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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ9352特許権侵害に基づく差止等請求事件 判例 特許
関連ワード 発明者 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  ライセンス /  抵触 /  商標権 /  特許発明 /  実施 /  業として /  差止請求(差止) /  侵害 /  実施料 /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  対価 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (ワ) 8836号 不当利得金返還請求事件
原告株 式会社サンライト
原告株 式会社マルフク
両名訴訟代理人弁護士水田博敏
被告株 式会社多川商事
訴訟代理人弁護 士礒川剛志
同 寺中良樹
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2008/02/18
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求1被告は,原告株式会社サンライト(以下「原告サンライト」という。)に対し,1123万5000円及びこれに対する平成18年9月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告株式会社マルフク(以下「原告マルフク」という。)に対し,3150万円及びこれに対する平成18年9月9日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要原告らは被告との間で,被告が有する特許権等について通常実施権許諾契約を締結していた株式会社(原告サンライトは契約時点では有限会社)である。原告らは,原告らの製品である発光ブロックないしその改良前製品である他社の発光タイルが上記特許権の技術的範囲に属すると誤認して上記通常実施権許諾契約を締結したものであるが,実際には抵触していなかったことを前提とし,同契約は,?@被告が虚偽の説明をしたため誤認したことにより締結したものであるから詐欺により取り消した,?A要素の錯誤により無効である,として同契約により通常実施料及び経常実施料として支払った金額の不当利得金返還及びこれに対する遅延損害金支払を請求する訴訟である。
1 基礎となる事実(証拠によって認定した事実は末尾に証拠を掲げた。それ以外は争いがない事実又は弁論の全趣旨により容易に認定できる事実である。)(1)被告の特許権被告は下記特許(以下「本件特許」といい,その特許権を「本件特許権」,その特許発明を「本件発明」という。)の特許権者である(本件特許権の出願日,登録日につき甲2)。
ア特許番号第2964859号イ発明の名称太陽電池装置ウ出願日平成5年12月22日エ登録日平成11年8月13日(2)本件特許の特許請求の範囲本件特許の特許請求の範囲は,本判決添付の本件特許の特許公報(以下「本件特許公報」という。)の特許請求の範囲の記載のとおりである(甲2)。なお,特許請求の範囲請求項1を以下にも記載しておく。
一日の日射量が雨天あるいは曇天の場合を想定し,その想定した雨天あるいは曇天の日射量で負荷が一日に消費する電力を発電するだけの容量を有し,日陰の場所にて設置可能な太陽電池と,前記太陽電池が発電した電力を蓄積し,負荷が一日に消費する当日分の負荷電力を供給するだけの蓄電容量を有する電気二重層コンデンサと,周囲の照度が設定値を越える場合には前記太陽電池からの電力を前記電気二重層コンデンサに充電し,周囲の照度が設定値以下の場合には前記電気二重層コンデンサに蓄積された電力を負荷に供給して毎日充放電を繰り返すという制御を前記太陽電池の出力を検出することに基づいて行う負荷制御回路とからなることを特徴とする太陽電池装置。
(3)原告サンライトと被告との契約(以下「本件契約1」という。)平成15年10月18日,原告サンライトと被告は,次の契約を締結した(契約の内容につき甲1の1)。
ア被告は,原告サンライトに対し,被告の有する本件特許権及び特許第2128738号特許権(特許の名称電気二重層コンデンサを用いたコードレス機器の充電器)について通常実施権を許諾する。(2条)イ通常実施権許諾の対価として原告サンライトは被告に対し,実施許諾料1000万円(消費税別)を契約締結時に支払う,経常実施料は契約期間中に原告サンライトが販売する許諾製品の販売価格の5%とする。(3条(1),(2))ウ本件契約1締結日より2年(24か月)後,原告サンライトは被告に対し,毎月最低20万円以上の経常実施料の支払いをするものとし,その支払いを1回でも怠ったときは,被告は本件契約1を原告サンライトの承諾を得ることなく即時解約することができる。(16条の(1)?I)(4)原告サンライトによる実施許諾料及び経常実施料の支払い原告サンライトは被告に対し,同日ころ,上記実施許諾料1050万円(1000万円と消費税50万円)を支払った。
原告サンライトは,被告に対し,平成17年11月から平成18年5月にかけて,経常実施料として合計73万5000円(消費税込み)を支払った。
これは,被告から原告サンライトに対し,本件契約1締結から2年を経過したから実施の有無に関わりなく経常実施料を支払うよう申し入れたため(本件契約1の前記(3)ウの約定参照),これに応じて原告サンライトが支払ったものである(ただし,合意により経常実施料額は毎月10万円(消費税別)と減額された。)。
(5)原告マルフクと被告との契約(以下「本件契約2」という。)平成16年6月18日,原告マルフクと被告は,次の契約を締結した(契約の内容につき甲1の2)。
ア被告は,原告マルフクに対し,被告の有する本件特許権の通常実施権及び3件の商標権(商標登録番号第4235995号(商標の文字は「SolarApollo」),第4764262号(商標の文字は「TAGAWATILE」),第4470512号(商標の文字は「TAGAWABLOCK」)の通常使用権を許諾する。(2条)イ通常実施権許諾の対価として原告マルフクは被告に対し実施許諾料3000万円(消費税別)を契約締結時に支払う,経常実施料(経常使用料も含まれるものとする。)は契約期間中に原告マルフクが販売する許諾製品の販売価格の6%とする。(3条(1),(2))(6)原告マルフクによる実施許諾料の支払い原告マルフクは被告に対し,同日ころ,上記実施許諾料3150万円(3000万円と消費税150万円)を支払った。
(7)原告らと被告との契約(以下「本件修正契約」という。)平成16年10月25日,原告らと被告は,次の契約を締結した(契約の内容につき甲1の3)。
ア被告は,原告サンライトに対し,被告の有する本件特許権の通常実施権及び前記3件の商標権の通常使用権を許諾する。(2条)イ実施許諾料は0円とする,経常実施料は契約期間中に原告サンライトが販売する許諾製品の販売価格の6%とする。原告サンライトは,上記経常実施料のうち,4%を被告に,2%を原告マルフクに支払うものとする。
(3条(1),(2))(8)本件特許権と原告サンライトの製品の関係ア本件特許の出願時の特許請求の範囲の記載は,「一日の日射量が雨天あるいは曇天の場合を想定し,その想定した雨天あるいは曇天の日射量で負荷が一日に消費する電力を発電できる容量を有する太陽電池と,少なくとも負荷が一日に消費する電力に見合う蓄電容量を有する電気二重層コンデンサとからなる太陽電池装置」であった(甲12)。これに対し,特許庁から,特開昭58-63031号公報を引用例1として,「蓄電装置に電気二重層コンデンサを用いることは引用例1に記載されている。曇天時等の受光量の少ない場合を想定して太陽電池の出力を設定すること,また,蓄電容量を負荷の一日程度の消費電力に対応した容量とすることは,それぞれ・・・適宜なし得たものと認められる。」旨の理由で進歩性がないとの拒絶理由通知がなされるなどし,補正の結果,現在の特許請求の範囲で特許査定されたものである(甲3,11,13)。
イ現在の本件特許の特許請求の範囲では,発光,消光の切替えは,その制御を太陽電池の出力を検出することに基づいて行うとされている(以下「電圧方式」という。)。したがって,フォトトランジスタの信号により照度を検出することにより制御を行うタイプ(以下「センサー方式」という。)の太陽電池装置は,本件特許の範囲に形式上含まれない。
原告サンライトは,太陽電池装置を自社製品として販売しているが(以下,これを「原告サンライト製品」という。),原告らが原告サンライト製品の制御基板のものとして提出した図面と動作説明書では,原告サンライト製品は,フォトトランジスタ12の信号により照度を検出することにより発光,消光の制御を行うもの(センサー方式)となっている(甲9,10)。また,平成18年1月現在の原告サンライト製品のカタログには,「フォトセンサー」を使用している旨の記載があり(甲4),原告サンライト製品と同種の製品の回路図では,センサーが放電開始機能を行っている(乙13)。
2争点(1)詐欺による取消しア原告らの主張(ア)前提事情本件特許権は,「太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせた装置のうちの『電圧制御』によるもの」に限定されている。
ところが,被告は,平成12年に,朝日放送(又はテレビ朝日。以下「朝日放送」という。)を騙し,あたかも本件特許が太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせた「今までは発電できてもそれを蓄電できなかったところ,電気二重層コンデンサに蓄電を可能にした比類なき画期的なもの」と誤解させ,その後4年間にわたり,番組「ニュースステーション」で,その旨及び本件発明の発明者であるP1教授の「太陽電池で発電した電気を二重層コンデンサに蓄電することが特許」との発言を同教授の映像入りで放送させた(以下「本件放送」という。)。
本件放送が主たる要因となったと思われるが,三洋電機株式会社の関連会社である三洋リビングサプライ株式会社(以下「三洋リビングサプライ」という。)を始めとする関連業界が,「太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触する」と誤信し,三洋リビングサプライにおいては製造している商品が被告の特許に基づくものではないにもかかわらず実施料を支払うこととなった。
平成15年中ごろ,原告サンライトは,三洋リビングサプライやその下請けであるP2の関係者から,上記誤信に基づく同旨の説明を受け,この説明等により,原告サンライトもその旨誤信するようになった。
(イ)原告サンライトに対する欺罔被告の実質的な代表者であるP3は,平成15年10月4日,原告サンライトの誤信を知ったから,同原告に対し,真実を告げた上で実施許諾契約の交渉に当たるべき義務があった。ところが,P3は,この義務を怠ったどころか,逆に4年分の本件放送の録画を見せ,原告サンライトの錯誤を更に強固にした。
同放送において,本件発明の発明者と紹介されたP1教授は「太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせたものが特許だ」「コンデンサに太陽電池で発電した電気を蓄えるのが特許だ」と説明している。それとともに,朝日放送が「この基本特許を管理しているのがP3さんです」と説明している。
この録画を見せるというP3の行為は,見る者に対して,「自分が管理する特許は『太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせたものであり,コンデンサに太陽電池で発電した電気を蓄えるというもの』と告げているのと同じである。そして,本件特許を太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせた基本特許と説明することは,太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせたものはすべて本件特許に抵触すると言っていることである。
したがって,P3の行為は,「太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許の対象である」との具体的発言をしたのと同じである。
被告は,これによって原告サンライトをその旨誤信させ,よって当時商品化が始まった太陽電池装置を製造販売するには被告と本件特許権の実施許諾契約を結ぶしかないと誤信させて本件契約1を締結させ,実施許諾料や経常実施料を支払わせた。
(ウ)原告マルフクに対する欺罔平成15年10月21日,原告マルフクの代表者P4は,原告サンライトの紹介でP3と接触するに至った。P4は,原告サンライトから説明を受けて,原告サンライトと同様の錯誤に陥っていたが,P3はP4に対しても本件放送の録画を見せ,原告サンライトと同様の強い誤信を生じさせ,本件契約2を締結させ,実施許諾料を支払わせた。
(エ)取消しの意思表示原告らは,平成18年6月23日にP3と会い,原告らの製品が本件特許に抵触しない事実を確認し,同月30日にP3に対し,本件特許に抵触しない以上契約は白紙にすると申し入れた。この実質は,詐欺による取消しの意思表示と評価できる。
(オ)被告の主張に対する認否反論被告は,P5が本件契約1の締結時に技術的説明をしたと主張するが,否認する。また,被告は,センサー方式は電圧方式に比べて劣ると主張するが,否認する。センサー方式は電圧方式に比べて,?@制御の安定性に優れており,?Aコストも高いとはいえず,?B利用範囲も狭いとはいえないし,?C寿命の短縮につながる可能性が高いということもない。
イ被告の主張(ア)前提事情について本件放送については,朝日放送側が突然被告を訪問し,インタビューさせてほしいという話があったことから,被告やP1教授がインタビューに1回応じたことは事実である。しかし,インタビュー以外の放送内容も放送より以前には被告側に知らされておらず,どういう放送内容にするかは放送局側が勝手に決定したものである。P1教授も技術的・専門的な説明を求められたのではなく,テレビ視聴者である一般大衆に理解できるよう平易なコメントを求められ,それに応じたとのことであった。
被告は,国内で複数の実施権者と実施権許諾契約を締結しており,また,世界数か国で特許登録をして海外の事業者とも実施権許諾契約を締結するなどしている。国の環境問題への取り組みとも関連して感謝状等をもらっている。原告らは,三洋リビングサプライを始めとして多くの同業者が原告らと同様の誤解をしている旨主張するが,原告らの外に,被告に対して原告らのような主張をしている者は皆無であり,訴訟はおろか苦情も受けたことはない。三洋リビングサプライは三洋電機株式会社の関連会社であって,相当高度な技術調査力とライセンス契約のノウハウを有しているはずであり,三洋リビングサプライが「太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許の対象である」などと考えていたとは到底考えられない。
(イ)欺罔について被告ないしP3が原告らに対し,「太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許の対象である」と欺いた事実はない。また,原告サンライトは,被告の当時の代表者であり,技術的な知識を有していたP5から本件特許の技術的説明を受け,その際に本件特許公報を手に持って,特許請求の範囲に関する質問を行うなどしていたから,誤信していたという事実もない。原告マルフクも原告サンライトを通じて,P5の説明を聞いていたのであり,その際誤信したという事実もない。
P3は,ある程度,本件特許の価値を賞賛する内容の発言をしたが,本件特許が価値を有するものであるという事実自体は真実であり,何ら誤った発言ではない。P3は,技術的なバックグラウンドを持つ者ではなく,原告らとの面談においても,「技術的な内容はP5に聞くように」というアドバイスを何度もしていた。
(ウ)電圧方式について電圧方式は,センサー方式に比べて,?@センサーが不要のためのコスト優位性,?A利用範囲,?B安定性,?C寿命において利点があり,むしろ蓄電システムに関する業界の流れとしては電圧方式を採用することが主流である。そのような特許に関する実施権を取得したにもかかわらず,原告らが独自にセンサー方式を開発・製品化したのは原告らの勝手であり,何ら実施許諾料等の返還を請求できる地位にある者ではない。
(エ)原告らの取消しの意思表示の事実は不明である。
(2)錯誤による無効ア原告らの主張(ア)原告らの錯誤原告らは,真実は本件特許を使わなくても当時普及していたセンサー方式でもって,むしろより性能的に安定し社会的に有用な機器を生産できたにもかかわらず,本件特許が世界に類のない基本特許であり,当時実用化され将来性が認められた太陽エネルギーを利用した発光機器を製造販売するには本件特許の実施許諾を得ることが不可欠,太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触するとの錯誤に陥っていた。本件契約1,2はこの錯誤による意思表示であって,無効である。
(イ)被告の主張に対する反論被告は,動機の表示不明とするが,錯誤については明確と原告らは考えている。
(ウ)重過失について原告サンライトの代表者P6及びその子であるP7は技術的知識を有していなかった。また,P6父子がP5と会ったのは契約の時だけで,ろくに話をしたことはない。
被告は,企業が特許の実施権許諾契約を締結するに際して,その特許の特許公報を確認することは常識というが否認する。センサー方式についても,そもそも,太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせたものが基本特許と欺罔されているのであり,センサー方式云々は無関係の話である。原告らには過失はあっても重過失と呼べるものではない。
イ被告の主張(ア)原告らの錯誤について原告らの錯誤の事実は否認する。原告らは,P5からの技術的な説明や特許公報を目にして,本件特許の内容を把握していた。
(イ)原告らの錯誤の主張は動機の錯誤であり,動機の表示が不明である。
(ウ)原告らの重過失少なくとも,P6及びP7の父子は技術的な知識を持っていた。さらに,企業が特許の実施権許諾契約を締結するに際して,その特許の特許公報を確認することは常識的に考えて当然である。もし,自らがセンサー方式の製品を開発・製造する意図を持っていたのであれば,本件特許公報を事前に確認して,その相違に気づくことができた。むしろ,被告は,原告らがセンサー方式の製品を当初から開発・製造する意図があったということは聞かされていないのであり,特許公報も確認せずに,実施権許諾契約を締結した原告らには重過失がある。
第3当裁判所の判断1争点(1)(詐欺)について本件全証拠によっても,被告ないしP3において,本件特許権の通常実施権許諾契約をするについての商取引のセールストークとして許容される限度を超えた「虚偽の説明」をしたと認めることはできない。その理由は次のとおりである。
(1)事業者の調査義務特許権者,専用実施権者(以下「特許権者等」という。)から特許権の通常実施権等の許諾を受けるのは,許諾なく特許権を侵害する製品を製造販売する事業を行った場合,差止請求や損害賠償請求を受けるため,これを避ける必要があるからである。そして,特許権を侵害する行為については過失が推定されるから(特許法103条),特許権を侵害するか否かについての調査は,上記推定を覆すに足りる程度に行わなければならない。したがって,ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者には,特許公報等の資料を検討し,その製品と特許権との抵触関係(侵害するか否か)を判断して,特許権者等からの許諾を受けるか否かを決定することが求められているというべきである。
証拠(甲2)によれば,本件特許公報を検討すれば,本件発明に係る技術分野の製品を製造販売する事業を行おうとする事業者として普通の知識を持つ者であれば,本件特許が「周囲の照度が設定値を越える場合には前記太陽電池からの電力を前記電気二重層コンデンサに充電し,周囲の照度が設定値以下の場合には前記電気二重層コンデンサに蓄積された電力を負荷に供給して毎日充放電を繰り返すという制御を前記太陽電池の出力を検出することに基づいて行う負荷制御回路」を用いて電圧方式による制御をするものであることを容易に知ることができることが認められる。
(2)原告らの立場弁論の全趣旨によれば,原告サンライトは,本件契約1の当時は有限会社であって,太陽電池を利用した電気機器の販売等を業としていた者であること,原告マルフクは,清涼飲料水等の製造販売を業とする株式会社であったが,本件契約2に際して,照明器具の研究開発を目的に追加したことが認められる。そして,原告らは,太陽電池を利用した電気機器を製造販売する事業を今後行おうとしていたのであるから,原告サンライトは本件契約1の当時において,原告マルフクは本件契約2の当時において,いずれも商人であって,かつ「ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者」であった。
(3)本件契約1と本件放送及びP3の言動について証拠(甲15)によれば,本件放送には,本件特許を紹介するとともに,P1教授が「太陽電池と電気二重層コンデンサを組み合わせたものが特許だ」「コンデンサに太陽電池で発電した電気を蓄えるのが特許だ」と説明している映像や,「この基本特許を管理しているのがP3さんです。」「本件特許について外国から多くの引き合いがある。」「日本の業界の団体が二十数億円で本件特許の権利を取得した。」との内容の映像が含まれていることが認められる。また,P6は,P3が本件放送の録画をP6に見せた後「このとおりである」旨述べたと供述し,甲第17,第18号証には,P3が「本件特許は世界に2つとない基本特許である」旨述べていたとの記載がある。
しかし,証拠(甲15)によれば,本件放送(ニュースステーション)は,ごく限られた時間枠の範囲内で一般大衆向けに作られて放送されているものにすぎず,太陽電池装置のメーカーに対する正確な技術的説明でないことが明らかである。したがって,特許権者側が,本件放送の録画を見せ,「このとおりである」「本件特許は世界に2つとない基本特許である」旨述べたとしても,「ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者」としては,それは本件特許が素晴らしいものである旨を特許権者が宣伝している趣旨であって,技術的な判断は,自ら特許公報等の資料により検討した結果によるべきであると理解すべきものである。換言すれば,本件放送の内容及びP3の上記言動は,事業者が特許公報等の資料を検討して本件特許の技術内容を判断するに当たり,技術的範囲の判断を誤らせたり,内容を誤認させたりするようなものということはできない。
まして,証拠(乙11,P6・36〜37頁)によれば,P3は,技術的なバックグランドがなく,非常に大雑把な人であり,そのことはP3と10分も話をすれば分かることであって,P6もP3に技術的なバックグランドがないことは認識していることが認められるから,「ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者」の代表者であるP6としては,P3が見せた本件放送の録画やその言辞によるのではなく,特許公報等の資料を検討した結果によるべきであることは,なおさら容易に認識できるところである。
P6は,P3から「本件特許がなかったら商品はできないというような言い方をされた」「まあ言われたんやないかと思う」と供述する。上記供述は,内容自体曖昧であるうえ裏付けを欠くものであって採用できないが,仮にP3において,P6との会話のやりとりの中でそういう言葉を発したとしても,以上に述べたことからすれば,セールストークとして許容される限度を超えた「虚偽の説明」ということはできない。なお,原告らは,P3において原告らが,「太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触する」と誤認していることを知っていたと主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。また,前記第2の1(8)ア記載の本件特許の査定に至る経緯も,以上の認定を左右するものではない。
また,P6は,原告サンライトは,本件契約1締結に当たり,本件特許公報を見ていないと供述する。1000万円以上の金員を支払って特許権実施許諾契約を締結するに当たり特許公報すら見ないというのは不自然であるけれども,仮にそうであるとしても,原告サンライトが「ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者」であることに照らし,被告側において原告サンライトが本件特許公報を見ることを妨げた等の特段の事情のない本件においては,以上の認定を左右するに足りるものではない。
(4)本件契約2と本件放送及びP3の言動について本件契約2についても,上記(3)と同様であって,被告ないしP3において,セールストークとして許容される限度を超えた「虚偽の説明」をしたとすることはできないし,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
2争点(2)(錯誤)について(1)要素の錯誤について原告らにおいて,「太陽エネルギーを利用した発光機器を製造販売するには本件特許の実施許諾を得ることが不可欠,太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触する」との錯誤に陥っていたとしても,それは動機の錯誤であってそのことを被告に表示し,これを前提として本件契約1,2が締結されたものでなければ,要素の錯誤とすることはできない。
ところが,特許権者側が,本件放送を見せ,「このとおりである」として「本件特許は世界に2つとない基本特許である」旨述べたとしても,「ある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者」としては,本件特許が素晴らしいものである旨を特許権者が宣伝している趣旨であって,技術的な判断は,自ら特許公報等の資料により検討した結果によるべきであると理解すべきものであることは前示のとおりである。また,P6は,P3から「本件特許がなかったら商品はできないというような言い方をされた」「まあ言われたんやないかと思う」と供述するが(上記供述は裏付けを欠くものであって採用できないものの),仮にP3において,P6との会話のやりとりの中でそういう言葉を発したとしても,セールストークとして許容される限度を超えたものということはできないことも前示のとおりである。
そうだとすると,P3のこれらの言動を前提としても,そのことだけで,本件契約1,2の締結において,原告らが「太陽エネルギーを利用した発光機器を製造販売するには本件特許の実施許諾を得ることが不可欠,太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触する」と認識している旨の表示をし,これが前提となっていると評価することはできない。他に,原告らが,原告ら主張の錯誤に係る認識を表示し,これが前提となって本件契約1,2が締結されたと認めるに足りる証拠はない。
よって,原告らの錯誤の主張は,これを契約の要素とすることができないから理由がない。
(2)原告らの重過失についてある製品を製造販売する事業を行おうとする事業者には,特許公報等の資料を検討し,その製品と特許権との抵触関係を判断して,特許権者等からの許諾を受けるか否かを決定することが求められていることは前示のとおりである。この時の注意義務は,我が国において有効なあらゆる特許を対象として調査し,その製品とそれらの特許権との抵触関係を判断すべき義務であって,非常に広範囲に及んでいる。他方,特定の特許権の通常実施権許諾契約を締結しようとする場合には,特許権はすでに特定されており,当該特許権についてだけ調査判断すれば足り,極めて容易に行えることである。そして,本件特許公報を読めば,太陽電池と電気二重層コンデンサを利用する太陽電池装置はすべて本件特許に抵触するわけではないことは容易に認識できるのであるから,この認識をしなかったことについて,原告らには事業者としての重大な過失がある。したがって,原告らの錯誤の主張は,重過失に基づくものとして許されないから理由がない。
3結論以上の次第で,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山田知司
裁判官 高松宏之
裁判官 村上誠子
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