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関連審決 無効2006-80270
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10147審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10040審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  製造方法 /  公然実施(29条1項2号) /  容易に発明 /  参酌 /  数値限定 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10035号 審決取消請求事件
原告株式会社流動化処理工法総合監理
訴訟代理人弁理 士山口朔生
同 真島竜一郎
被告Y
訴訟代理人弁理 士鈴木俊一郎
同 八本佳子
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/11/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2006-80270号事件について平成19年12月18日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「流動化処理土の製造方法」とする特許第3839642号(平成12年5月26日出願,平成18年8月11日登録。以下,この特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である(甲5)。
原告は,平成18年12月26日,特許庁に対し,本件特許の無効審判(無効2006-80270号事件)を請求し,特許庁は,平成19年12月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成20年1月7日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は,次のとおりである(甲5)。
「【請求項1】建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥10Ltrに対して水を約2.5〜約3.5Ltrの範囲で,また,調整汚泥と水との混合組成物10Ltrに対して,セメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を,水に溶解した固化材の固形分として約0.6〜約0.8?sの範囲で混合し,流動性を持ち,1.0?s/□〜5.0?s/□の一軸圧縮強度を有し,かつ,ブリージング率3%以下,フロー値約160〜300?oの流動化処理土を得ることを特徴とする流動化処理土の製造方法。」(以下,請求項1の発明を「本件発明1」という。)「【請求項2】建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥10Ltrに対して粘土などの細粒土を含む泥水を約2.5〜約3.5Ltrの範囲で,また,調整汚泥と泥水との混合組成物10Ltrに対して,セメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を,水に溶解した固化材の固形分として約0.4〜約0.6?sの範囲で混合し,流動性を持ち,1.0?s/□〜5.0?s/□の一軸圧縮強度を有し,かつ,ブリージング率3%以下,フロー値約160〜300?oの流動化処理土を得ることを特徴とする流動化処理土の製造方法。」(以下,請求項2の発明を「本件発明2」という。)「【請求項3】建設汚泥にセメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を添加して固化処理し,礫を除去した改良土10Ltrに対して,水を約4〜約6Ltrの範囲で,また,改良土と水との混合組成物10Ltrに対して,セメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を,水に溶解した固化材の固形分として約0.6〜約0.8?sの範囲で混合し,流動性を持ち,1.0?s/□〜5.0?s/□の一軸圧縮強度を有し,かつ,ブリージング率3%以下,フロー値約160〜300?oの流動化処理土を得ることを特徴とする流動化処理土の製造方法。」(以下,請求項3の発明を「本件発明3」といい,請求項1ないし3の発明を総称して「本件発明」という場合がある。)3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。
要するに,?@本件発明1及び2については,甲1の1(技報堂出版株式会社・平成9年5月25日発行「土と流動化処理工法」70〜72頁,95頁,142頁,143頁,150頁)及び甲1の2(上記「土と流動化処理工法」目次,21〜23頁,76〜81頁,138〜153頁,179〜187頁)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない,?A本件発明3については,特開平11-172718号公報(甲2。平成11年6月29日公開)に記載された発明(以下「甲2発明」という。)及び甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということはできない,とするものである。
審決は,上記判断をするに当たり,甲1発明及び甲2発明の内容並びに本件発明1ないし3と甲1発明又は甲2発明との一致点及び相違点を後記(1)ないし(8)のとおり認定した。
(1) 甲1発明の内容「砂(礫)質土ではあるが粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土に,水を加えて混合して比重を調整し,建設発生土と水の混合物に対して,セメント系固化材,セメント,セメント石灰複合系固化材,石灰系固化材から選択した固化材を混合し,目標とする一軸圧縮強さ,ブリーディング率,フロー値を有する流動化処理土とする流動化処理土の製造方法。」(2) 甲2発明の内容「土塊に対し石灰等からなる土質改良材を,混合解砕機により,混合し,土塊を解砕し細かくすることにより,土塊の新表面にさらに土質改良材が付着した改良土を作成し,ふるいで分級した後,この改良土に,水,及び,セメント等からなる水硬性固化材を混合し,流動化させた流動化処理土を得る方法」の発明(3) 本件発明1と甲1発明との一致点,相違点ア 一致点「主材に対して水を混合し,主材と水との混合物に対してセメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を混合し,流動性を持つ流動化処理土を得る流動化処理土の製造方法。」である点。
イ 相違点[相違点1]主材が,本件発明1においては,「建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥」であるのに対し,甲1発明において「砂(礫)質土ではあるが粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土」であり,含水率を調整したものではない点。
[相違点2]本件発明1においては,調整汚泥10Ltrに対して水を約2.5〜約3.5Ltrの範囲で混合し,また,調整汚泥と水の混合組成物10Ltrに対して,固化材を,水に溶解した固化材の固形分として約0.6〜約0.8?sの範囲で混合したものであるのに対し,甲1発明においては,水や固化材の添加量が限定されていない点。
[相違点3]製造される流動化処理土が,本件発明1においては,「1.0?s/□〜5.0?s/□の一軸圧縮強度を有し,かつ,ブリージング率3%以下,フロー値約160〜300?oの流動化処理土を得る」とされているのに対し,甲1発明においては,一軸圧縮強度,ブリージング率及びフロー値の数値範囲が限定されていない点。
(4) 本件発明2と甲1発明との一致点,相違点ア 一致点「主材に対して水を含む液体を混合し,主材と水を含む液体との混合組成物に対して,セメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を混合し,流動性を持つ流動化処理土を得る流動化処理土の製造方法。」である点。
イ 相違点[相違点1’]主材が,本件発明1が「建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥」であるのに対し,甲1発明は,「粘性に富んだ土又は細粒分に富んだ粘性土である建設発生土」であり,含水率を調整したものではない点。
[相違点2’]水を含む液体が,本件発明2では,粘土などの細粒土を含む泥水であり,調整汚泥10Ltrに対して粘土などの細粒土を含む泥水を約2.5〜約3.5Ltrの範囲で混合し,また,調整汚泥と泥水の混合組成物10Ltrに対して,固化材を,水に溶解した固化材の固形分として約0.4〜約0.6?sの範囲で混合したのに対し,甲1発明は,水を含む液体が「水」のみであり,泥水を添加するものではなく,したがってその添加量,調製汚泥と泥水の混合組成物に添加する固化材の量も限定されていない点。
[相違点3’]製造される流動化処理土が,本件発明2では「1.0?s/cm 〜5.0?s2/cm の一軸圧縮強度を有し,かつ,ブリージング率3%以下,フロー値約2160〜300?oの流動化処理土を得る」のに対し,甲1発明はこのような数値に限定したものではない点。
(5) 本件発明3と甲2発明との一致点,相違点ア 一致点「原料土に石灰等からなる固化材を添加して固化処理し,礫を除去した改良土に対して,水,及び,セメント等からなる固化材を,混合し,流動性を持つ流動化処理土を得る流動化処理土の製造方法。」である点。
イ 相違点[相違点1”]改良土の原料土は,本件発明3が「建設汚泥」であるのに対し,甲2発明が「土塊」である点。
[相違点2”]本件発明3が,「改良土10Ltrに対して,水を約4〜約6Ltrの範囲で,また,改良土と水との混合組成物10Ltrに対して,固化材を,水に溶解した固化材の固形分として約0.6〜約0.8?sの範囲で混合」したものであるのに対し,甲2発明は,このような数値の限定のない点。
[相違点3”]本件発明3が,「1.0?s/cm 〜5.0?s/ccm の一軸圧縮強度を有2 2し,かつ,ブリージング率3%以下,フロー値約160〜300?oの流動化処理土」であるのに対し,甲2発明は,このような数値の限定のない点。
当事者の主張
1 取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)本件発明1と甲1発明との相違点の容易想到性判断の誤り(取消事由1),(2)本件発明2と甲1発明との相違点の容易想到性判断の誤り(取消事由2),(3)本件発明3と甲2発明との相違点の容易想到性判断の誤り(取消事由3)がある。
(1)取消事由1(本件発明1と甲1発明との相違点の容易想到性判断の誤り)甲1には,以下のとおり,「相違点1」の「含水率を約55ないし約65%に調整する工程」,「相違点2」の「その後に水を加える工程」,「相違点3」の「1.0?s/□〜5.0?s/□の一軸圧縮強度を有し,かつ,ブリージング率3%以下,フロー値約160〜300?oの流動化処理土を得る」ことが実質的に記載されているから,本件発明1は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたというべきであり,これを容易想到でないとした審決の判断には誤りがある。
ア相違点1の「含水率を約55ないし約65%に調整する工程」について甲1の2の「事例10火力発電所放水口工事における流動化処理土の水中施工」には,(1)「含水率を約60%に調整」して調整汚泥を製造する「調整汚泥製造工程」(含水率調整工程),(2)その後に調整汚泥に「水」を加えて混練する「混合組成物製造工程」(加水工程)及び(3)その混合組成物に固化材を混合する「固化材混合工程」が記載されている。
「調整汚泥製造工程」(含水率調整工程)の記載内容について,甲1の2の浚渫土の一般的な密度を2.65と仮定した場合には,その含水率は60%になる。
仮に,被告の主張を前提として,土粒子の比重を甲1の2の事例表10.1に記載されている2.409としても,土粒子密度Gsが2.409のとき,密度1.33グラム/cm であるならば,その含水比は約1334%から136%となり,含水率と含水比の換算式により上記含水比(下記式のω)を135%として含水率を求めると,次のとおり58%になる。
含水率={ω/100}÷{1+ω/100}×100?垂T8%)したがって,被告の主張を前提としてとしても,甲1の2には,本件発明1記載の「含水率約55%〜約65%に調整した調整汚泥」が開示されている。
そして,甲1の2には,ポンプ船で浚渫する対象である海底に存在する浚渫土の「自然含水比」が92.3%(含水率48%)であることが記載されており,その浚渫土が二次沈殿地に投入され,上記のように,表10.5において,「ピット内粘性土」(余水吐きから二次沈殿地に堆積した堆積細粒土)となって,その含水率が約60%とされていることに照らすならば,甲1の2には,沈殿地で「含水率を調整」したことが開示されているといえる。
イ 相違点2の「その後に水を加える工程」について甲1の2には,その後に「水」を加える工程が記載されている。
ウ 相違点3の「流動化処理土を得る」ことについて本件発明1の「流動化処理土は,「流動性を持ち,1.0?s/cm 〜25.0?s/cm の一軸圧縮強度を有し,かつ,ブリージング率3%以2下,フロー値約160〜300?o」は,ごく一般的な数値であるということができるから,甲1の2に記載された流動化処理土を,特性を考慮して,本件発明1の構成とすることは,当業者であれば当然採用し得る技術的事項である。
(2)取消事由2(本件発明2と甲1発明との相違点の容易想到性判断の誤り)本件発明1と本件発明2との相違は,調整汚泥に対して混合する材料が「水」であるか(本件発明1),「粘土などの細粒土を含む泥水」であるか(本件発明2)という点のみにある。
そして,(1)のとおり,本件発明1は甲1発明に基づいて容易に想到することができた発明であるから,同様に,本件発明2も甲1発明から容易に想到することができた発明というべきである。
(3)取消事由3(本件発明3と甲2発明の相違点の容易想到性判断の誤り)本件発明3の工程は,?@「改良土」を製造する「改良土製造工程」,?Aその「改良土」に加水,混合して「混合組成物」を製造する「加水混合工程」,?Bその「混合組成物」に固化材を混合して流動化処理土を製造する「固化材混合工程」からなる。
審決は,本件発明3の対象となる「建設汚泥」の含水率は55%以上であると解釈した上で,甲2発明(甲2)の「改良土」の原料土である「土塊」は,含水率の低い塊状のものであるから,甲2発明の技術は,本件発明3の「含水率の高い泥土に固化材を入れて混合し,泥土を団粒化する」とは異なると判断した(審決書22頁15行以下)。
しかし,審決の上記判断は,以下のとおり誤りである。
本件発明3に係る特許請求の範囲には,「含水率が55%以上」及び「含水率が高い泥土」との限定はない。
ところで,本件発明3の「改良土」とは,「建設汚泥にセメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を添加して固化処理し,礫を除去した」ものであると解すべきである。そして,「建設発生残土にセメントなどの固化材を添加して固化処理」してこれを「改良土」とする技術は,甲2の【0002】【従来の技術】欄に「施工現場の発生残土例えば掘削残土を用いる施工法」が公知であり(甲2,1欄24行以下),「残土に固化材等の土質改良材を配合した改良土を用いる施工法」が知られている旨が記載され(1欄26行以下),本件発明3の「礫を除去した」との技術は,甲2に「粒度を揃えてなる改良土」(請求項1,2)と記載されているとおり,改良土の製造においては当然採用されていた工程であった。また,本件発明3における,?A「加水混合工程」及び?B「固化材混合工程」は,甲1の2に「事例10火力発電所放水口工事における流動化処理土の水中施工」に記載がある。
そうすると,本件発明3は,甲1の2記載の「堆積した細粒土」(本件発明1及び2の「調整汚泥」に相当するもの)を,甲2記載の「改良土」に置き換えただけの発明であり,甲1発明及び甲2発明から容易に発明をすることができたといえる。したがって,これを容易想到ではないとした審決には,誤りがある。
2 被告の反論(1)取消事由1(本件発明1と甲1発明との相違点の容易想到性判断の誤り)に対しア相違点1の「含水率を約55ないし約65%に調整する工程」について原告は,甲1の2(甲1の2,182頁)の「(6)基本配合」には「事例表10.5」として「ピット内粘性土」の比重が「γt=1.33t/m 」と記載されていることについて,同記載に基づき,土粒子比重を32.65とすれば「含水率60%」に,2.70とすれば「含水率61%」に相当する旨主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,甲1の2の記載を参酌しても,主材料として用いた浚渫土の土粒子の密度が2.409であることが事例表10.1に明示されているのであるから,土粒子比重を2.65又は2.70として含水率を算出する合理的な根拠はない。また,湿潤密度と土粒子比重から含水率を換算するには,甲14の図2-4-7のグラフを利用することができるが,甲14の2-4-15頁には,「図中,計算値より実測値が小さめなのは,サンプリングにより測定時の飽和度が100%でないことによるずれを示しているものであろう。」と記載されており,甲14の図2-4-7のグラフからは,実際の含水率を正確には算出できないことが説示されている。
したがって,甲14を参酌しても,甲1の2の事例10において主材料として用いた細粒土の含水率を正確に求めることはできない。さらに,甲1の2の事例10で用いた細粒土については,ピット内粘性土の湿潤密度γtが,甲1の2の事例表10.5に記載されているのみであり,飽和度が100%であるかどうか明らかではない。
仮に,原告主張の細粒土(ピット内粘性土)の含水率が約60%であると仮定しても,それは,埋立地の余水吐きより泥水として二次沈殿池(第二次沈殿池)に堆積した細粒土であり,埋立地の余水吐きより,単にオーバーフローにより流入した泥水に由来するものであり,含水率を調整する工程を経たものではないから,甲1の2には,建設汚泥の細粒土の含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥を流動化処理土の製造に用いるという技術的思想は,何ら示唆されていない。
以上のとおり,甲1の2には,建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整する工程は記載されていないから,甲1発明には,含水率を約55ないし約65%に調整する工程がないとした審決の認定に誤りがない。
イ 相違点2の「水を加える工程」について原告は,甲1の2には,その後に「水」を加える工程が記載されていると主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,甲1の2の事例10には,「解泥機を用いて解泥し,加水しながらフロー値を調整した後ポンプで泥水貯留槽に圧送する」という工程が記載されており(甲1の2,183頁6行),解泥された細粒土に海水を混合することは記載されている。しかし,上記事例表10.5によれば,ピット内粘性土に対する海水の添加量は,ピット内粘性土0.677m に対して海水0.291m であり,ピット内粘性土10Ltrに対し3 3ての海水量は4.3Ltrに相当し,本件発明1で規定される「調整汚泥10Ltrに対して水を約2.5〜約3.5Ltrの範囲」を満たすものではない。したがって,甲1の2の事例10には,本件発明1の「調整汚泥10Ltrに対して水を約2.5〜約3.5Ltrの範囲」との構成に関する記載はない。
また,甲1の2には,調整汚泥と水との混合組成物10Ltrに対する固化材の配合量を約0.6〜約0.8?sとすることについても記載がされていない。甲1の2では,事例表10.5から計算すると,上記混合組成物10Ltrに対して固化材の添加量は1.03?s([100/(677+291)]×10)となり,固化材の添加量においても,本件発明1と甲1発明とは相違する。
したがって,甲1の2には「水」を加える工程が記載されていないとした審決の認定に誤りはない。
ウ 相違点3の「流動化処理土を得る」について本件発明1の「流動化処理土は,「流動性を持ち,1.0?s/cm 〜25.0?s/cm の一軸圧縮強度を有し,かつ,ブリージング率3%以2下,フロー値約160〜300?o」について,ごく一般的な数値であるから,当業者であれば当然採用し得る技術的事項であるとの原告の主張は,根拠がない。
以上によれば,本件発明1は,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないとした審決の判断に誤りはない。
(2)取消事由2(本件発明2と甲1発明との相違点の容易想到性判断の誤り)に対し甲1の2には,発生土が砂(礫)土の場合に,細粒土を含む泥水を添加し,更に固化材を添加することが記載されており,泥水を添加することで,流動化処理土の粘性土や細粒土を添加することが記載されている(甲1の1,95頁)。
しかし,甲1の2の事例10には,相違点1’に係る「建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥」との構成,及び相違点2’に係る「調整汚泥10Ltrに対して粘土などの細粒土を含む泥水を約2.5〜約3.5Ltrの範囲で混合し,また,調整汚泥と泥水の混合組成物10Ltrに対して,固化材を,水に溶解した固化材の固形分として約0.4〜約0.6?sの範囲で混合した」ものを原料として用いる構成は記載されていない。そして,本件発明2と甲1発明との相違点に係る事項は,適宜選択できる事項ではないから,本件発明2は,甲1の2の記載に基づいて容易に想到し得たものとはいえない。
(3)取消事由3(本件発明3と甲2発明との相違点の容易想到性判断の誤り)に対し本件発明3は,以下のとおり,甲1の2及び甲2の記載により当業者が容易に発明し得るものではない。すなわち,ア本件発明3における改良土は,「建設汚泥にセメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を添加して固化処理し,礫を除去した改良土」である。
他方,甲2には,建設汚泥を用いた流動化処理土の製造方法の記載はない。甲2記載の改良土は,「土塊を解砕し細かくするとともに,その粒度を揃えてなる改良土」であって,「固化材をいれて混合し,団粒化する」ものとは異なる。したがって,甲2記載の改良土は,「改良」の技術的意味合いが異なるものであって,甲2は,本件発明3で用いる改良土を何ら教示するものではない。
イまた,甲2には,本件発明3の「加水混合工程」及び「固化材混合工程」も教示されていない。本件発明3においては,特定の改良土10Ltrに対して,水を約4〜約6Ltrの範囲で,また,改良土と水との混合組成物10Ltrに対して,固化材を水に溶解した固化材の固形分として約0.6〜約0.8?sの範囲で混合することにより,流動化処理土を製造する。これに対し,甲2においては,本件発明3で用いるのとは異なる改良土に対して,水及び固化材を同時に配合して流動化処理土を製造することが記載されているのみであって,改良土と水とを特定割合で配合し,さらに得られた混合組成物に固化材を特定割合で配合するという本件発明3の「加水混合工程」及び「固化材混合工程」は何ら教示されていない。
この点について,原告は,「加水混合工程」について,甲1の2の事例10に記載されている旨主張する。
しかし,同事例は,改良土を原料として用いるものではなく,甲1の2と甲2とではその技術的思想が異なり,その両者を組み合わせる動機付けがない。また,甲2には本件発明3の改良土については何ら教示されていないのであるから,甲1の2の事例10の記載を組み合わせて参酌したとしても,本件発明3には想到し得ない。
当裁判所の判断
1取消事由1(本件発明1と甲1発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について(1) 本件発明1についてア 本件特許に係る明細書(以下「明細書」という。)の記載明細書(甲5)には,「建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥」について,以下の記載がある。
【0004】含水率が高く(含水率は約55%以上),粒子が微細で泥状を呈しており,そのままでは再利用することができないため,産業廃棄物として処理されている。
【0013】前記のように含水率を調整した汚泥は細かい粒子(74ミクロン以下)を多く含み,かつ,泥状を呈している(但し,流動性は低い)。
【0016】図1に示すように,運搬車2で収集した建設汚泥1は受入槽3に投入されて貯留され,含水率を調整される。この槽3内の調整汚泥を,スクリーン4を通過させて礫などのような粒径の大きい物をスクリーニングし,調合槽5へ導入する。
【0020】・・・前記改良土は建設汚泥の種類や含水率等に応じた処理を施して製造するものである。具体的には例えば建設汚泥に高分子凝集剤等の凝集剤を添加して凝集し,これを天日乾燥等で乾燥し,或いは遠心脱水機等で脱水して濃縮し,固化材を添加して固化,必要に応じて養生して得られる。・・・なお,改良土の製造において,例えば含水率が少なくて硬めの建設汚泥を用いる際には前記した凝集や乾燥,或いは脱水等の工程を省略し,建設汚泥に直接固化材を添加して固化し,改良土とすることもできる。上記のようにして得られた改良土の含水率は,例えば約45%〜約55%である。
【0033】本発明によれば建設汚泥を埋戻し等の施工材料として再資源化を可能にしてリサイクル率を向上させることができる。また,建設汚泥をリサイクルすることにより,現在一般に埋戻し等の材料として使用されている土砂等に代替して土砂等の使用量を軽減することができる。
したがって,山林等の土砂採掘(山砂採集等)による環境破壊の防止に貢献することができる。
イこれらの記載によれば,本件発明は,粒子が微細で泥状を呈しているためにそのままでは使用困難な「建設泥土」を使用可能にするため,あらかじめ,その含水比を意図的に調整(約55%ないし約65%)して「調整泥土」を製造した上で,これに混合組成物,固化材及び水とを混合させるものであるということができる。すなわち,本件発明は,建設汚泥に水及びセメント等の固化材を混合して流動化処理土を製造する際に,まずはじめに,建設汚泥を処理してその含水率を約55%〜約65%に調整して調製汚泥を製造し,その後に,調整した調整汚泥10Ltrに対して,水を加え,その調整汚泥と水との混合組成物に対して,セメント等の固化材を混合し,流動性を保ちつつ,所定の一軸圧縮強度,ブリージング率及びフロー値を持った流動化処理土を得ることを特徴とする製造方法に関する発明であると認められる。
(2) 甲1発明についてア 甲1の2の記載甲1の2には,以下のとおり記載がある。
(ア)「建設発生土の種類と利用形態は,火力発電所の建設にあたり大型ポンプ船による泊地浚渫(泥岩)および埋立工事が行われた。埋立地の余水吐きより泥水として二次沈殿地に堆積した細粒土を流動化処理土の主材料として利用した。事例表10.1に浚渫土の物理特性を示す。」(甲1の2,180頁6行〜13行)(イ)「処理土の配合は,浚渫・埋立で発生した細粒土を使用して,現場目標強度,一軸圧縮強さでqu=4〜5kgf/?p (養生日数28日)程度を2満足する固化材添加量は,事例図10.1に示す固化材添加量と強度の関係より80〜120kg/m と考えられる。処理土の固化材添加量を決定3するため,事例表10.3,10.4,事例図10.2,10.3に示す試験を実施した。次項に示す試験結果の表および図に基づいて,当該工事の基本配合,ならびに施工管理上の目標値を以下に示す。
(1)設計強度一軸圧縮強さqu=4.0kgf/□(室内水中養生)養生日数28日一軸圧縮強さqu=6.0kgf/□(室内湿空養生) 養生日数28日(2)流動性スクイズポンプで水中打設可能な流動性を確保するため,流動化処理土のフロー値を210?o程度とする。したがって,固化材添加前の泥水は315?o程度とした。
(3)不分離性材料の分離を制御するため,流動化処理土の製造後3時間経過時のブリーデイング率を1%以下になるように含水比の調整を行う。
(4)使用固化材材料の分離抵抗を高くするため,ここでは目的に合わせて調合した特殊固化材を100kg/mの割合で添加する。
3(5)混練水 現場海水を使用。
(6)基本配合当該現場における流動化処理土の基本的配合割合は,事例表10.5に示すとおりである。
■流動化処理土の製造流動化処理土の製造から,運搬,当該現場の打設に至る過程を事例図10.4の施工フロー図に示す。
以下,施工フロー図に基づいて施工手順を説明すると次のようになる。
?@解泥調製槽にクラムシェルで,第二次沈殿池より細粒土を投入。
?A解泥機を用いて解泥し,加水しながらフロー値を調製した後ポンプで泥水貯留槽に圧送する。
?B調製泥水をサンドポンプで流動化処理プラント(バッチ式)に投入する。
?C固化材を定量添加,撹拌,混合し処理土を作成する。…」(181頁1行〜183頁9行)イ以上の記載によれば,甲1の2には,泥水として二次沈殿地に堆積した細粒土を流動化処理土の主材料として利用すること,及び事例表10.1の浚渫土の物理特性として75ミクロン以下のシルト分及び5ミクロン以下の粘土分を多く含むものであることの記載はあるが,浚渫土から礫などのような粒径の大きなものをスクリーニングして建設汚泥を分離すること,建設汚泥の流動化処理に当たって,あらかじめ,建設汚泥の含水率を調整しておくとの技術は開示されていない。
すなわち,甲1の2の事例10の主材料である細粒土は,埋立地の余水吐きより泥水として二次沈殿地に堆積した細粒土であって,その自然含水比が記載されているだけであり,乾燥や脱水等を施したり,細粒土に含まれている水分量を調整するという記載もないから,建設汚泥を流動化処理する際に,あらかじめ,建設汚泥の含水率を調整しておくという本件発明特有の方法を開示,示唆したものであるとはいえない。
また,甲1の2の事例10には,表10.1の浚渫土の自然含水比が92.3%(含水率48%)であるとする記載があり,表10.5のピット内粘性土についても別の含水率を示唆する記載(原告主張の計算によるとその含水率が約60%であるもの)がある。しかし,それらの浚渫土とピット内粘性土が同一の土であるか否かは明らかでない。仮に,同一の土であるとしても,浚渫土には,泥土に該当する浚渫土と泥土以外の浚渫土があることに照らすと(「建設発生土利用技術マニュアル」財団法人土木研究センター・甲4の図1-1),表10.5のピット内粘性土は,浚渫土のうちの一部が余水吐きを介して分離されたものにすぎないとも推認される。そうすると,埋立地の余水吐きより一部を分離することをもって,本件発明における乾燥や脱水等を前提とした含水率調整工程(調整汚泥製造工程)の技術が開示されていると解することはできない。
したがって,甲1の2には表10.1の浚渫土と表10.5のピット内粘性土という異なる含水率の土が示されていることから,その両者の間で含水率の調整が行われる技術が開示されていると解することはできない。
さらに,前記(1)アに認定したとおり,本件発明の明細書には,本件発明1における「建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥」について,「含水率が高く(含水率は約55%以上),粒子が微細で泥状を呈しており,そのままでは再利用することができないため,産業廃棄物として処理されている。【0004】」,「細かい粒子(74ミクロン以下)を多く含み,かつ,泥状を呈している(但し,流動性は低い)。【0013】」,「この槽3内の調整汚泥を,スクリーン4を通過させて礫などのような粒径の大きい物をスクリーニングし,調合槽5へ導入する。【0016】と記載されていること,このような建設汚泥は,「建設発生土利用技術マニュアル」(甲4)の「図1-1発生土の構成図」においても,「浚渫土」とは異なるものとして分類されていることに照らすならば,甲1の2の事例10において浚渫土砂を流動化処理土に利用することが記載されているからといって,その浚渫土砂とは区別される建設汚泥を流動化処理土に利用することについて,示唆がされていると解することはできない。
(3) 容易想到性の判断上記のとおり,甲1の2の事例10においては,浚渫土から礫などのような粒径の大きなものをスクリーニングして建設汚泥を分離すること,そして,その建設汚泥を流動化処理する際に,あらかじめ,建設汚泥の含水率を調整しておくこと,乾燥や脱水等を施し,細粒土に含まれている水分量を調整することについての記載や示唆はない。したがって,相違点1(含水率調整がされる本件発明1とそのような調整がない甲1発明との相違点)及び相違点2(加水量及び固化材添加量の数値限定のある本件発明1とそのような数値限定のない甲1発明との相違点)について,当業者が甲1発明に基づいて,本件発明1の含水率調整やこれを前提とする加水量及び固化材添加量の数値限定容易に想到し得るものではない。これと同旨の審決には誤りがない。
この点についての原告の主張は理由がない。
2取消事由2(本件発明2と甲1発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について前記説示のとおり,甲1の2には,「建設汚泥を処理して含水率を約55%〜約65%に調整した調整汚泥」を主材として流動化処理土を製造しておくことが記載されていないから,本件発明1は甲1発明から容易に想到し得るものではない。したがって,相違点1’(含水率調整がされる本件発明1とそのような調整がない甲2発明との相違点)及び相違点2’(加水量及び固化材添加量の数値限定のある本件発明2とそのような数値限定のない甲1発明との相違点)について,建設汚泥を処理して含水率を約55%ないし約65%に調整した調整汚泥10Ltrに対して粘土などの細粒土を含む泥水を約2.5〜約3.5Ltrの範囲で混合すること,この調整汚泥と泥水の混合組成物に固化材0.4〜0.6?sの範囲で混合することは,甲1発明に基づいて当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。審決の判断には誤りがなく,この点についての原告の主張は理由がない。
3取消事由3(本件発明3と甲2発明との相違点の容易想到性判断の誤り)について(1)原告は,?@本件発明3には「含水率が55%以上」などとする記載はなく,「含水率が高い泥土」との記載もないから,本件発明3の建設汚泥がそのような土であることを前提にした審決の判断には誤りがあり,?A建設汚泥に,セメント,セメント系固化材,セメント・石灰複合系固化材,及び石灰の中から選択した固化材を添加して固化処理し,礫を除去して,これを「改良土」とする本件発明3の「改良土製造工程」は,公知ないし公然実施されていた(甲1,甲2,甲5)から,本件発明3は,甲1発明及び甲2発明に基づいて容易に発明をすることができたものであると主張する。
(2) しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
甲2(段落【0002】)には,「【従来の技術】従来,土木建設工事における土砂の埋戻し,裏込め又は充填の施工法には,施工用土砂として,施工現場の発生残土例えば掘削残土を用いる施工法や,発生残土が不良の場合,それに代えて良質の土砂を用いるか,あるいはこの残土に固化材等の土質改良材を配合した改良土を用いる施工法が知られている。この施工法は締め固めや突き固めを要するが,例えば上下水道管やガス管や通信ケーブルなどの管路式地中線路等の埋設管の敷設および補修に伴なう埋戻しにおいては,転圧機等の圧を埋設管の破損のおそれのない程度に制御する必要があるなどして,埋設管回りは十分な締固めや突き固めが困難となったり,充填性が不十分で空洞が残存しがちとなり,これが地盤沈下や陥没等のトラブルの原因となるなどの問題がある。また,その場合,埋設管等に過大な応力が発生し易く,破損に連なることにもなる。同様のことは,擁壁や橋台等の裏込め工法においても生じる。」との記載がある。しかし,同記載から,本件発明における「建設汚泥」を土質改良することについての開示や示唆があると解することはできない。
以上のとおり,甲2には,流動化処理土の原料として建設汚泥を利用することについての記載はないから,原告の主張は,前提において失当である。
したがって,相違点1”(原料土における「建設汚泥」と「土塊」との相違点)及び相違点2”(本件発明3が,「改良土10Ltrに対して,水を約4〜約6Ltrの範囲で,また,改良土と水との混合組成物10Ltrに対して,固化材を,水に溶解した固化材の固形分として約0.6〜約0.8?sの範囲で混合」との限定が付されているのに対して,甲2発明は限定が付されていないとの相違点)について,甲1発明及び甲2発明に基づいて本件発明3の構成に想到することが容易ではあるとはいえない。したがって,審決の認定及び判断には誤りはなく,この点の原告の上記主張は理由がない。
4 結 論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他にも原告は縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀