運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2007-800051
関連ワード 製造方法 /  発明特定事項 /  出願公開 /  発明の詳細な説明 /  分割出願 /  実質的に同一 /  原出願日 /  参酌 /  特許発明 /  実施 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  訂正要件 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 20年 (行ケ) 10090号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士中畑孝
被告株式会社大貴
訴訟代理人弁理士滝口昌司,松井佳章
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/09/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が無効2007-800051号事件について平成20年1月30日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,被告の有する下記1(1)の特許のうち,請求項1〜5の発明(以下,請求項の番号に従って「本件発明1」などといい,これらをまとめて「本件発明」という。)に係る特許(以下「本件特許」という。)について,同1(2)のとおり,原告が無効審判請求を,被告が訂正請求をそれぞれしたところ,特許庁は,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をしたため,原告が同審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許に係る特許出願等(甲第15号証)本件特許に係る特許出願は分割出願によるものである。
特許権者:被告発明の名称:粒状の排泄物処理材及び製造方法原出願日:平成14年5月31日(特願2002-160817号)分割出願日:平成17年9月26日(特願2005-278969号)設定登録日:平成18年5月12日特許登録番号:第3801613号(2)無効審判手続審判請求日:平成19年3月13日(無効2007-800051号)訂正請求日:平成19年6月8日(以下「本件訂正」という。)審決日:平成20年1月30日審決の結論:「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」原告に対する審決謄本送達日:平成20年2月12日2本件発明の要旨(甲第18号証)本件訂正のうち,無効審判が請求されている請求項1〜5についての訂正が訂正要件を満たすことについて,当事者間に争いはなく,本件発明の要旨は,本件訂正後の明細書(以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された次のとおりのものと認められる(下線部分は訂正箇所である。)。
「【請求項1】有機質材料の粉体及び該有機質材料の粉体より少量の吸水性樹脂を含有し,1ミリメートル以上の粒度の粒状芯部と,該粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆い,紙粉,着色されている無機質材料の粉体及び糊料の混合物を含有する被覆層部とを備える乾燥被覆粒状物であることを特徴とする粒状の排泄物処理材。
【請求項2】有機質材料の粉体,添加物質及び前記有機質材料の粉体より少量の吸水性樹脂とを含有し,1ミリメートル以上の粒度の粒状芯部と,該粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆い,紙粉,着色されている無機質材料の粉体及び糊料の混合物を含有する被覆層部とを備える乾燥被覆粒状物であることを特徴とする粒状の排泄物処理材。
【請求項3】粒状芯部の吸水性樹脂の含有率が,該有機質材料の粉体に対し10重量%以下の量であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒状の排泄物処理材。
【請求項4】粒状芯部の吸水性樹脂の含有率が,該有機質材料の粉体に対し5重量%以下の量であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒状の排泄物処理材。
【請求項5】粒状芯部の吸水性樹脂の含有率が,該有機質材料の粉体に対し1重量%以下の量であることを特徴とする請求項1又は2に記載の粒状の排泄物処理材。」3審決の要旨無効審判請求人(原告)が,本件発明1〜5は,本件特許出願前の他の出願であって本件特許出願後に公開された特願2002-77784号の願書に最初に添付された明細書又は図面(甲第1号証:特開2003-274780号)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)と同一であるから,本件特許を無効とすべきであると主張したのに対し,審決は,本件発明1〜5は,甲1発明と同一であるとすることはできないから,本件特許を無効とすることはできないとした。審決の理由は,下記(1),(2)に引用したとおりである(ただし,審決中の甲号証は本訴におけるものと共通であり,略称並びに項目の番号等について本判決で指定するものに改めた部分がある。)。
(1)甲1発明の認定甲第1号証は,本件の出願の日(原出願の出願日である平成14年5月31日)前の平成14年3月20日に出願され,本件の出願後の平成15年9月30日に出願公開された,特願2002-77784号の願書に最初に添付された明細書又は図面の内容を記載したものであり,次の事項が記載されている。
記載事項a.粒状形の動物用排尿処理材の構造について「【請求項6】吸水性粒状体と,該吸水性粒状体の表面に塗布された水溶性接着剤層と,該水溶性接着剤層を介して上記吸水性粒状体の表面に接着された吸水性表層とを有し,該吸水性表層内に非水溶性顔料の粉末を含有し,動物の排尿が該吸水性表層と水溶性接着剤層を通して吸水性粒状体中に浸透することにより上記非水溶性顔料の粉末が吸水性表層を発色する構成としたことを特徴とする粒状形の動物用排尿処理材。」記載事項b.第一ないし第六の発明について「【0007】【課題を解決するための手段】第一の発明に係る粒状形の動物用排尿処理材は前記特許発明と同様,水溶性染料によって染色された吸水性粒状体又は水溶性染料の粉末を含有する吸水性粒状体と,該吸水性粒状体の表面を覆う吸水性表層を有する。
【0008】そして上記吸水性表層と吸水性粒状体とを,同粒状体の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して接着した構造を採る。
【0009】動物の排尿は上記吸水性表層と非連続水溶性接着剤層の接着剤非塗布部を通して,又は接着剤塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透し,上記水溶性染料はこの浸透した排尿中に溶出して上記非連続水溶性接着剤層を通して吸水性表層を染色する。これにより使用部分と未使用部分の判別が的確に行える。
【0010】上記非連続水溶性接着剤層は吸水性粒状体と吸水性表層との複合構造を健全に維持しつつ,排尿吸収により染色された排尿吸収処理材のみを局部的に除去し得る。」「【0014】又第三の発明は上記第一,第二発明における水溶性接着剤層を水溶性染料によって染色した粒状形の動物用排尿処理材を提供する。」「【0017】又第四の発明は上記第三の発明における水溶性染料に代え,非水溶性顔料の粉末を上記水溶性接着剤層中に含有せしめ染色した粒状形の動物用排尿処理材を提供する。」「【0020】又第五の発明に係る粒状形の動物用排尿処理材は,上記第一乃至第四の発明における吸水性表層中に水分に溶解していない乾燥状態の染料粉末を含有した構造を採っている。」「【0022】又第六の発明は上記第五の発明に係る水溶性染料粉末に代え,非水溶性顔料粉末を上記吸水性表層中に含有せしめた粒状形の動物用排尿処理材を提供する。」記載事項c.第六の発明の作用について「【0023】動物の排尿は上記吸水性表層と非連続水溶性接着剤層の接着剤非塗布部を通して,又は接着材塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透し,この時に上記非水溶性顔料粉末により吸水性表層を発色せしめ,これにより使用部分と未使用部分の判別が的確に行える。」記載事項d.吸水性粒状体の大きさについて「【0027】【発明の実施の形態】以下本発明の実施の形態を図1乃至図8に基づき説明する。図1,図3,図4に示す動物用排尿処理材は,1ミリメートルから20ミリメートルの大きさに造粒した吸水性粒状体1を主体とし,該吸水性粒状体1の表面を薄く覆う吸水性表層2を有する。」記載事項e.吸水性粒状体の配合材料について「【0031】図1,図3,図4,図6に示す吸水性粒状体1は植物繊維又は植物粉(木材のバージンパルプ又は古紙再生パルプ又は竹パルプ等の植物繊維,これらの植物粉)3を主材とし,同粒状体1中には炭酸カルシウムやクレー,タルク等の無機充填材17を含有せしめて適度な重量を付加し,飛散を防止する。
【0032】又上記粒状体1中には上記無機充填材17と共に,澱粉又は/及びカルボキシルメチルセルロース(CMC)等の粘着剤の粉末5を含有し,更にこれらと一緒にポリアクリル酸ナトリウムに代表される吸水性ポリマーの粉末16を含有せしめ,吸水性と保水性を富有せしめる。」「【0037】上記図1,図3,図4,図6に示す吸水性粒状体1を形成するパルプに代表される植物繊維又は植物粉3と,澱粉又は/及びカルボキシルメチルセルロース(CMC)から成る粘着剤の粉末5と,無機充填材の粉末17と,吸水性ポリマーの粉末16の配合比は下記の通りである。
【0038】植物繊維又は植物粉:50〜97%粘着剤の粉末:1〜30%無機充填材の粉末:1〜40%吸水性ポリマーの粉末:1〜30%」記載事項f.吸水性表層の配合材料について「【0033】同様に図1,図3,図4に示す上記吸水性表層2は植物繊維又は植物粉(木材のバージンパルプ又は古紙再生パルプ又は竹パルプ等の植物繊維,これらの植物粉)3を主材とする。」「【0035】又上記吸水性表層2中には澱粉又は/及びカルボキシルメチルセルロース(CMC)等の粘着剤の粉末5を含有し,これらと一緒に吸水性と保水性に富むポリアクリル酸ナトリウムに代表される吸水性ポリマーの粉末16を含有する。」「【0044】次に図1,図3,図4に示すように,上記非連続水溶性接着剤層6を形成した吸水性粒状体1の表面に,下記の配合比から成る植物繊維又は植物粉3と,澱粉又は/及びカルボキシルメチルセルロース(CMC)等の粘着剤の粉末5と,吸水性ポリマーの粉末16の混合材を乾燥状態でまぶし,同粒状体1を覆う吸水性表層2を形成する。
【0045】植物繊維又は植物粉:40〜98%粘着剤の粉末:1〜40%吸水性ポリマーの粉末:1〜40%」記載事項g.水溶性接着剤層の形成及び作用について「【0043】上記図1,図3,図4に示す吸水性粒状体1を乾燥した後,又は湿潤状態において同粒状体1の表面に前記ポリビニールアルコールに代表される水溶性接着剤をスプレーし,前記接着剤塗布部6aと接着剤非塗布部6bから成る非連続水溶性接着剤層6を形成する。」「【0046】吸水性表層2と吸水性粒状体1とは上記非連続水溶性接着剤層6を介して強固に接着し,吸水性表層2の成分の剥落を防止して表層の層着を健全に維持する。」記載事項h.吸水性表層中の非水溶性顔料について「【0060】上記粒状形の動物用排尿処理材は,上記吸水性粒状体1を覆う吸水性表層2中に水溶性染料の粉末4を乾燥状態で含有する。又は上記吸水性表層2中に非水溶性顔料の粉末10を乾燥状態で含有する。」「【0062】 又は上記尿の浸透により,吸水性表層2中の非水溶性顔料の粉末10は顕著に発色する。」「【0071】動物の排尿は定形に打錠された吸水性粒状体1中に速やかに浸透し,この粒状体1中の上記水溶性染料の粉末4はこの浸透した排尿中に溶出して吸水性粒状体1を染色する。
【0072】又は上記尿の浸透により,吸水性表層2中の非水溶性顔料の粉末10は顕著に発色する。
【0073】これにより使用部分(排尿部分)と未使用部分(非排尿部分)の判別が的確に行える。」記載事項i.粒状形の動物用排尿処理材の製造について「【0064】図6,図7に示す動物用排尿処理材は,好ましくは2ミリメートルから20ミリメートルの大きさに打錠した定形の吸水性粒状体1から成る。これに対し図1,図3,図4に示す動物用排尿処理材は,各粒形が不定形の場合を示している。」「【0066】上記植物繊維又は植物粉3と,粘着剤の粉末5と,吸水性ポリマーの粉末16と,水溶性染料の粉末4又は非水溶性顔料の粉末10とを,無加水状態で混練した後打錠機にかけ,図6,図7に示す定形の吸水性粒状体1を圧縮成形する。
【0067】又は植物繊維又は植物粉3と,水溶性染料の粉末4又は非水溶性顔料の粉末10とを混合し無加水混練して打錠する。又はこれら3,4又は10と一緒に,上記粘着剤の粉末5と吸水性ポリマーの粉末16と無機充填材の粉末17とを選択的に配合し打錠する。」甲第1号証の請求項6に係る発明,すなわち発明の詳細な説明における「第六の発明」の「水溶性接着剤層」について検討する。
甲第1号証には,「第六の発明」は,「第五の発明」において吸水性表層の成分を変更したものであり,「第五の発明」は,「第一ないし第四の発明」において吸水性表層の成分を変更したものであることが記載されており(記載事項b参照),「第六の発明」の「水溶性接着剤層」は,「第一ないし第四の発明」の「水溶性接着剤層」と同様のものであることが示されている。
そして,第一及び第二の発明において「水溶性接着剤層」は,「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」であると記載され,第三及び第四の発明において「水溶性接着剤層」は,第一及び第二の発明の「水溶性接着剤層」に水溶性染料または非水溶性顔料の粉末を添加したものであることが記載されているから(記載事項b参照),「第六の発明」の「水溶性接着剤層」は,第一ないし第四の発明と同様に「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」であるといえる。
このことは,第六の発明について,動物の排尿は吸水性表層と非連続水溶性接着剤層の接着剤非塗布部を通して,又は接着材塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透することが記載されていること(記載事項c参照)からも明らかである。
したがって,上記記載,特に請求項6に関する記載によれば,甲第1号証には,次の発明が記載されていると認められる。
「1ミリメートルから20ミリメートルの大きさに造粒した吸水性粒状体と,該吸水性粒状体の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層と,該水溶性接着剤層を介して上記吸水性粒状体の表面に接着された吸水性表層とを有し,動物の排尿が該吸水性表層と水溶性接着剤層を通して吸水性粒状体中に浸透することにより上記非水溶性顔料の粉末が吸水性表層を発色する構成とした粒状形の動物用排尿処理材であって,吸水性粒状体は,植物繊維又は植物粉(木材のバージンパルプ又は古紙再生パルプ又は竹パルプ等の植物繊維,これらの植物粉)50〜97%,粘着剤の粉末1〜30%,無機充填材の粉末1〜40%及び吸水性ポリマーの粉末1〜30%を無加水状態で混練して圧縮形成したものからなり,吸水性表層は,粉末植物繊維又は植物粉(木材のバージンパルプ又は古紙再生パルプ又は竹パルプ等の植物繊維,これらの植物粉)40〜98%,粘着剤の粉末1〜40%,吸水性ポリマーの粉末1〜40%の混合材,さらに非水溶性顔料の粉末が含有されている,粒状形の動物用排尿処理材。」(甲1発明)(2)無効理由の判断ア本件発明1について本件発明1と,甲1発明を対比する。
甲1発明において,「吸水性粒状体」,「吸水性表層」,「粒状形の動物用排尿処理材」,「植物繊維又は植物粉」,「吸水性ポリマーの粉末」,「粘着剤の粉末」は,それぞれ本件発明1の「粒状芯部」,「被覆層部」,「粒状の排泄物処理材」,「有機質材料の粉体」,「吸水性樹脂」,「糊料」に相当する。
甲1発明において,「吸水性粒状体」中の「吸水性ポリマーの粉末」の量は1〜30%と,「植物繊維又は植物粉」の量50〜97%より少ない。
甲1発明において,「植物繊維又は植物粉」には,古紙再生パルプが含まれるところ,「古紙再生パルプ」は,本件発明1の「紙粉」に相当する。
甲1発明において,吸水性表層内の「非水溶性顔料の粉末」は本件発明1の「無機質材料の粉体」に相当する。
また,「1ミリメートルから20ミリメートルの大きさに造粒した吸水性粒状体」は,粒度が1mm以上であるといえる。
さらに,動物用排尿処理材としての使用目的,「粒状形の動物用排尿処理材」を,造粒した吸水性粒状体を乾燥した後,同粒状体1の表面に水溶性接着剤層を塗布し,吸水性表層2の混合物を乾燥状態でまぶして製造していること(記載事項g,h参照)から,甲1発明の「粒状形の動物用排尿処理材」が「乾燥被覆造粒物」であることは明らかである。
したがって,両者は,「有機質材料の粉体及び該有機質材料の粉体より少量の吸水性樹脂を含有し,1ミリメートル以上の粒度の粒状芯部と,該粒状芯部の少なくとも一部表面を覆い,紙粉,無機質材料の粉体及び糊料の混合物を含有する被覆層部とを備える乾燥被覆粒状物である粒状の排泄物処理材。」である点で一致し,次の点で相違する。
相違点1:「被覆層部」が,本件発明1では,粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆うものであるのに対し,甲1発明では,粒状芯部の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して粒状芯部を覆うものである点。
相違点2:被覆層部に含まれる「無機質材料の粉体」が,本件発明1では,着色されたものであるのに対し,甲1発明は着色されたものか否か不明な点。
相違点1について検討する。
本件発明1の「粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆う被覆層部」とは,粒状芯部の少なくとも一部表面に,紙粉,着色されている無機質材料の粉体及び吸水性樹脂の混合物が付着して被覆層部を構成し,この混合物の付着された表面において粒状芯部が被覆層部に覆われるものであることは明らかである。すなわち,粒状芯部に含まれる吸水性樹脂あるいは被覆層部に含まれる糊料の接着作用により,被覆層部が粒状芯部の少なくとも一部表面に直接付着して被覆層部を形成しているものと解される。
一方,甲1発明は,粒状芯部の表面に塗布された水溶性接着剤層を有し,該水溶性接着剤層は,接着剤非塗布部と接着剤塗布部を有しているから,被覆層部は,接着剤層の接着剤塗布部に付着して粒状芯部の表面を覆うものである。
もっとも,甲1発明においても,水溶性接着剤層の接着剤非塗布部においては,粒状芯部に含まれる吸水性樹脂あるいは被覆層部に含まれる吸水性樹脂の接着作用により,粒状芯部の一部表面に被覆層部を構成する混合物が付着している場合もあると認められるが,被覆層部としては,水溶性接着剤層を介して粒状芯部を覆うものであり,「粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆う被覆層部」とはいえない。
そして,甲1発明は,「塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」により,「吸水性粒状体と吸水性表層との複合構造を健全に維持しつつ,排尿吸収により染色された排尿吸収処理材のみを局部的に除去し得る」(記載事項bの段落【0010】参照)ものであり,非連続水溶性接着剤層なくしては発明としてなりたたないものであるから,塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して被覆層部を粒状芯部に付着することと,粒状芯部の少なくとも一部表面に被覆層部を付着することとが,実質的に同一技術である,あるいは課題を解決するための手段における微差であるとすることはできない。
請求人は甲第2号証ないし甲第13号証を提出し,粒状体から成る排泄物処理材において,粒状体(粒状芯部)に被覆層部を形成することは周知慣用の技術であり,該被覆層部の形成に当たり,接着剤を使用しないで,或いは接着剤を使用して付着ないし接着せしめることも周知慣用の技術である旨主張している(弁駁書6頁13行〜8頁15行)。
そして,甲第2号証,甲第3号証,甲第5号証,甲第6号証,甲第8号証,甲第10号証及び甲第11号証には,粒状体の表面に吸水性樹脂又は粘着材を付着した排泄物処理材が,甲第4号証及び甲第9号証には,でん粉,吸水性ポリマーを含む核部分に表層を被覆した排泄物処理材が,甲第12号証には,吸水性ポリマーを含む粒体の表面に界面活性剤を付着させた排泄物処理材が,甲第13号証には糊料,及び,pH指示薬と吸水性ポリマーを含むインク組成物を含む粒体の排泄物処理材が,甲第7号証には有機粒状体の表面に有機膨潤材を被覆した粒状物を充填した土嚢が記載されている。
しかし,甲1発明は,上記のとおり,「塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」を必須とするものであり,甲第2号証ないし甲第13号証によっても,上記相違点1に係る判断は左右されない。
相違点2について検討すると,甲1発明において,被覆層部に含まれる「無機質材料の粉体」は,動物の排尿が該吸水性表層に浸透することにより吸水性表層を発色させるためのものであり,「水溶性染料」を含有させたものと同様の作用をするものであるから(記載事項c,h参照),発色状態を明確にするべく,着色された無機質材料の粉体を使用することも含まれると解され,相違点2は実質的な差異ではない。
したがって,本件発明は,甲1発明とは相違点1に係る差異があるから,甲1発明と同一であるとすることはできない。
イ本件発明2について上記「ア本件発明1について」の,本件発明1と甲1発明の対比をふまえて,本件発明2と甲1発明と対比すると,甲1発明において粒状芯部に含まれる「粘着剤の粉末」及び「無機充填材の粉末」は,本件発明2の「添加物質」に相当するから,両者は少なくとも次の点で相違する。
相違点3:「被覆層部」が,本件発明2では,粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆うものであるのに対し,甲1発明では,粒状芯部の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して粒状芯部を覆うものである点。
相違点3については,上記「ア本件発明1について」で相違点1について検討したのと同様に,実質的に同一技術である,あるいは課題を解決するための手段における微差であるとすることはできない。
したがって,本件発明2は,甲1発明とは相違点3に係る差異があるから,甲1発明と同一であるとすることはできない。
ウ本件発明3ないし5について本件発明3ないし5は,本件発明1又は2のいずれかを引用するものであるから,本件発明1,2が,甲1発明と同一であるとすることができない以上,甲1発明と同一であるとすることができない。
第3審決取消事由1取消事由1(相違点1の認定の誤り)審決は,相違点1として,「『被覆層部』が,本件発明1では,粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆うものであるのに対し,甲1発明では,粒状芯部の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して粒状芯部を覆うものである点。」を認定したが,以下のとおり誤りである。
(1)甲第1号証には,甲1発明の吸水性表層が,澱粉に代表される「粘着剤」を含有することが記載されており(段落【0035】),本件発明1は被覆層部に「糊料」を含有することが要件とされているところ,本件明細書には「本発明において,接着剤としては,例えばα澱粉等の糊料」を使用することが記載されている(段落【0026】)。本件発明1において,被覆層部に含有された「糊料」が湿潤された粒状芯部の水分を吸収して溶解し,接着剤としての機能を果たす現象が生じているとするならば,甲1発明においても,吸水性表層に含有された「粘着剤」が湿潤された吸水性粒状体の水分を吸収し,接着剤としての機能を果たす現象が生じていることは明らかである。
そして,本件発明1において,被覆層部は粒状芯部の表面に「付着」してその表面を覆うものであり,甲1発明における接着剤層も,吸水性粒状体に吸水性表層を「付着」させるための一手段であるから,甲1発明において,吸水性表層を吸水性粒状体に接着して「付着」させることが開示されているというべきである。
また,本件発明1において,被覆層部に含有された「糊料」が粒状芯部の水分を吸収すると,必然的に溶解して粒状芯部と被覆層部の界面に「水溶性接着剤層」を形成し,粒状芯部に被覆層部を一体に結合する構造となる一方,甲1発明においても,吸水性表層に含有された「粘着剤」が,吸水性粒状体の水分を吸収し,溶解して吸水性粒状体と吸水性表層の界面に「水溶性接着剤層」を形成するのであり,この点においても,本件発明1と甲1発明は一致するというべきである。
さらに,甲1発明は甲第1号証の特許請求の範囲の請求項6の記載に基づいて認定されているところ,同請求項6は,単に「水溶性接着剤層」と規定しており,「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」と規定していないから,甲1発明を審決のように限定して認定するべきではなく,「水溶性接着剤層」が「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」かどうかは,甲1発明と本件発明1との相違点を構成するものではない。
そうすると,審決による相違点1の認定は誤りである。
(2)仮に,相違点1が存在するとしても,本件発明1の本質的特徴は,「着色されている無機質材料等を含有する被覆層部によって粒状芯部を被覆すること」にあり,その手段として接着剤層を使用するか,被覆層部内の糊料を使用するかは設計上の微差であり,また,甲第2,第5〜第9,第11,第12号証によると,粒状芯部に相当する造粒物を接着剤層を介さずに被覆層部によって被覆し,二層構造の被覆構造とすることは周知慣用の技術であるから,相違点1に係る構成においてのみ相違する両発明は実質同一であるというべきである。
(3)以上によると,審決が相違点1を認定したことは誤りであり,本件発明1は甲1発明と同一であるとすることはできないとした審決の判断は誤りである。
2取消事由2(本件発明2〜5についての判断の誤り)前項と同様の理由により,本件発明2が甲1発明と同一であるとすることはできないとした審決の判断は誤りであり,本件発明1又は2を引用する本件発明3〜5が甲1発明と同一であるとすることはできないとした審決の判断も誤りである。
第4被告の反論1取消事由1(相違点1の認定の誤り)に対して原告は,審決が相違点1を認定したことは誤りであり,仮に相違点1が存在するとしても,これを実質的な相違点ということはできない旨主張するが,以下のとおり失当である。
(1)甲1発明においては,吸水性粒状体と吸水性表層を層着させるために,非連続水溶性接着剤層を設ける構成としているが,本件発明1において,「糊料」は,紙粉や着色されている無機質材料と一緒に混合物を形成し,混合物中で水を吸収して膨潤することにより粘着性を発揮するものであり,非連続水溶性接着剤層を形成するものではないから,審決による相違点1の認定に誤りはない。
(2)甲1発明において,非連続水溶性接着剤層は,これを介して吸水性表層と吸水性粒状体を強固に接着し,吸水性表層の成分の剥落を防止して表層の層着を健全に維持するために不可欠なものであるから,非連続水溶性接着剤層を欠くことは,甲1発明を成り立たなくさせるものである。したがって,非連続水溶性接着剤層の有無は,設計上の微差にとどまるものではないから,本件発明1と甲1発明が実質同一であるということはできない。
(3)以上のとおり,原告の主張は失当であり,本件発明が甲1発明と同一であるとすることはできないとした審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(本件発明2〜5についての判断の誤り)に対して前項と同様の理由により,本件発明2と甲1発明が同一であるとすることはできないとした審決の判断,及び,本件発明1又は2を引用する本件発明3〜5が甲1発明と同一であるとすることはできないとした審決の判断にも誤りはない。
第5当裁判所の判断原告は,審決が,本件発明1と甲1発明の相違点として,「被覆層部」が,本件発明1では,粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆うものであるのに対し,甲1発明では,粒状芯部の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して粒状芯部を覆うものである点を,相違点1として認定したことは誤りであると主張するので,以下において検討する。
1甲第1号証の記載甲第1号証には,上記第2の3(1)のとおり,審決が記載事項a〜c,f及びgとして認定したとおりの記載があり,これらの記載及び次の記載によると,甲第1号証には,以下の(1)〜(4)の事項が記載されているものと認められる。
「【0011】又第二の発明に係る粒状形の動物用排尿処理材は,上記第一の発明における吸水性粒状体中に,水溶性染料又は水溶性染料の粉末に代え,非水溶性顔料の粉末を配合している。」(1)請求項1に記載された粒状形の動物用排尿処理材は,吸水性表層と吸水性粒状体とを,同粒状体の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して接着した構造を採るものである(記載事項bの段落【0008】)。
(2)接着剤塗布部と接着剤非塗布部から成る非連続水溶性接着剤層は,吸水性粒状体を乾燥した後,又は湿潤状態において同粒状体の表面にポリビニールアルコールに代表される水溶性接着剤をスプレーして形成され(記載事項gの段落【0043】),吸水性表層と吸水性粒状体とは非連続水溶性接着剤層を介して強固に接着し,吸水性表層の吸水性粒状体への層着を維持して吸水性表層の成分の剥落を防止する(同【0046】)。
(3)動物の排尿が,接着剤非塗布部を通して,又は接着剤塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透すると,吸水性粒状体を染色し又はこれに含有されている水溶性染料が,浸透した排尿中に溶出し,非連続水溶性接着剤層を通して吸水性表層を染色するため,使用部分と未使用部分を判別することができる(記載事項bの段落【0007】,【0009】)。そして,非連続水溶性接着剤層が吸水性粒状体と吸水性表層との複合構造を健全に維持するとともに,排尿吸収により染色された排尿吸収処理材のみを除去することができる(記載事項bの段落【0010】)。
(4)請求項6に記載された粒状形の動物用排尿処理材は,吸水性粒状体と,この吸水性粒状体の表面に塗布された水溶性接着剤層と,この水溶性接着剤層を介して吸水性粒状体の表面に接着された吸水性表層とを有するものであるところ(記載事項a),この水溶性接着剤層は請求項1(〜5)と同様のものであって(段落【0011】,記載事項bの段落【0014】,【0017】,【0020】,【0022】),動物の排尿は,吸水性表層と非連続水溶性接着剤層の接着剤非塗布部を通して,又は接着剤塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透し,この時に上記非水溶性顔料粉末により吸水性表層を発色せしめ,これにより使用部分と未使用部分の判別を的確に行うことができる(記載事項c)。
2甲1発明の水溶性接着剤層上記1によると,甲第1号証の特許請求の範囲の請求項6に関する記載から認定することができる甲1発明における「水溶性接着剤層」は,吸水性粒状体に水溶性接着剤をスプレーして形成される「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」であり,このような非連続水溶性接着剤層を介して吸水性粒状体と吸水性表層が強固に層着されるため,吸水性表層の成分の剥落が防止され,吸水性粒状体と吸水性表層の複合構造が健全に維持されるとともに,排尿時には接着剤非塗布部を通して,又は接着剤塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透することにより,非水溶性顔料粉末により吸水性表層を発色させて,使用部分と未使用部分を的確に判別することができるという効果を奏するものであるということができる。そして,甲第1号証において,「水溶性接着剤層」に「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」でないものが含まれることを示唆する記載は認められない。
なお,原告が主張するとおり,上記請求項6は単に「水溶性接着剤層」と規定しているが,甲第1号証の発明の詳細な説明において,「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」に限定されない「水溶性接着剤層」についての記載やそのような限定されない「水溶性接着剤層」の奏する効果についての記載は存在しない(なお,甲第1号証の請求項7,8記載の粒状形の動物用排尿処理材は層構造となっていないものである。)から,甲第1号証から認定することができる粒状形の動物用排尿処理材の発明において,「水溶性接着剤層」が「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」に限定されないものであると理解することはできない。
3本件発明1の被覆層部(1)本件発明1の粒状の排泄物処理材は,上記第2の2のとおり,「有機質材料の粉体及び該有機質材料の粉体より少量の吸水性樹脂を含有し,1ミリメートル以上の粒度の粒状芯部と,該粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆い,紙粉,着色されている無機質材料の粉体及び糊料の混合物を含有する被覆層部とを備える乾燥被覆粒状物であることを特徴とする」ものであるところ,発明特定事項中「糊料」が粘着力を有することは明らかであるから,本件発明1において,「紙粉,着色されている無機質材料の粉体及び糊料の混合物を含有する被覆層部」は,被覆層部が含有する糊料の粘着力によって「粒状芯部」に付着するものであると推認することができるものの,上記付着の仕組みについては,特許請求の範囲の記載のみから一義的に明らかであるとまではいえない。
そこで,以下において,本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌する。
(2)本件明細書(甲第20号証)には次の記載がある。
「【0005】・・・紙粉,着色されている無機質材料の粉体,吸水性樹脂もしくは糊料又は紙粉,着色されている無機質材料の粉体,吸水性樹脂及び糊料を含有する被覆組成物を散布して,前記粒状芯部の少なくとも一部表面を前記被覆組成物により被覆して,・・・」「【0008】・・・粒状の排泄物処理材の被覆層部における吸水性樹脂の含有量を,5重量パーセント以下とすると,濡れた粒状の排泄物処理材は完全に結着するが,水中で分散できるようにすることができる。被覆層部において,吸水性樹脂は,その一部を糊料で代えることができる。被覆層部の吸水性樹脂含有量を少なくし糊料の量を多くすると,濡れたときの粒状の排泄物処理材の結着機能を強くし,水中での分散機能を大きくすることができる。」「【0018】・・・本発明において,粒状の排泄物処理材が使用時に尿等で濡れた粒子同士を付着させて塊状とさせるために,尿等で濡れて付着し合うような性質を有する被覆層部を,造粒物の表面の少なくとも一部を覆って形成するのが好ましい。このような被覆層部は,従来の粒状の排泄物処理材において,尿等で濡れて付着し合うような性質を有する表面層を形成する材料により形成することができる。本発明においては,このような表面層と同等の被覆層部を形成するために,被覆材料として,吸水性樹脂又は接着性を有する材料又は吸水性樹脂及び接着性を有する材料の混合物が使用され,被覆層部を形成する被覆組成物には,該混合物が被覆材料の紙粉と共に使用される。」「【0020】本発明において,造粒された粒状物粒子に含まれる有機質材料の固有の色調を隠すために,有色の着色性物質を配合した被覆組成物を,造粒により形成された粒状物の上に散布等により付着させて,造粒された粒状物の上に被覆層部を形成する。・・・」「【0024】・・・本発明において,造粒により形成された粒状物への被覆材料の散布により,被覆材料中に含まれている着色された無機質材料の粉体は,造粒により形成された粒状物に付着して,粒状の排泄物処理材の望まれる色調に均一に着色される。・・・」「【0025】・・・本発明において,被覆材料により形成される被覆層部は,粒状の排泄物処理材の外層部を形成するものであって,粒状の排泄物処理材が尿で濡れたときに,粒状の排泄物処理材の粒子同士を結合する作用を有するものである。本発明において,粒状の排泄物処理材の粒子が,夫々の被覆層部を介して,互いが容易に結着するように,例えば,接着機能を有する物質,即ち接着剤を,被覆組成物に配合することができる。
【0026】本発明において,接着剤としては,例えばα澱粉等の糊料やポリアクリル酸ナトリウム等の高吸水性樹脂がある。・・・【0027】本発明において,造粒により形成された粒状物を着色された無機質材料を含有する被覆材料により被覆して,着色された粒状の排泄物処理材とする場合,排泄に使用後に,排泄により濡れた粒状の排泄物処理材の部分が,透けて下の色が浮き出るようにすることができる。・・・」「【0039】本発明において,被覆層部は,被覆材料と吸水性樹脂の混合物に,さらに場合によっては添加物質を混合して調整することができる。本発明において,被覆材料としては,紙粉,吸水性樹脂及び着色された無機質材料の粉体で形成されている被覆組成物を使用するのが好ましい。・・・被覆層部を形成する吸水性樹脂としてアクリル酸ナトリウムの使用は,被覆層部を形成する過程で,粒子相互の結着が強固となるので,アクリル酸ナトリウムの使用量は30重量パーセント以下とし,接着力の不足は,澱粉系高吸水性樹脂で代えるのが好ましい。」「【0041】本発明において,粒状の排泄物処理材は,プラスチック材料の粉体又はプラスチック材料の粉体及び有機質材料の廃棄物の粉体を含む造粒物表面を,被覆層部で覆って形成することができる。使用時に,例えば尿は,粒状の排泄物処理材の被覆層部の表面に付着し,尿が被覆層部に付着して濡れた粒状の排泄物処理材は,互いに濡れた被覆層部を介して結着し,固形排泄物の場合には,該排泄物の周囲に付着すると共に,該排泄物を包み込むように互に結着する。本発明においては,粒状の排泄物処理材は,排泄物をその周囲から包み込んで結着するので,排泄物の汚臭等は,排泄物処理材に吸着されて周囲に放散されない。以上のように,本発明においては,粒状の排泄物処理材の被覆層部には,接着剤として,ポリビニルアルコールや小麦粉等の糊料が混合されているので,人又は動物の排泄物に付着して,排泄物を塊状に包み込むこととなり,後始末が簡単かつ容易である。・・・」「【0051】・・・芯部となる粒子は,供給装置32から第一造粒物被覆装置31に搬送されて,被覆材料供給路34により,270メッシュの青色チョーク粉,0.3mmの粒度の紙粉及び高吸水性樹脂の混合物である被覆組成物が散布されて,該被覆組成物により,粒子の表面が均一な青色に着色される。」「【0060】例1.・・・本例においては,円型コーティング装置において,造粒物87重量部(乾燥ベース)に対し,被覆組成物が17重量部(乾燥ベース)となるように被覆組成物を散布した。・・・」(なお,段落【0064】,【0067】,【0070】,【0073】にも同様の記載がある。)上記各記載によると,本件明細書に記載された発明において,被覆組成物は紙粉,着色されている無機質材料の粉体,吸水性樹脂もしくは糊料又は紙粉,着色されている無機質材料の粉体,吸水性樹脂及び糊料を含有するものであり,造粒により形成された粒状物の上に,上記被覆組成物を散布等することにより付着させて形成されるものであって,被覆層部を粒状芯部に付着させるために,「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」のような接着剤層を必要とするものではないと認められる。
そうすると,本件発明1に係る被覆層部及び被覆層部と粒状芯部の付着についても上記のとおりのものであると理解することができる。
この点に関して,原告は,本件明細書には「本発明において,接着剤としては,例えばα澱粉等の糊料」(段落【0026】)を使用することが記載されているから,本件発明1において,被覆層部に含有された「糊料」が粒状芯部の水分を吸収すると,必然的に溶解して粒状芯部と被覆層部の界面に「水溶性接着剤層」を形成し,粒状芯部に被覆層部を一体に結合する構造となると主張する。
確かに,本件明細書には,「被覆層部を形成する吸水性樹脂としてアクリル酸ナトリウムの使用は,被覆層部を形成する過程で,粒子相互の結着が強固となる」(段落【0039】)との記載があることから,本件発明1において,粒状芯部と被覆層部の界面付近に存在する「糊料」が被覆層部の粒状芯部への付着に何らかの寄与をするものと推認することもできるが,「糊料」は被覆組成物の含有物として,紙粉,着色されている無機質材料の粉体,吸水性樹脂と共に被覆組成物が含有する混合物の一要素となっているものであり,少なくとも,被覆層部とは別の「水溶性接着剤層」を形成するものでないことは明らかであるし,また,「糊料」は,尿で濡れた粒状の排泄物処理材同士が,被覆層部を介して,互いに結着するために混合されるものであり,「水溶性接着剤層」を形成するためのものではないことは,本件明細書の前記各記載に照らし明らかであるから,原告の主張を採用することはできない。
(3)以上によると,本件発明1は,甲1発明の「多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層」との構成を備えないものであるところ,上記2のとおり,甲1発明において,上記非連続水溶性接着剤層は,それを介して吸水性粒状体と吸水性表層が強固に層着されるため,吸水性粒状体と吸水性表層の複合構造が健全に維持され,吸水性表層の成分の剥落が防止されるとともに,排尿時には接着剤非塗布部を通して,又は接着剤塗布部を溶解して吸水性粒状体中に浸透することにより,非水溶性顔料粉末により吸水性表層を発色させて,使用部分と未使用部分を的確に判別することができるという効果を奏するものであり,上記非連続水溶性接着剤層は甲1発明を特徴付ける必須の構成であるから,甲第1号証の記載から,上記非連続水溶性接着剤層を除外して発明を認定することは相当ではないというべきである。
4以上によると,本件発明1の被覆層部が粒状芯部の少なくとも一部表面に付着して,該表面を覆うものであるのに対し,甲1発明では,粒状芯部の表面に塗布された多数の接着剤非塗布部と接着剤塗布部から成る非連続水溶性接着剤層を介して粒状芯部を覆うものであるという点において,本件発明1と甲1発明は相違するものというべきであるから,この点を相違点1として認定した審決に誤りはない。
また,原告は,粒状芯部に相当する造粒物を接着剤層を介さずに被覆層部によって被覆し,二層構造の被覆構造とすることは周知慣用の技術であるから,相違点1に係る構成においてのみ相違する両発明は実質同一であるとも主張するが,上記3(3)のとおり,甲1発明において上記非連続水溶性接着剤層は必須の構成であるから,上記非連続水溶性接着剤層の存在しない構成が慣用手段により可能となるからといって,甲第1号証にそのような発明が記載されているということはできない。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
そうすると,本件発明1と甲1発明が同一であるということはできないから,取消事由1は理由がない。
5被覆層部が粒状芯部に付着する構成について本件発明1と同様である本件発明2についても,本件発明1と同様の理由によって甲1発明と同一であるとすることはできないし,本件発明1又は2を引用する本件発明3〜5が甲1発明と同一であるとすることもできないから,取消事由2も理由がない。
第6結論以上のとおり,取消事由はいずれも理由がなく,審決に原告主張の誤りはないから,原告の請求を棄却すべきであり,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記