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関連審決 無効2006-80200
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10202審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10403審決取消請求事件 判例 特許
平成18行ケ10449審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10333審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10054審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  一致点の認定 /  周知技術 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  先願発明との同一性 /  上位概念 /  出願公開 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  実質的に同一 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  実施 /  交換 /  設定登録 /  発明の範囲 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10279号 審決取消請求事件
原告株式会社富士トレーラー製作所
訴訟代理人弁理 士黒田勇治
被告松山株式会社
訴訟代理人弁理 士樺澤襄
同 樺澤聡
同 山田哲也
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/03/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が無効2006−80200号事件について平成19年6月19日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文第1項と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成8年7月31日,発明の名称を「整畦機」とする発明について特許出願(特願平8-202574号。以下「本件出願」という。)をし,平成18年4月28日,特許庁から特許第3796592号(請求項の数1。以下「本件特許」という。)として特許権の設定登録を受けた。
本件特許に対し被告から特許無効審判請求(無効2006-80200号事件)がされ,特許庁は,平成19年6月19日,「特許第3796592号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同月29日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件特許に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】走行機体に連結機構により機枠を連結し,該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け,該盛土機構の上方にカバー部材を設け,該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり,上記整畦機構は畦の一方側面を整畦可能な円錐状の外周面及び畦の上面を整畦可能な円錐状の外周面を有する回転整畦体と該回転整畦体を回転させる回転機構とからなり,上記機枠に駆動軸を設けると共に該駆動軸の軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置し,該駆動軸の下部に上記回転機構を連設し,該駆動軸の上部に上記回転整畦体を設けると共に該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成したことを特徴とする整畦機。」3 審決の内容審決の理由の要旨は,以下のとおりである(別紙審決書写し参照)。
(1)審決は,本件発明と,本件出願の出願日前の他の出願であって,本件出願の出願後に出願公開がされたもの(特願平8-151423号)の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下,この明細書及び図面を併せて「先願明細書」という。甲1)に記載された発明(以下「先願発明」という。)とを対比し,以下のとおりの一致点及び相違点を認定した。
(一致点)「走行機体に連結機構により機枠を連結し,該機枠に旧畦上に土を盛り上げる盛土機構を設け,該盛土機構の上方にカバー部材を設け,該盛土機構の進行方向後方位置に盛土を締圧整畦可能な整畦機構を設けてなり,上記整畦機構は畦の一方側面を整畦可能な円錐状の外周面及び畦の上面を整畦可能な円錐状の外周面を有する回転整畦体と該回転整畦体を回転させる回転機構とからなり,上記機枠に駆動軸を設けると共に該駆動軸の軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置し,該駆動軸に上記回転機構を連設し,該駆動軸に上記回転整畦体を設けると共に該回転整畦体の回転軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置して構成した整畦機。」である点。
(相違点)駆動軸,回転機構及び回転整畦体の配置構成に関して,本件発明が「駆動軸の下部に上記回転機構を連設し,該駆動軸の上部に上記回転整畦体を設ける」ものとしたのに対して,先願発明がこのような配置構成を用いていない点。
(2)そして,審決は,?@「上記した特許請求の範囲の記載からすると,先願発明において,その回転機構や駆動軸の配置構成を「該回転軸31の上部に上記回転伝達機構(スプロケット37,無端チェーン39,スプロケット38及び第2の出力軸23)を連設し,該回転軸31の中間部に上記側面修正体33及び上面修復体35を設ける」構成とした点は,先願明細書における一実施例の構成として例示したものであるに止まり,同先願明細書の記載全体から把握される発明は,当該具体的な構成までを必須の構成とするものではなく,このような具体的な構成に限定されない発明をも包含するものであると解することができる。」(審決書13頁20行〜28行),?A「また,上記した従来技術である「特開平6-22604号公報」の記載事項につき,甲第2号証の記載を参酌すると,その図1に,・・・また,その図9に,・・・示されていることからすると,先願明細書には,・・・水平状の回転軸の軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ向かう方向に配置し,該水平状の回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該水平状の回転軸の他端側に回転整畦体を設けるように配置構成することは,従来より周知の技術であることが併せて記載されているということができる。」(同13頁29行〜14頁3行),?B「以上のことから,・・・先願明細書の記載全体から把握される発明には,その畦塗り体(回転整畦体)の回転機構や駆動軸の配置構成に関して,先願明細書における一実施例の構成として例示した構成を備えるものに加えて,従来より周知の技術であったところの回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該回転軸の他端側に回転整畦体を設けるようにした配置構成を備えるものも含まれるというべきである。そして,先願発明における駆動軸,回転機構及び回転整畦体の配置構成として,上記周知の配置構成を採用した場合には,先願発明の「回転軸31」はその軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ斜め上方に向かう所定角度の上向き方向に配置されているのであるから,結果として,相違点に係る本件発明の構成であるところの「駆動軸の下部に上記回転機構を連設し,該駆動軸の上部に上記回転整畦体を設ける」という構成となることも明らかである。」(同14頁4行〜15行)と認定した上で,?C「相違点に係る本件発明の構成は,先願明細書に記載された事項から当業者が自明な事項として把握できる」(同14頁16行〜17行)と判断し,?D本件発明は,先願発明と実質的に同一であり,本件特許は,特許法29条の2の規定に違反してされたと結論づけた。
当事者の主張
1 審決の取消事由に関する原告の主張審決には,以下のとおり,先願発明の認定,本件発明と先願発明との同一性の判断に誤りがある。
なお,審決がした一致点の認定に誤りがないことは認める。
(1) 先願発明の構成に関する認定の誤りア 本件発明及び先願発明の各基本構成の認定の誤り(ア)先願発明は,回転整畦体を「両持状態」に支持する構成を基本構造としているのに対し,本件発明及び甲2(特開平6-22604号公報)記載の発明は,いずれも回転整畦体を「片持状態」に支持する構成を基本構造としている。
そして,?@「両持状態」の場合,回転整畦体の振れ回り回転を確実に防止し,かつ,軸受構造の簡易化を図ることができるのに対し,「片持状態」の場合,簡易な軸受構造により回転整畦体の振れ回り回転を確実に阻止することは困難であり,軸受構造を頑丈な構造にしなければならない,?A「両持状態」の場合,回転整畦体の取り付けや交換は,少なくとも一方の軸受部分を取り去ると同時に両軸受部分間の間隔を調整しなければならないので簡単ではないのに対し,「片持状態」の場合,回転整畦体の取り付けや高い畦や低い畦に応じてなす回転整畦体の交換は,軸方向の抜き差しのみで極めて容易に行うことができる,?B「両持状態」の場合,両軸受部分が存在する構造のため,回転整畦体の機械本体に対する配置及び対畦角度の融通性は比較的低いのに対し,「片持状態」の場合,軸受構造部分は一方側にのみ存在する構造のため,その融通性が高い,?C「両持状態」の場合,回転整畦体の先端部側の軸受構造部分により先端部が膨れ出した構造となるため,畦を境にして隣り合う他人の田んぼの畦に侵入することになり,整畦作業を行う農家にとっては,非常に重要な問題となることがあるのに対し,「片持状態」の場合,先端部側に余計な膨れ出し構造がなく,安心して整畦作業を行うことができるなど,それぞれ長所,短所があり,これらを考慮して「両持状態」にするか,「片持状態」にするかが決定されるのであるから,先願発明と本件発明とは,基本的に技術的意義が異なる別個の発明である。
(イ)したがって,回転整畦体を「片持状態」に支持する構成が基本構造となっている甲2の図面において,「水平状の回転軸の軸線を畦の一方側面の側方から畦側へに向かう方向に配置し,該水平状の回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該水平状の回転軸の他端側に回転整畦体を設けるように配置構成すること」の記載があるからといって,回転整畦体を「両持状態」に支持する構成が基本構造となっている先願明細書(甲1)に,上記配置構成が周知の技術として併せて記載されているということはできず,これが記載されているとした審決の認定は誤りである。
以上のとおり,先願発明と本件発明とは,技術的思想が異なり,発明の同一性がない。
イ 相違点に係る認定判断の誤り(ア)審決は,先願明細書の記載全体から把握される発明には,先願明細書における一実施例の構成として例示した「具体的な構成に限定されない発明をも包含するものであると解することができる」とした上で,相違点に係る本件発明の構成を備えるものを含むと認定した。
しかし,審決の上記認定は,先願発明の範囲上位概念置き換えて認定したものであって,先願明細書(甲1)には,「駆動軸の下部に上記回転機構を連設し,該駆動軸の上部に上記回転整畦体を設ける」との構成(相違点に係る本件発明の構成)については,直接間接いずれの観点からも,記載及び示唆がない。
したがって,本件発明が,上位概念で把握された先願発明に含まれるとした審決の上記認定判断は失当である。
(イ)また,甲2に記載されている構成は,「回転軸の軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ向かう方向に水平状に配置し,水平状の回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,水平状の回転軸の他端側に回転整畦体を設ける」というものに止まるものであり,このような記載を参酌したからといって,「片持で動力伝達系統が下部から」の構成が先願明細書の記載全体から把握される発明に含まれると認定することはできない。なぜなら,上記回転軸は,構造上,これを支持する支持機構を必須とするが,上記ア(ア)のとおり,先願発明にあっては,回転整畦体を「両持状態」に支持する構成を基本構造とし,「片持で動力伝達系統が下部から」の構成を含むものではないからである。
(2) 本件発明の作用効果に関する認定の誤り審決が,「特に,「装置全体の機高を低くすることができて小型化を図ることができる」という請求人が強調する作用効果も,・・・先願明細書に記載されたところの上記周知の技術を用いた場合に結果として得られるものであることも,先願明細書に記載された事項から当業者が(自明な事項として)把握できるものというべきである。」(審決書15頁11行〜15行)と判断したが,以下のとおり誤りである。
すなわち,審決は,先願発明との関係において甲2を周知技術として解釈したり,甲2に示唆すらされていないのに甲2の図1,図9を憶測で変形して「自明な事項」と広く解釈した誤りがある。
そして,「装置全体の機高を低くすることができて小型化を図ることができる」という本件発明の作用効果は,相違点に係る本件発明の構成を採用したことにより,はじめて奏することができるものである。
また,「両持状態」を基本構造とする先願発明からは得られない「片持状態」を基本構造とする本件発明がもたらす様々な作用効果,特に,回転整畦体の取り付けや高い畦や低い畦に応じてなす回転整畦体の交換を軸方向の抜き差しのみで極めて容易に行うことができるという作用効果は,先願発明の「該駆動軸(回転軸31)の上部に上記回転機構(スプロケット37等)を連設し,該駆動軸(回転軸31)の中心部に上記回転整畦体(側面修復体33および上面修復体35)を設けると共に」という構成からは望めない新たな作用効果であり,この点からも,先願発明と本件発明とは実質的に同一であると認定することはできない。
したがって,本件発明の作用効果が,「先願明細書に記載された事項から当業者が(自明な事項として)把握できる」との審決の認定は誤りである。
(3) 小括以上のとおり,本件発明が先願発明と実質的に同一であるとの審決の認定判断は誤りである。
2 被告の反論(1) 先願発明の構成に関する認定の誤りの主張に対しア 本件発明及び先願発明の各基本構成について(ア)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)には,「該駆動軸の下部に上記回転機構を連設し,該駆動軸の上部に上記回転整畦体を設ける」と記載されているに止まり,駆動軸の上端部を支持板等で支持して「両持状態」にすることを排除していない。本件発明が「片持状態」の構成を基本構造とするものであるとの原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
(イ)「両持状態」の構成にするか,「片持状態」の構成にするかは,当業者の技術常識の範囲内において適宜決定される設計的事項であり,先願発明と本件発明とは技術的意義が異なる別発明であるとの原告の主張は理由がない。
原告の主張に係る「片持状態」の構成に基づく作用効果(長所)は,いずれも両持から片持に変更すれば結果として必然的に得られるものであり,整畦機の分野の当業者にとって自明な事項である。「片持状態」の本件発明の明細書(以下,図面と併せて,「本件明細書」という。甲4)のみならず,原告が提出した平成17年11月5日付け意見書(乙1)及び平成19年1月5日付け審判事件答弁書(甲7)にも,上記作用効果(長所)について一切記載がない。
(ウ)先願明細書には,一実施例として,「両持状態」の構成が記載されているとみるべきである。仮に原告の主張のように先願発明が「両持状態」の構成を基本構造とするものであれば,先願明細書の特許請求の範囲において「両持状態」の構成が必須の構成として限定的に記載され,また,先願明細書の発明の詳細な説明中にはその「両持状態」の構成に基づく作用効果の記載があるはずであるが,そのような記載はない。
イ 相違点に係る認定判断について先願明細書には,相違点に係る本件発明の構成に関して,直接的な記載がない。しかし,先願明細書に,「水平状の回転軸の軸線を畦の一方側面の側方から畦側へ向かう方向に配置し,水平状の回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,水平状の回転軸の他端側に回転整畦体を設けるように配置構成する」という周知技術が記載されていることを考慮すると,相違点に係る本件発明の構成は,先願明細書に記載された事項から当業者が自明な事項として把握することができ,その相違点の構成は,先願明細書に実質的に記載されているというべきである。
(2) 本件発明の作用効果に関する認定について「両持状態」の構成とするか「片持状態」の構成とするかは,当業者の技術常識の範囲内において適宜決定される設計的事項であり,「両持状態」による作用効果と「片持状態」による作用効果とにも何ら格別な差異はない。
(3) 小括以上のとおり,先願発明と本件発明とは技術的意義が異なる別発明であるとはいえず,相違点に係る本件発明の構成は先願明細書に記載された事項から当業者が自明な事項として把握できるものであり,本件発明が先願発明と実質的に同一であるとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
当裁判所は,以下のとおり,審決には,本件発明と先願発明とが実質的に同一であるとした判断の誤りがあり,原告主張の取消事由は理由があると判断する。
1 先願発明の構成に関する認定の誤りの有無(1)まず,相違点に係る本件発明の構成が,先願明細書に記載,開示されているか否かの点について判断する。
ア 先願明細書の記載(ア) 先願明細書(甲1)には,次のような記載がある。
a特許請求の範囲として,「【請求項1】機枠と,この機枠に回転自在に設けられ畦塗り用の泥土を切削して跳ね上げる多数の切削爪を有するロータリーと,このロータリーの後方に位置して前記機枠に回転自在に設けられ前記ロータリーの各切削爪にて跳ね上げられた泥土を旧畦に塗り付けて旧畦を修復する畦塗り体とを具備し,前記畦塗り体は,前記旧畦の側部を下方に向かって拡開した傾斜面に修復する円錐形状の側面修復体と,この側面修復体の縮径端部に連設されこの縮径端部から外方に向かって拡開して突出し前記旧畦の上部を水平状面に修復する円錐形状の上面修復体とを有し,前記側面修復体にて前記旧畦の側部を傾斜面に修復可能にかつ前記上面修復体にて前記旧畦の上部を水平状面に修復可能に前記畦塗り体を前記旧畦に対して所定の角度に傾斜して配設することを特徴とする畦塗り機。」,「【請求項2】側面修復体に上面修復体を連設した縮径連設部を旧畦の肩部を修復する肩修復部としたことを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。」,「【請求項3】側面修復体と上面修復体の少なくとも一方を拡開方向の平面状部と角部とを交互に有する多面体にて円錐形状に形成することを特徴とする請求項1または2記載の畦塗り機。」b「【発明の属する技術分野】本発明は畦塗り機に係り,主として水田を区画する旧畦を畦塗り修復して水漏れを防ぐものに関する。」(段落【0001】)c「【従来の技術】従来,この種の畦塗り機としては,たとえば,特開平6-22604号公報に記載されているように,機枠に畦成形部(旧畦)に対して土盛りする耕耘爪を有するロータリーを回転自在に設け,このロータリーの後方部に位置して前記機枠に畦成形部の盛り土を固めて畦を形成する回転具を回転自在に設け,この回転具は,その図1に示すように,水平状の回転軸に畦上面を形成する円筒状の回転体並びにこの回転体の両端部に畦の内外側面を形成する円錐面を有する内側回転板及び外側回転板を固着する構成が知られている。また,前記回転具は,その図9に示すように,前記水平状の回転軸に外側回転板を省略して前記回転体及びこの回転体の内端部に固着した円錐面を有する内側回転板を固着する構成が知られている。」(段落【0002】)d「【発明が解決しようとする課題】前記公報に記載の構成では,水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着され,かつ,この回転体は円筒状のため,畦形成時には畦側面を形成する回転板の円錐面にて泥土が畦裾部から畦肩上に向かって押し上げられ,この泥土と畦上面を形成する円筒状の回転体にて前方に押される泥土とにより,回転体の前方には土量が膨れ上がった土溜まりが生じるとともに,この土溜まりの泥土が回転体の側方部に押し出され易く,また,進行時には土溜まりが抵抗となって円筒状の回転体が押し上げられ易く,したがって,畦の上部及び畦肩部を十分に締め固めることができず,畦肩部から畦が崩れ易く長期に耐える畦を畦塗り整畦する上で好ましくない,という問題がある。」(段落【0003】)e「本発明は,このような点に鑑みてなされたもので,旧畦の側部及び上部はもとより旧畦の畦肩部を十分に締め固めることができ,畦肩部から畦が崩れ難く旧畦を長期に耐え得る畦に修復することができる畦塗り機を提供することを目的とするものである。」(段落【0004】)f「【発明の効果】請求項1の発明によれば,側面修復体にて旧畦の側部を傾斜面に修復可能にかつ上面修復体にて旧畦の上部を水平状面に修復可能に畦塗り体を旧畦に対して所定の角度に傾斜して配設するので,側面修復体にて旧畦の側部を修復する際の泥土は側面修復体の縮径側の旧畦の肩部に向かって押し上げ誘導できるとともに,上面修復体にて旧畦の上部を修復する際の泥土は上面修復体の縮径側の旧畦の肩部に向かって誘導でき,これらの泥土は側面修復体に上面修復体を連設した相互の縮径端部にて旧畦の肩部に順次塗り付け旧畦の肩部を固く締め固めることができ,したがって,旧畦は側部及び上部はもとより肩部を十分に締め固めて修復することができ,肩部から畦が崩れ難く旧畦を長期に耐え得る畦に確実に修復することができる畦塗り機を提供できる。」(段落【0046】),「請求項2の発明によれば,側面修復体に上面修復体を連設した縮径連設部を旧畦の肩部を修復する肩修復部としたので,この肩修復部にて泥土を旧畦の肩部に順次塗り付け旧畦の肩部を弧状に固く締め固めて修復することができる。」(段落【0047】),「請求項3の発明によれば,側面修復体と上面修復体の少なくとも一方を拡開方向の平面状部と角部とを交互に有する多面体にて円錐形状に形成するので,この側面修復体と上面修復体の少なくとも一方の各角部にて泥土が旧畦の側部や旧畦の上部に対して強く押し込まれて塗り付けられ,旧畦の側部や上部を十分に固く締め固めて修復することができる。」(段落【0048】)g「【発明の実施の形態】以下,本発明の一実施の形態を添付図面を参照して説明する。1は機枠で,この機枠1は主枠兼用の前後方向のミッションケース2を有し,このミッションケース2の前端部には前後方向の入力軸3が前方に向かって回転自在に突出され,・・・」(段落【0011】,【0012】),「つぎに,前記ミッションケース2の後側部の右側には軸受体21を有する中空パイプ状の第2の伝動フレーム22が右側上方に向かって傾斜して一体に突設され,この第2の伝動フレーム22内には第2の出力軸23が回転自在に挿通され,この第2の出力軸23の内端部が前記軸受体21にて回転自在に支持され,この第2の出力軸23の外端部が前記第2の伝動フレーム22の外端部内に設けられた軸受体24にて回転自在に支持されている。」(段落【0020】),「また,前記第2の伝動フレーム22の外端部にはこの第2の伝動フレーム22に対して直交する状態で上下方向の伝動ケース26が下方に向かって回動可能に取着されている。また,前記第2の伝動フレーム22の中間部にはこの第2の伝動フレーム22に対して直交する状態で上下方向のブラケット27が前記伝動ケース26と平行に下方に向かって回動可能に取着されている。」(段落【0021】),「前記畦塗り体30は,前記伝動ケース26とブラケット27との下端部間に前記第2の伝動ケース22と平行にかつ前記旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して軸架された回転自在の回転軸31と,この回転軸31を回転中心としてこの回転軸31に支持板32を介して固着され前記旧畦Aの側部Bを下方に向かって拡開した傾斜面に修復する円錐形状の側面修復体33と,この側面修復体33の縮径端部34に一体に連設されこの縮径端部34から外方に向かって拡開して突出し前記旧畦Aの上部Cを水平状面に修復する円錐形状の上面修復体35とを有している。また,前記側面修復体33の縮径端部34に前記上面修復体35を一体に連設した縮径連設部が旧畦Aの肩部Dを弧状に修復する肩修復部36として形成されている。」(段落【0024】),「また,前記回転軸31の一端部は前記伝動ケース26の下端部内に突出され,この回転軸31の突出端部にはスプロケット37が固着され,前記伝動ケース26の上端部内に突出された前記第2の出力軸23の突出端部にはスプロケット38が固着され,この上下のスプロケット38とスプロケット37との間には無端チェーン39が回行自在に懸架されている。」(段落【0027】)イ 記載内容の検討(ア)上記によれば,先願明細書には,以下の点が記載,開示されている。すなわち,?@特開平6-22604号公報(甲2)に記載された従来の整畦機(「畦塗り機」)は,「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着され,かつ,この回転体は円筒状」の構成であるため,「畦の上部及び畦肩部を十分に締め固めることができず,畦肩部から畦が崩れ易く長期に耐える畦を畦塗り整畦する上で好ましくない,という問題」があったこと,?Aこの問題を解決するため,先願明細書記載の整畦機においては,畦塗り体(「回転体」ないし「回転整畦体」)について,「前記旧畦の側部を下方に向かって拡開した傾斜面に修復する円錐形状の側面修復体」と,「この側面修復体の縮径端部に連設されこの縮径端部から外方に向かって拡開して突出し前記旧畦の上部を水平状面に修復する円錐形状の上面修復体」とを有する構成とし,畦塗り体の配置について,「側面修復体」により「前記旧畦の側部を傾斜面に修復可能」にかつ「上面修復体」により「前記旧畦の上部を水平状面に修復可能」になるように「前記畦塗り体を前記旧畦に対して所定の角度に傾斜して配設」する構成としたこと,?B先願明細書記載の整畦機は,畦塗り体の上記構成により,「旧畦は側部及び上部はもとより肩部を十分に締め固めて修復することができ,肩部から畦が崩れ難く旧畦を長期に耐え得る畦に確実に修復することができる畦塗り機を提供できる」効果を奏することが記載されていることが認められる。
(イ)しかし,先願明細書には,畦塗り体の駆動軸と畦塗り体を回転させる回転機構との配置構成について,特許請求の範囲に記載はない。
また,先願明細書には,実施例として(上記(ア)g),畦塗り体30を旧畦Aに対して所定の角度に傾斜して配設するために,回転伝達機構(第2の伝動フレーム22内に設けられた第2の出力軸23,伝動ケース26内に設けられたスプロケット37,無端チェーン39及びスプロケット38)の下部に,畦塗り体30の回転軸31を連設(具体的には,伝動ケース26及びブラケット27により回転軸31を軸架して連設)した構成が記載されているが,同構成では,畦塗り体30の駆動軸である回転軸31の「上部に」,回転機構(回転伝達機構)が連設されており,相違点に係る本件発明の構成(「駆動軸の下部に上記回転機構を連設し,該駆動軸の上部に上記回転整畦体を設ける」構成)とは,配置構成が異なる。そして,先願明細書には,畦塗り体の駆動軸と回転機構との配置構成について,上記実施例記載の構成以外の記載はなく,他の構成を適用できることの明示の示唆もない。
(ウ)もっとも,先願明細書には,甲2(特開平6-22604号公報)記載の従来の整畦機として,「水平状の回転軸に畦上面を形成する円筒状の回転体並びにこの回転体の両端部に畦の内外側面を形成する円錐面を有する内側回転板及び外側回転板を固着する構成」及び「前記水平状の回転軸に外側回転板を省略して前記回転体及びこの回転体の内端部に固着した円錐面を有する内側回転板を固着する構成」が開示されている(上記(ア)c)。しかし,「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着され,かつ,この回転体は円筒状」との構成は,【発明が解決しようとする課題】として言及されているにすぎず(上記(ア)d),先願明細書記載の整畦機が採用した構成と異なることは明らかである。また,上記構成の一部である「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着」するとの構成のみを切り離して,先願明細書記載の整畦機において適用できることや,これを適用した場合の具体的配置構成についての記載は一切ない。
そして,上記(イ)のとおり,先願明細書には,先願明細書記載の整畦機の実施例として,畦塗り体30の駆動軸である回転軸31の「上部に」,回転機構(回転伝達機構)が連設された構成以外の構成の記載がなく,他の構成が適用できることを明示的に示唆する記載もないことに照らすならば,先願明細書に接した当業者が,先願明細書記載の整畦機に,甲2記載の従来の整畦機の構成の一部である「水平状の回転軸に円錐面を有する回転板及び回転体が固着」するとの構成,ひいては,審決にいう「回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該回転軸の他端側に回転整畦体を設けるようにした配置構成」が実質的に記載されていると理解すべき事情があるとはいえない。
(エ)これに対し被告は,特許請求の範囲には「両持状態」の構成の記載はないこと,「両持状態」の構成が示されているのは実施例にすぎないことから,相違点に係る本件発明の構成は,先願明細書に記載された事項から当業者が自明な事項として把握できる旨主張する。
しかし,既に説示したとおり,先願明細書の記載からは,先願明細書記載の整畦機に「回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該回転軸の他端側に回転整畦体を設けるようにした配置構成を備えるもの」が含まれるということはできないから,被告の主張を採用することができない。
ウ 小括以上のとおりであって,先願明細書には,「回転軸の一端側に回転伝達機構を連設し,該回転軸の他端側に回転整畦体を設けるようにした配置構成を備える」整畦機の発明が記載されているので,相違点に係る本件発明の構成も記載されていることは自明であるとした審決の認定は誤りである。
(2) 本件発明の作用効果に関する認定の誤りの有無ア前記(1)のとおり,先願明細書に相違点に係る本件発明の構成が記載されていることは自明であるとはいえない。
また,本件明細書(甲4)の段落【0021】,【0033】等の記載に照らすならば,本件発明は,相違点に係る本件発明の構成を採用することにより,「回転整畦体の垂直方向の高さを低くすることができてそれだけ装置全体の機高を低くすることができて小型化を図ることができる」との作用効果を奏することが認められ,この点は先願明細書に記載のない作用効果である。
イしたがって,本件発明の作用効果が,「先願明細書に記載された事項から当業者が(自明な事項として)把握できる」との審決の認定は誤りである。
2 結論以上のとおり,本件発明は先願発明と実質的に同一であるとした審決の判断は誤りであり,これと同旨の原告主張の取消事由は理由がある。よって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀