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関連審決 不服2004-5885
関連ワード 創作性(創作) /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10200号 審決取消請求事件
原告株式会社テーアンテー
訴訟代理人弁理士福田伸一,福田賢三,福田武通,加藤恭介,本田昭雄
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人北川清伸,仲村靖,高木彰,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2008/01/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2004-5885号事件について平成19年4月9日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,原告がした特許出願についての拒絶査定に対する不服審判請求を成り立たないとした審決の取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲第4号証)及び拒絶査定出願人:原告発明の名称:「車両用室内灯」出願日:平成11年6月9日出願番号:特願平11-161944号拒絶査定日:平成16年2月12日(甲第8号証)(2)本件手続審判請求日:平成16年3月24日(甲第9号証)手続補正日:平成19年1月29日(甲第12号証)審決日:平成19年4月9日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成19年5月9日2本願発明の要旨本件特許出願に係る発明は,平成19年1月29日付け手続補正書(甲第12号証)による補正後の明細書(以下「本願明細書」という。)における特許請求の範囲の請求項1に記載されたものであり,その要旨は,次のとおりであるものと認められる(以下「本願発明」という。)。
「筐体内に収容された一対のランプと,前記筐体に取付けられ前記ランプの点滅を個別に制御するためのプッシュスイッチと,前記筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成されると共に前記筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在に軸支され,かつ,軸支側とは反対側で前記プッシュスイッチの操作摘みに当接する一対のレンズ板と,前記プッシュスイッチのバネ力に抗して前記レンズ板を前記筐体に係止するための係止部と,から構成し,レンズ板を押下することによりプッシュスイッチのオン・オフが行われるようにしたことを特徴とする車両用室内灯。」3審決の理由の要旨審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本願発明は,実願昭57-53553号(実開昭58-157741号)のマイクロフィルム(甲第1号証。以下「引用例1」といい,引用例1に記載された発明を「引用発明」という。)に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができず,本件特許出願は拒絶を免れないというものである。なお,略称等について本判決で指定するものに改めた部分がある。
(1)引用例1の記載「当審における拒絶の理由に引用された本願出願前に頒布された刊行物である実願昭57-53553号(実開昭58-157741号)のマイクロフィルム(引用例1)には,図面と共に次の事項が記載されている。
(ア)「この考案はルームランプに係り,更に詳述すれば,ランプの切替えをプツシユスイツチで切替え得るようにしたルームランプに関するものである。」(明細書第2頁第1〜4行)(イ)「灯体ケース1はケース主体部11がプラスチツクで形成され,・・・(中略)・・・側板部17端には外側に張出するように断面U字状の鍔171と灯体ケースの開口端部には棚部172と,この棚部の灯体ケースの長手方向の両端には後述する灯蓋が係合する係合孔173a,173bが形成されている。」(明細書第3頁第17行〜第4頁第14行)(ウ)「押釦6はプラスチツクで作られ,一端中央にねじれ軸取付用のスリツト62と中心径が弾性部材5の直径に等しい環状溝63を他端を球面部64とした釦主体部61と,この釦主体部の一端より端部に段部66a,66bを形成し,該段部が第5図に示すように灯体ケースの側板部17に突出させた係止突起174a,174bと灯体ケース1内で係合する案内ベース65a,65bを形成せしめたものである。
灯蓋7はプラスチツクで作られ,灯体ケースの側板部17内に嵌入する大きさの縁部72を有する蓋体71の長手方向の端部の縁に鍔171に係止する鉤部73と突起74が設けられている。
これらは第2図乃至第5図に示すようにランプ保持片14a,14b間にランプ8を取付け,押釦6のスリツト62にねじれ軸4を,環状溝63に弾性部材(圧縮コイルバネ)5を取付ける。」(明細書第5頁第14行〜第6頁第10行)(エ)「第3図に示すように灯蓋7に外力が付勢されていない場合には弾性部材5の弾力で押釦6の案内ベース65a,65bの段部66a,66bが係止突起174a,174bに対接するまで上方に押上げられ,その球面部64が灯蓋7をその突起74が鍔171に当接する位置まで押上げた状態にある。
この状態より,灯蓋7の矢印A部を灯体ケース1側突起74が棚部172に当接するまで押すと,前記灯蓋は鉤部73と鍔171との係合部を支点とし時計方向に傾動し,弾性部材5の弾力に抗して押釦6を押し下げる。
押釦6が押し下げられると・・・(中略)・・・開成状態であつた固定接片13aと可動接片15が弾片18で押されて閉成し,逆に閉成状態であつた固定接片13bと可動接片15が閉成する。・・・(中略)・・・灯蓋7を押した手をはなすと,灯蓋7は弾性部材5の弾力で,第3図に示す押下げ前の状態に戻るが,・・・(中略)・・・可動および固定接片の関係は変らない。
灯蓋7を次に押すと・・・(中略)・・・固定接片13aと可動接片15が閉成し,固定接片13bと可動接片15が開成する。」(明細書第7頁第4行〜第8頁第18行)(オ)「以上述べたようにこの考案は底板部に軸と可動接片と,該可動接片の可動範囲に固定接片を設けると共に,前記可動接片と一方の保持片が接続されたランプ保持片を取付けた灯体ケースと,・・・(中略)・・・前記灯体ケースの開口部を覆う灯蓋とで構成されているので,灯蓋を押すことにより,すなわち押すと云う単一動作でランプの点滅が出来,操作性がよく,しかもスイツチノブの如きものが灯体から突出していないので体裁がよく,子供のいたずらによるスイツチ部分の故障も生じにくい等の効果を有する。」(明細書第9頁第3行〜第10頁第4行)(カ)第3図には,灯体ケース1内にランプ8が収容されることが図示されている。
(キ)上記記載事項(ア),(エ),(オ)から,押釦6,弾性部材5等からなるスイツチがプツシユスイツチであることが明らかであり,また,第3図には押釦6,弾性部材5等からなるスイツチが灯体ケース1に取付られていることが図示されている。
(ク)上記記載事項(エ)を参酌すると,第3図には,灯蓋と押釦6が灯蓋の傾動の支点となる係合部側とは反対側で当接していることが図示されているといえる。
上記記載事項,上記図示事項および上記記載事項から明らかな事項を総合すると,引用例1には,「灯体ケース1内に収容されたランプ8と,前記灯体ケース1に取付けられ前記ランプ8の点滅を切替えるプツシユスイツチと,前記灯体ケース1の開口部を覆うと共に灯体ケース1の鍔と係合する鉤部を有し,該鍔と鉤部との係合部を支点として傾動し,かつ,係合部側とは反対側で前記プツシユスイツチの押釦6に当接する灯蓋と,前記プツシユスイツチの弾性部材5の弾力で灯蓋を押し上げて灯体ケース1の鍔と当接する突起と,から構成し,灯蓋を押すことによりプツシユスイツチを切替えるルームランプ。」の発明(引用発明)が記載されていると認める。」(2)対比「そこで,本願発明と引用発明とを対比すると,後者の「灯体ケース1」が,その機能・構造等からみて前者の「筐体」に相当し,以下同様に,「切替える」が「制御する」に,「プツシユスイツチ」が「プッシュスイッチ」に,「灯体ケース1の開口部を覆う」が「筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成される」に,「鍔と鉤部との係合部を支点として傾動し」が「揺動自在に軸支され」に,「係合部側」が「軸支側」に,「押釦6」が「操作摘み」に,「灯蓋」が「レンズ板」に,「弾性部材5の弾力で灯蓋を押し上げて灯体ケース1の鍔と当接する突起」が「バネ力に抗して前記レンズ板を前記筐体に係止するための係止部」に,「押す」が「押下する」に,「プツシユスイツチを切替える」が「プッシュスイッチのオン・オフが行われるようにした」に,「ルームランプ」が「車両用室内灯」に,それぞれ相当している。
したがって,両者は,「筐体内に収容されたランプと,前記筐体に取付けられ前記ランプの点滅を制御するためのプッシュスイッチと,前記筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成されると共に揺動自在に軸支され,かつ,軸支側とは反対側で前記プッシュスイッチの操作摘みに当接するレンズ板と,前記プッシュスイッチのバネ力に抗して前記レンズ板を前記筐体に係止するための係止部と,から構成し,レンズ板を押下することによりプッシュスイッチのオン・オフが行われるようにした車両用室内灯。」の点で一致し,以下の点で相違している。
相違点:前者では,筐体内に収容されたランプは一対であり,プッシュスイッチによるランプの点滅の制御は個別に行うことができ,筐体の開口部を覆うレンズ板も一対のレンズ板からなり,一対のレンズ板は筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在に軸支されているのに対して,後者では,筐体内に収容されたランプや筐体の開口部を覆うレンズ板が一つであり,レンズ板の軸支も筐体開口部における中央部分ではない点。」(3)判断「そこで,上記相違点について検討する。
車両用室内灯において,筐体内に収容するランプを一対とし,ランプの点滅の制御をプッシュスイッチにより個別に行うことは,例えば特開平10-283803号公報,実願昭58-144335号(実開昭60-51148号)のマイクロフィルムにも記載されているように周知技術であり,引用発明の車両用室内灯に該周知技術を適用して筐体内に収容するランプを一対とし,ランプの点滅の制御をプッシュスイッチにより個別に行うようにすることは当業者であれば容易に想到し得ることである。そして,ランプの点滅の制御を個別に行うのであるから,プッシュスイッチのオン・オフを行う揺動自在なレンズ板を一対とすることは当然のことである。また,筐体の開口部を覆うレンズ板を一対とした場合,軸支部は,筐体の開口部における中央部分か周縁部分の何れかとなることは明らかなことであり,軸支部の配置を決定する際にレンズ板の操作性等を考慮することは当然のことであるから,一対のレンズ板の軸支部を筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在とした点は当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎない。
また,本願発明の効果も,引用発明,周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。」第3当事者の主張1審決取消事由の要点(1)取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)審決は,本願発明と引用発明の一致点として,「・・・前記筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成される・・・レンズ板」を認定したが,誤りである。
本願発明の「筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成される・・・レンズ板」とは,レンズ板が筐体の開口部に被さるように配置され,正面から見て筐体は全く見えないように筐体がレンズ板によって全て覆われる状態になっていることを意味している。
これに対して,引用発明の灯体ケース1には,プッシュスイッチ等を収納するケース主体部11の開口部から周囲に広がる鍔部が形成されており,灯蓋はこの鍔部から内側の開口部に嵌り込むようになっているのであり,灯蓋によって覆われている部分は,鍔部から内側の開口部のみであるから,灯蓋は「灯体ケース1の開口部の内面を覆う」と認定すべきものである。
そうすると,本願発明のレンズ板においては筐体の縁部分を含んだ筐体の開口部の全面をレンズ板で全て覆う構成であるのに対して,引用発明は灯蓋(レンズ板)が灯体ケース(筐体)の開口部の内側面に嵌り込むように納まる構成であるから,両者の構成が異なることは明らかであって,この点を相違点として認定すべきである。
したがって,審決は,本願発明と引用発明の一致点を誤認し,相違点を看過したものというべきであり,この誤りが結論に影響を及ぼすことは明らかである。
(2)取消事由2(相違点についての判断の誤り)審決は,「筐体の開口部を覆うレンズ板を一対とした場合,軸支部は,筐体の開口部における中央部分か周縁部分の何れかとなることは明らかなことであり,軸支部の配置を決定する際にレンズ板の操作性等を考慮することは当然のことであるから,一対のレンズ板の軸支部を筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在とした点は当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎない」と判断したが,誤りである。
レンズ板を筐体の開口部に軸支するには,本願発明のように筐体の開口部の中央部分において各々揺動自在に取り付ける方法と,レンズ板を筐体の開口部の端部方向において各々揺動自在に取り付ける方法とが考えられる。
隣接した2つのレンズ板を筐体の開口部の端部方向において各々揺動自在に軸支した場合,夜間の暗い車内で左右何れかのレンズ板を操作しようとしたときに,いずれかのレンズ板の中央部分を押下しなければならないが,2つのレンズ板が隣接しているため僅かのずれによっても希望しない方向のレンズ板を押下して間違ったランプを点灯してしまうという問題が発生する。これに対し,本願発明のように一対のレンズ板を筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在に軸支すると,希望するランプを点灯する場合には,左右のレンズ板の両端部分を操作することとなるため,操作ミスをすることがなく希望する方向のランプを点灯することができるものである。このように,レンズ板を筐体に軸支する方法の違いは,作用,効果に大きな相違をもたらす構成上の相違であるというべきである。
したがって,本願発明の「レンズ板を筐体の開口部における端部方向において各々揺動自在に軸支する」との構成にすることについて,単に,当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎないとした審決の判断は誤りである。
(3)取消事由3(本願発明の顕著な効果の看過)審決は,「本願発明の効果も,引用発明,周知技術に基づいて当業者が予測し得る範囲内のものである。」と判断している。
しかしながら,本願発明にあっては,レンズ板が縁部分を含んだ筐体の開口部の全面にすっぽり被さるように覆っているため,ランプ点灯時において,ランプから出る光はレンズ板に照射され,該レンズ板に入光した光は筐体の開口部を覆う平面部から縁部に導入され,筐体の開口部及び縁部から導光される。すなわち,レンズ板の全面から光が導出されるので,ルームランプ全体としての輝度値が高くなり,車内を明るく照明することができるという効果を有する。
他方,引用発明にあっては,灯蓋が灯体ケースの開口部内に位置するものであるから,ランプを点灯すると光は灯蓋の平面部分から縁部に達するが,該縁部が照明されても縁部は灯体ケース部内に位置するので外部には漏れることがなく,灯蓋の平面部分からの光しか車内に放射されないので,光量は少なく,車内の輝度は小さいものとなる。
また,ルームランプを車両の天井トリムに取り付けたり,天井トリムに取り付けた眼鏡収納部や空調の吹出口を有するハウジングに装着する場合,車内からはレンズ板のみが見えることとなるので,自動車本体側の天井トリムやハウジングの色合い,材質,風合い等にかかわらず,違和感を与えることなく適応することができる。
他方,引用発明にあっては,灯体ケースにおける縁部が灯蓋から露出しているので,天井トリムやハウジングに取り付ける場合に,天井トリムやハウジングの色合い,材質,風合い等と一致させるために,天井トリムやハウジングと一致する多様な灯体ケースを用意しなければならず,製造コストが高くなるとともに,製品の保管も非常に面倒となる。
このように,本願発明は引用発明や諸々の周知技術によっては予測することができない顕著な作用効果を奏するものであるところ,このような効果を「当業者が予測し得る範囲内」であるとした審決の判断は誤りである。
2被告の反論(1)取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)に対して原告は,本願発明の「筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成される・・・レンズ板」とは,正面から見て,筐体が全く見えない状態になることを意味しているのに対し,引用発明の灯蓋は,「灯体ケース1の開口部の内面を覆う」にすぎない点で相違するから,審決は本願発明と引用発明の一致点を誤認し,相違点を看過したと主張する。
しかしながら,特許請求の範囲には「筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成され」と記載されているだけであり,筐体の形状やレンズ板と筐体の開口部以外の部分との関係は特定されておらず,「レンズが筐体の開口部に被さるように配置され,筐体の前面側はレンズ板によって全て覆われ,正面から見て筐体は全く見えない状態となっている」ことについても,何ら記載されていないから,原告の主張は特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,失当である。
(2)取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対して原告は,本願発明のレンズ板を「筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在に軸支(する)」との構成にすることついて,当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎないとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかしながら,原告も認めるように,一対のレンズ板を筐体の開口部に軸支する場合,本願発明のように筐体の開口部の中央部分において各々揺動自在に軸支する方法か,レンズ板を筐体の開口部の端部方向において各々揺動自在に軸支する方法かのいずれかが考えられるところ,軸支部の配置を決定する際にレンズ板の操作性等を考慮することは当然であり,一対のレンズ板を筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在に軸支したとすると,希望するランプを点灯する場合には,左右のレンズ板の両端部分を操作することとなるため,操作ミスをすることがなく希望する方向のランプを点灯することができるであろうことは,その構造等から当業者であれば容易に予測することができることであり,このような操作性等を考慮して,軸支部の配置を決定する程度のことは,当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって,審決の判断に誤りはなく,原告の主張は失当である。
(3)取消事由3(本願発明の顕著な効果の看過)に対して原告は,本願発明は引用発明や諸々の周知技術によっては予測することができない顕著な作用効果を奏するものであるところ,このような効果を「当業者が予測し得る範囲内」であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
原告の上記主張は,本願発明において,「レンズ板が縁部分を含んだ筐体の開口部の全面にすっぽり被さるように覆っている」との構成により,「ランプ点灯時において,ランプからの光はレンズ板に照射され,該レンズ板に入光した光は筐体の開口部を覆う平面部から縁部に導入され,筐体の開口部および縁部から導光される。すなわち,レンズ板の全面から光が導出されるので,ルームランプ全体としての輝度値が高くなり,車内を明るく照明することができる」との効果を奏することを前提としている。
しかしながら,「レンズ板が縁部分を含んだ筐体の開口部の全面にすっぽり被さるように覆っている」ことは,特許請求の範囲に何ら記載がなく,「ランプ点灯時において,ランプからの光はレンズ板に照射され,該レンズ板に入光した光は筐体の開口部を覆う平面部から縁部に導入され,筐体の開口部および縁部から導光される。すなわち,レンズ板の全面から光が導出されるので,ルームランプ全体としての輝度値が高くなり,車内を明るく照明することができる」との効果についても,発明の詳細な説明に何ら記載がない。
また,原告は,「ルームランプを車両の天井トリムに取り付けたり,天井トリムに取り付けた眼鏡収納部や空調の吹出口を有するハウジングに装着する場合,車内からはレンズ板のみが見えることとなるので,自動車本体側の天井トリムやハウジングの色合い,材質,風合い等にかかわらず,違和感を与えることなく適応することができる」ことも本願発明の効果として主張するが,そのような効果の前提となっている「レンズ板が縁部分を含んだ筐体の開口部の全面にすっぽり被さるように覆っている」ことは,上記のとおり,特許請求の範囲に何ら記載がないほか,原告の主張する効果についても,発明の詳細な説明に何ら記載されていない。
したがって,原告の主張はいずれも根拠がなく,失当である。
第4当裁判所の判断1取消事由1(一致点の誤認による相違点の看過)について原告は,本願発明の「筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成された・・・レンズ板」とは,レンズ板が筐体の縁部分を含んだ筐体の開口部の全面を覆う構成であると主張するので,以下,検討する。
(1)レンズ板と筐体との関係に関する特許請求の範囲の記載は,以下のとおりである。
「【請求項1】・・・前記筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成される・・・レンズ板」(2)甲第4,第5及び第12号証によると,本願明細書には,レンズ板及びレンズ板と筐体との関係に関して,以下の各記載がある。
ア「【0008】本発明は前記した問題点を解決せんとするもので,その目的とするところは,室内用ランプとマップランプとを共用することにより,筐体の小型化が図れると共に筐体の小型化の割にレンズ板の大型化が図れ,また,レンズ板をランプ点滅のためのスイッチ操作用の摘みの代わりとして利用することにより,筐体の小型化をより図ることができ,また,デザイン的に斬新性を有する車両用室内灯を提供せんとするにある。」イ「【0009】【課題を解決するための手段】この本発明の車両用室内灯は目的を達成せんとするもので,その手段は,筐体内に収容された一対のランプと,前記筐体に取付けられ前記ランプの点滅を個別に制御するためのプッシュスイッチと,前記筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成されると共に前記筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在に軸支され,かつ,軸支側とは反対側で前記プッシュスイッチの操作摘みに当接する一対のレンズ板と,・・・」ウ「【0011】【発明の実施の形態】以下,本発明に係る車両用室内灯の実施の形態を図面と共に説明する。図1〜図3において,1は筐体にして,・・・レンズ7,8・・・【0013】7,8はレンズ板にして,該一対のレンズ板7,8によって筐体1の前面が覆われる大きさに形成されている。」エ「【0022】【発明の効果】本発明は前記したように,一対のランプに対向して一対のプッシュスイッチとを電気的に接続し,かつ,前記ランプよりの光を拡大して透過させる一対のレンズ板によって,前記プッシュスイッチのオン・オフを行うようにしたので,レンズ板をランプ点滅のためのスイッチ操作用の摘みの代わりとして利用できて,従って,筐体の小型化をより図ることができ,また,デザイン的に斬新性を有する車両用室内灯を製作できるものである。」(3)本願発明のレンズ板上記(1)の特許請求の範囲の記載によると,本願発明の筐体とレンズ板との関係は,レンズ板が筐体の開口部の全面を覆っている関係にあることが規定されていることは原・被告共に認めているところである。
もっとも,筐体の開口部の意義について,原告は筐体の縁部分を含めてその開口部と主張するのに対し,被告は原告が筐体の「内側の開口部」と主張する部分であり,上記の縁部分を含むものではないと主張することは,それぞれの主張から明らかである。
そこで,本願発明の上記「筐体の開口部」の意義について検討すると,「開口」とは「口を開くこと。外に向かって穴が開くこと。また,その穴。」(平成3年11月15日株式会社岩波書店発行の「広辞苑第4版」415頁参照)を意味するものと理解するのが通常であるから,この語義からすると,特段の事情のない限り,「開口部」とは「外に向かって開いた穴の部分」を意味するものであることは一義的に明確というべきである。この点,原告は,本願発明の「・・・筐体の開口部」とは,上記の「外に向かって開いた穴の部分」に加え,この「穴の部分」を形成する筐体の縁の部分も含まれると主張するが,このような解釈が「開口部」の通常の語義と相違するものであることは上記のとおりであるし,同請求項1に係る記載において,このように解さなければならない特段の事情を見出すことはできないものといわざるを得ない。
なお,念のため,前記(2)に認定したところに基づいて本願明細書の記載についても検討する。
前記(2)のアの記載によれば,本願発明は,筐体の小型化,レンズ板の相対的な大型化及びデザイン性の向上した車両用室内灯の創作を課題とするもので,その構成として,同イのとおり,「筐体の開口部全面が覆われる」レンズ板であるとともに,レンズ板をプッシュスイッチとして活用することにより,上記の課題を解決するものであることが記載されているものということができ,以上の記載からは「開口部」の意義を通常の語義と別異に解さなければならない事情はうかがわれない。
確かに,同ウに記載された実施例においては,レンズ板が筐体の開口部のみならず筐体の縁部分をも覆う車両用室内灯が図示されているが,本願発明においては,筐体の開口部がレンズ板によって覆われていれば足りるものであって,それ以上に筐体の縁部分までレンズ板で覆うか否かについては何ら言及がないから,この実施例の存在をもって筐体とレンズ板の関係を原告主張のように解することは困難というべきである。
そうすると,本願発明の筐体とレンズ板との関係について,筐体の開口部とは,筐体の縁部分を含まない「外に向かって開いた穴の部分」を意味するものと解するのが相当であるから,レンズ板は,少なくとも筐体の開口部を覆っていることが必要であり,かつ,それで足りるというべきであり,原告が主張する筐体の縁部分まで覆っていなくても,本願発明の「筐体の開口部全面が覆われる」との構成を備えているものというべきである。
以上の次第であるから,原告の主張を採用することはできない。
(4)引用例1における灯体ケースと灯蓋との関係審決が,引用発明のルームランプにおける灯蓋について,「灯体ケースの側板部内に嵌入する大きさの縁部を有する蓋体の長手方向の端部の縁において,灯体ケースの鍔に係止する鉤部と突起が設けられたものであり,係止部において灯体ケースの開口部を覆うように,かつ,押釦と当接するように装着され」たものであると認定したことについては,原告も争うものではない(前述のとおり,原告はこのような灯蓋と灯体ケースの関係を「内側の開口部」と主張しているものである。)。そして,前項に述べたとおり,本願発明に係る「筐体の開口部」とレンズ板との関係とは,引用発明の上記のような関係を含むものであることは明らかであり,本願発明のレンズ板及び引用発明の灯蓋は,いずれも「筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成され」ているものと認められるから,審決の上記一致点の認定に誤りはないというべきであり,審決に原告主張の相違点の看過はない。
したがって,原告の主張は失当であり,取消事由1は理由がない。
2取消事由2(相違点についての判断の誤り)について原告は,本願発明の「レンズ板を筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在に軸支する」との構成にすることについて,単に,当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎないとした審決の判断は誤りであると主張するので,以下において検討する。
(1)一対のランプと筐体内に収容する場合の点滅スイッチの配置について,特開平10-283803号公報(甲第2号証)の「図6」及び実願昭58-144335号(甲第3号証)の「第1図」には,それぞれのランプ及びスイッチを中心線に対して線対称に配置する構成(図6においては,2個のスイッチを筐体,すなわちランプハウジングの両端寄りに,第1図においては,2個のスイッチを筐体,すなわちケース本体の中央寄りにそれぞれ配置している。)が記載されていることからすると,筐体内に一対のランプを収容する場合に上記のような構成とすることは,本件特許出願時において周知の事項であったと認めるのが相当であり,これを左右する証拠はない。
そして,引用例1の「実用新案登録請求の範囲」には,灯蓋について,「灯体ケースの端部に一端を係止し他端側が前記係止部を支点として上下に揺動出来前記押釦を介してねじれ軸を弾性部材に抗して押下げ得るようにした前記灯体ケースの開口部を覆う灯蓋」との記載があり,これによれば,灯蓋を軸支する部分を灯蓋の「一方側」としたとき,「プッシュスイッチ」が灯蓋の「他方側」に配置されることは明らかである。
(2)上記(1)によると,引用発明に上記の周知の事項を適用して,筐体に収容するランプを一対とする場合,一対の灯蓋の軸支部分を中央部分とするか,端部(周縁)部分とするかのいずれかを選択するほかないことになるところ,そのいずれの構成とするかは当業者が必要に応じて選択し得る設計的事項であるというほかない。
この点について,原告は,「レンズ板を筐体の開口部に軸支するには,本願発明のように筐体の開口部の中央部分において各々揺動自在に取付ける方法と,レンズ板を筐体の開口部の端部方向において各々揺動自在に取付ける方法とが考えられる」としながらも,そのいずれを選択するかは大きな構成上の相違であるから,設計的事項ではないと主張する。
しかしながら,原告の主張する相違は「隣接した2つのレンズ板を筐体の開口部の端部方向において揺動自在に軸支した場合,夜間の暗い車内で左右何れかのレンズ板を操作しようとしたときに,いずれかのレンズ板の中央部分を押下しなければならないが,2つのレンズ板が隣接しているため僅かのずれによって希望しない方向のレンズ板を押下して間違ったランプを点灯してしまうという問題が発生する。
しかし,本願発明のように一対のレンズ板の軸支部を筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在とすると,希望するランプを点灯する場合には,左右のレンズ板の両端部分を操作することとなるため,操作ミスをすることがなく希望する方向のランプを点灯することができるものである。」というものであり,このような相違は当業者が点滅用スイッチの配置を検討する際に当然考慮に入れるべき一般的技術常識に属する事項による効果というべきである。
そうすると,審決が「筐体の開口部を覆うレンズ板を一対とした場合,軸支部は,筐体の開口部における中央部分か周縁部分の何れかとなることは明らかなことであり,軸支部の配置を決定する際にレンズ板の操作性等を考慮することは当然のことであるから,一対のレンズ板の軸支部を筐体の開口部における中央部分において各々揺動自在とした点は当業者であれば適宜なし得る設計的事項にすぎない」と判断したことに誤りはなく,取消事由2は理由がない。
3取消事由3(本願発明の顕著な効果の看過)について原告は,本願発明は引用発明を含む諸々の周知技術によっては予測できない顕著な作用効果を有するものであるところ,このような効果を「当業者が予測し得る範囲内」であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかるところ,原告の主張する顕著な作用効果とは,「本願発明にあっては,レンズ板が縁部分を含む筐体の開口部の全面にすっぽり被さるように覆っているため,ランプ点灯時において,ランプからの光はレンズ板に照射され,該レンズ板に入光した光は筐体の開口部を覆う平面部から縁部に導入され,筐体の開口部および縁部から導光される。すなわち,レンズ板の全面から光が導出されるので,ルームランプ全体としての輝度値が高くなり,車内を明るく照明することができる」,「ルームランプを車両の天井トリムに取り付けたり,天井トリムに取り付けた眼鏡収納部や空調の吹出口を有するハウジングに装着する場合,車内からはレンズ板のみが見えることとなるので,自動車本体側の天井トリムやハウジングの色合い,材質,風合い等にかかわらず,違和感を与えることなく適応することができる」というものである。
しかしながら,本願発明において「レンズ板」が「筐体の開口部全面が覆われる大きさに形成される」とされていることは,上記1(3),(4)で認定したとおりであり,原告の主張する「縁部分を含む筐体の開口部の全面にすっぽり被さるように覆っている」ものとして本願発明を特定することができないことは,既に説示したとおりであるから,原告主張の効果は本願発明に基づくものということはできないものといわざるを得ない。
したがって,原告の主張は失当であり,取消事由3は理由がない。
第5結論以上のとおりであって,審決取消事由はいずれも理由がないから,本訴請求は理由がなく,これを棄却すべきである。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記