関連審決 | 不服2005-15499 |
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関連ワード | 承継 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 上位概念 / 発明の詳細な説明 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
20年
(行ケ)
10106号
審決取消請求事件
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原告富 士フイルム株式会社 訴訟代理人弁理 士香取孝雄 被告特許庁長官 指定代理人奥村元宏 同 岩井健二 同 藤内光武 同 山本章裕 同 酒井福造 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/10/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1特許庁が不服2005−15499号事件について平成20年2月5日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求主文同旨第2事案の概要1本件は,富士写真フイルム株式会社(訴外会社)が,発明の名称を「画像データ圧縮符号化装置およびその方法ならびにディジタルカメラ」とする後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,その後訴外会社から新設分割の方法により権利義務を承継した原告が,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 2争点は,本願発明が下記刊行物との関係で進歩性を有するか(特許法29条2項),である。 ・特開平7-193838号公報(発明の名称「符号化装置」,出願人キヤノン株式会社,公開日平成7年7月28日。甲1。以下「刊行物1」と,そこに第1実施例として記載された発明を「刊行物1発明」という。)第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯訴外会社は,平成9年3月24日,名称を「画像データ圧縮符号化装置およびその方法ならびにディジタルカメラ」とする発明について特許出願(特願平9-69788号,請求項の数19,甲5,以下「本願」という。公開特許公報は特開平10-271530号)をし,平成15年9月8日付けで明細書の記載を補正し(甲6),平成17年6月3日付けで「特許請求の範囲」請求項1・2・13・14の記載を補正した(以下「本件補正」という。甲9)が,平成17年7月4日に拒絶査定(甲10)を受けたので,平成17年8月11日付けで不服の審判請求(甲11)をした。 特許庁は,同請求を不服2005-15499号事件として審理することとし,その間訴外会社から新設分割の方法により原告がその権利義務を承継し,特許庁へその旨の届出をした(甲23)が,特許庁は,平成20年2月5日「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は平成20年2月19日原告に送達された。 (2) 発明の内容本件補正後の請求項の数は19であるが,請求項1の内容は,次のとおりである(以下「本願発明」という。)。 「【請求項1】カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データを圧縮符号化して出力する画像データ圧縮符号化装置において,該装置は,前記カラー画像データを処理して出力する信号処理手段と,該信号処理手段から出力されたカラー画像データを蓄積する蓄積手段であって,該蓄積したカラー画像データを各成分毎の画像データに,それぞれ所定のブロックに分割して読み出して出力する蓄積手段と,該蓄積手段から出力される画像データを各成分ごとに圧縮符号化して符号化データを生成する圧縮符号化手段と,前記符号化データを出力する出力手段と,前記画像データを圧縮する処理モードを制御する制御手段とを含み,該制御手段は,前記カラー画像データをモノクロ画像を表わすように圧縮符号化して出力させるモノクロ処理モードを選択すると,前記画像データの色差成分を所定の値に固定させ,前記圧縮符号化手段は,前記モノクロ処理モードでは,前記所定の値に固定された色差成分と前記輝度成分とを圧縮符号化処理することを特徴とする画像データ圧縮符号化装置。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発明は刊行物1発明に基づいて容易に発明することができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 イなお,審決が認定する刊行物1発明の内容,本願発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 <刊行物1発明の内容>「R,G,BをYとCb,Crとに分離した後に圧縮符号化を行う符号化装置において,該装置は,R,G,BをY,Cb,Crに変換する変換部201と,Y,Cb,Crを,それぞれ8×8画素ブロックに分割して出力するブロック分割手段と,ブロック分割手段から出力される画像データを各成分ごとに2次元DCTを施し,線形量子化し,エントロピ符号化し,Y-符号,Cb-符号,Cr-符号として出力する圧縮符号化手段と,カラーモードでは,変換部201からのCb,Crをブロック分割手段に入力し,白黒モードでは,変換部201からのCb,Crをブロック分割手段には入力しないよう切り替えられるスイッチ302と,カラーモードでは,圧縮符号化手段からのCb-符号,Cr-符号を出力し,白黒モードでは,固定レジスタ304に予め用意しておいた量子化後のDC係数,AC係数すべてが“0”の場合のハフマン符号をCb-符号,Cr-符号として出力するよう切り替えられるスイッチ303と,圧縮符号化手段からのY-符号,スイッチ303からのCb-符号,Cr-符号を伝送手段または蓄積手段に出力する出力手段と,白黒モードが選択されると,変換部201からのCb,Cr信号がブロック分割手段に入力されないようスイッチ302を切り替えるとともに,固定レジスタ304に予め用意しておいた量子化後のDC係数,AC係数すべてが0の場合のハフマン符号がCb-符号,Cr-符号として出力されるようスイッチ303を切り替える制御手段を含み,輝度成分と色度成分共に圧縮符号化処理を行う符号化において,被写体が白黒であっても,光学系の特性やセンサ類の位置ずれによる色ずれのためにY,Cb,Cr変換後の色成分が完全には0にならないことがあるという問題を解決すべく,被写体が白黒であれば,色味のない純粋な白黒データを出力できるようにする符号化装置。」<一致点>本願発明と刊行物1発明とは,「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データを圧縮符号化して出力する画像データ圧縮符号化装置において,該装置は,カラー画像データを各成分毎に所定のブロックに分割して出力するブロック分割手段と,ブロック分割手段から出力される画像データを各成分ごとに圧縮符号化して符号化データを生成する圧縮符号化手段と,前記符号化データを出力する出力手段と,前記画像データを圧縮する処理モードを制御する制御手段とを含み,該制御手段は,モノクロ画像を表すように処理して出力させるモノクロ処理モードを選択すると,色差成分を所定の値に固定させることを特徴とする画像データ圧縮符号化装置。」である点で一致する。 <相違点1>本願発明では,「前記カラー画像データを処理して出力する信号処理手段」を含み,「モノクロ処理モード」における「モノクロ画像を表すように処理し」が,圧縮符号化する前の「カラー画像データ」を対象とし,「モノクロ画像を表すように圧縮符号化し」とするものであり,モノクロ処理モードにおいて「制御手段」が「所定の値に固定させる」「色差成分」が,圧縮符号化する前の「前記画像データの色差成分」であり,モノクロ処理モードにおいて「圧縮符号化手段」が「前記所定の値に固定された色差成分と前記輝度成分とを圧縮符号化処理する」としているのに対し,刊行物1発明では,「前記カラー画像データを処理して出力する信号処理手段」を備えておらず,「モノクロ処理モード」における「モノクロ画像を表すように処理し」が,「色差成分の符号化データ」を対象とし,「モノクロ画像を表すように所定の値に固定し」とするものであり,モノクロ処理モードにおいて「制御手段」が「所定の値に固定させる」「色差成分」が,「符号化データの色差成分」であり,モノクロ処理モードにおいて「圧縮符号化手段」が「前記所定の値に固定された色差成分と前記輝度成分とを圧縮符号化処理する」とはしていない点。 <相違点2>本願発明では,「カラー画像データを各成分毎に所定のブロックに分割して出力するブロック分割手段」が「該信号処理手段から出力されたカラー画像データを蓄積する蓄積手段であって,該蓄積したカラー画像データを各成分毎の画像データに,それぞれ所定のブロックに分割して読み出して出力する蓄積手段」であり,「圧縮符号化手段」が各成分ごとに圧縮符号化する「画像データ」が「該蓄積手段から出力される」ものであるのに対し,刊行物1発明では,そのようにしていない点。 (4) 審決の取消事由しかしながら,審決には,以下のとおり誤りがあるから,違法なものとして取り消されるべきである。 ア 取消事由1(一致点認定の誤り)(ア)世の中の事物は,厳密にはすべてカラー画像である。本願発明は,そのような事物の被写体をモノクロ撮影モードで撮影する際,そのカラー画像をモノクロ画像を表わすデータとして扱えるようカラー画像データの形式を保持することで,カラー画像を出力する従来の画像処理システムとの互換性を保つことを企図している。本願発明は,被写体をモノクロ(たとえば白黒)モードで撮影したい場合,カラー画像出力用の従来の画像処理システムとの互換性を維持すべく,モノクロ処理をするに際して,被写体がカラーであるか白黒であるかは,全く関係がない。 これに対して,刊行物1発明は,符号化対象画像が白黒画像の場合にも符号化データに色成分が含まれてしまう問題を解決しようとしている(刊行物1[甲1]【特許請求の範囲】,段落【0010】)。その目的を達成するには,符号化対象画像がカラー画像か白黒画像かを操作者自身が判断して,白黒画像の場合は必ず白黒モードを指示しなければならない(刊行物1[甲1]段落【0011】【0012】)。 このように,本願発明の技術思想は,刊行物1発明とは根本的に相違する。 (イ)審決は,「…刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』は,本願発明でいうカラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」に相当するといえる。」(8頁下6行〜下4行)と認定している。 a刊行物1発明に関して審決が認定する「Y,Cb,Cr」は,画像内の各点の色情報にすぎず,それ自体がカラー画像の全体と対応するものではないから,本願発明の「カラー画像データ」と刊行物1発明の「Y,Cb,Cr」とは一致しない。この点において審決は,一致点の認定を誤っている。もっとも,各点の「Y,Cb,Cr」の集合体が画像データであるから,一応審決がそのように認定したものと理解する。 b上記(ア)のとおり,刊行物1発明は,符号化対象画像が「カラー画像」である場合と,符号化対象画像が「白黒画像」である場合とを明確に区別しており,カラー画像データを符号化対象としてモノクロ処理する構成を有しないところ,審決は,符号化対象画像が「カラー画像」,「白黒画像」のいずれである場合の画像データについて述べているか曖昧である。 審決が,符号化対象画像が「カラー画像」である場合と「白黒画像」である場合の両方を含む上位概念として「刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』」を認定したとすれば,不可能な上位概念化を行ったことになるから,誤りである。 cもっとも,審決が「刊行物1発明では,…モノクロ処理モードが選択されると,『色差成分の符号化データをモノクロ画像を表すように所定の値に固定して出力させる』とするものである…」(11頁下7行〜下5行)と認定していること等に照らせば,審決がいう「刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』」とは,符号化対象画像が「白黒画像」の場合の画像データを意味するものと理解される。 審決の認定をそのように理解するならば,刊行物1発明の「白黒の被写体から得られた画像のデータ」は,色ずれ等の誤差により色差成分が完全に0にならない場合があり得るとしても,基本的に色差成分の値が0のものであるから,カラーの被写体から得られた画像(色差成分の値が0でない任意のもの)を表すことができない。これに対し,本願発明の「カラー画像データ」は色差成分(Cb,Cr)がそれぞれ例えば0〜255の任意の値をとるから,刊行物1発明の「白黒の被写体から得られた画像のデータ」は,本願発明の「カラー画像データ」とは異なる。 d仮に,審決がいう「刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』」は,符号化対象画像が「カラー画像」の場合の画像データを意味するものと理解すると,刊行物1発明には,カラー画像データを符号化対象としてモノクロ処理する構成を有しないから,「モノクロ処理モード」を一致点として認定することはできず,それを一致点と認定した点において,審決は一致点の認定を誤ったことになる。 (ウ)審決は,「本願発明でいう『カラー画像データ』は…色差成分の値が0のものを含まないとする記載はないから…白黒の被写体から得られた画像も表すこともできる…」(8頁10行〜14行)として,本願発明の「カラー画像データ」は色差成分(Cb,Cr)の値が0のものを含むと前置きしたうえで,「…刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』は,色差成分を表すCb,Crを含んでおり,そのデータにより色味のあるカラー画像を表すことが可能であるから,色差成分Cb,Crの実際の値がどうであれ,『カラー画像を表すカラー画像データ』といい得る」(8頁22行〜25行)と認定したが,審決のこの論理は,論旨が逆であり,成り立たない。 確かに,本願発明の「カラー画像データ」は,白黒の被写体から得られた画像(色差成分の値が0のもの)を表すことができるが,むしろ,その本質的意義は,カラーの被写体から得られた画像(色差成分の値が0でない任意のもの)をも表すことができることにある。すなわち,本願発明の技術的意義は,カラー画像データを符号化対象としてモノクロ処理する(画像データの色差成分を所定の値に固定させる)場面において,輝度(Y)成分に加えて固定された色差成分(Cb,Cr)の両方を符号化処理する構成を採用することにより,「…この場合,色差成分に割り当てられる符号量は最小限でよいので,残りを輝度成分に対する符号量として割り当てることができる。…」(本願明細書[甲5]段落【0078】)というものである。これに対し,符号化対象が白黒画像データである場合は,色差成分が元々零であるから,色差成分を固定値にしても余剰の符号量は見込めず,上記の技術的意義は発揮されない。 刊行物1発明の「白黒の被写体から得られた画像のデータ」は,色ずれ等の誤差により色差成分が完全に0にならない場合があり得るとしても,基本的に色差成分の値が0のものであるから,カラーの被写体から得られた画像(色差成分の値が0でない任意のもの)を表すことができない。これに対し,本願発明の「カラー画像データ」は色差成分(Cb,Cr)がそれぞれ例えば0〜255の任意の値をとるから,刊行物1発明は,本願発明の「カラー画像データ」とは概念を異にするものであり,それ故に,本願発明の技術的意義を享受することがあり得ないものである。 (エ)本願発明にいう「モノクロ」とは,単一の黒(クロ)と同義ではなく,モノクローム(単色)の簡略化した表現であり,白黒に限定されない。モノクロームが白黒を含むとしても,そうであるからといって,写真画像としてのモノクローム表現を刊行物1発明は何ら考慮していない。 (オ)本願発明は,モノクロ処理する場合に,カラー画像出力用の従来の画像処理システムとの互換性を保ちつつ,併せて,色差成分の符号化時に余剰の符号量を輝度成分の符号量に割り当てることができ,カラー処理モードと同じ符号量で,高解像度の符号化データを得ることができる。このような本願発明の技術的意義は,カラー画像データを符号化対象としてモノクロ処理する(画像データの色差成分を所定の値に固定させる)場面において特に有意義である。これに対し,刊行物1発明は,白黒の符号化対象画像を対象として白黒処理を行うにすぎないから,本願発明の上記技術的意義と相容れない。 (カ)したがって,審決の「…刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』は,本願発明でいう『カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ』に相当するといえる。」(8頁下6行〜下4行)との認定は誤りである。 また,審決の「刊行物1発明の『R,G,BをYとCb,Crとに分離した後に圧縮符号化を行う符号化装置』は,本願発明でいう『カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データを圧縮符号化して出力する画像データ圧縮符号化装置』に相当する。」(8頁下2行〜9頁2行)との認定,「本願発明の『蓄積手段』は,…その機能を上位概念でとらえれば,『カラー画像データを各成分毎の画像データに,それぞれ所定のブロックに分割して出力するブロック分割手段』といい得るものであるから,この点においては,刊行物1発明の『Y,Cb,Crを,それぞれ8×8画素ブロックに分割して出力するブロック分割手段』と相違しない。」(9頁19行〜26行)との認定,「…刊行物1発明の『白黒モード』と本願発明の『モノクロ処理モード』とは,『モノクロ画像を表すように処理して出力させる』ものといえる点において相違しない。」(10頁下1行〜11頁2行)との認定,「刊行物1発明の『制御手段』は,『カラー画像データを圧縮する処理モードを制御する制御手段であって,該制御手段は,モノクロ処理モードを選択すると,色差成分を所定の値に固定させる』ものといえる点で,本願発明とは相違しない。」(11頁22行〜25行)との認定は,いずれも誤りである。 イ 取消事由2(相違点1の判断の誤り)について(ア)a刊行物1(甲1)の段落【0017】には,以下のように記載されている。 「固定値レジスタ304よりの固定値とは,符号化処理方式毎に決められた値であり,たとえばJPEGベースラインシステムでは,量子化後のDC係数,AC係数すべてが“0”の場合のハフマン符号である。DC係数の場合は前ブロックのDC係数との差を取るが,これは常に“0”である。またAC係数の場合は,ブロック中に有効な係数はないので常に(End of Block)と呼ばれるコードを用いる。」これは,とりもなおさず,刊行物1発明における「固定値」とは,本願発明において例示されている「128」のような単純な固定した値ではなく,1画面相当のハフマン符号であり,1画面相当の0符号であり,はたまた1画面相当のEOB(End of Block)符号である。 bしかも,これらの1画面相当の符号は,圧縮符号化されてなくてはならない。なぜなら,刊行物1(甲1)の【図1】に示される固定値レジスタ304の出力側は,スイッチ303の入り側において色度用符号化部203の出力側と対等な位置でこれに接続されている。これは,固定値レジスタ304の出力には,色度用符号化部203と同じ形式で「固定値」が出力されなければならないことを意味するからである。 c刊行物1(甲1)には,「…同様構成には同一番号を付し…」(段落【0014】【0020】)とあるから,【図1】に示す色度用符号化部203の内部は,【図5】に示されるブロック203と同じに構成されているものと考えられる。それによれば,色度用符号化部203は,C-量子化テーブル506,C-ハフマンテーブル507,JPEGベースラインシステム303などの機能部を含んでいる。したがって,固定値レジスタ301(【図1】)の出力には,「128」のような単純な「固定値」が出力されるのではなく,この例では,「…色成分を“0”とした時の値…」(段落【0018】),すなわち色成分を0としたときの圧縮符号化されたデータに相当する「コード」(段落【0017】)が保持されていなければならない。 刊行物1発明では,このような「固定値」と称する値を生成するために固定値レジスタ304やスイッチ302,303(甲1,【図1】)が設けられている。このようなレジスタ304やスイッチ302,303を設けなければならないことは,本願明細書(甲5)段落【0007】で従来技術の問題点とされている「…モノクロ専用の…信号処理回路を新たに追加…」に該当し,本願発明の企図する「簡便な構成」(本願明細書[甲5]段落【0010】)を達成することができない。 (イ)a審決は,刊行物1発明で周知例1及び2のように画素値を所定値に固定して本願発明に到ることは,容易であったと結論付けている(13頁13行〜30行)。 bしかし,上記(ア)の刊行物1発明における「固定値」と称する「コード」を「圧縮符号化する前のカラー画像データについて」適用すれば,一体どのような色度成分データが色度用符号化部203の出力側に得られるのか,当業者には理解できない。 本願発明では,このようなパターンを必要とする「固定値」ではなく,例えば「128」のような単一の値でよい固定値を色差データに設定する(本願明細書[甲5]段落【0034】)ことで,モノクロ処理モードでも,色差成分についてカラー処理モードと同様にして圧縮符号化部24(本願明細書[甲5]【図1】)をそのまま機能させるという簡便な構成で,カラー画像を出力する従来の画像処理システムとの互換性を保つモノクロの画像の符号化データを出力することができる(本願明細書[甲5]段落【0078】)。 してみれば,審決の上記判断は,その論理に相当の飛躍があり,適切な理由付けを欠いている。 c刊行物1発明は,その従来技術では入力原稿が白黒とわかっている場合もY,Cb,Crすべてを符号化処理を行う必要があり(甲1,段落【0008】【0009】),「…本来色成分はないはずの要素に対しても符号化処理を行うため,無駄な動作のために処理時間が長くなるという問題点もあった…」(甲1,段落【0010】)ので,この問題点を解決するため,「…符号化対象画像が白黒画像の場合に…色度成分に対しては圧縮符号化処理を行わず…」(甲1,段落【0011】),「…処理の高速化も可能にする」(甲1,段落【0013】)ことを達成しようとしている。 刊行物1(甲1)においては,第1実施例に関して「…本実施例によれば,…設定モードが白黒の場合には,スイッチ302,303で色成分に対する処理を中断する…ことにより,…処理の高速化も可能とするものである。」(段落【0018】)と説明されている。また,第2実施例に関しても「図3のタイミングチャートより明らかなように第2実施例によれば,Cb,Crに対する符号化処理を省いた分だけ,全体の処理速度は上がっている。」(段落【0024】)と説明されている。さらに,効果欄においても「…本発明によれば,…処理の高速化も可能にする。」(段落【0025】)と説明されている。 したがって,刊行物1発明を,輝度とともに色度値も圧縮符号化する構成に変更することは,刊行物1発明の作用効果を奏するために不可欠な本質的構成を失うことに他ならず,換言すれば,刊行物1において問題点があると指摘している従来技術に逆戻りすることであるから,このような変更には,明らかな阻害事由が認められ,当業者が容易に想到し得るものではあり得ない。 なお,被告は,刊行物1発明には「色味のない純粋な白黒データの出力を可能にする」目的もあると主張するが,刊行物1発明では,「モノクロ処理モードが選択されると『色差成分の符号化データをモノクロ画像を表すように所定値に固定して出力させる』」から,「色味のない純粋な白黒データの出力を可能にする」目的は完全に達成されており,処理時間の短縮(高速化)を犠牲にしてまで「色度成分(Cb,Cr)」の符号化処理を行う理由も必要性もない。 d上述した通り,本願発明は,カラー画像データを符号化対象としてモノクロ処理する(画像データの色差成分を所定の値に固定させる)場面において,処理時間の増大にもかかわらず,輝度(Y)成分に加えて固定された色差成分(Cb,Cr)の両方を符号化処理する構成を採用することにより,モノクロ処理する場合に,色差成分の符号化時に余剰の符号量を輝度成分の符号量に割り当てることができ,カラー処理モードと同じ符号量で,高解像度の符号化データを得ることができることを特徴としている。 これに対し,刊行物1発明は,処理時間短縮のために,色差成分の符号化を行わないことを特徴とする発明であるから,本願発明と正反対である。このような相違点は,両発明の本質的な相違に関わるものであるから,容易に構成を変更し得るものではあり得ない。 e上述の議論は,周知例1及び2を精査しても変わらない。 周知例1(特開平8-294116号公報。発明の名称「画像処理装置」,出願人オリンパス光学工業株式会社,公開日平成8年11月5日。甲2)は,「カラー画像の符号化手段であり,画像内の有色/無色の範囲を求め,無色領域については色信号成分を0に固定して符号化する」技術であるから,「カラー画像データをモノクロ画像を表すように圧縮符号化して出力させる」構成が無く,「余剰の符号量を輝度(Y)成分に割り当てる」という技術思想も存在しない(【請求項10】,段落【0015】【0018】及び【図3】)。 周知例2(特開平8-130629号公報。発明の名称「画像処理装置」,出願人凸版印刷株式会社,公開日平成8年5月21日。甲3)は,「画像の符号化手段であり,画像内の不要領域の色信号成分を0に固定して符号化する」技術であるから,「カラー画像データをモノクロ画像を表すように圧縮符号化して出力させる」構成が無く,「余剰の符号量を輝度(Y)成分に割り当てる」という技術思想も存在しない(段落【0038】及び【図6】)。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。 3被告の反論(1) 取消事由1に対しア 被写体について原告が誤りと主張する「刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』は,本願発明でいう『カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ』に相当する」という審決における一致点の認定は,「画像データ」について一致判断をするものであるところ,「刊行物1発明は白黒原稿画像を扱う場合の技術である」のに対して「本願発明は,白黒に限らず一般の画像をモノクロ処理したい」場合の技術であるとする原告の主張は「被写体」の相違をいうものであって,「画像データ」の相違をいうものではない。 刊行物1発明の「Y,Cb,Cr」が「画像データ」であることは明らかであり,本願発明の「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」が「画像データ」であることは,原告も認めているところである。原告の「被写体」の相違をいう主張は請求項1記載の本願発明に基づかない主張である。 「画像データ」として,本願発明の「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」も,刊行物1発明の「Y,Cb,Cr」も,カラーを表すことができる形式を持つデータであり,実際の値も,いずれも,0である場合も0でない場合もあるデータであるから,審決で一致するとした認定に誤りはない。 審決では,「被写体」について,刊行物1発明は「…カラーの被写体から得られたカラー画像データを白黒の画像を表すものとして出力させることを意図したものではない…」(8頁20行〜22行)と判断しており,審決に「被写体」の相違について判断の誤りはない。 イ 互換性について「(本願発明は)カラー画像出力用の従来の画像処理システムとの互換性を保つことを企図している。」とする原告の主張は本願発明の目的をいうものであって,本願発明の効果に関する主張であり,「刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』は,本願発明でいう『カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ』に相当する」という審決における一致点の認定を誤りとするものではない。この点は,後記(2)ウで反論する。 ウ 符号量の割当について符号量の割当についての原告の主張は本願発明の効果に関する主張であって,「刊行物1発明の『Y,Cb,Cr』は,本願発明でいう『カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ』に相当する」という審決における一致点の認定を誤りとするものではない。この点は後記(2)ウで反論する。 (2) 取消事由2に対しア 理由付けの欠如について原告は,審決が,刊行物1の「コード」(固定値)を「圧縮符号化する前のカラー画像データ」に適用するよう論理付けていると解釈しているように思われる。 しかし,審決は,刊行物1の「コード」(固定値)を「圧縮符号化する前のカラー画像データ」に適用するよう論理付けているのではなく,刊行物1発明の「色差成分が所定の値に固定された符号化データを得る」ための構成である「色差成分の符号化データを所定の値に固定する」構成を周知の手法である「圧縮符号化する前の画像データについて,画素値を所定値に固定し,その上で圧縮符号化する手法」に代えるという論理をいっている。そして,審決は,刊行物1発明の「色差成分の符号化データを所定の値に固定する」構成と周知の手法である「圧縮符号化する前の画像データについて,画素値を所定値に固定し,その上で圧縮符号化する手法」は「画像データを圧縮符号化して符号化データを生成する圧縮符号化手段において,画素値が固定された符号化データを得る手法」という観点で共通していて,代替することができたという理由付けをしているのであり,審決の論理に飛躍はなく,誤りはない。 イ 阻害事由について原告は,「刊行物1発明の作用効果(処理の高速化)を奏するために不可欠な本質的構成を失う」として,阻害事由を主張する。 しかし,刊行物1(甲1)に「…色要素として3要素を用いる符号化においても,色味のない純粋な白黒データの送信を可能にすると共に,処理の高速化も可能とするものである。」(段落【0018】),「…輝度成分と色度成分共に圧縮符号化処理を行う符号化においても,色味のない純粋な白黒データの出力を可能にすると共に,処理の高速化も可能にする。」(段落【0025】)とあるように,「処理の高速化」は「共に」可能とする付随的な目的であって,「処理の高速化」のみならず「色味のない純粋な白黒データの送信を可能にする」という主たる目的を有している。そして,この「色味のない純粋な白黒データの出力を可能にする」目的のために構成の変更を行うことができたものである。「処理の高速化」に逆行することがあっても,画像データが得られなくなるわけではないから,符号化装置としての本質が失われるわけではなく,「色味のない純粋な白黒データの出力を可能にする」ために「画素値が固定された符号化データを得る手法として,圧縮符号化する前の画像データについて,画素値を所定値に固定し,その上で圧縮符号化する手法」を採用することは可能である。 そもそも技術は,ある観点に従うと他の観点に影響が出ることが常で,他の観点に対する影響を理解した上で,変形,改良などを考慮するのが常であり,刊行物1において,一観点である「処理の高速化」に影響があるからといって,変形,改良などを考慮することができないとはいえない。 したがって,原告の主張する阻害事由は理由がない。 ウ 作用効果について(ア) 互換性につき原告は「(本願発明は)カラー画像出力用の従来の画像処理システムとの互換性を保つことを企図している。」と主張する。すなわち,互換性の保持という作用効果を有するという主張である。 互換性の保持という作用効果は,結局,「…符号化データの互換性および汎用性が確保されている」(本願明細書[甲5]段落【0078】)ことをいうものであるところ,刊行物1発明も,RGBを入力とし,Y符号Cb符号Cr符号を出力とするものであって「符号化データの互換性および汎用性が確保されている」ものである。したがって,本願発明に互換性の保持という作用効果があるからといって,格別な効果とはいえず,進歩性を有するとはいえない。 (イ) 符号量の割当につき原告は,本願発明の作用効果として符号量の割当について主張する。すなわち,「モノクロ処理する場合に,色差成分の符号化時に余剰の符号量を輝度成分の符号量に割り当てることができ,カラー処理モードと同じ符号量で,高解像度の符号化データを得ることができる」という作用効果を主張する。 しかし,本願発明は請求項1に記載されたところにあり,「色差成分の符号化時に余剰の符号量を輝度成分の符号量に割り当てる」という特定をするものではない。「カラー処理モードと同じ符号量で,高解像度の符号化データを得ることができる」ためには,「色差成分の符号化時に余剰の符号量を輝度成分の符号量に割り当てる」という構成が必要であり,原告主張の符号量の割当に関する効果は本願発明が必ず奏する効果とはいえない。原告のいう符号量の割当に関する効果の主張は,請求項1記載の本願発明に基づかない主張であって,失当である。 仮に,本願発明が「色差成分の符号化時に余剰の符号量を輝度成分の符号量に割り当てる」という特定をする構成を有するものであったとしても,刊行物1発明も,符号化しない色差成分に割り当てられる符号量を輝度成分に割り当てれば,原告主張の本願発明の効果を奏するものとすることが可能な構成を有している。 そもそも画像の符号化は画質とデータ量(符号量)とのトレードオフ関係にあり,単にデータ量(符号量)を少なくすればよいのではなく,伝送制限などにより限られたデータ量(符号量)をいかに効率よく利用するかが課題とされるものであって,符号量の割当は設計事項といえるから,刊行物1発明においても限られた符号量を効率よく利用するために符号量の割当を考慮することは当業者が当然になすことである。また,限られた符号量の割当を考慮して,符号量を輝度成分に多く割り当てることで高画質のデータを得ることができることも周知である(乙1[特開平4-345292号公報,発明の名称「デイジタルスチルビデオカメラ」,出願人コニカ株式会社,公開日平成4年12月1日],乙2[特開平8-32997号公報,発明の名称「画像記録再生装置」,出願人ソニー株式会社,公開日平成8年2月2日]参照)。そうであるから,符号量の割当を適宜設定することで刊行物1発明においても原告が主張する符号量の割当に関する効果を得られることは当業者が予測できたことである。 したがって,原告が主張する符号量の割当に関する効果が格別な効果ということもできない。 エ 周知技術について原告は周知例1,2について「カラー画像データをモノクロ画像を表すように圧縮符号化して出力させる」構成が無く,符号量の割当についても開示しない旨の主張をするが,審決は,「画像データを圧縮符号化して符号化データを生成する圧縮符号化手段において,画素値が固定された符号化データを得る手法として,圧縮符号化する前の画像データについて,画素値を所定値に固定し,その上で圧縮符号化する手法」の一般例として周知例1,2を挙げたのであり,周知例1,2がそのような手法のものであるから,周知例1,2が原告の主張するようなものであっても,審決を誤りということはできない。このような手法は他にも知られており,周知技術であることに誤りはない(乙2参照)。 第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2本願発明の意義について(1)本願の本件補正後の特許請求の範囲「請求項1」は,前記第3,1(2)のとおりである。 (2)本願明細書(特許願添付の明細書[甲5]を手続補正書[甲6と甲9]によって補正したもの)には,次の記載がある。 ア 発明の属する技術分野「本発明は,カラー画像を表わす画像データを入力して圧縮符号化して出力する画像データ圧縮符号化装置およびその方法ならびにディジタルカメラに係り,たとえば,撮像されて生成された画像データを,カラーモードおよびモノクロモードにて圧縮符号化して記録媒体に記録させる画像処理装置およびその方法ならびにディジタルカメラに関するものである。」(段落【0001】)イ 従来の技術「近年,CCDなどの固体撮像素子にて撮像された被写界像を表わすカラー画像信号をディジタル信号に変換し,変換された画像データを2次元直交変換などの変換方式によって圧縮および符号化して半導体メモリや磁気ディスクなどの画像データ記憶媒体に記録する画像処理装置として,たとえばディジタルスチルカメラが知られている。」(段落【0002】)「このようなディジタルスチルカメラでは,たとえば,輝度データおよび色差データがブロックインターリーブされたカラー画像データを2次元直交変換および符号化されることによって,処理された符号化データが,たとえば,所定の符号量となるように圧縮符号化され,圧縮符号化データが所望の記憶媒体に記憶される。」(段落【0003】)「圧縮符号化方式としては,たとえば,「ISO/IEC DIS 10918-1」に準拠した,いわゆるJPEG方式が用いられ,処理された画像データは,単にプリント出力されるだけではなく,汎用のパーソナルコンピュータによってさらに処理加工することができ,様々な形式に変換される。」(段落【0004】)ウ 発明が解決しようとする課題「しかしながら,従来のディジタルスチルカメラでは,自然画などの被写界像を撮影しそのカラー画像を出力することを主眼として構成されているので,たとえば線画や文字,さらにはモノトーンなどのモノクロ画像を出力するためには特殊な構成が必要となって,そのモノクロ画像データを記憶媒体に記憶させる際の記録フォーマットやカメラ自体の構成を大幅に変更せざるを得なかった。」(段落【0005】)「たとえば,モノクロ画像データを記憶媒体に記録する方法として,被写界を撮像するCCDなどの撮像素子にカラーフィルタが配設されていないモノクロ専用の撮像素子を採用したり,また,モノクロ撮影時には,カラー画像用のカラーフィルタを撮像素子の前面から除去したりする構成が必要となり,さらにはモノクロ専用の信号処理回路を新たに設けて,撮像信号のうち輝度信号のみを生成して圧縮符号化する方法が考えられる。」(段落【0006】)「しかし,この場合,モノクロ専用の撮像ユニットや信号処理回路を新たに追加してカメラを再構成しなければならないという問題があった。また,輝度信号のみの特殊な圧縮方式を採用すると,出力される画像データは従来の再生方式では再生できなくなってしまい,さらには,画像データの記録フォーマットについても特殊な白黒モードを用意する必要が発生し,この場合も,モノクロ専用のカメラと同様に,従来のカメラおよび画像データの再生装置との互換性が保たれず,従来の再生装置では画像を再生することができないという問題があった。」(段落【0007】)「たとえば,本出願による特許出願,特開平2-107904号の「静止画のディジタル記録装置」には,白黒モードが選択されているときには,輝度成分に関する原画像データのみを圧縮符号化したデータを,メモリ・カートリッジの輝度成分記憶エリアおよび色差成分記憶エリアの両方にわたって記録するディジタルスチルカメラが開示されている。しかしこのような従来例では,記録データの互換性について充分に考慮されているとは言えず,たとえば,標準化された基本方式の範囲内で記録データを復号し,画像を再生することは困難であった。」(段落【0008】)「このように従来のカラー画像データを出力して記憶媒体に記録するディジタルスチルカメラの構成を大幅に変更する必要があり,これらがコストアップの要因となってしまって,カラー画像に加えてモノクロ画像を出力することのできるディジタルスチルカメラを簡便な構成にて構築することが困難であった。そして,たとえば,カラー画像とモノクロ画像との双方に対応し,いずれの画像データであっても互換性が保たれている画像データを出力および記録するディジタルスチルカメラを簡便な構成で実現することが困難であった。」(段落【0009】)「本発明はこのような従来技術の問題点に鑑み,カラー画像データを出力する従来の画像処理システムとの互換性を保ちつつ,簡便な構成でモノクロの画像を表示する符号化データを出力することのできる画像データ圧縮符号化装置およびその方法ならびにディジタルカメラを提供することを目的とする。」(段落【0010】)エ 課題を解決するための手段「本発明は上述の課題を解決するために,カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含む画像データを圧縮符号化して出力する画像データ圧縮符号化装置において,この装置は,画像データを処理して出力する信号処理手段と,信号処理手段から出力された画像データを蓄積する蓄積手段であって,蓄積した画像データを各成分毎に,それぞれ所定のブロックに分割して読み出して出力する蓄積手段と,蓄積手段から出力される画像データを各成分ごとに圧縮して符号化する圧縮符号化手段と,符号化手段から出力される符号化データを出力する出力手段と,画像データを圧縮する処理モードを制御する制御手段とを含み,制御手段は,画像データをモノクロ画像を表わすように圧縮符号化して出力させるモノクロ処理モードを選択すると,画像データの色差成分を所定の値に固定させて,固定された色差成分と輝度成分とを圧縮符号化手段にて圧縮符号化処理させることを特徴とする。」(段落【0011】)オ 発明の効果「このように本発明によれば,カラー画像データの色差成分の値を変更して,所定の値に固定し圧縮符号化する簡便な構成で,カラー画像に対応する符号化データが生成され,再生するとモノクロームの画像が再生される符号化データが作成される。この場合,色差成分に割り当てられる符号量は最小限でよいので,残りを輝度成分に対する符号量として割り当てることができる。輝度成分に対し,より多くの符号を割り当てることができるので,全体としてカラー処理モードと同じ符号量であっても,モノクロ処理モードでは,高精細画像をモノトーンにて鮮明に表現する高解像度の符号化データを得ることができる。このようにして生成された符号化データは,通常のカラー画像が符号化されたデータと同様にして再生することができ,符号化データの互換性および汎用性が確保されている。また,符号量制御を行なう場合においてもとくに複雑な制御を行なう必要がなく,通常のカラー画像を圧縮符号化する場合と同様に,所望する符号量以下に符号化データの総符号量を制御することができる。」(段落【0078】)(3)以上の(1)(2)によれば,?@本願発明は,画像データ圧縮符号化装置に関するものである,?A従来このような装置は,カラー画像を出力することを主眼として構成されていたため,モノクロ画像を出力するためには,モノクロ専用の撮像素子を採用したり,モノクロ撮影時にカラー画像用のカラーフィルタを撮像素子の前面から除去したりする構成が必要となり,さらにはモノクロ専用の信号処理回路を新たに設けて,撮像信号のうち輝度信号のみを生成して圧縮符号化する構成が必要となったが,このような輝度信号のみの特殊な圧縮方式を採用すると,出力される画像データは従来の再生方式では再生できなくなってしまい,さらには,画像データの記録フォーマットについても特殊な白黒モードを用意する必要が生じ,そのために従来のカメラ及び画像データの再生装置との互換性が保たれず,従来の再生装置では画像を再生することができないという問題があった,?B本願発明は,カラー画像データを出力する従来の画像処理システムとの互換性を保ちつつ,簡便な構成でモノクロの画像を表示する符号化データを出力することのできる画像データ圧縮符号化装置を提供することを目的とするものである,と認められる。 そして,本願発明は,?@カラー画像データを処理して出力する信号処理手段,?A信号処理手段から出力されたカラー画像データを蓄積する蓄積手段であって,蓄積したカラー画像データを各成分毎の画像データに,それぞれ所定のブロックに分割して読み出して出力する蓄積手段,?B蓄積手段から出力される画像データを各成分ごとに圧縮符号化して符号化データを生成する圧縮符号化手段,?C符号化データを出力する出力手段,?D画像データを圧縮する処理モードを制御する制御手段とを含む画像データ圧縮符号化装置において,「制御手段は,カラー画像データをモノクロ画像を表わすように圧縮符号化して出力させるモノクロ処理モードを選択すると,画像データの色差成分を所定の値に固定させ,圧縮符号化手段は,モノクロ処理モードでは,所定の値に固定された色差成分と輝度成分とを圧縮符号化処理する」という構成を採用することによって,(ア)簡便な構成でモノクロ画像の符号化データが生成され,このデータは,通常のカラー画像が符号化されたデータと同様にして再生することができるので,符号化データの互換性及び汎用性が確保される,(イ)モノクロ処理モードにおいては,色差成分に割り当てられる符号量は最小限でよいので,残りを輝度成分に対する符号量として割り当てることができ,高精細画像をモノトーンにて鮮明に表現する高解像度の符号化データを得ることができる,といった効果を奏するものであると認められる。 3 刊行物1発明の意義について(1)一方,刊行物1(甲1)の「特許請求の範囲」には,次の記載がある。 「【請求項1】 画像データを輝度成分と色度成分とに分離した後に圧縮符号化を行う符号化装置において,符号化対象画像がカラー画像の場合に輝度成分と色度成分共に圧縮符号化処理を行うカラー原稿符号化手段と,符号化対象画像が白黒画像の場合に輝度成分に対しのみ圧縮符号化処理を行い色度成分に対しては圧縮符号化処理を行わずに特定値を符号化処理結果として付加出力する白黒原稿符号化手段とを有することを特徴とする符号化装置。 【請求項2】 更に前記符号化対象画像がカラー画像か白黒画像かを操作者よりの指示入力に従って指示する指示手段を有することを特徴とする請求項1記載の符号化装置。 【請求項3】 前記圧縮符号化処理における圧縮符号化方式としてJPEGベースラインシステムを用いることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の符号化装置。」(2)そして,刊行物1(甲1)の「発明の詳細な説明」には,次の記載がある。 ア 産業上の利用分野「本発明は画像データを輝度成分と色度成分とに分離した後に圧縮符号化を行う符号化装置に関するものである。」(段落【0001】)イ 従来の技術「現在,ディジタルカラー画像の伝送や蓄積のためにデータの圧縮符号化は不可欠となっている。この圧縮符号化の際に,画像データを輝度成分と色度成分に分けた上で,人間の視感度特性を考慮して色度成分に対してはサブサンプリングをかけたり,量子化時の量子化ステップを大きくする等の処理が行われる。」(段落【0002】)「図4に一般的なカラー画像の圧縮システムの構成例を示す。図4において,201はR,G,BをY,Cb,Crに変換する変換部であり,3×3の行列演算によりかかる変換を行う。この変換部201の変換式を式(1)に示す。出力信号は入力RGBから式(1)の演算によって求められる。」(段落【0003】)「【数1】Y=0.2988*R+0.5868*G+0.1144*BCb=-0.2988*R-0.5868*G+0.8856*B…式(1)Cr= 0.7012*R-0.5868*G-0.1144*B202は輝度信号を符号化処理する輝度用符号化部であり,203は色度信号を符号化処理する色度用符号化部である。」(段落【0004】)「以上の構成により原画像データであるR,G,Bは変換部201でY,Cb,Crに変換される。変換後のYについては,輝度用符号化部202で符号化され,Y-符号が出力される。また,Cb,Crについては,色度用符号化部203で符号化され,Cb-符号,Cr-符号が出力される。この符号化を行うカラー静止画像の圧縮符号化方式として,例えば国際標準化されたJPEGでは,使用する色空間に応じて最適な圧縮が行えるように量子化テーブルやハフマンテーブルを複数指定できるようになっている。」(段落【0005】)「以上の符号化方法として,図4に示す構成においてJPEGを用いた場合の例を図5に示す。図5において,原画像データであるR,G,Bは変換部201でY,Cb,Crに変換される。変換後のYについて,JPEGベースラインシステム302によりY用量子化テーブル304とY用ハフマンテーブル3305を用いてJPEGベースライン処理が行われる。またCb,Crについては,JPEGベースラインシステム303によりC用量子化テーブル306とC用ハフマンテーブル307を用いてJPEGベースライン処理が行われ,結果として,それぞれY-符号,Cb-符号,Cr-符号が出力される。」(段落【0006】)「以上におけるJPEG処理アルゴリズムの例を図6に示す。図6に示す様に先ず入力画像をサブサンプリングを介して取り込み,例えば8×8画素のブロックに分割されて2次元DCTが施される。得られた変換係数は各係数毎の量子化ステップサイズを定めた量子化テーブルを利用して線形量子化される。量子化した変換係数のうちDC(直流)係数は隣接ブロックのDC係数との差分がハフマンテーブルを用いてハフマン符号によって,または算術符号によってエントロピ符号化され,DC符号として出力される。」(段落【0007】)「量子化したAC(交流)係数はジグザグスキャンされる。量子化値“0”の場合には連続する“0”の長さを,“0”以外ではその量子化値をそれぞれ量子化テーブルを使ってエントロピ符号化し,AC符号として出力する。一方,入力原稿が白黒とわかっている場合においては図4の構成は必要無く,図7の構成で足りる。即ち,色度成分が不要であることから,輝度成分のみ符号化処理を行なえばよい。例えばJPEGでは,白黒階調画像の符号化も考慮して,1コンポーネントに対する処理も可能となっている。」(段落【0008】)ウ 発明が解決しようとする課題「しかしながら,図7のシステムで白黒写真原稿を送信する際には,復号化処理を行う側でも輝度成分のみの復号化が可能である必要がある。ところが,復号化側でこのような処理に対応していない場合も考えられる。 例えば,カラーファクシミリといったアプリケーションを考えた場合,JPEGはカラー中間調画像の符号化方式として注目されているため,3コンポーネントに対する処理のみが実装され,1コンポーネントに対する処理が実装されていない場合もある。その場合,白黒画像であっても図4のシステムで,Y,Cb,Crすべてを符号化処理を行う必要があった。」(段落【0009】)「その際,白黒写真原稿といっても,読み取るスキャナの光学系の特性やセンサ類の位置ずれによる色ずれのために,Y,Cb,Cr変換後の色成分が完全に“0”に成らないことがあり,原稿が白黒画像であるにもかかわらず,符号データに色成分が含まれるという問題点が発生する。また,当然色成分のデータもあるため,全体の符号量も多くなる。また,本来色成分はないはずの要素に対しても符号化処理を行うため,無駄な動作のために処理時間が長くなるという問題点もあった。」(段落【0010】)エ 課題を解決するための手段「本発明は上述の課題を解決することを目的としてなされたもので,上述の課題を解決する一手段として以下の構成を備える。即ち,画像データを輝度成分と色度成分とに分離した後に圧縮符号化を行う符号化装置において,符号化対象画像がカラー画像の場合に輝度成分と色度成分共に圧縮符号化処理を行うカラー原稿符号化手段と,符号化対象画像が白黒画像の場合に輝度成分に対しのみ圧縮符号化処理を行い色度成分に対しては圧縮符号化処理を行わずに特定値を符号化処理結果として付加出力する白黒原稿符号化手段とを有する。」(段落【0011】)「そして例えば,更に前記符号化対象画像がカラー画像か白黒画像かを操作者よりの指示入力に従って指示する指示手段を有する。あるいは,前記圧縮符号化処理における圧縮符号化方式としてJPEGベースラインシステムを用いることを特徴とする。」(段落【0012】)オ 作用「以上の構成において,輝度成分と色度成分共に圧縮符号化処理を行う符号化においても,色味のない純粋な白黒データの送信を可能にすると共に,処理の高速化も可能にする。」(段落【0013】)カ 実施例「以下,図面を参照して本発明に係る一実施例を詳細に説明する。 [第1実施例]図1に本発明に係る一実施例のブロック構成を示す。図1において,上述した図4と同様構成には同一番号を付し詳細説明を省略する。」(段落【0014】)「図1で,301はモードレジスタである。本実施例においては,動作モードとしてカラーモード,白黒モードの2通りの動作モードを有しており,この動作モードを決定するのがモードレジスタ301であり,動作モードを判別するために最低1ビットの容量を有している。ここでは,カラーモードの場合にはモードレジスタ=[0],白黒モードの場合にはモードレジスタ=[1]とする。」(段落【0015】)「302,303はいずれもスイッチであり,モードレジスタ301の値によって二つの状態を切り替える。すなわちモードレジスタ301の内容が[0]では,Cb,Cr信号が色度用符号化部203で処理後出力される様にスイッチ302,303を図中“0”で示す側に接続する。また,モードレジスタ301の内容が[1]ではスイッチ302,303を図中“1”で示す側に接続して変換部201より色度用符号化部203への入力を切り離し,Cb,Cr信号符号出力は固定値レジスタ304からの固定値データが出力される様に制御する。」(段落【0016】)「固定値レジスタ304よりの固定値とは,符号化処理方式毎に決められた値であり,例えばJPEGベースラインシステムでは,量子化後のDC係数,AC係数すべてが“0”の場合のハフマン符号である。DC係数の場合は前ブロックのDC係数との差を取るが,これは常に“0”である。またAC係数の場合は,ブロック中に有効な係数はないので常に(End of Block)と呼ばれるコードを用いる。」(段落【0017】)「以上説明した様に本実施例によれば,原稿の画像特性に応じて少なくとも2つのモードを設定するモードレジスタ301と,前記モードレジスタ301での設定モードが白黒の場合には,スイッチ302,303で色成分に対する処理を中断するとともに,色成分を“0”とした時の値を予め固定値レジスタ304に用意しておき,色度用の符号化データとしてこの固定値レジスタ304での設定値を出力することにより,色要素として3要素を用いる符号化においても,色味のない純粋な白黒データの送信を可能にすると共に,処理の高速化も可能とするものである。」(段落【0018】)キ 発明の効果「以上説明したように本発明によれば,輝度成分と色度成分共に圧縮符号化処理を行う符号化においても,色味のない純粋な白黒データの出力を可能にすると共に,処理の高速化も可能にする。」(段落【0025】)(3)以上の(1)(2)の記載並びに刊行物1の【図1】,【図4】及び【図7】によれば,刊行物1発明は,次のようなものであると認められる。 アR,G,BをYとCb,Crとに分離した後に圧縮符号化を行う符号化装置において,入力原稿が白黒とわかっている場合においては,色度成分が不要であることから,輝度成分のみ符号化処理を行なえばよいところ,復号化処理を行う側で輝度成分のみの復号化が可能でない場合には,白黒画像であっても,Y,Cb,Crすべてを符号化処理を行う必要があった。そのため,全体の符号量が多くなるとともに,無駄な動作のために処理時間が長くなるといった問題点があった。また,白黒写真原稿といっても,読み取るスキャナの光学系の特性やセンサ類の位置ずれによる色ずれのために,Y,Cb,Cr変換後の色成分が完全に“0”に成らないことがあり,原稿が白黒画像であるにもかかわらず,符号データに色成分が含まれるという問題点が発生することがあった。 イ刊行物1発明の装置は,上記アの問題を解決したもので,次のような構成を有する。 「R,G,BをY,Cb,Crに変換する変換部201と,Y,Cb,Crを,それぞれ8×8画素ブロックに分割して出力するブロック分割手段と,ブロック分割手段から出力される画像データを各成分ごとに2次元DCTを施し,線形量子化し,エントロピ符号化し,Y-符号,Cb-符号,Cr-符号として出力する圧縮符号化手段と,カラーモードでは,変換部201からのCb,Crをブロック分割手段に入力し,白黒モードでは,変換部201からのCb,Crをブロック分割手段には入力しないよう切り替えられるスイッチ302と,カラーモードでは,圧縮符号化手段からのCb-符号,Cr-符号を出力し,白黒モードでは,固定レジスタ304に予め用意しておいた量子化後のDC係数,AC係数すべてが“0”の場合のハフマン符号をCb-符号,Cr-符号として出力するよう切り替えられるスイッチ303と,Y-符号,Cb-符号,Cr-符号を伝送手段または蓄積手段に出力する出力手段と,白黒モードが選択されると,変換部201からのCb,Cr信号がブロック分割手段に入力されないようスイッチ302を切り替えるとともに,固定レジスタ304に予め用意しておいた量子化後のDC係数,AC係数すべてが0の場合のハフマン符号がCb-符号,Cr-符号として出力されるようスイッチ303を切り替える制御手段とを含む,符号化装置」4 取消事由1(一致点認定の誤り)について(1)前記第3,1(3)のとおり,審決は,「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データを圧縮符号化して出力する画像データ圧縮符号化装置において,」「モノクロ画像を表すように処理して出力させるモノクロ処理モードを選択すると,色差成分を所定の値に固定させること」を本願発明と刊行物1発明の一致点と認定している。 したがって,審決は,本願発明のモノクロ処理モードと刊行物1発明の白黒モードを対比し,色差成分を所定の値に固定させる点が一致していると認定していることになる。 (2)刊行物1発明において個々の「Y,Cb,Cr」は,それが集まることによって「画像データ」となるから,本願発明の「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」と刊行物1発明における「Y,Cb,Cr」は,「画像データ」である点で共通する。 しかし,前記2で認定した本願発明の意義によれば,本願発明は,モノクロ処理モードにおいて,カラー画像データをモノクロ画像を表わすように,画像データの色差成分を所定の値に固定させ,所定の値に固定された色差成分と輝度成分とを圧縮符号化処理するものである。そして,ここで処理に対象とされる「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」は,色差成分の値が0になることがあるとしても,常に0ということはなく,0以外の数値を採ることが予定されている。以上のような本願発明の意義は,前記第3,1(2)の本件補正後の請求項1に基づき十分に認定できるものである。 これに対し,前記3で認定した刊行物1発明の意義によれば,刊行物1発明においては,カラーモードと白黒モードがあり,白黒モードでは,白黒画像を対象としているから,本来色成分(Cb,Cr)は存しないものである。もっとも,前記3で述べたように,「読み取るスキャナの光学系の特性やセンサ類の位置ずれによる色ずれのために,Y,Cb,Cr変換後の色成分が完全に“0”に成らないことがあり,原稿が白黒画像であるにもかかわらず,符号データに色成分が含まれること」があるが,これは,本来含まれてはならないものが含まれるのであって,本来含まれることが予定されていないものである。 したがって,本願発明の「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」は,色差成分が0以外の数値を採ることが予定されているのに対し,刊行物1発明の白黒モードにおいては,「Y,Cb,Cr」は,本来色成分を含むことが予定されていない。 そして,上記(1)のとおり,審決は,「モノクロ画像を表すように処理して出力させるモノクロ処理モードを選択すると,色差成分を所定の値に固定させること」を本願発明と刊行物1発明の一致点と認定しているのであるから,その対象となる「画像データ」に上記のような相違点があることは,本願発明と刊行物1発明の相違点として認定すべきである。 なお,刊行物1発明においては,カラーモードの場合は,「Y,Cb,Cr」は,輝度成分及び色度成分を含むから,この場合は,刊行物1発明の「Y,Cb,Cr」と本願発明の「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」との間に上記の刊行物1発明の白黒モードについて述べたような相違はない。しかし,刊行物1発明のカラーモードにおいては,色差成分を所定の値に固定させることはないから,「色差成分を所定の値に固定させること」を本願発明と刊行物1発明の一致点と認定することはできない。本願発明のモノクロ処理モードと刊行物1発明の白黒モードを対比し,色差成分を所定の値に固定させる点が一致していると認定する以上,上記のとおり「画像データ」に相違点があることは,本願発明と刊行物1発明の相違点として認定すべきであるということができる。 (3)以上のとおり,本願発明の「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」と刊行物1発明の「Y,Cb,Cr」との対比においては,「画像データ」であることは共通するが,本願発明のモノクロ処理モード(刊行物1発明における白黒モード)において,本願発明の「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」は,色差成分が0以外の数値を採ることが予定されている「カラーのデータ」であるのに対し,刊行物1発明の「Y,Cb,Cr」は,本来色成分を含むことが予定されていない「白黒のデータ」であることを相違点とすべきであったということができる。 (4)そして,審決の「刊行物1発明の『R,G,BをYとCb,Crとに分離した後に圧縮符号化を行う符号化装置』は,本願発明でいう『カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データを圧縮符号化して出力する画像データ圧縮符号化装置』に相当する。」(8頁下2行〜9頁2行)との認定,「本願発明の『蓄積手段』は,…その機能を上位概念でとらえれば,『カラー画像データを各成分毎の画像データに,それぞれ所定のブロックに分割して出力するブロック分割手段』といい得るものであるから,この点においては,刊行物1発明の『Y,Cb,Crを,それぞれ8×8画素ブロックに分割して出力するブロック分割手段』と相違しない。」(9頁19行〜26行)との認定は,いずれも本願発明の「カラー画像を表わす輝度成分および色差成分を含むカラー画像データ」が刊行物1発明の「Y,Cb,Cr」に相当するとの認定を前提とするものであって,上記(3)の相違点を考慮していない誤りがあり,その他の箇所における上記(3)の相違点を考慮しない審決の認定判断にも,いずれも誤りがある。 (5)以上のとおり,審決には一致点・相違点の認定に誤りがある以上,原告主張の取消事由1は理由があり,取消事由2について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。 なお,特許庁において再度審理されるに際しては,周知例として本件訴訟段階になって初めて提出された前記乙2(特開平8-32997号公報)等の他の刊行物を引用例とすることを含め,改めて本願発明の進歩性等について判断されるべきものと考える。 5結論よって,原告の本訴請求を認容することして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 澁谷勝海 |