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関連審決 無効2004-80029 訂正2005-39092
訂正2008-390025
関連ワード 頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  優先権 /  分割出願 /  援用権(援用) /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の理由 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  要旨変更 /  取消決定 /  申し立てない理由 /  異議申立 /  国際出願 /  職権探知 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10425号 審決取消請求事件
原告明 晃化成工業株式会社
訴訟代理人弁理士安田敏雄
同安田幹雄
同国立久
同堀家和博
被告不 二精機株式会社
訴訟代理人弁護士小松陽一郎
同福田あやこ
同井崎康孝
同辻村和彦
同井口喜久治
同森本純
同中村理紗
同山崎道雄
訴訟代理人弁理士野口繁雄
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/12/25
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2004-80029号事件について平成19年11月14日にした審決を取り消す。
第2事案の概要等本訴は,特許第3349138号(発明の名称:記録媒体用ディスクの収納ケース。以下「本件特許」という )の請求項2に係る特許の無効審判(無効 。
2004-80029号。以下「本件無効審判」ということがある )におい 。
て特許庁が平成19年11月14日にした,同特許を無効とするとの審決(以下「本件審決」という )の取消しを求めるものである。 。
1特許庁における手続の経緯等特許庁における手続の経緯等に係る事実は,次のとおりであり,いずれも当事者間に争いがない(書証のあるものについては書証を摘示する。。)( )出願・登録1原告は,平成11年3月4日,国際特許出願し(特願平11-545603号 ,その分割出願として本件特許に係る特許出願(特願2000-27 )2058号)をし,平成14年9月13日,本件特許(特許第3349138号)の設定登録を受けた(甲33 。)原告は,本件特許に係る特許出願(特願2000-272058号)について,次の優先権主張を行っている。
優先権主張番号特願平10-57080号優先日平成10年3月9日(以下「本件優先日」という )。
優先権主張国日本( )異議決定2本件特許については,平成15年5月14日,異議申立てがされ,平成16年1月26日,訂正請求がされ,同年2月24日,訂正を認めて請求項1及び2に係る特許を維持するとの異議決定がされた。
( )第一次審決等3被告は,平成16年4月26日,本件特許について無効審判請求(無効2004-80029号。本件無効審判)を行い,原告は,同年8月27日,訂正請求を行い,特許庁は,平成17年2月2日,訂正を認め,請求項1及び2に係る特許を無効とするとの審決(第一次審決)をした。
原告は,平成17年3月16日,上記審決について審決取消訴訟(平成17年(行ケ)10394号)を提起し,同年6月9日,訂正審判請求(訂正2005-39092号)を行った(甲24 。そして,知的財産高等裁判 )所(以下「知財高裁」という )は,同月23日,第一次審決の取消決定を 。
し,事件を審判官に差し戻した。
( )第二次審決等4ア差戻後の無効審判において,平成17年6月9日の訂正審判請求は,本件無効審判の訂正請求として援用された。特許庁は,平成18年5月12日,訂正を認め,請求項1に係る発明についての特許を無効とし,請求項() 2に係る発明についての審判請求は成り立たないとする審決 第二次審決をした(以下,この審決により訂正が認められた後の明細書を,図面を含めて「本件明細書」という。甲23 。)無効審判請求人である被告は,第二次審決のうち,請求項2に係る部分の取消しを求めて審決取消訴訟(平成18年(行ケ)第10277号)を提起した。第二次審決のうち,訂正を認める点と請求項1に係る発明についての特許を無効とする点は確定した。
知財高裁は,平成19年3月8日,第二次審決のうち,請求項2に係る部分を取り消すとの判決をした(甲31 。)イ原告は 平成18年9月8日 請求項2に係る発明について訂正審判 訂 ,, (正2006-39149号)を請求した。特許庁は,平成19年11月12日,訂正審判請求は成り立たないとの審決をした(甲32 。),(()) 原告は 上記訂正審決の取消訴訟 平成19年 行ケ 第10419号を提起したが,その後,これを取り下げた。
( )本件審決5特許庁は,平成19年11月14日 「特許第3349138号の請求項 ,。」()。 2に係る発明についての特許を無効とするとの審決 本件審決 をしたそこで,原告は,本件審決の取消しを求めて本訴を提起した。
( )訂正審判請求6原告は,平成20年3月6日,特許庁に対して訂正審判(訂正2008-390025号)を請求した(甲27,28 。なお,当裁判所は,本件を )審判官に差し戻すために本件審決を取り消すとの決定をすることはなかった。
2特許請求の範囲,(, 本件明細書の特許請求の範囲の請求項2の記載は 次のとおりである 以下請求項2記載の発明を「本件特許発明」という。。)「保持板(2)とカバー体(3)とが,それぞれの一端側に設けられたヒンジ部(2a,3a)を介して互いに揺動開閉自在に連結され,保持板(2)には,その板面の略中央部に,記録媒体用ディスク(100)の中央孔(1)(),()() 01 に嵌まる保持部 5 が設けられ これら保持板 2 とカバー体 3とによって,記録媒体用ディスク(100)の両面を覆う収納状態とでき,該収納状態は,前記ディスク(100)を前記保持部(5)に嵌合したとき該ディスク(100)上面と前記保持部(5)上面間の距離が,前記ディスク(100)の厚み以下とされており,前記保持板(2)の裏面から前記保持部(5)の上面までの距離は4mm程度とされており,かつ前記カバー体(3)の内面と前記保持部(5)の上面とは当接するか又は,前記ディスク(100)の厚み以下の間隙が形成されており,かつ前記保持板(2)の裏面からカバー体(3)の上面までの厚みは6mm以下に設定されており,前記保持板(2)は,上下ヒンジ部(2a)を有するヒンジ結合側端縁部と,該ヒンジ結合側端縁部とは反対側の自由端縁部と,これら両端縁部を介して対向する上下端縁部とを有する矩形状に形成され,かつ前記ヒンジ結合側端縁部には周壁(22)が形成されており,前記カバー体(3)は,その一端部において前記保持板(2)の上下ヒンジ部(2a)の対向内面側にヒンジ結合されるヒンジ部(3a)を形成したヒンジ結合側端縁部と,該ヒンジ結合側端縁部とは反対側の自由端縁部と,これら両端縁部を介して対向する上下端縁部とを有する矩形状に形成されていて,前記ヒンジ結合により保持板(2)に対して閉じた前記収納状態から180°開いた状態に相対回動可能になっており,かつ,180°開いた状態において前記カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は前記保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっており,前記収納状態において,カバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は,保持板(2)におけるヒンジ結合側端縁部よりも外方へ突出するようになっており,この突出部分に周壁(43)が設けられ,この周壁(43)は指掛け部(44)とされており,保持板(2)の上下端縁部の中央部には,該保持板(2)の内側へ入り込む中央凹所(24)が形成され,カバー体(3)には前記中央凹所(24)に嵌合する周壁中央部 38a が形成され 該中央部 38a の周壁 3 (),()(8)の高さはケースの厚みとされており,前記カバー体(3)には前記周壁中央部(38a)の両側に周壁(38)が形成され,該周壁(38)には内側に突出するラベル係止爪(46)が設けられ,かつ前記カバー体(3)には,前記係止爪(46)に連通する厚み方向に貫通した連通孔(47)が設けられており,前記保持板(2)には前記中央凹所(24)の両側に周壁(22)が形成され,該周壁(22)には,前記係止爪(46)を内側において迂回する段部(27)が形成されていることを特徴とする記録媒体用ディスクの収納ケース 」。
3本件審決の理由( )別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件特許発明は,本件優 1先日前に頒布された刊行物である甲1(特開平8-90610号公報 ,甲)2(実願平4-3172号(実開平5-62485号)のCD-ROM ,)甲3(実願昭60-168702号(実開昭62-78687号)のマイクロフィルム ,及び本件優先日後であり,本件特許の原出願である特願平1 )1-545603号の国際出願日である平成11年3月4日以前に頒布された刊行物である甲4(特開平10-305890号公報)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法(以下,条文は,特許法の条文を示す )29条
2項の規定に違反してなされたものであり,123条1項2号に該当し,無効とすべきものである,というものである。
( )本件審決が,本件特許発明進歩性がないとの結論を導く過程において2認定した甲1(特開平8-90610号公報)に記載された発明(以下「甲1発明」という )の内容,本件特許発明と甲1発明の6個の相違点(相違 。
点1ないし6)のうちの一つである相違点5,並びに本件審決が行った相違点5についての容易想到性の判断は,次のとおりである。
ア甲1発明の内容本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32とが,それぞれの一端側に設けられた支軸部38と軸受孔59とで,ヒンジ部分を介して互いに揺動開閉自在に連結され,本体側ケース部材31には,その主面部33の略中央部に,CDの中央孔に嵌まるCD保持部46が設けられ,これら本体側ケース部材31と蓋側ケース部材32とによって,CDの両面を覆う収納状態とできるトレーのないスリムタイプのCD収納ケースであり,前記本体側ケース部材31は,ヒンジ部分を構成する上下に支軸部38を有する端縁の部分と,該端縁の部分とは反対側の自由端縁の部分である前面部35と,これら両端縁を介して対向する側面部34とを有する矩形状に形成されており,前記蓋側ケース部材32は,その一端部において本体側ケース部材31の上下に設けられた両支軸部38を嵌合してヒンジ部分を構成する軸受孔59を有する突片部57側の端縁の部分である後面部53と,後面部53とは反対側の自由端縁の部分とこれら両端縁を介して対向する側面部52とを有する矩形状に形成され,上下の突片部57の対向する内側の面に支軸部38がヒンジ結合され,蓋側ケース部材32は,本体側ケース部材31に対して閉じた状態から開いた状態に相対回動可能となっており,蓋側ケース部材32におけるヒンジ部分を構成する軸受孔59より後方に,側面部52の後端側に延長した突片部57の円弧状部61があり,本体側ケース部材31における支軸部38よりも後方へ突出するようになっており,この突出部分に後面部53が設けられ,更に,後面部53から対面部54が垂直に屈曲し,本体側ケース部材31の側面部34の中央部には,該本体側ケース部材31の内側へ入り込む切欠き部39が形成され,蓋側ケース部材32には前記切欠き部39に嵌合する凸部67が形成され,該凸部67の高さはケースの厚みとされており,前記蓋側ケース部材32には前記凸部67の両側に側面部52が形成され,該側面部52には内側に突出するラベル押さえ部64,65が設けられ,本体側ケース部材31には前記切欠き部39の両側に側面部34が形成され,該側面部34には,前記ラベル押さえ部64,65を内側において迂回する凹部41,42内が形成されているCDの収納ケース(本件審決9頁)イ相違点5本件特許発明は,180°開いた状態においてカバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっているのに対して,甲1発明には,そのような記載はない点 (本件審 。
決13頁)ウ相違点5についての容易想到性の判断本件特許発明では,収納ケースを180°開いた状態においてカバー体(3)におけるヒンジ結合側端縁部は保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっている。これに対して,甲1ないし3に記載のケースでは,開いた状態において,カバー体と保持板の端縁部が互いに当接しているか否か明らかではない。
しかし,一般に蓋付きのケースにおいて,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当たり接する構造,すなわち当接する構造となっているのは,容器の分野において周知の構造であって(例えば,実公昭57-39330号公報(本訴甲21 ,特開平9-131957号公 )報(本訴甲22)参照 ,本件特許発明のようなCDのケースにおいても )このような構造とすることに何ら困難性は認められない (本件審決16 。
頁)第3原告主張の取消事由審決は,次に述べるとおり,周知技術の認定,相違点5についての容易想到性の判断の誤り(取消事由1 ,周知技術の参照資料について反論等の機会を )与えなかった手続上の誤り(取消事由2)があるので,違法として取り消されるべきである。
, () 1周知技術の認定 相違点5についての容易想到性の判断の誤り 取消事由1( )本件特許発明と,本件審決が周知技術の参照資料とした甲21(実公昭157-39330号公報 ,甲22(特開平9-131957号公報)は, )国際特許分類のサブクラスB65Dに分類されているが,そのサブクラスの中には小物の袋等から瓶,缶,輸送用コンテナに至るまで多くの物品が含まれている。そのため,本件特許発明と同じサブクラスに,合成樹脂製品の容器において蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部が容器本体と当接する構造となっている甲21,22が存在するとしても,本件特許発明のCDケースの技術分野において,ヒンジ部を破壊することのないように,カバー体が180°開いた状態で本体の端縁部に当接する構造となっていることが周知技術であるとはいえない。
( )本件特許発明のヒンジ結合側端縁部の構造は,保持板の上下のヒンジ部2が周壁に対して内外逆になり,カバー体の上下のヒンジ部も周壁に対して内外逆になっており,周知技術から想到することのできない極めて特異な構造となっている。そのため,本件特許発明における,蓋の端縁部と容器本体の当接とは,そのような特異なヒンジ構造の下での当接である。
乙13ないし17に,CDケースの蓋をある程度開いた状態で,蓋の端縁部がケースの端縁部と当接する構造が開示されていたとしても,本件特許発明のような,ヒンジ部が周壁に対して内外逆になる構造のヒンジは開示されていないから,本件特許発明における当接が開示されているとはいえない。
そのため,本件特許発明における当接は,周知技術であるとはいえない。
( )したがって,本件審決が,一般に蓋付きのケースにおいて,蓋をある程3度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当たり接する構造,すなわち当接する構造となっているのは,容器の分野において周知の構造であると認定し,本件特許発明のようなCDケースにおいてこのような構造とすることに困難性は認められないと判断したことは誤りである。
2周知技術の参照資料について反論等の機会を与えなかった手続上の誤り(取消事由2)本件審決は,甲21,22を引用文献とはせず,周知技術の参照資料としているが,これらの文献は,実質的に本件特許発明進歩性の判断の重要な要素となっており,引用文献を補うものとは到底いえない。そのため,本来これらの文献は,職権探知によるものとして,又は意見を申し立てる機会が与えられるべきものとして,無効審判手続中で正式に提示され,153条2項にいう意見を申し立てる機会としての相当の期間を指定し,又は134条2項にいう答弁書を提出する機会としての相当の期間を指定し,これらに伴って134条の2第1項の無効審判における訂正請求の機会を原告に対して与えなければならなかった。ところが,審判合議体は,甲21,22を無効審判手続中に提示せず,原告に対して反論,訂正の機会を与えないまま,本件審決において,これらを周知技術の参照資料とした。したがって,本件審決には,周知技術の参照資料について原告に反論等の機会を与えなかった手続上の誤りがある。
第4被告の反論原告主張の取消事由は,いずれも理由がない。
, () 1周知技術の認定 相違点5についての容易想到性の判断の誤り 取消事由1について甲21,22,その他の本件優先日前に頒布された刊行物によれば,蓋付きのケースにおいて,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当接する構造は,容器の分野において周知であった。本件特許と同じ国際特許分類のサブクラスに,このような構造の公報が多数存在することから,CDケースの分野においても,このような構造は周知であった。
本件特許発明は,優先権主張の基礎とされた出願(特願平10-57080号)の願書に最初に添付された明細書と図面(乙11の1,2)に記載されておらず,本件特許発明について優先権の主張は認められない。本件優先日(平成10年3月9日)又は本件特許の出願日(平成11年3月4日)の前に頒布された刊行物には,CDケースの分野において,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部と当接する構造が開示されているものが多数存在する。
したがって,本件審決が,一般に蓋付きのケースにおいて,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当たり接する構造,すなわち当接する構造となっているのは,容器の分野において周知の構造であると認定し,本件特許発明のようなCDケースにおいてこのような構造とすることに困難性は認められないと判断したことに誤りはない。
2周知技術の参照資料について反論等の機会を与えなかった手続上の誤り(取消事由2)について周知技術は,当業者がよく知っているものであり,審判合議体は顕著な事実として証明なく認定することができるから,審判合議体が周知技術を追加することは,当事者又は参加人が申し立てない理由について審理すること(153条2項)に当たらず,153条2項により審判長が当事者に意見を申し立てる機会を与える必要はない。
周知技術の参照資料の追加は,無効審判の請求の理由要旨変更(131条の2第2項)に当たらないから,周知技術の参照資料の追加があるとしても,当事者に対し,134条2項による答弁書の提出,134条の2第1項による訂正請求の機会を与える必要はない。
したがって,本件審決に,周知技術の参照資料について反論等の機会を与えなかった手続上の誤りはない。
第5当裁判所の判断, () 1周知技術の認定 相違点5についての容易想到性の判断の誤り 取消事由1について( )当接構造の周知性について1ア甲21(実公昭57-39330号公報)の記載内容(ア)甲21には,次のとおりの記載がある。
「本考案は容器口頸部に係着される円筒状部品と該円筒状部品の上部外周部分と係合して容器注出口部を覆う円形冠帽部と,これら冠帽部と円筒状部品とを連結する連結部とが一体に形成されて成る合成樹脂製蓋に関する(2欄6ないし10行) 。」「本考案係止片つき合成樹脂製蓋において重要なことは,係止片4と段部5とが,次の相対関係をもつていることである。即ち,閉鎖位置にある冠帽部2を,連結部Cの蝶番部分6,6’を中心にして,開く方向に回動するときに,容器から内容品を流出させるに十分なだけ該冠帽部2が回動した位置,大体閉鎖位置から90°回動した位置で,冠帽部2の係止片4と先端4Eが円筒状部品1の周壁10と接触して,冠帽部2の該回動に抵抗が与えられるが(4欄39行ないし5欄4行) ,」第6ないし第8図には,実施例の図面が示されている。
(イ)前記(ア)の甲21の記載によれば,甲21には,蓋(冠帽部)を有する容器において 蓋をある程度 90° 開いた状態で 蓋の端部 係 ,(),(止片)が容器本体(円筒状容器)の端縁部に当接する構造が記載されており,この構造によって,その蓋が開いた状態を維持することができるという作用効果を奏するものと認められる。
イ甲22(特開平9-131957号公報)の記載(ア)甲22には,次のとおりの記載がある。
「 0002】【【従来の技術】スタンプ台は一般的にインキパッドをケース本体に備えていて,そのインキパッドの乾燥を防止するために蓋体をケース本体に対しヒンジを介して回動自在に取り付けている。そして,従来のスタン, , プ台は 蓋体がケース本体に対し略180°開くようになっているので蓋体を開いた状態ではケース本体と蓋体の両方が机上の広い面積を占有してしまうという問題があった(1欄20ないし28行) 。」「 0009】蓋体9に設けた上記のヒンジ軸部10には,更に突部 【12を一体的に形成している。この突部12は,ケース本体1の制止片7と対応して位置している。蓋体9がケース本体1に対して閉じている状態(図1及び図2参照)から,蓋体9を開いて後方へ略90°回転させて起立させると(図3及び図4参照 ,上記の突部12が制止片7に )当接して係止し,蓋体9はケース本体1に対し起立状態で停止する 」。
(2欄22ないし29行)図1,図2には,蓋体9がケース本体1に対して閉じている状態の実施例の図面が示され,図3,図4には,蓋体9を開いて後方へ略90°回転させて起立させた状態の実施例の図面が示されている。
(イ)前記(ア)の記載によれば,甲22には,蓋(蓋体)を有する容器において,蓋をある程度(90°)開いた状態で,蓋の端部(突部)が容器本体(ケース本体)の端縁部に当接する構造が記載されており,この構造によって,その蓋が開いた状態を維持することができるという作用効果を奏するものと認められる。
ウ以上のとおり,甲21,22には,蓋付きのケースにおいて,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当接する構造が記載されている。そして,このような構造は,仕組みが比較的単純であり,その内容に照らして,本件優先日の当時,当業者において広く認識されていたものと推認される。したがって,一般に蓋付きのケースにおいて,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当接する構造は,本件優先日の当時,周知であったものと認められる。
( )周知技術のCDケースへの適用について2前記( )の周知の当接構造,すなわち,一般に蓋付きのケースにおいて,1蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当接する構造は,当接によって蓋をある程度開いた状態で維持するという作用効果を奏する。
そして,蓋が開く角度を180°とすることは,設計事項にとどまると解される。そうすると,CDケースにおいて,カバー体を180°開いた状態で維持するための構造として,上記の周知の当接構造を採用することは,当業者にとって困難ではなく,容易であると認められる。
( )周知技術の認定,相違点5についての容易想到性の判断について3したがって,本件審決が,一般に蓋付きのケースにおいて,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当接する構造となっているのは,容器の分野において周知の構造であると認定したことに誤りはなく,また,本件特許発明のようなCDのケースにおいてもこのような構造とすることに何ら困難性は認められないと判断したことに誤りはないものと認められる。
( )原告の主張に対し4アこの点に関し,原告は,甲21,22が存在するとしても,本件特許発明のCDケースの技術分野において,ヒンジ部を破壊することのないように,カバー体が180°開いた状態で本体の端縁部に当接する構造となっていることは,周知技術であるとはいえないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
(ア)前記( )のとおり,一般に蓋付きのケースにおいて,蓋をある程度2開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当接する構造は,容器の分野において周知の構造であり,本件特許発明に係るCDケースは,コンパクトディスクを収容する蓋付きのケースであり,容器の範疇に属するものであって,他の容器と異なり殊更に上記の周知の当接構造を適用することができないとする理由は認められないから,本件特許発明のCDケースの技術分野においても,上記の当接構造は周知であったものと認められる。
(イ)また,本件優先日前に頒布された刊行物には,以下の記載がある。
a乙17(特開平9-20379号公報)乙17には 「ほぼ180°に揺動行程を限定するため,完全に開 ,いた状態において蓋壁8の横向きに延びた閉鎖縁43は,基部1の閉じた横壁6においてこの基部の底部5より上に接している。それにより基部1の横壁6における完全に揺動して開いた蓋部2の直線状のかつきわめて磨耗の少ない支持が生じる(10欄41ないし47行) 。」と記載され,図9には,基部と蓋部の間のヒンジ結合の詳細表示の図が示され,図10には,図9による表示に相当する断面図が示されている。
そうすると,乙17には,CDケースにおいて,カバー部分を保持部分に対して180°開いた状態で,カバー部分の端縁部がケースの端縁部に当接する構造が記載されている。
b乙19(実公平2-69889号公報)乙19には 「この考案は,CD(コンパクトディスク)等のディ ,。」(,), スクを収納するディスク収納ケースに関する明細書3頁4 5行「第1図に示すように,この考案に係るディスク収納ケース10は,, ,, リッドサイド ボトムサイドの一対のハーフ12 14から構成され一対のハーフは,たとえば,左右両サイドに形成されたヒンジ16によって回動可能に連結されている(明細書8頁6ないし10行 , 。」 )「, ,, また 公知のディスク収納ケースのように ヒンジの側壁を削除し貫通孔を設けることがないため,ハーフの開放時において,リッドハーフの側壁38がボトムハーフの基部14aの下面に当接して,回動。,,,, が規制される そのため ハーフ12 14の回動範囲を たとえば約180°以内に規制すれば,開放時において,ハーフが水平位置か, 。 ら下方に回動されることもなく ディスクの不意な落下が防止できる,,,, しかし ハーフ12 14の回動の規制は リッドハーフの側壁38ボトムハーフの基部14aの下面の当接に限定されず,他の手段,たとえば,ボトムハーフの基部外周35の端末,リッドハーフの側壁32の端末の当接により行なう構成としてもよい(明細書12頁16 。」行ないし13頁9行)と記載され,第1図には,開放時における,この考案に係るディスク収納ケースの概略斜視図が示されている。
そうすると,乙19には,CDケースにおいて,蓋をある程度(約180°)開いた状態で,蓋の端縁部がケースの端縁部と当接する構造が記載されていると認められる。
c乙20(米国特許第5341924号 ,乙21(米国特許第47 )50611号)乙20のFIG.3D,FIG.4D,乙22のFIG.3D,FIG.4Dには,CDケースにおいて,蓋をある程度開いた状態で,蓋の端縁部がケースの端縁部と当接する構造が記載されている。
前記乙17,19,20,21の記載によれば,本件優先日前に,CDケースの分野において,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部と当接する構造は,複数の文献に記載されていたことが認められ,本件優先日の当時,そのような構造が周知であったことが認められる。
なお,被告は,本件特許発明について優先権の主張は認められない旨主張するが,上記の当接構造は,仕組みが比較的単純であり,その内容に照らして,本件優先日の当時,当業者において広く認識されていたものと推認される上,上記のとおり,本件優先日前に頒布された複数の文献に,CDケースについて,上記の当接構造が記載されていることも考, ,, 慮すると 優先権主張の可否を検討するまでもなく 本件優先日の当時そのような当接構造がCDケースの分野において周知であったことが認められる。
イまた,原告は,本件特許発明のヒンジ結合側端縁部の構造は,ヒンジ部が周壁に対して内外逆になる特異な構造であり,本件特許発明における蓋の端縁部と容器本体の当接とは,そのような特異なヒンジ構造の下での当接であるのに対し,乙13ないし17には,そのようなヒンジ構造は記載されていないから,乙13ないし17によって本件特許発明における当接構造が開示されているとはいえず,本件特許発明における当接構造が周知技術であるとはいえないと主張する。
しかし,原告の上記主張も,以下のとおり失当である。
すなわち,本件審決は,相違点5に関し,本件特許発明における当接構造について 「180°開いた状態においてカバー体(3)におけるヒン ,ジ結合側端縁部は保持板(2)のヒンジ結合側端縁部と当接可能になっている」と認定しており,乙13ないし17は,そのような当接構造に関する周知技術を立証するために提出されたものである。そうすると,本件審決は,相違点5に関し,本件特許発明の当接構造について上記のように認定していたのであって,ヒンジ部が周壁に対して内外逆になる特異な構造を認定していたものではないから,本件特許発明について認定された当接構造に対応するものとして行われた本件審決の周知技術の認定が誤りであるとは認められず,原告の上記主張は,採用することができない。
( )小括5以上によれば,取消事由1は,理由がない。
2周知技術の参照資料について反論の機会を与えなかった手続上の誤り(取消事由2)について153条2項は,審判長は,審判において当事者が申し立てない理由につい, ,, て審理したときは その審理の結果を当事者に通知し 相当の期間を指定して意見を申し立てる機会を与えなければならない旨規定する。その趣旨は,当事者が申し立てない理由は,当事者が審判請求の理由として認識していない可能性があるため,改めて当事者に意見を述べる機会を与えることにより,当事者に検討と意見表明の機会を与えることにある。
ところで,周知技術は,当業者にとっては例示する必要がない程よく知られている技術であり,当業者が認識しているといえるから,周知技術を示す資料を追加したとしても,常に,改めて当事者に検討と意見表明の機会を与える必要があるとはいえない。
本件において,前記のとおり,蓋付きのケースにおいて,蓋をある程度開いた状態で蓋の端縁部がケースの端縁部に当接する構造は,その仕組みが比較的単純であることから,その内容に照らして,本件優先日の当時,周知であったものと認められ,審決では,甲21,22は,このような周知技術を示す参照資料として示されたものと解すことができる。したがって,このような周知技術を示す資料を追加したことに対して,当事者に意見を申し立てる機会(153条2項)を与える必要はなく,訂正の機会(134条の2第1項)を与える必要もないというべきである。
なお,134条2項の規定による答弁書提出の機会は,特許無効審判の請求書の理由の補正が許可された場合に与えられるものであり,周知技術を示す資料の追加が行われたにすぎない本件においては,同項の適用の余地はない。
, , したがって 審判合議体が無効審判の手続の過程において原告に対し甲21, ,, 22を示さなかったことは 手続上の誤りということはできず 取消事由2は理由がない。
3結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。原告はその他縷々主張するが,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
裁判官 上田洋幸