関連審決 | 不服2003-5668 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成17行ケ10312審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
不服20058936 | 審決 | 特許 |
平成16ワ14321特許権譲渡代金請求事件 | 判例 | 特許 |
平成14行ケ199特許取消決定取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17行ケ10197審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 有用性 / 使用方法 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 公知技術 / 技術常識 / 優先権 / 共有 / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10219号
審決取消請求事件
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原告メルク アンド カンパニー インコーポレイテッド 訴訟代理人弁護士窪田英一郎 同 大西達夫 同 柿内瑞絵 同 乾裕介 訴訟代理人弁理士今村正純 同 新谷紀子 被告特 許庁長 官肥塚雅博 指定代理 人森田ひとみ 同 谷口博 同 唐木以知良 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/03/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2003-5668号事件について平成17年12月28日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「家畜抗菌剤としての8a-アザライド」とする発明につき,平成10年9月4日に国際特許出願(優先権主張1997年9月10日米国。国内出願番号2000-510439号。以下「本願」という )。 をした。 原告は,本願につき平成14年12月27日付けで拒絶査定を受けたので,平成15年4月4日,これに対して不服審判請求(不服2003-5668号事件)をするとともに,同年4月24日付けで手続補正をした(以下 「本件,補正」といい,同補正後の明細書を「本願補正明細書」という。。)特許庁は,平成17年12月28日,本件補正を却下した上で 「本件審判 ,の請求は,成り立たない 」との審決をし,平成18年1月10日,その謄本 。 が送達された(付加期間90日 。)2特許請求の範囲本願に係る特許請求の範囲の請求項1の本件補正前及び本件補正後の記載は,次のとおりである。 ( )本件補正前1「家畜の呼吸器又は腸内の細菌感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とする家畜に治療又は予防的に有効な量の8a-アザライ,, , ドを投与すること 及び 呼吸器又は腸内に感染する微生物がパスツレラ種アクチノバシラス種,Haemophilussomnus,マイコプラズマ種,Treponemahyodysenteriae又はサルモネラ種であることを特徴とする前記方法(以下「本願発明」という ) 。」 。 ( )本件補正後(本件補正により補正前の請求項1が削除され,残りの請求2項が繰り上がった。すなわち,補正後の請求項1は,補正前の請求項2に記載されていたものである )。 「家畜の呼吸器又は腸内の細菌感染の治療又は予防方法であって,前記治療又は予防を必要とする家畜に治療又は予防的に有効な量の8a-アザライドを投与すること,呼吸器又は腸内に感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilussomnus,マイコプラズマ種,Treponemahyodysenteriae又はサルモネラ種であること,及び,前記8a-アザライドが式I:【化1】をもつ化合物又は医薬的に許容されるその塩,又は医薬的に許容されるその金属錯体であり,前記金属錯体が銅,亜鉛,コバルト,ニッケル及びカドミウムから構成される群から選択され,前記式中,R1は‥‥‥(置換基の特定に関する記載は省略)‥‥‥であることを特徴とする前記方法(以下「本願補正発明」という ) 。」 。 3審決の理由( )別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願補正発明は,本願の優1先権主張日前に頒布された刊行物である特開平5-255374号公報(以下引用例1という及び ()以 「」。) (Am. J. Vet. Res., Vol.46, No.4, 1985p.798-803下 「引用例2」という )に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明 ,。 をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものであって,本件補正は同法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下すべきものであり,本願発明は,同様に,引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。 ( )本願補正発明と引用例1に記載された発明(以下「引用例1発明」という2場合がある )の一致点及び相違点は,次のとおりである。 。 (一致点)「家畜の細菌感染の治療方法であって,前記治療を必要とする動物に治療に,() 」。 有効な量の 引用例1記載の式 ?U の化合物を投与する治療方法 である点(相違点)本願補正発明は,細菌感染が呼吸器又は腸内の細菌感染であって,感染する微生物がパスツレラ種,アクチノバシラス種,Haemophilussomnus,マイコプラズマ種,Treponemahyodysenteriae又はサルモネラ種であることが特定されているのに対し,引用例1では明記されていない点。 第3原告主張に係る取消事由審決は,次に述べるとおり,?@本願補正発明の容易想到性判断の前提としての引用例2の認定の誤り(取消事由1 ,?A本願補正発明の容易想到性判断の )誤り(取消事由2 ,?B本願発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)が )あるから,違法として取り消されるべきである。 1本願補正発明の容易想到性判断の前提としての引用例2の認定の誤り(取消事由1)( )審決は 「パスツレラ,マイコプラズマなどの感染に起因する家畜の呼1 ,吸器疾患をマクロライド系の抗生物質(チルミコシン)を使用して治療することは当業界において既に周知(請求人が提出した参考資料1,2の.ResVetSci Can J. Ver...,(), 47:84-89 1989 特にp84左欄 及び,61:187-192(1997)特にp187左欄,p188左Res.欄を参照)であり,同じくマクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンがパスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であること(,。) も ()以下引用例2というAm. J. Vet. Res., Vol.46, No.4, 1985p.798-803に記載されている(審決書4頁下から3行〜5頁6行)として,8a- 。」アザライドやチルミコシンと同じくマクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンが,パスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが引用例2に記載されていると認定した。 ( )しかし,審決の上記認定は,以下のとおり誤りである。 2ア引用例2には,子牛の肺組織にを接種してエ PasteurellaHaemolyticaリスロマイシンを投与して肺組織内濃度を測定した実験結果の記載に続いて,「最近の報告では,の分離株の以上が,エリスロマイPasteurella90%シン感受性であることが示されている。」と記載されているが(甲2・798頁右欄3行〜5行,参考文献4,5),他方「これらの報告は,エリスロマイシンに対するの比較的低い感受性を結論付けている従来のPasteurella報告と異なっている。」(同5行〜7行,参考文献6)と,パスツレラ菌に起因する子牛の肺炎に対するエリスロマイシンの治療効果に疑問を呈する見解が存在したことも記載されている。上記記載を総合すると,エリスロマイシンがパスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが,引用例2に記載されていると認定することはできない。 イ引用例2は,パスツレラ症を実験的に発症させられた牛におけるエリスロマイシンの薬物動態を,肺炎を発症させられていない牛と比較した調査報告であって,パスツレラに感染した牛の肺炎を治療するためにエリスロマイシンが実際に有効であったということを示すものではない。また,引用例2は,具体的な使用方法や効果について,何ら開示や示唆はない。 なお,甲20によれば,BRD(ウシ呼吸器感染症)に罹患している牛のパスツレラ・ヘモリティカ分離株の少なくとも83%,BRDに罹患している牛のパスツレラ・ムルトシダ分離株の少なくとも63%がエリスロマイシンに対して耐性を有しており,換言すれば,自然に感染した子牛の大多数において,エリスロマイシンが有効でないことが報告されていた。 ウ以上を総合すれば,引用例2は,当業者はパスツレラ感染によって生じた実際の子牛の呼吸器疾病の治療のためにエリスロマイシンが有効であるという一般的知見を示すものではない。 2本願補正発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)以下のとおりの理由により,審決が,引用例1と引用例2の組合せにより,本願補正発明に想到すること容易であったとした判断には誤りがある。 ( )引用例1の記載に基づく示唆等1以下のとおり,引用例1の記載により,当業者が,本願に係る優先権主張,「」 「」 日当時 本願補正発明のような 8a-アザライド を 特定の感染微生物を治療又は予防するという特定の目的に用いることを想到することは困難というべきである。 ア引用例1の「式(?U)の化合物は,生体外および生体内の両方において抗菌剤として有用であり,その活性スペクトルはエリスロマイシンAと類似している(段落【0285 )との記載は,マクロライド抗生物質の 。」】活性を一般的に述べたものにすぎないから,8a-アザライドが何らかの抗菌活性を有することを示すにとどまる。 イ引用例1の表2に記載された細菌のうち,10種のうち9種は,甲17〜19によれば,局部感染又は皮膚感染において見られるものであり,その余の1種による感染症も界面消毒によって防止されるものが示唆されており,この記載と段落【0285】の「局所用;‥‥‥滅菌するための用途」の記載と併せると,8a-アザライドの局所的な適用及び滅菌目的の用途への適用が導かれるにすぎない。 ウ引用例1の表2のデータによれば,エリスロマイシンが有効な場合には8a-アザライドが有効ではなく,エリスロマイシンが有効でない場合には8a-アザライドが有効であることが分かり,その他のデータを総合すると,一般的にはエリスロマイシンが8a-アザライドよりも優れた効能を有しているということができる。 ( )阻害事由の存在2以下のとおり,8a-アザライドとエリスロマイシン,チルミコシンその他のマクロライドとの間の構造上の相違,及びエリスロマイシン,チルミコシンその他のマクロライドの重大な問題点と限界を考慮すると,当業者がパスツレラ等に起因する家畜の呼吸器感染症の治療にエリスロマイシンを使用することに想到することには,阻害事由がある。 アマクロライド分子は,?@細菌の置かれた環境下において安定し,?A細菌への浸透性を有し,?B細菌のリボソームに効果的に結合することができれ, ,,, ば 抗生物質として作用するものであるが これらの?@安定性 ?A浸透性?Bリボソーム結合性は,それぞれ分子の構造(例えば,員環数,環内のヘテロ原子数)によって左右される(甲23〜26 。)8a-アザライドは,エリスロマイシンや他のマクロライド抗生物質とその構造が異なるものであり,その抗菌活性を予測できないから,特定の用途に使用できることを推論することには障害がある。 イ本願の優先権主張日当時の技術水準(甲6,甲20,甲22等)によれば,家畜にエリスロマイシンを使用することは,酸性の環境下で不安定であるため経口投与の場合は吸収に乏しいこと,パスツレラを含む家畜から単離された各種微生物がエリスロマイシン耐性を有すること等の重大な問題点と限界があったため,当該技術分野では,家畜におけるパスツレラ感染症の治療にエリスロマイシンを使用することには障害があった。 ウこの点について,被告は,乙1,乙2の9a-アザライドに関する記載を根拠として,8a-アザライドの8a位の窒素元素の存在が抗菌剤としての用途開発を阻害するとはいえないと主張する。 しかし,被告の上記主張は,審決において,乙1,2の9a-アザライドについて何らの言及がない以上,新たな公知技術に基づく主張に該当するから許されない。 ( )格別の作用効果3以下のとおり,本願補正発明は,特定の種類の微生物及びそれによる家畜動物の感染症に対して,予測することができない顕著な作用効果を奏する。 ア甲7記載の8a-アザライドに関する試験結果と,甲3の1及び甲3の2記載のチルミコシンに関する試験結果との比較から明らかなように,本願補正発明に係る化合物は,甲3の1,2において使用された投与量より, , 少ない場合でも 所定の検査によって検出された牛の肺組織内濃度が高くチルミコシンと比較して標的生物に対する力価が高く,標的組織濃度が高いことが裏付けられている。 本願補正発明の8a-アザライドの代表例の一つである9-デオキソ-8a-アザ-8a- (プロピル-1-イル)-8a-ホモエリスロマイシン(米国一般名ガミスロマイシン,甲9)について,その抗菌活性をチルミコシンと比較するために実施した試験データ(平成14年実施)によれば,本願補正発明の原因菌に起因するウシ呼吸器感染症の治療において,ガミスロマイシンは全体としてチルミコシンよりも相当低い投与量で優れた治療効果を奏するものであり,また,試験管内の抗菌活性においても,ガミスロマイシンの方がチルミコシンよりもはるかに低い濃度で本願補正発明の原因菌の発育を阻止できる。 以上のとおり,本願補正発明における家畜の重篤な呼吸器感染症を引き起こす特定の微生物種に対する8a-アザライドの投与が,従来技術におけるチルミコシンの投与による治療効果と比較して,技術水準から当業者が予測できる範囲を超えた顕著な作用効果を奏する。 イ本願の優先権主張日当時の技術水準にあっては,当業者は,家畜の呼吸器感染症の治療にエリスロマイシンを適用した場合,投与量や投与方法に, , 関する深刻かつ重大な限界があり またエリスロマイシン耐性菌が存在しエリスロマイシンの抗菌活性について限界があると認識されていた。これに対して,8a-アザライド(ガミスロマイシン)は,優れた抗菌活性を有するものであることに加え,エリスロマイシンとは対照的に,皮下注射による投与が可能であるため,エリスロマイシンの投与量や投与方法に関する問題点を克服できるものである。 そうすると,8a-アザライドがエリスロマイシンと同じマクロライド系化合物であることを考慮しても,これをパスツレラ種等のエリスロマイシン耐性が疑われる特定の病原菌種に起因する家畜の呼吸器感染症等に限定して適用した結果,著しく良好な作用効果を奏することは,当業者の予測の範囲外であったというべきである。 3本願発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)本願発明の容易想到性についての審決の判断は,上記1,2と同様の理由により,誤りである。 第4被告の反論1本願補正発明の容易想到性判断の前提としての引用例2の認定の誤り(取消事由1)に対して引用例2は,当業者はパスツレラ感染によって生じた実際の子牛の呼吸器疾病の治療のためにエリスロマイシンが有効であるという一般的知見を示すものではないと主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。 ( )原告は,引用例2(参考文献6)には,「これらの報告は,エリスロマイ1シンに対するの比較的低い感受性を結論付けている従来の報告と Pasteurella異なっている。」と記載があり,同記載によれば,パスツレラ菌に起因する子牛の肺炎についてのエリスロマイシンの治療効果に疑問を呈する見解が存在したことも記載されていると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。 まず,原告の指摘する部分は,研究の主題に入る前置きとして,過去の論文に発表された知見を紹介したものであって,甲2の脚注4記載の文献は1, , 981年 脚注5記載の文献は1983年に発表されたものであるのに対し脚注6記載の文献はそれより5年以上前の1976年に発表されたものであり,より新しい報告が現在の知見として受け入れられていると理解されるべきである。 Pasteurella90% また 引用例2 甲2 には 「最近の報告ではの分離株の ,(),,以上が,エリスロマイシン感受性であることが示されている。‥‥‥従来の報告と異なっている。」に続けて 「したがって,肺炎の肺組織中へのこの ,薬剤の分布範囲を定量することは,健康な肺組織中への分布を定量するのと同様に,重要なことであろうし,及び疾病がこの薬剤の消失速度(β)に与える影響を評価することは,重要なことであろう 」と記載され,同記載に 。 よれば,最近の報告での分離株の以上が,エリスロマイシンPasteurella90%感受性であることを受け,エリスロマイシンが肺炎の肺組織中に有効量維持されるならばパスツレラ菌の感染によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることを読みとることができる。 以上のとおり,審決が「マクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンが,パスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが引用例2に記載されている 」と認定した点に誤りはない。 。 ( )原告は,引用例2は,実験的にパスツレラ症を発症させたものであるか2ら,パスツレラに対するエリスロマイシンの現実の効果を示すものではないと主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。 すなわち,原因菌が分かっている感染症が特定の抗生物質によって治療可能かどうかを評価したり,あるいは特定の抗生物質で治療を行う場合の適切な用法用量,投与期間などを決定するために,人為的に動物を当該原因菌に感染させて抗生物質の適用実験を行うことは,通常行われる研究手法であるから,その実験結果が信頼性を欠くということはできない。そして,引用例,「 」(, 2には 使用菌について パスツレラヘモリチカセロタイプ1甲2799頁左欄下から7行)とあるのみで,それ以外の記載はないから,当時保存されていた分離菌株が実験に使用されたと解するのが自然である。人為的に原因菌に感染させた動物実験で得られる結果は,人為的に感染させた動物に留まらず,通常,同じ菌に自然に感染した動物に対しても同様であると解釈してよいものであり,甲2,甲3の1,2でパスツレラ感染に有効と評価されたエリスロマイシンやチルミコシンは,ウシ呼吸器感染症(BRD)治療薬として臨床の場で広く使用されている。 2本願補正発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対して( )引用例1の記載に基づく示唆等について1原告は,引用例1の記載によっては,当業者が,本願に係る優先権主張日当時,本願補正発明のような「8a-アザライド」を「特定の感染微生物」を治療又は予防するという特定の目的に用いることを想到することは困難というべきであると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。 ア引用例1には,パスツレラなどの感染症に上記の微生物を使用する直接的な記載はないものの,抗菌活性を示す式?Uの化合物が「エリスロマイシンAと同様の抗菌スペクトルを有しエリスロマイシンAと同じ目的のために同じ方式で使用できる」旨の見解が記載されている。そして,上記見解は,多くの学術報告によって得られた知見に裏付けられ,甲6,乙1,乙2には,マクロライド類の抗菌スペクトルがエリスロマイシンに類似していることが記載されている。このようにマクロライド系化合物が共通の特, 。 性を有していることは 本願の優先権主張日前から当業者の常識であったしたがって,引用例1においてマクロライドの骨格を有する新規化合物8a-アザライドについて抗菌活性が確認されたという記載は,当業者に対し,その化合物がエリスロマイシンと同じ目的,用途に利用できることを示唆していると解される。 イ甲17〜19において局所の感染部位に表2記載の菌が存在したからといって,その菌が局所にしか存在しないとする理由はない。例えば 「肺,炎」において表2記載の菌が原因菌となる場合があることは当業者の常識である(乙14 。さらに,引用例1には,前記のとおり,抗菌活性を示 )す式?Uの化合物が「エリスロマイシンAと同様の抗菌スペクトルを有しエリスロマイシンAと同じ目的のために同じ方式で使用できる」旨の記載があり,そこには,化合物の有用性が生体外に限られるものではないことが明記されているほか,引用例1の段落【0073】〜【0076】には動物や人の生体内に医薬として局所適用のみならず全身適用することを想定した記載がある。 ウ原告は,表2のデータについて,各菌ごとのMICの値を比較し,エリスロマイシンが特に有効である場合に,8a-アザライドが有効でなく,その逆もあると主張する。しかし,表2に表れているのは代表的な菌についての例示であって,試験を行ったすべての菌が網羅されているわけではない。例示菌の示すMICの値を子細に比較して見れば,多少の差があったとしても,活性スペクトルの全体像を左右するほどのものではない。 ( )阻害事由について2原告は,8a-アザライドとエリスロマイシン,チルミコシンその他のマクロライドとの間の構造上の相違,及びエリスロマイシン,チルミコシンその他のマクロライドの重大な問題点と限界を考慮すると,当業者がパスツレラ等に起因する家畜の呼吸器感染症の治療にエリスロマイシンを使用することに想到することには,阻害事由があると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり理由がない。 ア原告は,マクロライド系抗生物質の基本骨格における環状構造の相違によって,感染症を引き起こす特定の種類の微生物に対する抗菌作用が異なると主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 すなわち,マクロライド系化合物は,員環数が異なり,異種原子を環内に含んでいる場合であっても類似の抗菌スペクトルを示すものがほとんどであるから,原告の主張は当業者の常識に反する。しかも,マクロライド化合物は員環数や異種原子の存在にかかわらず,何れも細菌の70sリボソームの50sユニット蛋白に結合して蛋白合成を阻害するという分子レ()。, ベルでの作用メカニズムまでも解明されている 乙3〜乙7当業者はマクロライド新規抗生物質の開発に当たり,公知のマクロライド構造を有する抗菌化合物を基礎として,種々の新規な誘導体を製造し,抗菌作用範囲が維持ないし拡大されかつ親化合物の欠点が改良された化合物をスクリーニングしている。 8a-アザライドがマクロライド骨格を共有し,しかもエリスロマイシンが有効であることが知られる数種の菌に対する抗菌活性が確認された抗生物質である以上,8a-アザライドに対してエリスロマイシンやチルミコシンと同様の抗菌活性や,同じ用途に使用できることを推論することは当業者であれば普通に行い得ることであって,8a-アザライドとチルミコシンやエリスロマイシンとの間に原告の主張する構造上の相違が存在しても,推論の妨げになるものとはいえない。 , (,,) イ原告は 本願の優先権主張日当時の技術水準 甲6 甲20 甲22等によれば,家畜にエリスロマイシンを使用することには,酸性の環境下で不安定であるため経口投与の場合は吸収に乏しいこと,パスツレラを含む家畜から単離された各種微生物がエリスロマイシン耐性を有することから,家畜におけるパスツレラ感染症の治療にエリスロマイシンを使用することを妨げる事情が存在したと主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 原告主張の各証拠には,反芻動物に対しエリスロマイシンを経口投与によって使用することは一般的でないことの記載はあるが,投与そのものが否定されているのではなく,他の投与形態(注射など)を選択すれば問題がないことは,当業者には明らかである。 甲6より20年後の2005年に頒布された獣医薬ハンドブック(乙13)においてさえ,エリスロマイシンがパスツレラに対し活性であることの記載がされている。そして,注射投与により家畜の感染症の治療に使用されることも明記されている。 したがって,甲6の記載事項は,いずれもエリスロマイシンの家畜のパスツレラ感染症の治療用途を否定するものではない。 ( )格別の作用効果について3原告は,本願補正発明は,特定の種類の微生物及びそれによる家畜動物の感染症に対して,当業者において予測することができない顕著な作用効果を奏すると主張する。 しかし,原告の上記主張は,理由がない。 原告の主張は,平成13年に特許庁に提出された意見書(甲7)に記載された化合物(?T(?U)についての試験結果,及び原告準備書面(1)に ),おいて2002年に実施されたものとして記載されたガミスロマイシンについての試験結果によるものであるが,これらは何れも本件出願後に行われた実験を根拠とするものであるから,それらのの主張は許されない。 本願補正明細書には,段落【0037 【0038】に本願補正発明の式 】?Tに属する化合物4種について病原微生物6種に対するインビトロでの抗菌活性範囲(MIC範囲)が記載されているほか,段落【0022】に具体的な用法用量が記載されているのみであり,家畜に対する具体的な薬物動態や治療成績の記載はない。本願補正発明の治療上の効果は,上記の試験管内抗菌データに基づいて導き出せる程度のものでしかないから,従来の薬剤との実用上の比較はできない。 原告は,わずか3つの化合物(化合物(?T(?U)及びガミスロマイシ ),ン)で得られた結果をもって,これを本願補正発明の作用効果であると主張するが,その効果は,本願出願後にさらなるスクリーニング作業を行い選抜された化合物の有する特有の効果と理解すべきであって,これを式Iで表さ「」 。 れる広範な 8a-アザライド による一般的な効果ということはできない3本願発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対して本願発明の容易想到性についての審決の判断に誤りのないことは,上記1,2に述べたのと同様である。 第5当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも採用することができず,審決の判断に誤りはないと判断する。その理由は,以下のとおりである。 1本願補正発明の容易想到性判断の前提としての引用例2の認定の誤り(取消事由1)について原告は,引用例2における「これらの報告は,エリスロマイシンに対するの比較的低い感受性を結論付けている従来の報告と異なっている。」 Pasteurellaと記載され,パスツレラ菌に起因する子牛の肺炎についてのエリスロマイシンの治療効果に疑問を呈する見解が存在したとの記載によれば,引用例2に,エリスロマイシンがパスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが開示,示唆されていると認定することはできないと主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。 ( )引用例2の記載1Pasteurella haemolyticaア〔要旨 「3,4ヶ月の雄のホルスタイン子牛に, 〕の5×10 〜10 のコロニー群を両側肺内に接種することによって,肺7 9炎性パスツレラ病を実験的に発症させた。‥‥‥子牛に15mg/kg用,。, 量のエリスロマイシンを投与し 薬物動態値を定量した 肺炎と相関して薬物分布速度及び消失速度について,統計的(P≦0.05)に意義ある増加があった。‥‥‥肺炎の子牛に最後に投与してから2時間後に,エリスロマイシンの組織中の濃度を定量した。肺炎部位の組織中濃度は,同一種の動物の感染していない肺組織中の濃度と同様に又はそれ以上に高かった。肺炎牛では血清からの消失速度が増大するので,深刻な呼吸器官疾病に罹患した子牛には,より短い間隔で投与するのが望ましいであろう。エリスロマイシンは,マクロライド抗生物資であり,臨床的に用いるのに好ましい多くの性質を有する。その最も重要なことは,高脂溶性で末梢組織中への望ましい分布である。エリスロマイシン及びこの群の他の抗生物質が,血清濃度を上回る高い組織中濃度を与える傾向を示すことは,よく知られている。臓器中又は組織中濃度の極大値が,血清濃度の5〜10倍となる場合があることが報告されている。肺は,これらの抗生物質が高濃度で到達する組織と考えられる。健康な肺組織中への分布傾向に加えて,最近の報告では,の分離株の90%以上が,エリスロマイシン感Pasteurella受性であることが示されている。これらの報告は,エリスロマイシン4,5に対するの比較的低い感受性を結論付けている従来の報告と異 Pasteurellaなっている 。従って,肺炎の肺組織中へのこの薬剤の分布範囲を定量す6ることは,健康な肺組織中への分布範囲を定量するのと同様に,重要なことであろうし,及び疾病がこの薬剤の消失速度(β)に与える影響を評価することは,重要なことであろう(798頁)。」イ「接種部位から成長可能なパスツレラが回復するという有意性は,短い治療時間(26時間)に限られている。エリスロマイシンに対してMIC, , は約1μg/mlであるから 72〜96時間の薬剤の持続的使用により少なくとも一部の動物においては肺からパスツレラ菌が除去されるだろう(802頁16行〜21行) 。」( )判断2ア原告は,引用例2に,「これらの報告は,エリスロマイシンに対するの比較的低い感受性を結論付けている従来の報告と異なっていPasteurellaる。」との記載があり,パスツレラ菌に起因する子牛の肺炎に対するエリスロマイシンの治療効果に疑問を呈する見解が存在したことも記載されていると主張する。 しかし,同記載は,その前の記載を受けたものであって,引用例2の802頁の脚注4に掲記された文献(1981年公表)及び脚注5(1983年公表)に掲記された文献における「最近の報告」では,脚注6に掲記Pasteurella された文献(1976年公表)の「従来の報告」と異なり 「,の分離株の90 以上が,エリスロマイシン感受性であることが示されて%いる 」という知見が開示されていることは明らかである。 。 ,, , 以上のとおり 引用例2には 同引用例の他の記載部分も併せて読めばエリスロマイシンがパスツレラ感染症に有効に使用できる薬剤であることが開示,示唆されていると解するのが相当である。 したがって,審決が「マクロライド系の抗生物質であるエリスロマイシンが,パスツレラ菌の接種によって起こる子牛の肺炎の治療に有効であることが引用例2に記載されている 」と認定した点に誤りはない。 。 イ原告は,引用例2の手法は実験的に牛を感染させて行ったものであるのに対し,甲20には自然に感染した子牛の大多数においてエリスロマイシンが有効でないことが記載されている点などを指摘し,引用例2からは,パスツレラ感染による子牛の呼吸器疾病の治療にエリスロマイシンが有効であるという一般的知見を推測することはできないと主張する。 しかし,人為的に動物を原因菌に感染させて抗生物質の適用実験を行うことは通常行われている研究手法であること(甲3の1,甲3の2 ,パ)スツレラ感染症に対して有効であると評価されたエリスロマイシンやチルミコシンがウシ呼吸器感染症(BRD)治療薬として実際に使用されていたと認められること(甲6,乙13,甲20)に照らすならば,引用例2が実験的に牛を感染させたものであるとの実験の内容によって,上記アの認定が左右されるものではないというべきである。 2本願補正発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について( )引用例1の記載に基づく示唆等について1原告は,引用例1の記載によっては,当業者が,本願に係る優先権主張日当時,本願補正発明のような「8a-アザライド」を「特定の感染微生物」を治療又は予防するという特定の目的に用いることを想到することは困難というべきであると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。 ア引用例1(甲1)の記載(ア)「 効果】式(?U)の化合物は,生体外および生体内の両方におい 【て抗菌剤として有用であり,その活性スペクトルはエリスロマイシンAと類似している。その結果,これらの化合物は,エリスロマイシンAと同じ目的のために同じ方式で使用することができる。一般に式?Uの抗菌化合物とその塩は,例えばストレプトコッカス・ピオゲネスのような各種のグラム陽性微生物,および球形もしくは楕円体形(球菌)のようなある種のグラム陰性菌に対する生体外活性を示す。これらの活性は,各種の微生物に対する生体外の試験によって容易に実証することができる。これらの化合物はその生体外の活性によって,局所用;例えば病室の台所用具を滅菌するための用途;ならびに産業用抗菌剤として例えば,水処理用,スライム制御剤および塗料と木材の保存剤用に有用である。マクロライド化合物の上記のような有用性を裏付ける上記の生体外の試験の応用については先に挙げた米国特許第4,518,590号に教示されている(段落【0285 ) 。」】(イ)【表2】には 「実施例(15(17(19)および(20) ,),),の化合物の生体外活性」について記載され 「微生物」欄には,エンテ ,ロコッカス・フェカーリス(),スタフィロコッカスEnterococcus faecalis・アウレウス(),スタフィロコッカス・エピデル Staphylococcus aureusミディス( ),ストレプトコッカス・ニューモ Staphylococcusepidermidisニエ( ),ストレプトコッカス・ピオゲネスStreptococcus pneumoniaeStreptococcus pyogenes Enterobacter(),エンテロバクター・クロアケ(),エシェリキア・コリ(),クレブシェラ・ニュcloacae Escherichiacoliーモニエ()及びヘモフィルス・インフルエンザ Klebsiella pneumoniae()が記載されている(段落【0284 【表2】 Haemophilusinfluenzae 】参照 。)イ判断(ア)引用例1の段落【0285】の記載部分「式(?U)の化合物は,生体外および生体内の両方において抗菌剤として有用であり,その活性スペクトルはエリスロマイシンAと類似している。その結果,これらの化合物は,エリスロマイシンAと同じ目的のために同じ方式で使用することができる 」は,当業者に対し,その化合物がエリスロマイシンと同 。 , 。 じ目的 用途に利用できることを示唆していると解するのが自然である(イ)この点,原告は,引用例1の段落【0285】の記載はマクロライド抗生物質の活性を一般的に述べたものにすぎず,何らかの抗菌活性を有することを示すにとどまると主張する。 しかし,上記アのとおり 【0285】は「式(?U)の化合物」につ ,いて記載し,また 「活性スペクトルはエリスロマイシンAと類似して ,いる」と記載されているから,何らかの抗菌活性にとどまると解すべきでない。 (ウ)また,原告は,引用例1の表2記載の細菌の種類からみれば,8a-アザライドを局所適用及び滅菌目的の用途へ導くものであると主張する。 しかし,引用例1記載の「スタフィロコッカス・アウレウス(黄色ブドウ球菌「ストレプトコッカス・ニューモニエ(肺炎球菌「ス )」, )」,トレプトコッカス・ピオゲネス(溶連菌 」などの細菌は,局所感染の )原因となるだけではなく 「肺炎」の原因菌にもなることは当業者の技 ,術常識である(乙14)から,引用例1の表2記載の微生物が局所にし。,,, か存在しないものとはいえない さらに 引用例1には 前記のとおり「式(?U)の化合物は,生体外および生体内の両方において抗菌剤として有用であり (段落【0285 )との記載があるほか 「経口剤形で 」】,投与することができる。‥‥‥静脈内,腹腔内,皮下もしくは筋肉内用形態で投与することができる(段落【0073「さらに式(?U) 。」】),の化合物は,適切な賦形剤を用いて,局所,耳もしくは目に投与する形態で投与することもできる(段落【0076 )の各記載があるもの 。」】であって,これらの記載に照らせば,式(?U)化合物が,医薬として局所適用のみならず,生体内を含む全身適用も対象となることは明らかである。 (エ)さらに,原告は,引用例1の表2のデータを指摘して,6種の菌については,エリスロマイシンが有効な場合には8a-アザライドが有効ではなく,また,その逆の場合もあるから,エリスロマイシンの代わりに8a-アザライドを使用することの動機付けがない旨主張する。 しかし,引用例1の表2は実施例として代表的な細菌に適用したものであり,その結果において一律同じ数値ではなく,細菌の種類によって多少の違いが現れるのは当然のことである。そして,上記の6種以外の「エンテロコッカス・フェカーリス「スタフィロコッカス・エピデ 」,ルミディス「ストレプトコッカス・ニューモニエ「ストレプトコ 」, 」,ッカス・ピオゲネス」の菌については,エリスロマイシンと同程度の抗菌活性を示しており,引用例1の「その活性スペクトルはエリスロマイシンAと類似している」の記載は,そのような多少の違いを含む結果全体を反映したものと認められる。したがって,引用例1の表2のデータに関する原告の主張は採用できない。 ( )阻害事由について2原告は,8a-アザライドとエリスロマイシン,チルミコシンその他のマクロライドとの間の構造上の相違,及びエリスロマイシン,チルミコシンその他のマクロライドの重大な問題点と限界を考慮すると,当業者がパスツレラ等に起因する家畜の呼吸器感染症の治療にエリスロマイシンを使用することに想到することには阻害事由があると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。 ア原告は,甲23ないし26によれば,マクロライド分子の?@安定性,?A浸透性,?Bリボソーム結合性は分子構造によって左右されるところ,8a-アザライドは他のマクロライド抗生物質と構造が異なり,その抗菌活性を予測することができないから,家畜の呼吸器感染症に適用することを推論することに阻害事由があると主張する。 しかし,本願補正明細書の段落【0004】には 「8a-アザライド ,は環窒素原子を含む15員ラクトン環を特徴とする抗生物質である。ヨーロッパ特許出願第508,699号には1群の8a-アザライドが開示されており,エリスロマイシンに似た抗菌スペクトルをもち,大腸菌やインフルエンザ菌等のグラム陽性細菌及びグラム陰性細菌に対してinvitro活性であるとしている。‥‥‥」と記載され,段落【0021】には 「8a-アザライドはヨーロッパ特許出願第508,699号に開示 ,されているような公知化合物でもよいし,公知方法を使用して容易に入手可能な出発材料から製造してもよい。‥‥‥」と記載され,8a-アザライドの分子構造に起因する?@安定性,?A浸透性,?Bリボソーム結合性に関連する記載はない。また,原告が根拠とする甲23〜27は,いずれも本願の出願後の文献であるが,各記載内容を見ても,マクロライド分子の?@安定性,?A浸透性,?Bリボソーム結合性に関する知見が本願の優先権主張。, 日当時の技術常識であると認めるに足る記載はない 以上のとおりであり原告の阻害事由があるとの上記主張は,その根拠がなく,採用することができない。 , (,,) イ原告は 本願の優先権主張日当時の技術水準 甲6 甲20 甲22等, ,, によれば 家畜にエリスロマイシンを使用することについては 投与形態耐性菌などの点で重大な問題点と限界があったので,8a-アザライドを家畜の細菌感染症に適用することには阻害事由があると主張する。 しかし,投与形態については,引用例1の段落【0073】には 「経,口剤形で投与することができる。‥‥‥静脈内,腹腔内,皮下もしくは筋肉内用形態で投与することができる 」との記載があり,これによれば, 。 8a-アザライドに相当する式(?U)化合物は経口投与用に限定されたものではない。また,甲6には 「1箇所の注射部において与えるのは,1 ,0ml以下であることが示唆された(308頁)との記載があり,エ 。」リスロマイシンは一定量以下の注射投与が可能であることが示されている。耐性菌の存在については,エリスロマイシンは1950年代以来使用されてきた抗菌剤であって,エリスロマイシンに対する耐性菌の増加はエリスロマイシンが抗菌剤として長期間にわたりウシ呼吸器感染症の治療に使用された結果によるものと理解できる。 , , したがって 原告が主張するエリスロマイシンに関する問題及び限界は引用例1の8a-アザライドを家畜の細菌感染症に適用することの阻害事由には当たらない。 ( )格別の作用効果について3原告は,本願補正発明は,特定の種類の微生物及びそれによる家畜動物の感染症に対して,予測することができない顕著な作用効果を奏すると主張する。 しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。 ア本願補正明細書の記載(甲4の2)「【】 , (ア)00218a-アザライドはヨーロッパ特許出願第508699号に開示されているような公知化合物でもよいし,公知方法を使用して容易に入手可能な出発材料から製造してもよい。8a-アザライドの代表例を以下に挙げる。 ‥‥‥9-デオキソ-8a-アザ-8a-(プロピ-1-イル)-8a-ホモエリスロマイシンA;‥‥‥4”-デオキシ-4”-アミノ-9-デオキソ-8a-アザ-8a-メチル-8a-ホモエリスロマイシンA;4”-デオキシ-4”-(S)-アミノ-9-デオキソ-8a-アザ-8a-メチル-8a-ホモエリスロマイシンA;4”-デオキシ-4”-(R)-アミノ-9-デオキソ-8a-アザ-8a-メチル-8‥‥‥4”-デオキシ-4-アミノ-9-デオキソ-8a-アザ-8a-アリル-8a-ホモエリスロマイシンA;‥‥‥」「【】, , (イ)0035 以下 実施例により本発明をより詳細に説明するが以下の実施例は請求の範囲を制限するものではない。 【0036】8a-アザライドのinvitro活性家畜病原体パネルに対する代表的8a-アザライドの抗菌活性を当技術分野で周知の最小阻止濃度(MIC)法により測定した。これは,抗菌剤濃度の異なる媒体を各々入れた一連の培養チューブを準備し,全チューブに同一生物を接種することにより実施する。混濁の出現を完全に阻止する被験剤の最低濃度を記録し,この濃度をMICと呼ぶ。 【0037】主要家畜病原生物に対する4”-デオキシ-4”-アミノ-9-デオキソ-8a-アザ-8a-メチル-8a-ホモエリスロマイシンA,4”-デオキシ-4 (R)-アミノ-9-デオキソ-8a- ”アザ-8a-メチル-8a-ホモエリスロマイシンA,4”-デオキシ-4 (S)-アミノ-9-デオキソ-8a-アザ-8a-メチル-8 ”a-ホモエリスロマイシンA及び4”-デオキシ-4“-アミノ-9-デオキソ-8a-アザ-8a-アリル-8a-ホモエリスロマイシンAの抗菌活性範囲を以下に要約する 」。 (ウ)「 0038】【() 生物名 MIC範囲 μg/mlP.haemolytica0.125-0.5P.multocida0.125-0.5H.somnus 0.125-0.250A.pleuropneumoniae0.062-0.125大腸菌 0.5-2サルモネラ種 0.5-4」イ判断(ア)本願補正明細書の段落【0037】及び【0038】には,本願補正発明の式?Tに属する4種類の化合物(本願補正明細書の段落【0021】に記載)について,6種類の家畜病原生物に対する生体外(インビトロ)での抗菌活性範囲(MIC)が記載されている。しかし,家畜に対する具体的な薬物動態や治療成績は,何ら記載がない。 そうすると,本願補正発明の治療及び予防上の効果は,上記のインビトロでの抗菌データに基づいて導き出せる程度のものにすぎないものであるから,引用例1の式(?U)化合物に相当する8A-アザライドを家畜の呼吸器又は腸内の細菌感染に対する治療及び予防のために適用した場合,当業者にとって予想できる範囲の作用効果というべきである。 したがって,審決が引用例1,2から当業者が予測できる範囲のものであるとした判断に誤りはない。 (イ)この点について,原告は,甲7などにより,本願補正発明の8a-アザライドに関する実験データと従来のチルミコシンに関する実験データとを比較した試験結果を提示し,本願補正発明が技術水準から当業者が予測できる範囲を超えた顕著な治療効果をもたらすものであると主張する。 しかし,本願補正明細書には,上記アのとおり,本願補正発明の具体的な効果については,特定の病原生物に対する抗菌活性範囲が記載されているのみであって,従来のマクロライド系抗生物質と比較してどの程度に有利な効果があるのかは何も開示されていない。 したがって,本願出願後に提示された試験結果に基づく有利な作用効果は,本願補正明細書の記載から推測できるものではないから,原告の主張は採用できない。 3本願発明の容易想到性の判断の誤り(取消事由3)について原告は,本願発明の容易想到性についての審決の判断には,本願補正発明に,,, ついての判断と同様の誤りがあると主張するが 前記1 2に判示したとおり本願補正発明についての審決の判断に誤りはないから,本願発明についての審決の判断にも,誤りはない。 4結論以上のとおり,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。 よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 三村量一 |
裁判官 | 上田洋幸 |