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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成16ワ20636特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成15ワ18472特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成21ワ18950特許権侵害差止請求事件 判例 特許
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平成16ワ25576特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  発明特定事項 /  公知技術 /  技術的範囲 /  出願公開 /  補償金請求権 /  実質的に同一 /  警告 /  対象製品 /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  均等 /  均等論 /  均等侵害 /  置き換え /  同一の作用効果 /  容易に想到(容易想到性) /  意識的除外(意識的に除外) /  特許発明 /  実施 /  権原 /  加工 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  業として /  侵害 /  実施料 /  不法行為(民法709条) /  設定登録 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 / 
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事件 平成 19年 (ワ) 28614号 補償金等請求事件
東京都港区<以下略>
原告横 浜ゴム株式会社
同訴訟代理人弁護士上谷清
同 永井紀昭
同 仁田陸郎
同 萩尾保繁
同 笹本摂
同 山口健司
同 薄葉健司
同 石神恒太郎
同訴訟代理人弁理士島田哲郎 東京都文京区<以下略>
被告ヨ ネックス株式会社
同訴訟代理人弁護士小林幸夫
同 弓削田博
同 坂田洋一
同訴訟代理人弁理士一色健輔
同 青木康
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/12/09
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
2第1請求被告は,原告に対し,金2億円及びこれに対する平成19年11月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要本件は,原告が被告に対し,被告の製造,販売する7つのモデルのゴルフクラブが原告の有するゴルフクラブヘッドに関する特許権を侵害していると主張して,出願公開後の警告から設定登録までの間の特許法65条1項に基づく補償金とその後の民法709条に基づく損害賠償金との合計額の一部請求として2億円及び訴状送達日の翌日である平成19年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1前提となる事実(1)当事者原告は,「各種タイヤ・チューブの製造、販売」,「スポーツ用品の製造、
販売〔省略〕」等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)被告は,「バドミントンラケット、テニスラケットおよびゴルフクラブ、
ならびに運動具用品の製造販売」等を目的とする株式会社である。(弁論の全趣旨)(2)原告の特許権原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許を「本件特許」,その特許発明を「本件発明」,その願書に添付した図面及び明細書を「本件明細書」という。)を有している。(争いのない事実,甲1,2)特許第3725481号出願番号特願2002-4675出願日平成14年1月11日審 査 請 求 日平成15年3月11日公開番号特開2003-2050553公開日平成15年7月22日登録日平成17年9月30日発 明 の 名 称中空ゴルフクラブヘッド特許請求の範囲【請求項1】「金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって、
前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。」(3)本件発明の構成要件及び作用効果本件発明の構成要件は,次のとおりである(以下「構成要件(a) 」,「構成要件(a)及び(b)」などということがある。)。(争いのない事実)(a) 金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって,(b) 前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,(c) 前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,(d) 該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した4(e) ことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。
本件発明は,上記の構成をとることにより,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材という異種素材からなる外殻部材同士の接合強度を高めることを可能とし,これによって,ゴルフクラブヘッドとしての耐久性を確保しながら,異種素材の組合せに基づいて,飛びを含むゴルフクラブ性能を向上させることを可能とするものである。(争いのない事実)(4)被告の行為と製品被告は,別紙製品目録記載の7つのモデルのゴルフクラブ(以下「被告製品」という。)を業として製造,販売している。(弁論の全趣旨)被告製品の構造等は,別紙「イ号図面及びその説明書」記載のとおりである。(争いのない事実)(5)被告製品の構成要件充足性被告製品は,本件発明の構成要件(a),(b),(c)及び(e)を充足する。(争いのない事実)(6)特許庁に対する判定請求被告は,原告を被請求人として,平成18年7月18日付けをもって,特許庁に対し,別紙「イ号図面及びその説明書」に示す「中空ゴルフクラブヘッド」が本件発明の技術的範囲に属しないことの判定を求めた。(弁論の全趣旨,乙1)特許庁は,平成19年4月27日,別紙「イ号図面及びその説明書」に示す「中空ゴルフクラブヘッド」が本件発明の技術的範囲に属しないと判定した。(乙1)2争点(1)構成要件(d) の充足性(2)均等侵害の成否(3)進歩性欠如の有無5(4)原告の補償金等第3争点に関する当事者の主張1争点(1)〔構成要件(d) の充足性〕について〔原告の主張〕被告製品の構成は,本件発明の構成要件(d) を充足する。
(1)被告製品の構成被告製品について,その構成を本件発明の構成要件に対応させれば,次のとおりである(以下「構成 」,「構成及び」などということがある。なお,「FRP」と「繊維強化プラスチック」とは同義である。)。
金属製外殻部材1とFRP製外殻部材9,10とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであり, 金属製外殻部材1のフランジ部5にFRP製下部外殻部材9,FRP製上部外殻部材10の接合部を接着すると共に, 金属製外殻部材1のフランジ部5aに透孔7を設け, 透孔7を介して炭素繊維からなる短小な帯片8を,前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側に通して,前記FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合してなる 中空ゴルフクラブヘッド。
本件発明では,貫通穴を介して,繊維強化プラスチック製の縫合材を金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して,繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合しており,他方,被告製品においても,透孔7を介して炭素繊維からなる短小な帯片8(以下「短小帯状片」ともいう。)を金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側に通して,FRP製上部外殻部材10と金属製外殻部材1とを結合している。
6(2)本件発明と「縫合材」の解釈「縫合」は,「ぬいあわせること」(岩波国語辞典第6版),すなわち「縫ってつなげること」(大辞林第2版)と解釈される。そして,本件発明は,縫合材を用いて異種部材同士の接合強度を高める発明であることから,縫合の意味も,文字通りに縫い合わせるの意味ではなく,部材同士を「接合する(つなげる)」程度の意味に理解することが合理的である。
本件発明の接合強化原理は,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを接着剤により接着することに加え,縫合材の張力をその接着の補強に利用することにあり,縫合材の一方の面が繊維強化プラスチック製外殻部材と一体的に接合するとともに,金属製外殻部材の貫通穴を通った縫合材に張力が働くと,繊維強化プラスチック製外殻部材は縫合材の張力により,金属製外殻部材側に引き寄せられることになって,この力が繊維強化プラスチック製外殻部材を金属製外殻部材から剥離することを阻止する力として作用し,その結果,異種素材からなる2つの外殻部材の接合強度を高めることになる。このことは,本件明細書に特に記載はないものの,当業者であれば,本件発明の構成から,当然にこれを理解することができ,この張力補強原理こそが本件発明の本質である。
この縫合材に作用する張力を引き寄せる力(剥離を阻止する力)として,接合の補強に利用することを可能とするための必須の要件は,?@縫合材がプラスチック製外殻部材と一体的に接着されると同時に,?A縫合材が金属製外殻部材の貫通穴を通って接着面とその反対面側に通されることである。そして,縫合材が接着面側でプラスチック製外殻部材と一体的に接着し,金属製外殻部材にある貫通穴を通じて,反対面側に通されている限り,その縫合材が接着面の反対側でいかなる方法で係止されているかその係止方法は一切問わない。
すなわち,縫合材が反対面において,何らかの方法で係止され,反対面に7おいて固定されていれば,縫合材の張力を接合の補強に利用することが可能となり,プラスチック製外殻部材に剥離方向の力が加わった場合に剥離を阻止する力が発生するのであり,それゆえ,本件発明の請求項では,反対面側での縫合材の固定(係止)の仕方を特に限定しておらず,単に縫合材を「反対面側に通した」と規定するのみである。
(3)あてはめ被告製品は,短小帯状片(短小な帯片8)を用いて繊維強化プラスチック外殻部材と金属製外殻部材を接着させており,金属製外殻部材との接着面側においてプラスチック製外殻部材と一体的に接着されると同時に,金属製外殻部材の貫通穴(透孔7)を通って接着面と反対面側に通されている。また,縫合材の張力を接合の補強に利用していることも明白である。なお,短小帯状片がFRP製上部外殻部材と金属製外殻部材との接着界面との接着界面側の「反対面側」で,さらにFRP製下部外殻部材に接着されていたとしても,単なる付加的構成にすぎない。
したがって,被告製品の「短小帯状片」は,本件発明の「縫合材」(
構成要件(d) )に相当するから,被告製品が本件発明の技術的範囲に属することは明らかである。
(4)被告の主張についてア「縫合材」の解釈について本件発明の請求項1には,部材を「縫合する」とか「縫い合わせる」とか,まして「ジグザグに縫い合わせる」といったことは一切記載されておらず,縫合材により異種部材同士を「結合」したことを記載するのみである。また,「ぬう」の語義は,「?@糸を通した針で布や皮などを刺し綴る。
衣服を作る。?A縫取りをする。刺繍をする。?B針で布や皮などを縫ったように,槍または矢が鎧などを貫く。?C物と物との間を左右に曲折しながら通る。」であり(広辞苑第4版),それ自体に「ジグザグに縫う」8の意味はなく,上記?Cの用法は,部材同士の「縫合」の文脈で使用されるものではない。
そもそも,「縫う」とは,「2つ以上の部材」を「糸状のもの(縫合材,繋ぎ材など)で貫通して継ぎ合わす(「結合する」,「接合する」)と解釈すべきであり,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材(FRP製外殻部材)の双方に貫通穴を穿ち,この穴を縫い糸等を使用して,2つの部材を「刺し綴る」ことが「縫う」ことであるところ,本件発明と被告製品のいずれも,金属製外殻部材のみに貫通穴を穿つものであり,繊維強化プラスチック製外殻部材(FRP製外殻部材)について,一切貫通穴が作られていないから,この意味でも,本件発明では「縫われていない」。
出願経過について原告の出願経過における補正は,記載不明瞭の指摘に対してされたものであって,何ら特許の権利範囲を減縮させるものではない。
すなわち,拒絶理由通知(乙6)に対する原告の応答(乙7,乙10)は,いずれも,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材と縫合材との「接合態様」を明らかにしたものであって,現に,原告は,「貫通穴は金属製外殻部材のみにあける一方,繊維強化プラスチック製外殻部材と縫合材は密着させることで結合させ,上記貫通穴に当該縫合材を通して繊維強化プラスチック製外殻部材と金属製外殻部材を結合する態様」であることを明らかとする趣旨で補正をしたものである。
ウ本件発明の作用効果と解釈について被告は,本件明細書が【図2】の態様につきその接合部の耐久性を「表1」で示していることをもって,本件発明の構成要件(d) が【図2】の態様に限定されると主張する。
しかし,実施例の1つの態様につき実験を行い,開示しているからとい9って,本件特許の権利範囲がこの実施例に限定され,そのほかの実施態様が権利範囲から除外されるというのは,全く理由がなく,被告の独自の見解に基づくものである。
エ被告製品の技術的思想について被告は,被告製品の技術的思想について,金属製外殻部材をFRP製上部外殻部材とFRP製下部外殻部材とで上下から挟んで一体化させた上,この各外殻部材を短小な帯片で繋ぎ一体化を強めることで剥離を阻止すること,すなわち,一体化の強化であり,短小帯状片を設けたことが一体化の強化のためであるなどと主張する。
しかし,「上下から挟んで一体化」,「一体化を強める」,「一体化の強化」が具体的に何を意味するかは不明であり,短小帯状片を設けたことでなぜ一体化の強化に資するのか,なぜ異種部材間の接合が強化されるのかを説明していない。
もし,仮に,被告において,短小帯状片を用いて「一体化を強化」したことにより,剥離しにくくなっていると主張しているのであれば,その理由は,短小帯状片をFRP製上部外殻部材と一体的に接着すると同時に,この短小帯状片が透孔を通って接着面と反対側に延びることにより,短小帯状片に作用する張力の方向が金属製外殻部材に向かって引き寄せる方向に合致し,剥離を阻止する力として利用できるからであり,本件発明と同一の接合強化原理を採用していることにほかならない。事の本質は,被告製品における短小帯状片の敷設であり,その「一体化の強化」の本質を突き詰めれば,結局,被告製品は,短小帯状片に生じる張力を利用して,接合強化をするものである。
なお,被告製品の構成としては,短小帯状片は,あくまでも透孔を「通過」して(あるいは「通して」)いるものにすぎないのであって,被告において,短小帯状片がFRP製外殻部材の樹脂とともに透孔を「充填」す10ると説明することは許されない。もっとも,「充填」の概念を持ち出したとしても,被告製品が短小帯状片を設け,これによって部材相互の接合強化を図っている事実に変わりはない。
また,被告製品において,金属製外殻部材を2つのFRP製外殻部材で上下から挟む構成で得られる作用効果を主張することは,本件発明の構成要件(d) に「FRP製下部外殻部材」という付加的構成を含めた構成について,全体としてその作用効果を主張するものである。すなわち,構成要件(d) から生じる作用効果に加え,単なる係止方法にすぎないFRP製下部外殻部材から生じる作用効果を主張しているにほかならず,本件発明と別個独立の作用効果や本件発明とは異なる張力補強原理が生ずるものではない。
〔被告の主張〕被告製品の構成は,本件発明の構成要件(d) を充足しない。
(1)被告製品の構成構成 ないし のうち,構成,,及びは異論がない。構成 については,次のとおりである。
透孔7を介して各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8を前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに通して,前記FRP製上部外殻部材10とFRP製下部外殻部材9とを結合してなるそして,被告製品にあっては,金属製外殻部材1の上面フランジ部5を上下から挟むようにFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10が金属製外殻部材1に接着され,かつ,金属製外殻部材1のフランジ部5aにおいてFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10が炭素繊維からなる帯片8によって一体的に連結されている。
11(2)「縫合材」の解釈「縫合」とは,「ぬいあわせること」(広辞苑第4版),「縫い合わせること」(特許技術用語集第3版,特許技術用語類語集第2版)とされ,「ぬいあわせる」とは,「縫って両方が合うようにする。合わせて縫う。」(広辞苑第4版),「ぬう」とは,「?C物と物との間を左右に屈曲しながら通る。)(同)とされている。
とすれば,本件発明の「縫合材」とは,「物と物との間を左右に屈曲しながら通る」部材,換言すれば,金属製の外殻部材の接合部の貫通穴を通ってジグザグ状に縫合する部材と解される。
また,本件明細書の記載(【発明が解決しようとする課題】〔【0004】〕,【課題を解決するための手段】〔【0005】,【0006】〕,【発明の
実施の形態】〔【0009】ないし【0011】〕,【発明の効果】〔【0019】〕)を参酌すると,構成要件(d) の技術的意義は,本件明細書の【図2】(a)及び(b)に示されるように,縫合材が貫通穴を通ることにより繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材との部材間をジグザグ状に縫合する態様で1つの連続した部材で結合するようにした接合形態にある。
(3)出願経過本件特許に係る発明は,平成14年1月11日に特願2002-4675で出願され,平成15年7月22日に特開2003-205055で公開され(公開特許公報,乙5),同年11月18日に拒絶理由通知(乙6)がされた。そのため,原告において,平成16年4月12日付け意見書(乙7)で補正とともに意見を述べ,その後,拒絶査定(乙8)がされたものの,拒絶査定不服の審判請求の際に,平成17年5月9日付け手続補正書(乙10)を提出している。
これらの経過によると,本件発明は,公開特許公報(乙5)に記載された12当初の明細書及び図面に開示した複数の実施例の中から,【図6】(本件明細書の【図2】に相当)に記載した実施例に対応するものに限定した発明であって,特許請求の範囲の記載における「金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し,該縫合材により前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との発明特定事項は,上記【図6】に対応する構成を意味したものであり,また,「接着界面側とその反対面側とに通し」と記載した事項は,当初の【図6】において,繊維強化プラスチック製の縫合材が貫通穴を介して金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とをジグザグ状に通過している構成を意味したものである。
したがって,本件発明の構成要件(d) 技術的意義は,本件明細書の【図2】(a)及び(b)に示されたような,縫合材が貫通穴を通ることにより繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材との部材間をジグザグ状に縫合する態様で1つの連続した部材で結合するようにした接合形態にあると解される。
(4)本件発明の作用効果と解釈本件明細書における【発明の効果】(【0019】)の記載と「表1」の記載(「比較例1」と【図2】に係る「実施例1」との接合部の耐久性の対比)によれば,本件発明が特許されたのは,本件発明の実施例1として提出した接合部の構造が比較例1の接合部の耐久性「100」に対して「121」と顕著に増大したとの効果が認められたからである。そして,この耐久性の増大は,実施例1に示されているとおり,金属製の外殻部材に設けた複数の貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材がジグザグ状に挿通され,その縫合材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とが接着されたことによるものである。
とすれば,本件明細書の「表1」の「接合部の耐久性」で示された本件発13明の作用効果の点からも,本件発明の構成要件(d) における接合形態も,本件明細書の【図2】に係る実施例1の構成に限定されるべきである。
(5)あてはめ被告製品では,短小な帯片8は,透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な部材であって,透孔7に通されてはいるものの,相互に接着されるFRP製上部外殻部材10と下面側のFRP製下部外殻部材9の両者間にあって,両者の単なる「繋ぎ材」としての働きをするに止まるものであって,これら部材間をジグザグ状に縫合する態様で結合する働きをするものではないから,構成要件(d) の縫合材に期待される作用効果を奏することはできず,構成要件(d)を充足しない。
(6)被告製品の技術的思想なお,被告製品においては,金属製外殻部材をFRP製上部外殻部材とFRP製下部外殻部材とで上下から挟んで一体化させた上,このFRP製各外殻部材を短小な帯片で繋ぎ,一体化を強めることで剥離を防止している。つまり,短小な帯片の効果は,いわば一体化の強化である。
そして,FRP製各外殻部材には樹脂が含浸されているため,各部材の結合にあたって,加圧,加熱処理を行うことにより,金属製外殻部材の貫通穴が炭素繊維である短小な帯片と樹脂で充填され,被告製品における各部材の結合力が高められる。
このように,被告製品は,本件発明と技術的思想そのものが全く異なっている。
(7)原告の主張についてア「縫合材」の解釈について原告は,「縫合材」の解釈にあたり,本件明細書に記載のない接合強化原理や張力補強原理なる概念を主張し,「縫合」の本来の意味を全く無視した概念を作り出すものであって失当である。
14イ本件発明の接合強化原理等について原告の主張する「接合強化原理」や「張力補強原理」なる概念は,本件明細書に一切記載がなく,具体的にどのような原理を意味するか不明であり,本件明細書に示唆さえされていない。
また,原告の主張によれば,「張力補強原理」なる概念は,縫合材に働く張力により金属製外殻部材側に「引き寄せる力」(「剥離を阻止する力」)を利用するものであって,反対面での係止方法が極めて重要ななずである。にもかかわらず,原告は,係止(止着)されていれば,その係止方法は問わないなどと主張しており,理論的に破綻している。
2争点(2)〔均等侵害の成否〕〔原告の主張〕本件発明の「縫合材」の解釈と被告製品の構成 の内容が被告の主張のとおりであったとしても,被告製品は,本件発明の技術的範囲均等である。
(1)特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分でないこと被告の主張を前提とすると,本件発明は,被告製品の構成と対比して,?@本件発明の「縫合材」が金属製外殻部材の表面と裏面との双方において連続している点で,被告製品の「短小帯状片」と異なり,?A本件発明が「FRP製下部外殻部材」を有していない点で,被告製品と異なっている。
他方,本件発明の本質的な部分は,縫合材による張力補強を利用して異種部材同士の接合強度を高める点にあり,このような作用効果をもたらす構成の関係でみれば,「縫合材」が?@プラスチック製外殻部材と一体的に接着するとともに,?Aこれが貫通穴を通じて金属製外殻部材の反対面側に通されていることの2点が採用されていれば,「縫合材の張力(反作用)」による接合強化原理の利用が可能である。
まず,「縫合材」の金属製外殻部材の「表面」における態様については,15縫合材が金属製外殻部材の表面においてプラスチック製外殻部材と一体的に接着さえしていれば,必要にして十分であり,金属製外殻部材の表面において,縫合材が連続か不連続かは,本件発明の本質的部分に関わる構成ではない。次に,「縫合材」の金属製外殻部材の「裏面」における態様,すなわち,縫合材が金属製外殻部材の反対面でどのような態様で接着されているかについては,裏面における縫合材の係止方法の問題にすぎず,本件発明は,縫合材の係止方法を何ら問うところではないから,その本質的部分に関わる構成ではない。
さらに,本件発明が「FRP製下部外殻部材」を有しない点についても,被告製品のFRP製下部外殻部材は,被告製品の短小帯状片を反対面側において係止(止着)する手段にすぎないから,その係止方法を問わない本件発明において,その本質的部分に関わる構成でないことは明らかである。
(2)特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えても,特許発明の目的を達することができ,同一の作用効果を奏すること被告製品は,本件発明の「縫合材」の代わりに「短小帯状片」を用い,加えて,金属製外殻部材の反対面に「FRP製下部外殻部材」を設けているものの,被告製品が本件発明の有する「縫合材の張力」を利用し,金属製外殻部材とFRP製外殻部材との「異種部材同士の接合強度を高める」という本件発明と同一の作用効果を奏していることは明らかである。
本件発明の構成について,被告製品におけるものと置き換えても,本件発明の目的は達成され,同一の作用効果を奏する。
(3)特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分を対象製品等におけるものと置き換えることに,当業者が,対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであること当業者が,本件発明の構成に代えて,?@その「縫合材」を被告製品が採用16する「短小帯状片」に置き換えること,?A「FRP製下部外殻部材」を加えること,すなわち,別紙原告説明図記載のAないしE(以下単に「図A」,「図B」,「図C」,「図D」及び「図E」という。)のとおり,図Aの構成に代えて図Eの構成を採用することは容易である。
図Aは,本件発明の「金属製外殻部材の貫通穴間をジグザグ状に通過する縫合材」を模式的に図示したものである。
図Bは,図Aにおいて,金属製外殻部材の上面と下面を通過している部分(aとa’)をそれぞれ切除した状態であり,金属製外殻部材上面側では縫合材a’部分が切除されているものの,縫合材は同種材料製のFRP製上部外殻部材(「上部FRP製外殻部材」)に一体に接着されているため,切除された部分a’はFRP製上部外殻部材に架橋された形になり,切除部分a’は存在しないのと同じである。
図Cは,図Bにおいて,金属製外殻部材下側の縫合材切除部分aをも,同種材料であるFRP製の部材bで一体に接着,架橋した状態を示す。金属製外殻部材上面側の縫合材切除部分a’の場合と同様,この場合も,切除部分aは部材bにより架橋されるため,切除部分aは存在しないのと同じになる。
すなわち,図Cの構成と図Aの構成とは,一見相違するものの,短小帯状片がFRP製上部外殻部材と下部(b)のFRP製部材で互いに接続されて1つの「ジグザグ状の縫合材」を構成しており,実質的には同一の構成であって,縫合材が奏する張力補強効果についても,全く同一である。
図Dは,縫合材の切除部分aを架橋するFRP製部材bをそれぞれ延長して一体のFRP製部材(FRP製下部外殻部材)とした状態を示す。この場合も,それぞれの短小帯状片は上部と下部のFRP製外殻部材により互いに接続されて実質的に1つの連続した「ジグザグ状の縫合材」を構成していることは図Cと同様である。すなわち,図D,図C,図Aの構成は,実質的に同一である。
17図Eは,図Dにおいて,短小帯状片を1つおきに180度回転させて得られる構成,すなわち被告製品の構成を示す。図Eの構成は,単に図Dの短小帯状片を回転させただけであり,何ら実質的な構成上の差異を生じさせるものではなく,張力補強効果の点においても,図Eと図A,図C及び図Dとの間で何ら相違しない。
このように,図A(本件発明の構成),図C,図D及び図E(被告製品の構成)は,互いに実質的に同一の構成であり,当業者は,図Eの構成に容易に想到し得たものである。
(4)対象製品等が,特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから出願時に容易に推考できたものではないこと金属製外殻部材に透孔を穿ち,ここに「短小帯状片」を通し,短小帯状片に働く「張力を利用」し,FRP製外殻部材と金属製外殻部材の「接合強度を高める」被告製品は,本件発明の出願時における公知技術と同一でなく,また,当業者が容易に推考できたものでもない。
(5)対象製品等が,特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないこと原告において,本件発明の技術的範囲から,被告製品の態様,すなわち,一続きの「縫合材」の代わりに「短小帯状片」を有し,かつ,「FRP製下部外殻部材」を有するとの被告製品の構成について,本件発明の出願手続上,これを意識的に除外したとの事情は存在しない。
〔被告の主張〕本件発明と被告製品とは,均等でない。
(1)均等論の理解の誤り均等論は,「特許請求の範囲に記載された構成中に対象製品等(相手方が製造等をする製品又は用いる方法のこと)と異なる部分が存する場合」に,当該特許発明均等対象製品等を技術的範囲に属するものと解する考え方18であり,本件発明と被告製品とは,本件発明の「縫合材」と被告製品の「短小帯状片」とが「異なる部分」にあたるから,これを前提に均等であるかを論ずべきである。
しかし,原告は,この「異なる部分」について,本件明細書の特許請求の範囲に記載された本件発明の「縫合材」と被告製品の「短小帯状片」の構成でなく,恣意的に,本件明細書の特許請求の範囲に記載されていない「縫合材」の具体的な構成を定義付け,これと「短小帯状片」の構成とを対比しており,前提が誤っている。
(2)本件発明の「縫合材」が本質的部分であること本件明細書における【発明が解決しようとする課題】(【0004】),【課題を解決するための手段】(【0005】,【0006】)及び【発明の効果】(【0019】)の記載によれば,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドにおいて,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることを目的として採用された接合形態が本件発明の本質的部分である。
そして,そのような接合形態として,本件発明の構成要件(d) の「該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」構成が採用されたのであるから,本件発明の「縫合材」は,本質的部分である。
したがって,均等論の第1要件を欠くことになり,均等論は成立しない。
(3)被告製品が特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものであること本件特許に係る発明は,平成14年1月11日に特願2002-467519で出願され,平成15年7月22日に特開2003-205055で公開され(公開特許公報,乙5),同年11月18日に拒絶理由通知(乙6)がされた。そのため,原告において,平成16年4月12日付け意見書(乙7)で補正とともに意見を述べ,その後,拒絶査定(乙8)がされたものの,拒絶査定不服の審判請求の際に,平成17年5月9日付け手続補正書(乙10)を提出している。
これらの経過によると,本件発明は,公開特許公報(乙5)に記載された当初の明細書及び図面に開示した複数の実施例の中から,【図6】(本件明細書の【図2】に相当)に記載した実施例に対応するものに限定した発明であって,特許請求の範囲の記載における「金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し,該縫合材により前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した」との発明特定事項は,上記【図6】に対応する構成を意味したものであり,また,「接着界面側とその反対面側とに通し」と記載した事項は,当初の【図6】において,繊維強化プラスチック製の縫合材が貫通穴を介して金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とをジグザグ状に通過している構成を意味したものである。
このように,本件発明の出願経過参酌すれば,本件発明の構成要件(d)の構成は,本件明細書の【図2】(a)及び(b)に示されたような,縫合材が貫通穴を通ることにより繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材との部材間をジグザグ状に縫合する態様で1つの連続した部材で結合するようにした接合形態に限定されたのであり,被告製品は,本件発明の特許出願手続において意識的に除外されたものである。
したがって,均等論の第5要件を欠くことになり,均等論は成立しない。
3争点(3)〔進歩性欠如の有無〕について〔被告の主張〕20本件発明の「縫合材」について,仮に,繊維強化プラスチック製外殻部材と一体的に接着されると同時に,金属製外殻部材の貫通穴を通って接着面とその反対面側に通されるものとすれば,本件発明は,特開平1-166782号公報(乙14,以下「乙14公報」という。)に開示された発明(以下「乙14発明」という。)に実開昭61-200077号のマイクロフィルム(乙13,以下「乙13公報」という。)に開示された考案(以下「乙13考案」という。)を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することができるから,本件特許は特許無効審判によって無効にされるべきものである。
(1)乙14発明と本件発明ア乙14公報には,次の記載がある。
(ア)2頁右上欄6行ないし9行「熱可塑性樹脂を主体とし、中空構造体で軽量かつ耐衝撃性に優れた材料でヘッド本体を成形し、その外周部にシャフト挿着部を付けた金属枠を設けたゴルフクラブが提案された。」(イ)2頁右上欄12行ないし14行「しかし、FRTP本体と金属枠がボールを打った時の衝撃力によりゆるむ問題があった。」(ウ)2頁右上欄15行ないし19行「本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、熱可塑性樹脂を主体とする生産性の良い材料を用いた中空構造体で軽量かつ耐衝撃性に優れたゴルフクラブ用ヘッドを提供することにある。」(エ)2頁左下欄1行ないし7行「上記目的を達成するため〔省略〕、本発明は、射出成形法により成形した熱可塑性樹脂を主体とする中空構造体の繊維強化プラスチック製ゴルフヘッドにおいて、ゴルフシャフト挿着部を設けた金属枠とヘッ21ド本体とを一体成形したものである。」(オ)2頁左下欄8行ないし17行「本発明に用いられる熱可霜〔判決注・「塑」の誤記と認める。〕性樹脂は例えばABS樹脂、アクリル樹脂、ナイロン樹脂〔省略〕などである。〔省略〕これに充填材として例えば〔省略〕カーボン繊維〔省略〕などの繊維補強材を加えた材料を用い」(カ)2頁左下欄20行ないし右下欄4行「金属枠はシャフト挿着部、いわゆるネック部を有しヘッド本体の外周に固定できる形状であればよく制限はないが通常リング状であり又材質としては鉄、アルミニウム、銅、チタン等の金属またはこれらの合金などが適当である」(キ)3頁左上欄9行ないし11行「金属枠に慣〔判決注・「貫」の誤記と認める。〕通穴や凹凸を設けることにより、さらにヘッドと金属枠の結合力を強くできる。」そして,金属枠の形状について,「ところで、ウッドクラブは一般にヘッド本体の底面のソール部に、重心を下げるためとヘッド本体を保護する目的でアルミニウムや黄銅のソールプレートが固定されている。そこで本発明の場合、金属枠の下側の幅寸法を上側より大きくして従来のソールプレートの役割をもたせると重心が下がりボールが打ちやすくなり又ヘッド本体の保護も可能となる。」(3頁右上欄3行ないし10行)と記載され,金属枠がリング状に限られず,下面側を上側より広幅にして従来のソールプレートと同様に露出することを提案している。また,実施例の記載において,鉄製の金属枠3を使用した例を示し,「フェイス部材5はシャフト挿着部を有する鉄製の金属枠3と一体成形してある。」(3頁左下欄6行ないし8行),「鉄製の金属枠3は、幅約10mm、厚さ約1.2mmで周状に直径3mmの穴9が15個設けてあり、フェイス部材5を成形する時に金22型内で一体成形される。」(3頁左下欄16行ないし19行)と記載されている。
イこれを前提に本件発明と乙14発明とを対比する。
(ア)目的本件発明の目的は,「金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることを可能にした中空ゴルフクラブヘッドを提供すること」(本件明細書【0004】)であり,他方,乙14発明の目的は,「FRTP本体と金属枠がボールを打った時の衝撃力によりゆるむ問題」(乙14公報2頁右上欄12行ないし14行)に鑑みて,「熱可塑性樹脂を主体とする生産性の良い材料を用いた中空構造体で軽量かつ耐衝撃性に優れたゴルフクラブ用ヘッドを提供すること」(乙14公報2頁右上欄16行ないし19行)であって,両者は金属製の外殻部材とプラスチック製の外殻部材との接合強度を高める点において目的が同じである。
(イ)構成要件a構成要件(a)〔金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって,〕について構成要件(a)のうち「金属製の外殻部材」は,「上述した実施形態ではフェース部、ソール部及びネック部をなす金属製の外殻部材と、
クラウン部をなす繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を形成した場合について説明したが、本発明ではヘッド本体において金属製の外殻部材が占める部分と繊維強化プラスチック製の外殻部材が占める部分は特に限定されるものではない。」(本件明細書【0015】)との記載のとおり,金属製の外殻部材がヘッド本体の大半を占めるような実施形態の場合に限らず,金属製の23外殻部材がヘッド本体のほんの一部を占める場合でもよいとされている。
すると,乙14発明の「金属枠」は,シャフト挿着部と一体的に成形され,その下側部分は広幅にして従来のソールプレートの役割をもたすことができるとされているから,本件発明の「金属製の外殻部材」に相当する。
したがって,乙14発明も「金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材をと結合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッド」の構成を有することになり,乙14公報には,本件発明の構成要件(a) が開示されている。
b構成要件(b) 〔前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,〕について乙14発明では,金属枠(金属製の外殻部材に該当)の接合部に繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部が一体的に金型内で成形されて接着している。
したがって,乙14公報には,本件発明の構成要件(b) が開示されている。
c構成要件(c) 〔前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け,〕乙14公報には,「鉄製の金属枠3は、幅約10mm、厚さ約1.2mmで周状に直径3mmの穴9が15個設けてあり、フェイス部材5を成形する時に金型内で一体成形される。」(3頁左下欄16行ないし19行)と記載されている。
したがって,乙14公報には,本件発明の構成要件(c) が開示されている。
d構成要件(e) 〔ことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。〕乙14発明の目的の記載から明らかなとおり,乙14発明も中空ゴ24ルフクラブヘッドを提供するものであるから,乙14公報には,本件発明の構成要件(e) が開示されている。
ウ以上のとおり,乙14発明は,本件発明の構成要件(a)ないし(c)及び(e) に該当する構成を備えている。
(2)乙13考案と本件発明ア乙13公報の記載(ア)1頁18行ないし2頁5行「(従来の技術)従来,第6図(a),(b)に示す如く、ソール部2’と一体に設けた金属芯体3’に繊維強化プラスチックの外皮4’を被覆してなるゴルフクラブ用アイアンヘッド1’が公知である。なかには、金属芯体に複数の貫通孔を設けて、金属部とプラスチック部の接着力を高めたものもある(例えば実開昭59-16670号)。」(イ)2頁11行ないし19行「(考案が解決しようとする問題点)しかしながら、上記従来のヘッドは、金属部が大部分を占めているため、繊維強化プラスチック(F.R.P.)を使用することによる軽量効果が充分に得られないという問題点がある。これを解決するため金属芯体を小さくすれば、繊維強化プラスチックと芯体の接着強度が低下し、クラブフェースでボールを叩いたときに繊維強化プラスチック層が剥離するという問題が生じた。」(ウ)2頁20行ないし3頁12行「(問題点を解決するための手段)本考案は、上記問題点を解決するため、次のような構成を採用した。
すなわち、本考案にかかるゴルフクラブのヘッドは、シャフト挿入部と連続する金属製ソール部と、該ソール部と一体で上方に突出する25金属製芯体とをそなえ、該芯体に繊維強化プラスチックの外皮を被覆してなるゴルフクラブのヘッドであって、前記芯体の下側を潜るようにして芯体の表裏両側に開口する通孔をソール部に設け、該通孔に前記外皮となる繊維強化プラスチックと連続する繊維強化プラスチックを充填したことを特徴としている。」(エ)2頁13行ないし18行「(作用)〔省略〕ソール部に設けた通孔を通じて表裏両側の繊維強化プラスチックが結合一体化しているので、芯体に対する接着強度が高い。」(オ)4頁19行ないし5頁5行「繊維強化プラスチックの強化繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維〔省略〕等種々の繊維を使用することができる。特に、通孔7内に充填するプラスチックの強化繊維は、他の部分のプラスチックの強化繊維よりも長繊維を使用するのが強度的に好ましい。」(カ)5頁6行ないし6頁3行「このようなヘッドは、例えば次のようにして製作することができる。
先ず金属部は、シャフト挿入部5と連結したソール部2と、該ソール部から上方に突出する芯体3を一体に成形し、その後に通孔7を穿設してもよく、或いは、前述の如く、シャフト挿入部5と連結したソール部2に溝を設けたものを予め製造し、その後で、芯体3を溝上に載せる形で溶接一体化してもよい。
いずれの場合も、通孔7の数は1個でもよく、複数個でもよい。通孔7の断面形状は、エッジ(角)のない丸みを帯びた形状としておく方が、繊維や樹脂の流れをよくする上で好ましい。
このようにして得られた金属部を所定の金型内にセットして、圧縮成形により繊維強化プラスチックを一体に成形する。この成形前に、
26通孔7内に長い強化繊維10を束ねたものや、クロス状に編んだ繊維を丸めたもの等を第4図および第5図に示すように予め通しておいてもよい。」(キ)7頁16行ないし8頁1行「(考案の効果)以上の説明から明らかなように、本考案にかかるゴルフクラブのヘッドは、従来のものに較べてヘッドの軽量化をはかることができ、しかも金属部とプラスチック部の接着強度の高いすぐれたものとなった。」イ乙13考案と本件発明との対比乙13考案の「ソール部(2)」,「外皮(4)」,「通孔(7)」,「長い強化繊維(10)」がそれぞれ本件発明の「金属製外殻部材」,「繊維強化プラスチック製外殻部材」,「貫通穴」,「縫合材」に対応する。
そして,乙13公報の「第4図」又は「第5図」から明らかなように,乙13考案のゴルフクラブヘッドにおいても,長い強化繊維(10:縫合材)を束ねたもの,あるいは丸めたものが,芯体(3)の前面側において外皮(4:繊維強化プラスチック製外殻部材)と一体的に接着されると同時に長い強化繊維(10:縫合材)がソール部(2:金属製外殻部材)の通孔(7:貫通穴)を通って芯体(3)の反対側である背面に通されている。
したがって,乙13考案には,本件発明の構成要件(d) 〔該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合した〕に該当する構成を備えている。
27(3)乙14発明と乙13考案との組合せ乙14発明は,「ゴルフクラブ用ヘッドの製造法」に関するものであり,他方,乙13考案は,「ゴルフクラブのヘッド」に関するものであって,ともにゴルフクラブヘッドを対象とする点において共通している。
また,乙13考案は,その「産業上の利用分野」が「ゴルフクラブヘッドのアイアンヘッドに関するもの」とされており,乙14発明では,「熱可塑性樹脂を主体材料とするゴルフクラブ用ヘッドの構造に関するものである」としてヘッドの種類が限定されておらず,また,従来技術としては,アイアン用ヘッド材とウッド用ヘッド材との両方が挙げられており,ともに,ゴルフクラブ用ヘッドという点で共通している。
そして,乙14発明の技術的課題と乙13考案の技術的課題は,ともにゴルフクラブ用ヘッドを構成する金属部材と合成樹脂部材との接合強度の問題を解決することであり,この解決手段として金属部材に複数の透孔を設けて両者の接合強度を高める点において共通しているから,乙14発明の技術に乙13考案の技術を組み合わせることに何らの困難性もない。
(4)したがって,本件発明は,乙14発明に乙13考案を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得たものであり,本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるから,原告は,特許法104条の3により,本件特許権を行使することができない。
〔原告の主張〕本件特許は,無効審判により無効にされるべきものということはできず,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3に基づいて制限されることはない。
(1)乙14発明について本件発明の構成要件(a)ないし(c)及び(e) について,少なくとも,構成要件(b) 〔前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に,〕は,乙14公報に開示も示唆もない。
28乙14公報には,1頁の請求項1に「射出成形法により成形した〔省略〕金属枠とヘッド本体とを一体成形したことを特徴とするゴルフクラブ用ヘッドの製造法。」,2頁右下欄最下行ないし3頁左上欄1行に「ヘッドのフェイス側の部分と金属枠を金型内で一体成形」,3頁左下欄6行ないし8行に「フェイス部材5はシャフト装着部を有する鉄製の金属枠3と一体成形してある。」等の記載があるから,乙14発明は,金属枠(被告が金属製外殻部材に相当すると主張するもの)とヘッド本体(被告が繊維強化プラスチック製外殻部材に相当すると主張するもの)とは射出成形により金型内で一体成形されたものである。
ここにいう「射出成形法」とは,成形材料を加熱溶融させて,あらかじめ閉じられた金型のキャビティに射出充てんした後,固化又は硬化させて成型品とする成形法であり,圧縮成形法と同様に金型,射出成形機などの設備を必要とする。すなわち,乙14公報における「ヘッド部材」と「金属枠」とは,この射出成形法を用いて,溶融状態のヘッド部材成形材料と金属枠とを金型内で同時に加工することにより,当初から一体のものとして形成されており,別個に形成された部材を互いに接着したものではない。
これに対し,本件発明の構成要件(b) は,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材という別個に形成された2つの部材を互いに接着したものである。
したがって,本件発明の少なくとも構成要件(b) については,乙14公報に開示も示唆もない。
(2)乙13考案について乙13公報には,「繊維強化プラスチック製外殻部材と一体的に接着されると同時に,金属製外殻部材の貫通穴を通って接着面とその反対面側に通られるもの」として定義される本件発明の「縫合材」については,開示も示唆もされていないから,本件発明の構成要件(d) は,乙13公報に開示も示唆29もない。
まず,被告は,乙13考案の「ソール部(2)」,「外皮(4)」,「通孔(7)」,「長い強化繊維(10)」がそれぞれ本件発明の「金属製外殻部材」,「繊維強化プラスチック製外殻部材」,「貫通穴」,「縫合材」に対応するとして,この「縫合材」の構成が乙13公報に開示されていると主張する。
しかしながら,本件発明の「貫通穴」に相当すると主張する「通孔(7)」は,ソール部(2)の外皮(4)との接合面に設けられた2つの開口を円弧状に結んでいるのみであり,ソール部(2)を貫通していないから,「通孔(7)」が本件発明の「貫通穴」に相当するとの主張は,明らかに誤りである。
次に,本件発明は,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを「接着」により接合した構成であるのに対し,乙13公報では,「(芯体とソール部とを含む)金属部を所定の金型内にセットして,圧縮成形により繊維強化プラスチックを一体に成形する」(5頁18行ないし20行)ものである点で,本件発明と乙13考案とはその基本構成が相違する。
乙13考案では,圧縮成形を行い,金型内で流動状態となった繊維強化プラスチックが芯体を包み込むとともに芯体下側に設けられた通孔内に流入,充填され,硬化することにより,「該通孔に前記外皮となる繊維強化プラスチックと連続する繊維強化プラスチックを充填」した構成(請求の範囲6行ないし8行)が得られ,芯体と外皮との接着強度が高められる。また,圧縮成形を行う前に予め通孔7内に長い強化繊維を通しておくことにより,強化繊維は圧縮成形時に通孔内に充填された樹脂内に埋め込まれ,芯体と同様,外皮と一体成形されるようになる。
つまり,乙13考案では,外皮(繊維強化プラスチック)と長い強化繊維とは成形材料(粉末,ペレット等)の段階から金型内で一緒に加工され,当30初から一体的に形成されており,別個の部材が互いに接着されるものでないから,乙13公報には,「長い強化繊維(10:縫合材)を束ねたもの,あるいは丸めたものが,芯体(3)の前面側において外皮(4:繊維強化プラスチック製外殻部材)と一体的に接着」されていることはない。
このように,本件発明では,「金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを「接着」により接合した構成」であるのに対し,乙13考案では,「芯体とソール部とを含む金属部を圧縮成形により繊維強化プラスチック製の外皮に埋め込む形で「一体に成形」する構成」である点で基本的に相違する。本件発明は,金型,圧縮成形機などのコストのかかる設備を用いず,「縫合材」を使用して繊維強化プラスチック部材と金属製外殻部材とを「接着」により接合するという極めて簡易な構成をとりながら,異種部材の接合強度を高めたものであり,乙13公報に開示された構成とは,その前提からして全く異なる(3)まとめ乙14発明も乙13考案も,ともに圧縮成形,射出成形などを用いて「金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを当初から一体に成形することにより,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材との接合強度を高める」という本件発明と全く構成の異なる従来技術を開示しているにすぎない。
本件発明は,「縫合材」(構成要件(d) )を使用することにより,繊維強化プラスチック部材と金属製外殻部材とを「接着」により接合する(構成要件(b) )という極めて簡易な構成をとりながら,圧縮成形や射出成形によらなければ得られなかった接合強度を達成することを可能にするという優れた作用効果を奏するものであり,この作用効果は,構成要件(b) と構成要件(d) を欠く乙14発明と乙13考案とをいかに組み合わせても,本件発明の構成を得ることはできず,当業者において,これらの組合せによっては,本31件発明を容易に想到することはできない。
4争点(4)〔原告の補償金等〕について〔原告の主張〕原告は,被告に対し,次のとおり,補償金と賠償金及びこれらに対する遅延損害金の支払を請求する。
(1)補償金原告は,本件発明が平成15年7月22日に出願公開された後の同年9月19日,被告に対し,内容証明郵便(甲3)を送付するとともに,別便で本件発明の公開特許公報を郵送し,被告製品の製造,販売が補償金請求の対象となる旨を警告した。
被告は,上記の警告がされてから本件特許権の設定登録がされた平成17年9月30日までの間,少なくとも別紙「被告製品の販売本数,売上高(予測)」の「登録前(2003.9.20-2005.9.30)」欄記載のとおり,被告製品を販売したから,その売上総額は,26億1697万4057円である。本件発明の実施に対して受けるべき金額は,被告製品の売上総額の8パーセントを下らない。
したがって,原告は,被告に対し,特許法65条1項に基づき補償金2億0935万7924円の請求権を有する。
2616974057*0.08=209357924.5なお,日本企業の実務慣行に照らして,出願が権利化される前の段階において「将来権利を行使する」旨の警告文書を送付することは不適切であり,出願の存在及び内容と将来権利化される可能性をあらかじめ相手方に知らせれば,不意打ちの防止として,特許法65条1項の要件を充たしている。
(2)損害賠償金被告は,本件特許権の登録から平成19年5月31日までの間,少なくとも別紙「被告製品の販売本数,売上高(予測)」の「登録後(2005.10.1-232007.5.31)」欄記載のとおり,被告製品を販売したから,その売上総額は,1億9700万1885円である。被告が本件発明の実施によって受けた利益は,その売上額の30パーセントを下らない。
したがって,原告は,被告に対し,民法709条に基づき損害賠償金5910万0565円の請求権を有する。
197001885*0.3=59100565.5仮に,実施料率を基礎として損害賠償額を算出すれば,本件発明の実施に対して受けるべき金額は,被告製品の売上総額の8パーセントを下らないから,原告は,1576万0150円の請求権を有する。
197001885*0.08=15760150.8(3)まとめ原告は,被告に対し,前記(1)の補償金と前記(2)の損害賠償金との合計2億6845万8489円あるいは合計2億2511万8074円の一部請求として2億円及び訴状送達日の翌日である平成19年11月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
209357924+59100565=268458489209357924+15760150=225118074〔被告の主張〕原告の主張する補償金等を否認ないし争う。
(1)補償金について原告が被告に対して平成15年9月19日付けで差し出した内容証明郵便の文面は,「弊社と致しましては、貴社が製造販売しておりますサイバースターパワーブリッドのドライバー用ゴルフクラブヘッドとの関係で注目致しております。つきましては、貴社においてご検討賜れば幸甚に存じます。」と述べるにとどまり,「特許権の設定の登録がされた場合に警告後の行為につき補償金請求権を行使する」旨の記載がないから,特許法65条133項の要件を充たしているか疑問がある。
補償金の額は,これを否認し,争う。
(2)損害賠償金について否認し,争う。
なお,原告において,特許法102条2項の推定規定の適用を主張するのであれば,本件発明の自己実施について何らの主張もされていないから,主張自体失当である。
第4当裁判所の判断1争点(1)〔構成要件(d) の充足性〕について(1)前記第2の1前提となる事実に,証拠(甲2,4ないし6,乙2ないし12)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
ア本件明細書(甲2)の記載(ア)【発明の属する技術分野】「本発明は、中空構造を有するゴルフクラブヘッドに関し、更に詳しくは、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるようにした中空ゴルフクラブヘッドに関する。」(【0001】)(イ)【従来の技術】「例えば、特許第2764883号公報、特開2000-229135号公報、特許第2773009号公報には、異種素材を複合してなるゴルフクラブヘッドが開示されている。このようなゴルフクラブヘッドによれば、金属材料や樹脂材料の組み合わせに基づいて重心位置を任意に設定したり、限られたヘッド質量の中でヘッド体積を最大限に大きくすることができるなどの利点があり、飛びや方向性を含むゴルフクラブ性能の向上が可能である。」(【0002】)「しかしながら、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部34材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成しようとした場合、その接合強度が十分に得られず、ゴルフクラブヘッドとしての耐久性を確保することが極めて困難であった。」(【0003】)(ウ)【発明が解決しようとする課題】「本発明の目的は、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることを可能にした中空ゴルフクラブヘッドを提供することにある。」(【0004】)(エ)【課題を解決するための手段】「上記目的を達成するための本発明の中空ゴルフクラブヘッドは、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって、前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、
該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とするものである。」(【0005】)「このように金属製の外殻部材の接合部に繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し、該縫合材により繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合したことにより、これら異種素材からなる外殻部材の接合強度を高めることが可能になる。従って、ゴルフクラブヘッドとしての耐久性を確保しながら、異種素材の組み合わせに基づいて飛びを含むゴルフクラブ性能を向上することが可能になる。」(【0006】)(オ)【発明の実施の形態】35「上記中空ゴルフクラブヘッドでは、異種素材の組み合わせに基づいて重心位置を任意に設定したり、限られたヘッド質量の中でヘッド体積を最大限に大きくすることが可能であり、それによって飛びを含むゴルフクラブ性能の向上が可能であるが、金属製の外殻部材11と繊維強化プラスチック製の外殻部材21とを単に重ね合わせて接着しただけでは、
その接合強度が不十分である。そこで、本発明では以下に述べる接合形態で、これら異種素材の外殻部材を高い強度で複合するのである。」(【0010】)「図2(a),(b)の接合形態では、金属製の外殻部材11の接合部11aに繊維強化プラスチック製の外殻部材21の接合部21aを接着し、かつ金属製の外殻部材11の接合部11aに複数の貫通穴13設け、
該貫通穴13に繊維強化プラスチック製の縫合材22を通し、該縫合材22により繊維強化プラスチック製の外殻部材21と金属製の外殻部材11とを結合している。上記接合形態によれば、縫合材22が金属製の外殻部材11に対して繊維強化プラスチック製の外殻部材21を強固に結び付けるため、ゴルフクラブヘッドとして十分な耐久性が得られる。
なお、外殻部材21と縫合材22はプラスチック同士であって相互接着性が良好であるため図示のように互いに密着するだけで良い。」(【0011】)(カ)【実施例】「金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドにおいて、その接合形態を種々異ならせた比較例1(従来例)及び実施例1をそれぞれ作製した。」(【0016】)「これらゴルフクラブヘッドについて、接合部の耐久性を評価し、その結果を表1に示した。評価結果は、比較例1を100とする指数にて示36した。接合部の耐久性については、指数値が大きいほど耐久性が良好であることを意味する。」(【0017】)(キ)【表1】「この表1から判るように、実施例1のゴルフクラブヘッドは、比較例1に比べて、接合部の耐久性が優れていた。」(【0018】)(ク)【発明の効果】「以上説明したように本発明によれば、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成するに際して、金属製の外殻部材の接合部に繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を金属製外殻部材の繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合したから、金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めることができる。従って、ゴルフクラブヘッドとしての耐久性を確保しながら、異種素材の組み合わせに基づいて飛びを含むゴルフクラブ性能を向上することが可能になる。」(【0019】)(ケ)【図面の簡単な説明】「【図2】本発明のゴルフクラブヘッドにおける接合形態を示し、
(a)は平面図、(b)は断面図である。」37「【符号の説明】1ヘッド本体11金属製の外殻部材11a金属製の外殻部材の接合部13貫通穴21繊維強化プラスチック製の外殻部材21a繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部22縫合材」(コ)【図2】「」イ辞書における語義(ア)広辞苑第4版(岩波書店,乙2)「【縫合】?@ぬいあわせること。〔省略〕」「【縫い合わせる】〔省略〕縫って両方が合うようにする。合わせて縫う。」「【縫う】〔省略〕?@糸を通した針で布や皮などを刺し綴る。衣服を作る。
〔省略〕?A縫取りをする。刺繍をする。〔省略〕?B針で布や皮などを縫ったように、槍または矢が鎧などを貫く。〔省略〕?C物と物との間を左右に曲折しながら通る。「人の間を-・って行く」」(イ)特許技術用語集第3版(日刊工業新聞社,乙3)38「縫合〔ほうごう〕suture,stitching縫い合わせること。
(例)生地を縫合してカーテンを作る。
外科手術で患部を縫合する。」(ウ)特許技術用語類語集第2版(日刊工業新聞社,乙4)「縫合〔ほうごう〕suture縫い合わせること。
例)いくつかの布片を縫合して,特製のジーパンを製造する/使いふるしたタオルを縫合して,雑巾を作る」ウ出願経過における記載の変遷等(ア)平成14年1月11日付け特許願(甲4)及び平成15年7月22日付け公開特許公報(乙5)「【請求項5】金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって、前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し、該縫合材により前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。」(イ)平成15年11月18日付け拒絶理由通知書(乙6)審査官により,請求項5及び6について,特許法36条6項2号違反,請求項1ないし7について,同法29条2項違反が通知された。
「(1)請求項5における「金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、
該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し、該縫合材により前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したこと」なる発明特定事項については、a)繊維強化プラスチック製39の外殻部材と縫合材とを密着させるだけによって結合させる態様(本願図面における【図6】の態様)、b)繊維強化プラスチック製の外殻部材にも貫通穴を設け、該貫通穴にも縫合材を通すことによって、2つの外殻部材どうしを縫合材の縫合力のみによって結合させる態様、c)前記a及びbの態様を併用する態様のうちいずれの態様を意味しているのか明瞭でない。よって、請求項5-7に係る発明は明確でない。」(ウ)平成16年4月12日付け手続補正書(甲5,乙12)「【請求項6】金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって、前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその裏面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。」(エ)平成16年4月12日付け意見書(乙7)「(3)記載不備について審査官殿は、請求項5の発明特定事項が明瞭でないと指摘されております。請求項5については、本願の図6の実施態様に対応するように補正しました。従って、請求項5(補正後の請求項6)に係る発明は補正により明確になったものと思料いたします。」(オ)平成17年2月15日付け拒絶査定(乙8)審査官により,請求項1ないし5,7ないし9について,特許法29条2項違反として拒絶査定がされた。
(カ)平成17年4月7日付け審判請求書(乙9)40原告は,「原査定を取り消す、この出願の発明は、これを特許すべきものとする」との審決を求めた。
(キ)平成17年5月9日付け手続補正書(審判請求書)(乙10)原告は,補正により,請求項1ないし5を削除し,請求項6を請求項1に繰り上げた。
「補正後の請求項1において、「接着界面側とその反対面側とに通して」とする補正事項は、出願当初の明細書の段落〔0018〕及び図6の記載に基づいております。」(ク)平成17年5月9日付け手続補正書(明細書)(甲6)「【請求項1】金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成した中空ゴルフクラブヘッドであって、前記金属製の外殻部材の接合部に前記繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、前記金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴を介して繊維強化プラスチック製の縫合材を前記金属製外殻部材の前記繊維強化プラスチック製外殻部材との接着界面側とその反対面側とに通して前記繊維強化プラスチック製の外殻部材と前記金属製の外殻部材とを結合したことを特徴とする中空ゴルフクラブヘッド。」エ被告製品の構成(ア)本件発明の構成要件に対応する構成として,被告製品が構成,,及びを有することについては,当事者間に争いがない。
(イ)別紙「イ号図面及びその説明書」の記載に加え,金属製外殻部材1の上面フランジ部5をFRP製上部外殻部材9とFRP製下部外殻部材10とが上下から挟み込んだ状態の断面を撮影した写真撮影報告書(乙11)に照らすならば,本件発明の
構成要件(d) に対応する被告製品の構成 は,41 透孔7を介して各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8を前記金属製外殻部材1の上面側のFRP製上部外殻部材10との接着界面側とその反対面側の前記金属製外殻部材1の下面側のFRP製下部外殻部材9との接着界面側とに通して,前記FRP製上部外殻部材10とFRP製下部外殻部材9とを結合してなるであるものと認められる。
(2)検討ア本件発明は,本件明細書【0003】,【0004】及び【0010】の記載のとおり,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成するに際し,単に重ね合わせて接着しただけでは接合強度が不十分であることを前提として,これらの異種素材間の接合強度を高めることを課題としている。
そして,この課題を解決するための手段として,請求項1に記載の構成(本件発明)が採用されたものである(本件明細書【0005】)。この構成による課題の解決の説明として,「金属製の外殻部材の接合部に繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し、該縫合材により繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合したことにより、これら異種素材からなる外殻部材の接合強度を高めることが可能になる。」(本件明細書【0006】)と記載されている。
しかしながら,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを単に重ね合わせて接着しただけでは接合強度が不十分であり,また,金属製の外殻部材の接合部に設けた貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通すだけでは,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻42部材とを結合したことにはならないから,上記の本件明細書【0006】の記載によっては,「縫合材」により金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合強度を高めて結合する原理が示されているということはできない。
イそこで,本件明細書における【発明の実施の形態】,【図2】の記載を考慮すると,接合強度を高める結合方法として,金属製の外殻部材11の接合部11aに複数の貫通穴13を設け,この貫通穴13に繊維強化プラスチック製の縫合材22を一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)との間を曲折しながら連続して通し,この縫合材22を一方の側(接着界面側)において繊維強化プラスチック製の外殻部材21に接着することにより,金属製の外殻部材11と繊維強化プラスチック製の外殻部材21とを結合する例が唯一開示されている(本件明細書【0011】,【図2】)。
上記記載によれば,本件発明における「縫合材」によって金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合強度を高めて結合する原理については,繊維強化プラスチック製の縫合材22は,同種素材である繊維強化プラスチック製の外殻部材21とは相互に接着性が良好であるものの,異種素材である金属製の外殻部材11とは接着しただけでは接合強度が不十分であるから,上記のように縫合材22を金属製の外殻部材11の貫通穴13に接着界面側とその反対面側との間を曲折しながら連続して通した上で,縫合材22と繊維強化プラスチック製の外殻部材21とを接着することにより,金属製の外殻部材11に対して繊維強化プラスチック製の外殻部材21を強固に結合するものと理解することができる。
ウ本件発明のこのような理解に立って,前記(1)イのような「縫合材」における「縫合」ないし「縫う」の辞書的な語義のうち,「物と物との間を左右に曲折しながら通る。」(【縫う】の広辞苑における語義?C)の意43味内容を勘案しつつ,本件明細書に開示された課題と特許請求の範囲に開示された構成との関係を整合的にとらえるならば,本件発明における「縫合材」は,金属製の外殻部材に設けた複数の貫通穴に,金属製の外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)との間を曲折しながら連続して通した部材を意味するものと解するのが相当である(本件発明の縫合材をこのように解さない限り,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるという課題を解決するための手段が特許請求の範囲において実質的に特定されていないといわざるを得ないことになる。)。
被告製品は,各透孔7毎に分離した炭素繊維からなる短小な帯片8(短小帯状片)があるものの,これは上記のような意味における「縫合材」に当たらないことが明らかであるから,被告製品は,本件発明の構成要件(d) を充足しないものというべきである。
エ原告の主張について(ア)原告は,まず,本件発明の接合強化原理について,金属製外殻部材と繊維強化プラスチック製外殻部材とを接着剤により接着することに加え,縫合材の張力をその接着の補強に利用することにあり,この力が繊維強化プラスチック製外殻部材を金属製外殻部材から剥離することを阻止する力として作用し,その結果,異種素材からなる2つの外殻部材の接合強度を高めることになるとし,これは,本件明細書に特に記載はないものの,当業者であれば,本件発明の構成から当然に理解することができること,この縫合材に作用する張力を引き寄せる力(剥離を阻止する力)として,接合の補強に利用することを可能とするための必須の要件は,?@縫合材がプラスチック製外殻部材と一体的に接着されると同時に,?A縫合材が金属製外殻部材の貫通穴を通って接着面とその反対面側に通されることであって,縫合材が貫通穴を通じて反対面側に通されている44限り,その縫合材が接着面の反対側でいかなる方法で係止されているかその係止方法は一切問わないことなどを主張する。
しかしながら,上記の原告の主張は,本件明細書の記載によって裏付けられているとは言い難いものである。
すなわち,本件発明の課題は,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを接合して中空構造のヘッド本体を構成するに際し,単に重ね合わせて接着しただけでは接合強度が不十分であることを前提として,これらの異種素材間の接合強度を高めることにある。そして,そのために,請求項1に記載の構成を採用し,接着に加え,縫合材を用いることにより,両者の外殻部材を結合して接合強度を高めたものである。すると,このような結合方法の原理が機能するために,本件発明として,原告の指摘する「張力」自体ないし「張力を引き寄せる力(剥離を阻止する力)」を生ずる構成が不可欠の存在であるはずである。つまり,原告は,このような力の利用のための必須の要件のうち,2番目について,縫合材が貫通穴を通じて反対面側に通されている限り,その縫合材が接着面の反対側でいかなる方法で係止されているかその係止方法は一切問わないとするものの,この係止方法が本件発明で最も重要な構成要素というべきである。そして,本件明細書の記載によれば,前記アないしウのとおり,縫合材が貫通穴を通じて接着面の反対側に通されて,その面のみで係止されることなく,さらに別の貫通穴を通じて接着面側に戻り,そうして同種素材の接着効果により,より強く接合され,さらに,これを繰り返して結合する構成(「縫合材」について,金属製の外殻部材に設けた複数の貫通穴に,金属製の外殻部材の一方の側(接着界面側)と他方の側(その反対面側)との間を曲折しながら連続して通した部材との理解)が示されているものと解することができる。
このように,本件明細書には,本件発明として異種素材間の接合強度45を高めるための解決手段が記載されているのであって,原告の主張のように,張力さえ機能すれば,係止方法を問わないなどということが本件明細書の記載によって裏付けられることはない。
(イ)原告は,また,「縫合」の意味も,文字通りに縫い合わせるの意味ではなく,部材同士を「接合する(つなげる)」程度の意味に理解することが合理的であり,そもそも,本件発明と被告製品のいずれも,金属製外殻部材のみに貫通穴を穿つものであり,繊維強化プラスチック製外殻部材(FRP製外殻部材)について,一切貫通穴が作られていないから,「縫われていない」などと主張する。
しかしながら,このような意味に「縫合材」を理解するのであれば,本件発明の特許請求の範囲の記載においては,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材の異種素材間の接合強度を高めるという課題を解決するための手段が何ら実質的に特定されていないというほかないから,本件発明のとらえ方として相当でないことが明らかである。
本件発明の構成要素である「縫合材」を辞書的な意味において「物と物との間を左右に曲折しながら通る」と理解してこそ,整合的に本件発明の本質を理解することができることは,前記ウのとおりである。
(3)まとめ以上のとおりであって,被告製品は,本件発明の構成要件(d) を充足せず,文言侵害は成立しない。
2争点(2)〔均等侵害の成否〕について(1)被告製品の構成は,前記1(2)ウのとおり,本件発明の「縫合材」を備えていない点において,本件発明と異なることになる。
本件発明は,前記1(2)のとおり,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材との接合強度を高めるという課題を解決するための手段として,請求項1に記載の構成を採用し,「金属製の外殻部材の接合部に繊46維強化プラスチック製の外殻部材の接合部を接着すると共に、金属製の外殻部材の接合部に貫通穴を設け、該貫通穴に繊維強化プラスチック製の縫合材を通し、該縫合材により繊維強化プラスチック製の外殻部材と金属製の外殻部材とを結合したことにより、これら異種素材からなる外殻部材の接合強度を高めること」(本件明細書【0006】)を可能にしたものである。すなわち,金属製の外殻部材の接合部と繊維強化プラスチック製の外殻部材の接合部とを接着するだけでは十分な接合強度が得られないため,接着に加え,前記1(2)のとおりの構成態様における縫合材を用いることにより,両者の外殻部材を結合して接合強度を高めたものである。
そうすると,本件発明においては,縫合材により,金属製の外殻部材と繊維強化プラスチック製の外殻部材とを結合したことが課題を解決するための特徴的な構成であって,このような縫合材は,本件発明の本質的部分というべきである。
したがって,本件発明の構成中の被告製品と異なる部分である「縫合材」は,本件発明の本質的部分であるから,本件発明の「縫合材」を備えていない被告製品を本件発明と均等なものと解することはできない。
(2)以上のとおりであるから,原告の主張する均等侵害については,その余につき検討するまでもなく,失当である。
3結論したがって,原告の請求は,その余の点につき判断するまでもなく,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
追加
47裁判長裁判官阿部正幸裁判官平田直人裁判官柵木澄子48製品目録1CYBERSTARPOWERBRIDCB2CYBERSTARPOWERBRIDFWCB3CYBERSTARPOWERBRIDFLCB4CYBERSTARPOWERBRIDFLFWCB5CYBERSTARPOWERBRIDRXCB6CYBERSTARPOWERBRIDRXFWCB7CYBERSTARPOWERBRIDTXCB49イ号図面及びその説明書5051第1図はイ号物件に係るゴルフクラブヘッドの中空な金属製外殻部材を示す平面図,第2図はイ号物件に係るゴルフクラブヘッドを一部破断して示す平面図,第3図は第2図の?V-?V線に沿った断面図,第4図は第2図の?W-?W線に沿った断面図である。
第1図において,金属製の外殻部材1はフェース面部2と,底面部3と,側壁部4と,上面フランジ部5とがチタン材から一体的に形成され,これらの各部によって囲まれている金属製外殻部材の内部は空間部6となっている。上面フランジ部5のフェース面部2に隣接する前方フランジ部5aには5個の円形透孔7が穿設されている。
これらの各透孔7には,第2図および第3図に示すように,炭素繊維からなる短小な帯片8が挿入され,各帯片8は隣接する帯片8と分離し,各帯片の上縁部と下縁部はそれぞれ前方フランジ部5aの上面と上面に沿って添設されている。
上面フランジ部5の下面には,その下面全体を被覆するとともにフランジの内周端を超えて内方へ延出する炭素繊維からなる環状のFRP製下部外殻部材9が配設されている。このFRP製下部外殻部材9は,第3図に示すように,前方フランジ部5aにおいては帯片8の下縁部の下面に一体的に接着されている。
また,金属製外殻部材1の上面全体を覆ってゴルフクラブヘッドのクラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10が上面フランジ部5の上面に接着されるとともに環状のFRP製下部外殻部材9上に一体的に接着されて両者でFRP外殻部材を形成している。このクラウン部を構成するFRP製上部外殻部材10は前方フランジ部5aにおいては,帯片8の上縁部の上面に一体的に接着されている。
上記の構成により,第4図に示されているように,金属製外殻部材1の上面フランジ部5を上下から挟むようにFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10が金属製外殻部材1に接着され,かつ前方フランジ部5aにおいてはFRP製下部外殻部材9とFRP製上部外殻部材10は炭素繊維からなる帯片8によって一体的に連結されている。
52原告説明図53被告製品の販売本数,売上高(予測)