関連審決 | 不服2004-20287 |
---|
審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
---|---|---|
平成20行ケ10065審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 容易に発明 / 一致点の認定 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 参酌 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の理由 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
19年
(行ケ)
10409号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告X 訴訟代理人弁理士大竹正悟,武田寧司 被告特許庁長官肥塚雅博 指定代理人森健一,大黒浩之,斉藤信人,徳永英男,森山啓 |
|
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/06/23 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が不服2004−20287号事件について平成19年10月30日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
全容
第1原告の求めた裁判主文同旨の判決第2事案の概要本件は,原告が,下記1(1)の特許出願(以下「本件特許出願」という。)についての拒絶査定に対する不服審判請求を成り立たないとした審決の取消しを求める事案である。 1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲第4号証)及び拒絶査定出願人:原告発明の名称:「高度水処理装置及び高度水処理方法」出願日:2000(平成12)年10月30日出願番号:特願2001-533066号優先権主張日:1999(平成11)年10月28日(日本)拒絶査定日:平成16年8月4日(甲第8号証)(2)本件手続審判請求日:平成16年9月30日(甲第9号証)手続補正日:平成16年10月29日(甲第10号証。以下「本件補正」という。)審決日:平成19年10月30日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成19年11月9日2特許請求の範囲の請求項1についての補正本件補正は,本件特許出願に係る明細書の特許請求の範囲の請求項1を次のとおりとする補正事項を含むものである。なお,下線部分が補正箇所であり,請求項の数は全29項である。 「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg〜0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する高度水処理方法。」(以下「本願補正発明」という。)3審決の理由の要旨審決は,本件補正のうち請求項1に係る補正事項は,本件特許出願に係る願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものではないとして本件補正を却下し,本願発明の要旨を本件補正前の請求項1記載のとおりのもの(以下「本願発明」という。)と認定した上,下記の引用例1〜3記載の発明(以下,引用例の番号に従って,「引用1発明」などといい,全体を「引用発明」という。)と対比し,本願発明は引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると判断した。審決の理由は以下の各項目中に引用したとおりであるが,略称について,本判決で指定するものに改めた部分がある。 引用例1:特開平11-33593号公報引用例2:特開平7-299476号公報引用例3:特開平9-57280号公報(1)本件補正について[補正却下の決定の結論]本件補正を却下する。 [理由]請求人は,審判請求時の平成16年10月29日付けの手続補正書により明細書の全文を補正し,この補正は,特許請求の範囲の請求項1を,「【請求項1】ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg〜0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する高度水処理方法。」とする補正事項を含むものであり,この補正事項について以下検討する。 この補正事項は,請求項1に「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」という事項を記載することにより,請求項1に係る発明を,「処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg〜0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する」という構成(以下,「オゾン処理」という。)のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ものを含む発明とするものであり,この補正事項について,請求人は平成16年12月24日付けの手続補正書により補正された審判請求書の請求の理由において,「浄化の程度は,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化するものとしたが,これは,明細書[0018],[0020],[0022],[0026],[0039]段落などの記載に基づくものである。なお,明細書中のこれらの記載は,オゾン処理以外の紫外線照射処理などを組み合わせて処理した後の処理対象水についての記載であるが,処理対象水に含まれた有害物質のうちのダイオキシン類についてはオゾン処理だけで飲料水レベルにまで浄化できることは平成16年7月12日付け提出の意見書に添付した実験報告書より明らかである。」(【本願発明が特許されるべき理由】「第1補正の内容」「(2)請求項1の補正」の「補正の適法性」)と主張している。 しかしながら,本願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,「当初明細書等」という。)には,請求人が上記主張で指摘する明細書の各段落に対応する各記載箇所をみても,上記「オゾン処理」のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことについて直接的な記載は見あたらず,これら各記載箇所には,「こうした一連の処理を経ると,飲料水レベルまで浄化された水を得ることができる。」(第5頁第8〜9行),「そして,こうした過酸化水素水処理に続けて,上述のようなオゾン処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理を行うことで,処理対象水を飲料水レベルまで浄化することができる。」(第5頁第26〜29行),「こうして重金属類を除去した後,上述のオゾン処理を行うことで,処理対象水を飲料水レベルにまで浄化することができる。」(第6頁第10〜11行),「但し,いずれの場合も本発明の高度水処理装置又は高度水処理方法によって得られる処理水は食品衛生法26項目の飲料水適格水質基準以上の水質を確保したものである。」(第6頁第29行〜第7頁第2行),「以上の処理で排水Wは,食品衛生法で規定する26項目の飲料水適格水質基準を超える水質となり飲料水レベル以上の水として環境に放出することができる。」(第12頁第27〜28行)との記載があり,また,当初明細書等には「本例によるダイオキシン類の処理は,光触媒を行わない場合でも,オゾン処理だけで約70%除去可能であり,オゾン処理と紫外線照射処理を併せると約95%除去可能である。光触媒を行う場合は,オゾン処理及び紫外線照射処理を併せて約99%除去可能である。そしてこれに電気分解処理及び炭化濾材処理を経れば約100%の除去が可能である。」(第13頁第4〜8行)との記載もある。そして,これらの記載からみれば,当初明細書等には,オゾン処理と併せて,紫外線照射処理,電気分解処理,炭化濾材処理などの処理を行うことで,処理対象水を飲料水レベルまで浄化することが記載されているといえるものの,オゾン処理だけで「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」という事項は,当初明細書等に記載されておらず,かつ,この事項が当初明細書等に記載された事項から自明であるともいえない。 また,請求人が上記主張の根拠としている平成16年7月12日付け提出の意見書に記載された実験報告書をみても,この実験報告書には,特定の条件下でオゾン処理を行った場合に,ダイオキシン類の濃度が0.18pg-TEQ/Lとなったことが記載されているだけであり,この実験報告書中の「処理量:0.6m /h」という条件も,請求項1に記載されてい3る「処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し」という事項の範囲外の条件であり,この実験報告書を参酌しても,オゾン処理だけで「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」という事項が,当初明細書等に記載されていたとはいえない。 そうすると,この補正事項により請求項1に記載された,オゾン処理のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ものは,当初明細書等に記載された事項の範囲内のものであるということはできないから,この補正は,新規事項の追加に該当するものである。 以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正事項を含むものであるから,その余のことを検討するまでもなく,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。 (2)本願発明についてア本願発明本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1〜29に係る発明は,平成16年7月12日付けの手続補正書により補正された明細書の特許請求の範囲の請求項1〜29に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。 「1.ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,オゾン発生装置から発生したオゾンと,処理対象水とを混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を,送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通して,平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンの微細気泡化したオゾンを含む処理対象水として,微細気泡化したオゾンと処理対象水とを接触させ,この微細気泡化したオゾンを含む処理対象水を,オゾン処理槽に供給して,処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する,各工程を実行する高度水処理方法。」イ引用例引用例1:特開平11-33593号公報(原査定の理由で引用された引用文献1)には以下の事項が記載されている。 (ア)「【請求項1】 有機廃水の処理方法において,被処理水に対し,オゾン,過酸化水素あるいは紫外線のいずれか一つ,又は二つ以上を組み合わせて用いる前段の水処理工程により処理し,その処理水をさらに生物処理,凝集処理,濾過処理,活性炭処理の少なくとも一つ,又は二つ以上を組み合わせて行う後段の水処理工程により処理することを特徴とする有機塩素化合物を含有する有機廃水の処理方法。」(【特許請求の範囲】)(イ)「本発明は,上記の課題を解決しようとするものであって,処理系内のダイオキシン等有機塩素化合物を高い除去率で除去分解する方法を提供することを目的としている。」(段落【0004】)(ウ)「ダイオキシン等の有機塩素化合物とは,ダイオキシン類や,PCB,クロロベンゼン,トリハロメタン等のことを指す。本発明によれば,流入原水に対し,予め,オゾン,過酸化水素あるいは紫外線のいずれか一つ,又は二つ以上を組み合わせた前段の水処理工程を行えば,生成したヒドロキシラジカル等が被処理水中の溶存及び非溶存のダイオキシン類有機塩素化合物を高効率で酸化分解することができる。」(段落【0006】)(エ)「図1に示す如く,被処理水1としてのゴミ埋立地浸出水に過酸化水素注入管3より過酸化水素を注入するとともに,ダイオキシン分解装置4に導入し,オゾン注入管2よりオゾンを注入し,紫外線照射ランプ5から照射される紫外線による作用で,被処理水中のダイオキシンが酸化力の強いヒドロキシラジカルによって酸化分解される。ダイオキシン分解処理により得た処理水6は,後段の水処理工程,すなわち,生物処理装置8,凝集沈殿処理装置9,砂ろ過処理装置10,そして,活性炭処理装置11を通って前記処理水中の有機物やSS,重金属類の除去が行われる。活性炭処理装置11から得られる処理水は放流水12として系外へ排出できる。」(段落【0009】)(オ)「実施例に示す如く,本発明によれば,ダイオキシン等有機塩素化合物を含有する有機廃水に対し,先ず,オゾン,過酸化水素あるいは紫外線のいずれか一つ,又は二つ以上を組み合わせて用いる前段の処理を行えば,被処理水中の溶存及び非溶存ダイオキシンを約90%程度の高効率で酸化分解することができる。」(段落【0019】)(カ)【図1】には,「有機廃水の処理方法の1例のフローシート」が示され,ダイオキシン分解装置4に,被処理水1が導入され,オゾン注入管2が接続され,ダイオキシン分解装置4から処理水6が流出する構成,及び上記記載事項(エ)の技術事項が窺える。 引用例2:特開平7-299476号公報(原査定において提示された文献)には以下の事項が記載されている。 (ア)「本発明はオゾンを用いて水中の殺菌,脱臭,有機物などの酸化を行なう下降溶解型オゾン反応槽に関する。」(段落【0001】)(イ)「図3は下降溶解型オゾン処理装置の要部の構成を示す模式図である。図3において,この装置はU字状の反応槽1上部の導入口2から,送水ポンプ3により被処理水4を導入し,同時にオゾン発生装置5で発生させたオゾンガスを,散気装置6を介して気泡7として反応槽1内に注入する。被処理水4は気泡7(オゾンガス)との混合流となり,反応槽1の下降溶解部1aを流下する。」(段落【0009】)(ウ)「本発明の下降溶解型オゾン反応槽は,下降溶解部内を通る気泡がせん断,混合され,気泡径を小さくすることができるので,オゾン吸収効率が向上する。」(段落【0015】)(エ)「図1は,本発明による下降溶解型オゾン反応槽を有するオゾン処理装置の要部構成を示す模式図であり,図3と共通部分に同一符号を用い,図3と同じく被処理水4と気泡7の流れ方向を矢印で示してある。ただし,ここでは反応槽は一体のU字状ではなく,上昇部1bの下部の一側面に,下降溶解部1aを別個のものとして取り付けた形状のものを示したが,その他の構成は図2と基本的に同じであり,・・・・・・本発明に関して,図1が図3と異なる点は,下降溶解部1aの一部に,下降部混合装置11を設けたことにある。この下降部混合装置11は,例えば気泡をせん断,混合するラインミキサーとしてのスタティックミキサーを用いることができる。・・・・・・気泡7の大きさは,下降混合装置11による混合とせん断で,確実に小さくなる」(段落【0016】〜【0018】)(オ)「気泡径が約4割小さくなると,オゾン吸収率は86%から94%まで上昇することが予想される。このことは,極めて大きな効率の向上であり,オゾン処理装置全体の効率の向上に大きく寄与するものである。」(段落【0019】)(カ)「スタティックミキサーのような下降部混合装置・・・により,気泡がせん断,混合されて気泡径が小さくなるので,オゾン吸収率が著しく向上し,高い反応槽特性を得ることができる。」(段落【0020】)(キ)【図1】には,「下降溶解型オゾン反応槽を有するオゾン処理装置の要部構成」が示され,上記記載事項(エ)の技術事項が窺える。 (ク)【図3】には,「下降溶解型オゾン処理装置の要部の構成」が示され,上記記載事項(イ)の技術事項が窺える。 引用例3:特開平9-57280号公報(原査定において提示された文献)には以下の事項が記載されている。 (ア)「分散したオゾンの気泡径を数ミクロンのレベルに微粒子化すれば,殆ど水に溶けたミルクのようなオゾン水ができ,容易には水面に飛散することもなく,長い時間水中に高濃度で溶けた状態となり得る」(段落【0009】)(イ)「最終的に10μm以下の極めて微小で均一な大きさのオゾン気泡が水中に分散してあたかもミルク状に溶け込んだオゾン水ができる・・・上記10μm以下のオゾン気泡はすぐには水面に上昇して空気中に拡散することはなく,比較的安定して水中に溶け込んだ状態を維持する。・・・したがって,・・・強力なオゾンによる酸化作用が安定して得られるのである。」(段落【0036】〜【0038】)ウ対比・判断引用例1には,記載事項(ア)に「有機廃水の処理方法において,被処理水に対し,オゾンを用いる水処理工程により処理する有機塩素化合物を含有する有機廃水の処理方法」が記載されており,この記載中の「有機塩素化合物」について,記載事項(ウ)には「ダイオキシン類,PCB等」を含むものであることが記載されている。そして,上記「有機廃水の処理方法」は,記載事項(イ),(ウ)及び(オ)の,「ダイオキシン等有機塩素化合物を高い除去率で除去分解する方法」,「被処理水中の溶存及び非溶存のダイオキシン類有機塩素化合物を高効率で酸化分解することができる」,及び「被処理水中の溶存及び非溶存ダイオキシンを約90%程度の高効率で酸化分解することができる」との記載によれば,「被処理水中のダイオキシンを酸化分解して浄化するもの」であるといえる。また,上記「オゾンを用いる水処理工程」は,記載事項(エ)に「被処理水をダイオキシン分解装置に導入し,オゾンを注入し,被処理水中のダイオキシンが酸化分解するもの」であることが記載され,さらに,記載事項(カ)の「ダイオキシン分解装置4に,被処理水1が導入され,オゾン注入管2が接続され,ダイオキシン分解装置4から処理水6が流出する構成」によれば,「被処理水をダイオキシン分解装置に導入して連続的に処理するもの」であるともいえる。 これら引用例1の記載事項を本願発明の記載振りに則して整理すると,引用例1には「ダイオキシン類,PCB等を含む有機塩素化合物を含有する被処理水を浄化する処理方法において,被処理水を連続的にダイオキシン分解装置に導入して,オゾンを注入し,被処理水中のダイオキシンを酸化分解する,処理方法」の発明(以下,「引用1発明」という。)が記載されているといえる。 そこで,本願発明と引用1発明とを対比すると,引用1発明の「有機塩素化合物」及び「被処理水」は,それぞれ本願発明の「有害物質」及び「処理対象水」に相当し,引用1発明の「被処理水中のダイオキシン」は,本願発明の「処理対象水中に含まれる有害物質」に相当する。また,引用1発明の「処理方法」は,「被処理水を連続的にダイオキシン分解装置に導入」するものであり,「オゾンを注入して,被処理水中のダイオキシンを酸化分解する」ものであるから,本願発明の「連続処理方式の高度水処理方法」に相当し,引用1発明の「ダイオキシン分解装置」及び「導入」は,それぞれ本願発明の「オゾン処理槽」及び「供給」に相当する。 そうすると,本願発明と引用1発明とは「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,処理対象水をオゾン処理槽に供給して,処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する,高度水処理方法」の発明である点で一致するが,以下の点で相違する。 相違点:本願発明は,「オゾン発生装置から発生したオゾンと,処理対象水とを混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を,送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通して,平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンの微細気泡化したオゾンを含む処理対象水として,微細気泡化したオゾンと処理対象水とを接触させ,この微細気泡化したオゾンを含む」処理対象水をオゾン処理槽に供給するのに対し,引用1発明は,被処理水を「ダイオキシン分解装置に導入して,オゾンを注入し」ている点。 上記相違点について以下検討する。 引用例2には,記載事項(ア)に「オゾンを用いて水中の有機物などの酸化を行なう」こと,記載事項(イ)及び(ク)に「送水ポンプ3により被処理水4を導入し,同時にオゾン発生装置5で発生させたオゾンガスを,散気装置6を介して気泡7として注入し,被処理水4は気泡7(オゾンガス)との混合流となる」こと,記載事項(エ)及び(キ)に「下降部混合装置11は,例えば気泡をせん断,混合するラインミキサーとしてのスタティックミキサーを用いること」及び「気泡7の大きさは,下降混合装置11による混合とせん断で,確実に小さくなる」ことが記載されている。これらの記載事項によれば,引用例2には,「オゾンを用いて水中の有機物の酸化などを行うものにおいて,オゾン発生装置で発生させたオゾンと被処理水とを混合し,ラインミキサーにより気泡径を小さくしたオゾンを含む被処理水として,反応槽に導入する」構成が記載されているといえる。 また,引用例2には,記載事項(ウ)に「下降溶解部内を通る気泡がせん断,混合され,気泡径を小さくすることができるので,オゾン吸収効率が向上する」こと,記載事項(オ)に「気泡径が小さくなると,オゾン吸収率は上昇することが予想され,オゾン処理装置全体の効率の向上に大きく寄与する」こと,記載事項(カ)に「スタティックミキサーのような下降部混合装置により,気泡がせん断,混合されて気泡径が小さくなるので,オゾン吸収率が著しく向上し,高い反応槽特性を得ることができる」ことが記載されている。これらの記載事項によれば,引用例2に記載の上記構成は,オゾンの気泡径を小さくすることにより,処理の効率を高めるという技術的意味を有しているといえる。 そうすると,引用1発明と引用例2に記載の上記構成とは,オゾンを用いて水中の有機物を酸化して処理するものである点で共通しており,処理の効率を高めることは一般的な技術課題であることから,引用1発明において,処理の効率を高めるために,引用例2に記載の上記構成を適用して,上記相違点に係る本願発明の構成の内「オゾン発生装置から発生したオゾンと,処理対象水とを混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を,送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通して,微細気泡化したオゾンを含む処理対象水として,微細気泡化したオゾンと処理対象水とを接触させ,この微細気泡化したオゾンを含む」処理対象水をオゾン処理槽に供給する構成を有するものとすることに格別困難性は見あたらない。 また,上記相違点に係る本願発明の構成の内,微細気泡化したオゾンの「平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロン」については,引用例2に記載の上記構成が有する技術的意味から分かるように,引用例2には,ラインミキサーによって小さくされるオゾンの気泡径は,できるだけ小さい方が好ましいことが記載されているといえ,引用例3には,記載事項(ア)及び(イ)によれば,分散したオゾンの気泡径を10μm以下の数ミクロンのレベルに微粒子化することによって,オゾンによる酸化作用が安定して得られることが記載されているといえる。 これらの記載に照らせば,引用例2に記載の上記構成において,オゾンの気泡径を,オゾンによる酸化作用が安定して得られる10μm以下の数ミクロンのレベルで,できるだけ小さくして,オゾン処理効率の良い実用的な範囲で設定することは,当業者であれば適宜行う設計的事項の範囲内のことであるから,ラインミキサーにより小さくするオゾンの気泡径を上記「平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロン」の範囲内とすることは格別のことではない。 してみると,引用1発明において,オゾン処理の効率を高めるために,引用例2に記載の上記構成を適用し,ラインミキサーでオゾンの気泡径をできるだけ小さくすることにより,上記相違点の構成を有するものとすることは,引用例2及び引用例3の記載事項に基づいて当業者が容易に為し得たことである。 そして,引用1発明に上記相違点の構成を採用することにより奏される本願明細書に記載の効果も,引用例1〜3に記載された技術的事項から,当業者であれば予測し得る範囲内のものである。 第3当事者の主張1審決取消事由の要点(1)取消事由1(補正についての判断の誤り)ア審決は,本件補正は新規事項を追加するものであるとしてこれを却下したが,この判断は誤りである。 イ審決は,本件補正が新規事項を追加するものであると判断する前提として,本件補正は,請求項1に「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」という事項を記載することにより,請求項1に係る発明を「処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg〜0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する」という構成(以下「オゾン処理」という。)のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ものを含む発明とするものであると認定した。 しかしながら,本願補正発明は,「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,」と規定しているように,「ダイオキシン類等の含有量を飲料水レベルにまで浄化する高度水処理方法」という枠組みを設定し,その中でのオゾン処理方法を特定した発明であるから,本願補正発明についての審決の上記認定は誤りである。 ウ審決は,上記のとおり,本願補正発明についての誤った理解に基づき,「オゾン処理のみにより,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことについて当初明細書等に記載がないことを理由として,本件補正が新規事項の追加を含むものであると判断したものであるから,本件補正を却下した審決の判断は前提を誤ったものである。 (2)取消事由2(本願発明と引用1発明の一致点の認定の誤り)審決は,引用1発明の「ダイオキシン分解装置」の理解を誤り,これが本願発明の「オゾン処理槽」に相当するとしたが,この認定・判断は以下のとおり誤りである。 引用例1には「被処理水1としてのゴミ埋立地浸出水に過酸化水素注入管3より過酸化水素を注入するとともに,ダイオキシン分解装置4に導入し,オゾン注入管2よりオゾンを注入し,紫外線照射ランプ5から照射される紫外線による作用で,被処理水中のダイオキシンが酸化力の強いヒドロキシラジカルによって酸化分解される。」(段落【0009】)との記載があるとおり,引用1発明のダイオキシン分解装置においては,紫外線照射処理がされているのであるから,本願発明の「オゾン処理槽」に相当するものではない。 したがって,審決は,本願発明と引用1発明との一致点の認定を誤ったものである。 (3)取消事由3(本願発明と引用1発明の相違点についての判断の誤り)ア審決は,引用1発明に引用例2の記載を適用することにより,また,同発明に引用例2及び同3の記載を適用することにより,本願発明の相違点に係る構成とすることは容易であると判断したが,この判断は誤りである。 イ引用例2にはオゾン気泡径とオゾン吸収率の関係について記載はあるが,オゾン気泡径が小さいときのオゾン吸収率以外の利点については記載がない。 これに対し,本願発明では,狭い送水管中で処理対象水とオゾンとを十分に混合してからオゾン処理槽に注入するため,容積の大きなオゾン処理槽全体にオゾンを含む処理対象水を充満させることができるのであり,オゾンが混合された処理対象水をオゾン処理槽内に排出,滞留させることにも技術的な意義がある。 しかしながら,引用1発明のダイオキシン分解装置4は,本願発明の紫外線処理槽に相当する槽であり,引用例1には微細気泡化したオゾンが充満した処理対象水を滞留させるオゾン処理槽についての記載はないのであり,このような引用例1に記載された引用1発明に引用例2の記載を適用するだけでは,上記のような技術的意義を有する本願発明の構成に至ることはできない。 ウ引用例3にはオゾン気泡径について「10μm以下」との記載があるだけであって,0.5ミクロン〜3ミクロンとの記載はなく,オゾンの気泡径と処理程度の関係についての記載もないのに対し,本願発明はオゾンの気泡径を0.5ミクロン〜3ミクロンとすることによりダイオキシン類,PCBを含む有害物質を含有する処理対象水を飲料水レベルにまで処理可能とする優れた効果を奏するものである。 また,引用例2には気泡径が小さくなることによりオゾン吸収率が高くなることについて記載があるが,表1の記載によると,ここでの気泡径はmmオーダーのものであると考えられ,0.67mmの気泡径で既に94.4%のオゾン吸収率となっていることからすると,引用例2の気泡径の1/100以下である本願発明の気泡径とする必要性は見当たらない。 したがって,μmオーダーの気泡径による酸化処理力について何ら記載のない引用2と同3の記載を組み合わせたとしても,本願発明の構成についての何らの示唆にもなり得ない。 エ以上によると,引用1発明に引用例2の記載又は引用例2及び同3の記載を適用することにより,相違点に係る構成とすることは容易であるとの審決の判断は誤りである。 2被告の反論(1)取消事由1(補正についての判断の誤り)に対してア原告は,審決が本願補正発明についての誤った理解を前提として本件補正を却下した旨主張するが,失当である。 イ審決は,本件補正によって,請求項1記載の発明は,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことが限定されない,もっと広い「高度水処理方法」における「オゾン処理」から,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことが限定された「高度水処理方法」の「オゾン処理」へと実質的に変更されたことで,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する高度水処理方法」として「オゾン処理」単独で行われるものを含むことになったことを認定しているのである。 ウ審決の上記認定に誤りはないから,審決の本件補正却下の判断に原告が主張する誤りはない。 なお,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項は新規事項の追加に該当するものであり,この点からも本件補正を却下した審決の判断に誤りはない。 (2)取消事由2(本願発明と引用1発明の一致点の認定の誤り)に対して原告は,審決が本願発明と引用1発明との一致点の認定を誤った旨主張するが,失当である。 原告が主張するとおり,引用例1のダイオキシン分解装置では紫外線照射処理がされているが,引用1発明は,「被処理水を連続的にダイオキシン分解装置に導入して,オゾンを注入し,被処理水中のダイオキシンを酸化分解する」ものであるから,常識的にみれば,引用1発明の「ダイオキシン分解装置」の中には,オゾンが注入された被処理水が存在していることになる。 そして,引用例1に「本発明によれば,流入原水に対し,予め,オゾン,過酸化水素あるいは紫外線のいずれか一つ,又は二つ以上を組み合わせた前段の水処理工程を行えば,生成したヒドロキシラジカル等が被処理水中の溶存及び非溶存のダイオキシン類有機塩素化合物を高効率で酸化分解することができる。」(段落【0006】)と記載されているから,引用1発明の「ダイオキシン分解装置」が,オゾンによって被処理水中のダイオキシン類を酸化分解するものであるとみることができる。 以上によると,引用1発明の「ダイオキシン分解装置」において,被処理水に紫外線を照射しているとしても,注入されたオゾンによってダイオキシン類を酸化分解していることは明らかであり,引用1発明の「ダイオキシン分解装置」は,その中でオゾン処理を行うものといえるから,「引用1発明の『ダイオキシン分解装置』及び『導入』は,それぞれ本願発明の『オゾン処理槽』及び『供給』に相当する。」とした審決の認定に誤りはない。 (3)取消事由3(本願発明と引用1発明の相違点についての判断の誤り)に対してア原告は,審決が相違点についての判断を誤った旨主張するが,失当である。 イ原告は,引用例2には,オゾン吸収率以外の利点については記載されていない旨主張するが,引用例2には,「表1のシミュレート結果から,気泡径が約4割小さくなると,オゾン吸収率は86%から94%まで上昇することが予想される。 このことは,極めて大きな効率の向上であり,オゾン処理装置全体の効率の向上に大きく寄与するものである。」(段落【0019】)との記載があり,オゾンの気泡径が小さいときの,オゾン処理装置の効率が向上するという利点について記載されている。 そして,引用例2に記載されている構成は,「オゾンと被処理水とを混合し,ラインミキサーにより気泡径を小さくしたオゾンを含む被処理水として,反応槽に導入する」構成であるから,被処理水を反応槽に導入する管の中で気泡径を小さくしたオゾンが被処理水中に混合され,そのオゾンが混合された被処理水を反応槽内に排出して滞留させていることは自明である。 また,引用1発明の「ダイオキシン分解装置」は,上記(2)のとおり,本願発明の「オゾン処理槽」に相当するものであり,被処理水が導入され,オゾンが注入されて,被処理水中のダイオキシンを酸化分解するものであるから,オゾンが混合された被処理水を滞留させていることは明らかである。 そして,オゾンを用いて水中の物質を処理するオゾン処理において,オゾン吸収率が高いことは,水中に吸収されて物質の処理に寄与するオゾンの量が多くなることであるから,このことによりオゾン処理の効率が高くなることは当業者にとって当然のことであるし,水中の気泡は,その径が小さい程,単位体積当たりの表面積,すなわち気液接触面積が増大し,また,径が大きい気泡よりも浮上速度が遅くなり長く水中に存在することから,オゾンの気泡径を小さくすることによって,反応槽内で被処理水とオゾンの十分な接触を確保できることは明らかなことである。 そうすると,引用1発明に,引用例2に記載された構成を適用することにより,ダイオキシン分解装置内で被処理水とオゾンの十分な接触を確保する機会が設けられることは,当業者が容易に想到し得ることである。 ウ原告が主張するとおり,引用例3には,オゾンの気泡径について0.5ミクロン〜3ミクロンとすることの記載はないが,オゾンの気泡径を数ミクロンに微粒子化することで,オゾンが長い時間水中に高濃度で溶けた状態となることが記載されている。 そして,オゾンが長い時間水中に高濃度で存在していれば,被処理水とオゾンの十分な接触を確保でき,オゾン処理の効率が高くなることは当業者にとって当然のことであるから,引用例3には,オゾンの気泡径を数ミクロンに微粒子化することで,処理効率が高くなることが示唆されているといえる。 また,引用例2にも,オゾンの気泡径の具体的な大きさは記載されていないが,原告が主張するmmオーダーであることの明確な根拠となる記載もない。他方,上述した引用例2に記載された構成は,ラインミキサーによりオゾンの気泡径を小さくするものであり,水のオゾン処理に用いられるラインミキサーとして,オゾンの気泡径を0.5ミクロン〜3ミクロンとするものは,原告が提出した甲第13号証にも記載されているように,当業者には普通に知られているものであり格別のものではない。さらに,引用例2には,上述したとおり,オゾンの気泡径が小さいときの,オゾン処理装置の効率が向上するという利点が記載されており,オゾン吸収率が高いことは,水中に吸収されて物質の処理に寄与するオゾンの量が多くなることであるから,このことにより,オゾン処理の効率が高くなることは当業者にとって明らかなことである。 そして,引用例2及び引用例3のいずれにも,オゾンの気泡径を小さくすることによって,オゾンの酸化作用を利用した処理の効率を高めることが記載されており,引用1発明において,オゾンの気泡径を小さくすることによって,ダイオキシンを酸化分解する効率を高めることは,引用例2及び引用例3に記載された事項に基づいて,当業者が容易に想到し得ることである。 エ以上によると,審決の相違点についての判断に誤りはない。 第4当裁判所の判断1取消事由1(補正についての判断の誤り)について(1)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載を再掲すると,以下のとおりである。 「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法において,処理対象水と,オゾン発生装置から発生し該処理対象水1リットルに対して0.004mg〜0.015mg注入したオゾンと,を混合してオゾン含有処理対象水とし,オゾン含有処理対象水を送水管に設けたラインミキサー方式のオゾン気泡微細化装置に通してオゾン含有処理対象水中のオゾンを平均粒径が0.5ミクロン〜3ミクロンとなるように微細気泡化し,このオゾン含有処理対象水をオゾン処理槽に供給して処理対象水中に含まれる有害物質を酸化分解する高度水処理方法。」これによると,前段部分のいわゆる「おいて書き」によって,本願補正発明が「ダイオキシン類,PCB等を含む有害物質を含有する処理対象水を毎分0.025キロリットル〜14キロリットルで処理し,ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する連続処理方式の高度水処理方法」についての発明であることが示され,後段部分の記載によって,本願補正発明のオゾン処理の具体的な内容を構成として特定しているものと理解することができる。 (2)審決は,上記の本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載から,本願補正発明は,同請求項の後段に規定した構成のみにより,その前段に規定した「飲料水レベルまで浄化する」発明を含むことになった旨判断するところである。 そこで検討すると,確かに,審決が指摘するように,前段の規定は本願補正発明の連続処理方式の高度水処理方法が達成しようとする浄化の程度を「飲料水レベル」と規定するところではあるが,後段が規定している技術的事項は,オゾンによる有害物質の酸化分解工程であり,オゾン処理のみにより前段に規定する浄化レベルを達成するものであるか否かについての記載は請求項中に存在しない。そして,かかる記載振りに加え,一般に,特許請求の範囲の記載において,当該発明の構成特定事項の記載の前段に置かれる「・・・において,」とするいわゆる「おいて書き」は,発明の属する技術分野や当該技術分野における従来技術を特定するなど,当該発明の前提を示すことを目的として記載される場合が多いことも勘案すると,上記前段部分の記載は,「飲料水レベルまで浄化する」ことを目的とする連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における水処理の一工程としてのオゾン処理に係る発明であると解する余地も十分あり得るのであり,審決のように本願補正発明のみによって上記目的を達成する発明を含むものと即断することは困難であるといわざるを得ない。 そこで,進んで本件補正に係る手続補正書(甲第10号証)の発明の詳細な説明の記載を参酌すると,同説明中には以下の記載がある。 「・・・処理対象水中の有害物質を分解処理する技術として,オゾン処理や過酸化水素水処理が知られている。これらの処理によれば,確かに有害物質が酸化分解され一応の成果を上げてはいるが,これらの処理技術の殆どは単にオゾンや過酸化水素を処理対象水に混入させたり,混入後に攪拌するだけであって,必ずしも十分な有害物質の分解効果を発揮できるとは言い切れないものであった。そして,現時点でも上述のようなダイオキシン類を含む有害物質は環境中の水系に益々増えてきているのであって,より高い処理効果を期待できる新たな高度水処理技術の到来が切望されていた。」(段落【0006】)「本発明は,以上のような要請に応えるべく発明されたものである。即ち,本発明は,従来の水処理技術のように単にオゾンを利用するだけでなく,より高い処理効果を発揮して人体からの排泄物を通じたダイオキシン類等の有害物質の悪循環を断ち切ることのできるオゾン処理を基本とする高度水処理技術を提供することを目的としている。」(段落【0007】)「【課題を解決するための手段】この目的を達成すべく,本発明による汚水の高度水処理方法は,ダイオキシン類,PCB等の有害物質を含む処理対象水に,平均粒径(気泡径)が0.5〜3ミクロンの微細気泡化したオゾンを接触させ処理対象水に含まれる前記有害物質を酸化分解するオゾン処理を実行することを,基本的な処理方法としている。そして,具体的な高度水処理装置として本発明は,平均粒径が0.5〜3ミクロンの微細気泡化したオゾンを滞留的に処理対象水に接触させて前記有害物質の酸化分解を行うオゾン処理装置を備えることを特徴としている。」(段落【0008】)「上記のような本発明の高度水処理方法及び装置で対象としている『処理対象水』としては,ヘドロや土壌を含む排水,屎尿,家畜糞尿を含む下水,家庭雑排水,医療排水,製紙排水,工場排水などの汚染度の高いものから,河川や湖沼の水や,浴場,プール等に用いられる汚染度の低い水まで含まれる。つまり,有害物質を分解する処理なので,有害物質を含む処理対象水である限り,その汚染源が何であるかの種類は問わない。」(段落【0010】)「本発明の高度水処理方法及び装置は,以上のように,微細気泡化したオゾンによる強酸化力を利用して処理対象水中の有害物質をほぼ酸化分解することができるが,本発明ではさらに,処理対象とする汚水に応じて過酸化水素水処理,電気分解処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理(炭化濾材処理)を有意に組み合わせて行うことで,さらに一層効果的な有害物質の分解処理を行うようにしている。」(段落【0016】)「ここで処理する汚水は比較的汚染負荷が低いので,オゾン処理で有害物質を殆ど分解処理できるが,オゾン処理を行ってもなお残留する有害物質を紫外線照射処理される処理対象水には,前段のオゾン処理で混入した微細気泡化されたオゾンが含まれているので,酸化力の高いヒドロキシラジカル(OH )をより多く生成することができ,高い分解処理効果を発揮でき-る。そして,この後に炭化濾材接触処理を行うことで処理対象水中に含まれるアルミ,ヒ素,カドミウム等の重金属類を吸着除去する。これに使用する炭化濾材としては,杉,松,桧等の複数の針葉樹を原料として800℃〜900℃の高音帯で炭化することによって得られた針葉樹炭化濾材を使用すると,非常に吸着効果が高まる。こうした一連の処理を経ると,飲料水レベルまで浄化された水を得ることができる。また,この処理方法及び装置によれば,比較的簡略な処理で十分な処理効果を発揮でき,コストも低廉に抑えることができる。」(段落【0018】)「ここで処理する汚水は比較的汚染負荷が高く,し尿を処理する必要性があることから,臭気やし尿残査を処理するための過酸化水素水処理をオゾン処理に先だって行うようにしている。そして,この場合には,処理系内で処理対象水から発生する臭気エアーを,平均粒径が0.01〜0.02mm程度となる気泡として前記過酸化水素水に混入し酸化分解するとよい。臭気エアーを微細気泡化することで,過酸化水素水による酸化分解を高効率で行えるからである。高効率処理という点では,処理対象水のPH値を8〜10に予め調整しておくとさらに良く,処理対象水中に少なくとも金,酸化銅又は酸化鉄の何れか一つを投入して過酸化水素水よる酸化処理を促進させるようにしてもさらに良い。そして,こうした過酸化水素水処理に続けて,上述のようなオゾン処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理を行うことで,処理対象水を飲料水レベルまで浄化することができる。」(段落【0020】)以上の各記載によれば,本願補正発明による汚水の高度水処理方法は,オゾン処理を基本とした高度水処理技術の提供であり,処理対象水の汚染の程度に応じて,オゾン処理に加えて,過酸化水素水処理,電気分解処理,紫外線照射処理,炭化濾材処理等の各種の浄化工程を予定しているものであることは明らかというべきである。そうすると,これらの記載を総合すると,本願補正発明は連続処理方式の高度水処理方法の技術分野における基本工程としてのオゾン処理に関する発明であると認めるのが相当であり,同補正発明に係る特許請求の範囲の請求項1の前段の記載があるからといって,オゾン処理のみで前段の浄化レベルを達成する発明を包含することになったものでないことは明らかというべきである。 もとより,上記認定の記載中にもあるとおり,浄化の対象となる処理対象水によって汚染レベルは様々であり,汚染レベルの低い処理対象水については,オゾン処理を行うことによって,「所望の浄化レベル」に到達することもあり得るところである。しかしながら,このことは,本願補正発明のように「飲料水レベルまで浄化」する場合だけでなく,本願発明のように「浄化」する場合においても起こり得ることであり,前者の場合において,「所望の浄化レベル」の内容が若干具体的に記載されているにすぎないものである。 したがって,本件補正に係る補正事項について,「請求項1に『ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する』という事項を記載することにより,請求項1に係る発明を,オゾン処理のみにより,『ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する』ものを含む発明とするもの」との審決の理解は,誤りであるといわざるを得ない。 そして,審決は,補正事項についての上記のような誤った理解に基づいて,本願補正発明は,オゾン処理のみにより,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」発明を含むところ,かかる発明は当初明細書等に記載された事項の範囲内のものということはできないとし,その余の点を検討するまでもなく,本件補正を却下すると判断しているのであるから,上記に説示したところから明らかなように,審決は本件補正についての判断を誤ったものというほかない。 2なお,被告は,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項を追加することが新規事項の追加に該当するものでもあると主張するので,念のためにこの点についても検討する(ただし,上記1のとおり,審決は「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」との補正事項が新規事項となるかどうかについて何ら判断を示していないから,仮に被告の主張が認められても,本件補正を却下した審決の判断が誤りであることに変わりはない。)。 本件特許出願に係る願書に最初に添付した明細書(甲第4号証。以下「当初明細書」という。)には次の記載がある。 「その一つの処理タイプは,上水道,プール,浴場,河川等のように比較的汚染負荷が低い汚水の高度処理に好適な例で,この例ではオゾン処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理をこの一連の順で行う高度水処理方法及び装置として構成している。なお,紫外線照射処理とは,紫外線照射による脱塩素化反応で,有害塩化物を分解処理するものである。炭化濾材処理とは,特殊濾材により処理対象水中に残存する有害物質を吸着除去するものである。 ここで処理する汚水は比較的汚染負荷が低いので,オゾン処理で有害物質を殆ど分解処理できるが,オゾン処理を行ってもなお残留する有害物質を紫外線照射処理によって分解するようにしている。そして,紫外線照射処理される処理対象水には,前段のオゾン処理で混入した微細気泡化されたオゾンが含まれているので,酸化力の高いヒドロキシラジカル(OH-)をより多く生成することができ,高い分解処理効果を発揮できる。そして,この後に炭化濾材接触処理を行うことで処理対象水中に含まれるアルミ,ヒ素,カドミウム等の重金属類を吸着除去する。これに使用する炭化濾材としては,杉,松,桧等の複数の針葉樹を原料として800℃〜900℃の高温帯で炭化することによって得られた針葉樹炭化濾材を使用すると,非常に吸着効果が高まる。こうした一連の処理を経ると,飲料水レベルまで浄化された水を得ることができる。また,この処理方法及び装置によれば,比較的簡略な処理で十分な処理効果を発揮でき,コストも低廉に抑えることができる。 また他の処理タイプは,し尿,下水道,農業集落排水等のように比較的汚染負荷が高い汚水の高度処理に好適な例で,この例では過酸化水素水処理,オゾン処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理を,この一連の順で行うようにした高度水処理方法及び高度水処理装置として構成している。なお,過酸化水素水処理とは,液体である過酸化水素水を,処理対象水中に混入する処理であり,過酸化水素水による酸化力で微生物等の殺菌を行い,有害物質を酸化するものである。 ここで処理する汚水は比較的汚染負荷が高く,し尿を処理する必要性があることから,臭気やし尿残査を処理するための過酸化水素水処理をオゾン処理に先だって行うようにしている。 そして,この場合には,処理系内で処理対象水から発生する臭気エアーを,平均粒径が0.01〜0.02mm程度となる気泡として前記過酸化水素水に混入し酸化分解するとよい。臭気エアーを微細気泡化することで,過酸化水素水による酸化分解を高効率で行えるからである。 高効率処理という点では,処理対象水のPH値を8〜10に予め調整しておくとさらに良く,さらに処理対象水中に少なくとも金,酸化銅又は酸化鉄の何れか一つを投入して過酸化水素水による酸化処理を促進させるようにしてもさらに良い。そして,こうした過酸化水素水処理に続けて,上述のようなオゾン処理,紫外線照射処理,炭化濾材接触処理を行うことで,処理対象水を飲料水レベルまで浄化することができる。 さらに,他の処理タイプは,特定工場の排水,廃棄物最終処分場の排水等のように有害な重金属類を含む汚水の高度処理に好適な例で,この例では過酸化水素水処理,電気分解処理,オゾン処理を,この一連の順で行う高度水処理方法及び高度水処理装置として構成している。なお,電気分解処理とは,酸化反応や脱塩素化反応では分解できないアルミ,ヒ素,カドミウムその他の重金属類を電気分解により処理するものである。 ここで処理する汚水は重金属類を含むため,上述の過酸化水素水処理を行ってから電気分解処理を行うようにしている。こうすることで,過酸化水処理を経た処理対象水中に残留している過酸化水素水によって電気分解をより高効率に行うことができる。こうして重金属類を除去した後,上述のオゾン処理を行うことで,処理対象水を飲料水レベルにまで浄化することができる。」(4頁22行〜6頁11行)「なお,以上のような各処理タイプは一連のものとして構成してあるが,勿論,各処理系に沈殿処理を行う沈殿処理槽を設けるようにし,処理対象水に含まれる不純物を沈殿除去するようにしてもよい。 また,曝気処理を行って処理対象水に含まれる有機汚濁の生物的処理を行うようにしてもよい。 但し,いずれの場合も本発明の高度水処理装置又は高度水処理方法によって得られる処理水は食品衛生法26項目の飲料水適格水質基準以上の水質を確保したものである。」(6頁24行〜7頁2行)これらの記載によると,当初明細書に記載されている「比較的汚染負荷が低い汚水」,「比較的汚染負荷が高い汚水」及び「有害な重金属類を含む汚水」を処理対象水とするそれぞれの「処理タイプ」において,所定の処理を行うことにより,いずれについても「飲料水レベルまで浄化」することができることが記載されているほか,沈殿処理槽を設けるタイプや曝気処理を行うタイプもあり得ることを記載した上,これらのタイプを含め,いずれの場合も「食品衛生法26項目の飲料水適格水質基準以上の水質を確保したものである」と記載されており,この記載は「飲料水レベルまで浄化」と同義であると認められる。 また,「本発明は,従来の水処理技術のように単にオゾンを利用するだけでなく,より高い処理効果を発揮して人体からの排泄物を通じてダイオキシン類等の有害物質の悪循環を断ち切ることのできるオゾン処理を基本とする高度水処理技術を提供することを目的としている。」(2頁15行〜19行)との記載があることからすると,当初明細書において,本願発明の高度水処理装置及び高度水処理方法の処理対象水における有害物質としてダイオキシン類が記載されているということができるのであり,上記引用に係る記載と併せ読めば,当初明細書には「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことが記載されていたと認められる。 したがって,「ダイオキシン類の含有量を飲料水レベルにまで浄化する」ことを付加する補正は,当業者によって,明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内において行うものであるということができる。 第5結論以上のとおりであって,取消事由1は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,本訴請求は理由があり,審決は取り消しを免れない。 |
裁判長裁判官 | 田中信義 |
---|---|
裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 杜下弘記 |