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関連審決 不服2007-6752
関連ワード 創作性(創作) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  上位概念 /  技術常識 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10038号 審決取消請求事件
原告ア ルプス電気株式会社
訴訟代理人弁護 士鈴木和夫
訴訟代理人弁理 士野崎照夫
同 三輪正義
被告特許庁長官
指定代理人小林和男
同 寺本光生
同 紀本孝
同 高木彰
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2007-6752号事件について平成19年12月17日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成11年5月10日に出願した特願平11-128699号(以下「原出願」という。)の一部を分割して,平成15年12月19日,発明の名称を「押釦スイッチ」とする特許出願(特願2003-422680号。以下「本願」という。)をした。
その後,原告は,平成18年12月19日付けで本願の願書に添付した特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正をしたが(甲9),平成19年1月31日付けで拒絶査定を受けたので,これを不服として,同年3月7日,拒絶査定不服審判を請求し(不服2007-6752号事件),同年4月5日付けで願書に添付した特許請求の範囲及び明細書を補正する手続補正(以下「本件補正」という。また,本件補正後の明細書を,図面と併せ,以下「補正明細書」という。)をした(甲10)。
特許庁は,平成19年12月17日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」とする審決(以下「審決」という。)をし,平成20年1月8日,その謄本を原告に送達した。
2特許請求の範囲(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】回路基板と,この回路基板上に設けられた複数の中央固定接点および周辺固定接点と,前記周辺固定接点上に載置されて前記中央固定接点と接離可能な複数のドーム状の可動接点と,前記回路基板上に固着されて前記可動接点を被覆するシート部材と,それぞれが前記ドーム状の可動接点の頂点部を押圧する複数のステムとを備え,前記可動接点の内面側に,前記頂点部を環状に包囲するとともに点状の接点部を有する複数個の突起部を形成し,前記頂点部を被押圧部として前記可動接点を反転させた際に,前記各突起部によって包囲された部分が可動領域となるように,該突起部を前記中央固定接点の中央部を避けた場所に接触させるように構成したことを特徴とする押釦スイッチ。」(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,この発明を「本願補正発明」という。)。
「【請求項1】回路基板と,この回路基板上に設けられた複数の中央固定接点および周辺固定接点と,前記周辺固定接点上に載置されて前記中央固定接点と接離可能で前記回路基板から離れる側へ向けて突状に形成された複数のドーム状の可動接点と,前記回路基板上に固着されて前記可動接点を被覆するシート部材と,それぞれが前記ドーム状の可動接点を押圧する複数のステムとを備え,前記可動接点がドーム状の頂点部を有しており,前記可動接点の内面側には,ドーム状の前記頂点部を除いた位置でドーム状の前記頂点部を環状に包囲するとともに点状の接点部を有する複数個の突起部が,前記回路基板に向けて突状に形成されて,前記ステムは前記各突起で囲まれたドーム状の前記頂点部を押圧する位置に配置されており,前記ステムでドーム状の前記頂点部が押されて前記可動接点が前記回路基板に向けて反転させられる際に,前記各突起部が前記中央固定接点の中央部を避けた場所に接触するとともに,前記各突起部で包囲されたドーム状の前記頂点部が反転時に可動領域となることを特徴とする押釦スイッチ。」3審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,?@本願補正発明は,原出願の出願前に頒布された刊行物である特開平2-126524号公報(以下「第1引用例」という。甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び実願平1-121649号(実開平3-60721号)のマイクロフィルム(以下「第2引用例」という。甲2)に記載された技術事項(以下「引用技術」ということがある。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は,平成18年改正前特許法17条の2第5項で準用する特許法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項で読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下されるべきものであり,?A本願発明は,本願補正発明と同様の理由により,引用発明及び引用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
(2)審決が上記(1)の結論を導くに当たり認定した引用発明の内容,本願補正発明と引用発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明の内容「絶縁基板2と,この絶縁基板2上に設けられた複数の第1の接点1aおよび第2の接点1bと,前記第2の接点1b上に載置されて前記第1の接点1aと接離可能で前記絶縁基板2から離れる側へ向けて突状に形成された複数の球面状のダイヤフラム4と,前記絶縁基板2上にスペーサ3を介して配置されて前記ダイヤフラム4を被覆するシート5と,それぞれが前記球面状のダイヤフラム4を押圧する複数のボタン6とを備え,前記ダイヤフラム4が球面状の頂点部を有しており,前記ボタン6は球面状の前記頂点部を押圧する位置に配置されており,前記ボタン6で球面状の前記頂点部が押されて前記ダイヤフラム4が第1の接点1aに接触するパネルスイッチ。」(審決書5頁1行〜10行)イ 一致点「回路基板と,この回路基板上に設けられた複数の中央固定接点および周辺固定接点と,前記周辺固定接点上に載置されて前記中央固定接点と接離可能で前記回路基板から離れる側へ向けて突状に形成された複数のドーム状の可動接点と,前記回路基板上に固着されて前記可動接点を被覆するシート部材と,それぞれが前記ドーム状の可動接点を押圧する複数のステムとを備え,前記可動接点がドーム状の頂点部を有しており,前記ステムはドーム状の前記頂点部を押圧する位置に配置されており,前記ステムでドーム状の前記頂点部が押されて前記可動接点が中央固定接点に接触する押釦スイッチ。」(審決書6頁32行〜7頁5行)ウ 相違点「本願補正発明は,『可動接点の内面側には,ドーム状の前記頂点部を除いた位置でドーム状の前記頂点部を環状に包囲するとともに点状の接点部を有する複数個の突起部が,前記回路基板に向けて突状に形成されて』おり,ステムは『前記各突起で囲まれた』頂点部を押圧する位置に配置され,『前記可動接点が前記回路基板に向けて反転させられる際に,前記各突起部が前記中央固定接点の中央部を避けた場所に接触するとともに,前記各突起部で包囲されたドーム状の前記頂点部が反転時に可動領域となる』のに対し,引用発明は,突起部を有さないため前記のような事項を有するとはいえない点。」(審決書7頁7行〜14行)(3)審決は,「ドーム状の頂点部を押圧するボタンを有するスイッチの可動接点と固定接点との接触部に突起部を設けたもので,突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲する位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置したものも知られている」(審決書7頁29行〜34行)ことを示すものとして,実願平3-76861号(実開平5-20225号)のCD-ROM(以下「周知例1」という。甲3),実願昭59-30023号(実開昭60-142440号)のマイクロフィルム(以下「周知例2」という。甲4),実願平4-68640号(実開平6-33329号)のCD-ROM(以下「周知例3」という。甲5)及び実願平5-24014号(実開平6-82729号)のCD-ROM(以下「周知例4」という。甲6)を例示した。
当事者の主張
1 原告の主張審決は,本願補正発明と引用発明との相違点に係る容易想到性の判断を誤った違法(取消事由1),本願発明の容易想到性の判断を誤った違法(取消事由2)があるから,取り消されるべきである。なお,審決の認定に係る引用発明の内容及び本願補正発明と引用発明との一致点・相違点は,いずれも認める。
(1)取消事由1(本願補正発明と引用発明との相違点に係る容易想到性の判断の誤り)ア 引用発明と引用技術との組合せが容易であるとした判断の誤り(ア)審決は,引用発明の「ダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された点状の接点部を有する複数個の突起部を設けることは当業者が容易に採用し得る技術的事項である。」(審決書7頁25〜27行)と判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記判断は誤りである。
a第2引用例(甲2)には,次のとおり,相違点に係る本願補正発明の構成は記載されておらず,したがって,引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された点状の接点部を有する複数個の突起部を設けることは,当業者が容易に採用し得る技術的事項とはいえない。
b第2引用例には,ドームばね40の中央下面側に突出接点部40Aが複数(4個)形成され,この突出接点部40Aが対向位置に配接された接点部3Aと当接する構成が記載されているが,ドームばね40が移動しないようにするために,凹部40Cに押ボタン5の押下脚部5Bが嵌め合わされるものであり(明細書7頁16行〜8頁1行参照),ドームばね40の中央部分は,ドーム状の頂点部ではなく,平坦面である(第1A図参照)。すなわち,第2引用例に記載された突出接点部40Aは,ドームばね40の中央平坦部に形成されているが,本願補正発明の突起部とは異なり,ドーム状の頂点部を環状に包囲するようには形成されていない。
また,第2引用例の押下脚部5B(ステム)は,突出接点部40Aの外側を押下するように形成されており(第1A図参照),本願補正発明と異なり,前記各突起で囲まれた頂点部を押圧する位置に配置されていない。
そして,第2引用例では,押ボタン5を押下すると,ドームばね40の頂部が押ボタンの脚部5Bによって押し下げらればね全体が平らに展延されるので,本願補正発明とは異なり,各突起部で包囲されたドーム状の頂点部が反転時に可動領域となることはない。
したがって,第2引用例では,突出接点部40Aは,平坦な状態を保ったままばね全体が平らに展延されるのに伴い,中央固定接点に接するだけで,中央固定接点に接触した後,それぞれが個別に摺動することはできないから,本願補正発明のような高い接触信頼性を得ることはできないし,操作時の操作フィーリングも劣るものというべきである。
cこのように,第2引用例に相違点に係る本願補正発明の構成が開示されていない以上,本願補正発明は,引用発明と引用技術を組み合わせるだけでは想到できないのであるから,両者を組み合わせて本願補正発明に想到することには阻害事由がある。
(イ)審決は,「引用発明に第2引用例に記載された『突出接点部40A』を適用する際,『凹部40C』を併せて適用する必然性はない」(審決書8頁30行〜32行),「『凹部40C』は,・・・『突出接点部40A』と一体不可分な事項とは考えられないものである。」(審決書8頁36行〜9頁2行)と判断した。
しかし,前記(ア)のとおり,第2引用例には,平坦な突出接点部40Aが開示されているにすぎず,ドーム状の頂点部を環状に包囲する複数の突起部は開示されていないから,引用発明に第2引用例に記載された技術事項(引用技術)を組み合わせても,本願補正発明に想到することは困難である。
(ウ)審決は,引用発明と引用技術との組合せの容易性の判断に際し,「引用発明も,第2引用例に記載された課題と同様の,ゴミ等により接触不良が起こるという課題を有している」(審決書7頁23行〜25行)と認定した。
しかし,引用発明及び引用技術には,次のとおり,いずれも本願補正発明の解決しようとする課題及びその解決のための発想との共通性を見いだすことができない。
まず,本願補正発明の課題は高い接触信頼性と操作時の操作フィーリングであって,本願補正発明はごみの介在による接触不良を主たる課題とするものではない。
これに対し,引用発明の課題は,スペーサ4の孔の打ち抜きにより生じる接触不良防止であるが,この課題はスペーサを削除することにより達成されるものであって,本願補正発明の課題とは無関係であり,引用技術が解決しようとする課題との共通性も存在しない。
一方,引用技術では,平坦面に形成された板ばね中央部の突設接点部も対応する単一固定電極と点接触するので,従来のようにごみ等のために生じる接触不良を抑制することができるが,ドーム状の頂点部を環状に包囲するように突起部を形成し,各突起部で包囲されたドーム状の頂点部が反転時に可動領域となることにより,高い接触信頼性と操作時の操作フィーリングを得ようとする発想は見いだせない。
イ 技術水準に係る認定判断の誤り(ア) 周知例1ないし4について審決は,周知例1ないし4を挙げて,「引用発明のボタン6は,ダイヤフラム4のドーム状の頂点部を押圧するものであるが,このようなドーム状の頂点部を押圧するボタンを有するスイッチの可動接点と固定接点との接触部に突起部を設けたもので,突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲する位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置したものも知られている」(審決書7頁28行〜34行)と認定し,「そうすると,引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された複数個の突起部を設ける際,第2引用例に記載された突起部をダイヤフラム4のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲するように形成し,各突起部が第1の接点1aの中央部を避けた場所に接触するようにするとともに,ボタン6を各突起部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧するように配置することも可能であるといえ,このような構造とすることに格別の困難性はないといえる。」(審決書8頁1行〜8行)と判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記認定判断は誤りである。
a周知例1及び2は,次のとおり,いずれも可動接点の内面側に突起部を設けたものではないから,引用発明及び引用技術と本願補正発明とを対比するに当たり,参考になり得ない。
(a)周知例1においては,反転部材(可動接点)4の内面側に突起部は形成されておらず,また単にドーム状の可動接点の全体が反転するだけであって,「各突起部で包囲されたドーム状の頂点部が反転時に可動領域」となるものではない。
(b)周知例2においては,可動接片4の内面側に突起部は形成されておらず,また「各突起部で包囲されたドーム状の頂点部が反転時に可動領域」となるものではない。
b周知例3及び4は,可動接点の内面側に設けられた突起部は,ドーム状の頂点部を挟むように形成されているにすぎず,ドーム状の頂点部を環状に包囲するように形成されているものではない。
(a)周知例3の図5においては,タクト板12の内面側に接点11に対向する突起部が形成されているように見えるが,突起部は2つであり,この2つの突起部は,タクト板12の頂点部を「挟む」ように形成されている。
本願補正発明は,ドーム状の可動接点の内面側に「ドーム状の頂点部を環状に包囲する複数個の突起部」を形成するものであるところ,「包囲」とは「まわりをとりかこむこと」,「とりかこむ」とは「まわりをかこむ」こと,「かこむ」とは「ものを中にしてまわりを取り巻く」こと又は「中にとりこめて周囲をふさぐ」ことをそれぞれ意味する。
そうすると,周知例3にはドーム状の頂点部を「環状に包囲する」ように形成する構成は開示されておらず,また,「ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置した」構成も開示されていないといえる。
そして,周知例3の図5では,ドーム状の可動接点の内面側に「ドーム状の頂点部を環状に包囲する複数個の突起部」が形成されていないから,「各突起部で包囲されたドーム状の頂点部が反転時に可動領域」とはならない。
また,周知例3の図5のタクト板12の内側の2つの突起部は,同一平面上に形成された2つの接点11に,それぞれ対向して形成されており,ひとつの突起部がひとつの固定接点11に接触するものであって,本願補正発明のように複数の突起部が共通の中央固定接点に接触するものではない。
したがって,周知例3の図5では,ドーム状の頂点部を押圧しても,複数個の突起部が共通の中央固定接点に個別に圧接しながら摺動することはないことから,可動接点と中央固定接点の高い接触信頼性を得ると共に,操作時に操作フィーリングに悪影響を及ぼすということもないとの本願補正発明の効果を奏することはできない。
(b)周知例4のクリックばね18の内側の2つの突起19,21は,周知例3の図5のタクト板12の内側の2つの突起部と同様に,クリックばね18のドーム状の頂点部を「挟む」ように形成されているもので,ドーム状の頂点部を「環状に包囲する」ようには形成されていない。
また,周知例4では,ドーム状の可動接点の内面側に「ドーム状の頂点部を環状に包囲する複数個の突起部」が形成されていないから,「各突起部で包囲されたドーム状の頂点部が反転時に可動領域」とはならないこと,2つの突起19,21は,2つの固定接点16,17に,それぞれ対向して形成されており,ひとつの突起部がひとつの固定接点に接触するものであって,本願補正発明のように複数の突起部が共通の中央固定接点に接触するものではないこと,及び,周知例4では,ドーム状の頂点部を押圧しても,複数個の突起部が共通の中央固定接点に個別に圧接しながら摺動することはないことから,可動接点と中央固定接点の高い接触信頼性を得ると共に,操作時に操作フィーリングに悪影響を及ぼすということもないとの本願補正発明の効果を奏することはできないことは,周知例3の図5の場合と同様である。
c以上によれば,周知例1ないし4を参酌したとしても,これらには,可動接点の内面側にドーム状の頂点部を環状に包囲するように形成された複数の突起部は記載されていないから,「引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された複数個の突起部を設ける際,第2引用例に記載された突起部をダイヤフラム4のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲するように形成し,各突起部が第1の接点1aの中央部を避けた場所に接触するようにするとともに,ボタン6を各突起部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧するように配置すること」が容易であったとはいえない。
したがって,周知例1ないし4を参酌したとしても,引用発明及び引用技術から,本願補正発明に想到することは困難である。
dなお,審決は,「このような構造を採用すれば,前記した実願平3-76861号(実開平5-20225号)のCD-ROMの図2にも示されているように,可動接点の反転時に,ドーム状の頂点部が可動領域となることは明らかである。」(審決書8頁9行〜12行)と判断しているが,周知例1は,前記a(a)のとおり,「各突起部で包囲されたドーム状の頂点部が反転時に可動領域」を形成するものではないから,審決の上記判断も誤りである。
(イ) 被告の主張に対しa被告は,「固定接点又は可動接点に設けた突起部と,可動接点のドーム状の頂点部と,ボタンとの位置関係に関し,固定接点又は可動接点に設けられた突起部による可動接点上の接触箇所が,ドーム状の頂点部を除いた位置でこの頂点部を環状に包囲するように設けられ,ボタンをこの環状に包囲されたドーム状の頂点部を押圧するように配置」することが,技術水準であると主張する。
しかし,被告の主張に係る技術水準は,周知例1ないし4に開示された技術要素を適宜取り出し,組み合わせて,創作されたものにすぎず,周知例1ないし4に共通する技術事項とはいえない。
b被告は,技術水準を示すものとして,実願昭53-151082号(実開昭54-71671号)のマイクロフィルム(以下「周知例5」という。乙1)及び実願昭61-105000号(実開昭63-12117号)のマイクロフィルム(以下「周知例6」という。乙2)を提出した。
しかし,周知例5は,「略Y字形状部」3bの下面側方向に向かって接触部3c,3dが適宜に折曲突出されているもので,「ドーム状の頂点部」は形成されておらず,被告の主張に係る技術水準を示すものではない。
また,周知例6は,「皿ばね状の可動接点」にどのような形状の「突起部」が形成されているのか不明である。
このように,周知例5及び6は,いずれも技術水準を裏付けるものとはいえない。
c被告の主張に係る技術水準には,本願補正発明の構成である「突起部がドーム状の頂点部を環状に包囲すること」及び「全ての突起部が共通の中央固定接点に接触すること」が示されていない。したがって,当該技術水準から,所望のものを選択し,当業者が,適宜,決定しても,本願補正発明に想到することはできない。
ウ 作用効果に係る判断の誤り審決は,「本願補正発明の作用効果についても,引用発明及び第2引用例に記載された技術事項から当業者が予測できる範囲のものである。」(審決書8頁16行〜17行)と判断した。
しかし,以下のとおり,審決の上記判断は誤りである。
本願明細書(甲7〜10)には,本願補正発明は,「高い接触信頼性が得られるシートタイプの押釦スイッチを提供すること」(段落【0011】)を目的として,請求項1記載の構成を採用したものであり,このような構成を有することにより,「ドーム状の頂点部を被押圧部として可動接点を反転させた際に,各突起部によって包囲された頂点部が可動領域となって突起部が中央固定接点に接触するため,可動接点と中央固定接点の接触信頼性を高めることができる」(段落【0013】及び【0015】)と共に,「操作時の操作フィーリングに悪影響を及ぼすということもない」(段落【0023】及び【0029】)という作用効果を奏する旨記載されている。
すなわち,本願補正発明は,ステムでドーム状の前記頂点部が押されて可動接点が回路基板に向けて反転させられる際に,複数個の突起部が共通の中央固定接点に圧接しながら摺動し,可動接点と中央固定接点の接触信頼性を高めることができると共に,操作時に操作フィーリングに悪影響を及ぼすということもないという,顕著な作用効果を奏するものである。
他方,第1引用例及び第2引用例はもとより,周知例1ないし4にも,本願補正発明の構成から導きだされる上記の作用効果は,何ら記載されていない。
したがって,本願補正発明の作用効果は,引用発明及び引用技術から当業者が予測できる範囲のものとはいえない。
(2) 取消事由2(本願発明の容易想到性の判断の誤り)審決は,本願発明も,本願補正発明についてした判断と同様に,引用発明及び第2引用例に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。しかし,本願発明も,前記1において主張した本願補正発明の特徴を有するから,本願補正発明と同様の理由により,審決の上記判断は誤りである。
2 被告の反論審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張はいずれも理由がない。
(1)取消事由1(取消事由1(本願補正発明と引用発明との相違点に係る容易想到性の判断の誤り)に対しア引用発明と引用技術との組合せが容易であるとした判断の誤りに対し(ア)原告は,第2引用例に相違点に係る本願補正発明の構成が記載されていないことを指摘する。
しかし,審決は,第2引用例に記載された「点状の接点部を有する複数個の突起部」が,ごみの介在により接触不良が生じるという課題を解決するために設けられていることから,これを同様の課題を有する引用発明のダイヤフラム4の内面側に設けることは,当業者にとって容易であるとしたものであり,その判断に誤りはない。したがって,第2引用例に相違点に係る本願補正発明の構成が記載されていないとの原告の主張は,審決の容易性に関する上記判断の正当性に影響を与えるものではない。
(イ)原告は,ドーム状の頂点部を環状に包囲する複数の突起部が第2引用例に記載されていないことを指摘する。
しかし,審決は,引用発明に第2引用例に記載された「点状の接点部を有する複数個の突起部」を設ける際,第2引用例の「凹部40C」を併せて適用する必然性がなく,「凹部40C」と「突出接点部40A」とは一体不可分なものではないと判断したもので,その判断に誤りはない(審決書8頁19行〜9頁2行参照)。
したがって,第2引用例に,上記構成が記載されていないとの原告の主張は,審決の判断の正当性に影響を与えるものではない。
イ 技術水準に係る認定判断の誤りに対し(ア)原告は,周知例1ないし4を個別に本願補正発明と対比し,周知例1ないし4のいずれにも可動接点の内面側にドーム状の頂点部を「環状に包囲する」ように形成された複数の突起部は記載されていないなどと主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
審決は,引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された複数個の突起部を設ける際に,「ドーム状の頂点部を押圧するボタンを有するスイッチの可動接点と固定接点との接触部に突起部を設けたもので,突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲する位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置したもの」が知られているという技術水準を参照すれば,「第2引用例に記載された突起部をダイヤフラム4のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲するように形成し,各突起部が第1の接点1aの中央部を避けた場所に接触するようにするとともに,ボタン6を各突起部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧するように配置することも可能であるといえ,このような構造とすることに格別の困難性はない」と判断したが,その判断の過程で,技術水準を裏付けるものとして,周知例1ないし4を例示した。
ところで,「ドーム状の頂点部を押圧するボタンを有するスイッチの可動接点と固定接点との接触部に突起部を設けたもので,突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲する位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置したもの」とは,固定接点又は可動接点に設けた突起部と,可動接点のドーム状の頂点部と,ボタンとの位置関係に関し,固定接点又は可動接点に設けられた突起部による可動接点上の接触箇所が,ドーム状の頂点部を除いた位置でこの頂点部を環状に包囲するように設けられ,ボタンをこの環状に包囲されたドーム状の頂点部を押圧するように配置したものを意味すると解するのが相当である。
そして,周知例1記載の技術は,少なくとも固定接点に設けられた突起部による可動接点上の接触箇所が,ドーム状の頂点部を除いた位置でこの頂点部を環状に包囲するように設けられている点で上記技術水準を裏付けており,周知例2記載の技術は,固定接点に設けられた突起部による可動接点上の接触箇所が,ドーム状の頂点部を除いた位置でこの頂点部を環状に包囲するように設けられており,ボタンをこの環状に包囲されたドーム状の頂点部を押圧するように配置している点で上記技術水準を裏付けている。また,周知例3及び4記載の各技術は,少なくとも可動接点に設けられた突起部(接触箇所)が,ドーム状の頂点部を除いた位置でその近傍に設けられており,ボタンをこの突起部の間にあるドーム状の頂点部を押圧するように配置している点で上記技術水準を裏付けている。
さらに,同様の技術水準を示す文献として,周知例5及び6も知られている。
そして,前記アで主張したように,引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された複数個の突起部を設けることは,当業者にとって容易であり,その具体的な構成は,上記技術水準等を参照して,考えられる種々の構成の中からそれぞれの長所・短所を検討することにより,所望のものを選択し,当業者が,適宜,決定するものである。
すなわち,引用発明は「ダイヤフラム4が球面状(本願補正発明の「ドーム状」に相当。)の頂点部を有しており,前記ボタン6は球面状の前記頂点部を押圧する位置に配置され」るものであり,また,第2引用例に記載された突出接点部40A(本願補正発明の「突起部」に相当。)は,第1B図をみると,ドームばね40の略中心を除いた位置で,この略中心を環状に包囲するように設けられたものである。そして,引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された複数個の突起部を設ける際,突起部と,ドーム状の頂点部と,ボタンとの位置関係に関する上記技術水準を参照して,引用発明のダイヤフラム4のドーム状の頂点部はそのままに,その頂点部を除いた位置に,第2引用例に記載された環状に配置された突起部を設けるとともに,引用発明のボタン6を各突起部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置することに格別の困難性はない。
以上のとおり,周知例1ないし4に可動接点の内面側にドーム状の頂点部を「環状に包囲する」ように形成された複数の突起部は記載されていないとの原告の主張が,審決のした容易想到性の判断に影響を与えることはない。
(イ)原告は,審決が,「引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された複数個の突起部を設ける際,第2引用例に記載された突起部をダイヤフラム4のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲するように形成し,各突起部が第1の接点1aの中央部を避けた場所に接触するようにするとともに,ボタン6を各突起部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧するように配置」した構造を採用すれば,可動接点の反転時に,ドーム状の頂点部が可動領域となると判断したことは,誤りであると主張する。
しかし,原告の上記主張は失当である。
すなわち,?@上記の構造を採用し,ボタン6を各突起部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧するように配置するには,各突起部間の距離を,少なくともボタン6の押圧面の大きさよりも大きくしなければならないこと,?Aこれら突起部が形成される引用発明のダイヤフラム4は,第1引用例の記載(2頁左上欄14行〜15行)によれば,弾性を有する金属薄板から構成されるものであること,?B第2引用例の第1A図には,突出接点部40Aを,ドームばね40を曲げ加工して形成することが示唆されていることを勘案すると,上記の構造を採用すれば,突起部が固定接点に接触した後も,可動接点の頂点部を押し下げることができるといえるから,「可動接点の反転時に,ドーム状の頂点部が可動領域となる」ことは明らかである。乙1の記載(明細書6頁17行〜7頁7行,第1図,第2図)もこの点を裏付けている。
以上のとおり,審決の上記判断に誤りはない。
ウ 作用効果に係る判断の誤りに対し原告は,複数個の突起部,可動接点のドーム状の頂点部及びステムの配置に関する構成により,突起部が接触した後も可動接点の頂点部を押し下げることができる点を,本願補正発明の作用効果であると主張するものと理解した上で反論する。
原告主張に係る作用効果は,以下のとおり,本願補正発明に特有の作用効果とはいえない。
すなわち,技術水準である「ドーム状の頂点部を押圧するボタンを有するスイッチの可動接点と固定接点との接触部に突起部を設けたもので,突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲する位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置したもの」においても,突起部が接触した後も可動接点の頂点部を押し下げることができ,同様の作用効果を奏する。また,原告の主張する作用効果は,周知例3及び5記載の各技術からも,予測できる範囲内の効果であるといえる。
(2) 取消事由2(本願発明の容易想到性の判断の誤り)に対し本願補正発明が,引用発明及び引用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断に誤りがないことは,前記1のとおりであるから,本願発明も,当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1取消事由1(本願補正発明と引用発明との相違点に係る容易想到性の判断の誤り)について当裁判所は,審決に,本願補正発明と引用発明との相違点に係る容易想到性の判断を誤った違法があるとの原告の主張は,理由がないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
(1) 本願補正発明についてア 特許請求の範囲及び補正明細書の記載本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,前記第2,1(2)のとおりである。
また,補正明細書(甲7〜10)には,次の記載がある。
「【技術分野】【0001】本発明は,各種電子機器の操作用スイッチとして使用される押釦スイッチに係り,特に,ドーム状の可動接点を備えたシートタイプの押釦スイッチに関する。
【背景技術】【0002】従来の押釦スイッチの構造としては図5乃至図7に示すものがある(例えば,特許文献1参照)。図5はハウジングタイプの押釦スイッチの断面図,図6は可動接点と固定接点が接触した状態を示す部分詳細図,図7はシートタイプの可動接点と固定接点を示す部分詳細図である。
【0003】図5及び図6において,ハウジング21は,合成樹脂などの成形材で上面が開口された箱状に形成されており,この内底部には,黄銅などの導電性の金属材から形成された固定接点22,23が配設されている。
この固定接点22,23は,前記ハウジング21にインサート成形などの方法で埋設されており,その他端側には前記ハウジングの外方へ延設された接続端子24,25が形成されている。
【0004】可動接点26は,ステンレスやリン青銅などのばね材により反転可能なドーム状に形成されており,この可動接点26の下端周縁部は,前記ハウジング21の内底部に配設された一方の前記固定接点22に接触した状態で前記ハウジング21内に載置されている。また,前記可動接点26の頂点部は,他方の前記固定接点23と一定の間隔が保持されて対向配置されており,この可動接点26の頂点部には上方へ突出した円筒状の円筒突部26aが設けられている。この円筒突部26aは,その底部26bを上にし,その周端縁部26cを下にして前記可動接点26と一体的に形成されている。
【0005】ステム27は,合成樹脂などの成形材で形成され,前記可動接点26のドーム状の頂点部を押圧する押圧部27aと,前記ハウジング21の開口を覆う金属板からなるカバー28に係止される係止部27bと,外部から人間の指などで操作される操作部27cとを備えている。
【0006】ここで,上述した押釦スイッチの動作を説明すると,前記ステム27の操作部27cが押圧操作され前記ステム27が押し下げられると,前記押圧部27aが前記可動接点26の頂点部に設けられた前記円筒突部26aを押圧することで前記可動接点26は反転し,頂点部に設けられた前記円筒突部26aが前記固定接点23に接触する。その結果,前記固定接点22と前記固定接点23とが前記可動接点26を介して接続されるものとなる。
【0007】この場合に,前記可動接点26の頂点部には上方へ突出した円筒状の円筒突部26aが設けられており,この円筒突部26aの前記周端縁部26cが前記固定接点23に接触することから,前記固定接点23の中央部23aに集積する傾向にある塵埃34を避けた場所で接触が行われるため,頂点部が前記固定接点23の中心部23aに直接接触する構造のものに比較して接触が安定し,接触信頼性が向上されている。」「【発明が解決しようとする課題】【0010】しかしながら,上述した従来のシートタイプの押釦スイッチにおいては,ドーム状の可動接点26の頂点部に上方へ突出した円筒状の円筒突部26aが設けられており,この円筒突部26aはその底部を上にした状態で可動接点26と一体的に結合されていることから,円筒状の円筒突部26aに囲まれた内部は反転時に非可動領域となり,操作時の操作フィーリングに悪影響を及ぼしてしまうという問題があった。また,可動接点26の上方へ突出した円筒状の円筒突部26aがあるため,円突筒部26aの周囲部とシート部材31との間に隙間33が生じてしまい,密着性が悪く,製品の信頼性及び外観上に問題があった。
【0011】本発明は,このような従来技術の実情に鑑みてなされたもので,その目的は,製品の信頼性及び外観性に優れると共に,高い接触信頼性が得られるシートタイプの押釦スイッチを提供することにある。」「【0017】図において,ハウジング1は,合成樹脂などの成形材で上面が開口された箱形に形成されている。このハウジング1の内底部には,黄銅などの導電性の金属材から形成された固定接点2,3が,その表面を表出した状態で配設されている。これら固定接点2,3のうち,外側の固定接点2は周辺固定接点であり,内側の固定接点3は中央固定接点である。
また,前記ハウジング1の外側部には,ハウジング1から突出した一対の接続端子4が延設されており,この接続端子4と前記固定接点2,3とは前記ハウジング1の内部で電気的に接続されている。前記固定接点2,3と前記接続端子4は前記ハウジング1にインサート成形などの方法で一体的に埋設されたものとなっている。
【0018】可動接点5は,ステンレスまたはリン青銅などのばね性のある金属材により頂点部5aを有するドーム状に形成されており,この頂点部5aが外部からの押圧操作によって反対側に反転するようになっている。前記可動接点5の下端周縁部5bは,前記ハウジング1の内底部に配設された一方の前記固定接点(周辺固定接点)2上に載置され,該固定接点2と常時電気的に接触した状態となっており,また,頂点部5aは,他方の前記固定接点(中央固定接点)3上に一定の間隔を保って対向された状態で配設されている。
【0019】前記可動接点5の前記頂点部5aには,ドーム状の内面側へ突出した複数個の突起部5cが点在して形成されており,この突起部5cは,ドーム状の頂点部5aを除いた部分に環状線上に設けられたものとなっている。また,前記頂点部5aの上面側には後述するステムの押圧部が当接され,この押圧部を介してステムの操作部が,ドーム状のばね圧により前記ハウジング1の外方へ突出する方向へ付勢されている。
【0020】ステム6は,合成樹脂などの成形材で略円筒状に形成されており,このステム6には,前記可動接点5のドーム状の頂点部5aに当接して,前記可動接点5を前記固定接点3方向へ押圧する押圧部6aと,後述する前記ハウジング1の開口を覆う金属板からなるカバーに係止され,前記ハウジング1の外部への飛び出しを防止する係止部6bと,前記ハウジング1の外方へ突出され,外部から人間の指などで操作される操作部6cとを備えている。」「【0023】この場合に,前記可動接点5の内面側には,ドーム状の頂点部5aを除いた部分に,環状線上に複数個の突起部5cが設けられており,この環状線上の前記突起部5cが前記固定接点3に接触することから,前記固定接点3の中央部3aに集積する傾向にある塵埃(図示せず)を避けた場所で,前記固定接点3と前記可動接点5との接触が行われるため,前記頂点部5aが前記固定接点3の中央部3aに直接接触する構造のものに比較して接触が安定し,接触信頼性が向上されたものとなっている。また,前記複数個の突起部5cは,各々が独立した状態で点在して形成されていることから,この突起部5cの内側に位置するドーム状の頂点部5aも反転時には可動領域となるため,操作時の操作フィーリングに悪影響を及ぼすということもない。」イ上記アの各記載によれば,本願補正発明は,以下のとおりに理解することができる。すなわち,従来技術では,固定接点と可動接点を備えたシートタイプの押釦スイッチにおいては,可動接点は,ばね材により反転可能な頂点部に円筒突部を有するドーム状に形成され,上方に設けたステムを押し下げて円筒突部を押圧することにより可動接点が反転して固定接点と接続する構成になっており,円筒突部の周縁端部が塵埃が集積しやすい傾向にある固定接点の中央を避けた位置で接触することにより接触信頼性向上を図っていたところ,円筒突部の内部は反転時に非可動領域となり,操作フィーリングが悪い上,円筒突部の周囲部とシート部材の間に隙間が生じるため,製品の信頼性,外観性に劣るという問題があった。これに対して,本願補正発明は,請求項1に特定された構成を備えることにより,可動接点におけるドーム状の頂点部をステムで押し下げて反転させるに従い,ドーム内面の突起部が塵埃の集積しやすい中央固定接点の中央部を避けた位置に接触して導通される発明である。
また,本願補正発明は,接点同士が接続することにより導通する押釦スイッチであるから,補正明細書に明示的には記載されていないものの,その構成上,必然的に,ステムの押し下げにより,可動接点における接触部である突起部が,まず固定接点と接することになる。そして,ステムの更なる押し下げにより,ドーム頂点部が更に下方に可動してドームが広がることにより,突起部が固定接点上を圧接しながら摺動して確実に導通すると共に,接点接続後におけるステム押し下げに必要な押圧力の明らかな変化を感じることにより,操作フィーリングを向上させるとの作用効果を奏することが推認される。
本願補正発明についての上記理解を前提として,以下,審決における相違点に係る容易想到性の判断の当否を検討する。
(2)引用発明と引用技術との組合せが容易であるとした判断の誤りについてア 引用発明と引用技術との組合せについて原告は,第2引用例には相違点に係る本願補正発明の構成は記載されていないから,引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例に記載された点状の接点部を有する複数個の突起部を設けることは,当業者が容易に採用し得る技術的事項とはいえないと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の上記主張は失当である。
(ア) 引用発明について審決の認定に係る引用発明の内容は,前記第2,3(2)アのとおりである(審決の認定に係る引用発明の内容は,原告も争っていない。)。
第1引用例(甲1)には,次の記載がある。
「従来の技術従来の技術を第7図〜第8図のパネルスイッチにより説明する。第7図は断面図であり,第8図は要部分解斜視図である。第7図〜第8図によると,1aは第1の接点,1bは第2の接点を示し,2は1a,1bを配置した絶縁基板である。3は上記絶縁基板2上に配置されてなる抜き孔3aを有する両面に粘着層を有してなるスペーサであり,4は上記孔3a内に配置された球面状又は円筒状の弾性を有する金属薄板のダイヤフラムである。又,5はダイヤフラム4上に配置された弾性を有するシートであり,6は上記ダイヤフラム4上のケース7に保持されてなるボタンであり,このボタン6とケース7により操作部が形成される。
なお,ダイヤフラム4は第2の接点と常時接している。
次に上記実施例の動作について説明すると,ボタン6を上方より押圧操作すると,シート5を介してダイヤフラム4を変形させ,ダイヤフラム4は接点1aと接触し,ダイヤフラム4を介して第1の接点1aと第2の接点1bを導通させるものである。」(2頁左上欄6行〜右上欄7行)「又,スペーサ3の孔にダイヤフラム4を1個ずつ挿入しなければならないため,組立工数が長時間かかり,さらに,スペーサ4の孔の打ち抜き時,バリ,ゴミ,のりだれが発生し,接触不良が起こる可能性があった。」(2頁右上欄13行〜17行)第1引用例の上記各記載によれば,引用発明は,粘着層を有するスペーサに保持された球面状(ドーム状)のダイヤフラムの頂点をボタン(本願補正発明のステムに相当。)で押し下げて,接点に接触させることにより導通を行うスイッチに関するものであり,ゴミなどに起因する接触不良という課題を有するものであることが認められる。
(イ) 引用技術について第2引用例(甲2)には,次の記載がある。
「1)箱型のベース内中央部に配設された単一の固定電極と該固定電極の周囲に配設された複数の固定電極とを有し,該複数の固定極および前記単一の固定電極上の空間に配設されたドーム型板ばねを押ボタンの押下により展延変形させ,前記ドーム型板ばねを介して前記複数の固定電極と前記単一の固定電極との間に電気的接続が得られるようにした押ボタンスイッチにおいて,前記ドーム型板ばねの前記単一の固定電極に対向する部位および前記複数の固定電極の各々に対向する部位にそれぞれ接点部を突出させて設けたことを特徴とする押ボタンスイッチ。」(実用新案登録請求の範囲)「〔考案が解決しようとする課題〕しかしながら,このような従来の押ボタンスイッチでは,各固定電極の接点部2Aや3Aがベース1のこれら取付面から突出して形成されており,かつ,各接点部2A,3Aはいずれも平坦で,ドームばね4とはいずれもほぼ面接触に近い状態に保たれるために,僅かなごみでもその間に介在すると接触不良の原因となる。・・・本考案の目的は,上述した従来の欠点を除去し,確実な接点間接触状態が得られるようにした信頼性の高い押ボタンスイッチを提供することにある。」(明細書4頁14行〜5頁11行)「第1A図および第1B図において40はドームばねであり,ドームばね40は第1B図にも示されるようなほぼ正三角形状のドーム型をなし,そのドーム型の中央部頂点に下方に向けて突出させた本例では4個の突出接点部40Aが形成されている。」(明細書7頁4行〜8行)「なお,ドームばね40が組込まれた第1A図に示す状態でドームばね40が移動しないようにするために,ドームばね40の突出接点部40Aの周りは円形の段差による凹部40Cが形成してあり,この凹部40Cに押ボタン5の押下脚部5Bが嵌め合わされる。」(明細書7頁16行〜8頁1行)「〔考案の効果〕以上説明してきたように,本考案によれば,ドームばね側に設ける接点部をそれぞれ押下方向に向けて突設したので,接触圧を点接触により高めることができて,安定した接続状態を保つことができる・・・。」(明細書9頁1行〜10行)第2引用例の上記各記載によれば,第2引用例には,?@ごみの介在により接点が接触不良となることを防ぐという課題,?Aドーム型板ばねの内周面に4個の突出接点部を設け,押しボタンを押圧した際に突出接点部が固定電極に接触することにより,ごみの介在があった場合でも,いずれの接点部が確実に導通することにより,接触不良を防ぐという構成,?Bボタン押し下げ時にドームばねの移動を防ぐため,円形の段差による凹部40cが形成され,ボタンの押下脚部がこの凹部に嵌め合わされることにより,押し下げ時のばねの移動を阻止する構成が記載されていることが認められる。
(ウ) 組合せの可否について前記(ア)及び(イ)のとおり,引用発明も,第2引用例に記載された技術事項も,ごみの介在による接触不良を課題とする点で共通する。
そうすると,引用発明において,ごみの介在による接触不良という課題を解決するため,引用技術(ゴミ介在に係る接触不良を解決するための構成である,ドーム内面に設けた突出接点部の構成)を適用しようとすることは,当業者が容易になし得たものというべきである。
イ 原告の主張に対し(ア)原告は,第2引用例には相違点に係る本願補正発明の構成は記載されていないから,本願補正発明は,引用発明と引用技術を組み合わせることは容易でない旨主張する。
しかし,引用発明と引用技術を組み合わせることは,当業者が容易になし得たものというべきであることは,既に説示したとおりであり,第2引用例に相違点に係る本願補正発明の構成そのものが記載されていないことは,上記判断を左右するものとはいえない。
なお,審決は,第2引用例に相違点に係る本願補正発明の構成そのものが記載されていることを前提とした上で,引用発明と引用技術を組み合わせることは容易であると判断したものではなく,技術水準を考慮することによって,相違点に係る本願補正発明の構成を容易に採用することができた旨判断したものであり,その判断過程にも誤りはない。
(イ)原告は,第2引用例におけるドームばね40の中央部分は,平坦面であるから,突出接点部40Aは,ドーム状の頂点部を環状に包囲するように設けられたものではなく,引用発明に対し引用技術を組み合わせて本願補正発明に想到することは容易でないと主張する。
しかし,第2引用例がドームばね40の中央部分を平坦面にしているのは,ばねの移動を規制するためであり,引用発明はスペーサによりばねの移動が既に阻止されているから,引用発明のドーム状をしたダイヤフラムに対し,引用技術を適用するに際して,突出接点部の構成と共に平坦面の構成を合わせて適用する必然性はない。また,第2引用例において,突出接点部は接触不良に対する構成であるのに対し,平坦面はばねの移動を規制するための構成であり,両者は,目的,機能が異なり,それぞれを分けて把握することは可能であるから,本件において,構成の一部を分離して容易想到性判断の基礎とすることは許されるというべきである。原告のこの点の主張は採用することができない。
(3) 技術水準に係る認定判断の誤りについてア引用発明のダイヤフラム(ドーム状可動接点)内周面に,第2引用例に記載された突出接点部(突起部)を適用しようとすることが容易であることは,前記(2)のとおりである。
ところで,引用発明は,単一のボタン(ステム)がダイヤフラム頂部を押圧するものであり,これに対応する引用技術の押ボタンは,複数の押下脚部5Bがドームばね40の平坦面を分散して押圧するものであって,その形態が異なる。そこで,引用発明に対し引用技術を適用するに際し,ボタン(ステム)と突出接点部(突起部)に関する技術水準について,以下検討する。
イ 周知例1ないし6について審決が例示した周知例1ないし4及び被告の提出に係る周知例5及び6によって,引用発明の属する技術分野における技術水準を検討する。
(ア) 周知例1周知例1(甲3)には,次の記載がある。
「【0016】ケース2の蓋体2aに上下に進退可能に配設された押しボタン13の下端に形成された押圧突起13aは,従来のように半球状ではなく,本実施例にあっては,図1に示すように略円柱状で,その下面は水平に形成されている。
【0017】可動接点4は,弾性に富んでおり,且つ導通性能に優れた銅薄板等の金属材料にて図に示すように,ドーム状の皿形湾曲反転部材として形成されており,その中心部は,弾性に基づいて表裏に(図において上下方向に)反転可能となっている。
【0018】ケース2の内側底部に配設された固定接点15は,図3の平面図に示すように,導電パターン15bに接続され,その上面には,開口部が円形を呈する凹陥部15aが穿設されている(図2参照)。この凹陥部15aの内径Lは,上記押圧突起13aの外径より小さく形成されている。
【0019】また,反転部材4に対向する接点6は,前記導電パターン15bとは別に導電パターン6aと接続されており,可動接点4と固定接点15とが電気的にオン・オフされるようになっている。」周知例1の上記記載によれば,周知例1記載の技術は,ステムに相当する押しボタン13を押し下げると,ドーム状の可動接点4と固定接点15が接触するものであるが,固定接点15の凹陥部15aの内径Lは,押しボタンの押圧突起13aの外形より小さく形成されているから,可動接点と固定接点の接触部は押しボタンの下方に位置することになるので,ボタンは接触部を押圧していることになる。
したがって,ボタン(ステム)が接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧しているとはいえず,また,可動接点と固定接点が接触した後に,更にボタンを押し下げることはできない。
(イ) 周知例2周知例2(甲4)には,次の記載がある。
「可動接片4は,中央部が上方へ膨出するドーム状のもので,導電性の良好な薄ばね板により作られている。この可動接片4はその両端接点部4a,4aを前記第1の端子2,2外側に接触させて,キートップ5から押圧操作している間だけ第2の端子3側に変形して,その接点部が第2の端子3に接触し,これら両端子3,4をブリッジ接続するようになっている。
キートップ5は構成樹脂製のもので,可動接片4側に突出させた押圧部5aを可動接片4の中心部に当接させ,且つこの状態で押圧操作部5bをボディ1の開口部から突出させているものである。」(明細書4頁16行〜5頁8行)「しかして,このようなキースイッチにおいて,本考案に係る端子3の外面には,可動接片4側へ突出する凸状の突部3a・・・が複数(図では3個)一体に形成されている。
したがって,このような本考案の構成によれば,可動接片4を外方から押圧操作すると,該可動接片4は端子3の突部3a・・・のそれぞれに接触し」(明細書5頁15行〜6頁1行)「突部3aと可動接片4との接触は,突部3aの頂点で接触するのではなく,突部3aの頂点から外れたテーパ位置で接触する」(明細書6頁11〜13行)周知例2の上記記載によれば,周知例2記載の技術は,キートップ(ステム)によりドーム状の可動接片頂部を押圧して端子を接続するものであり,キートップは,可動接片における突部3aとの接触部で囲まれた,ドーム状可動接片の頂部を押圧するものである。
この押圧により,押釦であることから必然的に,接触部である突部3aがまず始めに可動接片と接し,キートップの更なる押し下げにより,ドーム状の頂部が更に可動して,突部3aと可動接片が圧接しながら摺動するものである。
(ウ) 周知例3周知例3(甲5)には,次の記載等がある。
「【0012】補強体14の下面には補強体14と同様に印刷により被着形成した突起14Aが形成され,この突起14Aがタクト板固定シート17を介してタクト板12を押下操作する。
エンボス部13Aの周縁にスリットSLを形成する。スリットSLは図2に示すように円形のエンボス部13Aの全周の1/4程度を残して形成する。エンボス部13AとスリットSLとの間には図1に示すように平坦に突出したフランジ部FLを設ける。このフランジ部FLに化粧板16を被せ化粧板16によってスリットSLの存在を目隠しする。化粧板16は金属板又は樹脂板の何れでもよい。」「【0014】図4の例ではエンボス部13Aの裏面に補強体14として形状が大きいシートを被着し,形状が小さいシートをタクト板12側に被着した場合を示す。このように構成した場合もエンボス部13Aは補強体14によって補強され変形することを阻止される。これと共に小さい面積のシートによってタクト板12を押下操作するから,タクト板12の変形も点荷重によって容易となる利点が得られる。
【0015】尚上述の実施例では接点11がフレキシブル配線板10Aに支持されて互に対向して配置され,タクト板12の押圧操作によって接点11の相互が接触して接点信号を発信する構造の場合を説明したが,硬い絶縁板によって構成されるプリント配線板を用いる場合には図5に示すように,接点11は同一面に並べて形成され,この接点11の間をタクト板12によって電気的に短絡させる構造の場合にもこの考案を適用することができる。」第5図には,補強体14の突起14Aが,ドーム形状をしたタクト板12の頂部に接し,タクト板12内面側にはその頂部から外れた位置に,2つの接点11にそれぞれ対向する位置に,突起が形成されている様子が記載されている。
周知例3の上記記載等によれば,周知例3記載の技術は,補強体(ステム)によりドーム状のタクト板頂部を押圧して接点11に接続するものであり,補強体はタクト板12と接点11の接触部である突起の中間に間隔を空けて配置し,ドーム状タクト板頂部を押圧するものである。
この押圧により,押釦であることから必然的に,接触部である突起が接点と接し,補強体の更なる押し下げにより,ドーム状の頂部が更に可動して,突起と接点が圧接しながら摺動するものである。
(エ) 周知例4周知例4(甲6)には,次の記載等がある。
「【0003】凹部13内において,配線基板11上に固定接点16,17が形成されている。また凹部13内にクリックばね18が収容されている。
クリックばね18は弯曲された金属板であり,その内部に固定接点16,17が位置されている。図に示していないが,配線基板11と絶縁可撓性材層12との間に二枚の絶縁シートを介在させ,その二枚の絶縁シートでクリックばね18の周縁部を挟み固定することができる。クリックばね18には固定接点16,17と対向して小突起19,21が固定接点側に突出されている。
【0004】絶縁可撓性材層12の肉薄部14の外面に,ポリカーボネイトやABSなどの樹脂材のキートップ22が接着剤23で接着されている。
キートップ22の外周縁は肉薄部14の外周縁よりもわずか内側に位置されて,これら外周縁間の肉薄部14により柔軟部24が構成されている。
キートップ22を配線基板11側に押すと,柔軟部24が弾性変形してクリックばね18が押され,クリックばね18が反転してその突起19,21が固定点16,17とそれぞれ接触し,固定接点16,17がクリックばね18を通じて電気的に接続される。キートップ22からその押す力を除去すると,クリックばね18の弾性力でキートップ22は元の位置に戻り,またクリックばね18もその元の形状に復旧し,固定接点16,17間は電気的に断になる。」図2には,肉薄部14の中央下方に突出部が形成され,当該突出部が小突起19,21間のドーム状をしたクリックばね18の頂部に接当している様子が記載されている。
周知例4の上記記載等によれば,周知例4記載の技術は,肉薄部14の突出部によりドーム状のクリックばね18頂部を押圧して固定接点16,17に接続するものであるが,突出部と小突起の間にどの程度の間隔が設けられるかは明瞭ではない。
したがって,小突起(可動接点)と固定接点が接触した後に,更にボタンを押し下げることができる構成となっているか否かは不明である。
(オ) 周知例5周知例5(乙1)には,次の記載がある。
「押釦本体及び固定接点部材間に介装配設されたバネ板よりなり該バネ板の押釦本体側面に略半円球状部をクリツクバネ性状を有するよう突設形成し且つ該半円球状部に固定接点側に向つて複数の可動接片を突設形成しており通常時は該半円球状部が該押釦本体に当接してこれを該フレームの段部に弾性的に当接位置決め該押釦本体の押動時には該半円球状部が該押釦本体により押圧されて固定接点部材側にクリツクバネ的に変位されて該複数の可動接片が夫々該複数の固定接点部材に当接しスイツチ閉成を行いうる可動接点部材とより構成してなる押し釦スイツチ」(明細書1頁9行〜20行)「押釦1を手動により下方に押すと,押釦1はその押圧部1aを介して適宜の押圧力をもつてクリツクバネ3の交叉部3fを押圧しつつ略Y字形状部3bの弾性力に抗して下降する。押釦1が下降すると,クリツクバネ3の略Y字形状部3bはその交叉部3fを上記の如く下降する押釦1の押圧部1aにより押動されて,上記の如く平板本体3aの上面側より下面側に向つてスナツプ的に変位し,その後一対の接触部3c,3dが絶縁板4の孔4aを貫通してプリント基板5の一対の導電箔6a,6bに夫々当接して係止され,第1図に示す如く状態より第2図に示す如き状態になる。」(明細書5頁12行〜6頁3行)「クリツクバネ3の接触部3c,3dがプリント基板5の導電箔6a,6bに当接する際,上記接触部3c,3dが略Y字形状部3bの下面側方向に向かつて適宜に折曲突出されており,しかも略Y字形状部3bが下方に向かつてスナツプ的に変位するため,接触部3c,3dが導電箔6a,6bにその上面を擦りつつ滑動しながら当接し,従つて接触部3c,3d及び導電箔6a,6bに例えば塵埃等が附着していても除去されてしまい,このためスイツチの開閉特性が向上する。」(明細書6頁17行〜7頁7行)周知例5の上記記載によれば,周知例5記載の技術は,押釦1により半円球形状(ドーム状)のクリツクバネ3頂部を押圧して導電箔6a,6bに接続するものであり,押釦1はクリツクバネ3と導電箔6a,6bの接触部3c,3dの中間に間隔を空けて配置し,クリツクバネ頂部を押圧するものである。
この押圧により,まず接触部が導電箔と接し,押釦の更なる押し下げにより,ドーム状の頂部が更に可動して,接触部と導電箔が当接しながら滑動するものである。
(カ) 周知例6周知例6(乙2)には,次の記載等がある。
「電気絶縁性の材料で構成された基板に設けられた中央接片と,上記固定接片の周囲に設けられた周囲接片と,前記中央接片を跨いで周囲接片上に載置された皿バネ状の可動接片とを有するプッシュスイッチ」(明細書1頁5行〜9行)「中央接片3を跨いだ形に,皿バネ状の可動接片(機能的には可撓接触片,以下ディスクプレートという)4を載置して周囲接片2に当接導通せしめる。」(明細書2頁15行〜18行)「本考案を実施する際,・・・ディスクプレート4’を収納する凹部6aを有するベース6を構成し,基板1’に対して固定すると共に,該ベース6に案内孔6bを設けてスライドバー7を摺動自在に嵌合する。
上記スライドバー7がディスクプレート4’の中央部に正対し,かつ基板1’に対して直交する姿勢を保つよう,予め前記案内孔6bの位置と方向とを設定しておく。
これにより,スライドバー7を矢印P’方向に押すと,該スライドバー7は正確にディスクプレート4’の中央を押動する。」(明細書6頁14行〜7頁7行)第1図には,ドーム形状をしたディスクプレート4’の頂部近傍に下向きの突出が形成され,この突出部分を含むディスクプレート4’に合わせた形状の下端を有するスライドバーにより,ディスクプレート4’を押圧する様子が記載されている。
周知例6の上記記載等によれば,周知例6記載の技術は,スライドバー(ステム)によりドーム状のディスクプレート4’頂部を押圧して中央接片3に接続するものであるが,スライドバーはディスクプレート4’の突出部分を含めて押圧しているから,スライドバー(ステム)が接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧しているとはいえず,また,可動接点と固定接点が接触した後に,更にボタンを押し下げることはできない。
(キ) 小括上記検討した周知例1ないし6のうち,共通した事項が開示されているといえる周知例2,3及び5の各記載を総合すると,「ドーム状の頂点部を押圧するボタンを有するスイッチの可動接点と固定接点との接触部に突起部を設けたもので,突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置が接触部となるように形成し,ステムを突起部による接触部の中間に間隔を空けて配置し,ドーム状の頂点部を押圧するようにした構成」となっており,このような構成の押し釦が,一般的に見られる技術であるということができる。
また,上記構成の押釦は,接触部が接触した後に,ステムの更なる押し下げにより,ドーム状の頂点部が更に可動して,接触部が圧接しながら摺動することも理解できる。
ウ ボタン(ステム)と突出接点部(突起部)の位置関係について前記イで検討した押釦の技術分野における一般的な技術に照らし,相違点に係る本願補正発明の構成が,引用発明に引用技術を適用することによって,容易に想到することができるかを検討する。
前記イで検討したところによれば,押釦の技術分野において,ドーム状可動接点の頂点部に設けられたステムと間隔を空けて等距離に,接触部を構成する突起部を配置する構成は,一般的に見られるということができるから,第2引用例に記載された4つ設けられた突起部を引用発明に適用した場合,ドーム状頂点部に設けられたステムとは間隔を空けて等距離に突起部を配置した構成,すなわち,ドーム状の頂点部を環状に包囲するように配置した構成は,ごく普通に選択される構成といえる。
したがって,引用発明に引用技術を適用するに際し,相違点に係る本願補正発明の構成とすることは,当業者が格別の工夫を要することなく,容易に想到することができるというべきであるから,審決の判断は,結論において誤りはない。
エ 原告の主張に対し原告は,?@周知例1及び2記載の各技術は,可動接点の内面側に突起部を設けたものでなく,ドーム状の頂点部が反転時に可動領域とならないから,第1引用例及び第2引用例と本願補正発明を対比する際の参考になり得ないものである,?A周知例3及び4記載の各技術は甲6は,可動接点の内面側に設けられた突起部は,ドーム状の頂点部を「挟む」ように形成されているにすぎず,ドーム状の頂点部を「環状に包囲する」ように形成されていないから,審決にいう技術水準を裏付けるものではない,?B周知例5記載の技術は「ドーム状の頂点部」が形成されておらず,周知例6記載の技術は「突起部」の形状が不明であり,いずれも審決にいう技術水準を裏付けるものではない,などと主張する。
しかし,以下のとおり,原告の主張は審決の結論を左右するものとはいえない。
(ア)周知例1記載の技術は,ボタンが接触部ごと上方から押圧する構成のため,「ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置」しているとはいえず,ドーム状の頂点部が反転時に可動領域とならない(前記イ(ア))から,審決が周知例1を例示したことは適当とはいえない。
しかし,周知例2記載の技術は,ドーム状可動接点の頂点部が反転時に可動領域となるものであるところ(前記イ(イ)),周知例2は,可動接点と固定接点における接触部とボタンとの位置関係がどのように設定されるかという点に関する技術常識を立証しようとするものであるから,可動接点の内面側に突起部が設けられたものではないとしても,これを参酌したことが誤りとはいえない。
(イ)周知例3記載の技術において,突起部がドーム状の頂点部を囲むように配置されているといえないことは,原告が主張するとおりであるから,審決が,「突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲する位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置したものも知られている」ことを示すものとして,周知例3を例示したことは不適切である。
しかし,周知例3は,「突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部の中間に間隔を空けて配置し,ドーム状の頂点部を押圧するようにした構成」を示しているということができ(前記イ(ウ)),4つの突起部を有する引用技術を引用発明に適用するに際し,技術水準を考慮すると,「突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置で,このドーム状の頂点部を環状に包囲する位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部で囲まれたドーム状の頂点部を押圧する位置に配置」する構成となる(前記ウ)から,審決の判断が,結論として誤りであるということはできない。
(ウ)周知例5記載の技術は,半球形状をしたクリツクバネの頂部をボタンに相当する補強体で押圧するものであり(前記イ(オ)),半球形状とはドーム状を意味するから,周知例5に関する原告の主張は失当である。
(エ)そして,周知例2,3及び5に示される技術水準を勘案すると,引用発明に引用技術を適用することにより,相違点に係る本願補正発明の構成に想到することは,容易であったというべきであり(前記ウ),この点の原告の主張は理由がない。
(オ)原告は,被告の主張する技術水準は周知例1ないし4から抽出された共通の技術事項ではなく,また,周知例1ないし4には,突起部がドーム状の頂点部を環状に包囲すること及びすべての突起部が共通の中央固定接点に接触することが示されていないから,引用発明のダイヤフラム4の内面側に,第2引用例記載の複数個の突起部を設ける際,ステム,各突起部及びドーム状の頂点部の配置を本願補正発明のようにすることは,容易とはいえない旨主張する。
確かに,周知例1ないし4は,審決が認定した技術水準に共通して該当するものではないが,周知例2,3及び5の各記載に照らし,「ドーム状の頂点部を押圧するボタンを有するスイッチの可動接点と固定接点との接触部に突起部を設けたもので,突起部を可動接点のドーム状の頂点部を除いた位置が接触部となるように形成し,ボタンを突起部による接触部の中間に間隔を空けて配置し,ドーム状の頂点部を押圧するようにした構成」は,引用発明の属する技術分野における技術水準を構成するものであることが認められるのであり,この技術水準を勘案すると,引用発明に引用技術を適用することにより,相違点に係る本願補正発明の構成に想到することは,容易であったというべきであることは,既に説示したとおりである(前記ウ)。
なお,「突起部がドーム状の頂点部を環状に包囲すること」及び「全ての突起部が共通の中央固定接点に接触すること」は,技術水準を考慮して,引用技術を引用発明に適用することにより,必然的に生じる構成であることも,既に説示したとおりである。
(4) 作用効果に係る判断の誤りについて原告は,本願補正発明は,ステムでドーム状の前記頂点部が押されて可動接点が回路基板に向けて反転させられる際に,複数個の突起部が共通の中央固定接点に圧接しながら摺動し,可動接点と中央固定接点の接触信頼性を高めることができると共に,操作時に操作フィーリングに悪影響を及ぼすということもないとの作用効果を奏するが,引用発明,引用技術,周知例1ないし4記載の各技術はいずれもそのような作用効果を奏しないから,本願補正発明の効果は,当業者が予測できる範囲のものとはいえない旨主張する。
しかし,可動接点と固定接点が接触した後に,可動接点のドーム状頂点部が可動領域となって,接点が圧接しながら摺動することは,周知例2,3及び5に示されるように,引用発明の技術分野において既に普通に知られた作用であって,引用発明に引用技術を適用することにより,そのような作用が生じることは,当然に予測できることである。原告の主張は採用することができない。
2 取消事由2(本願発明の容易想到性の判断の誤り)について本件補正前後の特許請求の範囲の請求項1の各記載は,前記第2,2(1)及び(2)のとおりであり,これらによれば,審決における「本願発明は,・・・本願補正発明から,『可動接点』について,『前記回路基板から離れる側へ向けて突状に形成された』及び『ドーム状の頂点部を有しており』という限定を省き,『突起部』について,『頂点部を除いた位置』で頂点部を環状に包囲するものであるという限定,及び『前記回路基板に向けて突状』に形成されたものであるという限定を省き,『ステム』について,『各突起で囲まれたドーム状の前記頂点部を押圧する位置に配置されており』という限定を省き,前記本願補正発明を上位概念化したものである。」(審決書10頁24行〜31行)との認定は,これを是認することができる。
そして,本願補正発明が,引用発明及び引用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断に誤りがないことは,前記1のとおりであるから,本願発明も,本願補正発明と同様の理由により,引用発明及び引用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとする審決の認定判断にも誤りはない。
したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 結論原告はその他縷々主張するが,いずれも理由がない。
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,また,審決に,これを取り消すべきそのほかの誤りがあるとも認められない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀