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関連審決 不服2005-15928
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成20行ケ10144審決取消請求事件 判例 特許
不服2006876 審決 特許
平成20行ケ10261審決取消請求事件 判例 特許
平成20行ケ10115審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10542審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  置換 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10166号 審決取消請求事件
原告惠 民製藥股●有限公司(●はにんべんに分)
訴訟代理人弁理士下坂ス ミ子
同 中山俊彦
被告特許庁長官
指定代理 人中島成
同 川本眞裕
同 紀本孝
同 酒井福造
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2009/01/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2005−15928号事件について平成19年12月10日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文同旨
事案の概要
本件は,原告が名称を「直接錠剤化用調合物および補助剤の調合方法」とする発明につき特許出願(本願)をしたところ,拒絶査定を受けたので,これに対する不服審判請求をしたが,特許庁が請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。
争点は,後記本願発明が特開平4-275236号公報(発明の名称「揮発性物質を含む粒状物及びその製造方法」,出願人 第一製薬株式会社,公開日平成4年9月30日。以下「引用例」といい,これに記載された発明を「引用発明」という。甲1)との関係において進歩性を有するか(特許法29条2項),である。
当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成13年10月5日,名称を「直接錠剤化用調合物および補助剤の調合方法」とする発明につき特許出願(特願2001-310741号,請求項の数27。公開公報は特開2003-116966号〔甲2〕)をし,その後平成16年7月5日付け(第1次補正,甲3)及び平成17年2月21日付け(第2次補正,請求項の数22,甲4。以下「本件補正」という。)で,特許請求の範囲変更等を内容とする手続補正をしたが,特許庁から拒絶査定を受けたので,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2005-15928号事件として審理した上,平成19年12月10日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日附加),その謄本は平成20年1月9日原告に送達された。
(2) 発明の内容本件補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1〜22から成るが,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,以下のとおりである。
「【請求項1】A)一種または一種以上の希釈賦形剤約5〜約99重量%及び/または薬学的活性成分0〜約99重量%,B)結合剤約1〜約99重量%,及び必要に応じて,C)崩壊剤0〜約10重量%の全部または一部を使用した混合物を含み,初期水分を約0.1〜20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下において,約30℃〜約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成することを特徴とする直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法。」(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。
その理由の要点は,本願発明は,前記引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。
イなお,審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容を以下のとおり認定した上,本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりとした。
<引用発明の内容>「薬学的に活性な成分及びそれを希釈・賦形するための生薬粉体30重量部,塩酸セトラキサート30重量部,及び,トウモロコシデンプン15重量部を含む混合物と,それらの水分を加熱前に特別除去することなく,転動機能付きの造粒装置で65℃以上の温度で加熱し,密閉系の転動機能付きの造粒装置中で攪拌・転動しつつ顆粒を形成する粒状物の製造方法。」<一致点>いずれも,「A)一種または一種以上の希釈賦形剤約5〜約99重量%及び/または薬学的活性成分0〜約99重量%,B)結合剤約1〜約99重量%,及び必要に応じて,C)崩壊剤0〜約10重量%の全部または一部を使用した混合物を含み,初期水分を約0.1〜20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下において,約30℃〜約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成する熱粘着式造粒方法。」 であること。
<相違点>本願発明は,直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法であるのに対して,引用発明は,直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法であるか否か明確でない点。
(4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,以下に述べるとおり,本願発明及び引用発明の認定を誤り,両発明の一致点及び相違点の認定を誤り,その結果,進歩性の有無の判断を誤ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
ア 本願発明認定の誤り審決は,「…引用発明の『粒状物の製造方法』は,加熱して粒状物を製造するものであるから,本願発明の『熱粘着式造粒方法』に相当する」(3頁16行〜17行)として,本願発明の「熱粘着式造粒方法」が単に「加熱して粒状物を製造するもの」であるとしたが,誤りである。
(ア) すなわち,「熱粘着式」という言葉からは,「熱により」「粘りつく」「方式」という程度の意味は理解することができるものの,その具体的内容(例えば,「熱」が加熱を意味するものであるか,「粘着」が「熱」によって生じるものであるか等)については上記文言から直ちに明らかとなるものではない。それゆえに,本願明細書(公開公報〔甲2〕の記載を平成16年7月5日付けの第1次補正〔甲3〕により補正Thermalした後のもの)においても「本発明の方法,“熱粘着式造粒法(TAG)”と命名する,は一種特別な造粒方法であadhesion granulation;り,下記に詳しく紹介する」(甲2,段落【0017】)と記載されているものである。
(イ) 本願明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本願発明にいう「熱粘着式造粒方法」は,次のようなものである。
すなわち,本願明細書に「…粉末の加熱中に水分が容器の内壁のより温度の低い区域で凝結する。結合剤,例えばPVPは,通常吸湿性が高いので,系統中に存在するいずれの水分,特に凝結状態の水分は,すべて結合剤に吸収され,結合剤に粘性が生じる。従って,結合剤は造粒前に微細粉末の状態で希釈剤と活性成分中に均一に分散し,結合剤から生じた粘性は近くの粒子を粘着させることになり,最終的に顆粒が密閉容器内で転動しながら形成される」(甲2,段落【0028】)と記載されているように,希釈剤内部に包含されていた水分を加熱工程で結合剤に移動させるというメカニズムによるものである。
このことは,凝結した水分が吸水性の相対的に高い結合剤に吸収されることにより,結合剤が粘性を有するに至り,これによって粘着・造粒が促進されることを意味している。つまり,本願発明の「熱粘着式造粒法」において,「粘着」は加熱によって生じるのではなく,転動容器の内壁の温度差によって水分が失熱することにより結果的に粘着が生じるのである。
(ウ) このように,本願発明における「熱粘着式造粒法」は発明の詳細な説明の記載から上記のとおり理解されるのであり,従来の加熱造粒法とは異なる新しい造粒方法である。
イ 引用発明認定の誤り,一致点・相違点認定の誤り(ア) 審決は,「…引用発明の『転動機能付きの造粒装置』は,攪拌・転動する密閉の装置であるから,本願発明の『密閉系統』に相当し…」(3頁13行〜15行),「…引用発明の生薬粉体,塩酸セトラキサート及びトウモロコシデンプンは,特に水分を除去する格別の記載を伴って開示されるものではないので,通常に存在する水分を有するものと解することができるところ,本願発明を特定する『初期水分を約0.1〜20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下において』は,『水分を約0.1〜20%』のものを含めて発明を特定するものであり,約0.1〜20%という範囲の限定であるため,本願発明は,通常に存在する水分を有するものを含むといえる」(4頁5行〜12行)とした上で,本願発明と引用発明は「…初期水分を約0.1〜20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下において,約30℃〜約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成する熱粘着式造粒方法」(4頁20行〜23行)である点で一致すると認定したが,以下のとおり誤りである。
aまず,初期水分又は溶剤の点について,本願発明においてその含有量を「約0.1〜20%」と定めているのは,水分あるいは有機溶剤が,結合剤がこれらを吸収することにより周囲の粒子を結合するために不可欠な構成である一方,過度な水分を添加した場合にはその後の乾燥工程が必要となることから,20%以下の含有率としたものである。
これに対して,引用例(甲1)には諸材料の水分含有量に関して何らの言及もされていない。むしろ,引用例に「本発明は,揮発性の薬物または生薬中の精油等の揮発性物質をほとんど揮散することなく高濃度に含有する粒状物及びその製造方法に関する」(段落【0001】)と記載されているように,引用発明は,揮発性の薬物又は生薬中の精油等の揮発性物質の揮散による非効率の改善を目的とするものである。
そして,引用例(甲1)の段落【0013】には,「密閉系で造粒物を取り出して室温で放置または転動させながら冷却することにより最終製品を得る」という工程が開示されているところ,審決にいう「通常に存在する水分」をもってかかる工程を経た場合,揮発成分の揮散が促進され,引用発明の目的を達成することはできない。
したがって,引用発明においては,本願発明における初期水分含有比率に相当する明示的な開示はなく,またそれを自明とすることもできないものである。
b仮に,引用発明における諸材料に本願発明の初期水分の範囲に該当する0.1%以上の水分が含まれているとしても,引用発明の造粒方法は本願発明の「熱粘着式造粒方法」とは異なるものである。
すなわち,引用発明の造粒方法は,引用例(甲1)に「…混合物を低融点物質の融点以上,好ましくは融点より5〜30℃高い温度にし,低融点物質を溶融させる…」(段落【0013】)と記載されているとおり,融点が30〜100℃の低融点化合物を混合機中で溶融させることによる造粒方法である。
これに対して本願発明は,低融点化合物を溶融させるのではなく,上記アで述べたとおり,希釈剤に含まれていた水分が結合剤へ移動し,これにより結合剤に生じた粘性が周囲の粒子を粘着させ,顆粒が形成されるというものである。
そうすると,両発明は,密閉系で加熱を行うことにより造粒するという点においては同じだが,その造粒過程は全くの別物である。すなわち,本願発明では,結合剤への水分の移動を促すために加熱し,水分の蒸散を防ぐために密閉系統中で転動回転・混合するのに対し,引用発明では,低融点物質を溶融させるために加熱し,揮発性物質の揮散防止のために密閉系統中で転動回転・混合しているものである。
cしたがって,審決が本願発明と引用発明の一致点としていずれも「熱粘着式造粒方法」であるとしたことは誤りであり,また,相違点について,本願発明は熱粘着式造粒方法であるのに対して引用発明はそのような方法を採用していないという点の認定を看過したものである。
そして,引用例(甲1)には本願発明の「熱粘着式造粒方法」について全く示唆がないのであるから,本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易になし得ないものである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。
(1) 本願発明の認定に関する原告の主張に対しア本件補正後の請求項1には,「A)一種または一種以上の希釈賦形剤約5〜約99重量%及び/または薬学的活性成分0〜約99重量%,B)結合剤約1〜約99重量%,及び必要に応じて,C)崩壊剤0〜約10重量%の全部または一部を使用した混合物を含み,初期水分を約0.1〜20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下において,約30℃〜約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成することを特徴とする直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法。」(判決注,下線は被告による)と記載されている。
この記載振りからみて,本願発明における「熱粘着式造粒方法」とは,上記「A)…B)…C)…の全部または一部を使用した混合物を含み,…条件下において,約30℃〜約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成すること」に特徴づけられるものと解され,「熱粘着式造粒方法」における「熱粘着」作用も,上記のような過程において必然的に現れる現象を表現したものと理解される。
したがって,本願発明に関して特許請求の範囲の記載には何ら不明確な点はなく,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情も存在しないから,審決が本願発明の「熱粘着式造粒方法」は加熱して粒状物を製造する方法であるとした点に誤りはない。
イまた,仮に,原告が主張するように本願明細書の発明の詳細な説明の記載(段落【0028】)を参酌したとしても,そこには,加熱工程で希釈剤内部の水分を結合剤に移動させることにより結合剤に粘性が生ずることが開示されているのであるから,結局のところ,本願発明における「熱粘着」は加熱工程において生じるものであることに変わりはなく,上記解釈を左右するものではない。
(2) 引用発明の認定,一致点・相違点の認定に関する原告の主張に対しア原告は,審決が引用発明の初期水分含有率として本願発明と同等のものが含まれるとしたことは誤りであると主張する。
(ア) しかし,本件補正後の請求項1では初期水分の分量について「約0.1〜20%」というごく少量の水分をも含む範囲の特定がなされているのであるから,本願発明は,造粒に用いる諸材料を収容した密閉系統中に通常存在する程度の水分を有するものを排除するものではない。
一方,引用例(甲1)における粒状物の製造に関する記載をみると,生薬粉体,塩酸セトラキサート,トウモロコシデンプンなどの材料について,水分を除去する旨の記載は存在しない。
ところで,薬剤製造過程において通常用いられるトウモロコシデンプンの水分含有量についてみると,水分11.9%の例(乙1〔特開平8-208523号公報,発明の名称「製剤素材」,出願人 群栄化学工業株式会社,公開日 平成8年8月13日〕),水分13.38%の例(乙2〔特開平7-309769号公報,発明の名称「防湿性漢方顆粒製剤」,出願人 財団法人工業技術研究院,公開日 平成7年11月28日〕)がみられる。このように,薬剤製造過程で使用されるトウモロコシデンプンに10%程度の水分が含まれることは通常であるといえる。
そうすると,引用例(甲1)に開示されている粒状物の製造過程において,トウモロコシデンプンは15重量部添加することが記載され,一方,これに含まれる水分を除去する旨の記載はないことからすると,少なくとも1.5重量部(1.5%)程度の水分が含有されているということができる。
したがって,引用例に開示されている造粒のための諸材料には,それらが通常に保有する少量の水分として,本願発明における「約0.1〜20%」の範囲内の水分が含まれているものである。
(イ) これに対し原告は,審決にいう「通常に存在する水分」をもって引用例(甲1)に開示されている冷却工程を経た場合には,揮発成分の揮散が促進され引用発明の目的を達成することはできないと主張する。
しかし,審決にいう「通常に存在する水分」とは,上述したように,造粒に用いる諸材料が保有するごく少量の水分を意味しているのであって,そのようなごく少量の水分が引用発明の目的の達成を妨げるほどの影響を与えることは引用例においても示唆されていないから,原告の主張は失当である。
なお,原告は引用発明の目的について本願発明の目的と異なると主張するが,引用例(甲1)には,揮発性物質の揮散による損失を抑えるという目的のほかに,「…湿式造粒法では,造粒物は通常5-50%程度の水分を含有しているため,最終製品を得るためには乾燥操作を行う必要があり…水分と共に揮発性物質が揮散してしまうという欠点がある」(段落【0003】)との記載もあり,本願発明と同様に従来の湿式造粒法における欠点を改善するために密閉系で加熱造粒する技術が開示されている。また本件補正後の請求項1においては,造粒に使用される各材料が揮発性物質を含むものであるかについて一切特定されておらず,本願発明は揮発性物質を含む材料の使用を排除するものではない。したがって,本願発明と引用発明とは発明の目的を異にするという原告の主張は失当である。
イまた原告は,審決が引用発明の「粒状物の製造方法」は本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するとしたことは誤りであると主張する。
しかし,上記に述べたとおり,引用発明における造粒のための諸材料には本願発明における「約0.1〜20%」の範囲内の水分が含まれているところ,このような水分の状態下において密閉系統中で加熱するならば,本願発明にいう「熱粘着」作用が必然的にあらわれるのであるから,引用発明における「粒状物の製造方法」も本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものである。
ウしたがって,審決が引用発明と本願発明とはいずれも「熱粘着式造粒方法」であると認定したことに誤りはなく,また,原告の主張する相違点の看過もないから,本願発明が引用発明に基づき当業者が容易になし得るものであるとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 取消事由について(1) 原告は,本願発明の「熱粘着式造粒方法」の技術的意義に関する審決の認定は誤りであると主張するので,まずこの点について検討する。
ア本願発明にいう「熱粘着式造粒方法」なる語は,造粒方法の一種を示すものとして一般的に知られた用語ではない。また,本件補正後の請求項1(本願発明)は,「A)一種または一種以上の希釈賦形剤約5〜約99重量%及び/または薬学的活性成分0〜約99重量%,B)結合剤約1〜約99重量%,及び必要に応じて,C)崩壊剤0〜約10重量%の全部または一部を使用した混合物を含み,初期水分を約0.1〜20%,及び/または薬学的に許容できる有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下において,約30℃〜約130℃の温度範囲まで加熱し,密閉系統中で転動回転,混合しつつ顆粒を形成することを特徴とする直接錠剤化用調合物または補助剤を調合するための熱粘着式造粒方法。」というものであって,希釈賦形剤・薬学的活性成分・結合剤・崩壊剤の全部又は一部を使用すること,初期水分・有機溶剤を約0.1〜20%含む条件下で加熱し,密閉系統中で転動回転・混合しつつ顆粒を形成することが記載されているのみであり,加熱については言及されているものの,粘着の点については「熱粘着式造粒方法」という言葉の中にあらわれる以外には記載がない。
そして,「熱粘着式造粒方法」なる語からは,「熱」及び「粘着」が造粒に関して何らかの関係を有することは推測できるものの,それ以上の意味は不明である。
イそこで,発明の詳細な説明の記載を参酌して検討すると,本願明細書(甲2,3)には次の記載がある。
(ア) 発明の属する技術分野・「本発明は薬学的活性成分を含む直接錠剤化用()調合物まdirecttablettingたは直接錠剤化用補助剤の新規な造粒製造方法に関する。この新規な造粒方法は通常,低水分含有量または薬学的に許容される溶剤の下で,一種類または 多種 類 の 希釈 剤 また は 薬学 的 活性 成 分, 結 合剤 ま たは 崩 壊剤()を密閉系に仕込み,転動回転()で加熱し乍らdisintegrant tumble rotation造粒を行う。」(甲2,段落【0001】)(イ) 従来の技術・「最近の錠剤化工程は通常,直接錠剤化用補助剤(賦形剤)を利, excipients用して,薬物成分を加えた後,直接圧縮して錠剤とするものが多い。直接錠剤化の補助剤にはより良い流動性,結合許容量及び錠剤化困難な活性成分に対して高い許容量が要求される。薬物成分を含有する直接錠剤化においても同様なことが言える。…従来の多くの研究は補助剤(或いは薬学的活性成分)と結合剤の改善または修飾に力を入れて,この矛盾点を解消することを目的にし,同時にその優れた点を維持することとしている。」(甲2,段落【0003】)・「このような直接錠剤化用補助剤は通常「多目的賦形剤」と言われ,特殊な製造工程を経て製造され,多種の成分が含まれ,コプロセス物質とも云われている。例えば…DE A3505433()にはα-乳糖一水-USP 5006345和物,ポリビニルピロリドン( PVP)を結polyvinyl pyrrolidone; povidone;合して,結合剤とし,さらに不溶性で架橋されたポリビニルピロリドン( )を崩壊剤とすればより良い流動性を得るこcrosslinked PVP; crospovidoneとができ,余分の崩壊剤を添加しなくても好ましい崩壊効果を得ることができることが示されている。…」(甲2,段落【0004】)microcrystalline・「米国特許第5840769号には微小結晶セルロース(MCC)を希釈剤とし,PVPを結合剤として,橋架されたポリビcellulose;ニルピロリドン()を崩壊剤として,直接錠剤化用補助剤を製crospovidone造することが記載されている。この製品は,例えば,混合造粒,Shugi造粒,押出し造粒,多孔板造粒または流動床造粒で行う周知の湿式造粒方法で製造することができる。賦形剤(希釈剤または崩壊剤)または薬学的活性成分と,例えば,結合剤としてPVPを使用して,水または有機溶剤に溶解して行う湿式造粒法は常用である。しかし,湿式造粒法は広く使われると云えども,多くの欠点が見られる。」(甲2,段落【0005】)・「湿式造粒は適当なタンク及び制御設備に大量の液体を加える必要があり,従って,湿式造粒工程中に加えた水は必ず除去しなければならない。それ故に,乾燥工程が必要となる,そのため乾燥の設備が必要となり,より複雑な製造工程と同時に全体の製造工程にて必要されるエネルギーが増え,多くの費用及び時間が費される。また,大量の有機溶剤を造粒溶液として利用することは,操業者と環境に対しての障害となる。そのため,爆発を避けそして溶剤と接触する操業者の保護を取り計らうための特殊な予防が必要である。」(甲2,段落【0007】)・「湿式造粒のその他の欠点として,例えば,過分の水分が錠剤調合物中の活性成分に対してマイナスの影響を及ぼすことである。例えば,米国特許第6103 219号で検討された湿式造粒の工程中,微小結晶セルロースを過,,多の水分にさらした場合,その圧縮性は厳重に低下する。その主な原因はセルロースの繊維が転化され,錠剤の強度が低下されたことで,さらに,多くのMCCを加えて圧縮強度を維持しなければならない。特により高い活性成分を含有する場合,増加されたMCCは只製造工程のコスト高となる外,さらに重要なことは錠剤の体積が増大し,経口投与の時呑みにくくなることである。湿式造粒法での微小結晶セルロースの圧縮性の低下についての問題は未だに適当な解決方法がないのが現状である。」(甲2,段落【0008】)(ウ) 発明が解決しようとする課題・「本発明の目的は,従来の湿式造粒法に比べて,極くわずかな水分を使用し,または溶剤の含量を低減させた,新規の造粒方法を開発することである。」(甲2,段落【0010】)(エ) 課題を解決するための手段・「本発明の方法,“熱粘着式造粒法(TAG)”Thermal adhesion granulation;と命名する,は一種特別な造粒方法であり,下記に詳しく紹介する。」(甲2,段落【0017】)・「本発明は直接錠剤化用の調合物(薬学的活性成分を含む)または直接錠剤化用補助剤(薬学的活性成分を含まない)の造粒方法を提供する。製造方法として下記のA)とB)を密閉ボトル内に入れ,転動回転し乍ら約30〜約130℃,好ましくは約40〜約110℃,もっと好ましくは約60〜約105℃である,までに加熱する。水分または薬学的に許容される有機溶剤の含量はおよそ約0.1%から約20%である。密閉系で混合且つ転動回転して顆粒を形成する。
A)約5〜約99重量%,好ましくは約10〜約90重量%。0〜約99重量%の一種または一種以上の錠剤化用として適切な賦形剤(充填剤),及び/又は最も好ましくは約10〜約90重量%の薬学的活性成分,B)全調合物重量の約1〜約95重量%,好ましくは約5〜約50重量%の結合剤,必要に応じて,C)0〜約10重量%の崩壊剤,そして崩壊剤は上記A)とB)の混合物造粒の前または後に加入することができる。」(甲2,段落【0018】)・「本発明に依ってA),B)及び必要に応じてのC)の混合物で造粒する場合は必ず密閉系中で行い,初期の水分の含量は,水分測定器(例えば,)を用いて測定して約0.1〜約20%,好ましくは約2〜約Ohaus Japan15%,最も好ましくは約4〜約10%である。さらに,造粒は薬学的に許容される有機溶剤(例えばエタノール)を含有して行なうことができ,初期の溶剤含量は約0.1〜約20%。好ましくは約0.1〜約10%で,最も好ましくは約0.5〜約5%である。」(甲2,段落【0019】)・「組成分B)の結合剤は水溶性のポリピニルピロリドン(PVP),ヒドロキシプロピルセルロース(HPC),ヒドロキシプロhydroxypropylcellulose;ピルメチルセルロース( HPMC),低置換度hydroxypropyl methylcellulose;ヒドロキシプロピルセルロース( L Hlow-substituted hydroxypropylcellulose,-sodiumP C ), カ ル ボ キ シ メ チ ル セ ル ロ ー ス ナ ト リ ウ ム (),メチルセルロース(),エチルセルロcarboxymethylcellulose methyl celluloseース(),砂糖()及びその他,またはそれらの組合せかethyl cellulosesugarら選択でき,好ましくはポリビニルピロリドン及びヒドロキシプロピルセルロースである。…」(甲2,段落【0024】)・「本発明の好ましい具体例で使用される結合剤は水溶性のポリビニルピロリドン(PVP)で,これは一種の微細分散の粉末として,湿式造粒または直接錠剤化において,薬剤工業で錠剤の結合剤として常用されている。…」(甲2,段落【0026】)・「TAG系で低水分または低溶剤含有量の下で造粒ができるのは,造粒が密閉系で行われるからである。加熱工程で発生する蒸気(外加された溶液と粉末に含まれている湿気)が系統中から放出されるのを防ぎ,造粒液の使用率を最大限とすることができる。従って,造粒は最も少ない水分または溶剤量の添加の下で完成できる。通常,加熱工程で希釈剤内部の水分を結合剤に移動させることができる。TAG系でさらに詳しく観察し,造粒容器上に分布された熱度が均一でない場合,粉末の加熱中に水分が容器の内壁のより温度の低い区域で凝結する。結合剤,例えばPVPは,通常吸湿性が高いので,系統中に存在するいずれの水分,特に凝結状態の水分は,すべて結合剤に吸収され,結合剤に粘性が生じる。従って,結合剤は造粒前に微細粉末の状態で希釈剤と活性成分中に均一に分散し,結合剤から生じた粘性は近くの粒子を粘着させることになり,最終的に顆粒が密閉容器内で転動しながら形成される。…」(甲2,段落【0028】)・「本発明の熱粘着式造粒法は,従来の湿式造粒法と大きく異なる。即ち,1)熱粘着式造粒法には,只少量の水分を希釈剤と結合剤を含む混合物中に加える。従来の湿式造粒法は結合剤を造粒液中に溶解させ,さらに希釈賦形剤を混合する。
2)熱粘着式の造粒法は「乾」式の製造工程として定義できるもので,造粒の必須液体(水または有機溶剤)は従来の湿式造粒にくらべると明らかに極端に少ない。
3)乾燥工程を除き,湿式造粒は通常室温で操作され,それに対し,熱粘着式造粒法は加熱することに依って顆粒の形成を促すことが必要である。
4)湿式造粒中の混合工程では常に羽根,アーム,プロペラ,チョッパーまたはその他の機械的攪拌機能を有する器具を利用し(例えば,切断式造粒で使用されるプラネタリアミキサー,高速混合造粒機),粉末と液体の混合物または塊を攪拌して達成させ,または粉末を熱気流中に懸濁しながら結合剤の溶液(流動床造粒)をスプレーする。前者の顆粒はすべて湿潤結塊をふるいにかけて形成され,後者は粒子に結合剤溶液を被覆して顆粒を形成する。
熱粘着式造粒法は湿潤の粉末が容器中で加熱回転しつつ,且つ結合剤補助の下で粉末を徐々に凝集させ顆粒を形成させる。
5)湿式造粒法は造粒後に必ず乾燥及び研磨の工程を行い,所望の顆粒の大きさを形成させる。本発明は混合物の水分含量は極く低いので,この工程を必要としない。
6)従来の造粒方法は一般にはすべて開放系統中で行う,本発明の熱粘着式の造粒法は密閉系統中にて行う。」(甲2,段落【0030】)ウ以上によれば,本願明細書の発明の詳細な説明には,次の内容が記載されていることが認められる。
すなわち,本願発明は,従来の湿式造粒法において大量の水又は有機溶剤の添加が必要とされ,そのために乾燥工程が必要となるなどの欠点があったのに対し,わずかな水分又は有機溶剤によって造粒できるようにすることを目的としたものである。そして,諸材料の混合物中に含まれる初期水分又は有機溶剤(エタノール等)の含有量を約0.1〜20%とし,密閉系で加熱して造粒を行うことにより,加熱工程で希釈剤等から発生する蒸気が,外部に放出されることなく容器の内壁のより温度が低い区域で凝結し,吸湿性が高いポリビニルピロリドン(PVP)などの結合剤に吸収されて,結合剤に粘性を生じ,周囲の粒子を粘着させることにより造粒が行われる。このような造粒方法は,従来の湿式造粒法とは異なる新しい造Thermal粒方法として開発されたものであり,「熱粘着式造粒方法」()と命名された。
adhesion granulationエそうすると,本願発明にいう「熱粘着式造粒方法」とは,希釈賦形剤・薬学的活性成分・結合剤等の混合物を加熱することにより発生する蒸気が密閉系統中で凝結することを利用して,凝結した水分により結合剤に粘性を生じさせ,周囲の粒子を粘着させるという造粒方法をいうものと理解される。
なお被告は,本願発明に関して特許請求の範囲の記載に何ら不明確な点はなく,発明の詳細な説明の記載を参酌すべき特段の事情も存在しないから,審決が本願発明の「熱粘着式造粒方法」は加熱して粒状物を製造する方法であるとした点に誤りはないと主張する。しかし,特段の事情が存在しない限り発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されないのは,あくまでも特許出願に係る発明の要旨の認定との関係においてであって,上記のように特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するに当たっては,特許出願に関する一件書類に含まれる発明の詳細な説明の記載や図面を参酌すべきことは当然であるから,被告の上記主張は採用することができない。
(2) 以上を前提として,引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものであるかを検討する。
ア 引用例(甲1)には,次の記載がある。
(ア) 産業上の利用分野・「本発明は,揮発性の薬物または生薬中の精油等の揮発性物質をほとんど揮散することなく高濃度に含有する粒状物及びその製造方法に関する。…」(段落【0001】)(イ) 従来技術・「薬品や食品の分野に於ける粉末の造粒法としては,1)流動層造粒法,2)湿式破砕造粒法,3)噴霧造粒法,4)円筒押し出し造粒法等が挙げられ,いずれも安価で大量生産にも適した方法である。…」(段落【0002】)・「しかしながら,揮発性物質を造粒しようとする場合には,前記1),2),3)及び4)に示した湿式造粒法では,造粒物は通常5-50%程度の水分を含有しているため,最終製品を得るためには乾燥操作を行う必要があり,流動層乾燥機や通気乾燥機による通風工程において,水分と共に揮発性物質が揮散してしまうという欠点がある。」(段落【0003】)(ウ) 発明が解決しようとする課題・「上記従来の方法で揮発性物質を造粒する場合,製造時における揮発性物質の損失が大きいため,多量に揮発性物質を用いる必要があったので,揮発性物質の損失をできるだけ少なくし,かつ医薬品として認められる粒度(細粒や顆粒剤)の粒状物及びその効率的な製造方法を提供することを目的とする。」(段落【0007】)(エ) 課題を解決するための手段・「本発明は,揮発性物質を低融点物質を用いて密閉系で加熱造粒すると上記課題を効率よく解決できるとの知見に基づいてなされたのである。すなわち,本発明は,常温で固体又は液体の揮発性物質が低融点物質で造粒されていることを特徴とする,揮発性物質を含む粒状物を提供する。」(段落【0008】)・「…本発明で用いる低融点化合物としては,融点が30〜100℃のポリエチレングリコール,カルナウバロウ,ショ糖脂肪酸エステル,キシリトールの他にパルミチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,リノール酸,リノレイン酸等の高級脂肪酸のように常温では固体で加熱することにより溶融する物質が挙げられる。…」(段落【0010】)・「本発明で粒状物とは…好ましくは細粒,顆粒剤を意味する。次に本発明の粒状物の製造方法について例示する。先づ,揮発性物質の粉砕品,もしくは液状の揮発性物質をあらかじめ吸着剤に吸着させたものと低融点物質とを所望により不揮発性の薬物及び通常の製剤学的添加剤とを混合した後,密閉できる攪拌または転動機能付きの造粒装置に移す。…続いて,容器壁を加熱しながら粉体を攪拌混合し,混合物を低融点物質の融点以上,好ましくは融点より5〜30℃高い温度にし,低融点物質を溶融させると共に,攪拌・転動させることにより造粒する。…次に,容器を密閉系で冷却するか,密閉系で造粒物を取り出して室温で放置または転動させながら冷却することにより最終製品を得る。ただし冷却方法についてはこの限りでなく,造粒物を低融点物質の融点以下にいたらしめる方法であればどのような方法でもよい。」(段落【0013】)(オ) 効果・「本発明の粒状物は,造粒前の揮発性物質を殆ど揮散することなくほぼ完全に保持しており,芳香性生薬を造粒した場合には,市販品に比べ,単位生薬量当たりの芳香が明らかに強く,香りの官能特性においても優れていた。
…」(段落【0015】)(カ) 実施例・「実施例1芳香性生薬であるウイキョウ末を含む生薬粉体(150μm以下)30重量部に対し,塩酸セトラキサート(200μm以下)30重量部,トウモロコシデンプン(100μm)15重量部,融点58℃のポリエチレングリコール6000(300μm以下)25重量部を加えたものをあらかじめ混合し,これを,ジャケット付きの攪拌造粒装置(ハイスピードミキサーFS-20,容量20リットル)を用いて10分間攪拌・混合し造粒物(I)を得た。尚,造粒開始時のハイスピードミキサーの壁温度は75℃であり,攪拌・混合中の品温は常に65℃以上であった。」(段落【0017】)イ以上の記載によれば,引用発明は,揮発性物質の造粒に関して,従来の湿式造粒法では多量の水分を含有するため乾燥操作が必要となり,通風工程において水分と共に揮発性物質が揮散してしまうという欠点があったので,揮発性物質の損失をできるだけ少なくすることを目的としたものである。そして,課題を解決するための手段として,融点が30〜100℃の低融点物質を使用し,密閉系で加熱造粒することにより低融点物質を溶融させ,これを攪拌・混合して粒状物を得るという方法を採用している。
そうすると,引用発明は,従来の湿式造粒法における欠点を克服し,多量の水分を含有させずに粒状物を製造するという点では本願発明と共通の目的を有するものの,その目的を達成するための手段として低融点物質を加熱して溶融させるという方法を採用している点で,本願発明とは異なる方法によるものである。
したがって,引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するものとした審決の判断は誤りである。
(3) これに対して被告は,引用例(甲1)の実施例にはトウモロコシデンプンを15重量部添加することが記載され,薬剤製造過程で使用されるトウモロコシデンプンの水分含有量が通常10%程度であることに照らせば,引用発明の諸材料中には本願発明における初期水分「約0.1〜20%」の範囲内である1.5%程度の水分が含有されていると主張する。
たしかに,乙1(特開平8-208523号公報)には,製剤素材となる改質澱粉の調製に用いられた市販のトウモロコシデンプンの水分含有量が11.9%であること(4欄27行〜28行),乙2(特開平7-309769号公報)には,濃縮漢方薬エキスの顆粒製剤の製造に用いられたトウモロコシデンプンの水分含有量が13.38%(段落【0024】),12%(段落【0029】),9.1%(段落【0037】),6.2%(段落【0041】)であることが記載されており,これらに照らせば,引用発明において用いられているトウモロコシデンプンの水分含有量も10%程度であることが考えられる。
しかし,仮に,引用発明の諸材料中に1%を超える水分が含まれ,これを密閉系で加熱することによって容器内で水分が凝結することがあるとしても,引用例(甲1)には凝結した水分が結合剤に吸収されて粘性を生じさせるという記載はなく,低融点物質を溶融させて造粒を行うことが上記のとおり記載されているのである。そうすると,引用発明の諸材料中に通常含まれる水分が粒状物の製造に寄与するか,仮に寄与するとしてどのような役割を果たすのかについては,引用例には教示も示唆もされていないといわざるを得ない。
したがって,引用発明の諸材料中に本願発明における「約0.1〜20%」の範囲内の水分が含まれているとしても,それを根拠として引用発明における「粒状物の製造方法」が本願発明の「熱粘着式造粒方法」に相当するということはできない。
(4) 以上のとおり,審決は,本願発明と引用発明がいずれも「熱粘着式造粒方法」であるとした点で一致点の認定を誤ると共に,この点に係る相違点を看過したものであるところ,引用例(甲1)に「熱粘着式造粒方法」に関する教示も示唆もみられないことは,上記のとおりである。
したがって,本願発明が引用発明との関係で進歩性を有しないとした審決の判断は誤りである。
3 結論以上によれば,原告の本訴請求は理由があるから認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 今井弘晃
裁判官 清水知恵子