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事件 平成 18年 (ワ) 25907号 特許権侵害差止等請求事件
静岡県磐田市<以下略>
原告株式会社ミ ュウテック(旧商号・有限会社ミュ ウテッ ク)
訴訟代理人弁護 士原山邦章
訴訟代理人弁理 士中村誠
同 峰隆司 静岡県袋井市<以下略>
被告有 限会社村松研磨工業
訴訟代理人弁護 士石塚尚
補佐人弁理士山本健男
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2008/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告は,別紙1記載の研磨装置を製造,使用してはならない。
2 被告は,前項の研磨装置を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,612万9500円及びこれに対する平成18年11月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告は,原告の業務に関し別紙2記載の事実を告知してはならない。
5被告は,静岡新聞(株式会社静岡新聞社発行)に,別紙3記載の謝罪広告を縦4センチメートル,横8センチメートルの大きさで1回掲載せよ。
事案の概要
1 事案の要旨本件は,「ワークの研磨装置」に関する発明の特許権者である原告が,被告が別紙1記載の研磨装置(以下「被告装置」という。)を製造し,使用する行為が原告の特許権を侵害すると主張して,被告に対し,特許法100条1項,2項に基づき被告装置の製造,使用の差止め及び廃棄と,不法行為に基づく損害賠償を求めるとともに,被告が原告の業務に関し別紙2記載の事実を告知したことが原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知(不正競争防止法2条1項14号)の不正競争行為に該当すると主張して,被告に対し,同法3条1項に基づき別紙2記載の事実の告知の差止めと,同法14条に基づく信用回復措置として別紙3記載の謝罪広告の掲載を求める事案である。
2 争いのない事実(1)原告は,自動車用車輪の表面処理加工等を目的とする株式会社であり,被告は,金属製品の研磨等を目的とする特例有限会社である。
(2)ア原告は,発明の名称を「ワークの研磨装置」とする特許権(平成13年1月19日出願,平成14年8月9日設定登録,特許番号特許第3337680号。以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である。
イ本件特許の出願に係る明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】中に多数の研磨粒子と液体とからなる研磨媒体が収容されるタンクと,一端側にワークが取り付けられる回転軸と,この回転軸を,この回転軸の軸心を中心として回転させる回転手段と,前記回転軸を前記軸心に沿って移動させる移動手段と,前記回転軸を,これの一端側が円弧軌道に沿って移動可能なように揺動させる揺動手段と,前記回転手段,前記移動手段,及び前記揺動手段を制御する制御部とを具備し,前記制御部は,(a)前記回転軸が垂直な状態の研磨開始位置に配置されるように,前記移動手段,及び前記揺動手段を制御し,この制御により前記ワークを前記研磨開始位置に配置し,(b)前記回転軸を回転させるように前記回転手段を制御するとともに,前記回転軸を軸心に沿って移動させるように前記移動手段を制御し,さらに,前記回転軸が垂直な状態から水平面に対して傾斜した状態に移行するような揺動を行うように前記揺動手段を制御し,前記移動手段と揺動手段との駆動により,回転軸が自身の軸心に沿って移動されるとともに回転軸の一端が円弧軌道に沿って揺動され,前記回転軸の移動と揺動とにより,前記ワークを楕円の円弧状の軌道に沿って揺動させ,(c)前記回転軸が傾斜した状態の円弧移動終点位置に前記回転軸が到達した際に,前記揺動手段を停止するように制御するとともに,(a)の状態に戻すように(b)と逆方向に回転軸を軸心に沿って移動させるように移動手段を制御し,これらの制御により前記ワークを前記回転軸の軸心に沿って直線軌道に沿って移動させ,(d)前記移動手段が(a)の状態に戻された際に,(a)の状態に戻すように前記揺動手段を制御し,この制御により前記ワークを前記研磨開始位置と同様な状態にし,(b)(c)(d)の動作を順に繰り返すように前記回転手段,揺動手段,及び移動手段を制御するワークの研磨装置。」ウ 本件発明は,次の構成要件のとおり分説される。
A中に多数の研磨粒子と液体とからなる研磨媒体が収容されるタンクと,B一端側にワークが取り付けられる回転軸と,Cこの回転軸を,この回転軸の軸心を中心として回転させる回転手段と,D前記回転軸を前記軸心に沿って移動させる移動手段と,E前記回転軸を,これの一端側が円弧軌道に沿って移動可能なように揺動させる揺動手段と,F前記回転手段,前記移動手段,及び前記揺動手段を制御する制御部とを具備し,G前記制御部は,(a)前記回転軸が垂直な状態の研磨開始位置に配置されるように,前記移動手段,及び前記揺動手段を制御し,この制御により前記ワークを前記研磨開始位置に配置し,(b)前記回転軸を回転させるように前記回転手段を制御するとともに,前記回転軸を軸心に沿って移動させるように前記移動手段を制御し,さらに,前記回転軸が垂直な状態から水平面に対して傾斜した状態に移行するような揺動を行うように前記揺動手段を制御し,前記移動手段と揺動手段との駆動により,回転軸が自身の軸心に沿って移動されるとともに回転軸の一端が円弧軌道に沿って揺動され,前記回転軸の移動と揺動とにより,前記ワークを楕円の円弧状の軌道に沿って揺動させ,(c)前記回転軸が傾斜した状態の円弧移動終点位置に前記回転軸が到達した際に,前記揺動手段を停止するように制御するとともに,(a)の状態に戻すように(b)と逆方向に回転軸を軸心に沿って移動させるように移動手段を制御し,これらの制御により前記ワークを前記回転軸の軸心に沿って直線軌道に沿って移動させ,(d)前記移動手段が(a)の状態に戻された際に,(a)の状態に戻すように前記揺動手段を制御し,この制御により前記ワークを前記研磨開始位置と同様な状態にし,(b)(c)(d)の動作を順に繰り返すように前記回転手段,揺動手段,及び移動手段を制御するHワークの研磨装置(3)ア 被告は,被告装置を2台製造し,使用している。
イ 被告装置は,本件発明の構成要件AないしF,Hを充足している。
3 争点本件の争点は,被告製品が本件発明の構成要件Gを充足するかどうか(争点1),被告が本件特許権の侵害行為により賠償すべき原告の損害額(争点2),被告の不正競争行為の有無(争点3),原告の被告に対する謝罪広告掲載請求の可否(争点4)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(被告装置の本件発明の構成要件Gの充足の有無)(1) 原告の主張ア被告装置においては,シーケンサプログラム(シーケンサ制御)により,ワークが取り付けられた後,回転軸が回転しつつ,ワークが下降し,研磨材のあるタンク内に入り,移動,揺動が始まり,所定時間経過後に,移動,揺動が止まり,ワークがタンク内から上昇し回転が止まる動きが制御されている。
被告装置は,回転軸に沿った移動手段(移動(上下)動作)と揺動手段(揺動動作)が連動あるいは同期しておらず,それぞれの動作が設定した時間内で独立して行われている。
しかし,被告装置のシーケンサプログラムは,市販されているプログラム設計・編集ソフト(例えば,「三菱電機製GXDeveloper Version 8」)を用いることにより,いかようにも極めて容易に変更することが可能であり,この変更により移動(上下)動作と揺動動作とを連動あるいは同期して動作させ,本件発明の構成要件G記載の動作を行うことができる。
すなわち,被告提出の被告装置の電気図面(乙10)から,回転軸あるいはワークを上下移動し,下降位置で待機し,上下移動と揺動とによって一定の研磨動作をさせるという本件発明と同じ思想を読み取ることができる。そして,上記プログラム設計・編集ソフトを用いて,上記電気図面のうち,ラダー図のアドレス番号44及び82における回路に,それぞれ二つの接点を挿入してシーケンサプログラムを変更するだけで,被告装置において,変更前には連動しないランダム動作であった移動(上下)動作と揺動動作とを同期して動作させる構成(構成要件Gの構成)とすることができる。
イ以上のとおり,被告装置は,市販されているプログラム設計・編集ソフトで極めて容易に変更できる程度の改変をするだけで,本件発明の構成要件Gの制御を実現することができるから,被告装置は,構成要件Gを充足するというべきである。
そうすると,被告装置は,本件発明の構成要件AないしHをすべて充足し,本件発明の技術的範囲に属するものであるから,被告による被告装置の使用,製造は,原告の本件特許権の侵害となる。
(2) 被告の反論ア「制御」とは,時系列的に変化する動作をシーケンス制御あるいはコンピュータープログラム等により自動的に行わせしめることをいい,本件発明の構成要件Gの制御とは,回転軸を垂直な状態として研磨開始位置に配置し((a)),回転軸を回転しつつ,移動(上下運動をいう。)させながら揺動(振り子運動をいう。)させ,この双方の運動を連動させることにより,ワークが一定の軌道で円弧運動をし((b)),円弧運動の最終位置にきたときに揺動を止め,傾斜した回転軸をそのまま上方に移動させ((c)),回転軸を垂直にして,研磨開始位置に配置させ((d)),その繰り返し運動を行わせしめるものであると解される。
これに対し被告装置は,回転軸の回転,移動及び揺動を,操作盤(制御盤)のスイッチのオン,オフにより,それぞれ独立的に行わせており,回転軸の上下運動と揺動運動とは連動していない。すなわち,被告装置は,タンク25の上方に垂直となった回転軸の下端にワーク26を取り付け,手元スイッチ17をオンにすることにより,回転軸が回転しつつ,ワーク26が下降しタンク25内に入り移動,揺動が行われるが,回転軸の回転,移動及び揺動は設定した時間内にそれぞれ独立に行われ,回転と移動,揺動が関連して行われるものではない。被告装置は,移動(上下)動作と揺動動作とを連動あるいは同期して動作させるものではないので,ワークが一定の軌道で円弧運動をするものではなく,また,回転軸が傾斜した状態の円弧移動終点位置に回転軸が到達した際に,揺動運動は停止することなく続けられ,移動運動も続けられる。したがって,ワークが円弧運動の最終位置にきたときも,揺動は止められず,円弧運動の最終位置から回転軸をそのまま上方に移動させるものでもない。さらに,被告装置で回転軸を垂直にして研磨開始位置に配置させるには,上下シリンダー23が下限(シリンダーが最短になっている状態。以下同じ。)であり,かつ,揺動シリンダー24が下限になっていればそのような状態となるが,常に垂直になるとは限らない。被告装置は,研磨開始位置で回転軸が垂直ではなく,傾斜しつつ揺動する場合もある。
イ原告が主張するように,被告装置を改変すれば,本件発明の構成要件Gのようなワークの動きを再現することは可能である。しかし,本件発明のワークの動きに特段の作用効果があるのか疑問であり,経費をかけて被告装置を改変するつもりはない。なぜなら,本件発明では,回転軸が戻るとき,揺動運動しておらず,研磨開始位置において回転軸を垂直にする時間を必要とするため,回転軸の上下運動,揺動運動が少なくなり,ワークと研磨材の接触頻度は下がるのに対し,被告装置では,回転軸を垂直にすることなく,常時上下運動,揺動運動を繰り返し,ワークが同じ円弧状軌道を繰り返し運動できるものではないため研磨時間が短縮されるからである。
このように被告装置は,研磨材とワークの接触回数を増やすため,研磨材中のワークの自転,上下運動,振り子運動(揺動運動)という公知の技術を組み合わせたものであるところ,原告が主張するように,現在実施している公知の技術に何らかの手を加え,あるいは改良(改変)した技術について特許された場合に,もともと実施していた技術がその特許発明技術的範囲に属することになれば,多くの公知公用の技術がその技術的範囲に含まれることになり,累積的に進歩する技術を保護していくという特許法の目的は飛散してしまうことになる。
ウ以上のとおり,被告装置は,本件発明の構成要件Gを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属さない。
2 争点2(原告の損害額)(1) 原告の主張ア原告は,被告の被告装置の使用による本件特許権の侵害行為により,以下のとおり,612万9500円の損害を被った。
(ア)被告は,平成17年7月から平成18年10月までの1年4か月間に,株式会社ショーワ(以下「ショーワ」という。),エンケイオートモーティブ株式会社(以下「エンケイオートモーティブ」という。),株式会社レイズCWP(以下「レイズCWP」という。)及び株式会社TAN-EI-SYA(旧商号・株式会社鍛栄舎。以下「TAN-EI-SYA」という。)の各社から,研磨加工の注文(発注)を受け,被告装置を使用して研磨加工を行ったことにより,以下のとおり,合計2665万円の収入を得た。
?@ショーワ発注分 345万円?Aエンケイオートモーティブ発注分2000万円?BレイズCWP発注分240万円?CTAN-EI-SYA発注分80万円(イ)そして,原告の利益率から考えて,被告が被告装置を使用して研磨加工を行った場合の利益率は収入の23パーセントを下ることはない。
したがって,被告は,少なくとも前記(ア)の収入の23パーセントに相当する612万9500円の利益を得ており,原告は,被告による本件特許権の侵害行為により,同額の損害を被った。
イ以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として612万9500円及びこれに対する訴状送達の日(不法行為の後)である平成18年11月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の反論原告の主張事実は否認する。
3 争点3(被告の不正競争行為の有無)(1) 原告の主張ア(ア)原告の工場長A(以下「A」という。)は,平成17年1月末日に原告を退職し,同年2月に被告に入社した。原告の従業員B(以下「B」という。)及びC(以下「C」という。)も,Aと同時期に原告を退職し,同年2月ころ被告に入社した。上記のとおりA,B及びCの3名が原告を退職し,被告に入社したのは,被告の働き掛けによるものであった。
(イ)被告は,ショーワからアウターチューブ等の研磨加工作業を請け負い,その研磨加工作業のうち,前加工である粗研磨を被告が行い,仕上研磨を原告に下請負させ,原告は,本件発明の実施品である「VSB研磨装置」を使用して上記仕上研磨を行っていた。
原告は,被告から加工品の移動によるロスをなくすため自社で上記仕上研磨を行いたい旨の要請を受けて,平成17年2月15日から同年6月30日までの間,被告に対し,原告の工場内にあった「VSB研磨装置」のサンプル機(試作機)1台を被告に貸し出した。その貸出期間中に,被告は,被告装置を製造した。
なお,原告代表者は,平成16年10月ころ,被告代表者を同行して,加藤製作所で製作中の原告の研磨装置を見せたことがあったが,原告と被告との間で研磨装置の製作に係る見積書,注文書を取り交わしたり,試作等を行ったことはなく,原告は,被告から研磨装置の製作の依頼を受けたことはない。
イ(ア)被告の従業員のAは,平成17年1月末から同年2月初旬にかけて,被告代表者とともに,エンケイオートモーティブに被告の営業に出向き,エンケイオートモーティブの社員に対し,「ミュウテックから研磨機を2台借りるのでディスクの下地修正ができる。」,「Aを含めた3人が辞めてしまったので,ミュウテックにはもう技術者が残っていないからホイールの仕事はできなくなった。」等と話した。
しかし,原告を退職したA,B及びCの3名は,ホイール関係の仕事をしたことはなく,「ミュウテック」(原告)に技術者が残っていないので,原告ではホイールの仕事はできなくなったというのは,虚偽の事実である。
(イ)被告は,平成17年2月15日から同年6月30日までの間に,TAN-EI-SYAから塗装の仕事を受注していた竜洋塗装工業有限会社(以下「竜洋塗装」という。)から,TAN-EI-SYA発注の研磨の仕事を下請するようになった。
その際,被告の従業員のAは,竜洋塗装の担当者のD(以下「D」という。)に対し,「ミュウテックは潰れる。」と言って営業活動を行った。
しかし,「ミュウテックは潰れる。」(原告は倒産するの意味)というのは,虚偽の事実である。
(ウ)被告の従業員のAは,平成17年9月中旬ころ,原告の主要取引先である三光製作株式会社(以下「三光製作」という。)の代表取締役E(以下「E」という。)に対し,「ミュウテックは研磨材が入らなくなるので潰れる。」と電話で話した。
しかし,研磨材が入らなくなるので原告が「潰れる」というのは,虚偽の事実である。
(エ)被告は,平成17年6月30日ころまでに,ショーワに対し,「村松研磨にはミュウテックと同じ機械がある。」と述べた。
この事実は,原告が同月10日ころショーワに対して同月末には被告から「VSB研磨装置」のサンプル機を引き上げる旨書面で伝えていたにもかかわらず,被告は,原告にサンプル機を返却した直後から,原告が従前行っていた仕上研磨作業をショーワから請け負っていたことに照らし,間違いない。
しかし,仮に被告が主張するように被告装置が本件発明の技術的範囲に属さないとすれば,「村松研磨」(被告)に原告と同じ機械(本件発明の実施品)があるというのは,虚偽の事実である。
ウ以上のとおり,被告は,エンケイオートモーティブ,竜洋塗装及び三光製作に対し,原告に技術者が残っていないからホイールの仕事はできない旨又は原告が倒産する旨の虚偽の事実を述べたものであり,被告の上記行為は,競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知(不正競争防止法2条1項14号)に該当する。
また,仮に被告が主張するように被告装置が本件発明の技術的範囲に属さないとすれば,被告に原告と同じ機械(本件発明の実施品)があるというのは虚偽の事実であるから,被告がショーワに対して被告に原告と同じ機械がある旨述べたことは,原告が倒産する旨の虚偽の事実と密接に結びついたもの(すなわち,原告は倒産するが,被告には同じ機械があるから同じ作業ができるということ)として,競争関係にある原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知(不正競争防止法2条1項14号)に該当する。
(2) 被告の反論ア(ア)Aは,原告が社会保険に加入していないことや工場長として責任を負わされていながら決定権がないことに不満を抱き,原告を退職し,平成17年2月に被告に入社した。また,原告の従業員であったBは,同月16日,Aの紹介で被告に入社したが,同年8月12日に被告を退職した。Cは,平成16年に原告を退職した後,他の会社での勤務を経て,平成17年3月に被告に入社した。なお,A,B及びCは,いずれも本人の意思で原告を退職したものであり,被告が退職を働き掛けたという事実はない。
(イ)被告は,平成15年6月に,ショーワから受注した二輪車のサスペンション部品であるアクスルホルダーの研磨作業のうち,アクスルホルダーのバレル研磨(仕上研磨)を原告に依頼し,原告との取引を始めた。被告代表者は,取引開始後まもなく,原告代表者に対し,バレル研磨装置の製作を依頼し,原告代表者はこれに応じたが,原告は,その製作に取り掛からなかった。
一方で,原告は,研磨作業者を確保できないとの理由で,被告発注のバレル研磨の仕事について納期を守ることができなくなったため,被告は,被告の従業員を原告に派遣しその作業をさせるようになった。
そして,被告は,原告に対し,原告の工場内にあった「VSB研磨装置」のサンプル機の貸出しを申し出て,原告から,これを借り受けた。被告は,原告が予定どおりバレル研磨装置を製作していれば,被告から原告に従業員を派遣したり,サンプル機を借りる必要もなかったので,原告に対し,早期に研磨装置を製作するように何度も催促したが,原告がそれに応じなかったため,被告は,別会社に依頼して被告装置を製造した。
イ被告は,エンケイオートモーティブに対して原告には技術者が残っていないのでホイールの仕事はできなくなったとか,竜洋塗装や三光製作に対して原告が潰れるなどと虚偽の事実を告知したことは一切ない。
また,原告は,被告がショーワに対し原告と同じ機械があると虚偽の事実を告知したと主張しているが,被告が虚偽の事実を告知した事実はない。
すなわち,被告装置は,バレル研磨作業において,本件発明の実施品である「VSB研磨装置」と同等以上の効果をもたらす装置である。もともと本件発明は公知技術を組み合わせた装置の発明であり,原告の特許部分(本件発明の構成要件G記載の動作)はバレル研磨においてはほとんど意味のない動作であるため,本件特許を利用しない被告装置でも本件発明の実施品と同等以上の効果をもたらすことができる。したがって,本件発明の実施品と同じようなバレル研磨のできる装置を被告が持っていることを告げることが虚偽の事実の告知になるものではない。
ウ以上のとおり,原告主張の被告の不正競争行為(不正競争防止法2条1項14号)の事実はない。
4 争点4(謝罪広告掲載請求の可否)(1) 原告の主張原告は,被告が行った前記3(1)の不正競争行為により営業上の信用が害され,その営業上の信用を回復するためには,別紙3記載の謝罪広告の掲載が必要である。
したがって,原告は,不正競争防止法14条に基づき,営業上の信用回復に必要な措置として,被告に対し,上記謝罪広告の掲載を求めることができる。
(2) 被告の反論原告の主張は争う。
当裁判所の判断
1 特許権侵害に基づく請求関係(1) 争点1(被告装置の本件発明の構成要件Gの充足の有無)ア原告は,被告装置は,回転軸に沿った移動手段(移動(上下)動作)と揺動手段(揺動動作)を連動あるいは同期して動作させる構成要件G記載の動作(制御)を行っていないが,被告装置は,市販されているプログラム設計・編集ソフトで極めて容易に変更できる程度の改変をするだけで,本件発明の構成要件Gの制御を実現することができるから,被告装置は,構成要件Gを充足する旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
イ被告装置は,研磨媒体が収容されるタンクと,ワークが取り付けられる回転軸をその軸心を中心として回転させる回転手段,上記回転軸を前記軸心に沿って移動させる移動手段,上記回転軸の一端側が円弧軌道に沿って移動可能なように揺動させる揺動手段及びこれらの手段を制御する制御部を備えたワーク研磨装置である点(構成要件AないしF,H)において,本件発明と構成を共通にすることは,前記争いのない事実のとおりである。
しかし,証拠(甲4,6ないし11,乙10)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告装置においては,上記回転手段(回転動作),上記移動手段(移動動作)及び上記揺動手段(揺動動作)を設定時間内で独立に動作させる制御を行っているため,移動動作及び揺動動作の周期は一致せず,また,「前記回転軸が傾斜した状態の円弧移動終点位置に前記回転軸が到達した際に,前記揺動手段を停止するように制御」し,揺動手段を停止した後に,「(a)の状態に戻すように」(「前記回転軸が垂直な状態の研磨開始位置に配置されるように」),「(b)と逆方向に回転軸を軸心に沿って移動させるように移動手段を制御」すること(本件発明の構成要件G(c))は行っておらず,さらに,「前記移動手段が(a)の状態に戻された際に,(a)の状態に戻すように前記揺動手段を制御し,この制御により前記ワークを前記研磨開始位置と同様な状態に」すること(構成要件G(d))も行っていないことが認められ,被告装置は,構成要件Gの制御を行うものではないから,構成要件Gを充足するものではない。
もっとも,前掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告が主張するように,被告装置において,装置を作動させるプログラムを変更すれば,本件発明の構成要件Gのような制御を行うことは可能であることが認められる。
しかし,装置を作動させるプログラムを変更することにより構成要件Gのような制御を行うことが可能であるからといって,被告装置が構成要件Gの制御を行っていない以上,構成要件Gを充足するものと認めることはできない。また,証拠(甲2,4,6ないし12,乙1ないし10)及び弁論の全趣旨を総合すれば,?@上記タンクと上記回転手段,上記移動手段及び上記揺動手段を備え,制御部によって回転動作,移動動作及び揺動動作を制御し,タンクを回転させずに,ワーク自体を動かしてワークを研磨するワーク研磨装置は,本件特許の出願前から公知であったこと(本件明細書の「発明の詳細な説明」の段落【0002】で引用されている特開平11-216660号公報等),?A上記?@の構成を備えた公知のワーク研磨装置であれば,回転動作,移動動作及び揺動動作を独立して行わせることは当然であり,被告装置における上記回転動作,移動動作及び揺動動作の制御は,上記公知のワーク研磨装置における公知の技術を利用したものであること,?Bプログラムを変更することにより構成要件Gのような制御を行うことができるのは,被告装置に限るものではなく,上記公知のワーク研磨装置も同様であることが認められる。そうすると,被告装置は,制御プログラムの変更により構成要件Gの制御を実現することができることを理由に構成要件Gを充足するとの原告の主張は,上記公知の研磨装置も構成要件Gを充足していると主張することにほかならず,原告作成の平成14年1月15日付け意見書(乙2)中の本件発明が構成要件Gの構成を採用したことにより,本件発明の目的とする作用効果が得られ,進歩性を有する旨の記載(13頁以下)と相容れない不合理な主張であるといわざるをえない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウしたがって,被告装置は,本件発明の構成要件Gを充足するものとは認められないから,本件発明の技術的範囲に属するものと認められない。
(2) 小括以上のとおり,被告装置は本件発明の技術的範囲に属するものと認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する本件特許権侵害に基づく請求は理由がない。
2 不正競争防止法に基づく請求関係(1) 争点3(被告の不正競争行為の有無)ア 前提事実前記争いのない事実と証拠(甲14ないし21,乙11ないし20,証人D,証人A,原告代表者,被告代表者)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告と被告間の取引の開始等原告は,平成15年6月ころ,ショーワに本件発明の実施品であるVSB研磨装置を紹介した際に,ショーワから,ショーワの取引先の被告を紹介された。
原告は,そのころから,ショーワから二輪車サスペンション部品であるアクスルホルダーの研磨加工作業を請け負っていた被告から,上記研磨加工作業の一部の下請をするようになった。具体的には,上記研磨加工作業のうち,前加工である「粗研磨」を被告がその工場内で行い,粗研磨済みの加工品の「仕上研磨」を原告がその工場内でVSB研磨装置を用いて行い,仕上研磨をした完成品を被告を代理してショーワに納入していた。
その後,被告代表者は,原告に下請させていた上記仕上研磨を自社で行うことを考え,平成16年10月ころ,原告代表者に依頼して,加藤製作所の工場で原告が製作途中のVSB研磨装置を見せてもらった。そのころ,被告代表者は,原告代表者から,VSB研磨装置の製作費用の標準を示した見積書の交付を受けたが,その後,原告と被告間で,正式の見積仕様書や発注書等を取り交わすことはなかった。
(イ) サンプル機の貸出しから被告装置の製造までa被告は,平成16年12月ころ,ショーワから請け負っていたアクスルホルダーの研磨加工の完成品の納期が遅れていたことから,原告に対し,ショーワへの納入時間を短縮するため原告に下請させていた仕上研磨を被告において行うので,原告の工場内にあったVSB研磨装置のサンプル機の貸出しを受けたい旨の申入れをした。
原告は,被告の申入れを了承し,平成17年2月15日,VSB研磨装置のサンプル機(試作機)1台を被告に貸し出した。被告は,上記貸出しを受けるまでの間,被告の従業員1名を原告に派遣し,上記仕上研磨に従事させるなどした。
b一方で,原告磐田工場の工場長のAは,原告が社会保険に加入していないことに不満を持ち,原告代表者に社会保険に加入するよう要望していたが,進展がなかったこともあって,平成17年1月ころ,原告を退職することを決意し,同月末日付けで原告を退職した。また,磐田工場で勤務していたBも,同月末日付けで原告を退職し,同じく磐田工場で勤務していたCも,そのころまでに原告を退職した。
Aは,原告を退職した直後に被告代表者の誘いを受け,平成17年2月16日,被告に入社した。また,Bは,Aから誘いを受け,同日被告に入社した。その後,Cも,Aから誘いを受け,同年3月に被告に入社した。
c被告は,平成17年5月ころまでに,株式会社楠精機に発注して,被告装置1台を製造した。被告装置は,回転軸に沿った移動手段(移動(上下)動作)と揺動手段(揺動動作)を連動させる制御を行わず,設定時間内で独立に各動作をさせる制御を行い,また,研磨材の入るタンクの内側の形状を半球状としていた。
一方,原告は,被告にVSB研磨装置のサンプル機を貸し出した後,被告が原告の研磨装置を用いてアルミホイールの研磨を行うことができるなどと述べて営業活動を行っている旨の情報に接し,被告がVSB研磨装置のサンプル機を原告に下請させていたアクスルホルダーの前記仕上研磨以外の作業に無断で使用し,新たにアルミホイールの研磨事業に進出しようとしているものと考え,同年5月末ころないし同年6月初めころ,被告に対し,VSB研磨装置のサンプル機の引き上げを通告し,同年6月30日,被告から,同サンプル機の返還を受けた。
被告は,そのころから,被告装置を使用して,アクスルホルダーの研磨加工作業の仕上研磨等を行うようになった。その後,被告は,被告装置1台を追加製造し,現在,被告装置2台を稼働させている。
(ウ) エンケイオートモーティブ等との取引状況a原告は,平成8年ころから,アルミホイールの塗装を業とする有限会社戸塚綜業(以下「戸塚綜業」という。)から,同社がエンケイグループ傘下のエンケイオートモーティブから請け負っていたアルミホイール部品の塗装加工について,塗装の前工程の研磨作業の下請をするようになった。なお,原告とエンケイオートモーティブとの間では,直接の取引関係はなかった。
他方で,被告は,平成17年10月ころ,エンケイオートモーティブから,アルミホイールのディスク部分の研磨作業を請け負った。
b被告は,平成17年春ころ,ホイール,エンジン部品の塗装を業とする竜洋塗装から,同社がTAN-EI-SYAから請け負っていた部品の塗装加工について,塗装の前工程の研磨作業の下請をした。その後,竜洋塗装は,平成18年7月ころ,手形の不渡りを出して倒産した。
他方,原告は,竜洋塗装との間で取引をしたことはなかった。
c原告は,平成14年ころから,メッキ加工を業とする三光製作から,研磨作業を請け負うようになった。三光製作は,平成17年ころ,ヤマハ発動機株式会社(以下「ヤマハ」という。)の関連会社であるカヤバ工業株式会社から請け負ったヤマハ製バイクのアウターチューブのメッキ加工について,塗装の前加工の研磨作業を原告に下請させるようになった。
原告は,上記研磨作業を行うため専用の研磨装置を製作し,また,上記研磨作業のうち,粗研磨を被告に下請負させ,仕上研磨を上記専用の研磨装置を用いて原告の工場で行っていた。
その後,平成17年8月中旬ころ,三光製作の代表取締役のEは,原告を訪れ,原告代表者に対し,三光製作が上記専用の研磨装置を買い取り,自社で原告の担当していた仕上研磨を行いたい旨の申入れをし,原告代表者は,これを了承した。原告は,同月31日,三光製作に対し,VSB自動研磨機(アウターチューブ用)2台及びバフ研磨機1台(甲19)を売却した。
その後,被告は,三光製作から,直接,上記研磨作業のうち粗研磨を請け負うようになった。
イ 虚偽の事実の告知の有無(ア) エンケイオートモーティブに対する虚偽の事実の告知の有無原告は,A,B及びCの3名が原告を退職したことにより原告ではホイールの仕事(研磨加工)ができなくなったという事実はないのに,Aが,平成17年1月末から同年2月初旬にかけて,被告代表者とともに,エンケイオートモーティブに被告の営業に出向き,エンケイオートモーティブの社員に対し,「ミュウテックから研磨機を2台借りるのでディスクの下地修正ができる。」,「Aを含めた3人が辞めてしまったので,ミュウテックにはもう技術者が残っていないからホイールの仕事はできなくなった。」等と話したことは,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に該当する旨主張する。
この点について原告代表者は,本人尋問において,?@平成17年2月ころ,「エンケイオートモーティブに村松研磨工業の社長とA氏が来まして,ミュウテックから機械を2台借りるんで,ディスクの研磨ができる。A以下,3人,作業者が抜けたんで,もう技術者がいないよといったような話を聞いたということ」を,戸塚綜業の担当者から聞いた,?A戸塚綜業の担当者からはっきり言ってもらえなかったが,Aが?@のような話をしたエンケイオートモーティブの相手方は,F課長と推測される旨供述し,原告代表者の陳述書(甲18,21)中には,これに沿う記載部分がある。
しかし,他方で,証人A及び被告代表者の供述中には,いずれもA及び被告代表者が平成17年1月末から同年2月初旬にかけてエンケイオートモーティブを訪問した事実も,Aがその訪問の際にエンケイオートモーティブの社員と話をした事実もない旨の供述部分があり,また,被告代表者の供述中には,被告代表者がエンケイオートモーティブを初めて訪問したのは平成17年7月28日であり,その後,同年8月にエンケイオートモーティブのG執行役員が被告の工場見学に来た後,同年10月から被告とエンケイオートモーティブとの間の本格的な取引が始まった旨の供述部分が,証人Aの供述中にはエンケイオートモーティブのF課長と直接の面識はなかった旨の供述部分があり,これらの供述部分は,原告代表者の上記?@及び?Aの供述と相反するものである。そして,被告代表者の上記供述部分は,被告が平成17年10月ころにエンケイオートモーティブからアルミホイールのディスク部分の研磨作業を請け負った事実(前記ア(ウ)a)と符合するものであり,その供述内容に不自然な点はみられない。
加えて,原告代表者の上記?@及び?Aの供述は,そもそも,戸塚綜業の担当者がエンケイオートモーティブの誰かから聞いた話を,戸塚綜業の担当者から聞いたというものであるが,原告代表者は,戸塚綜業の担当者から聞いた話の内容について,F課長はもとより,エンケイオートモーティブの社員又は役員から具体的な裏付けをとっていないこと(原告代表者)に照らすならば,原告代表者の上記?@及び?Aの供述及び陳述書の上記記載部分をもって,Aが平成17年1月末から同年2月初旬にかけてエンケイオートモーティブの社員に対し原告の主張するような話をしたことを認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告がエンケイオートモーティブに対し原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したとの原告の上記主張は,理由がない。
(イ) 竜洋塗装に対する虚偽の事実の告知の有無原告は,原告において倒産する状況がなかったのに,被告の従業員のAが,平成17年2月15日から同年6月30日までの間に,竜洋塗装の担当者のDに対し,「ミュウテックは潰れる。」と言って営業活動を行ったことは,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に該当する旨主張する。
この点について証人Dは,証人尋問において,平成17年春ころ,被告と竜洋塗装の取引の交渉をしていた際に,どのような話の流れの中であったのか余り覚えていないが,被告の従業員のAから,原告について,研磨材の代金が払えない,人材派遣の給料が払えない旨1,2回聞き,原告が潰れるのが間近かなという意味で受け取った旨供述し,Dの陳述書(甲16)中にはこれに沿う記載部分がある。また,原告代表者の供述中には,竜洋塗装のDは,平成17年12月ころ,原告代表者に対し,Aが,原告に研磨材が入らなくなるから潰れるなどというような発言をしていたことを聞いたと言ってくれた旨の供述部分があり,この供述部分は証人Dの上記供述を裏付けている。
一方,証人Aは,証人尋問において,原告に研磨材を納入していた守田屋塗料のHから研磨材の代金の支払が悪いという話や,原告に人材派遣されていた外国人労働者から給料の支払が悪い旨聞いていたが,そのような話をDに話したかどうか記憶はない旨供述しているものの,Dにそのような話をしたことを明確に又は一貫して否定する供述はしていない。
そして,証人D,原告代表者及び証人Aの上記各供述の内容と,前記ア(ウ)b認定のとおり,被告は平成17年春ころ竜洋塗装から,同社がTAN-EI-SYAから請け負っていた部品の塗装加工について前工程の研磨作業の下請をしたことを総合すると,被告と竜洋塗装間で上記研磨作業に係る取引の交渉の過程において,Aは,Dに対し,原告では研磨材の代金や人材派遣の給料の支払が遅延している旨述べたものと認められる。
しかし,他方で,証人Dは,上記のとおり,どのような話の流れの中でAから聞いたのか余り覚えていない旨供述しているのみならず,証人Dの供述中には,Aは,原告における研磨材の代金や人材派遣の給料がどのくらい払えないのか具体的なことは言っていない,Dの方からAに具体的な質問をすることもなかった,Dが竜洋塗装の社長にAから聞いた話をしたところ,社長の反応は「ああ,そうか,ぐらい」であった旨の供述部分もあることからすれば,AがDに述べた内容は,原告の営業状態が悪化していることを指摘したものではあるが,その内容自体漠然とした面があり,これを聞いた受け手において,原告が倒産の危機に瀕していると具体的に認識したり,原告との取引を直ちに差し控え又は新たな取引を躊躇させる内容のものではないと解される。
加えて,原告代表者の供述中には,平成17年当時,原告の守田屋塗料に対する研磨材の代金の支払は,半月から1か月程度遅れがちになっていた旨の供述部分があり,この供述部分によれば,原告において研磨材の代金の支払が遅延していたこと自体は真実であったことに照らすならば,Aが,Dに対し,原告では研磨材の代金や人材派遣の給料の支払が遅延している旨述べたことが,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に当たるとまで認めることはできない。
なお,証人Dの供述及び陳述書(甲16)中には,AがDに対し「ミュウテックは潰れる。」と明言した旨の部分はなく,AがDに「ミュウテックは潰れる。」と言って営業活動を行ったとの原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 三光製作に対する虚偽の事実の告知の有無原告は,原告において研磨材が入らなくなり,倒産する状況がなかったのに,被告の従業員のAは,平成17年9月中旬ころ,三光製作の代表取締役Eに対し,「ミュウテックは研磨材が入らなくなるので潰れる。」と電話で話したことは,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に該当する旨主張する。
この点について原告代表者は,本人尋問において,原告が研磨材の納品業者の鈴木商事から今月一杯で納品をストップしたいとの話を受けた日の翌日に,ヤマハ製バイクのアウターチューブのメッキ加工について,塗装の前加工の研磨作業を原告に下請させていた三光製作のE社長が,原告に飛んで来て,原告代表者に対し,研磨材が入らなくなるから原告が潰れるということをAから聞いたと述べたので,Eに対し,原告はちゃんとやっているので大丈夫であると伝えた,その後,三光製作から,原告が上記研磨作業を行うために製作した専用の研磨装置を買い取る旨の話を持ってきたので,前記ア(ウ)cのとおり,原告は,平成17年8月31日,三光製作に対し,VSB自動研磨機(アウターチューブ用)2台及びバフ研磨機1台を売却した旨供述し,原告代表者の陳述書(甲18)中には,これに沿う記載部分がある。
しかし,他方で,?@証人Aの供述中には,Aは,Eに対し,「ミュウテックは研磨材が入らなくなるので潰れる。」と述べた事実はない,Aは,被告代表者に同行した打合せの際に,Eと同席したことはあるが,被告の発注元の代表取締役であるEと直接電話をかけて話ができるような親しい関係にはない旨の供述部分があること,?A被告代表者と被告補佐人弁理士(山本健男)は,平成20年9月20日,Eと面談し,Eから,平成17年8月当時ころAの名前を聞いたことはあるが,Aから電話を受けた覚えはない,原告に何度も行っているが,Aの電話により原告に行った覚えはない旨確認し,その旨記載した書面(乙16)にEの署名を得ていること(乙16,弁論の全趣旨),?B原告が三光製作に対しVSB自動研磨機(アウターチューブ用)2台及びバフ研磨機1台を売却した事実(前記ア(ウ)c)があるからといって,AがEに対し電話で話をした事実と直接結びつくものではないことに照らすならば,原告代表者の上記供述及び陳述書の上記記載部分をもって,Aが平成17年9月中旬ころEに対し「ミュウテックは研磨材が入らなくなるので潰れる。」と電話で話したとまで認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告が三光製作に対し原告の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したとの原告の上記主張は,理由がない。
(エ) ショーワに対する虚偽の事実の告知の有無原告は,被告は,平成17年6月30日ころまでに,ショーワに対し,「村松研磨にはミュウテックと同じ機械がある。」と述べたものであるが,仮に被告装置が本件発明の技術的範囲に属さないとすれば,被告に原告と同じ機械(本件発明の実施品)があるというのは虚偽の事実であるから,被告がショーワに対して被告に原告と同じ機械があると述べたことは,原告が倒産する旨の虚偽の事実と密接に結びついたもの(すなわち,原告は倒産するが,被告には同じ機械があるから同じ作業ができるということ)として,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に該当する旨主張する。
しかし,前記1(1)で検討したとおり,被告装置は,本件発明の構成要件Gを充足しないため,本件発明の技術的範囲に属さないものであるが,研磨媒体が収容されるタンクと,ワークが取り付けられる回転軸をその軸心を中心として回転させる回転手段,上記回転軸を前記軸心に沿って移動させる移動手段,上記回転軸の一端側が円弧軌道に沿って移動可能なように揺動させる揺動手段及びこれらの手段を制御する制御部を備えたワーク研磨装置である点(構成要件AないしF,H)において,本件発明と構成を共通にしているのであるから(前記1(1)イ),被告において原告と同じような機械を保有しているという趣旨で,原告と同じ機械があると述べることは虚偽の事実の告知に該当するものとはいえない(なお,証人Aの供述中には,このように原告と同じような研磨装置があるという趣旨で,Aが,Dに対し,原告と同じ機械があると言った旨の供述部分がある。)。
また,原告代表者の陳述書(甲18)中には,被告がショーワに対し原告が倒産する旨の虚偽の事実を伝えていたと考えられる旨の記載部分があるが,他方で,原告代表者の供述中には,被告がショーワの従業員の誰かに対し原告が倒産すると被告が言ったことを確認したことはない旨の供述部分があることに照らすと,原告代表者の陳述書の上記記載部分は裏付けのあるものではなく,上記記載部分をもって被告がショーワに対し原告が倒産する旨の事実を告知したことを認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告がショーワに対して被告に原告と同じ機械があると述べたことは,原告が倒産する旨の虚偽の事実と密接に結びついたものとして,原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知に該当するとの原告の上記主張は,理由がない。
ウ まとめ以上によれば,被告が原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知(不正競争防止法2条1項14号)の不正競争を行ったとの原告の主張は,いずれも認めることができない。
(2) 小括以上のとおり,原告主張の被告の不正競争行為の事実は認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告に対する不正競争防止法に基づく請求は理由がない。
3 結論以上によれば,原告の請求は,いずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
追加
別紙1静岡県袋井市<以下略>所在の被告工場内に設置されている別添写真?@ないし?Gに示された研磨装置上記研磨装置の構成は,別紙被告研磨装置説明書及び別紙被告研磨装置概略図のとおりである。
(別紙)被告研磨装置説明書第1操作盤(制御盤)と手元スイッチの説明1ないし5操作表示ランプ1電源ランプ装置に電源がきているときにオン2各個ランプ各個・自動切換スイッチ9が「各個」のときにオン3自動ランプ各個・自動切換スイッチ9が「自動」のときにオン4原位置ランプ作業の最初の状態であるシリンダー21(リフター)が上限にあり,上下運動のシリンダー23が下限(最短になっている。)にあって,ワーク26がタンク25の上方にあり,揺動運動のシリンダー24が下限(最短になって,回転軸が垂直になっているとき)にあるとき点灯する。各個・自動切換スイッチ9が「各個」,「自動」いずれの場合も上記の条件にあるときには点灯する。
5運転準備ランプ作業の最初の状態であるシリンダー21(リフター)が上限にあり,上下シリンダー23,揺動シリンダー24が上記4の原位置ランプの原点の位置にあって,各個・自動切換スイッチ9を「自動」にしているとき点灯する。
6移動スイッチ各個・自動切換スイッチ9が「自動」になっている場合のみ機能する。「固定」のときには,上下シリンダー23の上限あるいは下限に固定でき,「自動」側では移動(上下運動)をする。なお,操作盤上の名称は「揺動」となっている。
7揺動スイッチ各個・自動切換スイッチ9が「自動」になっている場合のみ機能する。「固定」のときには,揺動シリンダー24の上限あるいは下限に固定でき,「自動」側では揺動運動をする。なお,操作盤上の名称は「変角」となっている。
8回転スイッチ各個・自動切換スイッチ9が「固定」の場合には「入」のときのみ回転する。「自動」の場合には「切」,「入」いずれの場合も回転する。
9各個・自動切換スイッチ「各個」のときにのみスイッチ10,11,12が機能する。
10各個上下スイッチ各個・自動切換スイッチ9が「各個」のとき,上下シリンダー23を上限又は下限に固定することができる。
11各個揺動スイッチ各個・自動切換スイッチ9が「各個」のとき,揺動シリンダー24を上限又は下限に固定することができる。
12各個リフタースイッチ各個・自動切換スイッチ9が「各個」のとき,リフター21を上限あるいは下限に固定することができる。なお,「自動」のときに,作業の最初にワークをタンク内に降ろし,研磨終了後にワークをタンクの上方に上げることは自動化されている。
13ワーク回転方向スイッチワークの回転方向を決めるスイッチ。「正転」は時計回り,「逆転」は反時計回り,「正逆」は正転から反転に移る。
14速度設定スイッチインバータ制御により回転速度を決めることができる。
15正転タイマー正転の時間を決める。
16逆転タイマー逆転の時間を決める。
17手元スイッチ各個・自動切換スイッチ9が「自動」のときのみ作動する。ワーク26を取り付けた後,この手元スイッチを押すと,回転軸が回転しつつ,ワークがタンク内に下降し,移動,揺動が始まる。
18操作盤第2研磨装置本体の各部位の説明21リフター回転軸の回転,移動,揺動の運動を行うすべての機構を支持する支持アーム27を上下させる。
22回転軸駆動モーター回転軸を回転させる。
23上下シリンダー回転軸を移動(上下)させる。
24揺動シリンダー回転軸を半振り子運動させる。揺動シリンダーの下限で回転軸は垂直となり,上限で円弧運動の最終位置となるため,垂直から一方向への振り子運動しかできない。
25タンク研磨媒体が収容される。
26ワーク27支持アーム回転軸の回転,移動,揺動の運動を行う機構を支える。
28ワーク把持部別紙21有限会社ミュウテック(原告)は研磨材が購入できず倒産するが,有限会社村松研磨工業(被告)はミュウテック(原告)と同じ研磨装置を保有している。
21と同趣旨又は類似する内容であり,原告の営業上の信用を害する一切のもの。
別紙3謝罪広告有限会社ミュウテック殿当社は、既存の取引先又は新たに取引先としたい企業に対して、「有限会社ミュウテックは必要な資材を購入できず倒産するが、有限会社村松研磨工業はミュウテックと同じ研磨装置を保有している。」旨告知して営業活動をしましたが、上記告知のうち事実に基づかない点があり有限会社ミュウテックの営業上の信用を毀損しましたので、ここに上記告知を取消し、同社に深くお詫び致します。
平成年月日静岡県袋井市<以下略>有限会社村松研磨工業代表取締役〔掲載条件〕1日付は掲載日とする。
2掲載日の代表取締役の氏名を記載する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 関根澄子
裁判官 古庄研
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