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関連審決 不服2004-13924
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  慣用技術 /  発明の詳細な説明 /  技術的特徴 /  パリ条約 /  優先権 /  優先日 /  技術的意義 /  均等 /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10311号 審決取消請求事件
原告トムソンコンシユーマエレクトロニクスインコーポレイテツド
訴訟代理人弁理士伊東忠彦,湯原忠男,大貫進介,伊東忠重
被告特許庁長官鈴木隆史
指定代理人山川雅也,杉野裕幸,岩崎伸二,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-13924号事件について平成19年4月16日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が特許出願をして拒絶査定を受け,これを不服として審判請求をしたところ,請求が成り立たないとの審決がされたので同審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(争いのない事実)原告は,発明の名称を「カラー受像管フェースプレートパネル」とする発明について,平成9年4月22日(パリ条約による優先権主張:1996年4月25日,米国)に特許出願(以下「本件出願」という。)をし,平成16年2月26日,手続補正(以下「本件補正」という。)をしたが,同年4月1日付けで拒絶査定を受けたので,同年7月5日,同拒絶査定に対する不服審判を請求した。
特許庁は,上記請求を不服2004-13924号事件として審理し,平成19年4月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年5月8日,原告に送達された。
2発明の要旨本件出願に係る発明は,本件補正後の明細書(甲4,7。以下「本願明細書」という。)における特許請求の範囲の請求項1に記載されたものであり,その要旨は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」という。なお,請求項の数は1個である。)「【請求項1】フェースプレートパネルと,ファンネルと,ネックとからなるガラスの外被を含み,該フェースプレートパネルは,透明な矩形のフェースプレート及び周辺の側壁を含み,該側壁は,2つの長辺と,2つの短辺と,4つの隅と,該ファンネルに封止されるシール部とを有し,該側壁は製造の間の型からの該パネルの除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を有し,該側壁の少なくとも該隅は減少された厚さを有し,それにより該フェースプレートパネルのスクリーンは拡大され,該側壁のシール部の幅は該パネルの周りに沿って変化し,該側壁のシール部の最も広い部分は該パネルの辺に沿って配置されるとともに該側壁のシール部の最も狭い部分は該パネルの隅に配置され,該パネル側壁のシール部の幅は,該パネルの隅において,該パネルの辺よりも5%乃至17%だけ少なく,それにより該長辺,短辺,及び隅に沿って適切な量の機械的強度が保たれる,カラー受像管。」3審決の理由の要旨審決は,本願発明は,特開平7-320661号公報(甲1。以下「引用例」という。)記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
審決が上記結論に至った理由は,以下のとおりである。なお,審決の引用部分においても,本判決の略語表記を用いる。
(1)引用発明の内容引用例には,次の発明が記載されているものと認められる。
「ガラスパネル3と,ガラスファンネル6と,ガラスネック5とからなるガラスの外囲器を含み,該ガラスパネル3は,透明な矩形のフェースプレート1及び周辺のウォール部2を含み,該ウォール部2は,2つの長辺と,2つの短辺と,4つのコーナと,該ガラスファンネル6に封止される開口端面4とを有し,該ウォール部2の少なくとも該コーナは薄くされた肉厚を有し,それにより該ガラスパネル3の蛍光面は広くされ,該ウォール部2の開口端面4の肉厚は該ガラスパネル3の周りに沿って変化し,該ウォール部2の開口端面4の肉厚9mm部分は該ガラスパネル3の長辺および短辺に沿って配置されるとともに該ウォール部2の開口端面4の肉厚3mm部分は該ガラスパネル3のコーナに配置され,該ガラスパネル3ウォール部2の開口端面4の肉厚は,該ガラスパネル3のコーナにおいて,該ガラスパネル3の長辺および短辺よりも66.67%だけ少なく,それにより,真空ストレスがもっとも高くなるフェースプレートのウォール部の長辺の中央部付近で従来に比して約9%増加し,外囲器外面加傷試験でも従来の外囲器と同様の耐圧試験で3kg/c?u以上の耐圧強度を確保できる,色識別のためのシャドウマスクを有する陰極線管。」(2)本願発明と引用発明との一致点及び相違点の認定本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明における「ガラスパネル3」,「ガラスファンネル6」,「ガラスネック5」,「外囲器」,「フェースプレート1」,「ウォール部2」,「長辺」,「短辺」,「コーナ」,「開口端面4」は,それぞれ,本願発明における「フェースプレートパネル」,「ファンネル」,「ネック」,「外被」,「フェースプレート」,「側壁」,「長辺」,「短辺」,「隅」,「シール部」に相当する。
そして,引用発明における「薄く」,「肉厚」,「蛍光面」,「広く」は,それぞれ,本願発明における「減少」,「厚さ」,「スクリーン」,「拡大」に相当する。
さらに,引用発明における「肉厚」,「肉厚9mm部分」,「長辺および短辺」,「肉厚3mm部分」,「ガラスパネル3ウォール部2」,「色識別のためのシャドウマスクを有する陰極線管」は,それぞれ,本願発明における「幅」,「最も広い部分」,「辺」,「最も狭い部分」,「パネル側壁」,「カラー受像管」に相当する。
また,引用発明における「真空ストレスがもっとも高くなるフェースプレートのウォール部の長辺の中央部付近で従来に比して約9%増加し,外囲器外面加傷試験でも従来の外囲器と同様の耐圧試験で3kg/c?u以上の耐圧強度を確保できる」は,本願発明における「該長辺,短辺,及び隅に沿って適切な量の機械的強度が保たれる」に相当する。
したがって,両者は,「フェースプレートパネルと,ファンネルと,ネックとからなるガラスの外被を含み,該フェースプレートパネルは,透明な矩形のフェースプレート及び周辺の側壁を含み,該側壁は,2つの長辺と,2つの短辺と,4つの隅と,該ファンネルに封止されるシール部とを有し,該側壁は製造の間の型からの該パネルの除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を有し,該側壁の少なくとも該隅は減少された厚さを有し,それにより該フェースプレートパネルのスクリーンは拡大され,該側壁のシール部の幅は該パネルの周りに沿って変化し,該側壁のシール部の最も広い部分は該パネルの辺に沿って配置されるとともに該側壁のシール部の最も狭い部分は該パネルの隅に配置され,該パネル側壁のシール部の幅は,該パネルの隅において,該パネルの辺よりも少なく,それにより該長辺,短辺,及び隅に沿って適切な量の機械的強度が保たれる,カラー受像管。」である点で一致し,次の点で相違する。
ア相違点1「本願発明では,側壁が,製造の間の型からのパネルの除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を有しているのに対して,引用発明では,ウォール部2(側壁に相当。)が,製造の間の型からのガラスパネル3(パネルに相当。)の除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を有しているかどうか不明である。」イ相違点2「本願発明では,パネル側壁のシール部の幅が,パネルの隅において,パネルの辺よりも5%乃至17%だけ少ないのに対して,引用発明では,ガラスパネル3ウォール部2の開口端面4の肉厚(パネル側壁のシール部の幅に相当。)が,ガラスパネル3のコーナ(パネルの隅に相当。)において,ガラスパネル3の長辺および短辺(パネルの辺に相当。)よりも66.67%だけ少ない。」(3)相違点についての判断ア相違点1について「一般に,製品に,製造の間の型からの製品の除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を設けることは,周知であるから(例えば,特開平4-55047号公報の記載「このボルト孔形成用中子14は,抜け勾配を有したテーパ状に形成され,」(2頁左上欄12〜13行),特開平7-323085号公報の記載「筒体部の形状を,・・・テーパ状とすることにより,・・・成型品の金型からの抜き取り性を良好とし,」(1頁左欄【構成】),参照。),引用発明におけるガラスパネル3においても,そのウォール部2が,製造の間の型からのガラスパネル3の除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を有するように構成することは,当業者が容易になし得ることである。」イ相違点2について「引用発明は,ガラスパネル3のコーナの肉厚を,長辺および短辺のそれよりも66.67%だけ小さくしたものであるが,これは,『図3に示すように,従来の陰極線管外囲器において,ガラスパネル7の開口端面からフェースプレート8にかけてかかる真空ストレスは,開口端面の長辺や短辺に比してコーナでは小さい(曲線9)。さらに,ガラスパネルのウォール部の外周面に補強バンドを装着して外囲器を締め付けると,前記コーナの真空ストレスは圧縮方向になる(曲線10)。一般に,ガラス材料は引っ張り方向のストレスには弱いが,圧縮方向のストレスには強いので,コーナは強くなるということになる。』(上記(1-1)参照。判決注:引用例の発明の詳細な説明の段落【0003】の記載)という事実に基づいてなされたものである。
このため,66.67%の値はこれに限定されるものではなく,66.67%の値が大きすぎて,『適切な量の機械的強度』が保たれないと判断されれば,当業者は,この値を小さな値に変更することができ,そして,その値をどのような値にするかは,要求される『適切な量の機械的強度』に依存する。
したがって,引用発明において,ガラスパネル3ウォール部2の開口端面4の肉厚(パネル側壁のシール部の幅に相当。)が,ガラスパネル3のコーナ(パネルの隅に相当。)において,ガラスパネル3の長辺および短辺(パネルの辺に相当。)よりも5%乃至17%だけ少ないように構成することは,『適切な量の機械的強度』を考慮して,当業者が適宜決定しうる設計事項にすぎない。
そして,本願発明の効果は,引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が予測可能な範囲内のものである。
したがって,本願発明は,引用発明及び上記周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」第3審決取消事由の要点審決は,各相違点についての判断を誤り,また,本願発明と引用発明との相違点を看過したものであり,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)(1)審決は,特開平4-55047号公報(甲2。以下「周知例1」という。)及び特開平7-323085号公報(甲3。以下「周知例2」という。)を引用し,「製品に,製造の間の型からの製品の除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を設けること」(以下,この技術事項を「除去容易のための内面傾斜」ということがある。)は周知であるから,引用発明におけるガラスパネル3においても,そのウォール部2が除去容易のための内面傾斜を有するように構成することは,当業者が容易になし得ることであると判断したが,誤りである。
(2)本願優先日当時,本願発明の属するカラー受像管製造の技術分野において,形成プランジャの除去(すなわち,パネルの除去)を容易にするためにパネル側壁内面の傾斜が重要であることは知られておらず,まして周知ではなかった。
審決が引用する周知例1及び周知例2は,それぞれ遠心鋳造による鋳鉄方法(周知例1)及び熱可塑性樹脂性のシリンジ外筒を生産する方法(周知例2)を開示する文献であり,いずれもカラー受像管における形成プランジャの除去を容易とするためにパネル側壁の内面に傾斜を設けることを開示していない。鉄(周知例1)及び樹脂(周知例2)とガラスとは,それらの物理的特性等が全く異なるので,本願発明と技術分野の異なる周知例1,2を引用することにより,ガラス製のカラー受像管のパネル側壁に除去容易のための内面傾斜を設けることが周知であったということはできない。
また,ガラス製のカラー受像管において,プランジャ除去を容易とするためにパネル側壁の内面に傾斜を設けることが周知であったというためには,プランジャ除去を容易とするためにカラー受像管のパネル側壁内面に傾斜を設けることを示す文献を複数引用する必要があるが,審決はそのような引用をしていない。
したがって,引用発明のガラスパネル3において,そのウォール部2が,除去容易のための内面傾斜を有するように構成することは,当業者が容易になし得ることであるとした審決の判断は誤りである。
(3)また,仮に審決が認定するように,周知例1,2により除去容易のための内面傾斜を設けるという技術が周知であったといえるとしても,引用例には,ガラスパネル3の除去容易性に関する課題が全く示されていないから,引用発明において,ガラスパネル3のウォール部2が除去容易のための内面傾斜を有するように構成することは,当業者が容易になし得ることではない。
さらに,本願発明から得られる,形成プランジャの除去(すなわち,パネルの除去)を容易にするという効果は,引用例に示唆もされていない。
(4)被告は,特開昭48-19614号公報(乙1),特開昭50-60555号公報(乙2),特開昭62-186447号公報(乙3),特開平6-263472号公報(乙4)及び特開平7-53233号公報(乙5)に示されるように,型抜き製造全般において,「製品に,製造の間の型からの除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を設ける」という技術事項は周知技術であると主張する。
しかしながら,乙第1ないし第5号証のいずれにおいても本願発明のようなブラウン管用パネルの側壁に除去容易のための内面傾斜を設けるという技術事項は記載されていない。
したがって,仮に,本願発明に係るカラー受像管のようなブラウン管用パネルが成形プランジャを用いた型抜き製造によって製造されることが周知であったとしても,カラー受像管のフェースプレートパネルの側壁が,製造の間の型からの該パネルの除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を有するように構成することは容易ではない。
(5)乙第1ないし第5号証は,これらを引用しなければ本願発明の進歩性を否定する主張を展開できないような証拠であるが,このような証拠を不服審判請求の審理中に引用せず,本件訴訟において初めて提出することは許されない。
また,本件不服審判の審理において乙第1ないし第5号証を引用しなかったことは,不服審判の審理時に周知性の立証をせず,かつ,原告に適切な反論の機会を保障しなかったことになるから,審決には手続違背の違法がある。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について(1)審決は,引用発明において,ガラスパネル3のウォール部2の開口端面4の肉厚が,ガラスパネル3のコーナにおいて,ガラスパネル3の長辺及び短辺よりも5%ないし17%だけ少ないように構成することは,「適切な量の機械的強度」を考慮して,当業者が適宜決定し得る設計事項にすぎないと判断したが,誤りである。
(2)引用発明の主目的はコストを低減することであり(引用例の段落【0006】),ガラスパネルを薄くすることの目的はコスト低減にある。すなわち,引用発明においては,コストを低減するために,ウォール部2のコーナーの肉厚を9?oから3?oへと1/3にして66.67%薄くした(引用例の段落【0012】)。
しかも,ウォール部2の開口端面のみではなく,ウォール部2の全体,すなわち,フェースプレート1に接する部分から軸方向に延びた開口端面までの全体にわたって3?oに薄くする(引用例の段落【0010】,【0012】)ことによりコスト低減効果を増大させている。さらに,ガラスパネル3だけでなく,ガラスファンネル6についても,各コーナの肉厚を3?oに薄くすることにより,コスト低減効果を増大させている。
このように,引用発明においては,各コーナにおいてウォール部2全体及びファンネル6を薄くすることにより,これらの各コーナにおける材料コストを1/3に減少させている。
(3)これに対し,本願発明においては,特許請求の範囲の請求項1に記載のとおり,パネル側壁のフェースプレートに接する部分からシール部までの全体ではなく,パネル側壁のシール部の幅のみをパネルの隅において5%ないし17%だけ少なくすることにより,適切な量の機械的強度を保ち,一方,パネル側壁のフェースプレートに接する部分における幅は,製造の間の型からのパネルの除去を容易とするのに十分大きい内面の傾斜を有するように決定されるのであり,これらの技術的特徴は,引用例及び周知例1,2のいずれにも開示されていない。
(4)上記のとおり,引用発明がガラスパネル3及びガラスファンネル6の厚さを薄くする目的はコスト低減にあるのに対し,本願発明がパネル側壁のシール部を薄くする目的は,カラー受像管の機械的強度を保ちつつスクリーン領域を伸張することにある(本願明細書段落【0006】)のであり,両者は,パネルを薄くすることの課題ないしは技術的意味が異なるのであるから,コスト低減を主目的とする引用発明に基づいて,そのコスト低減の効果を無視して,引用発明の開口端面の肉厚を66.67%の減少から本願発明の「5%乃至17%」の減少に増大させることは,当業者が採用し得ないことである。
さらに,後記3の取消事由3において主張するように,本願発明においては,ファンネルのシール部の幅は変化せず一定であるのに対し,引用発明においては,ガラスファンネルの幅は場所により変化しており,この点を考慮すると,コスト低減の効果を無視して,引用発明の開口端面の肉厚を66.67%の減少から本願発明の「5%乃至17%」の減少に増大させ,かつ,引用発明のガラスファンネルの開口端面の肉厚を66.67%の減少から本願発明のように変化なしとして増大させることは,当業者にとって決して容易ではない。
(5)引用発明において,ガラスパネルのコーナにおけるウォール部の肉厚を66.67%の減少ではなく,「5%乃至17%」だけ少ないように構成することは,両者の減少割合があまりにもかけ離れているから単なる設計事項であるとはいえないし,引用発明においては,機械的強度を考慮した上で肉厚を66.67%減少させるとの構成を採用したのであるから,それをわざわざ「5%乃至17%」の減少へと厚さを増大させることは当業者にとって容易ではない。
(6)さらに,審決は,引用例の記載を離れ,引用発明において,「66.67%の値はこれに限定されるものではなく」と判断しているが,引用例には,66.67%の値はこれに限定されるものではない旨の記載はないから,審決の判断は誤りである。
3取消事由3(相違点の看過)について(1)審決は,本願発明と引用発明との間のファンネルの幅に関する相違点を看過した結果,本願発明の進歩性を誤って否定したものであるから,違法として取り消されるべきである。
(2)本願発明においては,パネル側壁のシール部の幅は,該パネルの隅において,該パネルの辺よりも5%ないし17%だけ少なく構成しているが,ファンネルのシール部の厚さは変化せず一定である。このことは,特許請求の範囲の請求項1において,パネル側壁シール部の幅の変化の記載はあるが,ファンネルの幅の変化の記載はないこと,本願明細書には「本発明による新しい管では,従って,図6に示されるように,パネルのシール部はパネルの辺L及びSに沿って最も広く,図7に示されるように,パネルの隅において最も狭い。」(段落【0008】)と記載され,ファンネルの幅は,パネルの辺L及びSに対応する箇所(図6)においても,パネルの隅に対応する箇所(図7)においても同じであることから,明らかである。
(3)一方,引用発明においては,「この開口端面のコーナ肉厚を他の箇所の肉厚に比して薄くしたガラスファンネル」(引用例の段落【0007】)と記載されているように,ガラスファンネルの肉厚は場所により変化している。
(4)以上のように,本願発明と引用発明との間には,ファンネルの幅の変化に関して相違点があるにも拘わらず,審決はこの相違点を看過しているから,違法であり,取り消されるべきである。
第4被告の反論の要点1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)に対して(1)本願発明のカラー受像管のようなブラウン管用パネルが,成形プランジャを用いた型抜き製造によって製造されることは,特開昭48-19614号公報(乙1),特開昭50-60555号公報(乙2),特開昭62-186447号公報(乙3),特開平6-263472号公報(乙4)及び特開平7-53233号公報(乙5)に示されるように周知である。
また,一般に,製品に,製造の間の型から製品の除去を容易とするのに十分に大きい傾斜を設けることも周知である。このことは,「成形後のパネル11を取り出すべく,各型抜きを行なうためには,・・・テーパが必要となる。」(乙3の2頁右欄3〜5行),「プランジャー3の抜け勾配」(乙4の段落【0003】),「プランジャー3の抜け勾配」(乙5の段落【0003】)と記載されているように,ブラウン管用パネルにおいても例外ではない。
したがって,審決が「引用発明におけるガラスパネル3においても,そのウォール部2が,製造の間の型からのガラスパネル3の除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を有するように構成することは,当業者が容易になし得ることである。」と判断したことに誤りはない。
(2)原告は,周知例1,2の製品は,本願発明に係るガラス製のカラー受像管とは物理的特性等が異なるから,各周知例に示された「製品に,製造の間の型からの除去を容易とするのに十分に大きい内面の傾斜を設ける」という技術事項がガラス製のカラー受像管においても周知であったとはいえないと主張する。
しかし,上記の技術事項は,型抜き製造全般に当てはまる周知技術である。そして,前記(1)のとおり,ブラウン管が型抜きで製造されることは周知であるから,引用例のガラスパネルを型抜きで製造することは当業者が容易に想定し得ることである。そうすると,型抜き製造において型からの製品の除去を容易にするというのは,自明の課題であるから,引用発明に上記周知技術を適用することは困難ではない。
(3)したがって,審決の相違点1についての判断に誤りはない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)に対して(1)原告は,引用発明は,コスト削減を主目的とするものであるから,引用発明において,コスト低減の効果を無視してガラスパネル3の各コーナの肉厚を5%ないし17%程度だけ薄くするように構成することは当業者にとって容易ではないと主張するが,引用例の段落【0006】及び【0014】の記載によれば,引用発明は,「コストを低減」だけでなく,「ガラスパネルおよびガラスファンネルの両コーナの肉厚を薄くすることにより,ガラス耐圧強度を保ちながら,有効径を拡大する」ことをも目的とするものであるから,発明の目的がコスト削減のみであることを根拠とする原告の上記主張は失当である。
(2)引用例の段落【0003】,【0010】記載のとおり,引用例には,ガラスパネル3のコーナ肉厚をウォール部2の長辺及び短辺の中央部肉厚より薄くすることが記載されているところ,ガラスパネル3に求められる「適切な量の機械的強度」により肉厚を薄くできる割合が変わることは明らかであるから,コーナーの肉厚を長辺及び短辺よりも5%ないし17%だけ少なくするように構成することは,「適切な量の機械的強度」を考慮して,当業者が適宜決定できる設計事項に過ぎない。
3取消事由3(相違点の看過)に対して原告は,本願発明においては,ファンネルのシール部の厚さは変化せず一定であると主張する。
しかしながら,本願発明は,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるところ,その請求項1には「ファンネルのシール部の厚さ」についての限定はないから,本願発明のカラー受像管は,ファンネルのシール部の厚さが変化せず一定であるものに限定されず,ファンネルのシール部の厚さが変化せず一定であるものとファンネルのシール部の厚さが変化するものの両者を含んでいるものと解される。
このように,原告の上記主張は,特許請求の範囲の請求項1の記載に基づかない主張であり,失当である。
第5当裁判所の判断1本願発明の意義について(1)本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は,前記第2の2のとおりであり,また,本願明細書の【発明の詳細な説明】欄には,次の記載がある(甲4)。
ア「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,カラー受像管及び,特に大気圧に耐えるために充分なパネルの強度を保ちつつ,伸張されたパネルを収容し,パネルの重さを減少させるフェースプレートのデザインの変形に関する。」イ「【0003】【発明が解決しようとする課題】パネルのブレンド半径が変えられたときに起こる問題の1つは,パネル側壁の内面が,側壁のシール部よりも少なく傾斜される(即ち図3のφがより小さくなる)ことである。このより浅い傾斜は,ガラス工場でパネルを形成する間,パネルからパネル形成プランジャを取り除く際に問題を生じさせる。パネル側壁の厚さはパネルの強度に影響を与えるため,この問題はパネル側壁全体をより薄くすることでは解決され得ず,パネル強度は,大気圧の負担に耐え,安全基準を満たすために維持されねばならない。従って,強度を維持し,製造の間に型からの除去の容易さのために必要な大きな傾斜(φ)を保つような新しいパネルのデザインが必要である。」ウ「【0004】【課題を解決するための手段】本発明は,フェースプレートパネルと,ファンネルと,ネックとからなるガラスの外被を含む種類のカラー受像管に対して改良を与える。・・・改良点は,側壁のシール部がパネルの周辺に様々な幅を有し,側壁のシール部の最も幅の広い部分はパネルの辺に沿って配置され,側壁のシール部の最も幅の狭い部分はパネルの隅に配置されることからなる。側壁のシール部の幅は,パネルの隅では,パネルの辺の中央よりも5%乃至17%少ない。」エ「【0006】図3は,対角線Dの端におけるパネル12の断面を示す。破線28は,パネルの内面の修正された形を示し,スクリーン領域は,側壁或いはパネルのシール部21の幅を保ちながら,曲率半径或いはブレンド半径を減少することにより伸張される。
より大きなスクリーンのための必要条件は,内面の外形の変化及び角度φの側壁の内面の傾斜の変化を含む。夫々Ro 及びRn で示されるブレンド半径が12.7mm(0.50inch)から2.54mm(0.10inch)へと変化する管では,角度φはおよそ1度,即ち1°である。パネルの製造において,より急な傾斜はパネルから形成プランジャ(図示せず)を除去することを困難にさせるため,パネルの製造では傾斜角度の変化は問題を引き起こす。」オ「【0007】ガラス製造における問題を解決する実施例は,図4の破線30及び図5の実線32によって示される。この解決法では,ブレンド半径は,図3の場合と同じ量だけ変化されるが,側壁の内面の同じ傾斜角度を保つため,側壁或いはパネルのシール部31はより狭い。」カ「【0008】典型的に,従来の技術による管では,パネルのシール部の幅は,パネルの全周の周りでは比較的均等であり,5%以下しか変化しない。しかしながら,ガラスの外被が真空にされた場合,真空荷重によって起こされるフェースプレートパネルの機械的ストレスは,長軸及び短軸の端と,4つの辺の中央とにおいて最も高く,パネルの隅と対角線の端とにおいて最も低いことが見い出されている。更に,適切な量の機械的強度は,パネルの隅においてのみ,5%乃至17%のシール部の幅の減少を有する管において保たれ得ることが見い出されている。本発明による新しい管では,従って,図6に示されるように,パネルのシール部はパネルの辺L及びSに沿って最も広く,図7に示されるように,パネルの隅において最も狭い。」(2)以上の記載によれば,本願発明は,フェースプレートパネルと,ファンネルと,ネックとからなるガラスの外被を有するカラー受像管において,スクリーン領域を伸張するためにパネルのブレンド半径を減少させた場合,パネル側壁の内面の傾斜が小さくなり,パネルを製造する際,パネルからパネル形成用プランジャを取り除くことが困難になるという問題が生じることから,これを解決すべき課題とし,従来のカラー受像管においては,パネル側壁のシール部の幅がパネルの周りの全周にわたり比較的均等であったものを,パネルの隅においてパネルの辺よりもシール部の幅を5%ないし17%減少させることにより,パネルの機械的強度を保持することができる範囲でブレンド半径を減少させ,スクリーン領域を拡大してもパネル側壁の内面の傾斜が小さくならないようにした発明であり,カラー受像管の機械的強度を保ちつつ,スクリーン領域を拡大することを目的とするものであると認められる。
2取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について(1)原告は,審決が,引用発明のガラスパネル3において,そのウォール部2が除去容易のための内面傾斜を有するように構成することは,当業者が容易になし得ることであると判断したことは誤りであると主張するので,以下,検討する。
アまず,本願優先日当時のブラウン管用パネルの製造方法については,以下のとおり認められる。
(ア)乙第1号証は,昭和48年3月12日に公開された「ブラウン管用パネル成型プレスマシンの冷却方法及び冷却装置」と題する発明の公開特許公報であるが,発明の詳細な説明に,「一般にブラウン管用パネル,特にカラーブラウン管用パネルは,ブラウン管の前面となるフエース部分の内面曲率が極めて重要である。上記ブラウン管用パネルの一般的な成型方法は第1図(イ)に示す様に,底型(1)内に定量のゴブ(溶融状態のガラス塊)(a)を供給し,矢型(2)を所定距離降下させて底型(1)および矢型(2)が形成する空間部分にゴブ(a)を加圧展延せしめて,第1図(ロ)に示す様なパネル(A)を成型している。」と記載され(1頁右欄4行〜12行),一般的なブラウン管用パネル成型プレス金型によるパネル成型順序を示す概略図(第1図)が図示されている。
(イ)乙第2号証は,昭和50年5月24日に公開された「金型ガイド装置」と題する発明の公開特許公報であるが,発明の詳細な説明に,「この発明はブラウン管フエース等を成型する押型成形用金型の型合わせ用ガイド装置の改良に関するものである。」と記載されている(1頁左欄12行〜14行)。
(ウ)乙第3号証は,昭和62年8月14日に公開された「ブラウン管用パネルおよびその製造装置」と題する発明の公開特許公報であるが,発明の詳細な説明に,「パネル11の側壁には・・・外周全域にわたってモールドマッチラインと呼ばれる凸部17があり,これを境にしてフェース18側およびシールエッジ19側に向ってそれぞれ径小となるテーパがついている。・・・これらによりパネル11を成形する場合,まずボトム21とシェル22とを図示のように組立てておき,このボトム21の中央部に溶融ガラスを入れる。次に,上からのプランジャ23によりプレスし,図示の如くパネル11の形状に成形する。そして,この状態で固化する程度に冷却したのち,プランジャ23を上方に抜く。次にシェル22を上方に抜いたのち,成形されたパネル11を上方に取り出す。このように,成形後のパネル11を取り出すべく,各型抜きを行なうためには,第8図で示したテーパが必要となる。」(2頁左上欄4行〜同頁右上欄5行)と記載されている。
(エ)乙第4号証は,平成6年9月20日に公開された「固形潤滑離型剤」と題する発明の公開特許公報であるが,発明の詳細な説明には,「【従来の技術】ブラウン管用パネルガラスをプレス成型する場合,図1に示すように,雌型となるボトムモールド1及びシェルリング2内にガラスゴブAを供給し・・・雄型であるプランジャー3によりガラスゴブAをプレスし,一定時間保持冷却した後・・・プランジャー3を引き上げてパネルガラスaを得る・・・ところで上記の工程に於いて,プランジャー3の上昇時に,プランジャー3の抜け勾配の小さい側面部分3aとガラスとが擦れ,パネルガラス内側面やプランジャー側面部分3aに傷が入り易いことが知られている。」(2頁左欄19行〜30行)と記載されている。
(オ)乙第5号証は,平成7年2月28日に公開された「固形潤滑離型剤」と題する発明の公開特許公報であるが,発明の詳細な説明に,「【従来の技術】ブラウン管用パネルガラスをプレス成型する場合,図1に示すように,雌型となるボトムモールド1及びシェルリング2内にガラスゴブGを供給し・・・雄型であるプランジャー3によりガラスゴブGをプレスし,一定時間保持冷却した後・・・プランジャー3を引き上げてパネルガラスPを得る・・・ところで上記の工程に於いて,プランジャ-3の上昇時に,プランジャー3の抜け勾配の小さい側面部分3aとガラスとが擦れ,パネルガラス内側面やプランジャー側面部分3aに傷が入り易いことが知られている。」(2頁左欄15行〜26行)と記載されている。
(カ)前記(ア)ないし(オ)の記載によれば,本願優先日当時,テレビのブラウン管用パネルを,金型を用いて溶融状態にあるガラス塊をプランジャーでプレス成形することにより製造することは周知の技術であったと認められる。
イ次に,型抜き製造において抜け勾配を形成する技術については,以下のとおり認められる。
(ア)周知例1は,平成4年2月21日に公開された「遠心鋳造管のボルト孔鋳抜き方法」と題する発明の公開特許公報(甲2)であるが,発明の詳細な説明には,「第2図に示すような鋳鉄管1を遠心鋳造すると同時に,鋳鉄管1の一端に形成した接続用受口2のフランジ3に複数のボルト孔4を周方向に鋳抜きにより設ける。
そのため,第1図に示すように,まず,円筒状の鋳造用金型本体11の一端に設けた受口成形部12におけるフランジ成形部13の内面に,ボルト孔成形用中子14を固定する。このボルト孔成形用中子14は,抜け勾配を有したテーパ状に形成され,その大径側端部がフランジ成形部13の内面に固定されて,第2図のボルト孔4に相当する位置に配置されている。中子14の大径Aと小径Bとは,第2図におけるボルト孔4の直径Dの許容公差内に収まるように設定される。」と記載されている(2頁左欄5行〜18行)。
また,周知例2は,平成7年12月12日に公開された「シリンジ外筒」と題する発明の公開特許公報(甲3)であるが,「要約」部分に,「筒状部の形状を,先端から底部にかけて,底部の方に広がったテーパー状とすることにより,射出成形時の成形品の金型からの抜き取り性を良好とし,生産性を著しく向上させる」と記載されている(甲3の1頁左欄6行〜9行)。
(イ)以上の記載によれば,本願優先日当時,金型を用いて製品を成形する場合に,製品を金型から抜き取り易くするために,製品の形状に抜け勾配を設けることは,慣用技術であったと認められ,この技術は,型抜き製造という成形方法自体に由来するものであるということができる。
ウ前記ア,イに認定判断したとおり,本願優先日当時,引用発明のようなテレビのブラウン管用パネルを,金型を用いてガラス塊をプレス成形することにより製造することは周知技術であったといえ,また,金型を用いてプレス成形により製品を製造する場合に,製品を金型から抜き取り易くするために当該製品に抜け勾配を設けることは慣用技術であったと認められる。
そして,以上の事実によれば,本願優先日当時,引用発明のガラスパネル3が金型を用いてプレス成形により製造されるものであり,成形されたパネルを金型から抜き取り易くするために,パネルに抜け勾配を設ける必要があることは,当業者において当然認識し得たものと認められ,前記ア(ウ)ないし(オ)の「テーパ」,「抜け勾配」等の記載もこれを裏付けている。
したがって,本願優先日当時,引用発明のガラスパネル3のウォール部2の内面に,金型からの除去を容易とするためにテーパ状の傾斜を設けることは,当業者が適宜なし得たことであると認められる。
(2)原告は,本願優先日当時,本願発明の属するカラー受像管製造の技術分野において,形成プランジャの除去を容易にするためにパネル側壁内面の傾斜が重要であることは知られておらず,まして周知ではなかったと主張するが,前記(1)ウのとおり,本願優先日当時,引用発明のガラスパネル3が金型を用いてプレス成形により製造されるものであり,成形されたパネルを金型から抜き取り易くするためには,パネルに抜け勾配を設ける必要があることは,当業者において当然認識し得たものであるから,原告の主張を採用することはできない。
(3)原告は,鋳造及び熱可塑性樹脂の成形に関する周知例1,2は,いずれもカラー受像管におけるプランジャ除去を容易とするためにパネル側壁の内面に傾斜を設けることを開示しておらず,本願発明と技術分野が異なる周知例1,2により,カラー受像管のパネル側壁に除去容易のための内面傾斜を設けることが周知であったということはできないと主張する。
しかしながら,前記(1)イのとおり,周知例1,2に記載されている抜け勾配を設けるという技術は,金型を使用する型抜き製造という成形方法自体に由来する技術であり,金型を用いて製造する場合には,製品の用途や原材料の種類如何にかかわらず,成形された製品を金型から抜き取り易くするために不可欠な技術であるといえるから,引用発明のようなガラス製品であっても適用できることは明らかであり,また,乙第3号証の前記(1)ア(ウ)の「このように,成形後のパネル11を取り出すべく,各型抜きを行なうためには,第8図で示したテーパが必要となる。」との記載は,これを裏付けるものである。
したがって,原告の主張は失当である。
(4)原告は,仮に周知例1,2により除去容易のための内面傾斜を設けることが周知であったとしても,引用例にはガラスパネル3の除去容易性の課題が全く示されていないから,引用発明において,ガラスパネル3のウォール部2が除去容易のための内面傾斜を有するように構成することは,当業者が容易になし得ることではないと主張する。
しかしながら,前記(1)イのとおり,除去容易のための内面傾斜という技術は,金型を使用する型抜き製造という成形方法自体に由来するものであるから,引用例にガラスパネル3の除去容易性の課題が示されていないとしても,引用発明のガラスパネル3が金型を用いてガラス塊をプレス成形して製造される場合には,当然に上記課題が生じることとなり,そうすると,除去容易のための内面傾斜という技術の適用が考慮されることになるのであるから,原告の主張は失当である。
(5)原告は,乙第1ないし第5号証は,本件拒絶査定不服審判の審理中に引用されたものではないから,本件訴訟で書証として提出することは許されないと主張するが,上記各乙号証の立証趣旨は,ガラス製のカラー受像管のパネルが金型を用いてプレス成形により製造されるという周知技術を立証することにあるから,本件訴訟においてその提出が許されないとする理由はない。
(6)原告は,その他にも縷々主張するが,以上に説示したところに照らし,いずれも採用することはできない。
(7)以上によれば,審決が,引用発明のガラスパネル3において,そのウォール部2が除去容易のための内面傾斜を有するように構成することは,当業者が容易になし得ることであると判断したことに誤りはないから,取消事由1は理由がない。
3取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について原告は,審決が,引用発明において,ガラスパネル3のウォール部2の開口端面4のコーナの肉厚を,ガラスパネル3の長辺及び短辺よりも5%ないし17%だけ少ないように構成することは,適切な量の機械的強度を考慮して当業者が適宜決定し得る設計事項にすぎないと判断したことは誤りであると主張するので,以下,検討する。
(1)まず,原告は,引用発明がガラスパネル及びガラスファンネルの厚さを薄くする目的はコスト低減にあるのに対し,本願発明がパネル側壁のシール部を薄くする目的は,カラー受像管の機械的強度を保ちつつスクリーン領域を伸張することにあるのであり,両者は,パネルを薄くすることの課題ないしは技術的意味が異なると主張するが,この主張を採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。
ア引用例には,次の記載がある(甲1)。
(ア)「【0003】図3に示すように,従来の陰極線管外囲器において,ガラスパネル7の開口端面からフェースプレート8にかけてかかる真空ストレスは,開口端面の長辺や短辺に比してコーナでは小さい(曲線9)。さらに,ガラスパネルのウォール部の外周面に補強バンドを装着して外囲器を締め付けると,前記コーナの真空ストレスは圧縮方向になる(曲線10)。一般に,ガラス材料は引っ張り方向のストレスには弱いが,圧縮方向のストレスには強いので,コーナは強くなるということになる。
【0004】従来の陰極線管外囲器では,設計の容易さ等から,ガラスパネルおよびガラスファンネルの両開口端面は,全体にわたって均一な肉厚を有している。」(イ)「【0005】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,上記従来の構造では,陰極線管外囲器の重量軽減やガラスのコスト低減等の課題を解決することが非常に困難である。
【0006】本発明は上記従来の問題点を解決するためになされたものであり,ガラス強度を確保しつつ有効径を拡大し,軽量化を図り,かつコストを低減した陰極線管外囲器を提供するものである。」(ウ)「【0007】【課題を解決するための手段】本発明の陰極線管外囲器は,ほぼ矩形状のフェースプレートの周縁部にウォール部を備え,かつ前記ウォール部のコーナ肉厚を,前記ウォール部の長辺および短辺の中央部肉厚より薄くし,開口端面がほぼ矩形状のガラスパネルと,開口端面がほぼ矩形状を有し,この開口端面のコーナ肉厚を他の箇所の肉厚に比して薄くしたガラスファンネルとからなり,前記ガラスパネルおよび前記ガラスファンネルの開口端面同士を接合したものである。」(エ)「【0008】【作用】ガラスパネルおよびガラスファンネルの両開口端面のコーナ肉厚を薄くすることで,開口端面内側の長辺および短辺の長さが従来より長くなるので,ガラスパネル内部に色識別のために装着するシャドウマスク支持フレームを大きくすることができる。そのため,フェースプレートの蛍光面を広くとることができ,有効径を拡大することができる。また,同じ有効径サイズの陰極線管外囲器を作るときは,外囲器全体を小さくすることが可能である。」(オ)「【0009】【実施例】以下,本発明の一実施例について,図面を用いて説明する。
【0010】図1(A),(B)に示すように,本発明実施例の陰極線管外囲器は,ほぼ矩形状の曲面フェースプレート1の周縁部に,このフェースプレート1から同外囲器の軸方向に延びるウォール部2を備え,かつウォール部2のコーナ肉厚を,ウォール部2の長辺および短辺の中央部肉厚より薄くし,開口端面4がほぼ矩形状のガラスパネル3と,一端にガラスネック5を備え,かつフェースプレート1との接合面,すなわち開口端面がほぼ矩形状を有し,開口端面7のコーナ肉厚を他の箇所の肉厚に比して薄くした漏斗状のガラスファンネル6とからなる。図2に示すように,ガラスパネル3の開口端面とガラスファンネル6の開口端面とは,ガラス接着剤(図示せず)で接合されている。
【0011】以上の構成を有する本発明実施例の陰極線管外囲器は,ガラスパネル3およびガラスファンネル6の両コーナが従来のものより広くなるので,ガラスパネル3の内部に装着するシャドウマスク支持用のフレームに大きなものを使用することができる。その結果,フェースプレート1の蛍光面を広くとることができ,有効径を拡大することができる。
【0012】図1(A),(B)に示す構造において,ガラスパネル3およびガラスファンネル6の各コーナの肉厚を3mm,ガラスパネル3のウォール部2の長辺および短辺の中央部肉厚を9mmとした本発明実施例の17インチの陰極線管外囲器は,それらの肉厚を9mm一定とした従来の陰極線管外囲器に比して,有効径を約12mm大きくとることができることが確認された。また,陰極線管外囲器の耐圧強度は,真空ストレスがもっとも高くなるフェースプレートのウォール部の長辺の中央部付近で従来に比して約9%増加し,外囲器外面加傷試験でも従来の外囲器と同様の耐圧試験で3kg/c?u以上の耐圧強度を確保できることが確認された。
さらに,有効径を従来のものと同等にすると,12mm縮小することで陰極線管外囲器の重量を0.4kg(約5%)軽減することが可能となった。
【0013】なお,フェースプレートとしては,前面外面が曲面のみならず,平面であってもよいし,また前面の内外面が平面であってもよい。」(カ)「【0014】【発明の効果】以上説明したように,本発明の陰極線管外囲器は,ガラスパネルおよびガラスファンネルの両コーナの肉厚を薄くすることにより,ガラス耐圧強度を保ちながら,有効径を拡大することができる。そのため,従来と同等の有効径の陰極線管外囲器を組み立てる際に,陰極線管外囲器全体を縮小することができるので,ガラス使用量を削減することができ,またコストの低減を実現することができる。」イ以上の記載によれば,引用発明は,陰極線管外囲器において,ガラスパネルのウォール部の開口端面からフェースプレートにかけてかかる真空ストレスが開口端面の長辺や短辺に比してコーナでは小さいことに着目し,従来は均一な肉厚を有していたガラスパネルのウォール部及びガラスファンネルの両開口端面のコーナの肉厚を薄くすることにより,ガラス耐圧強度を保ちながら,フェースプレートの有効径を拡大することができるようにした陰極線管外囲器の発明であり,その構成により,従来と同等の有効径を確保しながら陰極線管外囲器全体を縮小することができることから,ガラス使用量を削減し,コストの低減を実現するという効果を有するものであると認められる。
ウこのように,引用発明は,ガラスパネルのウォール部のコーナの肉厚を薄くすることで,ガラス耐圧強度を保ちながら,フェースプレートの有効径を拡大することを目的とするものである。
一方,前記1(2)で認定判断したとおり,本願発明は,パネル側壁のシール部の幅を,パネルの隅においてパネルの辺よりも薄くすることにより,カラー受像管の機械的強度を保ちつつ,スクリーン領域を拡大することを目的とするものである。
したがって,本願発明と引用発明は,共に機械的強度を確保しつつ有効径を拡大することを目的として,パネル側壁のシール部の幅を隅において薄くするものである点で共通するから,本願発明と引用発明は,パネルを薄くすることの課題ないし技術的意味が異なるとの原告主張は採用することができない。
(2)原告は,本願発明と引用発明とは,パネルを薄くすることの課題ないしは技術的意味が異なるのであるから,コスト低減を主目的とする引用発明に基づいて,コスト低減の効果を無視して,引用発明の開口端面の肉厚を66.67%の減少から本願発明の「5%乃至17%」の減少に増大させることは,当業者が採用し得ないことであると主張する。
ア前記(1)で認定判断したとおり,本願発明と引用発明は,機械的強度を確保しつつ有効径を拡大することを目的として,パネル側壁のシール部の幅を隅において薄くするものである点で共通するから,原告の主張は,その前提において失当である。
イまた,前記(1)アのとおり,引用例には,引用発明の実施例として,ガラスパネル及びガラスファンネルの各コーナの肉厚を3mm,ガラスパネルのウォール部の長辺及び短辺の中央部肉厚を9mmとするもののみが開示されているが,前記(1)イに説示した引用発明の意義に照らすならば,この実施例は,陰極線管外囲器のガラス耐圧強度を確保することができる具体的数値を例示したものであって,引用発明は,同実施例の数値のものに限定されず,当業者が,ガラス耐圧強度を確保し得る範囲で,各コーナの肉厚を長辺及び短辺のそれに比し,どの程度薄くするかを適宜選択して実施し得るものであると認められる。
そして,上記実施例において例示されたガラスパネルのウォール部の長辺及び短辺の中央部肉厚が9mm,コーナの肉厚が3mmという構成により耐圧強度が確保されるのであれば,コーナの肉厚が3mmよりも大きい場合においても耐圧強度が確保されることは明らかであるから,長辺及び短辺の中央部肉厚に対するコーナの肉厚の比の値を上記実施例よりも大きくすることができ,そのようにしても,コーナの肉厚を長辺及び短辺の中央部肉厚よりも薄くするのであれば,全てが同じ厚みに形成されるものと比較して有効径が大きくなり,引用発明の効果を奏するものといえる。
ウ一方,本願発明においてパネルの隅のシール部の幅を「5%乃至17%」減少させる理由については,本願明細書に「適切な量の機械的強度は,パネルの隅においてのみ,5%乃至17%のシール部の幅の減少を有する管において保たれることが見い出されている。」(段落【0008】)と記載されているのみで,「5%乃至17%」の数値範囲が,それ以外の数値範囲と比べて顕著な効果を示すことを示唆する記載は一切ないことからすれば,本願発明の「5%乃至17%」の数値範囲は,パネルの機械的強度が保たれる具体的数値の範囲を規定したものと認められる。
エ上記イ及びウに認定判断したところによれば,引用発明のガラスパネルのウォール部のコーナにおける開口端面の肉厚を,本願発明のように「5%乃至17%だけ少なく」することは,設計に当たり,必要な機械的強度を考慮して,当業者が適宜定めることのできる事項であると認められる。
したがって,以上の点からも,原告の主張は失当である。
(3)原告は,本願発明においてはファンネルのシール部の幅は変化せず一定であるのに対し,引用発明においてはファンネルの幅は場所により変化しており,この点を考慮すると,コスト低減の効果を無視して,引用発明の開口端面の肉厚を66.67%の減少から本願発明の「5%乃至17%」の減少に増大させ,かつ,引用発明のファンネルの開口端面の肉厚を66.67%の減少から本願発明のように変化なしとして増大させることは当業者にとって決して容易ではないと主張する。
しかしながら,後記4で判断するとおり,本願発明は,ファンネルのシール部の幅が一定であるものに限られないから,原告の主張のうち「本願発明においてはファンネルのシール部の幅は変化せず一定であるのに対し,引用発明においてはファンネルの幅は場所により変化している」との前提を認めることはできない。
そして,原告の主張は,上記の前提を考慮しないとすれば,上記(2)の主張と同旨のものと解されるから,結局,上記(2)と同様の理由により,採用することができない。
(4)原告は,本願発明においては,パネル側壁のフェースプレートに接する部分からシール部までの全体ではなく,パネル側壁のシール部の幅のみをパネルの隅において5%ないし17%だけ少なくすることにより適切な量の機械的強度を保ち,一方,パネル側壁のフェースプレートに接する部分における幅は,製造の間の型からのパネルの除去を容易にするのに十分大きい内面の傾斜を有するように決定されるのであり,これらの技術的特徴は,引用例及び周知例1,2のいずれにも開示されていないと主張する。
しかしながら,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載によれば,パネル側壁のシール部の幅は,「該パネルの隅において,該パネルの辺よりも5%乃至17%だけ少なく」と規定されているものの,シール部以外の部分のパネル側壁の幅については,「該側壁の少なくとも該隅は減少された厚さを有し」と規定されているのみで,それ以上は特定されていない。
したがって,本願発明は,パネル側壁のシール部の幅のみがパネルの隅において5%ないし17%だけ少ないものに限定されるものではないから,この点に関する原告の主張は失当である。
また,パネル側壁のフェースプレートに接する部分における幅については,原告が主張するように,製造の間の型からのパネルの除去を容易にするのに十分大きい内面の傾斜を有するように決定されるとしても,特許請求の範囲において具体的に特定されているものではないところ,前記2に説示したとおり,引用発明のガラスパネル3のウォール部2が除去容易のための内面傾斜を有するように構成することは当業者が容易になし得ることであり,これにより,パネル側壁のフェースプレートに接する部分における幅も,製造の間の型からのパネルの除去を容易にするのに十分大きい内面の傾斜を有するように決定されることになるから,この点に関する原告の主張も理由がない。
(5)原告は,引用発明において,ガラスパネルのコーナにおけるウォール部の肉厚を66.67%の減少ではなく,「5%乃至17%」だけ少ないように構成することは,両者の減少割合があまりにもかけ離れているから単なる設計事項であるとはいえないし,引用発明においては,機械的強度を考慮した上で肉厚を66.67%減少させるとの構成を採用したのであるから,それをわざわざ「5%乃至17%」の減少へと厚さを増大させることは当業者にとって容易ではないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,引用発明は,実施例のものに限定されず,当業者が,ガラス耐圧強度を確保し得る範囲で,各コーナの肉厚を長辺及び短辺のそれに比し,どの程度薄くするかを適宜選択して実施し得るものである。
そして,引用例の「ガラスパネルのフェースプレート面のフラット化や大型化の開発が進むにつれ,外囲器全体にかかる真空ストレスが大きくなり,耐圧や防爆に対する強度の面から,ガラス肉厚は増加していく傾向にある。」(甲1の2頁1欄17行〜21行)との記載によれば,引用発明の陰極線管外囲器のガラス耐圧強度は,フェースプレートの有効径の大きさやガラスパネルのウォール部の肉厚(幅)により変化するものと認められるところ,このことからすれば,引用発明において,機械的強度を確保し得る範囲での,各コーナの肉厚の長辺及び短辺の中央部肉厚に対する比の値(実施例では,これが1/3であり,薄くなる割合としてみれば,66.67%となる。)は,有効径の大きさ及び基準となるウォール部の辺中央部の肉厚をどの程度のものとするかにより変化するといえるから,上記の66.67%という数値も,一定の条件の下における機械的強度を確保し得る数値という以上に格別の技術的意義はないものと認めるのが相当である。
そうすると,有効径の大きさ及びウォール部の辺中央部の肉厚をどの程度のものとするかという前提条件を離れて,66.67%の減少と「5%乃至17%」の減少という数値のみを比較し,両者があまりにもかけ離れているというにすぎない原告の主張は,引用発明のガラスパネルのウォール部のコーナの肉厚を5%ないし17%だけ少ないように構成することが設計事項にすぎないとした審決の判断に対する的確な反論とはなり得ないというべきである。
また,上記の実施例における66.67%という数値の技術的意義に照らすならば,原告の,引用発明においては機械的強度を考慮した上で肉厚を66.67%減少させるとの構成を採用したのであるから,それをわざわざ「5%乃至17%」の減少へと厚さを増大させることは当業者にとって容易ではないとする主張も,同様に理由がないというべきである。
なお,原告は,審決は引用例の記載を離れ,引用発明において「66.67%の値はこれに限定されるものではなく」と判断しているが,引用例には,66.67%の値はこれに限定されるものではない旨の記載はないから,審決の判断は誤りであるとも主張するが,以上に説示したところに照らし,この主張を採用することはできない。
(6)以上によれば,審決が,引用発明において,ガラスパネル3のウォール部2の開口端面4のコーナの肉厚を,ガラスパネル3の長辺及び短辺よりも5%ないし17%だけ少ないように構成することは,適切な量の機械的強度を考慮して当業者が適宜決定し得る設計事項にすぎないと判断したことに誤りはなく,取消事由2は理由がない。
4取消事由3(相違点の看過)について原告は,本願発明においては,ファンネルのシール部の厚さは変化せず一定であるのに対し,引用発明においては,ガラスファンネルの肉厚は場所により変化しており,本願発明と引用発明との間には,ファンネルの幅の変化に関して相違点があるにも拘わらず,審決はこの相違点を看過したと主張し,本願発明のファンネルのシール部の厚さが一定であることの根拠として,?@特許請求の範囲の請求項1において,パネル側壁シール部の幅の変化の記載はあるが,ファンネルの幅の変化の記載はないこと,?A本願明細書には「本発明による新しい管では,従って,図6に示されるように,パネルのシール部はパネルの辺L及びSに沿って最も広く,図7に示されるように,パネルの隅において最も狭い。」(段落【0008】)と記載され,ファンネルの幅は,パネルの辺L及びSに対応する箇所(図6)においても,パネルの隅に対応する箇所(図7)においても同じであること,を挙げている。
しかしながら,本願明細書にはファンネルのシール部の幅が一定でないものを本願発明から除外するような記載はなく,特許請求の範囲の請求項1においてファンネルのシール部の厚さが特定されていない以上,本願発明は,ファンネルの幅が一定であるもの及び一定でないものの両方を含むものと解するのが相当であり,上記?@,?Aの点はいずれもこの認定を左右するに足りるものではない。
したがって,取消事由3は理由がない。
5以上の次第であるから,審決取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を違法とする事由もないから,審決は適法であり,本件請求は理由がない。
第6結論よって,本件請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 榎戸道也
裁判官 浅井憲