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関連審決 無効2007-800005
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 反復(反復可能性) /  技術的思想 /  物の発明 /  方法の発明 /  製造方法 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  登録実用新案 /  援用権(援用) /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正明細書 /  新たな無効理由 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10331号 審決取消請求事件
原告参 天 製薬株式会社
訴訟代理人弁護 士岡田春夫
同 小池眞一
訴訟代理人弁理 士北村修一郎
同 山崎徹也
同 音野太陽
同 中辻敏春
被告千 寿 製薬株式会社
訴訟代理人弁理 士高島一
同 谷口操
同 土井京子
同 鎌田光宜
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/10/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は,原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2007-800005号事件について平成19年8月21日にした審決のうち,「特許第3694446号の請求項1ないし9に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「開口点眼容器及びそれの製造方法」とする特許第3694446号(平成12年8月11日出願,平成17年7月1日登録。以下,この特許権に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成19年1月11日,特許庁に対し,本件特許について無効審判(無効2007-800005号事件)を請求し,原告は,平成19年4月2日,訂正請求をした(以下,この訂正を「本件訂正」という。)。
特許庁は,平成19年8月21日,「訂正を認める。特許第3694446号の請求項1〜9に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は平成19年8月31日に原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件訂正後の特許明細書(甲21の2。以下「本件訂正明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし9の各記載は,次のとおりである(以下,各請求項に係る発明を項番号に対応して,「本件発明1」のようにいい,これらを総称して「本件発明」という場合がある。)。
「【請求項1】ブロー成形又は真空成形と同時に液体が密封状態で充填されている熱可塑性材料製の容器本体の先端部に,前記容器本体の先端部が加熱された状態で,凸状成形型によって容器軸線方向から圧接され形成される先端側ほど内径が大となる有底円錐状の凹部を備え,この凹部の底面に,針状成形型を容器軸線方向から圧接して貫通形成することにより,前記容器本体から押出される液滴量を設定量に制御可能な小径の注液孔を備え,さらに,前記凸状成形型による成形時,および,前記針状成形型による成形時の少なくとも何れか一方のときに,前記容器本体の注液筒部に,椀状の成形面を有する成形型により,前記凹部の外側に成形した外周面を備えた開口点眼容器。
【請求項2】ブロー成形又は真空成形と同時に液体が密封状態で充填されている熱可塑性材料製の容器本体の先端部に,前記容器本体の先端部が加熱された状態で,凸状成形型によって容器軸線方向から圧接され形成される先端側ほど内径が大となる有底円錐状の凹部を備え,この凹部は,この凹部の底面に前記容器本体から押出される液滴量を設定量に制御可能な小径の注液孔を貫通形成可能となる形状を備え,さらに,前記凸状成形型による成形時に,前記容器本体の注液筒部に,椀状の成形面を有する成形型により,前記凹部の外側に成形(判決注,審決書5頁20行以下で付記されたとおり,本件訂正明細書の特許請求の範囲の請求項2末尾の「形成」を「成形」の誤記と認める。)した外周面を備えた開口点眼容器。
【請求項3】前記容器本体には,該容器本体の凹部を密封する状態でキャップを脱着自在に螺合装着するためのネジ部が一体形成されている請求項1又は2記載の開口点眼容器。
【請求項4】前記凹部の深さが2〜7mmの範囲に構成されている請求項1,2又は3記載の開口点眼容器。
【請求項5】前記凹部の先端側の口元径が2〜4mmの範囲に構成されている請求項1,2,3又は4記載の開口点眼容器。
【請求項6】請求項1,3,4又は5記載の開口点眼容器の製造方法であって,ブロー成形又は真空成形と同時に液体が密封状態で充填されている容器本体の先端部に,前記凹部を成形する凸状成形型,及び,前記注液孔を形成する針状成形型を容器軸線方向から圧接し,さらに,前記凸状成形型による成形時,および,前記針状成形型による成形時の少なくとも何れかのときに,椀状の成形面により前記容器本体の注液筒部の外周面を成形する開口点眼容器の製造方法
【請求項7】請求項2記載の開口点眼容器の製造方法であって,ブロー成形又は真空成形と同時に液体が密封状態で充填されている容器本体の先端部に,前記凹部を成形する凸状成形型を容器軸線方向から圧接し,さらに,前記凸状成形型による成形時に,椀状の成形面により前記容器本体の注液筒部の外周面を成形する開口点眼容器の製造方法
【請求項8】少なくとも前記凸状成形型で成形される部位を,成形前に加熱手段で座屈しない温度に加熱する請求項6又は7記載の開口点眼容器の製造方法
【請求項9】前記凸状成形型と針状成形型とが一体形成されている単一の成形型を用いて,容器の先端部に凹部と注液孔とを成形する請求項6記載の開口点眼容器の製造方法。」3 審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。
要するに,?@本件発明1ないし3は,実願昭50-56101号(実開昭51-138446号)のマイクロフィルム(甲1)に記載された開口点眼容器に係る物の発明(以下「甲1発明A」という。),特開平9-314649号公報(甲9)に記載された発明(以下「甲9発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,?A本件発明4及び5は,甲1発明A,登録実用新案第3056117号公報(甲5)に記載された発明(以下「甲5発明」という。),甲9発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,?B本件発明6ないし9は,甲1に記載された開口点眼容器の製造方法に係る発明(以下「甲1発明B」という。),特許第2896770号公報(甲6)に記載された発明,甲9発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,本件発明1ないし9は,いずれも特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであって,同法123条1項2号に該当するから無効とする旨判断した。
審決は,上記判断をするに際し,本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点を次のとおり認定した。
[一致点]「液体が注入されている合成樹脂製の容器本体の先端部に有底の凹部を備え,この凹部の底面に,針状成形型を容器軸線方向から圧接して貫通形成された,前記容器本体から液滴が押出される小径の注液孔を備え,さらに,前記容器本体の注液筒部における前記凹部の外側に外周面を備えた開口点眼容器。」[相違点](相違点1a)合成樹脂製の容器本体に関し,本件発明1は,ブロー成形又は真空成形された熱可塑性材料製のものであるのに対し,甲1発明Aは,そのようなものであるか否か明らかではない点。
(相違点2a)容器本体への液体の注入に関し,本件発明1では,ブロー成形又は真空成形と同時に密封状態で充填しているのに対し,甲1発明Aでは,完全に密封された容器本体へ,すなわち,容器本体の成形後に液体を注入している点。
(相違点3a)容器本体の先端部に備えられた凹部の形成について,本件発明1では,容器本体の先端部が加熱された状態で,凸状成形型によって容器軸線方向から圧接され形成されるのに対し,甲1発明Aでは,どのように形成しているのか不明である点。
(相違点4a)容器本体の先端部に備えられた有底の凹部の形状が,本件発明1では,先端側ほど内径が大となる円錐状であるのに対し,甲1発明Aでは,そのような形状であるのか否か明らかではない点。
(相違点5a)液滴が押出される小径の注液孔について,本件発明1では,その押出される液滴量を設定量に制御可能であるのに対し,甲1発明Aでは,その点は明示されていない点。
(相違点6a)容器本体の注液筒部における凹部の外側の外周面を,本件発明1では,凸状成形型による成形時,及び,針状成形型による成形時の少なくとも何れか一方のときに,前記容器本体の注液筒部に,椀状の成形面を有する成形型により成形しているのに対し,甲1発明Aでは,どのように成形しているのか不明である点。
当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,(1)本件発明1ないし9と甲1発明A又はBとの一致点の認定の誤り・相違点の看過(取消事由1),(2)本件発明1ないし9の容易想到性の判断の誤り(取消事由2),(3)手続の違法(取消理由3)がある。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)ア 本件発明1と甲1発明Aとの一致点の認定の誤り・相違点の看過(ア) 本件発明1における「有底」の「凹部」について審決は,本件発明1の「有底」の「凹部」と,甲1発明Aの「有底の凹入部」を同一としているが,次のとおり,その技術的意義において相違する。
すなわち,本件発明1における「有底」の「凹部」は,「ブロー成形又は真空成形・・・されている熱可塑性材料製の容器本体の先端部に,前記容器本体の先端部が加熱された状態で,凸状成形型によって容器軸線方向から圧接され形成される」という製法,及び「小径の注液孔」と協働して「前記容器本体から押出される液滴量を設定量に制御可能」にするという機能により特定される。そして,本件発明1では,「有底」の「凹部」は,容器本体の厚みを越えて「容器本体の内側に延出する形状」を有することにより(甲17),「凹部の周囲に形成される容器内の環状の空間(液溜まり)に表面張力によって溜まる液によってその凹部の先端部,つまり注液孔が覆われ,容器を手で持った際に生じる圧力でその液溜まりの液が注液孔を通じて飛び出すといった問題」(甲21の2,段落【0011】)を解決することができる。
これに対し,甲1発明Aの「有底の凹入部」では,単に「底(4)を肉薄とし」(甲1,明細書1頁13行),「容器本体の厚みの範囲で深さを有する有底の凹入部の形状」を有するにすぎないから,液の飛び出しを防止するという課題を解決する効果を奏しない。
以上のとおり,本件発明1では,「容器本体の内側に廷出する構造」であるのに対し,甲1発明Aでは,容器先端部の合成樹脂の厚みの範囲内で設けられた凹みである点で,両者の凹部の形状において相違がある。
(イ) 本件発明1における「針状成形型」について審決は,本件発明1の「針状成形型」と,甲1発明Aの「注入針」とを同一としているが,両者には次のとおり相違点がある。
本件発明1の「針状成形型」は,「凹部」と協働して「液滴量を設定量に制御可能」にする機能を奏する「小径の注液孔」を形成し得る技術手段であり,薬液の注入段階と「注液孔」の形成段階とを分離することにより,「液滴量を設定量に制御可能」にする「小径の注液孔」を設けることが可能である。本件訂正明細書(甲21の2)の段落【0019】においては,「前記注液口6aの口径(口元径)は,薬液の液性(表面張力,粘度)に合わせてφ2.0mm〜φ4.0mmの範囲で調整する」と記載され,「開口点眼容器」としての技術常識に基づいた「凹部」の先端側での口径を説明する一方で,「小径の注液孔」を形成する「針状成形型」に関しては,同段落【0020】において,「φ0.1mm〜φ0.8mmの範囲の径の針を用いて形成する。」と記載され,従来技術(甲1発明A)の「容器内に薬液を注入する」「注入針」とは異なる点を開示している。
これに対し,甲1発明Aにおける「注入針」は,「注入針(5)の先を容器細頸部(2)頂上の凹入部(3)にいれ,凹入部底の肉薄部を突き刺し,容器内に薬液を注入する」(甲1,明細書1頁18行〜20行)と記載されているとおり,事後的に薬液を注入する手段である。そして,甲1発明Aにおいては,事後的に密封容器内に薬液を充填するために充填時に密封容器内の空気の抵抗を大きく受けるという問題点があるほか,弾性の大きい合成樹脂製の密封容器であるために注入針を突き刺したときに樹脂の弾性により注入針が孔と密着して空隙のない状態となることから注入針に別に空気抜きの中空部分(側溝又は環状溝)を設ける必要があり,注入針は大径とならざるを得ないという技術的課題がある。
以上のとおり,本件発明1では,「小径の注液孔を形成する」工程で使用される「針状成形型」であるのに対して,甲1発明Aでは「薬液(例えば目薬)充填用注入針」という点で相違がある。
(ウ) 本件発明1の「小径の注液孔」について審決は,甲1発明Aの「孔」が本件発明1の「小径の注液孔」に相当すると認定しているが,両者は,次のとおり相違する。
すなわち,本件発明1の「小径の注液孔」は,「有底円錐状の凹部」と協働して「前記容器本体から押出される液滴量を設定量に制御可能」とする技術的意義を有する(請求項1。甲21の2,段落【0009】,段落【0055】)。
これに対し,甲1発明Aにおける「孔」は,事後的に「薬液」を「注入する」「注入針」を「突き刺す」ことによって形成され,第3図ないし第5図に記載される凹部の底面を幅広く開口している形状を呈している。
以上のとおり,大径(甲1発明A)と小径(本件発明1)という相違点がある。
イ本件発明2ないし9と甲1発明A又はBとの相違点の看過(一致点の認定の誤り)本件発明2ないし5と甲1発明Aには,上記アと同様の相違点の看過又は一致点の認定の誤りがある。また,本件発明6ないし9と甲1発明Bとは,上記アと同様の相違点の看過又は一致的の認定の誤りがある。
(2) 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)ア 本件発明1と甲1発明Aとの各相違点の容易想到性判断について(ア) 相違点1aについて審決は,相違点1aについて,合成樹脂製の容器の製造において,該容器を熱可塑性材料を用いてブロー成形又は真空成形の方法により成形することは,周知の技術であるから,甲1発明Aにおける容器本体の成形に際しても,上記周知技術を採用して相違点1aに係る本件発明1の発明特定事項とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることであると判断している。
しかし,本件発明1は,熱可塑性材料製の点眼容器本体の先端部を加熱してから,これに凸状成形型を軸線方向から圧接するという新規の製法により,ブロー成形又は真空成形を前提とした精密な二次加工による「凹部」を得ることができるのに対し,甲1発明Aは,そのような「凹部」を形成する一体的な技術事項を有しておらず,甲1発明Aから本件発明1を容易に想到することはできないから,上記審決の判断は誤りである。
(イ) 相違点2aについて審決は,相違点2aについて,最終的な製品としての「開口点眼容器」という物を特定する事項としては,実質的な相違点には当たらない旨判断している。
しかし,本件発明1は,「ブロー成形又は真空成形」に特有の容器本体の製造に際して,「液体を密封状態で充填」してあることを前提にした発明であるがために,液体の注入口とは異なって,「液滴量を設定量に制御可能」な「小径の注液孔」を形成することを可能とするものであり,甲1発明Aとは異なる技術的課題を前提とした技術的思想を有するから,審決の上記判断は誤りである。
(ウ) 相違点3aについて審決は,相違点3aについて,点眼容器と同様の小型の容器に後加工を施す甲9に開示された技術を踏まえ,周知の容器成形技術を適用することにより,相違点3aに係る本件発明1の発明特定事項に想到することが,当業者にとって容易である旨判断している。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
甲9に記載された製造方法,すなわち,加熱された「丸め金型20」により容器本体の「口部3aの先端部」を沿わせて所望の形状を得るという製造方法を,本件発明1の容器本体に採用しても,液体が先端部に集まるため適用することはできず,また,「小径の注液孔」と協働し「液滴量を設定量に制御可能」にする「有底円錐状の凹部」を形成することもできない。また,浣腸容器に関する甲9発明において「丸め金型」を採用する目的は,壊れない,人体を傷つけない,保存時に薬液が外部に漏れない,という目的があるのに対して,本件発明1の点眼容器においては容器を人体に入れたりすることはなく,上記目的のために「丸め金型」を採用しようとする動機付けがない。
また,審決が周知技術とする「ブロー成形された容器の一部を加熱し,そこに特定形状の型を圧接させる後加工によって容器を所望の形状に成形する」との技術的事項(甲27,28)を,点眼容器の先端部という二次加工し難い精密な流路に関する領域に,かつ,「容器本体から押出される液適量を設定量に制御可能」にする加工精度を要すべき工程に採用することは困難である。
(エ) 相違点4aについて審決は,相違点4aについて,注液部として機能する開口点眼容器先端の有底の凹部形状を,先端側ほど内径が大となる円錐状とすることは,実願昭58-147404号のマイクロフィルム(実開昭60-54544号。甲3)や特開平3-212383号公報(甲4)にも記載されているように周知の技術であり,これを,甲1発明Aにおける開口点眼容器先端の凹部の形成においても適用して,上記相違点4aに係る本件発明1の発明特定事項とすることは,当業者であれば容易に想到し得る旨判断している。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
すなわち,本件発明1においては,「熱可塑性材料製の容器本体の先端部に,前記容器本体の先端部が加熱された状態で,凸状成形型によって容器軸線方向から圧接され形成」されることにより「有底円錐状の凹部」は,必然的に「容器本体の内側に延出する形状」を有することとなる。そして,「小径の注液孔」と協働して「前記容器本体から押出される液滴量を設定量に制御可能」な「加工精度」を有し,かつ,「凹部の周囲に形成される容器内の環状の空間(液溜まり)に表面張力によって溜まる液によってその凹部の先端部,つまり注液孔が覆われ,容器を手で持った際に生じる圧力でその液溜まりの液が注液孔を通じて飛び出すという問題」解決することができる。
これに対して,甲3及び甲4においては,凹部形状は,広い意味での機能面の類似性を除けば,製法の違いによって得られる具体的な形状も異なっており,甲1発明Aに適用することは想定できない。
(オ) 相違点5aについて審決は,相違点5aについて,甲1発明Aも,本件発明1と同じく,容器本体の注液孔から液滴を押し出す開口点眼容器であり,そのような点眼容器としての使用目的や機能にかんがみれば,甲1発明Aの注液孔も,程度の差こそあれ,本件発明1と同様に,容器本体から押出される液滴量が所望の設定量に制御可能となるような構成を有していることは当然のことであり,実質的に相違しているとはいえない旨判断している。
しかし,審決は,本件発明1の「有底円錐状の凹部と小径の注液孔」という構成を,「容器本体から押出される液滴量を設定量に制御可能」というに係る機能ではなく,単なる作用効果に関する記載と判断しているという誤りがある。
(カ) 相違点6aについて審決は,相違点6aについて,開口点眼容器は,その先端部を人間の眼球に近接させて使用するものであるから,安全性を考慮し,該先端部を,容器製造時のバリ(以下,カタカナで表記する。)や凹凸等が存在しないような,極力滑らかな曲面で形成すべきことは自明の技術事項であり,一方,容器成形後に,バリなどの不要な部分を除去するために,所望の成形面を有する成形型を用いて容器の所定箇所を成形することは,例えば,甲6ないし8にも記載されるように周知の技術であるから,甲1発明Aの注液筒部においても,上記の自明な技術事項を考慮しつつ,該周知の技術を適用して上記相違点6aに係る本件発明1の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得ることである旨判断している。
しかし,審決の判断には,以下のとおり誤りがある。
すなわち,本件発明1では,「凸状成形型」又は「針状成形型」において「椀状の成形面」を設けるとの特有の構成を採用するものであり,これにより,単にバリを取るのみではなく,「有底円錐状の凹部」を含む容器本体の先端部の形状の加工精度を向上させる効果がある。本件審決の上記判断は,単にバリのない外周面を得る効果が容易であるとしているのみであるから,誤りである。
イ 本件発明2ないし9の容易想到性の判断の誤りについて本件発明2ないし9についての容易想到性に関する審決の判断には,前記アで述べたと同様の誤りがある。
(ア)また,本件発明4については,以下のとおり容易想到性判断の誤りがある。
すなわち,「有底円錐状の凹部」の深さ方向での「2〜7mm」との構成は,甲5発明により,容易想到であるとした審決の判断には,以下の誤りがある。甲5発明は,厚みのコントロールが容易な射出成形によるものであるから,転用が困難であり,また,有底円錐状の凹部が「容器本体の内側に延出する構造」として,周囲に環状の空間(液溜まり)を形成して点眼液の飛び出し防止効果を奏するから,容易に想到できる構成ではない。
(イ)また,本件発明6についても,以下のとおり容易想到性判断の誤りがある。すなわち,審決が,薬液の注入の経時的要素を抜きにして容易想到性の有無を論ずることは,「凹入部」形成の工程を一致点として認定した判断と矛盾している。
(3) 取消事由3(手続の違法性)審決は,相違点3aに係る容易想到性に関して,特開昭54-91566号公報(甲27)及び特開昭61-192539号公報(甲28)を挙げて,「容器の成形において,一旦ブロー成形された容器の一部を加熱し,そこに特定形状の型を圧接させる後加工によって容器を所望の形状に成形すること」を周知技術であると認定し,容易想到と判断した。しかし,上記の各刊行物は,職権によるものであり,また,口頭審理期日後の審決においてはじめて無効理由として指摘されたものである。したがって,上記手続は,特許法134条2項又は153条2項等に基づく答弁の機会を与えなかった手続上の瑕疵がある。
2 被告の反論(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)の主張に対しア 本件発明1に係る主張に対し(ア) 「有底」の「凹部」に係る主張に対し原告は,本件発明1の凹部は「容器本体の内側に延出する形状」を有し,「小径の注液孔」と協働して「前記容器本体から押出される液滴量を設定量に制御可能」にする機能を有する旨主張する。しかし,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であり,失当である。
(イ) 「針状成形型」に係る主張に対し甲1発明Aの容器も,本件発明1の容器(甲21の2,段落【0055】)と同様に,容器の側壁を押すことによって薬液が滴下され,その押圧時に,薬液が連続して流出することがないように注液孔の大きさが設計されること,また,薬液中の薬物の1回投与量との関係で,1滴量が適量となるように,注液孔の大きさがあらかじめ設計されることは,当業者の技術常識である。したがって,甲1発明Aの「注入針」が,本件発明1の「針状成形型」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
(ウ) 「小径の注液孔」に係る主張に対し本件発明1の「小径の注液孔」の技術的意義を有するとする原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。甲1発明Aにおいては,薬液が「孔から外部に押し出され」るから(甲1,明細書2頁5行),当該孔が「小径の注液孔」に相当するとした審決に誤りはない。
イ 本件発明2ないし9に係る主張に対し本件発明2ないし9についても,本件発明1に示したと同様と理由により,審決の一致点の認定に誤り,及び相違点の看過はない。
(2) 取消事由2(容易想到性の判断の誤り)に対しア 相違点1aに係る主張に対し成形方法のいかんによらず,本件発明1における「凹部」と甲1発明Aにおける「凹入部」とに相違はないとした審決の判断に誤りはない。
イ 相違点2aに係る主張に対し本件発明1と甲1発明Aは,ともに液体が既に注入されている「開口点眼容器」に係る発明であり,その液体注入時期の相違が,両者の形状構造に明確な違いを与えるものでない以上,最終的な製品として何らの区別を与えるものではないとした審決の判断に誤りはない。
ウ 相違点3aに係る主張に対し「一旦ブロー成形された容器の一部を加熱し,そこに特定形状の型を圧接させる後加工によって容器を所望形状に成形すること」は,周知技術である(甲27,28)。甲1発明Aの凹部の形成に際しても,上記周知技術の適用によって,凸状成形型を圧接して形成することに想到することは,当業者にとって容易である。審決の判断に誤りはない。
エ 相違点4aに係る主張に対し円錐状の凹部に係る原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
また,原告は,甲3や甲4に記載された形状は,本件発明1とは異なる製法によるものであるから,甲1発明Aに適用することは想定できない旨主張するが,「点眼容器の注液部として機能させる上での凹部の望ましい形状は,該注液部の成形方法の相違により左右されるものではない。」との審決の判断に誤りはない。
さらに,原告は,甲5発明の凹部は,射出成形によって製造されたものであるから,ブロー成形又は真空成形により得られた容器に適用することは技術的に困難である旨の主張をするが,点眼容器の注液部として機能する凹部の望ましい形状は,当該注液部の成形方法のいかんによって変わるものではないから,甲5に望ましい形状として記載された凹部の深さを,ブロー成形又は真空成形容器の凹部として作用させることは容易である。
オ 相違点5aに係る主張に対し本件発明1の注液孔を特定する事項は,「針状成形型を圧接する」という製法と,「液滴量を設定量に制御可能」という機能による特定以外にはなく,「特有の形状」が特定されているわけではないから,原告の主張は理由がない。また,甲1の容器も,本件発明1の容器も,その容器の側壁を押すことによって薬液が滴下され,その押圧時に,薬液が連続して流出することがないように注液孔の大きさが設計され,また,薬液中の薬物の1回投与量との関係で,1滴量が適量となるように,注液孔の大きさがあらかじめ設計されることは,当業者にとって常識であるから,実質的な相違点には当たらない旨の審決の判断に誤りはない。
カ 相違点6aに係る主張に対し成形に伴うバリや変形痕の処理手段として,当該部位を加熱後,所定形状(最終形状)の成形型を当接するか,加熱手段内蔵の成形型を当接して,バリや変形痕を除去すると同時に所定形状に整える方法は,当業者に周知の技術である(甲6ないし9)から,略椀状の最終形状に対応する「椀状の成形面を有する成形型により,前記凹部の外側に成形した外周面」を形成する点は,甲6ないし9記載の技術に基づいて当業者が容易に実施し得る。また,当該外周面を整形するための処理を,他の部分の成形加工(凸状成形型による成形,又は針状成形型による成形)と同時に実施するか,別々に実施するかは,設計変更の域を出ない。審決の判断に誤りはない。
キ 本件発明2ないし9に係る主張に対し本件発明2ないし9についても,本件発明1に示したと同じく,審決の容易想到性の判断に誤りはない。
(3) 取消事由3(手続の違法性)に対しブロー成形後に凹部に見合う凸部を有する成形型を圧接して小径の凹部を形成する技術事項が周知技術に属することは,被告が既に申し立て,その理由を証拠をもって説明しているから(審判請求書・甲19,20頁下から7行〜21頁19行,無効審判の口頭審理陳述要領書・甲25,8頁4行〜12行),審決時においてその周知技術に関する新たな証拠が追加されても,「当事者が具体的に主張していなかった新たな無効原因」を審決の理由にする場合には当たらない。そうすると,前記追加証拠に関連して,審判長が,原告に対し,特許法134条2項,同153条2項等に基づく答弁の機会等を与えなかったことに違法はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り・相違点の看過)について当裁判所は,審決には,原告主張に係る本件発明1と甲1発明Aとの一致点の認定の誤り及び相違点看過はない(同様に,本件発明2ないし9と甲1発明との一致点の認定及び相違点の看過もない)と判断する。その理由は以下のとおりである。
(1) 本件発明1についてア 本件発明1の特許請求の範囲の記載同記載は,前記第2の2のとおりである。
「(請求項1)ブロー成形又は真空成形と同時に液体が密封状態で充填されている熱可塑性材料製の容器本体の先端部に,前記容器本体の先端部が加熱された状態で,凸状成形型によって容器軸線方向から圧接され形成される先端側ほど内径が大となる有底円錐状の凹部を備え,この凹部の底面に,針状成形型を容器軸線方向から圧接して貫通形成することにより,前記容器本体から押出される液滴量を設定量に制御可能な小径の注液孔を備え,さらに,前記凸状成形型による成形時,および,前記針状成形型による成形時の少なくとも何れか一方のときに,前記容器本体の注液筒部に,椀状の成形面を有する成形型により,前記凹部の外側に成形した外周面を備えた開口点眼容器。」イ 本件訂正明細書の内容本件訂正明細書の記載によれば,本件発明1(本件発明2ないし9も同様)について,次の詳細な説明がされている。
本件発明1(本件発明2ないし9も同様)は,医療用の開口点眼容器に関するものである。
従来は,容器本体,中栓部材,キャップを射出成形により製造していたために部材別の金型製作や,部材ごとの洗浄・滅菌により製造コストが高くなっていたことから,その製造コストを下げるために,ブロー成形又は真空成形をすると同時に液体を充填・封入した一体成形による開口点眼容器を使用するようになったものの,その注液孔をキャップに形成した針状突起で貫通形成していたことから,注液孔の形状や大きさが不均一となり容器本体から押出される液適量が変動してしまうという新たな課題が発生していたため,これを解決しようとした。
その手段として,開口点眼容器を請求項1で特定された構成を備えるものとすることにより,ブロー成形や真空成形による成形と同時に液体が密封状態で充填されている容器本体を利用し,その先端部に,先端側ほど内径が大となる有底円錐状の凹部と,容器本体から押出される液適量を設定量に制御するための小径の注液孔とを直接形成することができるようにしたことから,容器本体を製造するための金型が少なくて済むとともに,有底円錐状の凹部と小径の注液孔の存在により,一定量の液体を確実に滴下投与することができる。
しかも,成形型を容器軸線方向から圧接するだけで,バリのない外周面と有底円錐状の凹部,小径の注液孔を,多数の容器本体を移送しながら同時に形成することが可能となり,製造コスト面での優位性を損なうことなく,常に一定量の液体を確実に滴下投与することができる開口点眼容器を得ることができる。
(2) 甲1についてア 甲1の記載「2.実用新案登録請求の範囲内部を無塵もしくは無菌状態にした弾性の大きい内部空虚の合成樹脂製密封容器本体の上部を細頸部に形成し,この細頸部頂上に凹入部を設けこの凹入部の底を肉薄とした薬液等の容器」(甲1,明細書1頁4行〜8行)「本考案は内部を無塵もくしは無菌状態にした弾性の大きい内部空虚の合成樹脂製密封容器本体(1)の上部を細頸部(2)に形成し,この細頸部頂上に凹入部(3)を設け,この凹入部の底(4)を肉薄とした薬液等の容器にかかるものである。本考案容器は第1図に示すように完全に密封されている。この容器を例えば製薬会社に送り,そこで内部が無塵状態だけの場合は滅菌を施こし,薬液(例えば目薬)充填用注入針(5)の先を容器細頸部(2)頂上の凹入部(3)に入れ,凹入部底の肉薄部に突き刺し,容器内に薬液を注入する。」(第3図参照)(甲1,明細書の1頁10行〜2頁1行)「また薬液は,容器を逆さにして容器の側壁を押すことにより,注入針で明けられた孔から外部に押し出され,孔が中心から多少ずれていてもこの凹入部内壁によつて点滴落下の方向が規正される。薬液が目薬の場合,第4図のように正確に所要の箇所へ落下する。」(甲1,明細書2頁3行〜8行)「なお,図示のように容器の細頸部(2)と容器本体との間の外周にねじ部(6)を設けると,蓋(7)のねじをそこにねじ込んだとき,蓋の底部に設けた突出部(8)が容器細頸部頂上の凹入部に一杯に密嵌するようにする。」(甲1,明細書2頁13行〜17行)また,第1図及び第2図には,容器本体(1)の先端部に,該容器本体(1)の軸線方向上方へ開口する有底の凹入部(3)及びその外側に外周面が形成されている態様が図示されている。第3図には,充填用注入針(5)を,容器本体(1)の軸線方向から凹入部の底(4)に貫通させている様子が開示されている。さらに,第4図には,逆さにされた容器本体(1)の先端から,液滴が人間の眼球へ向けて滴下する様子が図示されている。
イ 甲1記載の発明の内容上記甲1によれば,審決が認定したとおり,以下の発明が記載されている。「弾性の大きい合成樹脂製の容器本体の細頸部頂上に有底の凹入部を備え,完全に密封された容器本体の前記凹入部の底に容器本体の軸線方向から注入針を突き刺し貫通させることにより該容器本体内に薬液が注入され,該薬液は,容器本体を逆さにしてその側壁を押すことにより,注入針で明けられた孔から外部に押し出されるとともに,前記凹入部の外側には外周面が形成されており,また,上記細頸部と容器本体との間の外周にはねじ部が設けられ,蓋のねじをそこにねじ込んだとき,蓋の底部に設けた突出部が細頸部頂上の凹入部に一杯に密嵌するようにされている開口点眼容器。」(甲1発明A)(3) 審決のした本件発明と甲1発明の一致点の認定の当否ア 本件発明1と甲1発明Aの一致点について本件発明1の「有底」の「凹部」は,容器本体の先端部に設けられるものであって,その底面に注液孔を備える部分であり,甲1発明Aにおける「有底の凹入部」も,容器本体の先端部である細頸部頂上に設けられるものであって,その底に薬液を抽出する孔を備える部分であるから,本件発明1の「有底」の「凹部」は,甲1発明Aにおける「有底の凹入部」に相当する。
また,本件発明1における「針状成形型を容器軸線方向から圧接して貫通形成」され,「液滴」を「容器本体から押出」する「小径の注液孔」は,点眼用器内に収容された液体を滴下させるものである。これに対し,甲1発明Aにおける容器本体の軸線方向から注入針を突き刺し貫通」させた「注入針で明けられ」,「容器本体を逆さにしてその側壁を押すことにより」「薬液」を「外部に押し出」す「孔」も,容器本体に収容された薬液を滴下させるものであるから,本件発明1における「小径の注液孔」は,甲1発明における「孔」に相当する。
そうすると,その他の各構成における本件発明1と甲1発明Aの対応関係から見て,本件発明1と甲1発明Aは,共に目薬を正確に滴下するものであって,「液体が注入されている合成樹脂製の容器本体の先端部に有底の凹部を備え,この凹部の底面に,針状成形型を容器軸線方向から圧接して貫通形成された,前記容器本体から液滴が押出される小径の注液孔を備え,さらに,前記容器本体の注液筒部における前記凹部の外側に外周面を備えた開口点眼容器。」という点において一致する。
したがって,審決における一致点の認定誤りはなく,相違点の看過もない。
イ 本件発明2ないし9と甲1発明A又はBの一致点について本件発明2ないし9と甲1発明A又はBとの一致点についても,本件訂正明細書並びに甲1の明細書及び図面の各記載に照らし,本件発明1と同様に,審決の認定に誤りはなく,相違点の看過はない。
(4) 原告の主張に対しア 「有底」の「凹部」に係る主張に対し原告は,本件発明の「有底」の「凹部」は,「ブロー成形又は真空成形により成形された容器本体に,加熱された状態で凸状成形型を圧接して形成する」という製法と,「液滴量を設定量に制御可能」という機能により特定されたものなので,必然的に「容器本体の内側に延出する形状」を有することになり,甲1の「容器本体の厚み範囲で深さを有する有底の凹入部の形状」と形状,機能が異なると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
まず,本件訂正明細書の特許請求の範囲(請求項1)に,「有底」の「凹部」が,「容器本体の内側に延出する形状」であるとの限定が付されているわけではない。また,技術的観点から考察すると,ブロー成形等によって形成された容器に凸状成形型を圧接する場合に,凹部が容器の内側まで延出するか否かは,容器の肉厚,凹部の大きさ,あるいは成形型の形状などにより異なること,液適量は抽出孔の大きさにより異なることに照らすならば,凹部が容器本体の内側に延出しない限り,液適量の制御が不可能であるということはできないから,本件発明1における特許請求の範囲の「有底の凹部」の形状を「容器本体の内側に延出する形状」に限定して解釈することもできない。以上のとおりであり,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づいたものではないから,その主張自体失当である。
イ 「針状成形型」に係る主張に対し原告は,甲1発明Aの「注入針」は,「事後的に薬液を注入する手段」であって,「液滴量を設定量に制御可能」な機能を有する「小径の注液孔」を形成する本件発明1の「針状成形型」とは相違すると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,甲1発明Aの容器も,本件発明1の容器における(甲21の2の段落【0055】)と同様に容器の側壁を押すことによって薬液が滴下され,その押圧時に,薬液が連続して流出することがないように注液孔の大きさが設計されること,また,薬液中の薬物の1回投与量との関係で,1滴量が適量となるように,注液孔の大きさがあらかじめ設計されることは,当業者の常識といって差し支えない。甲1発明Aにおける「注入針」が,「液滴量を設定量に制御可能」な「小径の注液孔」を形成するのに適した直径に設計されていることは自明である。そうすると,甲1発明Aにおける「注入針」は,単に薬液を事後的に注入する手段であるばかりでなく,あらかじめ設計された「小径の注液孔」を形成し,型付けするための治具でもあるといえる。
ウ 「小径の注液孔」に係る主張に対し原告は,本件発明1の「小径の注液孔」は「有底円錐状の凹部」と協働して液適量を設定量に制御可能なものであって,そのために「針状成形型」により成形したものであり,甲1発明Aの事後的に薬液を注入する注入針を突き刺すことによって形成された,液適量を適量に制御できない大径の「孔」とは,その径の大きさなども含めて異なると主張する。
しかし,前記説示のとおり,本件発明1における「小径の注液孔」は,点眼用器内に収容された液体を滴下させるものであり,甲1発明Aにおける「孔」も,容器本体に収容された薬液を滴下させるものであるから,本件発明1における「小径の注液孔」が,甲1発明Aにおける「孔」に相当する。
2 取消事由2(本件発明の容易想到性判断の誤り)について(1) 本件発明1の容易想到性について当裁判所は,審決には,原告主張に係る本件発明1と甲1発明Aとの主張各相違点についての判断(同様に,本件発明2ないし9と甲1発明との各相違点についての判断)に誤りはないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。
ア 相違点1aに係る主張に対し(ア) 甲9,甲6及び甲8の記載審決が副引用例として挙げた甲9並びに周知例として挙げた甲6及び8には,次の記載がある。
a甲9「【請求項1】ノズルを備えた容器本体とキヤップとからなる液体容器であって,該容器本体はそのノズル口部に内側に向かう折り返し部が設けられ,該キヤップはその内側に内芯が突設されており,該内芯にはその基部近傍に上記折り返し部に嵌合する嵌合部が設けられている液体容器の製造方法であって,上記容器本体をブロー成形により成形し,ノズルの外周面に該ノズルが変形しない程度の温度の熱風をあてることによりバリ取り仕上げ加工し,次いでノズル口部を高周波誘導加熱された金型に押し込み,該ノズル口部を滑らかな曲面に仕上げると同時に,上記折り返し部を成形することを特徴とする液体容器の製造方法。」「【0002】【従来の技術】浣腸容器のような,図13に示す液体容器1は,ノズル3を備えた容器本体2とキヤップ4とからなる。液体容器1,中でも体内に薬液などを注入する浣腸容器では,壊れない,人体を傷つけない,保存時に薬液が外部に漏れない,などの品質が要求される。特に,ノズル3の口部3aは,これらの要求が集中する部分であり,通常,人体を傷つけないように容器本体2の内部側に丸められている。
【0003】容器本体2は,通常,ポリエチレンのようなプラスチックからなりブロー成形により成形される。ブロー成形(中空成形とも言われる)とは,押出機のダイから円筒状のプラスチック溶融体(パリソンといわれる)を押出し,それを金型で挟み,片方を閉じて,もう一方から圧縮空気を吹込み,冷却・固化させて中空品をつくる方法である。上記容器本体2のブロー成形による成形に際しては,成形後,2次加工としてノズル3のパーティングライン(ブロー成形時にパリソンは二つに分割された金型で挟まれるが,得られた成形品に残った金型の分割面の跡)のバリ取り加工,及びノズル3の口部3aを容器本体2の内部側に丸める丸め加工等がなされて製品とされる。」基部を回り込み,針状体212の基部よりもやや上部にまで達するようにする(ノズル3の口部3aの差し込み開始から,口部3aの先端部が針状体212の基部を回り込み,該基部よりもやや上部にまで達するまでの時間は,短時間でありほぼ瞬時で終了する)。
b甲6「【請求項1】熱可塑性合成樹脂からなる樹脂管をブロー成形又は真空成形により樹脂成形容器を形成すると共に充填物を注入した後,容器口部をシール処理して充填物が封入された樹脂成形容器を連続的に製造する製造方法であって,本体金型(1)を閉じて押出し成形された樹脂管(3)の底部(32)をシーリングした後,本体金型(1)の上部に設けた上部開口保持装置(4)により樹脂管(3)の上部(31)を真空吸引して開口保持し,当該上部(31)の開口部にマンドレル(2)を挿入して圧縮空気を送気するか若しくは本体金型(1)の周囲から真空吸引して前記樹脂管(3)を容器(7)の形状に成形後,引続き当該マンドレル(2)から充填物(6)を容器本体部(71)に注入すると共に,充填物(6)の注入中若しくは注入後に前記上部(31)を真空吸引したままで上部開口保持装置(4)を上方に引上げて容器口部(7)となるべき上部(31)が所望する肉厚となるまで延伸し,口部スライドコア(5)で上部(31)を挟んで容器口部(72)をシーリングすると同時に成形を行う樹脂成形容器の製造方法。」「【0002】【従来の技術】従来から,液体,粉粒体などの物質は,例えばアンプルや滴壜,洗剤容器等,樹脂成形容器に充填された状態で商品として流通している。この様な商品に使用される樹脂成形容器は一般にブロー成形又は真空成形により製造され,製造工程中に充填物の充填も行って,容器の原料樹脂と充填物とから商品として流通可能な状態になるまで一貫して加工されるボトルシステムとなっている。」「【0019】図7〜図9は前記第1実施例の変形例で,(中略)ブロー成形した後充填物6を充填する。その後トリミングチャック8に移送して,上部開口保持装置4により開口延伸した樹脂管3の上部31をバリとしてキャップ部近傍をシール代75として少し残してその他の部分を取り去り(図8),次いで前記バリの残部をヒーター12により溶融してヒートシールする(図9)。(中略)」c甲8「この種の食品容器等,中空成形体は,ブロー成形によつて製造されるので,成形された中空成形体には,成形時にパリスン内に圧力流体を導入するための連通部が開口部として残る。このため,成形後の中空成形体を密閉するには,成形後の導入部を熱溶着する必要がある。」(公報1欄22行〜2欄8行)「このように,金型11,11から離型された中空成形体1は,その突出する連通部15がその突出方向と直行する交差方向に移動する加熱された板体21により,連通部15をその周囲の樹脂を移動させて閉塞し,次いでその部分を加熱軟化させた状態で,中空成形体1の当該部分の最終形状と合わせた凹部を有する押圧体23で,しかも前記板体21の移動方向と直交する交差方向に押圧するので,連通部15を閉塞する樹脂の移動が,先ずその突出部を倒すようになされ,次いで押圧体23によつて移動した樹脂を均して最終形状に合わせるように整えるので,連通部15の閉塞が迅速かつ確実に行われ,しかもそれに起因する変形痕や小突起状痕が完全に均され,中空成形体1の最終形状に正しく沿つた形状のものが得られる。」(公報4欄27行〜42行)(イ) 容易想到性の判断甲6,8及び9の記載によれば,液体を内部に収容する密閉容器をブロー成形又は真空成形により成形することは周知であるといえるから,甲1記載の容器をブロー成形又は真空成形された熱可塑性材料製のものとすることは当業者にとって容易に想到し得る。
これに対し,原告は,本件発明はブロー成形等の熱可塑性材料製の開口点眼容器において,微小領域での精密な二次加工により凹部を形成したものであり,甲1発明Aに単にブロー成形を導入しただけでは,本件発明1との一致点である「凹入部」の構成を維持することはできないし,甲1発明Aにおける肉薄の凹入部を作成するための現実的な後加工は存在しないから,単にブロー成形及び真空成形が周知であることを理由として,相違点1aに係る構成が容易想到であるとした審決の判断は,誤りである旨主張する。
しかし,「凹入部」の形成方法に関しては,相違点3aにおいて判断するとおりであり,ブロー成形による容器に型を圧接して最終形状とすることは周知であり,その際に容器の肉厚を変えることも知られていることである。「凹入部」が存在することを理由として,甲1発明Aの容器成形に,ブロー成形又は真空成形を採用することに格別の困難性があるとはいえない。
イ 相違点2aに係る主張に対し本件発明1も甲1発明Aも,液体が既に注入されている「開口点眼容器」であり,液体の注入時期により,両者の形状構造に影響を与えるものと解することはできない。したがって,この点について実質的な差異ではないとした審決に誤りはない。
これに対して,原告は,「小径の注液孔」に係る構成に相違を来すと主張する。この点は,後記の相違点5aにおいて判断するとおりの理由により,原告の主張を採用することはできない。
ウ 相違点3aに係る主張に対し(ア) 甲27及び甲28の記載審決が周知例として挙げた甲27及び甲28には,次の記載がある。
a甲27「飽和ポリエステル樹脂は製壜は,その機械的性質を高めるために通常二軸延伸させて形成する。該二軸延伸はほゞ吹込み成形と同様の方法によつて行われる」(公報1頁右下欄1〜4行)「中間素材を延伸に適する温度にまで加熱させ,これを吹込み成形用金型5内にセツトさせる。(中略)次に中間素材内に圧縮空気を吹込み膨張させると同時に押下げ棒6等で底部4を押下げて二軸延伸させる。図示例ではその押下げ棒の軸線上に圧縮空気孔7を穿設させ,その下端および側面に吹出し口8を設けてある。このようにして二軸延伸された中間素材はその外壁面を中間素材よりも高温とされた金型内壁面5aに密設して壜形状をなすこととなるが,同時に金型の熱によつて熱固定され,二軸延伸により生じた肩部および胴部における歪は該熱固定により消失する。熱固定の後,壜取出しを容易にするために金型温度を降下させて成形された壜9を取出す。型温度降下に代えて例えば壜内に冷却空気を吹込むことで変形しない程度にまで壜を冷却することも考えられる。
壜底壁を胴部等と同様な厚さにまで二軸延伸によつて薄肉化することは困難であるために,胴部に比して底壁は厚肉となり易い。」(公報2頁左上欄5行〜右上欄11行)「本発明方法では始めの熱固定に際しては底壁温度をガラス転移点温度よりも低い温度で行い,壜取出し後,底壁を再度加熱させて凸状又は凹状の底壁形成用金型15,16に圧接させることで胴部とほゞ同一肉厚にまで延伸させて熱固定することとした。」(公報2頁左下欄4行〜9行)b甲28「2.特許請求の範囲まず,ブロー成形によりボトルを一次成形し,次いで,該ボトルの一部を適度に加熱すると共に必要な形状に加圧して二次成形することを特徴とする合成樹脂製ボトルの成形。」(公報1頁左下欄4〜8行)「まず,図示してないがブロー成形によりボトル1を一次成形し,該一次成形ボトルを第1図に示す二次成形金型A内に納めて型締めした後,押型Ab1,Ab2を介してボトルの後部を伝熱加熱しつつ該押型を押し込み,凹溝13,13を二次成形し,型開きして,把手12付きのボトル1を造る。」(公報1頁右下欄18行〜2頁左上欄4行)(イ) 容易想到性の判断甲27及び甲28の記載によれば,容器の成形において,容器をまずブロー成形により形作った後,更に加熱して所定の型を圧接し,最終的な形状に成形することは周知であるといえる。また,甲27には,型を押圧することにより,ブロー成形により成形された容器壁の肉厚が薄くなることも開示されている。
そうすると,ブロー成形された容器の一部を加熱し,型を圧接して最終的な形状とすることは周知であるから,甲1発明Aの薄肉の凹入部を,この周知技術を適用して凸状成形型を軸線方向から圧接することにより形成することは,当業者であれば当然に試みることであるということができ,また,甲1発明Aと同様の小型容器である甲9発明においても,容器の軸線方向から型を圧接して成形する例が存在することを考慮すると,そのような構成を採用することに支障があるともいえない。
よって,相違点3aに係る構成を行うことが容易であるとした審決の判断に,誤りはない。
これに対し,原告は,甲9発明の技術は,技術分野,凹部形成の目的,形成する流路の機能,形成過程等が異なり,甲1に適用する動機付けはないし,液適量を設定可能とする加工精度を要する本件発明の凹部は特異なものであるから,甲27及び28に示された周知技術を適用することは,容易に想到できない旨主張する。
しかし,甲1発明Aにおいて,凹部形成のためには何らかの手段を採用する必要があるところ,ブロー成形等による容器の成形手段として型の圧接による加工は上記のように周知であると認められるから,加工精度を根拠として,周知技術を適用できないということはできず,この点の原告の主張は採用できない。
エ 相違点4aに係る主張に対し(ア) 甲3及び甲4の記載審決が周知技術として挙げた甲3及び4には次の記載がある。
a甲3「本考案は薄肉の合成樹脂製液体容器(5)の開口部に嵌着する抽出栓に関するものであって,鍔(1)の上下に,同形同大の塊体(2)(3)を突設し,この上下の塊体の中心部において細径孔(4)を上下に貫通させた合成樹脂製の液体抽出栓にかかるものであって,この栓は,例えば点眼容器に嵌着して使用するものである。
従来からの液体抽出栓は概して第2図に示すようなものである。すなわち,合成樹脂製液体容器(6)の開口端に充当する鍔(7)を具え,放出孔(8)のある突出嘴(9)が鍔(7)からその上方へ突設され,弾性ある薄肉筒(10)が鍔からその下方へ突設され,前記突出嘴(9)の底部には,下方の筒体内に突出する小突出部(11)があり,この小突出部(11)を貫通する小孔(12)が前記放出孔(8)と前記薄肉筒(10)内とを繋いでいるものである。」(明細書1頁9行〜2頁5行)また,第2図には,放出孔8の内径が先端側ほど大となる様子が示されている。
b甲4「液体滴下投薬装置は多くの医療分野,特に汚染が関心事である眼科薬物治療に利用される。しばしば滴下投薬装置はプラスチック製スクィーズタイプであり,それにより投薬装置を圧搾して液体を押し出し,残留する液体と空気は投薬装置中へそれが膨張するときに戻される。」(公報2頁右上欄5〜10行)「本発明の方法と装置は,二つの重大な問題を克服する。すなわち,それは制御されない流量を増やし,混合と投薬の前には分離させておくことを要する少なくとも二つの物質の貯蔵寿命を延長する。滴下容器中の液体の汚染は,滴下先端自体に組み込まれた幾つかの特徴により克服される。更にこれらの特徴は,使用者が容器の壁を圧迫することにより生ずる変動可能な圧力とは無関係に,液滴形成の速さを制限するように作用する。従って,計量した液量で,液滴は実質的により反復可能な流量を有する。」(公報3頁右上欄16行〜左下欄6行)「一般に,ここに記述する投薬/計量装置は,ねじ切り取り付は具2にねじを有する上部T/Eキャップ1と,第?U図に示すような上部先端3を覆うT/E継ぎ輪2aとからなる。上部キャップは,主として装置の上部先端用保護カバーとして使用される。第?U図は,滴下チャンバー4に接続するオリフィス3を有し,第?U図の前記上部先端を覆う第?T図に記載された上部キャップを付着するためのねじ山5を有する計量滴下先端からなる。」(公報3頁右下欄8〜16行)また,第2図には,滴下チャンバーの内径が先端ほど大になる様子が示されている。
(イ) 容易想到性の判断上記の甲3及び4の記載からすると,点眼容器における注液孔の横断面は,円形であるのが普通であるから,点眼容器の注液部分の形状を先端が大径の円錐形状とすることが優れていることは周知といえる。したがって,同じ点眼容器の甲1における先端形状として,周知の形状を採用して相違点4aに係る構成とすることに格別の困難性はなく,これと同旨の審決に誤りはない。
これに対し,原告は,本件発明1の凹部は,製法的,機能的な限定により,「有底円錐状の凹部」による環状空間を有し,これにより液の飛び出し防止効果を有するが,射出成形による中栓部材である甲3及び4の周知例は有しない点で相違すると主張する。
しかし,環状空間が存在することについて,特許請求の範囲(請求項1)には,その旨の限定はないので,原告の主張自体失当であり,採用の限りでない。
オ 相違点5aに係る主張に対し本件発明1の注液孔を特定する事項は,「針状成形型を圧接する」という製法と,「液滴量を設定量に制御可能」という機能による特定以外にはなく,「特有の形状」が特定されているわけではないから,原告の主張はその主張自体失当である。のみならず,甲1発明Aに係る容器も,本件発明1の容器も,その容器の側壁を押すことによって薬液が滴下され,その押圧時に,薬液が連続して流出することがないように注液孔の大きさが設計され,また,薬液中の薬物の1回投与量との関係で,1滴量が適量となるように,注液孔の大きさが設計されることは,当業者にとって常識であるといえるから,実質的な相違点には当たらない旨の審決の判断に誤りはない。
これに対し,原告は,本件発明の孔は,液適量を設定量に制御可能であるという機能的限定のほか,ブロー成形等と同時に薬液が注入されている容器に,針型によって注液孔を形成するという特有の製法的限定により得られる形状を有するが,甲1発明Aの孔は,工業的に,空気抜きを施しながら液を注入する大径の注入針で形成されるものであるから,当業者が甲1発明Aの「孔」を見ても,「液適量を設定量に制御可能な小径の注液孔」とする示唆は受けない旨主張する。
しかし,甲1発明Aにおいても,薬液の注入口となった孔を,注入後に,滴下用の孔として利用する以上,滴下に適した径の範囲内で,薬液の注入が可能な径の注入針を選択したり,適正な液適量の設定に関係し得る目薬滴下通路の長さや,形状,エア溜まり部の容積(甲5)等の設計を適宜行うものと考えられ,当業者にとっては,そのような選択や設計に格別の創意工夫が必要であるとまではいえない。
したがって,相違点5aに係る構成とすることが当業者にとって格別の困難性を有するともいえないから,原告の上記主張は理由がない。
カ 相違点6aに係る主張に対し(ア) 甲7の記載審決が挙げた周知文献のうち,甲6及び甲8は,前記のとおりであり,甲7には,次の記載がある。
「使用する回転矯正治具1は,ヒーター(図示しない)を内蔵し,加工しようとする容器2の融点に対し±10℃好ましくは融点ないし融点以下10℃の範囲内に温度調節されるものとし,円筒部1aの下面中央に,下方に至るにつれて小径とした傾斜凹部1bで側面を形成してなる突部1cを有するものとし,毎分500乃至1000回転で軸部1bを弗素樹脂又はナイロンで被覆すると良い。
容器2は,合せ型を用いブロー成形されたもので,側壁部2aの上端を内方に屈接し中心を円形開口部2bとすることによつて形成される鍔部2cを有し,軸心を含む垂直面において側面から鍔部上面および開口部周縁に亘り,合せ型の接合部に合致するばり3を有する。」(公報2欄7〜21行)「まず,第3図に示すように,容器2の口部に向けて回転しつつある回転矯正治具1を降下すると,傾斜凹面1bが,開口部2bに挿入され,傾斜凹面1bと円筒部1aの下面が,鍔部2cの上面に密接し,即ち,突部1cと円筒部1aとの連続する面で鍔部2cを加圧するとともに傾斜凹面1bの一部が第4図に示すよう開口部2bの周縁にあるばり3に接触し,鍔部2cにおけるばりを溶解するとともに,鍔部2c上面を平滑に仕上げることになる。」(公報2欄27〜36行)(イ) 容易想到性の判断甲6ないし8の記載によれば,ブロー成形された容器において,所望の型を用いて容器を最終形状に加工し,その際にバリ取りなどを行って平滑な面に仕上げることは周知であるといえる。
そして,点眼用開口容器においては,薬液を眼球に滴下するため,眼球に近接して使用されることが予定されているものであるから,その外面は眼球への傷付きを防ぐため,平滑に仕上げられている必要があるのは自明のことである。そうすると,点眼容器の先端部外周面を平滑に仕上げるために,成形型により成形することは容易になし得ることであるから,これと同旨の審決の判断に誤りはない。
この点に対し,原告は,本件発明は「椀状の成形面」を設けることによりバリ取りだけでなく,加工精度を向上させるものであるし,「凸状成形型」又「針状成形型」による成型時に「椀状の成形面」により外周面を成形するものであるから,製造工程を融合して短縮し,製造コストの低廉化という効果があり,成形体による圧接と同時にバリ取りを行う特異性を検討していない旨主張する。
しかし,周知技術においても,型を用いて容器の最終形状に仕上げを加えるのは,加工精度を上げるためであるし,また,同時に加工できるものについては加工過程を統合し,生産コストを下げるのは常套手段であるから,複数の型加工を単に同時に行うとすることに困難性があるとはいえない。よって,原告の主張は理由がない。
キ 小括以上,相違点1aないし6aに係る本件発明1の構成は,いずれも容易想到であり,本件発明1は,甲1発明A,甲9発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとの審決の判断に誤りはない。
(2) 本件発明2ないし9の容易想到性についてア 本件発明2ないし9について本件発明1と甲1発明Aとの相違点1aないし6aに関して,容易想到とした審決の判断に誤りがないことは上述のとおりであるから,本件発明2ないし9の容易想到性判断について上記相違点1aないし6aの容易想到性判断に係る主張を適宜援用した原告の主張はいずれも理由がない。
本件発明6ないし9は,製造方法の発明であるが,本件においては,液体注入時期の相違が,形状構造に明確な違いを与えるものでない以上,方法の発明であるからといって,格別の効果を与えるものではないといえるから,容易に想到できたとした審決の判断に誤りはない。
イ 本件発明4に係る原告の主張に対し原告は,本件発明4の「2〜7mm」との構成は,甲5発明では,厚みのコントロールが容易な射出成形によるものであるから,甲5発明の技術を転用することは困難であり,有底円錐状の凹部が「容器本体の内側に延出する構造」として,周囲に環状の空間(液溜まり)を形成して点眼液の飛び出し防止効果を奏するから,容易に想到することはできないと主張する。
しかし,?@ブロー成形の容器に,深さ2〜7mmの凹部を形成することに支障があるとは解されないこと,?A本件発明4と甲5発明との間で,容器の成形方法において相違があるとしても,開口点眼容器として適した大きさを設計することは技術常識であるといえること,?B容器壁面の厚みは様々であるから,凹部の深さを2〜7mmと特定することにより,必然的に,容器内に点眼液の飛び出し防止効果を有する環状空間ができるとは認められないこと等を総合すれば,原告の主張は理由がない。
ウ 本件発明6に係る原告の主張に対し原告は,相違点2b(容器本体への液体の注入に関し,本件発明6では,ブロー成形又は真空成形と同時に密封状態で充填しているのに対し,本件発明1では,完全に密封された容器本体へ,すなわち,容器本体の成形後に液体を注入している点)について,薬液の注入の経時的要素を抜きにして容易想到性を論ずるのは,「凹入部」形成の工程を一致点として認定したことと矛盾すると主張する。
しかし,審決が本件発明6と甲1発明B(製造方法の発明)の一致点として指摘したのは「合成樹脂製の容器本体の先端部に有底の凹部を設け,この凹部の底面に,針状成形型を容器軸線方向から圧接して貫通することにより,液滴を容器本体から押出す小径の注液孔を形成した,前記容器本体の注液筒部における前記凹部の外側に外周面を備えた開口点眼容器の製造方法。」であって,「凹入部」形成の工程ではないから,原告の上記主張は,失当である。
3 取消事由3(手続の違法性)について原告は,相違点3a(凹入部形成方法)の容易想到性判断に当たり,審決は,甲9以外に甲27及び28を裏付けとして周知技術を認定しているが,これらは審決において指摘された刊行物であり,原告に意見を述べる等の機会を与えなかった違法がある旨主張する。
しかし,以下の経緯に照らすならば,原告の主張は理由がない。すなわち,(1)平成19年1月11日付け審判請求書(甲19)において,被告が「甲1,あるいは甲3や4などに記載されたような小径の凹部を形成する手段としては,ブロー成形時に予め当該凹部にみあう凸部を具えた型を使用する方法は現実的ではなく,(中略)成形型を圧接して行なう手法が最も一般的であり常套手段である。」として甲9を例示した(20頁23行〜21頁4行)。原告は,平成19年4月2日付け審判事件答弁書(甲20)において,これに対して反論をした(14頁11行〜15頁4行)。
(2)審判体は,被告に対し,平成19年6月11日付け【口頭審理陳述要領書の作成にあたって】と題する書面(甲23)において,甲9以外に被告の主張する手法が「最も一般的で常套手段であることを裏付ける周知例があれば提示してください。」として,周知例を示すよう促したが(1頁下から9行〜4行),被告は,平成19年7月10日付け「口頭審理陳述要領書」(甲25,7頁)において,周知例を調査中であるとして,具体的な文献は提示しなかった。
(3)その後,審決では,甲27及び28を示して「一般に,容器の成形において,一旦ブロー成形された容器の一部を加熱し,そこに特定形状の型を圧接させる後加工によって容器を所望の形状に成形することは,従来周知の技術である」とし,「甲9のような小型のブロー成形容器に対しても,該容器を加熱しつつ成形型を圧接させて後加工を行う技術が示されているといえる。」と認定,判断した。
以上のとおり,審理の過程で無効の理由として「ブロー成形後に,その凹部に見合う凸部を有する成形型を圧接して行なう手法が最も一般的で常套手段である」という技術事項が証拠とともに示され,原告に対しても意見を述べる機会が与えられていること,その後に,審決において,当該技術が周知であることを裏付ける証拠(文献)が付加されていること等の経緯に照らすならば,本件審判手続及び審決は,申立人が申し立てなかった新たな無効理由に基づいて判断したものとはいえず,また,実質的に意見を述べる機会を付与しなかったものともいえない。したがって,本件審判手続において特許法134条2項,同153条2項等の規定に反する手続があったものと認めることはできず,原告の主張は理由がない。
4 結語以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は,縷々主張するが,理由がない。よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
なお,本件における原告の訴訟活動及び争点設定に関して,当裁判所の意見を述べる。
民事訴訟法2条は,「・・・当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」と規定する。同規定は,公正かつ迅速な訴訟手続を行い適切な司法判断を得るという法の理念に即して,民事の紛争の解決が実現されることを目的として,訴訟を追行する訴訟当事者に対して,誠実な訴訟活動をするよう努める義務を負わせることとしたものである。同規定の上記の趣旨に照らすならば,当事者が,客観的に明白な事実に反し,また,自己が主観的に確信した真実に反して,徒に主張や立証活動を行ったり,逆に,反対当事者が,上記のような事実に基づいて,徒に,相手方の主張を否認したり,反対立証を重ねるような場合には,民事訴訟法2条に規定する信義誠実の原則に反する訴訟活動であると解すべきである。
ところで,本件取消訴訟をみると,原告は,本件発明1に限っても,審決のした本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点(6個)の認定及び相違点(6個)に関する容易想到性の判断,並びに審判手続のすべてに誤りがあると主張して,審決を取り消すべきであるとしている(原告第1,第2準備書面,合計59頁)。しかし,?@およそ,当事者の主張,立証を尽くした審判手続を経由した審決について,その理由において述べられた認定及び判断のすべての事項があまねく誤りであるということは,特段の事情のない限り,想定しがたい。また,?A本件において,本件発明と引用発明との間の一致点及び相違点の認定に誤りがあるとの原告の主張は,実質的には,相違点についての容易想到性の判断に誤りがあるとの主張と共通するものと解される。そのような点を考慮するならば,本件において,原告が,争点を整理し,絞り込みをすることなく,漫然と,審決が理由中で述べたあらゆる事項について誤りがあると主張して,取消訴訟における争点としたことは,民事訴訟法2条の趣旨に反する信義誠実を欠く訴訟活動であるといわざるを得ない。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 嶋末和秀