運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2004-19976
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  慣用技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  参酌 /  技術的意義 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 19年 (行ケ) 10297号 審決取消請求事件
原告コーニンクレッカフィリップスエレクトロニクスエ ヌヴィ
訴訟代理人弁理士津軽進,宮崎昭彦,笛田秀仙,高橋理恵
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理 人江畠博,小林秀美,山田洋一,山本章裕,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/05/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2004-19976号事件について平成19年4月5日にした審決を取り消す 」との判決。。
第2事案の概要本件は,名称を「多平面情報蓄積系およびその系を用いた記録担体」とする発明に係る原告被承継人の特許出願に対し拒絶査定がされたため,特許を受ける権利承継した原告が,これを不服として審判請求をしたが,審判請求は成り立たないとの審決がされたので,同審決の取消しを求めた事案である。
1特許庁における手続の経緯( )本件出願(甲第2号証)1出願人は,本件出願後の1994年(平成6年)5月6日に原告(当時の名称は「 」), エヌベーフィリップスフルーイランペンファブリケンに吸収合併され同日,原告は名称を「フィリップスエレクトロニクスネムローゼフェンノートシャップ」に変更した上,特許庁長官に対し所定の届出をした。原告は,その後「 」 さらに名称を コーニンクレッカフィリップスエレクトロニクスエヌヴィに変更し,特許庁長官に対し所定の届出をした。
出願人:フィリップスエレクトロニクスネムローゼフェンノートシャップ発明の名称: 多平面情報蓄積系およびその系を用いた記録担体」 「出願番号:特願平5-350276号出願日:平成5年12月28日優先権主張日:1993年(平成5年)1月4日(オランダ国)( )本件手続2手続補正日:平成15年9月25日(甲第3号証)拒絶査定日:平成16年6月22日審判請求日:平成16年9月27日(不服2004-19976号)手続補正日:平成16年10月26日(甲第4号証)審決日:平成19年4月5日審決の結論: 本件審判の請求は,成り立たない 」 「 。
審決謄本送達日:平成19年4月17日2本願発明の要旨審決が対象とした発明(平成16年10月26日付け手続補正後の請求項1に記,「」。, 。) 載された発明であり 以下 本願発明 という なお 請求項の数は17個であるの要旨は,以下のとおりである。
「 請求項1】少なくとも2面の情報平面を有する光学的記録担体と,前記記録 【担体の一方の側から前記情報平面を走査する読取り装置とを備え,その読取り装置が,読取るべき情報平面上に放射線スポットを形成するとともに,前記記録担体からの放射線を検出出力電気信号に変換する放射線感知検出系まで通過させる光学系と,前記検出系に電気的に接続して前記検出出力信号を情報信号に変換する検出回路とを備える情報蓄積系において,前記情報平面相互間の距離および前記情報平面の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して,読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さいことを特徴とする多平面情報記録系 」。
3審決の理由の要点審決は,本願発明は,特開平3-209642号公報(甲第1号証。以下「引用例」という )に記載された発明(以下「引用例発明」という )と実質的に相違す 。 。
る点はなく,引用例発明と同一であるから,特許法29条1項3号に該当して特許を受けることができないとした。
審決の理由中,引用例の記載事項の認定及び引用例発明の認定の部分,本願発明と引用例発明との対比及び判断の部分は,以下のとおりである(審決が引用例の記載に付した下線は省略した。。)( )引用例の記載事項の認定及び引用例発明の認定1「原査定の拒絶の理由に引用された,本願優先権主張日前に頒布された刊行物である特開平3-209642号公報(引用例)には,図面とともに次の技術事項が記載されている ・・・ 。
()『( )レーザーを絞って照射し,その反射光を読み取って情報面に記録された情報を再 ??1生する光情報媒体において,レーザー入射側と反対側の面に情報面が形成された透明物質層と前記情報面上に形成された非透明物質膜とからなる複数の媒体ユニットを,レーザー入射方向に重ね合わせ,且つレーザー入射側に近い情報面の反射率を入射側から遠い情報面の反射率より小さくしたことを特徴とする光情報媒体(特許請求の範囲の請求項1参照 , 。』 )()『作用??第1発明及び第2発明によれば,2層以上形成した情報面を,レーザー入射側に近い情報面ほどその反射率を小さくなるように構成しているので,レーザー入射側から遠い情報面にも十分レーザーが到達し,それぞれの層の情報面を独立に読み出す事ができるようになり,同じ大きさの光情報媒体でも記録領域の面積を数倍にでき,記録密度を飛躍的に向上できる(第3。』頁右上欄2〜10行参照 ,)()『実施例1??(ディスク構造)光情報媒体を多層の情報面で構成して,より高密度化する事を目的とする。
実施例では2層の媒体ユニットからなる場合で,かつ,それらの情報面が再生専用である場合について説明する。第1図は,その2層のうちレーザー入射側より遠い情報面にレーザーが絞られている場合を示す。1はガラスや樹脂の透明物質層で,その片面に情報面2が形成されている。第1図では情報がV溝斜面に記録された場合を示している。その情報面上に半透明薄膜(非透明物質膜)3を入射レーザーの一部だけが反射するように形成する。半透明薄膜3の上に更に透明物質層4の一面に情報面5を形成する。情報面5上の反射膜(非透明物質膜)6はレーザーを殆ど反射した方がよいのでアルミニウムなどの金属で形成する。7は情報面5に絞られて入射するレーザーである。情報面5にレーザーの絞られた部分が照射されているので,情報面5の情報信号は再生できるが,その途中の情報面2でもレーザーの一部は反射される。7’はその一部の反射光である。しかし,透明物質層4の厚さが十分であれば情報面2上でのレーザービーム径は十分大きくなり,情報面2上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面5の再生信号には悪影響は与えない。透明物質層4の厚さは100μm以上あれば十分である。また,情報面2上の半透明薄膜を均一に形成しておけば,入射レーザーは局所的な位相変化を受けないので,信号再生に不適当な回折現象も殆ど無視できる。
第2図は,2層のうちレーザー入射側に近い情報面にレーザーが絞られている場合を示す。
8は情報面2に絞られて入射するレーザーを示す。情報面2には絞られたレーザースポットが照射されているので,その情報信号は再生できるが,レーザーの一部は半透明薄膜3を透過し情報面5でも反射される。8’はその反射光を表す。しかし,透明物質層4の厚さが十分であれば,第1図と同様に情報面5上でのレーザービーム径は十分大きくなり,情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面2の再生信号には悪影響は与えない。なお,上記光情報媒体は円盤形状に形成されるのが一般である。
(再生方法)一般に対物レンズでレーザーを十分に絞るには,対物レンズと情報面との間の透明物質層の厚さを,透明物質層の厚さと屈折率の積が対物レンズで決まる値にしなければならない。例えば,CDやビデオディスクに用いられている対物レンズでは,ディスク基材の屈折率は約1.5であり,厚さは1.2mmである。第1図,第2図の場合では,透明物質層1,4の厚さの合計が再生用の対物レンズで決められた所定の値になるように選ぶ。第1図では対物レンズと再生する情報面の間の透明物質層の厚さは2層の透明物質層1,4の厚さの合計になり,レーザーは十分に絞られて品質の高い信号が再生できる。しかし,第2図の場合では対物レンズと情報面の間の透明物質層の厚さは1層の透明物質層の厚さだけであるから,必要な厚さより薄くなりレーザーはよく絞れず再生信号が劣化する。そこで,第2図に示すようにレーザー入射側に近い情報面2を再生する時は,レーザー入射の途中に不足する厚さに相当する厚さの透明板9を挿入して所定の厚さを確保するようにする。
(3層以上の場合)2層媒体について述べたが,3層以上の情報面を持つ媒体でも同様である。レーザー入射側に近い情報面ほどレーザーの反射率を小さくして,レーザー入射側より遠い情報面にもレーザーを到達させて再生できるようにする。異なる情報面の間隔をある程度大きく(例えば,100μm以上)すれば,1つの情報面の再生中に他の情報面の信号が悪影響を及ぼす事は無視できるようになる。また,3層以上の異なる情報面を再生する時は,対物レンズとディスク間に挿入する透明板の厚さを変更して対応すればよい(第3頁左下欄7行〜第4頁左下欄3行参 。』照 。)これらの記載からみて,また,光情報媒体を備え且つ光学的に再生を行なう仕組み(装置)を有することが光情報記録再生系であることを意味するといえることから,引用例には,同じ大きさの光情報媒体でも記録領域の面積を数倍にでき,記録密度を飛躍的に向上できた,次の発明(引用例発明)が記載されているものと認められる。
『レーザーを絞って照射し,その反射光を読み取って情報面に記録された情報を再生する光情報媒体と,レーザーと対物レンズを有し光学的に情報再生する装置と,を備えた光情報記録再生系において,レーザー入射側と反対側の面に情報面が形成された透明物質層と前記情報面上に形成された非透明物質膜(半透明薄膜,反射膜)とからなる複数の媒体ユニットを,レーザー入射方向に重ね合わせ,且つレーザー入射側に近い情報面の反射率を入射側から遠い情報面の反射率より小さくし,それぞれの層の情報面を独立に読み出す事ができるようにした光情報媒体を備え,レーザー入射側より遠い情報面または近い情報面にレーザーが絞られ,絞られたレーザースポットが照射されている情報面の情報信号を再生できる,光情報記録再生系」。』( )本願発明と引用例発明との対比及び判断 2「本願発明と引用例発明とを対比する。
( ) 引用例発明の『レーザー入射側と反対側の面に情報面が形成された透明物質層と前記情a報面上に形成された非透明物質膜(半透明薄膜,反射膜)とからなる複数の媒体ユニットを,レーザー入射方向に重ね合わせ』た『光情報媒体 ,及び 『レーザー入射側より遠い情報面ま 』,たは近い情報面にレーザーが絞られ,絞られたレーザースポットが照射されている情報面の情報信号を再生できる』は,該『光情報媒体』が,少なくとも2面の情報面(情報平面)を有することが明らかであり,それら少なくとも2面の読み出しを一方の側から行うことを想定していることも明らかであるから,本願発明の『少なくとも2面の情報平面を有する光学的記録担体』及び『前記記録担体の一方の側から前記情報平面を走査する』に相当する。
( ) 引用例発明の『レーザーを絞って照射し,その反射光を読み取って情報面に記録されたb情報を再生する』と『レーザーと対物レンズを有し光学的に情報再生する装置』は,該『レーザーを絞って照射し,反射光を読み取って情報面に記録された情報を再生する』ことが,周知慣用技術であるところの,情報面にスポットを形成しその反射光を受光素子で受光して電気信号に変換し,その検出出力信号を情報信号に変換し,そのための検出回路を備えることを意味するものと解されるから,本願発明の『読取り装置とを備え』ること,及び『読取るべき情報平面上に放射線スポットを形成するとともに,前記記録担体からの放射線を検出出力電気信号に変換する放射線感知検出系まで通過させる光学系と,前記検出系に電気的に接続して前記検出出力信号を情報信号に変換する検出回路とを備える』ことに相当する。
( ) 本願発明における『情報蓄積系』と『情報記録系』は,記載上異なるものの,同じ意c, , 味と解するのが妥当であり また光学的記録担体に記録することを前提とするものであるから引用例発明の『光情報記録再生系』と一致する。
してみると,両発明は,『少なくとも2面の情報平面を有する光学的記録担体と,前記記録担体の一方の側から前記情報平面を走査する読取り装置とを備え,その読取り装置が,読取るべき情報平面上に放射線スポットを形成するとともに,前記記録担体からの放射線を検出出力電気信号に変換する放射線感知検出系まで通過させる光学系と,前記検出系に電気的に接続して前記検出出力信号を情報信号に変換する検出回路とを備える情報蓄積系(情報記録系』で,少なくとも一致してい )。
る。
更に,本願発明では,『前記情報平面相互間の距離および前記情報平面の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して,読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい』との構成(以下「構成D」という )で特 。
定されているので検討する。
引用例には,(α)『透明物質層4の厚さが十分であれば情報面2上でのレーザービーム径は十分大きくなり,情報面2上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面5の再生信号には悪影響は与えない(情報面5にレーザーが絞られている場合)や(β)『透明物質層4の厚さ 。』が十分であれば,第1図と同様に情報面5上でのレーザービーム径は十分大きくなり,情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面2の再生信号には悪影響は与えない(情。』報面2にレーザーが絞られている場合 ,(γ)『品質の高い信号が再生できる,(δ)『異な ) 。』る情報面の間隔をある程度大きく(例えば,100μm以上)すれば,1つの情報面の再生中に他の情報面の信号が悪影響を及ぼす事は無視できるようになるなどと記載されている 摘 。』(示 ()参照 。??)該『透明物質層4の厚さ』は,本願発明の『情報平面相互間の距離』に相当する。そして,例えば上記(β)の場合に,該『情報面5上の信号』は,本願発明の『読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号』に相当するものであり,且つ,該『情報面2の再生信号』は,『読取るべき情報平面で発生した検出出力信号』に相当するものである(上記(α)の場合はその逆になる)ところ,前者の信号が後者の信号に悪影響を与えないことは 『読取るべき情報 ,平面で発生した検出出力信号』の読み取りに支障がないことを意味するものと認められる。
してみると,該『情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面2の再生信号には悪影響は与えない』ことや『品質の高い信号が再生できる 』は,検出回路で支障なく再生 。
できることを意味するものであることが明らかであって,本願発明の『前記情報平面相互間の距離および前記情報平面の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して』いることを意図しているのが明らかといえ,且つ,本願発明の『読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい』との条件を満たしている状態であるとすることができる。
よって,本願発明の前記構成Dは,引用例発明においても満たされているものである。
この点に関連し,請求人は,審判請求理由において具体的な反論をしていないところ,意見書(平成15年9月25日付け)及び意見書を補足する上申書(平成15年11月6日付け)において,『引用文献は,十分に大きな値が要求されることを単に述べている。しかしながら,最小の。,『』。, 値の重要性は認めていない それは とにかく 十分に大きな距離 を教えている 対照的に。 。 光学記録担体の設計者は距離の最小値を知りたい 最小値は製造の可能性のために重要である情報面間の透明層の厚さは,透明層の厚さの変化の厳密な許容に応ずることができるように小さくあるべきである。さらに,小さいことは,放射線が透明層を通過するとき,球形収差が読取りデバイスに補正を必要とするかもしれない放射線に導入される球形収差の量を減少させるために,非常に望ましい。
引用文献は,そのような小さな値をどのようにして決定するかを教えていない。パラメータの賢明な選択と計算に要求される近似のため,決定は通常の当業者のできる範囲ではない。100μmの最小距離の教示はある情報蓄積系に対しては正しいかもしれないが,しかし,引用文献に記載されていない系のパラメータに依存する他の情報蓄積系に対しては正しくない 』 。
( 7.2』の項を参照)や, 『『引用文献には,情報層間の距離が十分に大きく,走査されていない情報層上に記録されている信号が識別され,再生されるのを防止することが述べられている。これは正しくない規準である。これが実際の読取り装置に適用されている場合には,装置は如何なる情報層も正しく読取る事はできない。その理由は走査されていない情報層の信号が著しく大きくなるからである。引用文献は走査されていない情報層からの信号の重要な効果については何等示唆していない。この重要な効果は,走査されていない情報層からの信号とパラメーター形状に表わされた走査情報層からの読取り信号との間の干渉: 即ち)走査されていない情報層からの信号と走 (査情報層からの読取り信号との比である。これは本願発明の請求項1に述べられている。この比を装置のパラメーターQよりも小さくして,走査されていない情報層からの信号が検出系による読取り信号の正しい検出を不可能としないようにする必要がある。従って,走査されていない情報層からの信号が識別され,再生されるのを防止する要求は正しくない( 7.4』。』『の項を参照)などと主張している。
しかしながら 本願発明は距離の最小値 に関して何ら特定するものではなく 単に 読 ,,『』 ,『取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい』と規定しているに過ぎず,妨害比Qより小さければ本願発明に包含されることは明らかであって 『距離の最小値』である必 ,要などないのである。
また,請求人の主張する『球形収差が読取りデバイスに補正を必要とするかもしれない放射線に導入される球形収差の量を減少させるために,非常に望ましい ( 球形収差』は『球面収 』『差』の誤記と認められる )ことは,本願明細書に記載されていないし,妨害比Qの近傍であ 。
る『距離の最小値』を採用することは,本願発明の構成として特定されていないから,もともと作用効果として勘案できないものである。なお,引用例発明の実施態様において 『レーザ ,ー入射の途中に不足する厚さに相当する厚さの透明板9を挿入して所定の厚さを確保する』手段が説明されているが,そのような手段(構成)も含めて上記一致点として認定した情報記録再生系といえるので,上記手段を採用するか否かは,上記判断を左右する要因ではない。
そして,引用例発明の情報記録再生系において,悪影響無く高い品質で情報再生できるのであるから,その情報記録再生系において想定される妨害比Qよりも小さいことが明白であり,本願発明の前記構成Dを満たしていることから,請求人が主張するような『引用文献に記載されていない系のパラメータに依存する他の情報蓄積系に対しては正しくない』との主張は,引用文献の記載に基づかないものであって,そのような主張は上記判断を何ら左右するものではない。
また,請求人の『引用文献には,情報層間の距離が十分に大きく,走査されていない情報層上に記録されている信号が識別され,再生されるのを防止することが述べられている。これは正しくない規準である。これが実際の読取り装置に適用されている場合には,装置は如何なる情報層も正しく読取る事はできない 』との主張であるが,引用例発明において,読み取るべ 。
き情報面の信号は適切に読み取れている旨明示されているのであり,上記主張は,正しく読み取れることを否定する根拠を示していない以上採用できない。
斯くの如く,上記請求人の主張は,失当であり,到底採用できるものではない。
よって,本願発明は,引用例発明と実質的に相違する点はなく,引用例発明と同一であると認める 」。
第3原告の主張(審決取消事由)の要点1審決は,本願発明と対比すべき引用例発明の技術内容の認定を誤った結果,本願発明が引用例発明と同一であると誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。
2審決取消事由(引用例発明の認定の誤り)( )審決は,本願発明と引用例発明との対比及び判断において,引用例発明につ1き 「前者の信号(判決注:本願発明の「読取るべからざる各情報平面で発生した ,検出出力信号」に相当する引用例発明の「情報面5上の信号 )が後者の信号(判 」決注:本願発明の「読取るべき情報平面で発生した検出出力信号」に相当する引用例発明の「情報面2の再生信号 )に悪影響を与えないことは 『読取るべき情報平 」 ,面で発生した検出出力信号』の読み取りに支障がないことを意味するものと認められる。してみると,該『情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面2の再生信号には悪影響は与えない』ことや『品質の高い信号が再生できる 』。
は,検出回路で支障なく再生できることを意味するものであることが明らかであって,本願発明の『前記情報平面相互間の距離および前記情報平面の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して』いることを意図しているのが明らかといえ,且つ,本願発明の『読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより』 。」, 小さい との条件を満たしている状態であるとすることができると判断したが以下のとおり,誤りである。
( )本願発明は 「情報平面相互間の距離および前記情報平面の光学特性が当該2 ,情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して,読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい」との構成を備えるものである。すなわち,読み取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と,読み取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,検出回路により予め設定された妨害比Qより小さくなるように,情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性を適合させたものである。
本願発明は,妨害比Qが,情報蓄積系に使用される「検出回路」ごとに異なるものであることに着目したものであり,使用する「検出回路」に対応した因子として妨害比Qを設定し,その設定された妨害比Qに応じて情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性を適合させるという技術思想に基づくものであって,このような技術思想は,平成15年9月25日付け手続補正(甲第3号証)及び平成16年10月26日付け手続補正(甲第4号証)を経た後の本件出願に係る明細書(甲第2。,, 「」。) 号証 なお 以下 上記各手続補正を経た後の明細書を単に 本願明細書 というの発明の詳細な説明に 「かかる妨害信号の最大値は,記録担体に対する新たなパ ,ラメータにより各多平面情報蓄積系毎に表わされ,そのパラメータの値は検出回路17によって決まる(甲第2号証段落【「このQの値は,就中,検出系 。」】),002015における検出出力信号の発生方法,検出出力信号をよくするための修正フィル, ,, タの存在 検出回路17において情報信号を検出出力信号から取出す方法 および情報信号に課せられる必要条件によって決まる(甲第4号証段落【「大 。」】),0021きい誤り訂正容量を備えた検出回路は,比較的大きい値のQを有し,大きい妨害信。, 。」 号に対処することができる 以下では Qの値を読取り装置に固有の要素と考える(甲第2号証段落【)等と記載されている。
0022 】本願発明において,妨害比Qが検出回路によって予め設定されることは,上記技術思想に基づくものであって,妨害比Qが検出回路によって予め設定されているからこそ,種々異なる検出回路によって異なる妨害比に対応して,情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性を設定することができるものである。
( )これに対し,引用例には,そもそも,本願発明の「前記検出系に電気的に接3続して前記検出出力信号を情報信号に変換する検出回路」に相当するものが記載されていない。
本件出願に係る優先権主張日(平成5年1月4日)当時の周知慣用技術参酌したとしても,審決がしたような「周知慣用技術であるところの,情報面にスポットを形成しその反射光を受光素子で受光して電気信号に変換し,その検出出力信号を情報信号に変換し,そのための検出回路を備える (審決書5頁1〜3行)との認 」定ができるだけであって,このような周知慣用技術として考えられる検出回路は,「検出出力信号を情報信号に変換するための回路」という程度の特定をなし得るだけで,その検出回路で使用される情報信号の取出し方法や誤り訂正能力等が定まらず,検出回路によって異なる妨害比Qを決めることはできない。すなわち,検出回路について周知慣用技術を適用した引用例発明においては,妨害比Qを予め設定することができないものである。引用例は 「異なる情報面の間隔をある程度大きく ,(例えば,100μm以上)すれば,1つの情報面の再生中に他の情報面の信号が悪影響を及ぼす事は無視できるようになる(4頁右上欄17〜20行)との記載 。」があるとおり,異なる情報面の間隔を一律に大きくする(例えば100μm)ことを提案しているものであって,引用例発明において,検出回路により妨害比Qが設定される余地はない。
,「 , 引用例発明の情報蓄積系は情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり情報面2の再生信号には悪影響を与え」ず 「品質の高い信号が再生できる」もの ,であるから 「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害 ,信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」が 「読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面 ,の読出し信号との比」より小さい状態となっていることは考えられる。しかしながら,引用例は,精々 「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号から ,なる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」が,検出回路によって予め設定されていない「読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比」より小さくなっている情報蓄積系を開示しているだけであって,本願発明の「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい」との構成を開示するものではない。
したがって,引用例発明が 「本願発明の『読取るべからざる各情報平面で発生 ,した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい』との条件を満たしている状態であるとすることができる 」とした審決の判断は誤りであり,本願発明と引用例発明とは同一ではない。 。
( )ア被告は,本願発明の「妨害比Q」とは検出回路の再生能力を表したもので4あり 「妨害比Q」が「検出回路によって予め設定され」るとは 「検出回路」を設 , ,計することにより,上記「妨害比Q」が自ずと一義的に定まることをいうものであると主張する。
しかしながら,検出回路の作成が完了した段階において,たとえ,同一の設計を基にして作成された複数の検出回路相互間であっても,各検出回路を構成する素子の性能にバラツキ等があること,再生能力に係る安全限界の設定に選択の余地があること,検出回路が出力する情報信号に課せられる必要条件についても,選択可能な複数の条件が存在し得ることなどにより,妨害比Qは異なる値となることが通常であり,自ずと一義的に定まるものではない。まして,検出回路の設計段階においては,検出回路に必要な様々な仕様が目標状態として存在するのみであり,妨害比Qは,このような仕様に加え,選択する安全限界及び情報信号に課せられる必要条, 。 件を基にして設定されるのであって 自ずと一義的に定まるということはできない被告は,また,妨害比Qについて,一方では 「読取り信号の劣化の度合いの最 ,大許容の状態」をいうものであるとし,他方では,どの程度までの劣化であれば検「 」 出回路で正しく情報信号に変換できるかを示す 検出回路の再生能力を表したものであると主張するところ,妨害比Qが「読取り信号の劣化の度合いの最大許容の状態」であることは,そのとおりであるが,その「最大許容の状態」は,上記のとおり,検出回路の再生能力のみならず,その際性能力に対して選択する安全限界や,情報信号に課せられる必要条件によって異なるものであって 「検出回路の再生能 ,力を表したもの」ではない。妨害比Qは,検出回路を設計することにより,自ずと一義的に定まってしまうものではなく,選択し,設定するものである。
このことは,本願明細書の「このQの値は,就中,検出系15における検出出力信号の発生方法,検出出力信号をよくするための修正フィルタの存在,検出回路17において情報信号を検出出力信号から取出す方法,および,情報信号に課せられる必要条件によって決まる。最大許容妨害信号割当て範囲内の安全限界も考慮すべきである(甲第2号証段落【)との記載によっても明らかである。 。」】0021したがって,被告の上記主張は誤りである。
イ被告は,引用発明においても,検出回路の設計により,妨害信号を含むことにより劣化した読取り信号について,どの程度までの劣化であれば正しく情報信号に変換できるかという,検出回路の再生能力は一義的に定まっているのであり,引用例発明において,正しく情報信号に変換できるのであれば,当然「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」が,検出回路の再生能力を表す「妨害比Q ,すなわち「読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と 」」 。 読取るべき情報平面の読出し信号との比 より小さい状態となっていると主張するしかしながら,上記( )のとおり,引用例は,異なる情報面の間隔を一律に大き 3くする(例えば100μm)ことを提案しているものであって,引用例発明において,検出回路により妨害比Qが設定される余地はない。
すなわち,引用例の「透明物質層4の厚さが十分であれば情報面2上でのレーザービーム径は十分大きくなり,情報面2上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面5の再生信号には悪影響は与えない。透明物質層4の厚さは100μm以上あれば十分である(3頁右下欄9〜13行「異なる情報面の間隔をある程度 。」),大きく(例えば,100μm以上)すれば,1つの情報面の再生中に他の情報面の信号が悪影響を及ぼす事は無視できるようになる(4頁右上欄17〜20行 , 。」 )「実施例1と同様に透明物質層4の厚さが十分であれば,情報面2の再生時には情報面11上のレーザービーム径は十分大きく,また,情報面11の再生時にも情報面2上のレーザービーム径は十分大きく,それぞれの情報面の再生信号には他の情報面の信号は悪影響を与えない。透明物質層4の厚さは100μm以上あれば十分である(4頁右下欄7〜13行「異なる情報面の間隔をある程度大きく(例 。」),えば,100μm以上)すれば,1つの情報面の再生中に他の情報面の信号が悪影響を及ぼす事は無視できるようになる(5頁右上欄1〜4行)との各記載によれ 。」ば,引用例発明の情報蓄積系は,情報平面間の距離が100μm以上離れていることのみによって,他の情報面の信号からの悪影響を無視することができ,その妨害を考慮することなく,情報面の再生ができるものであるから 「読取るべからざる ,」(, 各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和 の大きさ したがって「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」の値)はほぼ0に等しくなるものであって,妨害比Qを予め設定する必要がないのである。
このように,引用例発明は 「検出回路によって予め設定された妨害比Qより小 ,さい」ことは開示されていないのであるから,本願発明と引用例発明とは同一ではなく,被告の上記主張は誤りである。
第4被告の反論の要点1審決の認定判断に原告主張の誤りはなく,本件請求は理由がない。
2審決取消事由(引用例発明の認定の誤り)に対し( )原告は,本願発明につき,読み取るべからざる各情報平面で発生した検出出1力信号からなる妨害信号の和と,読み取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,検出回路により予め設定された妨害比Qより小さくなるように,情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性を「適合させた」ものであるとか,使用する検出回路に対応した因子として「妨害比Qを設定し ,その設 」定された妨害比Qに応じて情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性を「適合させる」という技術思想に基づくものである等と主張するが,以下のとおり,誤りである。
すなわち,本願発明において 「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出 ,力信号からなる妨害信号の和」と「読取るべき情報平面で発生した検出出力信号か」,「」, らなる読取り信号 とは 別々の信号として 検出回路 に入力されるものではく検出回路に入力される「読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号」が 「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害 ,」 。,,「, 信号 を含んでしまうものである このことは 本願明細書に検出回路17は読取るべき情報を表わす情報信号を検出出力信号から取出す(甲第2号証段落。」【「現在読取っている情報平面から発生した読取り信号の他に,検出出力0018 】),信号は,妨害信号を含んでおり ・・・妨害信号の総和が所定の強度もしくは電力 ,を超えると ・・・情報信号Siの質の低下を来たす(同段落【)と記載さ , 。」】0020れていることに照らして 明らかである そうすると 本願発明の要旨における 読 ,。,「取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」とは,読取り信号が妨害信号を含んでしまう度合い,つまり,妨害信号を含んで検出回路へ入力される読取り信号の劣化の度合いを,妨害信号の和と読取り信号との「比」という文言で表現したものということができる。
そして,そうであれば,上記「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」と比較される「妨害比Q ,すなわち「読取るべからざる全て 」の情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比」も,検出回路に入力される読みとり信号の劣化の度合いに関するものであり,読取り信号の劣化の度合いの最大許容の状態をいうものである。本願発明においては,読取り信号の劣化の度合いが 「妨害比Q (読取り信号の劣化の度合いの最大許容の状態)よ ,」りも小さいという構成を備えることにより,検出回路で正しく情報信号に変換されるものであり,それゆえ 「妨害比Q」とは,妨害信号を含むことにより劣化した ,読取り信号について,どの程度までの劣化であれば検出回路で正しく情報信号に変換できるかを示す,いわば検出回路の再生能力を表したものということもできる。
,「 」, また 本願発明の 検出回路によって予め設定された妨害比Q との構成に係る「妨害比Q」が「検出回路によって予め設定され」るとは 「検出回路」を設計す ,ることにより「妨害比Q」が自ずと一義的に定まることをいうものと解することができる。このことは,本願明細書に 「読取るべき情報平面の近くに位置する情報 ,平面が検出系15に放射線を向けるが故に生ずる妨害信号に最大許容妨害信号値の一部を割当てるべきである。かかる妨害信号の最大値は,記録担体に対する新たなパラメータにより各多平面情報蓄積系毎に表わされ,そのパラメータの値は検出回路17によって決まる。このパラメータは,妨害比Q,すなわち,現在読取るべからざる,妨害平面と称すべき情報平面全体からの最大妨害信号と現在読取るべき情報平面からの読取り信号との比である(甲第2号証段落【「このQの値 。」】),0020は,就中,検出系15における検出出力信号の発生方法,検出出力信号をよくするための修正フィルタの存在,検出回路17において情報信号を検出出力信号から取出す方法,および,情報信号に課せられる必要条件によって決まる(甲第4号証。」段落【「大きい誤り訂正容量を備えた検出回路は,比較的大きい値のQを0021 】),有し,大きい妨害信号に対処することができる(甲第2号証段落【「Q 。」】),0022の値は情報蓄積系の設計から取出すべきである(同段落【)等の記載によ 。」】 0023り明らかである。本願発明の「妨害比Q」は,このように検出回路の設計段階で使用される情報信号の取出方法や誤り訂正能力等の設定によって一義的に定まるものである。
以上によると,本願発明の「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい」との構成は 「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号 ,からなる妨害信号」を含んでしまうことにより 「読取るべき情報平面で発生した ,検出出力信号からなる読取り信号」が劣化した状態であっても,その劣化の度合いを妨害信号の和と読取り信号との比として表したときに,それが 「検出回路」の ,設計によって一義的に定まっている「検出回路」の再生能力を表したものとしての「妨害比Q」より小さい状態であり 「検出回路」において正しく情報信号に変換 ,されていることを表したもの,換言すれば,光学的記録担体からの読取り信号が正しく情報信号に変換されている状態であれば,妨害比Qより小さい状態となっている,というように,設計段階で一義的に定まっている検出回路の再生能力を評価しているにすぎないものであり,正しく情報信号に変換できない場合に,光学的記録担体の情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性を適合させていくことを表すものではない。
したがって,原告の上記主張は誤りである。
( )引用例に,本願発明の「前記検出系に電気的に接続して前記検出出力信号を2情報信号に変換する検出回路」に相当するものが記載されていないこと,審決は,「周知慣用技術であるところの,情報面にスポットを形成しその反射光を受光素子で受光して電気信号に変換し,その検出出力信号を情報信号に変換し,そのための検出回路」を引用例発明が当然備えるものであると認定したことは,原告主張のとおりである。
原告は,上記周知慣用技術として考えられる検出回路は,使用される情報信号の取出し方法や誤り訂正能力等が定まらず,検出回路によって異なる妨害比Qを決めることができないとか,引用例発明においては,妨害比Qを予め設定することができず,検出回路により妨害比Qが設定される余地はないなどと主張する。
しかしながら,引用例発明に周知慣用技術として当然備えられている検出回路において,受光素子により受光されて電気信号に変換された検出出力信号は,読み取るべからざる情報面(情報面5)からの再生信号(妨害信号)と,読み取るべき情報面(情報面2)からの再生信号とが混在して区別できないものであることは,当業者にとって技術常識であり,その妨害信号を含む検出出力信号から正しく情報信, , 号を得なければ 読み取るべき情報面2からの信号を再生することができないから引用例発明の検出回路は,当然に,その妨害信号を含む検出出力信号から正しく情報信号を得るように設計されているものである。このことは,引用例の「情報面5上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面2の再生信号には悪影響は与えない (4頁左上欄7〜9行「品質の高い信号が再生できる(4頁右上欄3〜4 」), 。」行)等の記載からも明らかである。そして,その設計の結果,原告のいう「その検出回路で使用される情報信号の取出し方法や誤り訂正能力等」が定まり,それによって,その検出回路の再生能力,すなわち,読み取るべからざる情報面からの妨害信号を含むことにより劣化した読取り信号について,どの程度までの劣化であれば検出回路で正しく情報信号に変換できるかが,一義的に定まるのである。このことは,どのような情報蓄積系においてもいえるものである。
しかるところ,上記( )のとおり,本願発明において 「妨害比Q」とは,妨害信1 ,号を含むことにより劣化した読取り信号について,どの程度までの劣化であれば検出回路で正しく情報信号に変換できるかを示す,いわば検出回路の再生能力を表したものであり 「妨害比Q」が「検出回路によって予め設定され」るとは 「検出回 , ,路」を設計することにより,上記「妨害比Q」が自ずと一義的に定まることをいうものである。他方,引用発明においても,上記のとおり,検出回路は,読み取るべからざる情報面からの妨害信号と読み取るべき情報面の読出し信号とが混在して区別できない検出出力信号から,正しく情報信号を得るように設計されており,その,, , 設計により 検出回路が 妨害信号を含むことにより劣化した読取り信号についてどの程度までの劣化であれば正しく情報信号に変換できるかという,検出回路の再生能力は一義的に定まっているのである。そして,引用例発明において,正しく情報信号に変換できるのであれば,当然「読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」が,検出回路の再生能力を表す「妨害比Q ,すなわち 」「読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比」より小さい状態となっているのである。
したがって,原告の上記主張は誤りであって,引用例発明が 「読取るべからざ ,る各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい」との条件を満たしていることは明らかであるから,審決の認定判断に何らの誤りもない。
第5当裁判所の判断1審決取消事由(引用例発明の認定の誤り)について( )原告は,引用例発明が,本願発明の「読取るべからざる各情報平面で発生し1た検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定さ」 ,, れた妨害比Qより小さい との構成を開示するものではないと主張するので 以下この点につき検討する。
( )まず,引用例に,本願発明の「前記検出系に電気的に接続して前記検出出力2信号を情報信号に変換する検出回路」に相当するものが記載されていないことは,当事者間に争いがないが,審決が認定したとおり,引用例に「レーザーを絞って照射し,その反射光を読み取って情報面に記録された情報を再生する光情報媒体と,レーザーと対物レンズを有し光学的に情報再生する装置と,を備えた光情報記録再生系において,レーザー入射側と反対側の面に情報面が形成された透明物質層と前記情報面上に形成された非透明物質膜(半透明薄膜,反射膜)とからなる複数の媒体ユニットを,レーザー入射方向に重ね合わせ,且つレーザー入射側に近い情報面の反射率を入射側から遠い情報面の反射率より小さくし,それぞれの層の情報面を独立に読み出す事ができるようにした光情報媒体を備え,レーザー入射側より遠い情報面または近い情報面にレーザーが絞られ,絞られたレーザースポットが照射されている情報面の情報信号を再生できる,光情報記録再生系 」である引用例発明 。
が記載され,その「レーザーを絞って照射し,その反射光を読み取って情報面に記録された情報を再生する」ことは 「周知慣用技術であるところの,情報面にスポ ,ットを形成しその反射光を受光素子で受光して電気信号に変換し,その検出出力信号を情報信号に変換し,そのための検出回路を備えることを意味」し 「本願発明 ,の・・・ 読取るべき情報平面上に放射線スポットを形成するとともに,前記記録 『担体からの放射線を検出出力電気信号に変換する放射線感知検出系まで通過させる光学系と,前記検出系に電気的に接続して前記検出出力信号を情報信号に変換する検出回路とを備える』ことに相当する」ことも,当事者間に争いがない。
( )しかるところ,引用例には,引用例発明に関して,以下の記載がある。
3「・・・2層以上形成した情報面を,レーザー入射側に近い情報面ほどその反射率を小 ア, , さくなるように構成しているので レーザー入射側から遠い情報面にも十分レーザーが到達しそれぞれの層の情報面を独立に読み出す事ができるようになり,同じ大きさの光情報媒体でも() 記録領域の面積を数倍にでき 記録密度を飛躍的に向上できる , 。」 3頁右上欄3〜10行「実施例1・・・本実施例では2層の媒体ユニットからなる場合で,かつ,それらの情 イ報面が再生専用である場合について説明する。第1図は,その2層のうちレーザー入射側より遠い情報面にレーザーが絞られている場合を示す。1はガラスや樹脂の透明物質層で,その片面に情報面2が形成されている。第1図では情報がV溝斜面に記録された場合を示している。
その情報面上に半透明薄膜(非透明物質膜)3を入射レーザーの一部だけが反射するように形成する。半透明薄膜3の上に更に透明物質層4の一面に情報面5を形成する。情報面5上の反射膜(非透明物質膜)6はレーザーを殆ど反射した方がよいのでアルミニウムなどの金属で形成する。7は情報面5に絞られて入射するレーザーである。情報面5にレーザーの絞られた部分が照射されているので,情報面5の情報信号は再生できるが,その途中の情報面2でもレーザーの一部は反射される。7′はその一部の反射光である。しかし,透明物質層4の厚さが十分であれば情報面2上でのレーザービーム径は十分大きくなり,情報面2上の信号は識別しては再生できなくなり,情報面5の再生信号には悪影響は与えない。透明物質層4の厚さは100μm以上あれば十分である。また,情報面2上の半透明薄膜を均一に形成しておけば,入射, 。 レーザーは局所的な位相変化を受けないので 信号再生に不適当な回折現象も殆ど無視できる第2図は,2層のうちレーザー入射側に近い情報面にレーザーが絞られている場合を示す。
8は情報面2に絞られて入射するレーザーを示す。情報面2には絞られたレーザースポットが照射されているので,その情報信号は再生できるが,レーザーの一部は半透明薄膜3を透過し情報面5でも反射される。8′はその反射光を表す。しかし,透明物質層4の厚さが十分であれば,第1図と同様に情報面5上でのレーザービーム径は十分大きくなり,情報面5上の信号(3頁左下欄 は識別しては再生できなくなり,情報面2の再生信号には悪影響は与えない。」7行〜4頁左上欄9行)( )上記( )の各記載及び第1,第2図によれば,引用例発明において,情報面435の情報信号を再生しようとする場合(第1図の場合)であっても,検出回路は,情報面5からの反射光を変換した検出出力信号(本願発明の用語法に従えば,情報面5で発生した検出出力信号)のほか,情報面2で発生した検出出力信号をも検出するものであるが,情報面2で発生した検出出力信号は,情報面2に記録された情報を表す信号として再生できるものではなく,情報面5の情報信号の再生を妨げるものではないこと,同様に,情報面2の情報信号を再生しようとする場合(第2図の場合)であっても,検出回路は,情報面2で発生した検出出力信号のほか,情報面5で発生した検出出力信号をも検出するものであるが,情報面5で発生した検出, , 出力信号は 情報面5に記録された情報を表す信号として再生できるものではなく情報面2の情報信号の再生を妨げるものではないことが認められる。
しかるところ,情報面5の情報信号を再生しようとする場合(第1図の場合)における情報面2で発生した検出出力信号,あるいは情報面2の情報信号を再生しようとする場合(第2図の場合)における情報面5で発生した検出出力信号は,それぞれ目的とする情報面の情報信号の再生にとっては,単なるノイズであり,読み取るべからざる情報面で発生した妨害信号というべきものであるが,そのような妨害信号の存在にもかかわらず,上記のように,目的とする情報面の情報信号の再生が妨げられないということは,読み取るべからざる情報面で発生した検出信号からなる妨害信号(読み取るべからざる情報面が複数ある場合も想定すれば,読み取るべからざる各情報面で発生した検出信号からなる妨害信号の和)のレベルが,読み取るべき情報面で発生した検出出力信号による再生を不可能とするに至る限界値,すなわち最大妨害信号よりも小さいということを意味するものであり,このことを,本願発明の要旨のように 「読み取るべからざる各情報面(情報平面)で発生した ,検出出力信号からなる妨害信号の和と読み取るべき情報面(情報平面)で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」を,いわば評価基準(評価指数)として用いた言い方によって表せば 「読み取るべからざる各情報平面で発生した検出出 ,力信号からなる妨害信号の和と読み取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」が 「読み取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号 ,と読み取るべき情報平面の読出し信号との比」より小さいということであって,そのことは,当業者であれば,容易に理解し得る技術的事項であるということができる。
( )また,本願発明の要旨は 「前記情報平面相互間の距離および前記情報平面5 ,の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して「読取るべからざる 」,各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路」, によって予め設定された妨害比Qより小さいことを特徴とする と規定するところこの規定に係る「当該情報蓄積系の妨害に対する要求」とは 「読取るべからざる ,各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」が「読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比 ,すなわち「妨 」害比Q」より小さくなるような要求ということであり 「情報平面相互間の距離お ,よび前記情報平面の光学特性」が,そのような要求に適合するということを意味するものと解される。
他方,上記( )のイの引用例の記載によれば,引用例発明は 「透明物質層4の厚3 ,さ を十分に 100μm以上に すること 及び再生の目的とする情報面上の 半 」(), 「透明薄膜を均一に形成」することにより,目的とする情報面の情報信号の再生を達成しているものと認められるところ 「透明物質層4の厚さ」は「情報面相互間の ,距離」に相当し,また,情報面上の「半透明薄膜を均一に形成」することは「情報面の光学特性」に当たるものであり,さらに,上記( )のとおり,読み取るべから4ざる情報面で発生した妨害信号の存在にもかかわらず,目的とする情報面の情報信号の再生ができるということは 「読み取るべからざる各情報平面で発生した検出 ,出力信号からなる妨害信号の和と読み取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」が 「読み取るべからざる全ての情報からの最大妨害信 ,」 , 号と読み取るべき情報平面の読出し信号との比 より小さいということであるから引用例発明が「透明物質層4の厚さ」を十分に(100μm以上に)すること,及び再生の目的とする情報面上の「半透明薄膜を均一に形成」することにより,目的とする情報面の情報信号の再生を達成しているということは,換言すれば,引用例発明も,情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性が,情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して,読み取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読み取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読み取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読み取るべき情報平面の読出し信号との比より小さいものであるということができる。
( )さらに,本願発明は 「妨害比Q」につき 「読取るべからざる全ての情報か6 ,,らの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Q」と規定するものであるところ,原告は,本願発明は,使用する「検出回路」に対応した因子として妨害比Qを設定し,その設定された妨害比Qに応じて情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性を適合させるという技術思想に基づくものであるのに対し,周知慣用技術を適用した引用例発明における検出回路は,その検出回路で使用される情報信号の取出し方法や誤り訂正能力等が定まらず,検出回路によって異なる妨害比Qを決めることはできないから,, 。 引用例発明において 検出回路により妨害比Qが設定される余地はないと主張するそこで,まず,本願発明において,妨害比Qが「前記検出回路によって予め設定された」との規定の技術的意義を検討する。
ア本願発明の要旨は,上記第2の2のとおりであって 「検出回路」について ,は「前記検出系(判決注・ 記録担体からの放射線を検出出力電気信号に変換する 「放射線感知検出系 )に電気的に接続して前記検出出力信号を情報信号に変換する 」検出回路」と規定されているが,この規定は,要するに 「検出回路」につき「検 ,出出力信号を情報信号に変換するための回路」という特定をしたにすぎず 「検出 ,回路で使用される情報信号の取出し方法や誤り訂正能力等」については,何ら特定されていない。
イまた,本願明細書には,以下の記載がある。
「・・・関連した情報平面で反射した放射線は,その情報平面上の記号によって変調さ (ア)れ,対物レンズ14,コリメータレンズ13およびビーム分割器12からなる第2光学系を介して検出系15に導かれる。その検出系15は,入射放射線を変換して,放射線ビームの変調に関連した変調を施した検出出力電気信号Sdとする。検出回路17は,読取るべき情報を表(甲第2号証段落【) わす情報信号を検出出力信号から取出す。」 0018 】「多くの場合,入来する検出出力信号を検出回路において所定の検出レベルと比較し, (イ)アナログ検出出力信号をディジタル情報信号に変換する。図2には,特殊な検出出力信号Sdを時間tの関数として例示してあり,検出レベルDを破線で示してある。検出回路17は,検出出力信号の値が検出レベルの値に等しくなる瞬間t1 t2 t3等を用いて情報信号Siを,,(甲第2号証段落【) 再構成する。」 0019 】「現在読取っている情報平面から発生した読取り信号の他に,検出出力信号は,妨害信 (ウ)号を含んでおり,その妨害信号が上述した各瞬間をずらすことになる。妨害信号の総和が所定の強度もしくは電力を超えると,上述した瞬間のずれが情報信号Siの質の低下を来たす。蓄, , 積されている情報が映像番組であると 上述した瞬間のずれが画像の質の著しい劣化を来たしディジタルデータの形の情報の場合には,この瞬間のずれが,情報信号中の誤りの許容し得る個数が使用する情報蓄積系によって決まることになる。したがって,各読取り装置について,妨害信号に上限が課せられることになる。検出出力信号Sd中の妨害信号の総和が上限値以下に保たれておれば,検出回路は,信頼し得る情報信号Siを供給することができる。読取り装置における妨害信号は,就中,放射線源11が供給する放射線ビーム10の電力の動揺,読取り装置の光学系に生ずる散乱光および読取るべき情報平面の粗さによって生ずる。情報蓄積系の設計者は,考えられる各妨害信号源に割当てられた最大許容妨害信号の一部をそれぞれ割当てるであろう。読取るべき情報平面の近くに位置する情報平面が検出系15に放射線を向けるが故に生ずる妨害信号に最大許容妨害信号値の一部を割当てるべきである。かかる妨害信号の最大値は,記録担体に対する新たなパラメータにより各多平面情報蓄積系毎に表わされ,そのパラメータの値は検出回路17によって決まる。このパラメータは,妨害比Q,すなわち,現在読取るべからざる,妨害平面と称すべき情報平面全体からの最大妨害信号と現在読取るべき(甲第2号証段落【) 情報平面からの読取り信号との比である。」 0020 】「・・・このQの値は,就中,検出系15における検出出力信号の発生方法,検出出力 (エ)信号をよくするための修正フィルタの存在,検出回路17において情報信号を検出出力信号か(甲第4号証段落 ら取出す方法,および,情報信号に課せられる必要条件によって決まる。」【)0021 】「・・・大量の誤り訂正情報は,検出出力信号の品質に対する要求を低下させる大量の (オ)誤りの訂正を可能にするので,大きい誤り訂正容量を備えた検出回路は,比較的大きい値のQを有し,大きい妨害信号に対処することができる。以下では,Qの値を読取り装置に固有の要(甲第2号証段落【) 素と考える。」 0022 】ウ本願発明の検出回路が,検出出力信号を情報信号に変換するものであることは,上記アのとおりである。そして,上記イの各記載によれば,本願発明の検出回路17に入来する(入力される)検出出力信号は,現在読み取っている情報平面から発生した読取り信号の外に妨害信号を含んでおり,妨害信号の総和が所定の強度又は電力を超えると情報信号Siの質の低下を来たすものであること,この妨害信号は,放射線源11が供給する放射線ビーム10の電力の動揺,読取り装置の光学系に生ずる散乱光,読み取るべき情報平面の粗さによって生ずる外,読み取るべき情報平面の近くに位置する情報平面が検出系15に放射線を向けるが故に生ずる妨害信号(読み取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和)も含まれること,各読取り装置について,妨害信号に上限が課せられ,検出出力信号Sd中の妨害信号の総和が上限値(最大許容妨害信号)以下に保たれていれば,検出回路は,信頼し得る情報信号Siを供給することができるので,情報蓄積系の設計者は,考えられる各妨害信号源に最大許容妨害信号の一部をそれぞれ割り当てるものであること,そして,読み取るべき情報平面の近くに位置する情報平面が検出系15に放射線を向けるが故に生ずる妨害信号の最大値は,現在読取るべからざる,妨害平面と称すべき情報平面全体からの最大妨害信号と現在読取るべき情報平面からの読取り信号との比(読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比 ,すなわち,妨害比Qをパラメータ )として,各多平面情報蓄積系ごとに表わされ,Qの値は,検出系15における検出出力信号の発生方法,検出出力信号を良くするための修正フィルタの有無,検出回路17において情報信号を検出出力信号から取り出す方法,及び情報信号に課せられる必要条件によって決まること,大きい誤り訂正容量を備えた検出回路は,比較的大きい値のQを有することが,それぞれ認められる。
そうすると,本願発明の「妨害比Q」は,検出回路ないしこれを含む多平面情報蓄積系ごとに,検出系15における検出出力信号の発生方法,検出出力信号を良くするための修正フィルタの有無,検出回路17において情報信号を検出出力信号から取り出す方法,情報信号に課せられる必要条件,あるいは検出回路の訂正容量の大きさによって定まるものであって,妨害比Qが,情報蓄積系に使用される「検出回路」ごとに異なるものであり,使用する「検出回路」に対応した因子であるとする点では,原告の主張に誤りはない。
しかしながら,妨害比Qが,検出系15における検出出力信号の発生方法,検出出力信号を良くするための修正フィルタの有無,検出回路17において情報信号を検出出力信号から取り出す方法,情報信号に課せられる必要条件,検出回路の訂正容量の大きさによって定まるということは,これらが妨害比Qの変動要因であると,「 。」 いうことであり 本願明細書に Qの値は情報蓄積系の設計から取出すべきである(甲第2号証段落【)と記載されているとおり,各検出回路ないし多平面情0023 】報蓄積系の設計によって,検出出力信号の発生方法,修正フィルタの有無,情報信号を検出出力信号から取り出す方法,情報信号に課せられる必要条件,検出回路の訂正容量の大きさが決定されれば,妨害比Qは一義的に定まるということにほかならない。
原告は,同一の設計を基にして作成された複数の検出回路相互間であっても,各検出回路を構成する素子の性能にバラツキ等があること,再生能力に係る安全限界の設定に選択の余地があること,検出回路が出力する情報信号に課せられる必要条件についても,選択可能な複数の条件が存在し得ることなどにより,妨害比Qは異なる値となることが通常であり,自ずと一義的に定まるものではないとか,検出回路の設計段階においては,検出回路に必要な様々な仕様が目標状態として存在するのみであり,妨害比Qは,このような仕様に加え,選択する安全限界及び情報信号に課せられる必要条件を基にして設定されるのであって,自ずと一義的に定まるということはできないなどと主張する。
しかしながら 「情報信号に課せられる必要条件」が,妨害比Qの決定要因(変 ,動要因)の一つであって,検出回路ないし多平面情報蓄積系の設計によってこれが定まることにより,妨害比Qの決定に与かることは上記のとおりである。これに対し,本願明細書には,検出回路を構成する素子の性能のバラツキや再生能力に係る安全限界によって,妨害比Qが定まる旨の記載はなく,とりわけ,再生能力に係る安全限界のような,適宜選択設定し得る値が妨害比Qの決定要因であるとすれば,安全限界として選択設定した数値との関係における,妨害比Qの設定の方法が明細書に記載されていなければならないが,本願明細書には,そのような記載も見当たらない。したがって,素子の性能のバラツキや安全限界に係る原告の上記主張は,明細書の記載に基づかないものといわざるを得ない。
エ以上のとおり,本願発明における,妨害比Qが「前記検出回路によって予め設定された」との規定の技術的意義は,各検出回路ないし多平面情報蓄積系の設計によって,妨害比Qが一義的に定まるというものであると解することができる。
( )他方,引用例発明が,情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性が情報7蓄積系の妨害に対する要求に適合して,読み取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読み取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読み取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読み取るべき情報平面の読出し信号との比より小さいものであるといえることは,上記( )のとおりである。
5しかるところ,引用例発明においても,検出回路ないし多平面情報蓄積系の設計に当たって,情報信号の取出し方法や誤り訂正能力等の検出回路を動作させるための種々の仕様を決めなければならないことは当然であり(そうでなければ,検出回路として動作することができない,このような検出回路ないし多平面情報蓄積系 。)の設計によって,読み取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読み取るべき情報平面の読出し信号との比(本願発明の「妨害比Q」に相当するもの)が一義的に定まるものである。すなわち,引用例発明においても,本願発明の妨害比Qに相当する「読み取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読み取るべき情報平面の読出し信号との比」が 「検出回路によって予め設定された」ものであると ,いうことができる。
そうすると,周知慣用技術を適用した引用例発明における検出回路は,その検出回路で使用される情報信号の取出し方法や誤り訂正能力等が定まらず,検出回路によって異なる妨害比Qを決めることはできないとか,引用例発明において,検出回路により妨害比Qが設定される余地はないとする原告の上記主張は誤りである。
引用例発明においても,検出回路ないし多平面情報蓄積系の設計によって 「読,み取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読み取るべき情報平面の読出し信号との比(妨害比Q 」が一義的に定まり 「読み取るべからざる各情報平面で発 ),生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読み取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比」が,上記「読み取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読み取るべき情報平面の読出し信号との比(妨害比Q 」より )小さくなるような要求(情報蓄積系の妨害に対する要求)に,情報平面相互間の距離及び情報平面の光学特性が適合するものであり,その適合した結果が 「透明物 ,質層4の厚さ」を十分に(100μm以上に)すること,及び再生の目的とする情報面上の「半透明薄膜を均一に形成」することにほかならない。
( )そして,審決が,引用例発明につき 「本願発明の『前記情報平面相互間の8 ,距離および前記情報平面の光学特性が当該情報蓄積系の妨害に対する要求に適合して』いることを意図しているのが明らかといえ,且つ,本願発明の『読取るべからざる各情報平面で発生した検出出力信号からなる妨害信号の和と読取るべき情報平面で発生した検出出力信号からなる読取り信号との比が,読取るべからざる全ての情報からの最大妨害信号と読取るべき情報平面の読出し信号との比として前記検出回路によって予め設定された妨害比Qより小さい』との条件を満たしている状態であるとすることができる 」と判断したのは,以上の趣旨をいうものと認めること 。
ができるから,審決の上記判断に原告主張の誤りはない。
2結論以上によれば,原告の審決取消事由(引用例発明の認定の誤り)は理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき違法は見当たらないから,原告の請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記