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関連審決 異議2001-73432
関連ワード 発明者 /  有用性 /  進歩性(29条2項) /  29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  同一の発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  着想 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  実施 /  構成要件 /  同意 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  釈明 /  取消決定 /  国際公開 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 107号 特許取消決定取消請求事件
原告 株式会社日本スペリア社
原告 松下電器産業株式会社
原告ら訴訟代理人弁理士 濱田俊明
被告 特許庁長官小川 洋
指定代理人 鈴木久雄
同 藤井俊明
同 高橋泰史
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/09
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告ら (1) 特許庁が異議2001-73432号事件について平成15年2月6日にした決定中「特許第3221670号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。」との部分を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告らは,発明の名称を「ディップはんだ槽の銅濃度制御方法」とする特許第3221670号の特許(平成12年2月24日出願(以下「本件出願」という。),平成13年8月17日設定登録。以下「本件特許」という。請求項の数は,後記本件訂正により7となった。)の特許権者である。
本件特許に対し,すべての請求項につき特許異議の申立てがされ,特許庁は,これを異議2001-73432号事件として審理した。原告らは,審理の過程で,平成14年11月26日,特許請求の範囲の訂正を請求した(以下,この請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正による訂正後の明細書を,「本件明細書」という。)。特許庁は,審理の結果,平成15年2月6日,本件訂正を認めた上で,「特許第3221670号の請求項1ないし7に係る特許を取り消す。」との決定をし,同月24日,その謄本を原告らに送達した。
2 本件訂正による訂正後の特許請求の範囲 (1) 請求項1 銅箔を有するプリント基板,または/および銅リード線を有する実装部品のディップはんだ付け工程において,錫,銅,ニッケルを必須成分とする第1のはんだ合金を溶融した槽中はんだの銅濃度が前記プリント基板の銅箔,または/および実装部品の銅リード線の銅成分が溶融混入することにより上昇したとき,錫,ニッケルを主成分とする第2のはんだ合金からなる補給はんだをはんだ槽に投入し,槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制するディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
(2) 請求項2 銅箔を有するプリント基板,または/および銅リード線を有する実装部品のディップはんだ付け工程において,錫,銅,ニッケルを必須成分とする第1のはんだ合金を溶融した槽中はんだの銅濃度が前記プリント基板の銅箔,または/および実装部品の銅リード線の銅成分が溶融混入することにより上昇したとき,前記第1のはんだ合金と主成分が同一であって前記第1のはんだ合金の銅濃度よりも低い銅濃度の第3のはんだ合金からなる補給はんだをはんだ槽に投入し,槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制するディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
(3) 請求項3 補給はんだは,槽中はんだの液面が所定高さに低下すれば投入される請求項1〜2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
(4) 請求項4 補給はんだは,一定のプリント基板の処理枚数ごとにはんだ槽に投入する請求項1〜2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
(5) 請求項5 槽中はんだの銅濃度は,槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御する請求項1〜2のいずれか記載のディップはんだ槽の銅濃度制御方法。
(6) 請求項6 請求項1〜5のいずれかの方法におけるディップはんだ槽を介して得られたはんだ継手を組み込んだ電気・電子装置。
(7) 請求項7 予め溶融した錫,銅,ニッケルを主成分とする槽中はんだに投入する補給はんだであって,この補給はんだは錫,ニッケルを主成分とすることを特徴とした補給はんだ。
(以下,順に「本件発明1」,「本件発明2」,・・・「本件発明7」といい,全部を併せて「本件発明」ともいう。) 3 決定の理由 別紙決定書の写しのとおりである。要するに,本件発明1ないし7は,本件出願前の他の出願(以下「先願」という。)であって,本件出願後に出願公開された特願2000-25859号(特開2001-217531号)の願書に最初に添付した明細書(以下「先願明細書」という。)に記載された発明と実質的に同一であるから,本件特許は特許法29条の2に違反してなされたものである,とするものである。
4 決定が認定した,先願明細書に記載された発明の内容 (1) 銅箔を有するプリント基板,または/および銅リード線を有する電子部品を浸漬法によりはんだ付けする工程において,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金を溶融した槽中はんだのCu濃度が前記プリント基板の銅箔,または/および電子部品の銅リード線のCu成分が溶融混入することにより上昇したとき,Sn-Niを主成分とするはんだ合金からなる補給はんだをはんだ槽に供給し,Cu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する浸漬はんだ槽のCu濃度調整方法 (2) 銅箔を有するプリント基板,または/および銅リード線を有する電子部品を浸漬法によりはんだ付けする工程において,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金を溶融した槽中はんだのCu濃度が前記プリント基板の銅箔,または/および電子部品の銅リード線のCu成分が溶融混入することにより上昇したとき,前記Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金と主成分が同一であって前記Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金のCu含有量よりもCu成分が少ない合金からなる補給はんだをはんだ槽に供給し,Cu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する浸漬はんだ槽のCu濃度調整方法 (以下,決定と同じく,(1)の発明を「先願第1発明」,(2)の発明を「先願第2発明」といい,両者を併せて「先願明細書に記載された発明」という。)
原告らの主張
決定は,先願明細書に記載された発明の認定を誤り,その結果,それらと本件発明1ないし7との同一性の判断を誤ったものであり,違法として取り消されるべきである。
1 請求項1についての取消事由(本件発明1と先願第1発明との同一性の判断の誤り) (1) 決定は,「先願明細書には,Cu含有鉛フリーはんだとして,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金が実質的に記載されている」と認定している。
しかし,この認定は誤りである。
ア 確かに,先願明細書の請求項2には,「Cu含有鉛フリーはんだは,Sn-Cu合金,或いはSn-Cu合金にAg,Bi,In,Sb,Zn,Ni,P,Ge,Ga等が一種以上添加された合金である」との記載がある。
しかし,合金とは,複数の金属を単に組み合わせただけのものではなく,複数の金属を均一に拡散したりすることによって,それぞれの金属単体では発揮しえない特性を生み出すものであるから,合金の発明は,実験及びそれに続いて行われる効果の検証に基づいて有効な金属及びその配分率を特定することによって初めて完成されるものである。したがって,添加金属として可能性がある金属を単に列挙しただけでは,完成した発明を開示したものということはできない。特に,本件のように合金がはんだ合金であり,鉛を含有しないことを前提とする場合には,添加することができる可能性のある金属はきわめて限られたものになる。
ところが,先願明細書には,実施例として,鉛フリーはんだのCuの濃度を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整した例が開示されているものの,これは,請求項1及び2に記載された発明のうち,Sn-CuあるいはSn-Cu-Ag鉛フリーはんだに対し,Sn-Ag,Sn-Cu-Agあるいは単体のSnを追加供給した場合の検証のみであり,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金に関する記載はない。
また,先願明細書の【発明の詳細な説明】において,Sn-Cu合金及びSn-Cu-Ag合金以外の合金について言及されている部分,すなわち,「鉛フリーはんだとは,Snを主成分とし,これにCu,Ag,Bi,In,Ni,Zn,P,Ge,Ga等を適宜添加したものである。」(段落【0006】),「本発明に適応するCuが含まれた鉛フリーはんだとは,Sn-Cuの二元合金,或いはSn-Cu合金にAg,Bi,In,Sb,Zn,Ni,P,Ge,Ga等が一種以上添加された三元以上の合金である。」(段落【0021】)との記載も,一般的な鉛フリーはんだ及びこれに添加金属として可能性がある金属を単に列挙したものに過ぎず,請求項2の記載を超えるものではない。
以上のように,本願明細書においては,Sn-Cu合金及びSn-Cu-Ag合金以外の合金について,単に請求項2に元素を列挙しただけで,実験に基づく十分な裏付けが行われていないのであり,単に添加金属として可能性がある金属を列挙しただけでは,完成した発明が開示されているということはできない。したがって,先願明細書には,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金について実質的に記載されているとはいえない。
イ 被告は,国際公開第99/48639号パンフレット(1999年国際公開。乙第1号証,以下「乙1文献」という。)及び特開平11-277290号公報(乙第2号証,以下「乙2文献」という。)を根拠として,先願の出願時において,Cu含有鉛フリーはんだとして,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金は既に知られていたと主張する。
しかし,乙1文献は,原告株式会社日本スペリア社の出願に係るものであり,乙2文献は,乙1文献の発明とほとんど時を同じくして出願され,公開されたものであるから,これらをもってSn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金が先願の出願時には技術的常識であったことの証明にはならない。むしろ,はんだ合金においてCuを積極的に含有させることは,はんだ技術者においては非常識であったというのが,この分野における以前の理解であり,はんだの分野においては,いまだにSn-Cu-Ni合金の有用性を疑問視する企業も複数存在するのが現状であって,乙1文献及び乙2文献の存在のみをもって技術常識になっていたとするのは失当である。
(2) 決定は,「先願第1発明の「Cu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する」ことは,・・・本件特許の請求項1に係る発明の「槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制する」ことに実質的に相当」すると判断している。
しかし,本件発明1では,銅濃度が所定の数値を超えた場合にはディップはんだ付けが良好ではなくなるので,この数値を超えない銅濃度に抑制することを重要な要件としているのに対し,先願第1発明の「Cu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整する」とは,先願明細書の実施例1及び2から明らかなとおり,当初のはんだの銅濃度を超えた数値に調整しているのであって,その調整精度は緻密なものではない。先願明細書には,銅濃度を一定濃度以下に抑制することは開示されていないのであり,「略同等に調整する」ことと「一定濃度以下に抑制する」ことが技術的に同一であるとした決定の判断は誤りである。
(3) なお,先願明細書に示された実施例は,以下のとおり,実現可能性に疑問がある。
実施例1について,@Cu濃度0.75質量%の初期のはんだ量が500kg,Aテレビ用プリント基板512枚はんだ付けした後,液面が5mm下がったこと,Bその時のCu濃度が0.90質量%であったこと,Cその後はんだ槽にSn-3.5Agの合金を追加供給して,はんだ槽内のCuの含有量が0.76質量%となっていたことに基づいて計算すると,はんだ槽の深さは32mmという結果が導き出される。しかし,このような浅いはんだ槽においてディップはんだ付け(浸漬法)を行うことは実質的に不可能であるから,実施例1は非現実的で達成不可能な技術である。
このように,先願明細書に示された実施例は,単なる着想であって,その開示された発明は未完成発明であり,発明の実質的な開示ということはできない。
イ 被告は,先願の出願人である千住金属工業株式会社の回答書(乙第5号証,以下「乙5回答書」という。)を提出して,実施例1〜3は,その内容に格別の疑問はないと主張する。しかしながら,乙5回答書の内容は先願明細書に記載された範囲のものではない。また,乙5回答書では,はんだ槽の深さを28cmと算出しているが,実験装置(40cm×60cm)を用いたとの説明が加えられており,このような小さい装置は,先願明細書の実施例1及び3における「大型のはんだ槽中に・・・鉛フリーはんだを500kg入れておく。」との記載と食い違うものであって,このような乙5回答書の釈明は不自然である。いずれにせよ,先願明細書の記載が不備であることは明らかであり,乙5回答書の内容を参考にして実施例が初めて理解できるのであれば,先願明細書に先願第1発明及び先願第2発明が開示されていたということは到底できない。
2 請求項2についての取消事由(本件発明2と先願第2発明との同一性の判断の誤り) 決定は,先願第2発明の特定に際し,本件発明2の記載,例えば「実装部品」を「電子部品」,「錫,銅,ニッケル」を「Sn-Cu-Ni」と置き換えただけで,重要な要素はそのまま本件発明2の記載を借用して,両発明が同一であるという結論を誘導している。しかも,先願明細書に補給はんだという概念は示されていないにもかかわらず,そのような記載が存在するかのように特定している。
また,本件発明1について主張したように,先願明細書には,Niを含むはんだに関する技術は実質的に記載されておらず,「槽中はんだの銅濃度を希釈させて前記槽中はんだの銅濃度を一定濃度以下に抑制する」という技術についても記載されていない。したがって,本件発明1と同様に,本件発明2は先願第2発明と同一発明であるとすることはできない。
3 請求項3についての取消事由(本件発明3と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り) 本件発明3は,本件発明1又は2に従属するものであるから,先願明細書に記載された発明と同一の発明ではないことは明らかである。
4 請求項4についての取消事由(本件発明4と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り) 本件発明4は,本件発明1又は2に従属するものであるから,先願明細書に記載された発明と同一の発明ではないことは明らかである。
5 請求項5についての取消事由(本件発明5と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り) (1) 決定は,本件発明5についての判断において,「先願明細書に記載された発明においても,実施例1(上記摘記事項ク)及び実施例2(上記摘記事項ケ)からみて,「槽中はんだの銅濃度を,0.85重量%未満に制御」していると認められ,また,先願明細書に記載の上記実施例1及び実施例2は,槽中はんだがSn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金である場合にも,本件特許の請求項5に係る発明と同様の「槽中はんだの銅濃度を,槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御」することを示唆するものである。」(決定書8頁)と判断している。
しかし,先願明細書には,槽中はんだ温度を255℃前後に制御するという記載は全く存在しない。そもそも,はんだ付け温度を何度に設定するかということは,非常に重要な要素であって,数度違えばはんだ付け精度が全く異なってしまうというのは,当業者にとって自明の事項である。そして,一般的に「示唆」とは,記載されていないけれども,当業者がその記載から容易にその技術を推測することができることを意味するものであり,まさに進歩性の判断に適用される概念である。決定は,本件発明5について,先願明細書に基づいて進歩性の判断を行いながら,特許法29条の2を適用しようとしたものであり,法律適用に明らかな違法がある。
(2) 被告は,先願明細書の実施例1及び2の記載(Sn-Cu-Ag合金についての記載)を引用しているが,これは妥当でない。
合金の場合,その成分である各金属はそれぞれ固有の融点を持っており,銀とニッケルもその融点が異なり,さらに,組成が異なれば異なった化合物になることは常識であるから,Sn-Cu-Ag合金とSn-Cu-Ni合金とでは,最適なはんだ付け温度や濃度が異なることは当然である。したがって,Sn-Cu-Ag合金のはんだ付け温度や濃度をSn-Cu-Ni合金に適用することは意味がない。
被告は,乙1文献の表1を引用して,Sn-Cu-Ni合金の融点が231℃〜245℃であるとも主張するが,このうち245℃のサンプルは銅が2%入ったものであり,本件発明の組成範囲には入らない。また,この知見を本件発明に当てはめるとすれば,液相温度は231〜236℃ということになって,255℃前後という条件は出てこない。
また,決定が本件発明5を取り消した理由は,本件発明5は先願明細書に記載された発明と同一であるというものであるから,この同一性の判断において,乙1文献の内容を考慮することは違法である。
6 請求項6についての取消事由(本件発明6と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り) 本件発明6は,本件発明1ないし5に従属するものであるから,本件発明1ないし5についてと同様に,先願明細書に記載された発明と同一ではない。
7 請求項7についての取消事由(本件発明7と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り) 決定は,「先願明細書の【特許請求の範囲】の【請求項2】には,「前記Cu含有鉛フリーはんだは,・・・Sn-Cu合金に・・・Ni・・・等が一種以上添加された合金であることを特徴とする請求項1記載の鉛フリーはんだの成分調整方法。」(上記摘記事項イ)と記載されており,また,先願の出願時において,Sn-Cu-Niを主成分とするはんだ合金は既に知られていることから(例えば,国際公開第99/48639号パンフレット(1999),特開平11-277290号公報,参照),先願明細書には,Sn-Cu-Niを主成分とする槽中はんだが実質的に記載されていると認められる。」(決定書8頁)と判断している。
しかし,先願の出願時において,Sn-Cu-Niを主成分とするはんだ合金が既に知られていることを理由として,先願明細書にSn-Cu-Niを主成分とする槽中はんだが実質的に記載されているとする判断は,類推解釈を経たものであり,不当である。また,前記のとおり,先願明細書にはNiを添加金属とするものが記載されていないから,本件発明7が先願明細書に記載された発明と同一であるとする決定の判断は誤りである。
被告の主張
1 請求項1についての取消事由(本件発明1と先願第1発明との同一性の判断の誤り)に対して (1) 先願明細書には,Sn-Cu-Niの合金からなる鉛フリーはんだに関する発明も開示されている。
ア 先願明細書には,実施例1ないし3として,Sn-Cu合金あるいはSn-Cu-Ag合金に関するものが記載されているだけであるが,通常,明細書には実施例として発明の代表例が示されるものであるから,先願明細書に記載された発明は,その実施例のみに限定されるものではなく,先願明細書全体の記載及び先願の出願時における技術常識参酌することにより認定すべきものである。
イ そして,先願明細書の請求項2には,「前記Cu含有鉛フリーはんだは,・・・Sn-Cu合金に・・・Ni・・・等が一種以上添加された合金であること」と記載され,また,段落【0006】及び【0021】にも同様な記載があるから,先願明細書に,「Cu含有鉛フリーはんだは,Sn-Cu合金にNiが添加された合金であること」が記載されていることは明らかである。
ウ また,乙1文献には,無鉛はんだ合金のサンプル1〜9として,Sn,Cu,Niを必須成分とするはんだ合金が記載され(7頁の表1),当該無鉛はんだ合金をはんだ槽中のはんだに利用できる旨も記載されており(9頁),また,乙2文献には,鉛フリーはんだの実施例1ないし3として,Sn,Ni,Cuを必須成分とする半田が記載され(5頁の表1),当該鉛フリーはんだを浸漬はんだ付けのはんだに利用できる旨も記載されている(3頁4欄)。
このように,先願の出願時において,Cu含有鉛フリーはんだとして,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金は既に知られており,また,当該はんだ合金を,浸漬法のはんだ槽中のはんだとして用いることも既に知られていたから,先願明細書の上記請求項2の記載は,添加金属として可能性がある金属を単に列挙しただけではなく,Cu含有鉛フリーはんだとして,既に知られている組成の一種を記載したものというべきである。
以上のとおり,先願明細書にCu含有鉛フリーはんだとして,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金が実質的に記載されているとした決定の認定に,誤りはない。
(2) 本件発明1では,銅濃度を「一定濃度以下に抑制する」と規定されているのみで,その一定濃度が具体的な数値で規定されているわけではない。他方先願第1発明においても,「はんだ槽内のはんだに所定量以上のCuが混入しないはんだの供給方法を提供すること」を目的として,「Cu成分を・・・略同等に調整する」のであるから,これが,本件発明1の「一定濃度以下に抑制する」ことと技術的に同一であることは明らかである。
(3) 先願明細書の実施例について,原告らが指摘するような実現可能性上の問題はない。
先願の出願人である千住金属工業株式会社に問い合わせたところ,同社は,乙5回答書のとおり,@実施例1の記載は,毎日の操業の実態を記載したものであり,一方,Cu含有量の0.75質量%→0.90質量%→0.76質量%という変化は,毎日の操業を長期間続けた結果を記載したものである,A実施例2及び3においても,上記実施例1と同様である,B実施例1で使用したはんだ槽は,その底面の大きさがほぼ40cm×60cmであったので,そのはんだ槽を単純な直方体として概略の深さを計算すると,500kgのはんだ浴の深さは,はんだの比重を7.4とすると,おおよそ28cmとなる旨回答した。
上記回答書の内容は,テレビ用プリント基板を512枚はんだ付けしただけで,Cu含有量が0.75質量%→0.90質量%に増加することは,技術常識からみて不自然であること,本件明細書の段落【0015】及び図1に記載の比較例においても,銅濃度(重量%)が0.5%から0.9%に増加するのは,約3万台のプリント基板を処理した場合であることなどに照らすと,妥当なものと考えられる。
そうすると,先願明細書の実施例の記載は,毎日の操業を長期間続けた結果の一部を省略した上で,毎日の操業の実態と併せて記載したために,溶融はんだの液面変動とCuの含有量の変化とが直接関連するとの誤解を招いたものである。
したがって,先願明細書に記載の実施例1ないし3は,その内容に格別の疑問はなく,発明を十分に開示したものである。
2 請求項2についての取消事由(本件発明2と先願第2発明との同一性の判断の誤り)に対して 請求項1についての取消事由と同様の理由により,決定の先願第2発明の認定に誤りはなく,また,同一性の判断にも誤りはない。
なお,先願明細書の記載における「追加供給するはんだ」が,「補給はんだ」という概念と同じであることは明らかである。
3 請求項3及び4についての取消事由(本件発明3及び4と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り)に対して 本件発明1及び2が先願第1発明及び先願第2発明と実質的に同一であることは上記のとおりであるから,本件発明3及び4も,先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるとした決定の判断に誤りはない。
4 請求項5についての取消事由(本件発明5と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り)に対して (1) 本件明細書(段落【0015】〜【0018】)には,比較例及び実施例1ないし3として,「255±2℃」ではんだ付作業する旨記載されている。しかし,実施例1ないし3には,「255℃前後」とすることの臨界的意義は記載されておらず,また,比較例においては,「255±2℃」としても,はんだ槽中のはんだの銅濃度が好ましくない程度にまで増加することが記載されているのであって,槽中はんだ温度を「255℃前後」とすることと,銅濃度を「0.85重量%未満」に制御することとの間に,直接的な関連があるとは認められない。
(2) 乙1文献の表1(7頁)には,Sn,Cu,Niを必須成分とするはんだ合金のサンプル1〜9の融点が231℃〜245℃であることが記載されており,また,同文献には,Cu0.6重量%,Ni0.1重量%,残部Snの合金について,ヌレ性試験を240℃,250℃,260℃及び270℃で行ったこと,食われ試験を260±2℃で溶解しているはんだ槽中で行ったことが記載されている(4頁〜6頁)。さらに,乙2文献には,Pbフリー半田(Sn,Ni,Cuを必須成分とする実施例1ないし3を含む。)について,260℃で溶融しているはんだに浸漬してはんだ付け時の電極残存面積率の測定を行ったこと,及び,260℃で溶融しているはんだに浸漬して接合強度の測定のための試験片を得たことが記載されている(3頁4欄〜4頁6欄)。なお,特開平11-226776号公報(乙第4号証)にも,合金組成Sn-2.5%Ag-0.5%Cuの試験試料1の酸化試験を,はんだ浴温度を250℃として行ったことが記載されている。
これらの記載から,錫,銅,ニッケルを必須成分とするはんだ合金で浸漬はんだ付けを行う場合に,通常使用される槽中はんだ温度は250℃〜260℃であると認められるところ,本件発明5においては,その通常使用される温度のうちの「255℃前後」を規定したものとするのが相当である。
(3) 他方,先願明細書において,Cu含有量を実施例1では0.76質量%,実施例2では0.80質量%にしたことは,本件発明5の,槽中はんだの銅濃度を「0.85重量%未満に制御する」ことに相当する。また,上記実施例1及び2において,槽中はんだ温度については記載されていないことは,それは,通常使用されている温度であって格別のものではないことを意味する。
そうすると,先願明細書の実施例1及び2には,Sn-Cu-Agの鉛フリーはんだで浸漬法によりはんだ付けする場合に,槽中はんだの銅濃度を,通常使用される槽中はんだ温度において「0.85重量%未満に制御する」ことが記載されていると認められるから,「255℃前後」において「0.85重量%未満に制御する」ことが示唆されていることは明らかである。
また,本件発明5と先願明細書の実施例1及び2に記載された発明とは,「槽中はんだ温度が255℃前後において」という限定の有無で一応相違するが,それは,上記のとおり,通常使用される槽中はんだ温度についての限定であり,実質的な相違とはいえないということもできる。
(4) したがって,本件発明5は,先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるとした決定の判断に誤りはない。
5 請求項6についての取消事由(本件発明6と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り)に対して 決定が,本件発明1ないし5は,先願明細書に記載された発明と実質的に同一であると判断したことに誤りはないから,本件発明6が先願明細書に記載された発明と実質的に同一であるとした判断にも誤りはない。
6 請求項7についての取消事由(本件発明7と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り)に対して 決定が,先願明細書に,Sn-Cu-Niを主成分とする槽中はんだが実質的に記載されていると認定したことに誤りはないから,本件発明7は,先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。
当裁判所の判断
1 請求項1についての取消事由(本件発明1と先願第1発明との同一性の判断の誤り)について (1) 先願明細書には次の記載がある(甲第4号証)。
ア「【請求項1】Cu含有鉛フリーはんだを入れたはんだ槽にはんだを追加供給する方法において,所定組成の鉛フリーはんだからCu成分だけを除去した合金,または所定組成の鉛フリーはんだのCu含有量よりもCu成分が少ない合金をはんだ槽に供給してCu成分を所定の鉛フリーはんだの成分と略同等に調整することを特徴とするはんだ槽へのはんだ追加供給方法。
【請求項2】前記Cu含有鉛フリーはんだは,Sn-Cu合金,或いはSn-Cu合金にAg,Bi,In,Sb,Zn,Ni,P,Ge,Ga等が一種以上添加された合金であることを特徴とする請求項1記載の鉛フリーはんだの成分調整方法。」(特許請求の範囲) イ「【0006】鉛フリーはんだとは,Snを主成分とし,これにCu,Ag,Bi,In,Ni,Zn,P,Ge,Ga等を適宜添加したものである。特に電子機器のはんだ付けにはSnにCuを少量添加したSn-Cu系の鉛フリーはんだが多く使用されている。Cuは,はんだの機械的特性を向上させるばかりでなく,ワークからのCuの溶出を防止する効果がある。Cuの溶出とは,多くのワークのはんだ付け部がはんだ付け性と電気伝導性に優れたCuであり,Cuのはんだ付け部が溶融したはんだに接触すると,溶融はんだ中にCuが溶け込んで,はんだ中のCu成分の含有量が多くなってしまうことである。
【0007】はんだ中のCu成分が必要以上に多くなり過ぎると,はんだ自体のはんだ付け性を阻害してはんだ付け不良を発生させる。またはんだ中に溶解度を越えてCu成分が増えるとSn・Cuの金属間化合物が析出し,液相線温度が高くなる。はんだの液相線温度の上昇は,必然的にはんだ付け温度も高くせざるを得なくなるため,ワークに熱損傷を与えるようになる。Cuのはんだ中への溶出を抑制するには,予めはんだ合金中にCuを少量添加しておくと,ワークが溶融はんだに接触したときにCuの溶出を少なくできることは分かっており,従来よりSn-Pbはんだでも,はんだ中に予めCuを添加してワークからのCuの溶出を抑えることがなされていた。」 ウ「【0014】・・・浸漬法によりCuが含有された鉛フリーはんだでCuのワークにはんだ付けした場合,はんだ中にCuが含有されていてもはんだ槽内のはんだに所定量以上のCuが増えて,前述のように融点の上昇やはんだ付け不良という問題が発生することがあった。本発明は,Cu含有鉛フリーはんだでCuのワークにはんだ付けを行なった場合,はんだ槽内のはんだに所定量以上のCuが混入しないはんだの供給方法を提供することにある。」 エ「【0015】・・・浸漬法では,はんだ付け時に溶融はんだがワークと接する時間は短いものであり,一つのワークから溶出されるCuはごく僅かである。しかしながら,一つのワークから溶出するCuの量が僅かであっても大量生産ではんだ付けされるワークの数が多いため,はんだ槽中のはんだに溶出するCuの量はトータルとして多くなってしまう。・・・」 オ「【0016】・・・はんだ槽中のはんだが多数のワークのはんだ付けでワークに付着して少なくなり,はんだの液面が下がってしまうと,溶融はんだが一定位置にあるワークに接することができなくなって,はんだの付着しない未はんだとなってしまう。」 カ「【0017】・・・はんだ槽では溶融はんだの液面を常に監視する液面センサーを設置しておき,はんだの量が少なくなって,はんだの液面が下がったときには液面センサーが警報を発するようになっている。この警報が発せられたならば,作業者や自動供給装置が棒状はんだやワイヤー状はんだをはんだ槽に供給して所定の液面を保つようにしている。」 キ「【0019】 【課題を解決するための手段】本発明者らは,多数のワークをはんだ槽中のワークに接触させるためにワークからCuが溶出してCuの含有量が増えるが,この増えたCuを所定のCu含有量に戻すことができればCuの異常増加による前述のような問題点を解決できるようになることに着目して本発明を完成させた。」 ク「【0021】 【発明の実施の形態】本発明に適応するCuが含まれた鉛フリーはんだとは,Sn-Cuの二元合金,或いはSn-Cu合金にAg,Bi,In,Sb,Zn,Ni,P,Ge,Ga等が一種以上添加された三元以上の合金である。また本発明で追加供給する合金としては,Sn-Cuの二元合金の場合,所謂二種以上の金属が溶け合わされた合金でなくSn単体でもよいし,或いは所定のSn-Cuの二元合金よりもCuの含有量の少ないSn-Cuの二元合金であってもよい。
【0022】 【実施例】(実施例1)大型のはんだ槽中に所定の成分としてSn-0.75Cu-3.5Agの鉛フリーはんだを500Kg入れておく。このはんだ槽で浸漬法によりテレビ用プリント基板を512枚はんだ付けしたところで液面センサーが作動し,警報が発せられた。このとき溶融はんだの液面は初期の位置から5mm下がり,はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.90質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSn-3.5Agの合金を初期と同じ液面になるまで追加供給した。そして Sn-3.5Agの合金を追加供給後のはんだ槽内のCuの含有量を測定したところ,Cuは0.76質量%となっており略所定の鉛フリーはんだに近い成分となっていた。
【0023】(実施例2)中型のはんだ槽中に所定の成分としてSn-0.75Cu-3.5Agの鉛フリーはんだを380Kg入れておく。このはんだ槽で浸漬法によりオーディオ用プリント基板を920枚はんだ付けしたところで液面センサーが作動し,警報が発せられた。このとき溶融はんだの液面は初期の位置から4mm下がり,はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.87質量%となっていた。そこで所定のCu含有量よりも少ないSn-0.3Cu-3.5Agの合金を初期と同じ液面になるまで追加供給した。そして Sn-0.3Cu-3.5Agの合金を追加供給後のはんだ槽内のCuの含有量を測定したところ,Cuは0.80質量%となっており略所定の鉛フリーはんだに近い成分となっていた。
【0024】(実施例3)大型のはんだ槽中に所定の成分としてSn-0.75Cuの鉛フリーはんだを500Kg入れておく。このはんだ槽で浸漬法によりビデオ用プリント基板を485枚はんだ付けしたところで液面センサーが作動し,警報が発せられた。このとき溶融はんだの液面は初期の位置から6mm下がり,はんだ槽中の鉛フリーはんだのCuの含有量を測定したところ0.92質量%となっていた。そこでCuを全く含まないSnを所定の液面になるまで追加供給した。そして Snを追加供給後のはんだ槽内のCuの含有量を測定したところ,Cuは0.74質量%となっており略所定の鉛フリーはんだに近い成分となっていた。
【0025】 【発明の効果】・・・本発明によれば浸漬法でCu含有鉛フリーはんだのはんだ付けを行なった場合,はんだ槽内のはんだ中にワークからCuが溶出してCu濃度が高くなっても,追加供給するはんだにCuが全く含まれていなかったり,或いは所定の鉛フリーはんだのCu含有量よりも少なかったりするため,はんだ槽中のはんだのCu含有量を所定の鉛フリーはんだと略同一のCu含有量にすることができる。従って,本発明のはんだの供給方法で,はんだ槽にはんだを追加供給すれば,はんだ付けしたワークに熱損傷を与えるようなことがないばかりでなく,はんだ付け不良の発生も非常に少なくなるという従来にない優れた効果を奏するものである。」 以上の記載によれば,先願明細書に記載された発明は,浸漬法によりCuが含有された鉛フリーはんだで銅を含む基板等にはんだ付けする際に,はんだ中の銅含有量が増えて融点の上昇やはんだ付け不良が発生するという問題点を解決するために,所定組成の鉛フリーはんだから銅成分だけを除去した合金,又は銅含有量が少ない合金をはんだ槽に供給して,はんだに所定量以上の銅が混入しないようにすることにより,はんだ付けの対象に熱損傷を与えることがなく,はんだ付け不良の発生も非常に少なくなるという効果を奏するものと認められる。
(2) 先願明細書に,Sn-Cu-Niから成るはんだを用いることが開示されていることについて ア 前記のとおり,先願明細書の請求項2には,「前記Cu含有鉛フリーはんだは,Sn-Cu合金,或いはSn-Cu合金にAg,Bi,In,Sb,Zn,Ni,P,Ge,Ga等が一種以上添加された合金である」と記載されており,また,段落【0021】にも,「本発明に適応するCuが含まれた鉛フリーはんだとは,Sn-Cuの二元合金,或いはSn-Cu合金にAg,Bi,In,Sb,Zn,Ni,P,Ge,Ga等が一種以上添加された三元以上の合金である。」と記載されている。すなわち,先願明細書に,Sn-Cu-Niを必須成分とするはんだが開示されていることは明らかである。
イ 原告らは,先願明細書の実施例には,Sn-CuあるいはSn-Cu-Ag鉛フリーはんだについての検証の例が開示されているだけで,Sn-Cu-Ni合金を用いた記載がなく,実験に基づく十分な裏付けのないまま,添加金属として可能性がある金属を列挙しただけでは,完成した発明が開示されているとはいえない旨主張する。
しかし,先願の出願前に公開された乙1文献には,「本発明の組成を有するはんだ合金の物性を表に示す。サンプル組成は,発明者が本発明の無鉛はんだ合金の最適配分の1つであると考える,Cu0.6重量%,Ni0.1重量%,残部Snの合金を調整して用いた」(乙第1号証4頁)ことが,また,その表1(同7頁)には,無鉛はんだ合金のサンプル1ないし9として,Sn,Cu,Niを必須成分とするはんだ合金が,それぞれ記載されているほか,「従来の錫鉛はんだから本発明品への切り換え時におけるはんだ槽の継続利用や鉛リード線などに対しても異常なく適合できる」(同9頁)との記載からすれば,当該無鉛はんだ合金をはんだ槽中のはんだに利用できることも開示されている。
また,同じく乙2文献には,「本発明の主にSn-Ni-Cuの3元素,Sn-Ni-Ag-Cuの4元素からなるPbフリー半田において,Cuの添加量は全体100重量%のうち0.5ないし2.0重量%であることが好ましい」(乙第2号証段落【0012】)ことが,また,その表1(同5頁)には,鉛フリーはんだの実施例1ないし3として,Sn,Ni,Cuを必須成分とするはんだが,それぞれ記載されているほか,「本発明の半田付け物品は,・・・半田槽中に本発明のPbフリー半田を液相温度より高い温度で溶融させ,フラックスを塗布した部品を静止溶融半田中に浸漬する浸漬半田付けにより部品の導体を結合することでも得られる。また,噴流半田槽中に本発明のPbフリー半田を液相温度より高い温度で溶融させ,フラックスを塗布した部品を溶融半田に接触させるフロー半田付けにより部品の導体を結合することによっても得られる。また,部品をPbフリー半田中に浸漬した時,溶融した半田中で揺動を行ってもよい。」(同段落【0019】)との記載からすれば,当該鉛フリーはんだを浸漬法のはんだ槽中のはんだとして利用できることも開示されている。
ウ そうすると,先願の出願時において,浸漬法のはんだ槽中のはんだとして,Sn-Cu-Niを必須成分とする鉛フリーはんだ合金は既に知られていたのであるから,先願明細書の上記記載を見た当業者は,Niは添加可能な金属であり,先願明細書には,Sn-Cu-Niを必須成分とする鉛フリーはんだ合金を用いるものも開示されていると認識することになるということができる。また,本件全証拠によっても,Sn-Cu-Niを必須成分とする鉛フリーはんだ合金では,はんだとしての性能に問題があり,先願第1発明の目的を達成することができないと窺わせるような事情を認めるに足りる証拠はないのであって,先願明細書にSn-Cu-Niを用いた実験等が記載されていないことは,当業者において,上記のとおり先願明細書にSn-Cu-Niを必須成分とする鉛フリーはんだ合金についても開示されていると認識することの何ら妨げとなるものではなく,原告らの上記主張は採用することができない。
エ 原告らは,乙1文献は原告株式会社日本スペリア社の出願に係るものであり,乙2文献は乙1文献とほとんど時を同じくして出願され公開されたものであるから,これらをもってSn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金が先願の出願時には技術的常識であったことの証明にはならないと主張する。しかし,乙1文献及び乙2文献は,先願の出願時において既に公開されていた刊行物であり,当業者であればこれら刊行物の内容を知っていることは当然であるから,先願明細書に記載された発明を認定する場合に,それら公知の技術を参酌することができることはいうまでもない。なお,乙1文献の発明の出願人が誰であるかということは,公知文献としての価値に何ら影響するものではない。
オ したがって,先願明細書にSn-Cu-Niを必須成分とするはんだ合金が記載されているとした決定の認定に誤りはない。
(3) はんだ槽中のはんだの銅濃度を「一定濃度以下に抑制」することが開示されていることについて (1)で認定したとおり,先願明細書に記載された発明は,はんだ中の銅含有量が増えて,融点の上昇やはんだ付け不良が発生するという問題点を解決するために,はんだ槽中のはんだに所定量以上の銅が混入しないようにするものであるから,銅濃度を,このような問題点が生じることのないような濃度以下に調整するものであることは明らかであって,先願第1発明の「略同等に調整する」とは,これと同義のことをいうものと解され,本件発明1における「一定濃度以下に抑制する」ことと技術的に同一であるというべきである。
原告らは,先願第1発明では,実施例1及び2から明らかなとおり,銅濃度は当初の濃度を超えた数値に調整されており,その調整精度は緻密なものではないと主張するが,前記のとおり,実施例1や2において調整される濃度は0.76質量%及び0.80質量%と,本件明細書に特定された0.85重量%未満であることからも,問題点を生じることのない濃度以下であると解されるから,原告らの主張は採用し得ない。
したがって,先願第1発明の「略同等に調整する」ことは本件発明1の「一定濃度以下に抑制する」ことに実質的に相当するとした決定の判断に誤りはない。
(4) 先願明細書の実施例の実現可能性について 原告らは,先願明細書の実施例1の記載に基づいて計算すると,実施例1のはんだ槽の深さは32oとなり,このような浅いはんだ槽でディップはんだ付け(浸漬法)を行うことは実質的に不可能であるから,実施例1は非現実的で達成不可能な技術であると主張する。
しかし,原告らの上記主張は,Cu濃度0.75質量%の500kgのはんだにより,テレビ用プリント基板512枚をはんだ付けすると,Cu濃度が0.90質量%になったことを前提とするものであるところ,@前記のとおり,先願明細書には,「浸漬法では,はんだ付け時に溶融はんだがワークと接する時間は短いものであり,一つのワークから溶出されるCuはごく僅かである。しかしながら,・・・大量生産ではんだ付けされるワークの数が多いため,はんだ槽中のはんだに溶出するCuの量はトータルとして多くなってしまう。」(段落【0015】)と記載されていること,Aはんだ500kgにおいてCu濃度が0.15%上昇するには,Cuが約750g増加する必要があるが,プリント基板512枚の処理でCuが750gも溶け出すとは,技術常識に照らし考えられないことなどからすると,原告らの前提とする事実に誤りがあることは明らかである。このことは,本件明細書(甲第2,第3号証)の段落【0015】の比較例に,「約0.5%銅,約0.05%ニッケル,残部錫のはんだをはんだ槽に満たし,はんだ温度を255±2℃にして大量のプリント基板をはんだ付作業した。この時,初期の槽中はんだと同じ組成の補給はんだを投入し続けると,作業量の増加と共にはんだ槽中の銅が図1に示すように2万枚のプリント基板を処理した後から好ましくない濃度まで増化(判決注:増加の誤記と認める。)した。」と記載され,その図1によると,Cu濃度が約0.567%から0.9%に増加するには約3万台のプリント基板を処理することを要し,0.567%から0.15%増加するにも数千台の処理を要することからも,裏付けられるといえる。
原告らの上記主張は,先願明細書の実施例1におけるはんだのCu濃度変化の推移の記載をそのまま形式的に計算式に当てはめて,はんだ槽の深さの計算上の数値を算出したものであるが,プリント基板の処理に伴うCuの溶出によるはんだのCu濃度の変化に関する上記のような技術常識に照らせば,乙5回答書を参酌するまでもなく,実施例1におけるCu濃度の変化にはある程度の時間の経過を伴うことは容易に予測されるのであり,実施例1の記載は実際の時間的経過を的確に表現していないことが窺われるのであって,原告ら主張のはんだ槽の深さの数値は妥当なものとはいえない。
このように,先願明細書の実施例の記載は,はんだ槽中のはんだのCu濃度の変化について時間的な経過が省略されているなど不備はあるものの,当業者の技術常識をもって補えば理解できるものというべきであるし,少なくとも,そのような不備があるからといって,先願明細書に記載された発明が未完成発明であるとか,その実質的な開示がないということができないことは明らかである。
(5) 以上のとおり,決定の先願第1発明の認定に誤りはなく,同発明と本件発明1とは実質的に同一であると認められる。請求項1についての取消事由は理由がない。
2 請求項2についての取消事由(本件発明2と先願第2発明との同一性の判断の誤り)について 原告らは,決定は,先願第2発明の特定に際し,本件発明2の記載,例えば「実装部品」を「電子部品」,「錫,銅,ニッケル」を「Sn-Cu-Ni」と置き換えただけで,重要な要素はそのまま本件発明2の記載を借用して,両発明が同一であるという結論を誘導していると主張する。
しかし,決定は,先願明細書の記載事項から必要な事項を摘記し,「各摘記事項を総合すると,先願明細書には,次の各発明が記載されているものと認められる」(決定書5頁)として先願第2発明を認定したものであり,先願第2発明の構成要件の記載振りが本件発明2に類似しているとしても,そのこと自体は何ら取消事由となるものではない。
また,原告らは,先願明細書に補給はんだという概念は示されていないにもかかわらず,そのような記載が存在するかのように特定していると主張するが,先願明細書には,前記認定のとおり,「追加供給する合金」(段落【0021】),「追加供給するはんだ」(段落【0025】)と記載されており,これが「補給はんだ」に該当することは明らかである。
原告らのその余の主張(先願明細書には,Niを含むはんだに関する技術及び銅濃度を一定濃度以下に抑制するとの技術について記載されていない。)が採用できないことは,請求項1についての取消事由において説示したとおりである。
したがって,決定の先願第2発明の認定に誤りはなく,同発明と本件発明2とは実質的に同一であると認められる。請求項2についての取消事由は理由がない。
3 請求項3及び4についての取消事由(本件発明3及び4と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り)について 請求項1及び2についての取消事由は理由がないから,これらの取消事由に理由があることを前提とする原告らの主張は採用することができず,請求項3及び4についての取消事由も理由がない。
4 請求項5についての取消事由(本件発明5と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り)について (1) 原告らは,先願明細書には,槽中はんだ温度を255℃前後に制御するという記載は全く存在しないのであり,先願明細書の実施例1及び2が「槽中はんだの銅濃度を,槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御」することを示唆しているとの決定の判断は誤りである旨主張する。
(2) 前記のとおり,先願明細書には,はんだ槽中のはんだのCu含有量を所定の鉛フリーはんだと略同等に調整することが記載され,実施例1及び2において,Cu含有量をそれぞれ0.76質量%及び0.80質量%に調整することが示されており,銅濃度を0.85重量%未満に調整することが記載されている。上記実施例は,いずれもSn-Cu-Agの鉛フリーはんだについての例であるが,前記のとおり,先願明細書には「本発明に適応するCuが含まれた鉛フリーはんだとは,・・・Sn-Cu合金にAg,・・・Ni・・・等が一種以上添加された三元以上の合金」と記載されており,はんだのCu含有量を所定の鉛フリーはんだと略同等に調整するという点において添加金属がAgとNiとで異なると認めるに足りる証拠はないから,上記Cu含有量の調整は,Sn-Cu-Niの鉛フリーはんだの場合についても当てはまるものということができる。
他方,先願明細書には,槽中はんだ温度を何度にするかについての記載はない。しかし,温度についての記載がない以上,はんだ槽に通常使用されている温度が採用されていると解するのが相当である。
そこで,はんだ槽の温度に関する当業者の技術常識について検討すると,乙1文献(乙第1号証)の表1(7頁)には,Sn,Cu,Niを必須成分とするはんだ合金のサンプル1〜9の融点が231℃〜245℃であることが記載されており,また,Cu0.6重量%,Ni0.1重量%,残部Snの無鉛はんだ合金について,広がり試験を240℃,260℃及び280℃で行ったこと(5頁),ヌレ性試験を240℃,250℃,260℃及び270℃で行ったこと(5頁),及び,銅食われ試験を260±2℃で溶解しているはんだ槽中で行ったこと(6頁)が記載されている。
さらに,乙2文献(乙第2号証)には, 「Cu電極あるいはAg電極を印刷焼成した複数の単板コンデンサを準備し静電容量を測定した。次にあらかじめ260℃に溶融しておいた実施例1ないし12と比較例1ないし7の半田にそれぞれ浸漬し,静電容量変化法に基づき半田浸漬前後の単板コンデンサの静電容量の差分値をとり,浸漬前の静電容量に対する前記差分値を求めて電極の残存率を算出して,半田付け時の電極残存面積率の測定を行った。」(段落【0022】), 「表面を溶融したSnでめっき処理したCuリード線でCu板を挟みこみ,あらかじめ260℃に溶融しておいた試料1ないし12および比較例1ないし7の半田に浸漬して半田付けして,試料1ないし12および比較例1ないし7の試験片を得た。これらの試験片を引張り試験機を用いてCuリード線を引張り,それぞれ接合強度を測定した。」(段落【0024】) と記載されており,乙2文献の実施例1ないし3は,Sn,Ni,Cuを必須成分とする鉛フリー半田である(5頁表1)。
上記乙1文献及び乙2文献に見られる各種の試験,測定は,実際にはんだ槽に採用される温度範囲付近において行われるものであると解されるところ,その温度範囲は240℃〜280℃に限定されており,特にその中間である260℃を選択することが各試験,測定で共通している。このように,はんだ槽に通常使用されている温度としては240℃〜280℃(そのうちでも特に260℃程度)が採用されているものということができる。かかる当業者の技術常識を踏まえれば,先願明細書にその明示的な記載はないものの,その実施例1及び2においても,はんだ槽に通常設定される温度として使用される240℃〜280℃(そのうちでも特に260℃程度)が採用されているものと解するのが相当である。
そうすると,先願明細書には,はんだ槽に通常使用されている温度,すなわち240℃〜280℃(そのうちでも特に260℃程度)において,銅濃度を0.85重量%未満に調整することが開示されているものということができる。
(3) 次に,本件発明5における,槽中はんだ温度を「255℃前後」とすることの技術的意義について検討する 本件明細書(甲第2,第3号証)には,このことに関して,「実際の槽中はんだの銅濃度については,錫,銅,ニッケルを主成分とするはんだの場合,槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御する手段が,銅濃度の上昇に伴う諸問題を解消する最適な制御である。なお,0.85重量%は極めて厳密という意味にとるものではなく,液層(判決注・「液相」の誤記と認める。)温度の変移によって幅を持っている。しかしながら,上記条件において0.90重量%を超えれば継手精度が悪化するので,銅濃度の上限はこの限りにおいて制約されることになる。」(段落【0013】)と記載されているのみであり,これ以上に,この温度の技術的意義については何も記載されていない。
そして,比較例においては,約0.5%銅,約0.05%ニッケル,残部錫のはんだをはんだ槽に満たし,はんだ温度を255±2℃にして大量のプリント基板をはんだ付作業し,初期の槽中はんだと同じ組成の補給はんだを投入し続けると,作業量の増加と共に銅濃度が好ましくない濃度まで増加したこと,実施例1においては,補給はんだの組成以外は比較例と同1条件とし,約0.05%ニッケル,残部錫の補給はんだを投入すると,銅の濃度上昇は約0.7%程度で安定したこと,実施例2においては,初期のはんだ組成が0.6%銅,0.05%ニッケルにゲルマニウム,燐,カルシウムなどを適量添加し,残部を錫としたはんだ合金をはんだ槽に投入し,槽中はんだ温度255±2℃で同様の条件下ではんだ付作業を行い,補給はんだとして槽中はんだの組成から銅だけを除いた合金を投入した結果,銅濃度の上昇は約0.7%程度で安定したこと,実施例3においては,初期のはんだ組成が0.6%銅,0.05%ニッケル,残部錫のはんだをはんだ槽に投入し,槽中はんだ温度255±2℃で同様の条件下ではんだ付作業を行い,補給はんだとして銅を含まず,ゲルマニウム,燐,カルシウムなどを適量添加した錫ニッケル-酸化防止剤入りはんだを投入した結果,銅濃度の上昇は約0.7%で安定したことが記載されている(段落【0015】〜【0018】)。これら比較例及びすべての実施例において,はんだ温度は255±2℃と同じであり,銅濃度は,比較例では最終的に0.9重量%以上に上昇して(図1)問題を生じたこと,いずれの実施例でも約0.7重量%程度となり問題は生じなかったことが開示されているのみであり,はんだ温度を255±2℃としたことの技術的意義,例えばはんだ温度を変更すると銅濃度はどのように変動し問題が生じるのかということは全く不明である(もともと,「255℃前後」,「0.85重量%」という数字自体幅のあるものであり,なおさらその臨界的意義は明確にならない。本件明細書に開示されているのは,槽中はんだの温度が255℃前後において,銅濃度が0.9重量%を超えると問題(継手精度の悪化)が生じるという知見だけである。)。
そうすると,本件発明5において,槽中はんだ温度を「255℃前後」としたことは,単に実施例として採用された条件にとどまり,これが格別の技術的意義を有するものと認める根拠となる記載は本件明細書中にはない。
(4) 以上のとおり,一方で,先願明細書には,はんだ槽に通常使用されている温度,すなわち240℃〜280℃(そのうちでも特に260℃程度)において,銅濃度を0.85重量%未満に調整することが開示されており,他方,本件発明5において,「槽中はんだ温度を255℃前後」と限定したことに格別の技術的意義は認められないのであるから,先願明細書に記載された発明の「槽中はんだの銅濃度を,はんだ槽に通常使用されている温度において0.85重量%未満に調整する」ことと,本件発明5における「槽中はんだの銅濃度は,槽中はんだ温度が255℃前後において0.85重量%未満に制御する」こととの間に,実質的な差異はないというべきであり(先願明細書に記載された発明の「調整」が本件発明5の「制御」と同意義であることは,前記1の(3)で説示したところから明らかである。),これと同旨の決定の判断に誤りはない。
(5) 原告らは,決定の「示唆」との表現をとらえて,決定は,進歩性の判断を行いながら,特許法第29条の2を適用したものであると主張する。しかし,決定が,先願明細書に記載された発明と本件発明5との同一性を判断したものであることは明らかであり,その決定の判断に誤りのないことは上記のとおりであるから,原告らの主張は失当である。
また,原告らは,先願明細書の実施例1及び2のSn-Cu-Ag合金のはんだ付け温度や濃度をSn-Cu-Ni合金に適用することは妥当でないと主張する。しかし,実施例1及び2におけるCu含有量の調整が,Sn-Cu-Niの鉛フリーはんだの場合についても当てはまることは前記のとおりであり,また,前記はんだ槽に通常使用される温度は,Sn,Ni,Cuを必須成分とするはんだ合金について用いられているものであるから,原告らの主張は理由がない。
なお,先願明細書の記載を理解するために,当業者の技術常識参酌することができることは当然であり,先願明細書におけるはんだ槽に通常使用されている温度について,その技術常識を認定するために乙1文献等を用いることができることはいうまでもない。
5 請求項6についての取消事由(本件発明6と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り)について 請求項1ないし5についての取消事由に理由がないことは前示のとおりであるから,その理由があることを前提とする請求項6についての取消事由も理由がない。
6 請求項7についての取消事由(本件発明7と先願明細書に記載された発明との同一性の判断の誤り)について 請求項7についての取消事由は,実質的に請求項1についての取消事由と変わるところはなく,既に請求項1についての取消事由において検討したとおり,理由がない。
7 結論 以上のとおりであるから,原告ら主張の取消事由は,いずれも理由がなく,その他,決定には,これを取り消すべき誤りは認められない。
よって,原告らの本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久