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関連審決 無効2005-80164 訂正2006-39067
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18行ケ10346審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10175審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 容易に発明 /  相違点の認定 /  周知技術 /  出願公開 /  技術常識 /  分割出願 /  援用権(援用) /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  交換 /  構成要件 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  新たな無効理由 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10176号 審決取消請求事件
原告東 海光学株式会社
訴訟代理人弁護 士高橋譲二
同 川崎修一
訴訟代理人弁理 士石田喜樹
同 園田清隆
被告H OYA株式会社
訴訟代理人弁護 士吉澤敬夫
同 牧野知彦
訴訟代理人弁理 士岩田弘
同 新井全
同 岡崎信太郎
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/02/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が無効2005-80164号事件について平成19年4月17日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯被告は,平成4年9月24日にした特許出願(特願平4-255018号。以下「原出願1」という。)の一部を分割して平成12年3月29日に特許出願(特願2000-91821号。以下「原出願2」という。)をし,更にその一部を分割して,平成15年5月7日に発明の名称を「眼鏡レンズの供給システム」とする発明につき特許出願(特願2003-128894号。以下「本件出願」という。)をし,平成16年4月23日,特許第3548569号として特許権の設定登録(設定登録時の請求項の数1。以下,この特許を「本件特許」という。)を受けた。
これに対し原告から本件特許について無効審判請求(無効2005-80164号)がされ,特許庁は,平成18年2月10日,「特許第3548569号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1審決」という。)をした。
被告は,第1次審決の取消しを求める審決取消訴訟(知財高裁平成18年(行ケ)第10122号)を提起した後,同年4月28日,訂正審判請求(訂正2006-39067号)をした。
知的財産高等裁判所は,同年6月2日,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に差し戻すため,第1次審決を取り消す旨の決定をした。差戻し後の事件について,所定の期間内に訂正の請求がされなかったため,上記訂正審判請求の請求書に添付された明細書,特許請求の範囲又は図面を援用した訂正(以下「本件訂正」という。)の請求がされたものとみなされた。
そして,特許庁は,平成19年4月17日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。
その謄本は同月27日原告に送達された。
2 特許請求の範囲本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。下線部は訂正部分である。)。
「【請求項1】ヤゲン加工済眼鏡レンズの発注側に設置された少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えたコンピュータと,この発注側コンピュータに情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータと,この発注側コンピュータへ接続された3次元的眼鏡枠測定装置とを有する,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであって,前記発注側コンピュータは,眼鏡レンズ情報,3次元的眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報,処方値,及びレイアウト情報を含めた枠入れ加工をする上で必要となる情報を入力し,発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し,一方,前記製造側コンピュータは,前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い,ヤゲン加工済眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備え,前記眼鏡枠情報は,前記3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を前記眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し,所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであり,前記発注側コンピュータは,前記3次元の枠データに基づいて,この3次元の座標値から算出された前記眼鏡枠のレンズ枠の周長,眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT,及びフレームPDを求め,これらを前記製造側コンピュータへ送信することを特徴とするヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システム。」3 審決の内容本件審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。
その理由の要旨は,?@本件発明は,本件出願の出願日前の他の出願であって,本件出願の出願後に出願公開がされたもの(特願平4-54214号)の願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された発明と同一であるとはいえない,?A本件出願は,原出願1及び原出願2との関係で,分割出願の要件を満たすので,これを満たさないことを前提に,本件発明は当業者が容易に発明をすることができたとの請求人(原告)の主張は採用することができない,?B本件発明は,特開昭59-93420号公報(以下「刊行物4」という。甲4),特開平4-13539号公報(以下「刊行物5」という。甲5),特開昭58-196407号公報(以下「刊行物6」という。甲6),特開昭62-215814号公報(以下「刊行物7」という。甲7)に記載された発明,周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない,というものである。
なお,本件審決は,上記?Bの判断の前提として,本件発明と刊行物4に記載された発明(以下「刊行物4発明」という。)とを対比し,以下のとおりの一致点及び相違点を認定した。
(一致点)「眼鏡レンズの発注側に設置されたコンピュータと,この発注側コンピュータに情報交換可能に通信回線で接続された製造側コンピュータとを有する,眼鏡レンズの供給システムであって,前記発注側コンピュータは,眼鏡レンズ情報,眼鏡枠形状情報を含む眼鏡枠情報,処方値,及びレイアウト情報を含めた情報を入力し,発注に必要なデータを前記製造側コンピュータへ送信する処理を含む眼鏡レンズの発注機能を有し,一方,前記製造側コンピュータは,前記発注側コンピュータからの送信に応じて演算処理を行い,眼鏡レンズの受注に必要な処理を行う機能を備えることを特徴とする眼鏡レンズの供給システム。」である点。
(相違点1)本件発明では,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるのに対し,刊行物4発明では,そのような限定がされていない点。
(相違点2)眼鏡レンズの供給システムにより供給される眼鏡レンズが,本件発明では,ヤゲン加工済眼鏡レンズであるのに対し,刊行物4発明では,使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズに留まり,ヤゲン加工済との限定がない点。
(相違点3)発注側に設置されたコンピュータが,本件発明では,少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えるのに対して,刊行物4発明では,その限定がされていない点。
(相違点4)本件発明では,3次元的眼鏡枠測定装置が発注側コンピュータに接続されているのに対し,刊行物4発明では,その限定がされていない点。
(相違点5)発注側コンピュータに入力する情報が,本件発明では,枠入れ加工をする上で必要となる情報であるのに対して,刊行物4発明では,使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚のレンズを製造する上で必要な情報である点。
(相違点6)発注及び受注の対象となる眼鏡レンズが,本件発明では,ヤゲン加工済眼鏡レンズであるのに対して,刊行物4発明では,使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズに留まり,ヤゲン加工済との限定がない点。
(相違点7)眼鏡枠形状情報が,本件発明では,3次元的と規定されているのに対し,刊行物4発明では,3次元的とは規定されていない点。
(相違点8)眼鏡枠情報が,本件発明では,3次元的眼鏡枠測定装置の測定子を眼鏡枠の形状に従って3次元的に移動し,所定の角度毎に前記測定子の移動量を検出して前記眼鏡枠の3次元の枠データ(Rn,θn,Zn)を採取して得たものであるのに対し,刊行物4発明では,その点について限定されていない点。
(相違点9)発注側コンピュータが,本件発明では,3次元の枠データに基づいて,この3次元の座標値から算出された眼鏡枠のレンズ枠の周長,眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT,及びフレームPDを求め,これらを製造側コンピュータへ送信するのに対し,刊行物4発明では,その点について限定されていない点。
(相違点10)本件発明の対象は,ヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであるのに対し,刊行物4発明の対象は,使用する眼鏡枠に最も適した肉厚を有する眼鏡レンズの供給システムである点。
当事者の主張
1 本件審決の取消事由に関する原告の主張前記第2の3記載の本件審決の?@及び?Aの判断は争わない。
しかし,本件審決は,本件発明と刊行物4発明との間の相違点1ないし3,5,6,10の認定を誤り(取消事由1),更に相違点1ないし3,5,6,9,10の容易想到性の判断を誤り(取消事由2),その結果,当業者が容易に本件発明をすることができたものではないとの誤った判断(前記第2の3記載の本件審決の?Bの判断)をした違法がある。
(1) 取消事由1(相違点1ないし3,5,6,10の認定の誤り)刊行物4発明は,以下のとおり,本件審決にいう相違点1ないし3,5,6,10に係る本件発明の構成をいずれも備えているから,上記各相違点は一致点と認定すべきであったのに,本件審決が,これらを相違点と認定したのは誤りである。
ア刊行物4(甲4)には,「ラボ方式」につき「視力検定医(optometrist)が,レンズの処方値や種類及び使用する眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報をその眼鏡枠を添えてレンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場に於いてレンズの製造から枠入れ加工まで行い,完成品を視力検定医へ送付する方式」(2頁左上欄4行〜9行),「本発明」につき「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない」(3頁左下欄13行〜16行)との記載がある。
そして,刊行物4の上記記載に接した当業者であれば,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムでは,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,レンズ肉厚の決定のほか,「枠入れ加工」すなわち「ヤゲン加工」を行っていることを読み取ることができる。また,刊行物4の上記記載は,たとえレンズ肉厚のみに関する記載であったとしても,当業者が客観的にヤゲン加工に関する記載として把握することも可能である。このように刊行物4には,製造側においてヤゲン加工が行われることについてまで開示ないし示唆されている。
したがって,刊行物4発明は,「製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われること」(相違点1に係る本件発明の構成),「眼鏡レンズの供給システムにより供給される眼鏡レンズがヤゲン加工済眼鏡レンズであること」(相違点2に係る本件発明の構成),「発注側コンピュータに入力する情報が枠入れ加工をする上で必要となる情報であること」(相違点5に係る本件発明の構成),「発注及び受注の対象となる眼鏡レンズがヤゲン加工済眼鏡レンズであること」(相違点6に係る本件発明の構成),「発明の対象がヤゲン加工済眼鏡レンズの供給システムであること」(相違点10に係る本件発明の構成)のいずれの構成も備えている。
また,刊行物4(甲4)には,眼鏡枠に関する情報を把握してレンズ製造工場に伝える点が明示されていること(2頁右下欄2行〜3頁左上欄15行)を考え合わせると,ヤゲン加工に係る構成を備えた刊行物4発明においても,当然ヤゲン情報(としての眼鏡枠の形状情報等)が発注側コンピュータによって製造側に送信されているといえるから,「発注側に設置されたコンピュータが少なくともヤゲン情報を送信する機能を備えること」の構成(相違点3に係る本件発明の構成)を備えている。
イ以上によれば,本件審決がした相違点1ないし3,5,6,10の認定は,いずれも誤りである。
(2)取消事由2(相違点1ないし3,5,6,9,10の容易想到性の判断の誤り)ア 相違点9の容易想到性本件審決は,相違点9に係る本件発明の構成は,「当業者が容易に想到し得るとすることはできない。」と判断したが(審決書41頁30行〜末行),以下のとおり誤りである。
(ア)本件審決は,相違点9につき,?@「刊行物6には,眼鏡フレームに合致するレンズを製造する際に,眼鏡フレーム枠の周長,本件発明でいう『眼鏡枠のレンズ枠の周長』の情報が有用であることが開示されている」(審決書42頁30行〜32行)としながら,刊行物4発明がレンズ製造工場で枠入れ加工(ヤゲン加工)しないことを前提として,「刊行物6に記載された技術思想又は発明を刊行物4発明に適用する動機付けがない」(同43頁8行〜9行)ので,「相違点9に係る本件発明の構成要件の一部である,「発注側コンピュータが『眼鏡枠のレンズ枠の周長』を求め,これを製造側コンピュータへ送信する点は,当業者が容易に想到し得るとすることはできない。」(同43頁11行〜13行)と判断した。
しかし,前記(1)のとおり,刊行物4発明がレンズ製造工場でヤゲン加工を行わないとする本件審決の認定は誤りであり,この誤った認定を前提にした,本件審決の相違点9の容易想到性の判断も誤りである。
(イ)また,本件審決は,「相違点9に係る本件発明の構成要件の一部である,発注側コンピュータが『眼鏡の正面方向に垂直な平面に対して左右の各眼鏡枠が同一の傾きをなすものとして定義される該傾きの角度である眼鏡枠の傾きTILT』を求め,これを製造側コンピュータへ送信する点は,当業者が容易に想到し得るとすることはできない。」(審決書44頁9行〜13)と判断した。
しかし,本件発明の「眼鏡枠の傾きTILT」は,周知技術あるいは技術常識に属するものであるから(例えば,甲30〜37),本件審決の上記判断は誤りである。
(ウ)以上によれば,相違点9に係る本件発明の構成は「当業者が容易に想到し得るとすることはできない。」との本件審決の判断は誤りである。
イ 相違点1ないし3,5,6,9,10の容易想到性本件審決は,相違点1ないし3,5,6,9,10に係る本件発明の構成は,「当業者が容易に想到し得るとすることはできない。」と判断したが(審決書41頁12行〜13行,30行〜末行,44頁14行〜15行),以下のとおり誤りである。
(ア)本件審決は,「なお,刊行物5(特開平4-13539号公報)には,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいて,レンズの形状加工する点が記載されているが,レンズのヤゲン加工まで行う点は明記されていない。」(審決書41頁5行〜8行)と認定したが,以下のとおり誤りである。
すなわち,刊行物5(甲5)には,「玉摺機の構成は,前記した特願昭60-115079号に開示のそれと同様の構成を有しているので説明は省略する。」(4頁左上欄20行〜右上欄3行)との記載があり,上記記載部分に引用された特願昭60-115079号に係る公開特許公報である特開昭61-274859号公報(甲38)には,ヤゲン加工に関する事項が多数開示されている(1頁左欄4行〜10行,2頁左下欄3行〜6行等)。
したがって,刊行物5には,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいてヤゲン加工まで行う技術が記載されているといえる。この技術が刊行物5に明記されていないとの本件審決の上記認定は誤りである。
(イ)そして,仮に刊行物4に製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工まで行う技術が開示されていないとしても,当業者であれば,刊行物4に,刊行物5記載の上記(ア)の技術を適用して,相違点1ないし3,5,6,9,10に係る本件発明の各構成を容易に想到し得たものである。
したがって,本件発明の上記各構成は「当業者が容易に想到し得るとすることはできない。」との本件審決の判断は誤りである。
2 被告の反論( )取消事由1に対し1刊行物4(甲4)には,レンズ製造工場は,眼鏡店から伝えられた眼鏡枠の形状等の情報に基づいて眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚となるよう所定のレンズ処方値を与える表面形状とされたレンズを製造する役割を担うにとどまり,供給されたレンズの枠入れ加工ないしヤゲン加工を行うのは,眼鏡店であることを前提とした発明のみが記載されており,本件発明のような「製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズ供給システム」が開示ないし示唆されているとはいえない。この点は,本件特許の関連特許に関する審決取消訴訟の判決(知財高裁平成19年1月31日判決・平成18年(行ケ)第10124号事件)が認定するとおりであり,これと同様の本件審決の認定に誤りはない。
したがって,相違点1ないし3,5,6,10についての本件審決の認定の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
( )取消事由2に対し2ア 相違点9の容易想到性に対し(ア)刊行物6(甲6)は,眼鏡枠周長の専用測定装置であるが,本件発明のように,3次元の枠形状データに基づいて,この3次元の座標値から眼鏡枠周長を測定するのではなく,3次元の枠形状が2次元サイズに投影され縮小された状態での周長を測定するものにすぎず,その機能は2次元周長測定装置であるから,刊行物6には,本件発明でいう「眼鏡枠周長」の情報が有用であることが開示されているとはいえない。
また,前記( )のとおり,刊行物4に,本件発明のような「製造側に1おいて手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われるヤゲン加工済眼鏡レンズ供給システム」が開示ないし示唆されているとはいえない。したがって,相違点9の容易想到性についての本件審決の判断の誤りをいう原告の主張は失当である。
(イ)本件審決は,原告が,本件発明の「眼鏡枠の傾きTILT」が記載されていると主張した刊行物7(甲7)や参考資料2(特開平4-93163号公報。甲9)には,本件発明の「眼鏡枠の傾きTILT」が記載されていないことを認定(審決書43頁22行〜44頁8行)したにもかかわらず,原告は,本訴において,この認定が誤っていると主張するのではなく,別の資料を根拠にして,本件発明の「眼鏡枠の傾きTILT」が周知技術であるなどと主張しているものであり,このよう新たな無効理由の主張は,そもそも本件審決の取消事由となるものではない。
また,本件発明の「眼鏡枠の傾きTILT」は,周知技術でも技術常識でもないが,仮にこれが周知であるとしても,刊行物4には,「製造側において手元に眼鏡フレームがない状態でヤゲン加工が行われる」発明の記載がないから,刊行物4発明に,本件発明の「眼鏡枠の傾きTILT」のようなヤゲン加工を行うための情報を製造側コンピュータへ送信する技術を組み合せることは困難である。
イ 相違点1ないし3,5,6,9,10の容易想到性に対し原告は,刊行物5(甲5)にレンズ製造側でヤゲン加工を行う発明が記載されていると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,刊行物5に引用されている別の公知例(甲14)が記載されているにすぎず,刊行物5自体に上記発明が記載されているわけではない。したがって,刊行物5に,「レンズのヤゲン加工まで行う点は明記されていない」とした本件審決の認定に誤りはない。
また,仮に刊行物5に原告が主張するような技術内容が記載されているとしても,刊行物4発明は「レンズ製造工場では,眼鏡店から伝えられた眼鏡枠の形状等の情報に基づいて眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚となるよう所定のレンズ処方値を与える表面形状とされたレンズを製造するにとどまり,製造されたレンズの枠入れ加工ないしヤゲン加工は,眼鏡店,すなわち「発注側」において行うことが予定されている」発明であること,刊行物4(甲4)には,枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)を眼鏡店から奪う形となる技術を導入することを否定する記載(2頁左下欄12行〜16行)すら存在することに照らすならば,刊行物4発明に,原告が主張する刊行物5の技術内容を組み合わせることができるものではない。
ウ以上によれば,相違点1ないし3,5,6,9,10に係る本件発明の各構成は「当業者が容易に想到し得るとすることはできない。」との本件審決の判断の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1ないし3,5,6,10の認定の誤り)について(1)原告は,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムは,製造側においてヤゲン加工までが行われることを根拠に,刊行物4発明は,相違点1ないし3,5,6,10に係る本件発明の構成をいずれも備えているので,本件審決の上記各相違点の認定に誤りがあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
ア原告は,刊行物4(甲4)には,「視力検定医(optometrist)が,レンズの処方値や種類及び使用する眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報をその眼鏡枠を添えてレンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場に於いてレンズの製造から枠入れ加工まで行い,完成品を視力検定医へ送付する方式で・・・ラボ方式と呼ばれている。」(2頁左上欄4行〜10行),及び「本発明」(刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システム)について「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない」(3頁左下欄13行〜16行)との記載があることから,刊行物4の上記記載に接した当業者であれば,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムでは,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,レンズ肉厚の決定のほか,「枠入れ加工」すなわち「ヤゲン加工」を行っていることを理解し,把握することができると主張する。
イ しかし,原告の上記主張は,失当である。
(ア) 刊行物4(甲4)には,以下の記載がある。
a特許請求の範囲として,「(1)レンズの処方値と,レンズの種類と,使用する眼鏡枠の種類と形状についての情報と及び該眼鏡枠内に於けるレンズ処方値の位置情報とを眼鏡店頭に於いて把握し,レンズ製造工場に伝え,レンズ製造工場ではその情報を基に該眼鏡枠に適したレンズ肉厚を決定し,該レンズを製造,供給する眼鏡レンズの供給方法。」(1頁左下欄5行〜13行)b「本発明は眼鏡レンズの供給方法に関し,各々の眼鏡装用者の使用する眼鏡枠の種類及び形状に対し,最適な肉厚を有する眼鏡レンズを提供することを目的とする。現在,世界各国に於いて,眼鏡レンズを供給する方式は大別して2つの方式に分類される。1つは眼鏡店がレンズの処方値や種類をレンズ製造工場,若しくはレンズ問屋に伝え,縁摺り加工をしていない生地のレンズを入手し,眼鏡店に於いて使用する眼鏡枠に枠入れ加工を施し,完成させる方式で,日本,東南アジア,ヨーロッパ等で主に用いられており,アンカット方式と呼ばれている。他の1つは,・・・ラボ方式と呼ばれている。」(1頁右下欄11行〜2頁左上欄10行)c「少なくともラボ方式に於いては,使用する眼鏡枠の種類や形状について,レンズ製造工場側が把握しており,その眼鏡枠に最も適した厚みを有する眼鏡レンズを準備しうる点に於いて,アンカット方式と決定的に異なる。・・・ラボ方式では・・・使用する眼鏡枠の種類や形状について,レンズ工場側が把握しており,各々の眼鏡枠に対し,最も適した厚みを有する眼鏡レンズを製造することが出来る。」(2頁左上欄16行〜左下欄9行)d「ところが,ラボ方式に於いては,高価なフレームの輸送という工程がある為,破損や遺失による大きなリスクを伴なうという欠点がある。又,例えば現在の日本国内の様にアンカット方式が主流である市場に於いてラボ方式を導入することは,枠入れ加工という眼鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪う形となり,容認され難いであろう。」(2頁左下欄9行〜16行)e「この点に鑑み,本発明は従来には無かった全く新しい発想に依り,アンカット方式が主流の市場にあってもラボ方式の長所を有し,前述の欠点を全て除去した全く新しい眼鏡レンズ供給方法を提供しようとするものである。」(2頁左下欄17行〜右下欄1行)f「さて,この様にして得られた種々の情報を基に使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚を決定し,そのレンズを製造する方法は従来のラボ方式に依る方法と何ら変るところはない。即ち,眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し,その位置の厚みが所定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し,所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを荒摺,砂掛,研磨することにより,所望のレンズが得られるのである。」(3頁左下欄13行〜右下欄1行)(イ)他方,刊行物4の他の箇所の記載をみても,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムにおいて,眼鏡店からレンズ製造工場に対し「ヤゲン溝の周長」その他ヤゲン形状に係る情報が伝えられたり,レンズ製造工場で枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)が行われることについての具体的な記載や,これらを示唆する記載もない。
(ウ)以上を総合すると,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システム(「本発明」)は,「現在の日本国内の様にアンカット方式が主流である市場に於いてラボ方式を導入することは,枠入れ加工という眼鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪う形となり,容認され難い」という明確な思想に基づいて,レンズ製造工場において,レンズの製造から枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)まで行ってヤゲン加工済みの眼鏡レンズを製造するラボ方式そのものを採用するのではなく,ラボ方式の長所の一つである「使用する眼鏡枠に最も適したレンズ肉厚」を有する眼鏡レンズを製造することを採り入れることを目的とした発明であると理解できる。すなわち,レンズ製造工場では,眼鏡店から伝えられたレンズの処方値,レンズの種類,使用する眼鏡枠の種類・形状等の情報に基づいて「眼鏡枠内に於いて最も薄くなる位置を算出し,その位置の厚みが所定の値となるようなレンズの中心肉厚を算出し,所定のレンズ処方値を与える表面形状にレンズを荒摺,砂掛,研磨すること」までを実施し,眼鏡店において大きな比重を占めている枠入れ加工工程を眼鏡店から奪うことがないよう,型枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)は行わないものと解するのが自然である。
ウ上記イの認定に照らすならば,刊行物4に接した当業者が,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムでは,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,「枠入れ加工」すなわち「ヤゲン加工」を行っていると理解し,把握することができるとの原告の主張は,採用することができない。
(2)以上によれば,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムは,製造側においてヤゲン加工までが行われることを前提に,本件審決の相違点1ないし3,5,6,10についての認定の誤りをいう原告の主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。
したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点1ないし3,5,6,9,10の容易想到性の判断の誤り)について(1) 相違点9の容易想到性の有無ア原告は,刊行物4記載の眼鏡レンズの供給システムは,製造側においてヤゲン加工までが行われるものであるにもかかわらず,本件審決が,刊行物4発明がレンズ製造工場で枠入れ加工(ヤゲン加工)しないことを前提として,刊行物6に記載された技術思想又は発明を刊行物4発明に適用する動機付けがないとして,相違点9に係る本件発明の構成の一部である,「発注側コンピュータが『眼鏡枠のレンズ枠の周長』を求め,これを製造側コンピュータへ送信する」構成は,当業者が容易に想到し得たものではないと判断したのは誤りである旨主張する。
しかし,前記1のとおり,刊行物4発明がレンズ製造工場でヤゲン加工を行うものではないとした本件審決の認定に誤りはなく,原告の上記主張は,その前提において失当である。
イ以上のとおり,相違点9に係る本件発明の構成の一部が容易に想到し得たものではないから,その余の点(本件発明の「眼鏡枠の傾きTILT」が,周知技術あるいは技術常識に属するものであるかなど)について判断するまでもなく,相違点9の容易想到性についての本件審決の判断の誤りをいう原告の主張は理由がない。
(2) 相違点1ないし3,5,6,9,10の容易想到性の有無原告は,刊行物5には,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいてヤゲン加工まで行う技術が記載されているから,この技術が刊行物5に明記されていないとの本件審決の認定は誤りであり,刊行物4に,刊行物5記載の上記技術を適用して,相違点1ないし3,5,6,9,10に係る本件発明の各構成を容易に想到し得たといえるから,当業者が本件発明の上記各構成を容易に想到し得たものではないとした本件審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
アまず,そもそも,刊行物5の「玉摺機の構成は,前記した特願昭60-115079号に開示のそれと同様の構成を有している」との記載及び特願昭60-115079号に係る特開昭61-274859号公報(甲14)の記載により,刊行物5記載の眼鏡レンズ加工システムで使用される製造側(加工センター)の玉摺機においてヤゲン加工が可能であることを示唆していると判断できるか否かにかかわらず,刊行物4発明に刊行物5の記載事項を組み合わせて,本件発明をすることが容易であるとはいえない。
すなわち,前記1(1)イ(ウ)認定のとおり,刊行物4発明は,「現在の日本国内の様にアンカット方式が主流である市場に於いてラボ方式を導入することは,枠入れ加工という眼鏡店に於いて大きな比重を占めている工程をレンズ製造工場側が奪う形となり,容認され難い」という明確な思想に基づいて,レンズ製造工場で,眼鏡店から伝えられた眼鏡枠の種類・形状等の情報によって「レンズを荒摺,砂掛,研磨すること」までを実施し,眼鏡店において大きな比重を占めている枠入れ加工工程を眼鏡店から奪うことがないよう,枠入れ加工(すなわちヤゲン加工)は行わない発明であるから,仮に上記のような示唆が認められたとしても,当業者が,刊行物4発明において製造側でヤゲン加工まで行う構成を採用しようとするものとは考え難く,相違点1ないし3,5,6,9,10に係る本件発明の各構成を容易に想到し得たものとは認められない。
イのみならず,刊行物5に,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいてヤゲン加工まで行う技術が記載されていることを前提とする原告の主張も,以下のとおり,採用することができない。
(ア) 刊行物5(甲5)の記載刊行物5(甲5)には,次のような記載がある。
a「(発明が解決しようとする課題)・・・近年,眼鏡店のチェーン化が進み,各眼鏡店舗には眼鏡フレーム形状測定装置のみを設置し,複数台の玉摺機を1つの加工センターに配置して,これらをコンピュータと公衆通信回線網で接続するネットワーク化が要求されるようになった。このネットワーク化においては,以下の問題点がある。
?@各眼鏡店舗に設置された眼鏡フレーム形状測定装置にはそれ固有の測定誤差がある。
?A加工センターに配置された複数の玉摺機にもそれぞれ固有の加工誤差がある。
?Bある眼鏡店舗の眼鏡フレーム形状測定装置で測定した眼鏡フレームの測定データがコンピュータと公衆通信回線網で転送接続される玉摺機は,常に特定の1台とは限らず,変化する。
そして,これらの誤差等の発生に対応して,個々の眼鏡フレーム形状測定装置の測定誤差や玉摺機の加工誤差を知り,眼鏡フレーム形状測定装置や玉摺機を常に誤差のないようにメンテナンス管理することは,眼鏡店舗数の増加に伴う眼鏡フレーム形状測定装置や玉摺機の増加となり現実問題として経営上成り立たない程の出費となる。その上,このメンテナンス管理を怠ると,・・・レンズの眼鏡フレームに対する加工精度は全く保証できないものとなる。」(2頁左下欄12行〜3頁左上欄7行)b「(課題を解決するための手段及び作用)この課題を解決するために,本発明の眼鏡レンズ加工システムは,複数の眼鏡フレーム形状測定手段と複数の玉摺機とコンピュータから構成された眼鏡レンズ加工システムであって,前記コンピュータは,前記複数の眼鏡フレーム形状測定手段の各々の固有の測定誤差量と前記複数の玉摺機の各々の固有の加工誤差量とを記憶する記憶手段と,眼鏡フレーム形状測定手段による眼鏡フレームの形状データを当該形状データを測定した前記眼鏡フレーム形状測定手段に固有の前記測定誤差量と選択した玉摺機に固有の前記加工誤差量とから補正し加工データを得るための演算手段とを有することを特徴とするものである。しかも,前記眼鏡フレーム形状測定手段は各々少なくとも1台毎に複数の眼鏡店舗に設けられ,前記コンピュータと前記複数の玉摺機は加工センターに設けられ,前記各々の眼鏡フレーム形状測定手段と前記コンピュータは公衆通信回線網を介して前記形状データの授受が行われるように構成されている。」(3頁左上欄10行〜右上欄11行)c「[第1実施例](1)加工システム・・・玉摺機の構成は,前記した特願昭60-115079号に開示のそれと同様の構成を有しているので説明は省略する。・・・?@フレームリーダFR の誤差量測定各店舗OS 〜OS は,各々そのFR 1 1 nで第2図に示す基準フレームFを測定し,そのデータ( ρ ,θ ) 1 iiを加工センターMCへ転送する。この基準フレームには,金属板Pにフレームのレンズ枠形状F の基準孔Hを打ち抜いたものが用いられ1ている(第2図(a)参照)。なお,この基準フレームとしては,N箇所の基準動径データ( ρ ,θ )[i=0,1,2,…N](第20 ii図(b)参照)が所定角度毎に正確に形成されたものを予め用意しておく。・・・例えば,店舗OS のフレームリーダFR の測定誤差量1 1を求める場合には,上述の基準フレームの動径データを店舗OS のフ 1レームリーダFR により基準動径データ( ρ ,θ )[i=0,1,2, 1 0 ii…N]に対応して測定し,フレームリーダFR による新たな測定動径 1データ( ρ ,θ )[i=0,1,2,…N]を得る。フレームリーダFR 1 iiの測定データは,パソコンPC を介して,VAN等の公衆通信回線網NW 1 1k k で加工センターMCのパソコンPC に転送される。このパソコンPCは,測定して転送された測定動径データ・・・と既知の基準動径データ・・・とから,各動径角θ 毎に ρ と ρ との差f を演算し110 iiiて,・・・得る。また,パソコンPC は,求めた差 f 〜 f を基 k 101N1 1に,平均測定誤差量F を・・・演算する。この平均測定誤差量Fを,フレームリーダFR の固有の測定誤差量として加工センターMCの1記憶手段であるメモリ1に記憶させる。同様に,店舗OS 〜OS にお 2 nいても,各店舗OS 〜OS のフレームリーダFR 〜FR で同様に基準フ 2 2n nレームを測定し,各々の測定誤差量F 〜F をパソコンPC で演算させ 2N kて記憶手段であるメモリ1に記憶させる。・・・?A玉摺機LE の加工誤差量の測定・・・上述した基準フレームの基準i動径データ・・・は,基準レンズデータにも一致するので,この基準動径データを予め加工センターMCのパソコンPC に基準レンズデーkタ( ρ ,θ )[i=0,1,2,…N]としても記憶させておく。・・ 0 ii・例えば,加工センターMCの玉摺機LE の加工誤差量を求める場合に 1は,上述の基準レンズデータ・・・を基に玉摺機LE でレンズをフレ 1ーム形状に加工し,この加工されたレンズの動径を基準レンズデータ・・・に対応させてノギス等の測定治具で測定することにより,加工されたレンズの測定動径( ρ,θ )[i=0,1,2,…N]を1 ′ii得る。この測定により得られた測定動径( ρ,θ )[i=0,1,2 1 ′ii,…N]はパソコンPC に入力される。このパソコンPC は,入力さ k kれた測定動径データ・・・と既知の基準レンズデータ( ρ ,θ ) 0 ii・・・とから,各動径角θ 毎に ρと ρ との差K を演算して・ 11 0 ′iii・・得る。また,パソコンPC は,求めた差 K 〜 K を基に,平均加 k 101N1 1 1工誤差量L を・・・演算する。この平均加工誤差量L を,玉摺機LEの固有の加工誤差量として加工センターMCの記憶手段であるメモリ2に記憶させる。同様に,玉摺機LE 〜LE においても,同様な加工2N誤差量L 〜L をパソコンPC で演算させてメモリ2に記憶させる。2N k(2)加工シーケンス・・・各店舗OSにおけるフレームの選択からレンズ加工までの手順を,・・・説明する。・・・ステップ10(S-10)店舗OS では,備え付けのフレームリーダFR2で顧客の選択した眼鏡フレームを測定する。 2ステップ11(S-11)このフレームリーダFR で測定された眼鏡フ 2レームの測定データ( ρ ,θ )及び店舗OS の識別信号を,店舗O 2 2iiS に備え付けのパソコンPC と公衆通信回線網NWを介して,加工セン 2 2ターMCのパソコンPC へ転送する。 kステップ12(S-12)パソコンPC は,店舗OS から転送されてき k 2た識別信号から,送られてきた測定データが店舗OS のフレームリー 2ダFR で測定されたことを認識して,メモリ1からフレームリーダFR 2の測定誤差量F を読み取り,CPU10に入力する。 2 2ステップ13(S-13)パソコンPC は,例えば,加工センターMC内 kの玉摺機LE 〜LE のなかから現在使用されていない玉摺機LE を選択 1 1 mする。
ステップ14(S-14)パソコンPC は,選択した玉摺機LE の加工k 1誤差量L をメモリ2から読み出してCPU10に入力する。 1ステップ15(S-15)パソコンPC のCPU10は,店舗OS から転送さ k 2れてきたフレームの測定データ( ρ ,θ )と,メモリ1から読み 2 ii出したフレームリーダFR 固有の測定誤差量F と,メモリ2から読み 2 2出した玉摺機LE 固有の加工誤差量L とから,加工データ( ρ ,θ 1 1 2 i)を・・・求める。・・・ iステップ16(S-16)ステップ15で求められた加工データ・・・に基づき,顧客の注文したレンズを玉摺機LE で加工する。」(4頁 1左上欄4行〜5頁右下欄14行)d「(発明の効果)この発明は,・・・個々の眼鏡フレーム形状測定装置の測定誤差や玉摺機の加工誤差を簡易に知ることができることから,眼鏡フレーム形状測定装置や玉摺機を常に誤差のないようにメンテナンス管理することが簡易に可能となる。」(6頁左下欄1行〜12行)(イ) 刊行物5記載に基づく眼鏡レンズ加工システムの内容上記(ア)の記載によれば,刊行物5記載の眼鏡レンズ加工システムは,?@複数の眼鏡フレーム形状測定手段と複数の玉摺機とコンピュータから構成された眼鏡レンズ加工システムであって,前記コンピュータは,前記複数の眼鏡フレーム形状測定手段の各々の固有の測定誤差量と前記複数の玉摺機の各々の固有の加工誤差量とを記憶する記憶手段と,眼鏡フレーム形状測定手段による眼鏡フレームの形状データを当該形状データを測定した前記眼鏡フレーム形状測定手段に固有の前記測定誤差量と選択した玉摺機に固有の前記加工誤差量とから補正し加工データを得るための演算手段とを有することを特徴とし,眼鏡フレーム形状測定手段は複数の眼鏡店舗に設けられ,複数の玉摺機及び前記コンピュータは加工センターに設けられ,各眼鏡フレーム形状測定手段と前記コンピュータとの間で公衆通信回線網を介して眼鏡フレームの形状データの授受が行われるように構成されており,?A加工センターに設けられた玉摺機において,前記コンピュータによって求められた,眼鏡フレーム形状測定装置の測定誤差と玉摺機の加工誤差を補正した加工データに基づき,レンズを加工するものであることを理解することができる。
しかし,刊行物5(甲5)には,刊行物5記載の眼鏡レンズ加工システムにおいて,眼鏡店舗に設けられた眼鏡フレーム形状測定手段で測定される眼鏡フレームの形状データとしては,「動径(ρ ,θ )ii[i=0,1,2,…N]」が記載されているにとどまり,眼鏡フレームの「ヤゲン溝の周長」その他ヤゲン形状を測定することについての具体的な記載はない。
また,刊行物5には,加工センターに設けられた玉摺機について「玉摺機の構成は,前記した特願昭60-115079号に開示のそれと同様の構成を有している」(前記(ア)c)との記載があるものの,加工センターに設けられた前記コンピュータが,ヤゲン形状に係る測定誤差と玉摺機の加工誤差を補正して加工データを求めたり,その加工データに基づき,玉摺機でヤゲン加工まで行うことの具体的な記載はない。
そうすると,刊行物5の上記記載部分に引用された特願昭60-115079号に係る特開昭61-274859号公報(甲14)に,ヤゲン加工に関する事項が多数開示されているからといって,刊行物5に,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいてヤゲン加工まで行う眼鏡レンズ加工システムが記載されていると解することはできない。
(ウ) 判断以上の認定に照らすならば,製造側において手元に眼鏡フレームがない状態で,発注側コンピュータからの眼鏡枠形状データに基づいてヤゲン加工まで行う技術(眼鏡レンズ加工システム)が刊行物5に記載されているとはいえないから,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。
したがって,この点について本件審決の認定に誤りがあることを前提に,刊行物4に,刊行物5記載の上記技術を適用して,相違点1ないし3,5,6,9,10に係る本件発明の各構成を容易に想到し得たとの原告の主張は,その前提において失当である。
(3) 小括以上のとおり,相違点1ないし3,5,6,9,10に係る本件発明の各構成を容易に想到し得たものではないとした本件審決の判断の誤りをいう原告の主張は,理由がない。
したがって,原告主張の取消事由2も理由がない。
3 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。他に本件審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀