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関連審決 不服2004-22328
関連ワード 創作性(創作) /  使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  着想 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10170号 審決取消請求事件
原告東日本メディコム株式会社
訴訟代理人弁理士橋本克彦
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人豊永茂弘,寺本光生,森川元嗣,大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/01/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2004-22328号事件について平成19年3月26日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いがない事実1特許庁における手続の経緯原告は,平成10年7月8日,発明の名称を「薬袋作成システム」とする発明について特許出願(特願平10-208699号,以下,「本件出願」という。)をしたが,平成16年8月25日付けで拒絶査定を受けたので,同年9月30日,拒絶査定不服審判を請求した。
特許庁は,これを不服2004-22328号事件として審理して,平成19年3月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年4月16日,原告に送達された。
2発明の要旨平成19年2月1日付け手続補正書により補正された明細書(甲4,6の3。以下,図面も併せて「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨(請求項2は省略する。)「電子化された薬剤などの情報を記憶した記憶装置を有する汎用電算機と,前記汎用電算機に接続された薬袋用印刷機および前記薬袋用印刷機とは別で且つ同時に作動する薬剤指導書用印刷機と,前記汎用電算機の記憶装置に記憶させてある薬剤などの情報の内で処方箋に基づいて入用なものを選択するための前記汎用電算機に接続された薬価算定用電算機からなる入力装置とを有し,前記汎用電算機は前記入力装置により選択された薬剤などの情報を薬品区分,投薬日数,服用方法,薬剤名などの処方された薬剤に関する区分因子に基づいて1つの薬袋ごとに区分けする区分けプログラムと,前記区分けプログラムにより区分けされた薬剤などの情報を各薬袋ごとに表示するための情報を前記薬袋用印刷機に出力するための出力回路と,前記選択された薬剤などの情報の一部を前記区分けプログラムにより区分することなく,そのまま薬剤指導書に表示するための情報を薬剤指導書用印刷機に出力するための出力回路とを有しており,前記入力装置からの処方箋に記載された薬剤などに関する情報の入力によりそれぞれ必要な情報が印刷された薬品区分により区分けされた薬袋と薬剤指導書とが同時に作成可能であることを特徴とする薬袋作成システム。」3審決の理由( )審決の理由の概要1審決は,別紙審決のとおり,本願発明は,特開平9-307722号公報(甲1。
以下「引用例1」という。),特開平8-711号公報(甲2。以下「引用例2」という。),特開平3-221482号公報(甲3。以下「引用例3」という。)に記載された発明及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
( )審決が認定した引用例1記載の発明(3頁第3段落)2「電子化された薬剤などの情報を記憶した記憶装置を有する汎用電算機と,前記汎用電算機に接続された『薬剤情報を紙片に印刷するカラー印刷機』と,前記汎用電算機の記憶装置に記憶させてある薬剤などの情報の内で処方箋に基づいて入用なものを選択するための前記汎用電算機に接続された薬価算定用電算機からなる入力装置とを有し,前記選択された薬剤などの情報の内で出力を要するものを『薬剤情報が印刷される紙片』に表示するための情報を『薬剤情報を紙片に印刷するカラー印刷機』に出力するための出力回路とを有しており,『薬剤情報が印刷された紙片』を作成することを特徴とする薬剤情報提供システム。」( )審決が認定した本願発明と引用例1記載の発明の一致点及び相違点(5頁3第5段落〜6頁第3段落)ア一致点「電子化された薬剤などの情報を記憶した記憶装置を有する汎用電算機と,前記汎用電算機に接続された薬剤指導書用印刷機と,前記汎用電算機の記憶装置に記憶させてある薬剤などの情報の内で処方箋に基づいて入用なものを選択するための前記汎用電算機に接続された薬価算定用電算機からなる入力装置とを有し,前記選択された薬剤などの情報の一部をそのまま薬剤指導書に表示するための情報を薬剤指導書用印刷機に出力するための出力回路とを有しており,薬剤指導書を作成する薬袋作成システム。」イ相違点(ア)相違点1「前者(判決注:本願発明)では,薬袋作成システムにおいて,汎用電算機に薬剤指導書用印刷機を接続すると共にこれとは別の薬袋用印刷機を接続しているのに対して,後者(判決注:引用例1記載の発明)には,薬袋作成システムにおいて,汎用電算機に薬剤指導書用印刷機を接続することの記載はあるものの,薬袋用印刷機を接続することの記載がない点。」(イ)相違点2「前者では,薬袋作成システムにおいて,汎用電算機は入力装置により選択された薬剤などの情報を薬品区分,投薬日数,服用方法,薬剤名などの処方された薬剤に関する区分因子に基づいて1つの薬袋ごとに区分けする区分けプログラムと,区分けプログラムにより区分けされた薬剤などの情報を各薬袋ごとに表示するための情報を薬袋用印刷機に出力するための出力回路とを有しているのに対して,後者には,上記事項の記載がない点。」(ウ)相違点3「前者では,薬袋用印刷機と薬剤指導書用印刷機とを同時に作動させ,薬袋と薬剤指導書とを同時に作成しているのに対して,後者には,上記事項の記載がない点。」(エ)相違点4「前者では,『選択された薬剤などの情報の一部を区分けプログラムにより区分することなく,そのまま薬剤指導書に表示する』のに対して,後者では,『選択された薬剤などの情報の内で出力を要するもの(一部)をそのまま薬剤指導書に表示する』点。」第3原告主張の審決取消事由審決は,引用例1ないし3記載の発明の認定を誤り(取消事由1ないし3),本願発明の進歩性判断を誤り(取消事由4),本願発明は,当業者が容易に発明をすることができるとの誤った結論に至ったものであり,違法であるから,取り消されるべきである。
1取消事由1(引用例1記載の発明の認定の誤り)審決は,引用例1に,「紙片に印刷するカラー印刷機に出力するための情報」が「入力装置により選択された薬剤などの情報の内で出力を要するもの」について,開示がされているとしたが,誤りである。
引用例1記載の発明においては,「紙片に印刷するカラー印刷機に出力するための情報」は,「前記選択された薬剤などの情報の内で出力を要するもの」ではなく,「記憶装置に記憶させてある情報の内で入力装置により選択された出力を要するもの」であり,「入力装置により選択された薬剤などの情報」はすべて出力される。
このことは,引用例1の段落【0015】の「入力回路13に・・・印刷される」との記載などにより明白である。
2取消事由2(引用例2記載の発明の認定の誤り)( )審決は,引用例2に,「薬袋発行システムが,前記入出力部により入力さ1れた薬剤などのデータを『内用薬か外用薬か頓服薬か』等の処方された薬剤に関する使用方法に基づいて1つの薬袋ごとに区分けするもの」が開示されているとしたが,誤りである。
( )引用例2の段落【0003】には,薬局の薬剤師が薬局窓口に設けられた2入出力部21により,処方に基づき薬袋に印字するデータと薬袋の印字情報形式を入力する旨の記載があり,段落【0004】には,「同時に複数の薬を出す場合に内用薬か外用薬か頓服薬か等の使用方法による袋分けの指示,各薬袋ごとの薬の用法および数量と注意事項の指定等である。」との記載がある。これらによれば,引用例2記載の発明は,入力者自身が入力することにより区分けし,コンピュータは区分け入力された薬袋に印字するデータと薬袋の印字情報形式に基づいて印字するプログラムにより区分けするものである。
すなわち,引用例2の図4に記載の「薬袋発行システム」は,「入出力部により入力された薬剤などのデータを『内用薬か外用薬か頓服薬か』等の処方された薬剤に関する使用方法に基づいて1つの薬袋ごとに区分けする」のではなくて,入出力部により入力された「内用薬か外用薬か頓服薬か」等の処方された薬剤に関する使用方法に基づく袋分け(区分け)の指示に従って,薬剤情報ファイルに登録されている印字形式を読み出し,印字をするものであり,実際に区分けするための指示そのものが入力されるものである。したがって,引用例2記載の発明においては,薬袋発行システムが区分けするのではなく,入力者が区分けして入力するものであり,コンピュータは区分けプログラムを有しておらず,本願発明にいう「区分けプログラム」を有していないことは明らかである。
( )被告は,引用例2記載の発明は,区分けが入力によりされたとしても,3「データの区分け」がコンピュータのプログラムによって行われるので,「区分けプログラム」を有する旨主張する。
しかし,本願発明は,入力時に区分けして入力する必要がないことから,1つの入力で,薬袋はもちろんのこと,「区分けプログラム」を用いない薬剤指導書も合わせて作成可能であるのに対し,引用例2に記載の入力時に区分けする「区分けプログラム」では,薬袋についての情報入力は可能であるが,薬剤指導書についての情報は入力されず,別に,区分けしない薬剤情報を入力しなければならないから,本願発明は成立しない。すなわち,被告の主張するように「区分けプログラム」が「入出力部により薬剤などのデータを薬袋ごとに区分けして入力することで出力データを作成する」ものであれば,区分けする場合と区分けしない場合との二通りの入力が必要となり,「1つの入力で区分けした薬袋情報と区分けしない薬剤指導書情報が出力できる」という本願発明の特有の作用効果を奏することはできない。
したがって,引用例2記載の発明は,「入出力部により薬剤などのデータを薬袋ごとに区分けして入力することで出力データを作成する」ものであって,「区分けプログラム」を有して「入出力部により薬剤などのデータを薬袋ごとに区分けせずに入力するだけで,1つの薬袋ごとに区分した出力データが作成される」本願発明と異なり,「区分けプログラム」を有さないことは明らかである。
また,被告は,相違点2についての認定判断に当たり,コンピュータシステム上の作業を,操作者に代えてコンピュータのプログラムに行わせること自体,コンピュータシステム上の常とう手段であって,引用例2記載の発明における「薬剤などのデータをどの区分因子で区分けするかの指示」を,操作者が行うことに代えてコンピュータの区分けプログラムが行うようにすることは,単なる設計変更程度のことにすぎないから進歩性がない旨主張するが,後記4のとおり,誤りである。
3取消事由3(引用例3記載の発明の認定の誤り)( )審決は,引用例3において,「コントローラと,コントローラに接続され1た処方箋用プリンタおよび処方箋用プリンタとは別の薬袋用プリンタとを有している」ものが開示されていると認定したが,誤りである。
( )引用例3の「また,上記プリンタ(P1)〜(Pn)のうちの一台に,患2者の処方箋をプリントさせることができ」(5頁左下欄10行目〜11行目)との記載によれば,処方箋は薬袋用のプリンタ(P1)〜(Pn)のうちの一台によりプリントされるものであり,薬袋用プリンタと処方箋用プリンタとは共用であり,それぞれ別のプリンタを有してはいない。
したがって,引用例3記載の発明では,薬袋用プリンタのいずれかを処方箋用プリンタとして使用するものであって,処方箋用プリンタとは別の薬袋用プリンタを有していない。
本願発明は,既に他のシステムや医師により作成されている処方箋(書面)に基づいて,処方箋に記載されている薬剤情報を選択して入力することにより,薬剤指導書を印刷するものであって,処方箋を印刷するものではない。当業者であれば,本願発明における薬剤指導書と,引用例3に記載されている処方箋とが全く異なる性質のものであることは十分に認識できる。特に,薬剤指導書は,処方箋に記載されている情報を表記したものでなく,例えば,薬剤の性質,効能,副作用など他にも多くの薬剤情報を必要とするものであり,処方箋よりも少ない情報を表記するシステムに接続される薬袋用プリンタを用いて薬剤指導書を印刷することは実現不可能であり,当業者であっても考えることはあり得ない。
4取消事由4(進歩性についての判断の誤り)( )審決は,本願発明は,引用例1ないし3記載の発明及び出願前周知の事項1に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨主張するが,誤りである。
審決は,引用例1ないし3記載の発明の認定の認定を誤り,相違点1ないし相違点4についての進歩性判断を誤った。
( )本願発明の着想は,新規で,斬新なものである。
2すなわち,従来,薬局における薬価算定,薬袋及び薬剤指導書の作成業務はいずれも処方箋に基づいてされていたが,これらは,薬局の会計窓口,調剤室,窓口業務においてそれぞれ使用することや互いに必要な薬剤に関する情報や処理が異なることから,ホストコンピュータを用いる極めて大がかりなシステムが必要であり,いずれの場合も,薬価算定,薬袋及び薬剤指導書の作成等の作業に必要な薬剤情報を入力するものであり,人的,物的及び時間的に極めて無駄が多かった。
本願発明は,薬局における薬価算定,薬袋及び薬剤指導書の作成業務を1人の操作者による1度の入力で,すべて,かつ,同時に行うことを可能にすることを課題としてされたもので,このような発想は,当業者であっても考えつかないものである。特に,薬袋と薬剤指導書とは,記載する薬剤情報が異なるばかりか,薬袋については,薬剤指導書とは異なり,薬剤区分に従って区分けした薬剤情報を記載した薬袋が必要であり,当業者もそれぞれ別々に入力していた。
このように,本願発明の課題は,本件出願時,当業者といえども考えてもみないものであり,新規で斬新なものである。加えて,本願発明は,例えば,引用例1や引用例2記載の発明のように,従来,操作者の入力やデータの蓄積をホストコンピュータにより行うという大規模なシステムによらずに,通常規模の薬局であれば設置している薬価算定用の電算機と汎用電算機というシステム構成で完成した点など,従来にない優れたものである。
( )被告は,相違点2について,操作者が行うことに代えて,「コンピュータ3の区分けプログラム」が行うようにすることは,単なる設計変更程度のことにすぎない旨主張しているしかし,本願発明における「区分けプログラム」を備えたことによる作用効果は,単に,操作者が薬剤情報を区分けして入力する行為の代わりを担うだけのものではない。
第1に,「区分けプログラム」の導入により,従来の「薬剤の区分」を指定する操作者による入力そのものが不要となる。すなわち,「区分けプログラム」は,入力する薬剤情報をあらかじめ定めた薬剤区分に従って区分けをするという役目を果たすだけのものであるが,区分け処理した薬剤情報とは異なる薬剤情報を入力する薬価算定の電算機を入力装置とすることにより,従来の薬袋について必要な薬剤情報の入力自体を省略することを可能にしている点において,当業者が想到し得ないものである。第2に,「区分けプログラム」の導入により,従来は操作者が複雑で多数種類に及ぶ薬剤情報を理解している熟練者(例えば薬剤師など)であることが必要であったが,本願出願では薬価算定の電算機に処方箋の薬剤情報をそのまま入力すればよく,会計や窓口業務の知識を有する操作者により入力が可能である。この点において,区分けを必要としない薬剤情報を記載する薬剤指導書を作成する従来技術である引用例1に記載されている発明とは全く異なるものであり,高度の技術を駆使している。第3に,本願発明では,「区分けプログラム」を用いないで入力された,薬剤情報を区分けしないで記載した薬剤指導書の作成も同時にできる。
つまり,本願発明は,単に「区分けプログラム」を用いて区分けの指定を伴う入力作業を不要にしただけでなく,「区分けプログラム」を用いない情報を別の出力回路により印刷して薬剤指導書をも同時に作成することができるものである。特に,本願発明は,薬剤指導書の作成手段に区分け可能な薬袋作成を組み合わせただけのものでなく,「区分けプログラム」を用いることにより1つの入力情報,すなわち,1つの入力操作で区分けした薬剤情報を記載した薬袋と区分けしない薬剤情報を記載した薬剤指導書とを同時に作成可能としたものであり,これが当業者における通常の創作活動の範囲を超えたものであることは明らかである。
( ) 本願発明は,薬袋用印刷機と薬剤指導書用印刷機とを別々に備え,これら4を1つの薬剤情報の入力に従って稼働させて薬袋と薬剤指導書とを同時に印刷するものである。通常,複数の電算機に1つの印刷機を接続することは行われているが,1つの電算機に複数の印刷機を接続することはなく,あっても,それぞれ異なる情報を印刷するか,異なるファイル形式の情報を切り替えて印刷するためのものであるのが普通であり,本願発明のように,2つの異なる印刷物を印刷する印刷機を1つの電算機に接続するとともに,これらを1つの入力情報に基づいて同時に稼働させて異なる種類の印刷物を同時に作成するような事態は通常では考えられず,本願発明は,「区分けプログラム」を備えることにより,このような印刷システムの構築を可能にしたものであり,このような構成は,当業者において容易に想到し得るものではない。
( )本願発明は,簡単な構成により安価に提供できるばかりか,1回の薬剤情5報の入力により,区分けした薬剤情報を記載した薬袋と区分けしない薬剤情報を記載した薬剤指導書を同時に,しかもカラー印刷により作成可能な新規で優れた商品を提供するものであり,原告における販売実績が良好なだけでなく,他の業者によっても多量に販売されている。すなわち,本願発明は当業界において優れた商品を提供しており,多大な実績を挙げており,このことからも,本願発明が,従来の当業者が考えつかなかったものであるばかりか商業的にも優れたものであり,進歩性を有していることは明白である。
第4被告の反論1取消事由1(引用例1記載の発明の認定の誤り)に対して原告は,引用例1記載の発明では,「紙片に印刷するカラー印刷機に出力するための情報」は,「記憶装置に記憶させてある情報の内で入力装置により選択された出力を要するもの」であり,「入力装置により選択された薬剤などの情報」はすべて出力される旨主張するが,失当である。
引用例1の「入力回路13に前記選択信号が入力されると,中央処理装置12により前記記憶装置(固定磁気ディスク)11に記憶させてある薬剤情報の内で出力を要するものを選択して出力信号を出力回路18に送信し,出力回路18に接続されたカラー印刷機3により薬剤情報が印刷される。」(段落【0015】)との記載に基づけば,引用例1記載の発明では,「入力装置により選択された薬剤などの情報」における「カラー印刷機(薬剤指導書用印刷機)において必要とされる情報」のすべてをカラー印刷機に向けて出していて,審決の,「引用例1には,・・・前記選択された薬剤などの情報の内で出力を要するものを『薬剤情報が印刷される紙片』に表示するための情報を『薬剤情報を紙片に印刷するカラー印刷機』に出力するための出力回路とを有しており・・・」との認定に誤りはない。
なお,引用例1記載の発明において,「入力装置により選択された薬剤などの情報」の「一部が出力される」か「すべて出力される」かという点に格別の技術的意義があるとはいえず,「一部が出力される」か「すべて出力される」かによって,審決の判断は左右されない。
2取消事由2(引用例2記載の発明の認定の誤り)に対して( )原告は,引用例2においては,薬袋発行システムが区分けするのではなく,1入力者が区分けして入力するものであり,コンピュータは区分けプログラムを有していない旨主張するが,失当である。
( )本願発明の特許請求の範囲では,「前記汎用電算機は前記入力装置により2選択された薬剤などの情報を薬品区分,投薬日数,服用方法,薬剤名などの処方された薬剤に関する区分因子に基づいて1つの薬袋ごとに区分けする区分けプログラム」とされており,ここでいう「区分けプログラム」は,薬剤などの情報を薬剤に関する区分因子に基づいて1つの薬袋ごとに区分けするためのものであれば足り,このプログラムの内容を具体的に限定するものではない。
そうすると,「区分けプログラム」は,選択された情報の中から区分因子を検索して,その区分因子に基づいて区分けするプログラムだけでなく,区分因子に付されている印字形式情報のような印刷指示情報に基づいて区分けするようなプログラムも含む。
そして,引用例2に記載の薬袋発行システムにおいて,「薬剤などのデータをどの区分因子で区分けするかの指示は操作者が行い,実際の区分けは,コンピュータのプログラムが行っている」ものであるが,この「プログラム」は,操作者の指示があるとしても,薬剤などのデータ(情報)を区分因子に基づいて1つの薬袋ごとに区分けする,コンピュータが有している「プログラム」であるということができ,これは,本願発明の「コンピュータの区分けプログラム」に相当するものである。
( )仮に,本願発明の「コンピュータの区分けプログラム」が,薬剤などのデ3ータをどの区分因子で区分けするかの指示を含むものであるとしても,コンピュータシステム上の作業を,操作者に代えてコンピュータのプログラムに行わせること自体,コンピュータシステム上の常とう手段であるので,引用例2記載の発明における「薬剤などのデータをどの区分因子で区分けするかの指示」を,操作者が行うことに代えてコンピュータの区分けプログラムが行うようにすることは,単なる設計変更程度のことにすぎないから,審決の結論に影響はない。
3取消事由3(引用例3記載の発明の認定の誤り)に対して原告は,引用例3記載の発明では,薬袋用プリンタの内のいずれかを処方箋用プリンタとして使用し,処方箋用プリンタとは別の薬袋用プリンタを有さず,また,本願発明は,処方箋に記載されている薬剤情報を選択して入力することにより薬剤指導書を印刷するものであり,処方箋は印刷しないとして,引用例3に「コントローラと,コントローラに接続された処方箋用プリンタおよび処方箋用プリンタとは別の薬袋用プリンタとを有している」との発明が記載されているとした審決の認定が誤りである旨主張するが,失当である。
引用例3記載の発明は,複数存在する薬袋用プリンタのうちのいずれかを処方箋用プリンタとして使用するものであり,これは,薬袋用プリンタと処方箋用プリンタとが別体のプリンタとして併存することを示しているのであるから,引用例3記載の発明では,処方箋用プリンタとは別の薬袋用プリンタを有していないとの原告主張は誤りである。
なお,薬剤指導書を印刷するか処方箋を印刷するかは,当業者が適宜選択し得る程度のことにすぎない。
4取消事由4(進歩性についての判断の誤り)に対して( )原告は,審決が,引用例1ないし3記載の発明の認定の認定を誤り,相違1点1ないし相違点4についての進歩性判断を誤った旨主張するが,各引用例の記載の発明の認定等に誤りはないから,相違点1ないし相違点4についての判断にも誤りはない。
( )原告は,本願発明の課題,作用効果を主張し,審決の判断が誤りである旨 2主張する。
しかし,審決は,本願発明の発明特定事項に基づいて,一致点及び相違点を示すとともに,相違点で示した本願発明の発明特定事項を当業者が容易に想到し得たかどうかを判断し,また,「本願発明は,引用例1乃至引用例3記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである」とすることで,本願発明の作用・効果も容易に予測し得る範囲内であることを示しており,誤りはない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(引用例1記載の発明の認定の誤り)について( )原告は,引用例1に,「紙片に印刷するカラー印刷機に出力するための情1報」が「入力装置により選択された薬剤などの情報の内で出力を要するもの」を薬剤情報が印刷される紙片に表示することが開示されているとした審決の認定が誤りである旨主張する。
( )引用例1には,薬剤情報が印刷された紙片を作成する薬剤情報提供システ2ムの発明が記載されているところ,引用例1には,「そして,例えば薬局において患者の処方箋の内容を薬価算定用電算機からなる入力装置2に入力すると,その出力回路(図示せず)から例えば患者の氏名,処方される薬剤名などの記憶装置(固定磁気ディスク)11に記憶させてある薬剤情報の内で出力を要するものを選択するための入力記憶装置2に記憶させてある薬剤情報の内で出力を要するものを選択するための入力信号が入力回路14に入力される。入力回路13に前記選択信号が入力されると,中央処理装置12により前記記憶装置(固定磁気ディスク)11に記憶させてある薬剤情報の内で出力を要するものを選択して出力信号を出力回路18に送信し,出力回路18に接続されたカラー印刷機3により薬剤情報が印刷される。」(段落【0014】〜【0015】)との記載がある。
そうすると,引用例1記載の発明において,紙片に印刷するカラー印刷機に出力するための情報は,「薬剤情報の内で出力を要するもの」であり,引用例1に,「前記選択された薬剤などの情報の内で出力を要するもの」を薬剤情報が印刷される紙片に表示することが記載されているとした審決に誤りはない。
( )原告は,引用例1記載の発明においては,「紙片に印刷するカラー印刷機3に出力するための情報」は,「前記選択された薬剤などの情報の内で出力を要するもの」ではなく,「入力装置により選択された薬剤などの情報」はすべて出力されるとして,審決の認定が誤りである旨主張する。
しかし,引用例1の前記記載に照らしても,引用例1の入力装置は,印刷のために,薬剤情報のうち,必要な情報の選択を行うと認められるのであるから,これを,審決のように,「紙片に印刷するカラー印刷機に出力するための情報」が「入力装置により選択された薬剤などの情報の内で出力を要するもの」について開示されていると認定することが誤りであるとは,認められない。
( )したがって,原告主張の取消事由1は理由がない。
42取消事由2(引用例2記載の発明の認定の誤り)について( ) 原告は,引用例2において,「薬袋発行システムが,前記入出力部により1入力された薬剤などのデータを『内用薬か外用薬か頓服薬か』等の処方された薬剤に関する使用方法に基づいて1つの薬袋ごとに区分けするもの」が開示されているとした審決の認定を争う。
( )本願発明の特許請求の範囲には,「区分けプログラム」について,「前記2汎用電算機は前記入力装置により選択された薬剤などの情報を薬品区分,投薬日数,服用方法,薬剤名などの処方された薬剤に関する区分因子に基づいて1つの薬袋ごとに区分けする区分けプログラムと・・・を有しており」との記載がある。
これによれば,本願発明の「区分けプログラム」は,汎用電算機が有するものであり,「入力装置により選択された薬剤などの情報」について,「薬品区分,投薬日数,服用方法,薬剤名などの処方された薬剤に関する区分因子」に基づいて,「1つの薬袋ごとに区分けする」ものである。そして,特許請求の範囲の記載において,区分因子がどのように設定されるかについての限定はない。
本件明細書には,区分けの具体例として,区分因子として,医師名,薬品区分,投薬日数,服用方法,薬剤名を挙げる表(段落【0024】)や,区分因子として,医師名,薬品区分,服用方法,薬剤名とするもの(段落【0025】)の記載があるが,どのようなものを区分因子として設定するか,いつの段階で設定するかを限定する記載はない。
(3)引用例2には,以下の各記載がある。「【従来の技術】従来の薬袋発行システムは,スタンドアロン方式で運用されるもので,図4のブロック図に示す構成を取る。」(段落【0002】),「薬局窓口に設けられた入出力部21は,薬袋発行システム22に接続し,薬局の薬剤師が受付けた処方せんに従って,処方に基づき薬袋に印字するデータと薬袋の印字形式情報とを入力する。」(段落【0003】),「ここで述べている薬袋に印字するデータと薬袋の印字形式情報とは,患者氏名,引換番号,大袋か子袋かあるいはラベルかの薬袋の形状,同時に複数の薬を出す場合に内用薬か外用薬か頓服薬か等の使用方法による袋分けの指示,各薬袋ごとの薬の用法および数量と注意事項の指定等である。」(段落【0004】),「次に,薬袋発行システム22は,受信した薬袋に印字するデータと薬袋の印字形式情報とに従い,薬袋情報ファイル23に登録されている印字形式を読出し,処方せんに適合する形式で印字した薬袋24を発行する。」(段落【0005】),「【発明が解決しようとする課題】上述した従来の薬袋発行システムは,薬局窓口に設けられた入出力部から,職員が受付けた処方せんに従って処方データと薬袋の印字形式情報とを入力しているので,薬袋発行に時間がかかるという問題点や,万一他人の処方せんと内容が入違いになっていたりデータに誤りがあったとしても,即座にこの誤りを知ることができないという問題点がある。」(段落【0006】)。また,引用例2の【図4】には,「薬袋24」及び「入出力部21」が「薬袋発行システム22」に接続されている図がある。
これによると,引用例2には,薬袋作成システムの発明が記載されており,そこにおいて,「薬袋に印字するデータと薬袋の印字形式情報」を入出力部から入力して,薬袋発行システムが,その情報に従い,印字した薬袋を発行すること,「薬袋に印字するデータと薬袋の印字形式情報」には,患者氏名等の他に,内用薬か外用薬か頓服薬かなどの使用方法による袋分けの指示が含まれることが記載されている。
すなわち,引用例2には,使用方法による袋分けの指示がされたとき,指示に従って,薬剤の情報について,内用薬か外用薬か等の区分因子に基づいて,薬袋に印刷される各種薬剤情報を薬袋ごとに区分して薬袋を作成するためのシステムが記載されているということができるのであり,そこでは,各種薬剤情報を薬袋ごとに区分しているのはシステムにおけるプログラムであるといえるから,薬袋ごとに薬剤の情報を区分けするプログラムが実質的に開示されていると認められる。
そうすると,引用例2には,薬剤の使用方法による袋分けの指示が入力されたとき,その指示に従った薬袋を作成するため,薬袋ごとに薬剤の情報を区分けするプログラムが記載されているといえる。したがって,審決が,引用例2に「薬袋発行システムが,前記入出力部により入力された薬剤などのデータを『内用薬か外用薬か頓服薬か』等の処方された薬剤に関する使用方法に基づいて1つの薬袋ごとに区分けするもの」が記載されていると認定したことに誤りはない。
( )原告は,引用例2においては,実際に区分けするための指示そのものが入4力されるのであり,薬袋発行システムが区分けするのではなく,コンピュータは区分けプログラムを有さず,本願発明の「区分けプログラム」を有さない旨主張する。
確かに,原告主張のとおり,引用例2においては,内用薬か外用薬か等の使用方法による区分けのための指示が入力されている。しかし,引用例2記載の発明においても,外用薬か内用薬か等の区分因子に基づいて,各種薬剤情報を薬袋ごとに区分けしているのはシステムにおけるプログラムということができる。
原告の主張は,薬剤の情報の入力等の際に区分けのための指示をするものは,本願発明の区分けプログラムを有さないというものであると解することもできる。仮にそのように解することができたとしても,ある区分因子に基づいて区分けすることが知られていたときに,その区分けをコンピュータのプログラムにより実現することは,本願発明の出願当時,当業者が通常の創作能力の発揮として行うようなものである。引用例2により,薬袋について,一定の区分因子に基づいて薬袋ごとに薬剤情報を区分けして印刷することが知られているとき,その区分け自体もコンピューターのプログラムにより実現することは当業者の通常の創作能力の発揮といえるものである。そうすると,仮に引用例2自体には,本願発明の「区分けプログラム」そのものが記載されていないとしても,引用例2の記載に基づいて,相違点2に係る本願発明の構成に当業者が容易に想到することができたといえ,審決の結論に誤りがあるとは認められない。
( )原告は,引用例2に記載されているような入力時に区分けする「区分けプ5ログラム」であれば,薬袋についての情報入力は可能であるが,薬剤指導書についての情報は入力されず,別に,区分けしない薬剤情報を入力しなければならず,本願発明の特有の作用効果を奏することはできない旨主張する。
しかし,相違点2に係る本願発明の構成に想到することが容易であるかの判断においては,主として薬袋に関する区分けプログラムに係る構成が問題となっていて,引用例2記載の発明における薬剤指導書についての情報の入力が問題となっているものではないから,原告の主張は,採用できない。
( )したがって,原告主張の取消事由2は理由がない。
63取消事由3(引用例3記載の発明の認定の誤り)について( )原告は,引用例3において,「コントローラと,コントローラに接続され1た処方箋用プリンタおよび処方箋用プリンタとは別の薬袋用プリンタとを有している」ものが開示されているとした審決の認定が誤りである旨主張する。
( )引用例3には,処方箋と薬袋を作成するシステムの発明が記載されている2ところ,引用例3には,「(ニ)課題を解決するための手段本発明では,複数の診療科に配設されたターミナルコンピュータに入力側で接続したホストコンピュータの出力側と,各給紙部にそれぞれ異なるサイズの薬袋を供給した複数個のプリンタとを,ホストコンピュータから入力した処方箋のデータに基づき,一患者ごとに適切な薬袋のサイズ及び必要枚数を判断する機能と,複数個のプリンタの内から,上記サイズの薬袋を給紙部に供給されたプリンタを選んでそのプリンタに患者名,用法等のプリントデータを出力する機能とを有するコントローラを介して接続したことを特徴とする薬袋印字装置と」(2頁右上欄7行目〜19行目),「また,上記プリンタ(P1)〜(Pn)のうちの一台に,患者の処方箋をプリントさせることができ」(5頁左下欄10行目〜11行目)との記載がある。
この記載によっても,引用例3記載の発明において,コントローラに接続された複数のプリンタが存在すること,それらのプリンタのうち,一台に処方箋を印刷させ,それとは別のプリンタに薬袋を印刷させることができると認められるのであるから,処方箋用プリンタとは別の薬袋用プリンタとを有しているということができ,審決の認定に誤りはない。
( )原告は,薬袋用プリンタと処方箋用プリンタとは共用であるとして,審決3の認定が誤りである旨主張する。
しかし,前記のとおり,引用例3記載の発明において,複数のプリンタのうち,一台に処方箋を印刷させ,それとは別のプリンタに薬袋を印刷させることができるのであり,印刷するものを異にする複数のプリンタが存在するのであるから,このことをとらえ,「コントローラと,コントローラに接続された処方箋用プリンタおよび処方箋用プリンタとは別の薬袋用プリンタとを有している」と認定することが直ちに誤りであるとは認められない。
なお,原告は,本願発明は薬剤指導書を印刷するものであって,処方箋は印刷しないとして,本願発明における薬剤指導書と,引用例3に記載されている処方箋とが全く異なる性質のものであることなどを主張する。
しかし,審決は,引用例3に,薬剤指導書用プリンタが記載されていると認定しているものではなく,処方箋用プリンタが記載されていると認定しているのであって,審決の認定に誤りはない。また,薬剤指導書と処方箋とに違いがあるとしても,それらを印刷するためのプリンタが全く構造を異にしなければならないとまでは認められず,薬袋用プリンタにおいて処方箋が印刷されているときに,原告が主張するように,薬袋用プリンタを用いて薬剤指導書を印刷することが実現不可能であるとは認められない。
( )したがって,原告主張の取消事由3は理由がない。
44取消事由4(相違点についての進歩性判断の誤り)について( )原告は,審決が,引用例1ないし3記載の発明の認定の認定を誤り,相違1点1ないし相違点4についての進歩性判断を誤った旨主張するが,引用例1ないし3記載の発明について,審決に原告主張の誤りはないから,失当である。
( )原告は,本願発明がすぐれた効果を有することを主張する。
2原告は,本願発明は,薬局における薬価算定,薬袋及び薬剤指導書の作成業務を1人の操作者による1度の入力で,すべて,かつ,同時に行うことを可能にすることを課題としてされたもので,このような発想は,当業者であっても考えつかないものである旨主張する。しかし,引用例1のように,薬剤指導書を作成する薬袋作成システムなどが知られているとき,出力される情報が共通であれば,その入力を簡易に行うために,1度の入力で行えるような構成を考えることは,通常,考えるようなことであり,上記課題が,当業者にとり着想が不可能であるとは認められないし,その他,相違点に係る本願発明の構成に当業者が容易に想到することができるとの審決の判断に誤りがないことは前記のとおりであり,また,原告が主張する本願発明の効果は,本願発明の構成をとることにより当業者が当然に予期し得るような効果であると認められる。
また,原告は,本願発明は多大な実績を挙げ,商業的にも優れたものであり進歩性を有していることは明白である旨主張する。
しかし,本件全証拠によっても,原告主張の商業的実績が本願発明の構成をとったことによるものであることについて,これを認めるに足りず,原告の主張は採用することができない。
( )したがって,原告主張の取消事由4は採用できない。
35以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がないから,原告の請求は棄却することとする。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 宍戸充
裁判官 柴田義明