関連審決 | 不服2005-4399 |
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関連ワード | 技術的思想 / 容易に発明 / 一致点の認定 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 販売数量(販売数) / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10226号
審決取消請求事件
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原告X 原告オ ーケー株式会社 原告ら訴訟代理人弁理士小沢慶之輔 被告特許庁長官 肥塚雅博 指定代理人野崎大進 同 立川功 同 小池正彦 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/03/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告らの請求を棄却する。 2訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2005-4399号事件について平成19年5月8日にした審決を取り消す。 |
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争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告らは,平成12年8月18日,発明の名称を「商品の予約発注個数決定方法」とする発明につき特許出願(特願2000-248695号,優先権主張・平成11年8月27日。以下「本件出願」という。)をし,平成17年1月11日付け手続補正書をもって本件出願に係る明細書の補正をした。 特許庁は,同年2月7日,本件出願につき拒絶査定をしたため,これに対し原告らは,同年3月11日,拒絶査定不服審判請求(不服2005-4399号)をし,その係属中,同年4月8日付け手続補正書をもって本件出願に係る明細書について特許請求の範囲等の補正をした(以下「本件補正」という。)そして,特許庁は,平成19年5月8日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は同月23日原告らに送達された。 2 特許請求の範囲の記載(1) 本件補正前の請求項1本件補正前の特許請求の範囲の請求項1(拒絶査定時のもの)の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。 「【請求項1】コンピュータを用いて商品の予約発注個数を決定する方法において,予約発注対象の商品Xについてのメモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の一日の最大販売実績数と平均販売実績数の比を第1の変数とし,商品の製造日から賞味期限までの日数を第2の変数として商品ごとに割り当てられてメモリに記憶されている品切れ安全係数マップから,予約発注対象の商品Xについての品切れ安全係数αを検索し出力するステップ,その商品についてメモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の曜日別販売実績を平均して曜日別基準売れ数Dを演算し出力するステップ,メモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の該当する曜日の来店客数を平均して上記曜日別基準売れ数に対応する曜日別基準来店客数Bを演算し出力するステップ,将来の各曜日の来店客予測数Aを入力し記憶するステップ,上記各曜日ごとの予測来店客数Aと基準来店客数Bに基づいて基準来客数修正指数Cを演算し出力するステップ,上記各曜日の基準来客数修正指数Cと基準売れ数Dに基づいて曜日別第1の修正基準売れ数Eを演算するステップ,予約発注対象の商品Xの売価の強弱によって主として変動するその商品の販売個数変動指数βを入力し記憶するステップ,上記販売個数変動指数βと上記曜日別第1の修正基準売れ数Eに基づいて第2の修正基準売れ数E×βを演算し出力するステップ,上記曜日別第2の修正基準売れ数E×βと品切れ安全指数αに基づいて商品Xについての該当する曜日の予約発注個数を演算し出力するステップ,上記ステップで予約発注個数を演算・出力された該当する曜日の予約発注について修正可能な日時に先行する少なくとも一日の販売実績とその日の予約発注個数との差を演算し,その差を上記該当する曜日の予約発注個数から差し引くあるいは追加する予約発注修正個数として出力するステップ,および該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはから上記該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引き上記該当する曜日の上記商品Xについての最終発注個数を演算し出力するステップからなる商品の予約発注個数決定方法。」(2) 本件補正後の請求項1本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願補正発明」という。下線部は,本件補正による補正部分である。)。 「【請求項1】コンピュータを用いて商品の予約発注個数を決定する方法において,予約発注対象の商品Xについてのメモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の一日の最大販売実績数と平均販売実績数の比を第1の変数とし,商品の製造日から賞味期限までの日数を第2の変数として商品ごとに割り当てられてメモリに記憶されている品切れ安全係数マップから,予約発注対象の商品Xについての品切れ安全指数αを検索し出力するステップ,その商品についてメモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の曜日別販売実績を平均して曜日別基準売れ数Dを演算し出力するステップ,メモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の該当する曜日の来店客数を平均して上記曜日別基準売れ数に対応する曜日別基準来店客数Bを演算し出力するステップ,将来の各曜日の来店客予測数Aを入力し記憶するステップ,上記各曜日ごとの予測来店客数Aと基準来店客数Bに基づいて基準来客数修正指数Cを演算し出力するステップ,上記各曜日の基準来客数修正指数Cと基準売れ数Dに基づいて曜日別第1の修正基準売れ数Eを演算するステップ,予約発注対象の商品Xの売価の強弱によって主として変動するその商品の販売個数変動指数βを入力し記憶するステップ,上記販売個数変動指数βと上記曜日別第1の修正基準売れ数Eに基づいて第2の修正基準売れ数E×βを演算し出力するステップ,上記曜日別第2の修正基準売れ数E×βと品切れ安全指数αに基づいて商品Xについての該当する曜日の予約発注個数を演算し出力するステップ,演算・出力された曜日別の予約発注個数のそれぞれについて,その都度,その前々日の販売実績個数とその日の納入個数に相当する最終発注個数との差を演算し,その差をその該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ,およびその該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引き上記該当する曜日の上記商品Xについての最終発注個数を演算し出力するステップからなる商品の予約発注個数決定方法。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。 要するに,本願補正発明は,引用文献1(特開平1-224864号公報。甲4)及び引用文献2(特開平9-26990号公報。甲5)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから,本件補正は却下されるべきであり,本願発明も,引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許を受けることができないというものである。 審決は,本願補正発明と引用文献1に記載された発明との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。 (一致点)「コンピュータを用いて商品の予約発注個数を決定する方法において,その商品についてメモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の曜日別販売実績を平均して曜日別基準売れ数Dを演算し出力するステップ,予約発注対象の商品Xの売価の強弱によって主として変動するその商品の販売個数変動指数βを入力し記憶するステップ,上記販売個数変動指数βと上記曜日別基準売れ数に基づいて修正基準売れ数を演算し出力するステップ,演算・出力された曜日別の予約発注個数について,販売個数と納入個数に相当する発注個数との差を演算し,その差をその該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ,およびその該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引き上記該当する曜日の上記商品Xについての最終発注個数を演算し出力するステップからなる商品の予約発注個数決定方法。」である点。 (相違点1)本願補正発明は,「予約発注対象の商品Xについてのメモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の一日の最大販売実績数と平均販売実績数の比を第1の変数とし,商品の製造日から賞味期限までの日数を第2の変数として商品ごとに割り当てられてメモリに記憶されている品切れ安全係数マップから,予約発注対象の商品Xについての品切れ安全指数αを検索し出力するステップ」,「上記曜日別第2の修正基準売れ数E×βと品切れ安全指数αに基づいて商品Xについての該当する曜日の予約発注個数を演算し出力するステップ」を備えるのに対し,引用文献1に記載されたものは,「品切れ安全係数」を考慮した上記のようなステップを設けていない点。 (相違点2)本願補正発明は,「メモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の該当する曜日の来店客数を平均して上記曜日別基準売れ数に対応する曜日別基準来店客数Bを演算し出力するステップ,将来の各曜日の来店客予測数Aを入力し記憶するステップ,上記各曜日ごとの予測来店客数Aと基準来店客数Bに基づいて基準来客数修正指数Cを演算し出力するステップ,上記各曜日の基準来客数修正指数Cと基準売れ数Dに基づいて曜日別第1の修正基準売れ数Eを演算するステップ」を備えているのに対し,引用文献1に記載されたものは,来店客の変動を考慮した上記のようなステップを備えていない点。 (相違点3)本願補正発明は,「演算・出力された曜日別の予約発注個数のそれぞれについて,その都度,その前々日の販売実績個数とその日の納入個数に相当する最終発注個数との差を演算し,その差をその該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ,およびその該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引」くステップを備えているのに対し,引用文献1に記載されたものは,発注量を,予測売上量と予給量の差によって最終発注量を演算するものであって,最終発注個数を演算する際,販売実績個数を用いていない点。 |
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当事者の主張
1 取消事由についての原告らの主張審決には,本願補正発明と引用文献1に記載された発明(以下「引用文献1発明」という。)との一致点の認定の誤り(取消事由1),相違点1の容易想到性の判断の誤り(取消事由2),相違点2の容易想到性の判断の誤り(取消事由3),相違点3の容易想到性の判断の誤り(取消事由4)があり,その結果,本願補正発明は独立して特許を受けることができないと判断した違法がある。 (1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)審決は,本願補正発明と引用文献1発明とは,「演算・出力された曜日別の予約発注個数について,販売個数と納入個数に相当する発注個数との差を演算し,その差をその該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ,およびその該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引き上記該当する曜日の上記商品Xについての最終発注個数を演算し出力するステップ」からなる点(以下,上記2つのステップを合わせて「本件各ステップ」という場合がある。)で一致すると認定したが,以下のとおり誤りである。 ア審決は,「(本件各ステップは,)要するに,予約発注する曜日の前の実販売量と実納品量の差,即ち変動在庫分で発注量を補正することを表したものであるが,引用文献1に記載された「発注量h の計算式を発i注量h =明日売上量U+予給量Yとする」ことは,売上量が予測値でi i+1はあるが,変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する。」(審決書7頁28行〜33行)と認定した。 i i+1 (ア)しかし,引用文献1の発注量計算式(「発注量h =明日売上量U+予給量Y」)の考え方は,「変動在庫分で発注量を補正する」ものではない。 すなわち,引用文献1の「発注量h 」は,発注日当日の翌々日(明後ii i+日)に納品される量であること,「発注量h 」は,「明日売上量U」,即ち納品日の前日の売上予測量をベースにして計算されているこ1とによれば,引用文献1の上記発注量計算式は,納品日の前日の売上量を補うような量の納品が次の日(納品日当日)に行われるように発注量を決めようとするものである。このような引用文献1の発注量計算式の考え方は,従来の商品の発注から納品までの時間遅れ(リードタイム)を念頭に置いた在庫量をベースにした発注方式であって,「変動在庫分で発注量を補正する」ものではない。 (イ)一方,本願補正発明の発注量演算方式の基本的な考え方は,演算された該当日の売上予測に応じてその該当日に納入される量は,その日の中で売り切るように発注量を決めようとするものであって,従来の各商品のリードタイムに左右されず,かつ,在庫量をベースとせずに把握可能な前々日の販売実績個数と納入個数の差である「変動在庫分」のみを調整量として利用した新しい発注方式である。その結果,本願補正発明によれば,新鮮な商品を客に提供することができ,かつ,在庫量も常に設定した適正在庫に収斂するよう変動する。 (ウ)したがって,引用文献1記載の発注方式と本願補正発明の発注方式とは,全く異なる考え方に基づいており,引用文献1発明は本件各ステップを構成に含むものではない。 イ(ア)被告は,上記ア冒頭の審決の説示は,「引用文献1の第13図(b)に開示されている発注量計算式」に該当する部分を省略して記載したものであり,その省略部分を含めれば,引用文献1発明が「売上量が予測値ではあるが,変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する」ことは明らかであり,審決の一致点の認定に誤りはない旨主張する。しかし,審決が相違点3で「引用文献1に記載されたものは,発注量を,『予測売上量と予給量』の差によって最終発注量を演算する」と認定していることなどに照らすと,審決は,「発注量h =明日売上量U+予給量Y」の発注量計算式を前提に認定判断i i+1しているものであり,被告主張の部分を省略して記載したものとはいえない。 (イ)また,仮に被告主張のとおりの省略があることを前提としても,「引用文献1の第13図(b)に開示されている発注量計算式」は,本願補正発明の本件各ステップを,開示,示唆するものとはいえない。 すなわち,被告は,引用文献1の第13図(b)記載の発注量計算式を2度変形し,以下の式が開示されていると主張する。 i i+2 「発注量h=明後日売上量U+{当日売上量U -当日納入量h }i i-2+{明日売上量U-明日納入量h } i+1 i-1i-1-前日末在庫量Z+安全在庫量S 」i しかし,上記変形式中で,重要な要素は,「明後日(予測)売上量U」とそれを補正する「前日末在庫量Zであり,{当日(予測)売上+2 i-1 」量U -当日納入量h },{明日(予測)売上量U-明日納入量h} i i-2 i+1 i-1は,補正量である「前日末在庫量Z 」を微修正するために使われる, i-1発注日から納入日までの2日のリードタイム期間中に生じる各日の予測変動在庫分である。これら予測変動在庫分は,確かに「明後日売上量U」を補正し,「発注量h 」を決定するのに一部寄与し,結果としi+2 iて「発注量h 」が予測変動在庫分によっても変化はするものの,発注量 iが予測変動在庫分によって補正されるわけではない。補正の対象はあくまでも「明後日売上量U」であり,この「明後日売上量U」を主i+2 i+2として補正する要素は,「前日末在庫量Z 」である。したがって,上 i-1記変形式も,2日のリードタイム期間中の予測変動在庫分による調整を加味した従来の在庫量をベースにした商品の発注方式の一つにすぎず,本件各ステップを開示,示唆するものとはいえない。 ウ以上によれば,引用文献1の発注量計算式の考え方は,「変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する」とはいえないから,本願補正発明と引用文献1発明とは本件各ステップからなる点で一致するとした審決の一致点の認定は,誤りである。 (2) 取消事由2(相違点1の容易想到性の判断の誤り)審決は,相違点1について,?@「本願補正明細書には,・・・本願補正発明における「品切れ安全係数」と上記変数との関連については何ら具体的に記載されておらず,また,そのマップも具体例がない。」(審決書9頁7行〜12行),?A「本願補正発明における「品切れ安全係数」は,品切れが起こらないようにするためにどの程度発注量を増加させておけばよいかいう経験値を数値化したものにすぎないと認められる。」(同9頁13行〜15行)とした上で,?B「販売量の変動が大きい商品に関して,品切れを回避するために,発注量を所定量だけ増加させておくことは周知慣用手段(引用文献1に記載された「安全在庫」も品切れ回避の観点から生じている)であるから,引用文献1に記載された発明において,売上(販売)量の予測値から発注量を決定する際,本願補正発明に記載されたような「品切れ安全係数」によって予測値を補正することは,適宜なし得る程度のことと認められる。」(同9頁16行〜21行)と判断したが,以下のとおり誤りである。 ア本件補正後の明細書(甲3)及び図面(甲1)(以下,これらを併せて「本願明細書」という。)には,実施例で取り上げたパック入り牛乳の「品切れ安全指数α」について,【図2】で「1.15」と例示され,発明の詳細な説明の段落【0011】に,それぞれの商品についての「品切れ安全係数」(「品切れ安全指数」)を設定する際の具体的な考え方の例が示されていることに照らすならば,審決が,本願明細書には「品切れ安全係数」と変数との関連については何ら具体的に記載されておらず,また,そのマップも具体例がないと認定(前記?@)したのは誤りである。 また,そもそも,それぞれの商品の「品切れ安全係数」は,更新される所定のサンプリング期間の一日の最大販売実績数と平均販売実績数の比を第1の変数とし,商品の製造日から賞味期限までの日数を第2の変数として利用して設定されるので,当業者であれば,第1及び第2の変数がいずれも大きい商品の「品切れ安全係数」は比較的大きいこと,第1及び第2の変数のいずれも小さい商品の「品切れ安全係数」は比較的小さいこと,第1及び第2の変数が前二者の中間の商品の「品切れ安全係数」は前二者の中間の値に設定されることは,具体的な記載がなくても,即座に想到される事柄である。 イ上記アのとおり,本願補正発明の「品切れ安全係数」は,品切れが生じた商品について,実績値によって変動する第1の変数と第2の変数という2つの指標を使ってその時の関連するデータを整理,分析し,シミュレーションを繰り返し統計的な処理を行って,設定されるものであるから,単に「経験値を数値化したものにすぎない」との審決の判断(前記?A)は,誤りである。 また,本願補正発明の「品切れ安全係数」は,審決が認定(前記?B)するような「販売量の変動が大きい商品に関して,品切れを回避するために,発注量を所定量だけ増加しておく」ものではない。例えば,本願補正発明の「品切れ安全係数」は,引用文献1の第13図(b)に開示されている従来の安全在庫量Sとは異なる。すなわち,引用文献1の第13図(b)の発注量計算式では,安全在庫量Sは母数に加算されているので発注量はステップ状にしか補正されない。一方,本願補正発明では,「品切れ安全係数」は,該当の商品についての納入されるべき当日の予測値である第2の修正基準売れ数E×βに掛け算して予測値を補正しているので,発注量は,予測値にリンクしてリニア状に細かく補正される。 このように本願補正発明の「品切れ安全係数」は,商品ごとに固有に設定された定性的かつ定量的なものであって,新規な係数であるから,「販売量の変動が大きい商品に関して,品切れを回避するために,発注量を所定量だけ増加させておく周知慣用手段」ではない。また,本願補正発明では,商品が納入されるべき当日の予測値である第2の修正基準売れ数E×βがその商品の品切れ安全係数によって修正され,その当日の予測値に直接リンクして品切れ回避用の個数が付加されて,予約発注個数として仕入先に予約発注されるもので,その日その日の売れ数予測値に対応した品切れ回避用の商品個数が確保されるという格別な効果を奏する。 ウしたがって,引用文献1発明において,本願補正発明に記載されたような「品切れ安全係数」によって予測値を補正することは「適宜なし得る程度」のことであるとした審決の判断は誤りである。 (3) 取消事由3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)審決は,相違点2について,「・・・引用文献2において,売上数を予測する基となる数値は,予約された宿泊あるいは宴会の客数ではあるが,これらの客が全て来店するわけでないことは自明であり,結局のところ宿泊客数等から予測来店客数を出し,その予測来店客数を基に予測売上数を比例的に算出しているのであるから,引用文献2からは,予測来店客数で予測売上数を比例的に変化させるという技術思想が読み取れる。」(審決書9頁32行〜37行),「そして,引用文献1に記載された自動発注システムにおいて,売上量の予測値は,(う),(え),(か),(く)の記載にあるように,さまざまな要素によって補正されるものであるから,売上量の予測値を予測来店客数で比例的に補正することは,引用文献2に記載されたものから当業者が容易に想到し得ると認められる。」(同9頁末行〜10頁5行)と判断したが,上記判断は,以下のとおり誤りである。 ア本願補正発明では,所定のサンプリング期間の該当する曜日の来店客数を平均して求められた曜日別基準来店客数Aと将来の各曜日ごとの予測来店客数Bに基づいて曜日ごとの基準来店客数修正指数Cが求められるが,引用文献2では,曜日を無視した過去のホテルの宿泊及び宴会客数の累計とそれぞれの商品の累計売れ数から,宿泊及び宴会客一人当たりのそれぞれの売れ数を求めており,曜日ごとに相関値を求めるという技術的思想はない。 イ引用文献1の発注量算出のベースとなる明日売上量Uは,納入日前日i+1の曜日に該当する過去の同じ曜日の数日間の売上量を平均として求めた値に,審決が摘示する引用文献1の(う),(え),(か),(く)の項目に記載があるような,全商品の売れ数に影響する来客数変動の要因となる要素及び個別商品の売れ数にのみ影響する販売個数変動の要因となる要素が,区別されずに引用文献1の第6図に示されているような経験則に基づく大雑把な補正ルールを適用して補正されたものである。 この補正の施された明日売上量Uを,引用文献2に記載された技術的i+1思想に従って,売上数の予測値を予測来店客数で比例的に補正すると,一部の変動要因が重複して適用されることとなり,最終結果である発注量に偏りが生じ,引用文献1に記載された自動発注システムを改悪することになりかねない。このような新たに生ずる問題点を解消するには,当業者が容易に推考できる範囲を超えた創意工夫を引用文献1発明に施す必要がある。 ウしたがって,引用文献1発明において,「売上量の予測値を予測来店客数で比例的に補正することは,引用文献2に記載されたものから当業者が容易に想到し得る」とした審決の判断は,誤りである。 (4) 取消事由4(相違点3の容易想到性の判断の誤り)審決は,相違点3について,「引用文献1の記載から,最終発注量を変動在庫分で補正することを読み取ることができ,また,変動在庫分を実売上量と実納入量の差から求めることは容易に考え得ることであるから,引用文献1において予測値に基いて最終発注量を算出する際,上記相違点3に係るようなステップを設けて,最終的な発注量を決定するようにすることは当業者が容易に想到し得ると認められる。」(審決書10頁7行〜12行)と判断したが,上記判断は,以下のとおり誤りである。 ア審決は,相違点3において,「引用文献1に記載されたものは,発注量を,予測売上量と予給量の差によって最終発注量を演算するものであって,最終発注個数を演算する際,販売実績個数を用いていない」と認定したが,誤りである。すなわち,(ア)引用文献1では,?@発注量は納入日前日の予測売上量と予給量の「和」によって演算されており,「差」によって演算されていないし,?Aそもそも「予約発注個数」及び「最終発注個数」という概念がなく,また,「最終発注個数」を演算する際に,販売実績個数のみならず,「実納入個数」も用いていない点を看過しているから,相違点3における引用文献1発明の認定は誤りである。 この点,被告は,本願補正発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「予約発注個数」は,単に,「最終発注個数」を計算する過程で算出される途中結果にすぎない旨主張する。しかし,本願補正発明の請求項1では,その対象を「商品の予約発注個数決定方法」であると明示するとおり,「最終発注個数」と異なる概念で発注個数を使用している。「予約発注個数」及び「最終発注個数」は,その文言の意味からしていずれも仕入先に連絡されるはずのものであり,また,その連絡が同時であることもあり得ない。すなわち,「最終発注個数」の算出手順を考慮すると,「予約発注個数」は少なくとも「最終発注個数」が仕入先に連絡される日の前日以前の発注個数であることは明らかである。確かに請求項1の文言には「予約発注個数は前週に商品Xの仕入先に予約発注という形で事前に通知される」という点は明示されていないが,本願明細書の段落【0007】に暗示されている。 (イ)引用文献1に開示されている商品の発注量の決定方式は,その商品の納品日の予測売れ数と発注日前日末在庫量をベースとして,発注日から納品日までのリードタイム間の予測売れ数と実納品数の差,即ち予測在庫変動量で,発注日前日末在庫量を修正して納品日前日末の在庫量を推定して,発注量を決めるものであり,この方式では発注日にその後のリードタイム間の実在庫変動を把握することは不可能であるため予測在庫変動量が使われ,当然に納品日前日末の在庫量の推定精度は低い。 これに対し,本願補正発明の商品の発注量の決定方式は,その商品の納品日の予測売れ数のみをベースとして,その前々日の予測売れ数と強くリンクした実納品数と実売れ数の差,すなわち実在庫変動量をフィードバックとして利用してその納品日の予測売れ数を調整して発注量を決めるものであり,発注を所定のサイクルで繰り返すと,その在庫量は,常に初期に設定した在庫量に収歛する方向の小変動を繰り返す状態に到達する。 このように本願補正発明の商品の発注量の決定方式は,在庫量を使わず,そのためリードタイム間の予測在庫変動量の把握も不要な,簡単で有用な新規な方式であり,引用文献1に開示された商品の発注量の決定方式とは全く技術的思想が異なるものである。 (ウ)したがって,引用文献1発明において,相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者といえども容易に想到し得るものではない。 2 被告の反論(1) 取消事由1に対しア 引用文献1の開示内容について(ア)引用文献1の第13図(b)に開示されている発注量計算式は,以下のとおりである「発注量h ={当日売上量U +明日売上量U +明後日売上量U }i i i+1 i+2-{前日末在庫量Z +当日納入量h +明日納入量h } i-1 i-2 i-1+安全在庫量S」この式は,以下のように式変形できる。 i i+2 「発注量h =明後日売上量U+{当日売上量U +明日売上量U }i i+1-{当日納入量h +明日納入量h } i-2 i-1i-1-前日末在庫量Z+安全在庫量Si+2 =明後日売上量U+{当日売上量U -当日納入量h }i i-2+{明日売上量U-明日納入量h } i+1 i-1i-1-前日末在庫量Z+安全在庫量S」ここで{当日売上量U -当日納入量h }と表された部分は,当日にi i-2在庫量が変動するであろう部分を示し,{明日売上量U-明日納入量 i+1h }と表された部分は,明日に在庫量が変動するであろう部分を示し i-1ている。 そして,当日に発注する量(これは明後日に納品される商品の量に相当する。引用文献1の第13図(a)の発注日程参照)は,明後日に売れるであろう「明後日売上量」と原則的には等しければよい(つまり,売れる分だけ納入されればよい)のであるが,その間に在庫量が変動するため,発注量をその在庫変動量で補正しているのである。 (イ)つまり,引用文献1の上記(ア)の発注式は,在庫量の変動分を当日と明日に分けて考えているが,売れる分よりも発注した分が多そうであれば(商品在庫が増えそうなら)発注量を減らし,売れる分より発注した分が少なそうであれば(商品在庫が減りそうなら)発注量を増やすようにすることを意味しており,結局,引用文献1発明は,実際に商品が納入される明後日の予測売上量を変動在庫分で補正して,最終的な発注量を決定する発明が開示されている。 したがって,本願補正発明と引用文献1発明とを対比すると,引用文献1発明は,売上量が予測値ではあるが,変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通しているといえる。 イ審決には,原告らが主張するように「引用文献1に記載された「発注量h の計算式を発注量h =明日売上量U+予給量Yとする」ことi i i+1は,売上量が予測値ではあるが,変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する。」との記載部分があるが,上記記載部分は,引用文献1発明において,「発注日において,当日予測売上量と明日予測売上量と明後日予測売上量の和から,前日未在庫量と当日納入量と明日納入量の和を差し引いて,それに安全在庫量を加える演算を行い,発注量を決定するか,あるいは,「発注量の計算式を発注量h =明 i日売上量U+予給量Yとする」ことは,売上量が予測値ではあるが,変 i+1動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する。」と記載すべきところを,下線部分を省略して記載したものであり,その点で,審決の上記記載部分は適切を欠く。しかし,引用文献1に,売上量が予測値ではあるものの,発注量を変動在庫分によって補正することが開示されていることは明らかであり,この点に係る審決の一致点の認定に誤りはない。 したがって,審決が本願補正発明と引用文献1発明について,本件各ステップからなる点を一致点と認定したことに誤りはない。 (2) 取消事由2に対し本願補正発明の「品切れ安全係数」は,人間が経験的に設定する値であり,人間の経験の度合いに大きく左右される値であり,そもそも精度の高い客観的な数値ではない。 また,引用文献1に「状況診断部7が過去のPOSデータ11の内容から売上の変動量を計算して,在庫データ13の安全在庫803を自動的に修正する場合もある。」(5頁右下欄11行〜14行)と記載されているように,引用文献1発明においても,売上げの変動量に基づいて安全在庫を修正するという発明思想は開示されており,安全在庫量についても売上げの変動量等に基づいて柔軟に修正されている。 したがって,売上予測量を欠品を防止する観点から余分な在庫量を確保するよう修正する際に,予測売上量を,本願補正発明のようにリニアに補正するか(何%増しとするか),ステップ状に補正するか(何個増しとするか)で,大きく精度が変化するとはいえず,リニアに補正することにより格別な効果があるといえるものではない。 したがって,相違点1に係る本願補正発明の構成の容易想到性の判断の誤りをいう原告らの主張は,失当である。 (3) 取消事由3に対し引用文献2には,確かに,曜日を考慮した記載は見当たらないが,引用文献1には,曜日を考慮した予測が行われているのであるから,引用文献1発明に,引用文献2に記載の技術を適用するに当たって,曜日を考慮した,予測来客数と一人当たりの予想売れ数の相関値を用いる構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものである。 したがって,相違点2に係る本願補正発明の構成の容易想到性の判断の誤りをいう原告らの主張は,失当である。 (4) 取消事由4に対しア原告らは,引用文献1では,発注量は納入日前日の予測売上量と予給量の「和」によって演算されており,「差」によって演算されていないと主張するが,上記主張は,審決が記載を省略した,引用文献1の第13図(b)に開示されている発注量計算式(前記(1)ア(ア))を考慮に入れたものではなく,それ自体意味がない。 また,原告らは,引用文献1では,そもそも「予約発注個数」及び「最終発注個数」という概念がなく,また,「最終発注個数」を演算する際に,販売実績個数のみならず,「実納入個数」も用いていない点を看過していると主張する。しかし,本願補正発明の特許請求の範囲(請求項1)は,「予約発注個数」を「その週に商品Xの仕入先に予約発注という形で事前に通知される」ものと定義しているわけではなく,「予約発注個数」は,単に,「最終発注個数」を計算する過程で算出される途中結果にすぎないから,原告らの上記主張は,請求項1の記載に基づくものではなく,失当である。 イ引用文献1の第13図(b)に開示されている発注量計算式(前記(1)ア(ア))の変形式において,「前日売上量U」は,実際に売れた販売実績i-1量にほかならず,また,{前日売上量U-前日納入量h}は,発注日 i-1 i-1前日の販売実績量とその日の納入量の差であり,「納品日の前々日の確定した販売実績個数とその日の納入個数の差」にほかならない。 したがって,引用文献1の第13図(b)に開示されている発注量計算式に基づいて,納品日の売上予測量を,納品日の前々日の確定した販売実績個数とその日の納入個数の差により補正して,発注量を決定する構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものであるから,相違点3に係る本願補正発明の構成の容易想到性の判断の誤りをいう原告らの主張は,失当である。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について原告らは,引用文献1の発注量計算式の考え方は,「変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する」とはいえないから,本願補正発明と引用文献1発明とは,「演算・出力された曜日別の予約発注個数について,販売個数と納入個数に相当する発注個数との差を演算し,その差をその該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ,およびその該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引き上記該当する曜日の上記商品Xについての最終発注個数を演算し出力するステップ」(「本件各ステップ」)からなる点で一致するとした審決の一致点の認定は誤りであると主張する。 しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。 (1) 本願補正発明における本件各ステップの意義本願補正発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「演算・出力された曜日別の予約発注個数のそれぞれについて,その都度,その前々日の販売実績個数とその日の納入個数に相当する最終発注個数との差を演算し,その差をその該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ,およびその該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引き上記該当する曜日の上記商品Xについての最終発注個数を演算し出力するステップからなる商品の予約発注個数決定方法。」と記載されており,同記載によれば,請求項1記載の上記各ステップは,審決が一致点と認定した本件各ステップの「販売個数と納入個数に相当する発注個数との差」を,「その前々日の販売実績個数とその日の納入個数に相当する最終発注個数との差」に特定して演算・出力したものであり,本件各ステップの態様の一つであることが認められる。そして,請求項1の上記記載によれば,?@本願補正発明は,ある商品について特定の納入日の最終発注個数を決定するに当たり,当該商品について,「その前々日の販売実績個数」,すなわち納入日の前々日の在庫を減らす分と,「その日の納入個数に相当する最終発注個数」,すなわち納入日の前々日の在庫を増やす分との差(変動在庫分)を演算し,その差(変動在庫分)を「予約発注修正個数」として出力するステップと,「演算・出力された曜日別の予約発注個数」に,「予約発注修正個数」(変動在庫分)を加算又は減算するステップとを有しているから,「変動在庫分で発注量を補正する」発注方式であること,?A本願補正発明においては,「最終発注個数」の発注は納入日の前日に行われ,変動在庫分は,納入日の前々日,すなわち発注日の前日のものを指していることが認められる。 (2) 引用文献1についてア 引用文献1の記載引用文献1(甲4)には,次のような記載がある。なお,審決が摘示した引用文献1の記載事項(審決書3頁25行〜5頁5行)と同じ内容のものは,「審決の摘示「あ」」,「審決の摘示「い」」などのように,審決の摘示箇所の項目符号(「あ」〜「け」)を用い,これを各記載内容の末尾に付記した。 (ア)「特許請求の範囲1.各種資源を調達するため,発注量を決定する発注システムにおいて,過去の需要量から,未来の需要量を予測する手段と,予測した需要量と資源の在庫量から発注量を決定する手段を設けたことを特徴とする自動発注システム。」(1頁左下欄4行〜9行。審決の摘示(あ))(イ)「[発明が解決しようとする問題点]上記従来技術においては,商品ごとに需要の変動要因が考慮されておらず,店頭在庫水準と在庫量の差が一定のレベルに達すると,自動的に発注処理が行なわれるため,需要変動の大きい商品に対しては,しばしば売れる商品が欠品したり,売れない商品が過剰在庫となるという問題があった。」(2頁左下欄6行〜13行),「本発明の目的は,需要変動のある商品の発注業務において,店長等の在庫管理者が,商品別の変動が要因(判決注・「変動要因」の誤り)を把握し,各店舗状況に応じた商品ごとの発注量の決定や在庫量の診断ができる自動発注システムを提供する所にある。」(2頁左下欄14行〜18行。審決の摘示(い))(ウ)「[実施例]以下,本発明の一実施例を第1図〜第14図により説明する。発注業務においては,商品を発注してから,納品されるまで,数日間の納品リードタイムがかかる。このため,納入リードタイム間の売上量を予測し,発注時点の在庫量と欠品を防ぐために設定された安全在庫量を考慮して,発注量を決定する必要がある。また,納入リードタイムより発注サイクル(次の発注を行なうまでの間隔)が短かい場合には,納入リードタイム間に納入される発注済みの量も考慮して,発注量を決定する必要がある。本実施例において,発注業務は第13図(a)に示す発注日程に従い,毎日1回発注を行ない,2日後(明後日)に発注した量が納入されるものとする。また,発注量の計算は,発注サイクルがリードタイムよりも短かいことも考慮して,第13図(b)に示す発注計算式により計算を行なうものとする。」(3頁左上欄7行〜右上欄6行),「本実施例に示す自動発注システムは,あらかじめ与えられる販売実績のPOSデータと在庫実績の在庫データ,発注業務の作業者が変動要因となる販売地区の催事や自店舗の特売品目の情報,変動要因により変動する売上量を補正するルール,および販売量や需要量の状況を診断するルールを入力することにより,各販売品目の発注量を決定し,注文伝票を自動的に出力するシステムである。」(3頁右上欄7行〜15行),「変動条件設定部2は信号線103を通して,入力された設定に(判決注・「設定日」の誤り)401に対して,あらかじめ格納されている曜日402,祝日403データや過去の発注業務の際に入力された変動条件を変動条件データ10等から入力し,変動条件設定画面に表示する。作業者は変動条件設定画面の天候306,代事(判決注・「催事」の誤り)の開催場所307と催事名308,他店の店名309と販売状況(例えば休店,特売など)310,自店舗の特売品目の商品グループ(例えば,チョコレート,クッキー,カレーなど)311と商品名312の情報を,選択項目313に表示される項目から選択しながら入力する。」(3頁右下欄6行〜18行。審決の摘示(う))(エ)「第7図の予測日704“29”において,商品グループ701“チョコレート”の商品名702“Bチョコ”の予測量703の計算は,まず,第5図のPOSデータより商品グループ501“チョコレート”の商品名“Bチョコ”の売上日504で過去の同じ曜日の数日間の売上量503を平均して,予測値“200”を計算する。次に第4図の変動条件データの設定日401“29”の催事405“T小学校”“遠足”より,第6図の補正ルール901を起動し,補正値“20%増”により,予測値を“240”に補正し,格納する。」(4頁左上欄14行〜右上欄5行。審決の摘示(え))(オ)「・・・発注量計算部4は,予測した予測データ12と過去に発注した発注データ14と,あらかじめバーコードリーダ等により集計された在庫データ13を・・・入力し,第13図(b)発注量計算式により発注量を計算し・・・」(4頁右上欄6行〜10行),「第9図の発注日904“28”において,商品グループ901“チョコレート”の商品名902“Bチョコ”の発注量“160”は,第13図(b)の発注量計算式により,予測日704“26”の売上量703“200”(U ),予測日704“27”の売上量703“220ii+1 i+”(U),予測日704“28”の売上量703“240”(U),在庫日805“25”の在庫量804“300”(Z ),発注 2 i日904“24”の発注量903“220”(h),発注日904 i-2“25”の発注量903“210”(h),安全在庫803“20 i-10”から計算する。」(4頁右上欄14行〜左下欄6行。審決の摘示(お))(カ)「・・・状況診断部7はある売上日にPOSデータ11と予測データ12の内容を比較し,売上が予測に対し,急に増加もしくは減少している商品を選び出し,その売上日の変動条件を入力して,その商品に対して,特売などの変動条件があれば,診断ルール16のルール1003を起動し,同じ曜日の売上量の平均より何%増加しているかを診断メッセージとして出力する。さらに,作業者が端末1より信号線128により,特売等の診断条件(例えば,値付け変更,大売出し,メーカ宣伝,商品陳列棚変更,等)を入力すると,診断処理部7は診断ルール16のルール1004を起動し,診断の条件に対して,発注量の補正量などを診断メッセージ1102として端末1に表示する。」(4頁右下欄4行〜18行。審決の摘示(か))(キ)「第12図の注文伝票の品名1201“Bチョコ”の数量“50”は,診断メッセージ1102により,作業者が発注量計算部が計算した発注量903“160”を修正した例である。」(5頁左上欄14行〜17行。審決の摘示(き))(ク)「状況診断部7が過去のPOSデータ11の内容から売上の変動量を計算して,在庫データ13の安全在庫803を自動的に修正する場合もある。」(5頁右下欄11行〜14行。審決の摘示(く))(ケ)「本実施例では,毎日発注,2日後に配送という発注業務に関するものであったが,毎日発注でなく・・・また,2日後に配送というだけでなく,納品が商品ごとに異なる場合や時期によって異なる場合もある。それらの場合にも,発注量計算式や診断ルールの内容等は異なるが,本方式と同じように適用することができる。」(6頁左上欄1行〜9行),「さらに,本実施例では在庫をもつことができる商品(チョコレート)の例であったが,生鮮食料品のように在庫をほとんど持てないような商品の場合もある。その場合には,発注量h の計算i式を発注量h =明日売上量U +予給量Yi i+1とすることで本方式を同じように適用できる。」(6頁左上欄10行〜16行。審決の摘示(け))(コ)第13図(9頁右下欄)として,別紙「第13図」のような記載がある。 イ引用文献1記載の発明の内容上記アの認定事実に照らすならば,引用文献1の第13図(b)の発i i i+1 i 注計算式(「発注量h ={当日売上量U +明日売上量U+明後日売上量U}-{前日末在庫量Z +当日納入量h +明日納入量h }+安全在+2 i-1 i-2 i-1庫量S」)は,発注日の2日後の納入日の「発注量h 」を決定するに当た iり,納入日の予測売上量である「明後日売上量U」に,発注日当日の「 i+2当日売上量U 」(予測売上量)と「当日納入量h 」との差({当日売上 i i-2量U -当日納入量h },すなわち発注日当日の在庫変動分),発注日の i i-2翌日(納入日前日)の「明日売上量U」(予測売上量)と「明日納入量 i+1h 」との差({明日売上量U-明日納入量h },すなわち発注日翌 i-1 i+1 i-1日の在庫変動分)を加算し,発注日前日の在庫量である「前日末在庫量Z 」を減算し,更に「安全在庫量S」を加算して算出するものであるこi-1とが認められる。 そうすると,引用文献1の自動発注システムにおいても,「演算・出力された曜日別の予約発注個数」(「明後日売上量U」)に,「販売個i+2数と納入個数に相当する発注個数との差を演算し」({当日売上量U -当 i日納入量h },{明日売上量U-明日納入量h }),「その差をそ i-2 i+1 i-1の該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ」及び「その該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引き上記該当する曜日の上記商品Xについての最終発注個数を演算し出力するステップ」(本件各ステップ)を含むものと解することができる。 (3) 小括ア上記のとおり,引用文献1において,発注業務は第13図(a)に示す日程に従い,毎日1回発注を行い,発注日の2日後(明後日)に発注した量が納入されるものとし,発注量の計算は,第13図(b)の発注計算式により計算を行う自動発注システムの発明が,「商品グループ701“チョコレート”の商品名702“Bチョコ”」の発注例を示して記載され,審決においても,上記審決の摘示(あ)ないし(く)において,第13図(b)の発注計算式により計算を行う自動発注システムに係る記載部分を摘示していることに照らすならば,本願補正発明と引用文献1発明と本件各ステップを含む点で一致するとした審決の認定に誤りはない。 イ原告らは,審決が,「引用文献1に記載された「発注量hiの計算式を発注量h =明日売上量U+予給量Yとする」ことは,売上量が予測i i+1値ではあるが,変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する」として,引用文献1発明が本件各ステップを含むと認定したのは誤りであると主張する。 しかし,原告らの主張は,以下のとおり失当である。 (ア)確かに,前記(2)ア(ケ)のとおり,引用文献1には,「さらに,本実施例では在庫をもつことができる商品(チョコレート)の例であったが,生鮮食料品のように在庫をほとんど持てないような商品の場合・・・には,発注量h の計算式を発注量h =明日売上量U+予給量i i i+1Yとすることで本方式を同じように適用できる。」(審決の摘示(け))との記載部分があるが,引用文献1を全体としてみても,「予給量Y」の内容についての記載も示唆もなく,「発注量h =明日売上量iU+予給量Y」の式が「変動在庫分で発注量を補正するという点」を i+1示したものと認めることはできない。 なお,この点について,被告は,審決の上記説示は,引用文献1発明において,「発注日において,当日予測売上量と明日予測売上量と明後日予測売上量の和から,前日未在庫量と当日納入量と明日納入量の和を差し引いて,それに安全在庫量を加える演算を行い,発注量をi i 決定するか,あるいは,「発注量の計算式を発注量h =明日売上量U+予給量Yとする」ことは,売上量が予測値ではあるが,変動在庫分 +1で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する。」と記載すべきところを,下線部分を省略して記載したものである旨主張するが,審決から,記載のない部分を補って読むことはできない。 (イ)しかし,前記(2)イのとおり,引用文献1の第13図(b)の発注計算式は,発注日の2日後の納入日の「発注量h 」を決定するに当たiり,納入日の予測売上量である「明後日売上量U」に,「発注日当日 i+2の在庫変動分」({当日売上量U -当日納入量h })及び「発注日翌 i i-2日の在庫変動分」({明日売上量U-明日納入量h })を加算して i+1 i-1いるから,「売上量が予測値ではあるが,変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する」ものであること,審決は,第13図(b)の発注計算式により計算を行う自動発注システムの発明を記載した引用文献1の該当部分を摘示(審決の摘示(あ)ないし(く))していることに照らすならば,審決が,引用文献1発明が「変動在庫分で発注量を補正するという点で本願補正発明と共通する」と認定したことに結論において誤りがない。 ウまた,原告らは,被告主張の引用文献1の第13図(b)の発注量計算式の変形式において,補正の対象はあくまでも「明後日売上量U」であi+2り,この「明後日売上量U」を主として補正する要素は,「前日末在庫 i+2量Z 」であって,「{当日(予測)売上量U -当日納入量h }」,「{ i-1 i-2 i明日(予測)売上量U-明日納入量h}」は,補正量である「前日末在 i+1 i-1庫量Z 」を微修正するために使われるものにすぎず,結果として「発注i-1量h 」がこの予測変動在庫分によっても変化はするものの,発注量それ自 i体が予測変動在庫分で補正されるものではないから,本願補正発明の本件各ステップを開示,示唆するものではない旨主張する。 しかし,前記(2)イ認定のとおり,引用文献1の自動発注システムにおi+ いて,「演算・出力された曜日別の予約発注個数」(「明後日売上量U」)に,「販売個数と納入個数に相当する発注個数との差を演算し」(2i i-2 i+1 i-1{当日売上量U -当日納入量h },{明日売上量U-明日納入量h}),「その差をその該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ」及び「その該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引き上記該当する曜日の上記商品Xについての最終発注個数を演算し出力するステップ」(本件各ステップ)を含むものと解することができるから,原告らの上記主張は,採用することができない。 エ 以上のとおり,原告ら主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(相違点1の容易想到性の判断の誤り)について原告らは,?@本願明細書には,実施例で取り上げたパック入り牛乳の「品切れ安全指数α」について,【図2】で「1.15」と例示されていること,発明の詳細な説明の段落【0011】に,それぞれの商品についての「品切れ安全係数」を設定する際の具体的な考え方の例が示されていること,?A当業者であれば,本願補正発明の第1及び第2の変数がいずれも大きい商品の「品切れ安全係数」(「品切れ安全指数」)は比較的大きいこと,第1及び第2の変数のいずれも小さい商品の「品切れ安全係数」は比較的小さいこと,第1及び第2の変数が前二者の中間の商品の「品切れ安全係数」は前二者の中間の値に設定されることは,具体的な記載がなくても,即座に想到される事柄であること,?B本願補正発明の「品切れ安全係数」は,品切れが生じた商品について,実績値によって変動する第1の変数と第2の変数という2つの指標を使ってその時の関連するデータを整理,分析し,シミュレーションを繰り返し統計的な処理を行って,設定されるものであり,単に「経験値を数値化したものにすぎない」ものではないことによれば,審決が,引用文献1発明において,売上(販売)量の予測値から発注量を決定する際,本願補正発明に記載されたような「品切れ安全係数」によって予測値を補正すること(「相違点1に係る本願補正発明の構成」とすること)は,適宜なし得る程度のことと認められると判断したのは誤りである旨主張する。 しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。 (1)本願補正発明の特許請求の範囲(請求項1)の「予約発注対象の商品Xについてのメモリに記憶されている更新される所定のサンプリング期間の一日の最大販売実績数と平均販売実績数の比を第1の変数とし,商品の製造日から賞味期限までの日数を第2の変数として商品ごとに割り当てられてメモリに記憶されている品切れ安全係数マップから,予約発注対象の商品Xについての品切れ安全指数αを検索し出力するステップ」との記載によれば,「予約発注対象の商品Xについての品切れ安全指数α」は,「所定のサンプリング期間の一日の最大販売実績数と平均販売実績数の比を第1の変数」,「商品の製造日から賞味期限までの日数を第2の変数」を用いて求められるものであると解される。 しかし,本願明細書(甲3)には,「・・・品切れ安全指数マップから,予約発注対象の商品であるパック入り牛乳についての品切れ安全指数αを求める。」(段落【0010】),「なお,この品切れ安全指数αはそれぞれの商品について上下限の2つの係数を決めておき,例えば,1.15と1.19のように,それぞれの商品の在庫量の傾向等念頭におい(判決注・「において」の誤り)上下限のいづれか一つを適宜選択して使用することも出来る。」(段落【0011】)との記載があるが,「第1の変数」と「第2の変数」から,どのような変換方法や計算式,あるいは基準によって「品切れ安全指数α」を求めるかについての具体的な記載はない。また,本願明細書に例示された「1.15と1.19」もどのように算出されたのかについての具体的な説明はなく,結局,「第1の変数」と「第2の変数」をどのように用いるかは,経験的判断にゆだねられているものと解される。 この点について,原告らは,本願補正発明の「品切れ安全係数」は,品切れが生じた商品について,実績値によって変動する第1の変数と第2の変数という2つの指標を使ってその時の関連するデータを整理,分析し,シミュレーションを繰り返し統計的な処理を行って,設定されるものであると主張するが,データの整理,分析,シミュレーションを繰り返して行う統計的な処理の具体的な基準が示されていない以上,原告らの主張は,それ自体失当というべきである。 (2)また,商品ごとの所定の期間の販売数の変動の大きさや賞味期限等を考慮して,品切れが生じないように安全在庫量を設定することは,当業者において当然に実施すべき考慮事項であるといえる。 さらに,引例文献1(甲4)の第6図には,「補正ルール」として,商品の売上げを20%増やすケースと,100個増やすケースが記載されているように,売上予測量を欠品を防止する観点から余分な在庫量を確保するよう修正する際に,予測売上量を,リニアに補正するか(何%増しとするか),ステップ状に補正するか(何個増しとするか)は,設計的事項にすぎず,リニアに補正することによって格別な効果を奏するものとはいえない。 (3)以上のとおり,引用文献1発明において,本願補正発明に記載されたような「品切れ安全係数」(「品切れ安全指数」)によって予測値を補正すること(「相違点1に係る本願補正発明の構成」とすること)は,当業者が容易に想到し得るとした審決の判断に誤りはない。したがって,原告ら主張の取消事由2は理由がない。 3 取消事由3(相違点2の容易想到性の判断の誤り)について原告らは,?@本願補正発明では,所定のサンプリング期間の該当する曜日の来店客数を平均して求められた曜日別基準来店客数Aと将来の各曜日ごとの予測来店客数Bに基づいて曜日ごとの基準来店客数修正指数Cが求められるが,引用文献2では,曜日を無視した過去のホテルの宿泊及び宴会客数の累計とそれぞれの商品の累計売れ数から,宿泊及び宴会客一人当たりのそれぞれの売れ数を求めており,曜日ごとに相関値を求めるという技術的思想はないこと,?A引用文献1の発注量算出のベースとなる明日売上量Uは,納入i+1日前日の曜日に該当する過去の同じ曜日の数日間の売上量を平均として求めた値に全商品の売れ数に影響する来客数変動の要因となる要素及び個別商品の売れ数にのみ影響する販売個数変動の要因となる要素が,区別されずに引用文献1の第6図に示されているような経験則に基づく大雑把な補正ルールを適用して補正されたものであり,この補正の施された明日売上量Uを,引i+1用文献2に記載された技術的思想に従って,売上数の予測値を予測来店客数で比例的に補正すると,一部の変動要因が重複して適用されることとなり,最終結果である発注量に偏りが生じ,引用文献1に記載された自動発注システムを改悪することになりかねず,このような新たに生ずる問題点を解消するには,当業者が容易に推考できる範囲を超えた創意工夫が必要となることによれば,審決が,引用文献1発明において,売上量の予測値を予測来店客数で比例的に補正すること(「相違点2に係る本願補正発明の構成」とすること)は,引用文献2に記載されたものから当業者が容易に想到し得ると判断したのは誤りである旨主張する。 しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。 (1)引用文献2(甲5)には,審決が認定(審決書7頁5行〜8行)するように,「ホテル内の売店における自動発注システムにおいて,売店における過去各日の売上実績と過去各日の宿泊客数および宴会客数から,客数と売上個数との相関を求め,予測日の予約宿泊客数および予約宴会客数と,求めた相関関係から,売上予測数を算出して各日の商品の発注を行う自動発注システム」の技術が記載されていることが認められる。 そして,引用文献1発明は,「所定のサンプリング期間の曜日別販売実績を平均して曜日別基準売れ数Dを演算し出力するステップ,予約発注対象の商品Xの売価の強弱によって主として変動するその商品の販売個数変動指数βを入力し記憶するステップ,上記販売個数変動指数βと上記曜日別基準売れ数に基づいて修正基準売れ数を演算し出力するステップ」(審決認定の一致点)を有し,曜日別に売れ数の予測が行われているのであるから,引用文献1発明に,引用文献2記載の上記技術を適用するに当たって,曜日を考慮した,予測来客数と一人当たりの予想売れ数の相関値を用いる構成(相違点2に係る本願補正発明の構成)を採用することは,当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。 (2)また,一般に,様々な要素によって補正をする場合に,それらの補正が過大,過小にならないように補正すべきであることは自明であり,引用文献1発明において,引用文献2に記載された上記技術に従って,売上数の予測値を予測来店客数で補正することは,格別困難なことではなく,当業者が容易に推考できる範囲を超えた創意工夫が必要となるとまで認められない。 (3) 以上のとおり,原告ら主張の取消事由3は理由がない。 4 取消事由4(相違点3の容易想到性の判断の誤り)について(1)原告らは,相違点3において,?@審決は,「引用文献1に記載されたものは,発注量を,予測売上量と予給量の差によって最終発注量を演算するものであって,最終発注個数を演算する際,販売実績個数を用いていない」としているが,引用文献1では,発注量は納入日前日の予測売上量と予給量の「和」によって演算されており,「差」によって演算されていないから,審決は誤った前提に立つものであること,また,?A本願補正発明の請求項1では,その対象が「商品の予約発注個数決定方法」であることを明示し,「予約発注個数」という「最終発注個数」とは異なる概念を使用して説明し,「予約発注個数」が,少なくとも「最終発注個数」が仕入先に連絡される日の前日以前に事前に連絡されることを本願明細書の段落【0007】により開示しているにもかかわらず,審決が無視している点で誤りがある旨主張する。 しかし,原告らの上記主張は,いずれも失当である。 すなわち,?@については,審決は,相違点3の判断において,引用文献1発明が相違点3に係る本願補正発明の構成を備えていないことを前提に,引用文献1発明において上記構成を採用することの容易想到性の判断をしているから,原告ら主張の相違点3の引用文献1発明の内容に関する誤りは,審決の結論に直ちに影響を及ぼすものではない。?Aについても,本願補正発明の特許請求の範囲の範囲(請求項1)には,「予約発注個数」を発注先に通知するステップを有することの記載はなく,請求項1の記載から,「予約発注個数」が,単に「最終発注個数」を計算する過程で算出される途中結果にすぎない場合をも含むと解しても何ら支障はなく,また,本願明細書(甲3)の段落【0007】には,「・・・曜日別基準売れ数よりも少し多めの数量を仕入先へ予約発注し・・・」との記載はあるものの,本願明細書の他の箇所を参酌しても,予約発注個数を発注先(仕入先)に通知することが必要である旨の記載はなく,これを通知することによる作用効果についての記載もないことに照らすならば,原告らの上記主張?Aは,特許請求の範囲の記載及び明細書の記載に基づかないものとして失当である。 (2)原告らは,?@引用文献1の記載から「最終発注量を変動在庫分で補正する」点を読み取ることができないこと,?A本願補正発明の商品の発注量決定方式は,在庫量を使わないため,リードタイム間の予測在庫変動量の把握も不要な,簡単で有用な新規な方式であるのに対し,引用文献1の発注量決定方式は,その商品の納品日の予測売れ数と発注日前日末在庫量をベースとして,発注日から納品日までのリードタイム間の予測売れ数と実納品数の差,即ち予測在庫変動量で,発注日前日末在庫量を修正して納品日前日末の在庫量を推定して,発注量を決めるものであり,この方式では発注日にその後のリードタイム間の実在庫変動を把握することは不可能であるため予測在庫変動量が使われ,当然に納品日前日末の在庫量の推定精度は低く,本願補正発明の商品の発注量決定方式とは全く技術的思想が異なることによれば,審決が,「引用文献1において予測値に基いて最終発注量を算出する際,上記相違点3に係るようなステップを設けて,最終的な発注量を決定するようにすることは当業者が容易に想到し得る」と判断したのは,誤りである旨主張する。 しかし,原告らの主張は,以下のとおり理由がない。 ア前記認定のとおり,引用文献1には,「本実施例では,毎日発注,2日後に配送という発注業務に関するものであったが,毎日発注でなく・・・また,2日後に配送というだけでなく,納品が商品ごとに異なる場合や時期によって異なる場合もある。それらの場合にも,発注量計算式や診断ルールの内容等は異なるが,本方式と同じように適用することができる。」との記載があること(前記1(2)ア(ケ))に照らすならば,引用文献1において,商品の納入日を,発注日の翌々日から発注日の翌日とすることは,当業者であれば適宜なし得ることと認められる。 イそして,引用文献1の第13図(b)の発注計算式の「前日末在庫量Z 」は,前日末在庫量を実際に数えて確認しなくても,前々日の在庫量i-1に,前日の納入個数とその日の販売実績個数との差を加えることにより把握できることは自明であるから,引用文献1発明において,商品の納入日を,発注日の翌々日(明後日)から発注日の翌日(明日)とした上で,発注日の前日(納入日の前々日)の販売実績個数と納入個数との差を修正個数とするステップとし,相違点3に係る本願補正発明の構成(「その前々日の販売実績個数とその日の納入個数に相当する最終発注個数との差を演算し,その差をその該当する曜日の先に演算・出力された予約発注個数から差し引くべきあるいは追加すべき予約発注修正個数として出力するステップ,およびその該当する曜日の上記予約発注個数にあるいはからその該当する曜日の上記予約発注修正個数を加算あるいは差し引くステップ」)を採用することは,当業者であれば容易に想到し得るものと認められる。 ウ以上のとおり,引用文献1発明において,相違点3に係る本願補正発明の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得るとした審決の判断に誤りはない。したがって,原告ら主張の取消事由4は理由がない。 5 結論以上のとおり,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告らの本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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裁判官 | 大鷹一郎 |
裁判官 | 嶋末和秀 |