関連審決 |
無効2007-800104
訂正2008-390026 訂正2008-390048 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成20行ケ10065審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10347審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10144審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10066審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10105審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 技術分野の関連性 / 機能の共通性 / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 優先日 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 不存在 / 特許発明 / 実施 / 加工 / 交換 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 合理的な理由 / 忌避 / 国際公開 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10047号
審決取消請求事件
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原告ダ イニック株式会社 訴訟代理人弁護 士安藤信彦 同 得丸大輔 同 大関太朗 訴訟代理人弁理 士三枝英二 同 藤井淳 同 林雅仁 同 田中順也 同 菱田高弘 被告ジャパンゴアテックス株式会社 訴訟代理人弁護 士岡田春夫 同 小池眞一 訴訟代理人弁理 士植木久一 同 菅河忠志 同 植木久彦 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/12/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2007-800104号事件について平成20年1月10日にした審決を取り消す。 第2事案の概要1本件は,原告が名称を「吸湿性成形体」とする発明について有する特許第3885150号の請求項1〜6(以下「本件発明1〜6」という。)について,被告が無効審判請求をしたところ,特許庁が上記発明に係る特許を無効とする旨の審決をしたことから,特許権者である原告がその取消しを求めた事案である。 2争点は,本件発明1及び4〜6が下記刊行物?@・?Aに記載された発明から,本件発明2及び3が下記刊行物?@・?A・?Bに記載された発明から,それぞれ容易に発明することができたか(特許法29条2項),である。 記?@米国特許第5593482号明細書(発明の名称「ADSORBENT ASSEMBLYFOR REMOVING GASEOUS CONTAMINANTS」[ガス状汚染物質除去のための吸着剤アセンブリ],特許日1997年[平成9年]1月14日,甲1の3。以下,これに記載された発明を「引用発明」という。)?A特開平9-148066号公報(発明の名称「有機EL素子」,出願人パイオニア株式会社ほか,公開日平成9年6月6日。甲2。以下,これに記載された発明を「甲2発明」という。)?BDARIO BERUTOほか「Vapor-Phase Hydration of Submicrometer CaOParticles」 ( サ ブ マ イ ク ロ メ ー ト ル の Cao粒 子 の 気 相 水 和 )J.Am.Cerm.Soc.1981,Vol.64,No2,pp74-80(甲3の1。以下,これに記載された発明を「甲3の1発明」という。)3なお,原告は,本件訴訟提起後の平成20年3月10日(訂正2008-390026号事件)及び平成20年5月2日(訂正2008-390048号事件)にそれぞれ上記特許につき訂正審判請求をしたが,前者はその後原告が取り下げ,後者は平成20年8月27日に特許庁から請求不成立の審決がなされ確定している。 第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯ア原告は,平成12年5月17日に日本国に出願した特願2000-145633号及び平成12年10月20日に日本国に出願した特願2000-321241号に基づく各優先権を主張して,平成13年5月17日,名称を「吸湿性成形体」とする発明について国際特許出願(PCT/JP2001/004121号,特願2001-585252号)し,平成18年12月1日,特許第3885150号として設定登録を受けた(請求項の数6。特許公報は甲57。以下「本件特許」という。)。 イこれに対し被告は,平成19年5月25日付けで上記特許の請求項1〜6につき無効審判請求(以下「本件無効審判請求」という。)をしたので,特許庁は,同請求を無効2007-800104号事件として審理した上,平成20年1月10日,「特許第3885150号の請求項1〜6に係る発明についての特許を無効とする。」旨の審決を行い,その謄本は平成20年1月15日原告に送達された。 (2) 発明の内容本件特許の請求項1〜6(本件発明1〜6)の内容は,次のとおりである。 「【請求項1】電子デバイス用吸湿材料であって,CaO,BaO及びSrOの少なくとも1種の吸湿剤,並びに樹脂成分を含有し,吸湿剤及び樹脂成分の合計量を100重量%として吸湿剤30〜85重量%及び樹脂成分70〜15重量%含有され,前記樹脂成分がフッ素系樹脂であり,かつ,フィブリル化されている,吸湿性成形体。 【請求項2】吸湿剤として,比表面積10m /g以上の粉末が用いられている請求2項1記載の吸湿性成形体。 【請求項3】吸湿剤として,比表面積40m /g以上の粉末が用いられている請求2項1記載の吸湿性成形体。 【請求項4】さらにガス吸着剤を含有する請求項1記載の吸湿性成形体。 【請求項5】ガス吸着剤が,無機多孔質材料からなる請求項4記載の吸湿性成形体,【請求項6】吸湿性成形体表面の一部又は全部に樹脂被覆層が形成されている請求項1記載の吸湿性成形体。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本件発明1及び4〜6は,引用発明及び甲2発明に基づいて,本件発明2及び3は,引用発明・甲2発明及び甲3の1発明に基づいて,それぞれ当業者が容易に発明することができたから,いずれも特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 イなお,審決が認定する引用発明の内容,並びに本件発明1と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 〈引用発明の内容〉「コンピューターディスクドライブの筐体内に使用され,湿気を包含するガス状汚染物質を除くための吸着剤組立品の吸着剤層であって,延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン内にシリカゲルが充填された吸着剤層」の発明〈一致点〉いずれも「電子デバイス用吸湿材料であって,吸湿剤と樹脂成分を含有し,前記樹脂成分がフッ素樹脂である吸湿性成形体」〈相違点a〉本件発明1では,吸湿剤として,CaO,BaO及びSrOの少なくとも1種(以下,まとめて「CaO等」又は「酸化カルシウム等」ということがある。)を用いるのに対し,引用発明では,シリカゲルを用いている点。 〈相違点b〉本件発明1が,吸湿剤と樹脂成分の割合を「吸湿剤及び樹脂成分の合計量を100重量%として吸湿剤30〜85重量%及び樹脂成分70〜15重量%含有され」と規定しているのに対し,引用発明では,樹脂成分に相当するポリテトラフルオロエチレンと吸湿剤に相当するシリカゲルの量について規定がない点。 〈相違点c〉本件発明1ではフッ素樹脂がフィブリル化されているのに対し,引用発明では延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンをフィブリル化することについて規定がない点。 (4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。 ア 取消事由1(本件発明1の阻害要因)(ア)審決は,原告がした阻害要因に関する「酸化カルシウム等を粉末のまま樹脂と共に使用すると,水と接触したときに発火の危険性があるから避けるべきこととされていた。この技術常識を破って,引用発明と甲2発明とを組み合わせることを動機付けるものは何もなく,しかも組み合わせには避けるべき要因(組み合わせることの阻害要因)がある」旨の主張を退け,本件発明1は引用発明及び甲2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたと結論付けた。なお,この主張における「酸化カルシウム等を粉末のまま使用する」との部分における「粉末のまま」とは「酸化カルシウム等の粉末が樹脂に被覆されることなく酸化カルシウム粉末単体と同等レベルの吸湿性能が発揮されている状態」を意味する。 審決は,原告が阻害要因として挙げた下記阻害1及び阻害2の成立を否定している。 ?@阻害1:「粉末のCaO等と樹脂を混合する目的はCaO等の発火の回避にあり,フィブリル化したPTFEではこの目的は達成できない。」?A阻害2:「粉末のCaO等をフィブリル化したPTFEに組み合わせた吸湿剤は発火の危険性がある。」しかしながら,審決には以下に述べるとおりの誤りがある。 (イ)阻害1に関する審決の判断の誤り審決は,甲49(特開平5-227930号公報,発明の名称「シート状乾燥剤」,出願人足立石灰工業株式会社,公開日平成5年9月7日,審判乙22。以下無効審判事件と書証の番号が異なるものは,「審判〇〇」として同事件の書証の番号を併記することがある。)の段落【0014】に「熱可塑性樹脂シート内に存在する酸化カルシウムは,ポリマーを介して外気もしくは水分と接触する事となる。その結果,多量の水が存在しても酸化カルシウムは急激な水和反応を起こさず,急激な温度上昇とか発熱発火の危険性は全くなくなる」ことが記載されており,甲48(特開平6-277507号公報,発明の名称「ポリマー発泡体乾燥剤」,出願人足立石灰工業株式会社,公開日平成6年10月4日,審判乙21)にも同様の記載があることを認めながら,甲6の4(特公昭46-26569号公報,発明の名称「乾燥剤を備えたコンデンサ」,出願人ピー・アー・マロリ・アンド・カムパニ・インコーパレイテイド,公告日昭和46年8月2日),甲14(特開平3-109916号公報,発明の名称「乾燥剤組成物」,出願人富田製薬株式会社ほか,公開日平成3年5月9日)及び甲15(実開昭52-77956号公報,考案の名称「乾燥剤」,出願人クラレプラスチックス株式会社,公開日昭和52年6月10日)には上記とは異なる目的で樹脂と共に使用されることが記載されていることから,「専ら粉末の酸化カルシウム等の発火を防止するために樹脂が使用されていたと解することはできない。」と述べて,阻害1の成立を否定している(19頁25行〜38行)。 しかし,上記甲48及び甲49には,審決も認める通り,CaO等を粉末のまま用いると,水に接触したとき発熱,発火の危険性があり,火傷や火災の原因となること,及びこの危険を回避するために樹脂に混入して用いることが記されている。審決は,これを「専ら」の目的ではないとして,阻害1を排除しているが,なぜ「専ら」の目的でなければ阻害要因が生じないのか不明である。 粉末のCaO等を樹脂に混入することが「専ら」の目的か否かではなく,その目的の有している意義に基づき判断しなければならない。上記甲48及び甲49には,粉末のCaOは樹脂に混入して使用しなければ(粉末のままの状態で使用すれば),水と接触したときに,発熱,発火の危険があり,火傷や火災の原因となることが記されている。このような危険は,もし発生すれば社会に重要な影響を与え,人の生命をも奪いかねない。したがって避けなければならないことであり,阻害事由が発生する。 以上のとおり,「専ら」の目的ではないという意味不明の根拠を以て阻害1を否定した審決の判断には誤りがある。 (ウ)阻害2に関する審決の判断の誤りa審決は阻害2を否定するに当たって?@CaO等とPTFEの組合せは必然的に発火を招くか,?APTFEは一義的に可燃物といえるか,?BPTFEを可燃物と解した場合,CaO等とPTFEの組合せは阻害要因となるか,という三つの観点から判断している。 以下,各観点につき,審決の判断に誤りがあることを明らかにする。 b?@の観点につき審決は,環境に関わらず,CaO等が水と共存しさえすれば,PTFEは当然に発火するとはいえないと述べ,さらに甲46(原告従業員内A作成の2007年[平成19年]10月1日付け実験成績証明書,審判乙19)及び甲47(同じく2007年[平成19年]10月10日付け実験成績証明書,審判乙20)の実験で用いられた,酸化カルシウムの配合量70%は実施例8より多いこと,及び甲31(特開2002-280166号公報,発明の名称「有機EL素子」,出願人ジャパンゴアテックス株式会社,公開日平成14年9月27日,審判乙4)の段落【0041】の実施例1の結果では,重量比で酸化バリウム:PTFE=6:4の多孔質吸着シート一枚に水を滴下しても発煙すらしていないから,酸化カルシウム等とPTFEの組合せが必然的に発火を招くと解することはできないとしている(20頁11行〜25行)。 しかし,甲44(吉田忠雄ほか監訳「危険物ハンドブック」丸善株式会社昭和62年1月25日発行,審判乙17)には,「酸化カルシウムの結晶は目立たない程度に徐々に水と反応するが,粉末は数分後に爆発的な激しさで反応する…。生石灰は,1/3の重量の水と混合すると150〜300℃(量による)に達し,可燃性物質に着火することが可能となる。場合によっては800〜900℃にまで達する…。」(346頁右欄下17行〜下12行)と記載され,さらに甲45(国立天文台編「理科年表平成11年」丸善株式会社平成10年11月30日発行,審判乙18)には,PTFEの発火温度は492℃であることが記載されている。これらの記載は,粉末のCaOとPTFEの組合せは水と接触したとき,PTFEの発火温度より高くなる場合があり,その場合にはPTFEは発火することを示している。 審決が「必然的に」発火しなければ阻害要因は生じないとする根拠は不明である。当業者は上記甲44及び甲45の記載から,粉末のCaOとPTFEとを共存させると,水と接触したとき発火の危険があると認識する。この認識が阻害要因となるのであり,これを無視して「必然的に」発火するとはいえないから阻害要因はないとする審決の判断には誤りがある。 また,審決は,甲46及び甲47の酸化カルシウムの配合量が実施例8より多いことを挙げているが,本件発明1はCaO等を30〜85%含有する吸湿性シートを包含しており,甲46及び甲47は,この範囲内の配合量で試験されたものであり,粉末のCaO等を本件発明1の範囲内の配合量でPTFEと共に用いると水と接触したとき,発火することを示すものである。甲55(原告従業員内A作成の2008年[平成20年]2月27日付け実験成績証明書)は,実施例8と同じCaO:PTFE=60:40の配合の吸湿性シートも,水と接触すると,炎を上げて発火したことを証明している。 さらに,審決は,前記甲31の実施例1の記載からも必然的に発火するとはいえないと述べている。しかし,本件特許出願当時,CaO等は水と接触したとき激しく発熱し,火傷の原因となり,また可燃物を燃焼させ発火の原因となることは知られており,当業者はそのように認識していた(甲28〜30,35〜43,48〜49)。甲31は,本件特許の優先権主張日後に公知となった文献であり,これをもって本件特許出願当時の上記当業者の認識が覆されるはずがない。 c?Aの観点につき審決は,甲53(小川伸「英和プラスチック工業辞典」株式会社工業調査会1992年[平成4年]5月25日5版第2刷発行,審判乙26)及び甲54(「プラスチック大辞典」株式会社工業調査会1994年[平成6年]10月20日初版第1刷発行,審判乙27)に記された可燃性,不燃性についての広義の解釈を採らず,甲25(永井進監修「実用プラスチック用語辞典第三版」株式会社プラスチックス・エージ1989年(平成元年)9月10日発行)及び上記甲54に燃焼のしやすさを評価する手法としてJIS規格が記されていることから,プラスチックにおける定義によればPTFEは不燃物に当たるとし,PTFEを一義的に可燃物であるとは解し得ないとしている。 しかし,上記甲53は「プラスチック工業辞典」であり,プラスチックに用いられる用語の意味を記載したものである。甲53には,「可燃性」の項(186頁)に「材料が燃えることを表す」と記載されて広義の可燃性の意義が定義され,また「不燃性」の項(485頁)には「高温度(例えば650℃)に加熱しても発火せず且つ赤熱しただけでは灰化しない性質」と定義されている。また,上記甲54には,「燃焼性,可燃性」の項(319頁)に「可燃性物質が酸化反応によって発熱と光を発生する現象を生じる性質をいう。一般には燃焼を生じるためには可燃性物質,酸素,熱の3要素が必要である。」と記載され,JIS規格のように炎との接触を必要としないことが明記されている。JIS規格は材料の燃焼のしやすさの程度を規定する一つの規格を記すだけで,これをもって「燃焼性」,「可燃物」の定義とすることはできない。 審決は,「PTFEを一義的に可燃物であるとは解し得ない。」とする。なぜ一義的でなければならないのか不明である。特許請求の範囲に記載された用語が広義と狭義の二つの意義を有するとき,どちらの意義に解すべきかは当業者が出願当時の技術水準に基づいて,その用語をどのように解するかによって決しなければならない。 甲28(宇部マテリアルズ株式会社「製品安全データシート」1993年[平成5年]6月30日作成・2003年[平成15年]3月1日改訂,審判乙1),甲35(宇部マテリアルズ株式会社従業員B作成の2007年[平成19年]10月1日付けの書面,審判乙8),甲38(ギュンター・ホンメル編,新居六郎訳「危険物ハンドブック(第1巻)」シュプリンガー・フェアラーク東京1996年[平成8年]9月17日発行)及び甲39(厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室監修「国際化学物質安全性カード(ICSC)日本語版第3集」化学工業日報社1997年[平成9年]11月28日発行,審判乙11)には,CaOは水と接触すると,激しく発熱して可燃物を発火させると記載されている。これらの証拠において「可燃物を発火させる」というのは,一般に広い意味で用いられる可燃性,すなわち前記甲53でいう,材料が燃えることをいうと解され,JIS規格に規定された規格に従って「可燃物」と記されているとは認められない。しかも,CaOは水と接触したとき発熱はするが,それ自身炎を出さない物質であって,発熱により材料を燃焼させると認められるから,甲54の「燃焼性,可燃性」の定義と一致する。 そうすると,炎との接触を必要とし,燃焼のし易さの程度を規定するJIS規格を持ち出し,これをプラスチックにおける可燃性の定義であると決めつけ,PTFEを一義的に可燃物であるとは解し得ないとした審決の判断には誤りがある。 しかも,上記甲53によれば,650℃に加熱しても発火しないものを不燃性というのであるから,492℃の発火温度を有するPTFEは不燃物とはいえず可燃物になる。 他方,PTFEの熱分解メカニズムからみても,PTFEが実質的に可燃物に当たることは明らかである。PTFEが加熱された場合,490℃付近から急速に分解が進行して下記のようにTFE(テトラフルオロエチレン:CF =CF )を生成する(里川孝臣編「ふっ素2 2樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社1990年[平成3年]11月30日初版1刷発行[甲68]86頁)。 記「-(C F ) -↑nCF =CF ←」24n 2 2TFEは空気中で燃えやすいうえに,無酸素で加熱されると爆発的に反応する性質を有する(独立行政法人日本学術振興会フッ素化学第155委員会編「フッ素化学入門-先端テクノロジーに果すフッ素化学の役割」三共出版株式会社2004年[平成16年]3月1日初版第1刷発行[甲69]187頁,H.C.DUUS「Thermochemical Studieson Fluorocarbons」INDUSTRY AND ENGINEERING CHEMISTRY 1955年[昭和30年]7月[甲70]1445頁)。この点,上記分解温度がPTFEの発火温度(前出の492℃)とほぼ一致していることから,PTFEの発火と上記メカニズムとが技術的に整合がとれていることがわかる。このように,PTFEの熱分解メカニズムという見地からみても,燃焼性のTFEを生成するPTFEが実質的に可燃物に該当することは明らかである。 したがって,?Aの観点においても審決は判断を誤っている。 d?Bの観点につき審決は,甲23(「石灰ハンドブック1992」日本石灰協会1992年[平成4年]8月31日発行)673頁及び甲10(富士ゲル産業株式会社の2007年[平成19年]9月14日付けホームページの一部)を根拠として,PTFEを可燃物と解し,水と接触したときに発火の危険性があると解しても,酸化カルシウム等の粉末乾燥剤は広く使用されており,製品に注意書きを付すなどの危険性回避手段を講じれば発火の危険性は回避できるから,CaO等をPTFEと組み合わせることに阻害要因があると解することはできないと判断している。 しかし,本件発明1の吸湿性成形体は,あくまで「電子デバイス用」であって,「食品用」とは明確に区別されるべきものである。甲10及び甲23は「食品用」に係るものであるところ,食品用に使用される乾燥剤は,極めて緩やかな吸湿性を有するものであれば足り,それだけ発火の問題は大幅に小さくなるといえる。甲10の左欄には「主成分の酸化カルシウムは放置すると数十時間で反応が終わりますが,日本石灰乾燥剤協会(NSKK)に準ずる透湿性のある包材で使用する事により水分の吸着をコントロールしています。」と明記されている。もともと吸湿性の低い酸化カルシウムを用いながら,包材で水分の吸着をコントロールしても実用化できるような吸湿性で足りるのが食品用の吸湿剤といえる。また,甲10の左下部のグラフによれば,重量増加率が5%になるまでに約96時間もかかっていることがわかるが,この値は,本件明細書(甲57)中に開示されている,樹脂成分としてポリエチレンを用いた実施例1の結果と比べても大幅に低い数値であることがわかる。本件明細書(甲57)においてフィブリル化フッ素樹脂を用いた実施例8にあっては,重量増加率5%になるまで5分しかかかっておらず,本件発明1における電子デバイス用の吸湿剤とは歴然とした差があることがわかる。このように,食品用の用途で要求される吸湿性は,電子デバイス用で要求される吸湿性とは全く異なるものであり,その用途の違いは無視できないレベルにあることは明らかである。 それにもかかわらず,審決では,「しかるところ,発火の危険が生じるのは,廃棄時等の水を接触した場合であって,通常の吸湿過程,つまり,通常の電子デバイス内の吸湿を行うような水のない雰囲気下では発火の危険が存在しない。一方,酸化カルシウム等は,廃棄時等において水分と接した場合に発火の危険性があるとの技術常識が存在するものであるが,このような技術常識があるにもかかわらず,依然として粉末乾燥剤として広く使用されており〔甲第23号証,参考資料1(甲第10号証)〕,発火の危険性という一事をもってその使用が妨げられているものではない。」(22頁22行〜29行)と決め付け,食品用と電子デバイス用とを同一平面上で議論しようとしており,その論理には無理がある。 むしろ,甲23又は甲10は,食品用ですら発火の問題が危惧されていることから,よりいっそう高い吸湿性が要求される用途(例えば電子デバイス用)に用いる場合は発火の問題がなおさら無視できないレベルにあることを示唆しているといえる。 以上のように,「電子デバイス用」であることを前提とする本件発明1の吸湿性成形体は,食品用に使用される吸湿剤とは異なって,高い吸湿性が要求されることから,水と接触したとき,発火の危険性は大きく高まるのである。また,その故にこそ,粉末状CaO等をフィブリル化PTFEと組み合わせて,CaO粉末を露出させた状態で電子デバイスの吸湿材料として用いるという先行技術は存在しないのである。 したがって,審決が,製品に注意書を付すなどの危険回避手段を講じれば発火の危険性は回避できると判断したのは誤りであり,?Bの観点においても審決は判断を誤っている。 (エ) 甲2の記載内容に対する審決の判断の誤り審決は,原告がした「甲2には酸化カルシウム等の粉末表面を粘着材で覆って吸湿剤として用いることが記載されているが,酸化カルシウム等を粉末状態のまま用いることは記載されていない。」との主張を退け,甲2にはCaO等の固定方法として,粘着材による方法以外にも,通気性を有する袋に入れて固定する方法など,粉末のまま使用される手段が開示されているから,必ずしも粉末表面を粘着材で覆わなければ使用できないとはいえないと判断している。 しかし,甲2にはCaO等を樹脂に混入して使用することしか記載されていない。CaO等を粉末のまま用いることは記載されておらず,粉末のまま用いると,水と接触したとき発熱,発火の危険があることを知っている当業者は,甲2には,CaO等を粉末のまま用いることは記載されていないと理解する。 もっとも,CaO等を粉末のまま用いるかどうかという問題とは別に,審決で取り上げているような「通気性を有する袋」に入れるということ自体,吸湿剤の種類にかかわらず大量の水分と接触しないように注意するということであり,これはむしろ発火の危険性を認識していることの表れといえる。 イ取消事由2(本件発明1の効果の予測性)(ア)本件発明1は,特に「吸湿剤の脱落防止効果」と「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」との二つの効果を一挙に達成することに成功したものである。 (イ)これに対し,審決は,本件発明1の効果につき,「本件発明1の効果は,粉末が脱落しない,優れた吸湿性を発揮する,電子デバイスの小型化・軽量化が図られるという効果をもつものであるが〔特許掲載公報第4頁第34〜35行,第5頁第18〜21行〕,これらはいずれも格別な効果とはいえない。すなわち,上記のとおり引用発明ではフィブリル化したPTFEが用いられており,吸着剤が充填されたPTFEは吸着剤が外に移動せず,汚染の問題がないので好ましいと記載され〔摘示事項(A-5)〕,また,吸着剤の空間を最小限に抑えられることが記載されている〔摘示事項(A-2)(A-3)〕。一方,本件発明1に係る実施例4,6,8,10の吸湿剤成形体および吸湿剤単体の60分経過時の試験結果と,同条件における,フィブリル化したPTFEと物理的吸湿剤を組み合わせた吸湿剤成形体と物理的吸湿剤単体の吸湿の試験結果…を比較しても,物理的吸湿剤として活性炭「太閤CB」を用いた結果に比べて,実施例4,6の結果は劣るものであり,また,実施例8,10の結果も格段に優れるものでもないことから,その吸湿性能は専らフィブリル化された多孔質のPTFEを用いることで必然的に得られるものと考えられ,CaO等の選択により格別顕著な吸湿効果を奏しているとはいえない。そうすると,本件発明の上記効果は,甲第1号証の3に明示されたものかあるいはフィブリル化したPTFEを使用したことに基づき必然的に得られ,容易に認識できるものと認められ,格別顕著なものと評価できない。」(17頁下1行〜18頁20行)と判断している。 (ウ)しかし,甲1の3(引用発明)から,上記の「吸湿剤の脱落防止効果」と「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」という二つのいわば相反する効果が同時に達成されることを予測することなどは,以下に述べる理由により,到底不可能である。 a「吸湿剤の脱落防止効果」につき甲1の3には,充填PTFEは,吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題が生じないことから,特に好ましい旨が形式的に記載されている。 しかし,甲1の3における「ADSORBENT ASSENBLY」の構成は,甲1の3の4欄54行〜5欄22行及びFig.2〜6に記されているものの,その「吸着剤層」の形成方法は予め形成された延伸PTFEに後から吸着剤物質を充填することを前提とするものである。このことは,甲1の3の4欄42行〜46行の「A preferred embodiment isthe use of expanded porous polytetrafluoroethylene (PTFE) made inaccordance with the teachings in U.S. Pat. Nos. 3,953,566 and4,187,390, the expanded porous PTFE then filled with a particularadsorbent material.」(審決[8頁下9行〜下6行]の訳文:「好ましい態様は,米国特許第3,953,566号および4,187,390号に開示の方法で得られる延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の使用であり,加えて,特定の吸着性物質が充填された延伸多孔質PTFEである。」)との記載において「then」と明記されていることや,8欄13行〜20行の「The adsorbent layer wasapproximately 0.043 inches (1.0922 mm) thick and 0.625 inches(15.875 mm) long and 0.156 inches (3.9624 mm) wide. The adsorbentlayer was constructed of a silica gel with blue indicator gelimpregnated into an expanded porous PTFE membrane with a 40% byweight silica gel plus indicator loading and a total silica gelcontent of 0.021 grams of silica gel at 20% relative humidity.」(審決[9頁下13行〜下9行]の訳文:「吸着剤層は厚み約0.043インチ[1.0922mm],長さ0.625インチ[15.875mm],幅0.156インチ[3.9624mm]である。この吸着剤層は,延伸多孔質PTFEにシリカゲル+指示薬で40重量%充填した青の指示色を示すシリカゲルから構成されており,全シリカゲル量は,相対湿度20%でのシリカゲルで0.021gであった。」)との記載においてシリカゲルを延伸PTFE中に「impregnated」により充填したことが記載されていることからも明らかである。 このように,甲1の3を普通に読めば,その吸湿剤層の形成方法としては,まず延伸PTFEを形成した後,得られた延伸PTFEに吸湿剤物質を充填する,いわゆる「(吸着剤物質)後入れ方法」を前提技術としていることがわかる。したがって,たとえ甲1の3の構成が本件発明1のそれと類似していたとしても,その作り方が異なる以上,その構成による効果が同じになるとは限らず,甲1の3から直ちに本件発明1の「吸湿剤の脱落防止効果」を予測することはできない。 甲1の3には,「後入れ方法」によって吸着材物質が脱落しないように延伸PTFE中にどのように充填すればよいかにつきその詳細は一切明らかにされていない。また,甲1の3の実施例3を仔細に見ても,シリカゲルを延伸PTFE中に「impregnated」により充填したこと自体は記載されているが,通常シリカゲルは溶液状ではなく固体(粒子)状であるところ,例えば,(a)どのような粒径をもつシリカゲル粒子をどのような細孔をもつ延伸PTFE中に充填させるのか,(b)そのようなシリカゲル粒子をどのような「後入れ方法」で延伸PTFE中の細孔中に充填させるのか,(c)「後入れ方法」では,延伸PTFEの最表面又はその付近にもシリカゲル粒子が多数付着すると予想され,それらが脱落するおそれがあるのでないか,(d)たとえ延伸PTFEの細孔中にシリカゲル粒子を充填できたとしても接着剤や粘着剤なしで本当にシリカゲルが脱落しないようにできるのかどうか(また接着剤や粘着剤を使えば吸湿性が犠牲になるのではないか)等,不明な点や疑義ある点が極めて多い。 このように,「後入れ方法」を前提とする甲1の3では,吸着剤物質の脱落を防止するための具体的な技術手段が不明であるだけでなく,むしろ「後入れ方法」を採ることにより脱落しやすい状態のものしか得られないのではないかという疑義さえ生じさせるものであるから,甲1の3から直ちに本件発明1の「吸湿剤の脱落防止効果」が達成できるかどうかを予測することなど到底不可能である。 なお,甲1の3には,「充填PTFEは,吸着剤物質が外部に移動せず,汚染の問題が生じないことから,特に好ましい。」(4欄47行〜49行,訳文は,抄訳1頁下2行〜下1行)との記載があるが,甲1の3の請求項1は,三つの層(粘着層,吸着剤層及びフィルター層)を有し,吸着剤層が粘着層とフィルター層の間に配置されていることを必須要件としているから,吸着剤層が両層に挟まれることで「吸着剤物質が外部に移動しない」と考えるのが相当である。 b「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」につき甲1の3の実施例3には,延伸多孔質PTFEにシリカゲル及び指示薬が充填された吸着剤層において,シリカゲルが湿気を吸着して変色した旨が記載されている。しかし,甲1の3の実施例3から読み取れることは,せいぜい「シリカゲルが湿気を吸着した」という程度であって,この記載から「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」(本件特許の図7及び図9[甲57])という点まで予測できるはずもない。 また,上記aで述べたとおり,甲1の3には,「後入れ方法」で吸着剤物質を脱落させることなく充填する方法が不明であるから,その吸着性能もどのように機能するか不明といわざるを得ない。それにもかかわらず,審決は,本件発明1の効果と,単に物理吸着剤単体による効果を示す甲22(被告従業員C作成の2007年[平成19年]10月1日付け実験成績証明書)及び本件発明1に記載された製造方法に基づいて得られる効果を示す甲33(原告従業員内A作成の2007年[平成19年]7月27日付け実験成績証明書,審判乙6)とを対比した結果に基づいて,本件発明1の効果の予測性について判断している。しかし,これらの対比は,あくまで本件発明1に開示されているシート形成方法で吸湿性成形体を作成することを前提とするものであり,「後入れ方法」を前提としている甲1の3とは直接関係のないものである。 そうすれば,本件発明1と甲22及び甲33とを対比したところで,これが甲1の3からみた本件発明1の効果の予測性を判断する根拠となり得ないことは明らかである。換言すれば,甲22及び甲33との対比を前提とした審決における判断は,本件発明1の存在を前提とした判断であって,本件発明1を未だ知らない当業者がその効果を予測できるかどうかという進歩性の議論において妥当性を欠くものといわざるを得ない。 以上のとおり,甲1の3には「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」という効果が開示されていない上,甲22及び甲33との対比も本件発明1の「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」の予測性を裏付ける証拠となり得ないのであるから,当業者が何の実験も行うことなく甲1の3から直ちに本件発明1の「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」を予測することは到底不可能である。 c発明の効果の予測性についてのまとめ上記a,bのとおり,「後入れ方法」を前提技術としている甲1の3において「吸湿剤の脱落防止効果」及び「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」という二つの効果が一挙に達成できるかどうかは全く不明であるといわざるを得ない。 また,たとえ,甲1の3に記載の「後入れ方法」で吸着剤層を形成しようとしても,上記aのとおり甲1の3に「後入れ方法」に関する詳細が明らかにされていない以上,甲1の3に実施例3等を忠実に再現することができないものであり,この点からみても本件発明1の二つの効果を予測できないことは明らかである。 仮に,甲1の3以外の公知文献に記載の製造方法を用いて甲1の3の構成を再現し,その効果が確認できたとしても,それは甲1の3と当該公知文献との組み合わせによる実験が必要となることを意味するものであり,かえって本件発明1の上記二つの効果の非予測性を裏付けるものとなる。 以上のとおりであるから,本件発明1の効果を「甲第1号証の3に明示されたものかあるいはフィブリル化したPTFEを使用したことに基づき必然的に得られ,容易に認識できるものと認められ,格別顕著なものと評価できない。」(18頁18行〜20行)と判断した審決は誤りである。 (エ)なお,被告が後記3(2)ウ(ア)で引用している甲1の1以下の各甲号証は,審決で判断されなかったものであるから,本訴においてこれらを本件発明1の効果を予測することができたことの資料として用いることは許されないし,これらを検討しても,本件発明1の効果を予測することができたことが認められるものではない。 ウ取消事由3(本件発明2〜6)本件発明2〜6は,いずれも本件発明1に従属するものであるから,これらの発明についても,本件発明1と同じ取消事由を有することは明らかである。 2請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。 3被告の反論(1) 取消事由1に対しア審決は,原告の主張する阻害事由の内容を阻害1:粉末のCaO等と樹脂を混合する目的は,CaO等の発火の回避にあり,フィブリル化したPTFEではこの目的を達成できない阻害2:粉末のCaO等をフィブリル化したPTFEと組み合わせた吸湿剤は発火の危険があるの二つに分けて整理している。 イ 阻害1について阻害1は,粉末のCaO等と樹脂の混合目的からCaO等とフィブリル化PTFEの組合せが動機付けられるかを論点とするものであることから,原告が主張する事由が同一刊行物内の記載でないとはいえ(すなわち甲1の3や甲2内の記載ではないとはいえ),審決は,あえて原告が主張する阻害1の主張を,課題が異なることや動機付けの不存在を根拠とするものであると位置付け,「一見論理付けを妨げるような記載」(仮の阻害要因)であるか否かと同じ慎重さをもって検討を加えているものである。 審決では,阻害1に関して,甲49及び甲48に基づき,確かに「熱可塑性樹脂シート内の酸化カルシウムは,ポリマーを介して外気や水分と接触する結果,多量の水が存在しても急激な水和反応は起こさず,発熱発火の危険性は全くなくなる」との記載があることを認定する一方で,甲6の4,甲14及び甲15に基づき,(ア)粉末状のアルカリ土類酸化物の取り扱い性の向上と,電子装置内への密封前の取り扱い時における乾燥能力の低下を抑えること,(イ)飛散性などの欠点を抑え,加工成形を容易にすること,(ウ)酸化カルシウムの吸湿・膨張により袋やケースの破損による飛散・汚染の防止を図ることなどもCaOと樹脂とを組み合わせる目的になると認定している(19頁25行〜38行)。すなわち,審決は,阻害1で主張されるような目的でCaOや樹脂が組み合わされる場合の他,他の目的でもCaOや樹脂が組み合わされる場合があるとしているのであり,これら他の目的は,CaOとフィブリル化PTFEを組み合わせる動機付け(論理付け)になりうる技術常識である。 そうすると,阻害1については,仮に,原告が主張するような甲48や甲49のような記載が甲1の3や甲2内にあると仮定したとしても,「課題が異なる等,一見論理付けを妨げるような記載があっても,技術分野の関連性や作用,機能の共通性等,他の観点から論理付けが可能な場合」に該当する。したがって,審決の判断手法は,進歩性の手法として慎重を尽くしたものと評価されることはあっても,これを違法であるなどとするそしりを受ける理由はない。 原告は,なぜ「専ら」の目的でなければ阻害要因が生じないのか不明であるとか,甲48や甲49を指摘して,その目的の有している意義に基づき判断しなければならないなどと主張するが,このような主張は,上記のとおり,原告の主張を善解して示した審決の慎重な判断を正解するものではない。 ウ阻害2について阻害2は,原告が主張する事由が同一刊行物内の記載でないとはいえ,審決は,あえて原告が主張する阻害2の主張をもって,技術常識として記載されている事項と同視できるように位置付け,「粉末のCaO等をフィブリル化したPTFEと組み合わせた吸湿剤は発火の危険がある」とする被告の主張が妥当であるか否かを,「請求項に係る発明に容易に想到することを妨げるほどの記載」(真の阻害要因)の観点と同様の慎重さをもって判断したものである。 阻害2は,審決が判断しているように,?@CaO等とPTFEの組合せが必然的に発火を招くか,?APTFEは一義的に可燃物といえるか,?BPTFEを可燃物と解した場合,CaO等とPTFEの組合せは阻害されるかの三つの観点に分けられる。 a?@の観点につき(a)審決は,阻害2の?@について,甲44〜47及び甲31の記載内容を丁寧に調べ,「水の量及びCaO等の周囲環境に関わらず,CaO等と共存しさえすればPTFEは当然に発火する,つまり当然に燃焼するとはいえない。」(20頁16行〜18行),「酸化カルシウム等とPTFEの組合せが必然的に発火を招くと解することはできない。」(20頁24行〜25行)と判断している。すなわち,審決は,原告が阻害要因と主張していた発火にとって,「水の量及びCaO等の周囲環境」が重要であると指摘した上で,「必然的に発火を招くと解することはできない」と結論付けているものである。 このような結論は,被告が提出した甲26(Cの実験成績証明書)に記載されている「本件特許明細書記載の加速試験条件での高比表面積のCaOの温度上昇の実験結果」のとおり,客観的に事実として正しく,引用発明に甲2に記載の「CaO等」を組み合せるに際して想定される有機EL素子という「密閉性」の高い適用分野においては,原告も認めるとおり,通常の使用環境下での危険性がそもそも想定しえないに等しいものである。 そして,この事実は,阻害2の?Bの観点で示される「CaOとフィブリル化PTFEを組み合わせても,水の量等をコントロールすれば,危険性を回避できる」との総合的結論を客観的事実面から支えるものである。 (b)原告は,「審決が『必然的に』発火しなければ阻害要因は生じないとする根拠は不明である。」と主張する。しかし,審決は,阻害要因の検討として,客観的事実としての取り返しのつかないデメリットが事実として存在するか否かを検討したものであり,必然的でない場合には,そもそも水分のコントロール等によるデメリットの回避策が生ずるなど,当業者が組み合わせに想到することを阻害するような真の阻害要因にはならない。 また,原告は,さらに燃えることもある事実(甲55)を追加しているが,水の付加条件も含め,発明の構成の範囲で常に発火する危険なのか(必然的か否か)との検討視点を欠くものであり,不適切な主張である。このことは,原告が,PTFEが不燃性樹脂であっても燃えることを説明すべき機序がありうる資料として新たに提出した甲68〜70を検討しても同様である。それぞれ,特殊な条件下(高温かつ真空下)でのPTFEの熱分解を経た上で得られるテトラフルオロエチレン(TFE)を前提に,酸素の存在を前提とする酸化反応による燃焼作用を説明する内容であり,常に発火するかのごとき主張は失当である。 さらに,原告は,甲31について本件特許出願時以降のものである旨主張するが,?@の観点は周知性ではなく,客観的事実について判断したものであるから,原告の主張は審決の違法性とは無関係である。 b?Aの観点につき(a)審決は,原告が提示した甲28,甲35,甲38,甲39,甲44をデメリットの生ずることが技術常識として周知であったかを検討すべき根拠文献として特定し,その主張が妥当であるか否かについて検討を加えている。 そして,審決は,可燃物,不燃物について定義する甲25,甲53(審判乙26),甲54(審判乙27)の記載について詳細に突き合わせた上で,「素材の評価手法によって,可燃性あるいは不燃性とされる対象が異なるものと認められる。つまり,乙第27号証および甲25号証において,共通してJIS K 6911の試験法が例示されているように,プラスチックにおける可燃性・不燃性の定義が存在し,かたや乙第26号証では,有機物は可燃性で無機物は不燃性,あるいは不燃物は高温度(例えば650℃)で発火しない,との一般的な定義があり,両者の定義は素材の評価手法により異なることが理解できる。そうすると,PTFEはプラスチックにおける定義によれば不燃物であるから,PTFEが可燃物であると一義的に解することはできない。」(21頁21行〜29行)と判断しているものである。 周知性において問題となる事項が,正にCaO等をPTFEと組み合わせるに際して,当業者の技術常識において,PTFEが可燃物と認識されてこれが阻害されるか否かである以上,PTFEが一義的に可燃物と認識されていたかを検討した審決の視点は正しく,かつ,不燃性樹脂であるPTFEの認定として正しい事実認定である。 なお,原告が提示した甲28,甲35,甲38,甲39,甲44は,可燃物と組み合わせればデメリットが生じることからこれを避けるように記載する内容ではない。例えば,甲28及び甲35には確かに「水分にあうと激しく発熱し,可燃物を発火させるのに十分な熱を発生することがある。」と記載されているが,甲28の4頁の「10.安定性及び反応性」の項には「避けるべき条件:水と反応し発熱する」と記載されている。すなわち,避けられるのは,あくまで水であって,可燃物ではない。これらの記載からすれば,水を避けることで(水との接触をコントロールすることで),CaOと可燃物とを組合せてもそのデメリット(発火)の回避が可能であることが知られているのであって,甲28等にCaOと可燃物とを組み合わせると取り返しのつかないデメリットが生じることが記載され,技術常識になっているとは到底いえず,この観点からも,当該取り返しのつかないデメリットの周知性は否定される。 (b)原告は,甲28,甲35,甲38,甲39の可燃物に関する定義が一般に広い意味で用いられる「可燃性」であると主張する。しかし,可燃物とは,必ずしも,原告が主張するような燃やそうと努力すれば燃えるような状態を指すものではなく,努力しなくても簡単に燃えるものを指して可燃物とするのが自然な理解であり,例えば,広辞苑には可燃物に関して「火をつけるとよく燃えること,燃えやすいこと」と記載されている。 そうすると,PTFEは,まさに不燃物であって,火がついても直ちに自己消火するものであるから(甲12[大阪市立工業研究所プラスチック読本編集委員会ほか編「「プラスチック読本改訂第18版」株式会社プラスチックス・エージ1992年(平成4年)8月15日発行]及び甲25[プラスチック用語辞典]),可燃物(火をつけるとよく燃えること,燃えやすいこと)に該当しないことが逆に明らかになるものである。 そもそも,樹脂として客観的に不燃性に分類されるようなPTFEに対して,燃やそうと努力すれば燃えるから可燃物となるといった原告の理解は,文献の記載内容の論理的解釈として無理がある。 また,原告は,甲68〜70を提出して,PTFEが490℃付近から急速に分解が進行する旨の主張を追加しているが,PTFEが可燃物であることを裏付けるものでもなく,PTFEとCaO等とを組み合わせると取り返しのつかないデメリットが生じることを客観的に示すものでもなく,また取り返しのつかないデメリットの周知性を示すものでもない。原告の主張する各反応が,そもそも通常考えられない特殊な条件(高温かつ真空下など)を必要とすることは証拠上自明である。原告提出の甲68(ふっ素樹脂ハンドブック)には,「しかしPTFEは燃えにくく,一度火がついても消えやすい。難燃材料としてもすぐれ,酸素指数は95.0である(酸素指数が小さいほど低い酸素濃度でよく燃え,21より小さいといったん火がつけば空気中で燃えつづける)。」と記載されており(88頁11行〜13行),安全性の面では一般的にいえばむしろ「すぐれ」るものであるとの評価が定着していることを示している。 c?Bの観点につき(a)阻害要因が認められるには,取り返しのつかないデメリットの客観的事実とその周知性の両方が必要とされるところ,審決は,以上の?@,?Aの観点から,客観的事実及び周知性の両方とも具備しないことを明らかにした。 審決は,さらに踏み込んで,PTFEが可燃物であると解しても,また,CaO等との組み合わせには一義的にデメリットがあると当業者の技術常識において認識されていると判断したとしても,デメリットが回避可能である以上,阻害要因を充足しないことを明らかにしている(22頁25行〜36行)。 そもそも電子デバイス部品は水を避けるように設計・組み立てられるものであり,元々水との接触がない環境を発明の前提としていることを,この際,原告は再認識すべきである。 (b)原告は,甲23,甲10,甲27が「食品用」であることを問題視しているようであるが,そもそも,食品用のCaOに関して発火の危険性があると主張していたのは原告であり,ともに「発火の危険性」という一事をもって,その使用が妨げられているものではないことを裏付けている点で異なるところはない。審決の「また,一般に,危険性のある製品であっても,法律により使用が禁止されているものを除き,製品に注意書きを付すなどの手段によりその危険性の低減・回避は可能であり,」との判断(22頁29行〜31行)は,食品用CaOだけに通じる技術常識を示すものではなく,CaO自体の一般的技術常識を示すものである。現に,原告がその阻害要因の主張の直接的な根拠として提出している甲28及び甲35は,その用途を限定しないCaOの製品安全に関するデータシートである。 原告は「電子デバイス用」であることを強調するが,仮に,CaO等にそのような区別があったとしても,注意すれば危険を回避できる点は電子デバイス用でも同じであって,異なる事情を認定すべき理由が考えられない。むしろ,食品用CaOは生ゴミなどの水と接触する危険性が高い一方,電子デバイス用CaOは,電子デバイス自体が水との接触を嫌うものである以上,むしろ自然に水との接触が回避され,より安全であるといえる。 原告は,食品用のCaOは吸湿速度が遅く,電子デバイス用のCaOは吸湿速度が速いといった区別があるかのような主張を行っているが,原告が主張する食品用,電子デバイス用の属性が限定される根拠が不明である。電子デバイス用CaOを特定する記載は本件特許明細書にはない。本件特許の請求項1の吸湿性成形体は,その引用形式の請求項である請求項6の態様を含むものであるところ,この請求項6の吸湿性成形体は,表面の一部又は全部に樹脂被覆層が形成されており,吸湿性成形体としての吸湿速度をコントロールすることを前提としているから,原告が主張する電子デバイス用であっても,むしろ,吸湿速度が遅いと評価せざるを得ない内容も含まれるものである。 エ阻害事由についてのまとめ本件発明1は,水と接触する危険にさらされることを前提としてなされたものでなく,むしろ水と接触することが忌避されることを前提とした電子デバイスの分野での使用に係る発明であり,審決が指摘するように,本件発明1は発火の危険性を認識することなくされたものであり,かつ,本件特許明細書にそのような危険回避の課題も記載されていない。したがって,発明の実施態様とかけ離れた状況下の発火実験で発火したこと等を阻害要因と原告が主張することには合理的な理由がない。 オ 甲2に関する審決の判断についてa原告は,甲2には,CaO等を粉末のまま用いることは記載されていないと主張する。 しかし,審決において,引用発明の「シリカゲル」との置換を検討している甲2に記載されている構成は,「有機EL素子内においてCaO等が化学的吸湿剤として使用されていた」との技術的事項であり,CaO等が粉末のまま使用されていたかについては無関係な議論といわざるをえない。 また,甲2の実施例において,「粘着材を用いてガラス封止缶7に固定する」とされているのは,酸化バリウム(BaO)又は酸化カルシウム(CaO)を用いた「乾燥手段8」である。甲2において,BaOやCaOから「乾燥手段8」を形成する手法として,「化合物を固形化して成形体と」する方法や「化合物を通気性を有する袋に入れ」る方法等が記載されており(段落【0019】),「粘着材樹脂と混合して」「CaO等」から「乾燥手段8」を形成するとのみ記載されるものではない。のみならず,「化合物を通気性を有する袋に入れ」る方法や,「ガラス封止缶7に仕切りを設け,この仕切りの中に上記の化合物を入れる方法」という甲2の段落【0019】の記載を素直に読めば,「CaO等」が「粉末」のまま「有機EL素子」内に「封入」されている技術的事項は明記されているといえる。 なお,原告は,本件無効審判請求事件においては,その答弁書(甲59)6頁16行〜18行において,「一方,甲第2号証に開示されているCaO,BaOは,あくまで単独(粉末のまま)で使用されるものであり,樹脂と混ぜて使用することについては何の示唆も存在しない。」と主張していたのであり,原告の甲2に関する上記主張は,この本件無効審判請求事件における主張と矛盾し,信用できないものであることは明らかである。 b原告は,甲2に記載のCaO等につき,「CaO等を粉末のまま用いるかどうかという問題とは別に,審決で取り上げているような『通気性を有する袋』に入れるということ自体,吸湿剤の種類にかかわらず大量の水分と接触しないように注意するということであり,これはむしろ発火の危険性を認識していることの表れといえる。」とも主張する。 しかし,有機EL素子内に設置することで既に水との接触の危険性が避けられており,袋入りでなければ有機EL装置に(電子デバイス用の)CaOが粉末のまま使用できないと理解する当業者はいない。そもそも,甲6の3(特開平11-329719号公報,発明の名称「有機電界発光素子」,出願人エルジー電子株式会社,公開日平成11年11月30日)の有機EL素子において,図5に示されるとおり,「吸着層35」に使用される(電子デバイス用の)「BaO」や「CaO」の無機吸湿剤は「溶媒を使用せずに粉状で充填して使用」されるものである(段落【0040】)が,「ポリテトラフルオロエチレン」を使用したもので,「0.01〜10μmの気孔を有する」支持層33(段落【0042】)にて直接接触支持され使用されている事実が明らかであり(段落【0049】,【0052】),袋体に入れなければ使用できないとの原告の主張には,技術常識として根拠がない。袋に入れることの第一義的な目的は,バラバラの粉末を一つに取りまとめるためである。 「大量の水分と接触しないように注意するということであり」との上記主張は,大量の水分と接触しないようにすれば,危険性は全く存在しないとの認識が技術常識であることを,当業者である原告自身が示しており,阻害要因の主張自体が失当なものであることを自認するに等しい内容である。 (2) 取消事由2に対しア原告は,本件発明1は,「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」と「吸湿剤の脱落防止効果」との二つの効果を一挙に達成するものであり,二つのいわば相反する効果が同時に達成されることを予測することなど到底不可能である,と主張する。 イしかし,そもそも原告の上記の効果に関する主張は,本件発明1の発明特定事項から離れており,「作り方」といった本件発明1と関連性のない甲1の3の記載に基づいて本件発明1の効果が予測されないと主張している点で既に根拠がない。 効果に関する主張が,独立に特許発明の進歩性の根拠になり,特許を無効にするとの審決の独立した取消事由に相当すると評価しうるのは,「当該発明の構成をとることによって奏すべき作用効果が特許の出願時の技術常識において予測できず,実験等を実施することで初めて確認できた効果であると認められる技術的思想」であるような場合だけであり,発明特定事項から離れて甲1の3の記載事項から予測可能性を論難することには法的な意味がない。 ウ原告主張の誤りを個別に指摘すると,次のとおりである。 (ア)原告の主張する効果が本件発明1の構成をとることによって,当然予測される内容であること原告が主張する本件発明1の効果である「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」と「吸湿剤の脱落防止効果」は,両者とも「フィブリル化」された「フッ素系樹脂」とこれで取りまとめた「吸湿剤」とによる「吸湿性成形体」の構成において知られていた効果である。なぜなら,フィブリル化されたPTFE等で吸湿剤を取りまとめるという従来技術を採用する根拠は,まさに通気性のあるフィブリル化されたPTFEで吸湿剤としての機能を維持しつつ,その粉体である吸湿剤の飛散を防止するところにあり,そのことは技術常識であったからである(甲1の1[特開平6-211994号公報]段落【0003】及び【0023】,甲1の2[特開平8-24637号公報]段落【0003】及び【0071】,甲1の4[特開昭63-28428号公報]2頁左上欄1行〜5行及び右上欄1行〜6行,甲1の5[特開平4-323007号公報]段落【0003】及び【0006】,甲7の1[特開平5-4247号公報]段落【0001】及び【0002】,甲7の2[特開昭63-36836号公報]2頁右下欄5行〜8行及び5頁左下欄15行〜右下欄1行,甲7の3[里川孝臣「機能性含ふっ素高分子」日刊工業新聞社昭和57年2月28日初版1刷発行]32頁8行〜12行及び33頁1行〜4行,甲13[国際公開97/27042号公報]8頁15行〜18行及び5頁24行〜25行,甲19[特開平3-122008号公報]2頁右下欄4行〜10行,甲20[特開平3-228813号公報]3頁右下欄7行〜10行,甲21[特開平3-228814号公報]4頁右上欄10行〜12行)。 以上のとおり,原告が「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」と「吸湿剤の脱落防止効果」との二つの相反する効果を同時に達成した点において本件発明1の顕著な効果である等と主張することには合理的な根拠がなく,上記の各公知例に明らかなとおり,フィブリル化されたフッ素系樹脂で機能性粒子を取りまとめるとの構成をとる場合に当然に予測されるべき効果でしかないことが明らかである。 (イ)甲1の3の記載から「吸湿剤の脱落防止効果」が予測できないとする原告の主張が失当であることa甲1の3は,特定の吸着剤物質が充填されたPTFEを採用する理由について,「好ましい態様は,米国特許第3,953,566号および4,187,390号に開示の方法で得られる延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の使用であり,加えて,特定の吸着剤物質が充填された延伸多孔質PTFEである。充填PTFEは,吸着剤物質が外部に移動せず,汚染の問題が生じないことから,特に好ましい。」(4欄42行〜49行,訳文は,抄訳1頁下5行〜下1行)と明記してある。 このような甲1の3の記載に鑑みれば,シリカゲルの脱落防止効果があるか否かが不明であるとする原告の主張に根拠が全くないのは明らかである。 b原告が,引用発明につき,延伸多孔質PTFEを製造した後にシリカゲルを充填するとの「後入れ方法」と解釈する根拠は,甲1の3の4欄46行の「then」及び8欄16行〜17行の「impregnated」にあるが,以下のとおり,いずれも根拠にならない。 (a) 「then」につき「then」は時間的な要素を含む概念を示す他,「also; inaddition」などの内容的追加を表すこともある(乙6[「OxfordDictionary of English」OXFORD UNIVERSITY PRESS1829頁])。 しかも原告が指摘する「then」が使用されている箇所は,adsorbent(吸着剤)の充填形態について説明する段落において,参照刊行物の記載内容の概要部分(延伸多孔質PTFE)をまず初めに紹介し,ついで当該段落の主題(吸着剤の充填形態)と密接に関連する部分(そこへの吸着剤の充填)を紹介する箇所であって,吸着剤の添加を時間を追って順に説明する箇所ではない。この箇所において,「then」を素直に理解すれば,「also; in addition」などのように前に紹介した内容をさらに補足する表現であると理解されるといえる。したがって,「then」を「後入れ方法」の根拠と理解するのは,甲1の3の記載から遊離しているといわざるを得ない。 仮に,「then」が時間的要素を示す用語として使用されていたとしても,原告が主張するような「after that; next; afterward」といった経時的要素を示す意味と理解するよりも,「at that time;at the time in question」(上記乙6)という「その時」,「その頃」といった同時期の事象,状態を示す副詞と理解する方が以下の文脈からして自然である。すなわち,甲1の3の4欄43行〜46行の「the use of expanded porous polytetrafluoroethylene(PTFE) made in accordance with the teaching in U.S. Pat. Nos.3,953,566 and 4,187,390, the expanded porous PTFE then filledwith a particular adsorbent material」との記載は,同格(=)を示すべき「,」が二つの名詞を連結するものであり,米国特許第3953566号及び同第4187390号に従って製造された「expanded porous polytetrafluoroethylene(PTFE)」を定冠詞である”the”で受けて「the expanded porous PTFE then filled witha particular adsorbent material」と言い換えているものと理解するのが文法的に正しく,「,」による連結が同格を意味する以上,「then filled」の解釈としては,「after that」(その後)と理解するより「at that time」(その時点では)の状態を意味すると理解する方が文理的にも自然な解釈である。また,そもそも,上記箇所において引用されている米国特許第3953566号(甲5の1)及び同第4187390号(甲5の2)は,PTFEに充填材を充填する方法として,現実に「後入れ方法」ではない通常の製造方法を開示している。すなわち,甲5の1の11欄3行〜10行(甲5の2の10欄3行〜8行)には,「上記のテフロン6A樹脂は,アスベスト1に対して樹脂4の重量の割合で,商業的に入手可能なアスベストパウダーと混合される。混合物は,混合物1ポンドあたり115ccの無臭鉱物油で潤滑されて,幅6インチ,厚さ0.036インチの連続したフィルムに押し出す。」(訳文は被告による)と記載され,アスベストと同様にPTFEに充填する一般的な充填剤につき,甲5の1の21欄60行〜65行(甲5の2の17欄66行〜18欄3行)において,「上記の各実験例では,充填剤としてアスベストの使用を示したが,カーボンブラック,多種の色素,及びマイカ,シリカ,二酸化チタン,ガラス,チタン酸カリウム等の広範な種類の充填剤を充填しうるものと理解されるべきものである。」(訳文は被告による)と記載されており,フィブリル化されたPTFEに充填剤を充填するに際して,原告が主張するような「後入れ方法」によらない事実が明記されている。 刊行物の記載事項は,進歩性の検討対象となるべき特許出願時(優先権主張日)における技術常識に従い理解されるものであるところ,上記のような明確な裏付け及び当業者の理解が示された文献がある中で,上記「then」を「後入れ方法」の根拠とすることは不自然な解釈である。 (b)「impregnated」につき「impregnate」という文言は,「含浸」と訳される場合もあるが,シリカゲルの溶液をもって「含浸」させるといった製法は,少なくとも通常の手段ではない。 乙8(富井篤編「科学技術英和大辞典」株式会社オーム社平成5年11月25日第1版第1刷発行1165頁)は,「impregnate」につき,「?Bすきまを埋める,詰める ◇Sawing is done with theedge of a rapidly rotating phosphorobronze disk that has beenimpregnated with diamond dust. ダイヤモンドの微粉が植え付けられている急速に回転するリン青銅ディスクのエッジで鋸引きを行う.」と説明する。乙9(海野文男ほか編「ビジネス技術実用英語大辞典」日外アソシエーツ株式会社1998年[平成10年]6月26日第1刷発行408頁)は「impregnate」につき「充填する,…◆fiberglass-impregnated plastic ガラス繊維入りプラスチック」と説明する。乙10の1(「THE RANDOM HOUSE DICTIONARY OFTHE ENGLISH LANGUAGE」RANDOM HOUSE INC.1987年[昭和62年]発行)は,「impregnate」につき「4. to fill interstices witha substance.」と説明し,乙10の2(「小学館ランダムハウス英和大辞典上巻」株式会社小学館昭和52年第4刷発行)は,これを「4 すきまを埋める,詰める」と記載している。 これら各書証から明らかなように,ダイヤモンドの微粉やガラス繊維などのように溶けないものを充填する場合にも,impregnateが使用されるのであり,これらの例では当然のことながら後入れ不可能であり,impregnateの文言から「後入れ方法」と断定することはできない。 原告は,甲1の3について,「通常シリカゲルは溶液状ではなく固体(粒子)状である」と主張するが,固体(粒子)状であるならなおさらダイヤモンドの微粉やガラス繊維などと同様に「後入れ方法」ではないと理解するのが自然である。 以上のとおり,「impregnated」という用語からは,引用発明におけるシリカゲルを「後入れ方法」によって充填されたものと限定解釈する根拠はどこにもなく,前記甲5の1及び2に示された技術常識に照らして記載事項を解釈すれば,むしろ,先入れ方法によりシリカゲルが延伸多孔質PTFEに充填されたものであることが理解できるといえ,「impregnated」は当該理解に反する用語ではない。 (c) 「後入れ方法」の解釈の誤りの結論以上のとおり,引用発明の製法を考察しても,原告が主張するような「後入れ方法」と理解すべき根拠はどこにも存在しない。 そればかりか,上記のとおり「後入れ方法」と理解すると,甲1の3の記載と整合しない。なぜなら,甲1の3には,「充填PTFEは,吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題が生じない」として,その構成を採用する目的に関する記載があるところ(4欄47行〜49行,訳文は,抄訳1頁下2行〜下1行),原告は,「後入れ方法」と理解すると,「脱落しやすい状態のものしか得られないのではないかという疑義さえ生じさせる」として,甲1の3の記載と整合しなくなることを自認している。甲1の3において「充填PTFEは,吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題が生じない」と明記されているにもかかわらず,それと異なる結論が導出されるのは,そもそも,原告の「後入れ方法」との解釈が誤っているからに他ならないと理解されるところである。 cフィブリル化PTFEが,固体粒子を取り纏める技術として技術常識であることは,前記(ア)の甲1の1・2・4・5,7の1〜3,13,19〜21などから明らかである。「吸湿剤の脱落防止効果」は,延伸多孔質PTFEが,本来備える効果であって,甲1の3自体に,上記b(c)のとおり「充填PTFEは,吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題が生じない」と明記しているのであるから,甲1の3からだけでも理解できる機序であることは明らかである。 さらにいえば,本件発明1自身,単に「CaO,BaO,SrO…並びに樹脂成分を含有し,…前記樹脂成分がフッ素系樹脂であり,かつ,フィブリル化されている」と特定する発明にすぎず,CaO等の含有手順を明らかにしておらず,またフィブリル化の達成手段も明確にしていない。 (ウ)甲1の3から「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」が予測できないとする原告の主張が失当であることa原告は,甲1の3は「後入れ方法」であること,したがって甲22と甲33の対比結果を考慮したことは妥当性を欠くと主張する。 しかし,前記(イ)bのとおり,甲1の3は「後入れ方法」であるとする前提において既に誤っている。 b審決は,本件特許明細書(甲57)に開示された各実施例の具体的構造を前提として,当該明細書の試験結果に関して,従来技術として知られていた機序の延長上のものとして理解できるか否かを検討しているものである。審決は,まず,「本件発明1に係る実施例4,6,8,10の吸湿剤成形体および吸湿剤単体の60分経過時の吸湿の試験結果と,同条件における,フィブリル化したPTFEと物理的吸湿剤を組み合わせた吸湿剤成形体と物理的吸湿剤単体の吸湿の試験結果〔乙第6号証,甲第22号証〕を比較し」たものである(18頁9行〜12行)。すなわち,審決は,フィブリル化したPTFEと物理的吸湿剤を組み合わせた吸湿剤成形体と物理的吸湿剤単体の吸湿の試験結果を対比している。そして,各試験結果から明らかなように,吸湿剤単体で使用した場合と,吸湿剤をフィブリル化PTFEで取り纏めた場合とは,吸湿剤の種類によらず,本件特許明細書の実施例4,6,8,10(図6〜9)と同様のグラフが描けることが確認されている。 審決は,上記対比の中で特に比較シートCの例,すなわち「物理的吸湿剤として活性炭『太閤CB』を用いた場合」に着目し,これに比べて,「実施例4,6の結果は劣るものであり,また,実施例8,10の結果も格段に優れるものでもない」ことを指摘している(18頁12行〜15行)。 以上のとおり,審決は,「フィブリル化の程度」を揃えてやれば,フィブリル化されたPTFEと吸湿剤とにより構成される各種吸湿性成形体の吸湿特性は,吸湿剤の種類に応じた違いはあっても,「CaO等」の吸湿剤単体と異ならない吸湿特性を示し,かつ,本件発明1の実施例4,6は活性炭(太閤CB)をフィブリル化PTFEで取りまとめた比較シートCよりも劣り,実施例8,10も格段優れたレベルにあるものではないことを確認したからこそ,「その吸湿性能は専らフィブリル化された多孔質のPTFEを用いることで必然的に得られるものと考えられ,CaO等の選択により格別顕著な吸湿効果を奏しているとはいえない。」と結論付けている(18頁15行〜17行)。このような審決の判断は,本件特許明細書の記載に基づき,本件発明1が奏する作用効果の内実を正確かつ客観的に認定したものであると評価されるべきであって,甲1の3の解釈とは無関係である。 その上で,審決は,「そうすると,本件発明の上記効果は,…フィブリル化したPTFEを使用したことに基づき必然的に得られ,容易に認識できるものと認められ,格別顕著なものと評価できない。」(18頁18行〜20行)として,本件発明1の効果は,甲1の3が当該フィブリル化PTFEを開示するものである以上,これに甲2記載の「CaO等」が組み合わさった構成から必然的に導かれる効果でしかないと判断している。 したがって,試験結果の対比は,本件発明1の効果の予測性を認定する根拠となり得ないとする原告の主張は,審決の論理構造を正しく理解するものではないから,失当である。 c原告は本件発明1の効果を本件特許の図7や図9(甲57)に基づいて「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」と決め付けているようであるが,これがそもそも誤りの発端である。上記図7や図9の試験結果は,それぞれ,具体的な実施例の試料としての構造を前提として確認された内容でしかない。 審決は,本件発明1について「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」を認めたのではなく,本件発明1の効果を「優れた吸湿性を発揮する」という定性的レベルで認定したものである(17頁最終行)。 この認定は,本件発明1が「前記樹脂成分がフッ素系樹脂であり,かつ,フィブリル化されている」と定性的に発明を特定するものにすぎない以上,その効果も定性的な範囲で認めるのが妥当であることを示すものである。 そして,引用発明と本件発明1とは,吸湿性に関する構成要件であるところの「前記樹脂成分がフッ素系樹脂であり,かつ,フィブリル化されている」点で完全に同一である。 したがって,両者の効果も同一であると認定するのが基本的な進歩性の判断手法であり,かつ,これと異なる特異な機序に基づく効果が確認されてもいないのに,甲1の3に効果の開示がないとする原告の主張は失当である。 エ原告の効果に関する主張に対する反論のまとめ以上のとおり,「吸湿剤の脱落防止効果」及び「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」(正しくは,「優れた吸湿性を発揮する」という定性的効果)は,いずれも,フィブリル化PTFEが本来備える効果である(さらにいえば,周知な効果でもある)。 そして,甲1の3は,「吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題を生じない」ようにする目的で,かつシリカゲルに湿気を吸わせる目的でフィブリル化PTFEを使用しているのであるから,引用発明においては,上記フィブリル化PTFEの効果をまさに発揮させているのであり,「吸湿剤の脱落防止効果」及び「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」(正しくは,「優れた吸湿性を発揮する」という定性的効果)は,甲1の3自体からも理解できることは明らかである。 第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2本件発明について(1)本件特許明細書(甲57)には,【特許請求の範囲】として前記第3,1(2)の記載があるほか,【発明の詳細な説明】として次の記載がある。 ア 技術分野「本発明は,吸湿性成形体に関する。」イ 背景技術「電池,キャパシタ(コンデンサ),表示素子等の電子デバイスは,超小型化・超軽量化の一途をたどっている。これらの電子部品は,必ず外装部の封止工程において,ゴム系シール材あるいはUV硬化性樹脂等の樹脂系接着剤を用いて封止が行われる。ところが,これらの封止方法では,保存中又は使用中にシール材を通過する水分により電子部品の性能劣化が引き起こされる。すなわち,電子デバイス内に侵入した水分により,電子デバイス内部の電子部品が変質又は腐食するおそれがある。例えば,有機電解質を用いる電池又はコンデンサでは,その電解質中に水分が混入すると電気伝導度の変化,侵入水分の電気分解等が起こり,さらに端子間の電圧の降下やガス発生による外装ケースの歪みや漏液を生じることがある。このように,電子デバイス内に侵入した水分により,電子デバイスの性能安定性・信頼性を維持することが困難となっている。 また,これを解決するためにハーメチクシール又は金属溶接を行うことも考えられる。ところが,これらの技術では,外装ケースの膨れや内部減圧による歪み,ひいては内部の機能材料の化学変化が引き起こされる。 他方,これらの電子デバイスを組み立てる工程では,全工程にわたって湿度を0に維持することは事実上不可能であるため,例えば電子デバイス完成後のエージング工程中において,組立工程中に電子デバイス中に侵入した水分を吸湿することが必要不可欠となる。ところが,前記のように,電子デバイス内に侵入した水分を確実かつ容易に吸湿する技術は未だ確立されていない。 ウ 発明の開示「従って,本発明の主たる目的は,これら従来技術の問題を解消し,電子デバイス等の装置内部に侵入した水分を容易かつ確実に吸湿できる材料を提供することにある。 本発明者は,これら従来技術の問題に鑑み,鋭意研究を重ねた結果,特定の吸湿性成形体が上記目的を達成できることを見出し,ついに本発明を完成するに至った。 すなわち,本発明は,下記の吸湿性成形体に係るものである。 1.吸湿剤及び樹脂成分を含有する吸湿性成形体。 2.吸湿剤が,アルカリ土類金属酸化物及び硫酸塩の少なくとも1種を含む請求項1記載の吸湿性成形体。 3.吸湿剤が,CaO,BaO及びSrOの少なくとも1種である前記項1記載の吸湿性成形体。 4.吸湿剤として,比表面積10m /g以上の粉末が用いられている前2記項1記載の吸湿性成形体。 5.吸湿剤として,比表面積40m /g以上の粉末が用いられている前2記項1記載の吸湿性成形体。 6.吸湿剤が吸湿性成形体中30〜95重量%含有されている前記項1記載の吸湿性成形体。 7.樹脂成分が,フッ素系,ポリオレフィン系,ポリアクリル系,ポリアクリロニトリル系,ポリアミド系,ポリエステル系及びエポキシ系の少なくとも1種の高分子材料である前記項1記載の吸湿性成形体。 8.さらにガス吸着剤を含有する前記項1記載の吸湿性成形体。 9.ガス吸着剤が,無機多孔質材料からなる前記項8記載の吸湿性成形体。 10.吸湿性成形体表面の一部又は全部に樹脂被覆層が形成されている前記項1記載の吸湿性成形体。 11.樹脂成分がフィブリル化されている前記項1記載の吸湿性成形体。 12.吸湿剤としてCaO,BaO及びSrOの少なくとも1種であって比表面積10m /g以上の粉末が用いられ,かつ,樹脂成分としてフッ2素系樹脂が用いられてなる前記項1記載の吸湿性成形体。 13.フッ素系樹脂がフィブリル化されている前記項12記載の吸湿性成形体。 14.前記項1記載の電子デバイス用吸湿性成形体。 本発明の吸湿性成形体は,吸湿剤及び樹脂成分を含有する。吸湿性成形体の形状は限定的でなく,最終製品の用途,使用目的,使用部位等に応じて適宜設定すれば良く,例えばシート状,ペレット状,板状,フィルム状,粒状(造粒体)等を挙げることができる。 吸湿剤としては,少なくとも水分を吸着できる機能を有するものであれば良いが,特に化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物が好ましい。このような化合物としては,例えば金属酸化物,金属の無機酸塩・有機酸塩等が挙げられるが,本発明では特にアルカリ土類金属酸化物及び硫酸塩の少なくとも1種を用いることが好ましい。 アルカリ土類金属酸化物としては,例えば酸化カルシウム(CaO),酸化バリウム(BaO),酸化マグネシウム(MgO),酸化ストロンチウム(SrO)が挙げられる。 …本発明の吸湿剤としては,アルカリ土類金属酸化物が好ましい。特に,CaO,BaO及びSrOの少なくとも1種が好ましい。最も好ましくはCaOである。 本発明の吸湿剤は,粉末の形態で含有させることが好ましい。この場合,粉末の比表面積(BET比表面積)は,通常10m /g以上,さらには230m /g以上,特に40m /g以上であることが好ましい。このよう2 2な吸湿剤としては,例えば水酸化カルシウムを900℃以下(好ましくは700℃以下,最も好ましくは500℃以下(特に490〜500℃)で加熱して得られるCaO(粉末)を好適に用いることができる。本発明では,BET比表面積10m /g以上,さらには30m /g以上,特に42 20m /g以上のCaO粉末を最も好ましく用いることができる。 2…本発明では,これら高分子材料の中でも,フッ素系,…等が好ましい。具体的には,フッ素系としては,ポリテトラフルオロエチレン,ポリクロロトリフルオロエチレン,ポリビニリデンフルオライド,エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体等が挙げられる。…これら樹脂成分のうち,本発明では,フッ素系樹脂が好ましい。 本発明では,吸湿剤及び樹脂成分の含有量はこれらの種類等に応じて適宜設定すれば良いが,通常は吸湿剤及び樹脂成分の合計量を100重量%として吸湿剤30〜95重量%程度及び樹脂成分70〜5重量%程度にすれば良い。好ましくは吸湿剤50〜85重量%程度及び樹脂成分50〜15重量%,最も好ましくは吸湿剤55〜85重量%程度及び樹脂成分45〜15重量%とすれば良い。 本発明では,その効果を妨げない範囲内で,必要に応じて他の成分を適宜添加することもできる。例えば,ガス吸収性を示す材料(ガス吸着剤)を配合することができる。ガス吸着剤としては,シリカ,アルミナ,合成ゼオライト等の無機多孔質材料を例示することができる。ガス吸着剤の含有量は限定的でないが,通常は吸湿剤及び樹脂成分の合計量100重量部に対して3〜15重量部程度とすれば良い。 また,本発明の吸湿性成形体は,必要に応じてその表面上の一部又は全部に樹脂成分を含む樹脂被覆層が形成されていても良い。これにより,吸湿性成形体の吸湿性能を制御することができる。樹脂被覆層の樹脂成分としては,気体透過性の高い材料であれば良く,具体的には吸湿性成形体に含まれる上記樹脂成分と同様のものを採用することができる。好ましくは,上記ポリオレフィン系のものを使用することができる。 上記樹脂成分中には,必要に応じて無機材料又は金属材料からなる粉末を分散させても良い。これにより,急激な温度変化又は湿度変化に対する耐久性等をより高めることができる。特に,マイカ,アルミニウム粉等のリーフィング現象を示す粉末(鱗片状粒子)が好ましい。上記粉末の含有量は特に限定的でないが,通常は樹脂被覆層中30〜50重量%程度とすれば良い。 樹脂被覆層の厚さは,所望の吸湿性能,樹脂被覆層で用いる樹脂成分の種類等に応じて適宜設定できるが,通常は0.5〜20μm程度,好ましくは0.5〜10μmとすれば良い。このため,上記粒子の粒径は,一般に樹脂被覆層の厚さよりも小さくなるように設定すれば良い。 本発明の吸湿性成形体は,これらの各成分を均一に混合し,所望の形状に成形することによって得られる。この場合,吸湿剤,ガス吸着剤等は予め十分乾燥させてから配合することが好ましい。また,樹脂成分との混合に際しては,必要に応じて加熱して溶融状態としても良い。成形方法は,公知の成形又は造粒方法を採用すれば良く,例えばプレス成形(ホットプレス成形等を含む。),押し出し成形等のほか,転動造粒機,2軸造粒機等による造粒を適用することができる。 吸湿性成形体がシート状である場合,このシート状成形体をさらに延伸加工したものも吸湿性シートとして好適に用いることができる。延伸加工は,公知の方法に従って実施すれば良く,一軸延伸,二軸延伸等のいずれであっても良い。 また,樹脂被覆層を形成する場合,その形成方法は限定的でなく,公知の積層方法等に従って実施すれば良い。例えば,吸湿性成形体がシートである場合は,そのシートの表面及び裏面の少なくとも一方に,予め成形された樹脂被覆層用シート又はフィルムを積層すれば良い。 例えば,図1に示すように,吸湿性シート(1)の裏面に樹脂被覆層(2)を形成することができる。また,図2に示すように,吸湿性シート(1)の表及び裏面に樹脂被覆層(2)(2)を形成することもできる。 吸湿性成形体をシート状とする場合のシート厚さは,最終製品の使用目的等に応じて適宜設定すれば良い。例えば,吸湿性成形体をキャパシタ等の電子デバイスに適用する場合は,通常50〜400μm程度,好ましくは100〜200μmとすれば良い。これらシート厚さは,樹脂被覆層を有する場合は,樹脂被覆層を含めた厚さである。 本発明の吸湿性成形体は,樹脂成分がフィブリル化されていることが好ましい。フィブリル化によって,いっそう優れた吸湿性を発揮することができる。フィブリル化は,吸湿性成形体の成形と同時に実施しても良いし,あるいは成形後の加工により実施しても良い。例えば,樹脂成分と吸湿剤とを乾式混合して得られた混合物を圧延することにより樹脂成分のフィブリル化を行うことができる。また例えば,本発明成形体をさらに前記のように延伸加工を施すことによってフィブリル化を行うことができる。より具体的には,CaO,BaO及びSrOの少なくとも1種の吸湿剤粉末とフッ素系樹脂粉末(例えば,ポリテトラフルオロエチレン等)とを乾式混合した後,得られた混合物を圧延することによりフィブリル化された吸湿性成形体を製造することができる。圧延又は延伸は,公知の装置を用いて実施すれば良い。フィブリル化の程度は,最終製品の用途,所望の特性等に応じて適宜調整することができる。吸湿剤粉末は,前記の比表面積を有するものを用いることが好ましい。フッ素系樹脂粉末は限定的でなく,公知又は市販のフッ素系樹脂粉末(粒度)をそのまま使用すれば良い。 本発明の吸湿性成形体は,吸湿が必要な箇所又は部位に常法により設置すれば良い。例えば,電子デバイスの容器内雰囲気中の水分を吸湿する場合は,容器内面の一部又は全部に吸湿性成形体を固定すれば良い。また,有機電解質を用いるキャパシタ,電池等において,有機電解質中の水分を吸湿する場合は,有機電解質中に吸湿性成形体を存在させれば良い。 …本発明によれば,吸湿性成形体を採用しているので,電子デバイス等の装置内部に侵入した水分をより容易かつ確実に除去することができる。 これにより,乾燥手段の設置を機械化することも可能となる。また,これに伴い,雰囲気内に水分が侵入する機会が減り,当初から高い乾燥状態をもつ雰囲気を作り出すことができる。すなわち,高い乾燥状態でデバイスを製造できるとともに製造後も確実に水分を除去できるので,より安定性・信頼性の高いデバイスを工業的規模で提供することが可能となる。 また,乾燥手段として従来の乾燥剤(粉末)をそのまま用いた場合と異なり,粉末が脱落して容器に散乱するという問題も回避することができる。 さらに,粉末を使用する場合は収納部の確保が必要であったが,本発明ではそのような必要がなくなり,デバイスの小型化・軽量化にも貢献することができる。 このような特徴をもつ本発明の吸湿性成形体は,電子材料,機械材料,自動車,通信機器,建築材料,医療材料,精密機器等のさまざまな用途への応用が期待される。」エ 発明を実施するための最良の形態「以下,実施例を示し,本発明の特徴とするところをより一層明確にする。但し,本発明は,これら実施例に限定されるものではない。 実施例1シート状の吸湿性成形体を作製した。 吸湿剤であるCaO粉末(純度99.9%)を900℃で1時間加熱して十分脱水させ,次いで180〜200℃の限率乾燥雰囲気中で冷却し,最終的に室温まで冷却した。得られたCaO(BET比表面積約3m /2g)60重量%及び樹脂成分としてポリエチレン(分子量:約10万)40重量%を乾式混合した後,約230℃に加熱して溶融で混練し,この混練物をTダイで押し出してシート状に成形することにより,厚さ300μmのシート状吸湿性成形体を得た。 …実施例4吸湿剤としてSrO粉末(粒度10μmパス)60重量%及び樹脂成分としてフッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))40重量%を用いた。これらを粉末状態で十分に混合した。得られた混合物を圧延ロールでシート状に圧延成形し,厚さ300μmのシートを得た。得られたシートは,PTFE樹脂がフィブリル化されており,SrOを含有した多孔質構造体となっていた。 …実施例6吸湿剤として実施例1と同じCaO粉末を用いたほかは,実施例4と同様にして厚さ300μmのフィブリル化されたシートを得た。 …実施例7吸湿剤としてBET比表面積48m /gのCaO粉末(粒度10μmパ2ス)60重量%及び樹脂成分としてポリエチレン(分子量:約10万)40重量%を用いた。これらを乾式混合した後,約230℃に加熱して溶融で混練し,この混練物をTダイで押し出してシート状に成形することにより,厚さ300μmのシート状吸湿性成形体を得た。なお,上記CaO粉末は,水酸化カルシウムを窒素ガス中500℃で焼成し,上記比表面積に調整したものを用いた。 実施例8吸湿剤として実施例7と同じCaO粉末60重量%及び樹脂成分としてフッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))粉末40重量%を用いた。これらを粉末状態で十分混合した。得られた混合物を圧延ロールでシート状に圧延成形し,厚さ300μmのシートを得た。得られたシートは,PTFE樹脂がフィブリル化されており,CaOを含有した多孔質構造体となっていた。 試験例3実施例7及び8で得られたシートについて,吸湿による重量経時変化を調べた。各シート片(縦25mm×横14mm×厚さ300μm)を温度20℃及び相対湿度65%RHの雰囲気下に設置し,一定時間ごとの重量増加率(%)を測定した。重量増加率は,試験例1と同様にして算出した。 その結果を表3及び図7に示す。なお,吸湿剤単独(高比表面積CaO)による試験結果も併せて示す。 試験例4実施例1及び6で得られたシートについて,試験例3と同様の試験を実施した。その結果を表4及び図8に示す。なお,吸湿剤単独(低比表面積CaO)による試験結果も併せて示す。 実施例9吸湿剤であるBaO粉末を900℃で1時間加熱して十分脱水させ,次いで180〜200℃の限率乾燥雰囲気中で冷却し,最終的に室温まで冷却した。このBaO60重量%及び樹脂成分としてポリエチレン(分子量:約10万)40重量%を乾式混合した後,約230℃に加熱して溶融で混練し,この混練物をTダイで押し出してシート状に成形することにより,厚さ300μmのシート状吸湿性成形体を得た。 実施例10吸湿剤として実施例9と同じBaO60重量%及び樹脂成分としてフッ素系樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE))40重量%を粉末状態で十分混合した。得られた混合物を圧延ロールでシート状に圧延成形し,厚さ300μmのシートを得た。得られたシートは,PTFE樹脂がフィブリル化されており,BaOを含有した多孔質構造体となっていた。 試験例5実施例9及び10で得られたシートについて,試験例3と同様の試験を実施した。その結果を表5及び図9に示す。なお,吸湿剤単独による試験結果も併せて示す。 試験例6実施例4,6,8及び10で得られたシートについて,試験例3と同様の試験を実施した。その結果を表6及び図10に示す。 以上の結果より,本発明吸湿体はいずれも優れた吸湿性を発揮できることがわかる。とりわけ,BET比表面積48m /gという高比表面積の2CaO粉末を用いて成形した実施例8の成形体が最も高い吸湿性を示すことがわかる。また,CaOは,安全性が高いという点からも他のものよりも好ましいと言える。」(2)上記(1)の記載によれば,?@電池,キャパシタ(コンデンサ),表示素子等の電子デバイスは,必ず外装部の封止工程において,ゴム系シール材あるいはUV硬化性樹脂等の樹脂系接着剤を用いて封止が行われるが,封止をしても,保存中又は使用中にシール材を通過する水分があるため,その水分によって電子部品の性能劣化が引き起こされること,?Aこれらの電子デバイスを組み立てる工程では,全工程にわたって湿度を0に維持することは事実上不可能であるため,組立工程中に電子デバイス中に水分が侵入することがあること,?B本件発明は,上記のような電子デバイス等の装置内部に侵入した水分を容易かつ確実に吸湿できる材料を提供するものであり,電子デバイス等の装置内部に侵入した水分をより容易かつ確実に除去することができるので,より安定性・信頼性の高いデバイスを工業的規模で提供することが可能となること,?C本件発明においては,乾燥手段として従来の乾燥剤(粉末)をそのまま用いた場合と異なり,粉末が脱落して容器に散乱するという問題を回避することができるし,また,粉末を使用する場合は収納部の確保が必要であったが,本発明ではそのような必要がなくなり,デバイスの小型化・軽量化にも貢献することができること,以上の事実が認められる。 そして,本件特許明細書記載の実施例のうち,実施例4,6,8,10の各実施例が,本件発明1の実施例であると認められる。 なお,原告は,本件発明1について,「酸化カルシウム等を粉末のまま使用する」もの,すなわち,「酸化カルシウム等の粉末が樹脂に被覆されることなく酸化カルシウム粉末単体と同等レベルの吸湿性能が発揮されている状態」のものであるとも主張するが,本件特許の【特許請求の範囲】請求項1にこのような限定はなく,請求項1の記載を超えて,本件発明1が原告が主張する上記のようなものであると認めることはできない。 3引用発明について(1)甲1の3(米国特許第5593482号明細書)には,次の記載がある(エを除く訳文は原告による[甲1の3添付]。エの訳文は審決による。)。 ア「この発明は,薄型コンパクトな自己接着型の吸着剤アセンブリに関するものであり,この吸着剤アセンブリは,接着剤層,1以上の吸着剤または反応性物質の層,および吸着剤物質を保持し,ガスと選択された液体を透過し得るが,大きなサイズの物質は透過し得ないフィルター材層を有するものである。この吸着剤アセンブリは,汚染物質除去のためにエンクロージャー内部にマウントすることを目的として設計されている。あるいは,吸着剤アセンブリは,エンクロージャーの外側にマウントするためにも提供される。」(1欄12行〜20行)イ「この発明は,低縦断面容器を有する自己接着型吸着剤アセンブリを提供するものであり,前記容器は選択的にガスを吸着するための構成要素であって,一つ以上の接着層と,一つ以上の吸着剤又は反応体の層と,フィルター材層から構成されるものを収容する。 このアセンブリによれば,他の微粒子ろ過装置の性能を落とすことなく不要なガスを吸着できる手段を提供でき,かつ,デバイスを外気からできるだけ離してかつその保護を必要とする臨界域に最も近く設置することができるため,不要な汚染ガスをエンクロージャー内で空気から連続的に除去できる。」(2欄56行〜67行)ウ「本発明は,コンピューターディスクドライブのエンクロージャー内での使用のために自己接着性を有し,エンクロージャー内の汚染物を除去可能な,非常に薄い吸着剤フィルターアセンブリを提供するものである。」(3欄61行〜64行)エ「懸念されるガス状汚染物質には,フタル酸ジオクチル,塩素,硫化水素,一酸化窒素,無機酸ガス,シリコーン,炭化水素主体の切削油及び他の炭化水素汚染物に起因する蒸気が含まれるが,これらに限定されることはない。」(4欄12行〜16行)オ「吸着剤としては,粒状活性炭のような100%吸着剤物質の1以上の層からなるものでもよく,または多孔質高分子物質骨格のボイド空間に吸着剤で充填されたような製品でもよい。他に可能なものとしては,セルロースあるいは高分子不織布のような不織布に侵入させた吸着剤が含まれるが,これらは,吸着剤の多孔質成形体,および高分子またはセラミックのフィルターの他に,ラテックスあるいは他のバインダー樹脂を含んでいてもよい。吸着剤は,特定の吸着剤が100%でもよく,あるいは異なるタイプの吸着剤の混合物でも構わず,特定の用途に応じて選択する。好ましい態様は,米国特許第3,953,566号および4,187,390号に開示の方法で得られる延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の使用であり,加えて,特定の吸着剤物質が充填された延伸多孔質PTFEである。充填PTFEは,吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題が生じないことから,特に望ましい。充填PTFE層は,約0.005インチを下まわる厚みの如く,極めて薄い寸法とすることができ,それ故,側面が極めて低い容器に適合できる点でも好ましい。 吸着剤物質としては,シリカゲル,活性炭,活性アルミナ,またはモレキュラーシーブスのような物理吸着剤や,過マンガン酸カリウム,炭酸カルシウム,硫酸カルシウム,粉末金属,または除去が要求される既知の汚染物に応じてガス相の汚染物を排除するための他の反応性物質のような化学吸着剤が含まれる。加えて,吸着剤物質は,上述の物質の混合物でもよい。さらに,吸着剤物質の層を複数層としてもよく,その場合,夫々の層は異なる吸着剤物質を含み,汚染物は異なる層を通過して選択的に除去される。 表面フィルター層は,ガス透過性を有し,蒸気汚染物が吸着剤層まで拡散し得る微粒子ろ過メディアからなる。表面フィルター層は,アセンブリにおいて,吸着剤物質(または層)の保持手段も提供する。フィルター層には,高分子膜,開口を持たない濾紙,あるいはラミネートフィルター材が含まれる。高い蒸気透過性と高い微粒子保持性を有する好ましい材料として,延伸多孔質PTFE膜またはそのラミネートが挙げられる。」(4欄32行〜5欄7行)カ「図2〜6のものが,第1の態様で最良と理解している。第2は,フィルターアセンブリを拡大した俯瞰図である。この態様では,図2aに断面の最良のシーンを示すが,そのフィルターアセンブリは,エンクロージャー内表面にアセンブリを固着させるための接着剤層10,吸着剤物質層11,および表面フィルター層12を有しており,吸着剤層11は,全体が,接着剤層10とフィルター層12の間に閉じこめられている。」(5欄14行〜22行)キ「吸着剤層は,ほぼ0.5インチの径と0.022インチ(0.5589mm)の厚みを有していた。この吸着剤層は,炭素量で60重量%の活性炭を充填した延伸PTFEから構成されており,活性炭の全炭素含量は0.0257gであった。」(6欄67行〜7欄3行)ク「吸着剤層は,延伸PTFE膜を炭素量で70重量%充填する活性炭から構成されており,活性炭の全炭素含量は0.0468gであった。」(7欄38行〜41行)ケ 「EXAMPLE3図8や図8aに類似し,次の特徴を有する自己接着型吸着剤アセンブリを製造した。このアセンブリは,長さ0.75インチ(19.05mm),幅0.375インチ(9.525mm),厚み0.050インチ(1.27mm)の直方体である。最上層は厚み約0.04インチ(0.1016mm),透過率7.0ガーレー秒,水蒸気透過率70,000gH O/m ・24hrの延伸PTFE膜の層である。このフィルタ層は,22吸着剤層に積層された。 吸着剤層は厚み約0.043インチ(1.0922mm),長さ0.625インチ(15.875mm),幅0.156インチ(3.9624mm)である。この吸着剤層は,延伸多孔質PTFEにシリカゲル+指示薬で40重量%充填した青の指示色を示すシリカゲルから構成されており,全シリカゲル量は,相対湿度20%でのシリカゲルで0.021gであった。 接着剤層は,厚み0.002インチ(0.0508mm)の透明ポリエステルフィルムの基材上に設けられた厚み0.001インチ(0.0254mm)の高温除去性アクリル型感圧接着剤である。この層は吸着剤層と共にエンクロージャーの外側に接着される。透明なポリエステルフィルムであるため,シリカゲルが湿気を吸ったときにピンクに変わるゲルの青色指示を視認できる。接着剤が除去可能であるため,必要に応じて吸着剤を容易に交換できる。」(8欄1行〜33行)(2)また,甲1の3(米国特許第5593482号明細書)には,特許請求の範囲として,次の記載がある(訳文は審決による。)。 「1.コンピューターの筐体内に発生する未処理のガス状汚染物を除くための,低縦断面容器を有する吸着剤組立品であって,接着剤層,薄い吸着剤層,延伸多孔質テトラフルオロエチレン膜からなるフィルター層の3層からなり,吸着剤層は接着剤層とフィルター層の間に存在する吸着剤組立品。 4.吸着剤層は,吸着剤で充填された多孔質高分子材料の骨格からなる,請求項1の吸着剤組立品。 5.多孔質高分子材料の骨格が,延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンである,請求項4記載の吸着剤組立品。 7.吸着剤物質が,シリカゲル,活性炭,活性アルミナ,モレキュラーシーブのような物理的吸着剤から選ばれる請求項1記載の吸着剤組立品。」〔8欄〜9欄特許請求の範囲請求項1,4,5,7〕(3)上記(1),(2)の記載によれば,引用発明は,審決が認定しているとおり,「コンピューターディスクドライブの筐体内に使用され,湿気を包含するガス状汚染物質を除くための吸着剤組立品の吸着剤層であって,延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン内にシリカゲルが充填された吸着剤層」というものであると認められる。 4取消事由1(本件発明1の阻害要因)について(1)本件発明1は,電子デバイス用吸湿材料であるところ,前記2のとおり,本件発明1の吸湿材料が吸湿する対象となる水分は,?@ゴム系シール材あるいはUV硬化性樹脂等の樹脂系接着剤を用いて封止をしても,保存中又は使用中にシール材を通過する水分,?A電子デバイスを組み立てる工程中に電子デバイス中に侵入する水分であると認められる。しかるところ,甲32(岡田勇一「有機ELディスプレイ用シート状乾燥剤」月刊ディスプレイ8巻9号平成14年9月1日発行,審判乙5)によれば,上記?@,?Aの水分はごく微量の水分であると認められるから,本件発明1の吸湿材料が吸湿する対象となる水分は,ごく微量の水分であるということができる。 もっとも,本件発明1の吸湿材料を装着した電子デバイスを廃棄するときなどには,本件発明1の吸湿材料が多量の水分と接する可能性が考えられる。本件特許明細書(甲57)には,そのことについての記載はないが,そのような可能性は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)には,当然に認識されるものというべきである。 (2)阻害1(「粉末のCaO等と樹脂を混合する目的はCaO等の発火の回避にあり,フィブリル化したPTFEではこの目的は達成できない。」)につきア甲49(特開平5-227930号公報,審判乙22)には,ポリマーシート中に乾燥剤主成分として酸化カルシウムが含まれているシート状乾燥剤に関する発明が記載されており,その段落【0003】〜【0005】には,「…酸化カルシウムを多孔質の包装紙に入れた従来製品は,乾燥能力が優れていることから,主として食品乾燥のために食品と一緒にビン等の容器に入れられ封をされているのが現状である。このように酸化カルシウムは比較的安価なこともあって,通常120g前後の量が,場合によってはさらに多量の酸化カルシウムが一つの包装紙の中に入れられており,これらは容器の中の食品が消費された後も,大部分が酸化カルシウムの状態として存在している事となる。そして大変好ましくない事には,これらの用済み酸化カルシウムはゴミ箱等に捨てられるのが通常である。」,「酸化カルシウムは水と反応して発熱する事はよく知られており,1mol当りの発熱量は15.2Kcalであり,この捨てられた酸化カルシウム乾燥剤による火災発生の報告は姫路市消防局による文献,建築防災(NO84 P2〜41984)でも紹介されており,大変危険なものである。」,「一方,火災にならなくても,幼児がしゃぶったりすると熱傷を起こしたりして,これ又危険であり,この例としても熱傷,第10巻第2号(1985.3)に松江赤十字病院の先生によって事例として報告されている。」と記載されており,段落【0014】には,「熱可塑性樹脂シート内に存在する酸化カルシウムは,ポリマーを介して外気もしくは水分と接触する事となる。その結果,多量の水が存在しても酸化カルシウムは急激な水和反応を起こさず,急激な温度上昇とか発熱発火の危険性は全くなくなる。一方,吸湿性については少しの時間遅れが発生するが,吸湿機能は十分に存在する。」と記載されている。 また,甲48(特開平6-277507号公報,審判乙21)には,ポリマー発泡体中に乾燥剤主成分として酸化カルシウムが含まれているポリマー発泡体乾燥剤に関する発明が記載されており,その【手続補正書】の段落【0003】〜【0005】には,上記甲49の段落【0003】〜【0005】と同趣旨の記載があり,段落【0014】には,「混練,可塑化,そして発泡された酸化カルシウムを主成分とするポリマー発泡体は,薄いポリマー皮膜が酸化カルシウムの表面をおおっている。その結果,多量の水が存在しても急激な水和反応はおこらず,発火の危険性はなくなる。」と記載されている。 イ以上のアの記載によれば,甲49及び甲48には,酸化カルシウムをポリマーと混合することにより,多量の水が存在しても酸化カルシウムが発火しないことが記載されている。もっとも,ここで想定されているのは,酸化カルシウムを廃棄した場合や幼児がしゃぶった場合であって,ごく微量の水分で発火することを防止するために酸化カルシウムをポリマーと混合するものではない。したがって,本件発明1の吸湿材料が吸湿する対象となる水分(上記(1)?@及び?Aの水分)による発火を防止するために酸化カルシウムをポリマーと混合する必要があることを示すものではない。 また,甲49及び甲48の記載によるも,フィブリル化したPTFEを用いた場合には,甲49及び甲48記載のものよりも,酸化カルシウムを廃棄した場合や幼児がしゃぶった場合に発火の危険性がどの程度増すかは明らかでない。そして,本件発明1の電子デバイス用のものについては,上記(1)のとおり,本件発明1の吸湿材料を装着した電子デバイスを廃棄するときなどにおける発火の危険性が問題となるが,その場合に,甲49及び甲48記載のものよりもどの程度危険が増すかは,やはり明らかでなく,仮にそのような危険が存するとしても,後記(3)エで述べるとおり注意喚起をすることによって避けることができるものと解される。 (3)阻害2(「粉末のCaO等をフィブリル化したPTFEに組み合わせた吸湿剤は発火の危険性がある。」)につきア CaO等の性質(ア)甲35(宇部マテリアルズ株式会社作成の2007年[平成19年]10月1日付けの書面,審判乙8)によれば,甲28(宇部マテリアルズ株式会社「製品安全データシート」1993年[平成5年]6月30日作成・2003年[平成15年]3月1日改訂,審判乙1)の記載のうち,酸化カルシウム(CaO)について,「物理的及び化学的危険性:水分にあうと激しく発熱する。」,「安全取扱い注意事項:水分にあうと激しく発熱し,可燃物を発火させるのに十分な熱を発することがある。」,「反応性:?A水分と反応し,水蒸気を発生する。この際,可燃物を発火させるのに十分な熱を発生することがある。」と記載されている部分は,平成12年4月以前から記載され,顧客に配布されていたものと認められる。 甲37(堺化学工業株式会社「製品安全データシート」平成10年6月25日初版,審判乙10)には,酸化バリウム(BaO)について,「不燃性但し,水分にあうと激しく発熱し,反応熱でワラ・紙・油布などの引火性有機物があると発火することがある。」と記載されている。 甲30(堺化学工業株式会社「製品安全データシート」平成12年2月1日初版・平成16年4月1日5版,審判乙3)には,酸化ストロンチウム(SrO)について,「不燃性但し,水分にあうと激しく発熱し,反応熱でワラ・紙・油布などの引火性有機物があると発火することがある。」と記載されている。 甲38(ギュンター・ホンメル編,新居六郎訳「危険物ハンドブック(第1巻)」シュプリンガー・フェアラーク東京1996年[平成8年]9月17日発行,審判乙11)「カード244」には,酸化カルシウム(CaO,生石灰)は,不燃性であるが,湿気又は水と接触すると激しく反応し,多量の熱を放出するので,可燃性物質を発火させることもあることが記載されている。 甲39(厚生省生活衛生局企画課生活化学安全対策室監修「国際化学物質安全性カード(ICSC)日本語版第3集」化学工業日報社1997年[平成9年]11月28日発行,審判乙12)336頁〜337頁には,酸化カルシウム(CaO)は,不燃性であるが,水と反応し,可燃物を発火させるのに十分な熱を発生することが記載されている。 甲40(「-汚染防止対策のための-化学物質セーフティデータシート(MSDS)」財団法人未来工学研究所平成4年10月発行,審判乙13)168頁には,酸化カルシウム(CaO,生石灰)は,水にあうと激しく発熱し,反応熱でわら,紙,油布等の引火性有機物があると発火することがあることが記載されている。 甲41(特開昭61-11144号公報,審判乙14)には,「酸化カルシウムを用いる場合には,コストは安く汎用性はあるものの吸湿の際の発熱によって火傷・火災等の事故が頻繁に起こっている事実があり,安全性の面で問題があった。」(1頁右欄8行〜11行)と記載されている。 甲42(姫路市消防局「食品乾燥剤の火災実験結果概要報告」建築防災84号2頁〜4頁[昭和59年12月1日発行],審判乙15)には,市販の海苔パックに用いられている乾燥剤と工業用生石灰(純度94%)に水を添加する実験をしたところ,乾燥剤では,75分後に発煙し,95分後に発煙は激しくなり最高温度は269℃まで上昇したが,空気の供給不足により発火にまでは至らなかったこと,工業用生石灰では,46分後に発煙し,50分後に最高温度が270℃になり,75分後に発火したことが記載されている。 甲43(大木道則ほか編集「化学大辞典」東京化学同人2005年[平成17年]7月1日第5版発行,審判乙16)873頁には,酸化ストロンチウム(SrO)について,「熱に安定で,融点は2430℃,水を加えると多量の熱を放出し,水酸化ストロンチウムとなる。」と記載されている。 甲44(吉田忠雄,田村昌三監訳「危険物ハンドブック」丸善株式会社昭和62年1月25日発行,審判乙17)346頁には,「酸化カルシウムの結晶は目立たない程度に徐々に水と反応するが,粉末は数分後に爆発的な激しさで反応する…。生石灰は,1/3の重量の水と混合すると150〜300℃(量による)に達し,可燃性物質に着火することが可能となる。場合によっては800〜900℃にまで達する…。」(右欄下17行〜下12行)と記載されている。 (イ)以上の(ア)の記載によれば,酸化カルシウム(CaO,生石灰),酸化バリウム(BaO),酸化ストロンチウム(SrO)は,それ自体としては,熱に対して安定な不燃性の物質であるが,湿気又は水と反応すると熱を出し,その熱は場合によっては800〜900℃にまで達することが認められる。 しかし,これらの記載によっても,本件発明1の吸湿材料が吸湿する対象となるごく微量の水分(上記(1)?@及び?Aの水分)によって,酸化カルシウム(CaO,生石灰),酸化バリウム(BaO),酸化ストロンチウム(SrO)が,後記イ記載の「492℃」を超えるような高温になるというべき根拠は認められない。 イPTFEの性質(ア)甲45(国立天文台編「理科年表平成11年」丸善株式会社平成10年11月30日発行,審判乙18)481頁には,テフロン(PTFE)の発火点(物質を空気中で加熱する時,火源がなくとも発火する最低温度)は492℃であることが記載されている。 (イ)甲68(里川孝臣編「ふっ素樹脂ハンドブック」日刊工業新聞社1990年[平成3年]11月30日初版1刷発行)85頁〜86頁には,PTFEが加熱された場合,約490℃くらいから急激に分解が進み,真空500℃以上では大部分がC F モノマー(CF =CF )に24 2 2なることが記載されている。 甲69(独立行政法人日本学術振興会フッ素化学第155委員会編「フッ素化学入門-先端テクノロジーに果すフッ素化学の役割」三共出版株式会社2004年[平成16年]3月1日初版第1刷発行)187頁には,TFE(テトラフルオロエチレン:CF =CF )は空気中で2 2燃えやすい上に,無酸素で加熱されると爆発的に反応する性質を有することが記載されている。また,甲70(H.C.DUUS「ThermochemicalStudies on Fluorocarbons」INDUSTRY AND ENGINEERING CHEMISTRY 1955年[昭和30年]7月)1445頁にも,TFE(テトラフルオロエチレン:CF =CF )が爆発的な熱分解を起こすことが記載されて2 2いる。 (ウ)他方,甲12(大阪市立工業研究所プラスチック読本編集委員会ほか編「プラスチック読本改訂第18版」株式会社プラスチックス・エージ1992年(平成4年)8月15日発行)には,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の燃焼性について「不燃性」と記載されている。 また,甲68(ふっ素樹脂ハンドブック)には,「PTFEは熱的に非常に安定で通常の成形温度(約400℃以下)ではほとんど重量減少が認められない…」(85頁下2行〜下1行),「しかしPTFEは燃えにくく,一度火がついても消えやすい。難燃材料としてもすぐれ,酸素指数は95.0である(酸素指数が小さいほど低い酸素濃度でよく燃え,21より小さいといったん火がつけば空気中で燃えつづける)。」(88頁11行〜13行)と記載されている。 (エ)以上の(ア)〜(ウ)の各記載に前記アで述べたところを総合すると,PTFEは一般には熱に対して安定で「不燃性」の物質であると考えられているが,酸化カルシウム(CaO,生石灰),酸化バリウム(BaO),酸化ストロンチウム(SrO)が湿気又は水と反応して熱を出し,その熱が492℃を超えるような高温になった場合には,PTFEが燃えることがあるものと認められる。 しかし,上記ア(イ)のとおり,本件発明1の吸湿材料が吸湿する対象となるごく微量の水分(上記(1)?@及び?Aの水分)によって,酸化カルシウム(CaO,生石灰),酸化バリウム(BaO),酸化ストロンチウム(SrO)が492℃を超えるような高温になるというべき根拠は認められないから,そのようなごく微量の水分によって,酸化カルシウム(CaO,生石灰),酸化バリウム(BaO),酸化ストロンチウム(SrO)が熱を出し,PTFEが燃えるような事態になるとはほとんど考えられない。 (オ)なお,PTFEの可燃性・不燃性については,「可燃性」「不燃性」の定義をめぐって当事者の主張立証が行われているが,上記(エ)のように理解すれば足り,「可燃性」「不燃性」についての抽象的な定義についての議論が必要であるとは解されない。 ウ粉末のCaO等をフィブリル化したPTFEに組み合わせた吸湿剤の発火実験(ア)甲46(内A作成の2007年[平成19年]10月1日付け実験成績証明書,審判乙19)には,「…吸湿剤としてCaO粉末(比表面積60m /g)70重量%及び樹脂成分としてフッ素樹脂(PTF2E)粉末30重量%を用い,これらを粉末状態で十分混合した。得られた混合物を圧延ロールでシート状に圧延成形し,PTFEがフィブリル化された厚さ約300μmのシートを得た。得られたシートをサンプルとして用いた。」,「アルミニウム製小皿にピンセットで挟んだサンプルを載せた(図1)。その上から脱イオン水を振りかけた(図2)ところ,数秒後に発煙するとほぼ同時に瞬間的に炎を上げて発火し(図3,図4),1〜2秒後に炎は消えた。サンプルはほぼすべて燃焼していることが確認された(図5)。」,「上記結果より,本件発明に係るフィブリル化フッ素樹脂と酸化カルシウムを含むシートは放棄等したときに,水と接触すると,水と反応して発熱・発火する危険があることが確認された。」と記載され,実験の様子を写した図1〜5の写真が添付されている。 甲47(内A作成の2007年[平成19年]10月10日付け実験成績証明書,審判乙20)には,「…吸湿剤としてSrO粉末70重量%及び樹脂成分としてフッ素樹脂(PTFE)粉末30重量%を用い,これらを粉末状態で十分混合した。得られた混合物を圧延ロールでシート状に圧延成形し,PTFEがフィブリル化された厚さ約300μmのシートを得た。得られたシートをサンプルとして用いた。」,「アルミニウム製小皿にピンセットで挟んだサンプルを載せた(図1)。その上から脱イオン水を振りかけた(図2)ところ,数秒後に発煙するとほぼ同時に瞬間的に炎を上げて発火し(図3,図4),1秒後に炎は消えた。サンプルはほぼすべて燃焼していることが確認された(図5)。」,「上記結果より,本件発明に係るフィブリル化フッ素樹脂と酸化ストロンチウムを含むシートは放棄等したときに,水と接触すると,水と反応して発熱・発火する危険があることが確認された。」と記載され,実験の様子を写した図1〜5の写真が添付されている。 甲55(内A作成の2008年[平成20年]2月27日付け実験成績証明書)は,「…吸湿剤としてCaO粉末(比表面積60m /g)260重量%および樹脂成分としてフッ素樹脂(PTFE)粉末40重量%を用い,これらを粉末状態で十分混合した。得られた混合物を圧延ロールでシート状に圧延成形し,PTFEがフィブリル化された厚さ約300μmのシートを得た。得られたシートをサンプルとして用いた。」,「アルミニウム製小皿にピンセットで挟んだサンプルを載せた(図1)。その上から脱イオン水を振りかけた(図2)ところ,約2秒後に発煙するとほぼ同時に瞬間的に炎を上げて発火し(図3,図4),1〜2秒後に炎は消えた。燃焼完了後は,燃え残りは存在せず,炭(黒色)と炭(白色)だけが残った(図5)。」,「上記結果より,本件発明に係るフィブリル化フッ素樹脂と酸化カルシウムを含むシート(CaO:PTFE=60:40)は,その条件によっては水との反応により発火することが確認できた。」と記載され,実験の様子を写した図1〜5の写真が添付されている。 (イ)上記の甲46,甲47及び甲55の実験に用いられたものは,本件発明1の要件である「CaO,BaO及びSrOの少なくとも1種の吸湿剤,並びに樹脂成分を含有し,」,「吸湿剤及び樹脂成分の合計量を100重量%として吸湿剤30〜85重量%及び樹脂成分70〜15重量%含有され,」,「前記樹脂成分がフッ素系樹脂であり,かつ,フィブリル化されている,」との要件を満たしているものである。しかし,この実験は,脱イオン水を振りかけているので,ごく微量の水分で発火することの実験ではない。 エ CaO等とPTFEを組み合せたものの発火を避ける方法(ア)前記ア〜ウで述べたところからすると,本件発明1で用いられる酸化カルシウム(CaO,生石灰),酸化バリウム(BaO),酸化ストロンチウム(SrO)が湿気又は水と反応して熱を出し,そのためにフィブリル化されたPTFEが燃えることがあるものと認められる。 しかし,このような事態は,本件発明1の吸湿材料が吸湿する対象となるごく微量の水分(上記(1)?@及び?Aの水分)によって起こるとは認められない。 もっとも,本件発明1の吸湿材料を装着した電子デバイスを廃棄するときなどには,本件発明1の吸湿材料が多量の水分と接する可能性が考えられ,そうすると,その場合にはフィブリル化されたPTFEが燃えることがあり得ることになるが,電子デバイスの廃棄等は,通常は廃棄物業者などの事業者によって法令に従って行われるものと考えられるから,それらの者に対して注意書きを付したり,指導を行うなどして,水分と接することがないようにすれば,フィブリル化されたPTFEが燃えるというような事態を避けることが可能であると考えられる。 (イ)一方,甲37(製品安全データシート)には,酸化バリウム(BaO)について「水分のある場所で取り扱わない。」,「高温多湿状態での保管・貯蔵は避ける。」,「廃棄上の注意:『毒物及び劇物取締法』に基づく廃棄基準に従って処理を行う。通常行われる方法は,沈殿法:多量の水に溶かし,希硫酸を加えて中和し,沈殿をろ過して埋立処分する。」との注意書きが記載されている。 また,甲10(富士ゲル産業株式会社の「生石灰PARITFINE 以上の事実は,注意喚起をすることによりフィブリル化されたPTFEが燃えるというような事態を避けることが可能であるとの上記(ア)の判断を裏付けるものということができる。 なお,甲10の製品は,食品用のものであるが,これが食品用のものであり,電子デバイス用のものと吸湿速度に差があるとしても,電子デバイス用のものについて同様の注意喚起をすることができない理由はない。 オ以上を総合すると,阻害2(「粉末のCaO等をフィブリル化したPTFEに組み合わせた吸湿剤は発火の危険性がある。」)については,本件発明1の吸湿材料は,それが吸湿する対象となるごく微量の水分(上記(1)?@及び?Aの水分)によってフィブリル化されたPTFEが燃えることがあるとは認められず,本件発明1の吸湿材料を装着した電子デバイスを廃棄するときなどには,フィブリル化されたPTFEが燃えることがあり得るが,そのような事態は,注意喚起をすることによって十分に避けることができるものと解される。 (4) 阻害1と阻害2のまとめ以上述べたところからすると,粉末のCaO等をフィブリル化したPTFEに組み合わせることについて,阻害要因があると認めることはできない。 (5) 甲2の記載につきア 甲2(特開平9-148066号公報)には,次の記載がある。 (ア)【特許請求の範囲】「【請求項1】有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体と,この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器と,この気密性容器内に前記積層体から隔離して配置された乾燥手段とを有する有機EL素子において,前記乾燥手段が化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物により形成されていることを特徴とする有機EL素子。 【請求項2】前記乾燥手段を形成する化合物がアルカリ金属酸化物またはアルカリ土類金属酸化物である請求項1記載の有機EL素子。」(イ)【発明の詳細な説明】「【0003】一方,有機EL素子は,一定期間駆動すると,発光輝度,発光の均一性等の発光特性が初期に比べて著しく劣化するという欠点を有している。このような発光特性の劣化を招く原因の一つとしては,有機EL素子の構成部品の表面に吸着している水分や有機EL素子内に侵入した水分が,一対の電極とこれらにより挟持された有機発光材料層との積層体中に陰極表面の欠陥等から侵入して有機発光材料層と陰極との間の剥離を招き,その結果,通電しなくなることに起因して発光しない部位,いわゆる黒点が発生することが知られている。」「【0004】そこで,この黒点の発生を防止するためには有機EL素子の内部の湿度を下げる必要がある。」「【0009】本発明の有機EL素子は,有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体と,この積層体を収納して外気を遮断する気密性容器と,この気密性容器内に前記積層体から隔離して配置された乾燥手段とを有する有機EL素子において,化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段とする。このような化合物を乾燥手段に用いるのは,物理的に水分を吸着する化合物は,一旦吸着した水分を高い温度で再び放出してしまうため,黒点の成長を十分に防止することができないからである。また,吸湿しても固体状態を維持する化合物を乾燥手段に用いるのは,吸湿により液化してしまう化合物であると,素子に悪影響を及ぼすとともに封入の際の取扱が容易ではなく,封入方法が著しく制限されて実用的ではないからである。このように,本発明の有機EL素子では,化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段とし,この乾燥手段を,有機化合物からなる有機発光材料層が互いに対向する一対の電極間に挟持された構造を有する積層体から隔離して気密性容器内に配置し,封止しているので,リーク電流やクロストークの発生を招くことがない。したがって,本発明の有機EL素子においては,一定期間駆動した後も黒点の発生が確実に防止され,長期にわたって安定した発光特性が維持される。」「【0013】乾燥手段8を形成する化合物としては,化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持するものであればいずれも使用可能である。このような化合物としては,例えば,アルカリ金属酸化物,アルカリ土類金属酸化物,硫酸塩,金属ハロゲン化物,過塩素酸塩,有機物が挙げられる。」「【0014】前記アルカリ金属酸化物としては,酸化ナトリウム(Na O),酸化カリウム(K O)が挙げられ,前記アルカリ土類金2 2属酸化物としては,酸化カルシウム(CaO),酸化バリウム(BaO),酸化マグネシウム(MgO)が挙げられる。」「【0019】乾燥手段8の封入方法としては,例えば,上記の化合物を固形化して成形体とし,この成形体をガラス封止缶7に固定する方法,上記の化合物を通気性を有する袋に入れてガラス封止缶7に固定する方法,ガラス封止缶7に仕切りを設け,この仕切りの中に上記の化合物を入れる方法,さらには真空蒸着法,スパッタ法あるいはスピンコート法等を用いてガラス封止缶7内に成膜する方法など種々の方法を採用することができる。」「【0020】このように,この有機EL素子は,化学的に水分を吸着するとともに吸湿しても固体状態を維持する化合物を用いて乾燥手段8とするので,封入の際の取扱が容易であり,より簡便なあるいは機能的な封入方法の採用が可能である。」「【0021】【実施例】次に本発明の実施例および比較例を挙げ,本発明についてさらに具体的に説明する。 実施例1酸化バリウム(BaO)を乾燥手段8とし,この乾燥手段8を用いて図1に示す構造の有機EL素子を作成した。なお,この乾燥手段8は粘着材を用いてガラス封止缶7に固定することにより封入した。 」「【0022】この有機EL素子の発光部について封入直後に50倍の拡大写真を撮影した。次に,この有機EL素子を温度85℃の条件で500時間保存した後,発光部について封入直後と同様にして拡大写真を撮影した。」「【0023】これらの拡大写真を比較観察したところ,黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。 実施例2前記実施例1において,酸化バリウム(BaO)に代えて酸化カルシウム(CaO)を用いて乾燥手段8としたほかは,前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに,封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。」「【0024】その結果,黒点(ダークスポット)の成長は殆ど見られなかった。」「【0026】…比較例1前記実施例1において,酸化バリウム(BaO)に代えてシリカゲルを用いて乾燥手段8としたほかは,前記実施例1と同様にして有機EL素子を作成するとともに,封入直後および温度85℃にて500時間保存した後の発光部の拡大写真を比較観察した。」「【0027】その結果,黒点(ダークスポット)の成長が著しいことが確認された。」イ上記アの記載によれば,甲2には,?@有機EL素子に用いる乾燥手段として,化学的に水分を吸着して固体状態を維持する化合物を用いることが記載されており,その化合物として,アルカリ土類金属酸化物である酸化カルシウム(CaO),酸化バリウム(BaO)などが例示されていること,?Aそれらの乾燥手段の封入方法として,上記の化合物を固形化して成形体とし,この成形体をガラス封止缶7に固定する方法,上記の化合物を通気性を有する袋に入れてガラス封止缶7に固定する方法,ガラス封止缶7に仕切りを設け,この仕切りの中に上記の化合物を入れる方法などが例示されていること,?B実施例として,乾燥手段としてBaO,CaOを用いた例(実施例1,2)が記載され,実施例1,2においては,乾燥手段(BaO,CaO)を粘着材を用いてガラス封止缶に固定することにより封入されていること,?C比較例としてシリカゲルを用いた例が記載され,実施例1,2では有機EL素子における黒点の成長を十分に防止することができるのに対し,比較例では黒点の成長を防止することができないことが示されていることが認められる。 上記のとおり,甲2においては,乾燥手段としてBaO,CaOの封入方法として,上記の化合物を固形化して成形体とし,この成形体をガラス封止缶7に固定する方法,上記の化合物を通気性を有する袋に入れてガラス封止缶7に固定する方法,ガラス封止缶7に仕切りを設け,この仕切りの中に上記の化合物を入れる方法などが例示されているものの,BaO,CaOをそのままフィブリル化した樹脂成分と組み合わせる方法が記載されているとはいえない。 しかし,引用発明(甲1の3に記載された発明)は,前記3のとおり,「コンピューターディスクドライブの筐体内に使用され,湿気を包含するガス状汚染物質を除くための吸着剤組立品の吸着剤層であって,延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン内にシリカゲルが充填された吸着剤層」というものであって,甲2にはシリカゲルを用いた比較例も記載されているのであるから,引用発明における吸湿剤であるシリカゲルを,甲2における乾燥手段であるBaO,CaOと置換することは,当業者は容易に想到することができるというべきである。そして,引用発明のものが樹脂成分を実質的にフィブリル化したものであることについては,前記3(1)オのとおり,甲1の3に,引用発明の「延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)」は,米国特許第3,953,566号および4,187,390号に開示の方法で得られると記載されていることから明らかである(審決17頁下12行〜下3行)。 ウまた,原告は,甲2発明について,「CaO等を粉末のまま用いるかどうかという問題とは別に,審決で取り上げているような『通気性を有する袋』に入れるということ自体,吸湿剤の種類にかかわらず大量の水分と接触しないように注意するということであり,これはむしろ発火の危険性を認識していることの表れといえる。」とも主張する。 しかし,前記(3)のとおり,本件発明1の吸湿材料は,それが吸湿する対象となるごく微量の水分(上記(1)?@及び?Aの水分)によってフィブリル化されたPTFEが燃えることがあるとは認められず,本件発明1の吸湿材料を装着した電子デバイスを廃棄するときなどには,水との接触によってフィブリル化されたPTFEが燃えることがあり得るものの,そのような事態は,注意喚起をすることによって避けることができると解されるから,CaO等を通気性を有する袋に入れなければ水との接触の危険性が避けられないということはなく,当業者がCaO等の封入方法をこのような態様のものに限られると理解することもないというべきである。 (6)以上のとおり,相違点a(本件発明1では,吸湿剤として,CaO,BaO及びSrOの少なくとも1種を用いるのに対し,引用発明では,シリカゲルを用いている点。)は,引用発明及び甲2発明から容易に想到することができたということができるのであって,その旨の審決の判断に誤りがあるということはできない。 したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。 5取消事由2(本件発明1の効果の予測性)について(1)原告は,本件発明1は,特に「吸湿剤の脱落防止効果」と「粉末単体の場合と同程度の吸湿効果」との二つの効果を一挙に達成することに成功したものであると主張する。 しかし,前記2(2)のとおり,本件発明1について「吸湿効果が粉末単体の場合と同程度のもの」と特定することはできず,本件発明1の効果は,前記2(2)?B(電子デバイス等の装置内部に侵入した水分のより容易かつ確実な吸湿,除去),?C(吸湿剤の脱落防止及びデバイスの小型化・軽量化)のとおりであると認められる。 (2) 「吸湿剤の脱落防止」につきア前記3(1)オのとおり,甲1の3には,「充填PTFEは,吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題が生じないことから,特に望ましい。」と記載されているから,引用発明が「吸湿剤の脱落防止」の効果を有するものであることは明らかである。 イ原告は,甲1の3における「吸着剤層」の形成方法は予め形成された延伸PTFEに後から吸着剤物質を充填することを前提とするものであると主張する。 しかし,この主張は,次のとおり採用することができないから,この主張に基づく,甲1の3における「吸着剤層」は脱落しやすい状態のものである旨の原告の主張を採用することもできない。 (ア)甲1の3の4欄42行〜46行には,「A preferred embodiment isthe use of expanded porous polytetrafluoroethylene (PTFE) made inaccordance with the teachings in U.S. Pat. Nos. 3,953,566 and4,187,390, the expanded porous PTFE then filled with a particularadsorbent material.」(訳文[前記3(1)オ]:好ましい態様は,米国特許第3,953,566号および4,187,390号に開示の方法で得られる延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の使用であり,加えて,特定の吸着性物質が充填された延伸多孔質PTFEである。)と記載されている。ここで「then」と記載されているが,乙6(「Oxford Dictionary of English」OXFORD UNIVERSITY PRESS1829頁)には,「then」について,「after that; next; afterward」という意味のほか,「at that time; at the time in question」という意味や「also; in addition」という意味があると認められるから,この文章のみでは,予め形成された延伸PTFEに後から吸着剤物質を充填することを意味すると解することはできない。 (イ)甲1の3の8欄13行〜20行には,「The adsorbent layer wasapproximately 0.043 inches (1.0922 mm) thick and 0.625 inches(15.875 mm) long and 0.156 inches (3.9624 mm) wide. The adsorbentlayer was constructed of a silica gel with blue indicator gelimpregnated into an expanded porous PTFE membrane with a 40% byweight silica gel plus indicator loading and a total silica gelcontent of 0.021 grams of silica gel at 20% relative humidity.」(訳文[前記3(1)ケ]:吸着剤層は厚み約0.043インチ[1.0922mm],長さ0.625インチ[15.875mm],幅0.156インチ[3.9624mm]である。この吸着剤層は,延伸多孔質PTFEにシリカゲル+指示薬で40重量%充填した青の指示色を示すシリカゲルから構成されており,全シリカゲル量は,相対湿度20%でのシリカゲルで0.021gであった。)と記載されており,ここでは,シリカゲルを延伸PTFE中に「impregnated」により充填したことが記載されている。 乙8(富井篤編「科学技術英和大辞典」株式会社オーム社平成5年11月25日第1版第1刷発行1165頁)は,「impregnate」につき,「?A飽和させる,充満させる,…にしみこませる,注入する,含浸させる,?Bすきまを埋める,詰める」という意味を記載している。乙9(海野文男ほか編「ビジネス技術実用英語大辞典」日外アソシエーツ株式会社1998年[平成10年]6月26日第1刷発行408頁)は「impregnate」につき,「〜に(〜を)含浸させる,浸透させる,充填する,充満する」という意味を記載している。乙10の2(「小学館ランダムハウス英和大辞典上巻」株式会社小学館昭和52年第4刷発行)は,「impregnate」につき,「3充満(飽和)させる,…にしみ込ませる,4すきまを埋める,詰める」という意味を記載している。これらによると,「impregnate」は,「…にしみこませる,注入する,含浸させる」などといった意味のほかに,「すきまを埋める,詰める」という意味もあるから,上記の文章のみでは,予め形成された延伸PTFEに後から吸着剤物質を充填することを意味するとまで解することはできない。 (ウ)その他,甲1の3に「吸着剤層」の形成方法を特定する記載があるとは認められない。 (エ)そして,前記3(1)オのとおり,甲1の3に,延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の製造方法として引用されている米国特許第3953566号の明細書(甲5の1)の11欄3行〜10行及び米国特許第4187390号の明細書(甲5の2)の10欄3行〜8行には,「上記のテフロン6A樹脂は,アスベスト1に対して樹脂4の重量の割合で,商業的に入手可能なアスベストパウダーと混合される。 混合物は,混合物1ポンドあたり115ccの無臭鉱物油で潤滑されて,幅6インチ,厚さ0.036インチの連続したフィルムに押し出す。」(訳文は被告による)と記載され,また,甲5の1の21欄60行〜65行(甲5の2の17欄66行〜18欄3行)には,「上記の各実験例では,充填剤としてアスベストの使用を示したが,カーボンブラック,多種の色素,及びマイカ,シリカ,二酸化チタン,ガラス,チタン酸カリウム等の広範な種類の充填剤を充填しうるものと理解されるべきものである。」(訳文は被告による)と記載されている。これらの記載からすると,PTFEに,シリカを含む充填剤を充填するに際して,PTFEと充填剤を混合してフィルムに押し出すことが記載されている。これに対し,甲5の1の16欄30行〜56行(甲5の2の13欄36行〜47行)には,「メチルメタクリレート中に1%の重合開始剤2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)を含む溶液を,実施例…で調製された延伸アモルファスフィルムに塗布した。前記溶液はすぐに延伸アモルファスフィルムに吸収された。吸収されなかった余分な溶液をフィルム表面からふき取った。その後,含浸フィルムを加温し,延伸アモルファスフィルムの細孔中でメチルメタクリレートを重合させることにより,細孔中にポリ(メチルメタクリレート)が充填されるフィルムを得た。」(訳文は原告による)と記載されており,PTFEに,メチルメタクリレート中に高分子重合開始剤を含んだ溶液を塗布することが記載されている。ここで,「impregnate」との用語が用いられていることからすると,上記(イ)の「impregnate」も同様の意味である可能性があるが,甲1の3には,上記(イ)の記載しかないから,これらが同じ意味であるとまで解することはできない。 (オ)以上によると,甲1の3において「吸着剤層」の形成方法は特定されていないというほかなく,予め形成された延伸PTFEに後から吸着剤物質を充填することを前提とするものであると認めることはできない。 ウ原告は,甲1の3の「充填PTFEは,吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題が生じないことから,特に望ましい。」との記載(前記3(1)オ)について,甲1の3の請求項1では,3つの層(粘着層,吸着剤層及びフィルター層)を有し,吸着剤層が粘着層とフィルター層の間に配置されていることを必須要件とするから,吸着剤層が両層に挟まれることで「吸着剤物質が外部に移動しない」と考えるのが相当であると主張する。 しかし,上記イのとおり,甲1の3は,予め形成された延伸PTFEに後から吸着剤物質を充填することを前提とすると認めることはできないから,原告が主張するような「吸着剤層が粘着層とフィルター層に挟まれるもの」でないと「吸着剤物質が外部に移動しない」との効果を生じないということはできない。また,前記3(1)オの甲1の3の記載にも原告の主張を裏付ける記載はない。したがって,甲1の3の「充填PTFEは,吸着剤物質が外部へ移動せず,汚染の問題が生じないことから,特に望ましい。」との記載を原告が主張するように限定して解釈することはできないのであって,上記アのとおり引用発明の効果と解することができる。 (3)「電子デバイス等の装置内部に侵入した水分のより容易かつ確実な吸湿,除去」につきア上記(2)のとおり,甲1の3における「吸着剤層」の形成方法は予め形成された延伸PTFEに後から吸着剤物質を充填することを前提とするものであると認めることはできないから,この主張に基づく,引用発明においてはその吸着性能がどのように機能するか不明である旨の原告の主張を採用することはできない。 イそして,前記2(2)エのとおり,本件発明1の実施例である実施例4,6,8,10について,シート片(縦25mm×横14mm×厚さ300μm)を温度20℃及び相対湿度65%RHの雰囲気下に設置し,一定時間ごとの重量増加率(%)を測定したところ,60分後の重量増加率は,実施例4が17.1%,実施例6が0.25%,実施例8が29.9%,実施例10が26.1%であったと認められる。 これに対し,甲33(内A作成の2007年[平成19年]7月27日付け実験成績証明書)によれば,吸湿剤として,シリカゲル(商品名「ミズカシルP73」),ゼオライト(商品名「シルトンB」),活性炭(商品名「太閤CB」),活性アルミナ(商品名「GB-20」)各60gをPTFE40gと混合し,圧延成形して,厚さ300μmのフィブリル化されたシートを作成し,シート片(縦25mm×横14mm×厚さ300μm)を温度20℃及び相対湿度65%RHの雰囲気下に設置し,一定時間ごとの重量増加率(%)を測定したところ,60分後の重量増加率は,シリカゲルを用いたものでは7.1%〜8.5%,ゼオライトを用いたものでは18.6%〜19.8%,活性炭を用いたものでは20.5%〜21.1%,活性アルミナを用いたものでは7.7%〜7.9%であったことが認められる。また,甲22(C作成の2007年[平成19年]10月1日付け実験成績証明書)によれば,シリカゲル(商品名「ミズカシルP73」),ゼオライト(商品名「シルトンB」),活性炭(商品名「太閤CB」),活性アルミナ(商品名「GP-20」)の各粉末を縦25mm×横14mm×厚さ300μmのPETフィルムの窪みに満たして,温度20℃及び相対湿度65%RHの雰囲気下で,一定時間ごとの重量増加率(%)を測定したところ,60分後の重量増加率は,シリカゲル粉末が6.6%〜8.2%,ゼオライト粉末が18.0%〜18.5%,活性炭粉末が21.9%〜22.6%,活性アルミナ粉末が7.0%〜7.8%であったことが認められる。 これらの結果からすると,本件発明1の吸湿効果は,実施例8,10は,シリカゲル,ゼオライト,活性炭又は活性アルミナを用いたシートやそれらの粉末よりも高いが,活性炭を用いたシートやその粉末との差は,60分後の重量増加率において10%に満たないものであり,実施例4は,シリカゲル又は活性アルミナを用いたシートやそれらの粉末よりも高いが,ゼオライト又は活性炭を用いたシートやそれらの粉末よりも低く,実施例6は,いずれものものよりも低かったことが認められる。 そうすると,本件発明1の吸湿効果については,格別に顕著なものということはできない。 なお,原告は,甲22及び甲33との対比を前提とした判断は,本件発明1の存在を前提とした判断であって,本件発明1を未だ知らない当業者がその効果を予測できるかどうかという進歩性の議論において妥当性を欠くと主張するが,本件発明1の効果を当業者が予測できるかどうかを判断しているのであるから,当該発明の効果を対象とすべきであって,それを甲22,甲33との対比に基づいて判断することが妥当性を欠くというべき理由はない。 (4)以上によれば,本件発明1の効果である「吸湿剤の脱落防止」及び「電子デバイス等の装置内部に侵入した水分のより容易かつ確実な吸湿,除去」については,引用発明に甲2発明を組み合わせることによって容易に想到することができる本件発明1の構成によって奏することを予測し得るものであり,格別に顕著なものということはできない。 (5) したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。 6取消事由3(本件発明2〜6)について既に述べたとおり,本件発明1に関する審決の判断に取消事由を有するとは認められないから,本件発明2〜6について,本件発明1と同様の取消事由を有するとは認められない。 7結論以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 澁谷勝海 |