関連審決 | 不服2003-6 |
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関連ワード | 技術的思想 / 製造方法 / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 相違点の判断 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 実質的に同一 / 登録実用新案 / 実施 / 具体的態様 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
103号
審決取消請求事件
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原告 ウエキハウス株式会社 訴訟代理人弁理士 吉井剛 同 吉井雅栄 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 山田忠夫 同 新井夕起子 同 高木進 同 岡田孝博 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/12/20 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2003-6号事件について平成16年2月10日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成9年12月26日,発明の名称を「家屋構築用パネル及び家屋構築用パネルの製造方法並びに家屋構築用パネルを用いた家屋」(平成12年7月24日付け手続補正書により「家屋構築用パネル,家屋構築用パネルの製造方法及び家屋構築用パネルを用いた家屋」に補正)とする特許出願(特願平9-361177号,以下「本件特許出願」という。)をしたが,平成14年12月5日に拒絶の査定を受けたので,平成15年1月6日,これに対する不服の審判の請求をし,同年2月5日付け手続補正書により本件特許出願の願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載等について補正をした。 特許庁は,同請求を不服2003-6号事件として審理した上,平成16年2月10日に「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月19日,原告に送達された。 2 願書に添付した明細書(平成15年2月5日付け手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲【請求項1】記載の発明(以下「本願発明1」という。)の要旨 家屋の柱,土台,鴨居,梁,束,垂木等の骨材に囲まれた空間部に嵌合して該空間部を閉塞する家屋構築用パネルであって,該空間部に合わせた形状にして骨材に当接する少なくとも一対の枠部材を有し,この一対の枠部材の内面にして該枠部材の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置には溝が設けられ,この溝に端部が嵌着されることで該溝間に一枚の平板が張設され,平板と枠部材とで形成される空間部に断熱材を設けたことを特徴とする家屋構築用パネル。 3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明1は,本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である登録実用新案第3025069号公報(甲3,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許出願は,拒絶すべきものであるとした。 |
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原告主張の審決取消事由
審決は,引用発明の認定を誤った(取消事由1)結果,本願発明1と引用発明との一致点の認定を誤り,かつ,本願発明1と引用発明との相違点を看過し,また,本願発明1と引用発明との相違点についての判断を誤った(取消事由2)ものであるから,違法として取り消されるべきである。 1 取消事由1(引用発明の認定の誤り) (1) 審決は,引用発明として,「家屋の柱,桁等の軸組材で形成される壁枠内に嵌合して該壁枠内を閉塞する建築用パネルであって,該壁枠内に合わせた形状である矩形形状の枠体を形成し軸組材に当接する二対の枠柱を有し,この二対の枠柱の内面にして該枠柱の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置には溝が設けられ,この溝内に端部が嵌着されることで該溝間に一枚の構造用合板が張設され,構造用合板と枠部材とで囲繞された範囲に断熱部材を設けた建築用パネル」(審決謄本2頁第1段落)を認定した上,本願発明1と引用発明との一致点として,「家屋の柱,土台,鴨居,梁,束,垂木等の骨材に囲まれた空間部に嵌合して該空間部を閉塞する家屋構築用パネルであって,該空間部に合わせた形状にして骨材に当接する枠部材を有し,この枠部材の内面にして該枠部材の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置には溝が設けられ,この溝に端部が嵌着されることで該溝間に一枚の平板が張設され,平板と枠部材とで形成される空間部に断熱材を設けた家屋構築用パネル」(同3頁第1段落)を認定したが,誤りである。 (2) 引用発明は,正しくは,「一対の縦枠柱と一対の横枠柱とからなり,枠柱の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置に2枚の構造用合板が間柱により分断された状態で張設されたパネル」と認定されるべきである。引用例(甲3)には,【図1】〜【図4】に図示された実施例(以下「実施例1」という。)と,【図5】及び【図6】に図示された別の実施例(以下「実施例2」という。)の二つの実施例が開示され,審決が引用発明を認定する際に引用した段落【0012】,【0013】は,実施例1に関する記載であり,実施例1は,【図4】から明らかなとおり,構造用合板13が,縦枠柱11の表裏端縁双方から奥まった位置にはなく,本願発明1「平板が枠部材の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置にある」との構成を有しない。一方,実施例2は,実施例1と異なり,【図6】から明らかなとおり,構造用合板13が,縦枠柱11の表裏端縁双方から奥まった位置にあり,この点において,本願発明1と一致し,審決は,実施例2から間柱16を除いたものを,引用発明と認定したが,実施例2において,間柱16を除くことはできない。すなわち,実施例2は,構造用合板13が,間柱16により分断され,縦枠柱11間において,2枚設けられているものであり,強度上,間柱16を必須の構成としている。さらに,実施例2は,構造用合板と間柱とは単なる当接であり,嵌着構造ではないため,横枠柱がないと強度的にパネルとならず,横枠柱12を必須の構成とするものである。確かに,実施例2の【図6】のみを見て,実施例2の技術的思想を考慮しなければ,間柱16を除くことは可能であり,これを除けば,本願発明1と同一のものとなるが,発明の進歩性判断においては,図面上において,ある部材を除くことが可能であるとの理由で,その部材を除くことが自明であるとすることは許されず,発明の技術的思想を考慮した上で,当該部材を除くことが発明の技術的思想から逸脱しないか否かを検討して判断しなければならない。これまで,当業界においては,一対の枠部材と該枠部材間に嵌着された一枚の平板とからなる家屋構築用のパネルは存在しておらず,このような構造では強度が発揮されないというのが当業者の共通認識であったのであるから,実施例2から間柱16を除くことはできないというべきである。しかも,実施例2の間柱16を除くと,構造用合板13は1枚となり,横枠柱12は必須ではなくなってしまい,全く異なるパネルとなってしまう。したがって,実施例2において,間柱16を除くことは,実施例2の技術的思想を逸脱し,許されない。さらに,実施例1と実施例2とは,構造用合板の配設位置が異なるとともに,構造用合板と間柱の接合構造も異なる別のパネルであり,上記段落【0012】,【0013】は,上記のとおり実施例1に関しての記載であって,この記載を実施例2に及ぼし,実施例2から間柱16を除くことは,許されないというべきである。 (3) 進歩性の判断において,特許公報から引用発明を認定する場合には,当該特許公報の記載全体から具体的技術(実施例を中心に,まれには従来技術の項から)を抽出して認定しなければならず,当該特許公報の請求項に記載された内容を引用発明とすることはできないというべきである。昭和56年6月1日建設省告示第1100号(以下「建設省告示」という。)は,構造用合板を2枚を継ぎ合わせて使用する場合には,柱,間柱等が必須であることを規定している。したがって,当業者は,構造用合板2枚を用いる場合には,当然「間柱」を設けることとなり,建設省告示が存在する以上,これを取り除くことを想到することはない。 2 取消事由2(本願発明1と引用発明との相違点についての判断の誤り) (1) 審決は,本願発明1と引用発明との相違点として認定した,「本願発明1では,少なくとも一対の枠部材を有しているのに対し,引用例記載の発明では,矩形形状の枠体を形成する二対の枠柱を有している点」(審決謄本3頁第2段落,以下「相違点」という。)について,「引用例記載の発明における枠柱を,本願発明1のように少なくとも一対有するようにすることは,当業者が適宜なしうる程度のことにすぎない。そして,本願発明1によってもたらされる効果も,引用例記載の発明から当業者であれば予測することができる程度のものであって,格別なものとはいえない」(同第3段落〜第4段落)と判断したが,誤りである。 (2) 従来,一対の枠部材と該一対の枠部材間に嵌着された一枚の平板からなる家屋構築用のパネルが存在していなかったことを考慮すると,相違点は,当業者が適宜し得る程度のものではないことは明らかである。すなわち,本件特許出願前は,枠部材が二対ないとパネルにはならないと考えられていたところ,本願発明1は,一枚の構造用合板を,一対の枠部材の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置に,該枠部材の内面に設けた溝に嵌合して成るパネルは強度的に十分であることを確認してされたものであり,強度的に優れ,量産性にも優れたパネルとなり,顕著な作用効果を奏するものである。 |
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被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1) 引用例(甲3)の【請求項5】(【請求項1】を引用する【請求項4】を引用している。)を,いわゆる独立項形式で記載すると,「柱,桁等の軸組材を組んで家屋を建築する木造軸組工法を採用している家屋に於いて,前記軸組材の太さと一致する厚みを備えた枠柱で,当該軸組材で形成される壁枠内に嵌合される矩形形状に形成した枠体の内側面に溝を形成し,当該溝内に構造用合板を差し込んでパネルを形成し,構造用合板の表裏いずれかの面の枠柱で囲繞された範囲に適宜厚さの断熱部材を装着してなることを特徴とする建築用パネル」となり,これは,審決が認定した引用発明と実質的に同一である。 (2) 原告は,引用発明は,「間柱」を必須の構成としていると主張するが,引用例(甲3)の各請求項は,「間柱」について何ら言及していない上,実施例1に関して,「必要に応じて間柱16を設けたり・・・してなるものである」(段落【0012】)と記載され,「間柱」は,あくまで付加的なものとして記載されている以上,実施例2に関しても,直接的記載はないものの,「間柱」が必要に応じて設けられる付加的なものであることは,当業者に明らかな事項である。 2 取消事由2(本願発明1と引用発明との相違点についての判断の誤り)について 本願発明1は,「少なくとも一対の枠部材を有」するものであり,枠部材が一対だけのパネル及び枠部材を二対有するパネルの2態様を含むものであって,枠部材を二対有するパネルは,引用発明のパネルと何ら実質的な差異を有しない。また,一対の枠柱だけから成るパネルが,強度的にパネルとはならないとはいえず,当業者にそのような共通認識があったということもできない。仮に,一対の枠柱だけから成るパネルが,強度を有していないとすれば,本願発明1の2態様のうち,枠部材が一対だけのパネルは,強度を有していないことになり,発明として成り立たないことになる。本願発明1が発明として成立するのであれば,一対の枠部材だけから成る態様のものは,二対の枠部材を有する態様のものより強度的に劣ることが自明であり,この場合,強度を向上させる何らの工夫もされていない本願発明1は,その程度の強度で十分であるとした発明にすぎない。一方,引用発明で使用されている「構造用合板」は,柱,梁等の木造建築物の軸組に取り付けたときに,軸組と協働して,家屋に加わる外力に対抗する要素となることは,建築分野において古くから知られた技術常識である。したがって,枠部材が一対だけしか存在しなくても,すなわち,引用発明のパネルから一対の枠材を取り除いても,所定の強度を有するようにし得ることは,当業者に明らかな事項であるから,「(注,枠部材を)少なくとも一対有するようにすることは,当業者が適宜なしうる程度のことにすぎない」(審決謄本3頁第3段落)とした,審決の相違点の判断に,何らの誤りもない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定の誤り)について (1) 原告は,引用例(甲3)には,【図1】〜【図4】に図示された実施例1と,【図5】及び【図6】に図示された実施例2の二つの実施例が開示されており,審決は,実施例2から間柱16を除いたものを,引用発明と認定したが,実施例2において,間柱16を除くことはできないから,引用発明は,正しくは,「一対の縦枠柱と一対の横枠柱とからなり,枠柱の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置に2枚の構造用合板が間柱により分断された状態で張設されたパネル」と認定されるべきであると主張する。 (2) そこで,引用例(甲3)をみると,【従来の技術】について,(ア)「枠状部分に嵌合するパネル体を予め工場内で製作しておき,このパネル体を構築現場に持ち込み,所定の箇所に組み込む工法が採用されてきた(実開平7-004613号公報)」(段落【0004】)との記載が,【考案が解決しようとする課題】について,(イ)「木造軸組工法において,パネルを使用する場合には,最初に軸組となる土台,柱,梁,胴差し等を連結し,そして予め製作していたパネル体を組み込むものである。このパネル体は,木柱を以て矩形枠とし,その矩形枠に構造用合板を釘で固定しているもので,後の外壁の構築並びに内壁の構築等からパネル体の厚みは,軸組材の太さと一致しているのが好ましい。このため,矩形枠の一面側に構造用合板を張着してなるパネル体に於いては,当然構造用合板の厚み分だけ幅の狭い木材を使用する必要がある。しかし通常の木材料は,軸組材の柱の太さを基準にして,規格化されている。そうすると,従前のパネル体は,その矩形枠の形成に際して,構造用合板の厚み分だけ除去する必要があり,またその除去分は他への転用が難しい薄さ及び幅の木材となる。そこで本考案(注,引用発明)は,多用される木材をそのまま使用して木材の無駄をなくした新規な建築用パネルを提案したものである」(段落【0005】〜【0007】)との記載が,【課題を解決するための手段】について,(ウ)「本考案に係る建築用パネルは,柱,桁等の軸組材を組んで家屋を建築する木造軸組工法を採用している家屋に於いて,前記軸組材の太さと一致する厚みを備えた枠柱で,当該軸組材で形成される壁枠内に嵌合される矩形形状に形成した枠体に,枠体の厚みより突出させず構造用合板を張着一体化してなることを特徴とするものである。また前記のパネルに於いて構造用合板の張着構造を,枠柱の内側角縁に凹部を形成したり,枠柱の内面側に溝を形成し,当該凹部内や溝内に構造用合板を配置したり,更に構造用合板表裏面の枠柱で囲繞された範囲に適宜厚さの断熱部材を装着してなることを特徴とするものである。従って前記の建築用パネルは,枠柱に軸組材の太さと同一の幅のものを使用することができ,材料の無駄が少なくてすむことになる」(段落【0008】〜【0010】)との記載が,【考案の効果】として,(エ)「以上のように本考案は,木造軸組建築に於いて,柱等の軸組構造体で形成される矩形枠部分内に嵌合装着する建築用パネルを,特にパネルの枠柱を軸組材と一致する厚みを備えた枠柱で形成した枠体内に,構造用合板を表裏に突出させず張着したもので,枠柱に軸組材と同一の規格材を使用することで,その製造の効率化と材料の無駄を少なくしたものである」(段落【0016】)との記載が,【考案の実施形態】として,(オ)「枠体を形成した後に前記凹部14,15に構造用合板13を嵌め込み,釘着によって一体化するものである。また必要に応じて間柱16を設けたり,構造用合板13の裏面の枠体で囲繞された箇所に,断熱部材17を装着してなるものである」(段落【0012】),(カ)「軸組材2,3を用いて木造家屋の軸組を構築した後,従前の間柱や筋交いを不要とし,建築パネル1を軸組材で形成される矩形枠状部分Aに嵌合して釘着し,当該箇所を耐力壁等とするものである」(段落【0013】),(キ)「本考案は,枠柱11,12に軸組材2,3と同様の規格のものを採用すれば良いものであるから,図5,6に例示するように,凹部14,15の代わりに枠柱11,12の内側面に,構造用合板13が嵌合可能な溝18を形成し,枠体の組み立てと同時に構造用合板13を組み込む必要がある」(段落【0015】)との記載がある。また,【図1】〜【図4】には,縦枠柱11,横枠柱12の凹部に,構造用合板13をはめ込んだ実施形態である実施例1が,【図5】及び【図6】には,縦枠柱11,横枠柱12の内側面に溝18を形成して構造用合板13を組み込んだ別の実施形態である実施例2が図示されている。 (3) 引用例(甲3)の上記記載(ア)〜(エ)によれば,引用例記載のパネルは,パネルの枠柱を軸組材と一致する厚みを備えた枠柱で形成した枠体内に,構造用合板を表裏に突出させないように張着することによって,製造の効率化と材料の無駄を省くようにすることを技術的思想としたものであり,また,上記記載(キ)によれば,構造用合板13を表裏に突出させないように張着するための具体的態様として,枠体の凹部14,15に構造用合板13をはめ込むこと,枠体11,12の内側面に溝18を形成して構造用合板13を組み込むことが,任意に選択して採用されるものであることが認められる。他方,上記記載(オ)によれば,間柱16や断熱部材17は,必要に応じて設けられるものであって,構造用合板13を表裏に突出させないように張着するために必要不可欠のものではないことが明らかであり,これらを設けるか設けないかは,任意に決定されるものである。原告は,審決が引用発明を認定する際に引用した段落【0012】,【0013】(上記記載(オ),(カ))は,実施例1に関する記載であると主張するが,引用例には,上記記載(オ),(カ)が,実施例1のみに妥当するとの説明はないし,上記した,パネルの枠柱を軸組材と一致する厚みを備えた枠柱で形成した枠体内に,構造用合板を表裏に突出させないように張着することによって,製造の効率化と材料の無駄を省くようにするとの引用例の技術的思想に照らし,いずれの実施例においても,間柱16は,必須の構成要素ではないというべきである。そうすると,上記引用例の記載全体から,構造用合板を表裏に突出させないように張着するものとして,枠体11,12の内側面に溝18を形成して一枚の構造用合板13を組み込むとともに,断熱部材17を設けたものが想定され,これを,一つの独立した技術的思想として把握することができる。 (4) また,引用例の【請求項5】は,「請求項4記載の建築用パネルに於いて,構造用合板の表裏いずれかの面の枠柱で囲繞された範囲に適宜厚さの断熱部材を装着してなることを特徴とする建築用パネル」(2頁左欄),その引用する【請求項4】は,「請求項1の建築用パネルに於いて,枠柱の内側面に溝を形成し,当該溝内に構造用合板を差し込んでパネルを形成してなることを特徴とする建築用パネル」(同),その引用する【請求項1】は,「柱,桁等の軸組材を組んで家屋を建築する木造軸組工法を採用している家屋に於いて,前記軸組材の太さと一致する厚みを備えた枠柱で,当該軸組材で形成される壁枠内に嵌合される矩形形状に形成した枠体に,枠体の厚みより突出させず構造用合板を張着一体化してなることを特徴とする建築用パネル」(同)であるから,【請求項5】には,「柱,桁等の軸組材を組んで家屋を建築する木造軸組工法を採用している家屋に於いて,前記軸組材の太さと一致する厚みを備えた枠柱で,当該軸組材で形成される壁枠内に嵌合される矩形形状に形成した枠体に,枠体の厚みより突出させず構造用合板を張着一体化してなり,枠柱の内側面に溝を形成し,当該溝内に構造用合板を差し込んでパネルを形成してなることを特徴とする建築用パネルに於いて,構造用合板の表裏いずれかの面の枠柱で囲繞された範囲に適宜厚さの断熱部材を装着してなることを特徴とする建築用パネル」との構成が記載されていることとなる。そして,上記技術的思想に従い,上記【請求項5】を読めば,同請求項には,審決が認定した引用発明「家屋の柱,桁等の軸組材で形成される壁枠内に嵌合して該壁枠内を閉塞する建築用パネルであって,該壁枠内に合わせた形状である矩形形状の枠体を形成し軸組材に当接する二対の枠柱を有し,この二対の枠柱の内面にして該枠柱の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置には溝が設けられ,この溝内に端部が嵌着されることで該溝間に一枚の構造用合板が張設され,構造用合板と枠部材とで囲繞された範囲に断熱部材を設けた建築用パネル」(審決謄本2頁第1段落)の構成が,実質的にすべて記載されていると認められる。 (5) これに対し,原告は,進歩性の判断において,特許公報から引用発明を認定する場合には,当該特許公報の記載全体から具体的技術(実施例を中心に,まれには従来技術の項から)を抽出して認定しなければならず,当該特許公報の請求項に記載された内容を引用発明とすることはできないと主張する。しかしながら,特許法29条1項3号の「刊行物」が特許公報である場合において,当該特許公報から引用発明を認定するに当たって,「特許請求の範囲」の記載だけでなく,「発明の詳細な説明」の記載及び「図面」の図示を含む全記載から一つの独立した技術的思想を抽出し,それを具体的な構成で表現したものとして当該発明を認定することができることは当然のことであり,原告主張のように,具体的技術(実施例を中心に,まれには従来技術の項から)を抽出して認定しなければならず,当該特許公報の請求項に記載された内容を引用発明とすることはできないと解さなければならない理由はない。また,原告は,当業者は,構造用合板2枚を用いる場合には,当然「間柱」を設けることとなり,建設省告示が存在する以上,これを取り除くことを想到することはないとも主張するが,引用例(甲3)の記載によれば,間柱16は必要に応じて設けられるものであって,これを設けるか設けないかは,任意に決定されるものであることは上記のとおりである。原告の上記主張は,引用発明が,実施例2の記載どおりに認定されることを前提とし,これから間柱16をとり除くと,建築用合板が2枚となる不都合が生じるというものであるが,引用例の記載からは,もともと間柱16を有していない上記引用発明が認定できるのであるから,その前提において誤りであり,採用することができない。 (6) 以上検討したところによれば,審決の引用発明の認定に原告主張の誤りはなく,原告主張の取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(本願発明1と引用発明との相違点についての判断の誤り)について (1) 原告は,本件特許出願前は,枠部材が二対ないとパネルにはならないと考えられていたところ,本願発明1は,一枚の構造用合板を,一対の枠部材の表裏端縁双方から所定の距離だけ奥まった位置に,該枠部材の内面に設けた溝に嵌合して成るパネルは強度的に十分であることを確認してされたものであり,強度的に優れ,量産性にも優れたパネルとなり,顕著な作用効果を奏するものであると主張する。 (2) しかしながら,本願発明1は,「空間部に合わせた形状にして骨材に当接する少なくとも一対の枠部材を有」するものであるから,枠部材は一対とは限らず,二対の枠部材を有することを排除するものではなく,原告の上記主張は,本願発明1の要旨に基づかないものであり,失当というほかない。 なお,特開平9-279761号公報(甲5)には,「図9は本発明に係る構造用パネルの第2実施形態を示す斜視図である。この実施形態に示された構造用パネル10Bは屋根パネル13に適したパネルであるが,床パネル14や壁パネル12としても適用できる。この構造用パネル10Bは矩形形状の面材24に同じく矩形形状の断熱補強体25を接合し,一体化したものである」(段落【0074】〜【0075】),「構造用パネル10Bは機械的・物理的強度を増大させ,剛性を高めるために,断熱補強体25に3本の補強材28が補強桟として用いられる」(段落【0076】),「構造用パネル10Bを壁パネル12として用いたとき,壁パネル12は図13に示すように柱(管柱)17に突き合せて設けても,また図14に示すように柱17の係合溝30に壁パネル12の凸側係合段部35aを挿入して嵌合させ,凹凸嵌合させることにより固定させてもよい」(段落【0085】),「なお,本発明の各実施形態においては,パネル本体を構成する断熱補強体を矩形形状に構成し,1本ないし3本の細長い補強材を長手方向に平行に設置した例を示したが,補強材の設置本数は1本ないし3本に限定されず,種々の応用が考えられる」(段落【0159】)と記載され,また,【図9】,【図13】及び【図14】には,補強材28及び発泡体29から成る断熱補強体25と面材24とから成る構造用パネル10Bが図示されている。これらの記載及び図示によれば,一対の枠部材(二本の補強材28)と一枚の平板(面材24)とから成る家屋建築用パネルは,本件特許出願前に公知のものであったことが認められ,上記公知のパネルは,一対の枠部材間に嵌着された一枚の平板とから成るものではないが,一対の枠部材と一枚の平板とで,家屋建築用パネルを形成するものであるから,本件特許出願前,当業者は,一対の枠部材と一枚の平板とで,パネルとしての必要な強度が発揮され得ることは,十分認識していたものと認められる。そうであれば,引用発明において,枠柱を一対有するようにすることも,当業者が適宜設計変更し得ることということができ,また,これによりもたらされる効果も,当業者が予測することができる程度のものである。 (3) したがって,審決の相違点の判断に,原告主張の誤りはなく,原告主張の取消事由2も理由がない。 3 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 岡本岳 |
裁判官 | 早田尚貴 |