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関連審決 不服2006-1981
関連ワード 方法の発明 /  製造方法 /  使用方法 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  実質的に同一 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 / 
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事件 平成 20年 (行ケ) 10104号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士伊藤捷雄
被告特許庁長官
指定代理 人西川和子,北村明弘,坂崎恵美子,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/10/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2006-1981号事件について平成20年1月30日にした審決を取り消す 」との判決。。
第2事案の概要本件は,原告が,名称を「餅の製造方法及び餅の製造セット並びに熱処理用容器及び餅」とする発明につき特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,審判請求は成り立たないとの審決がなされたため,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯( )本件出願(甲第1号証)1出願人:X(原告)発明の名称: 餅の製造方法及び餅の製造セット並びに熱処理用容器及び餅」 「出願番号:特願2003-426700号出願日:平成15年12月24日優先権主張日:平成14年12月26日(日本)( )本件手続2手続補正日:平成17年11月28日(甲第4号証)拒絶査定日:平成17年12月15日(甲第5号証)審判請求日:平成18年2月3日(不服2006-1981号)手続補正日:平成18年3月3日(甲第7号証。以下「本件補正」という )。
審決日:平成20年1月30日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「 。
審決謄本送達日:平成20年2月20日2特許請求の範囲( )本件補正前の特許請求の範囲(平成17年11月28日の手続補正に係る特1許請求の範囲)の請求項1,9の記載は,以下のとおりである(なお,請求項の数は全10項である。。)「 請求項1】上部に開口部と蒸気吹出口を有し,通常時は折り畳まれてシート状 【を呈しているが,使用時に平坦な底部を有する角筒状を形成できる構成で,内側に離型処理を施した非誘電加熱性材料製かつ紙製の熱処理容器を用い,まず,粉状又は粉粒状を呈した餅の原料と水とを良く混ぜ合わせた混合液を作り,この混合液を前記平坦な底部を有する角筒状を形成できるように開いた前記熱処理容器内部の前記開口部より上部に空間部が形成できるように注ぎ込み,次いで,前記開口部を前記熱処理容器の上部に錐状の空間部ができかつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ,次いで該熱処理用容器ごと誘電加熱,。」 機を用いて誘電加熱処理を施して餅を製造することを特徴とする 餅の製造方法「 請求項9】請求項1,4及び7に各記載の製造方法によって製造されたことを 【特徴とする,餅 」。
( )本件補正に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は 以下のとおりである 下2 ,(線部が補正箇所である。なお,請求項の数は全8項である )。
「 請求項1】上部に開口部と蒸気吹出口を有し,通常時は折り畳まれてシート状 【を呈しているが,使用時に平坦な底部を有する角筒状を形成できる構成で,内側に離型処理を施した非誘電加熱性材料製かつ紙製の熱処理容器を用い,まず,粉状又は粉粒状を呈した餅の原料と水とを良く混ぜ合わせた混合液を作り,この混合液を前記平坦な底部を有する角筒状を形成できるように開いた前記熱処理容器内部の前記開口部より上部に空間部が形成できるように注ぎ込み,次いで,前記開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の空間部を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ,次いで,前記折り畳んだ部分を前記熱処理容器に粘着テープで貼着し,次いで,該熱処理用容器ごと誘電加熱機を用いて誘電加熱処理を施して餅を製造することを特徴とする,餅の製造方法 」。
3審決の理由の要点,, (「」 審決は 本件補正につき 補正に係る請求項1記載の発明 以下 本願補正発明という )は,下記刊行物1〜3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をする 。
ことができたものであって,特許法29条2項の規定により,出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,本件補正を却下し,本件特許出願に係る発明の要旨を,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1,9の各記載に基づい(,「」,「」。) て認定した 以下 請求項の番号に対応して 本願発明1本願発明9 という上,本願発明1は刊行物1〜3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法29条2項により,本願発明9は刊行物1に記載された発明であるから同法29条1項3号により,それぞれ特許を受けることができず,本件特許出願は拒絶すべきものであるとした。
刊行物1特開昭63-152952号公報(甲第11号証)刊行物2特開2001-146275号公報(甲第13号証)刊行物3特開2001-58680号公報(甲第12号証), ( , 審決の理由中 本件補正を却下した部分の判断 刊行物1〜3の記載事項の認定本願補正発明と刊行物1記載の発明(以下「刊行物1発明」という )との対比, 。
相違点についての判断)は,以下のとおりである。
( )本件補正についての判断事項1「本件補正後の・・・請求項1に記載された発明(本願補正発明)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(同法(判決注:平成18年法律第55号による改正前の特許法)17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について以下に検討する 」。
( )刊行物の記載事項の認定2ア刊行物1「原査定の拒絶の理由に引用された特開昭63-152952号公報(刊行物1)には,次の記載がある。
(1a 『60〜120メッシュに製粉した餅粉を生粉のまま,その含水率が最低でも約7% )程度に保持されるよう規制された範囲内で消毒殺菌して成る餅粉に対して,100〜160重量パーセントの割合となる水を添加して均質に混練した上,その混練された練り餅粉を電子レンジで3〜5分間だけ加熱して糊化するようにした即席餅の製造方法(特許請求の範囲第3 。』項)(1b 『この発明は,即席餅用として市販できる全く新しいタイプの餅粉と,その餅粉を使 )用して極めて簡単に餅を作ることが可能となる新規なやり方による即席餅の製造方法とを提供しようとするものである(1頁右欄4〜8行) 。』(1c 『実験例1)・・・餅粉(水分13.5% :50g)加水量:60g加熱時間:3分容器(円筒型,蓋付,:75mmφ耐レンジ容器)65mm深さレンジ出力:600w(3頁右上欄3行〜下から5行) 』(1d 『そして,その餅粉を使って即席餅を製造する方法も,定められた割合の水を添加し )て単に混練し,僅かな時間だけ電子レンジで加熱するだけで,従来の即席餅では実現できなかった搗きたて同様の食感を有する餅を作ることができ,この効果は,先の安価に提供できる効果と相俟って,餅の消費拡大に大いに貢献することができるものといえる(4頁右上欄7〜 。』14行 」)イ刊行物2「同特開2001-146275号公報(刊行物2)には,次の記載がある。
(2a 『 請求項37】開口側端部と底部側端部と2つの側端部とをそれぞれ有し,少なくと )【も前記側端部及び底部側端部にて結合して主収納部を形成する前面パネル及び背面パネルを提供する1以上のシート状の柔軟性素材と,開口しているか或いは開口することができる開口部及びトラフ部を有するか又はこれらを含んで構成され,前記前面パネルと前記背面パネルとの間にて物品を含むポーチ部と,を含んで構成される包装具(特許請求の範囲の請求項37) 。』(2b 『 請求項71】前記底部が,ガセット形状の底部としてシール処理されていることを )【特徴とする請求項37〜請求項70のいずれか1つに記載の包装具。
【請求項72】前記ガセット形状の底部が,前記包装具の端部部分においてその概ね開くことができるガセット部がシールされる部分を除いて幅方向に拡張可能なものであることを特徴とする請求項71記載の包装具(特許請求の範囲の請求項71,72) 。』(2c 『本発明は,包装具に関する。より詳細には,それに限定されるものではないが,電 )磁波のエネルギーによって加熱することができる食品を含む包装具,又はそのような食品を入れるための包装具に関する(段落【0001 ) 。』】(2d 『前記少なくとも1つの他のプライは,紙又は紙ボード状の素材から成るのが好まし )い 前記紙又は紙ボード状の素材は 前記内側のプライにラミネートされるのが好ましい段 。 , 。』(落【0020 )】(2e 『本包装具は,内部の食品を調理したり或いは加熱したりするために,食品が包装具 )に含まれているか又はユーザが食品を包装具に入れることができるように提供される状態で,その食品の末端ユーザ或いは顧客に提供することができる(段落【0052 ) 。』】(2f 『最も好ましい形態では,包装具は,これが自立できるような形状に操作されるか又 )は操作することができる基部を備える(段落【0054 ) 。』】(2g 『包装具が内部にいかなる食品も含まずに提供された場合は,この段階で食品を包装 )具の収納部に提供するのがよい。
この後,包装具及びその内容物に電磁波のエネルギーを与えることができ,または,加えられた水分が湯又は熱湯であって,包装具及びその内容物が電磁波のエネルギーによって加熱されるのが望ましくないか又はその必要がない場合には,十分な時間そのままにしておくようにするだけでよい。内容物の電磁波による調理或いは加熱は,図3に示される状態の包装具によって達成できるし,また,包装具の収納部内に熱を含めるために,弱み線或いは折返線によって形成されるフラップ部を折り返すことにより,包装具の収納部の露出を規制することもできる(段落【0055】〜【0056 ) 。』 】(2h 『前面パネル及び背面パネルの底部は,ガセット部9を介して接合されるのが最も好 )ましい。ガセット部を設けることにより,パネルがそれらの底部に沿って相互に外側へ向けて拡張可能となり,本発明の包装具を自立できるようにする安定した基部が形成される。ガセット部の形態は (前面パネル及び背面パネルと同じ素材であっても,そうでなくても)素材の ,単層折曲プライであるのが好ましく,包装具の底端部に沿って及び側部7の下方にてシールされるか又は前面パネル及び背面パネルの一部を形成するのが好ましい。この側部におけるシール部は,図8に点線で示されている(段落【0062 ) 。』】()『2i(図8)』()『, , 2j包装具の使用は これまでに実質的に開示された工程のためのものであってよいが包装具の内容物の調理前に,再閉可能なプロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じることができ,また,切取ストリップ或いは切取パネル25を除去することにより,調理時における包装具の膨張及び/又は蒸気の循環を可能にする通気用の開き口26を提供するこ。 , , とができる 内容物が十分に加熱されるか又は調理されると 包装具の上部部分を切り取って加熱されるか或いは調理された食品を含む収納部へ便利に接触することができる。図23から図30に示される包装具の他の構造は,パネルのうち少なくとも一方から切り取ることができ,, 。』 る1以上のストリップ或いは部分を含んでよく また それらを両方のパネルに設けてもよい(段落【0092」】)ウ刊行物3「同特開2001-58680号公報(刊行物3)には,次の記載がある。
(3a 『本発明は,開封容易な電磁加熱用包装体に関し,特にコンビニエンスストアなどで )販売されているホットドックやハンバーガーなどの食品を包装したまま電子レンジなどの電磁加熱器で再加熱処理した時に,食品から出る余分な水分や油によって食品の風味が損なわれることを防ぎ,さらに食品を取り出す時の開封を容易かつ確実にすることを目的とした包装体に関する(段落【0001 ) 。』】(3b 『食品包装材料として,例えばパンやハンバーガー,ご飯等の被包装物は,でんぷん )質やセルロース質など,いずれも親水性の高い成分から成り立っており,従来紙製品を食品に使用する場合には,剥離の目的で,パラフィンやシリコン系の撥水処理がなされてきた。この意味で,パンやハンバーガー等の食品を電子レンジ加熱させた場合,オレフィン系の繊維から成る親水性の低い素材で出来た不織布を使用すると,食品が内層シートにくっつかず,剥離性, 。, , が良く 包装物から食品を取り出しやすくなる 本発明においても 撥水性をさらに増したり親水性を低下させるために,不織布表面に撥水加工剤を塗布することは可能であるが,このような後加工剤は,使用時や製品加工時に脱離し,食品に吸着し,人体に入る恐れがあることを考慮すると望ましくない。これらを勘案しても,食品包装材量の表面材は,実質的にポリオレフィン系のポリマーから成るものが好ましい(段落【0023」 。』】)( )本願補正発明と刊行物1発明との対比 3「刊行物1には (1a)に示した餅の製造方法が記載され,その際に (1c)に示したよう , ,に耐レンジ容器を用いているから,刊行物1には,『餅粉に水を添加して均質に混練した上,その混練された練り餅粉を耐レンジ容器に入れて電子レンジで加熱して糊化するようにした即席餅の製造方法』という発明(刊行物1発明)が記載されているといえる。
そこで,本願補正発明と刊行物1発明とを対比すると,刊行物1に具体的に記載された実験例1における容器の容積と内容量からみて(記載事項1c ,練り餅粉は,容器に目一杯では )なく上部に空間ができるように収納されることは当然のことであるから,両者は,『粉状を呈した餅の原料と水とを良く混ぜ合わせた混合液を作り,この混合液を熱処理容器内部の開口部より上部に空間部が形成できるように注ぎ込み,次いで,該熱処理用容器ごと誘電加熱機を用いて誘電加熱処理を施して餅を製造することを特徴とする,餅の製造方法』で一致し (イ)〜(ハ)の点で相違する。 ,(イ)用いる熱処理容器が,前者では『上部に開口部と蒸気吹出口を有し,通常時は折り畳まれてシート状を呈しているが,使用時に平坦な底部を有する角筒状を形成できる構成で,内側に離型処理を施した非誘電加熱性材料製かつ紙製の熱処理容器』であるのに対し,後者ではそうでない点(ロ)混合液を注ぎ込むのが,前者では『平坦な底部を有する角筒状を形成できるように開いた熱処理容器』であるのに対し,後者ではそうでない点(ハ)前者では 『前記開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の空間部を形成 ,でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ,次いで,前記折り畳んだ部分を前記熱処理容器に粘着テープで貼着』するのに対し,後者ではそうでない点」( )相違点に対する判断4ア相違点(イ),(ロ)について「刊行物1と同様に,電磁波のエネルギーによって加熱することができる(記載事項2c,2g ,食品を入れるための(記載事項2c,2e)包装具,について記載されている刊行物2 )について検討すると,刊行物2に記載された包装具は,紙製であって(記載事項2d ,上部 )に開口部と蒸気用の開き口を有し(記載事項2a,2j ,底部はガセット形状をしており, )幅方向に拡張可能であり(記載事項2b,2h ,使用時には自立できるものである(記載事 )項2f 。)そして,刊行物2に記載の包装具は,食品を入れて使用するまでは当然に折り畳まれて,例えばシート状をしていると考えられ,使用時には底部が平坦になって自立するから角筒状を形成するものであって,その内側が離型処理されているのも当然のことであるから(記載事項3a,3b参照 ,刊行物2には, )『上部に開口部と蒸気吹出口を有し,通常時は折り畳まれてシート状を呈しているが,使用時に平坦な底部を有する角筒状を形成できる構成で,内側に離型処理を施した非誘電加熱性材料製かつ紙製の熱処理容器』が記載されている。
そうしてみると,この刊行物2に記載された事項の中に,上記(イ(ロ)の点はすべて記 ),載されているところ,刊行物1発明で用いている熱処理容器に替えて,収納した食品を誘電加熱機を用いて誘電加熱処理するためのものである,刊行物2に記載の容器を用いることは,当業者が適宜なし得るところといえるから,これらの点を採用することは,刊行物2の記載に接した当業者にとって格別困難なことではない 」。
イ相違点(ハ)について「刊行物2には 『折返線によって形成されるフラップ部を折り返すことにより,包装具の収 ,納部の露出を規制することもできる』と記載され(記載事項2g ,具体的には図8にも示さ )れ(記載事項2i ,この図からも明らかなように,フラップ部を折り返せば当然にそこには )錐状の空間部が生じる。
そして,折り畳んだ部分を粘着テープで貼着することは極めて普通のことであり,また,蒸気用の開き口は,蒸気が上昇することを考えると特段の事情がない限り,なるべく上部に設けようとするものであるから 『開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の空間部 ,を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ,次いで,前記折り畳んだ部分を前記熱処理容器に粘着テープで貼着』することも,刊行物2の記載に接した当業者にとって格別困難なことではない 」。
ウ本願補正発明の効果について「本願補正発明の効果は,明細書の段落【0058】に記載されるように 『この発明によれ ,ば,誰でもが手軽に電子レンジを用いて餅を作ることができ,かつ餅を作る熱処理容器に餅が付着することがなく使い捨てができるので 後処理も楽であるというものであるところ誰 ,。』 ,『でもが手軽に電子レンジを用いて餅を作ることができ』という効果は刊行物1において既に示されており(記載事項1b,1d ,また 『餅を作る熱処理容器に餅が付着することがなく使 ),い捨てができるので,後処理も楽である』という効果は,刊行物2に示された包装具が紙製であって,簡便なものであることから(記載事項2d ,既に示されるところである。 )そうすると,本願補正発明の効果も,刊行物1及び刊行物2の記載から,当業者が予測をし得る程度のものである 」。
エ原告(審判請求人)の主張について「請求人は,平成18年12月29日付け回答書において,( 『本願発明のものは,最初から加熱処理すべき材料が熱処理容器内に封入されているのでi)はなく,餅を作る専用の熱処理容器であり,しかも調理をする場所で作った餅の原料と水の混合液を熱処理容器の中に入れ,その後熱処理容器の開口部を封ずるために,開口部を折り畳んでゆく際に,蒸気吹出口を錐状の空間部の頂部に同時に形成できるというものであり,常套手段を示す各公報に記載のものとは,その目的,構成,及び効果が明らかに異なっています 』 。
旨,(『熱処理容器内の餅の原料を電磁加熱することによって生じた蒸気は,錐状の頂部に集まii)り,そこに設けた蒸気吹出口よりスムーズに外部へ排出され,内部圧力が高まって紙製の熱処。』 ,, 理容器が破裂してしまうのを有効に防止することができているものであります旨 主張しさらに,本願明細書には,蒸気吹出孔について,(『熱処理用容器5,25,27,30及び35内へ収容した餅の原料の上部には空間部iii)が形成され,この空間部は餅の原料に対し誘電加熱が加えられる時に発生する蒸気の蒸気溜りとなり,この蒸気によって誘電加熱された餅を蒸すことができ,また,蒸気吹出孔は熱処理用容器内に必要な内圧を生じさせることができる機能を営むものである(明細書の段落【00 。』52 )と記載されている。 】これを検討するに ( )については,開口部を折り畳んでゆく際に,蒸気吹出口を錐状の空 ,i間部の頂部に同時に形成できても同時には形成できなくても,蒸気吹出口の役割としては何ら変わるところはなく,設計的事項であるといえる。また ( )については,内部圧力の高まり ,ii, , 。( ), を防止するには開口部があれば足りるからこれも設計的事項といえるについては iii刊行物1発明においても容器上部の空間で蒸気が溜まり餅を蒸すことができているものと考えられ,仮に 『生じた空間部が蒸気溜りとなり,この蒸気によって誘電加熱された餅を蒸すこ ,とができ』ることが本願補正発明の特徴だとしても,それにより製造された餅の特性については明細書に何ら記載されておらず,餅の味,食感等が刊行物1発明で製造された餅に比べて格段に優れるものとすることはできないから,この主張にも格別の意味は見出せない。
よって,請求人の主張はいずれも当を得ていない 」。
( )本件補正についての判断の「まとめ」 5「本願補正発明は,本願出願前に頒布された刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,出願の際独立して特許を受けることができないものである 」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点審決は,本件補正についての判断に当たり,相違点(イ)〜(ハ)についての判断を誤り,かつ,本願補正発明の顕著な作用効果を看過して,本願補正発明が,刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから出願の際独立して特許を受けることができないとの誤った判断をし,本件補正を却下した結果,本件補正に係る特許請求の範囲に基づいて認定すべき発明の要旨を,本件補正前の特許請求の範囲に基づいて認定した違法がある。
1取消事由1(相違点(イ),(ロ)についての判断の誤り)審決は,その認定に係る本願補正発明と刊行物1発明との相違点(イ)である「用いる熱処理容器が,前者(判決注:本願補正発明)では『上部に開口部と蒸気吹出口を有し,通常時は折り畳まれてシート状を呈しているが,使用時に平坦な底部を有する角筒状を形成できる構成で,内側に離型処理を施した非誘電加熱性材料製かつ紙製の熱処理容器』であるのに対し,後者(判決注:刊行物1発明)ではそうでない点」及び同(ロ)である「混合液を注ぎ込むのが,前者では『平坦な底部を有する角筒状を形成できるように開いた熱処理容器』であるのに対し,後者ではそうでない点」につき,刊行物2及び刊行物3の記載から,刊行物2には「上部に開口部と蒸気吹出口を有し,通常時は折り畳まれてシート状を呈しているが,使用時に平坦な底部を有する角筒状を形成できる構成で,内側に離型処理を施した非誘電加熱性材料製かつ紙製の熱処理容器」が記載されているとの認定をした上 「この刊行 ,,, , 物2に記載された事項の中に 上記(イ) (ロ)の点はすべて記載されているところ刊行物1発明で用いている熱処理容器に替えて,収納した食品を誘電加熱機を用いて誘電加熱処理するためのものである,刊行物2に記載の容器を用いることは,当業者が適宜なし得るところといえるから,これらの点を採用することは,刊行物2の記載に接した当業者にとって格別困難なことではない 」と判断した。 。
しかしながら,刊行物2に記載された包装具は,全部が紙製のものではなく,紙製であっても他の材料と重ね合わせて用いることを前提としており,また,麺やパスタを作る際に用いるものであって(段落【,これを用いて餅が製造できる0052 】)ことは刊行物2に記載されていない。餅粉と水の混合物から電子レンジを用いて餅を作る場合の物理的特性と麺やパスタを作る際の物理的特性とが異なることは当然であって,当業者は,刊行物2に記載された包装具を用いて直ちに餅が製造できると考えるものではない。また,刊行物3に記載されたものは,コンビニエンスストアで販売されるハンバーガーを電子レンジを用いて温め直す際に用いる包装体であり,この包装体を用いて餅粉と水の混合物から電子レンジを用いて餅を製造することは記載されていない。そうすると,これらの刊行物に記載された発明を組み合わせても,相違点(イ),(ロ)に係る本願補正発明の構成が具体的に想起されるものではない。
なお,被告は,刊行物2の記載を引用し,刊行物2は,それに記載された包装具が,食品と相当量の水分を入れ自立した状態で誘電加熱機で加熱や調理するための容器として適し,特に麺類やパスタ等の食品の加熱に適することをいうものであって,当該包装具が麺やパスタを作るためのものであるということではないと主張するが,刊行物2に被告の引用する記載があるとしても,刊行物2に「麺類やパスタ等の食品を加熱するのに適する (段落【)との記載がある以上,当業者は, 」】0052当該包装具について,精々「麺やパスタ」と同じ材料で作られる食品を「麺やパスタ」を作るのと同じようにして作るのに用いることができるものと理解するに止まる。物理的特性が「麺やパスタ」を作る際と全く異なる餅の製造に,当該包装具を使用することにまで考えが及ぶものではない。
また,被告は,刊行物1発明につき,使用する容器についても,より簡単に餅を作ることができるものとする課題があると主張するが,刊行物1には,容器の簡便化を技術課題とする旨の記載は全くない。被告が引用する刊行物1の「餅粉を使用して極めて簡単に餅を作る1頁右欄5〜6行 との記載は 従来技術である 浸 」(),「漬,蒸す,搗くという工程を経なければならない・・・手間暇を要する (2頁左 」上欄1〜3行)方法によっていたものを簡単にするということであって,容器の簡便化についていうものではない。
したがって,刊行物1発明に刊行物2に記載された容器を用いることにより,相違点(イ),(ロ)に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得る旨の審決の判断は誤りである。そのようにいうためには,少なくとも,刊行物2に,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を作ることができる旨の記載が必要であるというべきである。
2取消事由2(相違点(ハ)についての判断の誤り)審決は,その認定に係る本願補正発明と刊行物1発明との相違点(ハ)である「前者(判決注:本願補正発明)では 『前記開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器 ,の上部に錐状の空間部を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ,次いで,前記折り畳んだ部分を前記熱処理容器に粘着テープで貼着』するのに対し,後者(判決注:刊行物1発明)ではそうでない点」につき 「刊行物2には 『折返線によって形成されるフラップ部を折り ,,返すことにより,包装具の収納部の露出を規制することもできる』と記載され・・・,具体的には図8にも示され・・・,この図からも明らかなように,フラップ部を折り返せば当然にそこには錐状の空間部が生じる。そして,折り畳んだ部分を粘着テープで貼着することは極めて普通のことであり,また,蒸気用の開き口は,蒸気が上昇することを考えると特段の事情がない限り,なるべく上部に設けようとするものであるから 『開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の空 ,間部を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ,次いで,前記折り畳んだ部分を前記熱処理容器に粘着テープで貼着』することも,刊行物2の記載に接した当業者にとって格別困難なことではない 」と判断した。。
しかしながら,上記1のとおり,刊行物2には,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を製造し得ることは全く記載がない。そうである以上,刊行物2記載の包装具を用い,本願補正発明のようにして餅を製造することはできないものと判断すべきである。そうすると,刊行物2記載の包装具を用いたとしても,本願補正発明に至るまでには,何度も実験を繰り返し,最良の方法を探る必要があるのであって,刊行物1発明と刊行物2記載の発明に基づいて本願補正発明を容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。
さらに,本願補正発明の熱処理容器の開口部を閉じる方法が,開口部を折り畳んで錐状の空間部を形成し,同時に蒸気吹出口を錐状の空間部の頂部に形成するというものであるのに対し,刊行物2に記載された方法は,再閉可能なプロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じ,切取ストリップ又は切取パネル25を除去して,包装具の膨張及び/又は蒸気の循環を可能にする通気用の開き口を提供するというものであるから,両者はその構成を異にするものであって,刊行物2に記載された方法は樹脂製の包装具を前提とし,紙製である本願補正発明の熱処理容器では刊行物2のもののように構成することができないという相違があるのみならず,本願補正発明は,上記のように構成することにより,蒸気圧を制御して,固さにむらのない手作り風の食感と食味を有する美味しい餅を家庭で作ることができるのである。餅を作る上で,蒸気吹出口の位置と数は蒸気圧を制御するために非常に重要であり(甲第21号証 ,刊行物2に記載された通気用の開き口では本願補正 )発明の目的は達成することができない。
3取消事由3(顕著な作用効果の看過)( )審決は,本願補正発明の効果につき 「本願補正発明の効果は,明細書の段1 ,落【】に記載されるように 『この発明によれば,誰でもが手軽に電子レンジ0058 ,を用いて餅を作ることができ,かつ餅を作る熱処理容器に餅が付着することがなく使い捨てができるので,後処理も楽である 』というものであるところ 『誰でもが 。 ,手軽に電子レンジを用いて餅を作ることができ』という効果は刊行物1において既に示されており・・・,また 『餅を作る熱処理容器に餅が付着することがなく使 ,い捨てができるので,後処理も楽である』という効果は,刊行物2に示された包装, , 。 具が紙製であって 簡便なものであることから・・・ 既に示されるところであるそうすると,本願補正発明の効果も,刊行物1及び刊行物2の記載から,当業者が予測をし得る程度のものである 」と判断した。 。
しかしながら,刊行物1は,単に,餅粉と水を混合させて電子レンジで加熱すると餅が手軽に作れることを開示したにすぎないものであり,そのための加熱処理容器については 「円筒型,蓋付,耐レンジ容器 (3頁右上欄下から7〜6行,同頁 , 」左下欄下から3〜2行,4頁左上欄下から7〜6行)とあるだけで,具体的な記載は一切ない。また,刊行物2には,上記のとおり,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を製造し得ることは全く記載がなく,餅粉と水を混合させたものから電磁加熱によって餅を作るということと,他の食品を加熱処理することとでは,異なった物理現象が生ずるから,刊行物2に記載された包装具から,直ちに手軽かつ安価に餅が製造できるという作用効果が生ずるものでないことは明らかである。したがって,本願補正発明の効果は,刊行物1,2の各記載から当業者が予測できる範囲を超えており,審決の上記判断は誤りである。
( )次に,審決は,審判請求人(原告)の「本願発明のものは・・・熱処理容器2の開口部を封ずるために,開口部を折り畳んでゆく際に,蒸気吹出口を錐状の空間部の頂部に同時に形成できるというものであり,常套手段を示す各公報に記載のも,,, 。」, のとは その目的 構成 及び効果が明らかに異なっていますとの主張に対し「開口部を折り畳んでゆく際に,蒸気吹出口を錐状の空間部の頂部に同時に形成できても同時には形成できなくても,蒸気吹出口の役割としては何ら変わるところはなく,設計的事項であるといえる 」と判断した。 。
しかしながら,本願補正発明は,単に餅ができるというだけではなく,手軽にできることも作用効果の一つであるところ 「開口部を折り畳んでゆく際に,蒸気吹 ,出口を錐状の空間部の頂部に同時に形成できる」ことは,他の方法で上記吹出口を形成する場合に比べ,より,手軽であるといえるのであるから,評価されるべき作用効果の一つであり,単なる設計事項ということはできない。そして,このような作用効果を奏するものは,刊行物1〜3に記載されていない。
なお,この点につき,被告は,本願補正発明の方法が,刊行物2に記載された包, , 装具に係る方法と比較して 格別に手軽かつ簡単であるとはいえないと主張するが本願補正発明の方法は,熱処理容器の開口部を折り畳んで錐状の空間部を形成したときに,同時に蒸気吹出口が錐状の空間部の頂部に形成できるというものであり,刊行物2に記載された,再閉可能なプロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じ,切取ストリップ又は切取パネル25を除去して,包装具の膨張及び/又は蒸気の循環を可能にする通気用の開き口を提供する方法と比べて明らかに手軽かつ簡便である。
( )また,本願補正発明において「熱処理容器内の餅の原料を電磁加熱すること3によって生じた蒸気は,錐状の頂部に集まり,そこに設けた蒸気吹出口よりスムーズに外部へ排出され,内部圧力が高まって紙製の熱処理容器が破裂してしまうのを有効に防止することができている」との原告の主張に対し,審決は「内部圧力の高まりを防止するには,開口部があれば足りるから,これも設計的事項といえる」と判断したが,原告は,本願補正発明につき,空間部があって,この空間部に蒸気吹出口を設けたので内部圧力の高まりを防止できると主張したものであり,開口部があるから内部圧力の高まりを防止し得ると主張したものではなく,審決の判断は,明らかに誤りである。
( )さらに,本願補正発明の「熱処理用容器・・・内へ収容した餅の原料の上部4には空間部が形成され,この空間部は餅の原料に対し誘電加熱が加えられる時に発生する蒸気の蒸気溜りとなり,この蒸気によって誘電加熱された餅を蒸すことができ,また,蒸気吹出孔は熱処理用容器内に必要な内圧を生じさせることができる機能を営むものである」との原告の主張に対し,審決は「刊行物1発明においても容器上部の空間で蒸気が溜まり餅を蒸すことができているものと考えられ 仮に生,,『じた空間部が蒸気溜りとなり,この蒸気によって誘電加熱された餅を蒸すことができ』ることが本願補正発明の特徴だとしても,それにより製造された餅の特性については明細書に何ら記載されておらず,餅の味,食感等が刊行物1発明で製造された餅に比べて格段に優れるものとすることはできない」と判断した。
しかしながら,刊行物1には,刊行物1発明につき具体的な熱処理容器及びその組立て方や使用方法については何ら開示も示唆もしていない。また,本件補正後の明細書(本件補正(甲第7号証)により段落【】及び【】が削除されたほ00190020かは甲第4号証と同じ )の発明の詳細な説明には 「手作り風の餅と同じ食感,食 。 ,味を有する美味しい餅を作ることができる (段落【)との記載があり,製造 」】0015された餅の特性を明らかにしている。したがって,審決の上記判断は誤りである。
刊行物1には刊行物1発明につき「略搗きたての餅同様の食感を有する即席餅を作ることができる(3頁左上欄6〜8行「搗きたて同様の食感を有する餅を 。」),作ることができ (4頁右上欄10〜11行)との記載はあるが 「手作り風の餅を 」 ,作ることができる」との記載はない。本願補正発明は,手軽かつ安価に入手でき,組立てが容易で,かつ使い捨てしても2次公害を起こすおそれのない紙製の熱処理容器を用いて手作り風の餅を作ることのできるものであり,刊行物1発明と比較しても格別顕著な作用効果を奏するものである。本願補正発明の作用効果に関する審決の判断はこの点を看過しており,失当であるというべきである。
なお,この点につき,被告は,本願補正発明と刊行物1発明(実験例1)との具体的な製造方法はほぼ同じであるから,その製造方法によって得られる餅もほぼ同じものであり,同等の性質を有するものといえると主張するが,本願補正発明の製造例(糯米の粉80メッシュ・300g,水400,加熱出力600W,加熱cc時間10分)と刊行物1の実験例(餅粉80メッシュ・50g,水60g,加熱出力600W,加熱時間3〜5分)とでは,加水量の割合が大きく異なり,加熱時間も異なっているから,具体的な製造方法が同じであるなどということはできない。
第4被告の反論の要点1取消事由1(相違点(イ),(ロ)についての判断の誤り)に対し( )原告は,刊行物2に記載された包装具は,全部が紙製のものではなく,紙製1であっても他の材料と重ね合わせて用いることを前提としており,また,麺やパスタを作る際に用いるものであって,これを用いて餅が製造できることは刊行物2に記載されていないから,当業者は,刊行物2に記載された包装具を用いて直ちに餅が製造できると考えるものではなく,刊行物1発明に刊行物2に記載された容器を用いることにより,相違点(イ),(ロ)に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得る旨の審決の判断は誤りであると主張し,さらに,そのようにいうためには,少なくとも,刊行物2に,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を作ることができる旨の記載が必要であるとも主張する。
刊行物2に,それに記載された包装具を用いて餅を作ることが記載されていないことは,原告主張のとおりである。しかしながら,刊行物2には,そこに記載された包装具が電子レンジで加熱・調理する食品に適用するものであること(段落【【「シール部の取外しによって包装具の内容物に水分を加えるこ00010056 】,】),とができるようになる」こと(段落【「加えられた水分が湯又は熱湯 (段0055 】), 」落【)であり,その容器はこれらを加えるための開口部を有すること( 請求0056 】 【項37【請求項72 )が記載されており,また 「麺類のような一定の食品は, 】,】 ,その上から沸騰した湯を注ぎ,麺が水分を吸収して湯によって加熱されるための適当な時間を置くことにより,美味しく食べられるようになることがよく知られている」こと(段落【,及び「これが自立できるような形状に操作されるか又は0053 】)操作することができる基部を備える」こと(段落【)が記載されている。そ0054 】,「 」(【】) うすると 刊行物2の 麺類やパスタ等の食品を加熱するのに適する段落0052との記載は,これに記載された包装具が,食品と相当量の水分を入れ自立した状態で誘電加熱機で加熱や調理するための容器として適し,特に麺類やパスタ等の食品の加熱に適することをいうものであって,当該包装具が麺やパスタを作るためのものであるということではない。
他方,刊行物1には,発明の目的として 「餅粉を使用して極めて簡単に餅を作 ,る」こと(1頁右欄5〜6行)が記載されており,使用する容器についても,より簡単に餅を作ることができるものとする課題があるといえる。刊行物1の具体例において使用されている容器は 「円筒型,蓋付,耐レンジ容器 (3頁右上欄下から , 」7〜6行,同頁左下欄下から3〜2行,4頁左上欄下から7〜6行)であるが,より簡単に餅を作ることができる簡便な耐レンジ容器があれば,それを刊行物1発明の餅の製造の容器として適用を試みることは,当業者として当然のことである。そして,刊行物1に「60〜120メッシュに製粉した・・・餅粉に対して,100〜160重量パーセントの割合となる水を添加して均質に混練した上 ・・・即席 ,」(),, 餅の製造方法特許請求の範囲3項 と記載されているとおり 刊行物1発明は, , 餅粉に同量以上の水を加えて 誘電加熱機で加熱して餅を製造するものであるから刊行物1発明の製造方法において使用される容器に求められる条件は,内容物を電子レンジ(誘電加熱器)によって加熱することができることのほか,餅粉や水を入れる開口部を有すること,それらを入れた状態で自立したものであること,餅粉や水を入れた後ほぼ密閉される状態にできることであり,また,上記のとおり,簡便性も要求されるものである。
しかるところ,刊行物2に記載された包装具は,上記のとおり,電子レンジで加熱・調理する食品に適用するものであって,原材料や湯等の水分が加えられる開口部を有し,それらを入れた状態で自立できるものであり,また,それらを入れた後にほぼ密閉状態にすることができ(段落【,さらに,シート状の柔軟性素材0092 】)や紙や紙ボードなどの使い捨てもできる素材から成る(段落【)ものであっ0020 】て,刊行物1発明において耐レンジ容器が具備すべき条件を満たし,その加熱・調理に適した包装具であるということができる。
そうすると,刊行物2の記載に接した当業者は,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を作ることが記載されていなくとも,その包装具を刊行物1発明に使用する耐レンジ容器として適用し得ると考え,かつ,より簡便な容器である当該包装具の適用を試みるものと考えるのが自然である。
したがって,当業者が刊行物2記載の包装具を刊行物1発明に適用することに格別困難はなく,原告の上記主張は失当である。
2取消事由2(相違点(ハ)についての判断の誤り)に対し原告は,審決の相違点(ハ)についての判断に対し,刊行物2には,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を製造し得ることは全く記載がなく,そうである以上,刊行物2記載の包装具を用い,本願補正発明のようにして餅を製造することはできないものと判断すべきであり,そうすると,刊行物2記載の包装具を用いたとしても,本願補正発明に至るまでには,何度も実験を繰り返し,最良の方法を探る必要があるのであって,刊行物1発明と刊行物2記載の発明に基づいて本願補正発明を容易に想到し得るとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物2に餅粉と水の混合物から餅を作ることができる旨の記載がなくても,刊行物2に記載された包装具を刊行物1発明に適用することが当業者にとって格別困難なことではないことは,上記1のとおりである。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠き,失当である。
3取消事由3(顕著な作用効果の看過)に対し( )原告は,刊行物1には,餅粉と水を混合させて電子レンジで加熱するための1加熱処理容器について「円筒型,蓋付,耐レンジ容器」とあるだけで,具体的な記載は一切ないし,また,刊行物2には,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を製造し得ることは全く記載がなく,餅粉と水を混合させたものから電磁加熱によって餅を作るということと,他の食品を加熱処理することとでは,異なった物理現象が生ずるから,刊行物2に記載された包装具から,直ちに手軽かつ安価に餅が製造できるという作用効果が生ずるものでないことは明らかであって,本願補正発明の効果は,刊行物1,2の各記載から当業者が予測できる範囲を超えており,それが,刊行物1,2の記載から当業者が予測をし得る程度のものであるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物1には,刊行物1発明の効果について 「極めて簡単に餅 ,を作ることが可能」であること(1頁右欄5〜6行「定められた割合の水を添加 ),して単に混練し,僅かな時間だけ電子レンジで加熱するだけ (4頁右上欄8〜1 」0行)で「安価に提供できる」こと(同欄12行)が記載されており,刊行物1発明において奏するこれらの効果は,本願補正発明の奏する効果として原告が主張する「直ちに手軽かつ安価に製造できる」ことと実質的に同一である。そうすると,刊行物2に記載された包装具から,直ちに手軽かつ安価に餅が製造できるという作用効果が生ずるものではないとしても,刊行物1発明の奏する効果から予測することができるものであるから,原告の上記主張は失当である。
( )原告は,餅が手軽にできることも本願補正発明の作用効果の一つであるとこ2ろ 「開口部を折り畳んでゆく際に,蒸気吹出口を錐状の空間部の頂部に同時に形 ,成できる」ことは,他の方法で上記吹出口を形成する場合に比べ,より,手軽であるといえるのであるから,評価されるべき作用効果の一つであり,これを設計的事項であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物2には,それに記載された包装具の開口部の閉鎖及び蒸気吹出口の形成につき 「再閉可能なプロファイルストリップを使用して」包装具の ,開口部を閉じ 「切取ストリップ或いは切取パネル25を除去」して蒸気吹出口を ,形成するものであること(段落【)が記載されている。これに対し,本願補0092 】正発明における開口部の閉鎖及び蒸気吹出口の形成は 「開口部の側を折り畳んで ,熱処理容器の上部に錐状の空間部を形成でき,かつ蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ」さらに「折り畳んだ部分を前記熱処理容器に粘着テープで貼着」すること(特許請求の範囲【請求項1 )が必要なも 】のである。
そうすると,熱処理用容器の開口部を閉じ,蒸気吹出口を形成する方法として,本願補正発明の方法が,刊行物2に記載された包装具に係る方法と比較して,格別に手軽かつ簡単であるとはいえないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって失当である。
( )原告は,本願補正発明につき,空間部があって,この空間部に蒸気吹出口を3設けたので内部圧力の高まりを防止できるとの原告の主張に対し,審決が「内部圧力の高まりを防止するには,開口部があれば足りるから,これも設計的事項といえる」と判断したとして,審決の判断が誤りであると主張する。
しかしながら,審決には,上記記載に先立ち 「この図(判決注:刊行物2の図 ,8)からも明らかなようにフラップ部を折り返せば当然にそこには錐状の空間部が生じる ・・・また,蒸気用開き口は,蒸気が上昇することを考えると特段の事情 。
がない限り,なるべく上部に設けようとするものであるから 『開口部の側を折り ,畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の空間部を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ ・・・貼着』するこ ,とも刊行物2の記載に接した当業者にとって格別困難なことではない(審決書7。」頁24〜33行)との説示があり,蒸気を逃すため,すなわち内部圧力の高まりを防止するための蒸気吹出口を上記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じることが,当業者にとって格別困難なことではないことを示している。そして,原告が指摘する審決の記載は,その表現に一部不正確な点があるとしても,上記説示と同旨であることが容易に理解されるものであるから,上記表現をもって審決の判断に誤りがあるということはできない。
( )原告は,審決の「刊行物1発明においても容器上部の空間で蒸気が溜まり餅4,,『 , を蒸すことができているものと考えられ 仮に生じた空間部が蒸気溜りとなりこの蒸気によって誘電加熱された餅を蒸すことができ』ることが本願補正発明の特徴だとしても,それにより製造された餅の特性については明細書に何ら記載されておらず,餅の味,食感等が刊行物1発明で製造された餅に比べて格段に優れるものとすることはできない」との判断につき,刊行物1には,刊行物1発明につき具体的な熱処理容器及びその組立て方や使用方法については何ら開示も示唆もしていないとか,本件補正後の明細書の発明の詳細な説明に「手作り風の餅と同じ食感,食味を有する美味しい餅を作ることができる (段落【)との記載があって,製 」】0015, , 造された餅の特性を明らかにしているから 審決の上記判断は誤りであると主張しさらに,刊行物1には,刊行物1発明につき「搗きたて同様の食感を有する餅を作ることができ」るとの記載はあっても 「手作り風の餅を作ることができる」との ,記載はないところ,本願補正発明は,手軽かつ安価に入手でき,組立てが容易で,かつ使い捨てしても2次公害を起こすおそれのない紙製の熱処理容器を用いて手作り風の餅を作ることのできるものであり,刊行物1発明と比較しても格別顕著な作用効果を奏するものであると主張する。
しかしながら,本件補正後の明細書の記載を参酌しても,本願補正発明の「手作り風の餅と同じ食感,食味」の効果を確認するに足りる記載はない。
また,刊行物1には,刊行物1発明につき「搗きたて同様の食感を有する餅を作ることができ」るとの記載はあっても 「手作り風の餅を作ることができる」との ,記載はないとの主張が,本願補正発明の製造方法によって得られる餅と,刊行物1発明の製造方法によって得られる餅の効果が異なるとの趣旨であるとしても,以下,, , のとおり 両者は 同じものを異なる表現でいうにすぎないものと認められるから上記主張は失当である。
すなわち,本件補正後の明細書によれば,本願補正発明の餅は,粒度80メッシュ程度の糯米300gと水400ccを良く撹拌して,加熱出力600Wで加熱する(段落【【)ことにより製造されるものであるのに対し,刊行物100360038 】,】の実験例1の記載(3頁右上欄)によれば,刊行物1発明の餅は,メッシュ60,80,100又は120の餅粉50gに水60gを加えて均質に混練した上,加熱出力600Wで加熱することにより製造されるものである。本願補正発明においては「糯米」を,刊行物1発明においては「餅粉」を用いるとされているが,それらは同程度のメッシュ(粒度)のものであるから,両者の原材料は実質的に同じであり,また,加水量はほぼ同程度の割合であって,加熱出力も同じである。そうすると,本願補正発明と刊行物1発明との具体的な製造方法はほぼ同じであるから,その製造方法によって得られる餅もほぼ同じものであり,同等の性質を有するものといえる。
したがって,本願補正発明が刊行物1発明に比して,格別顕著な効果を奏するものとはいえない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点(イ),(ロ)についての判断の誤り)について,, ( )刊行物1発明に刊行物2に記載された容器を用いることにより 相違点(イ)1(ロ)に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得るとした審決の判断に対し,原告は,刊行物2に記載された包装具は,全部が紙製のものではなく,紙製であっても他の材料と重ね合わせて用いることを前提としており,また,麺やパスタを作る際に用いるものであって,これを用いて餅が製造できることは刊行物2に記載されていないから,当業者は,刊行物2に記載された包装具を用いて直ちに餅が製造できると考えるものではなく,審決の上記判断は誤りであると主張する。
( )刊行物2には,以下の事項が記載されている。
2ア「 発明の属する技術分野】本発明は,包装具に関する。より詳細には,それ 【に限定されるものではないが,電磁波のエネルギーによって加熱することができる食品を含む包装具,又はそのような食品を入れるための包装具に関する(段落。」【)0001 】イ「前記1以上のシート状の柔軟性素材は,内側の熱シール可能なプライと,少なくとも1つの他のプライとから成るマルチプライアセンブリから構成されるのが好ましい。前記少なくとも1つの他のプライは,紙又は紙ボード状の素材から成るのが好ましい。前記紙又は紙ボード状の素材は,前記内側のプライにラミネートされるのが好ましい(段落【】〜【) 。」】 00190020ウ「本発明に係る包装具は,麺類やパスタ等の食品を加熱するのに適する。本包装具は,内部の食品を調理したり或いは加熱したりするために,食品が包装具に含まれているか又はユーザが食品を包装具に入れることができるように提供される状態で,その食品の末端ユーザ或いは顧客に提供することができる。包装具の素材は電磁波のエネルギーによって加熱することができるようなものであるのが好ましいが,麺類のような一定の食品は,その上から沸騰した湯を注ぎ,麺が水分を吸収して湯によって加熱されるための適当な時間を置くことにより,美味しく食べられるようになることがよく知られている。従って,電磁波に適する包装具の素材というのは,単なる選択に過ぎない(段落【】〜【) 。」】00520053エ「包装具が内部にいかなる食品も含まずに提供された場合は,この段階で食品を包装具の収納部に提供するのがよい。この後,包装具及びその内容物に電磁波,, , のエネルギーを与えることができ または 加えられた水分が湯又は熱湯であって包装具及びその内容物が電磁波のエネルギーによって加熱されるのが望ましくないか又はその必要がない場合には,十分な時間そのままにしておくようにするだけでよい。内容物の電磁波による調理或いは加熱は,図3に示される状態の包装具によって達成できるし,また,包装具の収納部内に熱を含めるために,弱み線或いは折返線によって形成されるフラップ部を折り返すことにより,包装具の収納部の露出を規制することもできる(段落【】〜【) 。」】00550056( )原告の上記( )の主張のうち,まず,刊行物2記載の包装具が,全部が紙製 31のものではなく,紙製であっても他の材料と重ね合わせて用いることを前提としているとの点については,上記( )のイで摘記した記載によれば,刊行物2に記載さ2れた包装具には,熱シール可能な(すなわち樹脂製の)プライと紙製のプライとがラミネートされたシートより成るものが含まれることが認められるところ,このも, , () のは 全体が紙製であるわけではなく 紙製の素材から成るものと他の材料 樹脂から成るものとを重ね合わせたものであることは原告の主張のとおりである。
しかしながら,本件補正に係る特許請求の範囲の請求項1は,本願補正発明の熱処理容器の素材につき「非誘電加熱性材料製かつ紙製の熱処理容器」と規定するところ,紙は非誘電加熱性材料であるから,仮に本願補正発明に係る熱処理容器の全体が紙製であるとすれば 「非誘電加熱性材料製かつ紙製」と二重に規定すること ,,,, , に技術的意義はなく したがって 上記規定は 本願補正発明に係る熱処理容器が紙製の材料と紙以外の非誘電加熱性材料とから成ることを規定したものと解さざる。,(() を得ない このように解することは 本件補正後の明細書 本件補正 甲第7号証により段落【】及び【】が削除されたほかは甲第4号証と同じ )に 「こ00190020 。,の発明の一実施の形態 (段落【)として 「この袋状の熱処理用容器5は, 」】,0021とくに図2に示したように,封筒状の袋であり,その表材は,とくに図3に示したように,紙製の表材6aと不織布から成る裏材6bを重ね合わせて構成した基材シート6の表材6a側に例えばポリエチレン等の樹脂製薄膜シート7をコーティングしたものであり,非誘電加熱性材質のものである(段落【)と記載されて 。」】0024いることとも符合するものである。そして,審決は,熱処理容器が,本願補正発明では「非誘電加熱性材料製かつ紙製の熱処理容器」であるのに対し,刊行物1発明ではそうでない点を含めて本願補正発明と刊行物1発明との相違点(イ)を認定した上,この相違点につき,上記のとおり,全体が紙製であるわけではなく,紙製の素材から成るものと他の材料(樹脂)から成るものとを重ね合わせたものである刊行物2記載の包装具を刊行物1発明に適用することにより,上記相違点に係る本願補正発明の「非誘電加熱性材料製かつ紙製 (上記のとおり,紙製の材料と紙以外 」の非誘電加熱性材料とから成ることをいうものと解される )の熱処理容器の構成 。
とすることができると判断しているのであるから,刊行物2記載の包装具が,全部が紙製のものではなく,紙製であっても他の材料と重ね合わせて用いることを前提としているとの点が,審決の相違点(イ)についての判断の妨げとなるものでないことは明らかである。
, , , ( )次に 上記( )に摘記した各記載によれば 刊行物2に記載された包装具は42審決の認定するとおり 「刊行物1と同様に,電磁波のエネルギーによって加熱す ,ることができる・・・,食品を入れるための・・・包装具」であると認めることができ,そうであれば,この包装具が,刊行物1発明で用いる耐レンジ容器と同様,電磁波のエネルギーによる加熱調理という目的に用いることができることは明らかであるから,刊行物1,2の記載に接した当業者が,刊行物1発明の耐レンジ容器に代えて,刊行物2記載の包装具の適用を試みることに何ら困難はないといわざるを得ない。
刊行物2には,確かに「本発明に係る包装具は,麺類やパスタ等の食品を加熱するのに適する 」との記載がある(上記( )のウ 。しかし,刊行物2には「本発明 。 )2は・・・それに限定されるものではないが,電磁波のエネルギーによって加熱することができる食品を含む包装具,又はそのような食品を入れるための包装具に関する(上記( )のア)との記載があり,当該包装具が,電磁波のエネルギーによっ 。」2て加熱することができる食品一般に適用されることが示されている。また,この記載は 「それに限定されるものではない」との留保はあるものの,当該包装具の主 ,たる用途が,食品を電磁波のエネルギーによって加熱するための包装具であることを示しているといえるが,刊行物2には,上記のように,当該包装具が麺類やパスタ等の食品を加熱するのに適するとの記載がある一方で 「麺類のような一定の食 ,品は,その上から沸騰した湯を注ぎ,麺が水分を吸収して湯によって加熱されるための適当な時間を置くことにより,美味しく食べられるようになることがよく知られている (上記( )のウ)として,麺類等は,沸騰した湯を注ぐだけで足り,電磁 」2波のエネルギーによって加熱する必要のないことも記載されているのであるから,刊行物2記載の包装具が,麺類やパスタを作る際にだけ用いられるものでないことはもとより,麺類やパスタと同じ材料より成る食品を,麺類やパスタを作る場合と同じような方法で作る場合にだけ用いられるものでないことも明らかである。さらに,原告は,餅粉と水の混合物から電子レンジを用いて餅を作る場合の物理的特性と麺類やパスタを作る際の物理的特性とが異なる旨主張するが,具体的に,刊行物(, ) 2記載の包装具を用いて電子レンジで すなわち 電磁波のエネルギーを照射して麺類やパスタを加熱する際のいかなる物理的特性が,餅粉と水の混合物に電磁波のエネルギーを照射して餅を作る場合の物理的特性と相容れないのかについては何ら主張立証がないから,上記主張は,根拠を欠くものであって失当である。
その他,刊行物2の記載上,これに記載された包装具が,電磁波のエネルギーによって加熱することができる食品一般に適用されるものではなく,麺類若しくはパスタ又は原材料及び製造方法がこれらと同一である食品だけに限定されて使用されるものであると解する根拠となるような記載は見当たらないから,当業者は刊行物2記載の包装具を用いて直ちに餅が製造できると考えるものではないとの原告の主張は,これを採用することができない。
( )なお,原告は,刊行物1の「餅粉を使用して極めて簡単に餅を作る」との記5載は,従来技術である「浸漬,蒸す,搗くという工程を経なければならない・・・手間暇を要する」方法によっていたものを簡単にするということであって,刊行物1には,容器の簡便化を技術課題とする旨の記載は全くないとして,当業者が,刊行物1発明の耐レンジ容器に代えて刊行物2記載の包装具を適用することに動機付けがない旨を主張する。
しかしながら,物の製造方法の発明において,その発明を構成する手段の簡易化・簡素化は,引用刊行物に記載があると否とを問わず,常に存在する課題であり,当業者が,ある技術を構成する一部の手段について,より簡便な点があると考えられる代替手段を知ったときには,当該一部の手段に代えて当該代替手段の適用を試みることは,当業者として当然のことである。そして,上記のとおり,刊行物2記載の包装具は,刊行物1発明で用いる耐レンジ容器と同様,電磁波のエネルギーによる加熱調理という目的に用いることができるものであって,刊行物1発明の耐レンジ容器の代替手段であり,かつ,樹脂製のプライと紙製のプライとがラミネートされたシートより成るものであって,少なくとも使い捨てできるという点で,刊行物1発明の耐レンジ容器より簡便な手段であるから,これを刊行物1発明の耐レンジ容器に代えて用いることは,刊行物1に容器の簡便化を技術課題とする旨が明示的に記載されていなくとも,当業者にとって容易であるというべきであり,原告の上記主張を採用することはできない。
( )以上によれば,刊行物1発明に刊行物2に記載された容器を用いることによ6り,相違点(イ),(ロ)に係る本願補正発明の構成を容易に想到し得るとした審決の判断に,原告主張の誤りはない。なお,原告は,そのようにいうためには,少なくとも,刊行物2に,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を作ることができる旨の記載が必要であるとも主張するが,如上の説示に照らし,独自の見解というべきであって,採用することはできない。
2取消事由2(相違点(ハ)についての判断の誤り)について( )原告は,審決の相違点(ハ)についての判断に対し,刊行物2には,それに記1載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を製造し得ることは全く記載がなく,そうである以上,刊行物2記載の包装具を用い,本願補正発明のようにして餅を製造することはできないものと判断すべきであり,そうすると,刊行物2記載の包装具を用いたとしても,本願補正発明に至るまでには,何度も実験を繰り返し,最良の方法を探る必要があるのであって,刊行物1発明と刊行物2記載の発明に基づいて本願補正発明を容易に想到し得るとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,刊行物2に餅粉と水の混合物から餅を作ることができる旨の記載がなくても,刊行物2記載の包装具を刊行物1発明に適用することが当業者にとって容易に想到し得ることであることは,上記1のとおりである。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,失当であるといわざるを得ない。
( )また,原告は,熱処理容器の開口部を閉じる方法につき,本願補正発明と刊2行物2に記載されたものとでは構成を異にし,刊行物2に記載された方法は樹脂製の包装具を前提とし,紙製である本願補正発明の熱処理容器では刊行物2のもののように構成することができないという相違があると主張する。
しかしながら,まず,刊行物2に記載された方法が樹脂製の包装具を前提とし,本願補正発明の熱処理容器が紙製であるという主張については,上記1の( )のと3, , おりであって 本願補正発明の熱処理容器の全体が紙製であるということはできずまた,刊行物2には,樹脂製のプライと紙製のプライとがラミネートされたシートより成るものが含まれているから,原告の上記主張は誤りである。
さらに,原告は,本願補正発明の熱処理容器では刊行物2のもののように構成することができないとも主張するが,審決は,本願補正発明の熱処理容器の開口部を閉じる方法を,刊行物2に記載された「再閉可能なプロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じ,切取ストリップ又は切取パネル25を除去して,包装具の膨張及び/又は蒸気の循環を可能にする通気用の開き口を提供する」という方法にすることが可能であるとか,容易であるとかいうような判断をしたものではなく,もとより,そのような説示もなく,本件訴訟において,被告がそのような主張をしたわけでもないから,上記主張は,審決の判断及び被告の主張を正解しないものとして,失当というほかはない。
なお,原告の主張の本意が,刊行物2に記載された「再閉可能なプロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じ,切取ストリップ又は切取パネル25を除去して,包装具の膨張及び/又は蒸気の循環を可能にする通気用の開き口を提供する」という方法を刊行物1発明に適用しても,本願補正発明の熱処理容器の開口部を閉じる方法である 「開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の ,空間部を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ」という構成とならないという趣旨であったとしても,以下のとおり,失当である。
すなわち,刊行物2には,以下の事項が記載され,また,図示がある。
ア「内容物の電磁波による調理或いは加熱は,図3に示される状態の包装具によって達成できるし,また,包装具の収納部内に熱を含めるために,弱み線或いは折返線によって形成されるフラップ部を折り返すことにより,包装具の収納部の露出を規制することもできる(段落【)。」】0056イ「包装具の使用は,これまでに実質的に開示された工程のためのものであってよいが,包装具の内容物の調理前に,再閉可能なプロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じることができ,また,切取ストリップ或いは切取パネル25を除去することにより,調理時における包装具の膨張及び/又は蒸気の循環を可能にする通気用の開き口26を提供することができる。内容物が十分に加熱されるか又は調理されると,包装具の上部部分を切り取って,加熱されるか或いは調理された食品を含む収納部へ便利に接触することができる。図23から図30に示される包装具の他の構造は,パネルのうち少なくとも一方から切り取ることができる1以上のストリップ或いは部分を含んでよく,また,それらを両方のパネルに設けてもよい(段落【)。」】0092ウ図8「」上記各記載及び図示によれば,刊行物2には,その記載に係る包装具の開口部を閉じる方法について,弱み線又は折返線によって形成されるフラップ部を折り返す方法と,再閉可能なプロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じる方法とが開示されており,フラップ部を折り返す方法については,上記図8に示されるように,折り返した結果,包装具の上部には錐状の空間部が形成されることも併せて示されているものと認められる。なお,再閉可能なプロファイルストリップを使用する方法については,本願補正発明の蒸気吹出穴口に相当する「調理時における包装具の膨張及び/又は蒸気の循環を可能にする通気用の開き口」を,切取ストリップ又は切取パネルを除去することによって形成することが開示されているものの,フラップ部を折り返す方法については,このような「通気用の開き口」を設けることまでは記載されていないが 「調理時における包装具の膨張及び/又は蒸気 ,の循環を可能にする」必要性は,フラップ部を折り返す方法によって包装具の開口部を閉じた場合にも生ずることは明らかであり,したがって,この場合にも 「通,気用の開き口」が設けられているものと考えられる。そして,蒸気が上昇する性質を有するため,このような「通気用の開き口」を,包装具の上部に設けることは通常行われていることであるところ,上記のとおり,刊行物2には,フラップ部を折り返す方法によって包装具の開口部を閉じた場合に,包装具の上部には錐状の空間部が形成されることが示されているのであるから 「通気用の開き口」の位置は, ,錐状の空間部の頂部を含む上部となることは,容易に理解されるところである。
しかるところ,上記「弱み線又は折返線によって形成されるフラップ部を折り返す」方法は,開口部を閉じる方法として,本願補正発明の「開口部の側を折り畳んで・・・閉じ」る方法と同じことであり,刊行物2記載の包装具にはこのような構成を備える態様も含まれているのであって,これを刊行物1発明に適用することにより,本願補正発明の「開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の空間部を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ」るという,相違点(ハ)に係る本願補正発明の構成に至ることが,当業者にとって格別困難といえるものでないことは,上記説示に照らし,明らかである。
そして,審決の相違点(ハ)についての判断も以上と同旨であるところ,これと異なり,刊行物2に記載された包装具の開口部を閉じる方法のうち 「再閉可能なプ ,ロファイルストリップを使用する方法」を前提として,審決の上記判断の誤りを主張することは,それ自体失当であるといわざるを得ない。
( )原告は,さらに,餅を作る上で,蒸気吹出口の位置と数は蒸気圧を制御する3ために非常に重要であり,本願補正発明のように構成することによって,蒸気圧を制御し,固さにむらのない手作り風の食感と食味を有する美味しい餅を家庭で作ることができるが,刊行物2に記載された通気用の開き口では本願補正発明の目的は達成することができないと主張する。
しかしながら,本件補正に係る特許請求の範囲の請求項1は,本願補正発明の蒸気吹出口の位置については「 熱処理容器の)上部「錐状の空間部の頂部」と規 (」,定するのみであり,また,本願補正発明の蒸気吹出口の数については何ら限定していない。そして,刊行物2記載の包装具の,開口部を閉じる方法が「弱み線又は折返線によって形成されるフラップ部を折り返す」態様であるものを刊行物1発明に適用することにより,錐状の空間部の頂部に通気用の開き口を設ける構成とすることが,当業者にとって格別困難でないことは,上記( )のとおりである。
2そうすると,原告の上記主張のうち,蒸気吹出口の位置については,刊行物2記載の上記態様の包装具を刊行物1発明に適用することにより実現されるものであり,その数については,特許請求の範囲に基づくものでないから,これら蒸気吹出口の位置と数に基づく上記主張は,全体として失当といわざるを得ない。
3取消事由3(顕著な作用効果の看過)について( )原告は,刊行物1には,餅粉と水を混合させて電子レンジで加熱するための1加熱処理容器について「円筒型,蓋付,耐レンジ容器」とあるだけで,具体的な記載は一切ないし,また,刊行物2には,それに記載された包装具を用いて餅粉と水の混合物から餅を製造し得ることは全く記載がなく,餅粉と水を混合させたものから電磁加熱によって餅を作るということと,他の食品を加熱処理することとでは,異なった物理現象が生ずるから,刊行物2に記載された包装具から,直ちに手軽かつ安価に餅が製造できるという作用効果が生ずるものでないことは明らかであって,本願補正発明の効果は,刊行物1,2の各記載から当業者が予測できる範囲を超えており,それが,刊行物1,2の記載から当業者が予測し得る程度のものであるとした審決の判断は誤りであると主張する。
そして,本件補正後の明細書に,本願補正発明の効果として 「請求項1のよう ,に構成すると,従来のように,餅を作るのに糯米や糯粉を水に浸した後,水分調整をして釜で炊いたり蒸篭を用いて蒸したりした後,これを搗いたり,捏ねたりして餅を作ったり,餅搗き機を用いて餅を搗いたりする手間を大幅に省略した上で,糯粉から簡単に手作り風の餅と同じ食感,食味を有する美味しい餅を作ることができ。」(【】) , るという効果を奏し得る段落と記載されていることにかんがみれば0015本願補正発明の効果とは,従来の製造方法に比較して,餅が手軽かつ安価に製造できるという意味であると解される( 手作り風の餅と同じ食感,食味を有する美味 「しい餅を作ることができる」との点は,後に検討する。。)しかるところ,刊行物1には,以下の事項が記載されている。
ア「この発明は ・・・全く新しいタイプの餅粉と,その餅粉を使用して極めて ,簡単に餅を作ることが可能となる新規なやり方による即席餅の製造方法とを提供しようとするものである(1頁右欄4〜8行) 。」イ「日本の伝統的食品の一つである餅は,餅米を浸漬し,蒸し,搗くという工程を経て製造されるものであり ・・・餅搗き機によるものの場合でも,やはり,浸 ,漬,蒸す,搗くという工程を経なければならないものであることに変わりはなく,それなりの手間暇を要するものである ・・・この発明では,それら従前までの実 。
情に対処し ・・・新しいタイプの餅粉によりさえすれば,特別な技術を要するこ ,となく,誰にでも極めて簡単に搗きたて様の餅が作られる非常に新しいやり方による即席餅の製造方法を完成したものである(1頁右欄10行〜2頁左上欄末行) 。」ウ「この発明の即席餅用の餅粉は,従前までの浸す,蒸す,搗くという面倒な工程を一切経ることなく ・・・即席餅用の材料となるものであることから,製造原 ,価が非常に安価なものとなる(4頁左欄下から3行〜右欄3行) 。」エ「その餅粉を使って即席餅を製造する方法も,定められた割合の水を添加して単に混練し,僅かな時間だけ電子レンジで加熱するだけで,従来の即席餅では実現できなかった搗きたて同様の食感を有する餅を作ることができ,この効果は,先の安価に提供できる効果と相俟って,餅の消費拡大に大いに貢献することができるものといえる(4頁右欄7〜末行) 。」上記記載によれば,刊行物1発明は,従来の製造方法に比較して,餅が極めて簡単に,かつ安価に製造できるという効果を奏するものということができ( 搗きた 「て同様の食感を有する餅を作ることができる」との点は後に検討する,この効果。)は,本願補正発明の,従来の製造方法に比較して餅が手軽かつ安価に製造できると。 , いう効果と変わらないものである 刊行物1発明の耐レンジ容器の代替手段として刊行物2記載の包装具を用いた場合には,少なくとも使い捨てできるという点で,刊行物1発明の耐レンジ容器より簡便となることは,上記1の( )のとおりである5が,刊行物2の記載に言及するまでもなく,刊行物1の上記記載のみをもってして,, 。 も 当業者が 当該記載から本願補正発明の効果を予測し得ることは明らかである原告は,刊行物1については,加熱処理容器につき「円筒型,蓋付,耐レンジ容」, ,, 器 とあるだけで 具体的な記載は一切ないことを挙げて 本願補正発明の効果が刊行物1及び刊行物2の各記載から当業者が予測できる範囲を超えていると主張するが 「円筒型,蓋付,耐レンジ容器」である加熱処理容器を用いることにより, ,何ゆえに,刊行物1について上記のとおりの記載のある刊行物1発明の効果が生じないと断定し得るのかは明らかでなく,上記主張を採用することはできない。
( )原告は,本願補正発明の「開口部を折り畳んでゆく際に,蒸気吹出口を錐状2の空間部の頂部に同時に形成できる」ことは,他の方法で上記吹出口を形成する場合に比べ,より,手軽であるといえるのであるから,評価されるべき作用効果の一つであると主張する。
しかしながら,単に開口部を折り畳むだけでは,折り畳んだ部分が手を離した際に元に戻って再び開いてしまうおそれがあって,開口部を閉じる方法としては不確実であるから,折り畳んだ状態で固定する必要があることは明らかであるところ,本件補正に係る特許請求の範囲の請求項1が「前記開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の空間部を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ,次いで,前記折り畳んだ部分を前記熱処理容器に粘着テープで貼着し」と規定しているとおり,本願補正発明においては,折り畳んだ状態で固定するために,折り畳んだ部分を粘着テープで熱処理容器に貼着する手段を採用するものである。そうとすれば,本願補正発明において,開口部を閉じ,上記吹出口を形成するための方法としては,開口部を折り畳むだけではなく,折り畳んだ部分を粘着テープで熱処理容器に貼着する作業まで含まれることは明らかである。他方,刊行物2には,前記2の( )のとおり,再閉可能なプ2ロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じ,切取ストリップ又は切取パネルを除去して通気用の開き口を形成する方法が記載されているところ,この方法と比較して,開口部を折り畳み,折り畳んだ部分を粘着テープで熱処理容器に貼着する本願補正発明の方法が,格別に手軽であるとまでいうことはできないから,原告の上記主張を採用することはできない。
なお,原告は,本願補正発明の方法は,刊行物2に記載された,上記再閉可能なプロファイルストリップを使用して包装具の開口部を閉じ,切取ストリップ又は切取パネル25を除去して通気用の開き口を提供する方法と比べて明らかに簡便であるとも主張するが,この主張に係る本願補正発明の方法が,折り畳んだ部分を粘着テープで熱処理容器に貼着する作業を含んでいないことは明らかであるので(上記のとおり,これを含めれば,本願補正発明の方法が,格別に手軽であるとまでいうことはできない,この主張も失当であるといわざるを得ない。 。)( )原告は,本願補正発明につき,空間部があって,この空間部に蒸気吹出口を3設けたので内部圧力の高まりを防止できるという趣旨の原告の主張に対し,審決は「内部圧力の高まりを防止するには,開口部があれば足りるから,これも設計的事項といえる」と判断したが,原告は,開口部があるから内部圧力の高まりを防止し得ると主張したものではないから,審決の判断は誤りであると主張する。
しかるところ,本件補正後の明細書には,錐状の空間部及び蒸気吹出口の技術的意義について 「いずれの実施の形態のものでも,熱処理用容器・・・内へ収容し ,た餅の原料の上部には側面錐状の空間部が形成され,この空間部は餅の原料に対し誘電加熱が加えられる時に発生する蒸気の蒸気溜りとなり,この蒸気によって誘電加熱された餅を蒸すことができ,また,蒸気吹出孔は熱処理用容器内に必要な内圧を生じさせることができる機能を営むものである(段落【)との記載があ 。」】0046るが,この記載においては,熱処理容器内の内部圧力(内圧)の調整の機能は,蒸気吹出孔(口)が担う機能であるとされており,錐状の空間部が内部圧力の高まり, , を防止するとの明示の記載は 本件補正後の明細書中に見当たらないのであるから本願補正発明において,単に蒸気吹出口を設けることではなく,空間部があって,この空間部に蒸気吹出口を設けることが内部圧力の高まりを防止し得ること,すなわち,内部圧力の高まりを防止することに錐状の空間部も関与している旨をいう原告の上記主張は,明細書の記載に基づかない効果を主張するものであるといわざるを得ない。
もっとも,蒸気吹出口が錐状の空間部の頂部に形成されることは,本件補正に係る特許請求の範囲の請求項1が規定するものであるところ,仮に,原告の上記主張が,そのような構成においては,錐状の空間部も内部圧力の高まりを防止することに関与することは,当業者の技術常識に基づいて明らかであることを前提とするものであるとしても,上記主張は失当であるとせざるを得ない。
すなわち,前記2の( )のとおり,刊行物2記載の包装具には,開口部を閉じる2方法として「弱み線又は折返線によって形成されるフラップ部を折り返す」構成を, , 備える態様も含まれているのであって これを刊行物1発明に適用することにより本願補正発明の「開口部の側を折り畳んで前記熱処理容器の上部に錐状の空間部を形成でき,かつ前記蒸気吹出穴口を前記錐状の空間部の頂部に残した状態となるようにして閉じ」るという相違点(ハ)に係る本願補正発明の構成に至ることは,当業者にとって格別困難なものではないのであるから,仮に,開口部(蒸気吹出口)が錐状の空間部の頂部に形成された構成では,錐状の空間部も内部圧力の高まりを防止することに関与することが,当業者の技術常識であるとすれば,本願補正発明において,単に蒸気吹出口を設けることではなく,空間部があって,この空間部に蒸気吹出口を設けることにより内部圧力の高まりを防止し得るとの効果を奏すること,,, , は 刊行物1 2に接した当業者が その記載によって当然予測し得ることでありしたがって,格別の効果ということができないものである。
そうすると,原告の上記主張に対し 「内部圧力の高まりを防止するには,開口 ,部があれば足りるから,これも設計的事項といえる」とした審決の判断は当を得ないものであるが,原告の上記主張自体,いずれにせよ失当であるから,審決の上記判断に,その結論に影響を及ぼす瑕疵があるということはできない。
( )審決の「刊行物1発明においても容器上部の空間で蒸気が溜まり餅を蒸すこ4とができているものと考えられ,仮に 『生じた空間部が蒸気溜りとなり,この蒸 ,気によって誘電加熱された餅を蒸すことができ』ることが本願補正発明の特徴だと, , しても それにより製造された餅の特性については明細書に何ら記載されておらず餅の味,食感等が刊行物1発明で製造された餅に比べて格段に優れるものとすることはできない」との判断につき,原告は,刊行物1には,刊行物1発明につき具体的な加熱処理容器及びその組立て方や使用方法については何ら開示も示唆もしていないとか,本件補正後の明細書の発明の詳細な説明に「手作り風の餅と同じ食感,食味を有する美味しい餅を作ることができる (段落【)との記載があって, 」】0015製造された餅の特性を明らかにしているから,審決の上記判断は誤りであると主張し,さらに,刊行物1には,刊行物1発明につき「搗きたて同様の食感を有する餅を作ることができ」るとの記載はあっても 「手作り風の餅を作ることができる」 ,との記載はないところ,本願補正発明は,手軽かつ安価に入手でき,組立てが容易で,かつ使い捨てしても2次公害を起こすおそれのない紙製の熱処理容器を用いて手作り風の餅を作ることのできるものであり,刊行物1発明と比較しても格別顕著な作用効果を奏するものであると主張する。
まず,刊行物1には,加熱処理容器につき 「容器(円筒型,蓋付,耐レンジ容 ,器 :75mmφ,65mm深さ」との記載(3頁右上欄下から7〜6行,同頁左 )下欄下から3〜2行,4頁左上欄下から7〜6行)のほか,具体的な記載はない。
しかしながら,直径75?o(7.5?p ,深さ65?o(6.5?p)の円筒型容器の )容量は約287?p であるところ,実験例1(3頁右上欄3行以下)においては,3この容器に50gの餅粉と60gの水を投入するものであり,餅粉の体積は不明であるものの,60gの水の体積と合計したとしても,容器の上部には相当程度の空間が残ることは明らかである。そして,この容器は蓋付きであるから,電子レンジで加熱することにより,発生した蒸気が容器上部の空間に溜まり,餅を蒸すことができることは,容易に理解されるところである。したがって,審決の「刊行物1発明においても容器上部の空間で蒸気が溜まり餅を蒸すことができているものと考えられ(る)」との判断に誤りがあるということはできない。
また,本件補正後の明細書の発明の詳細な説明に,本願補正発明につき「手作り風の餅と同じ食感,食味を有する美味しい餅を作ることができる (段落【)」】0015との記載があり,刊行物1には,刊行物1発明につき「搗きたて同様の食感を有する餅を作ることができ (4頁右欄10〜11行)との記載はあるものの 「手作り 」 ,風の餅と同じ食感,食味を有する餅を作ることができる」との記載はないことは,原告主張のとおりである。
しかしながら,本願補正発明の方法によって製造された餅が 「手作り風の餅と ,同じ食感,食味を有する」点において,刊行物1発明の方法で製造された「搗きたて同様の食感を有する」餅よりも格段に勝っていること等,本願補正発明が刊行物1発明と比較して,製造される餅の食感,食味の点で優れた効果を奏することが,比較試験結果等の客観的・合理的裏付けを伴って明らかにされているわけではなく(原告の陳述書(甲第21号証)は,原告の認識を記載しているにすぎないものであるから,上記比較試験結果等に匹敵する客観性・合理性を有するものということはできない,もとより 「手作り風の餅と同じ食感,食味「搗きたて同様の食 。), 」,感」などの文言のみによって,本願補正発明の方法によって製造された餅が,刊行物1発明の方法で製造された餅よりも,食感,食味の点で優れていると判断できるものでもないから,結局,製造される餅の食感,食味に関して,本願補正発明が顕著な効果を奏するものと認めることもできない。
( )したがって 「餅の味,食感等が刊行物1発明で製造された餅に比べて格段5 ,に優れるものとすることはできない」とした審決の判断に誤りはない。
4結論以上によれば,原告の主張はすべて理由がなく,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記