関連審決 | 不服2002-9060 |
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関連ワード | 発明の詳細な説明 / 優先権 / 参酌 / 実施 / 交換 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
23号
審決取消請求事件
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原告 ローベルトボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング 訴訟代理人弁護士 加藤義明,町田健一,角田邦洋,三留和剛,木村育代 訴訟代理人弁理士 アインゼル・フェリックス=ラインハルト,矢野敏雄 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 辻本泰隆,小曳満昭,佐藤伸夫,井出英一郎 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/12/15 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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原告の求めた裁判
「特許庁が不服2002-9060号事件について平成15年9月8日にした審決を取り消す。」との判決。 |
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事案の概要
本件は,特許出願をした原告が,拒絶査定を受けたので,上記査定に対する審判を請求したところ,審判の請求は成り立たない旨の審決があったため,同審決の取消しを求めた事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 原告は,平成6年6月14日,1993年6月15日にドイツ連邦共和国にした特許出願に基づく優先権を主張して,発明の名称を「電子制御装置からのデータの捕捉検出方法」とする特許出願をした。 (2) 原告は,平成14年2月13日付けで拒絶査定を受けたので,同年5月20日,拒絶査定に対する審判を請求した(不服2002-9060号事件)。 (3) 特許庁は,平成15年9月8日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月19日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載(平成14年1月31日付け手続補正書による補正後のもの)【請求項1】 データを電子制御装置から捕捉検出する方法であって, 該電子制御装置では,当該制御装置(10)のデータがインターフェース(16)を介して測定装置(18)のデュアルポートRAM(22)に記憶される形式の方法において, 制御装置にて,自動車を駆動するためのプログラムを種々異なるプログラムレベルで実行し, ここで少なくとも1つのプログラムレベルは点火同期であり,少なくとも1つのプログラムレベルは時間同期であり, 制御装置により固有のトリガ情報(50,52,54)が作成され, 該トリガ情報(50,52,54)をデータと共にデュアルポートRAM(22)に記憶し, 前記トリガ情報(50,52,54)により,データ(56,58,60)が種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てられる,ことを特徴とする捕捉検出方法。 【請求項2】 データをシリアルインターフェース(24)を介して制御計算器(26)に供給し,該制御計算器は伝送されたデータをバッファ記憶する,請求項1記載の方法。 【請求項3】 データをバッファメモリ(32)から,選択可能なイベントに依存してメインメモリ,例えばハードディスク(34)にコピーする,請求項1または2記載の方法。 【請求項4】 イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする,請求項3記載の方法。 【請求項5】 データ捕捉検出の状態を,制御計算器(26)に接続された指示装置(38)を介して出力する,請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。 3 審決の理由 審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件の特許出願は,特許法(平成6年法律第116号による改正前のもの,以下同じ。)36条4項,5項2号及び6項に規定する要件を満たしていないので,拒絶をすべきである,というのである。 (1) 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由の概要は,「この出願は,明細書及び図面の記載が下記の点で,特許法36条4項並びに5項2号及び6項に規定する要件を満たしていない。」というものであって,不備な点として下記の点を指摘している。 記 ア (省略) イ (省略) ウ 特許請求の範囲には「トリガ情報」とあるが,これが一体何を指しているのか,「発明の詳細な説明」の欄を参酌しても不明である。 エ (省略) オ 特許請求の範囲には「調整可能な進み時間および/または遅れ時間を備えたイベント」とあるが,これが一体何を指しているのか,「発明の詳細な説明」の欄を参酌しても不明である。 (2) 請求人の主張 請求人は,平成14年1月31日付けの意見書において,上記拒絶の理由に対して概略以下の旨主張している。 ア トリガ情報について: 「トリガ情報」とは,上述のように,どの時点および/またはどの角度位置でプログラムを実行すべきかという情報を意味します。このことは[0012]に「このトリガ情報により,デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラムを実行し,これと同期してそれ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。」として示されています。 イ 調整可能な進み時間および/または遅れ時間を備えたイベントについて: 日本語として意味が不適切であったため補正いたしました。イベントをコピーするに際し,そのイベントの発生に対して進み時間および/または遅れ時間を以てコピーするという意味です。 また,請求人は,平成14年8月22日付けの審判請求書の手続補正書において,上記拒絶の理由に対して概略以下の旨主張している。 ウ トリガ情報について; トリガ情報は,デュアルポートRAM22とワークメモリ20との間のデータ交換と同時に制御装置19によって作成されます。従ってデュアルポートRAM22では,制御装置10内のプログラム経過が後から実行され,これと同期してそれ自体一貫性のあるデータが捕捉検出されます。すなわちトリガ情報によって,時間同期の場合は,いつどのデータが検出されたかが表され,また点火同期の場合は,どの点火時点でどのデータが検出されたかが表されます。言い替えるとこのトリガ情報によって,デュアルポートRAM22で作成され,それ自体一貫性のあるデータの有効性を確認することができ,またデータを種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てることが出来るのです。 以上補足的に説明しましたが,このことは出願当初の明細書に十分に開示されています。 (3) 明細書の記載と審決の判断 そこで,本件出願の明細書の記載と上記請求人の主張を参酌して,原査定のいう不備について検討する。 ア 「トリガ情報」について 特許請求の範囲請求項1には,「トリガ情報」について,「制御装置により固有のトリガ情報(50,52,54)が作成され,」,「該トリガ情報(50,52,54)をデータと共にデュアルポートRAM(22)に記憶し,」,「前記トリガ情報(50,52,54)により,データ(56,58,60)が種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てられる,」と記載されているが,請求項1の記載からは,トリガ情報のデータ構造の概要,いかなる情報から制御装置によりどのようにして生成され,トリガ情報によりデータが測定装置に割り当てられるとはどのような処理を意味しているかについて,明確に把握できない。 次に,請求人が「トリガ情報」について,「どの時点および/またはどの角度位置でプログラムを実行すべきかという情報を意味します。」,「トリガ情報によって,時間同期の場合は,いつどのデータが検出されたかが表され,また点火同期の場合は,どの点火時点でどのデータが検出されたかが表されます。」,「このトリガ情報によって,デュアルポートRAM22で作成され,それ自体一貫性のあるデータの有効性を確認することができ,またデータを種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てることが出来るのです。」旨主張する根拠としている,発明の詳細な説明の記載を検討する。 段落番号【0012】には,「デュアルポートRAM22とワークメモリ20との間のデータ交換と同時に制御装置10により固有のトリガ情報が作成される。このトリガ情報により,デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラム経過を実行し,これと同期してそれ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。この種のトリガ情報は例えばデュアルポートRAM22で作成され,それ自体一貫性のあるデータの有効性を表す。このことは,何れかのプログラムレベルにおいて制御装置内でそれ自体一貫性のあるデータ部分が新たに計算された場合に,これを同時にデュアルポートRAM22からただちに受け取ることのできることを意味する。」と記載されており,この記載から,「トリガ情報」はデュアルポートRAMとワークメモリとの間のデータ交換と同時に作成されること,「トリガ情報」は,それ自体一貫性のあるデータの有効性を表すこと,「トリガ情報」を利用することの効果として,何れかのプログラムレベルにおいて制御装置内でそれ自体一貫性のあるデータ部分が新たに計算された場合に,これを同時にデュアルポートRAM22からただちに受け取ることができることが一応認められる。 しかしながら,「トリガ情報」の作成については,段落番号【0012】に「制御装置10により固有のトリガ情報が作成される。」と記載されている一方,「この種のトリガ情報は例えばデュアルポートRAM22で作成され,」との記載もあり,「トリガ情報」が作成されるとは,どのような手段が,どのように処理することを意味しているか明確に把握することができない。 また,「トリガ情報」を利用することによる測定装置におけるデータの補足検出について,段落番号【0013】には,「データと共に同時に各プログラムレベル44,46ないし48に所属するトリガ情報50,52ないし54と,それぞれに所属するデータ56,58ないし60が伝送される。持続動作の間,測定装置18は連続的に関連トリガ情報50,52ないし54の状態をデュアルポートRAM22で観察し,自身を異なるプログラムレベル44,46ないし48と同期化し,周期的に所望のデータ56,58ないし60すべてを捕捉検出する。データ56,58ないし60はその際,正しい時間順序で記録される。トリガ情報50,52ないし54により制御装置10内のプログラム経過(このプログラム経過はワークメモリ20でシミュレートされる)に同期して,それ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。」と記載されている一方,段落番号【0012】には,「このトリガ情報により,デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラム経過を実行し,これと同期してそれ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。」との記載もあり,「トリガ情報」により「制御装置10内のプログラム経過(このプログラム経過はワークメモリ20でシミュレートされる)に同期して,」かつ「デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラム経過を実行し,これと同期して」,それ自体一貫性のあるデータを捕捉検出するとは,システムがどのような処理を行うことにより実現しているか明確に把握することができない。 このように,「トリガ情報」の情報としての特徴,すなわち,どのようなデータ構造を有し,どのように作成され,デュアルポートRAMに伝送された後にどのような処理がなされるかについては,発明の詳細な説明を参照しても明確に把握することはできず,「トリガ情報」が請求人が主張するような情報であるという根拠が発明の詳細な説明に記載されているとも認められない。さらに,「トリガ情報」が請求人が主張するような情報であって,「トリガ情報」のデータ構造,作成手順,処理手順,測定装置との関係などが,当業者の間で周知であったとも認められない。 したがって,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明からも,「トリガ情報」を明確に把握することはできず,それに伴い,他の構成,ステップとの関係も不明確であり,請求項1の「制御装置により固有のトリガ情報(50,52,54)が作成され,該トリガ情報(50,52,54)をデータと共にデュアルポートRAM(22)に記憶し,前記トリガ情報(50,52,54)により,データ(56,58,60)が種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てられる,」の意味も不明確となっており,(2)ア,ウの,トリガ情報は出願当初の明細書に十分に開示されているとの請求人の主張を認めることができない。 よって,依然として請求項1に係る発明を明確に把握することができないから,請求項1は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものと認めることができない。 イ イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」について 特許請求の範囲請求項4には,「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする,請求項3記載の方法」と記載されており,一方,請求項3には,「データをバッファメモリ(32)から,選択可能なイベントに依存してメインメモリ,例えばハードディスク(34)にコピーする,請求項1または2記載の方法。」と記載されていることから,請求項4に記載の「イベント」は,請求項3に記載の「選択可能なイベント」であると認められる。してみると,請求項4には,データをバッファメモリからメインメモリにコピーするための選択可能なイベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする旨が記載されていることになるが,選択可能なイベントを,どのようにして調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーするのか,特に,イベントをコピーするとは,どのような技術的事項を表現しているのか,請求項4の記載からは明確に把握できない。 次に,請求項4の記載に対する請求人の「イベントをコピーするに際し,そのイベントの発生に対して進み時間および/または遅れ時間を以てコピーするという意味です。」旨の主張を参酌しつつ,発明の詳細な説明の記載を検討する。 段落番号【0012】には,「測定装置18のデュアルポートRAM22に記憶されたデータは次に伝送区間30ないしアダプタ28を介して制御計算器26のインターフェース24に伝送される。制御計算器26では伝送されたデータがリングバッファ32にバッファ記憶され,所定の選択可能なイベントが発生した場合にハードディスク34に転送される。データをハードディスク34に転送する際,内部の所定の調整可能な進み時間および/または遅れ時間が考慮される。これによりデータコピーをイベントの発生までに実行することができる。ハードディスク34に記憶されたデータは次に制御計算器26を介して読出すことができる。」と記載されているが,内部の所定の調整可能な進み時間および/または遅れ時間が考慮されるのは,データコピー,すなわち,リングバッファ32にバッファ記憶されたデータをハードディスク34に転送する処理に対してであり,選択可能なイベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーすることについて記載されているとは認められない。そして,発明の詳細な説明の他の記載を参照しても,「イベントをコピーするに際し,そのイベントの発生に対して調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」ことについて記載されている箇所は認められない。 このように,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明からも,「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」を明確に把握することはできないから,(2)イの請求人の主張を認めることができない。 したがって,依然として請求項4に係る発明を明確に把握することができないから,請求項4は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したものと認めることができない。 ウ 次に,本願明細書の発明の詳細な説明が,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているか否かについて検討する。 本願発明の実施に当たっては,「トリガ情報」の作成,「トリガ情報」によるデータの捕捉検出処理,及び「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」処理が必要となるが,上記ア,イのとおり,発明の詳細な説明からは,それら処理を明確に把握することができない。また,「トリガ情報」,「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」処理が当業者の間で周知であったとも認められない。 したがって,請求人の主張を考慮しても,本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとは認めることができない。 (4) むすび 以上のとおりであるから,本願は,特許法36条4項,5項2号及び6項に規定する要件を満たしていないので,拒絶をすべきものである。 |
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当事者の主張の要点
1 原告主張の審決取消事由 (1) 取消事由1(請求項1の「トリガ情報」に関する判断の誤り) 審決は,「請求項1の記載からは,トリガ情報のデータ構造の概要,いかなる情報から制御装置によりどのようにして生成され,トリガ情報によりデータが測定装置に割り当てられるとはどのような処理を意味しているかについて,明確に把握できない。」と判断したが,誤りである。 ア 請求項1には,「トリガ情報(50,52,54)により,データ(56,58,60)が種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てられる」と記載され,プログラムレベルについて,「少なくとも1つのプログラムレベルは点火同期であり,少なくとも1つのプログラムレベルは時間同期であ」ると記載されているから,請求項1にいうトリガ情報は,点火同期プログラムレベルあるいは時間同期プログラムレベルにおいて,データを測定装置に割り当てる機能を有するものである。 そして,本願明細書の発明の詳細な説明には,「持続作動の間,測定装置18は連続的に関連トリガ情報50,52ないし54の状態をデュアルポートRAM22で観察し,自身を異なるプログラムレベル44,46ないし48と同期化し,周期的に所望のデータ56,58ないし60すべてを捕捉検出する。データ56,58ないし60はその際,正しい時間順序で記録される。」(段落番号【0013】)と記載されており,この記載によれば,トリガ情報は,デュアルポート22内のデータ56,58ないし60を捕捉検出し,検出されたデータを測定装置18に正しい時間順序で記録させる機能を有することが明確となるところ,この機能が上記「トリガ情報(50,52,54)により,データ(56,58,60)が種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てられる」という処理内容であることは明らかである。したがって,審決が,「トリガ情報によりデータが測定装置に割り当てられるとはどのような処理を意味しているかについて,明確に把握できない。」としたのは誤りである。 イ また,本願明細書の発明の詳細な説明には,「トリガ情報を有利には測定装置により連続的に読出し,有利には周期的に捕捉検出するのである。これにより非常に有利には,測定装置によって制御装置の処理経過に同期してそれ自体一貫したデータセットを捕捉検出することができる。このデータは測定装置で種々異なるプログラムレベルと自動的に同期され,所望の装置読出しに応じて捕捉検出することができる。」(段落番号【0008】),「このトリガ情報により,デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラム経過を実行し,これと同期してそれ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。」(段落番号【0012】),「トリガ情報50,52ないし54により制御装置10内のプログラム経過(このプログラム経過はワークメモリ20でシミュレートされる)に同期して,それ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。」(段落番号【0013】)と記載されており,この記載によれば,トリガ情報は,測定装置において制御装置のプログラム処理経過に同期してそれ自体一貫性のあるデータセットを読み出すことを可能とする機能を有することが明らかとなる。そして,同様に,「デュアルポートRAM22とワークメモリ20との間のデータ交換と同時に制御装置10により固有のトリガ情報が作成される。このトリガ情報により,デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラム経過を実行し,これと同期してそれ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。この種のトリガ情報は例えばデュアルポートRAM22で作成され,それ自体一貫性のあるデータの有効性を表す。」(段落番号【0012】)と記載されており,この記載によれば,データが一貫性を有する場合には,トリガ情報は制御装置10から常に送出されていることが分かり,したがって,トリガ情報が,データの一貫性を示す機能を有することが明らかとなる。 そうすると,請求項1のトリガ情報とは,@アに述べたように,デュアルポート22内のデータ56,58ないし60を捕捉検出し,検出されたデータを測定装置18に正しい時間順序で記録させる機能のほか,A測定装置において制御装置のプログラム処理経過に同期してそれ自体一貫性のあるデータセットを読み出すことを可能とする機能,Bデータの一貫性を示す機能を有するということになるから,審決が,「「トリガ情報」の情報としての特徴・・・については,発明の詳細な説明を参酌しても明確に把握することができ」ないとしたのは誤りである。 (2) 取消事由2(請求項4の「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」との記載に関する判断の誤り) 審決は,「選択可能なイベントを,どのようにして調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーするのか,特に,イベントをコピーするとは,どのような技術的事項を表現しているのか,請求項4の記載からは明確に把握できない。」と判断したが,誤りである。 請求項4には,「請求項3記載の方法」と記載されているところ,請求項3には,「データをバッファメモリ(32)から,選択可能なイベントに依存してメインメモリ,例えばハードディスク(34)にコピーする・・・方法」と記載され,データをコピーする方法であることが明示されているから,このような請求項3の記載のもとで,当業者の常識を前提に請求項4を解釈すれば,請求項4のイベントをコピーするという記載は,イベントデータあるいはイベントに関するデータをコピーする技術的事項を表現していることは明らかである。 (3) 取消事由3(「明細書の発明の詳細な説明の記載についての判断の誤り) 審決は,「本願発明の実施に当たっては,「トリガ情報」の作成,「トリガ情報」によるデータの捕捉検出処理,及び「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」処理が必要となるが,・・・発明の詳細な説明からは,それら処理を明確に把握することができない。・・・本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとは認めることができない」としたが,誤りである。 上記(1)及び(2)のとおり,本願明細書に記載されている「トリガ情報」の作成,「トリガ情報」によるデータの捕捉検出処理,及び「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」処理の内容はいずれも明確である。 2 被告の反論 (1) 取消事由1(請求項1の「トリガ情報」に関する判断の誤り)に対して ア 原告は,デュアルポート22内のデータ56,58ないし60を捕捉検出し,検出されたデータを測定装置18に正しい時間順序で記録させる機能が「トリガ情報によりデータが測定装置に割り当てられる」という処理内容であることが明らかであると主張するが,何故に明らかであるかについて,何ら言及していないから,原告の主張は根拠がない。したがって,トリガ情報によりデータが測定装置に割り当てられるとはどのような処理を意味しているかについては,明確に把握することができない。 イ 原告の主張する「トリガ情報が有する機能」そのものが明確でない上,特許請求の範囲はもとより,発明の詳細な説明の項にも「トリガ情報」が原告の主張する機能を有するもので足りることを示す記載(「トリガ情報」を定義した記載)はなく,また,「トリガ情報」が原告の主張する機能を有するものを意味するものであることが当業者に周知であったという事実もない。したがって,仮に原告の主張する機能を理解することができたとしても,請求項1の「トリガ情報」が何を指すのかについては,明らかでない。 (2) 取消事由2(請求項4の「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」との記載に関する判断の誤り)に対して 原告は,請求項4のイベントをコピーするという記載が,イベントデータあるいはイベントに関するデータをコピーする技術的事項を表現していることは明らかであると主張するが,これは,「イベントをコピーする」という文言自体が不明確であることを自認するものである。また,仮に,請求項4のイベントをコピーするという記載が,イベントデータあるいはイベントに関するデータをコピーする技術的事項を表現しているということができるとしても,「イベントデータ」が,どのようなデータであるかについては,発明の詳細な説明にも説明がないから,明確でないことに変わりはない。 (3) 取消事由3(「明細書の発明の詳細な説明の記載についての判断の誤り)に対して 原告の主張は,上記(1)及び(2)のとおり,失当であるから,これを前提とする主張も,また失当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(「トリガ情報」に関する判断の誤り)について (1) 取消事由1のアについて ア 原告は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,トリガ情報は,デュアルポート22内のデータ56,58ないし60を捕捉検出し,検出されたデータを測定装置18に正しい時間順序で記録させる機能を有するところ,この機能が,請求項1の「トリガ情報(50,52,54)により,データ(56,58,60)が種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てられる」という処理内容であると主張する。 イ 本願明細書(甲2の願書及び甲3の平成14年1月13日付け手続補正書)の発明の詳細な説明には,次の記載がある。 「本発明では,データを同時に捕捉検出し,パラレルインターフェースを介して測定装置に伝送する。これにより有利には,制御装置に所定の時点で使用される複数データ全体を同時に測定装置に伝送することができる。すなわち2重化される。」(段落番号【0005】) 「制御装置10は信号線路12を介して信号発生器14を読出し,この信号を記憶する。この読出しは例えば所定の時間順序で時分割多重法で行われる。これにより制御装置10に記憶されているデータが,制御装置のプログラム実行時間に依存する所定のクロック周波数でそれぞれ更新されることが保証される。瞬時の信号データは種々異なるプログラムレベル,例えば点火同期または時間同期でさらに処理され,同様にワークメモリ20にファイルされる。ワークメモリ20に記憶されたデータセットは同時に,パラレルインターフェース16を介して測定装置18のデュアルポートRAM22にも存在する。このようにして原則的にワークメモリ20のデータ内容の同じコピーが作成され,その際所定の信号選択のために制御装置10内のプログラム経過に戻る必要がない。」(段落番号【0012】) ウ 上記記載によれば,データ56,58ないし60は,もともと測定装置18に設けられたデュアルポートRAM22内に存在していたものであるところ,本願明細書には,トリガ情報の「デュアルポート22内のデータ56,58ないし60を捕捉検出し,検出されたデータを測定装置18に正しい時間順序で記録させる機能」に関し,トリガ情報が捕捉検出したデュアルポートRAM22内のデータ56,58ないし60を測定装置のどの部分に記録させるのか,あるいは,測定装置のどの部分に割り当てるのかについての明確な記載がない。 したがって,請求項1の「トリガ情報(50,52,54)により,データ(56,58,60)が種々のプログラムレベルについて測定装置に割り当てられる」との内容がどのような処理を意味するのかは明確でないといわざるを得ない。原告の上記主張は,採用することができない。 (2) 取消事由1のイについて ア 原告は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,請求項1のトリガ情報とは,@デュアルポート22内のデータ56,58ないし60を捕捉検出し,検出されたデータを測定装置18に正しい時間順序で記録させる機能のほか,A測定装置において制御装置のプログラム処理経過に同期してそれ自体一貫性のあるデータセットを読み出すことを可能とする機能,Bデータの一貫性を示す機能を有するものであると主張する。 イ しかし, (ア) 上記@の機能について 上記(1)で判示したように,本願明細書には,トリガ情報が捕捉検出したデュアルポートRAM22内のデータ56,58ないし60を測定装置のどの部分に記録させるのかについての明確な記載はなく,したがって,トリガ情報がデータを測定装置18に正しい時間順序で記録させるということが,どのような処理を意味しているかは明確でない。 (イ) 上記Aの機能について 本願明細書の発明の詳細な説明には,「トリガ情報50,52ないし54により制御装置10内のプログラム経過(このプログラム経過はワークメモリ20でシミュレートされる)に同期して,それ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。」(段落番号【0013】)と記載されており,この記載によれば,「制御装置10内のプログラム経過」は,ワークメモリ20でシミュレートされ,トリガ情報によりそれに同期して,それ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができるというものである。 他方,本願明細書の発明の詳細な説明には,「このトリガ情報により,デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラム経過を実行し,これと同期してそれ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。」(段落番号【0012】)と記載されている。 そうすると,制御装置10内のもともとのプログラム経過と制御装置10内のワークメモリ20でそれをシミュレートしたものとがあることになるが,本願明細書には,両者がどのような関係にあるのか,また,それに同期してトリガ情報がデータを捕捉検出するということが,どのような技術内容を意味しているのかについての明確な記載はなく,したがって,「トリガ情報」によるデータの捕捉検出処理について,これがどのような処理を意味しているのかを明確に把握することができない。 (ウ) 上記Bの機能について a 本願明細書の発明の詳細な説明には,「デュアルポートRAM22とワークメモリ20との間のデータ交換と同時に制御装置10により固有のトリガ情報が作成される。このトリガ情報により,デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラム経過を実行し,これと同期してそれ自体一貫性のあるデータを捕捉検出することができる。この種のトリガ情報は例えばデュアルポートRAM22で作成され,それ自体一貫性のあるデータの有効性を表す。」(段落番号【0012】)と記載されている。この記載によれば,トリガ情報は,制御装置10により作成されるものとデュアルポートRAM22で作成されるものとがあることになるが,本願明細書には,両者がどのような関係にあるのか,また,デュアルポートRAM22で作成されたトリガ情報がそれ自体一貫性のあるデータの有効性を表すということが,どのような技術内容を意味しているのかについての明確な記載はなく,したがって,上記Bの機能がどのような処理を意味しているかは明確でない。 b もっとも,この点につき,原告は,デュアルポートRAM22で作成されるトリガ情報は,制御装置10により作成されたトリガ情報と同じ内容のものであり,同じ内容のデータを作成することは,トリガ情報のコピーを作成することに他ならないと主張する。しかし,仮に原告の主張するとおりであるとすると,トリガ情報がその有効性を表すとされるデータは,トリガ情報が,デュアルポートRAM22で制御装置10内のプログラム経過を実行し,これと同期して捕捉検出したものであるということになるが,(イ)に判示したように,「トリガ情報」によるデータの捕捉検出処理については,どのような処理を意味しているのかを明確に把握することができないのであるから,そうであれば,トリガ情報がそれ自体一貫性のあるデータの有効性を表すということが,どのような技術内容を意味するのかについても,明確に把握することができないといわざるを得ない。 ウ したがって,原告の主張する「トリガ情報が有する機能」そのものが明確でないから,原告の上記主張は,採用の限りでない。 (3) 以上によれば,「トリガ情報」によるデータの捕捉検出処理について,これがどのような処理を意味しているのかを明確に把握することができないから,請求項1は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したということはできず,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」との記載に関する判断の誤り)について (1) 本願明細書には,「イベント」に関して,次の記載のみがある。 「データをバッファメモリ(32)から,選択可能なイベントに依存してメインメモリ,例えばハードディスク(34)にコピーする,請求項1または2記載の方法。」(特許請求の範囲の【請求項3】)「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする,請求項3記載の方法。」(特許請求の範囲の【請求項4】)「制御計算器26では伝送されたデータがリングバッファ32にバッファ記憶され,所定の選択可能なイベントが発生した場合にハードディスク34に転送される。データをハードディスク34に転送する際,内部の所定の調整可能な進み時間および/または遅れ時間が考慮される。これによりデータコピーをイベントの発生までに実行することができる。ハードディスク34に記憶されたデータは次に制御計算器26を介して読出すことができる。」(段落番号【0012】) (2) しかし,以上の記載のみによっては,「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」ということが,どのような技術的事項を表現しているのかを明確に把握することができない。 (3) そうであれば,請求項4は,特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載したということはできず,取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(「明細書の発明の詳細な説明の記載についての判断の誤り)について 1,2に判示したように,本願明細書には,「トリガ情報」によるデータの捕捉検出処理,及び,「イベントを,調整可能な進み時間および/または遅れ時間を以てコピーする」処理について,明確に記載されていない。 したがって,審決が,「本願明細書の発明の詳細な説明は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に,その発明の目的,構成及び効果が記載されているとは認めることができない」と判断したことに誤りはなく,取消事由3も理由がない。 4 以上のとおりであって,原告の主張する審決取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塩月秀平 |
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裁判官 | 田中昌利 |
裁判官 | 野輝久 |