関連審決 | 不服2004-23901 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10704審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10261審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10300審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10402審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10706審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 一致点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / パリ条約 / 優先権 / 援用権(援用) / 参酌 / 発明の要旨認定 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 構成要件 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 誤記の訂正 / 請求の範囲 / 減縮 / 釈明 / 国際出願 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10332号
審決取消請求事件
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原告ザ・ユニバーシティ・オブ・シドニー 訴訟代理人弁理士丸山敏之,宮野孝雄,北住公一,長塚俊也,久徳高寛 被告特許庁長官鈴木隆史 指定代理人川本眞裕,亀丸広司,森川元嗣,森山啓 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/08/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が不服2004−23901号事件について平成19年5月1日にした審決を取り消す。 訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた裁判主文と同旨の判決第2事案の概要本件は,原告がした後記特許出願(以下「本願」という。)に対し拒絶査定がされたため,これを不服として審判請求をしたが,同請求は成り立たないとの審決がされたため,その取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)本願(甲1)出願人:原告発明の名称:「ガス供給マスク」出願番号:平成8年特許願第517203号出願日:平成7年12月8日(国際出願。パリ条約による優先権主張:1994(平成6)年12月9日,オーストラリア)手続補正:平成16年3月23日付け(甲7。以下「本件原補正」といい,本願に係る本件原補正後の明細書(甲1,7)を「本願明細書」と,本願に係る願書に添付された図面(甲1)を「本願図面」とそれぞれいう。また,「当初明細書」というときは,本願に係る願書に最初に添付された明細書(甲1)を指す。)拒絶査定:平成16年8月16日付け(甲9)(2)審判請求手続審判請求日:平成16年11月22日(甲10。不服2004-23901号)手続補正書提出日:平成16年11月22日(甲11。原告がこの手続補正書により行おうとした手続補正を,以下「本件第1補正」という。)手続補正書提出日:平成16年12月15日(甲12。原告がこの手続補正書により行おうとした手続補正を,以下「本件第2補正」という。)手続補正書提出日:平成16年12月22日(甲14。原告がこの手続補正書により行おうとした手続補正を,以下「本件第3補正」という。)審決日:平成19年5月1日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成19年6月6日2特許請求の範囲の請求項1の記載(請求項2以下の記載は省略)(1)本件原補正後のもの「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが,当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域の厚さよりも薄く形成され,それによって大きな可撓性を有するように作られており,接続されたガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも,少なくともその一部は,ガス供給ポートを含む壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」(2)本件第1補正に係るもの(下線部が補正箇所である。)「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと,ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)と,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで,且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され,それによって,ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」(3)本件第2補正に係るもの(下線部が補正箇所である。)「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と,ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され,顔面接触部の近傍領域は,環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって,ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」(4)本件第3補正に係るもの(下線部が補正箇所である。)「使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と,ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,環状壁部分(20)(35)の厚さは,チャンバ室近傍領域よりも薄く形成され,チャンバ室近傍領域は,環状壁部分を取り囲み,略均一厚さであって,ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。」3審決の理由の要旨審決は,?@本件第1補正は,平成6年法律第116号2条による改正前の特許法(以下,単に「特許法」という。)17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものに該当しないから,同項の規定に違反するものであり,同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである,仮に,同補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても,同補正に係る請求項1に記載された発明(以下「本願第1補正発明」という。)は不明確であって,同法36条6項2号に規定する要件を満たさず,そのため,同発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,同補正は,同法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである,?A本件第2補正は,同補正に係る請求項1に記載された発明(以下「本願第2補正発明」という。)が,後記引用発明及び後記刊行物に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,同法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである,?B本件第3補正は,同法17条の2第4項各号に掲げる事項を目的とするものに該当しないから,同項の規定に違反するものであり,同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである,仮に,同補正に係る事項(語句)の意義を善解するとしても,同補正は,新規事項を追加するものであるし,また,仮に,同補正が新規事項を追加するものではなく,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても,同補正に係る請求項1に記載された発明(以下「本願第3補正発明」という。)は,後記引用発明及び後記刊行物に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,同法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,いずれにしても,同補正は,却下すべきものである,として,本件第1補正ないし本件第3補正をいずれも却下し,?C本願の請求項1に係る発明の要旨を,本件原補正後の請求項1の記載に基づいて認定した上(以下,同請求項に記載された発明を「本願原補正発明」という。),本願原補正発明は,本願第2補正発明と同様,後記引用発明及び後記刊行物に記載された周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 (1)本件第1補正について「[補正却下の決定の結論]本件第1補正を却下する。 [理由]本件第1補正により,特許請求の範囲の請求項1は,『使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと,ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)と,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで,且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され,それによって,ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。』と補正された。(下線は補正箇所を示す。)上記補正は,『ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)』という補正事項(以下『補正事項1』という。)と『環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで,且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され』という補正事項(以下『補正事項2』という。)を含むものである。 本願明細書には,環状壁部分(20)(35)の厚さは端部領域(15)(30)の厚さと同じオーダであること,及び,環状壁部分(20)(35)は後部領域(16)(31)よりも薄く形成されていることが記載されており(明細書8ページ14〜19行,9ページ8〜14行,10ページ18〜20行,11ページ17〜21行,図5,図10参照),これらの記載からみて,補正事項2に記載された『顔面接触部』は『端部領域(15)(30)』に相当し,『顔面接触部の隣接部分』は『後部領域(16)(31)』に相当するものと解することができる。 一方,補正事項1の『周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)』なる記載は,『環状壁部分(20)(35)』の周縁が『顔面接触部』に連結していることを意味するものであるが,本願図面の図5及び図10によれば,環状壁部分(20)(35)の周縁は,『後部領域(16)(31)』に連結しているものの,『端部領域(15)(30)』に連結していないことからみて,『顔面接触部』とは『後部領域(16)(31)』を意味するか,あるいは『後部領域(16)(31)』及び『端部領域(15)(30)』からなるものを意味するか,どちらかということになる。 そうすると,補正事項1と補正事項2とで,『顔面接触部』の意味が整合しておらず,本願第1補正発明における『顔面接触部』の意味が不明確であるから,本件第1補正は請求項1に係る発明を不明確なものにする補正といわざるをえない。 したがって,本件第1補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。 よって,本件第1補正は,特許法17条の2第4項の規定に違反してなされたものであり,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 なお,仮に,本件第1補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても,上記のとおり,『顔面接触部』の意味が不明確であるから,本願は特許法36条6項2号の規定を満たしておらず,本願第1補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。したがって,本件第1補正は,同法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。」(2)本件第2補正について「[補正却下の決定の結論]本件第2補正を却下する。 [理由]ア本願第2補正発明本件第2補正により,特許請求の範囲の請求項1は,『使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と,ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され,顔面接触部の近傍領域は,環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって,ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。』と補正された。(下線は補正箇所を示す。)上記補正は,本件第1補正により補正された『顔面接触部』の意味が不明確であったところ,『ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)』を『ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)』と補正することによって,その意味を明確にしたものと解される。 ところで,本件第1補正は上記『(1)』に記載したとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,本件第2補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,上記のとおりのものである。そして,本件第2補正の適否は,本件第1補正が却下されたから,本件第1補正前の明細書及び図面を基準に判断することになる((知的財産高等裁判所)平成17年(行ケ)第10698号参照)。 そこで,本件第2補正の適否について検討する。本件第2補正は,本件第1補正前の請求項1(本件原補正により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載した発明を特定するために必要な事項である『壁のガス供給ポートを含む部分』を『ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)』と限定し,『当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域』を『顔面接触部の近傍領域』と言い換えるとともに,『顔面接触部の近傍領域は,環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって』との限定を付加し,『ガス供給ライン』の接続相手を『ガス供給ポート』と限定し,『マスクのいかなる動き』を『顔面接触部へ及ぶ動き』に限定したものであって,かつ,補正後の請求項1に記載された発明(本願第2補正発明)と補正前の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので,上記補正は,特許法17条の2第4項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 なお,本件第2補正においては,本件第1補正前の請求項1に記載されていた『それによって大きな可撓性を有するように作られており』という事項が削除されているが,これは『環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され』,『環状壁部分が撓む』と記載することによって言い換えたものと認められる。仮に,言い換えたものでないとすると,本件第2補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとはいえないことになり,しかも,上記削除する補正が,請求項の削除,誤記の訂正,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないことは明らかであるから,本件第2補正は,特許法17条の2第4項の規定に違反してなされたものということになる。 そこで,上記のとおり,本件第2補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するとして,以下に,本願第2補正発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に適合するか)について検討する。 イ特開昭50-689号公報(甲4。以下『引用例』という。)の記載引用例には,図面とともに次の事項が記載されている。 ・・・(ウ)『本発明は,呼吸用マスクに関し,特に装着が容易な呼吸用マスクに係る。前述の目的と麻酔用の目的のために,マスクは膨出した接顔枠を有していることは周知である。空気を充填することによつて,この枠に弾力性を付与し,正確に顔面に適用することができる。この方法により,マスクの所望の密接が達成される。』(2ページ左上欄7〜13行)・・・(キ)『第1図乃至第3図に示された実施例は,マスクの中に押し込め得るようにしたチユーブ6を有し,この際マスクの中央部も共に内方に押入される(第2図参照)。このことは,チユーブ6に近接した中央部分の壁厚が,他の部分より薄いことによつて達成される。この部分7における壁厚の減少によつて,柔軟な区域が形成され,他の部分の比較的硬い構造にも拘らず,チユーブ6を押圧し,中央部分を内方に凹ませることが可能となる。』(3ページ右下欄15行〜4ページ左上欄4行)・・・これらの記載事項及び図示内容を総合すると,引用例には,『使用者へガスを送り込むのに用いられる呼吸用マスクであって,接顔枠1と中央部分3とによってマスク室が形成され,該マスク室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした,内部に空気が充填された接顔枠1と,マスク室の壁を構成する中央部分3と一体に形成され,ガスをマスク室の内部へ供給するために,マスク室との接続部となるチユーブ6と,チユーブ6の外側の周囲に形成され周縁は接顔枠1に固く接着された中央部分3に連結している環状の薄い部分7と,マスクを使用者の人体頭部に保持せしめる保持手段を具えており,薄い部分7の壁厚は,中央部分3よりも薄く形成され,中央部分3は,薄い部分7を取り囲み且つ薄い部分7よりも大きな壁厚であり,チユーブ6にはガス供給ラインが接続され,薄い部分7が柔軟な区域として形成されている呼吸用マスク。』の発明(以下『引用発明』という。)が記載されていると認められる。 ウ対比そこで,本願第2補正発明と引用発明とを対比すると,後者における『呼吸用マスク』は,その構造又は機能からみて,前者における『マスク』に相当し,以下同様に,『マスク室』が『チャンバ室』に,『接顔枠1』が『顔面接触部(13)(28)』に,『ガス』が『ガス』又は『加圧ガス』に,『チユーブ6』が『ガス供給ポート(21)(27)』に,『薄い部分7』が『環状壁部分(20)(35)』に,『マスクを使用者の人体頭部に保持せしめる保持手段』が『マスクを使用者に固定させる手段』に,『壁厚』が『厚さ』に,『中央部分3』が『顔面接触部の近傍領域』に,それぞれ相当する。 また,後者における『薄い部分7』が『チユーブ6の外側の周囲に形成され』ている態様は,前者における『環状壁部分』が『ガス供給ポートを囲んで含』んでいる態様に相当する。 さらに,後者においては,『接顔枠1と中央部分3とによってマスク室が形成され』ていることからみて,『接顔枠1』が『マスク室を形成する形状に作られ』ているということができるから,後者は,前者における『チャンバ室を形成する形状に作られ』に相当する構成を備えているということができる。 してみると,両者は,本願第2補正発明の用語を用いて表現すると,『使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと,ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分と,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,環状壁部分の厚さは,顔面接触部の近傍領域よりも薄く形成され,顔面接触部の近傍領域は,環状壁部分を取り囲んでいるマスク。』の点で一致し,以下の点で相違する。 相違点1:本願第2補正発明においては,顔面接触部の近傍領域は顔面接触部よりも大きな厚さであるのに対して,引用発明においては,そのようになっていない点。 相違点2:本願第2補正発明においては,ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしているのに対して,引用発明においては,その点が明らかにされていない点。 エ判断次に,上記相違点について検討する。 (ア)相違点1について前記『イ(ウ)』に摘記したように,引用発明における顔面接触部(接顔枠1)は,空気を充填することによってこの枠に弾力性を付与し,正確に顔面に適用することができるようにしたものであるから,本願第2補正発明における顔面接触部と同様の機能を果たすものであることは明らかである。 しかも,使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクにおいて,マスクを使用する際,使用者の顔面に当接し,その顔の輪郭に倣うようにするために,顔面接触部を顔面接触部の近傍領域よりも小さな厚さとすること(言い換えれば,顔面接触部の近傍領域を顔面接触部よりも大きな厚さとすること)は,例えば,特開平2-215475号公報(甲6)や米国特許第5243971号明細書(1993(平成5)年9月14日頒布。甲3)などに見られるように,従来周知の技術にすぎないから,引用発明における顔面接触部を従来周知の顔面接触部に置き換えることは,当業者であれば容易になし得ることである。 したがって,相違点1に係る本願第2補正発明のように構成することは,当業者にとって容易である。 (イ)相違点2について引用発明においても,マスクの使用時にはガス供給ポート(チユーブ6)にガス供給ラインが繋がっているから,ガス供給ラインが動いたときにガス供給ラインからの作用により顔面接触部(接顔枠1)へその動きが及ぶ可能性がある。そして,引用発明においても,前記『イ(キ)』に摘記したように,環状壁部分(薄い部分7)は顔面接触部分の近接領域(中央部分3)よりも薄く形成され,柔軟な区域として形成されているから,ガス供給ポート(チユーブ6)に何らかの力が作用すれば,その力の作用方向を問わず,それに伴って環状壁部分(薄い部分7)がその力の作用方向に多少とも撓むものと解される。その場合,環状壁部分(薄い部分7)が撓むことにより顔面接触部へ及ぶ動きの少なくとも一部はその環状壁部分(薄い部分7)で吸収されることになることは明らかである。したがって,相違点2は実質的には相違点とはいえない。 そして,本願第2補正発明の効果も,引用発明及び上記周知技術から当業者が予測できる範囲内のものであって格別なものとはいえない。 したがって,本願第2補正発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。 オむすび以上のとおり,本件第2補正は,特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。」(3)本件第3補正について「[補正却下の決定の結論]本件第3補正を却下する。 [理由]本件第3補正により,特許請求の範囲の請求項1は,『使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部(13)(28)と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポート(21)(27)と,ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)と,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,環状壁部分(20)(35)の厚さは,チャンバ室近傍領域よりも薄く形成され,チャンバ室近傍領域は,環状壁部分を取り囲み,略均一厚さであって,ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用により顔面接触部へ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことにより吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。』と補正された。(下線は補正箇所を示す。)しかしながら,『チャンバ室近傍領域』という語句については,明細書に定義や説明がなく,どこを指すのかが明らかでない。 したがって,本件第3補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。 よって,本件第3補正は,特許法17条の2第4項の規定に違反してなされたものであり,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 なお,仮に,本願第3補正発明における『チャンバ室近傍領域』が,補正の経緯からみて,実質的に『顔面接触部の近傍領域』を意味すると解するとしても,『顔面接触部の近傍領域』を『略均一厚さ』とすることについては,出願当初の明細書又は図面のどこにも記載されておらず,また,その記載から自明な事項ともいえないから,この場合,本件第3補正は新規事項の追加に当たるといえる(当初明細書には,『顔面接触部の近傍領域』に相当する『後部領域』については,『壁の厚さが相対的に厚い後部領域(16)は,凸状端部から離間するにつれて厚さが増しており』(明細書8ページ17〜18行),『後部領域(30)の壁の厚さは,凸状端部領域(30)の方へ向かって大きくなっている。』(明細書10ページ17〜18行)などと記載され,図5及び図10の断面図においても,後部領域(16)(31)は端部領域(15)(30)に向かって薄くなっており,むしろ『略均一厚さ』でないことが記載されている。)。さらに,仮に,新規事項を追加するものではなく,本件第3補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても,本願第3補正発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。即ち,本願第3補正発明と引用発明とを対比すると,両者は,上記相違点2に加えて,チャンバ室近傍領域を略均一にしたか否かの点で相違する。しかしながら,上記相違点2については前記『(2)エ(イ)』に記載したとおりであり,また,チャンバ室近傍領域を略均一にするか否かの点については,当業者が適宜設定し得ることであり,そのことによって作用効果の点で格別顕著な差異が生じるわけではないから,当業者にとって単なる設計的事項にすぎないといわざるをえない。してみると,本願第3補正発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるということになる。したがって,いずれにしても,本件第3補正は,却下すべきものであるということになる。」(4)本願の請求項1に係る発明「本件第1補正,本件第2補正,本件第3補正はいずれも上記のとおり却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,本件原補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,以下のとおりのものである(本願原補正発明)。 『使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,壁のガス供給ポートを含む部分の厚さが,当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域の厚さよりも薄く形成され,それによって大きな可撓性を有するように作られており,接続されたガス供給ラインからの作用によるマスクのいかなる動きも,少なくともその一部は,ガス供給ポートを含む壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。』」(5)引用発明「前記『(2)イ』に記載したとおりである。」(6)対比・判断「本願原補正発明は,前記『(2)ア』で検討した本願第2補正発明の限定事項である『ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)』を『壁のガス供給ポートを含む部分』とし,『顔面接触部の近傍領域』を『当該部分に隣接するチャンバ室の壁領域』と言い換えるとともに,限定事項である『顔面接触部の近傍領域は,環状壁部分を取り囲み且つ顔面接触部及び環状壁部分よりも大きな厚さであって』との構成を省き,限定事項である『顔面接触部へ及ぶ動き』を『マスクのいかなる動き』とするものである。 そうすると,本願原補正発明の構成要件をすべて含み,さらに他の構成要件を付加したものに相当する本願第2補正発明が,前記『(2)ウ及びエ』に記載したとおり,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願原補正発明も,同様の理由により,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。」(7)審決の「むすび」「以上のとおり,本願原補正発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。」第3審決取消事由の要点審決は,以下のとおり,本件第1補正ないし本件第3補正の適否についての各判断を誤り,これら各手続補正をいずれも却下した結果,本願の請求項1に係る発明の要旨認定を誤り,また,仮に,本願の請求項1に係る発明の要旨認定に誤りがないとしても,本願原補正発明と引用発明との相違点を看過した結果,本願原補正発明が特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断したものであるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(本件第1補正の適否についての判断の誤り)(1)特許法17条の2第4項違反について本件第1補正は,本件原補正後の請求項1に発明特定事項を追加し,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであるから,特許法17条の2第4項の規定に違反するものではない。 アこの点に関し,審決は,補正事項2(「環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで,且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され」との補正事項)について,「『顔面接触部』は『端部領域(15)(30)』に相当し,『顔面接触部の隣接部分』は『後部領域(16)(31)』に相当するものと解することができる。」と,補正事項1(「ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)」との補正事項)について,「環状壁部分(20)(35)の周縁は,・・・『端部領域(15)(30)』に連結していないことからみて,『顔面接触部』とは『後部領域(16)(31)』を意味するか,あるいは『後部領域(16)(31)』及び『端部領域(15)(30)』からなるものを意味するか,どちらかということになる。」とそれぞれ判断し,この判断に基づき,「補正事項1と補正事項2とで,『顔面接触部』の意味が整合しておらず,本願第1補正発明における『顔面接触部』の意味が不明確である」と結論付けた。 イ(ア)しかしながら,補正事項2につき,本件第1補正に係る請求項1の2行目及び3行目の記載並びに本願明細書及び本願図面の記載によれば,「顔面接触部」とは,着用者の顔面を覆う部分であって,「チャンバ室」と同義であり,後部領域も含まれるものであることは明らかであるから,補正事項2は,当然に,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部の端部領域(15)(30)と同じオーダで,且つ顔面接触部の壁の環状壁部分に隣接している壁部分よりも薄く形成され」を意味するものである。すなわち,補正事項2中,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダ」との記載は,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,チャンバ室の端部領域(15)(30)と同じオーダ」であることを述べているものであり,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,・・・顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され」との記載は,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,・・・チャンバ室壁のうち,環状壁部分(20)(35)に隣接している壁部分よりも薄く形成され」ること,すなわち,「チャンバ室を構成する後部領域(16)(31)よりも薄く形成され」ることを述べているものである。 (イ)また,補正事項1につき,上記(ア)の請求項及び本願明細書の各記載(なお,本願明細書には,環状壁部分の周縁が端部領域に連結しているか否かについての記載はない。)によれば,「後部領域(16)(31)」もチャンバ室(14)を形成し,環状壁部分がそれに隣接するチャンバ室の壁と一体に作られていることは明らかであるから,補正事項1は,当然に,「ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部の壁部分に連結している環状壁部分(20)(35)」を意味するものである。すなわち,補正事項1中,「周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)」との記載は,「周縁はチャンバ室に繋がっている環状壁部分(20)(35)」であることを述べているものである。 (ウ)このように,「顔面接触部」が,チャンバ室(14)(29)を形成する部分をいうことは明らかである。 (エ)以上のとおりであるから,「補正事項1と補正事項2とで,『顔面接触部』の意味が整合しておらず,本願第1補正発明における『顔面接触部』の意味が不明確である」との審決の判断は誤りであり,本件第1補正が,本件原補正後の請求項1に発明特定事項を追加し,特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであることは明らかである。 ウ被告の主張に対する反論(ア)被告は,「補正事項1にいう『周縁はチャンバ室に連結している環状壁部分(20)(35)』との事項は,『環状壁部分(20)(35)』の周縁が『チャンバ室』に連結していることを意味する」と主張するが,一般に,「連結」とは,2つの部材が直接連結する場合のみならず,2つの部材間に別部材を介してつながる場合をも意味することが多く,補正事項1も,環状壁部分(20)(35)の周縁が後部領域(16)(31)を介してチャンバ室の端部領域(15)(30)に連結していることを意味するものである。 したがって,被告の主張は,この「連結」を「『環状壁部分(20)(35)』の周縁が『チャンバ室』に『直結』している」と解するものであり,誤りである。 (イ)被告は,「チャンバ室の厚さを特定することができない」旨主張するが,本願明細書には,チャンバ室が均一厚さであるとの記載はなく,被告の主張は,チャンバ室の全体の厚さが同一であるとの誤解に基づくものである。本願明細書には,「チャンバ室の隣接部分」である後部領域(16)(31)は,環状壁部分(20)(35)よりも厚いと記載されており,補正事項1と補正事項2とは矛盾するものではない。 (ウ)被告は,「『顔面接触部』は,『端部領域(15)(30)』を意味するものと解するのが相当である」旨主張するが,当初明細書の記載からすると,顔面接触部は,チャンバ室に等しく,当該チャンバ室は,後部領域(16)(31)を含んでいると解するのが自然であるから,被告の主張は失当である。 (2)特許法36条6項2号違反について上記(1)において主張したところによれば,本願第1補正発明は,明確であるから,本件第1補正後の本願は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしているというべきである。 (3)小括よって,本件第1補正を却下した審決の判断は誤りである。 2取消事由2(本件第2補正の適否についての判断の誤り)審決は,本願第2補正発明と引用発明とを対比して,両発明の一致点並びに相違点1及び2を認定した上,これらの相違点について判断した結果,「本願第2補正発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。」と結論付けたが,審決には,以下のとおり,一致点の認定の誤り及び相違点看過の誤りがある。 (1)一致点の認定の誤りア審決は,引用発明の「薄い部分7」が,本願第2補正発明の「環状壁部分(20)(35)」に相当し,引用発明の「『薄い部分7』が『チューブ6の外側周囲に形成され』ている態様」が,本願第2補正発明の「『環状壁部分(20)(35)』が『ガス供給ポート(21)(27)を囲んで含』んでいる態様」に相当するとそれぞれ認定したが,本願第2補正発明は,顔面接触部(13)(28)を折り返す部分を有しない(環状壁部分(20)(35)には,顔面接触部(13)(28)を折り返す働きはない)し,また,本願第2補正発明の上記態様においては,ガス供給ラインからの作用が吸収されるのに対し,引用発明の上記態様においては,当該吸収がされないのであるから,審決の上記各認定は誤りである。 イ被告は,「引用発明においても,チューブ6に何らかの力が作用すれば,その力の作用方向に『薄い部分7』が多少ともたわむものと解されることから,引用発明の『薄い部分7』は,本願第2補正発明の『環状壁部分(20)(35)』に相当する」と主張する。 しかしながら,被告の主張は,引用例の第3図と本願図面の第5図における図面上の形の対比のみに基づくものであって,このことから,引用発明の「薄い部分7」と本願第2補正発明の「環状壁部分(20)(35)」とが,同一目的で形成され,同一機能を発揮する,同一の構成であるということにはならない。 すなわち,引用発明の「薄い部分7」は,「チューブ6を押圧し,中央部分を内方に凹ませることを可能にする」ことを目的とした構成であって,本願第2補正発明のように,ガス供給ラインからの作用を受けてマスクがどのように動いても,壁部(20)のたわみによって,その動きを吸収する機能を発揮するものではない。 (2)相違点の看過本願第2補正発明(本願明細書及び本願図面の記載を含む。)と引用発明とを対比すると,以下の各相違点が認められるから,審決には,これらの相違点を看過した誤りがある。 ア(ア)「本願第2補正発明は,チャンバ室(14)(29)が単一構成によって形成されているのに対し,引用発明は,マスク室が接顔枠1と中央部分3との組合せによって形成されている点。」(以下「本願第2補正発明に係る原告主張相違点1」という。)(イ)この点に関し,被告は,「『単一構成』との用語(技術事項)は,本件第2補正に係る特許請求の範囲の請求項1に記載されておらず,また本願明細書にも記載がない。」と主張する。 しかしながら,原告が主張する「単一構成」とは,「顔面接触部と,リム(22)又は壁部(26)と,環状壁部分(20)(35)とガス供給ポート(21)(27)を一体に形成していること」をいうものであり,これは,本件第2補正に係る特許請求の範囲の請求項1の記載に基づくものであるから,被告の主張は失当である。 イ(ア)「本願第2補正発明は,顔面接触部(13)(28)が,環状壁部分(20)(35)及びガス供給ポート(21)(27)と一体に形成されてチャンバ室(14)(29)全体を形成しているのに対し,引用発明は,接顔枠1が中央部分3に接着しており,交換可能なものとされている点。」(以下「本願第2補正発明に係る原告主張相違点2」という。)(イ)この点に関し,被告は,「引用発明においても接顔枠1と中央部分3とが一体に形成されているということができる」と主張するが,引用例には,「接顔枠1は,中央部分3に対して交換可能である」旨の記載があり,接顔枠1と中央部分3とは別部材であると解さざるを得ないから,引用例には,本願第2補正発明における「チャンバ室の壁とガス供給ポートと環状壁部分とが一体に形成されている」旨の技術的思想は開示されていないというべきであり,被告の主張は失当である。 ウ「本願第2補正発明は,引用発明の中央部分3に相当する部分を有しないのに対し,引用発明は,硬質プラスチックで成形した中央部分3を有する点。」(以下「本願第2補正発明に係る原告主張相違点3」という。)エ「本願第2補正発明は,マスクの全体がシリコーンエラストマーのような弾性材料で形成されているのに対し,引用発明は,マスクの中央部分3が硬質プラスチックで形成されている点。」(以下「本願第2補正発明に係る原告主張相違点4」という。)(3)小括よって,本件第2補正を却下した審決の判断は誤りである。 3取消事由3(本件第3補正の適否についての判断の誤り)(1)特許法17条の2第4項違反について本件第3補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから,特許法17条の2第4項の規定に違反するものではない。 アこの点に関し,審決は,「『チャンバ室近傍領域』という語句については,明細書に定義や説明がなく,どこを指すのかが明らかでない。」と判断した上,これに基づき,「本件第3補正は,請求項の削除,特許請求の範囲の減縮,誤記の訂正,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてする明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しない。」と結論付けた。 イしかしながら,「チャンバ室近傍領域」がチャンバ室の後部領域(16)(31)を指すことは明らかであるから,本件第3補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであることも明らかである。 ウ被告は,「甲15の図によっても,なぜ『チャンバ室近傍領域』が『チャンバ室の後部領域(16)(31)』を指すといえるのかについては,不明である」旨主張するが,これは,「チャンバ室近傍領域」との語が当初明細書に直接存在しないことを理由とするものにすぎない。当初明細書の下記各記載並びに本件第3補正に係る請求項1の「周縁はチャンバ室近傍領域につながっている環状壁部分(20)(35)」及び「チャンバ室近傍領域は,環状壁部分を取り囲み」との各記載によれば,「チャンバ室近傍領域」が「チャンバ室の後部領域(16)(31)」を指すことは自明であるから,本件第3補正は,明細書の記載に基づいた自明事項であるということができ,したがって,被告の上記主張は失当である。 (ア)「マスクの壁のガス供給ポートを含む部分の厚さは,それに隣接する部分の厚さよりも薄くすることが望ましい。」(4頁23行〜末行)(イ)「リム(22)とポート(21)の間の壁部(20)の厚さは,マスクの隣接部の厚さよりも薄い。」(9頁8,9行)(ウ)「ガス供給ポート(21)を含む壁(20)は,マスクの隣接領域と比べて,可撓性の程度がより大きくなるように作られている。」(9頁12〜14行)(エ)「壁のガス供給ポートを含む部分は,その隣接部分よりも薄い厚さに形成されている」(13頁請求項2)(2)特許法17条の2第3項違反(新規事項の追加)について本件第3補正は,当初明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり,特許法17条の2第3項に違反するものではない。 アこの点に関し,審決は,「『顔面接触部の近傍領域』を『略均一厚さ』とすることについては,出願当初の明細書又は図面のどこにも記載されておらず,また,その記載から自明な事項ともいえないから,この場合,本件第3補正は新規事項の追加に当たる」と判断した。 イしかしながら,上記(1)イのとおり,「チャンバ室近傍領域」は,後部領域(16)(31)の後半部分を指すものであり,また,出願当初の明細書及び図面から明らかなとおり,本件第3補正に係る「チャンバ室近傍領域は,環状壁部分を取り囲み,略均一厚さであって」との記載は,後部領域(16)(31)の後半部分の厚みが,軸方向の厚さではなく,環状壁部分(20)(35)を取り囲む円周方向の壁の厚みが略一定に形成されていることを意味するものである。 したがって,本件第3補正は,出願当初の明細書又は図面から自明の事項を追記したものであり,新規事項の追加には当たらないというべきである。 ウ被告は,「仮に,『略均一厚さ』が,原告の主張するように,『円周方向』の厚さであるとしても,原告が新規事項の追加でないとする根拠として挙げた出願当初の図5及び図10は,一つの断面で切った断面図にすぎず,他のあらゆる断面で切った断面図においても,チャンバ室(14)(29)の壁の厚さが,上下同一厚さであるとは限らない」と主張する。 しかしながら,本願図面中の図5は,図3を5-5線で切断し矢視した断面図であるところ,図3のマスクは,3つの突片(18)(18)(18)を略等角度に設けた構成を採用したものであり,5-5線は,そのいずれか任意の1つの突片(18)を含めてチャンバ室を破断した断面図である。また,本願明細書にも本願図面にも,環状壁部分の近傍領域にあるチャンバ室の壁の厚さが不均一であることを示唆する記載はない。さらに,図10についても,ガス供給ポート(27)を中心とした環状壁部分(35)の近傍は,同一厚さに描かれている。 以上からすると,チャンバ室(14)(29)の壁の厚さが円周方向に一定であることは自明であり,被告の主張は理由がない。 (3)相違点の看過ア審決は,本願第3補正発明と引用発明とを対比して,両発明に係る相違点2及び「チャンバ室近傍領域を略均一にしたか否か」との相違点を認定した上,これらの相違点について判断した結果,「本願第3補正発明は,引用発明及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない」と結論付けた。 しかしながら,本願第3補正発明(本願明細書及び本願図面の記載を含む。)と引用発明とを対比すると,「本願第3補正発明は,チャンバ室(14)(29)近傍領域が,環状壁部分(20)(35)を取り囲み,略均一厚さである,すなわち,後部領域(16)(31)の壁の厚みが,環状壁部分(20)(35)の円周方向に沿う断面で略一定に形成されているのに対し,引用発明は,中央部分3が,周方向に沿う断面では同じ厚みではなく,リブ部分では肉厚に形成されている点。」との相違点(以下「本願第3補正発明に係る原告主張相違点」という。)が認められるから,審決には,当該相違点を看過した誤りがある。 イ被告は,「原告は,『本願第3補正発明は,・・・すなわち,後部領域(16)(31)の壁の厚みが,環状壁部分(20)(35)の円周方向に沿う断面で略一定に形成されている』と主張するが,本件第3補正に係る特許請求の範囲の請求項1には,原告の上記主張に係る構成についての記載はないから,審決が本願第3補正発明に係る原告主張相違点を看過したとの原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして失当である。」と主張するが,上記(2)のとおり,後部領域(16)(31)の壁の厚みが環状壁部分(20)(35)の円周方向に沿う断面で略一定に形成されていることは自明であるから,被告の主張は失当である。 (4)小括よって,本件第3補正を却下した審決の判断は誤りである。 4取消事由4(本願原補正発明と引用発明との相違点の看過)本願原補正発明(本願明細書及び本願図面の記載を含む。)と引用発明とを対比すると,「本願原補正発明は,顔面接触部(13)(28),壁及びガス供給ポート(21)(27)をシリコーンエラストマーのような弾性材料で一体に形成したものであるのに対し,引用発明は,中央部分3を硬化プラスチックで成形し,接顔枠1を軟質プラスチック部材の吹込成型で成形した点。」との相違点(以下「本願原補正発明に係る原告主張相違点」という。)が認められるから,審決には,当該相違点を看過した誤りがある。 第4被告の反論の骨子以下のとおり,本件第1補正ないし本件第3補正をいずれも却下した審決の判断に誤りはなく,また,審決には,本願原補正発明に係る原告主張相違点を看過した誤りもない。 1取消事由1(本件第1補正の適否についての判断の誤り)に対して(1)特許法17条の2第4項違反及び同法36条6項2号違反についてア原告の主張によって生じる矛盾について(ア)原告が主張するとおり,「顔面接触部」が「チャンバ室」と同義であるとすると,補正事項1は,「ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室に連結している環状壁部分(20)(35)」と,補正事項2は,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,チャンバ室と同じオーダで,且つチャンバ室の隣接部分よりも薄く形成され」とそれぞれ置き換えることができる。 そうすると,補正事項1にいう「周縁はチャンバ室に連結している環状壁部分(20)(35)」との事項は,「環状壁部分(20)(35)」の周縁が「チャンバ室」に連結していることを意味することになり,また,補正事項2の前段によれば,「環状壁部分(20)(35)」と「チャンバ室」とは同じオーダの厚さであるとされる一方,同後段によれば,「環状壁部分(20)(35)」は「チャンバ室の隣接部分」よりも薄いということになる。 (イ)そして,原告の主張や用語の意味に照らし,「チャンバ室の隣接部分」は,「チャンバ室」の一部であって,「環状壁部分(20)(35)」に隣接している部分と考えざるを得ないところ,そうすると,「チャンバ室」の一部である「チャンバ室の隣接部分」は,「環状壁部分(20)(35)」よりも厚いということになり,「チャンバ室」の厚さを特定することができず,「環状壁部分(20)(35)」の厚さが「チャンバ室」との関係で特定できないことになる(なお,本願明細書等の記載をみても,同明細書によれば,「環状壁部分(20)(35)」の厚さは0.8mm以下ということになるところ,補正事項2の前段によれば,「チャンバ室」の厚さは,「環状壁部分(20)(35)」の厚さと同じオーダであるから,0.8mm以下ということになる一方,甲15(図5)及び同明細書によれば,「チャンバ室の隣接部分」の厚さは,2.0mmということになる。)。 イ「顔面接触部」の意義について「顔面接触部」とは,その字義からみて,「顔面と接触する部分」を意味するものと理解するのが自然であるし,本願図面中の第10図のマスクにおいて突片33が設けられている位置及び第5図のマスクにおいて突片18が設けられている位置に加え,本願明細書が引用するオーストラリア特許第643994号(以下「訴外特許」という。)に係る公報(乙3。以下「乙3公報」という。)やそのパテントファミリーである米国特許第5243971号に係る明細書(甲3。以下「甲3明細書」という。)に記載されているとおり,本願に係る技術分野においては,「顔面接触部」との用語が「顔面と接触する部分」との意味で使用されていることをも併せ考慮すると,「顔面接触部」は,「端部領域(15)(30)」を意味するものと解するのが相当であり,これが「端部領域(15)(30)」と「後部領域(16)(31)」とを併せた部分を意味するとの原告の主張は,誤りである。 ウ以上のとおりであるから,本件第1補正は,本願の請求項1に係る発明を不明確にするものであり,特許法17条の2第4項及び同法36条6項2号の各規定に違反するものである。 (2)よって,本件第1補正を却下した審決の判断に誤りはない。 2取消事由2(本件第2補正の適否についての判断の誤り)に対して(1)一致点の認定の誤りについてア引用発明の「薄い部分7」は,壁厚が他の部分よりも薄く柔軟な区域として形成されている。これに対し,本願第2補正発明の「環状壁部分(20)(35)」も,壁厚が他の部分よりも薄く形成されたわみやすい部分である。このように,両者はどちらも外力を受けることによって簡単に変形する部分であるという点で機能が共通し,また,引用発明においても,チューブ6に何らかの力が作用すれば,その力の作用方向に「薄い部分7」が多少ともたわむものと解されることから,引用発明の「薄い部分7」は,本願第2補正発明の「環状壁部分(20)(35)」に相当するということができる。 イまた,引用発明における「チューブ6」が本願第2補正発明における「ガス供給ポート(21)(27)」に相当することは明らかであり,しかも,引用発明の「薄い部分7」は「チューブ6の外側周囲に形成され」ており,本願第2補正発明の「環状壁部分(20)(35)」も「ガス供給ポート(21)(27)を囲んで含」んでいるから,引用発明の「薄い部分7」が「チューブ6の外側周囲に形成され」ている態様が,本願第2補正発明の「環状壁部分(20)(35)」が「ガス供給ポート(21)(27)を囲んで含」んでいる態様に相当することは明らかである。 ウしたがって,審決に,原告が主張するような一致点の認定の誤りはない。 (2)相違点の看過についてア本願第2補正発明に係る原告主張相違点1について原告は,「本願第2補正発明は,チャンバ室(14)(29)が単一構成によって形成されている」と主張するが,「単一構成」との用語(技術事項)は,本件第2補正に係る特許請求の範囲の請求項1に記載されておらず,また本願明細書にも記載がない。 したがって,本願第2補正発明に係る原告主張相違点1は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから,この点に係る原告の主張は失当である。 イ本願第2補正発明に係る原告主張相違点2について原告は,本願第2補正発明と引用発明とは,「本願第2補正発明は,顔面接触部(13)(28)が,環状壁部分(20)(35)及びガス供給ポート(21)(27)と一体に形成されてチャンバ室(14)(29)全体を形成しているのに対し,引用発明は,接顔枠1が中央部分3に接着しており,交換可能なものとされている点。」で相違すると主張する。 しかしながら,審決が認定した引用発明の「接顔枠1に固く接着された中央部分3」との構成は,接顔枠1と中央部分3とが固く接着することによって一体化されていることを意味するから,引用発明においても接顔枠1と中央部分3とが一体に形成されているということができる(なお,仮に,接顔枠1が交換可能なものであるとしても,接顔枠1の機能に変わりはない。)。 したがって,引用発明が,本願第2補正発明に係る原告主張相違点2の構成を備えていることは明らかであり,審決に当該相違点の看過はない。 ウ本願第2補正発明に係る原告主張相違点3について原告は,本願第2補正発明と引用発明とは,「本願第2補正発明は,引用発明の中央部分3に相当する部分を有しないのに対し,引用発明は,硬質プラスチックで成形した中央部分3を有する点。」で相違すると主張する。 しかしながら,本願第2補正発明の「顔面接触部の近傍領域」は,引用発明の「中央部分3」に相当するものであるところ,これが,硬質プラスチックで成形したものでないことは,本件第2補正に係る特許請求の範囲の請求項1において特定されていない。 したがって,本願第2補正発明が引用発明と材質の点で相違するとの原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして失当である。 エ本願第2補正発明に係る原告主張相違点4について原告は,「本願第2補正発明は,マスクの全体がシリコーンエラストマーのような弾性材料で形成されている」と主張するが,本件第2補正に係る特許請求の範囲の請求項1には,「マスクの全体がシリコーンエラストマーのような弾性材料で形成されている」との記載はない。 したがって,本願第2補正発明に係る原告主張相違点4は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから,この点に係る原告の主張は失当である。 (3)よって,本件第2補正を却下した審決の判断に誤りはない。 3取消事由3(本件第3補正の適否についての判断の誤り)に対して(1)特許法17条の2第4項違反について原告は,「『チャンバ室近傍領域』がチャンバ室の後部領域(16)(31)を指すことは明らかである」と主張する。 しかしながら,本件第3補正における「チャンバ室近傍領域」との語句については,本願明細書に定義や説明がされておらず,それがガス供給マスクのどこを指すのかが明らかでないところ,一般に「室」とは「部屋」,すなわち,壁に囲まれた空間を意味するものと解されるから,「チャンバ室」とは,チャンバ室の壁に囲まれた空間を意味するものと解するのが普通である。また,上記語句中の「近傍」が何に対して「近傍」なのか不明である。そうすると,「チャンバ室」の「近傍領域」とは,ガス供給マスクのどの部分を指すのか明らかであるとはいえない(チャンバ室の内側を指すのか外側を指すのかさえ明らかでない。)。 原告は,上記主張が甲15の図から明らかであると主張するが,同図によっても,なぜ「チャンバ室近傍領域」が「チャンバ室の後部領域(16)(31)」を指すといえるのかについては,不明であるといわざるを得ない。 したがって,本件第3補正が,特許請求の範囲の減縮,請求項の削除,誤記の訂正,明りょうでない記載の釈明のいずれを目的とするものにも該当しないとした審決の判断に誤りはない。 (2)特許法17条の2第3項違反(新規事項の追加)について原告は,「本件第3補正に係る『チャンバ室近傍領域は,環状壁部分を取り囲み,略均一厚さであって』との記載は,後部領域(16)(31)の後半部分の厚みが,軸方向の厚さではなく,環状壁部分(20)(35)を取り囲む円周方向の壁の厚みが略一定に形成されていることを意味する」と主張する。 しかしながら,本件第3補正に係る特許請求の範囲の請求項1には,「チャンバ室近傍領域は,環状壁部分を取り囲み,略均一厚さであって」と記載されているだけで,「略均一厚さ」がそもそも「軸方向」の厚さなのか,「円周方向」の厚さなのについての特定はない。したがって,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,失当であるといわざるを得ない。 また,原告が「チャンバ室近傍領域」であると主張する「後部領域(16)(31)」が「略均一厚さ」であることは,軸方向についても円周方向についても,出願当初の明細書又は図面に記載されたものではない。 仮に,「略均一厚さ」が,原告の主張するように,「円周方向」の厚さであるとしても,原告が新規事項の追加でないとする根拠として挙げた出願当初の図5及び図10は,一つの断面で切った断面図にすぎず,他のあらゆる断面で切った断面図においても,チャンバ室(14)(29)の壁の厚さが,上下同一厚さであるとは限らないし,図10についていえば,原告が「チャンバ室近傍領域」であると主張する「後部領域(31)」を,ガス供給ポート27の中心軸線に垂直な面で輪切りにした場合,「後部領域(31)」の壁厚が上下同一厚さにならないことはその記載から明らかであるから,図10は,原告の主張の根拠となるものではない。 以上のとおりであるから,「略均一厚さ」の点が新規事項の追加に当たるとした審決の判断に誤りはない。 (3)相違点の看過について原告は,「本願第3補正発明は,・・・すなわち,後部領域(16)(31)の壁の厚みが,環状壁部分(20)(35)の円周方向に沿う断面で略一定に形成されている」と主張するが,本件第3補正に係る特許請求の範囲の請求項1には,原告の上記主張に係る構成についての記載はないから,審決が本願第3補正発明に係る原告主張相違点を看過したとの原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして失当である。 なお,本願第3補正発明に係る原告主張相違点のうち,「チャンバ室(14)(29)近傍領域が,環状壁部分(20)(35)を取り囲み,略均一厚さである」との点については,審決も,これを相違点として認定し,その容易想到性についての判断を示しているところである。 以上のとおりであるから,審決に,本願第3補正発明に係る原告主張相違点の看過はない。 (4)よって,本件第3補正を却下した審決の判断に誤りはない。 4取消事由4(本願原補正発明に係る原告主張相違点の看過)に対して原告は,「本願原補正発明は,顔面接触部(13)(28),壁及びガス供給ポート(21)(27)をシリコーンエラストマーのような弾性材料で一体に形成したものである」と主張するが,本件原補正後の特許請求の範囲の請求項1には,原告の上記主張に係る構成についての記載はないから,審決が本願原補正発明に係る原告主張相違点を看過したとの原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものとして失当である。 第5当裁判所の判断1取消事由1(本件第1補正の適否についての判断の誤り)について(1)補正事項1及び2にいう「顔面接触部」及び同2にいう「顔面接触部の隣接部分」の各意義についてア本件第1補正に係る請求項の記載(甲11)本件第1補正に係る請求項1(以下,単に「請求項1」などというときは,本件第1補正に係る請求項を指す。)の記載(前記第2の2(2)のとおりであるが,便宜上,ここに再掲する。)並びに請求項2及び請求項5ないし請求項8の各記載は,次のとおりである(下線部は,補正箇所である。)。 「【請求項1】使用者へガスを送り込むのに用いられるマスクであって,チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスが使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部と,チャンバ室の壁と一体に形成され,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,チャンバ室との接続部となるガス供給ポートと,ガス供給ポートを囲んで含み周縁は顔面接触部に連結している環状壁部分(20)(35)と,マスクを使用者に固定させる手段を具えており,環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで,且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され,それによって,ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることを特徴とするマスク。 【請求項2】使用者へガスを送り込むのに使用されるマスクであって,弾性材料からなり,チャンバ室を形成する形状に作られた顔面接触部を具え,該チャンバ室は,凸状端部領域を有し,該領域は,マスクの使用時,使用者の顔面に押しつけられて顔面の輪郭に倣うようになっており,端部領域には孔が開設され,該孔を通じてガスが使用者の気道へ送られるようになっており,チャンバ室の壁と一体に形成されたガス供給ポートを具えており,加圧ガスをチャンバ室の内部へ供給するために,前記ポートはチャンバ室との接続部となっており,ガス供給ポートを囲んで含み周縁はチャンバ室の壁に連結している環状壁部分(20)(35)と,マスクを使用者に固定される手段を具え,該手段によって,チャンバ室の端部領域が使用者の顔面の一部分を覆い,チャンバ室へ送り込まれたガスの作用を受けて被覆領域の輪郭を3次元的に密封できるようにしており,マスクの特徴とするところは,環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され,それによってガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことによって吸収されるようにしていることにあるマスク。 【請求項5】ガス供給ポートは,チャンバ室の凸状端部領域に向かってガスが送られるように配置される請求項2に記載のマスク。 【請求項6】マスクは,前部がチャンバ室の凸状端部領域を有し,後部がガス供給ポートを含む壁部を有しており,後部の壁の平均厚さは,前部の壁の平均厚さよりも大きい請求項5に記載のマスク。 【請求項7】後部の壁の厚さは,前部から離れるにつれて大きくなっている請求項6に記載のマスク。 【請求項8】固定手段は,マスクの前部と後部の境界部に隣接する周縁部から径方向外向きに突出するように配置される請求項6又は7の何れかに記載のマスク。」イ本願第1補正に係る請求項の記載の意義上記アの本件第1補正に係る請求項1の記載によれば,本願発明は,使用者が顔面にマスクを装着して使用することによりガスの供給を受けるマスクに係る発明であり,その構成要素は,顔面接触部,ガス供給ポート及びマスク固定手段から成るものである。顔面接触部はチャンバ室を形成する形状であり,チャンバ室の壁(すなわち,顔面接触部の壁)とガス供給ポートは一体に形成されること,そして,顔面接触部と一体形成されるガス供給ポートのうち,これを支える部分は環状壁部分とされ,環状壁部分の周縁部,すなわち環状をした外周部において顔面接触部と連結されること,以上の基本的な構成から成る本願のガス供給マスクを見ると,顔面接触部が形成するチャンバ室の壁及び環状壁部分により外界から遮断され,ガス供給ラインから供給されたガスは,ガス供給ポートからチャンバ室へ移動し,チャンバ室,すなわち顔面接触部から使用者に供給されることが明らかである。さらに本願発明の特定事項によれば,環状壁部分の厚さと顔面接触部の厚さが「同じオーダで」あり,かつ,環状壁部分の厚さは,環状壁部分に連結する顔面接触部のうち環状壁部分に隣接する部分の厚さよりも「薄く形成され(る)」ことが規定されており,この後者に規定された厚さの違いを設けることにより,本願発明の特徴的作用効果である「ガス供給ポートに繋がっているガス供給ラインからの作用によりマスクへ及ぶ動きは,少なくともその一部は,環状壁部分が撓むことによって吸収される」との効果を奏するものであることが認められる。 補正事項1は,顔面接触部全体と,これと一体形成されるガス供給ポートとの関係を明確にするための補正であり,顔面接触部と連結するガス供給ポートを支える部分を環状壁部分と規定したものと認めることができる。また,補正事項2は,環状壁部分と顔面接触部の厚さの関係を「同じオーダ」と規定するとともに環状壁部分と顔面接触部のうち環状壁部分に隣接する部分の厚さの関係を,前者を後者よりも薄く形成するものと規定したものと認めることができる。なお,本件第1補正に係る請求項1の記載中には,上記「隣接部分」の範囲を規定する文言はないが,ここで問題とすべき点は環状壁部分の厚さを顔面接触部との関係で規定することであるから,上記の範囲を限定する必要はないものである。 審決は,補正事項1と同2における「顔面接触部」の意味が整合していないとするが,上記説示のとおり,補正事項1における「顔面接触部」は,顔面接触部全体と,ガス供給ポートを支える環状壁部分との関係を規定したものであるから「顔面接触部全体」を意味するものであることは明確である。また,補正事項2においては,上記説示のとおり,「顔面接触部」の内,環状壁部分に隣接した部分,すなわち,「顔面接触部」の一部である環状壁部分との「隣接部分」の厚さと環状壁部分の厚さの関係を,前者より後者を「薄く形成する」ものと規定したものであるから,ここにいう「顔面接触部の隣接部分」が「顔面接触部」の一部を意味することは明らかであり,したがって,両補正において「顔面接触部」の意味が整合していないとか,その意味が不明確であるということはできない。 以上のように,本件第1補正に係る請求項1の記載のみから「顔面接触部」の意義について上記のとおり判断することが可能であり,その意義が不明確ということはできないが,審決は,上記請求項1の記載に加えて本願明細書の発明の詳細な説明をも参酌した上で,上記のような判断に至ったものであるから,以下においては,念のため審決の手法に従って更に検討してみることとする。 ウ本願明細書の記載本願明細書には,次の各記載がある。 (ア)「医療アドバイザーや利用者から広く認められた鼻マスクが,1991年5月16日にザ・ユニバーシティ・オブ・シドニーに対して付与されたオーストラリア特許第643994号に記載されている。このマスクは,周辺部を密封する従来のマスクとは,顔面と接触する部分が弾性・・・材料から作られ,風船状のチャンバ室が形成される形に作られている点において,従来のマスクとは根本的に異なるものである。ガスがチャンバ室に入ると,チャンバ室は外方に膨らむ。従って,マスクが着用者に装着されると,顔面接触部が着用者の顔面の領域を覆い,被覆された領域の輪郭と共に3次元的に密封する。 ・・・前述のマスクは,着用者の顔面に接触しない・・・シェル状剛性成形体に取り付けられて用いるか,又は該成形体と一体に用いられる。・・・しかし,・・・シェルは剛性であることから,ガス供給ラインからシェルに及ぼす力があれば,それはマスク本体まで伝達される傾向にあることがわかった。・・・本発明の目的は,マスク本体とガス供給ラインの間に剛性のシェル状成形体を設ける必要性のないマスクを提供することにより,これらの不都合をできるだけ少なくすることである。」(甲1の2頁12行〜3頁下から6行(甲7の手続補正書本文1頁下から9〜7行に記載された補正後のもの。なお,以下,特に断らない限り,本願明細書の引用箇所を特定する際の頁及び行は,甲1の頁及び行を指す。))(イ)「発明の開示・・・本発明は,・・・着用者にガスを送り込むのに用いられるマスクを提供するものであり,それは顔面接触部を具え,該接触部は,チャンバ室を構成するような形に作られ,該チャンバ室を通じて,ガスは使用者の気道・・・へ送られる。ガス供給ポートが,チャンバ室の壁と一体に形成され,該ポートはチャンバ室との接続部として供され,該ポートを通じて加圧ガスはチャンバ室の内部へ供給される。・・・このマスクの特徴とするところは,壁のガス供給ポートを含む部分は,該部分に隣接する領域と比べて,大きな可撓性・・・を有していることにあり,このため,接続されたガス供給ラインからマスクに作用するいかなる動きも,ガス供給ポートを含む壁部分が撓むことにより,その動きの少なくとも一部は吸収される。 マスクの顔面接触部は,弾性材料から作られることが望ましい。また,チャンバ室には凸状端部領域・・・を形成することが望ましく,該領域は,マスクを使用する際,使用者の顔面に当接し,その顔の輪郭に倣うようになっている。端部領域には,孔が形成されており,該孔を通って,ガスは使用者の気道へ送り込まれる。この形態のマスクが使用者に装着されると,チャンバ室の端部領域は,使用者の顔の一部分を覆うようになっており,チャンバ室に送り込まれたガスの影響を受けて,顔面接触部の被覆部の輪郭を3次元的に密封する。 マスクの壁のガス供給ポートを含む部分の厚さは,それに隣接する部分の厚さよりも薄くすることが望ましい。これは,接続されたガス供給ラインが動いたとき,壁の肉薄部分を屈曲させるためであり,マスクの本体部が着用者の顔に接触したときに生ずるマスクの移動量を最小にするためである。」(3頁下から5行〜5頁4行)(ウ)「上記の要領でマスクを作ることにより,・・・従来のマスクと比べて,本発明のマスクの顔面接触部のいかなる動きも軽減される。」(5頁12〜16行)(エ)「発明の実施の形態従来の鼻マスクを,図1A乃至図1Cに示している。顔面接触部(10)は,弾性材料から形成され,普通は風船状チャンバ室を形成するように作られている。顔面接触部は,剛性のシェル状成形体(11)に取り付けられ,そのシェル状成形体には空気供給ライン(12)が接続されている。 空気がチャンバ室に入ると,マスクは使用者に装着され,顔面接触部(10)は使用者の顔の輪郭に沿って顔面を覆い,密封する。従来のこの種マスクの難点は,前述したとおり,ガス供給ライン(12)とマスク本体との間での相対的な動きが,剛性のシェル状成形体を介して,顔の輪郭に沿う箇所へ伝わることである。このため,マスクの一部が使用者の顔から持ち上げられ,・・・密封状態が全て損なわれる結果となる。マスクが持ち上げられたときの2つの態様を,図1Bと図1Cに示している。」(7頁8行〜下から2行)(オ)「本発明の鼻マスクの第1実施例を図2乃至図5を参照して説明する。 図2乃至図5に示されるように,鼻マスクは,・・・耐引裂性にすぐれるシリコーンエラストマーのような弾性材料から形成される。マスクは,従来のマスクと同じように,風船状チャンバ室(14)を形成するように作られた顔面接触部(13)を有している。チャンバ室は,薄壁によって形成された全体的に凸状の端部領域(15)を有しており,この端部領域は,マスクの使用時,使用者の鼻に押されて,使用者の鼻の形状に倣うようになっている。 マスクの凸状端部領域(15)は,ほぼ円筒状の後部領域(16)から突出している。後部領域の壁の厚さは,凸状端部領域よりも僅かに厚い。マスクの凸状端部領域の厚さは,0.8 mm 以下が望ましく,0.2 mm 以下のオーダが最も望ましい。壁の厚さが相対的に厚い後部領域(16)は,凸状端部から離間するにつれて厚さを増しており,平均厚さは2.0 mm のオーダである。 マスクの顔面接触部(13)の全体は,フランジ(17)と共に一体成形されており,3つの可撓性突片(18)が前記フランジから放射状に延びている。」(8頁1行〜下から3行)(カ)「マスクの凸状端部領域(15)には孔(19)が開設され,該孔を通じて,着用者の鼻通路へガスが送られる。 チャンバ室(14)の凸状端部から最も離れた後端部は,その一部が,突片(18)と略同一平面上にある壁(20)によって構成され,円筒壁のガス供給ポート(21)が前記壁(20)と一体に形成されている。壁(20)の外周部は,リム(22)で囲まれており,リム(22)とポート(21)の間の壁部(20)の厚さは,マスクの隣接部の厚さよりも薄い。壁部(20)の厚さは,凸状端部領域(15)の厚さと同じオーダであることが望ましい。 このように,ガス供給ポート(21)を含む壁(20)は,マスクの隣接領域と比べて,可撓性の程度がより大きくなるように作られている。従って,マスクは,接続されたガス供給ライン(23)(図4参照)からの作用を受けてどのように動いても,その動きの少なくとも一部は,ガス供給ポートを含む壁部(20)の撓みによって吸収される。これを図示したものが図7A及び図7Bであり,ガス供給ライン(23)が動いたとき,ガス供給ラインとマスクの顔面接触部(13)との間の可撓性連結具がどのように動くかを示している。」(9頁2行〜下から4行)(キ)「図8乃至図11に示されるマスクの実施例は,図2乃至図6に示される実施例と比べて,壁部(26)(ガス供給ポート(27)を含んでいる)とマスクの他の部分との間の移行部が鋭くない点以外は,同様のものである。 マスクは,風船状チャンバ室(29)を構成する形状に作られた顔面接触部(28)を具えている。 チャンバ室は,薄壁部によって形成された全体的に凸状の端部領域(30)を有しており,この端部領域は,前述の実施例と同じように,マスクの使用時,着用者の鼻に押されて,着用者の鼻の形状に倣うようになっている。 マスクの凸状端部領域は(30)は,略半球状の後部領域(31)から前方に突出し,前記後部領域は後壁部(26)に繋がっている。後部領域(31)の壁の厚さは,凸状端部領域(30)の方に向かって大きくなっている。凸状端部領域(30)の厚さは0.2〜0.8 mm の範囲であり,後部領域(31)の平均厚さは1.5〜3.5 mm のオーダである。 小フランジ(32)がマスク本体と一体に成形され,マスク本体から張り出しており,該フランジから3つの突片(33)が径方向外向きに突出している。・・・前述の実施例と比べて,図10に示されるフランジ(32)と突片(33)は,マスクの突状端部領域(30)の直ぐ背後に配置されている点が異なる。」(10頁5行〜11頁5行)(ク)「マスクの凸状端部領域(30)には,孔(34)が形成され,該孔を通って,ガスは使用者の鼻通路に送られ,前述したように,ガスは供給ポート(27)を通って,チャンバ室(29)へ供給される。ガスがチャンバ室の中に入り,マスクが着用者の顔に押し当てられると,凸状端部領域(30)は顔の領域を覆い,被覆された領域の輪郭を3次元的に密封する。 ガス供給ポート(27)がマスクの他の部分に対し相対的な望ましくない撓みに対処するために(するために),後壁部(26)には,ポート(27)の周囲を取り囲む所定幅の環状部(35)を形成し,該環状部の肉厚を薄くしている。このように,壁部の環状部(35)の肉厚は,凸状端部領域(30)と略同じであるか,いづれにしても,隣接壁部(26)よりも実質的に小さい。」(11頁9行〜下から4行(甲7の手続補正書本文2頁4行〜末行に記載された補正後のもの))エ本願図面の記載及びその説明本願図面(図12を除く。)の記載及びその説明(上記ウ(エ)〜(ク)及び本願明細書6頁8行〜7頁5行)は,次のとおりである。 (ア)図1Aないし図1C(訴外特許のマスクが使用者に装着されたときの概略図)(図1A)(図1B)(図1C)なお,「10」は「顔面接触部」を,「11」は「シェル状成形体」を,「12」は「ガス供給ライン」をそれぞれ表す。 (イ)図2(第1実施例に係るマスクの側面図)なお,図2並びに後記図3ないし図6,図7A及び図7Bにおいて,「13」は「顔面接触部」を,「14」は「チャンバ室」を,「15」は「(凸状)端部領域」を,「16」は「後部領域」を,「17」は「フランジ」を,「18」は「突片」を,「19」は「孔」を,「20」は「環状壁部分」を,「21」は「ガス供給ポート」を,「22」は「リム」を,「23」は「ガス供給ライン」をそれぞれ表す。 (ウ)図3(図2に示すマスクを矢印3の方向から見た正面図)及び図4(図2に示すマスクを矢印4の方向から見た背面図)(図3)(図4)(エ)図5(図2に示すマスクを図3の5-5線で切断し,矢印方向から見た断面図)(オ)図6(図2ないし図5に示すマスクが利用者に装着される様子を説明した図)並びに図7A及び図7B(図2ないし図4に示すマスクの特徴部分を説明する図)(図6)(図7A)(図7B)(カ)図8(第2実施例に係るマスクの側面図)及び図9(図8に示すマスクを矢印9の方向から見た正面図)(図8) (図9)なお,図8及び9並びに後記図10及び図11において,「26」は「(後)壁部」を,「27」は「ガス供給ポート」を,「28」は「顔面接触部」を,「29」は「チャンバ室」を,「30」は「(凸状)端部領域」を,「31」は「後部領域」を,「32」は「フランジ」を,「33」は「突片」を,「34」は「孔」を,「35」は「環状壁部分」をそれぞれ表す。 (キ)図10(図8に示すマスクを,図9に示す10-10線で切断し,矢印方向から見た断面図)及び図11(図8に示すマスクを,矢印11の方向から見た背面図)(図10) (図11)オ補正事項1及び2にいう「顔面接触部」の意義について(ア)補正事項1及び2にいう「顔面接触部」に「端部領域(15)(30)」が含まれることについては,当事者間に争いがない。 (イ)そこで,上記ア,ウ及びエの記載及び図示に基づき,補正事項1及び2にいう「顔面接触部」に「後部領域(16)(31)」が含まれるか否かについて検討する。 a(a)請求項1及び2の記載(上記ア)請求項1及び2の記載については,次の各点を指摘することができる。 i請求項1には,「チャンバ室を形成する形状に作られ,該チャンバ室を通じてガスを使用者の気道へ送り込まれるようにした顔面接触部」との記載がある。 ii請求項1と同じく「チャンバ室を形成する形状に作られた顔面接触部」との記載がある請求項2には,「該チャンバ室は,凸状端部領域を有し」との発明特定事項があるのに対し,請求項1には,そのような発明特定事項がない。 (b)訴外特許のマスクに係る本願明細書及び本願図面の記載(上記ウ(ア)及び(エ)並びにエ(ア))i訴外特許のマスクについては,本願明細書に次の各記載があることを指摘することができる。 「このマスクは,・・・顔面と接触する部分が弾性・・・材料から作られ,風船状のチ (i)ャンバ室が形成される形に作られている・・・。・・・マスクが着用者に装着されると,顔面接触部が着用者の顔面の領域を覆い,・・・密封する。・・・前述のマスクは,着用者の顔面に接触しない・・・シェル状剛性成形体に取り付けられて用いるか,又は該成形体と一体に用いられる。」「顔面接触部(10)は,弾性材料から形成され,普通は風船状チャンバ室を形成するよ(ii)うに作られている。顔面接触部は,剛性のシェル状成形体(11)に取り付けられ・・・る。・・・マスクは使用者に装着され,顔面接触部(10)は使用者の顔の輪郭に沿って顔面を覆い,密封する。」ii本願明細書の記載により訴外特許のマスクに係る図面であると認められる図1Aないし図1Cについては,次の各点を指摘することができる。 (i)図1Aないし図1Cにおいては,マスクのうち,着用者の顔面に当接する部分からシェル状成形体(11)に隣接する部分までの部材全体が「10」(顔面接触部)として図示されているものと理解することができる。 (ii)図1B及び図1Cにおいては,「10」(顔面接触部)として示される部材の下部又は上部が,ガス供給ライン(12)の動きにより,シェル状成形体(11)に近接する部分から着用者の顔面に近接する部分までのほぼ全体にわたり,たわんでいる様子が図示されている。 (c)本願明細書の「発明の開示」の記載(上記ウ(イ)及び(ウ))「発明の開示」として,本願明細書に次の各記載があることを指摘することができる。 i「本発明は,・・・顔面接触部を具え,該接触部は,チャンバ室を構成するような形に作られ,該チャンバ室を通じて,ガスは使用者の気道・・・へ送られる。」ii「マスクの顔面接触部は,弾性材料から作られることが望ましい。また,チャンバ室には凸状端部領域・・・を形成することが望ましく,該領域は,マスクを使用する際,使用者の顔面に当接し,その顔の輪郭に倣うようになっている。」iii「マスクの壁のガス供給ポートを含む部分の厚さは,それに隣接する部分の厚さよりも薄くすることが望ましい。これは,接続されたガス供給ラインが動いたとき,・・・マスクの本体部が着用者の顔に接触したときに生ずるマスクの移動量を最小にするためである。」iv「上記の要領でマスクを作ることにより,・・・従来のマスクと比べて,本発明のマスクの顔面接触部のいかなる動きも軽減される。」(d)第1実施例に係る本願明細書及び本願図面の記載(上記ウ(オ)及び(カ)並びにエ(イ)ないし(オ))i第1実施例については,本願明細書に次の各記載があることを指摘することができる。 (i)「鼻マスクは,・・・弾性材料から形成される。マスクは,従来のマスクと同じように,風船状チャンバ室(14)を形成するように作られた顔面接触部(13)を有している。チャンバ室は,・・・凸状の端部領域(15)を有しており,この端部領域は,マスクの使用時,・・・使用者の鼻の形状に倣うようになっている。」(ii)「マスクの顔面接触部(13)の全体は,フランジ(17)と共に一体成形されて・・・いる。」(iii)「マスクは,接続されたガス供給ライン(23)・・・からの作用を受けてどのように動いても,その動きの少なくとも一部は,ガス供給ポートを含む壁部(20)の撓みによって吸収される。これを図示したものが図7A及び図7Bであり,ガス供給ライン(23)が動いたとき,ガス供給ラインとマスクの顔面接触部(13)との間の可撓性連結具がどのように動くかを示している。」ii第1実施例に係る図面である図2ないし図6並びに図7A及び図7Bについては,次の各点を指摘することができる。 (i)図2(側面図)及び図5(断面図)には,チャンバ室(14)を形成する略円筒状の部分が「16」(後部領域)として示され,後部領域(16)は,その後部(顔面と反対の側。以下同じ。)において,フランジ(17)(突片(18)を構成する部分を含む。)に当接していること,チャンバ室を形成する略円錐台状の部分が「15」(端部領域)として示され,端部領域(15)は,後部領域(16)の前部(顔面側。以下同じ。)と連続し,後部領域(16)と併せて1つの部材を構成していることが図示されている。 そして,端部領域を示す符号である「15」及び後部領域を示す符号である「16」とは別に,顔面接触部を示す符号である「13」が記載されている。 (ii)図6並びに図7A及び図7Bにおいては,マスクのうち,着用者の顔面に当接する部分から環状壁部分(20)に隣接する部分までの部材全体が「13」(顔面接触部)として図示されているものと理解することができる。 (iii)図7A及び図7Bにおいては,上記i(iii)のとおり,ガス供給ライン(符号の記載は省略されている。)が動いたとき,ガス供給ラインとマスクの顔面接触部(13)との間の可撓性連結具(エルボー接続具(符号の記載は省略されている。),ガス供給ポート(21)及び環状壁部分(20))がどのように動くかが図示されているほか,その際,着用者の顔面に当接する部分から環状壁部分(20)に隣接する部分までの部材(「13」(顔面接触部)の符号が付された部分)にたわみがみられないことが図示されている。 b上記aのとおり,本願第1補正発明においては,「顔面接触部」が「チャンバ室を形成する形状に作られ(る)」ことをその構成としているものの,「顔面接触部」が「端部領域を有(する)」ことをその構成としておらず(なお,本願明細書上も,「チャンバ室には凸状端部領域・・・を形成することが望まし(い)」とされている。),したがって,本願第1補正発明は,端部領域に相当する部分を有しないマスク(前部が凸状に突出した形状ではないマスク)を含むものといえ,その場合,被告が主張するように,顔面接触部が端部領域しか含まないのであれば,当該マスクには顔面接触部が存在しないこととなってしまう。 また,訴外特許のマスクについては,本願明細書及び図1Aないし図1Cの記載によれば,明らかに,「顔面接触部」が,着用者の顔面に当接する部分からシェル状成形体に隣接する部分までの部材全体を指すものと認められる(ただし,乙3公報の図5によれば,後述するとおり,厳密には,「顔面接触部」に相当する「膜」とシェル状成形体との間に,別の部材(フランジ)が存在する。)。そして,同マスクにおいては,ガス供給ラインの動きにより,シェル状成形体に近接する部分から着用者の顔面に近接する部分までの下部又は上部が,そのほぼ全体にわたりたわむものとされているところ,本願第1補正発明は,訴外特許においてガス供給ラインが動いたときに生じるような「顔面接触部のいかなる動きも軽減(する)」ものであり,現に,ガス供給ラインが動いたときの様子を示した第1実施例に係る図7A及び図7Bにおいては,着用者の顔面に当接する部分から環状壁部分(20)に隣接する部分までの部材(「13」(顔面接触部)の符号が付された部分)にたわみがみられない(したがって,このたわみのない部分が,「いかなる動きも軽減」される「顔面接触部」であると理解される。)。 さらに,第1実施例について,本願明細書には,「マスクの顔面接触部(13)の全体は,フランジ(17)と共に一体成形されてい・・・る。」との記載があり,「顔面接触部」の全体は,フランジ(17)に当接しているものと理解されるところ,同実施例に係る図2及び図5には,後部領域(16)が,その後部において,フランジ(17)(突片(18)を構成する部分を含む。)に当接し,端部領域(15)が,後部領域(16)の前部と連続し,後部領域(16)と併せて1つの部材を構成していることが図示されている。また,本願明細書には,「マスク・・・の動きの少なくとも一部は,・・・吸収される。これを図示したものが図7A及び図7Bであり,・・・ガス供給ラインとマスクの顔面接触部(13)との間の可撓性連結具がどのように動くかを示している。」との記載があるところ,図7A及び図7Bにおいては,同記載にいう「ガス供給ラインとマスクの顔面接触部(13)との間の可撓性連結具」であるエルボー接続具,ガス供給ポート(21)及び環状壁部分(20)が動く様子が図示されている(すなわち,そのような「可撓性連結具」である環状壁部分(20)は,「顔面接触部」に隣接するものと理解される。)。そして,同実施例に係る図6並びに図7A及び図7Bによれば,明らかに,「顔面接触部」が,着用者の顔面に当接する部分から環状壁部分(20)に隣接する部分までの部材全体を指すものと認められる。 以上に加え,「顔面接触部」との用語に対し,「端部領域」及び「後部領域」については,「領域」との用語が用いられていることをも併せ考慮すると,補正事項1及び2にいう「顔面接触部」は,顔面に当接する部分から環状壁部分に隣接し,又はフランジを介して隣接する部分までの部材全体(1つの部材)を指し,顔面接触部に凸状の端部領域を設ける場合(請求項2の発明の場合)には,後部領域は顔面接触部の後部(第1実施例においては略円筒状の部分),端部領域は顔面接触部の前部(同実施例においては略円錐台状の部分)をそれぞれ指すものと認めるのが相当である(すなわち,補正事項1及び2にいう「顔面接触部」には,「後部領域(16)(31)」が含まれるものと認められる。)。 (ウ)aこれに対し,被告は,「顔面接触部」が後部領域を含まない理由として,「『顔面接触部』とは,その字義や本願に係る技術分野における用語法に照らし,『顔面と接触する部分』を意味するものと理解するのが相当である」旨主張するが,上記(イ)bのとおり,「顔面接触部」を「顔面に当接する部分から環状壁部分に隣接し,又はフランジを介して隣接する部分までの部材全体(1つの部材)」と理解しても,「顔面接触部」が「顔面と接触する部分」であることに変わりはないから,被告の上記主張は,上記(イ)bの認定を左右するものではない(なお,被告が本願に係る技術分野における用語法を示す証拠として援用する乙3公報(甲3明細書の内容は,乙3公報の内容と同旨である。)の明細書部分には,「[T]he facecontacting portion is preferably mounted to a shell .... (顔面接触部は,・・・シェル状成形体に据え付けられるのが望ましい。)」との記載(4頁28〜32行)があり,また,同公報の図5には,「膜(13)」が,「a peripheral flange 34(環状フランジ(34))」(この環状フランジ(34)は,「a lip 26(縁部(26))」及び「a circumferential recess 35(環状凹部分(35))」を介してシェル状成形体(19)に係合されるものである。)に当接している様子が示されている。)。 bまた,被告は,「顔面接触部」が後部領域を含まない理由として,本願図面の図10における突片の位置を挙げる。 確かに,第2実施例に係る図面である図8(前記エ(カ))及び図10(同(キ))には,突片(33)が後部領域(31)と端部領域(30)の間に位置するように設けられている様子が図示されている。 しかしながら,第2実施例は,その内容に照らし,請求項8に係る発明についての実施例であると認められるところ,前記アのとおりの請求項2及び請求項5ないし請求項8の各記載をみても,請求項8(請求項2を引用する従属項である。)における「顔面接触部」の意義と,請求項2における「顔面接触部」の意義が異なるものと認めることはできないし,また,本願明細書には,第2実施例について,「図8乃至図11に示されるマスクの実施例は,図2乃至図6に示される実施例と比べて,壁部(26)(ガス供給ポート(27)を含んでいる)とマスクの他の部分との間の移行部が鋭くない点以外は,同様のものである。」との記載(前記ウ(キ))及び「小フランジ(32)がマスク本体と一体に成形され・・・ている。・・・前述の実施例と比べて,図10に示されるフランジ(32)と突片(33)は,マスクの突状端部領域(30)の直ぐ背後に配置されている点が異なる。」との記載(同)があるのであるし,また,図10には,端部領域を示す符号である「30」及び後部領域を示す符号である「31」とは別に,顔面接触部を示す符号である「28」が記載されているのであるから,結局,第2実施例における突片(33)の位置(図8及び図10)をもって,「顔面接触部」の意義についての上記(イ)bの認定を左右するものとはいえない。 cなお,チャンバ室の壁及び環状壁部分(20)(35)の厚さについて,「原告の主張によれば矛盾が生じる」旨の被告の主張は,後記説示のとおり,失当である。 カ補正事項2にいう「顔面接触部の隣接部分」の意義について前記第2の3(1)のとおり,補正事項2は,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで,且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され」というものである。 そして,上記オにおいて認定したとおり,「顔面接触部」は,環状壁部分(20)(35)に隣接し,又はフランジを介して隣接しているものであるところ,上記ウのとおりの本願明細書の記載によれば,フランジが,環状壁部分との厚さの比較が格別問題となる部材でないことは明らかであるから,補正事項2の上記文言に照らし,同補正事項にいう「顔面接触部の隣接部分」とは,顔面接触部中,環状壁部分(20)(35)に隣接し,又はフランジを介して隣接している部分である「後部領域(16)(31)の後部」を指すものと認めるのが相当である。 キ補正事項2にいう「顔面接触部」及び「顔面接触部の隣接部分」の意義に係る審決の認定並びにこれを補足する被告の主張について前記第2の3(1)のとおり,審決は,本願明細書に,?@環状壁部分(20)(35)の厚さが端部領域(15)(30)の厚さと同じオーダであり,?A環状壁部分(20)(35)は後部領域(16)(31)よりも薄く形成されているとの記載があることを根拠に,「補正事項2に記載された『顔面接触部』は『端部領域(15)(30)』に相当し,『顔面接触部の隣接部分』は『後部領域(16)(31)』に相当するもの」と認定した。 また,被告も,「原告が主張するとおり『顔面接触部』が『チャンバ室』と同義であるとすると,『チャンバ室』の(壁の)厚さを特定することができず,また,『チャンバ室』の(壁の)厚さとの関係で『環状壁部分(20)(35)』の厚さを特定することができないことになる。すなわち,本願明細書の記載によれば,『環状壁部分(20)(35)』の厚さは0.8mm以下になるところ,補正事項2の前段(『環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで』)によれば,『チャンバ室』の(壁の)厚さは,0.8mm以下となる一方,本願明細書の記載や原告提出の甲15の図面によれば,『チャンバ室の隣接部分』の厚さは,2.0mmとなる」旨主張する。 そこで,以下,この点について検討する。 (ア)補正事項2の記載補正事項2の記載は,前記第2の3(1)のとおり,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,顔面接触部と同じオーダで,且つ顔面接触部の隣接部分よりも薄く形成され」というものである。 (イ)本願明細書の記載本願明細書中,チャンバ室の壁ないしは顔面接触部の厚さ,環状壁部分の厚さ等に係るものとして,次の各記載があることを指摘することができる。 a「マスクの壁のガス供給ポートを含む部分の厚さは,それに隣接する部分の厚さよりも薄くすることが望ましい。これは,接続されたガス供給ラインが動いたとき,壁の肉薄部分を屈曲させるためであ・・・る。」(前記ウ(イ))b「チャンバ室は,薄壁によって形成された全体的に凸状の端部領域(15)を有して・・・いる。」(同(オ))c「後部領域の壁の厚さは,凸状端部領域よりも僅かに厚い。マスクの凸状端部領域の厚さは,0.8 mm 以下が望ましく,0.2 mm 以下のオーダが最も望ましい。壁の厚さが相対的に厚い後部領域(16)は,凸状端部から離間するにつれて厚さを増しており,平均厚さは2.0 mm のオーダである。」(同)d「リム(22)とポート(21)の間の壁部(20)の厚さは,マスクの隣接部の厚さよりも薄い。壁部(20)の厚さは,凸状端部領域(15)の厚さと同じオーダであることが望ましい。」(同(カ))e「チャンバ室は,薄壁部によって形成された全体的に凸状の端部領域(30)を有して・・・いる。」(同(キ))f「後部領域(31)の壁の厚さは,凸状端部領域(30)の方に向かって大きくなっている。凸状端部領域(30)の厚さは0.2〜0.8 mm の範囲であり,後部領域(31)の平均厚さは1.5〜3.5 mm のオーダである。」(同)g「後壁部(26)には,ポート(27)の周囲を取り囲む所定幅の環状部(35)を形成し,該環状部の肉厚を薄くしている。このように,壁部の環状部(35)の肉厚は,凸状端部領域(30)と略同じであるか,いづれにしても,隣接壁部(26)よりも実質的に小さい。」(同(ク))(ウ)検討a補正事項2にいう「オーダで」(on the order of)とは,およその数量を表す用語であり,例えば,「1mmのオーダである」とは,同単位程度,すなわち,数mm単位で表される程度の大きさであることを意味するものと理解される。 b上記aに加え,前記オ及びカのとおりの「顔面接触部」及び「顔面接触部の隣接部分」の各意義に照らせば,補正事項2は,要するに,「環状壁部分(20)(35)の厚さは,端部領域(15)(30)と後部領域(16)(31)を有する顔面接触部の厚さと同単位程度の厚さであり,かつ,後部領域(16)(31)の後部の厚さよりも小さい」との趣旨であるといえる。 cところで,上記(イ)によれば,本願明細書には,要するに,次の各事項が記載されているものといえる。 (a)環状壁部分(20)(35)の厚さは,後部領域(16)(31)の後部の厚さより小さい。 (b)環状壁部分(20)の厚さは,端部領域(15)の厚さと同じオーダであることが望ましく,環状壁部分(35)の厚さは,端部領域(30)の厚さと略同じである。 (c)後部領域(16)(31)の厚さは,端部領域(15)(30)の厚さより大きい。 (d)後部領域(16)(31)の厚さは,前部から後部に向かって大きくなっている(なお,上記(イ)fの記載中の「大きくなっている」は,「小さくなっている」の誤記であると認められる。)。 (e)後部領域(16)の平均厚さは,「2.0mmのオーダ」であり,後部領域(31)の平均厚さは,「1.5mm〜3.5mmのオーダ」である。 (f)端部領域(15)の厚さは,「0.8mm以下」が望ましく,「0.2mm以下のオーダ」が最も望ましい。端部領域(30)の厚さは,「0.2mm〜0.8mmの範囲」である。 dそこで,上記cの数値を適用すると,端部領域(15)と後部領域(16)を有する顔面接触部の厚さは,0.2mm以下〜2.0mm超程度(「2.0mmのオーダ」は,平均厚さであるから,平均厚さよりも大きいと認められる後部領域(16)の後部の厚さは,2.0mm程度を上回る。以下,後部領域(31)の後部の厚さについて同じ。),端部領域(30)と後部領域(31)を有する顔面接触部の厚さは,0.2mm〜3.5mm超程度となり,環状壁部分(20)(35)の厚さがこれらと同単位程度であるとすると,環状壁部分(20)の厚さは,零点数mm以下〜数mm程度,環状壁部分(35)の厚さは,零点数mm〜数mm程度ということになる。 そうすると,環状壁部分(20)の厚さが後部領域(16)の後部の厚さ(2.0mm超程度)より薄く,環状壁部分(35)の厚さが後部領域(31)の後部の厚さ(1.5mm超〜3.5mm超程度)より薄いということは,何ら不合理なことではない。 e以上によれば,補正事項2にいう「顔面接触部」及び「顔面接触部の隣接部分」の意義が前記オ及びカのとおりであるとしても,同補正事項の文言自体,何ら矛盾を含むものではなく,本願明細書の記載とも何ら矛盾するものではないから,上記審決の認定及び被告の主張は,失当であるといわざるを得ない。 (2)本件第1補正を却下した審決の判断についてア前記第2の3(1)のとおり,審決は,「補正事項2に記載された『顔面接触部』は『端部領域(15)(30)』に相当し,『顔面接触部の隣接部分』は『後部領域(16)(31)』に相当するものと解することができるのに対し,補正事項1に記載された『顔面接触部』は,『後部領域(16)(31)』を意味するか,『後部領域(16)(31)』及び『端部領域(15)(30)』から成るものを意味するかのいずれかであるから,補正事項1に記載された『顔面接触部』と同2に記載された『顔面接触部』の意味が整合しておらず,したがって,本願第1補正発明における『顔面接触部』の意味は,不明確である。そうすると,本件第1補正は,請求項1に係る発明を不明確にする補正であって,特許法17条の2第4項所定の事項を目的とするものではない。仮に,本件第1補正が特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるとしても,本願は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。」旨説示して,本件第1補正を却下した。 イしかしながら,補正事項1及び2に記載された「顔面接触部」が「顔面接触部全体(「端部領域(15)(30)」及び「後部領域(16)(31)」を含むもの)を指すことは,前記(1)イ及びオのとおりであるから,本願第1補正発明における「顔面接触部」の意義は明確であるといえる。 そうすると,本件第1補正を却下した審決の上記判断は誤りであるから,同補正を却下した結果,本願の請求項1に係る発明の要旨を,本件原補正後の請求項1の記載に基づいて認定した審決には,発明の要旨認定を誤った違法があるといわざるを得ない。 よって,取消事由1は,理由がある。 2結論以上のとおり,取消事由1は理由があるから,その余の取消事由について判断するまでもなく,原告の請求は理由がある。よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中信義 |
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裁判官 | 榎戸道也 |
裁判官 | 浅井憲 |