,「【請求項8】前記第1及び第2のドメイン規制手段は,電極に設けられたスリットである請求項1又は2に記載の液晶表示装置。」b「以上説明したように,TN方式の視角特性の問題を解決するものとして提案されているIPS方式は,視角特性以外の特性の点で十分でないという問題があった。そこで,垂直配向膜を使用するVA(Vertically aligned)方式(VAモード液晶)が提案されている。VA方式では,TN方式のような旋光モードではなく複屈折モードとなる。・・・VA方式は,負の誘電率異方性を有するネガ型液晶材料と垂直方向の配向膜を組み合わせた方式で,図7の(1)に示すように,電圧無印加時には液晶分子は垂直方向に配向し,黒表示になる。図7の(3)に示すように,所定の電圧を印加すると液晶分子は水平方向に配向し,白表示になる。VA方式は,TN方式に比べて表示のコントラストが高く,黒白レベル応答速度も速い。・・・・」(段落【0010】),「しかし,VA方式で中間調表示を行う場合には,表示状態の視角依存が生じるというTN方式と同様の問題がある。VA方式で中間調を表示する場合には,白表示の時より小さな電圧を印加するが,その場合図7の(2)に示すように,液晶分子は斜めの方向に配向することになる。この場合,図示のように,右下から左上に向かう光に対しては液晶分子は平行に配向されることになる。従って,液晶はほとんど複屈折効果を発揮しないため左側から見ると黒く見えることになる。これに対して,左下から右上に向かう光に対しては液晶分子は垂直に配向されるので,液晶は入射した光に対して大きな複屈折効果を発揮し,白に近い表示になる。このように,表示状態の視角依存が生じるという問題があった。」(段落【0011】)c「VA方式においても,液晶分子の配向方向を画素内で複数の異なる方向に分割することにより,視角特性が改善されることが知られている。特開平6-301036号公報は・・・液晶分子の配向方向を2方向又は4方向に分割するVA方式の液晶表示装置を開示している。しかし,特開平6-301036号公報に開示された液晶表示装置では,応答速度が遅いという問題があり,特に電圧を印加していない状態から印加する状態に変化する時の応答速度が遅いということが分かった。・・・また,特開平7-199193号公報は,電極上に方向の異なる傾斜面を設けることにより液晶の配向方向を画素内で複数の領域に分割するVA方式の液晶表示装置を開示している。しかし,開示された構成では,傾斜面が画素全体に設けられているため,電圧を印加しない時には配向面に接触する液晶は全て傾斜面に沿って配向されるため,完全な黒表示を得ることができず,コントラストが低下するという問題が生じた。また,傾斜面が画素全体に設けられているため,傾斜面が緩く,液晶の配向方向を規定するには十分とはいえないことが分かった。傾斜面を急峻にするには構造物を厚くする必要があるが,誘電体の構造物を厚くすると装置の動作中に構造物に電荷が蓄積され,蓄積された電荷のために電極間に電圧を印加しても液晶分子の方向が変化しないという,いわゆる焼き付きと言われる現象が生じることが分かった。」(段落【0014】,【0015】),「このように,VA方式の液晶表示装置においては,視角特性を改善するための画素内での配向分割を実現する場合に,各種の問題があった。本発明の目的は,VA方式の液晶表示装置における視角特性を改善することであり,コントラスト,動作速度などは従来と同様に良好なままで,視角特性もIPS方式と同程度かそれ以上に良好なVA方式の液晶表示装置を実現することを目的とする。」(段落【0016】)d「図9は,本発明の原理を説明する図である。図9に示すように,本発明によれば,従来の垂直配向膜を使用し,液晶材料としてネガ型液晶を封入したVA方式において,電圧を印加した時に,液晶が斜めに配向される配向方向が,1画素内において,複数の方向になるように規制するドメイン規制手段を設ける。ドメイン規制手段は2枚の基板の少なくとも一方に設ける。また,ドメイン規制手段として機能するものとしては各種あるが,少なくとも1つのドメイン規制手段は,斜面を有するものである。・・・」(段落【0017】)e「液晶の配向が斜めになる方向はドメイン規制手段により決定される。図11は,ドメイン規制手段として突起を使用した場合の配向方向を示す図である。図11の(1)は,2つの斜面を有する土手であり,土手を境に180度異なる2つの方向に配向される。図11の(2)は四角錐であり,四角錐の頂点を境に90°ずつ異なる4つの方向に配向される。図11の(3)は半球であり,液晶の配向は,基板に垂直な半球の軸を中心として,回転対称になる。図11の(3)であれば,全視角に対して同じ表示状態になる。しかし,ドメインの数及び向きは多ければ多いほどよいというものではない。偏光板の偏光方向との関係で,斜めの液晶の配向が回転対称になる場合には,光の利用効率が低いという問題が生じる。これは,液晶が放射状に無段階にドメインを形成した場合,偏光板の透過軸及び吸収軸の方向の液晶はロスとなり軸に対して45°方向の液晶がもっとも効率がよいためである。光の利用効率を高めるためには,液晶の配向が斜めになる方向が,主として4つ以下の方向であり,4つの方向の場合には液晶表示装置の表示面への投影成分が90°ずつ異なる方向になるようにすることが望ましい。」(段落【0022】)f「図12の(1)では,両側あるいは片側の基板のITO電極12,13にスリットを設ける。・・・電圧を印加しない状態では,液晶分子は基板表面に対して垂直に配向するが,電圧を印加すると電極スリット部(電極エッジ部)で基板表面に対して斜めの方向の電界が発生する。この斜めの電界の影響で液晶分子の傾斜方向が決定され,図示のように左右方向に液晶の配向方向が分割される。この例では電極のエッジ部に生じる斜めの電界で液晶を左右方向に配向するので,斜め電界方式と呼ぶこととする。・・・」(段落【0024】)g「図12の(2)では,両側の基板上に突起20を設ける。・・・電圧を印加しない状態では液晶分子は基本的には基板表面に対して垂直に配向するが,突起の傾斜面上では若干の傾斜を持って配向する。電圧を印加すると液晶分子はその傾斜方向に配向する。また,突起に絶縁物を用いると電界が遮断され(斜め電界と方式に近い状態:電極にスリットを設けたのと同じ),更に安定な配向分割が得られる。この方式を両面突起方式と呼ぶこととする。」(段落【0025】)h「この場合,各突起又は窪み又はスリットを所定のサイクルで屈曲した複数本の突起又は窪み又はスリットとすることにより,配向分割をより安定的に行うことが可能である。また,両側の基板に突起又は窪み又はスリットを配置する場合には,それらを半ピッチずれて配置するようにする事が好ましい。」(段落【0028】)i「図40は,電気的接続部分における液晶の配向分布を説明する図であり,突起20Aとスリット21が平行に設けられている部分では,上から見ると突起及びスリットの延びる方向に垂直な方向に液晶が配向するが,・・・」(段落【0059】)j「第6実施例のパネルは,第5実施例のパネルにおける突起20Aとセル電極13のスリット21の形状を変更したものである。図42は,第6実施例における突起20Aとセル電極13をパネルに垂直な方向から見た時の基本的な形状を示す図である。図示のように,突起20Aをジグザグに屈曲させており,それに応じてセル電極13のスリット21もジグザグに屈曲させている。これにより,図43に示すように規則的に4分割されたドメインが生成される。
・・・」(段落【0060】),「図47と図48は第6実施例における視角特性を示す図である。このように,視角特性は非常に良好であり,配向異常部もほとんど認められなかった。また,応答速度はスイッチング速度τが17.7msで,超高速スイッチングが可能である。」(段落【0064】)(ウ)上記(イ)の各記載と図面(甲4)を総合すれば,本件明細書2には,?@負の誘電率異方性を有するネガ型液晶材料を使用し,電圧無印加時には液晶分子が垂直方向に配向し,電圧印加時には液晶分子が水平方向に傾斜するVA方式の液晶表示装置においても,表示状態の視角依存が生じるという問題があったが,電圧印加時の液晶分子の配向方向(液晶分子の傾斜方向ないし液晶の配向が斜めになる方向)を1画素内で複数の異なる方向に分割することにより,視角特性を改善することができること,液晶の配向方向は,「ドメイン規制手段」により生じる斜め電界(基板表面に対して斜めの方向の電界)の効果により規制できること,液晶の配向方向は,偏光板の透過軸及び吸収軸の方向に対して45°方向とすることが最も効率が良いこと(複屈折効果が最大となること),光の利用効率を高めるためには,液晶の配向方向が,主として4つ以下の方向であり,4つの方向の場合(4つのドメインを形成する場合)には,液晶表示装置の表示面への投影成分が90°ずつ異なる方向になるようにすることが望ましいこと(4つの方向のそれぞれが偏光板の透過軸及び吸収軸の方向に対して45°方向となるため)が開示され,?Aこのように1画素内に液晶分子の配向方向が異なる4つのドメインを形成し,液晶の配向方向が液晶表示装置の表示面への投影成分が90°ずつ異なる方向になるようにすることを実現するための構成として,本件発明2は,「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)と「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)を備え,「前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」を,「前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分」を有し,前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,「前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており,前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される」構成(構成要件DないしG)を採用したこと,すなわち,第1のドメイン規制手段と第2のドメイン規制手段とがジグザグに屈曲するように配置され,しかも,第1のドメイン規制手段と第2のドメイン規制手段は,それぞれ第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有しているため,その屈曲部は略90°となること,電圧が印加された時の斜め電界の効果により液晶の配向方向は,4方向で,それぞれが偏光板の透過軸及び吸収軸の方向に対して45°方向となることが開示されていることが認められる。
加えて,本件明細書2の段落【0028】(「この場合,各突起又は窪み又はスリットを所定のサイクルで屈曲した複数本の突起又は窪み又はスリットとすることにより,配向分割をより安定的に行うことが可能である。また,両側の基板に突起又は窪み又はスリットを配置する場合には,それらを半ピッチずれて配置するようにする事が好ましい。」),段落【0059】(「図40は,電気的接続部分における液晶の配向分布を説明する図であり,突起20Aとスリット21が平行に設けられている部分では,上から見ると突起及びスリットの延びる方向に垂直な方向に液晶が配向するが,・・・」)の各記載(前記(イ)h,i)と,図40(スリット接続部における配向分布の例を示す図)には,2本の突起部分とその中間の1本のスリット部分に挟まれた領域(間隙部分)の複数の液晶分子が,電圧をかけたときに,いずれも突起及びスリットの延びる方向に垂直な方向に(液晶分子が端部に向けて)配向することが図示されていることとを総合すれば,本件明細書2に接した当業者であれば,本件発明2においては,第1の基板に設けられた第1のドメイン規制手段と第2の基板に設けられた第2のドメイン規制手段は,それぞれ第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有し,第1のドメイン規制手段の直線状成分と第2のドメイン規制手段の直線状成分とが互いに平行かつ交互に配置されているため(構成要件DないしF),第1のドメイン規制手段により生じる斜め電界の効果による液晶分子の傾斜方向(配向規制方向)と,当該第1のドメイン規制手段と平行に配置された第2のドメイン規制手段により生じる斜め電界の効果による液晶分子の傾斜方向(配向規制方向)とが一致し,第1のドメイン規制手段と第2のドメイン規制手段によって形成されたドメイン内の液晶分子が安定的に配向するという技術的意義を読み取れることは自明であるものと認められる。
(エ)そして,?@前記(ウ)のとおり,本件発明2における電圧印加時の液晶の配向方向の規制は,「ドメイン規制手段」により生じる斜め電界の効果によるものであること,?A本件明細書2の段落【0024】(前記(イ)f)及び図12の(1)(上側基板と下側基板の両基板に電極に設けられたスリットが図示されもの)には,電圧印加時に「電極スリット部(電極エッジ部)」に生じる斜め電界を利用して液晶を配向させる原理が示されていること,?B本件明細書2の段落【0028】(前記(イ)h)には,「配向分割をより安定的に行うこと」を可能とする構成として「突起又は窪み又はスリット」の3種類が開示されておいること,?C前記(ア)のとおり,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載中に,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかが,斜面を有する形態のものでなければならないことを規定する文言はなく,また,請求項1を引用する請求項8は,「前記第1及び第2のドメイン規制手段は,電極に設けられたスリット」である液晶表示装置の発明であること(前記(イ)a),以上の?@ないし?Cによれば,電極のスリット部が本件発明2の「ドメイン規制手段」に当たることは明らかであるから,イ号液晶モジュールの対向基板にパターン加工されて形成された対向電極のスリット及び同TFT基板にパターン加工されて形成された画素電極のスリットは,斜面を有する形態かどうかを検討するまでもなく,原告が主張するとおり,それぞれ「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たるものと認められる。
(オ)aこれに対し被告は,本件明細書2には,「ドメイン規制手段として機能するものとしては各種あるが,少なくとも1つのドメイン規制手段は,斜面を有するものである。」(段落【0017】),「(本発明を適用すればこれらの問題を解決し,)IPS型LCDの視角特性を有すると共にTN型LCDを凌ぐ応答速度のLCDが実現できる。しかも,それぞれの基板に突起又は窪みを設けるだけで実現できるため,製造面でも容易に実現できる。」(段落【0303】)との記載があるとおり,突起又は窪みによって形成されたドメイン規制手段によって,初めて本件発明2の効果が得られることを明らかにし,また,VA方式の液晶表示装置であっても動作速度を従来と同様の良好さを確保するという本件発明2の目的(段落【0016】)は,少なくとも1つのドメイン規制手段が斜面を有する形態であることで,電圧印加時に同斜面近傍の液晶がトリガとなって他の部分の液晶についても直ちに配向させることにより実現されるのであり,単にスリットを設けただけでは,トリガを得ることができず,本件発明2の効果を奏することはできないから,本件発明2における「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」のいずれかは,斜面を有する形態のものでなければならない旨主張する。
しかし,本件明細書2の段落【0024】に,両側あるいは片側の基板の電極にスリットを設けた場合,「電圧を印加すると電極スリット部(電極エッジ部)で基板表面に対して斜めの方向の電界が発生」し,「この斜めの電界の影響で液晶分子の傾斜方向が決定され」,「電極のエッジ部に生じる斜めの電界で液晶を左右方向に配向する」との記載(前記(イ)f)があるとおり,電極のスリット部が斜め電界の効果を生じさせるドメイン規制手段であることは明らかであって,単にスリットを設けただけでは,本件発明2の効果を奏することはできないとはいえないし,また,本件明細書2の段落【0017】の「ドメイン規制手段として機能するものとしては各種あるが,少なくとも1つのドメイン規制手段は,斜面を有するものである。・・・」との記載(前記(イ)d)は,実施例として示したものが斜面を有するものであることを指摘したにすぎず,電極のスリット部が斜め電界の効果を生じさせるドメイン規制手段であることを否定するものではない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
b次に,被告は,イ号液晶モジュールのTFT基板及び対向基板には,絶縁膜ないしカラーフィルターがそれぞれ設けられているにすぎず,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」は設けられていないから,イ号液晶モジュールは,「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)の構成を有しない旨主張する。
しかし,?@本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載には,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」が基板に「直接」設けられたものに限定する文言はないこと,?A前記(1)のとおり,イ号液晶モジュールにおいては,対向基板の表面に,赤(R),緑(G),青(B)のカラーフィルター,対向電極及び垂直配向膜が順に形成され,TFT基板の表面に,絶縁膜,画素電極及び垂直配向膜が順に形成されていることに照らすならば,イ号液晶モジュールの対向電極のスリットは「前記第1の基板に設けられ」た「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)に,画素電極のスリットは「前記第2の基板に設けられ」た「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たるといえるから,被告の上記主張は,採用することができない。
(カ)以上によれば,イ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件B,Cを充足する。
構成要件DないしGについて(ア)前記(1)の認定事実によれば,?@イ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面イ-1に示すように,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要件D),?Aイ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)は,別紙図面イ-2に示すように,a軸と平行な方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要件E),?Bイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-3に示すように,対向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,それぞれ互いに平行かつ交互に配置されていること(構成要件F),?Cイ号液晶モジュールは,別紙図面イ-3に示すように,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン(別紙図面イ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されること(構成要件G)が認められる。
したがって,イ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件DないしGをいずれも充足する。
(イ)aこれに対し被告は,本件発明2は,画素内での配向分割を実現し,視覚特性を改善することを目的とするものであるから(本件明細書2の段落【0016】),本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきであって,イ号液晶モジュールの画素電極は,1画素(RGBの各画素)につきそれぞれ異なる電圧が印加される2枚の画素電極により形成されているのであるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提に,本件発明2の構成要件Eの充足の有無を判断すべきであるところ,第1の画素電極及び第2の画素電極は,直線状のa軸成分や直線状のb軸成分を有していないから,イ号液晶モジュールは,構成要件Eを充足しない旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,前記イ(ウ)認定のとおり,本件発明2は,1画素内に液晶分子の配向方向(傾斜方向)が略90°ずつ異なる4種類のドメインを形成するための構成として,第1の基板に設けた第1のドメイン規制手段と第2の基板に設けた第2のドメイン規制手段は,それぞれ第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有し,第1のドメイン規制手段の直線状成分と第2のドメイン規制手段の直線状成分とを互いに平行かつ交互に配置したものであるから,本件発明2におけるドメインは,1画素内において液晶分子の配向方向(傾斜方向)が規制された領域を意味し,第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段は,1画素内において,液晶分子の配向方向(傾斜方向)が異なる4つの方向となるように規制するものであることを理解できる。
しかるに,イ号液晶モジュールで採用されたS-PVA技術においては,「画素を構成する赤(R),緑(G),青(B)の各ピクセルは,AとBの二つのサブピクセルから成る。サブピクセルAとBは異なった電圧が加えられるため,液晶分子の傾斜角も異なる。」こと(前記(1)),甲7の添付資料2の図5,6(原文55頁)には,サブピクセルAとサブピクセルBとで,液晶の配向方向は,z軸に対する傾斜角がθA,θBと異なるものの,x-y平面内の角度は異ならない態様が示されていることに照らすならば,イ号液晶モジュールにおいては,1画素(1ピクセル)は異なる電圧が加えられる二つの「サブピクセル」で構成されているが,二つのサブピクセル間では,電圧印加時における電圧の違いにより液晶分子の傾斜角が異なるように規制されるものの,基板に垂直な方向から見た液晶分子の配向方向(傾斜方向)が異なるように規制されるものではないから,イ号液晶モジュールにおいては,第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段の形状及び配置は,1画素(1ピクセル)を一つのまとまりとしてみるべきであって,これをサブピクセルごとに一つのまとまりとしてみることは,本件発明2の技術思想に合致しないものであって,相当ではない。
したがって,イ号液晶モジュールの画素電極を,1画素内の第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提として,本件発明2の構成要件Eの充足性を否定する被告の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
なお,被告は,イ号液晶モジュールの画素電極の欠損部(スリット)は,直線状のa軸成分と直線状のb軸成分を有していない旨主張するが,別紙図面イ-2から明らかなとおり,被告の上記主張は理由がない。
b被告は,イ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではないから,「ドメイン規制手段」によって形成される「ドメイン」がイ号液晶モジュールに存在することもなく,本件発明2の構成要件Gを充足しない旨主張する。
しかし,前記イにおいて説示したとおり,イ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」を備えているから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
(3) まとめ以上によれば,イ号液晶モジュールは,構成要件AないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。
2 ロ号液晶モジュールの本件発明2の構成要件充足性(争点2)について(1) ロ号液晶モジュールの構成甲8(添付資料を含む。),10によれば,?@ロ号液晶モジュールのパネル部分であるロ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には,赤(R),緑(G),青(B)のカラーフィルター,対向電極及び垂直配向膜が順に形成され,TFT基板の表面には,絶縁膜,画素電極及び垂直配向膜が順に形成されていること,?A対向電極は,対向基板にパターン加工されており,別紙図面ロ-1に示すような形状の対向電極のスリット(対向電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,?B画素電極は,TFT基板にパターン加工されており,別紙図面ロ-2に示すような形状の画素電極のスリット(画素電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,?C対向基板とTFT基板を重畳させた状態とした場合,対向電極のスリットと画素電極のスリットは,別紙図面ロ-3に示すように,平行かつ交互の配置となることが認められる。
(2) 構成要件充足性構成要件Aについて前記(1)の認定事実によれば,ロ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には対向電極及び垂直配向膜が,TFT基板の表面には画素電極及び垂直配向膜が形成されているのであるから,ロ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であることが認められ,本件発明2の構成要件A,Hを充足する。
構成要件B,Cについて(ア)前記1(2)イ(エ)のとおり,電極のスリット部が本件発明2のドメイン規制手段に当たることは明らかであるから,ロ号液晶モジュールの対向基板にパターン加工されて形成された対向電極のスリット及び同TFT基板にパターン加工されて形成された画素電極のスリットは,斜面を有する形態かどうかを検討するまでもなく,それぞれ「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たるものと認められる。
これに反する被告の主張は,前記1(2)イ(オ)において説示したのと同様の理由により,いずれも採用することができない。
(イ)したがって,ロ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件B,Cを充足する。
構成要件DないしGについて(ア)前記(1)の認定事実によれば,?@ロ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面ロ-1に示すように,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要件D),?Aロ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)は,別紙図面ロ-2に示すように,a軸と平行な方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要件E),?Bロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-3に示すように,対向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,それぞれ互いに平行かつ交互に配置されていること(構成要件F),?Cロ号液晶モジュールは,別紙図面ロ-3に示すように,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン(別紙図面ロ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されること(構成要件G)が認められる。
したがって,ロ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件DないしGをいずれも充足する。
(イ)被告は,ロ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではないから,「ドメイン規制手段」によって形成される「ドメイン」がロ号液晶モジュールには存在せず,構成要件Gを充足しない旨主張する。
しかし,前記イのとおり,ロ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を備えているから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
(3) まとめ以上によれば,ロ号液晶モジュールは,構成要件AないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。
3 ハ号液晶モジュールの本件発明2の構成要件充足性(争点3)について(1) ハ号液晶モジュールの構成甲9(添付資料を含む。),10によれば,?@ハ号液晶モジュールのパネル部分であるハ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には,赤(R),緑(G),青(B)のカラーフィルター,対向電極及び垂直配向膜が順に形成され,TFT基板の表面には,絶縁膜,画素電極及び垂直配向膜が順に形成されていること,?A対向電極は,対向基板にパターン加工されており,別紙図面ハ-1に示すような形状の対向電極のスリット(対向電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,?B画素電極は,TFT基板にパターン加工されており,別紙図面ハ-2に示すような形状の画素電極のスリット(画素電極の切れ目)が,連続して繰り返し規則的に配置されていること,?C対向基板とTFT基板を重畳させた状態とした場合,対向電極のスリットと画素電極のスリットは,別紙図面ハ-3に示すように,平行かつ交互の配置となること,?Dハ号液晶モジュールでは,S-PVA技術が採用されていることが認められる。
また,上記認定事実と甲7の添付資料2(原文52頁)の記載(前記1(1))を総合すると,ハ号液晶パネルでは,別紙図面ハ-2に示すような形状の画素電極のスリットで囲まれた部分(点線で囲まれた部分)が一つのピクセル(画素)を構成し,このピクセルは,異なった電圧が加えられる二つのサブピクセルから成ることが認められる。
(2) 構成要件充足性構成要件Aについて前記(1)の認定事実によれば,ハ号液晶パネルは,観察面側に配置された対向基板とバックライト側に配置されたTFT基板との間に,負の誘電率異方性を有する液晶を狭持する構造を有し,対向基板の表面には対向電極及び垂直配向膜が,TFT基板の表面には画素電極及び垂直配向膜が形成されているのであるから,ハ号液晶モジュールは,対向基板(第1の基板)とTFT基板(第2の基板)との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には液晶が対向基板及びTFT基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置であることが認められ,本件発明2の構成要件A,Hを充足する。
構成要件B,Cについて(ア)前記1(2)イ(エ)のとおり,電極のスリット部が本件発明2のドメイン規制手段に当たることは明らかであるから,ハ号液晶モジュールの対向基板にパターン加工されて形成された対向電極のスリット及び同TFT基板にパターン加工されて形成された画素電極のスリットは,斜面を有する形態かどうかを検討するまでもなく,それぞれ「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たるものと認められる。
これに反する被告の主張は,前記1(2)イ(オ)において説示したのと同様の理由により,いずれも採用することができない。
(イ)したがって,ハ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件B,Cを充足する。
構成要件DないしGについて(ア)前記(1)の認定事実によれば,?@ハ号液晶モジュールの対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)は,別紙図面ハ-1に示すように,a軸と平行な方向(第1の方向)に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とa軸と略90°異なるb軸と平行な方向(第2の方向)に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要件D),?Aハ号液晶モジュールの画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)は,別紙図面ハ-2に示すように,a軸と平行な方向に延びる直線状のa軸成分(直線状成分)とb軸と平行な方向に延びる直線状のb軸成分(直線状成分)とを有していること(構成要件E),?Bハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-3に示すように,対向基板及びTFT基板に垂直な方向から見た時に,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分と画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)のa軸成分及びb軸成分とが,それぞれ互いに平行かつ交互に配置されていること(構成要件F),?Cハ号液晶モジュールは,別紙図面ハ-3に示すように,対向電極のスリット(第1のドメイン規制手段)及び画素電極のスリット(第2のドメイン規制手段)によって,液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン(別紙図面ハ-3記載の?@ないし?Cの領域)が形成されること(構成要件G)が認められる。
したがって,ハ号液晶モジュールは,本件発明2の構成要件DないしGをいずれも充足する。
(イ)aこれに対し被告は,本件発明2の構成要件の充足性を判断するに当たっては,画素電極は,TFT基板側に形成され,同一電圧が印加される1枚の電極としてとらえるべきであって,ハ号液晶モジュールの画素電極は,1画素(RGBの各画素)につきそれぞれ異なる電圧が印加される2枚の画素電極により形成されているのであるから,第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提に,本件発明2の構成要件Eの充足の有無を判断すべきであるところ,第1の画素電極及び第2の画素電極は,直線状のa軸成分や直線状のb軸成分を有するスリットを備えていないから,ハ号液晶モジュールは,構成要件Eを充足しない旨主張する。
しかし,前記1(2)ウ(イ)aにおいて説示したのと同様の理由により,ハ号液晶モジュールの画素電極を,1画素内の第1の画素電極のスリットの形状及び第2の画素電極のスリットの形状を前提として,本件発明2の構成要件Eの充足性を否定する被告の主張は,その前提において失当であり,採用することができない。
なお,被告は,ハ号液晶モジュールの画素電極の欠損部(スリット)は,a軸及びb軸という2つの軸に平行に延びる直線状の欠損部が設けられていない旨主張するが,別紙図面ハ-2から明らかなとおり,被告の上記主張は理由がない。
b被告は,ハ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」ないし「第2のドメイン規制手段」を有するものではないから,「ドメイン規制手段」によって形成される「ドメイン」がイ号液晶モジュールには存在せず,構成要件Gを充足しない旨主張する。
しかし,前記イのとおり,ハ号液晶モジュールは,「第1のドメイン規制手段」及び「第2のドメイン規制手段」を備えているから,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
(3) まとめ以上によれば,ハ号液晶モジュールは,構成要件AないしHをすべて充足するから,本件発明2の技術的範囲に属するものと認められる。
4 本件特許権2に基づく権利行使の制限の有無(争点5)について(1) 無効理由1(新規性の欠如)についてア被告は,本件発明2は,乙12(特開平6-301036号公報)に記載された発明(乙12記載発明)と同一であるから,本件特許2には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(同法123条1項2号)があると主張する。
すなわち,被告は,乙12記載の液晶表示装置(乙12記載発明)は,「第1の基板と第2の基板との間に誘電率異方性が負の液晶を挟持し,電圧を印加しない時には前記液晶が前記第1及び第2の基板に垂直な方向に配向する液晶表示装置」(本件発明2の構成要件A,H)であって,TFT基板(22)上に設けられた画素電極(22a)の端部(エッジ)及び対向電極(26)側に設けられた開口部(26A)の端部(エッジ)は,「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)であって,それぞれ「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」とを有し(構成要件D,E),「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており」(構成要件F),別紙図面(乙12)の図2の修正図の領域1ないし4に示すように又は図4に1画素につき4本のディスクリネーションラインが図示されているように,画素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(エッジ)により「前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される」構成(構成要件G)を備えているから,本件発明2と乙12記載発明は同一である旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
イ(ア) 乙12には,次のような記載がある。
a「このとき,図13に示すように,画素電極(2a)の形成領域では,当該装置の背面から照射される光が透過されるが,これ以外の領域にはコントラスト向上のための遮光膜が形成されており〔以下この領域を遮光領域(8)と称する〕,この遮光領域(8)では,光は透過されない。しかし,光が透過する画素電極(2a)の形成領域においても,図13に示すように,液晶分子の配向方向の境界を示す縞〔以下ディスクリネーションライン(9)と称する〕が各画素上にあらわれ,この部分は遮光されている。」(段落【0010】),「ところで,垂直配向膜間に液晶を封入する際に,液晶分子の配向方向がどうしても不均一になってしまうために,初期条件における各画素の液晶分子の配向方向にバラツキが生じる。このため,たとえ同1条件の電圧を各画素に印加したとしても,図13に示すようにディスクリネーションライン(9)が各画素に対して同じ箇所に現れずに,不均一に現れる。」(段落【0011】),「よってディスクリネーションライン(9)の出現箇所が各画素についてまちまちであるために,画像のザラツキ(表示画像が黒い画面なら,その黒い部分に白い砂を撒いたように見える現象)があらわれるといった問題が生じていた。」(段落【0012】)b「従って,開口部(14)の形成領域に存在する液晶分子が鉛直方向にかつ安定に立ちきっているので,開口部(14)の形成領域にある液晶分子との相互作用により,開口部(14)の形成領域周辺にある液晶分子の配向性もまた安定する。よって,各画素の液晶分子の配向方向が,例えば,画素の中心に向かって配向するというように,ある規則性をもって配向される。」(段落【0016】),「これにより,各画素形成領域の同じ位置に開口部(14)を設ければ,液晶分子が全画素について同じように配向されるので,画素ごとに液晶分子の配向方向が多少ばらついていたとしても,液晶分子の配向方向を示すディスクリネーションラインが各画素についてほぼ同じ箇所に均一に現れる。よって,画像のザラツキを抑止することが可能になる。」(段落【0017】)c「このとき,開口部(26A)には対向電極(26)が存在しないので,その領域内での電界は微弱であり,開口部(26A)の形成領域に存在する液晶分子(24A)は,電界の影響を殆ど受けない。よってこの領域内の液晶分子は,当初の垂直配向の状態を保持し,垂直に立ちきっており,かつ安定である。従って,開口部(26A)の形成領域に存在する液晶分子(24A)が安定に垂直に立ちきっているので,開口部(26A)の形成領域にある液晶分子(24A)との相互作用により,開口部(26A)の形成領域周辺にある液晶分子(24A)の配向性もまた安定になる。よって,各画素の液晶分子(24A)の配向方向が,図5(判決注・「図2」の誤り)に示すように,画素の中心部に向かうように配向する。」(段落【0022】)d「これにより,各画素形成領域の同じ位置に開口部(26A)を設ければ,液晶分子(24A)が全画素について同じように配向されるので,多少画素ごとに液晶分子の配向方向がばらついていたとしても,図4に示すように,液晶分子(24A)の配向方向の境界線を示すディスクリネーションラインが各画素について均一に現れる。よって,画像のザラツキを抑止することが可能になる。」(段落【0023】)e「TFT基板(22)上にITO膜からなり,縦300μm,横200μmの画素電極(32a)が形成され,・・・垂直配向された液晶分子(24A)を有する液晶層が形成され,その上にITO膜からなる対向電極(26)が形成されてなる。」(段落【0033】),「・・・対向電極(26)には,画素の両方の対角線に沿った領域に,幅5μmの長方形の形状を有する開口部(46A)がX字状に設けられ」(段落【0034】)f図2には,第1の実施例に係る液晶表示装置の構成が,図2のA-A’線断面図として示されている図3には,TFT基板(22)上に設けられた画素電極(22a)の端部(エッジ)が,図4には,「ディスクリネーションライン(29)」がそれぞれ図示されている。
(イ)上記(ア)の記載を総合すれば,乙12においては,画素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(エッジ)によって,図2に示すように,画素の液晶分子(24A)の配向方向が画素の中心部に向かうように配向することが開示されており,画素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(エッジ)は,本件発明2の「ドメイン規制手段」として機能することが認められる。
しかし,画素電極(22a)の端部(エッジ)及び開口部(26A)の端部(エッジ)によって形成されるドメインは,図2から明らかなとおり(液晶分子(24A)が放射状8方向に配向することが示されている。),「前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメイン」(構成要件G)には当たらない。
ウ以上によれば,乙12の液晶表示装置(乙12記載発明)は,本件発明2の構成要件Gの構成を備えていないから,本件発明2は,乙12記載発明と同一であるとの被告の主張(無効理由1)は,理由がない。
(2) 無効理由2(進歩性の欠如?@)についてア被告は,本件発明2は,乙16(特開平8-29812号公報),乙17(特開平7-234414号公報)及び乙27(特開平8-313923号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
イ 乙16の記載事項(ア) 乙16には,次のような記載がある。
a「この液晶表示素子は各画素の電極形状および配置の特有性から基板平面方向の電界成分をもたせ,すなわち液晶層内に斜め電界を生じるようにしており,このため各画素内において斜め電界の方向が2以上となり,その電界の境界部に積極的に分子配列の乱れを形成して光散乱状態を得て高いコントラスト比を達成するものであり,前述した諸々の問題点を解決し得るものである。」(段落【0011】),「すなわち,この液晶表示素子によれば,電極への電圧印加制御により素子を透過する光を透過と散乱のいずれかに制御することができる。」(段落【0012】)b「本発明に用いる液晶表示素子の電極は,第1の基板の第1の電極が一画素内に導電体部と非導電体部を有し,第2の基板の記第2の電極が一画素内に導電体部と非導電体部を有し,第1の電極の導電体部が第2の電極の非導電体部の少なくとも一部に面するように対向しており,第2の電極の導電体部が第1の電極の非導電体部少なくともの一部に面するように対向している。」(段落【0020】),「すなわち,これら電極間に電圧を印加すると,基板面に平行な電界成分をもつ電界である斜め電界がゲストホストの二色色素として染料が添加された液晶層内に形成される。」(段落【0021】),「第1および第2の電極の導電体部と非導電体部の対面配置によって,傾き方向が相互に逆となる2方向の斜め電界が生じ,これら電界に沿って再配列する液晶分子およびゲストの染料分子は電界の境界領域で分子配列が乱れる。このためこの領域を通過する光は散乱状態になる。一画素内で多くの分子配列の乱れが生じるようにすることで,画素ごとに光透過と光散乱を制御することができて,高コントラスト比の表示画像を得ることが可能になる。」(段落【0022】)c「また,ベンド配列を図5(b)に示す。上下基板11,12の配向膜15,16に垂直配向膜を用い,これら膜をラビング処理し,その方向F,Rを一致されるように基板を組み合わせると,負の誘電異方性のネマティック液晶の液晶分子Mは図のように配向膜付近で処理方向F,Rに僅かに傾いた液晶配列部分と液晶層中央部の垂直方向配列部分の組み合わせになる。」(段落【0026】)d「スプレイ配列,ベンド配列ともに,基板間に基板面方向に成分をもつ斜め電界を印加すると,液晶分子が電界方向に沿って再配列しやすく,近接する領域で方向の異なる斜め電界が発生すると,境界部に液晶分子と染料分子の乱れが生じて,透過する光を散乱する。」(段落【0027】)e「以上から,本発明の液晶表示素子は,入射する光の振動方位が電圧無印加時の液晶分子配列方位の振動方向に偏っていればいるほど,すなわち実質的に平行であれば全入射光に対する光の散乱度合いを高めることができる。高いコントラスト比を得るには,前記2つの光散乱現象が生じない光成分を20%以下に抑えることが望ましく,これを実現するには入射させる光の偏光度合いを80%以上として,その偏光方向(偏光軸または振動面)を電圧無印加時の液晶分子配列方位の振動方向とすればよいこととなる。具体的には入射光側の基板の配向膜の配向処理方向であり,偏光方向をこの配向処理方向に対して±10°以内に収めるようにする。」(段落【0036】)f「(実施例1)図4(a)に示すような構造からなる上基板11として非画素部全域にクロムからなるブラックマトリクスを形成し,各画素に屈曲ストライプパターンの非導電体部13bと導電体部13aからなるITOの共通電極13を形成したガラス基板を用い,下基板12として,導電体部14aと非導電体部14bを屈曲ストライプパターンとした,・・・画素電極14を有するガラス基板を用いた。」(段落【0039】)g「図4(c)は下電極14の一画素のパターンを示しており,導電体部の幅は5μm,非導電体部の幅は10μmである。上下基板を対向させた状態で,上電極の導電体部13aと下電極の非導電体部14bが対面し,下電極の導電体部14aと上電極の非導電体部13bが対面する。図中,矢印Rはラビング方向で上基板の処理方向Fと同一方向としている。」(段落【0041】)h図4には,1画素内で上下基板に複数のストライプ状に形成された電極を備えた液晶表示装置が図示されている。
(イ)被告は,乙16の液晶表示装置の上下基板に形成された「屈曲ストライプパターン」は,液晶に電圧を印加した時に液晶が配向する方向を規制する「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に当たり,仮に上基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(b))を「第1のドメイン規制手段」,下基板側の「屈曲ストライプパターン」(図4(c))を「第2のドメイン規制手段」とすると,「第1のドメイン規制手段」は「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件D),「第2のドメイン規制手段」は「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」(構成要件E)ており,これらの「屈曲ストライプパターン」を上下基板に垂直な方向から見た時には,「前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されて」(構成要件F)いることが開示されているから,乙16には,構成要件AないしFの開示がある旨主張する。
aそこで検討するに,上記(ア)の記載によれば,乙16の液晶表示装置においては,上基板11に形成された「屈曲ストライプパターン」(導電体部13a,非導電体部13b)と下基板12に形成された「屈曲ストライプパターン」(導電体部14a,非導電体部14b)とによって,電圧印加時に斜め電界を発生させて「液晶分子が電界方向に沿って再配列」することを規制しているから,「屈曲ストライプパターン」は,液晶の配向方向(傾斜方向)を規制する「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に相当することが認められ,また,図4から,「屈曲ストライプパターン」を上下基板に垂直な方向から見た時には,「前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されて」いること(構成要件F)が認められる。
bしかし,図4に示された「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度は,「略90°」であるとはいえないから,「ドメイン規制手段」が「第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D,E)を有していない。
cまた,乙16には,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することについての記載や示唆はない。
かえって,乙16の段落【0036】に,「入射する光の振動方位が電圧無印加時の液晶分子配列方位の振動方向に偏っていればいるほど,すなわち実質的に平行であれば全入射光に対する光の散乱度合いを高めることができ」るので,「高いコントラスト比を得るには,前記2つの光散乱現象が生じない光成分を20%以下に抑えることが望ましく,これを実現するには入射させる光の偏光度合いを80%以上として,その偏光方向(偏光軸または振動面)を電圧無印加時の液晶分子配列方位の振動方向とすればよい」こととなり,「具体的には入射光側の基板の配向膜の配向処理方向であり,偏光方向をこの配向処理方向に対して±10°以内に収めるようにする。」との記載があることに照らすならば,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定すると,偏光方向は入射光側の基板の配向膜の配向処理方向に対して45°となり,偏光方向を「±10°以内に収める」ようにして高いコントラスト比を得ることができなくなるから,乙16において,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することは,発明の効果を阻害することとなる。
dしたがって,乙16には,少なくとも「前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される」との構成(構成要件D,E,G)の開示がないというべきである。これに反する限度で被告の上記主張は,理由がない。
(ウ)以上によれば,乙16には,本件発明2の構成要件AないしC,Fが開示されている。
ウ 乙17の記載事項(ア) 乙17には,次のような記載がある。
a「【発明が解決しようとする課題】・・・従来のLCDは透過率が低く,狭い視角依存性を有するか,または高い駆動電圧を要し,応答速度も遅いといった問題をもっていた。本発明は,このような課題に対処するためになされたもので,光散乱特性が高く,駆動電圧が低く,明るくコントラスト比が高く階調性に優れ,かつ階調表示しても表示が反転することがなく,視野角の極めて広い新規な構成のLCDを提供することを目的とする。」(段落【0009】)b「本発明に係わる液晶組成物および液晶分子配列としては,液晶組成物は正または負の誘電率異方性を有する液晶からなり,電界を印加した際に取り得る2方向以上のチルト方向は,正の誘電率異方性を有する液晶の場合チルトアップ方向であり,負の誘電率異方性を有する液晶の場合チルトダウン方向であり,・・・」(段落【0015】)c「・・・本発明のLCDは,各画素において,実効的に一様な分子配列とすることにより光透過状態を実現し,また2種以上の電界方向をもって,屈折レンズ効果や回折格子効果を得ることにより光散乱状態を実現する。ここで,屈折レンズ効果とは,液晶層厚方向に液晶分子が連続的に傾きを変え液晶層の屈折率が連続的に変化することにより入射した光を屈折させる効果をいう。また,回折格子効果とは,液晶分子の異常光屈折率ne と常光屈折率no とが液晶平面において規則的に交互に出現することにより液晶層に回折格子が形成され,その結果平行光が散乱する効果をいう。このような屈折レンズ効果や回折格子効果による光散乱は,2種以上の電界方向の境界部にウォール(壁)状の分子配列を形成することにより得られる。」(段落【0020】)d「本発明のLCDの一画素における分子配列構造の一例を図1(b)に示す。この図1(b)に示す分子配列構造は,スプレイ配列およびそれに捩じれを加えた分子配列であり,なおかつ上下基板表面における液晶分子プレチルト角が上下でほぼ等しいことを特徴としている。また電圧を印加した場合の分子配列構造を示している。
すなわち,上,下基板11,12にそれぞれ画素単位で複数のストライプを形成する電極13,14を配置し,各電極の導電部13a,14aと非導電部13b,14bを等間隔とし,1/2ピッチずらして対向させる。上,下配向膜15,16の配向方向を同じ方向とし,液晶層20の液晶分子Mをスプレイ配列としている。」(段落【0021】)e「・・・液晶組成物として負の誘電率異方性をもつネマティック液晶組成物を用い,液晶分子配列を上下基板におけるプレチルト角が90°である完全な垂直配列としても同様の効果を得ることができる。・・・」(段落【0022】)f「また,本発明のLCDを捩じれ角0°で作成し,直交した2枚の偏光板間に各ラビング方向(セル平面で考えて上下基板で同一方向である)と一方の偏光板の吸収軸が平行となるように組み合わせると,散乱光源を用いた場合でも透過型のディスプレイとなり得る。この場合,複屈折効果を利用した光学モードとなり,前述した透過率は低下するが,光透過状態を液晶層の光散乱状態によって実現するため視角依存性が少ないといった効果を得る。特に,階調表示をした際に表示が反転するような現象が生じないため,直視型のディスプレイとして,従来のTN-LCD等より優れた表示特性を得ることができる。」(段落【0051】)g「また,図15(b)に示すものは,図13(b)の電極構造の変化形であり,素子平面方向での電極形状がいわゆるストライプ状の形状をなしている場合の電極構造である。つまり,図15(b)に示す電極構造は導電部と非導電部の形状が直線形状をなして平行配列している場合の電極構造を描いたものである。・・・」(段落【0060】),「また,「隙間付き入子」,「重複入子」に比較して,「隙間付きストライプ入子」および「重複ストライプ入子」はウォール(図13(c),図14(c),図15(c)のDLで示した配向不連続点)の出現形状が図17に示すようなギザギザ形状となる。この形状は直線形状と比較して光散乱強度を高めることとなる。こうしたギザギザ形状は電極パターンが整然としたストライプ形状である程,よりギザギザとなることを我々は種々の実験により確認している。このことから,これら「隙間付きストライプ入子」および「重複ストライプ入子」の電極構造は,結果的に強い光散乱強度を得るといった特長をもつ電極構造であるといえる。」(段落【0063】)h「実施例3図24(a)は本実施例において,電極を相対向させた液晶セルの略断面図,図24(b)は1画素領域の上電極パターンを,図24(c)は 1画素領域の下電極パターンを示す。図24(a)および図24(b)に示すように,上基板11として各画素に屈曲ストライプパターンの非導電部13bと導電部13aからなるITOの共通電極13を形成したガラス基板を用いる。なお,非画素部全域にクロムからなるブラックマトリクスを形成する。図24(a)および図24(c)に示すように,下基板12として各画素に屈曲ストライプパターンの非導電部14bと導電部14aからなるITOの共通電極14およびTFTからなるスイッチング素子を形成したガラス基板を用いる。・・・」(段落【0078】)i「・・・回折格子の光散乱効果は,GALE,M.et al.:1979, J.appl.Photogr.Engng, 4,41 によると次式で示される。T=cos2(π△nd/λ)ここで,Tは散乱される光の強度(入射光に対する強度)であり,λは入射光波長である。この式から回折格子の光散乱効果は△ndに依存する。・・・このように,本実施例は他の実施例と同様に液晶分子配列が形成する屈折レンズ効果(前述したウォール配列:液晶層厚方向に液晶分子が連続的に傾きを変え屈折率が連続的に変化することにより入射した光を屈折させる効果)に加え,明確に回折格子効果が得られる構造としている。」(段落【0103】),「・・・電圧無印加状態(図33(a))では,液晶分子は一様に配列(垂直配向)している。これに対して電圧印加状態(図33(b))では,ITOが上下基板で対向しているところではラビング方位にチルトダウンし,逆にTFT基板のITOがない領域では斜め電界が電極ストライプ方向と直交した方向に発生するため,その方向にチルトダウンする。・・・図示するように本実施例のLCDは実施例14に示したLCD同様,電圧を印加した状態において電極ストライプ方向,およびその直交方向偏光成分に対する屈折率が液晶分子の異常光屈折率neと常光屈折率n0が電極ストライプ方向の直交方向に規則的に交互に配列し,その結果,液晶層に回折格子が形成され,平行光を散乱させることができる。」(段落【0106】),「本実施例は,実施例14と同様に回折格子効果および屈折レンズ効果を得る構成となっており,実施例14と比較して電圧無印加時の分子配列が逆(水平配向に対して垂直配向)であり,用いた液晶組成物の誘電率異方性も逆(正に対して負)としたものである。このように本発明のLCDは電圧を印加した状態において電極ストライプ方向およびその直交方向の偏光成分に対する屈折率が液晶分子の異常光屈折率neと常光屈折率n0 が一定方向(一方向以上)に規則的に交互に配列するようにすれば,液晶層には回折格子が形成され,平行光を散乱させる効果を得ることができる。この効果を直交した2方向の偏光成分に対して得るようにすれば,非偏光の光を散乱させることができ高いコントラスト特性が得られるようになる。こうした構成を実現させるには液晶分子のチルト方向(チルト方向およびチルトダウン方向)の自由度が無限大である初期垂直配向に誘電率異方性が負の液晶組成物を用いると容易に実現できる。」(段落【0107】)j図15,24,28には,上下基板に複数のストライプ状に形成された電極を備えた液晶表示装置が,図17には,ウォール(DLで示した配向不連続点)の出現形状が,図33には,実施例15のLCDの電圧無印加時及び電圧印加時の平面的にみた液晶分子配列がそれぞれ図示されている。
(イ)上記(ア)の記載によれば,乙17の液晶表示装置においては,上,下基板にそれぞれ形成された「屈曲ストライプパターン」は,乙16の「屈曲ストライプパターン」(導電部13a,14a,非導電部13b,14b)と同様に,液晶の配向方向(傾斜方向)を規制する「ドメイン規制手段」(構成要件B,C)に相当し,図24,28に示すように,「屈曲ストライプパターン」を上下基板に垂直な方向から見た時には,「前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されて」いること(構成要件F)が認められる。
(ウ)a一方で,図24,28に示された「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度は,「略90°」であるとはいえないから,「ドメイン規制手段」が「第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D,E)を有していない。
bまた,乙17には,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することについての記載や示唆はない。
かえって,乙17の段落【0060】,【0063】及び図15,17には,「導電部と非導電部の形状が直線形状をなして平行配列している場合」や,「電極パターンが整然としたストライプ形状である程」,ウォール(DLで示した配向不連続点)の出現形状がより「ギザギザ」となり,光散乱強度を強めることの開示があることに照らすならば,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定すると,「ギザギザ」形状が弱まり,光散乱強度が低下することが予想されるから,乙17において,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することは,発明の効果を阻害することとなる。
したがって,乙17には,少なくとも「前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成される」との構成(構成要件D,E,G)の開示がないというべきである。
cこれに対し被告は,乙17の段落【0107】等を根拠に,第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分を有する電極を用いることにより「異常光屈折率領域(ne領域)」と「常光屈折率領域(no領域)」を直交した2方向の偏光成分に沿うように交互に配置させることで,高いコントラスト特性の液晶表示装置が得られることの記載ないし示唆がある旨主張する。
しかし,乙17の段落【0107】は,実施例15に関する記載(前記(ア)i)であり,実施例15の電極パターン(図33)は,そもそも,「第1の方向に延びる直線状成分と第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」を有していないし,互いに平行かつ交互に配置されているものではないから,被告の上記主張は,採用することができない。
(エ)以上によれば,乙17には,乙16と同様に,本件発明2の構成要件AないしC,Fが開示されている。
エ 乙27の記載事項(ア) 乙27には,次のような記載がある。
a「【請求項1】互いに対向する2枚の基板と,これら基板面上に形成された縦方向配線および横方向配線により規定される複数の画素の各々に対応して形成された複数の素電極を有し各素電極の主面が前記2枚の基板面と略直交し,かつ隣り合う素電極の主面が互いに対極をなす櫛型壁電極と,前記2枚の基板間に設けられた櫛型壁電極の間隙に充填された液晶とを具備したことを特徴とする液晶表示素子。」b「本発明の液晶表示素子の原理を図1を参照して説明する。図1は1つの画素上に形成された櫛型壁電極の一部を示す斜視図である。画素100は,互いに対向する2枚の基板(図示せず)のうち一方の基板面上に形成された縦方向配線および横方向配線によって規定される複数の画素のうちの1つである。各々の画素に対応して薄膜トランジスタ(TFT),薄膜ダイオード(TFD,MIM素子)などの能動素子(図示せず)が設けられている。図1に示した矢印は画素に対する法線方向を示し,人はこの矢印の先端方向からディスプレイを見る。各々の画素内には,主面が2枚の基板面と略直交し,かつ隣接する主面が互いに対極をなすように,それぞれ複数の壁状の素電極11および素電極12が交互に配置され,かつこれらが1つおきに接続部で結合されて櫛型をなす櫛型壁電極10が設けられる。・・・上記のようなディメンションで櫛型壁電極10を設ける場合,画素内に合計15本の素電極11,12が形成されることになる。さらに,2枚の基板間に設けられた櫛型壁電極10の間隙には液晶13が充填される。なお,本発明の液晶表示素子において,素電極11,12間を1つおきに結合する接続部については壁状であってもなくてもかまわない。」(段落【0009】),「この液晶表示素子では,対極の一方の電極となる素電極11は能動素子に接続され,対極の他方の電極となる素電極12は例えば対向基板に形成された共通電極に接続される。すなわち,電圧印加時にはこれらの対極をなす素電極11,12がそれぞれ従来の液晶表示素子の画素電極および共通電極に対応するものとして機能する。ここで,能動素子は基板面上に形成された縦方向配線および横方向配線,具体的には例えばゲート線(走査線)と信号線を通じて制御が行なわれる。なお,能動素子の構造を改良して一方の基板側からのみ櫛型壁電極の素電極11,12に電圧を印加し,対向する基板上の共通電極をなくしてもよい。そして,櫛型壁電極10の素電極11と素電極12に印加する電圧のオン・オフを制御してこれらの間に充填された液晶分子の配向を制御することにより表示が可能になる。」(段落【0010】)c「まず,ゲスト・ホスト型液晶を用いる場合について説明する。
例えば,液晶として負の誘電異方性を示すn型液晶を用い・・・」(段落【0016】)d「また,液晶として正の誘電異方性を示すp型液晶を用い,これに対して分子の短軸方向で偏光の吸収が大きいn型2色性色素を添加し,溝のない櫛型壁電極を用いてもよい。この場合,電圧無印加時には液晶分子も色素分子もランダムな方向を向いているため,画面上で色素分子の色を認識できる。一方,電圧印加時には液晶分子は電極に垂直すなわち画面に平行に配列し,色素分子もそれにならって平行に配列し分子の短軸方向が画面に垂直に配向するため,色素分子の色が見えなくなる。」(段落【0017】)e「・・・視野角を拡大するために,1画素内を複数のドメインに分割し,それぞれのドメインで櫛型壁電極を構成する素電極が異なる方向へ延びるようにしてもよい。・・・」(段落【0040】)f「・・・各々の画素内には,主面が2枚の基板面と直交し,かつ隣接する主面が互いに対極をなすように,それぞれ複数の素電極11および素電極12が交互に配置され,かつこれらが1つおきに接続部で結合されて櫛型をなす櫛型壁電極10が設けられる。・・・」(段落【0042】)g「図15に示すように,視野角を拡大するために,1画素内を例えば4つのドメインに分割し,それぞれのドメインで櫛型壁電極10を構成する素電極11,12が異なる方向へ延びるようにしてもよい。」(段落【0050】)(イ)上記(ア)の記載と図面(乙27)によれば,?@乙27の液晶表示装置は,1つの画素内に,主面が2枚の基板面と略直交し,かつ隣接する主面が互いに対極をなすように,それぞれ複数の壁状の素電極11及び素電極12が交互に配置され,かつこれらが1つおきに接続部で結合されて櫛型をなす櫛型壁電極10が設けられ,櫛型壁電極10の間隙には液晶13が充填され,電圧印加時にはこれらの対極をなす素電極11,12が,液晶分子の配向を制御する液晶表示装置であり,電圧無印加時にはランダムに配向していた液晶分子が,電圧印加時には電極に垂直すなわち画面に平行に配列させるものであること,?A櫛形壁電極10の横方向部分は,素電極11,12と垂直に接しているものの,液晶分子の配向方向(傾斜方向)を規制していないことが認められる。
上記認定事実によれば,素電極11及び素電極12は,液晶の配向方向を規制するものではあるが,電圧印加時に斜め電界を発生させて液晶の配向方向を規制する構成のものではないから,本件発明2の「ドメイン規制手段」に相当するものではなく,また,仮に素電極11及び素電極12が「ドメイン規制手段」であるといえるとしても,乙27の液晶表示装置は,「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」を有する「ドメイン規制手段」を備えるものではないから,少なくとも「前記第1のドメイン規制手段は,第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第2のドメイン規制手段は,前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有し」,「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置されており」,「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成されること」との構成(構成要件DないしG)を有していない。
これに反する被告の主張は採用することができない。
容易想到性の有無(ア)被告は,VA方式の液晶表示装置の構成及び他方式の液晶表示装置の動作原理との相違,VA方式の液晶表示装置における「マルチドメイン化」の必要性を技術常識として備える当業者であれば,乙16,17,27に基づいて,本件発明2を容易に想到することができた旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
a前記イ,ウのとおり,乙16及び乙17の液晶表示装置においては,ドメイン規制手段である「屈曲ストライプパターン」が互いに平行かつ交互に配置されており,乙16,17は,本件発明2の構成要件AないしC,Fを開示しているが,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度は「略90°」でないため,構成要件D,E,Gの構成の開示がない。
そして,前記イ,ウのとおり,乙16,17には,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することについての記載や示唆はないし,また,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定すると,発明の効果を阻害することとなるので,当業者が,「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定して,本件発明2に想到することは容易であるとはいえない。
bまた,前記エのとおり,乙27においても,構成要件DないしGの構成の開示がない。
cさらに,本件発明2は,VA方式の液晶表示装置において,1画素内に液晶分子の配向方向が異なる4つのドメインを形成し,液晶の配向方向が液晶表示装置の表示面への投影成分が90°ずつ異なる方向になるようにすることを実現するための構成として,構成要件DないしGをすべて備える構成を採用し,これにより第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段によって形成されたドメイン内の液晶分子を安定的に配向させた点において技術的意義があること(前記1(2)イ(ウ))に照らすならば,構成要件DないしGをすべて備える構成とすることが,本件発明2の技術的思想の中核を成す特徴的部分であるものと認められる。
しかし,乙16,17,27のいずれにおいても,構成要件DないしGをすべて備える構成を採用することを示唆する記載は認められない。
d上記aないしcによれば,当業者といえども,乙16,17,27に基づいて,本件発明2を容易に想到することができたものとは認められない。
したがって,被告の上記主張は,理由がない。
(イ)以上によれば,乙16,17,27に記載された発明に基づいて,本件発明2を容易に想到することができたとの被告の主張(無効理由2)は,理由がない。
(3) 無効理由3(進歩性の欠如?A)についてア被告は,本件発明2は,乙9(特開平6-43461号公報)又は乙15(特開平7-311383号公報)に記載された発明と,乙12(特開平6-301036号公報),乙16(特開平8-29812号公報),乙17(特開平7-234414号公報)又は乙18(特開平7-43968号公報)に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件特許2には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法123条1項2号)があると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
イ 乙9の記載事項(ア) 乙9には,次のような記載がある。
a「【発明が解決しようとする課題】本発明の主要な目的は,広い視角に渡って高いコントラストが得られる液晶表示装置を提供することである。」(段落【0005】),「本発明のさらに別の目的は,ドメインの境界が確実に固定されており,かつ局所的なセル条件の変動によって変化しないようなマルチドメイン・セルを有す液晶表示装置を提供することである。」(段落【0007】)b「・・・本発明による液晶表示装置は,アクティブ・マトリクス方式の一つである。それは,マルチドメイン・ホメオトロピック液晶表示装置か,あるいはマルチドメイン・ツイスト・ネマチック液晶表示装置でもよい。・・・」(段落【0010】),「【実施例】図1を参照すると,汎用的な液晶表示装置20は,ガラス等の透明な材料で形成される第1の基板22と第2の基板24を含む。これら2枚の基板は,非常に精確に互いに平行になるよう配置されており,通常,ほぼ4から7ミクロンの距離で互いに離れている。そして2枚の基板間に閉じられた内部空間を形成するため,それらの端部(図示せず)は封止されている。基板24は,その上に連続的な電極28が蒸着されており,この電極はパターンが無いかまたは空き部分のあるパターンを有し,好ましくは,電気伝導性である酸化錫インジウム(ITO)等の透明薄膜層で形成されているものである。基板22は,その上にアレー状電極26が蒸着されており,この電極は液晶表示装置の画素を形成するものである。基板22上にはさらに,電極膜が蒸着されていない選択された領域に,ダイオードまたは薄膜トランジスタ(TFT)30等の半導体素子が形成されている。公知のように,1つの画素のために1個またはそれ以上のTFT30が設けられている。・・・」(段落【0011】)c「図2から図9には,マルチドメイン・ホメオトロピック・セルによる液晶表示装置の様々な電極の実施例が記載されている。・・・本発明においては,ホメオトロピック・セルは,電極間に電場が印加されていないときに,基板に対して垂直な方向に液晶材料の分子が配向することに依っている。汎用的な液晶表示装置とは対照的に,僅かなプレティルトが不必要であり,従ってラビング処理も行われない。この液晶表示装置は,誘電異方性が負でなければならない。・・・」(段落【0018】),「ホメオトロピック液晶表示装置のセルの電極間に電場を印加すると,それによって分子は実質的に電場に垂直な方向に配列する。本発明は,画素電極の端部におけるのと同様に,電極の中の空き部分において横向きの電場を発生するような電極形状を形成することによって,この効果を利用してマルチドメイン液晶表示装置セルを得ている。このドメインの特性は,電極のパターンの形状によって決まる。」(段落【0020】)d「底面電極60の外周の大きさを,上面電極62よりも小さくすることによって,画素の周囲及び切り取り部分の縁における電場の方向を,それぞれの画素が4個のドメインに分割されるような方向にすることができる。それぞれのドメインにおいて液晶表示装置の分子のディレクタは,(電場の無いときは基板に対して垂直なっているのに対し)電場が印加されたときは,常に画素の中心へ向かって傾くように配向している。しかしながら,X型の切り取り部64が,4個の明瞭な液晶ドメイン?T,?U,?V,?Wを定めている。これらのドメインは,それぞれの液晶表示装置セル内の局所的な条件に関わらず,X形の切り取り部64によって正確に決定される。なぜなら一定の境界条件と明確な傾斜方向が,個々の液晶分子に対して確立されるからである。」(段落【0023】),「上下の補償膜の外側にはそれぞれ偏光膜が設けられており,それらの透過軸は互いに直交しているが,液晶表示装置の側端に対してはそれぞれ45度の角度になっている。より一般的には,偏光方向は,電場が印加されているときに分子の傾く方向に対して45度の角度である。例えば図2において,2枚の偏光膜の透過軸は,液晶表示装置の側端に対してやはり45度の角度であり,矢印66及び68で表現されている。」(段落【0024】)e「図5では,底面電極90は,最適幅10ミクロンの長方形の切り取り部91を有し,画素の幅方向に沿ってその長方形の長い方の辺が置かれている。上面電極は,2つの「2重Y」型の切り取り部94a及び94bを有し,その末端部分における幅Yは,5ミクロンが最適であり,中心部分の幅Xは,10ミクロンが最適である。
切り取り部94aは,図5の電極90の長方形の切り取り部91から上の半分を覆うように配置され,切り取り部94bは,電極90の切り取り部91から下の半分を覆うように配置されている。」(段落【0029】)f「図5の画素電極パターンによって,液晶表示装置セルは,8個のドメインに分割することができる。偏光膜の透過軸は,矢印96及び98によって表されている。汎用的な単ドメイン・セルと比較して,相対的な透過効率は81%である。」(段落【0030】)g「図7の電極パターンは,底面電極110が,図5及び図6におけるそれぞれの切り取り部91及び101と同様の2つの長方形の切り取り部111a及び111bを有していることを除いて,多くの点で図6に類似している。上面電極112は,3つのX型切り取り部114a,114b,114cを有し,底面電極110の上部,中部,下部の上に配置されている。中部とは,切り取り部111aと111bの間の部分のことである。図7の電極パターンは,全部で12個の明確なドメインを形成する。この液晶セルは,汎用的な単ドメイン液晶表示セルと比較すると,相対的透過効率は72%である。偏光膜の透過軸は,矢印116及び118で示されている。」(段落【0032】)(イ)a上記(ア)の記載と図面(乙9)によれば,乙9の液晶表示においては,底面電極に形成された長方形の切り取り部と,上面電極に形成されたX型の切り取り部は,電圧印加時における液晶の配向方向(傾斜方向)を規制する「ドメイン規制手段」として機能し,上面電極に形成されたX型の切り取り部は,「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)に,底面電極に形成された長方形の切り取り部は「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に相当し,「第1のドメイン規制手段」であるX型の切り取り部は,図7に示すように,「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D)を有することが認められる。
bしかし,一方で,「第2のドメイン規制手段」である長方形の切り取り部は,「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件E)を有するものとはいえないし,また,図7に示すように,基板に垂直な方向から見た時に,X型の切り取り部の直線状成分と長方形の切り取り部の直線状成分とが,「互いに平行かつ交互に配置されて」(構成要件F)いるとはいえないから,「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成され」(構成要件G)ているものでもない。
また,乙9には,構成要件EないしGの構成についての記載や示唆はない。
(ウ)以上によれば,乙9には,本件発明2の構成要件AないしDが開示されている。
ウ 乙15の記載事項(ア) 乙15には,次のような記載がある。
a「この構造のセルを駆動すると,液晶ダイレクター(121)は,下側電極(101)の周縁部で配向制御傾斜部(103)に従って,左右両側の領域で互いに反対側へ傾けられる。また,上側電極(111)の中央部でも配向制御傾斜部(113L,113R)によってそれぞれ反対側へ傾けられる。即ち,液晶の連続体性のために,図11の左側のゾーンでは,液晶層(120)を挟んだ上下の配向制御傾斜部(113L,103)の作用により,液晶ダイレクター(121)は全て右側へ傾けられるとともに,右側のゾーンでは配向制御傾斜部(113R,103)の作用により,液晶ダイレクター(121)は全て左側へ傾けられる。このように配向制御傾斜部(103,113L,113R)を配置することにより,表示画素が配向ベクトルの異なる複数のゾーンに分割されるとともに,それぞれのゾーンで均一な配向状態となる。」(段落【0036】)b「図12は表示画素部の平面図であり,上下両電極(101,111)の対向部分を上から見た構造を示している。表示画素の周縁を囲って下側の配向制御傾斜部(103)の帯状領域があり,内部には表示画素の対角線に沿って上側に形成された配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)のX字型の領域がある。太矢印は中間調での配向ベクトルの平面射影であり,液晶ダイレクーは全階調について平均的にこの状態にあると見なされる。
尚,矢印方向は,液晶ダイレクターが,その上側を傾ける方向を表している。図から明らかな如く,配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)により上下左右に分割された4つのゾーン(U,D,L,R)では,配向ベクトルはそれぞれの4つの方向へ向けられる。即ち,液晶ダイレクターは同じ初期垂直配向状態から,上下左右のゾーン(U,D,L,R)で,4つのそれぞれの方向へ傾けられる。尚,上で図11を用いて説明した作用は,図12においてL-R領域の断面に関するものであったが,U-D領域の断面についても全く同じ作用があることは言うまでもない。」(段落【0037】)(イ)a上記各記載と図面(乙15)によれば,乙15の液晶表示装置においては,上側電極に形成された配向制御傾斜部(113L,113R,113U,113D)のX字型の領域と下側電極に形成された配向制御傾斜部(103)の帯状領域は,電圧印加時における液晶の配向方向(傾斜方向)を規制する「ドメイン規制手段」として機能するから,それぞれ「前記第1の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第1のドメイン規制手段」(構成要件B)及び「前記第2の基板に設けられ,前記液晶に電圧を印加した時に前記液晶が配向する方向を規制する,第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に相当し,「第1のドメイン規制手段」である配向制御傾斜部のX字型の領域は,図12に示すように,「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D)を有することが認められる。
bしかし,一方で,「第2のドメイン規制手段」である下側の配向制御傾斜部の帯状領域は,「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件E)を有するものとはいえないし,また,図12に示すように,基板に垂直な方向から見た時に,X型の切り取り部の直線状成分と長方形の切り取り部の直線状成分とが,「互いに平行かつ交互に配置されて」(構成要件F)いるとはいえないから,「前記第1及び第2のドメイン規制手段により,前記液晶の配向方向が略90°異なる4種類のドメインが形成され」(構成要件G)ているものでもない。
また,乙15には,構成要件EないしGの構成についての記載や示唆はない。
(ウ)以上によれば,乙15には,本件発明2の構成要件AないしDが開示されている。
エ 乙18の記載事項(ア) 乙18には,次のような記載がある。
a「(実施例1)図1は,本発明を適用したTN型アクティブマトリクス液晶表示装置の一部を示す断面図であり,図2はその液晶表示装置を構成するアクティブマトリクス基板を示す平面図である。
この液晶表示装置は,対向配設されたアクティブマトリクス基板31と対向基板32との間に液晶層33が封入されており,アクティブマトリクス基板31には,ガラス基板31a上に,透明電極(画素電極)31c,線状絶縁膜31dおよび配向膜31eが形成され,対向基板32にはガラス基板32a上に,カラーフィルタ32b,透明電極32cおよび配向膜32eが形成されている。液晶層33の液晶分子は,基板31と32との間で90°ねじれるように配向させられている。上記基板31,32の端部(図示せず)は樹脂等により封止され,周辺回路(図示せず)などが実装されている。」(段落【0025】)b「上記のように構成された本実施例の液晶表示装置においては,線状絶縁膜31dが並設されており,その線状絶縁膜31dの長辺各部の向く方向の平均値が,基板上に投影した液晶分子の配向方向の平均値と交差している。このため,図2に示すように液晶層33を挟む画素電極31cと透明電極32cとに電圧を印加すると,線状絶縁膜31dが存在しない液晶層部分と線状絶縁膜31dが存在する液晶層部分とで,液晶層にかかる電界強度が異なる。その結果として,線状絶縁膜31dが存在しない液晶層部分,つまり線状絶縁膜31dの間隔b部分において印加電圧に応じて液晶分子が立ち上がる角度(矢印)と,線状絶縁膜31dが存在する液晶層部分,つまり線状絶縁膜31dの線幅a部分において同様の条件で液晶分子が立ち上がる角度(矢印)とが異なるものとなる。」(段落【0031】),「上述した立ち上がる角度の異なる部分が1画素内に存在するため,1つの画素内で液晶分子の配向状態が異なる。このとき,斜めから液晶表示装置に入射する光(図2の大きい矢印)は,複数の異なった配向状態の液晶層を通過することになり,旋光性が完全に失われず,これにより中間調の反転現象を抑制することができ,ノーマリホワイトモードの液晶表示装置においても視野角依存性を改善することができる。・・・」(段落【0032】)c「なお,本実施例は線状絶縁膜として波線状のものを形成したが,三角波状や他の曲がった形状の線状絶縁膜などに形成したりしてもよい。」(段落【0038】)d「図7は,本実施例にかかる液晶表示装置を示す断面図である。
この液晶表示装置は,アクティブマトリクス基板31に線状絶縁膜31dが形成され,対向基板32に線状絶縁膜32dが形成されており,線状絶縁膜31dと32dとが線状絶縁膜の幅方向にずれている。・・・」(段落【0054】)e「【発明の効果】・・・本発明によれば,1つの画素に対応する部分において,電極上に,線状の絶縁膜,又は材質の異ならせた絶縁膜,又は厚みを異ならせた絶縁膜が形成されているので,電界強度が異なることにより配向状態が異なっている部分を1つの画素において形成することができる。・・・」(段落【0064】)(イ)上記各記載と図面(乙18)によれば,乙18には,液晶タイプがTN型の液晶表示装置において,図7のとおり,上下の基板(31,32)に線状絶縁膜(31dと32d)が設けられているものが記載されていることが認められる。
しかし,線状絶縁膜31d,32dは,電極上に配置され,液晶に印加される電界強度を異なるものとし,液晶分子が立ち上がる角度を変化させるものであって,電圧印加時における液晶分子の配向方向を規制する「ドメイン規制手段」に相当するものではないから,本件発明2の「第1のドメイン規制手段」(構成要件B)又は「第2のドメイン規制手段」(構成要件C)に当たらない。
また,乙18には,構成要件BないしGの構成についての記載や示唆はない。
これに反する被告の主張は,採用することができない。
容易想到性の有無(ア)被告は,乙9,12,15ないし18に開示された液晶表示装置は,「ドメイン規制手段」を備えた液晶表示装置である点で技術分野が共通することに照らすならば,当業者であれば,乙9記載発明?A又は乙15記載発明において,乙12,16ないし18に基づいて,相違点に係る本件発明2の構成要件E(「第2のドメイン規制手段」が「前記第1の方向に延びる直線状成分と前記第2の方向に延びる直線状成分とを有」する構成)及び構成要件F(「前記第1及び第2の基板に垂直な方向から見た時に,前記第1のドメイン規制手段の直線状成分と前記第2のドメイン規制手段の直線状成分とが,互いに平行かつ交互に配置され」る構成)を採用し,本件発明2を容易に想到することができた旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
a前記イ,ウのとおり,乙9及び15には,構成要件EないしGの構成についての記載や示唆はない。
b前記(1)イのとおり,乙12の液晶表示装置には,構成要件Gの構成についての開示がない。
なお,被告は,乙12の図8を根拠に,図8には,構成要件Gの構成の開示がある旨主張する。しかし,図8に示されたX型の開口部(26A)は,X型の交わる部分の角度は「略90°」とはいえないから,「第1の方向に延びる直線状成分と前記第1の方向と略90°異なる第2の方向に延びる直線状成分」(構成要件D)を有するものではなく,また,図8に示された液晶分子は,画素の中心部に向かうように放射状に配向し,「4種類のドメイン」が形成されているものではないから,構成要件Gの開示があるものとは認められず,被告の上記主張は失当である。
c前記(2)イ,ウのとおり,乙16及び乙17には,構成要件D,E,Gの構成の開示がなく,また,乙16及び乙17の「屈曲ストライプパターン」の屈曲角度を「略90°」に設定することは,各発明の効果を阻害することとなる。
d前記エのとおり,乙18には,構成要件BないしGの構成についての記載や示唆はない。
eさらに,本件発明2は,VA方式の液晶表示装置において,1画素内に液晶分子の配向方向が異なる4つのドメインを形成し,液晶の配向方向が液晶表示装置の表示面への投影成分が90°ずつ異なる方向になるようにすることを実現するための構成として,構成要件DないしGをすべて備える構成を採用し,これにより第1のドメイン規制手段及び第2のドメイン規制手段によって形成されたドメイン内の液晶分子を安定的に配向させた点において技術的意義があること(前記1(2)イ(ウ))に照らすならば,構成要件DないしGをすべて備える構成とすることが,本件発明2の技術的思想の中核を成す特徴的部分であるものと認められる。
しかし,乙9,12,15ないし18のいずれにおいても,構成要件DないしGをすべて備える構成を採用することを示唆する記載は認められない。
f上記aないしeによれば,当業者といえども,乙9又は乙15に記載された発明と,乙12,16ないし18に記載された発明に基づいて,本件発明2を容易に想到することができたものとは認められない。
(イ)以上によれば,乙9又は乙15に記載された発明と,乙12,16ないし18に記載された発明に基づいて,本件発明2を容易に想到することができたとの被告の主張(無効理由3)は,理由がない。
(4) まとめ以上のとおり,被告主張の無効理由1ないし3はいずれも理由がないから,特許法104条の3第1項の規定により,本件特許権2の行使の制限を主張する被告の主張は理由がない。
5 結論(1) 差止めの必要性前記1ないし3のとおり,イ号液晶モジュール,ロ号液晶モジュール及びハ号液晶モジュールは,本件発明2の技術的範囲に属するから,被告によるイ号液晶モジュールを搭載するイ号液晶テレビ,ロ号液晶モジュールを搭載するロ号液晶モニター及びハ号液晶モジュールを搭載するハ号液晶モニターの輸入,販売,販売の申出は,いずれも本件特許権2の侵害に当たる。
そして,被告は,イ号液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ号液晶モニターを譲渡し,貸し渡し,若しくは輸入し,又はその譲渡若しくは貸渡しの申出(譲渡又は貸渡しのための展示を含む。)を行って原告の本件特許権2を侵害するおそれがあるものと認められるから,原告は,被告に対し,上記各行為の差止めを求める必要性がある。
また,被告が占有するイ号液晶テレビ,液晶モニター及びハ号液晶モニターについて,原告は,被告に対し,侵害予防に必要な行為として廃棄を求めることができる。
一方で,被告の販売にかかるイ号液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ号液晶モニターは,被告が,韓国法人のサムスン電子から輸入したものであって,被告が自ら上記各製品を製造していることを認めるに足りる証拠はなく,また,被告が上記各製品の半製品を占有していることを認めるに足りる証拠もない。
したがって,原告が,被告に対し,イ号液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ号液晶モニターの生産の差止め並びにその半製品の廃棄を求める必要性は,いずれも認められない。
(2) まとめ以上によれば,原告の本件特許権2に基づく請求は,被告に対し,イ号液晶テレビ,ロ号液晶モニター及びハ号液晶モニターの生産の差止めを求める部分及びその半製品の廃棄を求める部分を除き,いずれも理由があるからこの限度で認容することとし,原告の本件特許権1及び3に基づく請求のうち,上記生産の差止めを求める部分及び上記半製品の廃棄を求める部分は,本件特許権2に基づく請求と同様に,差止め及び廃棄の必要性が認められないから,その余の点について判断するまでもなくこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条ただし書,61条を適用して被告に全部負担させることとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 関根澄子
裁判官 杉浦正典
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