関連審決 | 不服2004-20472 |
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関連ワード | 反復(反復可能性) / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の判断 / 発明を特定する事項 / 発明の詳細な説明 / 発明の概要 / 表現上の差異 / 優先権 / 参酌 / 技術的意義 / 発明の要旨認定 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 国際公開 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10259号
審決取消請求事件
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原告インディアナ・ユニバーシテ ィ・リサーチ・アンド・テク ノロジー・コーポレーション 同訴訟代理人弁護士鈴木修 神田雄 同訴訟復代理人弁護士岡本義則 同訴訟代理人弁理士増井忠弐 被告特許庁長官 同 指定代理 人後藤時男秋田將行 小林和男 岩崎伸二 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/07/17 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2004-20472号事件について平成19年3月6日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が発明の名称を「イオン移動度及び質量分析器」とする特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 争点は,本願発明が,国際公開第98/56029号パンフレット(甲3。国際公開日:1998年〔平成10年〕12月10日,発明の名称「イオンの移動度及びハイブリッド質量分析装置 ,出願人:アドヴァンスト・リサーチ・アンド・テ 」クノロジー・インスティチュート〔アメリカ合衆国 。以下「刊行物1」という。刊行 〕物1の日本語訳は,刊行物1のパテントファミリである特表2001-503195号公報である甲4のとおり )に記載された発明(以下,審決を引用する場合を 。 含め「刊行物1発明」という )との関係で進歩性を有するかどうか(特許法29 。 条2項)である。 1特許庁における手続の経緯原告は,1999年(平成11年)5月17日の優先権(アメリカ合衆国)を主張し,2000年(平成12年)5月16日,名称を「イオン移動度及び質量分析器」とする発明について,国際特許出願(PCT/US00/13344)をし,平成13年11月19日に日本国特許庁へ国内書面を提出(甲1。特願2000-618721号)したところ,特許庁から平成16年6月29日付けで拒絶査定を受けた。 これに対し,原告は,同年10月4日,不服の審判請求を行うとともに,特許請求の範囲等を補正した(甲2。以下「本件補正」という。 。特許庁は,同審判請求を )不服2004-20472号事件として審理した上,平成19年3月6日 「本件 ,審判の請求は,成り立たない 」との審決をし,その謄本は,同月16日に原告に 。 送達された。なお,原告のため90日の出訴期間が附加された。 2本件特許請求の範囲本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下「本願請求項1」ということがある。)は,次のとおりである(甲2。本願請求項1の発明を,審決を引用する場合を含め「本願発明1」という。。)「 請求項1】気塊状イオンを発生することと, 【該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内にゲートして上記気塊状イオンを時間的に分離することによりそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成することと,上記形成された多数のイオンパケットのうち少なくとも一部のイオンパケットを順次質量分析器に向けることと,上記質量分析器を連続的に動作させることによって上記少なくとも一部のイオンパケットのうちの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成することと,上記形成されたイオンサブパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を測定することと,の各ステップにより構成されたことを特徴とするイオン質量スペクトル情報を生成する方法 」。 3審決の理由(1)審決の理由の要点は,?@本件補正は,平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2第4項3号,4号の規定に該当する補正と認める,?A本願発明1は,刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。 (2)審決が認定する刊行物1発明の内容,本願発明1と刊行物1発明との一致点並びに相違点1及び2のうちの相違点2は,次のとおりである。 ア刊行物1発明の内容「気塊状イオンを発生することと,該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内で上記気塊状イオンを時間的に分離することによりそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成することと,上記形成された多数のイオンパケットのうち少なくとも一部のイオンパケットを順次質量分析器に向けることと,上記質量分析器のイオン引き出し電界を,512回繰り返してパルス動作させるという仕方で,質量分析器を動作させることによって上記少なくとも一部のイオンパケットのうちの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成することと,上記形成されたイオンサブパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を測定することと,の各ステップにより構成されたことを特徴とするイオン質量スペクトル情報を生成する方法」(6頁5〜19行)イ一致点「気塊状イオンを発生することと,該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内で上記気塊状イオンを時間的に分離することによりそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成することと,上記形成された多数のイオンパケットのうち少なくとも一部のイオンパケットを順次質量分析器に向けることと,上記質量分析器を動作させることによって上記少なくとも一部のイオンパケットのうちの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成することと,上記形成されたイオンサブパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を測定することと,の各ステップにより構成されたことを特徴とするイオン質量スペクトル情報を生成する方法 (6頁28行〜7頁3行) 」ウ相違点2「本願発明1は 『質量分析器を連続的に動作させる』のに対し,刊行物1発明は 『質量分 , ,析器のイオン引き出し電界を,512回繰り返してパルス動作させるという仕方で,質量分析器を動作させる』ものである点(7頁10〜13行) 。」(3)相違点2についての判断「本願請求項1の発明で『質量分析器を連続的に動作させる』という記載は,本願明細書(平成13年11月19日受付の国内書面である)において段落【0016】の『本発明の他の面によれば ・・・,上記気塊状イオンの少なくとも一 ,部を上記IMS(判決注:イオン移動度分析器)のイオンの入口にゲートし上記MS(判決注:質量分析器)のイオン加速領域に連続的にパルスを与えそれによってイオンを上記イオン検出器順次向けるように動作可能なコンピュータと ・・・』の記載,乃至 ,段落【0065】の『・・・,TOFMS(判決注:飛行時間質量分析器)36のイオン加速領域(グリッド86,94及び102の間の)が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている場合に,上述したようにイオントラップ152(図5〔判決注:別紙図5のとおり。以下,引用の図については,別紙の各図のとおり 〕参照)は必要とされないことが実験により 。 判定されている。言い換えると,TOFMS36のイオン加速領域が自由動作モードで連続的なパルス状になっていれば,タイミングのためにイオントラップ152にイオンが収集される必要がない ・・・,本発明では,トラップ152がTOFMSの入口36に近接して配置さ 。 れるような所望の形態において,このようなイオントラップ152が任意に用いられることを考えている 』の記載,乃至 。 段落【0076】の『・・・。その後にステップ410において,制御コンピュータ310は所定の時間だけイオンゲート356(図10)にパルスを与えそれによって気塊状イオンを収集チャンバ354からIMS34に通過させ,上述したようにMS36のイオン加速領域に連続的にパルスを与えそれによってMS36を自由動作モードで動作させるように動作可能である ・・・』の記載における,下線部(下線は便宜上,今回付与したものである)の記載に 。 基づくものであり,それは,質量分析器(MS)のイオン加速領域に連続的にパルスを与えて質量分析器を動作させるという意味である。 すなわち本願請求項1は,質量分析器のイオン加速領域に連続的にパルスを与えて質量分析器を動作させることを 『質量分析器を連続的に動作させる』と表現したものと認められる。 ,刊行物1発明について検討すると,質量分析器のイオン引き出し電界はイオン加速のためのものであるから,該電界に係る領域はイオン加速領域ということができ,512回繰り返してパルス動作させるというのは,連続的にパルス動作させるということに外ならないから,刊行物1発明で 『質量分析器のイオン引き出し電界を “イオン導入事象”毎に,512回繰り返 , ,してパルス動作させるという仕方で,質量分析器を動作させる』というのは,質量分析器のイオン加速領域に連続的にパルスを与えて質量分析器を動作させるということであり,これは,, ,。 本願明細書の前記表現方法を用いれば 質量分析器を連続的に動作させる ということになるしたがって,相違点2は単なる表現上の相違に過ぎず,実質的には,両発明において同一の技術内容である(7頁22行〜8頁24行) 。」第3原告主張の取消事由審決は,本願発明1と刊行物1発明との相違点2の判断を誤ったものである。相違点2は,単なる表現上の相違などではなく,両発明は,実体として異なる発明である。この審決の認定判断の誤りは結論に影響があるから,審決は違法なものとして取り消されるべきである。 1本願発明1の内容(1)「質量分析器を連続的に動作させる」ことの意義本願発明1は,イオン移動度分析器内で形成され,質量分析器に向けられたイオンパケットの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成するステップにおいて,イオンサブパ「 」 。 ケットの形成を 質量分析器を連続的に動作させる ことによって行うものであるこの「質量分析器を連続的に動作させる」との要件に対応する本願明細書(本件補正後の本件発明に係る明細書。以下同じ )の記載には,以下のものがある。 。 ?@「該質量分析器を連続的に作動させそれによって上記イオンパケットの少なくとも一部をそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成するように順次時間的に分離することと 【0015】 」?A「上記気塊状イオンの少なくとも一部を上記IMSのイオンの入口にゲートし上記MSのイオン加速領域に連続的にパルスを与え 【0016】 」?B「TOFMS36に対するIMS34の直角でない配置形態(すなわち図4に示されるのとは異なる形態)では,TOFMS36のイオン加速領域(グリッド86,94及び102の間の)が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている場合に,上述したようにイオントラップ152(図5参照)は必要とされないことが実験により判定されている。言い換えると,TOFMS36のイオン加速領域が自由動作モードで連続的なパルス状になっていれば,タイミングのためにイオントラップ152にイオンが収集される必要がない【0065】。」?C「工程400はステップ406からステップ408に続き,ここでコンピュータ310はイオン源74を作動させそれによって適当な試料源からのイオンの発生を開始するように動作可能である。その後にステップ410において,制御コンピュータ310は所定の時間だけイオンゲート356(図10)にパルスを与えそれによって気塊状イオンを収集チャンバ354からIMS34に通過させ,上述したようにMS36のイオン加速領域に連続的にパルスを与えそれによってMS36を自由動作モードで動作させるように動作可能である【0076】。」以上の本願明細書の記載からすれば,本願発明1の「質量分析器を連続的に動作させる」とは 「TOFMS36のイオン加速領域(グリッド86,94及び10 ,2の間の)が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている」ことであり,これを「言い換えると,TOFMS36のイオン加速領域が自由動作モードで連続的なパルス状になって」いることである。ここにいう「イオン加速領域が 「パルス状 」になっている」との文言の意味は,本願明細書(甲1,2)中の各記載によれば,イオン加速領域にパルス状に電圧をかけるということであることが明らかである。 したがって 「質量分析器を連続的に動作させる」とは,質量分析器であるTOF ,MS36のイオン加速領域に自由動作モードで連続的にパルス状の電圧をかけることである。 そして質量分析器を連続的に動作させる ことにより イオンの導入との タ ,「 」,「イミング」を計るために,非直交型では不可欠と考えられていたイオントラップを不要とすることができるのである。 ここにいう「自由動作モード」の意義の理解には,本願明細書【0077】の記載が役立つ。同段落には「自由動作状態」との文言があり,これは本願明細書において「自由動作モード」と同義であるところ,同段落では,図14Bが,このような自由動作状態のイオン加速領域における電圧を表している旨記載されている。したがって,イオンの導入と質量分析器の動作のタイミングを計ることなく,図14Bに表されているように,イオン導入と同時に一定間隔のパルス状の電圧を途切れることなく与え続けることを,本願発明1では自由動作モードという。 以上からすると,本願発明1における「質量分析器を連続的に動作させる」の技術的意義は,質量分析器であるTOFMS36のイオン加速領域に,イオンの導入と質量分析器の動作とのタイミングを計ることなく,イオンの導入と同時に,一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく質量分析器に与え続けることである。 審決は 本願発明1の 質量分析器を連続的に動作させる との文言の意義を 質 ,「 」「量分析器(MS)のイオン加速領域に連続的にパルスを与えて質量分析器を動作させるという意味である 」と認定するが,抽象的に「連続的にパルスを与えて」と 。 するのみでは,本願発明1の理解として不十分であり,本願発明1でいうところの自由動作モードでパルス状の電圧がかけられることが明確に認識されなければならない。 (2)「質量分析器を連続的に動作させる」時期上記(1)のとおり,本願発明1において「質量分析器を連続的に動作させる」との意義は,TOFMS36のイオン加速領域に,イオンの導入と質量分析器の動作とのタイミングを計ることなく,イオンの導入と同時に,一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく与え続けることであるところ,質量分析器のイオン加速領域へパルス状電圧が最初に与えられるのは,イオンゲート356にパルス状の電圧が与えられた時と同時である。 このことは,本願明細書の図14A及び図14Bから明らかである。すなわち,イオンゲートにおける電圧は図14Aに表されているところ( 0077,図1【】)4A及び図14Bを並べて見れば,図14Aの左端においてパルスが描かれているのに対し,図14Bにおいても同じく左端から自由動作モードによるパルスが描かれているのであって,このことから,イオンゲート356にパルス状の電圧を与えること(図14A)と自由動作モードによりイオン加速領域へパルス状の電圧をかけ始めること(図14B)が同時であることが理解できる。 また,本願発明1の工程を示した本願明細書の図13において 「イオンゲート ,にパルスを与え」ることと「TOFMSに連続的にパルスを与える」ことが410という一つの工程として記載されていることも,イオンゲートにパルス状の電圧をかけるのとTOFMSにパルスの電圧がかけられ始めるのが同時であることを意味している。 そして,イオンゲート356にパルス状の電圧を与えると,イオンゲートは不作動状態となり,それによってイオンがIMS34に入ることが可能となる( 00【77 )のであるから,本願発明1においてイオン加速領域にパルス状の電圧がか 】けられる時期は,イオンがIMS34に入った時ということになる。 2刊行物1発明の内容刊行物1発明においても,質量分析器のイオン加速領域にパルス状の電圧がかけられるが,その電圧のかけ方は,イオン加速領域に進入してくるイオンパケットの位置や速度に応じ,そのタイミングに合わせて電圧をかけるというものである。 このような理解の根拠として,刊行物1の次の記載が挙げられる。 (1)直交型実施例について?@「電圧源VS288,VS396及びVS4104は典型的にはコンピュータ38によって制御され,グリッド即ちプレート86,94,102において最初の電圧を生じ,IMS34(電圧源VS152によってセットされる)と電圧レベルが一致するようになる ・・・グリッド即ちプレート86,94間で規定 。 された空間内での最初のイオン位置または最初のイオン速度の推定によって,コンピュータ38を作動して電圧源88,96及び/又は104を制御し,瞬時にグリッド即ちプレート86,94,102間の電界を増加し,それによってイオンが引き出された電界を創造し (甲4の58頁14〜23行。以下,甲3の刊行物1を 」挙示するときは,甲4の該当頁数を示す )。 ?A「例えば,このような垂直配置では,グリッド即ちプレート86,94間に規定されたイオン加速領域にIMS34から入るイオンパケットが,それらがドリフトチューブ軸線72に沿ってその間を移動しているとき,一定であり,比較的良く。,, 規定された最初のイオンの位置を有する 上述したように イオン光学素子47はイオンをイオン加速領域に集め,それによりイオンの空間的分布を最小にする。更,, にドリフトチューブ軸線72はグリッド即ちプレート86 94と平行であるからフライトチューブ軸線128に対するイオン位置は,比較的一定に維持している。 この特徴により,グリッド即ちプレート86,94間で規定されたイオン加速領域内での最初のイオン位置を正確に推定することが可能となり,これにより上記パルスイオンの引き出された電界のより正確な推定をすることができる。 好ましくは,コンピュータ38は上述したように,イオン源74からイオン発生, 。」 を制御し コンピュータ38IMS34内にイオンが導入される時間を記憶する(60頁2〜15行)(2)非直交型実施例について「このような向きのいずれにおいても,グリッド又はプレート86′及び94の間に形成された空間内のイオンパケットの初期位置は,(図示された向きにおけるように)いかなる精度でも予測することができないか又は(直角でないあらゆる配置におけるように)イオンパケットがドリフトチューブ軸線72に沿って移動する時に変化する(61頁11〜16行) 。」(3)上記(1)及び(2)の記載によると,グリッド即ちプレート86,94,102に生じる電圧は,当初,IMS34と電圧レベルが一致するように制御されており,その後,グリッド(プレート86,94間で規定された空間 ,すなわちイオ )ン加速領域に進入してきたイオンパケットの位置や速度に応じ,その進入のタイミングを計って瞬時にその電圧を増加することが理解される。そして,直交型実施例では,イオンパケットのイオン加速領域への到達が精度良く推定できるので,イオンパケットの到達に合わせてイオン加速領域に電圧をかけることができるが,非直, , 交型では 精度良くイオンパケットのイオン加速領域への到達が予測できないためイオントラップが必要となるのである。 , , このように イオン加速領域に進入してくるイオンパケットの位置や速度に応じそのタイミングに合わせてイオン加速領域にパルス状の電圧をかけるということは,いい換えれば,イオン加速領域にパルス状の電圧がかけられる時期は,同領域。,, にイオンパケットが進入してきた時ということになる つまり 刊行物1発明ではイオン加速領域へのパルス電圧の付与は,同領域へのイオンパケットの到達に合わせることが前提となっているのである。 3本願発明1と刊行物1発明との相違(1)以上で述べたように,本願発明1においては,イオンゲートに電圧をかける時,すなわちイオンがIMS34に進入した時に,イオン加速領域へパルス状の電圧がかけられ始め,その後はイオン加速領域に一定間隔のパルスの電圧が途切れ。「 」 ることなく与え続けられる 本願発明1にいう 質量分析器を連続的に動作させることは,このような形で行われる。 これに対し,刊行物1発明においては,イオン加速領域に進入してくるイオンパケットの位置や速度に応じ,そのタイミングに合わせてイオン加速領域にパルス状の電圧をかけるのであり,イオンがIMS34に進入した時にはいまだイオン加速領域にパルス状の電圧は発生しない。しかも,刊行物1は 「一実施例において, ,パルス化されたイオン引出し電界は,イオン導入事象ごとに512回繰り返して提供された(60頁17,18行)とし,有限の回数パルスが与えられる場合のみ 。」が記載されているが,本願発明1では,パルスの数に制限はない。 なお 「イオン導入事象ごとに512回繰り返して提供された 」という記載の意 , 。 味は,各イオン導入事象に対してそれぞれ512回パルス状の電圧が与えられたということにとどまり,IMSへのイオン導入と同時にパルス状の電圧が与えられたという意味ではない。 このように,審決の挙げる相違点2は,単なる表現上の差異にとどまらず,イオン加速領域へのイオンパケット進入のタイミングを計ってパルス状の電圧をかけるか,イオン導入と同時にイオン加速領域にパルス状の電圧をかけ始めるか,という重要な相違を有している。そして,この相違は,下記4のとおり,本願発明1に刊行物1発明とは異なる効果をもたらす。 (2)刊行物1発明は,1997年6月2日の米国出願(出願番号08/867245号。以下「米国原出願」という )を優先権の根拠として PCT 出願されたも 。 のである(甲3 。一方,本願発明は,1999年5月17日の米国出願(出願番 )号09/313492号)を優先権の根拠として PCT 出願されたものであるが,この優先権の根拠となった米国出願は,米国原出願の部分継続出願である(甲1【0001。】)以上のとおり,本願発明も刊行物1発明も,いずれも米国原出願を基礎とするものであり,本願発明は,米国原出願の内容に加えて,新たな事項を追加してされた出願という関係にある。 したがって,本願明細書の内容と刊行物1の内容とは共通する部分があるが,本願明細書は,刊行物1に対して,図面9以降が追加され,また,これに対応する説【】,,(【】 明が 0065 以下に追加され さらに 発明の概要に関する記載0015〜【0019 )が変更されたものとなっている。 】よって,本願明細書は,刊行物1には開示されていない新規な事項が記載されて,, 。 おり 本願発明は 本願明細書において新たに追加された事項に関するものであるなお,本願明細書には,刊行物1に相当する記載部分もあるが,これは本願発明が刊行物1の基礎となる米国出願の部分継続出願に基づくものであることに由来するものであり,このことから,本願発明が刊行物1の発明を含むものと理解すべきでなく,上記追加部分に開示された技術内容に基づき,刊行物1の発明との異同を判断すべきである。 【】 , 本願明細書 0065 以下の記載及び図9以降と刊行物1の記載を対比すれば刊行物1においては,発明の実施形態として,IMS34のドリフト管軸とTOFMS36の飛行管軸が直交している直交型実施例(甲4の図4)と,直交しない場合はイオントラップ152が設けられるという非直交型実施例のみが開示されていた(甲4の図5 【請求項40 ,61頁以降 。これに対し,本願発明1において 。】)は,その図9に示されるように,IMSのドリフト管軸とTOFMSの飛行管軸は直交していなくてもよく 「相互に対して所望の角度をなして配置され」る上,I ,MSに対してTOFMSが直角でない配置形態においてもイオントラップは必要とされない(甲1の【0065。】)4本願発明1と刊行物1発明との効果の相違(1)刊行物1発明と同様の従来の方法を採る場合,イオン加速領域に到達したイオンパケットをTOFMSの飛行管へ向かわせるためには,イオンパケットのイオン加速領域への進入のタイミングを計って電圧をかける必要があるが,本願明細書【0045】及び刊行物1(61頁7行目以降)に記載されているように,TOFMSの飛行管軸がIMSのドリフト管軸に対して垂直でない構造をとる場合には,イオン加速領域におけるイオンパケットの初期位置及び同領域にイオンパケッ。,, トが到達するまでの時間を正確に把握することが困難である そして そのためにパルス状の電圧をかけるタイミングが不正確になり,イオンがTOFMS内で見失われるようになったり,TOFMSの質量分解能が逆効果を受ける,すなわち分解能が低下するという問題がある。 この問題への対処方法として,従来,刊行物1の図5のようにイオントラップ152を設けることがあった。本願明細書【0048】及び【0049】並びに刊行物1(62頁22行目以降)にも記載されているように,イオントラップは,イオンパケットを閉じ込め,所望のタイミングで周期的に排出するようにコンピュータによって制御されるので,コンピュータは,イオン加速領域におけるイオンの初期位置や同領域にイオンが到達するまでの時間を正確に把握することが可能となる。 , , そして それによってパルス状の電圧をかけるタイミングを正確に測ることができイオンをTOFMS内で見失うこともなく,TOFMSの質量分解能を最大限に引き出すことができる。 しかしながら,イオントラップを設けることには,当然ながら相応のコストがか, , , かるし 新たな装置を付加することにより 器械・制御系統全体の複雑さが増して故障などのリスクが高まるという問題もある。 そこで,本願発明1は,質量分析器を連続的に動作させることにより,TOFMSとIMSが垂直でない構造においても,イオントラップを不要とすることに成功した。すなわち,イオンがIMS34に入るのと同時に,イオン加速領域にパルス状に電圧をかけ始め,その電圧を一定間隔で途切れることなく与え続けることで,イオン加速領域に到達したイオンにタイミングを合わせて電圧を与える必要はなくなり,したがって,イオン加速領域におけるイオンの位置や同領域への到達時間を測定する必要もなくなるので,イオントラップを必要としていた理由が失われたのである。 以上のとおりであるから,IMSのドリフト管軸とTOFMSの飛行管軸が直交していない構造においてもイオントラップを不要とする効果は,本願発明1がイオン加速領域へのイオンパケットの進入のタイミングに合わせることなく「質量分析器を連続的に動作させる」という方法を採ったことがもたらしたものである。 (2)刊行物1発明における非直交型では,初期のより高い質量分解能を達成するためにイオントラップを必要とするのであるから,非直交型の質量分析器においては,本願発明1と刊行物1発明との間に顕著な差異がある。 また,刊行物1発明は,直交型について 「フライトチューブ110の長さ,グ ,リッド即ちプレート88,94,112間の距離及びグリッド即ちプレート112と検出器116との距離114のような種々の装置パラメータ,またグリッド即ちプレート86,94間で規定された空間内での最初のイオン位置または最初のイオン速度の推定によって,コンピュータ38を作動して電圧源88,96及び/又は104を制御し,瞬時にグリッド即ちプレート86,94,102間の電界を増加し,それによってイオンが引き出された電界を創造し,これらグリッド間のイオンをフライトチューブ110の方へ加速する (58頁17〜24行)と記載されて 」おり,刊行物1発明の直交型でも,イオンパケットが加速領域に達するタイミングを計って質量分析器を作動させていることは明らかである。これに対し,本願発明1においては,直交型においても,イオン加速領域に進入してくるイオンパケットの位置や速度に応じそのタイミングに合わせて電圧をかけるのではなく,イオンゲートに電圧をかけ,イオンがIMS34に進入すると同時に,イオン加速領域にパルス状の電圧がかけられる。このことは,本願請求項1における「質量分析器を連続的に動作させる」との記載が直交型にも非直交型にも限定していないこと及び本願明細書【0065】以降の記載がやはり直交型にも非直交型にも限定していないことから明らかである。 したがって,本願発明1では,直交型においても 「質量分析器を連続的に動作 ,させる ,すなわち,イオン加速領域へのイオンパケット進入とのタイミングを計 」らずに,イオン移動度分析器へのイオン導入と同時に,イオン加速領域へ一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく与え続けることが行われるのであり,このことによって,イオンパケットが加速領域に達するタイミングに合わせて質量分析器を動作させるという制御を行う必要がなくなった点において,本願発明1と刊行物1発明との間には大きな相違がある。 5結論以上のとおり,相違点2は,パルス状の電圧をかける時期をイオン加速領域にイオンパケットが進入するタイミングに合わせるかどうかという重要な相違を有するのであるから,単なる表現上の相違とはいえず,本願発明1と刊行物1発明は,実体として異なる技術内容である。 そして,イオン加速領域にイオンパケットが進入するタイミングに合わせることなく,イオンがIMS34に入るのと同時にパルス状の電圧をかけ始め,それを途切れることなく続けることとし,それによってIMSのドリフト管軸とTOFMSの飛行管軸が直交していない構造においてもイオントラップを不要とすることは,刊行物1には一切記載されていないし,刊行物1発明から当業者が容易に想到し得たものではない。 したがって 「相違点2は単なる表現上の相違に過ぎず,実質的には,両発明に ,おいて同一の技術内容である 」とした審決には,相違点の判断を誤った違法があ 。 り,この審決の認定の誤りは結論に影響があるから,審決は取り消されるべきである。 第4被告の反論1本願発明1の内容(1)前記第3の1(1)で原告が挙示する本願明細書 001500160 【】,【】,【065】及び【0076】の記載を考慮すれば,本願発明1の「質量分析器を連続に動作させる」ことは,原告も認めているように 「TOFMS36のイオン加速 ,領域(グリッド86,94及び102の間の)が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている」ことであることは明らかである。また,この「質量分析器を連続に動作させる」という記載から,イオンを導入するタイミングと質量分析器を連続。,, に動作させるタイミングとを関係付けることは難しい さらに 本願請求項1にはイオンゲートについて「該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内にゲートして」と記載され,また,質量分析器の動作について「上記質量分析器を連続的に動作させることによって」と記載されているものの,イオンゲートと質量分析器の動作について何ら関係付けて記載されていない。 以上によれば,原告の「本願発明1の『質量分析器を連続的に動作させる』の技術的意義は,質量分析器であるTOFMS36のイオン加速領域に,イオンの導入と同時に,一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく質量分析器に与え続けることである 」との主張及び「本願発明1において『質量分析器を連続的に動作さ 。 せる』ことの意義はTOFMS36のイオン加速領域に,イオンの導入と質量分析器の動作とのタイミングを計ることなく,イオンの導入と同時に,一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく与え続けることである」との主張は,それぞれ特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,失当といわざるを得ない。 (2)また,本願発明1の「質量分析器を連続的に動作させる」ことが 「TOF ,MS36のイオン加速領域が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている」ことであったとしても,上記のとおり,本願請求項1には「質量分析器を連続的に動作させる」と記載されているのみであり,さらに,この「質量分析器を連続的に動作させる」という記載では,質量分析器を連続的に動作させるタイミングを特定することができないことは明らかである。そして,仮に原告が主張するように 「自,由動作モード」が「イオン導入と質量分析の動作のタイミングを計ることなく,図14Bに表されているようにイオン導入と同時に一定間隔のパルス状の電圧を途切れることなく与え続ける」ことを意味したとしても,本願請求項1には 「自由動 ,作モード」という発明を特定する事項が記載されておらず,上記のとおり 「質量 ,分析器を連続的に動作させる」記載は,質量分析器を連続的に動作させるタイミン,「 」 グを特定する記載ではないから 本願発明1の 質量分析器を連続的に動作させるとは 「TOFMS36のイオン加速領域が連続的に作動し,あるいはパルス状に ,なっている」ことであり,これをいい換えれば 「TOFMS36のイオン加速領 ,域が連続的なパルス状になって」いることであるとはいい得ても,原告が主張するように 「質量分析器を連続的に動作させる」記載から,質量分析器を連続的に動 ,作させるタイミングを特定して 「本発明の『質量分析器を連続的に動作させる』 ,,『 (,) とはTOFMS36のイオン加速領域 グリッド86 94及び102の間のが連続的に作動し,あるいはパルス状になっている』ことであり,これをいい換えると 『TOFMS36のイオン加速領域が自由動作モードで連続的なパルス状に ,なって』いることである 」とはいえない。 。 (3)したがって,上記(1)及び(2)を根拠として 「本願発明1における『質量分 ,析器を連続的に動作させる』の技術的意義は,質量分析器であるTOFMS36の, , イオン加速領域に イオンの導入と質量分析器の動作のタイミングを計ることなくイオンの導入と同時に,一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく質量分析器に与え続けることである 」とはいえないものである。 。 (4)本願明細書【0077】には 「図14Bの信号452はTOFMS36の ,イオン加速領域における電圧を表し」と記載されており,さらに,本願明細書の図14Bを参照すると,図14Bには信号452が一定間隔でパルス状になって供給されていることが描かれているから,図14Bが「TOFMS36のイオン加速領域(グリッド86,94及び102の間の)が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている」ことを意味すること,すなわち,本願発明1の「質量分析器を連続に動作させる」ことを意味することは明らかである。そして,図14Bからだけでは最初の信号452がイオン導入と同時に供給されるかどうかは不明であり,図14Aと図14Bを比較して初めて,原告が主張する「質量分析器のイオン加速領域へパルス状電圧が最初に与えられるのは,イオンゲート356にパルス状の電圧が与えられた時と同時である 」ことが理解されるものである。 。 さらにまた,図13を参照すると,図13の工程410には 「イオンゲートに ,パルスを与えTOFMSに連続的にパルスを与える と記載されているもののイ 」,「オンゲートにパルスを与え」ることと「TOFMSに連続的にパルスを与える」ことを同時に行うとは記載されていないから,図13には 「イオンゲートにパルス ,を与え」ることと「TOFMSに連続的にパルスを与える」ことが410という一つの工程として記載されているからといって,イオンゲートにパルスを与えるのとTOFMSにパルスの電圧がかけられ始めるのが同時であることを意味しないことは明らかである。 (5)そして,本願発明1の「質量分析器を連続的に動作させる」とは 「TOF ,MS36のイオン加速領域が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている」ことであり,さらに 「イオン加速領域が連続的に作動し,あるいはパルス状になっ ,ている」ことは,本願明細書【0016】及び【0076】の記載を参照すれば,「イオン加速領域に連続的にパルスを与え」ることであり,また,質量分析器のイオン加速領域にパルスを与えることは 「質量分析器を動作させる」ことであるこ ,とが明らかであるから,審決において 「本願請求項1は,質量分析器のイオン加 ,速領域に連続パルスを与えて質量分析器を動作させることを 『質量分析器を連続 ,的に動作させる』と表現したものと認められる(8頁11〜13行)と認定した 。」ことに誤りはない。 2本願発明1と刊行物1発明との相違について(1)本願請求項1には,質量分析器の動作について「上記質量分析器を連続的に動作させることによって」と記載されているものの,イオンゲートと質量分析器の動作について関係付ける記載はない。 本願発明1の「質量分析器を連続的に動作させる」とは 「TOFMS36のイ ,オン加速領域が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている」ことであり,また 「イオン加速領域が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている」ことと ,は 「イオン加速領域に連続的にパルスを与え」ることであり,さらに,質量分析 ,器のイオン加速領域にパルスを与えることは「質量分析器を動作させる」ことであ,(),, ることは明らかであるから 審決 8頁11〜13行 のとおり 本願請求項1は質量分析器のイオン加速領域に連続パルスを与えて質量分析器を動作させることを 「質量分析器を連続的に動作させる」と表現したものと認められる。 ,他方,刊行物1発明について検討すると,刊行物1には 「例えば,このような ,垂直配置では,グリッド即ちプレート86,94間に規定されたイオン加速領域にIMS34から入るイオンパケットが,それらがドリフトチューブ軸線72に沿ってその間を移動しているとき,一定であり,比較的良く規定された最初のイオンの位置を有する ・・・コンピュータ38は電圧源88,96を制御するように作動 。 , , 。 し 何回かの各イオン導入事象で パルス化されたイオン引き出し電界を提供する一実施例において,パルス化されたイオン引き出し電界は,イオン導入事象ごとに512回繰り返して提供された(60頁2〜18行)と記載されており,ここで 。」いう質量分析器の「イオン引き出し電界」は,イオン加速領域(プレート86,94間)でのイオン加速のためのものであり 「パルス化されたイオン引き出し電界 ,は,イオン導入事象ごとに512回繰り返して提供された」とは,イオン加速領域のプレート86,94間にイオン引き出し電界のためのパルスを512回繰り返して与えることを意味し,さらに,イオン加速領域(プレート86,94間)にパルスを与えることは,質量分析器を動作させることにほかならないから,刊行物1発明は,審決認定の相違点2のとおり 「質量分析器のイオンの引き出し電界を,5 ,12回繰り返してパルス動作させるという仕方で,質量分析器を動作させる」ものであることは明らかである。 そして 「パルス化されたイオン引き出し電界は,イオン導入事象ごとに512 ,回繰り返して提供された」こと,すなわち 「イオン加速領域のプレート86,9 ,4間にイオン引き出し電界のためのパルスを512回繰り返して与える」ことは,質量分析器のイオン加速領域に連続的にパルスを与えて質量分析器を動作させることであり,これは,本願明細書の表現方法を用いれば 「質量分析器を連続的に動 ,作させる」ということになるから,審決が「相違点2は単なる表現上の相違に過ぎず,実質的には,両発明において同一の技術内容である(8頁23,24行)と 。」した点に誤りはない。 (2)原告は,本願発明1も刊行物1発明も,いずれも米国原出願を基礎とするものであるところ,本願明細書は,刊行物1には開示されていない新規な事項が記載されており,本願発明1は,本願明細書において新たに追加された事項に関する, , ものであるから 本願発明1が刊行物1の発明を含むものと理解すべきでないこと上記追加部分に開示された技術内容に基づき,刊行物1の発明との異同を判断すべきであることを主張する。 しかしながら,発明の要旨認定は,特段の事情がない限り,明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて行うべきであるから,原告の上記主張は失当である。 (3)原告は 「刊行物1においては,前述のとおり発明の実施態様として,IM ,S34のドリフト管軸とTOFMS36の飛行管軸は直交している直交型実施例(甲4,図4・・・)と,直交しない場合はイオントラップ152が設けられるという非直交型実施例のみが開示されていた(甲4図5,同請求項40,同61頁以下 。これに対し,本願においては,その図9に示されるように,IMSのドリフ )ト管軸とTOFMSの飛行管軸は直交していなくともよく 『相互に対して所望の ,角度をなして配置され』る上,IMSに対してTOFMSが直角でない配置形態においてもイオントラップは必要とされない(甲1【0065」と主張する。】)確かに,本願発明では,質量分析器の飛行管軸が直交しているとも直交しないとも限定していないが,直交型とも非直交型とも限定していないからこそ,本願発明。, 1は刊行物1の質量分析器の飛行管軸が直交する直交型も含むことになる そして本願発明1が含む直交型の場合には,原告も認めているようにイオントラップを必, , 要としないことから 本願発明1と刊行物1発明との効果の差異はないことになり上記原告の効果の主張は失当である。 3本願発明1と刊行物1発明との効果の相違について(1)原告の主張する「IMSのドリフト管軸とTOMFSの飛行管軸が直交していない構造においてもイオントラップを不要とする」点の本願発明1の効果は,原告の主張に係る「質量分析器であるTOFMS36のイオン加速領域に,イオンの導入と同時に,一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく質量分析器に与え続ける」構成又は「イオン導入と同時にイオン加速領域にパルス状の電圧をかけ始める」構成が本願請求項1に記載されていることを前提とするものである。 しかし,本願請求項1には,イオンゲートについては「該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析内にゲートして」と記載され,また,質量分析器の動作については「上記質量分析器を連続的に動作させることによって」と記載されているものの,イオンゲートと質量分析器の動作について関係付ける記載はないことから,原告の本願発明1の効果の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,失当といわざるを得ない。 (2)また,仮に,本願発明1に,原告の主張する「IMSのドリフト管軸とTOMFSの飛行管軸が直交していない構造においてもイオントラップを不要とする」点の効果があった場合についても検討する。 本願発明1は,質量分析器の飛行管軸について直交型とも非直交型とも限定していないから,本願発明1は,刊行物1の質量分析器の飛行管軸が直交しない非直交型のほかに,質量分析器の飛行管軸が直交する直交型も含むことになる。そして,この直交型の場合には,本願発明1も刊行物1発明もイオントラップを必要としないことから,質量分析器の飛行管軸が直交する直交型も含む本願発明1と刊行物1発明との効果の差異はないことになる。 4よって,審決の認定判断に何ら誤りはなく,原告の主張はいずれも理由がない。 第5当裁判所の判断1本願発明1の内容(1)本願請求項1には,?@「気塊状イオンを発生すること ,?A気塊状イオンの 」イオンゲートにつき 「該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内 ,にゲートして ,?Bイオンパケットの形成につき 「上記気塊状イオンを時間的に分 」 ,離することによりそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成すること ,?Cイオンパケットを質量分析器に向けることにつき 「上記形成さ 」 ,れた多数のイオンパケットのうち少なくとも一部のイオンパケットを順次質量分析器に向けること ,?D質量分析器の動作につき 「上記質量分析器を連続的に動作さ 」 ,せることによって ,?Eイオンサブパケットの形成につき 「上記少なくとも一部の 」 ,イオンパケットのうちの少なくとも一部を順次時間的に分離させてそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成すること ,?F質量スペク 」トル情報の測定につき 「上記形成されたイオンサブパケットの少なくとも一部を ,処理して質量スペクトル情報を測定すること」が記載されている。 同記載によれば,質量分析器の動作について 「連続的に動作させる」ことによ ,って 「イオンパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を生成す ,る」ものであることが記載されていることが認められるものの,それ以上の特定がされておらず,イオンゲートと質量分析器の動作について何ら関係付けて記載されておらず,本願請求項1の記載自体から,TOFMSへのパルス状電圧付与のタイミングが明らかとはいえない。 (2)さらに,本願明細書(甲1,2)の発明の詳細な説明について検討する。 ア本願明細書には,以下の記載がある。 「 0002】【【技術分野】 本発明は概略的に,構造に基づいた分子の特性や気相イオン等の質量?電荷比のための測定装置に関し,より詳細には,生体分子を含む有機分子や無機分子に関する組成,配列順序及び/または構造上の情報を迅速かつ高感度に分析するこのような測定装置に関する ・・・。 【0006】研究者はこの数年来,生体分子の構造及び順序を分析するためのより迅速で高感度な手法の必要性を認識している。飛行時間質量分析(TOFMS)及びフーリエ変換イオン・サイクロトロン共鳴質量分析のような質量分析(MS)の手法は,順序及び構造の決定されるようなイオン質量情報を迅速かつ正確に与えるための周知の手法である。この技術において知られているように,TOFMSシステムは電界により末端がイオン検出器となっている電界のない飛行管に向かってイオンを加速する。公知のTOFMSの原理によれば,イオンの飛行時間はイオンの質量の関数であって,より小さい質量を有するイオンがより大きい質量を有するイオンより速く検出器に達する。かくして装置によりイオン飛行時間からイオンの質量が計算される。図1は既知の質量?電荷比(m/z)が12360daのチトクローム-c() , の試料と質量-電荷比 m/z が14306daのリゾチームの試料とについてこの原理を証明している。図1において,約40.52μsの飛行時間を有する信号のピーク10はより軽いチトクローム-cの試料のものであり,約41.04μsの飛行時間を有する信号のピーク12はより重いリゾチームの試料のものである ・・・。 【0015】・・・本発明の1つの面によれば,気塊状イオンを発生することと,該気塊状イオンの少なくとも一部をイオン移動度分析器内にゲートしそれによって該気塊状イオンをそれぞれ対応するイオン移動度を有する多数のイオンパケットを形成するように時間的に分離することと,該イオンパケットの少なくとも一部を順次質量分析器に向けることと,該質量分析器を連続的に作動させそれによって上記イオンパケットの少なくとも一部をそれぞれ対応するイオン質量を有する多数のイオンサブパケットを形成するように順次時間的に分離することと,該イオンサブパケットの少なくとも一部を処理してそれから質量スペクトル情報を決定することと,の各ステップからなるイオン質量スペクトル情報を生成する方法が提供される。 【0016】本発明の他の面によれば,試料源から気塊状イオンを発生するための手段と,該気塊状イオンを発生するための手段に連結されたイオンの入口及びイオンの出口を有しイオンをイオン移動度の関数として時間的に分離するように動作可能なイオン移動度分析器(IMS)と,該IMSの上記イオンの出口に連結されたイオン加速領域及びイオン検出器を有しイオンをイオン質量の関数として時間的に分離するように動作可能な質量分析器(MS)と,上記気塊状イオンの少なくとも一部を上記IMSのイオンの入口にゲートし上記MSのイオン加速領域に連続的にパルスを与えそれによってイオンを上記イオン検出器順次向けるように動作可能なコンピュー, 。 タと からなる試料源から質量スペクトル情報を生成するための装置が提供される・・・【0026】図4を参照すると,本発明によるハイブリッド型のイオン移動度及び飛行時間による質量分析器の装置30が示されている。装置30は基本的部分としてイオン移動度分析器34に連通するイオン源領域32を有し,イオン移動度分析器34自体が質量分析器36に連通している。装置30の少なくとも一部を制御し,また質量分析器36からの情報を収集するためにコンピュータ38が備えられている。 ・・・【0028】イオン移動度分析器(IMS)34は管40のイオンの出口側端部44に近接して配置された気体通口42を有するドリフト管40を含み ・・・ドリフト管40 ,のイオンの出口側端部44これには取り付けられた端板43を含み,この端板43はこれを貫通する開口ないしイオン通口45を規定している ・・・。 【0031】 ドリフト管40はさらにイオンの入口側端部を被覆する管端部66を形成するハウジング70に囲まれており,管端部66は開口ないしイオン通口68と端板43に近接したイオン出口側開口ないし通口84とを形成している ・・。 ・ドリフト管40に入るイオンは以下に論ずるように個々の移動度の関数として時間的に分離され,開口70を通じて順次TOFMS36に向けられる ・・・。 【0033】TOFMS36はIMS34に取り付けられたハウジング126に囲まれているのが好ましい ・・・この技術において知られているように,グリッドないしプレ 。 ート86,94及び102はそれらの間に第1及び第2のイオン加速領域を形成するが,これについては以下により詳細に説明されよう ・・・。 【0036】図4に示される装置30において,TOFMS36はIMSに対して,飛行管軸128がドリフト管軸72に垂直になるように配置されるのが好ましい。さらにTOFMS36はIMSに対して,ドリフト管軸72と飛行管軸128とがグリッドないしプレート86と94との間に形成される第1のイオン加速領域内で交差するように配置されるのが好ましい。他の形態のTOFMSにおいて,グリッドないしプレート94は省略してもよく,その時TOFMSはIMS34に対して,ドリフト管軸72がグリッドないしプレート86と102との間に形成されるイオン加速領域内で飛行管軸128に交差するように配置される必要がある。いずれの場合にも,TOFMSはIMS34に対して,ドリフト管軸72が問題となる領域内のほぼ中心で飛行管軸128に交差するように配置されるのが好ましい ・・・。 【0038】公知のIMS34の動作によれば,IMSの入口側開口68に入るイオンはIMSの出口側開口84に向かってドリフト管40を通過し,このイオンは個々の移動度に応じて時間的に分離する。小さい移動度を有するイオンはより大きい移動度を有するイオンより遅れ,このイオン移動度は主として衝突断面積の関数である。結果として,より密集したイオンはより拡散したイオンより速くIMSの出口側開口84に達する ・・・。 【0039】TOFMS36はイオンをグリッドないしプレート86と94との間に形成される空間電界のない飛行管110に向かって加速するように動作可能であり,このイオンは個々の質量に応じて時間的に分離する。一般的により質量の小さいイオンはより大きい質量を有するイオンより速く検出器116に達するであろう。検出器116はイオンの到着時間を検出しそれに応じた信号を信号線路124を介してコンピュータ38に与えるように動作可能である ・・・。 【0041】・・・グリッドないしプレート86と94との間に形成される空間内のイオンはパルス状のイオン引出し電界によりグリッドないしプレート94と102との間に形成される空間に向かって加速される ・・・飛行管110はそれに対応する電界を 。 有していないので,イオンはグリッドないしプレート102から検出器116に向かって漂流し,ここでイオンは上述したように個々の質量の関数として時間的に分離する ・・・。 【0043】コンピュータ38が以下により詳細に説明するようにイオン源74からのイオンの発生を制御して,コンピュータ38が,以下に導入結果と称する,イオンがIMS34に導かれた時間についての知識を有しているのが好ましい。その時コンピュータ38は電圧源88及び96を制御してイオン導入結果毎に反復的に数回パルス状のイオン引出し電界を与えるように動作可能である。1つの実施例において,イオン導入結果毎にパルス状引出し電界が512回反復して与えられる。導入結果毎に与えられるパルス状のイオン引出し電界の数は装置30の最終的な分解能に正比例することが当業者に理解されよう。このパルス状の動作はIMS34に対してTOFMS36を垂直に配置することによるいくつかの利点に関係するので,この配置はいずれか1つのイオンパケットの全体あるいは一部が処理されずにTOFMS36を通過する可能性を最小にする。グリッドないしプレート86及び94に対するイオンパケットの進行方向により,またイオン引出し電界のパルス状の性質により,TOFMS36はイオンパケットが軸72の方向に進む際に各々のイオンパケットを検出器に向けて加速する複数回の機会を有するであろう。そのため,装置30は検出器116への最大のイオンのスループットを与えるような形態になっている。 【0044】ここで図5を参照すると,本発明によるハイブリッド型のイオン移動度及び飛行時間による質量分析器150の他の実施例が示されている。分析器150は多くの点で図4に示されまた上述した分析器30と同様であり,それゆえ同様の部分は同様の番号で示される。それゆえ共通の部分について,またIMS34の基本的動作についての議論は簡略化のため繰り返さない。 【0045】図4の装置30と異なって,装置150のTOFMS36′はIMS34に対して,ドリフト管軸72がまたTOFMS36′の飛行管軸にもなるように配置されている。あるいは,TOFMS36′はIMS34に対して,ドリフト管軸72が飛行管軸に対して垂直にならないような方向に配置されよう。いずれかのこのような方向で,グリッドないしプレート86′と94との間に形成される空間内のイオンパケットの初期位置は ・・・パルス状のイオン引出し電界のタイミングが予測 ,し難い。その結果,パルス状のイオン引出し電界のタイミングが不正確になってイオンがTOFMS36′内で見失われるようになったり,またTOFMS36′の質量分解能が逆効果を受けたりし易い。 【0046】背景技術の項において前述したグーブレモントらのシステムに伴う同じ問題である,TOFMS36′の垂直でない配置状態に伴う前述の問題に対応するために,装置150にはIMS34のイオンの出口開口84と,グリッドないしプレート86′と94との間に形成された空間との間で動作するように配置されたイオントラップ152が設けられている ・・・。 【0050】装置150の動作時に,IMS34はイオン移動度の関数として時間的に分離されたイオンパケットをイオン出口開口84を介してTOFMS36′に与えるように動作可能である。コンピュータ38はイオントラップ152における種々のイオンパケットを1度に1つずつ収集し各々の収集されたそこから周期的な時間間隔で排出するように制御する。排出されたイオンは上述したようにグリッドないしプレート86′と94との間に形成された空間内に入り,コンピュータ38はイオン排出結果のタイミングに基づいてパルス状のイオン引出し電界を加えるのに適切な時間を計算することができる。その後にTOFMS36′は上述したように質量スペクトル情報を与えるように動作可能である ・・・。 【0065】ここで図9を参照すると ・・・本発明によるイオン移動度及び質量分析装置3 ,00の1つの好ましい実施例が示されている。装置300のいくつかの部分は図4及び5に関して図示及び説明したのと同じであり,したがってその構造及び動作の詳細はここでは簡略にするために省略されよう ・・・この実施例において,IM 。 S34のドリフト管軸(図9には示されていない)及びTOFMS36の飛行管軸(図9には示されていない)は相互に対して所望の角度をなして配置されよう。TOFMS36に対するIMS34の直角でない配置形態(すなわち図4に示されるのとは異なる形態)では,TOFMS36のイオン加速領域(グリッド86,94及び102の間の)が連続的に作動し,あるいはパルス状になっている場合に,上述したようにイオントラップ152(図5参照)は必要とされないことが実験により判定されている。言い換えると,TOFMS36のイオン加速領域が自由動作モードで連続的なパルス状になっていれば,タイミングのためにイオントラップ152にイオンが収集される必要がない。したがって,TOFMSの飛行管軸に対するIMSのドリフト管軸のいずれの垂直方向あるいは垂直でない方向の配置形態のものからもイオントラップ152が省略されるが,本発明では,トラップ152がTOFMSの入口36に近接して配置されるような所望の形態において,このようなイオントラップ152が任意に用いられることを考えている ・・・。 【0068】これまで図9に関して説明した装置300の部分は図4及び5の装置30及び/または150の前述した部分と同じである。しかしながら,装置30及び150とは異なって,装置300はさらにIMS34のイオン出口に連結されたイオン入口と公知の構成の衝突セル304のイオン入口に接続されたイオン出口とを有する4極子質量フィルター302を含む ・・・。 【0073】・・・QMF302は帯域フィルターとして作用し,m/zの値の通過帯域はRF電圧供給源3201の動作強度及び周波数を制御しDC電圧供給源3202の動作強度を制御することによりコンピュータ310によって制御される。本発明の重要な面によれば,コンピュータ310は,ある動作条件において,以下により詳細に説明するように,IMF34から衝突セル304に通過するイオンのm/zの値を制御するように動作可能である ・・・。 【0075】ここで図13を参照すると,本発明による,図9に示される装置300を用いて順序規定を行うためのための工程400を示す1つの好(判決注:本願明細書のママ)ましい実施例が示されている ・・・。 【0076】工程400はステップ406からステップ408に続き,ここでコンピュータ310はイオン源74を作動させそれによって適当な試料源からのイオンの発生を開始するように動作可能である。その後にステップ410において,制御コンピュータ310は所定の時間だけイオンゲート356(図10)にパルスを与えそれによって気塊状イオンを収集チャンバ354からIMS34に通過させ,上述したようにMS36のイオン加速領域に連続的にパルスを与えそれによってMS36を自由動作モードで動作させるように動作可能である ・・・工程400はステップ41 。 0からステップ412に続き,このステップで上述したようにイオンがIMS34及びMS36を通過することにより生ずるイオンドリフト時間(すなわちイオン移)() 。 動度 に対するイオン飛行時間 すなわちイオン質量 のスペクトルが観測される【0077】ここで図14A-14Dを参照すると,ステップ410及び412のグラフの例。 , が示されている 図14Aの信号450はイオンゲート356における電圧を表しここでコンピュータ310はステップ410においてゲート356にパルスを与えて所定の時間不作動状態にしそれによって気体イオン塊がIMS34に入るのを許容する動作可能である。図14Bの信号452はTOFMS36のイオン加速領域における電圧を表し,ここでコンピュータ310はステップ410においてイオン自由動作状態で加速領域にパルスを与えそれによってイオンまたはイオンの部分をイオン検出器に向かって周期的に加速するように動作可能である ・・・。 【0079】再び図13を参照すると,工程400はステップ412及びステップ414から続き,ここで工程400は現在の値Aを付された部分工程に向かう。工程400で最初の時にA=1であり,工程400はステップ416にジャンプする ・・・ 。 【0080】ここで図15A-15Dを参照すると,ステップ422及びステップ408,410及び412による第2の過程が示されている。イオンゲート信号450及びTOFMS信号452は図14A及び14Bに示されるのと同じである・・・【0081】再び図13を参照すると,工程400はステップ412の2回目の実行からステップ414に進み,ここで工程400はカウント変数Aの最新の値を付した工程部。,, 。 分に向かう この場合 A=2であるので 工程400はステップ426に向かう・・・【0082】ここで図16A-16Dを参照すると,ステップ430と,ステップ408,410及び412の3回目の過程とが示されている。イオンゲート信号450及びTOFMS信号452は図14A及び14Bに示されるものと同じである・・・【0083】図面及びこれまでの説明で発明を図示及び説明したが,これは例示的なものであり,その特徴を制限するものではない。ただ好ましい実施例を図示及び説明したものであり,本発明の思想の範囲内にある全ての変形,変更が保護されることが望まれる ・・・」。 イ上記アによれば,本願明細書には,本願発明1の実施例として,次のことが記載されているものと認められる。 (ア)図4に示された,TOFMS36の飛行管軸128をIMS34のドリフト管軸72に対して垂直に配置した質量分析器30を用いてイオン質量スペクトル情報(図1)を測定する方法( 0026】〜【0043。 【】)この方法においては,イオンがIMS34に導かれた時間ごとに,反復的に連続的にパルス状のイオン引出し電界が与えられ,その一つの実施例において,イオン導入結果ごとにパルス状引出し電界が512回反復して与えられること【0043 。】(イ)図5に示された,IMS34のドリフト管軸72が,TOFMS36′の飛行管軸にもなるように配置され,IMS34のイオンの出口開口84とTOFMS36′のグリッドないしプレート86′と94との間に,イオントラップ152が設けられた,質量分析器の装置150を用いてイオン質量スペクトル情報を測定する方法( 0044】〜【0050。 【】)この方法においては,イオントラップ152が,1度に一つずつイオンパケットを収集し,周期的な時間間隔で排出するように制御され,イオン排出結果のタイミングに基づいて,パルス状のイオン引出し電界が与えられることが記載されており【0050 ,そして 「IMS34の基本的動作についての議論は簡略化のため繰 】,り返さない【0044】との記載を考慮すると,上記アの実施例と同様に,パル 。」ス状のイオン引出し電界が反復的に連続的に与えられるものと認められること。 (ウ)図9に示された,TOFMS36に対してIMS34が直角でない形態で配置され,IMS34のイオン出口とTOFMS36との間に4極子質量フィルター302及び衝突セル304が設けられた質量分析器300を用いてイオン質量スペクトル情報を測定する方法( 0065】〜【0082。 【】)この実施例を用いて順序規定を行うための工程の一つの好ましい実施例である図13のステップ410「イオンゲートにパルスを与え,TOFMSに連続的にパルスを与える」の例を示す図14ないし図16において,気体イオン塊がIMS34に入るのを許容する信号450(図14A,図15A及び図16A)のパルスを与えると同時に,TOFMS36のイオン加速領域に電圧を与える信号452(図1,) 。 4B 図15B及び図16B のパルスが繰り返し生じる様子が示されていることウ以上によれば,上記実施例においては,イオンの導入と同時に,パルス状の電圧を反復して連続的に質量分析器に与えているということができる。 しかし,上記イ(ウ)の実施例に関して 「TOFMS36のイオン加速領域が自 ,由動作モードで連続的なパルス状になっていれば,タイミングのためにイオントラップ152にイオンが収集される必要がない【0065「ステップ410にお 。」】,いて,制御コンピュータ310は所定の時間だけイオンゲート356(図10)にパルスを与えそれによって気塊状イオンを収集チャンバ354からIMS34に通過させ,上述したようにMS36のイオン加速領域に連続的にパルスを与えそれに。」【】 よってMS36を自由動作モードで動作させるように動作可能である0076との記載があるが,そもそも「自由動作モード」とはどのように動作することを意味するのかについて本願明細書には説明されていない。そうすると 「自由動作モ ,ード」につき,ステップ410の例として挙げられた,図14ないし図16に示される,気体イオン塊がIMS34に入るのを許容する信号450のパルスを与えると同時に,TOFMS36のイオン加速領域に電圧を与える動作を意味するものということはできず,まして,自由動作モードであることすら特定されない本願発明1の「質量分析器を連続的に動作させること」が 「質量分析器であるTOFMS ,36のイオン加速領域に,イオンの導入と質量分析器の動作とのタイミングを計ることなく,イオンの導入と同時に,一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく質量分析器に与え続ける」ことを意味するものであるということはできない。 さらに,上記イ(ア)ないし(ウ)のいずれの実施例も,パルス状の電圧が反復して連続的に質量分析器に与えられ,それによってイオン質量スペクトル情報を測定するものである上 「図面及びこれまでの説明で発明を図示及び説明したが,これは ,例示的なものであり,その特徴を制限するものではない【0083】との記載が 。」,「 」 あることからすれば 本願発明1における 質量分析器を連続的に動作させることとは,前記イ(ウ)の実施例に限定されるものではなく,少なくとも,前記イ(ア)ないし(ウ)のいずれの実施例のパルス状の電圧の付与をも含むものと解さざるを得ない。 エ以上によれば,本願発明1の実施例の一つである図9に示された質量分析装置300を用いた工程の一例にすぎない,図13及び図14ないし16を根拠として,本願発明1の「質量分析器を連続的に動作させること」について 「質量分析 ,器であるTOFMS36のイオン加速領域に,イオンの導入と質量分析器の動作とのタイミングを計ることなく,イオンの導入と同時に,一定間隔のパルス状に電圧を途切れることなく質量分析器に与え続ける」ものと限定して解することはできない。 (3)したがって,本願明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌したとしても,本件発明1における「質量分析器を連続的に動作させる」の技術的意義及び時期についての原告の主張は,いずれも採用できない。 2本願発明1と刊行物1発明との相違について(1)刊行物1発明(甲3,4)の内容は,前記第2の3(2)アで審決が認定するとおりである(当事者間にも争いはない。。)(2)刊行物1(甲3,4)には,以下の記載がある。 「図4を参照すると,ここには本件発明によるハイブリッドイオン移動度及び浮遊時間(以下,タイム-オブ-フライト型と呼ぶ)質量分析計装置30についてのある好ましい実施例が示されている。この装置30は,その基本的な要素として,イオン移動度分析器34へ接続しているイオンソースリジョン即ちイオン源領域32を有している。ここで,イオン移動度分析器34自体はマススペクトロメータ即ち質量分析器36へ接続している。当該質量分析装置30の少なくともいくつかの部分を制御しかつ該質量分析器36からのイオン情報を集積するためにコンピュータ38が設けられている(甲4の52頁16〜23行) 。」「イオン移動度分析器(IMS)34はドリフトチューブ40を有している。このドリフトチューブ40は当該ドリフトチューブ40のイオン出口端部44の付近に配置されているガス開口42を有している ・・・ドリフトチューブ40のイオ 。 ン出口端部44はそこへ取り付けられた端部板43を有しており,この端部板43。」() はそこを通る出口開口即ちイオン孔45を画定している同53頁11〜18行「ドリフトチューブ40は更にハウジング70によって包囲されており,該ハウジング70はイオン入口端部を覆っている管端部66を画定しており,該管端部66はそこを通っている入口開口即ちイオン孔68と,端部板43に近接したイオンの出口開口即ち孔84と,を画定している ・・・イオン導入用のドリフトチュー 。 ブ40は上述したように個々の移動度の関数として調時的に分断し,かつ連続的に出口開口84を介してTOFMS36の方へ指向される(同54頁下から3行〜 。」55頁10行)「TOFMS36は,望ましくは,IMS34に取り付けられたハウジング126によって囲まれる。TOFMS36は,第1の導電性グリッドまたはプレート86を備えている ・・・グリッドまたはプレート86,94および102は,当業 。 界で知られているように,互いの間に第1および第2のイオン加速領域を画成する(同55頁下から9行〜56頁4行) 。」「図4に示した装置30において,TOFMS36は,望ましくは,IMS34に対して,フライトチューブ軸線128がドリフトチューブ軸線72に対して垂直になるように配置される。さらに,TOFMS36は,望ましくは,IMS34に対して,ドリフトチューブ軸線72およびフライトチューブ軸線128が,グリッドまたはプレート86および94間に画成された第1のイオン加速領域内で二つに分かれるように,位置づけられる。別の配置構成のTOFMS36においては,グリッドまたはプレート94は省略され,したがって,TOFMS36は,グリッドまたはプレート86および102間に画成されたイオン加速領域内でドリフトチューブ軸線72がフライトチューブ軸線128を二分するように,IMS34に対して位置づけられる必要がある。いずれの場合においても,TOFMSは,望ましくは,IMS34に対して,関連範囲内でドリフトチューブ軸線72がフライトチューブ軸線128をほぼ中央で二分するように,位置づけられる(同57頁4〜1。」6行)「公知のIMS34操作に従って,IMSの入口開口68に入るイオンは,IMSの出口開口84に向かってドリフトチューブ40を通って移動する。このとき,,,。 , イオンは 個々の移動度に従って やがて分離する 低い移動度を有するイオンは比較的高い移動度を有するイオンから遅れるが,このとき,イオン移動度は,イオンの衝突断面積に大きく依存する。結局,よりコンパクトなイオンが,拡散イオン。」( ) よりも早くIMSの出口開口84に到達する同57頁下から4行〜58頁2行「TOFM 36は,ゼロ電界フライ(判決注: TOFMS」の誤記と認められる ) 「 。 トチューブ110の方へグリッド即ちプレート86,94の間に規定された空間からイオンを加速するように操作できる。イオンは個々の質量に応じてやがて分離する。一般に質量の小さなイオンは質量の大きなイオンよりも素早く検出器116に。, , 到達する 検出器116は そこにイオンが到着した時間を検出するように作動し単一経路124を介してコンピュータ38に対応する信号を送る(同58頁6〜。」11行)「グリッド即ちプレート86,94間で規定された空間内のイオンは,グリッド即ちプレート94,102間で規定された空間に,パルスイオンの引き出された電界により加速される ・・・フライトチューブ110はそこに関連した電界を有さ 。 ず,イオンはグリッド即ちプレート102から検出器116の方へ流れ,イオンは上述したように個々の質量の関数としてやがて分離する(同59頁2〜14行) 。」「好ましくは,コンピュータ38は上述したように,イオン源74からのイオン(「」。) の発生を制御し コンピュータ38 , 判決注: コンピュータ38は の誤記と思われるIMS34内にイオンが導入される時間を記憶する。これを以後,イオン導入事象と呼ぶ。コンピュータ38は電圧源88,96を制御するように作動し,何回かの各イオン導入事象で,パルス化されたイオン引き出し電界を提供する。一実施例において,パルス化されたイオン引き出し電界は,イオン導入事象ごとに512回繰り返して提供された。当業者は,各イオン導入事象で提供されたパルスイオン引き出し電界の数が質量分析装置30の最終分解能に直接比例するということがわかるであろう。このパルス操作がIMS34に対するTOFMS36の垂直位置決めに幾分有利であるから,そのような配置は,イオンパケットの全てまたは一部が処理されていないTOFMS36を介して移動する,という可能性を最小にする。グリッド即ちプレート86,94に対するイオンパケットの移動の方向により,及びイオン引き出し電界のパルス特性により,TOFMS36は,それらがドリフトチューブ軸線72に沿って移動する時,各イオンパケットを検出器116の方へ加速する複数の機会を持つ。そのように,装置30は検出器116に最大イオンスループットを提供するようになっている(同60頁13行〜末行) 。」(3)上記(1)及び(2)によれば,質量分析器のイオン引き出し電界を512回繰り返してパルス動作させるという仕方で質量分析器を動作させることによって,イオンサブパケットの少なくとも一部を処理して質量スペクトル情報を測定する刊行,( 。), 物1発明は 刊行物1の図4 本願明細書の図4と同一内容であるに示されたTOFMS36の飛行管軸128をIMS34のドリフト管軸72に対して垂直に配置した質量分析器30を用いてイオン質量スペクトル情報を測定する方法であって,イオン導入事象ごとに質量分析器のイオン引き出し電界を512回繰り返してパルス動作させるものであることが認められ,これは,前記1(2)イ(ア)の本願発明1の実施例と何ら差異がないといえる。 そして,前記1(2)のとおり,本願発明1における「質量分析器を連続的に動作させること」が,前記1(2)イ(ア)の実施例のパルス状の電圧の付与をも含むものである以上,質量分析器30を用いてイオン引き出し電界を512回繰り返してパルス動作させるという仕方で質量分析器を動作させる刊行物1発明も,本願発明1における「質量分析器を連続的に動作させること」との要件を備えるものであるといえる。 したがって 「相違点2は単なる表現上の相違に過ぎず,実質的には,両発明に ,おいて同一の技術内容である」との審決の判断(8頁23,24行)に誤りはないといえる。 (4)なお,原告は,本願発明1も刊行物1発明も,いずれも米国原出願を基礎とするものであるところ,本願明細書は,刊行物1には開示されていない新規な事項が記載されており,本願発明は,本願明細書において新たに追加された事項に関するものであるから,本願発明1が刊行物1の発明を含むものと理解すべきでないこと,上記追加部分に開示された技術内容に基づき,刊行物1の発明との異同を判断すべきであることを主張する。 しかしながら,本願発明が米国原出願の部分継続出願であるとしても,米国原出願に対して追加された内容に基づいて本願発明を理解すべきとする法律上の根拠は存在せず,原告の上記主張は独自の見解をいうものであって,採用できない。 本願発明1は,原則として請求項1の記載によって理解されるべきものであるところ,これによれば,本願発明1が,図9に示された実施例に限定されるものでないことは,前記1で検討したとおりである。 したがって,原告の上記主張は,失当である。 3本願発明1と刊行物1発明との効果の相違について(1)上記2(3)のとおり,刊行物1発明は,本願明細書図4に示された,TOFMS36の飛行管軸128をIMS34のドリフト管軸72に対して垂直に配置した質量分析器30を用いてイオン質量スペクトル情報(図1)を測定する方法である実施例(前記1(2)イ(ア))と何ら差異はなく,本願発明1における「質量分析器を連続的に動作させること」との要件を備えるものであって,相違点2について,刊行物1発明が本願発明1と実質的に相違するといえないものである。 そうである以上,相違点2に係る本願発明1の構成により,刊行物1発明と異なる効果を奏するものということはできない。 (2)本願明細書【0065】には,前記1(2)イ(ウ)の実施例(本願図9の実施例)に関する説明として 「TOFMS36のイオン加速領域が自由動作モードで ,連続的なパルス状になっていれば,タイミングのためにイオントラップ152にイオンが収集される必要がない。したがって,TOFMSの飛行管軸に対するIMSのドリフト管軸のいずれの垂直方向あるいは垂直でない方向の配置形態のものからもイオントラップ152が省略される」との記載に続けて 「本発明では,トラッ ,プ152がTOFMSの入口36に近接して配置されるような所望の形態において,このようなイオントラップ152が任意に用いられることを考えている 」と。 の記載がある。 上記記載によれば,図9の実施例の説明として,TOFMSの飛行管軸に対するIMSのドリフト管軸が垂直でない方向の配置形態のものからもイオントラップ152が省略されるが,イオントラップ152が任意に用いられるとされているのであって,イオントラップ152を用いない場合,用いる場合の双方があり得ることが明らかである。 そして,前記1(2)のとおり,本願発明1は,前記1(2)イ(ア)ないし(ウ)のいずれの実施例をも含むものであって,イオントラップが用いられていないTOFMS36に対してIMS34が直角に配置された前記1(2)イ(ア)の実施例(本願明細書図4)とともに,イオントラップ152を用いるIMS34のドリフト管軸72がTOFMS36′の飛行管軸にもなるように配置された前記1(2)イ(イ)の実施例(本願明細書図5)も含むものである。 そもそも,本願発明1はイオン加速領域へのイオンパケットの進入のタイミングに合わせることなく「質量分析器を連続的に動作させる」という方法を採ったものである,との原告主張が失当であることは,前記1で検討したとおりであり,請求, , 項1では IMS34に対するTOFMS36の配置方向は特定されていないから本願明細書【0065】の上記記載は,特定の実施例において,イオントラップ152を省略できることをいうにすぎないものであって,本願発明1が,イオントラップを必要としたIMSのドリフト管軸とTOFMSの飛行管軸が直交していない構造において,イオントラップを不要とする効果を生じるものということはできない。 本願発明1が上記効果について記載することを前提として,刊行物1発明との相違をいう,原告の主張は採用できない。 4結論以上によれば,審決が,本件発明1と刊行物1発明との相違点2について,実質的には,両発明において同一の技術内容であると判断したことに誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 田中孝一 |