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関連審決 不服2003-17324
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  パリ条約 /  優先権 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10413号 審決取消請求事件
原告X
訴訟代理人弁理士笹島富二雄,小川護晃
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人柴沼雅樹,永安真,高木彰,高木進,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/01/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2003-17324号事件について平成18年5月2日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「テレスコピックシャフト」とする発明につき,平成5年12月27日(パリ条約による優先権主張1992年12月30日,1993年3月31日,スペイン国),特許を出願(以下「本件出願」という。)し,平成14年1月16日付け及び同年9月3日付け手続補正書により補正を行ったが,平成15年7月2日付けの拒絶査定を受けたため,同年7月31日,審判を請求した。
特許庁は,上記審判請求を不服2003-17324号事件として審理した結果,平成18年5月2日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月17日,審決の謄本が原告に送達された。
2特許請求の範囲平成14年1月16日付け及び同年9月3日付け手続補正書(甲第3及び第4号証)による補正後の本件出願の請求項1(請求項は全部で4項である。)は,次のとおりである。(以下,補正後の明細書を「本願明細書」という。)【請求項1】円形断面を有する2つの管状部材を,夫々の摺動領域の周面に並設された溝及び歯を互いに噛合させて,回転の一体性を補償し,軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせてなり,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたテレスコピックシャフトにおいて,前記2つの管状部材の一方に設けられ,該管状部材が他方の管状部材に対して摺動し,予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,前記他方の管状部材の摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる抵抗手段を備えることを特徴とするテレスコピックシャフト。
(以下,審決と同様に,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願昭53-160290号(実開昭55-76764号)のマイクロフィルム(甲第1号証。
以下,審決と同様に,「第1引用例」という。)記載の発明(以下,審決と同様に,「引用発明」という。)及び従来周知の技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。
審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明の内容並びに本願発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)引用発明の内容(以下,「シヤフト」とあるのを「シャフト」に統一した。)円形断面を有し,かつ,外側部材及び内側部材からなる2つの部材を構成する管状部材であるアウターシャフト17とインナーシャフト18とを,夫々の摺動領域の周面に並設された雌・雄セレーシヨン19,20を互いに噛合させて,回転の一体性を補償し,軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせてなり,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたステアリングシャフトにおいて,前記両シャフトの一方のインナーシャフト18に設けられ,該インナーシャフト18が他方の管状部材であるアウターシャフト17に対して摺動し,前記他方の管状部材であるアウターシャフト17の摺動領域に設けた雌セレーシヨン19に作用して,塑性変形を生じつつ収縮しエネルギ吸収の効果を奏する突起21′を備えたステアリングシャフト。
(2)一致点円形断面を有する外側部材及び内側部材からなる2つの部材を,夫々の摺動領域の周面に並設された溝及び歯を互いに噛合させて,回転の一体性を補償し,軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせてなり,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたテレスコピックシャフトにおいて,前記外側部材及び内側部材からなる2つの部材の一方に設けられ,該部材が他方の部材に対して摺動し,前記他方の部材の摺動領域に設けた歯に作用する抵抗手段を備えるテレスコピックシャフトである点(3)相違点ア円形断面を有する2つの部材について,本願発明は,この2つの部材とも管状部材であるのに対し,引用発明では,2つの部材のうち,外側部材であるアウターシャフト17は管状部材であるといえても,内側部材であるインナーシャフト18まで管状部材であるとはいえない点(以下「相違点1」という。)イ外側部材及び内側部材からなる2つの部材の一方に設けられた抵抗手段に係る事項として,本願発明は,2つの管状部材が予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,他方の管状部材の摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる抵抗手段を備えるように構成しているのに対し,引用発明では,他方の管状部材(アウターシャフト17)の摺動領域に設けた歯(雌セレーシヨン19)に作用して,塑性変形を生じつつ収縮しエネルギ吸収の効果を奏する抵抗手段(突起21′)を備えるように構成してはいるものの,この抵抗手段が前記の“歯”に作用する条件として,本願発明でいうような,“2つの管状部材が予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき”という限定事項についてまでは言及していない点(以下「相違点2」という。)第3審決取消事由の要点審決は,本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り,相違点を看過し(取消事由1),これに基づいて相違点2について判断したためにその判断を誤った(取消事由2)ものであるところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。
1取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)(1)引用発明の「ステアリングシャフト」と本願発明の「テレスコピックシャフト」引用発明の「ステアリングシャフト」は,本願発明の「テレスコピックシャフト」に相当しない。
ア「テレスコピック(telescopic)」とは,「伸縮自在であること」を意味するから,「テレスコピックシャフト」と言えば,伸縮自在に構成されたシャフトのことである。これに対し,従来の「テレスコピックシャフト」は,本願明細書の段落【0008】に記載されているように,「取付け及び調節の目的のためには望遠鏡式シャフトのようには動作をせず,剛体のように不変の長さのままでいる」ことは,本願明細書の【発明が解決しようとする課題】に記載したとおりである。
イ本願発明の「テレスコピックシャフト」は,特許請求の範囲に記載されているとおり,「自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたものであ」って,「前記2つの管状部材の一方に設けられ,該管状部材が他方の管状部材に対して摺動し,予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,前記他方の管状部材の摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる抵抗手段を備えることを特徴とするテレスコピックシャフト」である。したがって,本願発明は,最大軸長から最小軸長に至るまでは「伸縮自在」に構成され,最小軸長に至ると抵抗手段が歯に作用するようになり,最小軸長を超える「短縮」については歯の変形抵抗を伴うものであるから,本願発明の「テレスコピックシャフト」は,単に最大規模の力に対して「収縮」するシャフトのことではなく,「伸縮自在」に構成されたシャフトのことであることは明らかである。
ウこれに対して,引用発明の「ステアリングシャフト」は,上記の最大規模の力に対してのみ「収縮」するものであり,「伸縮自在」に構成されていない。
エしたがって,引用発明の「ステアリングシャフト」が本願発明の「テレスコピックシャフト」に相当するとした審決の認定は誤りである。
(2)引用発明の「突起21′」と本願発明の「抵抗手段」引用発明の「突起21′」は本願発明の「抵抗手段」に相当しない。
本願発明では,「歯の変形を生じさせない自由な相対移動(摺動)」と「歯の変形を伴う相対移動(短縮)」とを明確に区別しており,一方の管状部材が「摺動」によって最小軸長に対応する摺動位置に達することにより,一方の管状部材に設けた抵抗手段が他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に作用する,すなわち,一方の管状部材がまず摺動し,この摺動によって抵抗手段が他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に作用するようになるのである(そして,その後は,歯の変形を伴うことで最小軸長を超える「短縮」が可能となるのである)。
これに対して,引用発明は,伸縮自在に構成されておらず,「アウターシャフトとインナーシャフトの相対移動「時」に雌セレーション及び圧着部(突起21′)が塑性変形をする」のであり,雌セレーション19又は突起21′の変形を伴わないアウターシャフト17及びインナーシャフト18の相対移動はあり得ない。また,「作用する」とは,2つの物体間において一方に力を及ぼすことを意味するところ,引用発明における「突起21′」は,初めから雌セレーション19に作用している。
したがって,引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当するとした審決の認定は誤りである。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)上記1のとおり,審決は本願発明と引用発明の一致点の認定を誤り,相違点を看過しており,これに基づいて相違点2に係る構成についての容易想到性の判断をしたために,その判断を誤ったものである。
第4被告の反論の骨子審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
以下の反論においては,本願発明の構成事項のうちの前半部分の「円形断面を有する2つの管状部材を,夫々の摺動領域の周面に並設された溝及び歯を互いに噛合させて,回転の一体性を補償し,軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせてなり,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたテレスコピックシャフトにおいて,」を「本願発明の前提構成」といい,本願発明の構成事項のうちの後半部分の「前記2つの管状部材の一方に設けられ,該管状部材が他方の管状部材に対して摺動し,予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,前記他方の管状部材の摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる抵抗手段を備えることを特徴とするテレスコピックシャフト。」を「本願発明の特徴構成」という。
1取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について(1)引用発明の「ステアリングシャフト」と本願発明の「テレスコピックシャフト」ア「テレスコピック(telescopic)」という用語には「伸縮自在」という意味もあるが,本願発明の前提構成においては,「伸縮自在」との直接の記載はなく,どのような状態において「伸縮自在」であるのかについて,具体的な限定はされていない。他方,本願発明の特徴構成においては,「該管状部材が他方の管状部材に対して摺動し,予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき」及び「前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる」という限定があるが,これらの限定事項は,シャフトの収縮する方向への移動に止まるものである。
したがって,本願発明の前提構成の「軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせてなり」は,本願発明の特徴構成であるシャフトの収縮する方向への移動を可能とするための前提構成としての嵌め合い構造を限定したに止まると解釈される。
イ第1引用例のステアリングシャフトは,シャフトの収縮する方向への移動を可能とするためにアウターシャフト17とインナーシャフト18とを軸方向にのみ相対移動自在に嵌合したものと認められる。
ウ以上のとおり,本願発明のテレスコピックシャフトは,シャフトの収縮する方向への移動を可能とするための嵌め合い構造を超えるような「伸縮自在」の構成については何ら限定がないものであるから,シャフトの収縮する方向への移動を可能とするためにアウターシャフト17とインナーシャフト18とを軸方向にのみ相対移動自在に嵌合した第1引用例のステアリングシャフトと変わるところはない。
したがって,引用発明の「ステアリングシャフト」が本願発明の「テレスコピックシャフト」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
(2)引用発明の「突起21′」と本願発明の「抵抗手段」審決では,本願発明の特徴構成のうちの「予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき」及び「前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる」は一致点と認定しておらず,相違点2としている。すなわち,審決は,引用発明の「突起21’」が,アウターシャフト17の摺動領域に設けた雌セレーシヨン19に作用して,塑性変形を生じつつ収縮し,エネルギー吸収の効果を奏するという機能に着目して,本願発明の「抵抗手段」に相当すると認定したのであり,それ以外の本願発明の特徴構成のうちの各事項に関しては,相違点2として認定している。
したがって,引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について上記1のとおり,審決に本願発明と引用発明の一致点の認定を誤り,相違点を看過したところはなく,これに基づいてされた相違点2に係る構成の容易想到性の判断に誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(一致点認定の誤り,相違点の看過)について(1)本願発明の「テレスコピックシャフト」と引用発明の「ステアリングシャフト」について原告は,本願発明における「テレスコピックシャフト」は2つの管状部材が「伸縮自在」である点において,引用発明におけるアウターシャフトとインナーシャフトが専ら「収縮」するだけの「ステアリングシャフト」と異なるとして,両者が一致するとした審決の判断は,一致点を誤認し,相違点を看過したものであると主張するところ,引用発明の上記構成については,当事者間に争いがないので,以下,本願発明の「テレスコピックシャフト」の技術的意義について検討する。
ア「テレスコピックシャフト」の一般的意義まず,「テレスコピック」の一般的な語義について見るに,この語が英語の「telescopic」に由来するもので,その一般的な語義は「伸縮自在の」,「入り子式の」などの意味を有するものであることは各種の英和辞典から明らかであり,被告においてもこの点を争うものでないことは弁論の全趣旨に照らして明らかである。そして,本願発明と技術分野を同じくする自動車技術に関する「自動車用語中辞典」(平成8年9月15日,株式会社山海堂)305頁(甲第8号証)には,「テレスコピック・ステアリング」について「ステアリングホイールが軸方向に伸縮するもの」との記載があることからすると,自動車の技術分野において,「テレスコピック」といえば,一般的には,「伸縮自在な」動きを意味するものと解するのが相当というべきである。
しかしながら,当然のことではあるが,語句の解釈は,上記のような当該語句が有する一般的な語義を前提としつつも,当該語句が使用される文脈との関係においてその意味を確定することが不可欠であり,上記のような一般的な語義をそのまま適用すればよいといったものではない。そこで,本件における「テレスコピック」の語の意味を本願発明の請求項1の文脈において検討することとする。
イ本件出願の請求項1の記載における「テレスコピックシャフト」の意義請求項1は前段と後段の2つの段落から成るところ,前段には,2つの管状部材を「・・・軸長方向の摺動を可能とすべくテレスコピックに嵌め合わせて成り,自動車の操舵コラムを構成するために特に計画されたテレスコピックシャフト」と規定されているから,上記「テレスコピック」を前項の一般的な語義に照らすならば,「2つの管状部材が「伸縮自在に」嵌め合わせて成(る)・・・テレスコピックシャフト」を意味するものと一応理解することができる。
そこで,更に進んで上記の理解が請求項1の後段においても矛盾なく採用され得るか否かについて検討するに,後段においては,「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」2つの管状部材は,そのうちの1つの抵抗手段を備えた管状部材が,他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に作用して,所定の摺動位置を超える短縮を歯の変形抵抗を伴って生じさせるものであることを規定しているから,後段における2つの管状部材の動きは,専ら,「収縮方向」の動きであって,2つの管状部材が伸張する方向に動く場合を含むものでないことは後段の記載から明らかである。
そして,以上のことを踏まえて,請求項1を全体として見るならば,本願発明の特徴的構成が後段部分にあることや「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」と規定する前段部分において,2つの管状部材の動きの態様については何ら具体的に規定していないことなどに照らすと,請求項1は,後段に規定した本願発明の特徴的な構成,すなわち,上述した「収縮方向の動き」を実現するために,2つの管状部材の関係が「テレスコピック」の嵌め合い構造であることを規定したものと解するのが相当というべきである。
ウ本願明細書における「テレスコピック」の用語法念のため,本願明細書の記載において,2つの部材が上記のように「収縮方向」にだけ動く場合にも「テレスコピック」なる用語が用いられるかどうかについて見るに,本願明細書には以下の記載がある。すなわち、「【0003】技術の現状において,前記シャフトの少なくとも一方は,特定の相対位置を保持して相互に嵌合させられた少なくとも2つの管状部材を備えるテレスコピック構造を有している。前記管状部材の組立物は,これらに予め定められた大きさの軸方向力が加えられたとき,その長さを減じるように前記相対位置から変位することができる。このようなテレスコピック構造は,例えば,正面衝突の際に操舵コラムが,車両の運転者又は乗員に非常に重大な怪我を与えかねない危険を避けるという,主として安全の目的のために採用されている。」「【0008】他方,公知の多くの解決法においてテレスコピックシャフトは,最大規模の力に対してのみ,具体的には衝突又は事故に対してのみ収縮するが,取付け及び調節の目的のためにはテレスコピックシャフトとしての動作をせず、剛体のように不変の長さのままである。」上記の各記載によれば,本願明細書においては,2つの管状部材から成るシャフトで専ら「収縮方向」にのみ動くものであってもこれを「テレスコピック構造」,「テレスコピックシャフト」などと呼んでいたことが認められるから,原告主張のように「テレスコピック」なる用語から直ちに嵌合関係にある2つの部材が「伸縮自在に動く」ことまで規定したものと解することは困難であるといわざるを得ない。
したがって,本件出願の請求項1における「テレスコピックに嵌め合わせて成(る)」との規定部分をもって,2つの管状部材が原告主張のように「伸縮自在に動く」ことまで規定したものと解することは困難というべきであり,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張といわざるを得ないから,採用することは出来ない。
エ結論引用発明のステアリングシャフトにおけるアウターシャフトとインナーシャフトが専ら「収縮」方向だけの動きをすることは当事者間に争いがないから,これと本願発明の「テレスコピックシャフト」を上記の点において一致するとした審決の判断に誤りはなく,審決に相違点の看過はない。
(2)引用発明の「突起21′」と本願発明の「抵抗手段」ア原告は,引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当しないことの根拠として,本願発明が「伸縮自在」であることを挙げるが,上記(1)のとおり,本件出願の請求項1の記載において,「伸縮自在」であることが特定されているとはいえないから,これを前提とする原告の主張を採用することはできない。
イ原告は,引用発明の「突起21’」は,初めから雌セレーション19に作用しているものであるのに対し,本願発明の「抵抗手段」は,摺動によって最小軸長に対応する摺動位置に達することにより,抵抗手段が他方の管状部材の摺動領域に設けた歯に作用するようになるものであるから,審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,審決は,相違点2として,「…本願発明は,2つの管状部材が予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,他方の管状部材の摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる抵抗手段を備えるように構成しているのに対し,引用発明では,…この抵抗手段が前記の“歯”に作用する条件として,本願発明でいうような,“2つの管状部材が予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき”という限定事項についてまでは言及していない点」を認定しているから,審決が引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当するとしたのは,両者が外側部材及び内側部材からなる2つの部材の一方に設けられ,一方の部材が他方の部材に対して摺動し,その摺動領域に設けた歯に作用する抵抗手段である点で共通するからであると解される。本願発明の「抵抗手段」は「前記2つの管状部材の一方に設けられ,該管状部材が他方の管状部材に対して摺動し,予め設定された最小軸長に対応する摺動位置に達したとき,前記他方の管状部材の摺動領域に設けた少なくとも1つの歯に作用して,前記摺動位置を超える短縮を前記歯の変形抵抗を伴って生じさせる」(特許請求の範囲請求項1)ものであり,引用発明の突起21’は,「ステアリングシャフトの相対移動時に雌セレーシヨン19及び突起21′の少なくとも一方が塑性変形を生じつつ収縮しエネルギ吸収の効果を奏す」るもの(第1引用例9頁11行〜13行)であるから,上記の限度で差異はない。
ウしたがって,引用発明の「突起21′」が本願発明の「抵抗手段」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)について原告が相違点2についての判断の誤りとして主張するのは,いずれも取消事由1における一致点の認定の誤り,相違点の看過があることを前提としているところ,前記1のとおり,審決には原告の主張する誤りはないから,これに基づいてされた相違点2に係る構成についての容易想到性の判断にも誤りはない。
3結論以上に検討したところによれば,審決取消事由はいずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 古閑裕二
裁判官 浅井憲