関連審決 | 不服2006-426 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10175審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10206審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10148審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10380審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10221審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 周知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 警告 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10130号
審決取消請求事件
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原告古 野電気株式会社 訴訟代理人弁理 士小森久夫 同 小澤壮夫 同 大洞正嗣 被告特許庁長官 指定代理人山下雅人 同 山田昭次 同 下中義之 同 岩崎伸二 同 小林和男 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/12/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が不服2006−426号事件について平成20年2月25日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文第1項と同旨 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成8年12月3日,発明の名称を「レーダ」とする発明について,特許出願をし(甲2),平成17年6月27日に手続補正をしたが(甲3),同年11月28日に拒絶査定を受けたので,平成18年1月5日,不服の審判(不服2006-426号事件)を請求した。 特許庁は,平成20年2月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年3月11日に原告に送達された。 2 特許請求の範囲平成17年6月27日付け手続補正書(甲3)により補正された後の本件の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本願発明」という。また,上記手続補正後の明細書を「本願明細書」という。)。 「【請求項1】アンテナの指向方向を順次変えるとともに,パルス電波の送受波を行い,アンテナ周囲の探知画像のデータを生成し,所定の範囲の探知画像を表示画面内に表示する移動体に装備されるレーダにおいて,前記移動体の移動速度を検知する移動体速度検知手段を備え,表示画面内における移動体の表示位置を前記表示画面内の基準位置から移動体の移動方向に対して後方へ所定のシフト量だけシフトさせて前記探知画像を表示し,前記移動体速度検知手段により検知された移動体の移動速度が大きくなるほど,前記シフト量を大きくする探知画像表示制御手段を設けたことを特徴とするレーダ。」3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開昭61-79179号公報(以下「引用刊行物」といい,同刊行物に記載された発明を「引用発明」という。甲1)並びに特開昭59-17177号公報(甲4)及び特開昭54-64991号公報(甲5)の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本願出願は,その余の請求項2ないし4に係る発明について検討するまでもなく,拒絶されるべきである,というものである。 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。 (1) 引用発明の内容「自航空機の衝突防止装置が発する質問信号に応答する他航空機のATCトランスポンダ応答信号を受信し,その受信電界強度,方位等から他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上の警戒空域内に表示する航空機衝突防止装置において,対気速度計の指示する自航空機速度情報を計算機に入力し,これに基づいて,自航空機を中心とする所定半径の円と,前記円の中心を通り前記自航空機の速度に応じてその進行方向に直径が伸縮する円との外周を結ぶ如きプロファイルを有する警戒空域をCRT上に表示し,自航空機の速度が増大するに従って前記直径を伸張することを特徴とする航空機衝突防止装置。」(2) 本願発明と引用発明との一致点「電波の送受波を行い,周囲の探知画像のデータを生成し,所定の範囲の探知画像を表示画面内に表示する移動体に装備される電波を利用した航法装置において,前記移動体の移動速度を検知する移動体速度検知手段を備え,表示画面内における移動体の表示位置より移動体の移動方向からみて前方の探知画像の表示範囲を移動体の移動速度に応じて広げることを特徴とする電波を利用した航法装置。」(3) 本願発明と引用発明との相違点[相違点1]電波を利用した航法装置が,本願発明では,「アンテナの指向方向を順次変えるとともに,パルス電波の送受波を行い,アンテナ周囲の探知画像を表示するレーダ」であるのに対し,引用発明では,ATCトランスポンダを利用したものである点。 [相違点2]探知画像の表示の変更に関して,本願発明が「表示画面内における移動体の表示位置を前記表示画面内の基準位置から移動体の移動方向に対して後方へ所定のシフト量だけシフトさせて前記探知画像を表示し,前記移動体速度検知手段により検知された移動体の移動速度が大きくなるほど,前記シフト量を大きくする探知画像表示制御手段を設けた」のに対し,引用発明はこのような構成を具備しない点。 |
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当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)引用発明の認定の誤り(取消事由1),(2)一致点の認定の誤り(取消事由2),(3)相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3),(4)相違点2に係る容易想到性判断の誤り(取消事由4)がある。 (1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り)審決は,引用発明を「自航空機の衝突防止装置が発する質問信号に応答する他航空機のATCトランスポンダ応答信号を受信し,その受信電界強度,方位等から他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上の警戒空域内に表示する航空機衝突防止装置において,・・・特徴とする航空機衝突防止。」(審決3頁34行ないし4頁4行)と認定している。 しかし,審決が,引用発明を,他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上の警戒空域内に表示するものと認定した点には誤りがある。 引用刊行物(甲1)記載に照らすならば,引用発明は,CRT上(表示器DISPLAY上)に他航空機の概略位置を表示する従来の航空機衝突防止装置において,自航空機速度に対応したプロファイル(円)を,他航空機の概略位置が表示されている表示器DISPLAY上に重ねて描くものである。すなわち,引用発明は,他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上の警戒空域内だけに表示するものではなく,他航空機の概略位置を把握しこれをCRT(表示画面)上に表示するとともに,そのCRT(表示画面)上に警戒空域を示すための円を重ねて表示するものである。 審決の認定した「他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上の警戒空域内に表示する」との事項と,引用発明における「他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上に表示する」との事項とは,技術的意義において相違する。引用刊行物の航空機衝突防止装置は,上記の他航空機の「CRT上の警戒空域内への表示」と「警戒空域外への表示」とを一体とするものであり,「警戒空域内の表示」のみの技術的事項により構成される航空機衝突防止装置については開示ないし示唆がない。 なお,甲6によれば,本願出願日以後においても,空中衝突防止装置の分野で,警戒機を警戒空域内にのみ表示して,警戒空域外には表示しないという装置が製造販売された例はないと認められる。 以上のとおりであるから,引用発明について,他航空機の概略位置をCRT上の「警戒空域内に表示する」ものとした審決の認定は誤りである。 (2) 取消事由2(一致点の認定の誤り)審決は,引用発明と本願発明とが「表示画面内における移動体の表示位置より移動体の移動方向からみて前方の探知画像の表示範囲を移動体の移動速度に応じて広げることを特徴とする電波を利用した航法装置」である点で一致していると認定した(審決書4頁30行〜33行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明は,別紙図(A)に示すように,移動速度が速くなると移動体の移動方向に対して前方の表示画面限界位置までの表示範囲を広げることにより,それまでに見えていなかった前方探知画像を見えるようにするものであるのに対し,引用発明は,別紙図(B)に示すように,移動速度が速くなると,前方の表示画面限界位置内に,速くなる前から表示されていた前方探知物標Pを警戒空域内(審決でいう前方の探知画像の表示範囲)に入るようにし,そこに注意を集中しやすくするものであって,それまで表示画面に見えていなかった前方探知画像を見えるようにするものではない。 また,本願発明は,別紙図(A)に示すように,移動速度が速くなると後方の表示画面限界位置までの表示範囲を狭めることにより,監視がより重要でない後方の表示画面限界位置までの表示範囲を狭め,全体としてレーダの表示画面の効率的使用を実現する(最適なシフト量を設定する)ものであるのに対し,引用発明は,別紙図(B)に示すように,移動速度が速くなっても,後方の表示画面限界位置までの表示範囲は一定であり,表示画面の効率的使用を可能にするものではない。 以上のとおりであるから,本願発明の「表示範囲」と引用発明の「表示範囲」についてこれを同一のものとして,両発明を「表示画面内における移動体の表示位置より移動体の移動方向からみて前方の探知画像の表示範囲を移動体の移動速度に応じて広げる」点で一致しているとした審決の認定は誤りである。 (3) 取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)審決は,相違点1について,「電波を利用した航法装置として,アンテナの指向方向を順次変えるとともに,パルス電波の送受波を行い,アンテナ周囲の探知画像を表示するレーダは,例を挙げるまでもなく本願出願前周知であるから,該周知技術を引用発明に適用して相違点1に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。」と判断した(審決書5頁9行〜13行)。 しかし,上記審決の判断は誤りである。 本願出願前周知であるとするレーダ(以下「周知のレーダ」という。)と,ATCトランスポンダを利用する引用発明の衝突防止装置とは,原理・機能・表示結果が異なるものであるから,周知のレーダを引用発明に適用して相違点1に係る構成とすることは,当業者にとって容易とはいえない。 周知のレーダは,パルス電波の送受波により検出された物標のエコーをレーダ表示画面に表示することによって,その物標の形を認識するものであるのに対し,引用発明の衝突防止装置は,自航空機の衝突防止装置が発する質問信号に応答する他航空機のATCトランスポンダ応答信号を受信して,その概略位置を把握した後,マーク等でCRTに表示するものであるから,その原理・機能が異なる。 また,?@周知のレーダは,レンジを小さくするほど物標が大きくなりその形状が分かりやすくなるのに対して,引用発明の衝突防止装置は,レンジが変わっても物標の大きさに変化がなく(マーク等で位置を示すだけであるため),そもそも物標の形状は全く分からない点,?A周知のレーダは,表示画面内のアンテナ周囲の物標をすべてエコーとして表示するのに対して,引用発明の衝突防止装置は応答信号のあった他航空機のみを表示し,衝突防止装置を備えていない他航空機や固定物体などを表示しない点で,表示方法において異なる。 (4) 取消事由4(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)審決の相違点2に係る容易想到性の判断には,次のとおりの誤りがある。 ア オフセンタ機能と引用発明の技術的意義の相違を看過した誤り審決は「引用発明と該周知技術は,ともに,移動体の前方の監視区域の表示範囲を広げるものであるから,引用発明に該周知技術を適用して,自航空機の速度が増大するに従って,自航空機の表示位置を表示画面の中心位置からより後方へずらせるようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。」と判断したことは,周知技術のオフセンタ機能と引用発明の警戒空域表示の技術的意義を理解することなく,組合せが可能であるとした点に誤りがある。 すなわち,周知技術と引用発明とは,以下のとおりの技術的な相違があり,組み合わせることは容易とはいえない。 周知技術とされる特開昭59-17177号公報(甲4)及び特開昭54-64991号公報(甲5)において,移動体の表示位置を表示画面の中心位置から後方へずらせて表示する構成(甲4,1頁右欄8行〜12行。以下「オフセンタ機能」という。)は,表示画面上に表示される探知画像の表示面積を変えずに,探知画像の描画中心位置をシフトするものである。すなわち,オフセンタ機能は,表示画面の効率的使用を可能にするために,移動体の表示位置を表示画面の任意の位置に設定し,それによって,注目したい表示画面限界位置までの表示範囲を広げ,それまでに見えていない探知物標が見えるようにすると同時に,その広がった分だけ注目したくない表示範囲を狭めるものである。 これに対し,引用発明は,別紙図(B)に示すように探知画像に重ねて表示された警戒空域を固定表示画面内で広げるにすぎない。すなわち,引用発明は,移動体の前方の表示画面限界位置までの表示範囲を広げるものではないし,移動体の後方の表示画面限界位置までの表示範囲を狭めるものでもなく,探知画像に重ねて表示された警戒空域の大きさを変更するにすぎない。したがって,オフセンタ機能と引用発明とは,その技術的意義が相違する。 イ 本願発明の格別な効果を看過した誤り審決は,「本願発明の奏する効果は,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものであり,格別のものではない。」(審決書5頁36行〜37行)としている。 しかし,以下のとおり,本願発明の効果が格別のものでないとする審決の判断は誤りである。 すなわち,本願発明は,移動体の移動速度が速くなるほど,後方の表示範囲より前方の表示範囲が広くなり,速度を速める前においては,表示の外にあって視認できなかった探知画像を表示範囲内に映し出すことにより,操作者の手を煩わすことなく移動速度に応じた最適なシフト量を確保できる効果を奏することができるという効果を有する。また,本願発明には,移動体の速度に応じて前方の表示範囲が広くなることから,単純なオフセンタ機能とは異なり,スピード感を得ることができるという格別の効果がある。 他方,引用発明においては,自航空機の速度が増大しても,表示画面に表示されている探知画像に変化はない。また,後方の表示範囲は一定であるから移動速度に応じた最適なシフト量を設定することができない。さらに,上記周知技術においても,移動体の速度に応じてシフト量が自動的に最適な値になるものではない。 したがって,本願発明の効果は本願発明に格別のものであるから,これを看過して当業者が予測し得る範囲内のものであるとした審決の判断には誤りがある。 ウ 阻害要因を看過した誤り審決は,阻害要因を看過し,引用発明にオフセンタ機能を適用して本願発明の相違点2の構成とすることが当業者にとって容易であると判断した点に誤りがある。 すなわち,レーダに適用されるオフセンタ機能は,本願明細書の段落【0002】〜【0004】に記載があるとおり,「大きな表示レンジに常に設定しておく」ことが好ましくない場合があるからである。すなわち,レーダでは単に探知範囲を広くしたい場合には表示レンジを大きくすれば解決するのであるが(例えば遠くにある海岸線の全体の長さなど),他方,物標の形を認識したい場合には物標が小さくなるため,表示レンジを大きく設定ことは好ましくない。オフセンタ機能は,このような場合に,表示レンジを大きくすることなく表示範囲外にある物標を表示範囲に見えるようにすると同時にその形も認識できるとの格別の効果がある。 これに対して,引用発明は,CRT上で警戒空域を伸張するものであるから,その警戒空域内の表示範囲が大きくなっても,その表示範囲が納まるような大きさの表示レンジに設定しておくことが必要になる(なお,引用発明はレーダではなく他機の位置をプロットしているだけであるために,大きな表示レンジに設定しても解像度が劣ることはない)。 上記オフセンタ機能と引用発明との相違を図示すると,別紙図(C)及び図(D)のとおりとなる。 以上のとおりであり,常に大きな表示レンジに設定しておくことが必要な引用発明に,大きな表示レンジに設定することが好ましくない場合のある周知のレーダのオフセンタ機能を適用することには,阻害要因がある。 2 被告の反論(1) 取消事由1(引用発明の認定の誤り)の主張に対し原告は,審決が,引用発明を,他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上の警戒空域内に表示するものと認定した点には誤りがある,と主張する。 しかし,審決は,引用発明が「他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上の警戒空域内だけに表示する」と認定したものではないから,原告の上記主張は,失当である。 また,引用刊行物の記載によれば,引用発明で警戒すべき他航空機は「脅威機」であり,その「脅威機」とは,警戒空域内に位置するものであるから,引用発明は,「他航空機の概略位置を把握しこれをCRT上の警戒空域内に表示する」ことを特定するものであって,他航空機のCRT上の警戒空域外への表示については何ら特定するものではないから,審決の認定には誤りはない。 (2) 取消事由2(引用発明との一致点の認定の誤り)の主張に対し審決は,本願発明と引用発明におけるそれぞれの航法装置の「表示される監視範囲」としての意義を有する探知画像の範囲を「探知画像の表示範囲」とした上で,「表示画面内における移動体の表示位置より移動体の移動方向からみて前方の探知画像の表示範囲を移動体の移動速度に応じて広げる」という技術的事項が共通であると解して,これを両者の一致点としたのであり,この認定に誤りはない。 この点に対して,原告は,審決では,本願発明の「表示範囲」と引用発明の「表示範囲」を同一であると認定するのは誤りであると主張する。 しかし,審決は,「表示範囲」との用語を本願発明と引用発明との技術的共通部分を表現するための抽象的概念を持つ語として使用しているのに対し,原告は,「表示範囲」を本願発明と引用発明との個々具体的な「表示範囲」に関する技術的事項に限定して,当該限定された技術的事項に相違があると主張するものであるから,その主張自体が失当である。 (3) 取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)に対し引用発明に,周知のレーダを適用して本願発明の相違点1の構成とすることには,以下のとおり,阻害事由は存在しない。 すなわち,周知のレーダと引用発明の「ATCトランスポンダを利用した衝突防止システム」とは,「電波を利用した航法装置」という共通の技術分野に属し,かつ,電波を送受波することにより物標の位置情報を得て探知画像として表示画面上に表示するという点において技術的な共通性を有している。 そして,本願発明の課題解決のための技術は,移動体の移動速度に応じて,表示画面内における移動体の位置を基準位置より移動体の移動方向に対して後方へシフトさせることにより,表示される前方の監視範囲を拡げるという監視のための表示範囲に係る事項であって,探知画像の表示形態に影響を与えるものではなく,また探知画像の表示形態から影響を受けるものでもない。確かに,周知のレーダとATCトランスポンダとでは表示結果には,ATCトランスポンダにおいては,物標の形状が分からないこと,衝突防止装置を備えていない他航空機や固定物体等が表示されないこと等相違があるが,そのような相違は,引用発明のATCトランスポンダ利用に代えて周知のレーダを採用することについての阻害要因にならない。 したがって,引用発明と共通の技術分野に属し,かつ,技術的な共通性を有している「周知のレーダ」を引用発明に適用して相違点1に係る構成とすることは当業者が容易に想到できたことであるから,相違点1についての審決の容易想到性判断に誤りはない。 よって,原告が主張する取消事由3は理由がない。 (4) 取消事由4(相違点2に係る容易想到性判断の誤り)に対しア オフセンタ機能と引用発明の技術的意義の相違を看過した誤り引用発明の衝突防止装置と周知のオフセンタ機能(甲4,5)とは,航法装置という共通の技術分野に属し,「前方の監視区域の表示範囲を広げる」という点で共通の技術的意義を有するものであり,かつ,引用発明における警戒空域の円表示範囲は自航空機の速度が増大するに従って前方へ広がっていくことから,表示器(表示装置)であるCRTの表示領域からはみ出る可能性が高くなることを考慮すれば,引用発明に周知のオフセンタ機能を適用することを排除する理由は認められない。 そうすると,引用発明に周知のオフセンタ機能を適用することにより本願発明の相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易にし得たものである。 この点について,原告は,引用発明は,自航空機の速度が増大しても,表示画面に表示されている探知画像に変化はなく,後方の表示範囲は一定であるから移動速度に応じた最適なシフト量を設定することができない旨主張する。 しかし,原告がいう「表示画面」とは,表示器(表示装置)の表示領域全体を意味するものであるのに対し,引用刊行物は,表示器(表示装置)であるCRT自体の表示領域全体とそこに表示される警戒空域との関係についての記載や示唆をしておらず,審決は,あくまでもCRT上の警戒空域内に他航空機の概略位置を表示するものとして引用発明を認定したにとどまるのであるから,原告の上記主張は,失当である。 イ 本願発明の格別な効果を看過した誤り原告は,本願発明には,操作者の手を煩わすことなく移動速度に応じた最適なシフト量を確保できる効果を奏することができるという効果があると主張する。 しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,引用発明は,「対気速度計の指示する自航空機速度情報を計算機に入力し,これに基づいて,・・・警戒空域をCRT上に表示し,自航空機の速度が増大するに従って前記直径を伸張する」(審決書3頁下から2行目〜第4頁第3行目参照)ものであり,計算機が自動的に,つまり,操作者の手を煩わせることなく,移動速度に応じて最適な警戒空域を表示できるという効果を有することは明らかである。したがって,本願発明の「操作者の手を煩わせることなく移動速度に応じた最適なシフト量を確保できる効果」は,上記の引用発明及びオフセンタ機能の効果から,当業者が予測可能な範囲内のものであるといえる。 また,原告は,移動体の速度に応じて前方の表示範囲が広くなることから,単純なオフセンタ機能とは異なり,スピード感を得ることができるという効果があり,本願発明に格別のものであるとも主張している。 しかし,「スピード感を得ることができるという効果」は本願明細書には記載も示唆もなく,本願明細書に基づく主張ではないから失当である。 のみならず,仮に,本願発明において,移動体の速度に応じて前方の表示範囲が広くなることに対して「スピード感を得ることができるという効果」が,単にスピード感を得ることができることを効果と捉えるのであれば,引用発明においても「移動体の速度に応じて」表示が変化することに変わりはないから,「スピード感を得ることができるという効果」があり,この点も引用発明から容易に予測可能な範囲内のものであるといえる。 ウ 容易想到性の適用阻害要因の存在を看過した誤りに対し原告は,引用発明に係る航空機衝突防止装置の表示において,常に大きな表示レンジに設定しておくことが必要であるから,引用発明にオフセンタ機能を適用することについては阻害要因がある旨主張する。 しかし,原告の上記主張は,理由がない。すなわち,引用刊行物の衝突防止システムは,ATCトランスポンダを利用したもので,検出した物標を単にマークで位置表示するものであったとしても,複数の物標同士の位置関係や移動体と物標との位置関係を正確に把握したい場合など当業者であれば容易に想定できる使用形態においては,表示レンジを小さく(つまり拡大して表示)することが明らかであるといえるから,引用発明においては常に大きな表示レンジに設定しておくことが必要であるとする原告の主張は,引用刊行物の記載に裏付けられたものではなく,技術常識に基づくものでもないから,根拠がなく失当である。 |
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当裁判所の判断
当裁判所は,審決のした相違点2に係る容易想到性の判断には,誤りがあると解する。その理由は,以下のとおりである。 1 審決の相違点2に係る容易想到性判断の内容上記論点に関する審決の判断は,以下のとおりである。 「引用発明において,自航空機を中心とする所定半径の円と,前記円の中心を通り前記自航空機の速度に応じてその進行方向に直径が伸縮する円との外周を結ぶ如きプロファイルを有する警戒空域をCRT上に表示し,自航空機の速度が増大するに従って前記直径を伸張するようにした趣旨は,引用刊行物の上記摘記事項3及び4の記載からみて,衝突回避操作に必要とされる時間を確保するために,自航空機の速度が増大するに従って,自航空機の前方の警戒空域の表示範囲をより広げるためである。 一方,航法装置において,移動体の前方の監視区域の表示範囲を広げるために,移動体の表示位置を表示画面の中心位置から後方へずらせて表示させることは,例えば,特開昭59-17177号公報,特開昭54-64991号公報に示されるように本願出願前周知である。 そうすると,引用発明と該周知技術は,ともに,移動体の前方の監視区域の表示範囲を広げるものであるから,引用発明に該周知技術を適用して,自航空機の速度が増大するに従って,自航空機の表示位置を表示画面の中心位置からより後方へずらせるようにすることは当業者が容易に想到し得たことである。 そして,その際に,引用刊行物の第1図(b)に示されるように,自航空機の移動方向の警戒空域を最も広く表示するためには,自航空機の表示位置を移動方向に対して後方へずらせばよいことは明らかである。 したがって,引用発明に上記周知技術を適用して相違点2に係る構成とすることは当業者が容易になし得たことである。」(審決書5頁15行〜35行)と判断している。 2 本願明細書及び引用刊行物の各記載(1)本願明細書の特許請求の範囲(請求項1)は,第2の2のとおりであり,発明の詳細な説明欄には,以下の記載がある(甲2,3)。 「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は,船舶などの移動体に装備されるレーダに関する。 【0002】【従来の技術】船舶などで用いられる従来のレーダは,アンテナの指向方向を順次回転させるとともに,パルス状の電波を送受波し,アンテナの指向方向と受波タイミングに応じてアンテナ周囲の探知画像のデータを生成し,これを表示装置に表示することによって,自船周囲の物標を監視するものであるため,基本的に自船の位置を探知画像の中心として探知画像を表示するようにしている。そして,操作者は自船周囲の物標監視の目的に応じて表示レンジを切り換えるようにしている。また,船舶が航行しつつ前方の広い範囲に注意を払って物標の監視を行えるように,表示画面の下方寄りに自船位置を配置して,自船前方の表示範囲を広くとるようにするシフトまたはオフセンターと称される機能(以下「シフト機能」という。)を備えている。 【0003】【発明が解決しようとする課題】上記シフト機能によって,探知画像をどれだけシフトさせて表示させるか,そのシフト量は,表示レンジに応じて一義的に定めることができず,その時に設定されている表示レンジに応じて,また物標探知や物標監視の目的(移動速度が速い場合に,前方のより広範囲を監視する等の目的)に応じて設定することになるが,レーダの操作者が,実際に表示されている探知画像を確認してシフト量を判断しなければならず,その操作は煩雑であった。 【0004】勿論,表示レンジを大きくして探知範囲が広くなるように設定しておけば常に広範囲の探知が可能であるが,表示レンジが大きいほど物標が相対的に小さく映るので,物標の形を識別したい場合には不適当となる。そのため,常に大きな表示レンジで表示しておくことは現実的ではない。 【0005】この発明の目的は上記シフト量の設定をできるだけ操作者の手を煩わせることなく,最適なシフト量となるようにしたレーダを提供することにある。」(甲2)「【0006】【課題を解決するための手段】この発明は,アンテナの指向方向を順次変えるとともに,パルス電波の送受波を行い,アンテナ周囲の探知画像のデータを生成し,所定の範囲の探知画像を表示画面内に表示する移動体に装備されるレーダにおいて,上記シフト量設定の煩雑さを解消するために,請求項1に記載のとおり,前記移動体の移動速度を検知する移動体速度検知手段を備え,表示画面内における移動体の表示位置を,前記表示画面内の基準位置から移動体の移動方向に対して後方へ所定のシフト量だけシフトさせて前記探知画像を表示し,前記移動体速度検知手段により検知された移動体の移動速度が大きくなるほど,前記シフト量を大きくする探知画像表示制御手段を設ける。」(甲3)「【0007】このように構成したことにより,探知画像表示制御手段は,移動体の移動速度が大きくなるほど,表示画面内における移動体の位置を基準位置より移動体の移動方向に対して後方へシフトさせて探知画像を表示するため,移動体の移動速度が低速な状態ではシフト量があまり大きくならずに,移動体の前方も後方も略等しい範囲を探知および監視できるようになり,移動体の移動速度が大きくなると,後方より前方の表示範囲が広く取られて,前方のより広い範囲を監視できるようになる。 【0008】上記探知画像表示制御手段として,請求項2に記載のとおり,前記シフト量を変化させてから,一定時間を経過するまではそのシフト量を維持するように構成すれば,移動体の移動速度が変わる毎に表示画面における移動体の位置が頻繁に切り換わるといったことがなく,探知画像を読み誤ったりすることもない。 【0009】また,上記探知画像表示制御手段として,請求項3に記載のとおり,前記移動体の移動速度に対する前記シフト量を段階的に変化させるように構成すれば,移動体の移動速度が僅かに変わる毎に表示画面における移動体の位置が頻繁に切り換わるといったことがなく,探知画像を読み誤ったりすることもない。 【0010】更に,この発明のレーダは,請求項4に記載のとおり,前記シフト量を段階的に変化させるための移動体の移動速度のそれぞれのしきい値を移動体の移動速度の上昇時と下降時とで異ならせて,移動速度に対するシフト量の変化にヒステリシスをもたせる。これにより移動体の移動速度の上昇によって,あらかじめ定めたしきい値を超えた時にシフト量の変更が行われ,その直後に移動体の移動速度が下降に転じても直ちにシフト量が変更されることがなく,同様に移動体の移動速度が下降によってあらかじめ定めたしきい値を下回ることによってシフト量が変更された直後に移動速度が再び上昇に転じても直ちにシフト量が変更されることがない。 これにより移動体の移動速度が変わる毎に表示画面内における移動体の位置が頻繁に切り換わるといったことがなく,探知画像を読み誤ったりすることもない。」(甲2)「【0029】【発明の効果】請求項1に記載の発明によれば,移動体の移動速度が大きくなるほど,表示画面内における移動体の表示位置が前記表示画面内の基準位置から移動体の移動方向に対して後方へシフトして探知画像が表示されるため,移動体の移動速度が低速な状態ではシフト量があまり大きくならずに,移動体の前方も後方も略等しい範囲を探知および監視でき,移動体の移動速度が大きくなると,後方より前方の表示範囲が広く取られて,前方のより広い範囲を監視できるようになり,操作者の手を煩わせることなく,移動速度に応じて常に最適なシフト量が確保される。」(甲3)(2) 引用刊行物(甲1)には,次の記載がある。 「特許請求の範囲(1)航空機衝突防止装置の脅威機表示装置に於いて,自他航空機の衝突を警戒すべき空域表示を自航空機の速度に応じて変更するようにしたことを特徴とする航空機衝突防止装置に於ける警戒空域表示方式。 (2)前記自他航空機の衝突を警戒すべき空域表示が自航空機の速度によって自航空機の進行方向に直径の伸縮する円であることを特徴とする特許請求の範囲1記載の航空機衝突防止装置に於ける警戒空域表示方式。 (3)前記自他航空機の衝突を警戒すべき空域表示が自航空機を中心とする所定半径の円と,前記円の中心を通り前記自航空機の速度に応じてその進行方向に直径が伸縮する円との外周を結ぶ如きプロファイルを有することを特徴とする特許請求の範囲1記載の航空機衝突防止装置に於ける警戒空域表示方式。」(甲1,1頁左欄5行〜右欄2行)「(従来の技術)従来一般に使用され或は考究されている航空機衝突防止システムは基本的には自航空機の衝突防止装置が発する質問信号に応答する他航空機のATCトランスポンダ応答信号を受信し,その受信電界強度,方位等から他航機(判決注:「他航空機」の誤記)の概略位置を把握しこれをCRT上に表示するものであるが,自航空機から見て現実に衝突の虞れの強い他航空機に操縦者の注意を集中せしめるべくCRT上に自航空機を中心とする所要半径,例えば2n.m.(浬)に相当する円を表示するのが一般的であった。 しかしながら前記警戒空域を表示する円が半径2n.m.固定である場合に於いて自他航空機が夫々,500kt(ノット)で正対接近すると仮定すれば,他航空機が前記円内に表示せられた後衝突するまでの時間tはt=2/(500+500)時間=7.2秒であり回避操作にはとうてい不充分であるという欠陥があった。 一方,前記警戒空域を表示する円の半径を大とすれば円内に表示される他航空機の数が増大し操縦者にとって極めてわずらわしく真の脅威機に対する神経の集中が困難になることは自明であり採用し難いものであった。 (発明の目的)本発明は上述の如き従来の航空機衝突防止装置の欠陥を除去すべくなされたものであって,自航空機の速度に応じて警戒空域を所要の形状に変化せしめることによって自他航空機の衝突回避操作に必要な時間を確保すると共に操縦者の真の脅威機に対する注意の散漫を防止し航空交通の安全を図ることを目的とする。」(甲1,1頁右欄7行〜2頁左上欄18行)「さて,上述の如き警戒空域表示方式を実現する為には第2図に示す如く送受信機夫々TX及びRX,応答検知機REPLYDETECTOR,計算器CASCPU及び表示器DISPLAYによって構成する従来の航空機衝突防止装置1の他に対気速度計VELOCITYSENSOR2の指示を必要ならエンコーダENCODER3で符号化した自航空機速度情報を前記計算機CASCPUに入力し,これに基づいて前述した如き所要の計算を行なわしめた上,表示器DISPLAY上に自航空機速度に対応したプロファイルを描かせればよい。」(甲1,3頁左上欄5行〜16行)「(発明の効果)本発明は以上説明した如き方式を採用するものであるから事実上従来の航空機衝突防止装置に簡単なソフトウエアを付加するのみで航空交通の実情に即した警告表示が可能となり,延いては操縦者に対し空中衝突回避操作の時間的余裕を十分に与えることになるため航空機の衝突事故を防止する上で著しい効果を発揮する。」(甲1,3頁右上欄1行〜8行)3 審決の相違点2に係る容易想到性判断の当否について(1)上記の引用刊行物の記載に照らすならば,引用発明では,CRT上(表示器DISPLAY上)に他航空機の概略位置を示す全体の表示画面は,拡大又は縮小させることなく,一定の範囲の画像を表示することを前提としていること,全体の表示画面中に,衝突のおそれの少ない他航空機も表示されることにより操縦者の注意が散漫になるため,真の脅威機に対して神経を集中させて航空交通の安全を図るようにさせるとの課題が存在すること,その課題を解決するために,前記自航空機の速度に応じてその進行方向に直径が伸縮する円で示される「警戒空域」をCRT上に重ねて表示するとの技術が示されている。 一方,特開昭59-17177号公報及び特開昭54-64991号公報(甲4,5)によれば,移動体の表示位置を表示画面の中心位置から後方等へ移動させて表示する技術が記載され,同技術は,表示画面上に表示される探知画像の表示面積を変えることなく,探知画像の描画中心位置を変化させるものであって,周知技術であることが認められる(以下「オフセンタ機能という場合がある。)。 上記のとおり,オフセンタ機能は,探知画像の描画中心位置を後方へ変化させることにより,前方の表示画面限界位置までの表示範囲を広げて,変化させる前に見えていない探知物標が見えるようにし,他方,後方の表示画面限界位置までの表示範囲を狭め,変化させる前には見えていた探知物標を見えなくする技術である。 (2)そこで,引用発明において,周知技術であるオフセンタ機能を採用する解決課題ないし動機等が存在するか否かについて検討する。 前記のとおり,引用発明は,表示器DISPLAY上の全体の表示画面について,自航空機の速度等に応じて,前方の表示範囲を伸縮させるのではなく,むしろ,一定の範囲内に位置する他航空機等のすべてを表示させることを前提ないし想定した発明である。このように,引用発明は,全体の表示画面内に,数多く表示されることがあり得る他航空機等の中で,操縦者をして,真に衝突を警戒すべき他航空機を識別させ,そのような航空機に対する注意を喚起させるために,「警戒空域」を円で表示し,かつ,自航空機の速度に応じて,その半径の長さを伸縮させる技術に係る発明である。上記のとおり,「警戒空域」の表示画面は,全体の表示画面に既に表示されている他航空機等の中で,衝突を回避させる必要のない航空機等と,真に衝突を回避させる必要のある他航空機等を,操縦者にとって識別することを容易にするための手段として用いられている。 上記のとおり,引用発明では,CRT上(表示器DISPLAY上)の全体の表示画面には,衝突のおそれの有無にかかわらず,他航空機が表示されていることを前提として,既に,全体の表示画面に表示されている他航空機の中で,操縦者に対して,真に衝突を警戒すべき他航空機を操縦者に識別させて,注意をしやすくする目的で,「警戒空域」を表示させるという課題解決のための技術であるから,引用発明が,課題をそのような手段によって解決する発明である以上,「警戒空域」の表示範囲のみを,効率的に表示する目的でオフセンタ機能を採用する解決課題,優位性ないし動機等は存在しないというべきであり,仮にあるとすれば,それは,引用発明が想定する課題解決とは全く別個の課題設定と解決手段というべきである。 けだし,一般的には,オフセンタ機能を用いて,探知画像の描画中心位置を後方へ変化させれば,前方の表示画面限界位置までの表示範囲は拡大し,それまでに見えていない探知物標が見えるようになるという画面の効率化を実現できるという効果はあるが,引用発明は,全体の表示画面内に警戒空域を表示する技術に関するものであって,それまでに見えていない探知物標を見えるように表示するという課題の解決を目的としたものではないから,上記のような一般的な効果は,引用発明とは無関係であるといえる。 この点,被告は,引用発明においても,自航空機の速度を増大させた場合には,警戒空域の表示範囲が前方に拡大し,CRT上の全体表示画面から,はみ出して表示されることがあり得るものであり,画面の効率化を必要とする解決課題,動機等が潜在的に示されている旨主張する。しかし,そのような主張は,引用発明における解決課題,すなわち,多数の他航空機が表示され得るCRT上の全体表示画面において「警戒空域」表示をすることによって,真に衝突を警戒すべき他航空機を操縦者に識別させることを容易にするという引用発明の課題とは相容れない効果を前提とする主張というべきであって,採用の限りでない。 (3)審決は,前記1のとおり,「引用発明において,自航空機を中心とする所定半径の円と,前記円の中心を通り前記自航空機の速度に応じてその進行方向に直径が伸縮する円との外周を結ぶ如きプロファイルを有する警戒空域をCRT上に表示し,自航空機の速度が増大するに従って前記直径を伸張するようにした趣旨は,引用刊行物の上記摘記事項3及び4の記載からみて,衝突回避操作に必要とされる時間を確保するために,自航空機の速度が増大するに従って,自航空機の前方の警戒空域の表示範囲をより広げるためである。」と説示する。 しかし,上記に詳述したとおり,引用発明においては,他航空機等は,既に,全体の表示画面において,自航空機の速度を速くする前から表示されているのであるから,「警戒空域」画面の表示態様として,オフセンタ機能を適用する解決課題ないし動機付けはない。 審決は,本願発明と引用発明とは,解決課題及び技術思想を互いに異にするものであって,引用発明を前提とする限りは,本願発明と共通する解決課題は生じ得ないにもかかわらず,解決課題を想定した上で,その解決手段として周知技術を適用することが容易であると判断して,引用発明から本願発明の容易想到性を導いた点において,誤りがあるといえる。 原告の取消事由4に係る主張には,理由がある。 4 結 論以上によれば,その余の点を判断するまでもなく,原告の本訴請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 齊木教朗 |
裁判官 | 嶋末和秀 |