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関連審決 不服2007-3018
関連ワード インターネット /  先願主義 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  遡及 /  分割出願 /  参酌 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  構成要件 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  要旨変更 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10431号 補正却下決定取消請求事件
原告株 式会 社 ソフィア
訴訟代理人弁理 士荒船博司
同 荒船良男
同 赤澤高
被告特許庁長官 鈴木隆史
指定代理人太田恒明
同 津田俊明
同 森川元嗣
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/07/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2007-3018号事件においてした平成19年11月15日付け補正却下決定を取り消す。
第2事案の概要1本件は,原告が名称を「遊技機」とする後記発明について特許出願(平成4年10月27日の原々出願からの分割出願)をしたが拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたところ,その審理の中で原告が平成19年2月7日付けでなした手続補正(本件補正)に対し,特許庁が平成19年11月15日付けでこれを却下する決定をしたことから,原告がその取消しを求めた事案である。
2争点は,本件補正が明細書の要旨を変更するものであるか(平成5年法律第26号による改正前の特許法53条1項 ,である。)なお,平成5年法律第26号による改正前の特許法53条1項は次のとおりである。
「願書に添附した明細書又は図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本,, の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは 審査官は決定をもってその補正を却下しなければならない 」。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁等における手続の経緯原告は,平成4年10月27日の原々出願(特願平4-312908号)から平成11年10月27日に分割出願された原出願(特願平11-306082号 からの更なる分割出願として 平成16年6月10日 名称を 遊 ) ,,「」 ( 〔〕, 技機 とする発明について特許出願 特願2004-172620号 甲1請求項の数4。以下「本願」という。公開公報は特開2004-283610号〔甲13 )をし,平成18年11月16日に特許請求の範囲変更等 〕を内容とする補正(第1次補正。甲4)をしたが,平成18年12月21日付けで拒絶査定を受けたので,平成19年1月25日,これを不服として審判請求をした。
特許庁は,同請求を不服2007-3018号事件として審理し,その中で原告は平成19年2月7日付けで特許請求の範囲変更等を内容とする補正(第2次補正,以下「本件補正」という。甲8)をしたが,特許庁は,平成19年11月15日 「平成19年2月7日付けの手続補正を却下する 」 , 。
との決定(以下「本件決定」ということがある )をし,その謄本は平成1 。
9年12月4日原告に送達された。
(2) 発明の内容本願の特許請求の範囲は,出願時・第1次補正時・第2次補正時(本件補正時)のいずれにおいても,請求項1ないし4から成るが,そのうち請求項1に記載された発明は,次のとおりである。
ア 出願時(平成16年6月10日,以下「本願発明」という )。
・ 請求項1】【遊技盤に取り付ける取付基板と,該取付基板の前面に球検出部を臨ませた通過球検出スイッチと,を具備する始動ゲート装置を備える遊技機において,前記取付基板は,該通過球検出スイッチの下に位置するように前面に突設し,前記球検出部を通過した球を受けて一定の向きに横送りする横送り部を形成し,前記始動ゲート装置は,前記通過球検出スイッチを通った球が横送り部で横向きに進路を変え,側方に放出するようになっていることを特徴とする遊技機。
イ 第1次補正時(平成18年11月16日,下線部は補正部分)・ 請求項1】【遊技盤に取り付ける取付基板と該取付基板の前面に球検出部を臨ませた通過球検出スイッチとを具備する始動ゲート装置と,前記通過球検出スイッチからの検出信号に基づき普通可変表示ゲームを表示可能な普通可変表示装置と,開状態と閉状態とに変換可能な開閉部材を有し,前記普通可変表示装置での普通可変表示ゲームが当りとなった場合に該開閉部材を開状態に変換可能な普通変動入賞装置と,を備える遊技機において,前記始動ゲート装置の取付基板は,該通過球検出スイッチの下に位置するように前面に突設し,前記球検出部を通過した球を受けて一定の向きに横送りする横送り部を形成し,前記始動ゲート装置は,前記通過球検出スイッチを通った球が横送り部で横向きに進路を変え,当該始動ゲート装置の側方に配設された普通変動入賞装置に向けて放出するようになっていることを特徴とする遊技機。
ウ第2次補正時(平成19年2月7日,以下「本願補正発明」という。二重下線部は第2次補正部分)・ 請求項1】【遊技盤に取り付ける取付基板と該取付基板の前面に球検出部を臨ませた通過球検出スイッチとを具備する始動ゲート装置と,前記通過球検出スイッチからの検出信号に基づき普通可変表示ゲームを表示可能な普通可変表示装置と,開状態と閉状態とに変換可能な開閉部材を有し,前記普通可変表示装置での普通可変表示ゲームが当りとなった場合に該開閉部材を開状態に変換可能な普通変動入賞装置と,前記普通変動入賞装置への遊技球の入賞に基づき特別可変表示ゲームを表示可能な特別可変表示装置と,を備える遊技機において,前記始動ゲート装置の取付基板は,該通過球検出スイッチの下に位置するように前面に突設し,前記球検出部を通過した球を受けて一定の向きに横送りする横送り部を形成し,前記始動ゲート装置は,前記通過球検出スイッチを通った球が横送り部で横向きに進路を変え,当該始動ゲート装置の側方に配設された普通変動入賞装置に向けて放出するように構成され,前記普通変動入賞装置は,遊技球の入賞に基づき前記特別可変表示ゲームを表示させるための始動口として前記開閉部材を介して遊技球を入賞させる第1始動口とは別の第2始動口を当該開閉部材の上部に備え,該第2始動口は,該開閉部材の上部に設けられた樋部材の前方側端部に形成され,該樋部材は,遊技盤裏面に設けられた入賞球処理機構に対して球を送り出し可能に後方側端部が連結されるとともに該前方側端部から後方側端部に架けて上方が開口した樋状に形成されていることを特徴とする遊技機 」。
(3) 決定の内容決定の詳細は,別添決定写しのとおりである。
その理由の要点は,本件補正は明細書又は図面の要旨を変更するものであるから,平成5年法律第26号による改正前の特許法159条1項で準用する同法53条1項により却下されなければならない,というものである。
(4)決定の取消事由しかしながら,本件決定の認定判断には以下のとおり誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
ア 取消事由1(ア) 本件決定は 「…『特別図柄表示装置103』の特別可変表示ゲームは ,『変動入賞装置114』の開閉動作を実行するかどうかを決定するために行われ,それ以外の目的では行われていない。ところが,本件補正後の請求項1は『特別可変表示装置と,を備える遊技機』と記載されてい,, るにも拘わらず特別変動入賞装置については記載されてなく すなわち特別変動入賞装置を必要としない特別可変表示装置を備える遊技機であるが,そのようなことは当初明細書等に記載されておらず,当初明細書等の記載から自明な事項でもない (2頁20行〜27行)とする。 。」(イ) しかし,補正が明細書又は図面の要旨を変更するものに当たるか否かの判断は,発明の構成に関する技術的事項が当初明細書等に記載した事項の範囲内でないものになったか否かによるべきものである。
そして,本件決定においては,専ら本件補正により「特別可変表示装置」を発明の構成要素として加えたことが要旨変更の判断対象とされて。, 「」 いる そこで 本件補正後の請求項1に記載された 特別可変表示装置と出願当初明細書(甲1)中の【発明を実施するための最良の形態】に記載された「特別可変表示装置」の技術的事項の範囲を比較すると,本件補正後の請求項1に記載された「特別可変表示装置」は【発明を実施するための最良の形態】に記載されている「特別可変表示装置」そのものであり,文言上の変更がないことは明白であるとともに 「特別可変 ,」 , , 表示装置 の技術的意義も明確であるから この点に関する本件補正は当初明細書等に記載した事項の範囲内において発明の構成に関する技術的事項を変更するものにすぎない。
, 「」 そうすると 本件補正後の請求項1に記載された 特別可変表示装置の技術的意義を解釈するに当たり「特別変動入賞装置」まで含める必要はないのであって,本件補正は要旨変更に当たらない。
(ウ) また,補正が要旨変更に当たるか否かの判断は 「発明の構成に関する ,技術的事項」に基づいて行われるから 「発明の構成に関する技術的事 ,」 。 項 に関係ない事項は要旨変更の判断対象にならないというべきであるそして 「発明の構成に関する技術的事項」とは,明細書又は図面に記 ,載された発明の構成すべてをいうのではなく,明細書又は図面に記載された発明の構成の中から,発明の目的又は効果についての記載を参酌して把握される技術的事項のみをいうと解釈すべきである。
,,「」 この点 本願補正発明は 第1次補正で追加した 普通変動入賞装置について,当該「普通変動入賞装置」に備わる「始動口」の形状及び配置を更に限定したものであり,このようにして限定された発明の効果は「始動口」の形状及び配置の構造から導き出される効果である。これに対し特別可変表示装置 は 単に普通変動入賞装置 に備わる 始 ,「」 ,,「」「動口」が特別可変表示ゲームを表示させるための始動口であるという役割を特定するため加えられたものにすぎず,まして 「特別変動入賞装 ,」 , 。 置 は 本願補正発明の目的又は効果において何ら関係ない事項であるしたがって 「特別変動入賞装置」は 「発明の構成に関する技術的事 ,,項」に含まれない事項であるから,その記載の有無は当該補正が要旨変更に当たるか否かの判断対象にはならないというべきである。
イ 取消事由2(ア) 「特別可変表示装置」は,本件補正後の請求項1に「特別可変表示装置…を備える遊技機において」と,前提として記載されているとおり,従来技術である。そして,本願の当初明細書(甲1)には 「特別可変 ,表示装置」について 「…大当り遊技(特別遊技)の権利の発生のため ,の可変表示ゲーム(特別可変表示ゲーム)を行う特別可変表示装置とし()。」 て例示する特別図柄表示装置 可変表示装置 103が設置されている(段落【0015「…この大当りが発生すると,変動入賞装置11 】),4の開閉扉117が所定時間ずつ所定サイクル開放される特別遊技が行われる(段落【0020 )として,明確な定義がなされている。こ 。」】のような明細書の記載を参酌すれば 「特別可変表示装置」の技術的意 ,義は 「大当たり遊技(特別遊技)の権利の発生のための可変表示ゲー ,ム(特別可変表示ゲーム)を行うための装置」であり 「大当たりが発 ,生すると,変動入賞装置114の開閉扉117が所定時間ずつ所定サイクル開放される特別遊技が行われる 」ものであると認識でき,従来か 。
らある一般的な「特別可変表示装置」を意味していることが分かる。
そうすると,本願補正発明は 「特別変動入賞装置」を構成要素とし ,,「」, て挙げていないとしても特別可変表示装置 が構成要素である以上「特別変動入賞装置」を含む遊技機と解することができる。
(イ) また,親の親の出願(平成4年10月27日)当時の技術常識(例えば,特許第3350019号〔発明の名称「弾球遊技機 ,出願日 平成 」2年9月6日,特許権者 株式会社三共,甲11 ,特許第291201 〕0号〔発明の名称「パチンコ遊技機 ,出願日 平成2年11月30日, 」,〕),「」 特許権者 株式会社大一商会 甲12 参照 では特別可変表示装置を備えていれば「特別変動入賞装置」を備えていることは自明であり,「特別変動入賞装置」を必要としない「特別可変表示装置」を備えた遊技機は,そもそも存在しない。したがって,本願補正発明について本件決定がしたような「特別変動入賞装置を必要としない特別可変表示装置を備える遊技機である」などという解釈はそもそも生じ得ない。
(ウ) なお被告は,本願補正発明が当初明細書等の範囲内であるか否かを判断するためには,出願当時の技術常識を考慮するだけでは足りず,出願後に想起された技術的事項が明細書又は図面に含まれることとなったか否かをも検討しなければならない旨主張する。
しかし,補正がなされる時期は一定ではないから,補正する時期により補正の適否を異にするような被告の主張は不合理である。また,補正する際に,出願時のみならず,補正時の技術常識をも考慮して補正しなければならないとすると,出願後の技術も調べなければならないことになって,出願人に過度の負担を強いることとなり,先願主義の原則にも反する。出願後に想起された技術的事項を含む発明か否かの判断は,いわゆる認識限度論として,特許発明技術的範囲(特許法70条)に含まれるか否かの問題であるから,審査における補正に関しては出願時を基準として判断すべきである。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。
3 被告の反論本件決定の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
(1) 取消事由1に対しア原告は,本件補正時に請求項1に追加された「特別可変表示装置」は,出願当初明細書の【発明を実施するための最良の形態】に記載されている「特別可変表示装置」そのものであり,文言上の変更がなく明確であるから,本件補正は要旨変更に当たらない旨主張する。
しかし,本件決定は 「特別可変表示装置」という一つの構成要件のみ ,に着目して要旨変更であるとの判断を行ったのではなく,本願補正発明に係る請求項1に記載された技術的事項のうち,特に 「特別可変表示装置 ,を備えた遊技機」という技術的事項について着目し,要旨変更であると判断したものである。
すなわち,遊技機が「特別可変表示装置」を備えることには何らかの技術的意義があったものと認められるところ,当初明細書には 「特別可変 ,表示装置」を備える技術的意義として 「特別変動入賞装置」の開閉動作 ,を実行するかどうかを決定するための特別可変表示ゲームを行うことしか記載されていなかった。それにもかかわらず,本件補正により本願補正発「 」 明が 特別変動入賞装置を必要としない特別可変表示装置を備える遊技機となること,つまり,必ずしも「特別可変表示装置により特別変動入賞装置の開閉動作を実行するかどうかを決定するための特別可変表示ゲームを行う遊技機」に限定されず 「特別変動入賞装置を備えない遊技機」を包 ,含することになるから,本件決定は本件補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないと判断したのである。
イまた原告は,補正が要旨変更に当たるか否かの判断は「発明の構成に関する技術的事項」に基づいて行われるため 「発明の構成に関する技術的 ,事項」に関係ない事項は要旨変更の判断対象にならず 「特別変動入賞装 ,置」はこの「発明の構成に関する技術的事項」に含まれない事項であるから,本件補正は要旨変更に当たらない旨主張する。
しかし,本件決定は,本願補正発明に係る請求項1の記載から把握される「特別変動入賞装置を必要としない特別可変表示装置を備える遊技機」について,当初明細書等に記載された事項の範囲内でないと判断したのであるから 「特別変動入賞装置」は請求項1に記載された技術的事項,す ,なわち 「発明の構成に関する技術的事項」であり,本件決定における要 ,。, 。 旨変更の判断対象である したがって 本件決定の認定判断に誤りはない(2) 取消事由2に対しア原告は,当初明細書には「特別可変表示装置」について「特別変動入賞」 ,「」 装置 と関連付けて明確な定義がなされているから特別可変表示装置を構成要素とする本願補正発明に係る遊技機は 「特別変動入賞装置」を ,構成要素として挙げていなくても,これを含む遊技機と考えるのが相当である旨主張する。
しかし,発明は請求項の記載のみによって解釈するのが原則であるところ,本願補正発明に係る請求項1には 「特別可変表示装置」の構成要件 ,として「特別変動入賞装置」を含むことは記載されていない。
,【】【】, また 原告が摘記する段落 0015 及び段落 0020 の記載は【 】 。 いずれも 発明を実施するための最良の形態 についてのものにすぎない本願補正発明に係る請求項1の記載は不明確ではないから,上記段落の記載は本願補正発明を解釈するに当たり必ず参酌しなければならないものではない。
したがって,本願の明細書には「特別可変表示装置」を備える遊技機が必ず「特別変動入賞装置」を含む旨が定義されているとはいえず,本願補正発明が「特別変動入賞装置」を構成要件として含む遊技機と考えることはできない。
イ(ア) 原告は,親の親の出願当時の技術常識では 「特別可変表示装置」を備 ,えていれば「特別変動入賞装置」を備えていることは自明であり 「特,別変動入賞装置」を必要としない「特別可変表示装置」を備えた遊技機はそもそも存在しないから,本願補正発明について本件決定がしたような「特別変動入賞装置を必要としない特別可変表示装置を備える遊技機である」などという解釈は生じ得ない旨主張する。
しかし,本件補正後の請求項1には 「特別変動入賞装置」が構成要 ,件として含まれておらず,また,本願の明細書において 「特別可変表 ,示装置」を備える遊技機が必ず「特別変動入賞装置」を含む旨定義されているといえないことは上記のとおりであるから,本願補正発明は,特別変動入賞装置を必ず備えるものに限られないことは明らかである。
(イ) また,仮に,本件における親の親の出願当時の技術常識では「特別変動入賞装置」を必要としない「特別可変表示装置」を備えた遊技機が存在しなかったとしても,本願補正発明が当初明細書等の範囲内であるか否かを判断するためには,出願当時の技術常識だけを考慮すれば足りるわけではない。例えば,出願後に想起された技術的事項が含まれるような手続補正がなされ,当該技術的事項を含む発明について特許を受けることができるとすると,先願主義の趣旨に反することになる。したがって,出願時の技術常識ではない技術的事項についても,明細書又は図面に含まれることとなったか否かを検討しなければならない。
(ウ) そこで 「特別可変表示装置」を備えた遊技機として,どのようなもの ,が想起され得るかを検討する。
a特開2006-6556号公報(発明の名称「遊技機及びシミュレーションプログラム ,公開日 平成18年1月12日,出願人 アル 」ゼ株式会社。乙2,以下「乙2発明」という )には,以下の記載が 。
ある。
「 0020】【また,皿ユニット21の左前面には,十字キー,決定ボタン,取消ボタンを含むゲーム操作部88が配設されている。このゲーム操作部88は,遊技者によって操作可能な操作手段の一例に相当する。具体的には,このゲーム操作部88が遊技者によって操作されたことに応じて,遊技者の手牌から場に捨てる牌が選択可能となる。また,このゲーム操作部88が遊技者によって操作されることに応じて,遊技者に有利な状態となる遊技特典を付与させる制御が行われる。この遊技特典とは,本実施形態においては遊技状態が後述する大当り遊技状態に移行することであるが,本発明はこれに限らない。
遊技特典に関しては,詳しく後述する 」。
「 0027】【この遊技盤14の前面中央には,始動口44,シャッタ40などが設けられている。この始動口44に遊技球が入球したことを条件として,液晶表示装置32において識別情報の可変表示が実行されることとなる。また,詳しくは後述するが,この識別情報の可変表示の結果に応じて,通常遊技状態よ(,,「」) りも遊技者にとって有利な大当り遊技状態 特定遊技状態 所謂大当りとなる。この大当り遊技状態となった場合には,シャッタ40が開放状態に制御され,大入賞口39に遊技球が受け入れ可能な開放状態となることがある。また,このような遊技盤14においては,各種の役物が取り付け可能となっている 」。
「 0305】【更にまた,本実施形態においては,大当り遊技状態に移行させることによって,遊技者に対して有利となる遊技特典を付与させる制御を行うように構成したが,これに限らず,例えば,相対的に大当り遊技状態に移行する可能, 。 性が向上する確変遊技状態や 時短遊技状態に移行させるようにしてもよいまた,例えば,確変遊技状態,時短遊技状態に移行する確率自体が向上してもよい。更に,例えば,識別情報の可変表示の回数が所定の上限回数となった場合には,確変遊技状態,時短遊技状態が終了する場合においては,その上限回数を増加させるように構成してもよい。更にまた,例えば,保留個数などが増加するように構成してもよい。更にまた,例えば,後述するパチスロ遊技機などにおいて,決定された内部抽選役と,停止ボタンの操作タイミングとに基づいて,操作した時点における位置とは異なる位置でリールを停止させ,停止図柄を表示させる制御を行っているが,この場合において,操作した時点における位置で必ずリールを停止させる遊技状態(所謂 「チャレ ,ンジゲーム )に移行するように構成してもよい。更にまた,例えば,1回の 」入賞,メダル投入によって,複数回の単位遊技を実行可能にするように構成してもよい。更にまた,例えば,定められた賞球数が増加するように構成してもよく,もちろん,単に賞球が行われるように構成してもよい 」。
要するに,本願の用語を用いて表現するならば 「特別可変表示装 ,置を備え,特別可変表示の結果,遊技者に付与される特典として,定められた賞球数が増加するように構成するか,単に賞球が行われるように構成することで,特別変動入賞装置を必要としない遊技機」が,記載されているといえる。
b次に,インターネットに掲載された「フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia) 」にCOCKY氏が投稿した「メダルチギ」の項目 』(乙3)には,以下の記載がある。
「遊び方は,台にメダルを投入するとまずそのメダルが発射される。このメダルが入賞口に入ると今度は盤面にある液晶で(日本のパチンコ機とほぼ同様の 抽選が行われ この抽選に当選すると 大当たり となる仕組みだ大 ),「」。「当たり」となると台から商品券が払い出される( 概要」の欄,第2段落) 。」「要するに,本願の用語を用いて表現するならば 「特別可変表示装 ,置を備え,特別可変表示の結果,遊技者に付与される特典として,商品券が払い出されるように構成することで,特別変動入賞装置を必要としない遊技機」が,記載されているといえる。
(エ) 以上の記載から分かるように,本件補正時には 「特別可変表示装置を ,有する遊技機」において,特別可変表示の結果,特別変動入賞装置を開放すること以外の利益を遊技者に付与するように構成することで 「特,別変動入賞装置を必要としない遊技機」が想起されていた。すなわち,「特別変動入賞装置を必要としない特別可変表示装置を備える遊技機」の発明が存在するから,遊技機が特別可変表示装置を備えるからといって,必ずしも特別変動入賞装置を備えるとは限らない。
そして,本件補正によって,請求項1に係る発明の技術的範囲には,当初明細書等に記載されていなかった「特別可変表示装置を備え,特別可変表示の結果,遊技者に付与される特典として,定められた賞球数が, , 増加するように構成するか 単に賞球が行われるように構成することで特別変動入賞装置を必要としない遊技機 (乙2 ,及び 「特別可変表 」),示装置を備え,特別可変表示の結果,遊技者に付与される特典として,商品券が払い出されるように構成することで,特別変動入賞装置を必要としない遊技機乙3 が含まれる結果となる このような補正は 願 」()。「書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」したものとはいえないから,本件補正は明細書の要旨を変更するものである。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(決定 ))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。
2 本件補正による明細書の要旨変更の有無原告は,本件補正により本願明細書の要旨が変更された旨の本件決定の判断が誤りである旨主張するので,各取消事由に対する判断に先立ち,この点について検討する。
(1)本願の特許請求の範囲は,次のようなものである(当事者間に争いがない 。。)「 請求項1】【遊技盤に取り付ける取付基板と,該取付基板の前面に球検出部を臨ませた通過球検出スイッチと,を具備する始動ゲート装置を備える遊技機において,前記取付基板は,該通過球検出スイッチの下に位置するように前面に突設し,前記球検出部を通過した球を受けて一定の向きに横送りする横送り部を形成し,前記始動ゲート装置は,前記通過球検出スイッチを通った球が横送り部で横向きに進路を変え,側方に放出するようになっていることを特徴とする遊技機 」。
(2)本願の当初明細書(平成16年6月10日付け特許願に添付された明細書〔〕。。),「」 甲1 をいう 以下同じの発明の詳細な説明には特別可変表示装置及び「特別変動入賞装置」の技術的意義等に関し,次のような記載がある。
ア 技術分野「 0001】【本発明は,遊技球の通過を検出し,これに基づく特典の付与を可能とする始動ゲート装置を備えた遊技機に関する 」。
イ 背景技術「 0002】【従来の遊技機にあっては,遊技盤に形成された遊技領域に,可変表示ゲームを表示可能な可変表示装置と,遊技球の通過に基づき該可変表示ゲームの始動条件を付与可能な通過チャッカと,該可変表示ゲームの結果態様が特別表示態様となり,特賞遊技状態となった場合に開放状態となる変動入賞装置が設けられている。その通過チャッカとして多用されているのが始動ゲート装置である。この始動ゲート装置は,遊技盤に取り付けるための取付基板にゲート部材を突設し,該ゲート部材内に通過球検出スイッチの球検出部を嵌め込んで遊技盤面に設置する構造であった…」ウ 発明が解決しようとする課題「 0003】【前記のように現在の遊技機は,始動ゲート装置が重要なキーポイントを占めるようになっている。しかし,これまでの始動ゲート装置は,単に球検出部を遊技盤面に突出させ,その球検出部の周りをシンプルなゲート部材で囲った程度の構成であり,球が一瞬の間に球検出部を通り抜け,後は遊技盤面にごく普通に落下していくという単調さであったため,特賞遊技状態への第1条件成立という利益発生にしてはインパクトが極めて弱く,遊技の減り張りに欠ける問題点があった。
【0004】本発明の課題は,球の通過を検知し,これに基づいて可変表示ゲームの始動等の特典を付与可能な始動ゲート装置において,通過した球の挙動を変化させて遊技者の興趣を増大させることである。
エ 課題を解決するための手段「 0005】【以上の課題を解決するため,請求項1に記載の発明は,遊技盤に取り付ける取付基板と,該取付基板の前面に球検出部を臨ませた通過球検出スイッチと,を具備する始動ゲート装置を備える遊技機において,前記取付基板は,該通過球検出スイッチの下に位置するように前面に突設し,前記球検出部を通過した球を受けて一定の向きに横送りする横送り部を形成し,前記始動ゲート装置は,前記通過球検出スイッチを通った球が横送り部で横向きに進路を変え,側方に放出するようになっていることを特徴とする。
【0006】このように,始動ゲート装置は,通過球検出スイッチを通った球が横送り部で横向きに進路を変え,側方に放出するようになっていることで,遊技者の興趣を増大させることができる。
すなわち,通過球検出スイッチの球検出部を通り抜けた球が横送り部の上に落下して急激に流路を変える,という視覚的な変化によって遊技者の注意を惹くことができる。
また,横送り部で送り出される方向に入賞口などを設けておけば,始動ゲート装置を通った後の入賞確率を高めることが出来るため,通過チャッカとしての始動ゲート装置の存在感を飛躍的に高めることができ,遊技に減り張りを与えて興趣をより一層増大させることが出来る 」。
オ 発明を実施するための最良の形態「 0015】【…遊技盤100には遊技領域101が設定され,この遊技領域101には打球発射装置(図示省略)によって発射されたパチンコ玉(球)がガイドレール102に案内されて流入するようになっている。
前記遊技領域101の略中央部には,大当り遊技(特別遊技)の権利の発生のための可変表示ゲーム(特別可変表示ゲーム)を行う特別可変表示装置として例示する特別図柄表示装置(可変表示装置)103が設置されている。
【0016】この特別図柄表示装置103の略中央部には,可変表示ゲームを行うための特別図柄表示部となる左図柄表示部104,中図柄表示部105,右図柄表示部106が設けられている。
そして,後述する本パチンコ遊技機の制御システムにより前記左図柄表示部104,中図柄表示部105,右図柄表示部106の夫々に 「0,1,2,3,4, ,5,6,7,8,9,A,P,T,C,?」の15種の図柄がこの順序で,遊技者が目で追えない程度の速度で変動表示されるようになっている。
また,前記特別図柄表示装置103の上方には,後述の始動口への入賞記憶を四つまで表示する入賞記憶表示器107が配設されている。
【0018】遊技領域101の中央下部には,特別変動入賞装置として例示する変動入賞装置114が設けられ,さらにその下方の中央位置にはアウト球回収口115が配置されている。
そして,前記変動入賞装置114の上部中央には大入賞口116が設置され,該大入賞口116には,ソレノイド等をアクチュエーターとして上端側が手前に傾倒してその大入賞口116を開放する開閉扉117が取り付けられており,この大入賞口116中には継続スイッチSW(図示省略)及びカウントスイッチSW(図示省略)が配設されている。
また,前記大入賞口116の左右両側には一般入賞口118a,118bが隣設され,その下方には普通可変表示装置として例示する普通図柄表示装置119が設けられている。
また,その変動入賞装置114の左右の斜め上方位置には,始動口120,121が設けられ,これら始動口120,121の中には入賞したパチンコ玉を検出す(。)。 る検出器として例示する近接センサS 図には現れていないが設置されている【0019】,, 本実施の形態に係るパチンコ遊技機は概略上記のように構成されていて 遊技中遊技領域101の始動口112,120,121のいずれかにパチンコ玉が入賞すると,その入賞がそれらの始動口中の近接センサSに検出され,その検出による始動信号が役物制御装置800に入力されて記憶され,その記憶個数分だけ入賞記憶表示器107内のLEDが点灯されるようになっている。
そして,その記憶に基づいて,前記特別図柄表示装置103の左図柄表示部104,中図柄表示部105,右図柄表示部106の図柄(数字,記号,図柄なども含む )の変動表示が所定時間なされた後に停止表示される可変表示ゲームが行われ 。
る。…【0020】この可変表示ゲームが繰り返し行われ,その結果,左図柄表示部104,中図柄, ,「, , 」,「, , 表示部105 右図柄表示部106の停止図柄が例えば5 5 56 66「7,7,7」等のぞろ目の数字,或いは「☆,☆,☆ 「◆,◆,◆」等の 」, 」,同じ記号,或いは同じ図柄になると,大当りが発生する。
この大当りが発生すると,変動入賞装置114の開閉扉117が所定時間ずつ所定サイクル開放される特別遊技が行なわれる。…」【0023】通過型チャッカ109は,図2,図3および図4に示すように,遊技盤100に固定された取付基板として例示するチャッカ本体109aにカバー部材として例示する蓋体109bを組み付けて構成されている。…チャッカ本体109aには横送り部として例示する部分円弧状の誘導部109cが,通過球検出スイッチ取付部109dに連接して一体的に形成され,この誘導部109cによってチャッカ本体109aと蓋体109bとの間に湾曲した玉通路(誘導通路)123が形成される。この玉通路123は,上部に入口123aが開口し,また,誘導開閉部材111aに向かって出口123bが開口し,入口123aに入ったパチンコ玉Pを電動役物111の誘導開閉部材111aに向かって導くようになっている。
…前記蓋体109bの下方部分によって,前記始動ゲートと連通した玉通路(誘導通路)123を形成する通路形成部が形成される 」。
(3)以上によれば,本願の出願当初明細書における本願発明は,遊技球の通過を検出し,これに基づく特典の付与を可能とする始動ゲート装置を備えた遊技機に関するものであり,遊技機の遊技盤に形成された遊技領域に設けられる始動ゲート装置(これは,従来,遊技球の通過に基づき可変表示ゲームの始動条件を付与可能な通過チャッカとして多用されていたものである )に。
ついて,従来技術においては単に球検出部を遊技盤面に突出させ,その球検出部の周りをシンプルなゲート部材で囲った程度の構成であり,球が一瞬の間に球検出部を通り抜け,後は遊技盤面にごく普通に落下していくという単調さであったものを,球の通過を検知し,これに基づいて可変表示ゲームの始動等の特典を付与することを可能としつつ,通過した球の挙動を変化させて遊技者の興趣を増大させるという意義を有するものである。
そして,本願の出願当初明細書には,ここでの「特別可変表示装置」につき,可変表示ゲーム,すなわち,始動口にパチンコ玉が入賞すると3箇所の特別図柄表示部における図柄が所定時間変動表示された後に停止表示され,その際3箇所の図柄が揃うと特賞遊技状態(大当たり)となるゲームの表示を可能とするため遊技領域に設けられた表示装置である旨,また 「特別変 ,動入賞装置」につき,このようにして特賞遊技状態となった場合に開閉扉が所定時間ずつ開放されるという特別遊技を可能とするための装置である旨の記載があると認められるものの 「特別可変表示装置」が上記のように特別 ,変動入賞装置の作動を決定する特別可変表示ゲームを実施する以外,他の目的があるとの記載はない。
そうすると,本件出願当初の明細書に記載された特別可変表示装置は,特別変動入賞装置の作動を決定する目的を有する装置であって,特別入賞装置とともに存在することに技術的意義を有する装置であると認められる。
(4)これに対し,本件補正後の請求項1の記載は前記第3,1,(2)ウのとおりであるところ,これによると 「特別可変表示装置」については 「普通変 , ,動入賞装置への遊技球の入賞に基づき特別可変表示ゲームを表示可能な特別可変表示装置」と特定されているものの 「特別変動入賞装置」については ,規定するところがないから,本願補正発明は,特別可変表示装置を有しつつ特別変動入賞装置を有しない遊技機,換言すれば,特別変動入賞装置の作動を決定する目的を持たず特別入賞装置とともに存在することを要しない特別可変表示装置をも,その請求の範囲に含むものである。
そして,本願の出願当時におけるパチンコに代表される遊技機の技術分野において,特別変動入賞装置と無関係な特別可変表示装置が遊技機に単体で存在することが自明であったとは認め難いから,このような遊技機(特別変動装置の作動との関係から切り離された「特別可変表示装置」が単体で存在する遊技機)を出願当初の明細書から把握することは自明のことではないというべきである。
そうすると,本件補正は,明細書の中に新たに遊技機に単体で存在する特別可変表示装置という技術的事項を導入するものであるから,明細書の要旨を変更するものといわなければならない。
3 取消事由1について(1)原告は,本件補正時に請求項1に追加された「特別可変表示装置」は,出願当初明細書の【発明を実施するための最良の形態】に記載されている「特別可変表示装置」そのものであり,文言上の変更がなく明確であるから,本件補正は要旨変更に当たらず 「特別可変表示装置」の技術的意義の解釈に ,おいて「特別変動入賞装置」まで含める必要がない旨主張する。
しかし,上記のとおり,本願発明における特別可変表示装置は特別変動入賞装置とともに存在することに技術的な意義を有するものであるのに対し,本件補正は,特別変動入賞装置とは別個に存在する特別可変表示装置を備えた遊技機とすることにより新たな技術的事項を導入するものであり,そのため明細書の要旨を変更することになるのであって,単に特別可変表示装置が出願当初の明細書に記載された装置そのものであるか否かということや,特別可変表示装置自体の技術的意義が明細書上明確であるか否かということは,上記判断を左右するものではない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)また原告は,補正が要旨変更に当たるか否かの判断は「発明の構成に関す」,「 」 る技術的事項 に基づいて行われるため発明の構成に関する技術的事項に関係ない事項は要旨変更の判断対象にならず 「特別変動入賞装置」は本 ,願補正発明の目的及び効果に無関係であるから「発明の構成に関する技術的事項」に含まれず,したがって,本件補正は要旨変更に当たらない旨主張する。しかし,上記のとおり,本件補正は,特別変動入賞装置の作動を決定する目的を持たず,特別入賞装置とともに存在することを要しない特別可変表示装置という出願当初の明細書に記載のなかった構成を付加するものであり,そこに新たな技術的意義を有する別個の技術的事項を導入するものというべきであるから,要旨変更に当たるといわざるを得ないのであって,その,, 。 ことは 本願補正発明の目的 効果いかんによって左右されるものではないしたがって,原告の上記主張は採用することができない。
4 取消事由2について(1)原告は,出願当初の明細書には「特別可変表示装置」につき「特別変動入」 ,「」 賞装置 と関連付けて明確な定義がなされているから特別可変表示装置を構成要素とする本願補正発明に係る遊技機は 「特別変動入賞装置」を構 ,成要素として挙げていなくても,これを含む遊技機と考えるのが相当である旨主張する。
しかし,本願補正発明に係る請求項1には 「特別可変表示装置」の構成 ,要件として「特別変動入賞装置」を含む旨は記載されておらず,しかもその意義は「前記普通変動入賞装置への遊技球の入賞に基づき特別可変表示ゲームを表示可能な特別可変表示装置」という明確なものであるのに対し,請求項の記載上 「特別可変表示装置」と「特別変動入賞装置」を関連付けるよ ,うな定義は存在しない。したがって,本願補正発明に係る請求項の記載上は「特別可変表示装置」を構成要素とする遊技機において特別変動入賞装置が当然含まれるものと解することはできない。
また,原告が指摘する本願明細書の段落【0015】及び【0020】の記載は前記2のとおりであるところ,これらは「発明を実施するための最良の形態」についての記載にすぎないのであるから,このような明細書の記載を考慮すべき旨の原告の主張はその前提を欠くものといわざるを得ない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2)アまた原告は,原々出願当時(平成4年10月27日)の技術常識では,「特別可変表示装置」を備えていれば「特別変動入賞装置」を備えていることは自明であり 「特別変動入賞装置」を必要としない「特別可変表示 ,装置」を備えた遊技機はそもそも存在せず,本願補正発明について本件決定がしたような「特別変動入賞装置を必要としない特別可変表示装置を備える遊技機である」などという解釈は生じ得ない旨主張する。
イ確かに,補正が適法であれば原々出願時(平成4年10月27日)まで遡及するのであるから,補正の適否は原々出願時の技術常識に照らして判断すべきであることは,原告の主張するとおりであり,また,原々出願時である平成4年10月27日当時において 「特別変動入賞装置」を必要 ,としない「特別可変表示装置」を備えた遊技機が存在したことを認めるに足りる証拠も見当たらない。
しかし 「特別変動入賞装置」と切り離された「特別可変表示装置」が ,単体で存在する遊技機が技術的にみて存在し得ないというのであればとも,,「」 「」 かく そうでないとすれば特別変動入賞装置 と 特別可変表示装置は概念的に別個の装置として構成可能なものである以上,原々出願時に実際に存在していなかったことをもって,その当時において「特別変動装置を必要としない特別可変表示装置を備えた遊技機」という解釈が生じ得ないとか 「特別可変表示装置」を備えていれば「特別変動入賞装置」を備 ,えていることが自明であるということはできない。
そして,本願の明細書に記載された特別変動入賞装置の機能は,上記段落【0020】のとおり 「特別可変表示装置」において大当たりが発生 ,すると,変動入賞装置114の開閉扉117が所定時間ずつ所定サイクル開放される特別遊技が行われ,これにより獲得球数を増加させるものと理解することができるが 「特別可変表示装置」において大当たりが発生し ,た場合に直ちに増加した入賞球を獲得させるなど 「特別変動入賞装置」 ,の構成を欠きながらこれと同様の機能(獲得球数の増加)を生じさせることが技術的に困難であるとは解し難いから,特別変動入賞装置とは関係なく存在する特別可変表示装置を備えた遊技機の存在を観念することが困難とはいい難い。
そうすると「特別変動装置を必要としない特別可変表示装置を備えた遊技機」という解釈は何ら不合理なものではなく 「特別可変表示装置」を ,備えていれば「特別変動入賞装置」を備えていることが自明であるということはできない。
ウさらにいえば,本件の出願後ではあるものの,以下のとおり特別変動入賞装置とは関係なく存在する特別可変表示装置を備えた遊技機の存在が認められる。
(ア) すなわち 特開2006-6556号公報 乙2発明 発明の名称 遊 , (,「」, , 技機及びシミュレーションプログラム公開日 平成18年1月12日出願人 アルゼ株式会社)には次の記載がある。
・「 0020】【また,皿ユニット21の左前面には,十字キー,決定ボタン,取消ボタンを含むゲーム操作部88が配設されている。このゲーム操作部88は,遊技者によって操作可能な操作手段の一例に相当する。具体的には,このゲーム操作部88が遊技者によって操作されたことに応じて,遊技者の手牌から場に捨てる牌が選択可能となる。また,このゲーム操作部88が遊技者によって操作されることに応じて,遊技者に有利な状態となる遊技特典を付与させる制御が行われる。この遊技特典とは,本実施形態においては遊技状態が後述する大当り遊技状態に移行することであるが,本発明はこれに限らない。
遊技特典に関しては,詳しく後述する 」。
・「 0027】【この遊技盤14の前面中央には,始動口44,シャッタ40などが設けられている。この始動口44に遊技球が入球したことを条件として,液晶表示装置32において識別情報の可変表示が実行されることとなる。また,詳しくは後述するが,この識別情報の可変表示の結果に応じて,通常遊技状態よ(,,「」) りも遊技者にとって有利な大当り遊技状態 特定遊技状態 所謂大当りとなる。この大当り遊技状態となった場合には,シャッタ40が開放状態に制御され,大入賞口39に遊技球が受け入れ可能な開放状態となることがある。また,このような遊技盤14においては,各種の役物が取り付け可能となっている 」。
・「 0305】【更にまた,本実施形態においては,大当り遊技状態に移行させることによって,遊技者に対して有利となる遊技特典を付与させる制御を行うように構成したが,これに限らず,例えば,相対的に大当り遊技状態に移行する可能, 。 性が向上する確変遊技状態や 時短遊技状態に移行させるようにしてもよいまた,例えば,確変遊技状態,時短遊技状態に移行する確率自体が向上してもよい。更に,例えば,識別情報の可変表示の回数が所定の上限回数となった場合には,確変遊技状態,時短遊技状態が終了する場合においては,その上限回数を増加させるように構成してもよい。更にまた,例えば,保留個数などが増加するように構成してもよい。更にまた,例えば,後述するパチスロ遊技機などにおいて,決定された内部抽選役と,停止ボタンの操作タイミングとに基づいて,操作した時点における位置とは異なる位置でリールを停止させ,停止図柄を表示させる制御を行っているが,この場合において,操作した時点における位置で必ずリールを停止させる遊技状態(所謂 「チャレ ,ンジゲーム )に移行するように構成してもよい。更にまた,例えば,1回の 」入賞,メダル投入によって,複数回の単位遊技を実行可能にするように構成してもよい。更にまた,例えば,定められた賞球数が増加するように構成してもよく,もちろん,単に賞球が行われるように構成してもよい 」。
以上よれば,乙2発明は,その可変表示結果に応じて大当たり遊技状態となって特別変動入賞装置に相当する大入賞口39を開放する液晶表示装置32を備えた遊技機であり,上記大入賞口39は本願発明の特別可変表示装置に相当するものと認められるが,乙2発明においては,大入賞口39を開放する構成に代えて,定められた賞球数が増加するような構成にしたり,単に賞球が行われるような構成とすることが可能である旨記載されている。
(イ) また,インターネットに掲載された「フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia) 」にCOCKY氏が投稿した「メダルチギ」の項目(乙 』3)には次の記載がある。
「遊び方は,台にメダルを投入するとまずそのメダルが発射される。このメダルが入賞口に入ると今度は盤面にある液晶で(日本のパチンコ機とほぼ同様の 抽選が行われ この抽選に当選すると 大当たり となる仕組みだ大 ),「」。「当たり」となると台から景品用商品券が払い出される(1頁14行〜17 。」行)すなわち,上記「盤面にある液晶」は,抽選(ゲーム)を行う装置であって,その表示結果によって大当たりを発生させるものであるから,本願発明における特別可変表示装置に相当するものと認められるが,大当たりになると商品券が払い出されるというものである。
エ上記のとおり,乙2発明ないし乙3記載の遊技機は本願発明における特別可変表示装置に相当する装置を備えながら,特別変動入賞装置に相当する装置を有さない遊技機である。そして,これらは本願の出願後に公開された技術ではあるものの,その記載に鑑みると,本願の出願時以降に生じた技術革新により初めて存在可能になったという事情は見当たらず,技術的にみて本件の原々出願当時(平成4年10月27日)において本願の発明と相容れないものとは解し難い。
そうすると 「特別可変表示装置」が単体で存在する遊技機が,本件原 ,々出願時に技術的にみて存在し得ることは,以上のような遊技機の存在からも推知できるものというべきである。
,「」「」 したがって特別変動入賞装置 を必要としない 特別可変表示装置を備えた遊技機が,原々出願時に存在しないことをもって 「特別変動装 ,置を必要としない特別可変表示装置を備えた遊技機」という解釈は生じ得ないとの原告の上記主張は,採用することができない。
5 結論以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海