関連審決 | 不服2005-25168 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10444審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 特許を受ける権利 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 相違点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 分割出願 / 名義変更 / 登録実用新案 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10238号
審決取消請求事件
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原告株 式会社シグマ工学 訴訟代理人弁理士西孝雄 同 大谷嘉一 被告特許庁長官 鈴木隆史 指定代理 人砂川充 同 山口由木 同 高木彰 同 内山進 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/09/29 |
権利種別 | 特許権 |
主文 |
1特許庁が不服2005−25168号事件について平成19年5月10日にした審決を取り消す。 2訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
主文同旨 |
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事案の概要
1本件は,Aが平成9年11月10日になした原出願からの分割出願として,名称を「蓋板を備えたコンクリートブロック」とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をし,平成18年1月26日付けで手続補正をしたが,特許庁が上記補正を却下の上,請求不成立の審決をしたことから,その取消しを求めた事案である。なお原告は,上記審決の受送達後にAから特許を受ける権利の譲渡を受け特許庁に届け出た者である。 2争点は,上記補正に係る発明(本願補正発明)が下記引用発明との関係で進歩性を有しないとして上記補正を却下した審決が適法か,である。 記登録実用新案第3026678号公報(考案の名称「側溝構造」,実用新案権者 株式会社ウチコン,登録日 平成8年5月1日,発行日 平成8年7月16日。以下「引用例1」といい,この発明を「引用発明」という。甲1) |
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当事者の主張
1 請求原因(1) 特許庁における手続の経緯Aは,平成8年11月29日(特願平8-334713号)及び平成9年4月25日(特願平9-123281号)の優先権(日本)を主張し平成9年11月10日になした原出願(特願平9-325231号)からの分割出願として,平成12年12月11日,名称を「蓋板を備えたコンクリートブロック」とする発明につき特許出願(特願2000-376286号,請求項の数2,甲5。公開公報は特開2001-193142号〔甲17〕)をしたところ,拒絶理由通知を受けたので,平成17年10月3日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とする手続補正(第1次補正,請求項の数2。甲8)をしたが,平成17年11月18日付けで拒絶査定を受けた。 そこでAは平成17年12月28日,これに対する不服の審判請求をしたところ,特許庁は,同請求を不服2005-25168号事件として審理し,その中で平成18年1月26日付けで特許請求の範囲の変更等を内容とする補正(第2次補正。以下「本件補正」という。甲10の4,5)をしたが,特許庁は,平成19年5月10日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年5月31日Aに送達された。 原告はAから,平成19年6月14日,本願に係る発明について特許を受ける権利につき譲渡を受けた上,特許庁長官に対し同年6月18日付けで出願人名義変更届を提出した。 (2) 発明の内容ア 本件補正前平成17年10月3日の第1次補正後の特許請求の範囲は,上記のとおり請求項1及び2から成るが,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の内容は,以下のとおりである。 「蓋板(3)と本体ブロック(2)との相互の接合面(9,14)の一方(9)がコンクリートブロックの中心線(P)に対して対称な方向に傾斜した平面であり,他方(14)が中凸部分円筒状の曲面であり,蓋板(3)の左右方向のずれにより本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収されることを特徴とする,蓋板を備えたコンクリートブロック。」イ 本件補正後平成18年1月26日の本件補正後の特許請求の範囲も請求項1及び2から成るが,そのうち請求項1に係る発明(下線部分が補正による変更部分。以下「本願補正発明」という。)の内容は,以下のとおりである。 「蓋板(3)と本体ブロック(2)との相互の接合面(9,14)の一方(9)がコンクリートブロックの中心線(P)に対して対称な方向に傾斜した平面であり,他方(14)が中凸部分円筒状の曲面であり,前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で当該本体ブロック上に幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになることによって本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収されることを特徴とする,蓋板を備えたコンクリートブロック。」(3) 審決の内容ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は,?@本願補正発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから独立して特許を受けることができず,本件補正は却下される,?A本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから特許を受けることができない,というものである。 イなお審決は,上記判断をするに当たり,引用発明の内容を以下のとおり認定した上,本願補正発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおりとした。 <引用発明の内容>「側溝蓋8と側溝躯体1との相互の接合面の一方が側溝蓋8および側溝躯体1の中心線に対して対称な方向に傾斜した蓋傾斜面部10aであり,他方である側溝躯体1側が浅い角度のV形断面よりなる角部Pであり,前記側溝蓋8は側溝躯体1の上部垂直部2aとの間に微小間隙G1を備えた状態で上記角部Pにて線接触するように置かれることによって側溝蓋のがたつきの発生を防止する側溝蓋を備えた,コンクリート側溝構造。」<一致点>いずれも,「蓋板と本体ブロックとの相互の接合面の一方がコンクリートブロックの中心線に対して対称な方向に傾斜した平面であり,他方が凸部分を有する形状であり,前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面との間に間隙を備えた状態で置かれ,本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収されることを特徴とする,蓋板を備えたコンクリートブロック。」 であること。 <相違点1>接合面の他方が,本願補正発明では中凸部分円筒状の曲面であるのに対して,引用発明では,浅い角度のV形断面である点。 <相違点2>本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で本体ブロック上に置かれる蓋板が,本願補正発明では,幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになるものであるのに対して,引用発明では,そのようなものであるかどうか不明である点。 (4) 審決の取消事由しかしながら,本件補正を却下した審決には以下に述べるとおりの誤りがあるので,審決は違法として取り消されるべきである。 ア取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点の認定の誤り)(ア) 審決は,引用発明につき「…側溝躯体1側が浅い角度のV形断面よりなる角部Pであり,前記側溝蓋8は側溝躯体1の上部垂直部2aとの間に微小間隙G1を備えた状態で上記角部Pにて線接触するように置かれることによって側溝蓋のがたつきの発生を防止する」(5頁29行〜32行)と認定したが,誤りである。 引用発明は側溝蓋8を側溝躯体1に嵌挿することで楔効果を生じさせるものであり,側溝蓋8が側溝躯体1に「置かれる」ものではない。 すなわち,引用例1(甲1)には「…この傾斜面部3a,3bの傾斜角度は40°〜80°の間の例えば64°とされ,…」(段落【0012】),「…側溝蓋8を側溝躯体1に嵌挿すると,その側溝蓋8の蓋傾斜面部10a,10bが,これの傾斜角度より小さい角度で傾斜する傾斜面部3a,3bに上記角部Pにて線接触するようにして支持される」(段落【0015】),「…これらの傾斜面部3a,3bが相互に一方が他方に対し食い込むような楔効果を呈するため,上記線接触にも拘らず,側溝蓋8は側溝躯体1内において全くがたつきを生じることがなく,…」(段落【0017】),「…側溝蓋の側溝躯体における嵌合状態をがたつきなく安定化させることができる…」(段落【0021】)と記載されており,側溝蓋8が側溝躯体1に置かれることによって側溝蓋のがたつきの発生を防止することを示唆する記載はない。 このように引用発明は,側溝躯体1の傾斜面部の角度が40°〜80°の急斜面であり,側溝蓋8を側溝躯体1に嵌挿すると食い込むような楔効果を呈するものである。 したがって,引用発明は,「側溝蓋8と側溝躯体1との相互の接合面の一方が側溝蓋8および側溝躯体1の中心線に対して対称な方向に傾斜した蓋傾斜面部10aであり,他方である側溝躯体1側の傾斜面部の傾斜角度が40°〜80°のV形断面よりなる角部Pであり,前記側溝蓋8は側溝躯体1の上部垂直部2aとの間に微小間隙Glを備えた状態で蓋傾斜面部10a,10bと側溝躯体の傾斜面部3a,3bが相互に一方が他方に対し食い込むような楔効果を呈することによって,上記角部Pにて線接触するにもかかわらず,側溝蓋のがたつきの発生を防止する側溝蓋を備えた,コンクリート側溝構造。」(下線部分は原告が付加)と認定されるべきである。 (イ)また審決は,本願補正発明と引用発明との一致点につき「前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面との間に間隙を備えた状態で置かれ,本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収される」(6頁23行〜24行)と認定し,相違点2として「蓋板が,本願補正発明では,幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになるものであるのに対して,引用発明では,そのようなものであるかどうか不明である」(6頁32行〜35行)と認定したが,誤りである。 aまず,前記(ア)で述べたように,引用発明における蓋板は,本体ブロックの側壁内面との間に「置かれ」たものではない。 bまた,引用発明における「微小間隙G1」と本願補正発明における「間隙(20)」とは,その作用を異にする。 (a) すなわち,引用例1(甲1)には「この傾斜面部3a,3bの傾斜角度は…例えば64°とされ,蓋傾斜面部10a,10bの傾斜角度は例えば65°とされ…」(段落【0012】),側溝蓋8の「下面と上記水平面部5a,5bとの間には2ミリの間隙G3が残される」(段落【0013】)と記載されている。このように,引用発明においては側溝躯体の傾斜面部3aより僅か約1°程度の差を有する傾斜角度となるように蓋傾斜面部10aを製作しなければならず,また間隙G3についても僅か2ミリと記載されているのである。 コンクリートブロックは,本来的に製造の精度のばらつきが大きい製品であり(日本工業規格JISA5372によれば,「落ちふた式U型側溝1種」において蓋及び側溝本体のいずれについても製品許容差は±3ミリとされている〔甲4〕),引用例1記載のような寸法を達成するためには,蓋及び躯体を製造するための型枠に非常に高い精度が要求される。 また,引用発明において前記(ア)で述べたような楔効果を生じさせるには,側溝蓋8が側溝躯体1に対して上方から下方に下がり食い込むように嵌挿することが必要となるところ,型枠の精度にばらつきが生じると角部Pと傾斜面部3aとの線接触の位置が上下に大きく変動し,側溝蓋8の上面と側溝躯体1の上面の高さが一致しなくなってしまう。 したがって,引用発明における「微小間隙G1」は,非常に高い精度の下で製作された側溝蓋8と側溝躯体1において精度のばらつきが生じることを前提としたものであり,側溝蓋8の左右方向の移動を積極的に許容するものではない。 (b) 他方,本願補正発明は,「…蓋板は,本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で当該本体ブロック上に幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」(請求項1)との構成を有するものである。 すなわち,本願補正発明においては,中凸部分円筒状の曲面(14)が傾斜した平面(9)に置かれているだけであるので,幅方向に平行移動及び斜め移動することが可能となり,自動調心作用が働いて,がたつきを有効に防止することができる。換言すれば,本願補正発明における「間隙(20)」は,蓋板(3)の平行移動及び斜め移動を積極的に許容する作用を有するものである。 cしたがって,引用発明は,「蓋板は,本体ブロックの側壁内面との間に間隙を備えた状態で置かれ,本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収される」という構成を有するものではなく,また,「蓋板が幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」という構成を有しないことも明らかである。 イ 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)審決は,「一方の接合面に対して,他方が線接触(線支承)となるような凸部分を有する形状として,円筒状の曲面を用いることは,従来より周知の技術(例えば,土木学会監修『土木用語辞典』,技報堂・コロナ社発行,昭和46年4月30日初版発行,P.622『線支承…平面と円柱面とのように,上下の両部分が理論的には1つの直線で接するものと考えられる支承。』との記載参照)であって,引用発明において当該周知技術を採用することは,当業者が容易に想到し得たものである」(7頁2行〜8行)と判断したが,誤りである。 「線接触」において,「円筒状の曲面を用いる」ことと「角部Pを用いる」ことは同一ではない。 (ア) まず前提として,理論的には線接触であっても,現実には接触部に力が加わったときには局部的に弾性変形あるいは圧壊することによって有限な面積での帯接触となる。本願補正発明における円筒状の曲面〔14〕と傾斜した平面〔9〕との接触のような円筒面と平面との接触は本来的に帯接触であり,引用発明における角部Pと傾斜面部10aとの接触のような平行でない2つの面が交わるところに形成される稜線と平面との接触も上記のような弾性変形あるいは圧壊により帯接触となるから,両者はこの点においては同じである。 (イ) しかし,接触部に力が作用したときに,その接触部で何が起こるかという点においては,円筒面と平面との接触と,稜線と平面との接触とでは異なる。 例えば地球の表面を皆が平面と認識しているように,半径が大きくなれば球や円筒の表面は限りなく平面に近づくのであって,半径を大きくすることにより,円筒の平面に向かって一番高く突出している部分の高さを低くすることができる。そしてこの一番高く突出している部分が平面と接触して弾性変形すると,平面と接触する面全体が平坦な平面となる。 これに対して稜線と平面とが接触して力が作用する場合には,この稜線の一番出っ張った部分は必ず圧壊し(コンクリートブロックの分野では,コンクリートが脆く,角部を形成する稜線は圧壊しやすいことは周知の事項である。),このように稜線が潰れることによって形成された帯は,部分円筒面のように滑らかな円弧面ではないから,その上で蓋板が滑らかに移動してがたつきを吸収することの支障となる(引用発明は,蓋板が本体に嵌り込んで固定されることによって蓋板のがたつきを吸収する構造であるため,蓋板が本体上で滑らかに動く必要はなく,蓋板と本体との接触部を円弧状としなくても支障がない。)。 (ウ) したがって,コンクリートブロックにおける傾斜した平面と接触するものとして円筒状の曲面を用いることと角部Pを用いることは同一ではなく,引用発明の角部Pに換えて中凸部分円筒状の曲面を採用することは,当業者が容易になしうるものではない。 ウ 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)審決は,「…蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになるものであるという構成は,引用発明においても当然に有している構成であるということができる。そして,蓋板が,本体ブロックの側壁内面との間に間隙を備えた状態で幅方向に平行移動及び斜め移動可能となるようにすること(即ち,そのために間隙を十分に大きくしたり,接合面の傾斜角を小さな値とする)も,蓋板や本体ブロックが有する成型精度や線接触部分の耐圧力などを考慮して当業者が,適宜採用し得る設計的事項であるといえる」(7頁19行〜26行),「接合面の傾斜角をどのような値に設定するかについても,蓋板や本体ブロックの成型精度,接合面の形状,もしくは線接触部分の耐圧力などに応じて,当業者が適宜設定することができる事項である(例えば,蓋板のがたつきの発生を防止することをより重視すれば,大きな値に設定し,線接触部分に作用する応力を小さくすることを重視すれば,小さな値に設定するというように適宜選択される事項である)といえる」(7頁35行〜8頁3行)として相違点2についての容易想到性を肯定したが,誤りである。 前記アで述べたように,引用発明は側溝蓋8を側溝躯体1に食い込むように嵌挿することで楔効果を生じさせるものであり,このような引用発明の構造においては,たとえ「微小間隙G1」を大きくしたり,接合面の傾斜角度を小さくしたとしても,側溝蓋が幅方向に平行移動あるいは斜め移動することは可能とはならない。 もし審決のいうように線接触部分に作用する応力を小さくすることを重視し,傾斜角を小さな値に設定することによって蓋板が本体上で幅方向に移動できるようにしたならば,それは,引用発明において蓋と躯体との傾斜面が食い込むように嵌挿されていることによって達成されている蓋板のがたつき防止効果を放棄することにほかならない。 このように引用発明において蓋板のがたつきを防止するために必要とされている構成に換えて別の構成を採用することは,当業者が容易になしうるものではなく,まして設計変更といえるものではない。 エ 取消事由4(顕著な作用効果の看過)審決は,本願補正発明の有する次のような顕著な作用効果を看過したものである。 すなわち,本願補正発明は,「蓋板(3)と本体ブロック(2)との相互の接合面(9,14)の一方(9)がコンクリートブロックの中心線(P)に対して対称な方向に傾斜した平面であり,他方(14)が中凸部分円筒状の曲面である」という構成を有することから,蓋板(3)を本体ブロック(2)に置くだけで,蓋板(3)の接触位置が本体ブロック(2)の中凸部分円筒状の曲面に沿って滑らかに移動する。そして,本願補正発明における「間隙(20)」は積極的に蓋板(3)の平行移動及び斜め移動を許容する作用効果があり,その自動調心作用により,がたつきを有効に防止する。 これらの作用の結果,本願補正発明においては,型枠の精度のばらつきにより蓋板や本体ブロックの精度のばらつきが大きくても,それを吸収することができるものである。 さらに,本願補正発明においては平面と中凸部分円筒状の曲面とが接触することから,コンクリートブロックに欠けが生じるのを効果的に防ぐという作用もある。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)〜(3)の各事実は認めるが,同(4)は争う。 3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由は理由がない。 (1) 取消事由1に対し原告は,審決における引用発明の認定,一致点及び相違点の認定は誤りであると主張するが,以下のとおり審決の認定はいずれも正当である。 ア原告は,審決が引用発明につき「側溝躯体1側が浅い角度のV形断面よりなる角部Pであり」と認定したのに対し,「側溝躯体1側の傾斜面部の傾斜角度が40°〜80°のV形断面よりなる角部Pであり」と認定すべきであると主張する。 しかし,引用例1における「傾斜面部3a,3bの傾斜角度は40°〜80°の間の例えば64°とされ」(段落【0012】)との記載における傾斜角度は水平面を基準とした角度であることは明らかであり,この水平面と下部垂直面部4a,4bとがなす角度は90°であるから,「傾斜面部3a,3bと,これらの傾斜面部3a,3bに連続して下方に延設された下部垂直面部4a,4b」(段落【0009】)とがなす角部Pの角度は,(40°+90°)〜(80°+90°),すなわち130°〜170°の鈍角となる。 審決は,引用発明における角部Pが130°〜170°の鈍角であることをもって「浅い角度」と認定したものであって,この認定に誤りはない。 イまた原告は,審決が引用発明につき「前記側溝蓋8は側溝躯体1の上部垂直部2aとの間に微小間隙G1を備えた状態で上記角部Pにて線接触するように置かれる」と認定し,本願補正発明と引用発明との一致点につき「蓋板は,…置かれ」る点で一致すると認定したのに対し,「前記側溝蓋8は側溝躯体1の上部垂直部2aとの間に微小間隙Glを備えた状態で蓋傾斜面部10a,10bと側溝躯体の傾斜面部3a,3bが相互に一方が他方に対し食い込むような楔効果を呈することによって,上記角部Pにて線接触する」と認定すべきであると主張する。 (ア) しかし,引用例1には「側溝蓋8を側溝躯体1に嵌挿すると,その側溝蓋8の蓋傾斜面部10a,10bが,これの傾斜角度より小さい角度で傾斜する傾斜面部3a,3bに上記角部Pにて線接触するようにして支持される」(段落【0015】)と記載されていることから,側溝蓋8が,側溝躯体1の角部Pにより支持されて,側溝躯体1の上に載置されることは明らかである。 そして,「置く」という語は「人や物などをある所にとどめる」(広辞苑第五版)という意味であるから,引用発明における側溝蓋8を側溝躯体1に嵌挿し支持させる構造を「置かれる」と表現しても誤りではない。 したがって,審決は,側溝蓋8が「角部Pにて線接触するようにして支持される」ことを「側溝蓋8は…上記角部Pにて線接触するように置かれる」と認定したものであって,この認定に誤りはない。 (イ) 仮に,引用発明が原告の主張するように「蓋傾斜面部10a,10bと側溝躯体の傾斜面部3a,3bが相互に一方が他方に対し食い込むような楔効果を呈する」ものであるとしても,本願補正発明は「平面」と「中凸部分円筒状の曲面」とが線接触するものであり,この線接触部において円筒状の曲面が平面に多少なりとも食い込むことは明らかである。 すなわち,奥へ行くにつれ狭まる2つの対向する内面を持つ溝に,これに対応した傾斜面を有する部材を差し込んだ場合,差し込まれた部材にかかる垂直荷重によって溝の左右傾斜面に生じる反力が垂直荷重と比較して大きなものとなることは「楔効果」として周知な事項であって,この「楔効果」により生じた反力により,溝の左右傾斜面と差し込まれた部材との間に密着性が生じる。本願補正発明においても,蓋板と本体ブロックとが本願明細書(出願時のもの,甲5)の図2,図7,図10〜12に記載されたような形状の場合には「楔効果」を呈するものである。 そうすると,引用発明の認定について原告の主張どおりであるとしても,本願補正発明と引用発明はいずれも「楔効果」を呈するものであって,この点において両発明が相違するとはいえない。 ウまた原告は,本願補正発明における「間隙(20)」と引用発明における「微小間隙G1」とはその作用を異にするから,審決が「前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面との間に間隙を備えた状態で置かれ」る点を一致点として認定したのは誤りであると主張する。 しかし,本願補正発明は「蓋板は,本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた」ものであるのに対し,引用発明は「側溝蓋8は側溝躯体1の上部垂直部2aとの間に微小間隙G1を備えた」ものであって,いずれも蓋板と本体ブロックの側壁内面との間に間隙を有するものであるから,引用発明の「微小間隙G1」が本願補正発明の「間隙(20)」に相当するという認定に誤りはない。 なお,審決は,本願補正発明における「間隙(20)」が有する作用と引用発明における「微小間隙G1」が有する作用の異同(蓋板の平行移動及び斜め移動を許容するものか)については,相違点2についての判断の中で実質的に検討しているものである。 エまた原告は,審決が「本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収される」点を一致点として認定したことは誤りであると主張する。 しかし,引用発明は,従来技術における「精度の高い鋼製型枠を用いる必要があり,…経済性,作業性の点で難点があるという課題」(段落【0005】)を解決しようとし,「側溝蓋のがたつきの発生を防止でき」ること(段落【0006】)を目的とするものであって,精度の高い鋼製型枠を用いずに成型され,側溝躯体1側の接合面と側溝蓋8側の接合面との間に成型誤差があっても「側溝蓋のがたつきの発生を防止でき」るものである。 したがって,引用発明においても「本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収される」ことから,審決がこれを一致点として認定したことに誤りはない。 オまた原告は,本願補正発明における「本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で本体ブロック上に置かれる蓋板が,…幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」との構成を引用発明が有していないことは明らかであるのに,審決が相違点2の認定において「引用発明では,そのようなものであるかどうか不明である」としたのは誤りであると主張する。 しかし,引用例1(甲1)には「蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」旨の記載はなく,このことから,審決は「引用発明では,そのようなものであるかどうか不明である」と認定したものであって,この認定に誤りはない。 (2) 取消事由2に対し原告は,審決における相違点1についての判断は誤りであると主張するが,以下のとおり審決の判断は正当である。 ア原告は,引用発明は蓋板が本体に嵌り込んで固定されることによって蓋板のがたつきを吸収する構造であるため,蓋板が本体上で滑らかに動く必要はなく,円筒状の曲面を用いて相違点1の構成に至ることは当業者が容易になしうるものではないと主張する。 しかし,前記(1)イで述べたように,引用発明は「側溝蓋8の蓋傾斜面部10a,10bが,これの傾斜角度より小さい角度で傾斜する傾斜面部3a,3bに上記角部Pにて線接触するようにして支持される」(引用例1,段落【0015】)ものであるから,側溝蓋8を側溝躯体1に嵌挿すると,側溝蓋8の両側に位置する蓋傾斜面部10a,10bが側溝躯体1の角部Pに線接触するような位置に移動して固定されるものであり,側溝蓋8の両側が線接触により支持されることによって,がたつきを吸収するものである。 そして,一方の接合面に対して他方が線接触となるような凸部分を有する形状として,円筒状の曲面は甲2(「土木用語辞典」)に記載されているように従来より周知であるから,引用発明における浅い角度のV形断面に換えて円筒状の曲面を用いることには何ら困難性がなく,当業者が容易になしうるものである。 イこれに対し原告は,引用発明における角部Pを形成する稜線は他方の平面と接触した際に必ず圧壊し,部分円筒面のように滑らかな円弧面とはならないから,線接触において「円筒状の曲面を用いる」ことと「角部Pを用いる」ことは同一ではなく,引用発明に円筒状の曲面を用いることは当業者が容易になしうるものではないと主張する。 しかし,そもそも原告がその主張の前提としている稜線の圧壊については,引用例1に「傾斜面部に対し線接触しながら対峙される蓋傾斜面部」(請求項1)と記載されているように,引用発明は角部Pと側溝蓋の傾斜面とを「線接触」させようとするものであって,必ず角部Pが潰れるものではない。 また,引用例1には「補強部材…を埋設しておくことで,閉蓋時における上記線接触部位での摩耗や欠落を確実に防止できる」(段落【0020】)と記載されており,線接触部位での摩耗や欠落が好ましくないこととされているから,平面と接触した際に圧壊しやすい角部Pに換えて,圧壊しにくい周知の円筒状の曲面による線接触の技術を採用することは,当業者が容易になしうることである。 (3) 取消事由3に対し原告は,審決における相違点2についての判断は誤りであると主張するが,以下のとおり審決の判断は正当である。 ア本願補正発明における「本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で本体ブロック上に置かれる蓋板が,幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」との構成は,本体ブロックの側壁内面と蓋板との間隙が,蓋板の長手方向中心線が本体ブロックの中心線に対して平面視で斜めになるように移動することを許容できる間隔を有していることを意味している。 すなわち,本願補正発明の蓋板は,蓋板をずれた位置に配置した場合であっても,蓋板の両側の円筒面又は傾斜面が,本体ブロックの傾斜面又は円筒面と接触状態となるように自動的に移動する自動調心作用を有しているため,蓋板に成型誤差がある場合に自動調心作用により蓋板が平行移動又は斜め移動することが予想され,本体ブロックと蓋板との間隙はそのような移動を許容するものである。 そして,成型誤差により蓋板の長手方向中心線と蓋板の両側の円筒面又は傾斜面が平行になっていない場合,蓋板の長手方向中心線を本体ブロックの長手方向の中心線と平行に置くと,蓋板は,自動調心作用により,蓋板の両側の円筒面又は傾斜面が本体ブロックの長手方向と平行になるように移動し,結果として,当該蓋板の長手方向中心線が本体ブロックの中心線に対して平面視で斜めになる。 イ一方,引用発明における間隙は,「側溝蓋8の蓋上部垂直面部9a,9bと側溝躯体1の上部垂直面部2a,2bとの間には間隙G1があるため,これらの間に砂や土が入ることがあっても,その間隙G1を利用することで,側溝蓋8の開閉操作が容易になる」(引用例1,段落【0019】)と記載されているように,「側溝蓋8の開閉操作が容易になる」のに十分な大きさを有していることは明らかである。 ところで,引用発明は,蓋板(側溝蓋8)をずれた位置に配置した場合であっても,蓋板の両側の傾斜面が本体ブロックの両側の角部Pと線接触状態になるように自動的に移動することは明らかであって,引用発明も自動調心作用を有しているといえる。 すなわち,引用発明において,蓋板の長手方向中心線と蓋板傾斜面の長手方向に誤差があると,蓋板が自動調心するように移動するに伴って,蓋板の長手方向中心線が本体ブロックの長手方向中心線に対して平面視で斜めになることがある。また,左右両側の傾斜面に誤差があると,蓋板が自動調心するように移動するに伴って,蓋板が左右に平行移動することになる。 そして,前記(1)エで述べたように,引用発明は精度の高くない型枠により成型されるものであるから,蓋板を製造する際にある程度の誤差が生じることは当然に予想され,蓋板と本体ブロックとの間に設けられる間隙が,蓋板に成型誤差が生じた場合にも蓋板が平行移動や斜め移動することができるように余裕をもって設計されることは,当然考慮すべきことである。 また,接合面の傾斜角の大きさについても,引用発明における側溝蓋8は,その蓋傾斜面部10a,10bが側溝躯体1の角部Pと線接触するようにずり落ちて安定位置に支持されるものであるから,滑らかに移動し,かつ角部が欠落しないように側溝躯体1の傾斜面部3a,3bの傾斜角度及び蓋傾斜面部10a,10bの傾斜角度を決定することは,当業者が当然考慮すべきことである。 ウこれに対して原告は,審決は引用発明において蓋板と本体ブロックの側壁内面との間に間隙があれば,本体ブロック上に載置された蓋板の幅方向の平行移動及び斜め移動が可能となるという誤った判断をしていると主張する。 しかし,審決は,引用発明において「蓋板が,本体ブロックの側壁内面との間に間隙を備えた状態で幅方向に平行移動及び斜め移動可能となるようにすること(即ち,そのために間隙を十分に大きくしたり,接合面の傾斜角を小さな値とする)も,蓋板や本体ブロックが有する成型精度や線接触部分の耐圧力などを考慮して当業者が,適宜採用し得る設計的事項である」(7頁22行〜26行)と判断しているのであって,間隙があれば,蓋板が幅方向に平行移動及び斜め移動することが可能であると判断しているものではないから,原告の上記主張は失当である。 エまた原告は,引用発明の蓋板が本体上で幅方向に移動できるようにすることは,引用発明において蓋と躯体との傾斜面が食い込むように嵌挿されていることによって達成されている蓋板のがたつき防止効果を放棄することにほかならないと主張する。 しかし,上述のとおり,引用発明は,側溝蓋8の蓋傾斜面部10a,10bが側溝躯体1の角部Pに線接触することにより側溝蓋8が安定位置に支持されるように幅方向に移動しうるものであり,蓋板をがたつかないように嵌挿することと蓋板を移動可能にすることとは矛盾するものではない。 (4) 取消事由4に対し原告は,審決は本願補正発明の顕著な作用効果を看過した誤りがあると主張するが,以下のとおり審決には原告の主張するような看過はない。 ア原告は,本願補正発明には「蓋板(3)の接触位置が本体ブロック(2)の中凸部分円筒状の曲面に沿って滑らかに移動する」という顕著な作用効果があると主張する。 しかし,移動が滑らかである点は,引用発明に円筒との線接触による支承に関する周知の技術を適用することにより生じる効果であって,当業者が予測しうるものである。 イまた原告は,本願補正発明における自動調心作用についても顕著な作用効果として主張する。 しかし,前記(3)イで述べたように,この自動調心作用については,引用発明も同様の作用を有するものである。 ウまた原告は,本願補正発明には蓋板や本体ブロックの精度のばらつきが大きくても吸収することができるという顕著な作用効果があると主張する。 しかし,前記(1)エで述べたように,引用発明も精度の高い型枠を必要としないものであり,成型誤差があっても側溝蓋のがたつきの発生を防止できるものである。 エさらに原告は,本願補正発明には平面と円筒状曲面で接触することによりコンクリートブロックに欠けが生じるのを防ぐという顕著な作用効果があると主張する。 しかし,この作用は,引用発明に円筒との線接触による支承に関する周知の技術を適用することにより当然生じるものにすぎず,当業者が予測しうるものである。 |
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当裁判所の判断
1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2取消事由1(引用発明の認定の誤り,一致点及び相違点の認定の誤り)について(1) 引用例1(甲1)には,次の記載がある。 ア 実用新案登録請求の範囲「【請求項1】 対向する側溝壁内面に形成された上部垂直面部,該上部垂直 ・面部に連続して下方に延設された傾斜面部および該傾斜面部に連続して下方に延設された下部垂直面部を有する側溝躯体と,上記上部垂直面部に対し微小間隙を介して対峙される蓋上部垂直面部,該蓋上部垂直面部に連続して下方に延設されて,上記傾斜面部に対し線接触しながら対峙される蓋傾斜面部および該蓋傾斜面部に連続して下方に延設されて,上記下部垂直面部に微小間隙を介して対峙される蓋下部垂直面部を有する側溝蓋とを備えたことを特徴とする側溝構造。」・「【請求項2】 前記側溝壁内面に形成された傾斜面部の傾斜角度が,40°〜80°であることを特徴とする請求項1記載の側溝構造。」イ 考案の詳細な説明(ア) 考案の属する技術分野・「この考案は,一般道路の側部に埋設設置されて排水路として使用される側溝構造に関する。」(段落【0001】)(イ) 従来の技術・「従来の側溝構造としては,例えば側溝躯体と側溝蓋とを傾斜面部で対向させ,これらをパッキングを介して係合することによって,側溝蓋上を車両が走行するときの騒音発生を回避するようにしたものが提案されている(実開昭62?176280号公報)」(段落【0002】)・「また,従来の別の側溝構造として,側溝躯体と側溝蓋とを幾可学的に相似な曲面で密着させることによって,車両の走行時における騒音発生や側溝躯体,側溝蓋の破損を回避するものが提案されている。」(段落【0003】)(ウ) 考案が解決しようとする課題・「しかしながら,側溝躯体と側溝蓋との間に上記パッキングを介在する側溝構造にあっては,成形加工時や施工布設時に取扱いが面倒な上記パッキングをコンクリート内に埋め込む必要があるため,そのための作業が大掛りで,煩わしいという課題があった。」(段落【0004】)・「また,上記相似な曲面で側溝躯体および側溝蓋を密着させるものでは,精度の高い鋼製型枠を用いる必要があり,このため型枠コストが高くなるほか,成形寸法の管理を十分に行う必要が生じ,経済性,作業性の点で難点があるという課題があった。」(段落【0005】)・「この考案は上記のような課題を解決しようとするものであり,基本的には車両の走行に対して十分な強度を確保しながら,側溝蓋のがたつきの発生を防止でき,しかも車両通過後の側溝蓋の跳ね上がりを防止できるとともに,ローコストにて製造および管理できる側溝構造を提供することを目的とする。」(段落【0006】)(エ) 考案の実施の形態・「以下に,この考案の実施の一形態を図について説明する。図1はこの考案の側溝構造を具体的に示す縦断面図であり,同図において,1は側溝躯体であり,これが対向する各側溝壁2A,2B内面に形成された上部垂直面部2a,2bと,これらの上部垂直面部2a,2bに連続して下方に延設された傾斜面部3a,3bと,これらの傾斜面部3a,3bに連続して下方に延設された下部垂直面部4a,4bと,これらの各下部垂直面部4a,4bに連続する水平面部5a,5bと,これらの各水平面部5a,5bに連続する溝壁部6a,6bと,これらの溝壁部6a,6bに共通に連続する底面部7とを有する。」(段落【0009】)・「また,8は側溝蓋であり,図2にも示すように,これが上記上部垂直面部2a,2bに対し図3に示すような微小間隙G1を介して対峙するように配置される蓋上部垂直面部9a,9bと,これらの蓋上部垂直面部9a,9bに連続して下方に延設されて,上記傾斜面部3a,3bに対し線接触しながら対峙される蓋傾斜面部10a,10bおよびこれらの蓋傾斜面部10a,10bに連続して下方に延設されて,図3に示すように,上記下部垂直面部4a,4bに対して微小間隙G2を介して対峙される蓋下部垂直面部11a,11bとを有する。」(段落【0010】)・「また,この傾斜面部3a,3bの傾斜角度は40°〜80°の間の例えば64°とされ,蓋傾斜面部10a,10bの傾斜角度は例えば65°とされ,従って,各傾斜面部3a,3bと各下部垂直面部4a,4bとが連続する角部Pで,上記蓋傾斜面部10a,10bの下部が線接触している。」(段落【0012】)・「さらに,上記角部Pから水平面部5a,5bまでの高さは例えば11ミリとされ,その角部Pから側溝蓋8の下面までの高さは9ミリとされ ,従ってこの下面と上記水平面部5a,5bとの間には2ミリの間隙G3が残されることになる。ここで,水平面部5a,5bの水平方向の幅は例えば23ミリ程度とされる。」(段落【0013】)・「かかる構成になる側溝構造にあっては,側溝蓋8を側溝躯体1に嵌挿すると,その側溝蓋8の蓋傾斜面部10a,10bが,これの傾斜角度より小さい角度で傾斜する傾斜面部3a,3bに上記角部Pにて線接触するようにして支持される。」(段落【0015】)・「また,蓋傾斜面部10a,10bと傾斜面部3a,3bとの上記のような線接触および傾斜角によって,これらの傾斜面部3a,3bが相互に一方が他方に対し食い込むような楔効果を呈するため,上記線接触にも拘らず,側溝蓋8は側溝躯体1内において全くがたつきを生じることがなく,騒音公害の発生を確実に回避することができる。」(段落【0017】)・「そして,上記側溝蓋8の蓋下部垂直面部11a,11bは上記角部Pより下方に位置し,かつ側溝躯体1の下部垂直面部4a,4bとの間に微小間隙G2を保っているため,車両の車輪がその側溝蓋8上に載り上げ,その一部に集中的に荷重が作用して,その側溝蓋8が跳ね上がろうとする場合があっても,その蓋下部垂直面部11a,11bが対向する下部垂直面部4a,4bに衝合することとなるため,それ以上の跳ね上がりが規制され,大事故を引き起こすおそれはない。」(段落【0018】)・「また,側溝蓋8の蓋上部垂直面部9a,9bと側溝躯体1の上部垂直面部2a,2bとの間には間隙G1があるため,これらの間に砂や土が入ることがあっても,その間隙G1を利用することで,側溝蓋8の開閉操作が容易になる。」(段落【0019】)・「また,上記側溝躯体1の角部Pを含む所定幅の領域および/またはその領域に対応する側溝蓋8の蓋傾斜面部10a,10bに予めプラスチックや鋼材などからなる補強部材(図3において,H1,H2にて示す)を埋設しておくことで,閉蓋時における上記線接触部位での摩耗や欠落を確実に防止できることとなる。」(段落【0020】)(オ) 考案の効果・「以上のように,請求項1の考案によれば,側壁躯体に,対向する側溝壁内面に形成された上部垂直面部,該上部垂直面部に連続して下方に延設された傾斜面部および該傾斜面部に連続して下方に延設された下部垂直面部を設け,側溝蓋に,上記上部垂直面部に対し微小間隙を介して対峙される蓋上部垂直面部,該蓋上部垂直面部に連続して下方に延設されて,上記傾斜面部に対し線接触しながら対峙される蓋傾斜面部および該蓋傾斜面部に連続して下方に延設されて,上記下部垂直面部に微小間隙を介して対峙される蓋下部垂直面部を設けるように構成したので,車両等の走行重量に十分に耐える強度を持ちながら,側溝蓋の側溝躯体における嵌合状態をがたつきなく安定化させることができるとともに,蓋の跳ね上がりやこれに伴う事故を未然に回避でき,さらに,側溝蓋の側溝躯体に対する開閉操作を容易に行えるという効果が得られる。」(段落【0021】)(カ) 図面【図1】【図2】【図3】(2)ア以上の記載によれば,引用発明は,コンクリート側溝における側溝蓋のがたつきの発生を防止するため,側溝躯体1に「上部垂直面部2a,2bと,これらの上部垂直面部2a,2bに連続して下方に延設された傾斜面部3a,3bと,これらの傾斜面部3a,3bに連続して下方に延設された下部垂直面部4a,4b」(段落【0009】)を,側溝蓋8に「上記上部垂直面部2a,2bに対し…微小間隙G1を介して対峙するように配置される蓋上部垂直面部9a,9bと,これらの蓋上部垂直面部9a,9bに連続して下方に延設されて,上記傾斜面部3a,3bに対し線接触しながら対峙される蓋傾斜面部10a,10b」(段落【0010】)を設けた上,上記傾斜面部3a,3bの傾斜角度が40°〜80°となるように,すなわち「各傾斜面部3a,3bと各下部垂直面部4a,4bとが連続する角部P」の角度が130°〜170°となるようにして,この「角部Pで,上記蓋傾斜面部10a,10bの下部が線接触」する(段落【0012】)という構成を採用したものであることが認められる。そして,引用例1の図1〜図3によれば,蓋傾斜面部10a,10bが側溝蓋8及び側溝躯体1の中心線に対して対称な方向に傾斜していることが認められる。 イしたがって,審決が引用発明として「側溝蓋8と側溝躯体1との相互の接合面の一方が側溝蓋8および側溝躯体1の中心線に対して対称な方向に傾斜した蓋傾斜面部10aであり,他方である側溝躯体1側が浅い角度のV形断面よりなる角部Pであり,前記側溝蓋8は側溝躯体1の上部垂直部2aとの間に微小間隙G1を備えた状態で上記角部Pにて線接触するように置かれることによって側溝蓋のがたつきの発生を防止する側溝蓋を備えた,コンクリート側溝構造。」と認定したことに誤りはない。 ウそして,上記「…線接触するように置かれることによって側溝蓋のがたつきの発生を防止する」とは,同構成を採用することにより本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収され,これによって側溝蓋のがたつきの発生を防止するものであることは,前記(1)の記載に照らして明らかである。 そうすると,引用発明は,「蓋板と本体ブロックとの相互の接合面の一方がコンクリートブロックの中心線に対して対称な方向に傾斜した平面であり,他方が凸部分を有する形状であり,前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面との間に間隙を備えた状態で置かれ,本体側接合面と蓋側接合面との間の誤差が吸収されることを特徴とする,蓋板を備えたコンクリートブロック」であるということができるから,審決がこれを本願補正発明と引用発明との一致点として認定したことに誤りはない。 エまた,本願補正発明と引用発明との相違点に関しては,本願補正発明の構成中,「前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で当該本体ブロック上に幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」という構成については引用例1には記載されておらず,一方,上記構成を明示的に除外する記載もみられないから,審決が相違点2として引用発明が上記構成を備えているか不明である旨認定したことに誤りはない。 (3) 以上に対して原告は次のとおり主張するので,これらの主張について検討する。 アまず原告は,引用発明は側溝蓋8を側溝躯体1に嵌挿することで楔効果を生じさせるものであり,側溝蓋8が側溝躯体1に「置かれる」ものではないと主張する。 たしかに引用例1には,前記(1)で認定したとおり,「蓋傾斜面部10a,10bと傾斜面部3a,3bとの上記のような線接触および傾斜角によって,これらの傾斜面部3a,3bが相互に一方が他方に対し食い込むような楔効果を呈する」(段落【0017】)と記載されている。 しかし,ここに記載されている「楔効果」は,側溝蓋8に設けられた蓋傾斜面部10a,10bと側溝躯体1に設けられた傾斜面部3a,3bとが,傾斜面部3a,3bの傾斜角を40°〜80°とした状態で線接触した結果として生じる効果をいうものであって,上記線接触の点を捉えればこれを「置かれる」と表現することも可能であるから,この点に関する審決の認定が誤りであるとはいえない。 イまた原告は,本願補正発明における「間隙(20)」と引用発明における「微小間隙G1」とはその作用を異にすると主張する。 しかし,引用発明における「微小間隙G1」も間隙であるから,引用発明においても「蓋板は,本体ブロックの側壁内面との間に間隙を備えた状態で置かれ」ていることに変わりはない。 そして,引用発明における「微小間隙G1」が,原告が主張するように側溝蓋8の左右方向の移動を積極的に許容するものであるかどうかを判断することは,引用発明が「蓋板は,本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で当該本体ブロック上に幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,」という構成を有するかどうかを判断することにほかならないから,相違点2についての判断の当否として検討されるべきものである。 (4) 以上からすると,原告主張の取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(相違点1についての判断の誤り)について(1) 前記2(1)で認定したとおり,引用例1(甲1)には,「…側溝躯体1の角部Pを含む所定幅の領域および/またはその領域に対応する側溝蓋8の蓋傾斜面部10a,10bに予めプラスチックや鋼材などからなる補強部材…を埋設しておくことで,閉蓋時における上記線接触部位での摩耗や欠落を確実に防止できることとなる」(段落【0020】)と記載されており,引用発明において側溝蓋8に設けられた蓋傾斜面部10a,10bと側溝躯体1に設けられた傾斜面部3a,3bとが角部Pにおいて接触する際に,接触部位の摩耗や欠落を防止することが課題として示されている。 (2) ところで,円柱面と平面との接触が理論的には1つの直線で接する線接触となることは,甲2(「土木用語辞典」)においても「線支承」の説明として「平面と円柱面とのように,上下の両部分が理論的には1つの直線で接するものと考えられる支承」と記載されているように,本願前に周知の事項である。 (3) そこで,上記のとおり引用発明において接触部位の摩耗や欠落を防止することが課題とされていることや,引用発明における角部Pが130°〜170°という浅い角度であること(前記2(2)ア参照)に照らせば,このような浅い角度の角部Pに換えて円筒状の曲面を用いることは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易になしうるものである。 (4) したがって,審決が相違点1の容易想到性を肯定したことに誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。 4 取消事由3(相違点2についての判断の誤り)について(1) まず本願補正発明の「…前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で当該本体ブロック上に幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」(請求項1)という構成の技術的意義に関して争いがあるので,この点について検討する。 ア請求項1の上記記載からは,「間隙(20)を備えた状態で」「平行移動及び斜め移動可能に置かれ」「当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」との各事項がそれぞれどのような関係にあるのか明らかでない。 また,「平行移動及び斜め移動」,「当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」ことが,いつの時点で発生するのか(蓋板を本体ブロック上に載置するときか,載置後か)についても一義的に明確に理解することができない。 イそこで発明の詳細な説明の記載を参酌するに,本願明細書(甲5。ただし,第1次補正〔甲8〕及び本件補正〔甲10の4及び5〕による補正後のもの。以下同じ。)には,次の記載がある。 (ア) 発明の属する技術分野・「この発明は,U字溝ブロックや側溝ブロックなどのコンクリートブロックに関し,特に蓋板を備えたこの種のコンクリートブロックにおける蓋板と本体ブロックとの接合部の構造に関し,蓋板側と本体ブロック側の接合部の形状誤差により蓋板ががたついて騒音を発生するのを防止した上記部分の構造に関するものである。」(段落【0001】)(イ) 従来の技術・「コンクリートブロックは溶接構造の型枠で成形されるが,型枠の構造やコンクリートブロックという製品の性質上,機械加工した金属製品のような高い寸法精度を出すことは不可能である。そのため,蓋板を備えたコンクリートブロックにおいては,蓋側の接合面と本体ブロック側の接合面との寸法誤差により,蓋板が本体ブロック上でがたついて騒音を発生するという問題がある。」(段落【0003】)・「この騒音を防止する手段として,蓋板と本体ブロックとの接合部にゴムシートを取り付ける構造や,蓋板と本体ブロックとの接合面を傾斜面とした構造(実開昭63-18590号公報参照)や,蓋板と本体ブロックとの接合面を互いに幾何学的に相似な曲面に成形した構造(特開平6-248688号公報参照)などがある。」(段落【0004】)・「なお付言すれば,この種のコンクリートブロックの蓋板は,互いに平行な対向する両辺を本体ブロック側で支持する構造となっており,蓋板の捩じれ方向の形状誤差や本体ブロックの接合面の高さ方向の誤差によって,本体ブロック上に蓋板を載置したときに蓋板の一隅が浮いた状態となり,自動車等の通行によってその浮いた部分に荷重がかかったときに,蓋板ががたついて騒音を発生するのである。」(段落【0005】)(ウ) 発明が解決しようとする課題・「蓋板と本体ブロックとの接合面にゴム質の部材を設ける構造は,比較的多く採用されているが,摩耗や劣化などの耐久性の問題がある。蓋板と本体ブロックとの接合面を同一傾斜角の傾斜面や幾何学的に同一断面形状の曲面としたものは,両接合面が面接触することを前提としたものであるから,接合面の形状寸法に高い精度が要求され,特に接合面を曲面とした構造では,型枠の製造に際して曲率半径や曲率中心の位置精度も管理しなければならないため,所望の精度を有する型枠を製造するのが困難である。」(段落【0006】)・「この発明は,上述した種々の従来構造の問題点に鑑み,蓋板と本体ブロックとの接合面の形状相互の間にある程度の誤差があっても,蓋板が自動調心された状態で本体ブロック上に載置されることにより接合面のがたが吸収され,従って型枠の精度をあまり高くしなくても,騒音を発生しない蓋板付きのコンクリートブロックを得ることができるようにすることを課題としている。」(段落【0007】)(エ) 作用・「この発明のコンクリートブロックは,蓋板3と本体ブロック2の接合面9,14相互が円筒面と平面とで接触することを基本形態としている。そしてその接合面の一方9をコンクリートブロックの中心線Pに対して対称な方向に傾斜する傾斜面としたため,蓋板3の捩じれや本体ブロックの接合面9の高さ方向の誤差は,蓋板の左右方向のずれにより自動的に吸収され,円筒面と平面の接触状態が確保される。また接合面の一方が平面で他方が円筒面であるため,平面とした側の傾斜角や円筒面とした側の曲率中心や曲率半径の誤差は,両接合面の接触状態を確保する際の障害とはならない。」(段落【0011】)・「従って,単に両ブロックの接合面相互の長手方向の直線度だけを管理してやれば,本体ブロック2上に載置された蓋板3は,自動調心されるので,型枠の製造及び製品の精度管理が非常に容易になり,かつ蓋板のがたを防止できるという特徴がある。」(段落【0012】)・「上記作用は,平面上に円筒を置いたとき,その円筒の曲率半径がどのようであっても,また円筒をどのような向きに置いても,また円筒をころがしても,さらには円筒が円錐であっても,円筒面と平面との接触が変わらないことを考えれば明らかに理解できるところである。」(段落【0013】)(オ) 発明の実施の形態・「図1及び図2は,本発明の第1実施例を示したものである。この実施例のコンクリートブロックは,水路1を有するU字溝ブロック2と水路1を閉鎖する2枚一組の蓋板3とを備えている。」(段落【0017】)・「U字溝ブロック2は,底部4と両側壁部5とによって水路1を形成しており,側壁部の上面6の水路側稜線部は,断面逆へ字形に切り欠かれており,この切欠は,抜き勾配を有する内面8と,この内面の下縁から内側に低く傾斜して延びる接合面9とを形成している。両側の内面8及び接合面9はU字溝ブロック2の中心線Pに対して対称である。」(段落【0018】)・「一方蓋板3は,平面視で幅が側壁部の内面8相互の間隔より若干狭く,長さは通常,溝ブロックの2分の1〜4分の1で,図示実施例のものは長さが2分の1の矩形形状である。蓋板3は側壁部の内面8と平行な側面11を有しており,蓋板の上面12と下面13とは平行である。下面13と側面11とが連なる部分は,部分円筒状の接合面14となっている。蓋板3の肉厚は,接合面14が側壁部の接合面9に当接したときに蓋板の上面12とU字溝ブロックの上面6とが同一平面となる厚さである。」(段落【0019】)・「図6ないし図8はこの発明の第5実施例を示したものである。…」(段落【0024】)・「…蓋板3の側面11の長手方向中央には,開口の内面8相互の間隔と蓋板3の幅の差の半分(蓋板3を開口19の丁度中心に置いたときに,蓋板の側辺11と開口の内面8との間に形成される間隙20の寸法)より小さい突出量の突起21が設けられている。」(段落【0025】)・「この突起21は本体ブロック2に蓋板3を置いたときの蓋板3の幅方向の平行移動を抑止する。この発明のコンクリートブロックにおいては,本体側接合面14と蓋側接合面9との間に誤差があったときの蓋板3のがたつきは,図8に示すように,蓋板3の長手方向中心Qが本体ブロックの中心線Rに対して平面視でわずかに斜めになることによって吸収される。一方本体ブロック2に対する蓋板3の幅方向の平行移動は,蓋板3の上面を幅方向に若干傾斜させる作用を有するのみで,がたつきの防止には直接寄与しない。蓋板3の中央部における幅方向移動を抑止する突起21を設けることにより(突起21は場合により本体ブロック側に設けることもできる),蓋板3が本体ブロック2上で無用に移動するのを防止することができる。」(段落【0026】)(カ) 図面【図1】【図2】【図8】ウ(ア) 以上の記載によれば,本願補正発明は,U字溝ブロックや側溝ブロックなどのコンクリートブロックを溶接構造の型枠を用いて成形する際に,高い寸法精度を出すことが困難であるという性質に鑑み,蓋板と本体との接合面にある程度の寸法誤差があっても,誤差が吸収されて蓋板が本体ブロック上でがたつかないコンクリートブロックを得ることを目的としたものである。 (イ) そして,上記の目的を達成するために,「蓋板(3)と本体ブロック(2)との相互の接合面(9,14)の一方(9)がコンクリートブロックの中心線(P)に対して対称な方向に傾斜した平面であ」るという構成を採用することにより,蓋板3の捩じれや本体ブロックの接合面9の高さ方向の誤差が蓋板の左右方向のずれにより自動的に吸収されるようにし,「接合面(9,14)の一方(9)が…平面であり,他方(14)が中凸部分円筒状の曲面であ」るという構成を採用することにより,平面とした側の傾斜角や円筒面とした側の曲率中心や曲率半径の誤差が両接合面の接触状態を確保する際の障害とならないようにした(請求項1,段落【0011】参照)。 また,本体側接合面と蓋側接合面との間に誤差があったときの蓋板3のがたつきは,蓋板の長手方向中心Qが本体ブロックの中心線Rに対して平面視でわずかに斜めになることによって吸収されるが,これに寄与するのは本体ブロックに対する蓋板の斜め移動のみであり,蓋板の幅方向の平行移動は,蓋板の上面を幅方向に若干傾斜させる作用を有するものにすぎない(段落【0026】参照)。 なお,蓋板と本体ブロックの側壁内面との間に備えられた間隙(20)の果たす役割については本願明細書に明示的に記載されていないが,蓋板と本体ブロックの側壁内面との間に蓋板の移動を許容するだけの間隙がなければ蓋板の平行移動及び斜め移動は可能とならないことから,上記間隙(20)は蓋板の平行移動及び斜め移動を許容するものと理解される。 (ウ) 以上を踏まえて本願補正発明の「…前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で当該本体ブロック上に幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」との構成をみると,「間隙(20)を備えた状態で」とは蓋板の平行移動及び斜め移動を許容する間隙があることを意味し,「当該本体ブロック上に幅方向に…斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」とは,蓋板の斜め移動が可能である結果,蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになるという作用が働くことを意味するものである。そして,「当該本体ブロック上に幅方向に平行移動…移動可能に置かれ」との構成は,蓋板の上面を幅方向に若干傾斜させる作用により,「蓋板(3)と本体ブロック(2)との相互の接合面(9,14)の一方(9)がコンクリートブロックの中心線(P)に対して対称な方向に傾斜した平面であ」るという構成と相まって,蓋板の捩じれや本体ブロックの接合面の高さ方向の誤差を吸収するものである。 (エ) ところで,本願補正発明の有する上記各作用が,蓋板を本体ブロック上に載置するときに生じるものであるか,載置した後に生じるものであるかに関して,原告は,載置後の作用を意味するものであると主張する。 aしかし,本願補正発明の有する各作用が蓋板を本体ブロック上に載置した後に生じることをうかがわせる記載は,本願明細書の発明の詳細な説明中に存在しない。 むしろ,本願明細書に「この発明は,…蓋板と本体ブロックとの接合面の形状相互の間にある程度の誤差があっても,蓋板が自動調心された状態で本体ブロック上に載置されることにより接合面のがたが吸収され…ることを課題としている」(段落【0007】)と記載されていることに照らせば,蓋板を本体ブロック上に載置するときに本願補正発明の作用が働くことも含まれていると解することができる。 そうすると,本願補正発明は,その作用が生じるのが蓋板の載置時であるか載置後であるかについて限定していないものというべきである。 bこれに対し原告は,本願明細書の図面における接合面の一方の傾斜角度が約35度であることを挙げ,このような小さな角度では摩擦が働いて蓋板は斜面の上で滑り落ちにくくなるが,蓋板を本体ブロック上に載置した後に人や車に踏まれることによって蓋板が本体ブロック上で上下振動し,「斜面に置いた物が静止していても,斜面をとんとん叩くと物が斜面の下へと滑ってゆく」のと同じ原理に基づき,本体側接合面と蓋側接合面との誤差が吸収されるものであると主張する。 しかし,本願明細書の発明の詳細な説明には,本願補正発明における蓋板と本体ブロックとの相互の接合面の一方の傾斜角度については全く記載されておらず,単に実施例を示す図面において上記傾斜角度が約35度となるように記載されているものにすぎないから,これをもって本願補正発明が蓋板を載置した後の外力によってその作用が生じることの根拠とすることはできない。 cまた原告は,その主張の根拠として,本願明細書に「この間隙18の寸法が蓋板3の捩じれやU字溝ブロック2の高さ方向の誤差を吸収するのに必要十分な間隙となるように設計すれば,不測の外力によって蓋板3が幅方向にずれたとき,そのずれ幅を間隙18の範囲内に制限することができ,蓋板3が必要以上にずれるのを防止することができる」(段落【0023】)と記載されていることを指摘する。 しかし,ここにいう「間隙18」は,V字形の溝17の他方の傾斜面と突条16との間に形成されるものであって(段落【0023】,下記図面〔本願明細書の図3〕参照),本願補正発明の構成とは関係のないものである。 【図3】(2) 次に,引用発明において蓋板を載置するときに本願補正発明におけるような作用が生じているかどうかについて,被告は引用発明においても蓋板を載置する際に自動調心作用が働くと主張するので,この点について検討する。 ア前記2(1)(2)において認定したとおり,引用発明は,精度の高い鋼製型枠を用いることなく側溝蓋のがたつきの発生を防止するという点で本願補正発明と共通の目的を有するものであり,その目的を達成するために,側溝蓋8に設けられた蓋傾斜面部10a,10bと側溝躯体1に設けられた傾斜面部3a,3bとが角部P(傾斜面部3a,3bとこれに連続して下方に延設された下部垂直面部4a,4bとからなる角部)において接触するという構成を採用し,かつ,傾斜面部3a,3bの傾斜角度を40°〜80°とすることによって,蓋傾斜面部10a,10bと傾斜面部3a,3bとが相互に一方が他方に食い込むような楔効果を生じさせることとしたものである(引用例1,段落【0012】,【0017】参照)。 イここで,蓋傾斜面部10a,10bと角部Pとの接触は,本願補正発明における平面と円筒状の曲面との接触と(摩耗や欠落のしやすさという点では異なるものの)ほぼ同様の作用を有するものであり,また,引用発明における蓋傾斜面部10a,10bは側溝蓋8及び側溝躯体1の中心線に対して対称な方向に傾斜しているから,この点においても本願補正発明と共通するものである。一方,傾斜面部3a,3bの傾斜角度を40°〜80°とすることによる楔効果は,本願補正発明にみられない引用発明独自の作用である(これに対し,被告は本願補正発明においても楔効果を生じると主張するが,楔効果が生じるかどうかは傾斜面部の傾斜角度や摩擦係数などの条件によって異なるところ,本願補正発明におけるこれらの条件は明らかではないから,本願補正発明において必ず楔効果が生じるとはいえない。)。 ウそして,引用発明における「微小間隙G1」が本願補正発明における「間隙(20)」のような,蓋板の平行移動及び斜め移動を許容するものであるかについては,引用例1の「…側溝蓋8の蓋上部垂直面部9a,9bと側溝躯体1の上部垂直面部2a,2bとの間には間隙G1があるため,これらの間に砂や土が入ることがあっても,その間隙G1を利用することで,側溝蓋8の開閉操作が容易になる」(段落【0019】)との記載から,側溝蓋の開閉操作を容易にするだけの幅を有するものであることは理解されるものの,その具体的な寸法や,蓋板の左右方向の移動との関係については引用例1に記載がない。 もっとも,引用例1の図3では,間隙G1は間隙G3とほぼ同様の大きさに記載されており,G3の寸法が2ミリとされている(段落【0013】)ことや,明細書中でも「微小間隙」という語で表されていること(請求項1,段落【0007】,【0010】)に照らせば,引用例1に開示されているのはおよそ2ミリ程度の大きさの微小間隙を設けることにとどまるものといえる。 そして,JIS規格において落ちふた式U型側溝の寸法許容差が±3ミリとされていること(甲4)に照らせば,2ミリ程度の寸法は許容される誤差程度のものであって,これが本願補正発明における「間隙(20)」と同様に蓋板の平行移動及び斜め移動を許容するものであるとは直ちにいい難い。 エしたがって,引用発明は,蓋傾斜面部10a,10bと角部Pとの接触や,蓋傾斜面部10a,10bが対称な方向に傾斜しているという点では,本願補正発明と共通する面はあるものの,本願補正発明における「前記蓋板は,本体ブロックの側壁内面(8)との間に間隙(20)を備えた状態で当該本体ブロック上に幅方向に平行移動及び斜め移動可能に置かれ,当該蓋板の長手方向中心線(Q)が本体ブロックの中心線(R)に対して平面視で斜めになる」という構成及び作用を有するものかどうかは,引用例1の記載からは不明であるというほかない。 (3) そこで, 引用発明における「微小間隙G1」を拡げて本願補正発明における「間隙(20)」と同様に蓋板の平行移動及び斜め移動を許容するものとし,相違点2にかかる構成を備えることが当業者に容易であるかについて更に検討する。 ア既に認定したとおり,引用発明は,平面と角部との接触や,傾斜面を対称にするなどの本願補正発明と類似の構成のほかに,傾斜面部3a,3bの傾斜角度を40°〜80°とすることにより蓋傾斜面部10a,10bと傾斜面部3a,3bとが相互に一方が他方に食い込むような楔効果を生じさせるものであり,この楔効果は本願補正発明にはみられない引用発明独自の効果である。換言すれば,引用発明は本願補正発明とは異なる上記構成を採用することにより,側溝躯体1側の接合面と側溝蓋8側の接合面との間の誤差を吸収するという発明の目的を達成しているものである。 そうすると,引用発明においては更に側溝蓋8の斜め移動を可能として自動調心作用を働かせる必要はなく,引用発明における「微小間隙G1」を拡げて蓋板の平行移動及び斜め移動を許容するものとする動機付けは存在しない。 イさらに,コンクリート側溝の蓋板は,その上を人や車両が通行するのであるから,蓋板が無用に移動するのは必ずしも好ましいことではないと考えるのは,自然なことである。 この点について,本願明細書には「…本体ブロック2に対する蓋板3の幅方向の平行移動は,蓋板3の上面を幅方向に若干傾斜させる作用を有するのみで,がたつきの防止には直接寄与しない。蓋板3の中央部における幅方向移動を抑止する突起21を設けることにより…,蓋板3が本体ブロック2上で無用に移動するのを防止することができる」(段落【0026】)と記載されており,蓋板の幅方向の平行移動は必ずしも好ましいものではないことが指摘されている。 そうすると,引用発明において間隙G1を微小なものとしたのは,側溝蓋8が側溝躯体1上で幅方向に平行移動することを抑止しつつ,側溝蓋8の開閉操作を容易にする限度で間隙を備えることとしたものと解することができる。 したがって,既に独自の構成によって側溝躯体1側の接合面と側溝蓋8側の接合面との間の誤差を吸収するという発明の目的を達成している引用発明において,あえて蓋板の幅方向の平行移動を可能とするような構成を採用することは考え難い。 ウ以上のことから,引用発明において相違点2に係る構成を採用することは,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が容易になしうるものとはいえず,相違点2について容易想到性を肯定した審決の判断は誤りである。 (4) したがって,原告主張の取消事由3は理由がある。 5 結語よって,引用例1との関係で容易想到性を肯定し本件補正を却下した審決は違法であることになるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理由があるから認容して,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 今井弘晃 |
裁判官 | 清水知恵子 |