関連審決 | 無効2002-35452 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成19行ケ10378審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10047審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10144審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10065審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10308審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 製造方法 / 新規性 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 技術的特徴 / 実質的に同一 / 着想 / 参酌 / 発明の要旨認定 / 容易に想到(容易想到性) / 不存在 / 信義則 / 実施 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 取消判決 / 判決の拘束力 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10347号
審決取消請求事件
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原告ニ プロ株式会社 訴訟代理人弁護士近藤惠嗣 被告富 田製薬株式会社 訴訟代理人弁護士岩坪哲 訴訟復代理人弁護士神原浩 訴訟代理人弁理士三枝英二 同 田中順也 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/05/15 |
権利種別 | 特許権 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2002-35452号事件について平成19年9月6日にした審決を取り消す。 第2事案の概要被告は請求項1〜10から成る後記特許の特許権者である(ただし,後記特許の請求項7,8に係る発明についての特許は無効であることが確定している。 以下,請求項7に係る発明を「本件発明1 ,請求項8に係る発明を「本件発 」明2 ,請求項9に係る発明を「本件発明3 ,請求項10に係る発明を「本 」 」件発明4」という )ところ,原告は,特許庁に対し,上記特許のうち請求項 。 7〜10につき無効審判請求をした。これにつき,特許庁は,平成16年1月26日付けで,請求不成立の審決(第1次審決,乙1の1)をしたが,これに不服の原告が審決取消訴訟を提起し,東京高等裁判所は平成16年12月21日上記審決を取り消す旨の判決をし(第1次判決 ,同判決は確定した。そこ )で,特許庁がさらに審理し,平成17年9月8日付けで,後記特許の請求項7〜10に係る発明についての特許を無効とする旨の審決(第2次審決,乙1の2)をしたが,これに不服の被告が審決取消訴訟を提起し,知的財産高等裁判所は平成18年7月31日上記審決のうち後記特許の請求項9,10に係る発明についての特許を無効とするとの部分を取り消し,被告のその余の請求を棄却するとの判決をし(第2次判決 ,同判決は確定した。 )そこで,特許庁がさらに審理し,平成19年9月6日付けで,後記特許の請求項9,10に係る発明についての無効審判請求に対し請求不成立の審決(第3次審決,本件審決)をした。本件訴訟は,これに不服の原告が同審決の取消しを求めた事案である。 第3当事者の主張1請求の原因(1)特許庁等における手続の経緯ア被告は,平成4年12月14日,名称を「重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤の製造方法及び人工腎臓潅流用剤」とする発明について特許出願をし,平成10年4月17日,特許庁から特許第2769592号として設定登録を受けた(請求項1〜10。甲5。以下「本件特許」という。。)これに対し,原告から本件特許のうち請求項7ないし10につき特許無効審判請求がされたので,特許庁はこれを無効2002-35452号事件として審理した上,平成16年1月26日 「本件審判の請求は,成り ,立たない 」との審決(第1次審決,乙1の1)をした。 。 イこれに対し,原告から審決取消訴訟が提起され,東京高等裁判所はこれを平成16年(行ケ)第78号事件として審理した上,平成16年12月21日,第1次審決を取り消す旨の判決(第1次判決)をした。 ウそこで,特許庁は,上記無効2002-35452号事件につきさらに審理した上,平成17年9月8日 「特許第2769592号の請求項7 ,。, 〜10に係る発明についての特許を無効とする 」旨の審決(第2次審決乙1の2)をした。 エこれに対し,被告から審決取消訴訟が提起され,知的財産高等裁判所はこれを平成17年(行ケ)第10736号事件として審理した上,平成18年7月31日,第2次審決のうち,請求項9,10に係る発明についての特許を無効とするとの部分を取り消し,被告のその余の請求を棄却する旨の判決(第2次判決,乙1の1・2)をし,同判決は確定した。 オそこで,特許庁は,上記無効2002-35452号事件のうち請求項9,10に係る発明につきさらに審理した上,平成19年9月6日 「特,許第2769592号の請求項9,10に係る発明についての審判請求は,成り立たない 」旨の審決(第3次審決。以下「本件審決」という )を 。 。 し,その謄本は平成19年9月19日原告に送達された。 (2)発明の内容本件特許の請求項9,10に係る発明の内容は,下記のとおりである。 記【 , 「 請求項9】塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤。 【請求項10】さらに酢酸を含有してなる請求項9に記載の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤 」。 (3)第1次審決及び第1次判決の内容平成16年1月26日になされた第1次審決は,前記のとおり無効審判請求不成立としたものであるが,本件発明3,4に関するその理由の要点は,?@本件発明3は,特開平3-275626号公報(甲1。以下「刊行物1」という )に記載された発明であるとも,同公報に基づいて当業者が容易に 。 発明することができたともいえない,?A本件発明3は,特開平2-311419号公報(甲2。以下「刊行物2」という )に基づいて当業者が容易に 。 発明することができたとはいえない,?B本件発明4は,刊行物1に記載された発明(以下「刊行物1発明」という )であるとも,前記刊行物1又は前 。 記刊行物2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたということもできない,としたものである。 一方,平成16年12月21日になされた第1次判決は,前記のとおり第1次審決を取り消したものであるが,その理由の要点は,本件発明1の潅流用剤は特開平2-311418号公報(甲6)の実施例2が開示する潅流用剤と同一であると認定し,本件発明1に関する判断に誤りがあるから,これを前提とする本件発明2ないし4についての判断にも誤りがある,としたものである。 (4)第2次審決及び第2次判決の内容平成17年9月8日になされた第2次審決は,前記のとおり特許を無効とするとしたものであるが,本件発明3,4に関するその理由の要点は,?@本件発明3は,刊行物2に記載の発明(以下「刊行物2発明」という )に基。 づき,周知技術を参酌して,当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,?A本件発明4も,刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたから,特許法29条2項により特許を受けることができない,としたものである。 一方,平成18年7月31日になされた第2次判決(乙1の1・2)は,前記のとおり第2次審決のうち,特許第2769592号の請求項9,10に係る発明についての特許を無効とするとの部分を取り消したものであるが,その理由の要点は,当業者は,本件発明3の「コーティング層中にブドウ糖を含む造粒物」を容易に想到し得ると解すべき根拠がなく,刊行物2の実施例2に記載されているような流動層造粒法を行うに際して,ブドウ糖粒子を塩化ナトリウム粒子とともに流動させて核粒子とするか,ブドウ糖を噴霧液の成分として溶解させて流動層に噴霧するかは,当業者が適宜採用できた設計事項であるとすることはできないとし,本件発明3の進歩性を否定した判断には誤りがあるから,本件発明3を引用して本件発明4の進歩性を否定した判断にも,同様の理由により,誤りがあることになる,というものであった。 (5)本件審決の内容ア平成19年9月6日になされた本件審決は,前記のとおり本件発明3,4についての無効審判請求は成り立たないとしたものであるが,その理由の要点は,?@本件発明3,4は,刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明することができたとはいえない,?A本件発明3,4は,刊行物1発明と同一であるとはいえず,それから容易に発明することができたともいえない,としたものである。 イなお,本件審決は,本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物とを比較した場合の一致点,相違点は,次のとおりであるとした。 <一致点>塩化ナトリウムと塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含む造粒物であって,塩化ナトリウムが電解質化合物を含むコーティング層を介して結合した顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤である点。 <相違点>前者(本件発明3)ではブドウ糖がコーティング層中に含まれるのに対して,後者(刊行物2の実施例2)では塩化ナトリウムとブドウ糖との粒状物をその他の電解質溶液で被覆して得られたものである点。 (6)本件審決の取消事由本件審決は,本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物との相違点を誤認し(取消事由1 ,本件発明3と刊行物1発明との同一性等の判断 )を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 ア取消事由1(本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物との相違点の誤認)(ア)本件審決は 「本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物 ,とを比較すると,両者は「塩化ナトリウムと塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含む造粒物であって,塩化ナトリウムが電解質化合物を含むコーティング層を介して結合した顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤」である点で一致し,前者ではブドウ糖がコーティング層中に含まれるのに対して,後者では塩化ナトリウムとブドウ糖との粒状物をその他の電解質溶液で被覆して得られたものである点で相違する(6頁2行〜9行)とする。 。」しかし,以下の(イ)〜(エ)に照らせば,本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物との間には審決が認定したような相違点は存在しない。すなわち,両者は実質的に同一である。 (イ)本件発明3についてa本件発明3は「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した」というように,物としての造粒物の構造を規定するところ,本件明細書(甲5)においては,ブドウ糖を含んでいる実施例3のみが,本件発明3の実施例である。そうすると,本件発明3において 「塩化ナ ,トリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した」という構造が具体的にどのような構造であるのかは,実施例3に基づいて解釈されなければならない。 b本件技術分野における通常の知識を有する者であるA(原告の医薬品研究所製剤研究室長で熊本大学薬学部客員教授・薬学博士)作成の実験報告書(甲3)によれば,上記実施例3に従って製造したものがどのような構造を有する造粒物であるかを確認するため,上記実施例3を追試した造粒実験及び造粒物の観察結果に基づいて,「ブドウ糖は塩化ナトリウム粒子表面の電解質コーティング層には含まれていないことが明らかとなった 」と結論されている。この結 。 論は,ブドウ糖が塩化ナトリウム粒子表面の電解質コーティングに均一に含まれているわけではないという事実を示している。しかるに,実施例3以外には請求項9に対応する実施例はないから,甲3によって得られた構造をもって 「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化 ,カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した」という構造であると解釈するほかはない。 c本件明細書(甲5)の実施例3に記載された方法を順を追って箇条書きにすると次のようになる。 ?@先ず塩化ナトリウム823.69kgを二重缶式攪拌混合機(蒸気加熱)に入れ,攪拌しながら加熱し内容物温度を73℃とした。 ?A次に塩化カリウム26.53kgを入れ,更に塩化カルシウム36.63kg及び塩化マグネシウム21.71kgを入れて加熱混合した。 ?Bこの内容物に純水17リットル(後で添加する酢酸ナトリウム100重量部に対して24重量部)を入れ,更に酢酸ナトリウム70.07kgを添加して加熱混合した。 ?C酢酸ナトリウム添加の15分後に内容物はやや白色を増し,更に加熱混合を続けると内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた。 ?D次に,ブドウ糖213.55kgを添加して混合し,更に加熱混合をつづけると,内容物の粘りは更に増し,その後,内容物が乾燥して,さらさらした顆粒状乃至細粒状の粉体が得られた。 ?Eこの粉体を冷却した後,酢酸21.37kgを添加して30分間混合し,製品1191kgを回収した。 上記において,ブドウ糖は,?Dの段階で添加されている。これに対して,コーティング層の他の構成成分である電解質化合物は?A乃至?Bの段階で加えられており,ブドウ糖を添加する前である?Cの段階で,既に「特異な粘りが生じ」ている。?Dの段階で添加されるブドウ糖が?A乃至?Bの段階で加えられた電解質化合物とともにコーティングを形成することなど,そもそも,考えられない。甲3の実験報告書は,この当然のことを,念のために実験的に確認したものである。 d以上によれば,本件発明3の「塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層」とは,塩化ナトリウム粒子を「塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層」が取り囲み,それにブドウ糖粒子が付着してさらにコーティングされた構造であると解釈しなければならない。ところが,本件審決は,ブドウ糖がコーティング層に均一に含まれていると誤認している。その結果,本件発明3は,刊行物2発明と実質的に同一であるにもかかわらず,誤って,前記(ア)に記載したような相違点を認定したものである。 (ウ)刊行物2発明について甲4の実験報告書は,本件技術分野における通常の知識を有する者である前出Aが刊行物2の実施例2を追試した結果を報告したものである。追試の目的は,実施例2に従って製造した造粒物がいかなる構造を有するかを確認することにある。 甲4の結果によれば 「ブドウ糖粒子が,凝集粒子内に取り込まれて ,いるもの,あるいは単独で存在しているブドウ糖粒子が視覚的に確認された 」と結論されている。ここで 「ブドウ糖粒子が,凝集粒子内 。 ,に取り込まれている」状態は,文字どおりに理解すれば,ブドウ糖がコーティング層中に含まれている状態とは異なる。一方,前記記載のとおり,本件明細書(甲5)の実施例3の追試結果においても,ブドウ糖は,塩化ナトリウムの凝集粒子に一部が付着している程度であって,文字どおりの意味でコーティング層に含まれてはいない。さらに,被告の追試結果(乙3)でも,平面的に見た場合に,電解質化合物とブドウ糖が重なって見える領域が大きいというだけである。 (エ)以上によれば,ブドウ糖がコーティング層に含まれているか否かという観点から本件発明3と刊行物2発明とを比較すると,実質的な相違点は存在しないから,本件審決には,結論に影響を及ぼすべき事実誤認がある。 , (オ)第2次判決の拘束力についてみると,第2次判決(乙1の1・2)は「第1次判決の内容は,…本件発明3につき,刊行物2と対比して本件発明3,4の進歩性につき判断を示したものではない。したがって,本件発明3,4の進歩性に係る判断につき,第1次判決が差戻し後の審判官を拘束することはないというべきである… (24頁下9行〜下3 」行)と述べ,結論として 「本件審決のうち,本件発明3の進歩性を否 ,定した判断には誤りがあり,したがって,本件発明3を引用して本件発明4の進歩性を否定した判断にも,同様の理由により,誤りがある…」(32頁下5行〜下3行)と判断している。これらの判断は第2次審決の認定した相違点を前提とするものであるが,第2次審決の認定した相違点は,本件審決の認定した前記相違点と同一である。 そうすると,第2次判決は,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであるから,第2次判決の拘束力は進歩性判断について及ぶことになる。しかし,取消事由1は,そもそも,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるから,第2次判決の拘束力は及ばない。 イ取消事由2(本件発明3と刊行物1発明との対比の誤り),, (ア)本件審決は,刊行物1の実施例の記載を引用した後 「刊行物1は塩化ナトリウム粒子の表面に電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物とすることを記載したものではない 」。 (8頁5行〜8行)とするが,前記記載のとおり,本件明細書(甲5)には 「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウ ,ム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した」構造がどのようなものであるかを具体的に記載した部分は存在しない。したがって,本件発明3と刊行物1発明との相違点を認定するに当たっては,単に字面で比較するのではなく,実質的にいかなる構造の造粒物が得られるかを考えて比較しなければならない。実質的に比較すれば,本件発明3と刊行物1発明との間には,以下の(イ)〜(エ)に照らし,実質的な相違点は存在しないから,審決の上記認定は誤りである。 (イ)本件発明3について前記記載のとおり,本件明細書(甲5)の実施例において本件発明3に対応するものは実施例3のみであり,また,同実施例3には製造方法のみが記載され,得られた造粒物の構造についての記載はない。 (ウ)刊行物1について本件審決も認定するとおり,刊行物1には次の記載がある。 「実施例1それぞれ平均粒径50μ 程度に粉砕された塩化ナトリウム,塩化カmリウム,塩化カルシウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ糖を下記の比率で混合し,さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添加して混合した。 74.7110重量%NaCl1.7943〃 KCl・2.2839〃 CaCl2H O 22・1.2408〃 MgCl6H O 227.9296重量% CH COONa 3ブドウ糖12.0404〃該混合物を押し出し造粒機を用いて造粒し,直径0.5?o,長さ1〜10?oの円柱状の粒子を100kg得た。次に,温度50℃に調整された回分式箱型乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥した。その後さらに,氷酢酸を1.5重量%加えて,これをA剤とした 」。 (エ)対比本件特許の実施例3と,刊行物1(甲1)の実施例1とを比較すると,次のとおりである。 本件特許の実施例3刊行物1(甲1)の実施例1?@ 先ず塩化ナトリウム823.69k それぞれ平均粒径50μ 程度に粉砕さ mgを二重缶式攪拌混合機(蒸気加熱)に れた塩化ナトリウム,塩化カリウム塩化入れ,攪拌しながら加熱し内容物温度を カルシウム2水和物,塩化マグネシウム73℃とした。6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ?A 次に塩化カリウム26.53kgを 糖を下記の比率で混合し入れ,更に塩化カルシウム36.63k74.7110重量%NaClg及び塩化マグネシウム21.71kg1.7943 〃 KClを入れて加熱混合した。・2.2839 〃 CaCl2H O 22・1.2408 〃 MgCl6H O 227.9296 〃 CH COONa 3ブドウ糖12.0404 〃?B この内容物に純水17リットル(後 さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添で添加する酢酸ナトリウム100重量部 加して混合した。 に対して24重量部)を入れ,更に酢酸ナトリウム70.07kgを添加して加熱混合した。 ?C 酢酸ナトリウム添加の15分後に内容物はやや白色を増し,更に加熱混合を続けると内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた。 ?D 次に,ブドウ糖213.55kgを 該混合物を押し出し造粒機を用いて造粒添加して混合し,更に加熱混合をつづけ し,直径0.5mm,長さ1〜10mmると,内容物の粘りは更に増し,その の円柱状の粒子100kgを得た。次後,内容物が乾燥して,さらさらした顆 に,温度50℃に調整された回分式箱型粒状乃至細粒状の粉体が得られた。乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥した。 ?E この粉体を冷却した後,酢酸21. その後さらに,氷酢酸を1.5重量%加37kgを添加して30分間混合し,製 えて,これをA剤とした。 品1191kgを回収した。 上記の表からも明らかなとおり,本件発明3においても,刊行物1の実施例1においても,塩化ナトリウムとその他の電解質化合物が混合され水が添加される点では変わりがない。実質的な相違点としては,本件発明3では,ブドウ糖が後から添加される点が挙げられるが,このことは,むしろ 「ブドウ糖を含むコーティング層」の形成にはマイ ,ナスである。したがって,本件発明3において 「塩化カリウム,塩化 ,カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層」とは,塩化ナトリウム粒子を中心に考えた場合に,塩化ナトリウム粒子の周囲に,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖の成分が付着して一体となった造粒物を形成していると解釈する以外にない。 本件発明3にいう 「塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシ ,ウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層」は,以上のようなものであるから,刊行物1(甲1)にも「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤(本件発明3)が実質的に記 。」載されている。 (オ)第2次判決の拘束力については,刊行物1は,第2次審決に対する審決取消訴訟における審理の対象とはなっていなかった刊行物であるから,同刊行物に関する特許庁の認定,判断が,第2次判決の拘束力を受けることはない。 2請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(5)の各事実は認めるが,同(6)は争う。 3被告の反論本件審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由1,2はいずれも理由がない。 (1)拘束力違反(取消事由1,2に対し)ア本件発明3と刊行物1発明及び刊行物2発明との間に相違点がないとの原告の主張は,次のとおり,第2次判決の判断と矛盾し,同判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)に反する主張である。 イ第2次審決に対する審決取消訴訟においては,本件発明3,4の進歩性の有無が争われた。刊行物1,刊行物2に基づく進歩性(想到容易性)の有無ということは,本件発明3と刊行物1発明,刊行物2発明との一致点,相違点の認定を前提として相違する部分を本件発明3のようにすることが容易か否かの判断である。 そして,その前提として,第2次判決は以下のa,bのとおり判示しており,この判断は,行政事件訴訟法33条1項の拘束力が生じている判断である。 a「刊行物2においては,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が記載されているわけではなく,本件訴訟で提出された全ての証拠中にも,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が開示されたものはなく,かかる内容の周知技術が存在したことも認められない。 また,刊行物2には,発明の効果として,前記のとおり「…各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が…解決で(き)る」と記載されていることから,前記ウのように,刊行物2発明の,ブドウ糖が固体のまま粉末化される方法によっても,各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が解決できることが記載されていると認めることができる。しかし,本件発明3が目的とする技術的効果という観点から検討すると,刊行物2発明においては,ブドウ糖はあくまで固体のまま粉末化されるものであり,本件発明3のように,塩化ナトリウム粒子の表面にブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物とすることが開示されているわけではないから,得られる造粒物個々の間における成分組成の相違の点においても,ある特定の集合体におけるブドウ糖成分の分布の不均一さの点においても,本件発明3の技術的効果とは実質的な相違があるものというべきである(28頁。」20行〜29頁12行)b「…本件審決は,…刊行物2の実施例2においてブドウ糖と塩化ナトリウムとの粒状物を流動させる方法に代えて,塩化ナトリウムとは別にブドウ糖を適宜なる形態で流動層造粒機に導入して造粒し,コーティング層中にブドウ糖を含む造粒物を得ることは当業者が容易に行いうることであるといえる,と述べる。 そこで,審決が引用する甲16(公開特許公報平3-275626号)を見ると,その4頁左上欄に「実施例1それぞれ平均粒径50μm程度に粉砕された塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ糖を下記の比率で混合し,さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添加して混合した。 NaCl74.7110重量%KCl1.7943〃CaCl ・2H O2.2839〃2 2MgCl ・6H O1.2408〃 2 2CH COONa7.9295〃3ブドウ糖12.0404〃該混合物を押し出し造粒機を用いて造粒し,直径0.5?o,長さ1〜10?oの円柱状の粒子を100?s得た。次に,温度50℃に調整された回分式箱型乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥した。その後さらに,氷酢酸を1.5重量%加えて,これをA剤とした 」と記載されており,これによると,塩化ナトリウム,塩化カリウ 。 ム,塩化カルシウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ糖を特定の比率で混合し,さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添加して混合し,押し出し造粒機を用いて造粒し,直径0.5?o,長さ1〜10?oの円柱状の粒子を100?s得,温度50℃に調整された回分式箱形乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥し,氷酢酸を1.5重量%加えて,これをA剤としたことが記載されていることが認められる。また甲15(公開特許公報平2-145522号)を見ると,その3頁左上欄に「本発明のペースト状潅流用剤において,アセテート透析剤にあってはグルコースを,バイカーボネート透析剤にあっては炭酸水素ナトリウムを別剤として添付し,使用時に調製する 」と記載されており,これによると,ブドウ 。 糖を別剤として添付し,使用時に調製することが記載されていることが認められる。 しかしながら,上記の記載内容は,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,本件発明3のように,塩化ナトリウム粒子の表面にブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物とすることを記載したものではない。そして,上記のように,そもそも本件訴訟で提出されている全ての証拠を見ても,従来技術で解決できなかった,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むとする本件発明3の構成が記載ないし示唆されたものはない(29頁20行〜31頁12行) 。」ウ以上のように,第2次判決は,明確に,刊行物2にも,刊行物1にも,本件発明3の「塩化ナトリウム粒子の表面に…ブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物」が記載されていないと判断している。 そして,審決は,第2次判決の,拘束力が生じた判断に従い,本件発明3と刊行物2発明との間に相違点があることを前提として,本件発明3が刊行物2(実施例2)に基づき容易想到でないとの判断をしたものである。 この審決の判断は,行政事件訴訟法33条1項によって拘束力が生じる「判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断」に従ったものであって,逆に審決はこれに反する判断をすることはできない。 しかるに,本件発明3が刊行物2発明あるいは刊行物1発明であるとの原告の主張は,拘束力が生じている第2次判決の前記イa,bの判断と矛盾する蒸し返しの主張であり,失当である。 エ原告は,第2次判決は審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであるから,第2次判決の拘束力は進歩性判断についてのみ及び,第2次判決が前提とした相違点の存否については及ばないと主張するが,失当である。 請求項に係る発明の進歩性の判断は,当該発明と引用発明の一致点及び相違点を認定し,相違点について請求項に係る構成のようにすることの動機付けの有無を吟味する判断であるから,進歩性の判断において請求項に係る発明との「一致点及び相違点 ,換言すれば,引用発明に記載された 」発明であるか否かの判断が当然の前提とされている。そうすると,本件発明3,4と刊行物1発明,刊行物2発明とが相違するという判断は,第2次判決が結論を導く上で必須の事項として明示的になされた判断であり,「相違点の存否」についての第2次判決の判断に拘束力が生じることは明らかである。 (2)信義則違反(取消事由1に対し)ア原告の主張は,第2次審決に対する審決取消訴訟(以下「第2次審決取消訴訟」という )時の主張と矛盾しており,かかる矛盾する主張を行う 。 ことは信義則上許されない(行政事件訴訟法7条,民訴法2条 。)イすなわち,原告は,第2次審決取消訴訟において次のとおり主張していた。 「…刊行物2の実施例2に記載された製造方法を実施し,塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子を流動層造粒機内で流動させると,塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子の周囲に噴霧液の成分である電解質化合物を含むコーティング層が形成され,該コーティング層を介して複数の粒子が結合した構造が得られる。これに対して,本件発明3は,ブドウ糖がコーティング層に含まれていて,複数の塩化ナトリウム粒子がコーティング層を介して結合しているものである。 したがって,刊行物2発明(本判決注,刊行物2は甲2)と本件発明3とは,ブドウ糖が造粒物の核を形成する粒子(核粒子)となっているか,コーティング層に含まれているかという点において相違する。 しかし,両者とも,粉末を溶解して水溶液にして透析液とするための発明であり,均一な組成の粉末粒子を得ることを目的とする点で共通する。したがって,ブドウ糖が核粒子として存在するか,コーティング層の中に存在するかによってその効果は変わらない。… (第2次判決〔乙1の1〕14頁15行〜15頁2行) 」これによれば,原告は,本件発明3はブドウ糖がコーティング層中に含まれているのに対し「刊行物2 (甲2)の実施例2はブドウ糖が核 」粒子となっており,両者は,ブドウ糖がコーティング層中に含まれているか核粒子となっているかという点で相違していると明示的に主張し,そのうえで,この相違点について容易推考か否かを立証命題に,当事者双方が攻撃防御を尽くしたのである。加えて,原告は,平成14年10月21日の無効審判請求以来,本件発明3についてブドウ糖がコーティング層中に含まれていることを否定したことは一度もなかった。 ウしかるに,原告は,本訴に至るや,本件発明3においてブドウ糖は文字どおりの意味ではコーティング層中に含まれておらず,刊行物2発明, (甲2)と実質的に同一であると主張し出したのである。かかる主張は第2次審決取消訴訟はもちろんそれ以前における裁判所及び特許庁の審理の努力や被告の訴訟追行の努力を無視する,訴訟上の信義則(行政事件訴訟法7条,民訴法2条)に明らかに反する主張であり,実体内容に立ち入るまでもなく失当である。 (3)対比の主張について(取消事由1,2に対し)ア発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて行われる(最判平成3年3月8日・民集45巻3号123頁 。)しかるに,本件発明3は,複数個の塩化ナトリウムが表面をコーティングするコーティング層を介して結合した造粒物であって,当該コーティング層には微量電解質化合物及びブドウ糖が含まれているものであることが特許請求の範囲の記載上一義的に明らかである。 原告は,本件発明3につき,ブドウ糖は,塩化ナトリウムの凝集粒子に一部が付着している程度であって,文字どおりの意味でコーティング層に含まれてはいないとするが,本件発明3がかかる発明であることは本件明細書(甲5)を通覧しても導かれず,特許請求の範囲の記載を度外視した誤った主張である。かえって,本件明細書(甲5)の段落【0011】には 「塩化ナトリウム粒子の表面に…微量の電解質化合物及びブドウ糖を ,含むコーティング層…を介して結合した造粒物からなる…重炭素透析用人工腎臓灌流用剤 」との記載が,同段落【0013】には 「本発明のA 。 ,剤においては,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及び必要に応じて使用されるブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成しており 」との記載がある。 ,イ他方,甲2(実施例2)にはブドウ糖を塩化ナトリウムとの混合粉末として流動層造粒機内で造粒すること(塩化ナトリウムと共に流動層造粒法における核粒子として用いること)が記載され(甲2・5頁左上欄2行〜12行 ,甲1には粉砕された塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カル )シウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウム及びブドウ糖を混合して押し出し造粒することが記載されているものの(甲1・4頁左上欄3行〜19行 ,本件発明3の構成は明らかに非開示である。した )がって,本件発明3が刊行物1発明あるいは刊行物2発明でないことは明らかであるから,本件発明3及びこれに従属する本件発明4が刊行物1あるいは刊行物2に基づき新規性を有しないとされる理由は存在しない。 ウところで原告は,本件明細書(甲5)中,本件発明3をサポートする実施例3記載の方法に従って粉末透析剤を製造しても,ブドウ糖が塩化ナトリウム粒子表面のコーティング層に均一に含まれている造粒物は製造できなかったとする。原告は,その前提で,請求項9の「塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層」とは,塩化ナトリウム粒子を「塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層」が取り囲み,それにブドウ糖粒子が付着してさらにコーティングされた構造であると解釈され,そのように解すると本件発明3と刊行物1発明あるいは刊行物2発明とは実質的に同一であるとする。 しかし,原告の本件発明3の要旨認定は,本訴に至って原告が実験により実施例を再現したとする結果に基づき発明の要旨認定をすべきという到底首肯しえない解釈である。また,原告の上記主張は,本件明細書(甲5)の実施例3記載の方法に従って製造してもブドウ糖が塩化ナトリウム粒子表面の電解質コーティングに均一に含まれている造粒物は製造できないことを前提とするが,これは只一回の実験結果をもって請求項9(本件発明3)が実施不能とするものであり説得力がない上,後記エのとおり,当業者であれば,本件明細書(甲5)の発明の詳細な説明の記載に従いブドウ糖がコーティング層中に含まれている造粒物を製造することが可能である。さらに,原告の実験は,後記オのとおり不適切な実験であって,本件明細書(甲5)の実施例3を再現したものではない。 エ被告による追試実験(ア)被告は,本件発明3及び4を,当業者が本件明細書(甲5)の発明の詳細な説明の記載に従って実施可能であることを証明するため,乙3(被告の医薬品事業開発室長B作成の「実験報告書(特許第2769592号 ,平成19年5月10日 )のとおり追試を行った。 )」その際,本件明細書(甲5)の実施例3の記載(段落【0039 )】に忠実に,二重缶式攪拌混合機(ナウターミキサー,DBX-2000型,株式会社ホソカワミクロン製)を使用し,以下のとおり,処方も実施例3に合わせた。 塩化ナトリウム(日局NaCl:富田製薬製)823.69kg塩化カリウム(日局KCl:富田製薬製)26.53kg塩化カルシウム(日局CaCl ・2H O:富田製薬製)36.63kg22塩化マグネシウム(局外規MgCl ・6H O:赤穂化成製)21.71kg 22無水酢酸ナトリウム(食添CH COONa:日本合成化学製)70.07kg 3酢酸(日局CH COOH:エビス薬品化工製)21.37kg 3kg ブドウ糖(日局C H O :サンエイ糖化製)213.55 6 12 6純水(精製水:富田製薬製)17リットルなお,甲3(原告の医薬品研究所製剤研究室長・熊本大学薬学部客員教授・薬学博士A作成の「実験報告書(特許第2769592号 ,)平成19年1月15日 )において 「赤色に染められたブドウ糖粒子 」,の大部分がコーティング層に取り込まれることなく単独粒子として存在」しているとの記載があるため(9頁3行〜4行 ,食用赤色102号 )(三栄原エフ・エフ・アイ製)もブドウ糖着色用として実験に供した。 (イ)実験方法?@実験1塩化ナトリウム823.69を二重缶式攪拌混合機(蒸気加熱)に入れ,kg攪拌しながら加熱し内容物温度を73℃とした。次に塩化カリウム26.53を入れ,更に塩化カルシウム36.63及び塩化マグネシウム21.71kg kgを入れて加熱混合した。この内容物に純水17リットル(後で添加す kgる酢酸ナトリウム100重量部に対して24重量部)を入れ,更に酢酸ナトリウム70.07を添加して加熱混合した。酢酸ナトリウム添加の約kg15分後に,内容物がやや白色を増してきたのを確認し,更に加熱混合を続けると,内容物に特異な粘りを生じ,内容物の粒子同士が付着し始めたのを確認した。 この段階で,ブドウ糖213.55を加熱して混合し,更に加熱混合をkg続けたところ,内容物の粘りは更に増し,その後,内容物が乾燥に転じ始め,さらさらした顆粒状乃至細粒状の粉体が得られた。この粉体を冷却した後,酢酸21.37を添加して30分混合し,製品1187kgを回収した。 kg?A実験2実験1と異なる点は,添加するブドウ糖につき,あらかじめ食用赤色102号にて表面を着色したものを使用した点である。 製品1183を回収した。 kg(ウ)実験結果?@成分分析得られたいずれのサンプル(n=5)においても,成分組成のバラツキは医薬品の通常の規格である95〜105%の範囲内であり,CV値(相対標準偏差値(標準偏差(SD)を平均値で除した値。集団を形成する個体の分散の程度を知る指標)も3.3%以内であって均 。)一な製剤であった(乙3の4頁【表2。また,ブドウ糖に関する標 】)準偏差(SD)も平均1.52g/Lに対し0.03g/Lと小さく(同上表 ,本件明細書【表8】の値と整合するものであった。 )?A顕微鏡観察粒子同士が結合した造粒物が得られ,単独で存在する粒子はほとんど見られないことが確認された(乙3の4頁【写真2。】)?B粒子表面のほぼ全域において,塩化ナトリウム表面にコーティング層を形成するべく配合された酢酸ナトリウムとブドウ糖の双方がほぼ同一形状で存在することを確認でき,よって,粒子表面のコーティング層にブドウ糖が存在していることが確認できた(乙3の6頁【写真6。】)(エ)評価上記実験は,後述する甲3の実験と異なり,実施例3を一切スケールダウンすることなく,忠実に再現したものである。上記実験の結果,造粒物の表面全域においてブドウ糖がくまなく均一付着した造粒物(即ち表面コーティング層中にブドウ糖が均一的に含まれた造粒物)が,安定的に得られることが明らかとなった。したがって,当業者が発明の詳細な説明の記載に従って実施例3を実施すれば,文字どおりブドウ糖がコーティング層中に均一的に含まれた造粒物を製造できることが実証された。そして,実施例3に従って製造を行っても,塩化ナトリウム粒子を「塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物を含むコーティング層」が取り囲み,それにブドウ糖粒子が付着してさらにコーティングされた構造の造粒物しか得られないとの事実はない。 オ原告実験(甲3)の不適切性(ア)原告が実施した実験によりブドウ糖がコーティング層中に含まれている造粒物を製造し得なかったのは,原告の実験条件が不適切であっためであることは明らかである。 (イ)原告が実施した実験は少なくとも次の点において明らかに適切性を欠くものである。 ?@スケールダウンの不適切性本件明細書(甲5)の実施例3に対し,原料のスケールが約1/1000にスケールダウンされている。しかしながら,加熱時間等の造粒条件は全く調整されていない。 実施例3の原材料は合計1213.55であるところ,原告が実施したkg実験の原材料は合計1473 であって(甲3の2頁 ,約1/1000に g )スケールダウンされている。 しかるに,二重缶式攪拌混合機において,加熱等の造粒条件が全く同じであれば,加熱混合される内容物の量が少ないほど乾燥に要する時間も短くなることは自明である。その際,ブドウ糖が溶融した状態で攪拌混合されることにより,他の電解質化合物と共にコーティング層を形成することは自明であるから,スケールを変更して製造を行うのであれば,変更されたスケールに合わせて適宜加熱条件を調整しなければ,実施例3の再現とはいえない。 それにもかかわらず,原告は,温度,加熱時間等の加熱条件を,実施例3とおりにしているものと見受けられる。そのため,乾燥が実施例3と比較して早く進行し,ブドウ糖を添加した時点で,既にブドウ糖を溶融する水がほとんど存在しない状態となり,その結果,ブドウ糖がコーティング層中に取り込まれなかったと推認されるのである。 このことは,原告実験の【写真2 (甲3の6頁)を見るとブドウ 】糖を着色した食用赤色102号が,他の造粒物を全く染色していないことからも推認される。ブドウ糖は水溶性であるから,赤色102号で着色されたブドウ糖を添加した時点で水が存在していれば,このブドウ糖が水に溶解して他の造粒物を多少なりとも染色するのが自然であるのに,他の造粒物に色移りしていないことは全く不自然である。かかる事実からも,ブドウ糖を添加した時点で,既にブドウ糖を溶解する水がほとんど存在しない状態となっていたこと,即ち 「酢酸ナトリ ,ウム添加の15分後に内容物はやや白色を増し,更に加熱混合を続けると内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた。次に,ブドウ糖213.55kgを添加して混合し,更に加熱混合をつづけると,内容物の粘りは更に増し,その後,内容物が乾燥」したという本件明細書(甲5)の段落【0040】の製造工程が,甲3の実験で再現されていないことが窺える。 ?Aブドウ糖の粒径選択の不自然性甲3には 「ブドウ糖粒子の大きさは,塩化ナトリウム粒子とほぼ ,同等かそれ以上の大きさである 」との記載がある(8頁下7行〜下 。 6行 。そして,甲3の6頁【写真3【写真4】が,事実,現物の ) 】,10倍拡大写真であるとするならば,原告が実験に供した塩化ナトリウムは概ね500〜600μm程度であるのに対し,ブドウ糖は概ね1200μmにも及んでいることになる(甲3の6頁【写真3【写】,真4】参照 。すなわち,ブドウ糖は塩化ナトリウムの2倍以上とい )う大きなものである。 しかし,本件発明3及び4は,塩化ナトリウム粒子の表面を電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層が覆っているものであるから,ブドウ糖の粒径は塩化ナトリウムよりも小径である方がコーティング層を形成しやすく,そのような粒径のものを選択することは当業者にとって自明である 「塩化ナトリウムの表面にブドウ糖を含むコ 。 ーティング層を形成させる」ために,塩化ナトリウムの約2倍もの粒径のブドウ糖を使用するなどという発想は,当業者の発想ではない。 そして,一般に,局方品の塩化ナトリウムとして用いられる結晶粒子の平均粒径は,300〜400μm程度であるのに対し,同じく局方品のブドウ糖として一般に用いられる結晶粒子の平均粒径は,これよりも小さく概ね250μm程度である。例えば,ブドウ糖を市販するサンエイ糖化株式会社のカタログ(乙4)によれば,ブドウ糖の粒径の分布は,次のとおりとなっている(なお,篩の目開きは,100メッシュが150μm,70メッシュが210μm,32メッシュが500μmに各相当する 。)品名TDATDAsTDAcTDHハイメッシュ32メッシュ上0%0%0%5%以下0%32〜70メッシュ50%以下70%以下20%以下70%以下10%以下70〜100メッシュ50%以下40%以下60%以下40%以下20%以下100メッシュ下70%以下40%以下40%以上40%以下80%以上これを参照しても,原告の選択したブドウ糖の粒径が不自然に大きいものであることが明らかである。原告の実験に供されたブドウ糖は,市販の医薬用ブドウ糖にはない特別な処理をして製造したとしか思えない極めて特異な粒径を有するものである。 第4当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁等における手続の経緯 ,(2)(発明の内容 ,(3)(第 ))1次審決及び第1次判決の内容 ,(4)(第2次審決及び第2次判決の内容 , ) )(5)(本件審決の内容)の各事実は,いずれも当事者間に争いがない。 そこで,審決の違法の有無に関し,原告主張の取消事由ごとに判断する。 2取消事由1(本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物との相違点の誤認)について(1)審決取消訴訟において,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれが取り消されて確定した場合には,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないのであり,したがって,再度の審決取消訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決の認定判断を誤りである(同一の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として,これを裏付けるための新たな立証をし,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決を違法とすることは許されない(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照 。)しかるに,前記のとおり,平成17年9月8日になされた第2次審決のうち,請求項9,10に係る発明(本件発明3,4)についての特許を無効とするとの部分は,平成18年7月31日言渡しの第2次判決により取り消され同判決は確定したのであるから,本件審決を担当する審判官は,第2次判決の有する拘束力の下で判断しなければならないことになる。 以上の見解に基づき,以下検討する。 , (2)平成17年9月8日になされた第2次審決(乙1の2)は,本件発明34につき,次のア〜オの内容を含む認定判断をした。 ア「甲第9号証の実施例2(以下,引用実施例2という。本判決注,甲2〔特開平2-311419号公報 )は,甲第1号証(本判決注,特開平 〕2-311418号公報)の実施例2と同じ流動層造粒機(富士産業株式会社製STREA-15)を用いて同様な操作によって造粒を行っているのであるから,…電解質水溶液の噴霧によって,流動している塩化ナトリウム及びブドウ糖の粒子の表面の少なくとも相当部分が被覆された造粒物が得られ,その被覆を介した粒子同士の結合が生ずるものと解され,また,造粒操作において噴霧された電解質のほぼ全量が塩化ナトリウム及びブドウ糖に対してほぼ一定の割合で付着し,塩化ナトリウム及びブドウ糖に対する各電解質化合物の割合も一定かつ特定の割合となっているものと解される 」。 (8頁4行〜12行)イ「そこで,本件発明3と引用実施例2で得られた造粒物とを比較すると,両者は「塩化ナトリウムと塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含む造粒物であって,塩化ナトリウムが電解質化合物を含むコーティング層を介して結合した顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤」である点で一致し,前者ではブドウ糖がコーティング層中に含まれるのに対して,後者では塩化ナトリウムとブドウ糖との粒状物をその他の電解質溶液で被覆して得られたものである点で相違する(8頁13行〜20行) 。」ウ「しかしながら,甲第9号証には,ブドウ糖を塩化ナトリウムとの混合粉末として流動層造粒機内で造粒することも記載されており(4頁左上欄〜右上欄 ,ブドウ糖を塩化ナトリウム及び他の電解質と均一に混合,粉 )砕したものを乾式造粒装置によって造粒する方法(実施例1)も記載されていることからみて,甲第9号証における造粒物においてブドウ糖は必ずしもコーティングされた粒子の内部に存在していなくてもよいものであることは明らかである。 そして,透析用人工腎臓潅流用剤において,ブドウ糖を電解質と別の包装とする場合や,ブドウ糖を電解質と均一に混合する場合など各種の態様があることも周知であるから(甲第9号証実施例1,甲第8号証4頁左上欄,甲第7号証2頁左上欄 ,ブドウ糖を含む顆粒状乃至細粒状の重炭酸 )透析剤を製造するにあたり,引用実施例2においてブドウ糖と塩化ナトリウムとの粒状物を流動させる方法に代えて,塩化ナトリウムとは別にブドウ糖を適宜な形態で流動層造粒機に導入して造粒し,コーティング層中にブドウ糖を含む造粒物を得ることは当業者が容易に行いうることであるといえる。 また,本件明細書の記載からみて,ブドウ糖がコーティング層中に存在させたことによる効果も当業者の予測の範囲を超えるものではない 」。 (8頁21行〜9頁1行)エ「したがって,本件発明3はその出願前に頒布された刊行物である甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明である(9頁2行〜5行) 。」オ「本件発明4は,本件発明3の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤にさらに酢酸を含むものであることを限定したものである…から,上記…と同様の理由によって,本件発明4は,その出願前に頒布された刊行物である甲第9号証(本判決注,甲2〔特開平2-311419号公報 )に記載され 〕た発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるといえる。 したがって,本件発明4は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であ…る(9頁10行〜24行) 。」(3)これに対し,平成18年7月31日に言い渡されその後確定した第2次判決(乙1の1,2,乙2)は,富田製薬株式会社主張の取消事由3として次のアの内容を含む主張を摘示し,これに対するニプロ株式会社の反論として次のイの内容を摘示した上,取消事由3の同部分に関する判断として次のウの内容を説示して,第2次審決のうち,特許第2769592号の請求項9,10に係る発明(本件発明3,4)についての特許を無効とするとの部分を取り消した。 ア取消事由3(本件発明3,4の進歩性の判断の誤り等)「(イ)本件審決は,本件発明3と刊行物2とを対比し,本件発明3の進歩性を否定し,本件発明4の進歩性も否定したが,かかる判断は誤りである。 ?@本件審決は,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム,酢酸ナトリウム及びブドウ糖を含むコーティング層を,塩化ナトリウム粒子表面に有することを特徴とする本件発明3について,刊行物2から容易想到とするが,刊行物2には,塩化カリウム等の微量電解質化合物を水溶液とし,塩化ナトリウム及びブドウ糖を攪拌混合した混合粉末に対して水溶液を噴霧して増量する流動層造粒法が記載されているに過ぎず,本件発明3の特定事項である「コーティング層にブドウ糖を含む」という事項は,何らの開示もなければ,その示唆も存在しない。 さらに,本件においては,甲15(特開平2-145522号公報 ,甲16(特開平3-275626号公報)を含めて,ブドウ糖 )をコーティング層の成分とするという,刊行物2に開示されていない事項を補うための何らの副引用例も示されていない。重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤において,ブドウ糖を電解質と別の包装とする場合や,ブドウ糖を電解質と均一に混合する場合など各種の態様があることが周知であるということは,刊行物2における,ブドウ糖を流動層造粒法の核とする構成に代えて,ブドウ糖を被覆層に含有させる構成に想到することが容易であるとの結論を,何ら導きうるものではない。 ?Aまた,塩化ナトリウム及びブドウ糖を核粒子としてこれに対し電解質溶液を噴霧する流動層造粒法によっても,偏析の解消には限度がある。なぜなら,塩化ナトリウムとブドウ糖が流動層中に浮遊懸濁して激しく運動する状態において,これらの粒子に噴霧液が噴霧されてなる造粒物は,塩化ナトリウムを核とする造流物と,ブドウ糖を核とする造粒物とが,1次凝集粒子として別個に生成されると考えられ,結局,比重の大きな塩化ナトリウムを核とする造粒物と,比重の小さなブドウ糖を核とする造粒物が混在することは避けられないからである。これに対し,本件発明3は,塩化ナトリウム粒子を核粒子とし,他の電解質化合物及びブドウ糖をすべてコーティング層の成分として用いるものであるため,所定の組成比にほぼ沿った高度な含有均一性を実現し,偏析の問題をほぼ完全に解消できるものであるから,刊行物2発明とは質的に異なる顕著な効果を有する。 ?Bブドウ糖の水溶液は,弱酸性に対しては比較的安定であるが,アルカリ性では不安定であり,炭素鎖の開裂等を伴う分解が起こり,異性化することが知られており(甲17〜19 ,医薬品として定め )られた成分処方を保ち得ない(他物質への変性)ということは,医薬品として重大な禁忌である。しかるに,流動層造粒法における噴霧液にブドウ糖を混入して用いようとする場合,塩化カリウム,酢酸ナトリウムを含有する電解質化合物水溶液は,pH8.53程度の弱アルカリ性を有する(甲20 。したがって,当業者にとって, )人工透析剤を製造する流動層造粒工程において,噴霧液としてブドウ糖の水溶液を用いることについては,禁忌というべき技術的阻害要因が存在する。 ?C本件発明3について進歩性が否定されない以上,本件発明4についても進歩性は否定されない 」。 イ反論「イ本件審決は,本件発明3と刊行物2とを対比し,本件発明3の進歩性を否定し,本件発明4の進歩性も否定したが,かかる判断に誤りはない。 (ア)すなわち,刊行物2の実施例2に記載された製造方法を実施し,塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子を流動層造粒機内で流動させると,塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子の周囲に噴霧液の成分である電解質化合物を含むコーティング層が形成され,該コーティング層を介して複数の粒子が結合した構造が得られる。これに対して,本件発明3は,ブドウ糖がコーティング層に含まれていて,複数の塩化ナトリウム粒子がコーティング層を介して結合しているものである。 したがって,刊行物2発明と本件発明3とは,ブドウ糖が造粒物の核を形成する粒子(核粒子)となっているか,コーティング層に含まれているかという点において相違する。 しかし,両者とも,粉末を溶解して水溶液にして透析液とするための発明であり,均一な組成の粉末粒子を得ることを目的とする点で共通する。したがって,ブドウ糖が核粒子として存在するか,コーティング層の中に存在するかによってその効果は変わらない。また,流動層造粒法を行うに当たって,ブドウ糖を噴霧液に含有させてコーティング層とすることを着想することが困難であったような事情は何ら存在しない。すなわち,刊行物2の実施例2に記載されているような流動層造粒法を行うに際して,ブドウ糖粒子を塩化ナトリウム粒子とともに流動させて核粒子とするか,ブドウ糖を噴霧液の成分として溶解させて流動層に噴霧するかは,当業者が適宜採用できた設計事項である。 (イ)原告は,刊行物2発明においては,比重の大きな塩化ナトリウムを核とする造粒物と,比重の小さなブドウ糖を核とする造粒物が混在することは避けられず,偏析の問題が回避できないと主張する。しかし,かかる主張は,流動層造粒により作られる造粒物のほとんどが,単核コーティングされた造粒物であることを前提にしており,そもそもこの前提自体が誤りである。流動層造粒法により作られる造粒物の形状は,凝集造粒であり,そのほとんどがコーティング成分を介して複数の核粒子が凝集した造粒物であるから,透析液を製造する際の塩化ナトリウムとブドウ糖単体の比重差による成分のばらつきは無視し得る程度まで解消されている。 (ウ)原告は,当業者が人工透析剤を製造する流動層造粒工程において噴霧液としてブドウ糖の水溶液を用いることは,禁忌というべき技術的阻害要因があると主張するが,本件のようなpH8.53程度の弱アルカリ性水溶液でブドウ糖が短時間に異性化し分解するようなことはない。 (エ)本件発明3について進歩性が否定される以上,本件発明4についても進歩性は否定される 」。 ウ取消事由3に関する判断(ア)「…本件発明3と刊行物2との対比…本件審決は,本件発明3と刊行物2の実施例2で得られた造粒物とを比較すると,前者ではブドウ糖がコーティング層中に含まれるのに対して,後者では塩化ナトリウムとブドウ糖との粒状物をその他の電, 解質溶液で被覆して得られたものである点で相違する,と認定した上かかる相違点の評価として,本件発明3は刊行物2発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた,と判断するので,以下検討する 」。 (イ)「…本件審決は,刊行物2(甲12)には,ブドウ糖を塩化ナトリウムとの混合粉末として流動層造粒機内で造粒することも記載されており(4頁左上欄〜右上欄 ,ブドウ糖を塩化ナトリウム及び他の電 )解質と均一に混合,粉砕したものを乾式造粒装置によって造粒する方, 法(実施例1。4頁左下欄〜右下欄)も記載されていることからみて刊行物2における造粒物においてブドウ糖は必ずしもコーティングされた粒子の内部に存在していなくてもよいものであることは明らかである,と述べる。 しかし,刊行物2においては,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が記載されているわけではなく,本件訴訟で提出された全ての証拠中にも,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むという構成が開示されたものはなく,かかる内容の周知技術が存在したことも認められない。 また,刊行物2には,発明の効果として,前記のとおり「…各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が…解決で(き)る」と記載されていることから,前記ウのように,刊行物2発明の,ブドウ糖が固体のまま粉末化される方法によっても,各成分の比重差のために各成分の均一分布が困難であった問題が解決できることが記載されていると認めることができる。しかし,本件発明3が目的とする技術的効果という観点から検討すると,刊行物2発明においては,ブドウ糖はあくまで固体のまま粉末化されるものであり,本件発明3のように,塩化ナトリウム粒子の表面にブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物とすることが開示されているわけではないから,得られる造粒物個々の間における成分組成の相違の点においても,ある特定の集合体におけるブドウ糖成分の分布の不均一さの点においても,本件発明3の技術的効果とは実質的な相違があるものというべきである。このことは,被告自身(ただし,名義は旧商号である株式会社ニッショー)が,甲25(特開2001-149466号公報,平成11年11月25日出願)において,刊行物2発明(特許第2751933号と記載)を従来技術として引用した上で 「上記,方法により得られる透析用製剤は,含量均一性を得ることが困難である 」と記載し,刊行物2発明によっても含量均一性を得ることがい 。 まだ不十分であり,技術的課題であったとの認識を示していることからも裏付けられる 」。 (ウ)「…また,本件審決は,透析用人工腎臓潅流用剤において,ブドウ糖を電解質と別の包装とする場合や,ブドウ糖を電解質と均一に混合する場合など各種の態様があることも周知であるから(刊行物2の実施例1,甲16の4頁左上欄,甲15の2頁左上欄 ,ブドウ糖を含 )む顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析剤を製造するにあたり,刊行物2の実施例2においてブドウ糖と塩化ナトリウムとの粒状物を流動させる方法に代えて,塩化ナトリウムとは別にブドウ糖を適宜なる形態で流動層造粒機に導入して造粒し,コーティング層中にブドウ糖を含む造粒物を得ることは当業者が容易に行いうることであるといえる,と述べる。 そこで,審決が引用する甲16(公開特許公報平3-275626号)を見ると,その4頁左上欄に「実施例1それぞれ平均粒径50μm程度に粉砕された塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ糖を下記の比率で混合し,さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添加して混合した。 NaCl74.7110重量%KCl1.7943〃CaCl ・2H O2.2839〃22MgCl ・6H O1.2408〃 22CH COONa7.9295〃3ブドウ糖12.0404〃該混合物を押し出し造粒機を用いて造粒し,直径0.5?o,長さ1〜10?oの円柱状の粒子を100?s得た。次に,温度50℃に調整された回分式箱型乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥した。その後さらに,氷酢酸を1.5重量%加えて,これをA剤とした 」と記載されて 。 おり,これによると,塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ糖を特定の比率で混合し,さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添加して混合し,押し出し造粒機を用いて造粒し,直径0.5?o,長さ1〜10?oの円柱状の粒子を100?s得,温度50℃に調整された回分式箱形乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥し,氷酢酸を1.5重量。 %加えて,これをA剤としたことが記載されていることが認められるまた甲15(公開特許公報平2-145522号)を見ると,その3頁左上欄に「本発明のペースト状潅流用剤において,アセテート透析剤にあってはグルコースを,バイカーボネート透析剤にあっては炭酸水素ナトリウムを別剤として添付し,使用時に調製する 」と記載さ 。 れており,これによると,ブドウ糖を別剤として添付し,使用時に調製することが記載されていることが認められる。 しかしながら,上記の記載内容は,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,本件発明3のように,塩化ナトリウム粒子の表面にブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物とすることを記載したものではない。そして,上記のように,そもそも本件訴訟で提出されている全ての証拠を見ても,従来技術で解決できなかった,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,ブドウ糖を塩化ナトリウムのコーティング層中に含むとする本件発明3の構成が記載ないし示唆されたものはない。 (エ)「…また,本件審決は 「塩化ナトリウムとは別にブドウ糖を適宜 ,な形態で流動層造粒機に導入して造粒する 」と述べる。しかし 「適 。,宜な形態」として指向すべき,ブドウ糖をコーティング層中に含ませるという技術的構成自体が開示されていたと認めることはできない。 さらに 「引用実施例2(判決注,刊行物2の実施例2)においてブ ,ドウ糖と塩化ナトリウムとの粒状物を流動させる方法に代えて」と説示するところの代わりの方法についても,具体的な開示がないといわざるを得ない 」。 (オ)「…以上によれば,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は 「コーティング層中にブドウ糖を含む造 ,粒物」を容易に想到し得ると解すべき根拠がないということになるから,被告が主張するように,刊行物2の実施例2に記載されているような流動層造粒法を行うに際して,ブドウ糖粒子を塩化ナトリウム粒子とともに流動させて核粒子とするか,ブドウ糖を噴霧液の成分として溶解させて流動層に噴霧するかは,当業者が適宜採用できた設計事項であるとすることはできない。 なお,被告は,刊行物2発明において,流動層造粒法により作られる造粒物の形状は,凝集造粒であり,そのほとんどがコーティング成分を介して複数の核粒子が凝集した造粒物であるから,透析液を製造する際の塩化ナトリウムとブドウ糖単体の比重差による成分のばらつきは無視し得る程度まで解消されている,と主張する。 しかし,刊行物2発明を,本件発明3のようにコーティング層中にブドウ糖が含まれる場合と比べれば,たとえ凝集造粒であることを前提にしても,コーティング成分を介して凝集する複数の核粒子中,比重差がある塩化ナトリウム粒子とブドウ糖粒子の割合にバラツキが生じることは否定することができない。しかし,このような刊行物2発明によって,成分組成が均一な粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤を提供するという本件発明3が解決しようとする課題を,得られる造粒物個々の間における成分組成の相違の点においても,ある特定の集合体におけるブドウ糖成分の分布の不均一さの点においても達成できるものと考える具体的根拠は,本件訴訟で提出された全ての証拠によっても,見出すことが困難である。このことは,前記のように被告自身が甲25(特開2001-149466号公報,平成11年11月25日出願)において,刊行物2発明(特許第2751933号と記載)を従来技術として引用した上で 「上記方法により得られる透析 ,用製剤は,含量均一性を得ることが困難である 」と記載し,含量均 。 一性の点が依然として技術的課題であったとの認識を示していることからも裏付けられる 」。 (カ)「…以上によれば,本件審決のうち,本件発明3の進歩性を否定した判断には誤りがあり,したがって,本件発明3を引用して本件発明4の進歩性を否定した判断にも,同様の理由により,誤りがあることになり,取消事由3は理由がある 」。 (4)以上の(1)〜(3)に照らせば,第2次判決は,刊行物2(甲2)から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消したものであること,かかる第2次判決が確定したことが認められる。しかるに,このような場合は,前記(1)に説示したように,再度の審判手続(本件審決の審判手続)に第2次判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例(刊行物2〔甲2 )から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明す 〕ることができたと認定判断することは許されないこととなる。 そうすると,差戻し後の審判官が,本件審決において「本件発明3は,甲第9号証(本判決注:刊行物2〔甲2 )に記載された発明に基づいて当業 〕者が容易に発明することができたとする請求人の主張は採用できない 」。 (7頁1行〜2行「本件発明4が,…甲第9号証(本判決注:甲2)に ),記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともすることはできない(8頁24行〜26行)と判断したことに誤りはな 。」いから,その余の点について判断するまでもなく,取消事由1は理由がない。 (5)原告は,第2次判決は,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであるから,第2次判決の拘束力は進歩性判断について及ぶことになるが,取消事由1は,そもそも,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるから,第2次判決の拘束力は及ばないと主張する。 しかし,たとえ第2次判決が,本件審決の認定した相違点を前提として,本件発明3,4の進歩性について判断したものであり,また取消事由1が,第2次判決が前提とした相違点が不存在であることを主張するものであるとしても,確定した第2次判決の判断が,特定の引用例から当該発明を特許出願前に当業者が容易に発明することができたとはいえないとの理由により,審決の認定判断を誤りであるとしてこれを取り消した場合に当たることに変わりはない。そうすると,このような場合は,再度の審判手続に当該判決の拘束力が及ぶ結果,審判官は同一の引用例たる刊行物2から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができたと認定判断することは許されないというべきである。そして,再度の審決取消訴訟たる本件訴訟において,取消判決の拘束力に従ってされた再度の審決(本件審決)の認定判断を誤りである(同一の引用例〔刊行物2〕から本件発明3,4を特許出願前に当業者が容易に発明することができた)として,これを裏付けるための新たな立証として甲3,4を提出し,更には裁判所がこれを採用して,取消判決の拘束力に従ってされた本件審決を違法とすることも許されないところである。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 3取消事由2(本件発明3と刊行物1発明との対比の誤り)について, (1)本件発明3が刊行物1発明と同一といえるかどうかについて検討すると以下のとおりである。 ア本件発明3について(ア)本件発明3の特許請求の範囲の記載は,前記第3,1,(2)のとおりであるところ,本件明細書(甲5)には,以下の記載がある。 ?@従来の技術…A剤については,多数の成分からなる混合物であるため均一な組成の粉剤を得ることが困難である。…水溶液としたA剤は,重量及び容積が大きいため輸送コスト及び病院等での保管スペースの点から望ましくない。…( 0003 )【】…A剤の粉剤化技術としては,各電解質化合物を混合・粉砕して造粒する乾式造粒法及び各電解質化合物をスラリーとして造粒・乾燥する湿式造粒法が知られている。しかし,これらの物理的な粉砕・造粒方法には,粉砕工程や造粒工程において装置の摩擦によって異物が混入し,電解質化合物を汚染しやすいという問題がある。 ( 0004 )【】また,公知の乾式造粒法により得られる粉剤は,各々の電解質化合物の硬度が異なり,混合・粉砕の際に,それぞれ,粉砕されやすいものとされにくいもの,造粒物になりやすいものとなりにくいものがあるため,造粒物として回収されるものの成分と造粒されずに粉末として残存するものの成分との間に大きなバラツキが生じやすい。すなわち,各電解質化合物の原料としての添加割合と,造粒物の成分組成とが一致しにくく,場合によっては,造粒後に,各電解質化合物の組成を補正するため特定の電解質化合物を添加混合する必要がある。…電解質化合物を微粉末化するためには面倒な操作を必要とするし,粉末として残存するものの量を低減するためには繰り返し造粒する必要があり,粉砕・造粒装置の摩擦などによる異物の混入で電解質化合物が汚染されやすくなるという問題がある。 ( 0005 )【】さらに,湿式造粒法については,乾燥時の固結により塊状物が発生しやすいため,製品とする際の整粒の前に破砕等の操作を必要とする等,製造工程が煩雑であるため大量生産することが難しいという問題がある ( 0006 ) 。【】?A発明が解決しようとする課題本発明の目的は,重炭酸透析液(重炭酸透析用人工腎臓灌流剤)に使用する粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤(人工腎臓灌流用剤)の新たな製造方法を提供することにある。また,成分組成が均一な粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤を提供することにある。 ( 0007 )【】?B課題を解決するための手段本発明は,さらに,以下の人工腎臓灌流用剤にある。…2.塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる微量の電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造流物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤。 上記…2.の灌流用剤は,必要に応じてさらに酢酸を含有していてもよい ( 0011 ) 。【】…本発明のA剤においては,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及び必要に応じて使用されるブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成しており,該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物を形成している。 本発明のA剤においては,各造粒物を形成する各成分の割合はほぼ一定で特定の値にある。そのため,特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液の各電解質化合物の濃度の割合は常に特定の所望の値になるという特徴がある。従って,本発明の粉末状のA剤を使用する際即ち水溶液にする際に,特定の電解質化合物の濃度を改めて補正する必要がない ( 0013 ) 。【】?C発明の効果本発明の製造方法によれば,…乾式造粒機,湿式造粒機,コーティング装置を必要とせず,…しかも均一性に優れた製品を…生産することができる。…( 0026 )【】本発明のA剤は,重量,容積とも小さい粉末製剤であり且つその組成が均一である…( 0027 )【】(イ)上記(ア)?@〜?Cによれば,本件発明3は,重炭酸透析用人工腎臓灌流用剤として使用するA剤については,多数の成分からなる混合物であるにもかかわらず均一な組成の粉剤を得る必要があるため,乾式造粒法や湿式造粒法等の物理的な粉砕・造粒方法の問題点を改善する技術的課題が存在したことから,かかる課題を解決するため,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及び必要に応じて使用されるブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成し,該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物を形成するという構成を採用し,各造粒物を形成する各成分の割合がほぼ一定で特定の値にあるようにし,特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液の各電解質化合物の濃度の割合は常に特定の所望の値になるという特徴があるようにしたため,乾式造粒機,湿式造粒機等を必要とせず,しかも均一性に優れた粉末製剤を生産できるという効果を生じさせるものであることが記載されていると認められる。 以上によれば,本件発明3は,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及びブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成し,該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物を形成するという構成を採用したものであること,かかる構成には,各造粒物を形成する各成分の割合がほぼ一定で特定の値になり,特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液の各電解質化合物の濃度の割合は常に特定の所望の値になるという特徴があること,が認められる。 イ刊行物1(甲1)について(ア)刊行物1(甲1)の4頁左上欄には,以下の記載がある。 「実施例1それぞれ平均粒径50μm程度に粉砕された塩化ナトリウム,塩化カリウム,塩化カルシウム2水和物,塩化マグネシウム6水和物,酢酸ナトリウムおよびブドウ糖を下記の比率で混合し,さらに乾燥基準で1.5重量%の水を添加して混合した。 74.7110重量%NaCl1.7943〃 KCl・2.2839〃 CaCl2H O 22・1.2408〃 MgCl6H O 227.9296〃 CH COONa 3ブドウ糖12.0404〃該混合物を押し出し造粒機を用いて造粒し,直径0.5?o,長さ1〜10?oの円柱状の粒子を100kg得た。次に,温度50℃に調整された回分式箱型乾燥機に前記粒子を入れ3時間乾燥した。その後さらに,氷酢酸を1.5重量%加えて,これをA剤とした 」。 (イ)上記(ア)によれば,刊行物1(甲1)の実施例1は,むしろ公知の湿式造粒法に近いものであって,本件発明3のように,従来技術で解決できなかった,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及びブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成し,該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物とすることを記載ないし示唆したものとはいえない。そして,後記エの説示に照らしても,このような刊行物1発明によって,成分組成が均一な粉末状(顆粒状乃至細粒状)のA剤を提供するという本件発明3が解決しようとする課題を,得られる造粒物個々の間における成分組成の相違の点においても,ある特定の集合体におけるブドウ糖成分の分布の不均一さの点においても達成できるとする具体的根拠はないといわざるを得ない。 以上の点は,第2次判決においても「…甲16(本判決注,刊行物1)…を見ると,…と記載されており,これによると,ブドウ糖を別剤として添付し,使用時に調製することが記載されていることが認められる。しかしながら,上記の記載内容は,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,本件発明3のように,塩化ナトリウム粒子の表面にブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物とすることを記載したものではない。… (30頁3行〜3 」1頁8行)とのように,同趣旨が説示されている。 ウ上記ア,イによれば,本件発明3は刊行物1発明と同一であるということはできず,刊行物1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたということもできない。このことは,本件発明3の構成に欠くことのできない事項の全てを含み,さらに,酢酸を含むものである本件発明4についても,同様に当てはまるものである。 以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2は理由がない。 (2)原告の主張についてア原告は,本件発明3と刊行物1発明との相違点を認定するにあたっては,単に字面で比較するのではなく,実質的にいかなる構造の造粒物が得られるかを考えて比較しなければならず,実質的に比較すれば,本件発明3と刊行物1発明との間には,実質的な相違点は存在しないと主張する。しかし,上記(1)ア〜ウの説示に照らし,本件発明3と刊行物1発明との間には,成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及びブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成し,該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物となることという点において,実質的な相違点が存在するというべきであるから,原告の上記主張は採用することができない。 イまた原告は,本件発明3では,ブドウ糖を添加する前の段階で,すでに「特異な粘りが生じ」ているから,この段階で添加されるブドウ糖がその前の段階で加えられた電解質化合物とともにコーティングを形成することなど考えられず,ブドウ糖が後から添加される点は 「ブドウ糖を含むコ ,ーティング層」の形成にはマイナスであるから,本件発明3において,「塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層」とは,塩化ナトリウム粒子を中心に考えた場合に,塩化ナトリウム粒子の周囲に,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖の成分が付着して一体となった造粒物を形成していると解釈する以外にない,と主張する。 , しかし,前記(1)ア(ア),(イ)に説示したように,本件発明3の要旨は成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及びブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成するものと把握されるのであるから,これを単に,塩化ナトリウム粒子の周囲に,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖の成分が付着して一体となった造粒物ということはできない。なお,本件明細書(甲5)の実施例3を見ても,塩化ナトリウム粒子に各電解質化合物及び純水を加え,内容物に特異な粘りが生じ内容物の粒子同士が付着し始めた後にブドウ糖を添加しているところ,塩化ナトリウム粒子の周囲に電解質化合物によるコーティング層が生じ始めた段階の後であっても,ブドウ糖の水溶性の高さを考慮すると,適宜の粒径のブドウ糖を添加して混合し,更に加熱混合すれば,コーティング層にブドウ糖が含まれるようになると考えられるから,これが,塩化ナトリウム,ブドウ糖を他の各電解質化合物とともに先に混合する場合と比較して,ブドウ糖を含むコーティング層の形成に当然にマイナスであるとの合理的根拠もない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 ウまた原告は,本件発明3にいう 「塩化カリウム,塩化カルシウム,塩 ,化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層」は,塩化ナトリウム粒子を中心に考えた場合に,塩化ナトリウム粒子の周囲に,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖の成分が付着して一体となった造粒物を形成していると解釈されるものであるから,刊行物1(甲1)にも「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した造粒物からなる顆粒状乃至細粒状の重炭酸透析用人工腎臓潅流用剤(本件発明3)が実質的に記載 。」されていると主張する。 , しかし,前記(1)ア(ア),(イ)に説示したように,本件発明3の要旨は成分組成が均一な粉末状のA剤を提供するという課題を解決するため,塩化ナトリウム粒子の表面に,他の電解質化合物及びブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成するものと把握されるのであるから,これを単に,塩化ナトリウム粒子を中心に考えた場合に,塩化ナトリウム粒子の周囲に,塩化カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖の成分が付着して一体となった造粒物であるということはできない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 エさらに原告は,A作成の実験報告書(甲3)によれば,本件明細書(甲5)の実施例3に従って製造したものがどのような構造を有する造粒物であるかを確認するため,上記実施例3を追試した造粒実験および造粒物の観察結果に基づいて 「ブドウ糖は塩化ナトリウム粒子表面の電解質コー ,ティング層には含まれていないことが明らかとなった 」と結論されてお 。 り,この結論は,ブドウ糖が塩化ナトリウム粒子表面の電解質コーティングに均一に含まれているわけではないという事実を示している,しかるに,実施例3以外には請求項9(本件発明3)に対応する実施例はないから,甲3によって得られた構造をもって 「塩化ナトリウム粒子の表面に塩化 ,カリウム,塩化カルシウム,塩化マグネシウム及び酢酸ナトリウムからなる電解質化合物及びブドウ糖を含むコーティング層を有し,かつ,複数個の塩化ナトリウム粒子が該コーティング層を介して結合した」という構造であると解釈するほかはない,さらに,被告の追試結果(乙3)でも,平面的に見た場合に,電解質化合物とブドウ糖が重なって見える領域が大きいというだけであると主張する。 しかし,前記(1)ア(ア),(イ)に説示したように,本件発明3は,塩化ナトリウム粒子の表面に他の電解質化合物及びブドウ糖が付着して均一な組成のコーティングを形成し,該コーティングの作用によって複数の塩化ナトリウム粒子が結合して造粒物を形成するという構成を採用したものであって,かかる構成においては,各造粒物を形成する各成分の割合がほぼ一定で特定の値になり,特定量のA剤を特定量の水に溶解して得られる溶液の各電解質化合物の濃度の割合は常に特定の所望の値になるという技術的特徴があると把握されるものであって,このことは,明細書記載の実施例について追試した結果によって左右されるものではない。なお,上記実験報告書(甲3)も,富田製薬株式会社医薬品事業開発室長B作成の実験報告書(乙3)の内容に照らし,これを,各成分の重量や,添加するブドウ糖の粒径の点において,本件明細書(甲5)の実施例3を忠実に再現したものということは困難である。この点原告は,上記実験報告書(乙3)でも,平面的に見た場合に,電解質化合物とブドウ糖が重なって見える領域が大きいというだけであると指摘するが,各成分の重量や,添加するブドウ糖の粒径の点において,本件明細書(甲5)の実施例3を忠実に再現したものというのが困難であることは左右できない。 以上によれば,原告の上記主張は採用することができない。 4まとめそうすると,原告主張の取消事由1及び2はいずれも理由がないから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 本多知成 |
裁判官 | 田中孝一 |