関連審決 | 不服2004-14529 |
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関連ワード | 使用方法 / インターネット / アクセス / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 翻訳文 / 優先権 / 善意 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 同意 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / 変更 / 国際公開 / 国内公表 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10326号
審決取消請求事件
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原告トレック・2000・インター ナショナル・リミテッド 訴訟代理人弁理 士鈴江武彦 同 河野哲 同 中村誠 同 福原淑弘 訴訟復代理人弁理士宮田良子 被告特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人中里裕正 同 赤川誠一 同 山本章裕 同 内山進 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/03/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2004-14529号事件について平成19年5月7日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,原告が発明の名称を「生物測定学ベースの認証機能を有する可搬装置」とする後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。 争点は,?@特許庁が審決をするに当たって拒絶理由通知をしなかった違法があるか(特許法159条2項で準用する同法50条),?A本願発明が国際公開第01/23987号パンフレット(国際公開日平成13年[2001年]4月5日,発明の名称「着脱可能な能動型の個人用記憶装置,システム,及び方法」,出願人エム-システムズフラッシュディスクパイオニアズリミテッド[イスラエル],特願2001-526690号,国内公表日平成15年3月18日,特表2003-510714号)に記載された発明との関係で進歩性を有するか(同法29条2項)である。 第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,優先権(2001年[平成13年]6月28日シンガポール国)を主張して,平成14年(2002年)3月22日,名称を「生物測定学ベースの認証機能を有する可搬装置」とする発明について,国際特許出願(以下「本願」という。請求項の数27。特願2002-578698号。平成15年1月9日国際公開[WO03/03282])をし,平成14年5月2日に日本国特許庁へ翻訳文(国内書面)を提出(甲1,平成16年7月2日国内公表[特表2004-519791号])し,その後,平成15年6月5日付けで特許請求の範囲を補正した(甲2)ところ,特許庁から平成15年9月19日付けで拒絶理由通知(甲5,以下「本件拒絶理由通知」という。)を受けた。そこで,原告は,平成16年3月12日付けで意見書(甲6,以下「本件意見書」という。)を提出したが,平成16年4月7日付けで拒絶査定(甲7,以下「本件拒絶査定」という。)を受けた。 これに対し原告は,平成16年7月12日付けで不服の審判請求(甲8)を行ったところ,特許庁は,同請求を不服2004-14529号事件として審理した上,平成19年5月7日,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決をし,その謄本は平成19年5月22日原告に送達された。 (2) 発明の内容前記補正後の特許請求の範囲の請求項1は,次のとおりである(下線は補正部分。以下,これに記載の発明を「本願発明」という)。 「マイクロプロセッサと,データの少なくとも8MBの記憶容量を有し,マイクロプロセッサに結合された不揮発性メモリと,マイクロプロセッサに結合され,これによって制御される生物測定学ベースの認証モジュールであって,生物測定学ベースの認証モジュールがユーザのアイデンティティを認証する場合に,ユーザに対して不揮発性メモリへのアクセスが許可され,そうでないユーザに対して不揮発性メモリへのアクセスが拒否される認証モジュールと,コントローラを有するホストに直接可搬記憶装置を接続し,ホストとユーザのアイデンティティの認証に従う不揮発性メモリとの間でデータを交換する一体の雄コネクタとを備えた可搬記憶装置。」(3) 審決の内容ア審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,本願発明は,前記国際公開第01/23987号パンフレット(以下「刊行物1」という,甲9)に記載された発明(以下「刊行物1発明」という。)及び周知技術に基づいて容易に発明することができたから特許法29条2項により特許を受けることができない,というものである。 イ審決が認定する本願発明と刊行物1発明との一致点,相違点は,次のとおりである。 〈一致点〉「マイクロプロセッサと,記憶容量を有し,マイクロプロセッサに結合された不揮発性メモリと,マイクロプロセッサに結合され,これによって制御される生物測定学ベースの認証モジュールであって,生物測定学ベースの認証モジュールがユーザのアイデンティティを認証する場合に,ユーザに対して不揮発性メモリへのアクセスが許可され,そうでないユーザに対して不揮発性メモリへのアクセスが拒否される認証モジュールと,コントローラを有するホストに可搬記憶装置を接続し,ホストとユーザのアイデンティティの認証に従う不揮発性メモリとの間でデータを交換するコネクタとを備えた可搬記憶装置。」〈相違点1〉不揮発メモリの記憶容量に関し,本願発明は,データの少なくとも8MBの記憶容量を有しているのに対し,刊行物1発明では,データの記憶容量が示されていない点。 〈相違点2〉可搬記憶装置の接続に関し,本願発明は,直接可搬記憶装置を接続しているのに対し,刊行物1発明では,直接とは記載されていない点。 〈相違点3〉コネクタが,本願発明では「一体の雄」コネクタであるのに対し,刊行物1発明では一体の雄とは記載されていない点。 (4) 審決の取消事由しかしながら,審決は,相違点2の判断に係る手続を誤り,相違点2の判断を誤り,本願発明の顕著な効果を見落とした結果,本願発明は当業者が容易に発明することができたとの誤った結論を導いたものであるから,違法として取消しを免れない。 ア 取消事由1(相違点2の判断に係る手続上の瑕疵)(ア)本件拒絶理由通知(甲5)において,本願発明の「コントローラを有するホストに直接可搬記憶装置を接続し,」の構成に関して引用されたのは,刊行物1(甲9)である。そして,本件拒絶査定(甲7)は,本件拒絶理由通知の記載を引用している上,本件意見書(甲6)における「刊行物1はメモリ装置と一体の雄コネクタを経てメモリ装置とホストとの間の直接接続を開示しない」旨の主張に対し,「備考」として,刊行物1には「USBによりホストに直接接続可能であって,指紋認証によりフラッシュメモリに対するアクセスを許可する可搬型記憶装置の発明が記載されている」と記載していた。 (イ)ところが,審決は,「可搬記憶装置の接続に関し,本願発明は直接可搬記憶装置を接続しているのに対し,刊行物1発明では,直接とは記載されていない点」を本願発明と刊行物1発明との相違点(相違点2)とした上,日経ゼロワン2000年10月号79頁〜86頁「ワンランク上の快適・楽しいデジタルライフを目指せ!今注目の新世代メディア&メモリー」(日経ホーム出版社2000年10月1日発行。甲14)及び特開平2000-200248号公報(甲15)の記載を引用し,「可搬記憶装置の接続に関し,直接可搬記憶装置を接続する技術は,本願優先権主張日前周知の技術にすぎない」旨の判断をした(14頁4行〜15頁24頁)。 (ウ)しかし,本件拒絶理由通知から本件拒絶査定に至るまでに提示された文献である刊行物1(甲9),特開平8-263631号公報(甲10),特開2001-59701号公報(甲11),特開2000-331166号公報(甲12)は,直接可搬記憶装置を接続するものではなく,直接可搬記憶装置を接続することに関する文献としては審決において初めて上記甲14及び15が周知例として提示されたものである。 (エ)上記のとおり,本件拒絶査定は刊行物1(甲9)に直接可搬記憶装置を接続することが記載されているとの誤った判断をしたのであるから,審判を請求する段階において,審決のいうような「…刊行物1の発明において,可搬記憶装置の接続に関して,直接可搬記憶装置を接続することは,前記周知技術を参酌することにより当業者が容易になし得ることである。」とする判断(15頁22行〜24行)を予測することは不可能である。 (オ)したがって,審判において,上記甲14及び15を追加した新たな拒絶理由を通知すべきであったのであり,そのような拒絶理由通知がなされていれば,原告は,意見書を提出し,また,手続補正をすることができた(特許法159条2項,50条,17条の2第1項1号)のであるから,そのような拒絶理由通知をせずになされた審決は,原告の反論及び補正の機会を不当に奪ったもので,特許法159条2項で準用する同法50条に違背した違法がある。 イ 取消事由2(相違点2の判断の誤り)審決は,「…刊行物1の発明において,可搬記憶装置の接続に関して,直接可搬記憶装置を接続することは,前記周知技術を参酌することにより当業者が容易になし得ることである。」としている(15頁22行〜24行)が,以下のように,刊行物1発明において上記甲14及び15を参酌して直接可搬記憶装置を接続することは当業者が容易になし得ることではない。 (ア)本願発明は,「ホストに直接可搬装置を接続し,」かつ,「一体の雄コネクタを備えた可搬記憶装置」であることから,本願発明は,持ち運びができ,さらに一体の雄コネクタを直接ホストに接続して使用するものである。仮に本願発明が大型の記憶装置であるなら,持ち運びすることが困難であり,一体の雄コネクタを有していたとしても直接にホストに接続して使用されることは不可能である。 したがって,たとえ「コンパクト」という文言が含まれていなくても,本願発明がコンパクトな可搬記憶装置であることは明らかである。 (イ)刊行物1(甲9)の8頁17行〜26行(特表2003-510714号[甲13])の段落【0028】)の記載によれば,刊行物1の装置は本願発明の可搬記憶装置ほどコンパクトではないものである。刊行物1には,フレキシブルUSBケーブルを用いてホストに接続された大型のデスクトップユニットが示されている。これは,コンピュータワークステーション又はラップトップのUSBポートに直接装置を挿入するための十分なスペースがないからであって,このことは,刊行物1の装置はUSBポートに直接挿入することができるようなコンパクトな装置ではないことを示している。本願の優先権主張日(2001年[平成13年]6月28日)時点において,生物測定学ベースの認証機能を含むものは,刊行物1に記載されたような,ある程度大型の装置,もしくは,少なくとも本願発明ほどコンパクトではない装置において用いられることが通常であったと考えられる。 (ウ)本願の優先権主張日時点において,ほとんどのデスクトップコンピュータはその後ろ側にUSBソケットを有していたのであり,デスクトップコンピュータがコンピュータの正面にUSBコネクタを有することは一般的ではなく,コンパクトな記憶装置は,コンピュータの後ろ側のような十分なスペースがない場所で使用するためのものであった。この記憶装置に生物測定学ベースの認証モジュールを設けた場合には,生物測定学ベースの認証モジュールを起動させるためには,コンピュータの後ろ側に挿入された装置に指を押し付けて指紋を読み取らせる必要がある。 しかし,コンピュータの後ろ側には十分なスペースがなく,また,センサーによって指紋を取得する度に狭くて繁雑なスペースの周辺に手を伸ばさなければならず,極めて不便である。 (エ)したがって,本願の優先権主張日時点において,生物測定学ベースの認証モジュールを記憶装置に用いる場合には,刊行物1のようなある程度大型の装置とするのが一般的であって,コンピュータの後ろ側等の狭いスペースで使用されることが前提となるコンパクトな記憶装置に生物測定学ベースの認証モジュールを組み合わせることは,当業者が容易に想到することができなかったものである。 (オ)ところで,甲14及び15を参照すると,甲14にはダイレクト接続可能なメディアが開示され,甲15の図5には図番310で示された装置が開示されている。 しかし,上記の甲14及び15の装置と本願発明との重要な相違点は,甲14及び15の装置が生物測定学ベースの認証モジュールの機能を備えていないことである。甲14及び15の装置は,生物測定学ベースの認証モジュールに全く言及していない。甲14及び15は生物測定学ベースの認証機能のない単なるUSBメモリを開示するものであって,審決は,甲14及び15を本願発明に関する周知例としてあげること自体その判断手順を誤るものである。 (カ)本願発明は,将来,USBが様々な場所に配置されて便利に使用できる環境となった場合に,生物測定学ベースの直接接続記憶装置が便利であるとの認識に基づくものであって,コンパクトであり,かつ,生物測定学ベースの認証モジュールを備えた可搬記憶装置である。本願の優先権主張日時点において,刊行物1に甲14及び15を組み合わせたとしても本願発明の構成を得ることはできないのであって,本願発明は容易に想到することができたものではない。 ウ 取消事由3(効果の判断の誤り)審決は,「…本願発明により奏する効果も,刊行物1に記載された発明,及び前記周知技術から当然予想される範囲内のものにすぎず,格別顕著な効果とは認められない。」と判断している(16頁28行〜30行)が,以下のように,本願発明は顕著な効果を有するものである。 (ア)本願発明の効果は,コンパクトなだけではなく,生物測定学ベースの認証モジュールを備えることによって記憶された情報のセキュリティーを保証するものであって,容易に持ち運びができ,様々な場所で使用される可能性のある可搬記憶装置内の情報への認可されないアクセス,コンピュータへのあるいはコンピュータ間での情報の移動のいずれをも防止するものである。 このように,本願発明は,不特定多数の人々に情報のセキュリティーが保証された非常に便利な可搬記憶装置を提供するという格別の効果を奏するものである。 (イ)審決はこのような本願発明の顕著な効果を見落とし,その結果,本願発明は容易に発明できたという誤った判断をしたものである。 2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。 3被告の反論(1) 取消事由1に対しア本件拒絶査定(甲7)は,ホストに直接可搬記憶装置を接続する点が,刊行物1(甲9)に,以下のとおり,明示的にではないものの記載されていることを「ホストに直接接続可能であって」(判決注:下線は被告による)と述べ,本願発明の進歩性を否定する認定判断をしたものである。 (ア)ホストに直接可搬記憶装置を接続する点に関して,刊行物1(甲9)には,以下の記載がある。 「本発明は,着脱可能な能動型の個人用記憶を提供するための装置,方法,システムに関する。… 少なくとも,装置は,…装置を外部計算装置に接続するあるタイプのコネクタを特徴とする。例えば,このような接続は,外部計算装置のUSBバスを介して,能動型装置を接続するための,装置のUSB制御装置とUSBコネクタで任意に確立される。」(3頁14行〜25行,翻訳は甲13の18頁13行〜23行)「ステップ1において,ユーザは,能動型データ装置のUSBコネクタをホスト計算装置に接続する。好適には,ユーザは,能動型データ装置が接続されることになる各ホスト計算装置に能動型データ装置を簡単に持ち運びできるように,能動型データ装置が携帯性に優れていることに留意されたい。」(13頁22行〜25行,翻訳は甲13の29頁8行〜11行)(イ)上記(ア)の記載からみて,刊行物1には,携帯性に優れた能動型データ装置が,この能動型データ装置を外部計算装置すなわちホスト計算装置に接続するためのUSBコネクタを有しており,ユーザは,上記USBコネクタを上記ホスト計算装置に接続することが記載されている。 USBコネクタをホストに接続するに当たって,それらUSBコネクタとホストとの間に,別の部材を介在させる旨の記載はないから,USBコネクタをホストに直接接続することが刊行物1に明示的に記載されていないにしても,その接続は直接であるのが自然である。そして,USBコネクタは,能動型データ装置を構成する一部品である。そうすると,携帯性に優れた能動型データ装置すなわち可搬記憶装置は,その一部品であるUSBコネクタがホストに直接接続されることにより,それ自身,ホストに直接接続されることになる。 (ウ)このように,ホストに直接可搬記憶装置を接続する点は,刊行物1に,明示的にではないものの,記載されている。 イ審決は,本願発明と刊行物1発明との相違点の一つとして「可搬記憶装置の接続に関し,本願発明は,直接可搬記憶装置を接続しているのに対し,刊行物1発明では,直接とは記載されていない点」(相違点2)と認定した。これは,ホストに直接可搬記憶装置を接続する点について,刊行物1の記載が明示的なものではないことから,その点を形式的な相違点として抽出したものである。 そして審決は,形式的な相違点である,ホストに直接可搬記憶装置を接続する点が周知技術であることから,その周知技術を明示する甲14及び15を引用して,進歩性を否定する判断をしたものである。 審決は,本件拒絶査定に示されていない,ホストに直接可搬記憶装置を接続する技術とは別の周知技術を示す証拠として甲14及び15を引用したのであって,本件拒絶査定と異なる認定判断をしたのではない。 したがって,審決の相違点2に関する認定判断は,本件拒絶査定の認定判断と実質的に変わるところがないものである。 ウホストに直接可搬記憶装置を接続する点は,本願の優先権主張日(2001年[平成13年]6月28日)前に周知慣用の技術である。その周知技術は,本件拒絶理由通知(甲5)及び本件拒絶査定(甲7)に示された2000年(平成12年)5月原告WEBページ(http://web.archive.org/web/20000525193329/http://www.thumbdrive.com/)に開示されている。 この2000年(平成12年)5月原告WEBページ(乙2の2枚目)には,最上段左側に「TREK 2000 International Ltd」と,このWEBページが原告のWEBページであることが示され,最上段中央左寄りに「ThumbDrive 」という文字と共に,写真が掲示されている。そして,そTMの右下の文中第1パラグラフの「Introducing the world's firstrevolutionary portable solid drive that is smaller than your...thumb!」(翻訳:「世界で最初の革新的な,あなたの…親指より小さい可搬固体ドライブを紹介しましょう!」)という記載,及び,第2パラグラフの「The USB plug & play makes connecting the ThumbDrive to your desktopTMor laptop a fuss free operation.」(翻訳:「USBプラグ&プレイは,ThumbDrive をあなたのデスクトップやラップトップに接続することを,TMいらいらさせない操作にします。」)という記載を参照すれば,写真に示されたものは,可搬固体ドライブすなわち可搬記憶装置であり,その左端部には,USB雄コネクタが一体に設けられている。そして,文中第2パラグラフには,「No software, no connecetion wire and no battery arerequired.」(翻訳:「ソフトウェア,接続ワイヤ,電池は必要ありません。」)と記載されている。接続ワイヤを必要としないのであるから,写真に示された可搬記憶装置は,一体に設けられたUSB雄コネクタにより,デスクトップやラップトップに直接接続されるものである。2000年5月原告WEBページの左部に「Product Information」(翻訳:「製品情報」)と記載された箇所をクリックすることで表示される原告のWEBページ(乙2の3枚目)の中央には,可搬記憶装置をコンピュータに直接接続した写真が示されている。 また,審決が引用した甲14は,本件拒絶査定が示した2000年5月原告WEBページに掲載された製品「ThumbDrive 」と同一の原告の製品TMについて記載したものである。この原告の製品について記載した記事としては,甲14の他に,インターネット上の複数のWEBページ(乙3〜5)がある。これらの記事もまた,原告自らが本願の優先権主張日前に実施する,ホストに直接可搬記憶装置を接続する周知技術を開示するものである。原告の製品に関する記事以外にも,ホストに直接可搬記憶装置を接続する周知技術を開示する文献(乙6[特開2001-125908号公報]の1頁左下欄及び15頁右欄7行〜37行)及びWEBページ(乙7)が存在する。これら文献及びWEBページが開示するように,ホストに直接可搬記憶装置を接続することは,本願の優先権主張日前に周知慣用の技術である。 このように,ホストに直接可搬記憶装置を接続する技術が,周知技術であることに鑑みて,本件拒絶査定は,その周知技術が刊行物1にその記載内容からみて明示的にではないものの記載されているとして,本願発明の進歩性を否定する認定判断をしたのである。一方,審決は,その周知技術が,刊行物1に明示的には記載されていないが,周知慣用の技術であることに変わりはないことから,ホストに直接可搬記憶装置を接続する点を形式的に相違点とし,本願発明の進歩性を否定する認定判断をしている。 したがって,本願発明の進歩性を否定した審決の認定判断は,本件拒絶査定の認定判断と実質的に変わるところがない。 エ以上のとおり,審決の相違点2に対する認定判断は,本件拒絶査定の認定判断と実質的に変わるところがないものであるから,本件拒絶査定の認定判断から予測可能なものである。 したがって,原告に,本件拒絶理由通知及び本件拒絶査定に基づいて,「ホストに直接可搬記憶装置を接続する」という周知技術に関し,反論及び補正する機会があったことは,明らかである。 (2) 取消事由2に対しア刊行物1発明は,USBコネクタによりUSB接続される能動型データ装置である。 また,審決が周知技術を示す文献として挙げた甲15(特開2000-200248号公報)には,「【0046】「USBプラグ」は,USBシステムに連接するポータブル装置であり,…通常メモリおよび/またはCPUのみからなり,従って通常ポケットサイズである。より一般的には,USBプラグは,フレキシブルに接続自在なコンピュータ・システム(FCCS:Flexibly Connectible Computer System)にプラグ接続されるプラグの例である。」及び「【0048】通常,コンピュータ・システムを形成する複数個のコンピュータ・システム・ユニット(コンピュータおよび一つ以上の周辺装置)の各々は,少なくとも二つの同等の雌ソケットを有し,これらは雄-雄ケーブルにより相互に接続される。本実施例においては,FCCSプラグは雄ソケットを含む。」と記載されている。この記載からみて,甲15には,メモリからなりポケットサイズであって,USBシステムに連接するポータブル装置であるUSBプラグが,雄ソケットを含み,コンピュータ・システム・ユニットの雌ソケットに接続されることが示されている。そして,雄ソケットを備えたUSBプラグは,その雄ソケットをコンピュータの雌ソケットに挿入することにより,両端が雄ソケットであるケーブルを用いることなく,コンピュータに直接接続するものである。 さらに,審決が周知技術を示す文献として挙げた甲14(日経ゼロワン2000年10月号79頁〜86頁「ワンランク上の快適・楽しいデジタルライフを目指せ!今注目の新世代メディア&メモリー」[日経ホーム出版社2000年10月1日発行]の写し)には,「USBにダイレクト接続可能世界最小・最軽量の「ThumbDrive」」(7枚目上部),「そこで注目したいのが,フラッシュメモリを内蔵した本体とUSBコネクタを一体化した,まったく新しいタイプのストレージデバイス「サムドライブ」だ。…世界最小・最軽量を誇る本体は,ガムや100円ライター程度の大きさとスタイル。…「サムドライブ」は,USBポート装備のパソコンにダイレクトに接続すれば,その場ですぐにデータを読み書きできるようになる。…しかもその際,…接続用のケーブル,…も不要。」(7枚目左欄19行〜中央欄5行)と記載されており,USBコネクタによりパソコンにダイレクト接続するガムや100円ライター程度の大きさのストレージデバイスが開示されている。 してみれば,審決の「これらの周知の技術は,直接可搬記憶装置を接続する技術にあたる。しかも,この技術は,本願発明と共通するUSBの接続に係る技術である。」とした認定判断(15頁20行〜21行)に誤りはない。 また,刊行物1に記載された能動型データ装置に,USB接続に係る技術である点で共通する,ホストに直接可搬記憶装置を接続する周知技術を適用することに,何らの困難性もない。したがって,「よって,刊行物1の発明において,可搬記憶装置の接続に関して,直接可搬記憶装置を接続することは,前記周知技術を参酌することにより当業者が容易になし得ることである。」とした審決の認定判断(15頁22行〜24行)にも誤りはない。 イ原告の主張は,本願発明の可搬記憶装置が,コンパクトであることからホストに直接接続されるのに対して,刊行物1(甲9)に記載された能動型データ装置が,「フレキシブルUSBケーブルを用いてホストに接続された大型のデスクトップユニット」であることから,ホストに直接接続するコンパクトな装置ではないことをいうものである。しかし,この主張は,以下のとおり失当である。 (ア)刊行物1(甲9,訳文は甲13)には,能動型データ装置が,原告の主張する「フレキシブルUSBケーブルを用いてホストに接続された大型のデスクトップユニット」(下線は被告による。以下同様である。)であることは,記載されていない。原告が,刊行物1(甲9)に「フレキシブルUSBケーブルを用いてホストに接続された大型のデスクトップユニット」が開示されている根拠として挙げる記載(8頁17行〜26行)を参照すれば,刊行物1には,能動型データ装置が「aflexible USB connector」(8頁19行,翻訳:「フレキシブルなUSBコネクタ」[甲13の22頁11行])を備えることが記載されているものの,「フレキシブルUSBケーブル」という記載は存在していない。そして,「connector(コネクタ)」とは,「回路または機器などを相互に接続するための接続具.相手側と接触して電気的な接続を行うコンタクトとよばれる金属片と,それらを支持する絶縁体,および挿入,抜去,固定を容易にするための補助機構で構成されている.雄と雌の区別があり,雄のコンタクトを雌のコンタクトに挿入した接続を行う」(乙8[情報・通信・マイクロコンピュータ辞典編集委員会編「情報・通信・マイクロコンピュータ辞典」丸善株式会社昭和61年1月20日発行]の120頁右欄下3行〜121頁左欄5行)ものであるのに対して,「ケーブル」とは,「電線・光ファイバーなどに外被をかぶせたもの」(乙9[新村出編「広辞苑第5版」株式会社岩波書店1998年11月11日発行]の827頁最下段19行〜21行)であるから,「コネクタ」と「ケーブル」とは,異なるものである。したがって,刊行物1に記載された能動型データ装置は,「フレキシブルなUSBコネクタ」を用いてホストに接続されるものであって,「フレキシブルUSBケーブルを用いてホストに接続され」るものではない。 また,原告は,刊行物1(甲9)に「フレキシブルUSBケーブルを用いて接続された大型のデスクトップユニット」が記載されている理由として,「これは,コンピュータワークステーションまたはラップトップのUSBポートに直接装置を挿入するための十分なスペースがないからである。」ことを挙げている。この主張は,刊行物1の「一般的背景技術のコンピュータ・ワークステーション又はラップトップにおけるUSBコネクタは,他のコネクタ又は装置近辺に通常配置される。…これら他の近くにあるコネクタが使用中の場合,本発明の装置に充分な空間が与えられず,USBポートに挿入できない場合がある。」(8頁19行〜23行,翻訳は甲13の22頁12行〜17行)という記載を根拠にしていると推認される。しかし,上記した刊行物1の記載を参照すれば,刊行物1に記載されていることは,能動型データ装置に充分な空間が与えられない原因は,この能動型データ装置を接続するコンピュータにおいて,USBポートの近辺に配置された他のコネクタが使用中であるから,ということであり,原告が主張するように,能動型データ装置が「大型のデスクトップユニット」であるから,ということではない。 さらに,刊行物1(甲9)の「任意に又更に好適には,USBコネクタ26はフレキシブルなコネクタとして実現され,」(10頁28行〜29行,翻訳は甲13の25頁14行〜15行)という記載を参照すれば,USBコネクタをフレキシブルとすることは,「任意に又は好適に」行われることであるから,刊行物1に記載された能動型データ装置は,USBコネクタをフレキシブルとしない態様をも含むものである。 してみれば,刊行物1に記載された能動型データ装置は「フレキシブルUSBケーブルを用いてホストに接続された大型のデスクトップユニット」である,という原告の主張は,刊行物1の記載に基づくものではなく,失当である。 (イ)本願の補正後の特許請求の範囲請求項1には,「コンパクト」という記載は存在していないし,本願明細書及び図面(甲1)を参照しても,本願発明が,コンパクトであることからホストに直接接続される,ということは,何ら記載されていない。したがって,本願発明の可搬記憶装置が,コンパクトであることからホストに直接接続されるものであるという原告の主張は,本願の特許請求の範囲の記載に基づくものではなく,本願明細書及び図面の記載に基づくものでもないから,失当である。 ウ審決の判断は,原告が主張する,コンパクトな記憶装置に生物測定学ベースの認証モジュールを組み合わせる点についての判断ではなく,相違点2が「可搬記憶装置の接続に関し,本願発明は,直接可搬記憶装置を接続しているのに対し,刊行物1発明では,直接とは記載されていない点。」であることから,ホストに直接可搬記憶装置を接続する点についての判断である。したがって,原告の主張は前提において誤りである。 (3) 取消事由3に対しア 刊行物1(甲9)には,次の記載がある。 「図3は,図2の好適なシステムを動作させるための本発明による代表的な方法の流れ図である。…ステップ1において,ユーザは,能動型データ装置のUSBコネクタをホスト計算装置に接続する。好適には,ユーザは,能動型データ装置が接続されることになる各ホスト計算装置に能動型データ装置を簡単に持ち運びできるように,能動型データ装置が携帯性に優れていることに留意されたい。 …ステップ7において,生体測定検出装置は,…ユーザにネットワーク資源へのアクセスを許可するために,収集された生体パラメータが,必要な許可を有する記憶パターンと充分類似しているかどうか決定する。…ステップ8において,収集された生体パラメータが,記憶パターンと充分類似している場合,ホスト計算装置及び/又は能動型データ装置自体のローカルデータ記憶装置等において,ユーザは要求データにアクセスする許可を与えられる。他の選択肢として,収集された生体パラメータが充分類似していない場合,ユーザは要求情報にアクセスする許可を与えられない。 ユーザが要求情報にアクセスする許可を与えられる場合,ステップ9において,能動型データ装置のローカルメモリ記憶装置から,又は他の選択肢として,ホスト計算装置のデータ記憶装置のいずれかからデータが検索される。」(13頁16行〜14頁33行,翻訳は甲13の29頁2行〜31頁4行)イ上記した刊行物1の記載から,刊行物1に記載されたものは,携帯性に優れており,能動型データ装置が接続されることになる各ホスト計算装置に簡単に持ち運びできる能動型データ装置であって,生体測定検出装置を備えることによって,ローカルメモリ記憶装置又はホスト計算装置のデータ記憶装置への許可が与えられないアクセスを防止する能動型データ装置である。 そうすると,刊行物1に記載された能動型データ装置は,生体検出装置によりアクセスの許可が与えられるユーザ以外の不特定多数の人々に,記憶装置へのアクセスの許可を与えないことで,その記憶装置に格納された情報のセキュリティーが保証された,携帯型で非常に便利であるという効果を奏するものである。 ウしてみれば,審決の「…本願発明により奏する効果も,刊行物1に記載された事項,及び前記周知技術から当然予想される範囲内のものにすぎず,格別顕著な効果とは認められない。」(16頁28行〜30行)とした判断に誤りはなく,審決は,原告の主張するような本願発明の効果を見落としたものではない。 第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。 2本願発明の意義(1) 本願明細書(甲1)には,次の記載がある。 ア 発明の属する技術分野「本発明は可搬装置に関し,とくに,生物測定学ベースの認証機能を備えた可搬データ記憶およびアクセス制御装置に関する。」(段落【0001】)イ 従来の技術「可搬データ記憶装置は,ビジネス,教育およびホームコンピュ-タで広く使用される周辺装置として不可欠なものとなっている。これらの装置はパーソナルコンピュータ(PC)のような特定のホストプラットホームに永久的に取付けられるものではない。むしろ,それらは,適切な接続ポート[たとえば,USBポート,IEEE1394(“ファイヤワイヤ”)ポートのようなシリアルバスポート]を備えているコンピュータに対して都合よく取外しおよび取付けが可能である。したがって,これらの可搬データ記憶装置により,そうでなければ接続されない異なったコンピュータ間においてデータをユーザが転送することが可能になる。ポピュラ-なタイプの可搬記憶装置は,不揮発性ソリッドステートメモリ(たとえば,フラッシュメモリ)を記憶媒体として使用しているため,データにアクセスするための可動部品または機械的駆動機構は必要ない。駆動機構がないために,これらの可搬ソリッドステートメモリ装置は,磁気ディスクまたはCD-ROMのような表面記憶装置よりコンパクトなものとなることができる。」(段落【0002】)ウ 発明が解決しようとする課題「可搬記憶装置は,種々の組織および個人的計算環境において広範囲にわたって使用されており,可搬または指定された記憶媒体上に記憶されている情報に許可されていないユーザがアクセスすることを阻止することは,現在の情報テクノロジーの最も重要な努力目標の1つである。たとえば,機密の企業情報,医療および金融のような個人情報,または他のタイプの機密にかかわるデータを秘密保護するために,信頼性が高く,使用が簡単で,保護されるべき情報のタイプに適した保護レベルを適用する便利なセキュリティ方法を有していることが重要である。」(段落【0003】)「これまでは,大部分可搬記憶装置は,許可されていないデータアクセスに対する保護を行うセキュリティ手段としてユーザパスワードに頼ってきた。パスワードを認証メカニズムとして使用することにより,許可されていないデータアクセスに対してあるレベルの保護は行われるが,ユーザはこれを面倒で,不便であると考えることが多い。それは,ユーザがパスワードを覚え,アクセスをリクエストするたびにそれを入力する必要があるからである。多くのシステムにおいて,ユーザはまたセキュリティレベルを高めるために彼または彼女のパスワードを周期的に変更する必要がある。このため,さらに不便さが増す。さらに,典型的なユーザは一般に,アクセス制御の必要があるいくつかのコンピュータシステムおよび,またはネットワークにアクセスする必要があるので,種々の異なったパスワードを覚えなければならない可能性がある。これは,それらパスワードが種々のシステムに関して同じとは限らないからである。したがって,可搬または指定された記憶媒体上に記憶されている情報への許可されていないアクセスを阻止し,ユーザにとって面倒でなく便利な信頼性の高い認証メカニズムを提供することが有効である。」(段落【0004】)「さらに,パスワードは種々のユーザ間で固有のものではないし,それはまた多くの熟練したハッカーによるハッキングを受けやすい。許可されていないパーティへの善意のユーザによる不注意な暴露,あるいは不当なハッキングのいずれかによってパスワードが危険にさらされてしまうと,パスワードで保護されていると考えられている機密データはもはや保護されたものではなくなっている。事実,このような情報への許可されていないアクセスは,長期にわたって気づかれないまま行われ続ける可能性がある。犠牲となったユーザが,データがアクセスされ,および,または破壊されていたことにやっと気づくまで,あるいは,システム管理者が怪しい行動パターンを検出するまで,進行中の侵入は阻止されないままである。 したがって,可搬記憶媒体および種々のコンピュータシステム上に記憶されているデータへの許可されていないアクセスから保護し,容易にハッキングの危険にさらされることがなく,個々のユーザのそれぞれに固有の“アクセスキー”を提供することが好ましい機密保護されたアクセス制御機構を設けることもまた有効である。」(段落【0005】)エ 課題を解決するための手段「したがって,本発明は,可搬または指定された記憶媒体上に記憶されている情報への許可されていないアクセスを阻止するための,ユーザが使いやすく,信頼性の非常に高い認証機構を構成する方法および装置を提供する。さらに,本発明の実施形態はまた,記憶されているデータおよびコンピュータリソースへの許可されていないアクセスから保護すると共に,構内への許可されていない侵入から防護するための高度に秘密保護された安全なアクセス制御機構を提供する。ここには,固有の生物測定学的マーカをアイデンティティ認証の基本として,および個々のユーザのそれぞれの“アクセスキー”として使用する本発明の特徴が詳細に説明されている。」(段落【0006】)「とくに,本発明の好ましい実施形態は,マイクロプロセッサと,これに結合された不揮発性メモリと,およびマイクロプロセッサによって制御される生物測定学ベースの認証モジュールとを備えた可搬装置を提供する。使用される生物測定学的テクノロジーは指紋認証技術であることが好ましく,不揮発性メモリとしてフラッシュメモリが使用される。この実施形態では,指紋認証モジュールは,可搬装置が最初に使用されるとき,これにユーザの指紋を登録するように彼/彼女を自動的に促す。現在好ましい実施形態においては,可搬装置が最初に使用される登録プロセスが完了したときに,コンパクトな暗号化された形態の指紋が可搬装置のフラッシュメモリ中に記憶される。次に使用されたとき,認証モジュールはユーザの指紋を読出して,それをフラッシュメモリ中に記憶されている登録された指紋と比較し,両者が一致するか否かを高い信頼性により決定する。一致が識別された場合,ユーザのアイデンティティの認証が成功し,その認証されたユーザはフラッシュメモリ中の情報にアクセスすることを許可される。他方,ユーザの指紋と登録された指紋との間に一致が見出されることができなかった場合,フラッシュメモリの内容へのアクセスは拒否される。このようにして,本発明のこの実施形態は,従来技術のパスワードベースの認証アプローチより優れたユーザ認証およびアクセス制御方法およびこれを行うためのシステムを提供し,この方法およびシステムは非常に便利で秘密保護された安全で信頼性の高いものである。本発明において,個人に特有のシグネチュアである指紋は,100年以上も前からアイデンティティを確認するために合法的かつ一般的に認められており,それらはパスワードと違いユーザにより忘れられるはずがなく,またさらにそれらを変更し,複製し,あるいはハッキングによりクラックすることはほとんど不可能であることが認識される。したがって,指紋およびその他の生物測定学ベースの技術は,本発明において行われる認証および,またはアクセス制御ソリューションとしての使用に非常に適している。」(段落【0007】)オ図1〜18に,本願発明の実施形態が記載されている。これらの実施形態において,本願発明の可搬装置とホストコンピュータとの接続についての記載は,次のとおりである。 (ア) 図1の実施形態「…さらに,この好ましい実施形態において,可搬装置70はユニバーサルシリアルバス(USB)規格と適合し,USBコネクタ(示されていない)を備えている。この実施形態では,集積回路10はまたUSBデバイス制御装置15を含み,このUSBデバイス制御装置15は可搬装置70と,USBホスト制御装置93が内蔵されたUSB適合パーソナルコンピュータ(PC)等のホストプラットフォーム90との間の通信を制御する機能を行う。」(段落【0014】)(イ) 図2の実施形態「…この実施形態では,可搬装置170はUSB規格と適合し,USBプラグ118を含み,図2に示されているように,このUSBプラグ118がホストプラットフォームのUSBホストコンピュータ193に結合される。随意に,可搬装置はさらに,USBプラグ118に結合されるUSBポート162を含んでいる。USBポート162はそのUSBを媒介とする可搬装置170に別のUSB適合デバイスを結合するために使用されることの可能な便利な特徴として記載されている。この実施形態では,可搬装置170はまた,この可搬装置170とホストプラットフォームのUSBホスト制御装置193との間の通信を制御するUSBデバイス制御装置115を含んでいる。1実施形態において,ホストプラットフォーム中にドライバソフトウェア177およびアプリケーションプログラムインターフェース(API)197が存在し,可搬装置170の動作を容易にするためにUSBホスト制御装置193と通信し,この,API197はモニタリングソフトウェア199を含んでいる。」(段落【0017】)(ウ) 図3〜10の実施形態図3〜9には,フロントエンドから突出するUSBコネクタ18を有する可搬装置70の図が記載されている。 (エ) 図12〜18の実施形態図12a・b,13〜17には,フロントエンドから突出するUSBコネクタ318を有する可搬装置370の図が記載されている。 (2)前記第3の1(2)の特許請求の範囲請求項1の記載及び上記(1)の記載によると,本願発明は,生物測定学ベースの認証機能を備えた可搬データ記憶及びアクセス制御装置であって,コントローラを有するホストコンピュータに直接その装置を接続し,ホストコンピュータとユーザのアイデンティティの認証に従う不揮発性メモリとの間でデータを交換する,一体の雄コネクタを備えているものであると認められる。 このように本願発明の可搬装置とホストコンピュータとは直接接続されるのであるが,本願明細書(甲1)中には「直接接続」について定義した記載はなく,実施例としても,本願発明の可搬装置とホストコンピュータとの接続形態を示しているのは,上記(1)オ(イ)の「USBプラグ118がホストプラットフォームのUSBホストコンピュータ193に結合される。」との記載のみである。 以上述べたところに,「直接」という言葉の日本語としての通常の意味を考慮すると,上記にいう「直接接続」とは,可搬装置とホストコンピュータがその間に他の装置を介することなく接続されるという意味に解することができる。 また,本願発明の装置は,「一体の雄コネクタ」を備えているものであるところ,その意義は,装置本体と雄コネクタが一体であるということと解される。 したがって,本願発明の装置は,「装置と一体の雄コネクタ」によって「直接接続」されるものであるということができる。 (3)原告は,本願発明は,コンパクトな可搬記憶装置であると主張するが,本願の特許請求の範囲請求項1には「コンパクト」という記載はないから,本願発明は,上記(2)で述べたように把握されるものの,「コンパクト」なものに限られるとまでいうことはできない。 3 刊行物1発明の意義(1)刊行物1(甲9,以下その翻訳である甲13[特表2003-510714号公報]による)には,次の記載がある。 ア 発明の分野及び背景(ア)「コンピュータは,データの記憶,検索及び操作に有用である。現在,数多くの様々なタイプの電子データ記憶装置が,コンピュータと共に用いられている。これらの電子記憶装置は,記憶装置が交信するコンピュータの内部又は外部に設置し得る。例えば,ハードディスクドライブ等の磁気記憶装置は,コンピュータ内部に設置し,コンピュータのシステムバスと直接通信し,またコンピュータのCPU(中央処理装置)によって制御され得る。読込み可能な又書込み可能な不揮発性メモリの両方あるが,フラッシュメモリは,物理的には小型の記憶装置である。 フラッシュメモリは,コンピュータの物理的な筐体内に設置し,また,システムに接続しCPUによって制御され得る。」(段落【0002】)(イ)「より有用な解決策は,記憶装置それ自体が盗まれても,データへは簡単にアクセスできないように,より統合された方法で電子記憶装置のハードウェアを用いて実現し得る。更に,そのような統合を行うと,不正ユーザによるアクセスは,ネットワークに対してであれ,あるいはローカルな記憶装置それ自体へのアクセスであれ,より困難なものになり得る。更に,このような装置は,ユーザがその装置を持ち運べるように又遠隔地点でデータを検索できるように,携帯型でなければならない。また,全般的な解決策は,データ記憶や検索機能の個人化を可能にするものでなければならない。残念ながら,このような解決策は,現在では,未だ入手不可能である。 従って,未だ満たされておらず,持てば有用な,着脱可能な能動型の個人用記憶のための装置,方法,システムにたいするニーズがある。これは,個別に記憶されたソフトウェアプログラムに依拠せず,また,記憶装置のハードウェアと任意に一体化され,更に,複数の地点でユーザが使用できるように充分な携帯性をもつものである。」(段落【0008】,【0009】)イ 発明の詳細な説明(ア)「本発明は,着脱可能な能動型の個人用記憶を提供するための装置,方法,システムに関する。この装置自体は,データの記憶及び検索に関する様々なタスクを実行するに足り得る計算処理能力と資源を特徴とする。特に,例えば,外部計算装置のオペレーティングシステム等,外部オペレーティングシステムの管理を必要とせず,その装置レベルで記憶装置のメモリ管理を実行するように,これらの資源は提供される。 少なくとも,装置は,メモリ管理に関する命令を実行するあるタイプのデータプロセッサ,そのデータと命令を記憶するフラッシュメモリ装置,フラッシュメモリ装置へのアクセスを制御するフラッシュメモリ制御装置,装置を外部計算装置に接続するあるタイプのコネクタを特徴とする。例えば,このような接続は,外部計算装置のUSBバスを介して,能動型装置を接続するための,装置のUSB制御装置とUSBコネクタで任意に確立される。…」(段落【0017】)(イ)「USB制御装置として実現する場合の本発明の好適な実施形態によれば,装置自体が,フレキシブルなUSBコネクタによって他の計算装置及び/又はネットワークに接続される。一般的背景技術のコンピュータ・ワークステーション又はラップトップにおけるUSBコネクタは,他のコネクタ又は装置近辺に通常配置される。各コンピュータ製造業者は,他のタイプのコネクタ及び/又はポートを含み得る様々な環境の様々な場所にコネクタを配置する。これら他の近くにあるコネクタが使用中の場合,本発明の装置に充分な空間が与えられず,USBポートに挿入できない場合がある。フレキシブルなUSBコネクタを設けることによって,この問題点は解決される。…」(段落【0028】)(ウ)「…任意に又更に好適には,USBコネクタ26はフレキシブルなコネクタとして実現され,これによって,他のコネクタや周辺装置用の周辺ポートの構造や配置に関係無く,USBコネクタ26はUSBバス14に接続され得る。…」(段落【0039】)(エ)「図3は,図2の好適なシステムを動作させるための本発明による代表的な方法の流れ図である。本方法は,説明のみを目的に又限定する意図無く,生体パラメータとして指紋の検出に関して説明される。更に,この方法はまた,説明のみを目的に又これも限定する意図無く,ネットワーク資源へのアクセスを決定するための本発明の使用方法に関して説明される。 ステップ1において,ユーザは,能動型データ装置のUSBコネクタをホスト計算装置に接続する。好適には,ユーザは,能動型データ装置が接続されることになる各ホスト計算装置に能動型データ装置を簡単に持ち運びできるように,能動型データ装置が携帯性に優れていることに留意されたい。 ステップ2において,能動型データ装置は,上述したように,能動型データ装置のUSBインタフェースとホスト計算装置のUSBバスを介して,ホスト計算装置とのハンドシェイク手順を実行する。 ステップ3において,本発明の好適な実施形態によれば,要求されたネットワーク資源へのアクセスを得るために,ユーザは生体測定検出装置に近接して指を置く。例えば,更に詳細について上述したように,フィンガチップ(登録商標)装置に関しては,少なくともユーザの指先の指球がチップに触れるように,ユーザの指でこのチップ表面をなでる。 ステップ4において,生体測定検出装置は,収集手順を始めるために,ユーザの指の存在を検出する。例えば,フィンガチップ(登録商標)装置に関しては,熱的パターンの急激な変化が,ユーザの指先が装置の近くにあることを示すようにして,熱センサが指先の存在を感知する…。勿論,このような装置の他の具体例として,代替機構を任意に用いてもよい。 ステップ5において,ユーザの生体パラメータに関するデータが,生体測定検出装置のサンプル収集器によって収集される。例えば,データの取得には,フィンガチップ(登録商標)装置の熱画像等の,1枚以上の画像の収集を含んでもよい。このような画像は各々,少なくともユーザの指先の一部である。任意に又好適には,複数枚の画像が収集される。 ステップ6において,収集されたユーザの生体パラメータが,認証されたユーザの記憶識別情報と充分良く一致しているかどうかを判断するために,データが分析される。ユーザは,後の照合用としてこの情報を記憶するために,このような生体パラメータの測定を前もって行っておくものとする。 例えば,指紋検出の場合,好適には,(収集されている場合)複数枚の画像をまとめて単一画像を形成する。次に,少なくとも1つの,好適には複数の,記憶されているデータと類似する点とを照合するために,まとめた画像を分析して,パターン検出する。 ステップ7において,生体測定検出装置は,又は他の選択肢として,2つの装置を別々に実現した場合の能動型データ装置は,ユーザにネットワーク資源へのアクセスを許可するために,収集された生体パラメータが,必要な許可を有する記憶パターンと充分類似しているかどうか決定する。任意には,アクセス試行及び/又は失敗アクセス試行に関してログを保存してもよい。 ステップ8において,収集された生体パラメータが,記憶パターンと充分類似している場合,ホスト計算装置及び/又は能動型データ装置自体のローカルデータ記憶装置等において,ユーザは要求データにアクセスする許可を与えられる。他の選択肢として,収集された生体パラメータが充分類似していない場合,ユーザは要求情報にアクセスする許可を与えられない。 ユーザが要求情報にアクセスする許可を与えられる場合,ステップ9において,能動型データ装置のローカルメモリ記憶装置から,又は他の選択肢として,ホスト計算装置のデータ記憶装置のいずれかからデータが検索される。任意に又更に好適には,ユーザは,様々なタイプのデータにアクセスするための異なる許可が与えられてもよい。更に好適には,能動型データ装置が,ユーザが特定のデータに対して,要求されたタイプのアクセスを実行できるかどうか決定できるように,このような異なる許可がユーザに関する識別情報と照合される。」(段落【0050】〜【0060】)(2)上記(1)の記載によると,刊行物1には,ホスト計算装置に着脱可能な能動型データ装置が記載されており,その装置は,ホスト計算装置に着脱するためのUSBコネクタを有していることが認められる。 ところで,原告は,刊行物1には,フレキシブルUSBケーブルを用いてホストに接続された大型のデスクトップユニットが示されているなどと主張するので,以下,この点について判断する。 ア「コネクタ(connector)」は,「回路または機器などを相互に接続するための接続具.相手側と接触して電気的な接続を行うコンタクトとよばれる金属片と,それらを支持する絶縁体,および挿入,抜去,固定を容易にするための補助機構で構成されている.雄と雌の区別があり,雄のコンタクトを雌のコンタクトに挿入した接続を行う」(乙8[情報・通信・マイクロコンピュータ辞典編集委員会編「情報・通信・マイクロコンピュータ辞典」丸善株式会社昭和61年1月20日発行]の120頁右欄下3行〜121頁左欄5行)ものであるのに対して,「ケーブル(cable)」とは,「電線・光ファイバーなどに外被をかぶせたもの」(乙9[新村出編「広辞苑第5版」株式会社岩波書店1998年11月11日発行]の827頁最下段19行〜21行)であるから,「コネクタ」と「ケーブル」とは,異なるものである。しかるところ,刊行物1には,上記アのとおり「フレキシブルなUSBコネクタ」としか記載されていないから,これを「フレキシブルUSBケーブル」と読み替えることはできない。そして,刊行物1には,「フレキシブルなUSBコネクタ」が具体的にどのようなものであるかについての記載はない。「フレキシブルなUSBコネクタ」において,コネクタ自身に柔軟性のある素材を用いるなどすれば,ケーブルを用いることなく「一体の雄コネクタ」として構成することも不可能ではないと考えられること,刊行物1には,能動型データ装置のUSBコネクタをホスト計算装置に接続するに当たってUSBコネクタとホスト計算装置との間に何らかの部材や装置を介在させる旨の記載はないことからすると,刊行物1発明において,「フレキシブルなUSBコネクタ」を「一体の雄コネクタ」とし,ホスト計算装置との直接接続が「可能」なものとすることができると解される。 イまた,そもそも,刊行物1のUSBコネクタは,以下のとおり,「フレキシブルなUSBコネクタ」に限られないと解されるから,この点からしても,USBコネクタを「一体の雄コネクタ」とし,ホスト計算装置との直接接続が「可能」なものとすることができると解される。 (ア)上記(1)イ(イ)(ウ)のとおり,刊行物1に,「USB制御装置として実現する場合の本発明の好適な実施形態によれば,装置自体がフレキシブルなUSBコネクタによって他の計算装置及び/又はネットワークに接続される。」,「これら他の近くにあるコネクタが使用中の場合,本発明の装置に充分な空間が与えられず,USBポートに挿入できない場合がある。フレキシブルなUSBコネクタを設けることによって,この問題点は解決される。」,「任意に又更に好適には,USBコネクタ26はフレキシブルなコネクタとして実現され,これによって,他のコネクタや周辺装置用の周辺ポートの構造や配置に関係無く,USBコネクタ26はUSBバス14に接続され得る。」と記載されているように,「フレキシブルなUSBコネクタ」は,刊行物1発明の実施形態の一つであって,他の近くにあるコネクタが使用中である場合などにもUSBポートに挿入できるようにするために用いられるのであるから,刊行物1発明において,「フレキシブルなUSBコネクタ」を用いない態様が排除されているとまではいえない。 (イ)また,上記(1)の刊行物1の記載からすると,刊行物1の能動型データ装置は,簡単に持ち運びできるような大きさの装置が好適なものとされていることは明らかであり,他の近くにあるコネクタが使用中である場合などにもUSBポートに挿入できるようにする必要があるからといって,当然に大型のデスクトップユニットであるということもできないから,原告が主張するような大型のデスクトップユニットに限られるとは認められない。この点からも,刊行物1発明において,「フレキシブルなUSBコネクタ」を用いない態様が排除されているとまではいえない。 (ウ)したがって,刊行物1のUSBコネクタは,「フレキシブルなUSBコネクタ」に限られないと解される。 4 取消事由1(相違点2の判断に係る手続上の瑕疵)について(1) 特許庁における手続ア特許庁が,本願について平成15年9月19日付けでした拒絶理由通知(本件拒絶理由通知,甲5)には,本願発明は,刊行物1(甲9)に記載された発明に基づいて容易に発明することができたから,特許を受けることができない旨が記載され,さらに,「備考」として,刊行物1につき「USBによりホストに直接接続可能であって,指紋認証によりフラッシュメモリに対するアクセスを許可する可搬型記憶装置の発明が記載されている。」との記載がある。 イこれに対し,原告は,平成16年3月12日付けで意見書(甲6)を提出し,同意見書において,刊行物1につき「メモリ装置と一体の雄コネクタを経て,メモリ装置とホストとの間の直接接続を開示しない。」,「メモリ装置とホストコンピュータを接続するための中継(intermediary)ワイヤを使用することが好ましいとする」と主張した(1頁下25行〜下23行)。 ウ特許庁は,平成16年4月7日付け拒絶査定(本件拒絶査定,甲7)において,本件拒絶理由通知の上記記載を引用して,本願を拒絶した。 エ原告は,平成16年7月12日付けで不服の審判請求をしたところ,審決は,「可搬記憶装置の接続に関し,本願発明は,直接可搬記憶装置を接続しているのに対し,刊行物1発明では,直接とは記載されていない点」を,本願発明と刊行物1発明との相違点(相違点2)とした上,日経ゼロワン2000年10月号79頁〜86頁「ワンランク上の快適・楽しいデジタルライフを目指せ!今注目の新世代メディア&メモリー」(日経ホーム出版社2000年10月1日発行。甲14)及び特開平2000-200248号公報(甲15)の記載を引用し,「可搬記憶装置の接続に関し,直接可搬記憶装置を接続する技術は,本願優先権主張日前周知の技術にすぎない」旨の判断をした(14頁4行〜15頁24頁)。 (2)前記3のとおり,刊行物1発明において,能動型データ装置は,ホスト計算装置に「直接接続可能なもの」であるから,本件拒絶理由通知における,刊行物1についての「USBによりホストに直接接続可能であって,」の記載に誤りがあるということはできない。 そして,刊行物1がこのようなものであるときに,上記(1)エ記載の周知技術(その内容は後記5(1)のとおり)を考慮することによって,相違点2を容易に想到することができたと認めることは,周知技術について拒絶理由通知をせずに審決がされたとしても,特許法159条2項で準用する同法50条に違反した違法があるとまでいうことはできない。 (3) 以上によれば,取消事由1の主張は理由がない。 5取消事由2(相違点2の判断の誤り)について(1)前記3のとおり,刊行物1発明において,能動型データ装置は,ホスト計算装置に,「直接接続可能なもの」である。そして,審決が引用している周知技術は,次のようなものであると認められるから,これらを考慮することにより,以下のとおり,相違点2を容易に想到することができたというべきである。 ア日経ゼロワン2000年10月号(日経ホーム出版社2000年10月1日発行)の「ワンランク上の快適・楽しいデジタルライフを目指せ!今注目の新世代メディア&メモリー」という記事(甲14写しの2枚目〜9枚目)には,「ThumbDrive」(サムドライブ)という携帯型のデータ記憶装置(証拠[乙3,4]によると,この製品は原告の製品であると認められる。)が掲載されており(甲14写しの7枚目及び8枚目),その中で,この製品は,振動や衝撃に強く安心して持ち歩くことができ,USBポート装備のパソコンに,ダイレクトに接続することができることが記載されている。 イ特開平2000-200248号公報(発明の名称「ユーザとコンピュータ間の対話方法及び装置」,出願人アラディン・ノリッジ・システムズ・リミテッド[イスラエル],公開日平成12年7月18日,甲15)には,次の記載がある。 (ア)「本発明の好適な実施例に従って,フレキシブルに接続自在な一群のコンピュータ・システムおよび一群の移動ユーザにより使用されるユーザとコンピュータ間の対話方法であって,移動ユーザにより保有されるFCCSプラグに各移動ユーザを特徴づける情報を記憶し,フレキシブルに接続自在なコンピュータ・システムの一つへの接続のために移動ユーザからFCCSプラグを受容し,更に移動ユーザを特徴づける情報を用いて少なくとも一つのコンピュータ動作を行うステップを含む方法である。」(段落【0013】)(イ)「好適には,フレキシブルな接続を与えるポートにトークンが挿入される…」(段落【0027】)(ウ)「図1のUSBプラグ装置の特徴は,それがデータ記憶機能を有し,従ってメモリ・スマート・カードに類似する点にある。USBプラグ装置10は,PCB25からなり,これは,モトローラ6805,CypressチップまたはIntel8051などのマイクロプロセッサまたはCPU30と,USBインタフェース装置(チップ)40と,マイクロプロセッサ30のファームウエアをセーブするファームウエア・メモリ50と,マイクロプロセッサ30の一部において意図された計算を可能にするのに十分な大きさのRAMメモリ60と,更にユーザのデータを記憶するユーザ・データ・メモリ70とを備えている。」(段落【0032】)(エ)「図2の実施例の利点は,スマート・カードの機能が与えられるが,プラグ110がホスト120のUSBソケットに直接接続されるために専用のリーダの必要性がないという点にある。」(段落【0041】)(オ)「『USBプラグ』は,USBシステムに連接するポータブル装置であり,機械的素子を含む周辺装置に対抗するように,通常メモリおよび/またはCPUのみからなり,従って通常ポケットサイズである。より一般的には,USBプラグは,フレキシブルに接続自在なコンピュータ・システム(FCCS:Flexibly Connectible Computer System)にプラグ接続されるプラグの例である。」(段落【0046】)(カ)「通常,コンピュータ・システムを形成する複数個のコンピュータ・システム・ユニット(コンピュータおよび一つ以上の周辺装置)の各々は,少なくとも二つの同等の雌ソケットを有し,これらは雄-雄ケーブルにより相互に接続される。本実施例においては,FCCSプラグは雄ソケットを含む。しかし,任意の適切な連接スキームを用いて,コンピュータ・システム・ユニットと本発明のFCCSプラグとを連接させてもよいことが認識される。」(段落【0048】)(キ)「…スマート・カードまたはプラグは,ID情報,ネットワーク認証を有し,それに基づくアクセスを可能にする。認証は,『あなたは何を持つか』,例えばバイオメトリック情報の『あなたは何であるか』,および『あなたは何を知っているか』(例えばパスワード),に基づくものであってよい。…スマート・カードまたはプラグは,機密情報を記憶し,機密情報を記憶しないネットワークと対話する。図5A-5Bは,フレキシブルに接続自在な一群のコンピュータ・システム300および一群の移動ユーザにより使用するための本発明の好適な実施例に従って与えられる,ユーザとコンピュータ間の対話方法を図式的に示したものである。各移動ユーザを特徴づける情報,例えば名前とIDは,通常,図3のユニット230のようなUSBインタフェース制御装置を介して,その移動ユーザにより保有されるFCCSプラグ310のメモリにロードされる。」(段落【0054】)(ク) 「…認証-3つの基本要素*あなたが知る何か>パスワード-*あなたが持つ何か>サイン-オン-キー -*あなたが何か>例えば,バイオメトリック…」(段落【0 -058】)(ケ)図5A-5Bには,人がポケットに入れてFCCSプラグを持ち運び,そのプラグをコンピュータの正面に設けられたUSBポートに差し込んで使用する様子が記載されている。 ウ以上のとおり,上記アにはUSBポート装備のパソコンにダイレクトに接続することができる携帯型のデータ記憶装置が記載されており,上記イにはコンピュータのUSBポートに直接差し込んで使用する携帯型のデータ記憶装置が記載されているから,コンピュータのUSBポートに直接雄コネクタを差し込んで使用する可搬記憶装置は,本願の優先権主張日(2001年[平成13年]6月28日)時点において,周知であったと認められる。そして,上記イ(キ)(ク)には,バイオメトリック情報(生体測定情報)を用いることも記載されている。 そうすると,上記のとおり,これらの周知技術を考慮することによって,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)は,相違点2を容易に想到することができたと認めることができる。 (2)原告は,本願の優先権主張日時点において,ほとんどのデスクトップコンピュータはその後ろ側にUSBソケットを有していたのであり,デスクトップコンピュータがコンピュータの正面にUSBコネクタを有することは一般的ではなかったから,コンピュータの後ろ側等の狭いスペースで使用されることが前提となるコンパクトな記憶装置に生物測定学ベースの認証モジュールを組み合わせることは,当業者が容易に想到することができなかったものであると主張する。 しかし,上記(1)イ(ケ)のとおり,甲15の図5には,正面にUSBソケットを有するデスクトップコンピュータが記載されており,このことからしても,本願の優先権主張日時点において,ほとんどのデスクトップコンピュータはその後ろ側のみにUSBソケットを有していたと認めることはできない。 また,コンピュータには,デスクトップコンピュータのほかに,ノート型のものがあるから,デスクトップコンピュータのUSBソケットの位置のみに基づいて判断することはできない。2000年(平成12年)5月原告WEBページ(http://web.archive.org/web/20000525193329/http://www.thumbdrive.com/,乙2の3枚目),2000年(平成12年)4月21日WEBページ(http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20000421/thumb.htm,乙3の2枚目)及び2000年(平成12年)6月3日WEBページ(http://pc.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20000603/etcthumbdrive.htm,乙4の1枚目)には,ノート型コンピュータの横側に可搬記憶装置を接続した写真が掲載されており,このような接続形態では,生物測定学ベースの認証(例えば,指紋認証)に困難な点があるとは認められない。 さらに,仮に,デスクトップコンピュータにおいて,コンピュータの後ろ側にUSBソケットがあり,そこに「一体の雄コネクタ」を備える可搬記憶装置が直接接続されているとしても,生物測定学ベースの認証(例えば,指紋認証)を行うことが,不便ではあるとしても不可能であるとまでは考えられない。 したがって,原告の上記主張は,上記(1)の判断を左右するものではない。 (3)また,原告は,甲14及び15は生物測定学ベースの認証機能のない単なるUSBメモリを開示するものであって,審決は,甲14及び15を本願発明に関する周知例としてあげること自体その判断手順を誤るものであると主張する。 しかし,審決は,甲14及び15を,コンピュータのUSBポートに直接雄コネクタを差し込んで使用する可搬記憶装置が周知であったことを示すものとして引用しているから,それに生物測定学ベースの認証機能があるかどうかは,上記(1)の認定判断を左右するものではない。 (4) 以上によれば,取消事由2の主張は理由がない。 6取消事由3(効果の判断の誤り)について(1)前記3の刊行物1(甲9)の記載からすると,刊行物1には,携帯性に優れており,能動型データ装置が接続されることになる各ホスト計算装置に簡単に持ち運びできる能動型データ装置であって,生体測定検出装置を備えることによって,ローカルメモリ記憶装置又はホスト計算装置のデータ記憶装置への許可が与えられないアクセスを防止する能動型データ装置が記載されている。 そうすると,刊行物1に記載された能動型データ装置は,正当なユーザに対してのみ,記憶装置へのアクセスを許可することで,その記憶装置に格納された情報のセキュリティーが保証された,携帯型で非常に便利な装置を提供するという効果を奏するものである。 (2)原告が主張する本願発明の効果(前記第3,1(4)ウ)のうち,「コンパクト」については,前記2(3)のとおり本願発明の効果と認めることはできない。原告が主張するその余の効果,すなわち,「生物測定学ベースの認証モジュールを備えることによって記憶された情報のセキュリティーを保証するものであって,容易に持ち運びができ,様々な場所で使用される可能性のある可搬記憶装置内の情報への認可されないアクセス,コンピュータへのあるいはコンピュータ間での情報の移動のいずれをも防止するものであり,不特定多数の人々に情報のセキュリティーが保証された非常に便利な可搬記憶装置を提供する」という効果については,上記(1)の刊行物1発明の効果からすると,刊行物1発明によって奏することができるものであって,格別の効果ということはできない。 (3) したがって,取消事由3の主張は理由がない。 7結論以上のとおり,原告主張の取消事由はすべて理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 中野哲弘 |
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裁判官 | 森義之 |
裁判官 | 澁谷勝海 |