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関連審決 不服2006-12364
関連ワード 進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  寄せ集め /  周知技術 /  限定的減縮 /  登録実用新案 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の理由 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10074号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁護士高橋淳
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人森川元嗣,阿部寛,中田誠二郎,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/03/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2006−12364号事件について平成18年12月25日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「空気清浄装置」とする発明につき,平成12年2月8日に出願した特願2000-30900号の一部を分割して,平成17年8月18日,新たな出願(以下「本件出願」という。)とした。本件出願について,原告は,同年12月27日付け手続補正書による補正を行ったが,平成18年5月9日付けの拒絶査定を受けたため,同年6月15日,審判を請求し,同年7月14日付け手続補正書(甲第22号証)を提出した。
特許庁は,上記審判請求を不服2006-12364号事件として審理した結果,平成18年12月25日,上記7月14日付け手続補正書による手続補正(以下,審決と同様に「本件補正」という。)を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,平成19年1月22日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲(1)本件補正前の本件出願の請求項1,2及び4(平成17年12月27日付け手続補正書による補正後のもので,請求項は全部で6項である。)は,次のとおりである(以下,請求項1,2及び4に係る発明をそれぞれ「補正前発明1,2及び4」といい,請求項全部に係る発明を「補正前発明」という。)。
【請求項1】給電部に装着される被給電部を一端に有し,他端に吹き出し口が設けられ,中心軸線を有する電球型のケースと,このケース内に収納され,前記被給電部からの交流を直流に変換する交流直流変換器と,前記ケース内に収納され,前記交流直流変換器からの電圧を昇圧する昇圧トランスと,前記ケース内に収納され,前記昇圧トランスに接続されたマイナスイオン発生器と,前記ケース内に収納され,前記被給電部からの電力によって点灯する照明灯とからなり,前記マイナスイオン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる電極を備え,この電極に高電圧が印加されることにより,放電が起こってマイナスイオンを前記吹き出し口から放出する,ことを特徴とする空気清浄装置。
【請求項2】給電部に装着される被給電部を一端に有し,他端に吹き出し口が設けられ,中心軸線を有する電球型のケースと,このケース内に収納され,前記被給電部からの交流を直流に変換する交流直流変換器と,前記ケース内に収納され,前記交流直流変換器からの電圧を昇圧する昇圧トランスと,前記ケース内に収納され,前記昇圧トランスに接続されたマイナスイオン発生器と,前記ケースの他端に設けられ,前記被給電部からの電力によって点灯する照明灯とからなり,前記マイナスイオン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる電極を備え,この電極に高電圧が印加されることにより,放電が起こってマイナスイオンを前記吹き出し口から放出する,ことを特徴とする空気清浄装置。
【請求項4】給電部に装着される被給電部を一端に有し,他端に吹き出し口が設けられるとともに,内部へ空気を取り入れる開口が設けられ,中心軸線を有する電球型のケースと,このケース内に収納され,前記被給電部からの交流を直流に変換する交流直流変換器と,前記ケース内に収納され,前記交流直流変換器からの電圧を昇圧する昇圧トランスと,前記ケース内に収納され,前記昇圧トランスに接続されたオゾン発生器と,前記ケースの他端に設けられ,前記被給電部からの電力によって点灯する照明灯とからなり,前記オゾン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる第1電極と,この第1電極と同心の円形開口部を有し,前記第1電極と対峙する第2電極とを備え,この両電極間に高電圧が印加されることにより,前記両電極間で放電が起こってマイナスイオンとオゾンとを含む空気流を前記第1電極側から前記第2電極側へ流すとともに,前記吹き出し口から放出する,ことを特徴とする空気清浄装置。
(2)本件補正後の本件出願の請求項1,2及び4(請求項は全部で6項である。)は,次のとおりである(補正部分を下線で示す。以下,本件補正後の請求項1,2及び4に係る発明をそれぞれ「補正発明1,2及び4」といい,請求項全部に係る発明を「補正発明」という。本件補正後の明細書を「本件明細書」という。なお,補正前発明4と補正発明4は同一である。)。
【請求項1】給電部に装着される被給電部を一端に有し,他端に吹き出し口が設けられ,中心軸線を有する電球型のケースと,このケース内に収納され,前記被給電部からの交流を直流に変換する交流直流変換器と,前記ケース内に収納され,前記交流直流変換器からの電圧を昇圧する昇圧トランスと,前記ケース内に収納され,前記昇圧トランスに接続されたマイナスイオン発生器と,前記ケース内に収納され,前記被給電部からの電力によって点灯する照明灯とからなり,前記マイナスイオン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる1つの電極のみを備え,この1つの電極に高電圧が印加されることにより,放電が起こってマイナスイオンを前記吹き出し口から放出する,ことを特徴とする空気清浄装置。
【請求項2】給電部に装着される被給電部を一端に有し,他端に吹き出し口が設けられ,中心軸線を有する電球型のケースと,このケース内に収納され,前記被給電部からの交流を直流に変換する交流直流変換器と,前記ケース内に収納され,前記交流直流変換器からの電圧を昇圧する昇圧トランスと,前記ケース内に収納され,前記昇圧トランスに接続されたマイナスイオン発生器と,前記ケースの他端に設けられ,前記被給電部からの電力によって点灯する照明灯とからなり,前記マイナスイオン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる1つの電極のみを備え,この1つの電極に高電圧が印加されることにより,放電が起こってマイナスイオンを前記吹き出し口から放出する,ことを特徴とする空気清浄装置。
【請求項4】給電部に装着される被給電部を一端に有し,他端に吹き出し口が設けられるとともに,内部へ空気を取り入れる開口が設けられ,中心軸線を有する電球型のケースと,このケース内に収納され,前記被給電部からの交流を直流に変換する交流直流変換器と,前記ケース内に収納され,前記交流直流変換器からの電圧を昇圧する昇圧トランスと,前記ケース内に収納され,前記昇圧トランスに接続されたオゾン発生器と,前記ケースの他端に設けられ,前記被給電部からの電力によって点灯する照明灯とからなり,前記オゾン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる第1電極と,この第1電極と同心の円形開口部を有し,前記第1電極と対峙する第2電極とを備え,この両電極間に高電圧が印加されることにより,前記両電極間で放電が起こってマイナスイオンとオゾンとを含む空気流を前記第1電極側から前記第2電極側へ流すとともに,前記吹き出し口から放出する,ことを特徴とする空気清浄装置。
3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,?@補正発明4は,特開平10-152307号公報(甲第1号証。以下「甲1刊行物」という。)記載の発明(以下「甲1発明」という。),特表平9-508065号公報(甲第2号証。以下「甲2刊行物」という。)記載の発明(以下「甲2発明」という。)並びに甲1刊行物,甲2刊行物及び米国特許第5847514号明細書(甲第3号証。以下「甲3刊行物」という。)記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により,本件出願の際独立して特許を受けることができないから本件補正は却下されるべきであり,?A補正前発明4も同様に,甲1発明及び甲2発明並びに甲1ないし3刊行物記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない,とするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,甲1発明の内容並びに補正発明4と甲1発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)甲1発明の内容電源ジャック22を後ろ側周壁に有し,上部に開口13aが設けられるとともに,空気を取り込むスリット12bが設けられ,中心軸線を有する円筒状のケース11と,ケース本体12の底に取り付けられ,電源ジャック22から電力が供給される昇圧トランス23と,前記ケース11内に配設され,前記昇圧トランス23からの電力が供給されるオゾン発生機構31と,前記オゾン発生機構31は,前記中心軸線と平行で,前記開口13aへ向かって延びる第1電極33と,この第1電極33と同心の円形開口部34aを有し,前記第1電極33と対峙する第2電極34とを備え,第1電極33と第2電極34との間に昇圧トランス23から直流の高電圧が印加されることにより,第1電極33と,第2電極34の孔34aのエッジとの間にコロナ放電が起こってマイナスイオンとオゾンとを含むマイナスイオン風の気流が第1電極33側から孔34a,開口13a,孔42を通過するように発生し,マイナスイオン風が前記開口13aから放出されるオゾン発生装置。
(2)一致点給電部に装着される被給電部を有し,吹き出し口が設けられるとともに,内部へ空気を取り入れる開口が設けられ,中心軸線を有するケースと,このケース内に収納され,電圧を昇圧する昇圧トランスと,前記ケース内に収納され,前記昇圧トランスに接続されたオゾン発生器と,前記オゾン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる第1電極と,この第1電極と同心の円形開口部を有し,前記第1電極と対峙する第2電極とを備え,この両電極間に高電圧が印加されることにより,前記両電極間で放電が起こってマイナスイオンとオゾンとを含む空気流を前記第1電極側から前記第2電極側へ流すとともに,前記吹き出し口から放出する空気清浄装置である点(3)相違点?@補正発明4は,被給電部を一端に有し,他端に吹き出し口が設けられた電球型のケースであるのに対し,甲1発明は,被給電部を後ろ側周壁に有し,上部に吹き出し口が設けられた円筒状のケースである点(以下,審決と同様に「相違点1」という。)?A補正発明4では,ケース内に収納された被給電部からの交流を直流に変換する交流直流変換器を備え,昇圧トランスは,交流直流変換器からの電圧を昇圧するのに対し,甲1発明では,交流直流変換器を備えず,昇圧トランスは,電源ジャック22からの電圧を昇圧する点(以下,審決と同様に「相違点2」という。)?B補正発明4は,ケースの他端に設けられ,被給電部からの電力によって点灯する照明灯を有するのに対し,甲1発明は,照明灯を有しない点(以下,審決と同様に「相違点3」という。)第3審決取消事由の要点審決は,本件補正における独立特許要件の有無を判断する対象となる請求項についての判断を誤り(取消事由1),補正前発明4の進歩性の判断に当たり,拒絶理由の通知を懈怠し(取消事由2),進歩性の判断も誤った(取消事由3)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(独立特許要件を判断する対象の誤り)特許法126条5項は,「・・・訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない」と規定しているから,本件補正の適否において,独立特許要件の有無を判断する対象は,本件補正の対象となった発明に限られるのであり,本件補正の対象外の発明は,独立特許要件の有無を判断する対象とはならない。
本件補正は,補正前発明1及び補正前発明2を補正するものであり,補正前発明4は補正対象ではないから,補正発明4は,独立特許要件の有無を判断する対象にはならない。しかるに,審決は補正発明4について独立特許要件の有無を判断し,補正発明4につき独立特許要件がないことを理由として本件補正を却下している。これは,本件補正について,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項(以下,この条を単に「特許法17条の2」といい,改正前の項及び号を用いる。)によって準用される特許法126条5項を誤って適用してされた補正却下であるから,その手続には違法がある。
2取消事由2(拒絶理由通知の懈怠)本件拒絶査定(甲第5号証)における拒絶理由は,補正前発明は,甲2刊行物記載の空気清浄機に,周知技術寄せ集めたものであり,進歩性がないということであるのに対し,審決の理由は,甲1刊行物を主たる引用例として補正前発明4の進歩性を否定している。
したがって,審決は,本件拒絶査定とは異なる新たな拒絶理由を発見したのであるから,特許法159条2項で準用する50条本文の定めに従い,拒絶理由を通知して,出願人である原告に対し意見書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,このような機会を与えていないのであるから,その手続には違法がある。
3取消事由3(補正前発明4についての進歩性判断の誤り)(1)補正前発明4のマイナスイオンを発生させる電極が収納されるケースは,被給電部を一端に有し,上方から下方に対してマイナスイオンを放出する構成をも包含することを特徴とする。これに対し,甲1発明は,下方から上方に対してオゾンを含むマイナスイオンを放出する構成のみを特徴とする。
このように,補正前発明4に含まれる構成と甲1発明とは,マイナスイオンの放出の方向が上下反対なのであり,その特徴を全く異にするものであるから,下方から上方に対してオゾンを含むマイナスイオンを放出することを特徴とする甲1発明に,上方から下方に対してマイナスイオンを放出することを特徴とする電球型のケースに収納されたオゾン発生器を開示する文献記載の技術事項を適用することにより,補正前発明4に想到することが当業者にとって容易であるとはいえない。
(2)甲2刊行物及び甲3刊行物の2文献のみでは,電球型のケースに収納されたオゾン発生器が周知であると認定することはできない。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(独立特許要件を判断する対象の誤り)について特許法17条の2第4項2号において問題とされているのは,「特許請求の範囲」全体について減縮があったか否かであって,その一部にでも減縮があり「特許請求の範囲」が全体でみて減縮されたものであれば,同条5項により,「特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明」について独立特許要件の判断が必要となるものと解される。つまり,「特許請求の範囲」が全体でみてその一部でも減縮されていれば,減縮された請求項のみならず,「特許請求の範囲」に含まれるすべての請求項に対して独立特許要件の有無の判断が必要になるものであって,補正の対象となった請求項について独立特許要件の有無の判断を考えるべきものではない。このことは,知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10266号事件・平成18年2月16日判決にも判示されているとおりである。
本件出願についてみると,平成18年7月14日付け手続補正書(甲第22号証)によってなされた補正前発明1及び2についての補正は,特許法17条の2第4項2号に掲げる「特許請求の範囲減縮」を目的とするものであるから,「特許請求の範囲」全体でみて,本件補正は「特許請求の範囲減縮」を目的とするものとして,補正発明4の独立特許要件の有無について検討した本件審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(拒絶理由通知の懈怠)について甲1発明は,甲2発明とともに,空気の浄化を行う装置である点で補正前発明4と同一の技術分野に属し,補正前発明4との一致点及び相違点はその記載から容易に判断することができる。また,甲1刊行物は原告本人による特許出願であるから,原告はその技術を熟知しているし,平成18年4月10日付け意見書(甲第18号証)及び審判請求の請求の理由(甲第24号証)中で実際に甲1発明と補正前発明4との相違点を指摘していることからみて,甲1発明を周知の技術が記載された文献として通知する拒絶理由を受けた原告は,甲2発明のみならず,甲1刊行物に記載された技術内容についても検討を行い,甲1発明に基づいて補正前発明4を容易に発明することはできなかったものであることにつき意見を述べる機会があったものである。周知技術として引用した文献を,改めて拒絶理由を通知することなく主たる引用例として用いることが出願人の防御権を奪うものとはいえないことは,東京高等裁判所平成5年(行ケ)第29号事件・平成8年5月30日判決にも判示されている。
3取消事由3(補正前発明4についての進歩性判断の誤り)について(1)補正前発明4が上方から下方に対してマイナスイオンを放出するものであるとする原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。
また,本件明細書の記載からみても,補正前発明4が上方から下方に対してマイナスイオンを放出することを特徴としているものとはいえないことは明らかであるから,原告の主張はその前提を欠くものである。
(2)審決においては,空気清浄器の設置場所に合わせて装置の外形状を変更することは設計事項であり,空気清浄器の外形状が電球型のものも甲2刊行物,甲3刊行物に示されるように周知であるから,空気清浄器の外形状を形作るケースを電球型とすることが容易であるとしているのであって,二つの文献を根拠に電球型のケースに収納されたオゾン発生器が周知であると認定しているのではないから,原告の主張は失当である。
第5当裁判所の判断1取消事由1(独立特許要件の有無を判断する対象の誤り)について(1)本件補正の内容平成18年7月14日付け手続補正書(甲第22号証)によれば,本件補正は,請求項1及び2に「前記マイナスイオン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる電極を備え,この電極に高電圧が印加されることにより,」とあるのを,いずれも「前記マイナスイオン発生器は,前記中心軸線と平行で,前記吹き出し口へ向かって延びる1つの電極のみを備え,この1つの電極に高電圧が印加されることにより,」と変更する(下線の文言を加える)とともに,これに伴って明細書の記載を一部変更するものであるが,請求項3ないし6には,何らの変更も加えないものであることが認められる。
(2)独立特許要件の有無の判断対象特許法17条の2第5項は,「第百二十6条第5項の規定は、前項第二号の場合に準用する。」と規定し,同条4項2号は,「特許請求の範囲減縮(第三十6条第5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものであつて,その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるものに限る。)」と規定している。そして,同法126条5項は,「・・・を目的とする訂正は、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならない。」と規定している。
上記規定の文言及び上記規定において特許法126条5項を準用する趣旨は,特許請求の範囲減縮により改めて特許要件の具備を再審査する必要が生ずる点にあるものと解されるところからすると,独立特許要件が要求されるのは,特許法17条の2第4項2号に定めるいわゆる限定的減縮に相当する補正の場合に限られ,これ以外の補正については,要求されないことは明らかである。
被告は,特許法17条の2第4項2号において問題とされているのは,「特許請求の範囲」全体について減縮があったか否かであって,その一部にでも減縮があり「特許請求の範囲」が全体でみて減縮されたものであれば,同条5項により,「特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明」について独立特許要件の判断が必要となると主張するが,上記主張は,特許法126条5項の文言に反する上,同法17条の2第5項において同法126条5項を準用する趣旨を正解しないものであるから採用することはできない。
したがって,被告の上記主張を採用することはできない。
なお,被告の援用する知的財産高等裁判所平成17年(行ケ)第10266号事件・平成18年2月16日判決は,被告の主張に沿うものであるが,当裁判所は前記理由から見解を異にするものである。
(3)本件補正においては,前記(1)のとおり,限定的減縮に相当する補正がされた請求項は,請求項1及び2のみであり,請求項4は補正の対象になっていない。したがって,独立特許要件は,補正発明1又は2について判断すべきであり,補正発明4について独立特許要件がないと判断した審決には,独立特許要件の判断を誤った違法があり,本件補正を却下した点は誤りである。
2取消事由2(拒絶理由通知の懈怠)について上記1のとおり,審決には,本件補正を却下した誤りがあるが,本件補正が認められたとしても,補正発明について特許要件の具備の有無について判断する必要があるところ,審決は,補正発明4(内容は補正前発明4と同一)について進歩性がないことを理由にして,審判請求は成り立たないとの結論に至っているから,補正発明4の進歩性の判断に誤りがなければ,審決の結論は維持されることになる。そこで,補正発明4について,まず,取消事由2を検討する。
(1)平成18年1月27日付け拒絶理由通知書(甲第4号証)には,請求項4(補正発明4)について,以下の記載及び引用文献の記載がある。(記載された文献が審決の引用する甲1ないし3刊行物と一致するときは,[ ]内に注記する。)「・請求項4・引用文献等1[甲2刊行物]・備考引用例1[甲2刊行物]には,「ソケットに装着される螺旋型電極11'を一端に有し,他端に開口部分が設けられるとともに,内部へ空気を取り入れる貫通孔53’が設けられ,中心軸線を有する「ハウジング10',支持部材53及び蓋部51」と,この「ハウジング10',支持部材53及び蓋部51」内に収納され,前記螺旋型電極11'からの交流を直流に変換する整流器23と,前記「ハウジング10',支持部材53及び蓋部51」内に収納され,前記整流器23からの電圧を調節する「インバータ増幅器25,トランスフォーマ26及び高電圧整流器27」と,前記「ハウジング10',支持部材53及び蓋部51」内に収納され,前記「インバータ増幅器25,トランスフォーマ26及び高電圧整流器27」に接続された陰イオン発生機30’と,前記「ハウジング10',支持部材53及び蓋部51」の他端に設けられ,前記螺旋型電極11'からの電力によって点灯するランプ12とからなり,前記陰イオン発生機30’は,前記中心軸線と平行で,前記開口部分へ向かって延びる放電極58と,この放電極58と同心の円形開口部を有し,前記放電極58と対峙するイオン集塵パネル52とを備え,この放電極58及びイオン集塵パネル52間に高電圧が印加されることにより,前記両電極間で放電が起こって空気流を前記放電極58側から前記イオン集塵パネル52側へ流すとともに,前記開口部分から放出する空気浄化装置」が記載されている。(特に,図6乃至8に係る他の実施実施例を参照。)ケースの吹き出し口からマイナスイオンとオゾンとを含む空気流を放出するオゾン発生器は従来周知の技術である(例えば,引用例4[甲1刊行物]及び5に記載されたオゾン発生装置を参照。)ので,引用例1[甲2刊行物]に記載された空気清浄装置に,上記従来周知の技術を寄せ集めて,この出願の請求項4に係る発明のような構成にすることは,当業者が容易に想到し得たものと認める。」「引用文献等一覧1特表平9-508065号公報[甲2刊行物]2登録実用新案第3045395号公報3米国特許第5847514号明細書[甲3刊行物]4特開平10-152307号公報[甲1刊行物]5特開平10-25103号公報」(2)本件拒絶査定(甲第5号証)における拒絶理由は,「平成18年1月27日付け拒絶理由通知書に記載した理由によって,拒絶すべきものである。」とするものである。
上記の記載から,拒絶査定においては,甲2刊行物を主たる引用例とし,甲2刊行物記載の空気清浄装置に,「ケースの吹き出し口からマイナスイオンとオゾンとを含む空気流を放出するオゾン発生器」との「従来周知の技術を寄せ集めて,この出願の請求項4に係る発明のような構成にすることは,当業者が容易に想到し得た」ことを拒絶理由としていたことが明らかである。
また,甲1刊行物は,上記「従来周知の技術」を立証するために例示されていたものである。
(3)他方,審決は,前記第2の3のとおり,補正発明4と甲1発明とを対比した上で,補正発明4は,甲1発明及び甲2発明並びに甲1ないし3刊行物記載の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができないとしており,甲1刊行物を主たる引用例としていることが明らかである。
そして,甲2刊行物は,相違点1についての判断においては,「空気清浄装置を電球型とすること」が周知の技術であることの根拠として例示され,相違点3についての判断においては,甲1発明に適用する「空気浄化装置のケースの他端に照明灯を設けるという技術」を認定するための根拠とされている。
以上のとおり,審決は,拒絶査定において主たる引用例とされていた甲2刊行物ではなく,甲1刊行物を主たる引用例として,補正発明4と対比し,判断したものである。
(4)一般に,出願に係る発明と対比する対象である主たる引用例が異なれば,一致点及び相違点の認定が異なることになり,これに基づいて行われる進歩性の判断の内容も異なることになる。したがって,審決において,拒絶査定における主たる引用例と異なる刊行物を主たる引用例として判断しようとするときは,原則として,特許法159条2項で準用する50条本文の定めに従い,拒絶理由を通知して,出願人に対し意見書を提出する機会を与えるべきであり,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情がない限り,通知を懈怠してされた審決の手続は違法である。
本件においては,審決における主たる引用例(甲1刊行物)は,拒絶査定における主たる引用例(甲2刊行物)と異なる刊行物であり,甲1刊行物については,出願人(原告)に対して拒絶理由通知がされていない。そこで,上記の特段の事情の有無を検討することにする。
(5)被告は,上記の特段の事情として,?@甲1発明は,甲2発明とともに,空気の浄化を行う装置である点で補正発明4と同一の技術分野に属し,補正発明4との一致点及び相違点はその記載から容易に判断することができること,?A甲1刊行物は原告本人による特許出願に係る刊行物であり,原告はその技術を熟知している上,平成18年4月10日付け意見書(甲第18号証)及び審判請求における請求の理由(甲第24号証)中で,甲1発明と補正発明4との相違点を指摘していることからみて,周知例としてであっても甲1刊行物が通知されているから,原告は,甲2発明のみならず,甲1刊行物に記載された技術内容についても検討を行い,意見を述べる機会があったと主張する。
アまず,補正発明4と甲1発明及び甲2発明の属する技術分野が同一であっても,甲1発明と対比するか,甲2発明と対比するかによって一致点及び相違点は異なり得ることは明らかである。また,主たる引用例は,その性質上,同一又は類似の技術分野のものであることは当然であり,技術分野が同一であることから,直ちに一致点及び相違点の認定が「容易に判断」されるものではない。したがって,被告の主張する?@の事情は,特段の事情となり得るものではない。
イ被告は,甲1刊行物が原告本人による特許出願に係る刊行物であることを挙げるが,発明の内容を熟知しているからといって,直ちに審判官の視点に立って甲2刊行物を主たる引用例とした場合の一致点及び相違点の違いまで認識することができるとする根拠はない。
また,被告は,原告が甲第18及び第24号証において甲1発明と補正発明4との相違点を指摘していることを挙げる。しかし,甲第18及び第24号証によれば,原告は,いずれの機会においても甲2刊行物との対比判断に対する意見を中心にして検討していることは明らかであり,甲1刊行物についての意見は付随的なものにすぎないものと認められるのであって,主たる引用例記載の発明と周知技術の組合せを検討する場合に,周知例として挙げられた文献記載の発明と補正発明4との相違点を検討することはあり得るから,甲1発明と補正発明4との相違点を指摘しているからといって,甲1刊行物を主たる引用例としたときの相違点の検討と同視することはできない。
したがって,被告の主張する?Aの事情も,特段の事情といえるほどのものではない。
ウ以上のとおり,本件において,拒絶理由通知の懈怠があっても,出願人の防御権を奪うものとはいえない特段の事情があると認めるに足りる証拠はない。
なお,確かに,被告の引用する東京高等裁判所平成5年(行ケ)第29号事件・平成8年5月30日判決は,拒絶理由通知の懈怠があっても,出願人の防御権を奪うものとはいえないときは,審判手続に違法があるとはいえないことを判示している。しかし,出願人の防御権を奪うものか否かは,個々具体の事案において判断されることであり,上記判決が周知技術として引用した文献を改めて拒絶理由を通知することなく主たる引用例として用いても出願人の防御権を害しないと一般的に判示したものではないことは明らかである。
3結論以上に検討したところによれば,審決取消事由1及び2は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は違法なものとして取り消されるべきである。
よって,原告の請求は理由があるから認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲