関連審決 |
訂正2005-39210 無効2005-80081 無効2005-800081 |
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関連ワード | 創作性(創作) / 容易に発明 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 文言解釈 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 構成要件 / 設定登録 / 訂正審判 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 減縮 / 拡張 / 変更 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10089号
審決取消請求事件
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原告株式会社ストロベリーコーポレーション 訴訟代理人弁護士森田政明 同弁理士森正澄 被告スガツネ工業株式会社 訴訟代理人弁理士菊池新一,菊池徹 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2008/03/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2005-80081号事件について平成19年1月25日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯( )被告は,発明の名称を「折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組1成体」とする特許第3471743号(平成11年5月31日にした出願〔特願平11-151708号〕の一部を分割して平成12年11月16日に出願〔特願2000-350147号〕したもの。平成15年9月12日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲7)。 ( )原告は,平成17年3月16日,被告を被請求人として,本件特許を無効2とすることを求めて審判の請求をした。特許庁は,上記請求を無効2005-80081号事件として審理した上,同年8月31日,「特許第3471743号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。 これに対し,被告は,同年10月11日,知的財産高等裁判所に対し,取消訴訟を提起した。同裁判所は,これを平成17年(行ケ)第10731号事件として審理したが,被告は,上記訴訟提起後90日の期間内に特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判(訂正2005-39210号)を請求し,同裁判所は,同年12月5日,特許法181条2項の規定に基づき,「特許庁が無効2005-800081号事件について平成17年8月31日にした審決を取り消す。」との決定をした。 そこで,特許庁は,無効2005-80081事件について,さらに審理し,特許法134条の3第5項の規定により,上記訂正審判の請求書に添付された明細書等について,訂正の請求がされたものとみなされ(以下「本件訂正」という。),平成19年1月25日,特許庁は,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同月31日,原告に送達された。 2発明の要旨( )本件訂正前の明細書(甲7。以下,図面も含めて「本件特許明細書」とい1う。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件訂正前発明」という。)の要旨「【請求項1】第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって,同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること,および,係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること,および,筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において,摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成されたスライド用切込み溝を周壁に有すること,かつ,筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドする摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有すること,かつ,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること,および,片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,両突き合わせ端面のうちのいずれか一方には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともにその他方には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されていること,および,第2ヒンジ筒に対して回り止め装着される第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には,第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること,および,軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において,第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること,および,上記各構成要素の組み立てについて,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること,かつ,この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること,および,この組み立て構造において,摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること,かつ,摺動ディスクと,筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが,これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること,かつ,コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること,かつ,摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。」( )本件訂正後の明細書(甲8。以下,図面も含めて「本件明細書」とい 2う。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件発明」という。)の要旨(下線部が本件訂正による訂正箇所である。)【請求項1】「第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって,同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること,および,係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること,および,筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において,摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること,かつ,筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドする摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有すること,かつ,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであること,および,片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されていること,および,第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には,第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられていること,および,軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において,第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであること,および,上記各構成要素の組み立てについて,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること,かつ,この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること,および,この組み立て構造において,摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること,かつ,摺動ディスクと,筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが,これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させていること,かつ,コイルスプリングが摺動ディスクを第2ディスク側へ押しつけていること,かつ,摺動ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わることを特徴とする折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。」3審決の理由( )審決の理由の概要1審決は,別紙審決のとおり,本件訂正を認めた上で,本件発明と特開平10-306645号公報(審判甲1。本訴甲1)に記載された発明(以下「引用発明」という。)との対比を行うなどして,本件発明は,審判請求人である原告が提出した証拠(審判甲1ないし6及び審判参考甲1ないし甲3)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから,本件発明に係る特許を無効とすることはできないとした。 ( )審決が認定した引用発明の要旨(10頁第3段落)2「挿入孔47を有する送話部3と挿入孔51を有する携帯電話本体2とを開閉自在に連結するためのヒンジ装置39であって,同一軸線上で隣接する両挿入孔47,51とにわたり装着されるものであり,ヒンジ装置39の構成要素として固定側カム44,可動側カム45とコイルスプリング46と連結軸41とを備えていて,カム面45aを有する可動側カム45とカム面44aを有する固定側カム44との相対関係において,突き合わせカム面44aには複数の凹部49が周方向に間隔をおいて形成されているとともにカム面45aには該各凹部49と係合離脱自在に対応する凸部48が形成されていて,連結軸41にピン42で連結されるキャップ43が送話部3に圧入されるようになっており,連結軸41と可動側カム45,固定側カム44,コイルスプリング46との相対関係において,可動側カム45,固定側カム44,コイルスプリング46軸心部のそれぞれを連結軸41が貫通するものであり,上記各構成要素の組み立てについて,可動側カム45のカム面45aと固定側カム44のカム面44aとが対面して可動側カム45と固定側カム44とが互いに突き合わされていること,かつ,この集合した各構成要素の軸心部を連結軸41が貫通しているとともに連結軸41の両端部が可動側カム45や固定側カム44に対して抜け止め固定されていて,この組み立て構造において,コイルスプリング46が可動側カム45を固定側カム44側へ押し付けていて,かつ,可動側カム45と固定側カム44とが相対回転したときに係合状態にある凸部48が他の凹部49との係合状態に切り替わるように構成された折り畳み式携帯電話のヒンジ装置。」( )審決が認定した本件発明と引用発明の一致点及び相違点(21頁最終段落3〜23頁第2段落)ア一致点「第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって,係嵌組成体の構成要素として,第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備え,および,片面を第1突き合わせ端面とする第1ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに,第1突き合わせ端面には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されていること,および,軸杆と第1ディスク・第2ディスク・コイルスプリングとの相対関係において,第1ディスク軸心部・第2ディスク軸心部・コイルスプリング軸心部のそれぞれを軸杆が貫通するものであり,および,上記各構成要素の組み立てについて,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して第1ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされており,かつ,この集合した各構成要素の軸心部を軸杆が貫通しているとともに軸杆の両端部が第2ディスクに対して抜け止め固定されており,および,この組み立て構造において,コイルスプリングが第1ディスクを第2ディスク側へ押しつけており,かつ,第1ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わる構成を備えた折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体。」イ相違点(ア)相違点1「『ヒンジ筒』の構成に関して,本件発明は,『第2部材が第2ヒンジ筒を有し』ているものであって,(ヒンジ装置の)『係嵌組成体』が『同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものである』のに対して,引用発明は,このような第2部材が第2ヒンジ筒を備えるものではない点。」(イ)相違点2「『第1ディスクと第2ディスクとが相対回転したときに係合状態にある係嵌凸部・係嵌凹所がそれぞれ他の係嵌凹所・係嵌凸部に切り替わる構成』に関して,本件発明が『第1ディスク』を『筒状本体と摺動ディスクと』から構成し,当該『筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有する』という構成と『第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に複数の係嵌凸部が形成されている』という構成とを採用しているのに対して,引用発明は,このようなスライド用切込み溝を周壁に有する筒状本体等を用いた構成を備えていない点で主に相違するということができ,これをより詳細に記載すると次のとおりである。 本件発明は,『第1ディスクが,筒状本体と摺動ディスクとからなり,および,筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において,摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有すること,かつ,筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌まり込んで筒状本体の軸線方向沿いにスライドする摺動ディスクが筒状本体の内径や切込み溝形状に対応した周面形状を有すること,かつ,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込むことのできる外径を有していて筒状本体内で摺動ディスクに押し当てられるものであることおよび,第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に複数の係嵌凸部が形成されていること,上記各構成要素の組み立てについて,コイルスプリングが筒状本体内に嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面を外面にした摺動ディスクがコイルスプリングに抗して筒状本体の内部とスライド用切込み溝の内部とに嵌め込まれていること,かつ,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面とが対面して摺動ディスクと第2ディスクとが互いに突き合わされていること,かつ,軸杆の両端部が筒状本体や第2ディスクに対して抜け止め固定されていること,および,この組み立て構造において,摺動ディスクの一部であってスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分がそこから露呈されていること,かつ,摺動ディスクと,筒状本体に存在するスライド用切込み溝の奥端縁12eとが,これらの間に係嵌凸部と同等長以上の離間貫通空所Sを介在させている』という構成を採用しているのに対し,引用発明は,このような第1ディスクが筒状本体を備えるという構成らを採用していないものである点。」(ウ)相違点3「本件発明が,『第2ヒンジ筒に内嵌して第2ヒンジ筒に対して回り止め装着され第1ディスクに相対している第2ディスクで第2突き合わせ端面の反対端面には,第2ヒンジ筒に装着されて抜け止め状態になる抜け止め弾性爪が設けられている』のに対し,引用発明は,このような抜け止め弾性爪が設けられていない点。」第3原告主張の審決取消事由審決は,本件訂正の適法性についての判断を誤り(取消事由1ないし3),相違点2についての認定判断を誤り(取消事由4),その結果,本件発明は当業者が容易に発明をすることができたとはいえないとの誤った結論に至ったものであり,違法であるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(本件訂正の適法性についての判断の誤り1)( )審決は,本件訂正について,「上記訂正事項1〜5は,いずれも,願書に1最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲内のものであって,実質上特許請求の範囲を拡張,又は変更するものでもない。」(4頁第3段落)と判断したが,本件訂正前発明は,明らかな実施不能の構成を包摂し,発明の要旨が不明のものであったものであり,本件訂正は,実施不能の構成を包摂し発明の要旨が不明の特許請求の範囲の記載から,その実施不能な構成を削除して,発明の要旨を明確にするものであるから,本件訂正は,いわば無を有に変更するものであって,その発明としての同一性を欠くものであって,要旨の変更に該当するものであり,不適法である。 ( )本件訂正前発明には,摺動ディスクの第1突き合わせ端面に複数の係嵌凹2所が周方向に間隔をおいて形成され,第2ディスクの第2突き合わせ端面に複数の係嵌凸部が形成されている態様のものが含まれる。そして,この態様のものは,実施不能であることが明らかである。 ( )被告は,摺動ディスク側に係嵌凹所を形成する態様でも,係嵌凹所を第13ディスクの筒状本体の内径を越えた位置である切込み溝内にはまり込んだ部分に形成することができ,この場合には,第2ディスク側の係嵌凸部が第1ディスクの筒状本体に干渉することがないように,摺動ディスクの前面を係嵌凹所の深さ分だけ筒状本体から出っ張らせればよいことは当業者に明らかである旨主張するが,本件特許明細書及び図面には,それに係る態様に関する記載は一切ないから,その具体的な構成を想起することは困難である。また,仮に,その具体的な構成が想起され得たとしても,本件特許明細書の「当該摺動ディスク12Bには図示の如く前記の係嵌凸部12bか,図示されていない係嵌凹所13bを設け,」(段落【0015)】との記載並びに図1(B)及び図2から,当業者において想起される摺動ディスク12Bの第1突き合わせ端面12aは,筒状本体12Aの側端縁 12cと略同一面であり,第1突き合わせ端面12aに係嵌凹所13bが形成される場合,係嵌凹所13bは筒状本体12Aの側端縁12cよりも内側に設けられることになり,第2ディスク側の係嵌凸部は第1ディスクの筒状本体に干渉することとなって,実施不能となることが明らかである。 2取消事由2(本件訂正の適法性についての判断の誤り2)( )特許請求の範囲の「複数の係嵌凸部」,「複数の係嵌凹所」及び「周方向1に間隔をおいて」の意味内容は,本件訂正の前後で変化し,本件訂正の前後で発明の要旨が変更され,本件訂正は不適法であるにもかかわらず,審決は,これを適法なものであると誤って判断をした。 ( )「複数の係嵌凸部」について,本件訂正前のものは,「複数」の個数が限2定されていなかったが,訂正後のものは,「2つ」に限定され,また,「径方向に相対する」ものとなった。「複数」は,「2つ」に限定されないことは明らかであるところ,本件訂正の前後で同じ「複数」を用いていながら,本件訂正後には,「径方向に相対する2つの係嵌凸部」の意味内容となり,個数が限定され,かつ,数である性状の言葉に,位置的な内容を包摂させることは,特許請求の範囲を実質上,拡張ないし変更するものである。 また,「複数の係嵌凹所」についても,本件訂正前のものは,係嵌凹所の個数,位置が限定されておらず,「周方向に間隔をおいて」とされていたが,本件訂正後は,「径方向に相対する2つの係嵌凹所」となり,同一文言でありながら,意味内容が訂正前後で異なり,特許請求の範囲を実質上,拡張ないし変更するものである。 ( )審決は,「複数の係嵌凹所」と「周方向に間隔をおいて」について,「訂3正後の本件発明は,本件発明の実施例(【図3】)のように,第1部材と第2部材との開成位置が1つであれば,係嵌凸部と係嵌凹所とがそれぞれ2つで足りるが,例えば,第1部材と第2部材との開成位置が2つ以上あれば,係嵌凸部が2つであっても,それに対応する係嵌凹所は4つ以上の偶数となり,このように係嵌凹所は,必ずしも『2つの』ものに限られる必要はないところ,訂正後の本件発明も,訂正前の特許請求の範囲の記載の文言どおり『複数の係嵌凹所』が『周方向に間隔を置いて形成されている』ものである点で,訂正前のものと相違がないことが明らかである。したがって,訂正後の本件発明が『径方向に相対する2つの係嵌凹所』であるから,訂正前と全く意味内容が異なるものである旨の請求人の主張は採用できない。」(5頁最終段落〜6頁第2段落)としたが,誤りである。 本件訂正の根拠となる図面(【図3】〜【図6】の符号12b,13bで示された部分)において,第1部材と第2部材との開成位置を2つ以上求める図面上の根拠は一切ない。本件特許明細書の「係嵌凹所13bを所定の周角度位置にあって複数個だけ設け,他方には上記係嵌凹所13bに対して,コイルスプリング14により係合する係嵌凸部12bが設けられ」(段落番号【0014】)との記載は,「従来例と同じく第1ディスク12の突き合わせ端面12aと第2ディスク13の第2突き合わせ端面13aのいずれか一方に係嵌凹所が設けられた場合の記載」であって,本件訂正の根拠とならず,本件訂正において限定されて削除された従前の構成要件に関わる部分である。そして,図面(【図3】〜【図6】の符号12b,13b)においては,「径方向に相対する2つ」の「係嵌凸部」と,これに対応する「径方向に相対する2つ」の「係嵌凹所」が設けられているにすぎないから,2つ以上の開成位置を求めて4つ以上の偶数の係嵌凹所が設けられることは一切示唆されていない。 また,「係嵌凸部」の周方向の位置の変化について,被告はこれが設計上あり得ることである旨主張するが,失当である。被告は,訂正審判の審判請求書(甲8)において,訂正事項1について,「( ) 『複数の係嵌凸部』を『第1突き合わせ端d面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分に』に形成してその位置を特定することを含んでいる。」と記載していて,「係嵌凸部」は径方向に相対する位置に特定されるし,その数も2つに限定されることは明白であり,このことは必須構成要件であり,径方向に相対する位置から周方向にずれて形成することはできないし,設計上もあり得ない。 さらに,被告は,「スライド用切込み溝」にはまりこんだ部分に設けられる係嵌凸部が一つとは限らないし,またスポット的に設けられて,それがずれて設けることも考えられる旨主張する。しかし,本件訂正は,実施例の図1(B)(C),図2,図3にその根拠があるところ,「径方向に相対して2つ」設けられた「スライド用切込み溝に嵌り込んだ部分に設けられる係嵌凸部」とは,はまり込んだ部分に対応して設けられるという意味しか図面上理解できないし,「周方向に間隔をおいて」という理解は,第9図の従来例と同様な係嵌凹所しか想定されていない。「スライド用切込み溝」にはまり込んだ部分に設けられる係嵌凸部が一つとは限られないとか,スポット的にずれて設けることは,明細書において記載も示唆もされていないし,一つの溝のはまり込み部分に複数の係嵌凸部が設けられる作用効果も全く理解できず,これに対応する係嵌凹所も想定できない。そして,スポット的に設けられる係嵌凸部を周方向にずらすことを,「周方向に間隔をおいて」の意味に理解することは,文言解釈の枠を超えている。 3取消事由3(本件訂正の適法性についての判断の誤り3)( )本件訂正は,本件特許明細書の実施例の図面とこれを引用した記載に基づ1く訂正であるところ,上記の図面の相互間で矛盾が生じていて,本件訂正は不明りょうな点を明りょうにする目的でされたにもかかわらず,審決は,図面の矛盾を自明事項で補って本件訂正を認めたが,本件発明の目的や課題解決に重要かつ不可欠な要素を自明事項で補うことは許されないから,本件訂正は許されるべきでないし,また,図面に誤りがあったとすると,図面の記載を訂正の根拠としているものである以上,誤記に基づく訂正であり,その訂正は違法である。 ( )本件訂正の根拠となった本件特許明細書の図面(【図1】(B)(C),2【図2】,【図3】)においては,「第1ヒンジ筒10の内周に突設されているガイドリブ10bに,筒状本体12Aのガイド溝12fが係合する構造」が示されているところ,第2ディスク13は筒状本体12Aと同長の直径を備えていて,この第2ディスク13には,筒状本体12Aのガイド溝12fに相当するガイド溝が形成されていないから,係嵌組成体Cを,第1ヒンジ筒10に挿通させる際に,第2ディスク13は,第1ヒンジ筒10の内周に突設されているガイドリブ10bに阻害されて,この第2ディスク13を第1ヒンジ筒10に挿通させることができない。 他方,本件特許明細書では,意識的に「ガイド溝12f」について記載していて(段落【0016】),【図3】の「第2ディスク13」の外周面に軸線方向へ対設した「ガイド溝」を設けるか否かを認識していないわけがなく,図面に,「ガイド溝」を書き忘れたとすることは許されない。同じ図面において,「筒状本体」に「ガイド溝」が形成されながら,「第2ディスク」にその「ガイド溝」が形成されていない以上,開示された図面には瑕疵がないものと解釈して,「第2ディスク」には「ガイド溝」が形成されないものと解釈するのが通常の理解である。そして,本件訂正が,上記図面に基づくのであるなら,第2ディスク13が,それのみで第1,第2ヒンジ筒に入り込む内径のものであることが示唆されるべきであった。 ところが,審決は,「筒状本体」に形成された「ガイド溝」と同様な構成をとれば,「第2ディスク」を「第1ヒンジ筒」に挿通させることができることも自明な事項であるといえると判断し,本件訂正を認めた。 本件発明の目的や課題解決にとって,「第2ディスク」の抜け止めと回転止めの手段に関わる技術事項である,「第2ディスク」の「ヒンジ筒」への挿入と装着は,重要かつ不可欠な要素であるところ,明細書上には一切記載されていないから,【図3】のみによって解釈せざるを得ない技術事項であり,【図3】は厳格に取り扱われるべきであり,これに誤りがあるとすることは基本的に許されるべきではない。それにもかかわらず,そのような「第2ディスク」の「ヒンジ筒」への挿入と装着について,【図3】のみに依拠した上,この図面が他の図面と整合せず,誤りがあった点について,単に自明事項として,開示された技術事項を勝手に改変するようなことは,発明開示の代償として独占権が認められる特許制度上背理であり,到底許されない。 また,審決のように「第2ディスク13」に「ガイド溝」を設けることを自明な事項とすると,本件訂正後は「第2ディスク13」に「係嵌凹所」が設けられるとしていることから,「ガイド溝等」は「係嵌凹所」に重複しない位置に設けられることが要請され,「ガイド溝等」を設けること及びこれをどこに設けるかの点が重要な構成要素となる。そして,「第2ディスク13」に「ガイド溝等」が設けられると,この「ガイド溝等」は当然,「第2ディスク13」の「第2突き合せ端面13a」自体にも欠損部をもたらすものであるから,これを自明事項ということはできないし,発明の構成要素をなす「第2ディスク13」に開示されていないガイド溝などを設ける補正は当然新規事項の追加となるのであり,これを自明事項ということはできない。 ( )仮に,「第2ディスク」に「ガイド溝」が形成されることを自明事項とし3て解釈したとすると,その解釈の前提は,【図3】が間違いであったことを前提に解釈するものであり,被告もその間違いを認めている。この場合,図面の間違いは,どの部分が間違いでどの部分が正しいのか,また,間違った部分を自明事項で補うことが許されるのかについてが問われ,結局,【図3】に基づいた技術事項の精度に疑義が呈されることにならざるを得ない。 そうすると,本件発明は,図面の記載を訂正の根拠としているものである以上,誤記に基づく訂正であり,その訂正は違法であることが明白である。 (4)被告は,訂正事項について,第1ヒンジ筒10の「ガイドリブ10b」と第1ディスク12の筒状本体12Aの「ガイド溝12f」は第1ヒンジ筒内で第1ディスク12の筒状本体12Aを回り止め装着するための手段の一例にすぎず,「ガイドリブ10b」や「ガイド溝12f」は,本件発明の直接的な構成要件にはなっていない旨主張する。 しかし,実施例を根拠に構成要件化する場合,少なくとも根拠にした実施例が想起されることは当然である。 4取消事由4(相違点2についての認定判断の誤り)( )審決は,実願昭46-113031号(実開昭48-65953号)のマ1イクロフィルム(甲5。以下「甲5マイクロフィルム」といい,そこに記載されている発明を「甲5発明」という。)について,そこに記載されている筒状部2Aは,明らかに蝶番(係嵌組成体)の構成部材であって,本件発明において係嵌組成体を構成する「筒状本体」に該当する部材であるにもかかわらず,「該筒状部2Aは,本件発明の『第1部材の第1ヒンジ筒』に相当するものであって,本件発明の『筒状本体』とはいえないから,本件発明の『第1ディスクが,筒状本体と摺動ディスクとからなる』構成を開示しているこということができない。」(25頁第4段落)として,「そうすると,引用発明に甲第5号証記載の発明を適用しても,(第2部材(送話部3)の第2ヒンジ筒(挿入孔47を設けた部分)の外周に露呈するスライド用切込み溝が設けられた構成が得られるに止まり,本件発明の筒状本体を用いた相違点2に係る構成を得ることができないことも明らかである。」(同第5段落)と判断したが,誤りである。 ( )本件発明は,機器とは別個に,係嵌組成体というヒンジユニットをあらか2じめ設け,このヒンジユニットを機器に簡易迅速に抜け止め固定する装置を提供することを発明の目的としたものであり,従来技術のヒンジ装置が機器のヒンジ筒を摺動ディスクのガイドとして機能させていたヒンジ機構を改良して,構成部材を一体化するとともに,機器とヒンジ機構を別途に構成させるため,別途に筒状本体を用いて,この筒状本体に従前の機器のヒンジ筒の構成を具備させてユニット化したヒンジ装置を提供したものである。つまり,本件発明は,従来技術のヒンジ装置において摺動ディスクのガイドとして機能させていた機器側のヒンジ筒に代わり,機器とは別の筒状本体を用いて,それ自体で独立のヒンジである係嵌組成体を構成したものである。 この種の折畳み式機器の開閉保持用ヒンジにおいては,それ自体に独立のヒンジ機構を備えた係嵌組成体自体は,既に特開平9-130462号公報(甲2)の携帯電話用のフリップモジュールに開示されているものを始めとして,当業者において周知技術であった。甲5発明における蝶番は,それ自体でヒンジ機構のすべてを備え,ヒンジを連結するだけで,すなわち,この蝶番の取付け片1A,1Bを開閉されるべき第1及び第2部材に固着するだけで,第1及び第2部材は開閉可能に設けられるのであり,これを回動可能に取り付ける第1及び第2部材とは別個独立のヒンジユニット(係嵌組成体)であることが明らかであり,その構成部材たる取付け片1A付き筒状部2Aは,本件発明においてヒンジユニットを構成する「筒状本体」に該当する部材である。 そして,甲5発明のヒンジ装置は,第1部材と第2部材とにわたり装着される係嵌組成体であり,しかも,当該第1部材と第2部材は,甲5発明のヒンジ装置,とりわけ「係止盤5」,これを収納する「筒状部2A」,「筒状部2A」と同一軸線上の「筒状部2B」によって,回転自在に結合されるものであり,甲5発明のヒンジ装置は,「ヒンジ軸」としての機能を有するものであり,本件発明の係嵌組成体と全く同一の機能を奏するものである。また,甲5発明の筒状部2Aは,特開平9-130462号公報(甲2)の係嵌組成体のヒンジハウジング30と同じものであるから,甲5発明に接した当業者は,容易に,筒状部2Aに一体形成されている取付け片1A,並びに取付け片1Bを携帯電話の装着溝に係合するようなものに変更させて,携帯電話のヒンジ筒に回り止め装着させることを想起し,これを引用発明に適用させて,本件発明同様のヒンジ装置を得ることができる。 したがって,甲5発明の筒状部2Aは,本来のヒンジを構成する部材であることが明白であり,他方,本件発明の「筒状本体」も本来のヒンジ構成部材と同様にヒンジを構成する部材であることが明らかであるから,甲5発明の筒状部2Aが「機器本体の構成部材(第1部材の第1ヒンジ筒)」であると認定した審決は誤りであるし,それに基づく相違点2の判断も誤りである。 ( )甲5発明を凸所形成ディスクを中心にして見ると,審決が認定したような 3「また同様に,甲第5号証には,係止盤5(摺動ディスク)の突条部6を筒状部2Aの一対の長溝7に摺動する構成が記載されている」ことに示唆され,当業者であれば,これを前記特開平9-130462号公報(甲2)に認められる周知の係嵌組成体の筒状本体に置き換えて,「本件特許発明の係嵌組成体を構成する摺動ディスク,その突条部(スライド用切込み溝に対応する部分),筒状本体及びその一対のスライド用切込み溝」を極めて容易に想到するものであることが明らかである。 そして,特開平9-195611号公報(甲15)においては,甲5発明の蝶番と同種の蝶番(ヒンジ構造)を携帯用電話機の本体と送話部との連結部分に適用するに当たり,取付け片付きの筒状部を本体と送話部の第1ヒンジ筒及び第2ヒンジ筒にわたり装着することを開示していて,甲5発明の蝶番が携帯電話のヒンジ筒に装着され得ることは明らかである。 ( )被告は,本件発明の係嵌組成体は,第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわた4り装着されるヒンジ軸の形態であり,取付け片1A付きの筒状部2Aが第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着することができないことは明らかである旨主張するが,甲5発明も,本件発明の係嵌組成体と同様,第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるヒンジ軸の形態をとるものである。被告主張のように,甲5発明のヒンジ装置の筒状部2Aを図示されている取付け片1A付きのものと限定することは,甲5全体から認められるヒンジ装置に関わる技術的創作から当業者が想到し得る技術思想や技術転用を考えないものである。 また,被告は,本件発明と甲5発明のそれぞれのコイルスプリングの収納空間を対比し,本件発明は,甲5発明のものよりも,係嵌状態の保持力を大きくするか,切替え時の力を小さくすることができるので,甲5発明の「突条部付きの係止盤」は,本件発明の「係嵌凸部付きのスライド用切込み溝嵌り込み部分を有する摺動ディスク」とは,全く異なる技術である旨主張するが,上記被告主張は,本件発明における特許請求の範囲の記載により把握される技術的構成を無視するものであって,実施レベルの具体的な構造の差異を主張するものにすぎず,失当である。 第4被告の反論1取消事由1(本件訂正の適法性についての判断の誤り1)に対して( )原告は,本件訂正前発明に,摺動ディスクの第1突き合わせ端面に複数の1係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成され,第2ディスクの第2突き合わせ端面に複数の係嵌凸部が形成されている態様のものが含まれるところ,この態様のものは,実施不能なものであることが明らかであり,本件訂正は発明の要旨を変更するもので不適法である旨主張するが,失当である。 ( )原告は,本件訂正前発明の係嵌凸部や係嵌凹所の配置について,係嵌凸部2や係嵌凹所を第1ディスクの内径を越えない位置における端面に形成されるものに限定されるとして,本件発明が実施不能である旨主張するが,本件訂正前発明は,係嵌凸部(又は係嵌凹所)を第1ディスクの「摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌まり込んだ部分」に形成することに限定していないので,摺動ディスクの係嵌凸部(又は係嵌凹所)を摺動ディスクのどの位置に形成してもよい。摺動ディスクの第1突き合わせ端面に複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成され,第2ディスクの第2突き合わせ端面に複数の係嵌凸部が形成されている態様においても,係嵌凹所を第1ディスクの筒状本体の内径を越えた位置である切込み溝内にはまり込んだ部分に形成することができ,この場合には,第2ディスク側の係嵌凸部が第1ディスクの筒状本体に干渉することがないように,摺動ディスクの前面を係嵌凹所の深さ分だけ筒状本体から出っ張らせればよいことは当業者に明らかである。 そして,「摺動ディスクの切込み溝内に嵌り込んだ部分に係嵌凸部を形成する」との訂正事項は,当初の明細書及び図面の実施例に相応する態様に限定したものであり,願書に最初に添付された明細書又は図面の記載の範囲内のものであることは明らかであり,この部分の訂正について適法とした審決に誤りはない。 2取消事由2(本件訂正の適法性についての判断の誤り2)に対して( )原告は,「複数の係嵌凸部」について,本件訂正によって,スライド用切1込み溝が2つに限定されたのであるから,係嵌凸部は,「複数」ではなく,「2つ」に特定され,また,スライド用切欠き溝が径方向に相対しているのであれば,「径方向に相対する係嵌凸部」であり,本件訂正の前後で「複数」の意味や「複数の係嵌凸部」の意味が訂正前後で変化していて,実質上特許請求の範囲を変更するものである旨主張するが,失当である。 「2つ」も「複数」であり,また,「径方向に相対している」のは,切欠き溝であり,「係嵌凸部」の周方向の位置は,第1部材と第2部材との開成位置で決まり,径方向に相対しているか否かは設計上の問題である。係嵌凸部を径方向に相対していないで径方向に相対する位置から周方向にずれて形成することができることは設計上あり得ることである。 また,原告は,「係嵌凸部」が「ガイド用切り込み溝に嵌り込んだ部分」の全面に形成されることを前提としているが,「係嵌凸部」は,必ずしも「ガイド用切り込み溝に嵌り込んだ部分」の全面に形成されるものではなく,その部分に,従来から知られている(甲14に添付の甲5の添付写真33,34)スポット的な係嵌凸部を形成することができる。このようなスポット的な「係嵌凸部」であると,径方向に相対する2つのスライド用切込み溝にはまり込んだ部分の一方に形成された係嵌凸部と他方に形成された係嵌凸部とは径方向に相対する位置(周方向に180度ずれた位置)から,さらに周方向にずれて形成することができるし,「スライド用切り込み溝に嵌り込んだ部分」の周方向の長さ又は幅(弧長さ)が大きい場合には,1つの「スライド用切り込み溝」に2つ以上の係嵌凸部を形成することもでき,係嵌凸部の数が「2つ」に限定されることはない。「係嵌凸部」を実施例の図面の大きさに限定し,「径方向に相対して2つ」に限定されるとの原告の主張は失当である。 (2)原告は,「複数の係嵌凹所」と「周方向に間隔をおいて」について,本件訂正によって,第2ディスク側の係嵌凹所が「径方向に相対する2つの係嵌凹所」に特定されるとするが,第1部材と第2部材との開成保持位置が2つ以上あれば,「係嵌凹所」はそれに応じて増えるので,「2つ」に限定する必要はない。また,2つの係嵌凹所を有する場合でも,上記( )のとおり,「係嵌凸部」の数が「21つ」に限定されることがないから,それに応じて「係嵌凹所」も「2つ」に限定されないし,「係嵌凸部」が径方向に相対する位置(周方向に180度間隔を置いた位置)から周方向にずれることがあるから,これに伴って「係嵌凹所」も径方向に相対する位置から周方向にずれることになり,「複数の係嵌凹所」や「周方向に間隔をおいて」の記載をそのまま維持することに問題はなく,本件訂正の前後で意味は異ならない。 る。 3取消事由3(本件訂正の適法性についての判断の誤り3)に対して( )原告は,図面に誤りがあることに関連して,審決が取り消されるべき旨主1張するが,失当である。 ( )本件特許明細書の図面の記載によれば,第2ディスク13が第1ヒンジ筒210のリブ10bに干渉して第1ヒンジ筒10を潜り抜けることができないため,図面は,この点において,明らかな誤記を含むものである。 しかし,第2ディスク13が第1ヒンジ筒10のリブ10bに干渉しないように第1ディスク12の筒状本体12Aのガイド溝12fに相応するガイド溝等(逃げ溝)を設けて潜り抜けるようにすることは,当業者に自明の事項である。 原告は,第2ディスク13にガイド溝等を設けると,第2ディスク13に欠損部を生じることから,これを自明の事項ということはできないとするが,その主張は具体的でなく,その意味を理解することができない。 ( )第1ヒンジ筒10の「ガイドリブ10b」と第1ディスク12の筒状本体312Aの「ガイド溝12f」は,第1ヒンジ筒10内で第1ディスク12の筒状本体12Aを回り止め装着するための手段の一例にすぎず,「ガイドリブ10b」や「ガイド溝12f」は,本件発明の直接的な構成要件にはなっていない。 したがって,第1ディスク12の筒状本体12Aと第2ディスク13とをそれぞれ第1ヒンジ筒10と第2ヒンジ筒11に「内嵌する」という訂正事項部分は,「ガイドリブ10b」や「ガイド溝12f」と直接関連するものではない。また,本件特許発明は,係嵌組成体を対象とし,一方,「ガイドリブ10b」は,係嵌組成体そのものではなく,それが装着されるべき機器側のヒンジ筒10の一部であり,本件訂正で言及する必要がない事項である。 本件訂正は,図面の誤った事項を構成要件化しているものではないし,発明の要旨の変更となるものではない。 ( )原告は,【図3】の第2ディスク13に「ガイド溝」を形成していないこ4とは何ら瑕疵がないものであると解釈して,第2ディスク13は,それのみで第1,第2ヒンジ筒に入り込む内径のものであると解釈すべき旨主張するが,他の図面でも,第2ディスク13が第1ディスク12の筒状本体12Aより小径には描かれておらず,上記主張は,実施例の記載と著しく異なるものである。 ( )明細書の発明の詳細な説明は,当業者が発明を実施することができる程度5に明確かつ十分に記載したものであることが要求されているが(特許法36条4項1号),その記載に誤りがあっても,その記載を読んで当業者がその発明を実施することができれば,上記規定に違反していることにはならない。自明な手段で実施することができる程度の誤りを理由にすべての訂正を否定することは,発明の保護を目的とする特許法の精神を否定するものである。 4取消事由4(相違点2についての認定判断の誤り)に対して(1)原告は,甲5発明の筒状部2Aは,本件発明の「筒状本体」に該当するとして,これを否定した審決が誤りである旨主張するが,失当である。 (2)本件発明の係嵌組成体は,「同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されて」これらのヒンジ筒を回転自在に結合するヒンジ軸としての機能を有するものであり,第1ディスクの筒状本体は摺動ディスクのガイドにすぎないから,この筒状本体が従来技術の係嵌組成体が装着されるべきヒンジ筒に該当するとの原告の主張は,本件発明の係嵌組成体の本質を見誤ったもので,失当である。 (3)甲5発明の「筒状部2A」は,蝶番の一方の取付け片1Aに一体に形成されており,他方の取付け片に一体に形成された他方の筒状部2Bとの間にまたがって係入された軸3によって,この他方の筒状部2Bに回動自在に連結されている。 本件発明の係嵌組成体は,第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるヒンジ軸の形態であり,取付け片1A付きの筒状部2Aが第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着することができないことは明らかであり,この筒状部2Aは,本件発明の第1ヒンジ筒に相当することは明らかである。 (4)審決は,甲5発明の筒状部2Aと本件発明の第1ディスクの筒状本体とを対比する中で,「甲第5号証には,係止盤5(摺動ディスク)・・・」(25頁18行目)と記載するが,甲5発明の係止盤5は,本件発明の摺動ディスクのように「スライド用切込み溝に嵌り込んだ部分」を有しないし,係嵌凸部は形成されていない。そして,本件発明のコイルスプリング14の収納空間が甲5発明のスプリング4の収納空間よりも長くなることによって,本件発明は,甲5発明よりも,係嵌状態の保持力を大きくするか,切替え時の力を小さくすることができるのであり,甲5発明の「突条部付きの係止盤」は,本件発明の「係嵌凸部付きのスライド用切込み溝嵌り込み部分を有する摺動ディスク」とは,全く異なる技術である。 第5当裁判所の判断1取消事由1(本件訂正の適法性についての判断の誤り1)について( )原告は,突き合わせ端面の凹凸の配置態様を挙げて,本件訂正は発明の要1旨を変更するもので不適法であるとして,本件訂正を適法とした審決の判断を争う。 ( )突き合わせ端面の係嵌凹所と係嵌凸部について,本件訂正は,特許請求の2範囲について,本件訂正前発明の「片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,両突き合わせ端面のうちのいずれか一方には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともにその他方には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されている」を「片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されている」と訂正するものである(下線部が訂正箇所)。 すなわち,本件訂正前発明は,第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面のいずれか一方に係嵌凹所が,他方に係嵌凸部が形成されているものであり,第1突き合わせ端面に係嵌凸部が,第2突き合わせ端面に係嵌凹所が形成される態様と,第1突き合わせ端面に係嵌凹所が,第2突き合わせ端面に係嵌凸部が形成される態様を含んでいたのに対し,本件訂正は,それを,そのうちの,第1突き合わせ端面に係嵌凸部が形成され,第2突き合わせ端面に係嵌凹所が形成される態様のものに限定し,本件訂正前発明が含んでいた,第1突き合わせ端面に係嵌凹所が形成され,第2突き合わせ端面に係嵌凹所が形成される態様のものを含まなくするものであるから,訂正前に含まれていることが明らかな2つの態様のうちの1つの態様を選択するという特許請求の範囲の限縮に当たる。そして,本件特許明細書の記載(段落【0014】,【0015】,第3図)によれば,第1突き合わせ端面に係嵌凸部が形成され第2突き合わせ端面に係嵌凹所が形成されるものが記載されていて,上記構成に係る本件訂正は,明細書に記載された範囲内においてされたものであり,また,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項にいう特許請求の範囲を変更するものとはいえない。 そうすると,本件訂正の原告主張の点について,「特許法134条の2第1項ただし書きに適合し,同条第5項において準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合する」とした審決(6頁第3段落)に誤りはない。 ( )原告は,本件訂正前発明に含まれていた,第1突き合わせ端面に複数の係3嵌凹所が形成され,第2突き合わせ端面に複数の係嵌凸部が形成されている態様のものが実施不能であるとして,実施不能の構成を包摂し発明の要旨が不明の特許請求の範囲の記載から,その実施不能な構成を削除して,発明の要旨を明確にするものであるから,本件訂正は,いわば無を有に変更するものであって,その発明としての同一性を欠くものであり,要旨の変更に該当するものである旨主張する。 しかし,上記訂正に係るのは第1突き合わせ端面と第2突き合わせ端面のどちらに係嵌凹所,係嵌凸部が形成されているかに係るものであるところ,本件訂正前発明においても,どのような態様のものが包摂されるかは明らかであったのであり,訂正前発明において含まれていることが明らかな2つの態様のうちの,図面において具体的に明らかにされていた一つの態様を選択することについて,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項にいう特許請求の範囲を変更するものとはいえず,原告主張の点をもって,発明の要旨が不明なものが明確になったとか,特許請求の範囲の変更に当たるということができるものではない。 ( )したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。 42取消事由2(本件訂正の適法性についての判断の誤り2)について( )原告は,特許請求の範囲の「複数の係嵌凸部」,「複数の係嵌凹所」及び1「周方向に間隔をおいて」の意味内容は,本件訂正の前後で変化することになり,本件訂正の前後で発明の要旨が変更されるとして,本件訂正が不適法である旨主張する。 ( )本件訂正には,特許請求の範囲について,本件訂正前発明の「片面を第12突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,両突き合わせ端面のうちのいずれか一方には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともにその他方には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されている」を「片面を第1突き合わせ端面とする摺動ディスクと片面を第2突き合わせ端面とする第2ディスクとの相対関係において,第2突き合わせ端面には複数の係嵌凹所が周方向に間隔をおいて形成されているとともに第1突き合わせ端面で摺動ディスクのスライド用切込み溝内に嵌り込んだ部分には該各係嵌凹所と係合離脱自在に対応する複数の係嵌凸部が形成されている」と訂正する部分,及び,本件訂正前発明の「筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において,摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成されたスライド用切込み溝を周壁に有する」を「筒状本体と摺動ディスクとコイルスプリングとの相対関係において,摺動ディスクやコイルスプリングを嵌め込むためのもので第1ヒンジ筒に内嵌して第1ヒンジ筒に対して回り止め装着される筒状本体がその側端縁から軸線方向沿いに切り欠き形成された径方向に相対する2つのスライド用切込み溝を周壁に有する」と訂正する部分がある(下線部が訂正箇所)。 そうすると,本件訂正により,筒状本体のスライド用切込み溝は,数に限定がなかったものが,径方向に相対する2つと限定されることとなる。そして,係嵌凸部については,スライド用切込み溝内にはまり込んだ部分に複数形成されると限定されたと認められ,係嵌凸部が複数あるということについての訂正はないものの,原告の主張するとおり,スライド用切込み溝が2つと限定されたことに照らせば,実質的には,係嵌凸部が形成されるのは径方向に相対する2つのスライド用切込み溝内にはまりこんだ部分に限られるとされたものと認められる。 ここで,係嵌凸部について,実質的に上記のような限定がされるとしても,突き合わせ端面に設けられるとしていたのを,第2突き合わせ端面の径方向に相対する2つのスライド用切り込み溝内にはまりこんだ部分とすることは,本件訂正前においても含まれることが明らかであった態様に特許請求の範囲を減縮するものであって,本件特許明細書の【図3】には,径方向に相対する2つの筒状本体のスライド用切込み溝と,第2突き合わせ端面の二つのスライド用切込み溝内にはまり込んだ部分に係嵌凸部が計2つ形成されるものが示されており,この訂正は,特許明細書,図面に記載した範囲内においてされたものということができ,また,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項にいう特許請求の範囲を変更するものではなく,適法である。 また,係嵌凹所について,本件訂正前発明では,周方向に間隔をおいて,複数形成されるとされているところ,本件訂正前後でその文言に訂正はないが,係嵌凹所と係嵌凸部が係合離脱自在に対応することを考えると,係嵌凸部の位置が限定されたことに伴い,その内容は変化するものではあるが,それは,周方向に間隔をおいて,複数形成されるとされていたものに,一定の限定を加えるものであって,減縮になるのであり,また,本件訂正後の本件発明に対応する図面が本件特許明細書に記載されていることからも,この訂正は,特許明細書,図面に記載した範囲内においてされたものということができ,また,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項にいう特許請求の範囲を変更するものではなく,適法である。 ( )原告は,特許請求の範囲の「複数の係嵌凸部」,「複数の係嵌凹所」及び3「周方向に間隔をおいて」の意味内容は,本件訂正の前後で変わるとして,本件訂正の前後で発明の要旨が変わるとする。 確かに,「複数の係嵌凸部」の意味は,他の部分が訂正されたことによって内容が変わるのであるが,変更の内容は実質的に減縮であって,その意味が不明確になるものでもなく,また,訂正後のものが具体的に明細書において明らかにされていたものであり,このような内容の変更が,特許法134条の2第5項で準用する同法126条4項にいう特許請求の範囲を変更するものであるとは認められない。 係嵌凹所についても,同様に,他の部分が訂正されたことにより,その内容が限定されるといえるのであるが,複数の係嵌凸部について述べたのと同様の理由によって,このことによって,本件訂正が不適法なものになるとは認められない。 ( )したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。 43取消事由3(本件訂正の適法性についての判断の誤り3)について( )原告は,訂正の根拠とした本件特許明細書の【図3】について,図面に記1載していない事項を自明事項で補うことが許されないにもかかわらず,審決がそれを自明事項で補った違法があるとし,また,本件特許明細書の【図3】に誤りがあるとしたら,そのような誤記の図面に基づく訂正は違法である旨主張する。 ( )本件訂正に係る事項については,特許明細書の発明の詳細な説明のほか,2その【図3】に基づくところが多いところ,訂正に係る構成については,【図3】を含めた本件特許明細書に明確に記載されているのであり,本件訂正における訂正事項について,原告が取消事由1及び2で主張するような違法がないことは上記1及び2のとおりである。 他方,本件特許明細書の【図3】においては,「第2ディスク」に「ガイド溝」が設けられていないが,図面及び本件特許明細書の記載に照らすと,第1ヒンジ筒10の内周には,筒状本体12Aのガイド溝12fが係合するガイドリブ10bが突設されていて,他方【図3】では,第2ディスク13は筒状本体12Aと同長の直径を備えているから,係嵌組成体Cを,第1ヒンジ筒10に挿通させる際に,第1ヒンジ筒10の内周に突設されているガイドリブ10bに阻害されて,第2ディスク13を第1ヒンジ筒10に挿通させることができないこととなるようにみえる。 しかし,筒に挿通させるためにどのような設計を行うかは,設計事項というほかなく,それは筒の内部にガイドリブが突設されている場合も同様であって,当業者は,ガイドリブに対応する溝を設けるなり,ディスクの内径を小さくするなりして,その点について適宜の設計を行うことができるのであり,本件発明においても,筒に挿通させるための構成が,特段の技術的課題を解決した構成に係る部分であるとは到底認められない。【図3】に接した当業者も,本件訂正に係る構成については,本件明細書及び【図3】等の図面によって理解する一方,【図3】に接して,同図面のままであれば第2ディスク13を第1ヒンジ筒10に挿通させることができなくなるとみえたとしても,そのことによって,記載内容自体が不明確であるとは理解せず,挿通に係る構成については,適宜の設計を行うことができると認められる。 そして,本件訂正は,第2ディスクを第1ヒンジ筒に挿通させることに係る構成を【図3】により訂正するものではない。 原告は,【図3】を自明な事項で補って,【図3】に基づく本件訂正を認めたこと,誤記がある【図3】に基づき本件訂正を認めたことが違法である旨主張するのであるが,本件発明においては,第2ディスクの回り止めに係る構成や,第1ヒンジ筒に第2ディスクを挿通させるための構成が問題となっているものでもなく,本件発明の課題とするところ及び課題を解決するための構成や訂正に係る構成については,当業者は【図3】等で理解でき,【図3】において不都合が生ずる部分があるとしても,それは,そこに記載された内容を不明確とするといえるものではなく,当業者が当然に設計上補えるようなものであると認められるから,原告主張の事実が,本件訂正を違法とするものではない。 ( )したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。 34取消事由4(相違点2についての認定判断の誤り)について( )審決は,甲5発明について,「該筒状部2Aは,本件発明の『第1部材の1第1ヒンジ筒』に相当するものであって,本件発明の『筒状本体』とはいえないから,本件発明の『第1ディスクが,筒状本体と摺動ディスクとからなる』構成を開示しているこということができない。」として,引用発明に甲5発明を適用しても相違点2に係る本件発明の構成に想到することが容易でないとしたのに対し,原告は,この認定判断を争う。 ( )特許請求の範囲の「第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有す2る第2部材とを開閉自在に連結するための係嵌組成体であって,同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒と第2ヒンジ筒とにわたり装着されるものであること,および,係嵌組成体の構成要素として第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とを備えていてそのうちの第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクとからなること・・・折り畳み式機器の開閉保持用ヒンジ装置の係嵌組成体」との記載等を参照すれば,本件発明において,ヒンジ機構は,同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒,第2ヒンジ筒及びそれらにわたって装着され第1ヒンジ筒を有する第1部材と第2ヒンジ筒を有する第2部材を開閉自在に連結する係嵌組成体からなり,本件発明はそのうちの係嵌組成体に係る発明であると認められる。 そして,本件発明の係嵌組成体は,第1ディスクと第2ディスクとコイルスプリングと軸杆とからなり,第1ディスクが筒状本体と摺動ディスクからなると認められる。 ( )相違点2は,引用発明が,本件発明のようなスライド用切込み溝を周壁に3有する筒状本体等を用いた構成を有していないというものであり,この点は,当事者間に争いがない。 原告は,甲5発明の筒状部2Aは,本件発明の「筒状本体」に相当するものであると主張して,これを本件発明の「第1部材の第1ヒンジ筒」に相当するものであるとした審決の認定を争う。 ( )甲5マイクロフィルムには,以下の記載がある。 4ア「本考案は蝶番の改良に関するものである。」(1頁下から4行目)イ「図において附号1A,1Bは蝶番の取付け片を示し,此れ等取付け片は互いに隣接する縁部で対称的に形成された筒状部2A,2Bを介して軸3,3により回動自在に連結されている。而して此の実施例では下方の軸3の先端は筒状部2Aの中間で終つており,そして此の筒状部2Aの空白部分にはスプリング4を介して係止盤5が上下方向に摺動自在に装着されている。此の係止盤5は第2図に示す様にその上面に上方に突出した突条部6を有し,そして此の突条部6の両側部分は前記筒状部2Aの開口縁部に形成した一対の長溝7に係入されており,此れにより係止盤の回動が阻止されている。又前記筒状部2Aの端面に相対する他方の係止片の筒状部2Bの開端面には前記突条部6の先端が係入する比較的浅い一対の凹陥部8が形成されている。此の両者の係合は設定された力の範囲内で筒状部2A,2Bの相関的な回動を阻止しそして設定以上の回動力が加えられると前記両者の係合がはずれその回動制限が解除される様な形状及び寸法に形成されている。従って前記突条部の先端は丸味をもたす事が要求され又此れに係合する凹陥部8は浅い円弧に形成する事が好ましい。本考案では以上の様に構成されているので取付け片1,1の相対的な回動運動中において,係止盤5の突条部6が筒状部2Bの凹陥部8に係入すると此の係止盤を押し上げるスプリングの圧力及び此れ等係合部分の形態によって定められた範囲内で両取付け片1A,1Bの相対的な回動が制限され,此れにより此の蝶番を使用せる扉等の回動を所定の位置でーたん停止させる事が出来るものである。此の様に本考案に依る時は従来の蝶番の形態を何ら損う事なく極めて簡単な機構によって蝶番の自由な回動を制限する事が出来る機能を内蔵した有効な蝶番を提供する事が出来るものである」(2頁2行目〜3頁17行目)。 ( )上記( )によれば,甲5マイクロフィルムには,取付け片1A,1Bが,54隣接する縁部で対称的に形成された筒状部2A,2Bを介して軸3により回動自在に連結され,筒状部2Aの内部にスプリング4を介して係止盤5が上下方向に摺動自在に装着されており,係止盤5の突状部6が筒状部2Aの開口縁部に形成した一対の長溝7に係入されることにより係止盤5の回動が阻止されており,他方の筒状部2Bの端面には,係止盤5の突状部6の先端が係入する凹陥部8を備える蝶番の発明が記載されているものと認められる。 ここで,前記のとおり,本件発明において,ヒンジ機構は,同一軸線上で隣接する第1ヒンジ筒,第2ヒンジ筒及びそれらにわたって装着される係嵌組成体とからなるものであるところ,甲5発明においては,ヒンジ機構は,隣接する筒状部2A,2B及びそれらにわたる軸3,係止盤5などからなると認められる。 そして,本件発明における第1ヒンジ筒,第2ヒンジ筒に相当するのは,甲5発明においては筒状部2A,2Bであるから,これと同旨の審決に原告主張の誤りはない。 ( )原告は,筒状部2Aが,本件発明の「筒状本体」に相当すると主張するの6であるが,本件発明も甲5発明も,2つの部材にそれぞれ固定され,同一軸線上で隣接する筒状部と,それらの筒状部にわたる部材とからなる点で共通するのであり,この点から,一方の部材に固定されていて,他方の部材に固定されている筒状部と同一軸線上で隣接する筒状部である甲5発明の筒状部2Aは,本件発明の「第1ヒンジ筒」に相当し,2個の筒状部にわたる部材の一部である本件発明の「筒状本体」に相当するものではないのであるから,原告の主張は採用できない。そして,原告は,甲5発明の筒状部2Aが本件発明の「筒状本体」に相当することを前提として,審決の容易想到性についての判断の誤りを主張するなどするが,前提を欠くものであり,採用できない。 ( )したがって,原告主張の取消事由4は理由がない。 75以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は棄却することとする。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
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裁判官 | 宍戸充 |
裁判官 | 柴田義明 |