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関連審決 不服2006-28608
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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成17行ケ10704審決取消請求事件 判例 特許
平成19行ケ10097審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 容易に実施 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  参酌 /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10174号 審決取消請求事件
原告X
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人亀丸広司
同 村本佳史
同 岩谷一臣
同 森川元嗣
同 内山進
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2006-28608号事件について平成19年3月28日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が発明の名称を「回転体による物体の角度変換移動方法」(第1次補正後のもの)とする後記特許の出願をしたところ,拒絶査定を受けたので,これを不服として審判請求をしたが,特許庁から平成18年11月27日付けでなした補正(第2次補正)の却下を含め請求不成立の審決を受けたので,その取消しを求めた事案である。
争点は,?@第2次補正が,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであるかどうか(特許法17条の2第3項等),?A第2次補正前の明細書(第1次補正による明細書)の「発明の詳細な説明」は,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているかどうか(特許法36条4項1号等),である。
第3当事者の主張1 請求の原因(1) 特許庁における手続の経緯原告は,平成16年3月17日出願の特願2004-119658号に基づく優先権を主張して,平成17年3月12日付けで,名称を「回転体による物体の角度変換移動方法2」とする発明について,特許出願(以下「本願」という。請求項の数4。特願2005-112718号。公開特許公報は,特開2005-308218号[甲1])をしたところ,特許庁から拒絶理由通知(乙2)を受けたので,平成18年7月4日付けで,特許請求の範囲及び明細書等の記載を補正した(第1次補正。発明の名称「回転体による物体の角度変換移動方法」,請求項の数2。甲8)が,平成18年10月23日付けで拒絶査定を受けた。
そこで原告は,平成18年11月27日付けで不服の審判請求を行うと共に,同日付けで特許請求の範囲,明細書及び図面の記載を補正した(第2次補正。請求項の数2。以下「本件補正」という。甲4)ところ,特許庁は,同請求を不服2006-28608号事件として審理した上,平成19年3月28日,本件補正(第2次補正)を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない」との審決を行い,その謄本は平成19年4月24日原告に送達された。
(2) 第1次補正の内容ア 特許請求の範囲第1次補正時(平成18年7月4日)の特許請求の範囲は,請求項1及び2から成るが,その内容は次のとおりである(以下,請求項1及び2の発明を総称して「本願発明」という。)。
「【請求項1】自転している,あるいは自転要素を有する回転体あるいは回転体を含む系の,回転体による移動において,自転している回転体の,逆行することのない,主として加力に対して逆回転部位に加力して,加力位置を仮の支点として自転を公転に変換して,進行方向に対して,進行方向と異なる,主として直角方向に加力して,初期に縦方法の成分が多く,最終横成分の進行となり,生じた反作用を,蹴らずに地面等を押さえ付けて移動する回転体による物体の角度変換移動方法。
【請求項2】自転している,あるいは自転要素を有する回転体あるいは回転体を含む系の,回転体による移動において,互いに逆回転している回転体の,主として加力に対して逆回転部位の進行方向に対して,主として直角方向に加力して,加力部位を仮の支点として,自転を公転に変換して,生じた反作用を互いに相殺して,回転体あるいは回転体の属する系の進行を得る請求項1又は請求項2の回転体による物体の角度変換移動方法。」イ 明細書第1次補正による明細書中の【発明の詳細な説明】は,平成18年7月4日付け手続補正書(甲8)記載のとおりである(その概要は,後記第4[当裁判所の判断]3(1)のとおり)。
(3) 第2次補正(本件補正)の内容ア 特許請求の範囲本件補正(平成18年11月27日)後の特許請求の範囲も,請求項1及び2から成るが,その内容は次のとおりである(以下,請求項1及び2の発明を総称して「本願補正発明」という。下線部は本件補正に係る部分)。
「【請求項1】自転している,あるいは自転要素を有する回転体あるいは回転体を含む系の,回転体による移動において,自転している回転体の,進行方向に逆行する要素のない,逆回転部位に,進行方向に対して,直角方向に加力して,加力位置を仮の支点として自転を公転に変換して,発生する二方向の合力の移動成分の内の,加力に対して直角の横移動方向の力により横移動して,生じた反作用で,地面等の対象を直角に押さえて,後方に蹴らずに移動する請求項1の回転体による物体の角度変換移動方法。
【請求項2】自転している,あるいは自転要素を有する回転体あるいは回転体を含む系の,回転体による移動において,互いに逆回転している回転体の,加力に対して逆回転部位に,進行方向に対して,直角方向に加力して,加力部位を仮の支点として,自転を公転に変換して,生じた反作用を互いに相殺して,回転体あるいは回転体の属する系の進行を得る請求項1又は請求項2の回転体による物体の角度変換移動方法。 」イ 明細書及び図面第2次補正(本件補正)後の明細書及び図面は,平成18年11月27日付け手続補正書(甲4)のとおりである(その概要は,後記第4[当裁判所の判断]2(1)のとおり,【図2】〜【図6】を追加するとともに,明細書中に【図2】〜【図6】に関する事項を追加したものである。)。
(4) 審決の内容審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その理由の要点は,?@第2次補正(本件補正)は,願書に最初に添付した明細書・特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものではないから,特許法17条の2第3項53条1項159条1項により認められない,?A本件補正前の明細書(第1次補正による明細書)の「発明の詳細な説明」は当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないから,特許法36条4項1号に適合しない,というものである。
(5) 審決の取消事由ア 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)(ア)本件補正は,従来の直線法では自明とならないとしても,次のような原理からなる直角法より見れば,ごく当たり前の現象を記載したにすぎず,出願当初の特許請求の範囲,明細書,図面の範囲内でされたものである。
a回転体の自転は,自転そのものには移動する要素はなく,移動できるのは,慣性移動である。中心軸(重心)を押して移動する場合は,従来の直線法である。これに対し,重心以外を押して移動が可能となる場合は,自転している回転体の,主として回転方向と逆方向への加力による移動であり,回転体の単体の移動の場合は,全体が回転部分より成り立つものであれば,回転体の回転方向の逆方向への中心軸以外への加力は,加力方向及び直角方向の2方向の合力の移動成分となる。中心軸の留め金をはずした,グラインダーの火花方向の逆方向,すなわち,直上に加力することにより,グラインダーは,直上方向と手前方向の横方向の移動成分となって,当該横移動成分によって横移動して,加力方向の上方向移動成分は重力により落下する。
b地面と接する位置を仮の支点として,2方向の合力の円弧を描いて,タイヤは摩擦により保たれる後方へ蹴る加力により発生した横方向の移動成分と下方向の移動成分のうちの横移動成分によって横移動が成り立つ。グラインダーの場合は,直上方向の,すなわち,火花方向と逆方向の加力に対して,発生した2方向の上方向と横方向の移動成分のうちの,加力に対して直角の横移動成分で移動するものである。
c実施上は,回転部分のみで構成する回転体単体ではなく,支持部分等の無回転部分とを組み合わせた系の構成となるために,無回転部分が重心を押す直線法となって,回転体の公転で発生する横移動成分を減じる。回転体と無回転部分より成る全体の系の,すなわち,回転体を含めた支持部分の系の移動は,従来の重心を押して移動する,直線の作用反作用の直線法による移動ではなく,直角の反作用で発生した,横方向の移動成分で移動するものである。
(イ)本件補正は,回転体の移動が,従来の直線法による移動でなく,直角法によるものであることを,明示するために,水上より移動抵抗の少ない空中においても,対象を蹴ることなく移動する実施例の【図2】〜【図6】とその説明を明細書中に追加したもので,装置により追試験をすれば,当業者は納得できるものであり,出願当初の特許請求の範囲,明細書又は図面を拡大逸脱するものでない。
(ウ) したがって,本件補正を却下したことは誤りである。
イ取消事由2(本願が特許法36条4項1号に適合しないとした判断の誤り)(ア)審決は,拒絶査定の理由である「第1実施例に関する段落【0008】〜【0009】の説明及び第2実施例に関する段落【0010】の説明からだけでは,各実施例の系9が,何故,移動するのか,当業者が容易に理解することができる程度に記載されているとはいえない。」との部分を引用している(2頁18行〜21行)。
しかし,本件補正前の本願明細書(第1次補正時のもの,甲8)の段落【0008】〜【0010】の説明は,直角法による移動を詳述しており,回転体による移動が,従来の重心を押す直線法ではなく,自転する回転体の中心軸(重心)以外を押して発生する横移動成分による直角法の移動であることを記述している。当業者が理解できないとする見解は不当である。
(イ)審決は,拒絶査定の理由である「仮に,明細書に記載されたように,系9が前方へ移動し,受け部5が外れて(後方へ)移動した場合,連結ばね10により受け部5が元の位置に復帰するのであれば,当該連結ばね10の他端が結合する系9は,連結ばね10によって,どのような動きをするのか,不明瞭である。よって,系9が『この繰り返しにより進行する』(段落【0009】)ことが,当業者が容易に理解することができる程度に記載されているとはいえない。」との部分を引用している(2頁24行〜30行)。
しかし,原告は,物体の移動中直線法では説明できないタイヤの加速減速時の沈み込み等の現象の存在により,直角法の存在を見つけたものである(出願時の明細書[甲1]段落【0001】,【0003】参照)。回転体の中心軸方向以外に加力して表れる2方向の移動成分のうちの,加力方向と直角の横移動成分は,全体が回転体であれば,表れる移動成分のとおりの移動となるが,実際には,主として回転体の支持部分等を構成する無回転部分とが合体して系を構成している。そのため,無回転部分の移動は,重心を押す直線法の移動方法となり,回転体の公転により発生した横移動成分の力を減じる。回転体への加力方向に対して直角の横移動成分は,逆方向の後方に対象を蹴って移動しているものではない。
甲7の1及び甲11の1のDVDに収録されている装置(以下「実証装置」という。)の移動を従来の直線法で説明すると,水上等では互いが逆移動して系の移動は起こらず,自己矛盾となり,説明不可能である。当業者は追試験すれば,直角法の存在を実感して理解できる。
したがって,上記拒絶査定の理由は成り立たない。
(ウ)審決は,拒絶査定の理由である「備考この出願に係る発明は,回転体あるいは回転体の属する系の移動方法に関するもので,回転体あるいは回転体の属する系が一方向に連続して移動することを,その内容とするものと認められる。しかしながら,実施例1,2において,回転体あるいは回転体の属する系が一方向に移動し,受け部5が他方向へ移動する際に,伸張した連結ばね10が,回転体あるいは回転体の属する系にどのように作用するのか,明細書及び図面には,当業者が実施できる程度に記載されていないと認められる。一般的には,伸張した連結ばね10は,受け部5に一方向への力を作用させ,回転体あるいは回転体の属する系に他方向への力を作用させることが技術常識である。そうしてみると,こうした技術常識と必ずしも整合しない,この出願の場合,その内容を明細書等に,当業者が実施できる程度に記載することが必要である。」との部分を引用している(3頁1行〜14行)。
しかし,この拒絶査定の理由は,以下のとおり誤りである。
a回転体の移動原理より見れば,回転体の重心直下の地面等の対象を後方に蹴って重心を押して移動する移動方法が,古来の作用反作用の直線法であり,蹴る方向は移動方向と逆方向であるというのが技術常識である。
b自転しているグラインダーの水平位置にものを接すると,発生する火花は直下であり,中心軸の留め金をはずせば,グラインダーは火花を発せず,手前上方向に飛んで,重力で落下する。火花を発生させず接点を仮の支点とした場合,加力方向は直上であり,反作用は直下であり,後方に蹴っていない。この現象は,地面等の対象上を回転して移動するタイヤ等の回転体が,90度位相がずれて,縦方向となった現象と等しい。
cこの現象より,直線法で移動するとされる対象上を回転する車両のタイヤ等の回転体は,重心以外の対象との接点を仮の支点として横方向へ回転体全体が回転して移動していると考えるのが適当である。なぜなら,地面等対象上のタイヤ等の回転体は,摩擦が減じて滑れば,タイヤは自転して,対象と接した部位すなわち仮の支点を軸として全体が回転せず移動できないからである。
この場合,仮の支点を軸に全体が回転するから,回転体の重心は仮の支点に移動して,仮の支点を軸として,円弧の軌跡となる。地面等の対象が次々と現れるため,移動は円弧の連続となる。
d上記の回転体全体が回転(公転)する際の加力の反作用は,摩擦による横方向の移動と逆方向となる。この公転は,仮の支点を軸とした横方向の加力による移動であるから,公転により発生する合力は横方向成分と下方向成分の合力で成り立ち,発生した合力の移動成分のうちの横方向の移動成分(加力方向と同一方向の成分)で移動する。
e上記dで横方向の摩擦による加力により発生する力は,摩擦により発生するものであり,摩擦は引力による重力により発生するものであるから,地上等重力の存在する場でのみ有効で,無重力下では,この横方向の加力による横移動は不可能である。したがって重力下の直線の作用反作用のこの現象を「地上の直線法」と称する。
f「地上の直線法」は,重力のある場でのみ機能する,直角法の一形態であり,いか,たこ,ロケット等の水等の噴射による移動は,重心を押す直線法を意味し,地面等の対象を蹴る等,対象に依拠して移動する,人間の歩行,タイヤの走行,細菌の移動等,回転要素による移動は,すべて直角法あるいは「地上の直線法」によるものであって,古来の重心を押して移動する直線法ではない。
gしたがって,「地上の直線法」は,重力下の地球上では成り立つが,無重力下の宇宙では,直角法に収れんする。
h以上のとおり,回転体の移動を解明すると,直線法以外に直角法による移動が存在しており,直線法以外で移動する,回転要素による回転体の公転による移動が,地上の移動の多くを占めており,従来の直線の作用反作用の直線法でひとくくりにして,物体の移動を律することは,直角法の存在を知ることにより,不可能となるものである。
iしたがって,審決の上記判断は,誤りである。
(エ)審決は,第1次補正時の明細書の発明の詳細な説明は,「当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。」(6頁5行〜6行)とする。そして,その理由として,「(イ)で系9を受け部5側へ引き寄せた際には,連結ばね10は圧縮されるものと理解され,その後(ロ)で受け部5が加力棒4から離れ,系9と受け部5が連結ばね10のみの作用を受ける際には,圧縮された連結ばね10が伸長するときの作用により,系9は受け部5から離れる方向の力を受けるものと理解される。したがって,(イ)で系9の受ける力の方向と(ロ)で系9の受ける力は逆となるので,系9は往復動をすることになる。」(4頁下8行〜下2行)と述べる。
上記(イ)の「回転体を引き寄せる」は,回転体の中心軸(重心)方向以外の,回転体の時計回りに3時〜6時の間の領域に,後方に蹴るのではなく直上方向に加力して,加力の結果発生する直上方向と横方向の二方向の合力の移動成分により,回転体は支持部分の長穴内を直上方向に上昇するとともに,発生した横方向の移動成分により,引き寄せるものである。
この際の,加力方向はグラインダーの水平な火花方向の逆方向と等しく直上であり,反作用は直下方向であり,したがって,後方に受け部5を蹴って,移動したものでない。回転体1と受け部5との連結ばね10を切り離して,連結していない,と仮定すれば,受け部5は無回転部分と等しく,置き去りにされて,前進移動する支持部分に当たる。
無回転部分よりなる支持部分と連結ばねを介した受け部は,発生した回転体の横移動成分を減じる。回転体の発生する横移動成分が,無回転部分の支持部分の移動に必要な重量(質量)より大きければ,支持部分と受け部との直線法による受け部の後方への移動は少なく,回転体の重量(質量)と無回転部分の支持部分等との質量の差が小さく,あるいは逆転している場合は,受け部の後退は大きくなる。したがって,往復動作で前進しないとする上記(イ),(ロ)の解釈は当たらない。
審決の上記見解は,直線法によるもので,本願の直角法を理解しようとしないものであるから,不当である。
(オ)審決は,「しかしながら,提出された『回転体の角度変換移動原理の図解説明文』によっても実施例1及び2において回転体あるいは回転体の属する系が連続してあるいは経時的にみて一方向に移動することは理解できないし,請求人の上記主張も,作用反作用の法則を含む当業者の有する一般的な技術常識を否定する請求人独自の見解に基づくものであって,採用できない。」(5頁下4行〜6頁1行)と判断している。
回転体の移動における,卑近な例のうち,棒高跳びについて述べると,競技者は助走して棒先を地面に突いて,棒先を支点として,上昇する。棒先を突くことにより,回転体は自転から棒先を中心軸とした公転に変換する。この際の重心は棒先に移動する。棒先を止めることは,氷上でも可能である。なぜなら,棒先は直上まで地面を後ろに蹴らないからである。この状態が本願の直角法の公転であり,自転から公転への角度変換移動を表し,棒先を仮の支点の中心軸とした,0度〜90度までの間に発生する現象で,移動方法である。この間,回転体は直上方向の加力となって,棒先を後方に蹴る作用は直上の90度になるまで発生しない。なぜなら,直上に達して,はじめて重力による位置エネルギーとともに,横方向の加力で発生する横方向と下方向の合力成分が発生して,タイヤの回転移動を得るのと等しい領域となり,無重力下では,慣性移動あるいは次の公転の始点となる。棒先は,直角法による直上方向への加力による公転につれて横移動するものである。
したがって,審決の上記判断は,直線法による誤った判断である。
(カ)審決は,「そうすると,本件明細書の発明の詳細な説明によっては,実施例1及び2が,発明が解決しようとする課題を解決し得る動作を行うものと,当業者が理解することができないから,本件明細書の発明の詳細な説明は,本願発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできない。」(6頁2行〜6行)と判断している。
本願発明は,対象となる地面等の対象を蹴って,すなわち,対象に依拠して移動する移動方法(直線法)でなく,対象を押さえて移動する方法であり,対象に依拠して移動する直線法の有する欠点を解消できるものである。したがって,上記判断は誤りである。
(キ)審決は,「むすび」として,「したがって,本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件に適合していない。」(6頁8行〜9行)と判断している。
しかし,既に述べたところからすると,本願は特許法36条4項1号に違反しておらず,この判断は誤りである。
(ク)本願発明は,回転体あるいは回転を利用する動作は,直線法の技術常識どおりに動いていない現象から見い出したもので,その動きは,直線法に対峙しており,宇宙では,直線法より普遍的な動きを表している。地上でも吾人の歩行の際の差し足,ステッキ,松葉杖,棒高跳びの棒等の棒先は,対象となる地面を蹴って移動しておらず,いずれも棒先が直上に達した以降に蹴ることができるもので,また対象となる地面は,動かぬものとして移動を得ているが,見方をかえれば,地面を置き去りにして移動しているともいえる。
自転により,回転(公転)を得て,対象(地面)を蹴ることなく移動する力を得た移動体が,置き去りにした,地面を繰り返して用いることができれば,後方に蹴ることなく,直上方向への加力により発生する横移動成分により移動することができる。本願発明は,このようなもので,当業者が容易に実施できるものである。
(ケ)なお,被告が本件補正前の本願明細書(第1次補正時の明細書)に記載されている実施例1の動作について主張する次の各点は,以下のとおり理由がない。
a後記3(2)イの主張につき(a)第1次補正時の明細書(甲8)に記載されている実施例1は,次のようなものである。
α無回転体の支持部に対して,回転体は,回転部分を形成して,受け部に対して無回転部分は,回転体に従属し,受け部は,回転体の角度変換(公転)の,大略水平位置の角度変換を求めるものであり,回転体を除く,無回転部分(支持部分)と受け部の間で,直線法による移動(直線の作用反作用)が成り立つ。
β受け部に回転体の加力棒(点)が接すれば,回転体は,接点を支点として,公転する。この際の加力方向は,横方向でなく,上,下方向であるから,摩擦,重力と関係ない。
γ回転体が,加力点により公転して発生する,合力の内の横方向移動成分が,回転体を移動させる。
支持部の質量に比して,回転体で発生する上記の横方向移動成分が大きく,また受け部の質量が支持部のそれに比して大きければ,受け部は,直線法で支持部方向に引かれることなく(厳密にはゼロではない),回転体は支持部とともに,回転方向に進み,移動する。
(b)以上のとおり,実施例1においては,回転体が,直線法(直線の作用反作用)ではなく,自転する回転体の加力点により,回転体が公転して,発生した合力の内の,横方向移動成分によって移動する。この移動は,摩擦の有無,重力の有無に関係なく,起こるものであって,摩擦がない場合には,前後動のみで移動しないとする被告の主張は,失当である。
実証装置は,上記の移動を示したものである。
b後記3(2)ウの主張につき(a)被告は,「仮の支点である加力棒4へ回転体1を支持する系9を引き寄せようとするが,この場合回転体1が系9を引き寄せようとする横方向力の反作用として加力棒4の受け部5に対する反対方向の横方向力が生じる。」と主張する。しかし,当接する加力方向は,上方向からと,下方向からであり,下方向へは,対象(地面等)があるから,加力方向は上方向であり,横方向への作用反作用の直線法による移動は発生せず,起こり得ない。上方向への加力により発生する合力は,上方向成分と横方向成分であって,回転体単体であれば,加力点が仮の支点となって,公転することによって発生した横移動成分に対して,回転体自身が直角の作用反作用であるから,後方に反作用として横方向への移動力を受けることはあり得ない。したがって,被告の上記主張は誤りである。
(b)被告は,「回転体1の回転軸2は長穴8の頂点に上昇しようとするが,加力棒4が滑り出しているため,回転軸2が長穴8の頂点に達する前に加力棒4が受け部5から外れ,回転軸2は長穴8内を落下すると考えられる。」と主張する。しかし,回転体1の回転する質量が,無回転部分の質量に比して,あるいは回転体1が発生する横移動成分が無回転部分の摩擦あるいは質量に比して大きければ,回転軸2は受け部5上を後方に引かれて,はずれる現象は起きないし,単体の回転体では,重心移動のため,あり得ない。回転体1が長穴8の頂点に達しない限り,長穴8内を落下することはない。実施例1では,本来置き去りにしても理論上は成り立つ受け部5を,連結ばね10により,元の位置関係に,直線法で復帰せしめて,動作を繰り返すものである。被告の述べるような現象が起こるとすれば,上,下方向の加力にもかかわらず,棒高跳び等の棒先の加力点が手前に移動して公転の半径が変化することになり,直上までの合力による移動はできないこととなる。
(c)被告は,「回転体1が系9を引き寄せることが可能としても,それは加力棒が滑り出す前に生じるわずかな瞬間のみである。」と主張する。しかし,公転の0〜90度の間を,瞬間として見ることはできない。実証装置による実験でも,上下方向の当接の瞬間に,回転体の重心が公転円の回転軸(公転円軸)の仮の支点となる接点に移動して,推進具のない発泡材上の系全体が,公転毎に,すなわち,回転体の回転ごとに,公転円の4分の1に相当する距離だけ(無回転部分の移動分だけ差し引いて)進んでいる(甲7の1及び甲11の1参照)。
2 請求原因に対する認否請求原因(1)ないし(4)の各事実は認めるが,(5)は争う。
3被告の反論(1) 取消事由1に対し特許法17条の2第3項は,「…明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,…願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(…)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定している。したがって,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,「当初明細書等」という。)に記載した事項」の範囲を超える内容を含む補正は許されない。ここで,「当初明細書等に記載した事項」とは,明示的な記載がなくても,「当初明細書等の記載から自明な事項」も含むが,補正された事項が,「当初明細書等の記載から自明な事項」といえるためには,当初明細書等に記載がなくても,これに接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項でなければならない。
そこで,本件補正について検討すると,本件補正の内容は,【図2】〜【図6】を追加するとともに,明細書中に【図2】〜【図6】に関する事項を追加するものであるが,これらは当初明細書等に記載がない。そして原告は,本件補正の内容である直角法が,従来の直線法では自明とならない,すなわち,従来の技術常識では自明とならないことを認めており,原告が主張する直角法が,従来の技術常識と異なることは明らかであるから,【図2】〜【図6】及び【図2】〜【図6】に関する事項が,当初明細書等に記載に接した当業者であれば,出願時の技術常識に照らして,その意味であることが明らかであって,その事項がそこに記載されているのと同然であると理解する事項とはいえない。
そうすると,本件補正の内容は,当初明細書等に記載がなく,当初明細書等の記載から自明な事項ともいえないから,本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものでなく,本件補正は却下されるべきものである。
(2) 取消事由2に対しア審決において拒絶査定の拒絶理由を記載しているのは,当審の判断を行う前提として,拒絶理由を確認する趣旨であって,その記載内容は,平成18年6月8日付けの拒絶理由通知書(乙2)及び平成18年10月23日付け拒絶査定(乙3)の内容と相違はないから,審決における拒絶査定の拒絶理由の記載自体を審決の取消事由とすることはできない。
イ(ア)本願発明は,その特許請求の範囲の請求項1において,「生じた反作用を,蹴らずに地面等を押さえ付けて移動する」と記載されており,第1次補正時の本願明細書(甲8)の【課題を解決するための手段】においても,「回転体を介することにより,移動するに際して,移動に応じた地面等を蹴って進むものでなく,その反作用を,主として直角方向に表し,…」(【0004】)と記載され,同【発明の効果】においても,「従来は必須である地面等の反作用の対象を,本発明では単に押さえるか,あるいは全く必要としなくなるものである。」(【0005】)と記載されている。これらの特許請求の範囲,明細書,そして審決中に引用されている「回転体の角度変換移動原理の図解説明文」(乙4添付)及び審判請求書(甲3)中の説明をも参酌すれば,本願発明は,従来と異なる動作原理により,地面からの水平方向の力は受けずに移動するものということができる。
(イ)第1次補正時の本願明細書に記載された実施例1及び実施例2(図1及び図2)においては,地面に接する転がり輪6を備えているが,本願発明は上記(ア)に記載したとおり,「地面からの水平方向の力は受けずに移動する」ものであるので,転がり輪6は地面からの摩擦力は受けない,すなわち地面と転がり輪6との転がり摩擦係数μは0である(「摩擦力=転がり摩擦係数μ×鉛直方向の荷重」(式1)であることによる)ことが,実施例1及び実施例2の前提条件となる。
その場合,実施例1の回転体1,系9,受け部5相互の水平方向に受ける力及び移動について検討する。以下,回転体1の質量をM,系9の質量をm1,受け部5の質量をm2とする。ここで,水平方向には回転体1と系9とは相対移動せず一体のものとみなせるから,これら3つの部材の水平方向の移動は,[回転体1と系9]と[受け部5]との相対移動となる。
[回転体1と系9]と[受け部5]とは加力点で水平方向の力を及ぼし合うが,その力は作用反作用の法則により反対方向で等しい力である。そして,この力は[回転体1と系9]と[受け部5]とを合わせた装置の外部にまで及ぶものでない(上記のとおり,転がり輪が地面から受ける摩擦力も0である。)から,この装置全体の重心位置は変化しない。したがって,[回転体1と系9]と[受け部5]とが引き合う時にはその質量比に反比例してm2:M+m1の距離ずつ接近し,ばねの力で逆に戻る時にも質量比に反比例して同じ距離だけ遠ざかることになるのであって,装置全体として移動することはない。
そうすると,審決が実施例1について,「そして,当業者の技術常識から見て,この往復動は回転体1,系9,受け部5,連結ばね10等からなる装置の内部において相互に力を及ぼし合うもので,装置の外部に力を及ぼすものでないから,装置全体としてみれば移動しないものと理解できる。」(4頁下2行〜5頁2行)とした点に誤りはない。
また,実施例2についても,実施例1と同様であり,[回転体1と系9]と[受け部5]とが引き合う時にはその質量比に反比例してm2:M+m1の距離ずつ接近し,ばねの力で逆に戻る時にも質量比に反比例して同じ距離だけ遠ざかることになるのであって,装置全体として移動することはない。
そうすると,審決が実施例2について,「…実施例1と同様に回転体1,系9,受け部5,連結ばね10等からなる装置全体としてみれば移動しないものと理解できる。」(5頁11行〜12行)とした点にも誤りはない。
ウ(ア)また,第1次補正時の本願明細書に記載されている実施例1の動作を敷衍すると,次のようになる。
?@回転体1が回転している状態で加力棒4が受け部5に当接すると,回転体1は加力棒4を仮の支点として公転を始めて,長穴8内を上昇しながら,加力点をなす加力棒4と受け部5との接点である,仮の支点へ,回転体1を支持する系9を引き寄せようとする。しかし,この場合回転体1が系9を引き寄せようとする横方向力の反作用として加力棒4の受け部5に対する反対方向の横方向力が生じる。加力棒4は受け部5によって横方向には支持されていないので,横方向力が摩擦力の限界を超せば加力棒4は横方向,すなわち系9側に滑り出す。そうすると,系9を引き寄せる横方向力の反作用を加力棒4が支えることができないため,系9を引き寄せることができない。したがって,原告が主張するように仮に回転体1が系9を引き寄せることが可能としても,それは加力棒が滑り出す前に生じるわずかな瞬間のみとなり,その間のみ連結ばね10は圧縮される。
?A回転体1の回転軸2は長穴8の頂点に上昇しようとするが,加力棒4が滑り出しているため,回転軸2が長穴8の頂点に達する前に加力棒4が受け部5から外れ,回転軸2は長穴8内を落下すると考えられる。仮に加力棒4が受け部5から外れる前に回転軸2が長穴8の頂点に達したとしても,加力棒4が滑り出しているため,いずれにしても上記?@に記載した瞬間以外には系9に対する引き寄せ力は生じない。
その間圧縮された連結ばね10は伸張する。
(イ)以上の動作は,原告提出のDVD(甲7の1)に収録されている実証装置の動作にも示されている。すなわち,回転体の回転軸が上昇する際に加力棒は滑り出し,受け部から外れ,回転体を支持する系の前進は生じていない。
(ウ)以上の考察及び実証装置の動作からみて,系9の前進はほとんど生じないか,わずかに生じても連結ばねの伸張力により後退する往復動となり,結果として有意な前進量は得られない。
(エ)したがって,第1次補正時の本願明細書及び図面から,系9を含む装置全体が連続してあるいは経時的にみて一方向に移動するとは理解できないので,審決の判断に誤りはない。
エ原告提出のDVD(甲11の1)に収録されている実証装置は,地面あるいは床面に接する転がり輪を有しているが,これらの地面あるいは床面及び転がり輪は,通常の地面あるいは床面及び転がり輪と推察され,摩擦係数μは0ではないと理解される。原告は摩擦係数μが0の条件に近づけようとして濡れた氷上でも実験しているものと推察されるが,濡れた氷上であっても摩擦係数μが0でないことは,アイススケートで進むことができることからも明らかである。
この場合にも,水平方向には回転体1と系9とは相対移動せず一体のものとみなせるから,[回転体1と系9]と[受け部5]との相対移動となる。しかしこの場合には,[回転体1と系9]と[受け部5]とは,上記イで考察した作用反作用の力に加えて,地面から摩擦力の形で水平方向の力を受ける。この摩擦力を考慮する際には,上記イの(式1)から明らかなように,鉛直方向の荷重の変化,すなわち回転体1の重量(質量分の重力)のかかり方を検討する必要がある。なお,以下の検討において方向を明確にするため,動作開始時には系9を左側,受け部5を右側に配置することとする。
[回転体1と系9]と[受け部5]とが互いに引き合う時には,回転体1の重量が加力点を介して受け部5にかかるので,受け部5の転がり輪に作用する摩擦力は転がり摩擦係数をμとすれば,μ(m2+M)となり,その方向は受け部5の進行方向と逆の右方向である。そして系9の転がり輪に作用する摩擦力はμm1となり,その方向は同様に系9の進行方向と逆の左方向である。そして,これらの合力は右方向にμ(m2+M-m1)(式2)である。
[回転体1と系9]と[受け部5]とが互いに遠ざかる時には,回転体1の重量は系9にかかるので,系9の転がり輪に作用する摩擦力はμ(m1+M)となり,その方向は系9の進行方向と逆の右方向である。そして受け部5の転がり輪に作用する摩擦力はμm2となり,その方向は同様に受け部5の進行方向と逆の左方向である。そして,これらの合力は右方向にμ(m1+M-m2)(式3)である。
そして,(式2),(式3)とも,Mがm1及びm2に比べて充分大きければ合力は正の値となる。したがって,上記イの場合とは異なり,[回転体1と系9]と[受け部5]とが引き合う時にも遠ざかる時にも,装置全体として,地面あるいは床面からの水平方向の摩擦力を右方向に受けるから,右方向に移動することになる。
以上のとおりの原理で実証装置は移動すると理解され,その移動の状況が原告提出のDVD(甲11の1)に撮影されている。しかしながら,この実証装置においては,その転がり輪は明らかに地面あるいは床面からの摩擦力を受けており,「蹴らずに地面等を押さえ付けて移動する」ものではなく,むしろ「転がり輪により地面等を蹴って進むもの」である。そうすると,この実証装置の動作原理は本願発明の動作原理とは異なり,実施例とも異なるものと言わざるを得ない。
さらに,上記実証装置は図1の実施例と比べると各部材の質量比が異なる,加力棒の形状が異なりカム形状となっている,系9に相当する部材と受け部5に相当する部材とが独立しておらず拘束関係にある等,実施例に示されていない特別な条件が種々付加されており,その点でも実施例とは異なるものである。
したがって,上記実証装置が移動したとしても本願発明の動作原理に従う実施例が移動することを実証したことにはならず,第1次補正時の本願明細書の「発明の詳細な説明」は本願発明を当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものということはできないから,審決に誤りはない。
第4 当裁判所の判断1請求原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(第1次補正の内容),(3)(第2次補正[本件補正]の内容),(4)(審決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。
2取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について(1)本件補正(第2次補正)において,原告は,【図2】〜【図6】を追加するとともに,明細書中に次のような【図2】〜【図6】の説明を追加している(甲4)。
ア「…図2〜図6は,回転体への加力による直角方向の力成分の発生による移動を実証するもので,図2は,図1の系9全体を,台車13に搭載して作動する装置で,滑車14に付けた支持柱13′により,支持された横梁17上を左右に滑動し,台車13と滑車14とを連結する支持柱13′は反作用を伝えるため,伸縮しないもので成り,立て柱15は床材14″に固定されて床面7等の対象に置く。」(段落【0011】)イ「いま,図3に表すように,台車13上に系9を搭載して,図4のように,回転体を回転すると,回転体1は,まず自転して,加力棒4が受け部5に当たることにより,当該部位を仮の支点として,回転体1は公転して,後方に蹴ることなく,回転軸2は系9の長穴8を上昇するとともに,支持部分の系9を回転方向に,仮の支点を支点として移動するが,緩衝材15により,発生した横移動成分は止め部15′を介して滑車14に伝わり,吊り下げられた,台車13全体が滑動するもので,図5においては,緩衝材15を省くことにより,系9が,台車13上を,まず回転体1が系9ごと,加力棒4が受け部5を支点として移動して,次に伸長した連結ばね10が元の位置への復帰のために,回転軸2が,上死点から,下死点に移動して,元に復帰する状態の連結ばね10と,受け部5との関係を元に復して,すなわち,図5の系9自体の動きから,緩衝材の有無にかかわらず,止め部により,図4の,台車全体の移動を示して,対象を蹴って移動する,従来の直線法での説明はできない。図6は,受け部5と回転軸の関係,長穴8と加力棒4と受け部5の位置関係を示したものである。…」(段落【0012】)ウ「この現象は,従来の直線法のように,系9,あるいは受け部5の転がり輪6が対象を蹴って動いておらず,したがって,宙に浮いた回転体1および受け部5は,対象に接して,地面を蹴っておらず,したがって,両者を連結する連結ばね10による,蹴る,引く等の,直線法による力の発生は一切なく,表れる伸長,収縮は,すべて直角法による,横移動の結果で,主たる移動は,元の位置への復帰である。
回転体の重量が対象を垂直に押さえて横移動成分を発生して受け部5を蹴っておらず,従来の直線の作用反作用の動きの,直線法の「技術常識」では,説明できず,回転体の接線方向への加力のうち,逆行しない横移動成分は回転方向の右下四分の一の扇状部分にあり,左下四分の一の扇状部分は接線方向の加力に対して,移動方向への加力となり,発生する二方向の力の成分は横下の直線法の移動成分を有する領域となる。」(段落【0013】)(2)【図2】〜【図6】及びこれらについての上記(1)の説明は,出願当初の明細書(甲1)には全く記載がないし,同明細書を子細に検討してもその記載から自明の事項であるということもできないから,【図2】〜【図6】及びこれらについての説明を追加した本件補正は,補正について「…明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,…願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(…)に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定した特許法17条の2第3項に違反している。したがって,本件補正は認められない。
原告は,本件補正は,回転体の移動が,従来の直線法による移動でなく,直角法によるものであることを明示するために,水上より移動抵抗の少ない空中においても,対象を蹴ることなく移動する実施例を追加したものであると主張するが,そうであるとしても,出願当初の明細書(甲1)に記載がなく,その記載から自明の事項であるということもできない事項を追加したことに変わりなく,本件補正が認められるものではない。
(3)したがって,審決が本件補正を却下したことに誤りはないから,原告主張の取消事由1は理由がない。
3取消事由2(本願が特許法36条4項1号に適合しないとした判断の誤り)について(1)ア第1次補正時の特許請求の範囲【請求項1】には,前記第3,1(2)アのとおり,「…進行方向に対して,進行方向と異なる,主として直角方向に加力して,初期に縦方法の成分が多く,最終横成分の進行となり,生じた反作用を,蹴らずに地面等を押さえ付けて移動する回転体による物体の角度変換移動方法」との記載がある。
イ また,第1次補正時の明細書(甲8)には,次のような記載がある。
(ア) 技術分野「独楽,タイヤ等回転体を観ることで,見かけ上反作用のない,未確認飛行物体の移動原理を解明することにより,次代の産業革命の基礎となる,回転体により,回転体,あるいは回転体の属する系を動かす,回転体による物体の角度変換移動方法に関するものである。」(段落【0001】)(イ) 背景技術「物体を動かすには,移動に応じた反作用を,地面等,受けるものがなければ,動かないものとされてきた。…」(段落【0002】)(ウ) 発明が解決しようとする課題「地上における,またその延長を持ち込んだ宇宙等無重量域における物体の移動は,すべて無回転部分へ力を加える,移動に匹敵する反作用を,地面等で受けて成り立ち,物体自体が移動することは,あり得ないものとされて,移動するに必要なものとして,水,道路,空気,爆発物等が反作用に不可欠のものとされてきた。」(段落【0003】)(エ) 課題を解決するための手段「回転体を介することにより,移動するに際して,移動に応じた地面等を蹴って進むものでなく,その反作用を,主として直角方向に表し,あるいは対の回転体を介することにより,互いの反作用を相殺して移動する角度変換による移動方法であり,その力を加える(以下加力と称す)方法,加力位置等,その効率的な移動方法を得ようとするものである。」(段落【0004】)(オ) 発明の効果「物体の移動に際して,最新のリニアモーターカー等においても,地上に磁力帯を敷設してしか成り立たない。
従来は必須である地面等の反作用の対象を,本発明では単に押さえるか,あるいは全く必要としなくなるものである。」(段落【0005】)(カ) 実施例1「【図1】から,回転体1を手動あるいは動力で回転させると,回転軸2を中心に自転する。いま矢印3の方向へ自転させると,回転体1に設けられた加力棒4は,回転体1を支持する系9の内側を回転体1に沿って前後動する受け部5に当たって,加力棒4の加力を受けて,受け部5の反作用を下端に設けた転がり輪6を通じて床面7に大略垂直に伝える,と同時に今まで自転していた回転体1の回転軸2は,回転体1に設けられた加力棒4を仮の支点として公転を始めて,長穴8内を上昇しながら,転がり輪を有する系9を,頂点すなわち90度まで上昇しながら,加力点をなす加力棒4と受け部5との接点である,仮の支点へ,回転体1を支持する系9を引き寄せて,回転体1は頂点となるために,主として重力あるいは高速の場合等は長穴8に設けたバネ等の復帰具を設ければ,長穴8内を回転軸は落下すると同時に,加力棒は元の位置に復帰して,回転軸2は長穴8の下端の元の位置に復帰して回転軸2で自転となる。」(段落【0008】)「その間に連結ばね10は,回転体1の自転時には受け部4と回転体1を支持する系9間を連結した連結ばね10の緊張は平衡状態をなしていたものが,回転体1を支持する系9の移動により平衡状態がくずれて緊張状態となり,回転体1が長穴8内の頂点に達したときが緊張が最大となって,回転体1が自転状態となるとともに,回転体1にかかっていた回転体1の重力等による受け部5が受けていた重心すなわち回転軸の重量も長穴8の下端へ移って,系と受け部間の緊張も解放されて,受け部5の受けていた重量は移って,受け部は移動して,繰り返して進行する。
このことは,回転体と受け部との関係において,回転体に受け部の移動するのに必要な十分な,回転速度あるいは重量等の出力があれば,連結ばねは,大きく影響を受けないが回転体の支持をなす系は無回転体部分があるために,緊張を余計に受けるものである。
この現象は,受け部が対象を蹴って動いておらず,重量が対象を垂直に押さえて移動しているもので,従来の直線の作用反作用の動きでは,説明できない。
すなわち,回転体は自転を加力棒による加力を,受け部を仮の支点として公転に変換して,その反作用を床面を蹴ることなく,直角に押さえ付けて伝えるもので,回転体および系の移動の反作用は後ろ向きに表れない。」(段落【0009】)(キ) 実施例2「【図2】より,矢印3で表わすように,互いに逆転して自転している回転体1,1の回転軸2,2は軸受け部11と復帰バネ12により,実施例1の下端に相当する基点でそれぞれ自転している。
今加力棒4,4のそれぞれが受け部5に両側より加力されることにより,互いの反作用を相殺しながら,回転体1,1どうしは,復帰バネ12に抗しながら,回転軸2,2は軸受け部11をそれぞれが離れながら,系9を,受け部5方向へと進み,頂点となる大略90度を越えて加力棒4,4は,重力が平衡な影響しない,横移動のために,復帰バネ12により自転位置へ復帰して自転するとともに連結ばね10により,実施例1と同様に受け部5も復帰する回転体による角度変換移動方法である。」(段落【0010】)(2)以上の記載によると,本願発明(第1次補正時の請求項1及び2)は,地面等を蹴ることなく地面等を押さえ付けて移動する物体の移動法に関する発明であって,移動の反作用が後ろ向きに表れることがないものと認められる。
(3) そこで,実施例1について検討する。
実施例1は,上記(1)の記載によると,「回転体1を回転させると,回転軸2を中心に自転し,回転体1に設けられた加力棒4は,受け部5に当たる。加力棒4が受け部5に当たった場合,今まで自転していた回転体1の回転軸2は,回転体1に設けられた加力棒4を仮の支点として公転を始めて,長穴8内を上昇し,系9と受け部5は互いに接近することとなり,連結ばね10の緊張状態となるが,その後,加力棒4が受け部5からはずれて落下すると,回転軸2は長穴8の下端の元の位置に復帰し,連結ばね10は緊張状態から解放されて,系9と受け部5は互いに離反する。」というものであると認められる。
実施例1において,加力棒4が受け部5に当たって,回転体1の回転軸2が,加力棒4を仮の支点として公転を始めたときに,加力棒4を系9の方向へ引っ張る力に対する反対方向の力が働かないと,系9と受け部5は互いに接近することはないと考えられる。このような反対方向の力は,加力棒4が単に受け部5を押さえていることによって生ずるものではなく,引っ張られる方向と反対の方向へ働く力であって,加力棒4と受け部5との間に働く摩擦力によって生ずるものと考えられるから,本願発明の上記(2)の原理からすると,このような力を想定することはできないというべきである。
原告は,加力棒4が受け部5に当たって,回転体1が加力棒4を仮の支点として公転を始めると,摩擦や重力とは関係なく横方向の力が働くと主張するが,そのような力が働くとする技術常識があるとは認められないし,後記(5)のとおり,原告の実証装置による実験もそのことを裏付けるものということはできない。
そうすると,実施例1においては,上記(2)の原理の下では,回転体1の回転軸2が,加力棒4を仮の支点として公転を始めたときに,系9と受け部5が接近することはないものと考えられるし,その他,この状況において系9や受け部5が接近するというべき事情は認められない。本願発明は,上記のとおり物体の移動法に関する発明であるところ,実施例1において系9や受け部5がこのように接近することがないとすると,連結ばね10を圧縮させることはなく,系9と受け部5を一方向へ移動させることはないので,実施例1は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)が実施をすることができる程度に明確かつ十分に本願発明を記載したものということはできない。
また,仮に,実施例1において,回転体1の回転軸2が,加力棒4を仮の支点として公転を始めたときに,系9と受け部5が接近することを想定したとしても,結果的に系9や受け部5が床面等上を一方向へ移動することはないものと考えられる。なぜなら,系9及び受け部5の下に付いている転がり輪6と床面等との間に摩擦力が働くと,引っ張られる方向と反対の方向への反作用が働いて,蹴ることになるから,本願発明の上記原理からすると,このような反作用のないもの,すなわち,転がり輪6と床面等との間に摩擦力が発生しないものを想定しなけばならない。そして,加力棒4を仮の支点として公転しているときに系9と受け部5は連結ばね10を圧縮して接近し,加力棒4が受け部5からはずれると,系9と受け部5は連結ばね10を伸ばして離反するが,このように摩擦力が発生しないとすると,その接近離反の距離は等しいと考えられるから,系9や受け部5が元の位置に復帰するだけで一方向へ移動することはない。このように実施例1において系9や受け部5が一方向へ移動することがないとすると,実施例1は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に本願発明を記載したものということはできない。
(4) 次に,実施例2について検討する。
実施例2は,上記(1)の記載によると,「回転体1,1を回転させると,回転軸2,2を中心に自転し,回転体1,1に設けられた加力棒4,4は,受け部5に当たる。加力棒4,4が受け部5に当たった場合,回転体1,1の回転軸2,2は,公転を始め,復帰バネ12に抗しながら,系9の軸受け部11から互いに離反する方向へ動き,系9と受け部5を近づけるとともに,連結ばね10,10を伸長させる。その後,加力棒4が受け部5からはずれると,復帰バネ12により,回転体1,1は,元の位置に復帰するとともに,連結ばね10,10が元の状態に復帰することにより,系9と受け部5は一方向へ移動する。」というものであると認められる。
実施例2において,加力棒4,4が受け部5に当たって,回転体1,1の回転軸2,2が,加力棒4,4を仮の支点として公転を始めたときに,加力棒4,4を系9の方向へ引っ張る力に対する反対方向の力が働かないと,系9と受け部5は接近することはないと考えられる。このような反対方向の力は,加力棒4が単に受け部5を押さえていることによって生ずるものではなく,引っ張られる方向と反対の方向へ働く力であって,摩擦力によって生ずるものと考えられるから,本願発明の上記(2)の原理からすると,このような力を想定することはできないというべきである。
そうすると,実施例2においては,上記(2)の原理の下では,回転体1,1の回転軸2,2が,加力棒4,4を仮の支点として公転を始めたときに,系9と受け部5が接近することはないと考えられるし,その他,この状況において系9と受け部5が接近するというべき事情は認められない。本願発明は,上記のとおり物体の移動法に関する発明であるところ,系9や受け部5がこのように接近することがないとすると,連結ばね10,10を伸長させることはなく,系9と受け部5を一方向へ移動させることはないので,実施例2は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に本願発明を記載したものということはできない。
また,仮に,実施例2において,回転体1,1の回転軸2,2が,加力棒4,4を仮の支点として公転を始めたときに,系9と受け部5が接近することを想定したとしても,結果的に系9や受け部5が一方向へ移動することはないものと考えられる。なぜなら,上記のとおり,回転体1,1は,系9の軸受け部11から離反する方向へ動き,系9を受け部5に近づけて連結ばね10,10を伸長させ,その後,加力棒4が受け部5からはずれると,復帰バネ12により,回転体1,1は,元の位置に復帰するが,系9及び受け部5の転がり輪6と床面等との間に摩擦力が発生しないとすると,実施例1と同様に,連結ばね10,10の復帰により,系9と受け部5は元の位置に移動して復帰するだけで,一方向へ移動することはないものと解されるからである。したがって,実施例2は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に本願発明を記載したものということはできない。
(5)アところで,甲7の1のDVDには,発砲スチロールを水に浮かべて,その上で回転体を手で回転させる実験と発砲スチロールを水に浮かべて,その上で反対向きに回転する2個の回転体を回転させる実験が録画されている。しかし,この実験によっても,発砲スチロールが水の上でどのような原理で前進しているのかは明らかでなく,本願発明の上記(2)の原理を裏付けるものと認めることはできない。
イまた,甲11の1のDVDに床上及び氷上で前進することが録画されている装置は,次のような動きをするものと認められる(以下,各部材については,本願発明と同じ名称及び符号を用いる。)。
回転体1を回転させると,回転軸2を中心に自転し,回転体1に設けられた加力棒4は,受け部5に当たる。加力棒4が受け部5に当たった場合,今まで自転していた回転体1の回転軸2は,回転体1に設けられた加力棒4を仮の支点として公転を始めて,長穴8内を上昇し,加力棒4と受け部5との間に摩擦力が発生することにより,系9と受け部5は互いに接近することとなる。このときは,回転体1の質量は,加力棒4を介して受け部5にかかっているので,受け部5の下に付いている転がり輪6には,系9の下に付いている転がり輪6よりも大きな力がかかる。したがって,受け部5の下に付いている転がり輪6の摩擦力は,系9の下に付いている転がり輪6の摩擦力よりも大きいことになるので,系9と受け部5が互いに接近する際には,系9が受け部5よりもより多く移動する。その後,加力棒4が受け部5からはずれて落下すると,回転軸2は長穴8の下端の元の位置に復帰し,系9と受け部5は互いに離反する。このときは,回転体1は長穴8の下端で系9に支持され,回転体1の質量は,系9にかかっているので,系9の下に付いている転がり輪6には,受け部5の下に付いている転がり輪6よりも大きな力がかかる。したがって,系9の下に付いている転がり輪6の摩擦力は,受け部5の下に付いている転がり輪6の摩擦力よりも大きいことになるので,系9と受け部5が互いに離反する際には,受け部5が系9よりもより多く移動する。
以上のような原理でこの装置は,受け部5の方向に移動するものと解される。甲11の1には,この装置が前進する様子が録画されているが,この前進は,以上のような原理によるものと考えられる(原告は,氷の上でも実験しているが,氷の上であっても摩擦力は働くので,以上のような原理によることは変わりがない。)。
甲11の1に録画されている装置は,以上のとおり,引っ張られる方向と反対の方向への反作用が摩擦力によって働いているという点において,本願発明とは異なるものであり,本願発明の実施例ということはできないし,また,この装置が移動するからといって,加力棒4が受け部5に当たって回転体1が加力棒4を仮の支点として公転を始めると摩擦や重力とは関係なく横方向の力が働くとの原告の主張や本願発明の上記(2)の原理を裏付けるものということもできない。
ウさらに,甲11の1のDVDには,回転体1に相当する車輪に,加力棒4に相当するブラケットを取り付け,そのブラケットの先端に転がり輪を設け,この車輪を受け部5に相当する台の上で回転させて,ブラケットの転がり輪を台に当接させ,この当接点を支点として車輪が公転する様子の画像が録画されているが,転がり輪を用いて公転の支点の摩擦を軽減したとしても摩擦が全くない状態を実現したものとはいえず,回転する車輪が公転する際には,転がり輪と台との間に垂直方向の反力と水平方向の摩擦力が生じているものと解されるから,この画像も本願発明の上記(2)の原理を裏付けるものということはできない。
(6)以上のとおり,実施例を本願発明に則して理解した場合,いずれの実施例でも一方向への移動が生ずることはないから,本願発明は,第1次補正時の明細書の「発明の詳細な説明」に,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているということはできない。
(7)原告は,直角法という従来知られていなかった物体の移動方法を発見し,それに基づいて本願発明をなしたと主張する。原告が主張する直角法とは,上記(2)で認定した「地面等を蹴ることなく地面等を押さえ付けて移動する物体の移動法」であると解される。
しかし,上記(5)のとおり,甲7の1及び甲11の1に録画された実験は,本願発明の上記(2)の原理を裏付けるものということはできないし,その他,直角法が存することを認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告が主張する直角法という移動方法が存すると認めることはできない。
(8)そうすると,第1時補正後の本願が特許法36条4項1号に適合しないとした審決の判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。
4結論以上のとおり,原告主張の取消事由はすべて理由がない。
よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 中野哲弘
裁判官 森義之
裁判官 澁谷勝海