関連審決 | 不服2005-7569 |
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関連ワード | 一定の効果 / 使用方法 / 29条1項3号 / インターネット / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 周知技術 / 慣用技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 実施 / 混同 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 忌避 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10397号
審決取消請求事件
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原告東 日本メディコム株式会社 訴訟代理人弁理 士橋本克彦 被告特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人川本眞裕 同 阿部寛 同 高木彰 同 内山進 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/05/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2005-7569号事件について平成19年10月22日にした審決を取り消す。 第2事案の概要1本件は,原告(旧商号 埼玉メディコム株式会社)が名称を「薬袋」とする後記発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 ,,(「」, 2 争点は 本願発明が 特開平9-85857 発明の名称 薬袋印刷装置出願人 株式会社湯山製作所,公開日 平成9年3月31日。以下「引用例」といい,そこに記載された発明を「引用発明」という。甲3)との関係で進歩性(特許法29条2項)を有するか,である。 第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成12年1月11日,名称を「薬袋」とする発明につき特許出願(特願2000-2253号,以下「本願」という。公開特許公報〔特開2001-190640号〕は甲1の1)をしたところ,平成17年3月22日付けで拒絶査定を受けたので,平成17年4月27日付けでこれに対する不服の審判請求をした。 特許庁は,同請求を不服2005-7569号事件として審理した上,平,「,」, 成19年10月22日本件審判の請求は 成り立たない との審決をしその謄本は平成19年11月12日原告に送達された。 (2) 発明の内容本願の特許請求の範囲は,請求項1ないし3から成るが,そのうち請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という )は,次のとおりである。 。 「 請求項1】処方された薬剤を収納するとともに表面に患者名や前記 【薬剤の情報などが印刷された薬袋において,患者毎にそれぞれ異なる色のマークが印刷されていることを特徴とする薬袋 」。 (3) 審決の内容ア 審決の詳細は,別添審決写しのとおりである。 その理由の要点は,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 イなお審決は,引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点と相違点を次のとおりとした。 〈引用発明の内容〉「処方された薬剤を収納するとともに表面に患者名や用法等が印刷された薬袋において,患者名の違いに応じて印刷色を変更した薬袋 」。 〈一致点〉「処方された薬剤を収納するとともに表面に患者名や前記薬剤の情報などが印刷された薬袋において,患者毎にそれぞれ異なる色の識別手段が印刷されている薬袋 」である点。。 〈相違点〉本願発明では,識別手段が「異なる色のマーク」であるのに対し,引用発明では,識別手段が「異なる色の患者名」である点。 (4)審決の取消事由しかしながら,審決は引用発明の認定を誤り,本願発明の進歩性についての判断を誤ったから,違法として取り消されるべきである。 ア 取消事由1(引用発明及び一致点の各認定の誤り)(ア)審決は,引用例には 「患者名の違いに応じて印刷色を変更する」こ ,とが記載されているとし,これが本願発明における「患者毎にそれぞれ異なる色の識別手段が印刷されている」点で一致すると認定するが,誤りである。以下のとおり,患者名は違いに応じて印刷色を変更する印刷事項ではない。 すなわち,引用例(甲3)には,印刷事項の違いに応じて印刷色を変更することが記載されているが,その例示として挙げられている印刷事項は「外用薬と内服」という点であり,患者名は挙げられていない。通常,外用薬か内服薬かという区別や用法(朝,昼,夜)によって印刷色を変更することはあっても,患者名を色分けすることはないし,実際にも,引用例を含めて患者名ごとに色彩を変えて印刷された薬袋は本件の出願前には1つも存在しない。仮に引用発明において患者名の違いに応じて印刷色を変更することが予定されているのであれば,その旨が第一に例示されるべきであり,このような例示がない以上,当業者において引用例の上記記載から患者名を色分けすると理解することはあり得ない。なお,当業者において「患者名」について「印刷色を変更しない」ことが本件出願時の技術常識であり,慣用技術であることは,薬袋の印刷見本に関するカタログやインターネットのウェブサイト上の記載からも明らかである(甲8〜18 。)また,印刷事項の違いに応じて印刷色を変更する作用・効果は,例示された「外用薬と内服」の場合でいえば服用の間違いをなくすという点にあることは周知であり,かつ,そのような印刷色の変更は通常行われていることである。これに対し 「患者名」について患者毎に色を変更 ,して印刷する意義は知られておらず,色付きの患者名が記載された薬袋の作用・効果についての記載も引用例には一切ない。 さらに,引用発明は,外用薬は赤色,内服薬は黒色等,予め印刷色を定めておくことでこれを区別し,誤認を防ぐことを想定しているのに対, , し 患者名の場合は予めだれが何色と患者毎に定めておくものではなく色によって区別することは考えられないし,引用例のような薬袋印刷機を用いて薬袋を発行するような薬局において,患者の数だけそれぞれ異,。,, なる色で印刷することは不可能であり 現実的でもない しかも 通常人が視覚により認識可能な色彩の数は限られており,特に一見して区別することができる色彩は2〜7色程度であるから,不特定数の患者毎に異なる色で印刷するという発想自体があり得ない。 要するに,審決の上記認定は,引用例に記載されている「患者名が印刷事項であること」と「印刷事項の違いに応じて印刷色を変更する」という文言だけを根拠として,特許法29条1項3号に規定する「刊行物に記載された発明」であるとしたものであるが,薬袋における各印刷事項の役割など他の技術的な根拠等は一切考えておらず,同号の要件を満たすものでないことは明らかである。 なお,引用例に記載された薬袋では印刷事項として患者名,用法,注意事項,日付,病院名等があり,このうち患者名,日付,病院名等を印刷事項から排除すべきであるとする記載も示唆もない。そうすると,審決の論理に従えばこれらすべてを印刷事項の違いに応じて印刷色を変更すべきことになるが,これが誤りであることは明らかである。また,引用例において印刷色を変更する例として挙げられた「外用薬と内服」は「用法」についての印刷事項の一部であって,その意味でも印刷事項のすべてが印刷色を変更する対象となるとすることは誤りである。 (イ)審決は,プリントアウトされた薬袋が特定の患者のものであるかどうかの確認作業は薬局側で必ず行うべきことであり 引用発明における 異 ,「なる色の患者名」と本願発明における「異なる色のマーク」とは,どちらも患者毎の薬袋を識別するための識別手段となり得るものであるから,両者は「患者毎にそれぞれ異なる色の識別手段が印刷されている」点で一致すると認定する。 しかし,本願発明における「異なる色のマーク」は,プリントアウトされた薬袋が特定の患者のものであるかどうかの確認のために使用するものではなく,一定数の印刷された薬袋において少なくとも同一患者についての薬袋であるか否かを確認するためのものである。すなわち,本願発明における「異なる色のマーク」は薬袋に記載されている患者名を確認しなくても特定患者の薬袋のグループと他の患者の薬袋のグループとを薬局の流れ作業の中で瞬時に確認するために設けられるものであって,逐一患者名を確認するのであれば本願発明における「異なる色のマーク」は用をなさない。 したがって 引用発明の 異なる色の患者名 と本願発明における 異 ,「」「なる色のマーク」とは,どちらも患者毎の薬袋を識別するための識別手段となり得るという点で一致しているかもしれないが,その識別目的は全く異なる。 イ 取消事由2(相違点に関する判断の誤り)(ア)審決は,本願発明と引用発明との相違点に関し,本願発明では,識別手段が「異なる色のマーク」であるのに対し,引用発明では,識別手段が「異なる色の患者名」である点で相違すると認定し,さらに,多数の物品の中から特定の物品を素早く識別できるようにするために,物品毎に色のマークを付けることは周知技術であるとする。 しかし,審決が周知技術として挙げる公報に記載された発明は,携帯用薬ケース(特開平6-237973号公報,発明の名称「携帯用薬ケース ,出願人 株式会社前田模範堂,公開日 平成6年8月30日。以 」下「甲4公報」という,アンプル包装体(実開昭62-64540号 。)公報,考案の名称「識別可能なアンプル包装体 ,出願人 凸版印刷株式 」会社及びメクト株式会社,公開日 昭和62年4月22日。以下「甲5公報」という,アンプル(実開昭62-64541号公報,考案の名 。)称「底部に識別部分を有するアンプル ,出願人 凸版印刷株式会社及び 」メクト株式会社,公開日 昭和62年4月22日。以下「甲6公報」という )に関するものであり,いずれも薬袋,それも印刷に関するもの 。 ではない。 また,甲4〜甲6公報記載の発明は,例えば容器と蓋体との誤認を防ぐ目的や内容物を確認する目的など,いずれも予め色彩と内容物とを関連付けて誤認を防ぐことを目的とするものであって,多数の物品の中から特定の物品を素早く識別できるようにすることを目的とするものではない。 これに対し,本願発明は物品に直接印刷するものであって,印刷するマークの色も特定の薬袋について特定の色彩が定められているわけではなく,上記公報に記載の発明とは全く異なる発想を持つものである。 (イ)また審決は,患者毎の薬袋を識別するための識別手段として 「異な,る色のマーク」を用いるか「異なる色の患者名」を用いるかの違いにより作用効果の点で格別顕著な差異がないことから 引用発明において 異 ,「なる色の患者名」に代えて「異なる色のマーク」を採用することは当業者の適宜なし得ることであり,設計的事項にすぎないとする。 しかし,従来,薬袋の表面において患者名が記載される位置は中央付近であるから,引用発明における「異なる色の患者名」を用いた場合に, , は 多数枚が重ねられた状態の薬袋について患者名の部分を確認する際重ねられている薬袋を一々めくる必要があり,確認作業がきわめて煩雑となる。これに対し,本願発明のように「異なる色のマーク」を用いた, , 場合には 薬袋の隅や端等のスペースに印刷することができることから薬袋を重ねたままの状態で確認作業が行えるので確認作業が簡単であり,その後の薬剤投入作業に支障を来す心配もない。 また,本願発明のように「異なる色のマーク」を用いた場合には印刷位置を変えて印刷することにより同じ色で印刷されても更に明確な識別が可能であり,多量に印刷した場合や少ない色により実施する場合にも対応できるが,引用発明のような「異なる色の患者名」を用いた場合には印刷位置で識別することはできない。 さらに,引用発明のような「異なる色の患者名」を用いた場合には異なる患者の分だけの色を割り振る必要があり,また,印刷する各患者毎に印刷する色の情報を患者情報や他の薬剤情報とともに印刷機に送信する必要があり,きわめて複雑なプログラムと操作が要求される。これに対して,本願発明のように「異なる色のマーク」を用いた場合にはそのような必要はなく,患者毎に少なくとも2色のマークを順次,機械的に繰り返して印刷すればよく,きわめて簡単であり,少なくとも2色プリンタがあれば実施することができる。 しかも,引用発明における「異なる色の患者名」を用いた場合には特定の患者の薬袋であることを確認するだけであるが 「異なる色のマー ,ク」を用いた本願発明では,引用発明において外用と内服のように予め色を定めたように,特定事項を表示するためのマークの形状を予め定めておくことによりマークを印刷するだけで薬剤の用法や種類,発行時期等の識別表示を同時に表示することができるので,薬剤師や患者はマークの形状により収容される薬剤についての情報も簡単に識別することができる。 このように,患者毎の薬袋を識別するための識別手段として 「異な,る色のマーク」を用いる場合と「異なる色の患者名」を用いる場合とでは,作用効果の点で著しい差異があり,引用発明において識別手段として「異なる色の患者名」に代えて「異なる色のマーク」を採用することは,当業者において必要に応じて適宜なし得ることではない。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実はいずれも認めるが,同(4)は争う。 3 被告の反論審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 (1) 取消事由1に対しア原告は,引用例には患者名の違いに応じて印刷色を変更することは記載されていないと主張するが,引用例(甲3)には 「患者名,用法等の所 ,定事項を印刷する (段落【0024 )との記載があり,印刷事項の代表 」】例として「患者名」が挙げられている。そして,引用例には 「印刷事項 ,の違いに応じて印刷色を変更する」との記載があることから,結局,引用例には 「患者名の違いに応じて印刷色を変更する」ことが記載されてい ,る。また,引用例では,印刷事項として患者名と用法等とを区別しておらず 患者名だけを排除すべきであるとする記載も示唆もないことから患 , ,「者名」が,印刷色を変更する印刷事項の一つに含まれないとする理由はない。 イこれに対し原告は,引用例における「印刷事項の違い」とは,誤認を防ぐことができるような印刷事項を想定しているものであるのに対し,患者名は予め誰々が何色と患者毎に定めておくものでなく,また,色によって区別することは考えられないと主張する。 しかし,薬袋は,薬局においてプリンタで印刷され,その後にその薬袋に薬剤が入れられることは明らかであるから,薬袋に印刷された印刷事項は,当然,薬局内での作業効率の向上や誤認を防ぐ等の目的のためのものである 引用例に 印刷色を変更する 対象となる 印刷事項 として 外 。「」「」「用薬と内服」が例示されているのも,薬袋が外用薬の薬袋か内服の薬袋かを,色の違いによって識別しやすくすることにより,薬局内で薬袋に薬剤を入れ間違えないようにし,もって効率よく作業を進めるためである。 そうすると,引用例に接した当業者であれば 「印刷色を変更する」対 ,象となる「印刷事項」とは,薬局内での作業効率の向上や誤認を防ぐ等のために識別しやすくする必要がある事項である,と当然に理解するはずである。 しかも,薬局において,プリンタで複数の薬袋を印刷する場合,ある患者の薬袋を他の患者の薬袋と間違わないようにするために複数の薬袋を患者毎に一つにまとめることは周知であるから(特公平7-10603号公報〔発明の名称「薬袋印字装置の制御方法 ,出願人 株式会社東京商会, 」公告日 平成7年2月8日。以下「乙1公報」という,特開平3-22。〕1482公報〔発明の名称「薬袋印字装置 ,出願人 株式会社ユニフア, 」公開日 平成3年9月30日。以下「乙2公報」という,特開平6-3。〕〔「」,, 15515公報 発明の名称 薬袋印字装置出願人 株式会社東京商会公開日 平成6年11月15日。以下「乙3公報」という,当業者であ。〕)れば,引用例の「印刷事項の違いに応じて印刷色を変更する」との記載に基づき 「違いに応じて印刷色を変更する印刷事項」として「患者名」を ,選ぶことにより,ある患者の薬袋を他の患者の薬袋と間違わないようにしようとすることは,当然考えられるものである。 ウまた原告は,人が視覚により認識可能な色彩の数は限られているから,不特定数の患者毎に異なる色で印刷するという発想自体があり得ないと主張するが,必要とされる色の数は作業に必要な数だけ用意すれば十分であるから,識別の手段として色を利用する場合,限られた色を選択することは当然である。引用例(甲3)における「印刷データとしては,処方箋データ,患者名,用法は勿論のこと,選択する薬袋データも含まれ,印刷事項の違い(例えば,外用薬と内服)に応じて印刷色を変更するようにしてもよい(段落【0024 )との記載における印刷色も識別のための手 。」】段として記載されているのであるから,当該印刷色も当然限られた色を選択するものである。審決の 「結局,引用例には 『患者名の違いに応じて ,,印刷色を変更する』ことが記載されているといえる(2頁23行〜24 。」行)との記載もこれを前提とするものであって,患者名の数だけの色を用意してそれぞれの患者に特有の色を割り当てることを意図するものでないことは明らかである。 エさらに原告は,引用発明における「異なる色の患者名」と本願発明における「異なる色のマーク」とは,どちらも患者毎の薬袋を識別するための識別手段となり得るという点において一致しているとしても,その目的は全く異なると主張する。 しかし,引用発明は 「患者名の違いに応じて印刷色を変更した薬袋」 ,であり 「異なる色の患者名」が患者毎の薬袋を識別するための識別手段 ,となり得ることは明らかであり,そのことは原告も認めているところである。そして 「異なる色の患者名」は,薬袋に記載されている患者名を逐 ,一読んで確認しなくても,患者名の色を見ただけで特定患者の薬袋のグループと他の患者の薬袋のグループとを薬局の流れ作業の中で瞬時に確認することができることも明らかである。 そうすると 「異なる色のマーク」と「異なる色の患者名」とはどちら ,も「異なる色の識別手段」であり,識別目的についても格別な差異はないということができるから,原告の主張は理由がない。 (2) 取消事由2に対しア原告は,審決が周知技術として挙げる公報に記載された発明は,いずれも薬袋,それも印刷に関するものではなく,また,同公報記載の発明は,いずれも多数の物品の中から特定の物品を素早く識別できるようにすることを目的とするものではないと主張する。 しかし,審決は,本願発明の「異なる色のマーク」と引用発明の「異なる色の患者名」とは「異なる色の識別手段」という概念において共通するとし 「多数の物品の中から特定の物品を素早く識別できるようにするた ,めに,物品毎に色のマークを付けること」が周知技術であるとした上で,識別手段として「異なる色の患者名」に代えて「異なる色のマーク」を採用することは,当業者であれば必要に応じて適宜なし得ることである,としたものである。そして,審決は 「異なる色の識別手段」としての「異 ,なる色のマーク」が周知技術であるとし,当該技術が記載されている公報を例示したにすぎない。 すなわち,引用発明における「異なる色の患者名」は,薬局において,ある患者の薬袋を他の患者の薬袋と間違えないようにするためのものであるから,多数の薬袋の中から特定の患者の薬袋を素早く識別できるようにするという機能を有しているということができる。そうすると,引用発明における「異なる色の患者名」は,多数の物品の中から特定の物品を素早く識別できるようにするという,上記周知の「異なる色のマーク」と同様の機能を有するものであり,これらは「異なる色の識別手段」という概念,,,「」 において共通するから 審決は 引用発明において異なる色の患者名に代えて「異なる色のマーク」を採用することは,当業者が必要に応じて適宜なし得ることである,としたのである。 そして,審決が挙げた周知例のうち甲5公報には 「…病院等で実際に ,アンプルを使用する場合には種々のアンプルを一纏めにして直立させて作業しているので,胴の部分に表示された内容を確認するにはアンプルをひとつひとつ取りあげる必要があり,誤使用を防ぐためにアンプルの頭部に。」(), 色別の印を付ける等の処置をとっている2頁2行〜8行 と記載され甲6公報にも同様の事項が記載されている。これらの記載からも明らかなように,多数の物品の中から特定の物品を素早く識別できるようにするために,物品毎に色のマークを付けることは従来周知の技術であったということができるから,原告の上記主張は理由がない。 また,審決が周知技術として挙げた公報に記載された技術が薬袋に関するものではないとの原告の主張は,周知技術と直接関係せず,審決の判断に何ら関係しない事項であるから,理由がない。 イ原告は,患者毎の薬袋を識別するための識別手段として「異なる色のマーク」を用いる場合と「異なる色の患者名」を用いる場合とでは作用効果に著しい差異があると主張する。 しかし,原告主張のうち薬袋の表面に印刷される患者名は中央に限られるとする点は,その根拠が不明である。 また,本願発明について 「異なる色のマーク」を用いた場合には薬袋 ,の隅や端等のスペースに印刷することができるとする点は 「異なる色の ,マーク」の印刷位置について請求項1には何ら特定されていないから,請求項1の記載に基づくものではない。 ,, , 仮に 原告主張のとおり 薬袋に印刷するに当たり患者名は中央位置にマークは隅や端等のスペースに印刷するものであるとしても,薬袋の隅や端等のスペースにマークを設けることは従来周知である(例えば実開昭60-45034公報〔考案の名称「薬袋 ,出願人 株式会社東京商会,公 」開日 昭和60年3月29日,乙4〕の第1図を参照)から,その点は,引用発明に該周知技術を適用することにより当業者が容易になし得ることであり,その効果も,引用発明及び該周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって格別顕著なものではない。 さらに,原告の主張のうち 「異なる色の患者名」を用いた場合には異 ,なる患者の分だけの色を割り振る必要があることを前提とするものについては,上記(1)ウのとおり,審決の判断は,患者名の数だけの色を用意して,それぞれの患者に特有の色を割り当てることを意図しているものではないから,前提において理由がない。 同様に,原告の主張のうち,本願発明のマークの形状を予め定めておくことを前提とするものについては,請求項1には当該事項について何ら特定されていないから,前提において理由がない。なお,仮に本願発明がマークの形状により原告主張のとおりの効果を奏するものであるとしても,薬剤の用法や種類を表示するために薬袋にマークを設けることは従来周知であること(例えば前記乙4の8頁16行〜9頁4行,9頁7〜16行の記載を参照)を考慮すると,その効果は,引用発明及び該周知技術から当業者が予測し得る程度のものにすぎず,格別顕著なものではない。 第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(審決 ))の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 2 本願発明の意義(1) 本願発明は,前記1(2)によれば,次のとおりである。 「処方された薬剤を収納するとともに表面に患者名や前記薬剤の情報などが印刷された薬袋において,患者毎にそれぞれ異なる色のマークが印刷されていることを特徴とする薬袋 」。 (2) 一方,本願明細書(甲1の1)には次の記載がある。 ア 発明の属する技術分野「 0001】本発明は,病院等で作成された処方箋に基づいて患者に与えられる 【薬剤を収納する薬袋に関するものである 」。 イ 従来の技術「 0002】【【従来の技術】従来より,患者は,病院や診療所で医師によって薬剤を処方され,その処方箋に基づいて,院内または院外の薬局で薬剤が与えられる。 【0003】そして,薬剤は,通常,薬袋に収納され,近年,その薬袋には,患者の氏名や用法,用量等使用方法の指示に加えて,処方される薬剤の情報等を表示するために,それらをプリンタによって印刷することが多くなっている。 【0004】また,通常,患者は複数の薬剤を処方されることが多く,それらの薬剤の効能や用法が各々異なる場合には,混同しないために,薬剤毎に異なる薬袋に収納することが行われる。更に,この場合,薬剤の種類や服用日数等によって薬袋の大きさや種類を変えて,薬剤師が薬袋を収納する際や患者へ服薬を指導する際に確認しやすいようにされることが多い 」。 ウ 発明が解決しようとする課題「 0005】【【発明が解決しようとする課題】ところが,一人の患者について複数の薬が処方された場合に,プリンタの排出口にたまった薬袋の中から,ひとつひとつ患者名を確認しながら特定の患者の薬袋を探し出して各患者毎に薬袋をまとめるという作業は,極めて面倒で時間のかかるものであった。殊に,異なる種類の薬袋を異なる複数のプリン,, , , タで印刷する場合 更に 大規模な薬局においては 混雑時には大勢の患者が集中し薬局業務の効率向上を図らなければ,更なる混雑を招くこととなっていた 」。 エ 課題を解決するための手段「 0006】【【課題を解決するための手段】そこで,本発明は,処方された薬剤を収納するとともに表面に患者名や薬剤情報が印刷される薬袋に,患者毎にそれぞれ異なる色のマークを印刷することとした。 【0007】例えば薬袋の上端部等に,患者毎に異なる色のマークが印刷されることによって,多数の薬袋の中から特定の患者のものを素早く見つけ出すことができるので,薬局内の業務が効率化される 」。 オ 発明の実施の形態「 0010】【【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。 …【0017】以下,患者が処方箋を提出してから薬剤が薬袋に収納されて患者に渡されるまでの手順の一例を説明する。 【0018】患者が処方箋を薬局の受付に提出すると,先ず,処方箋に,薬袋に印刷されるのと同じ色および位置にマークが印刷される。必要によっては,受付番号も印刷され,患者に番号札が渡される。 【0019】薬局の入力担当者は,処方箋に基づいて,患者名や薬剤の用法,用量などの指示を入力するとともに,薬剤情報等の必要な薬剤名を選択して,これらの情報をカラープリンタで薬袋に印刷する。一方,薬剤師は,処方箋通りの薬剤を調剤したり選び出したりする。 【0020】処方箋通りの薬剤が揃ったら,プリンタの排出口から,処方箋に印刷されたマークと同じマークが印刷された薬袋を探し出して患者毎にまとめて取り出し,その薬袋に薬剤を収納し,まとめておく。プリンタの排出口に多くの薬袋がたまっていても,患者毎にマークの色や位置等が異なるので,一見して見つけやすく,患者の氏名等をひとつずつ確かめる作業に比べて,著しく効率がよい。 【0021】そして,待機している患者の名前または番号札の番号が呼び出され,患者は薬剤を渡されるとともに,薬剤師から薬剤についての説明をされる。このとき,患者毎にマークの色が決められているので患者は自分の薬を確認でき,また,誤って他人の薬を持ち帰る心配がない 」。 カ 発明の効果「 0023】【【発明の効果】本発明によると,薬袋に各患者毎に異なる色のマークを印刷しておくことによって,患者名や薬剤情報等が印刷された多くの薬袋のうち,特定の患者の薬袋を素早く見つけだすことができるので,薬局業務の効率が向上し,薬局の混雑緩和にも役立つ 」。 (3)以上によれば,本願発明は,病院等で作成された処方箋に基づいて患者に与えられる薬剤を収納する薬袋に関するものである。そして,本願発明は,一人の患者について複数の薬が処方された場合に,プリンタの排出口に蓄積された薬袋から特定の患者の薬袋を抽出して各患者毎に薬袋をまとめる作業を行う際,患者名の記載を逐一確認しながら行うことは効率的でないため,薬袋の印刷段階で患者毎にそれぞれ異なる色のマークを印刷すること,例えば薬袋の上端部等に患者毎に異なる色のマークを印刷することによって,プリンタの排出口に蓄積された多数の薬袋の中から特定の患者のものを素早く見つけ出すことを可能にし,もって薬局内の業務を効率化しようとするという意義を有するものであると認められる。 3 取消事由1(引用発明及び一致点の各認定の誤り)について(1)原告は,審決が引用例(甲3)に「患者名の違いに応じて印刷色を変更する」ことが記載されているとし,これが本願発明における「患者毎にそれぞれ異なる色の識別手段が印刷されている」点で一致すると認定したことが誤りであると主張する。 そこで,引用例(甲3)をみると,引用例には次の記載がある。 ・「 請求項1】異なる種類毎に薬袋が収容される複数の薬袋収容手段と,前記 【薬袋の所定箇所に印刷する薬袋印刷手段と,前記薬袋収容手段から薬袋を前記薬袋印刷手段に導く薬袋搬送手段と,入力された印刷データに基づいて前記薬袋収容手段のいずれかを選択し,前記薬袋搬送手段によって薬袋を前記薬袋印刷手段に搬送し,該薬袋印刷手段で所定事項の印刷を行わせる制御手段とを備えたことを特徴とする薬袋印刷装置 」。 ・「 発明の属する技術分野】本発明は,病院の薬局で受け取る薬袋に,患者名, 【用法,注意事項,日付,病院名等を印刷するために使用する薬袋印刷装置に関するものである(段落【0001 ) 。」】・「前記プリンタ4は…搬送されてきた薬袋1に予め入力された印刷データに基づいて患者名,用法等の所定事項を印刷する。印刷データとしては,処方箋データ,患者名,用法は勿論のこと,選択する薬袋データも含まれ,印刷事項の違い(例えば,外用薬と内服)に応じて印刷色を変更するようにしてもよい。… (段落【0 」024 )】以上によれば,引用例には,病院の薬局で印刷し,患者に交付する薬袋に関し,印刷事項として患者名,用法,注意事項,日付,病院名等を列挙した上で,これら印刷事項の違いに応じて印刷色を変更することが記載されている。そして,患者名も印刷事項の一つとされているから,患者名の違いに応じて印刷色を変更することもまた引用例の上記記載に含まれると認められる。 (2)アこれに対し原告は,患者名は通常,印刷色を変更する印刷事項ではない旨主張する。もとより,引用例における記載の文理上から上記(1)のようにいえるとしても,薬袋において患者名の違いに応じて印刷色を変更することに格別の意義が見出せないというのであれば,当該事項は実質的に引用例に開示されていないとみる余地もあるが,以下のとおり採用することができない。 イすなわち,薬袋において印刷事項に応じて印刷色を変更することの意義, 。, は 当該印刷事項の識別性を高める点にあることは明らかである そして, 。 乙1〜乙3公報には 薬袋における患者名の識別性に関し次の記載がある(ア) 乙1公報「 発明が解決しようとする課題] [しかしながら,1台のプリンタで単位時間あたり処理できる薬袋の枚数にはおのずから限度があり,一方,1人の患者に対して薬袋が複数枚必要な場合もかなりあるため,患者数の多い病院では,薬袋直接印字方式を採用する場合,使用するプリンタの台数が1台だけでは,処理速度が遅過ぎるうえ,種々の種類や大きさの薬袋への対応が困難である等の問題点があった。 この発明は上記従来のもののもつ問題点を解決して,複数台のプリンタを使用して,各患者に対する必要な薬袋に所要の明示事項を短時間で効率よく印字し,しかも,それらの薬袋を患者ごとに明確に区別して処理することのできる薬袋印字装置の制御方法を提供することを目的とするものである。 [課題を解決するための手段]この発明は上記目的を達成するため,プリンタを複数台具えた薬袋印字装置において,任意の患者に対する所要の薬袋を印字する際,併せて当該患者の処方箋を印字し,この処方箋を利用して,当該患者に対する薬袋を他と区別するものである。 [作用]この発明は上記手段を採用したことにより,複数台のプリンタによって,各患者に対する必要な薬袋に所要の明示事項が短時間で効率よく印字され,しかも,併せて印字される処方箋によって,それらの薬袋が患者ごとに明確に区別して処理されることとなる(2頁左欄17行〜42行) 。」(イ) 乙2公報「 ロ)従来の技術 (従来,病院の薬局においては,各医師が処方した処方箋に従って調剤し,これを患者に投薬するのであるが,上記薬剤を収納する薬袋に患者名,用法等のデータは手書きによって行われていた。 (ハ)発明が解決しようとする課題ところが,大病院では人手不足のために,患者が診察室での診療を終えてから投薬を受るまでの待ち時間が非常に長いという問題がある。 特に,最近では投薬の種類が増え,その為に薬袋のサイズも多くなり,薬袋に患者名,用法等を記入するのに手間がかかるため,待ち時間が更に延びている。 また,薬袋書き作業のために,薬剤士の負担が大きくなり,薬剤士本来の業務である調剤業務の支障になるという問題がある。 (ニ)課題を解決するための手段本発明では,複数の診療科に配設されたターミナルコンピュータに入力側で接続したホストコンピュータの出力側と,各給紙部にそれぞれ異なるサイズの薬袋を供給した複数個のプリンタとを,ホストコンピュータから入力した処方箋のデータに基づき,一患者ごとに適切な薬袋のサイズ及び必要枚数を判断する機能と,複数個のプリンタの内から,上記サイズの薬袋を給紙部に供給されたプリンタを選んでそのプリンタに患者名,用法等のプリントデータを出力する機能とを有するコントローラを介して接続したことを特徴とする薬袋印字装置と,上記各プリンタの排紙部に搬送装置を連結して,プリント済薬袋を一箇所の薬袋取出し部に集積する薬袋用, , , プリンタと 上記プリンタの制御に関し 各プリンタと搬送装置の作動を制御して一患者に支給するプリント済薬袋を処方箋に記載された順序で集積させることと,ホストコンピュータに入力された処方箋の順序でプリント済薬袋を集積させることと,一処方箋中に同一用法の薬袋を使用する二種類以上の薬剤が記載されている場合は,患者名及びこれらの薬剤の用法等を集約して一枚の薬袋にプリントすることを特徴とする薬袋印字装置制御方法とを提供せんとするものである(2左上欄7。」行〜左下欄11行)「更に,各プリンタと搬送装置の作動を制御して,一患者に支給する薬袋を略同時にプリントさせ,各プリンタからのプリント済薬袋の繰出しタイミングを制御することによって,その患者に要するプリント済の薬袋が処方箋記載の順序で取出し部に集積されるので,患者ごとの薬袋の取纏め作業を要せず,一患者分の調剤を一括して行うことができ,しかも,プリント済薬袋が処方箋記載の順序で集積されているので,処方箋と薬袋とのチェックが容易であり,調剤を迅速化すると共に,間違いを防止することができる(2頁右下欄9行〜下2行) 。」(ウ) 乙3公報「 0002】【【従来の技術】従来,病院の薬局においては,各医師が処方した処方箋にしたがって調剤した薬剤を,薬袋に収納したうえ,これを患者に投薬することが行われている。そして薬袋には,患者名,用法等の必要な事項が,薬剤師による手書き作業によって記入されていた。 【0003】【発明が解決しようとする課題】ところで,大病院をはじめ多くの病院では,人手不足その他種々の原因のために,患者が診察室での診療を終えてから投薬を受ける。, , までの待時間が非常に長いという問題がある とくに 最近では投薬の種類が増えそのために薬袋のサイズも多くなり,薬袋に患者名,用法等を記入するのに手間がかかるため,待時間がさらに延びている。 【0004】また,薬袋手書き作業のために,薬剤師の負担が大きくなり,薬剤師本来の業務である調剤業務の支障になる等の問題点があった。 【0005】この発明は上記従来のもののもつ問題点を解決して,薬袋書記作業を省力化して,薬剤師を薬袋の手書き作業から開放することのできる薬袋印字装置を提供することを目的とするものである。 【0006】【課題を解決するための手段】この発明は上記目的を達成するため,複数台のプリンタと,各プリンタで処理された薬袋を薬袋取出位置へ搬送する手段とを具え,前記薬袋取出位置において各薬袋を患者ごとにまとめるようにしたものである。 …【0032】上記の作用によって,薬袋取り出し部4には,患者名,用法等のデータがプリントされたプリント済薬袋y1〜ynが,1患者ごとに一括して集積されるので,それらの薬袋に薬剤を収納する作業や,患者への支給作業を,1患者ごとに一括して行うことができ,そのため,上記作業を能率化するとともに,誤謬を防止することができる。 …【0036】上記のように,薬袋の手書き作業,プリンタからの取り出し作業,薬袋取りまとめ作業が省力化され,1患者分の調剤を一括して能率的に行えることから,それらに要する時間を大幅に短縮して,患者の投薬待時間を大幅に短縮することができるとともに,薬剤師の負担が軽くなるので,薬剤師は本来の調剤業務に専念することができることとなる 」。 ウ以上によれば,乙1〜乙3公報には,1人の患者に対して薬袋が複数枚必要なことがあるため,患者数の多い病院では調剤を迅速化するとともに間違いを防止するため,プリンタによって所定事項を印刷した薬袋に薬を入れて患者に渡す作業において,患者毎に薬袋を揃える作業を効率的に行うことが周知の課題であったことが認められ,これを識別性の観点から換言すれば,複数の薬袋につき患者毎に識別することが周知の課題であったということができる。 そうすると,このような周知例を前提にすれば,引用例(甲3)に接した当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,その記載から印刷事項である患者名の色を変えることにより薬袋を患者毎に識別することが容易になり薬袋を揃える作業が効率化できることを把握することができるというべきであって,実際の薬袋として採用されるか否かはともかく,薬袋において患者名の違いに応じて印刷色を変更することに格別の意義が見出せないということはできない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 エまた原告は,甲8〜18(薬袋の印刷見本に関するカタログやウェブサイト上の表示)に見られるように,患者名を色分けしないことが薬袋の通常の態様であると主張する。 この点,甲8は原告が,甲9は株式会社アイシーエムが,甲10はノアメディカルシステム株式会社がそれぞれ発行する薬袋作成システムに係るカタログであり,甲11は株式会社トヨシコー,甲12は日立メディカルコンピュータ株式会社,甲13はあさひ調剤薬局,甲14は株式会社ナチュール,甲15は四国メディコム株式会社,甲16は株式会社EMシステムズ,甲17は小林クリエイト株式会社,甲18は有限会社システムプレインの各ウェブサイトであるところ,これらのカタログないしウェブサイト上の表示によれば,薬袋の記載事項のうち「内服薬「外用薬「頓服」,」,薬」といった用法に係るものについては印刷色を異にするものがあるのに対し,患者名についてはいずれも黒一色であることが認められる。 しかし,上記カタログないしウェブサイト上の表示において患者名を色別することが行われていないとしても,これは単にそのような例が見られないというだけであって,患者名を色分けすることが積極的に忌避されることを裏付けるものではない。前記ウのとおり,引用例(甲3)に接した当業者は,印刷事項である患者名の色を変えることによりその識別が容易になり,薬袋を揃える作業が効率化できることを把握することができるのであるから,上記カタログないしウェブサイトの存在が前記認定を左右するものではない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 オなお原告は,異なる患者のすべてについて色別することは現実的でないなどとも主張するが,薬袋を揃える作業の効率化のためであれば,作業に必要な範囲,識別が可能な範囲で色彩を用意すれば足りることは明らかである。 また原告は,本願発明における「異なる色のマーク」は,薬袋に記載されている患者名を確認しなくても特定患者の薬袋のグループと他の患者の薬袋のグループとを薬局の流れ作業の中で瞬時に確認するために設けられるものであって,特定の患者の薬袋であることを確認するためのものでは, 。 ないから 患者名を色別に印刷することとは識別目的が異なる旨主張するしかし,上記のとおり乙1〜乙3公報は患者毎に薬袋を揃える作業を効率,, 的に行うことを周知の課題としているのであって このような観点からはすべての患者名を逐一類別可能とすべき必然性は見当たらず,識別が必要かつ可能な範囲で色別すれば足りるというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。 4 取消事由2(相違点に関する判断の誤り)について(1)ア審決は,患者毎の薬袋の識別手段として 「異なる色の患者名」に代え ,て「異なる色のマーク」を採用することは,当業者であれば必要に応じて適宜なし得る設計的事項にすぎないとしたのに対し,原告は審決の上記判断に誤りがある旨主張するので,この点について検討する。 イ 審決が周知技術として挙げた甲4〜甲6公報には,次の記載がある。 (ア) 甲4公報a特許請求の範囲「 請求項1】コンパクトサイズのケース体(1)内に,薬効の異なる種類ご 【とに薬を収容してある同一形状のコンパクト容器(5a,5b…)を複数個並べて出し入れ自在に収納してあり,前記各コンパクト容器に他のコンパクト容器の中身の薬と区別するための識別表示(8)をしてあることを特徴とする携帯用薬ケース 」。 b発明の詳細な説明「 0001】【【産業上の利用分野】本発明は,旅行など外出する際に所持できる携帯用薬ケースに関する。 …【0003】ところで,薬の入っているパッケージは,中身の薬に比べて大きく,数種類の薬を揃えるとかなり嵩高となるが,これを旅行用カバンの中にしまい込んだ状態で旅先へ持って行くしかなかった。従って,旅行用カバンの中での薬の占めるスペースも大きくなって不都合であり,また,薬の必要な場合にカバンの中から症状に合う薬をいちいち探し出さなければならない取扱上の不便もあった。更に,薬の入っているカバンが手元にない場合には,薬を緊急に必要とする事態が生じた際に,せっかく用意しておいた薬を利用できないという残念なことになる。 【0004】【発明が解決しようとする課題】そこで本発明は,前記事情に基づいてなされたものであり,薬の種類ごとに整然とコンパクトにまとめた複数種類の薬を身に付けて持つことができ,取扱上も便利であり,緊急の際にも速やかに必要な薬の使用ができる携帯用薬ケースを提供することを目的とする。 【0005】【課題を解決するための手段】本発明の携帯用薬ケースは,コンパクトサイズのケース体内に,薬効の異なる種類ごとに薬を収容してある同一形状のコンパクト容器を複数個並べて出し入れ自在に収納してあり,前記各コンパクト容器に他のコンパクト容器の中身の薬と区別するための識別表示をしてあることを特徴とする。 【0006】【実施例】以下,本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。 【0007】符号1は身につけて持つことが可能なコンパクトサイズに形成したケース体であって,ケース体1は本体2と蓋体3とから成り,両体2,3を連結するヒンジ4によって蓋体3を開閉可能に構成してある。本体2と蓋体3との双方の各内面側には,後述する円柱形のコンパクト容器の横半分が嵌まり込む半円柱状の凹嵌部6a,6b…を横列に定間隔を保って並設してある。…【0008】各凹嵌部6a,6b…に収まるそれぞれのコンパクト容器5a,, , 5b…は いずれも有底円筒形の胴部にキャップを備えた同一形状をしており容器内に各種の薬を中身として入れるものである。そして本体2側における凹嵌部6aに嵌まるコンパクト容器5aには,中身にかぜ薬を入れたもので,キャップが黄になっていると共に容器の胴部に『かぜ薬』と記した識別表示8がしてあり,また,凹嵌部6bに嵌まるコンパクト容器5bには,中身に頭痛薬を入れたもので,キャップが緑になっていると共に容器の胴部に『頭痛薬』と記した識別表示8がしてあり,……【0011】本発明においては,ケース体1内に収まる各コンパクト容器5a…5fには中身の薬を区別するための識別表示として,キャップの色の相違と薬の種類名を施してあるため,キャップの色と薬名から必要とする薬の入っているコンパクト容器を間違わずに確実に取り出して使用することができる 」。 (イ) 甲5公報a実用新案登録請求の範囲「星形,省略文字,水玉模様,直線等の,変形を受けても識別可能な表示部分を形成した熱収縮性を有するプラスチックフィルムで,枝部を収縮包装して成る識別可能なアンプル包装体 」。 b考案の詳細な説明「 産業上の利用分野) (本考案は,外部から見ただけで内容物の識別可能なアンプル包装体に関するものであり,詳しくは,内容物を表示した収縮性フィルムで枝部を収縮包装したアンプル包装体の構成に関するものである。 (従来の技術)医薬品用のアンプルを熱収縮性フィルムで被覆した包装体としては,実公昭40-16459号公報に記載されているように容器の形状に合わせて成形した熱収縮性遮光フィルムを用いる方法が提案されているが,枝部分はフィルムの収縮が大きいため,アンプルの中身を表示する部分は胴の部分に限られていた。ところが,病院等で実際にアンプルを使用する場合には種々のアンプルを一纏めにして直立させて作業しているので,胴の部分に表示された内容を確認するにはアンプルをひとつひとつ取り上げる必要があり,誤使用を防ぐためにアンプルの頭部に色別の印を付ける等の処置をとっている。 (考案が解決しようとする問題点)本考案は以上のような従来技術の欠点を解消しようとするものであって,アンプルの枝部に使用する収縮フィルムの表面に,変形を受けても識別が可能な表示部を形成したことを特徴とするものである。 (問題点を解決するための手段)本考案は,第1図に示すようにアンプル(1)とその枝部を包装している熱収縮性を有するプラスチックフィルム(2)とから構成されており,該フィルムの表面に表示部(3)が形成されて成るものである。…表示部は該熱収縮性を有するフィルムの表面の内,先端の潰し部分と下端のアンプルの首部分に相当する部分以外に形成し,かつ,フィルムが収縮しても表示内容が識別できるようなものを選択する。 具体的には,星形,省略文字,水玉模様,直線等を使用し,星形や水玉模様や直線の場合には,色を変えたり数を変えたりしてその識別を容易にする。…(作用)フィルムの表面に形成する表示部は,フィルムの収縮によって変形を受けても識別が可能なような大きな記号や色で構成されており,従って,病院等で使用する際にも一々取り上げる必要がなく,横方向からアンプルの枝部を見るだけで識別が可能である。 (考案の効果)?@多数のアンプルを一纏めにして直立させて作業しても,容易にアンプルの種類の識別ができる。…」(ウ) 甲6公報a 実用新案登録請求の範囲「医薬品を収納するアンプルであって,該アンプルの底部に,着色,模様形成,又はその両方の併用によって識別部分を設けたラベルが施されていることを特徴とする,底部に識別部分を有するアンプル 」。 b 考案の詳細な説明「 産業上の利用分野) (本考案は,外部から見ただけで内容物の識別可能なアンプルに関するものであり,詳くは,識別部分を設けたラベルをその底部に施したアンプルの構成に関するものである。 (従来の技術)医薬品用のアンプルには,その内容物を表示するためにアンプルの胴部に種々の項目が記載されている。ところが,病院等で実際にアンプルを使用する場合には種々のアンプルを一纏めにして直立させて作業しているので,胴の部分に表示された内容を確認するにはアンプルをひとつひとつ取り上げる必要があり,誤使用を防ぐためにアンプルの頭部に色別の印を付ける等の処置をとっている。 (考案が解決しようとする問題点)本考案は以上のような従来技術の欠点を解消しようとするものであって,アンプルの底部に識別部分を設けたラベルを貼着し,該識別部分の色や模様をアンプルの頂部から透視することによって内容物の識別を可能とするものである。 (問題点を解決するための手段)本考案は,第1図に示すようにアンプル(1)とその底部に貼着されている識別部分を有するラベル(2)とから構成されており,該ラベルの表面に形成されている識別部分は,着色又は模様あるいはその両者を併用して設けるものである。 (考案の効果)?@多数のアンプルを一纏めにして直立させて作業しても,容易にアンプルの種類の識別ができる 」。 ウ以上によれば,甲4公報には,各種の薬を収容して携帯するための容器において,中身の薬を区別するための識別表示としてキャップの色に相違を施すこと,甲5公報には,医薬品用のアンプルにおいて,アンプルの中身を識別するためにアンプルを包装するプラスチックフィルムの表面に大きな記号や色で構成された表示部を形成すること,甲6公報には,医薬用のアンプルにおいて,アンプルの中身を識別するためにアンプルの底部に着色ないし模様形成を施すことなどが記載されており,これらによれば,医薬品の取扱い技術の分野において,複数の対象物から一つの物を識別するために色の異なるマークを用いることは,本願の出願当時(平成12年1月11日)周知であったと認められる。 そして,上記3のとおり,引用例(甲3)に接した当業者は,印刷事項である患者名の色を変えることによりその識別が容易になり,薬袋を揃える作業が効率化することを把握できるところ,このような識別の容易性はこれら甲4〜甲6公報に示された周知技術における「色の異なるマーク」と同じ機能を有するものと評価することができ,かつ,マークは識別手段として一般的であることを考慮すると,識別のための手段として,患者名の色を変えることに代えて,周知技術である「色の異なるマーク」を採用することは,当業者にとって容易であると認められる。 (2)アこれに対し原告は,甲4〜甲6公報に記載された発明はいずれも薬袋,それも印刷に関するものではないし,予め色彩と内容物とを関連付けて誤認を防ぐことを目的とするものであって,多数の物品の中から特定の物品を素早く識別できるようにすることを目的とするものではないから,本願発明とは発想が全く異なる旨主張する。 しかし,本願発明も甲4〜甲6公報も,複数の同種物の中から一定のものを効率的に選別,抽出することを目的とする点で共通し,しかも,このような基本的な技術思想は,それが薬袋に係る印刷物であるか薬品それ自体であるかにより差異を見出すことはできないから,原告の上記主張は採用することができない。 イまた原告は,患者毎の薬袋を識別するための識別手段として 「異なる ,」,「」, 色のマーク を用いる場合と異なる色の患者名 を用いる場合とでは作用効果の点で著しい差異がある旨主張する。 しかし,原告がその根拠として主張するもののうち,本願発明における「異なる色のマーク」の印刷位置に関する点(患者名の印刷位置は薬袋中央付近であるのに対し 「異なる色のマーク」は薬袋の隅や端等に印刷す ,ることができ,かつ,同じ色で印刷する場合でも位置を変えて印刷するこ) (, とができる点 及びマーク形状による識別性に関する点 患者名と異なり「異なる色のマーク」は特定事項を表示するためのマークの形状を予め定めておけば薬剤の用法や種類,発行時期等の識別表示を同時に表示することができる点)についていえば,これらはいずれも本願の請求項において特定されておらず(なお,印刷位置については,むしろ【請求項2】において「前記マークの印刷される位置が,患者毎に異なる請求項1記載の薬袋 」として特定されている,これに基づき一定の効果が認められると 。。)しても,請求項の記載に基づくものということはできない。 また 原告がその根拠として主張するもののうち 色の数に関する点異 , ,(「なる色の患者名」を用いた場合には異なる患者の分だけの色が必要であるのに対し 「異なる色のマーク」を用いた場合には少なくとも2色あれば ,足りる点)については,前記3のとおり,薬袋を揃える作業の効率化のためであれば,作業に必要な範囲,識別が可能な範囲で色彩を用意すれば足り,異なる患者のすべてについて色別する必要はないから,前提において誤りがあるといわざるを得ない。 したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。 5 結論以上によれば,原告主張の取消事由はすべて理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 澁谷勝海 |