関連審決 | 訂正2006-39064 無効2005-80265 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 技術的意義 / 置き換え / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 交換 / 設定登録 / 訂正審判 / 訂正の許否 / 請求の範囲 / 変更 / 訂正明細書 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10426号
審決取消請求事件
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原告株 式会社コスメック 訴訟代理人弁護士村林隆一 同 井上裕史 訴訟代理人弁理士梶良之 同 桂川直己 被告特 許庁長 官肥塚雅博 指定代理 人菅澤洋二 同 前田幸雄 同 高木彰 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/12/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が訂正2006-39064号事件について平成18年8月18日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「データム機能付きクランプ装置」とする特許第3338669号(平成11年8月3日出願,平成14年8月9日設定登録。 以下「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(甲1)を「本件明細書」という。)の特許の特許権者である。 (2)本件特許については,平成17年9月1日,これを無効とすることを求めて審判の請求があり,無効2005-80265号事件として特許庁に係属した。特許庁は,審理の結果,平成18年1月17日,「特許第3338669号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をした。原告は,この審決を不服として,同年2月9日,上記審決の取消訴訟を提起し,同訴訟は当庁において係属している(当庁平成18年(行ケ)第10056号)。 (3)原告は,平成18年4月28日,本件特許に係る明細書(甲1)の訂正(以下この訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の明細書(甲6)を「本件訂正明細書」という。)を求める審判を請求した。特許庁は,これを訂正2006-39064号事件として審理した結果,平成18年8月18日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 2本件訂正の内容本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1,2の記載は次のとおりである(下線部は,本件訂正に係る箇所である。)。本件訂正は,訂正前の請求項2を削除して,訂正前の請求項3を新たな請求項2に繰り上げる訂正を含むものであり,これに伴って,訂正後の請求項2においては,その先頭において,訂正前の「請求項1又は2に」を「請求項1」に訂正している。 (1)【請求項1】機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材(R)にワークパレット(3)を固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて,上記の基準部材(R)に上記ワークパレット(3)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記ワークパレット(3)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって,上記ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)に開口させたソケット穴(11)に,そのソケット穴(11)に形成されたストレート位置決め孔(12)の軸心方向へ移動自在に支持される環状のシャトル部材(23)を,半径方向の外方の係合位置(X)に切り換えられた係合具(34)が係合する係止孔(13)よりも開口端側に設け,上記ワークパレット(3)の上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)であって,上記の環状のシャトル部材(23)の内周面がテーパ係合するプラグ部分(21)を,上記の基準部材(R)から突設させ,上記の基準部材(R)に設けた上記プラグ部分(21)と上記ワークパレット(3)に形成した上記ストレート位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡大および縮小される前記シャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材(23)の外周のストレート面(27)を上記ストレート位置決め孔(12)に軸心方向へ所定範囲内で移動自在に支持するとともに,同上シャトル部材(23)の内周のテーパ面(28)を上記の基準部材(R)の前記プラグ部分(21)にテーパ係合可能に構成し,そのシャトル部材(23)の上記テーパ面(28)を上記ワークパレット(3)の上記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成し,上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し,上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して,そのプルロッド(31)の外周空間で上記プラグ部分(21)に,半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される前記の係合具(34)を配置し,上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより,そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて,前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ,同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより,同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容し,上記のアンクランプ駆動時には,上記プルロッド(31)の先端が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押圧し,これにより,前記シャトル部材(23)のテーパ面(28)上に係合隙間(α)を形成すると共に,前記の支持面(S)と前記の被支持面(T)との間に接当隙間(β)を形成した,ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置(以下「本件訂正発明1」という。)。 (2)【請求項2】請求項1に記載したデータム機能付きクランプ装置において,前記の基準部材(R)にクリーニング流体の供給口(41)を設けると共に前記プルロッド(31)の先端部分にクリーニング流体の噴出口(42)を設け,上記の供給口(41)と上記の噴出口(42)とを上記プルロッド(31)内の流路(44)によって連通させた,ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置(以下「本件訂正発明2」といい,本件訂正発明1と併せて「本件各訂正発明」という。)。 3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件各訂正発明は,特開平7-314270号公報(甲2。以下「刊行物1」といい,刊行物1記載の発明を「引用発明1」又は「引用発明2」という。)並びに特開昭64-11743号公報(甲3。以下「刊行物2」という。),特許第2784150号公報(甲4。以下「刊行物3」という。)及び米国特許第4747735号公報(甲5。以下「刊行物4」という。)記載の各事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件訂正は許されないというものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,引用発明1,2の内容並びに本件各訂正発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した(なお,審決書23頁25行に「相違点1及び3」とあるのは誤記であり,正しくは「相違点1及び2」であると認める。)。 (1)引用発明の内容ア引用発明1の内容「マシニングセンタ等のテーブル1にメス側テーパブッシュ34を一体化したパレット20を固定する複数のクランプ機構30,30,31,31のうちの2つとして用いられ,上記テーブル1に上記パレット20を心合わせして上記のテーブル1の端面28に上記のパレット20の端面26を固定するようにしたクランプ機構30,30であって,上記パレット20の上記の端面28に開口させた凹部に,メス側テーパ穴25の下部部分と半径方向の外方の係合位置に切り換えられたボール58が係合する環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,上記パレット20の上記凹部へ挿入される環状のオス側テーパピン40であって,半径方向の内方の係合解除位置に切り換えられたボール58を支持したオス側テーパピン40を上記のテーブル1から突設させ,上記オス側テーパピン40の筒孔にピストン51を軸心方向へ移動自在に挿入して,そのピストン51の外周空間で上記オス側テーパピン40に,半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される前記のボール58を配置し,上記のテーブル1に設けた圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を先端方向へクランプ駆動することにより,そのピストン51のテーパ面61が上記のボール58を上記の係合位置へ切り換えて前記の環状溝59へ係合させて,前記パレット20を前記のテーブル1へ向けて移動させ,同上の圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を基端方向へアンクランプ駆動することにより,同上のボール58が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した,クランプ機構30,30。」イ引用発明2の内容「引用発明1において,テーブル1にごみ等を除去するための圧縮空気の供給口を設けるとともに前記テーパピン40の先端部分に圧縮空気の噴出口を設け,上記の供給口と上記の噴出口とを,テーパピン40とテーパブッシュ34との間の流路によって連通させた,クランプ機構30,30。」(2)本件各訂正発明と引用発明1との一致点「機械のテーブル又はクランプパレットからなる基準部材にワークパレットを固定する複数のクランプ装置のうちの少なくとも一つとして用いられて,上記の基準部材(R)に上記ワークパレットを心合わせして上記の基準部材の支持面に上記ワークパレットの被支持面を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって,上記ワークパレットの上記の被支持面に開口させたソケット穴に,位置決め孔と,半径方向の外方の係合位置に切り換えられた係合具が係合する係止孔とを設け,上記ワークパレットの上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を,上記の基準部材から突設させ,上記のプラグ部分の筒孔にプルロッドを軸心方向へ移動自在に挿入して,そのプルロッドの外周空間で上記プラグ部分に,半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される前記の係合具を配置し,上記の基準部材に設けた駆動手段によって上記プルロッドをクランプ駆動することにより,そのプルロッドの出力部が上記の係合具を上記の係合位置へ切り換えて前記の係止孔へ係合させて,前記ワークパレットを前記の基準部材へ向けて移動させ,同上の駆動手段によって上記プルロッドをアンクランプ駆動することにより,同上の係合具が係合解除位置へ切り換わるのを許容する,データム機能付きクランプ装置。」である点。 (3)本件各訂正発明と引用発明1との相違点ア本件各訂正発明では,プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより,前記ワークパレット(3)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ,上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動するアンクランプ駆動時には,上記プルロッド(31)の先端が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押圧し,これにより,前記シャトル部材(23)のテーパ面(28)上に係合隙間(α)を形成すると共に,前記の支持面(S)と前記の被支持面(T)との間に接当隙間(β)を形成するようにしたのに対して,引用発明1では,プルロッドを先端方向へクランプ駆動することによってワークパレットを基準部材へ向けて移動させるものであり,また,プルロッドを基端方向へアンクランプ駆動するものであって,そのアンクランプ駆動されたプルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げるものではない点(以下「相違点1」という)。 イ本件各訂正発明では,ワークパレット(3)の上記の被支持面(T)に開口させたソケット穴(11)に,そのソケット穴(11)に形成されたストレート位置決め孔(12)の軸心方向へ移動自在に支持される環状のシャトル部材(23)を,半径方向の外方の係合位置(X)に切り換えられた係合具(34)が係合する係止孔(13)よりも開口端側に設け,上記ワークパレット(3)の上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)であって,上記の環状のシャトル部材(23)の内周面がテーパ係合するプラグ部分(21)を,上記の基準部材(R)から突設させ,上記の基準部材(R)に設けた上記のプラグ部分(21)と上記ワークパレット(3)に形成した上記ストレート位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡大および縮小される前記シャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材(23)の外周のストレート面(27)を上記ストレート位置決め孔(12)に軸心方向へ所定範囲内で移動自在に支持するとともに,同上シャトル部材(23)の内周のテーパ面(28)を上記の基準部材(R)の前記プラグ部分(21)にテーパ係合可能に構成し,そのシャトル部材(23)の上記テーパ面(28)を上記ワークパレット(3)の上記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成し,上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢しているのに対し,引用発明1では,位置決め孔はメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成したものであり,シャトル部材を備えておらず,そのシャトル部材とプラグ部分とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点(以下「相違点2」という。)。 (4)本件訂正発明2と引用発明2との相違点本件訂正発明2と引用発明2とは,上記(3)の相違点1及び2に加えて,次の相違点3において相違する。 本件訂正発明2では,クリーニング流体の噴出口(42)をプルロッド(31)の先端部分に設け,クリーニング流体の流路(44)をプルロッド(31)内に設けているのに対して,引用発明2は,クリーニング流体の噴出口をプルロッドの先端部分ではないテーパピン40の先端部分に設け,クリーニング流体の流路を,プルロッド内ではなく,テーパピン40とテーパブッシュ34との間に設けている点(以下「相違点3」という。)。 第3原告主張の取消事由審決には,下記のとおりの取消事由(取消事由1ないし8)が存するところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。 1取消事由1(相違点2の認定の誤り)本件訂正発明1における「位置決め孔」の形状は「ストレート」形状の「位置決め孔」に限定されているにもかかわらず,審決は,相違点2の認定において当該相違点を看過している。 2取消事由2(相違点1の判断の誤り)引用発明1は,ワークパッドのクランプ装置であるのに対し,刊行物4記載の事項はツールホルダーに関する技術であり,両者はその技術的課題等を異にするものであるから,当業者において,これらを組み合わせることは容易に想到し得たものではない。 3取消事由3(相違点2の判断の誤り・その1)審決は,本件訂正発明1と引用発明1を対比して抽出した相違点を,さらに細分化し,それぞれの細分化された構成が,各刊行物に記載されているとして,当業者において本件訂正発明1が容易想到であると認定する。しかしながら,上記認定は,各構成の技術的な一体性を看過し,各刊行物に記載された構成を,事後的な視点から恣意的に組み合わせたものであり,進歩性の判断手法として誤りである。 すなわち,審決は,相違点2を,?@係止孔と位置決め孔及びシャトル部材の位置関係,?Aシャトル部材と弾性部材について,?B位置決め孔とプラグ部分について,の3つに分けて検討している。しかし,発明は単に各構成の集合体ではなく,各構成同士が相互に作用し,目的とする作用効果を奏するものであるから,本件訂正発明1の構成を把握する上で,同一の作用に関連した構成を一塊りとして分説し,相違点を抽出することはよいとしても,その分説した相違点をさらに細分割して,それぞれの構成が,各刊行物に記載されていることを理由に進歩性を判断することは許されない。 4取消事由4(相違点2の判断の誤り・その2)(1)審決は,刊行物2の「リング22」について,「プラグ部分の軸線方向に相対移動自在であるテーパ面が形成された部材という限りにおいて,本件訂正発明1と同様,『シャトル部材』ということができるものである。」と認定したが,誤りである。 すなわち,?@本件訂正発明1の「シャトル部材」は,軸心方向へ移動自在に支持される部材であるのに対し,刊行物2の「リング22」は,スプリング26により肩材19,19’内に固定支持され,軸心方向へ移動自在の構成ではなく,?A本件訂正発明1の「シャトル部材」は,位置決め孔(12)に支持された移動自在の独立の物品であり,よって,ワークパッド(3)の位置決めをするのは当該部材ではなく,「位置決め孔(12)」であるのに対し,刊行物2の「リング22」は,肩材19,19’の一部であって,独立の部材ではなく,?B本件訂正発明1の「シャトル部材」に関する「軸心方向へ移動自在」とは,被支持面と支持面との両者を確実に接当させる程度にシャトル部材そのものが全体的に大きく変位することを意味し,刊行物2の「リング22」の弾発動作(金属の弾性変形)によるごく僅かな変位を意味しているのではなく,両者はその技術的意義が異なり,?C本件訂正発明1の「シャトル部材」は,直径方向へ拡大及び縮小されることにより,その外周面及び内周面が直径方向へ拡大及び縮小されるのに対し,刊行物2の「リング22」は,その外周面が直径方向へ拡大及び縮小し得ないから,「リング22」は「シャトル部材」に該当しない。 よって,刊行物2の「リング22」は,部材の独立性・機能の点で,本件訂正発明1の「シャトル部材」に該当しない。 (2)審決は,「刊行物2における前記リング22は,特にFIG1及び2の記載からみて上下2つのスプリング26により固定支持されており,いわゆる平行ばねとして弾発動作する。」と認定するが,リング22に設けた上下のスプリング26,26は,技術的な意義において「平行ばね」には該当しないから,上記誤った認定に基づく相違点2の判断も誤りである。 被告は,乙1に,取付軸58が2枚の板ばね材62からなる平行ばね機構により軸心方向に移動されることが記載されていることを理由に,スプリング26が平行ばねとして機能すると主張する。しかし,刊行物2のスプリング26は,テーパ密着のための弾性力を有しつつも,ワークパレット2に加わる水平方向の力に耐え得る横剛性が必須であるのに対し,乙1の平行ばね機構は,軸方向の変位を達成するために極めて薄い肉厚の板ばね材から構成され,横剛性が小さいから,スプリング26と異なる。よって,被告の主張は理由がない。 5取消事由5(相違点2の判断の誤り・その3)審決は,相違点2の判断において,「係止孔」及び「シャトル部材」と「被支持面(開口端)」との位置関係の判断を遺脱しており,誤りがある。 すなわち,本件訂正発明1では,「係止孔」,「シャトル部材」,「被支持面」の順に構成されているのに対し,刊行物2記載の事項では,「係止孔」,「被支持面」,「リング22」の順に構成されており,仮に「リング22」が「シャトル部材」に相当するとしても,それらの位置関係は異なり,具体的な二面拘束構造が異なるにもかかわらず,審決はこの位置関係の判断を看過している。 6取消事由6(相違点2の判断の誤り・その4)引用発明1に刊行物2記載の「リング22」を適用するについては,下記の阻害事由が存在するから,引用発明1に刊行物2記載の事項を適用して,本件訂正発明1の構成に想到することはできない。 (1)刊行物1には,位置決め精度の向上を実現するために,押圧点Sが,互いに密接する両端面26,28の近傍に位置することが必須であることが開示されている(段落【0033】)。これに対し,引用発明1の別紙「γ」部分に,刊行物2記載の「リング22」を適用すれば,「γ」部分の高さ方向の寸法は高くなるから,押圧点Sが両端面26,28から遠ざかることになり,引用発明1の作用を実現するための必須の構成が実現できない(以下「原告主張の阻害事由1」という。)。 (2)刊行物2の「リング22」によって位置決めさせるためには,引用発明1の「テーパブッシュ34」の上側部分の「テーパ穴25」が「テーパピン40」の「テーパ面27」と係合しないように改造しなければならず,そもそも「テーパ面27」と「テーパ穴25」を係合させて二面拘束状態を達成するとした引用発明1の位置決め作用(甲2段落【0026】)を阻害するし,「テーパブッシュ34」の改造も必要となる(以下「原告主張の阻害事由2」という。)。 (3)引用発明1には,ワークパレットを精密かつ強力に固定するために,テーパ穴25にテーパ面27が密着する構成を採用している。これに対して,引用発明1の別紙の「γ」部分に刊行物2の「リング22」を適用して,リング22が位置決め機能を発揮するためには,テーパ穴25とテーパ面27との間には,いわゆる「あそび」となる隙間を設ける必要がある。よって,刊行物2記載の「リング22」を引用発明1に適用すれば,引用発明1の上記構成を阻害する(以下「原告主張の阻害事由3」という。)。 7取消事由7(相違点2の判断の誤り・その5)引用発明1は,ワークパレットのクランプ装置であるのに対し,刊行物3記載の事項はツールホルダーに関する技術であり,両者はその技術課題等を異にするものであるから,当業者において,これらを組み合わせることは容易に想到し得たものではない。 8取消事由8(相違点3の判断の誤り)(1)本件訂正発明2の特許請求の範囲は,クリーニング流体の流路を「上記の供給口(41)と上記の噴出口(42)とを上記プルロッド(31)内の流路(44)によって連通させた」構成に限定している。さらに,当該クリーニング流体の噴出口についても,「前記プルロッド(31)の先端部分にクリーニング流体の噴出口(42)を設け」として,その設置箇所を限定している。 これに対して,引用発明2のクリーニング流体の流路及び噴出口は,本件訂正発明2の構成と異なるのであるから,引用発明2から当業者が本件訂正発明2に容易に想到するとの審決の判断は誤りである。 (2)当業者が,本件訂正発明2に想到するためには,引用発明2に,刊行物2ないし4記載の各事項を適用する必要があるところ,刊行物4記載の事項を引用発明2に適用した場合,その引用発明2のクリーニング流体の噴出口(エアーブロー用の小孔48)は,その機能を奏しないこととなり,両技術を組み合わせることには矛盾がある。 第4被告の反論審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1取消事由1(相違点2の認定の誤り)に対し審決は,相違点2に関して,本件訂正発明1の「位置決め孔」について「ストレート位置決め孔(12)」と認定しており,相違点2の認定に誤りはない。 2取消事由2(相違点1の判断の誤り)に対し引用発明1と刊行物4記載の事項とは,ともに工作機械に使用されるクランプ装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,技術分野を共通にする。そして,刊行物1には,テーパ係合に端面同士の密着を加えた二面拘束を行うことが示されているから,引用発明1に刊行物4に記載の事項の二面拘束構造を組み合わせることは当業者が容易になし得ることである。 したがって,引用発明1に刊行物4に記載の事項を組み合わせることに困難性はないから,審決における相違点1の判断に誤りはない。 3取消事由3(相違点2の判断の誤り・その1)に対し審決は,?@係止孔と位置決め孔及びシャトル部材の位置関係について,刊行物2に記載された基準部材に設けたプラグ部分と被固定部材とをシャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項に基づいて判断し,?Aテーパ面を有するシャトル部材と弾性部材とをプラグ部分に設けることについて,刊行物2に記載された前記シャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項に基づき,刊行物2に記載の事項を適用するに当たり,具体的なシャトル部材の係合構造については刊行物3に記載された事項を採用することにより容易になし得たと判断し,?B引用発明1に刊行物2及び刊行物3に記載の事項を採用することにより位置決め孔とプラグ部分の構成が本件訂正発明1の構成となることが自明の事項であると判断したものである。 したがって,上記?@ないし?Bについては,基本的には刊行物2に記載された事項に基づき,それぞれ,基準部材に設けたプラグ部分と被固定部材とをシャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項と関連づけて容易になし得たと判断したものであり,細分化された構成が単に各刊行物に記載されているとして容易想到と判断したものではない。すなわち,相違点2についての判断は,?@ないし?Bの相互の関係を考慮してされたものであり,?@ないし?Bを一体と捉えて当業者が容易になし得たものと判断したものであることは明らかである。 よって,上記判断手法に誤りはなく,相違点2について当業者が容易に想到できたものであるとした審決の判断にも誤りはない。 4取消事由4(相違点2の判断の誤り・その2)に対し(1)刊行物2には,「これらのスプリング26の配置により,リング22従ってその円錐面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作可能となる。」と記載されている。そうすると,「リング22」は,軸16と平行な方向に弾発動作可能,すなわち軸心方向に移動自在であることは明らかである。 (2)原告は,スプリング26,26は,技術的な意義において「平行ばね」には該当しないと主張する。しかし,乙1に,取付軸58が,2枚の板ばね部材62からなる平行ばね機構により軸心方向に移動されることが記載されているように,刊行物2において,上下のスプリング26が平行ばねとして機能し,リング22が軸心方向に移動自在であることは明らかである。したがって,リング22がそもそも軸心方向に移動自在の構成ではないとの原告の主張は失当である。そして,リング22は,移動自在であることから独立の部材といえる。 以上のとおりであるから,「リング22」が,「プラグ部分の軸線方向に相対移動自在であるテーパ面が形成された部材という限りにおいて,本件訂正発明1と同様,「シャトル部材」ということができる」とした審決の判断に誤りはない。 5取消事由5(相違点2の判断の誤り・その3)に対し審決は,被支持面(開口端),テーパ位置決め孔下部部分,係止孔,テーパ位置決め孔上部部分の順に形成されている引用発明1における係止孔と位置決め孔との位置関係を,刊行物2に記載の,シャトル部材(位置決め孔)を係止孔より基準部材側に設けるという事項のように変更してシャトル部材(位置決め孔)を係止孔よりも開口端側に設けることは当業者が容易になし得た事項であると判断している。すなわち,審決では,被支持面(開口端)との位置関係も含めて判断しており,被支持面(開口端)との位置関係を看過したものではなく,相違点2の判断に遺脱はない。 6取消事由6(相違点2の判断の誤り・その4)に対し(1)原告主張の阻害事由1に対し引用発明1に刊行物2に記載の事項を採用する上で各部材の寸法等をどの程度にするかは当業者が適宜設定し得る事項であるから,別紙「γ」部分の高さを変えないように設定することも可能であり,「γ」部分の高さ方向の寸法が増加するとの根拠はない。 (2)原告主張の阻害事由2に対し引用発明1に刊行物2記載の事項を適用するということは,引用発明1の構成を変更して刊行物2記載の事項のように構成することであるから,上側部分のテーパ穴及びテーパブッシュの改造が必要となることが格別阻害要因になるということはできない。 (3)原告主張の阻害事由3に対し刊行物2には,「ハウジング3の円錐面15が工作テーブル2の円錐面25に係合したときのリング22の弾性のため両ストッパ面17および21同士の当接は確実に行なわれる。」と記載されており,リング22が軸心方向に弾発動作すなわち移動自在であることにより,テーパ穴とテーパ面,及び端面同士の二面拘束が行われるものである。そうすると,引用発明1におけるテーパ穴とテーパ面とを刊行物2記載の事項のように構成することにより端面同士の当接と同時にテーパ穴とテーパ面との密着ができるものである。 したがって,リング22が位置決め機能を発揮するために「あそび」となる隙間が必要であったとしても,そのことがテーパ穴とテーパ面とが密着する構成を阻害し,強固な二面拘束状態を損なうということはできない。 7取消事由7(相違点2の判断の誤り・その5)に対し引用発明1と刊行物3に記載の事項とは,共に工作機械に使用されるクランプ装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,技術分野を共通にする。そして,刊行物1には,テーパ係合に端面同士の密着を加えた二面拘束を行うことが示されているから,引用発明1に刊行物3に記載の事項の二面拘束構造を組み合わせることは当業者が容易になし得ることである。 したがって,引用発明1に刊行物3に記載の事項を組み合わせることに困難性はないから,審決における相違点2の判断に誤りはない。 8取消事由8(相違点3の判断の誤り)に対し引用発明2において,クリーニング流体の流路はテーパピン40とテーパブッシュ34との間に設けられ,噴出口はテーパピン40の先端部分に設けられているが,クリーニング流体の流路及び噴出口は,クリーニング流体をクランプ装置内に導くことができるものであれば,係合部分の清掃及び密着の確認という機能を発揮できることは明らかである。 そうすると,審決で判断したとおり,引用発明2に刊行物4記載の事項を採用してプルロッドを用いるに当たり,流路をプルロッド内に設け,噴出口をプルロッドの先端部分に設けることは当業者が容易になし得る程度の設計的事項にすぎないというべきである。 したがって,審決の相違点3の判断に誤りはない。 第5当裁判所の判断1本件訂正明細書(甲1,6)及び刊行物1ないし4(甲2ないし5)の各記載(1)本件訂正明細書(甲1,6)には,次の記載がある。 ア「上記の請求項1の発明は次の作用効果を奏する。 基準部材にワークパレットをクランプするときには,まず,シャトル部材のテーパ面のガイド作用によって上記のワークパレットが自動的に調心移動されて,そのワークパレットの位置決め孔の軸心が上記の基準部材のプラグ部分の軸心に精密に合致する。次いで,上記シャトル部材が弾性部材を圧縮して軸心方向へ移動し,上記のワークパレットの被支持面が上記の基準部材の支持面によって受け止められる。このため,上記のワークパレットは,上記シャトル部材のテーパ面を介してプラグ部分によって拘束されると共に上記の支持面によっても拘束される。その結果,そのワークパレットを基準部材に精密かつ強力に位置決め固定できる。」(段落【0005】)。 イ「より詳しくいえば,上記の環状のシャトル部材23は,その内周面をストレート面27によって構成すると共に外周面をテーパ面28によって構成してあり,その環状壁にスリットを設けたり又は内周面に溝を設けたりすることにより(いずれも図示せず),上記のテーパ面28及びストレート面27が直径方向へ拡大および縮小可能になっている。また,上記ストレート面27を上記プラグ部分21の外周面に軸心方向へ移動自在に支持してある。上記テーパ面28は,前記のテーパ位置決め孔12にテーパ係合するように上向きにすぼまるように形成してある。‥‥‥」(段落【0019】)。 ウ「‥‥‥また,前記シャトル部材23が前記の皿バネ24によって上昇位置に保持されている。‥‥‥」(段落【0022】)。 エ「上記の図3の状態で前記の油圧室18の圧油を前記の給排路48から排出すると,前記クランプバネ19がピストン17を介してプルロッド31を強力に下降させていく。すると,まず,上記プルロッド31の下降に追従して前記ワークパレット3が自重で下降していき,前記のテーパ位置決め孔12が前記シャトル部材23のテーパ面28に接当する。これにより,上記ワークパレット3が上記シャトル部材23を介して前記の皿バネ24を僅かに圧縮すると共に,上記テーパ位置決め孔12が調心移動されて,その軸心が前記プラグ部分21の軸心に合致する。」(段落【0025】)。 オ「これとほぼ同時に,図4に示すように,上記プルロッド31の各押圧面36が前記の各ボール34を半径方向の外方の係合位置Xへ押圧し,その半径方向の押圧力が前記のテーパ係止孔13を介して下向きの力へ変換され,その下向き力によって上記ワークパレット3を強力に下降させる。 すると,前記のテーパ位置決め孔12が前記シャトル部材23のテーパ面28に強力にテーパ係合して調心移動されて,そのテーパ位置決め孔12の軸心が前記プラグ部分21の軸心に精密に合致すると共に,前記の皿バネ24に抗して上記シャトル部材23がさらに下降され,前記の被支持面Tが前記の支持面Sによって受け止められる。これにより,上記ワークパレット3は,上記シャトル部材23のテーパ面28を介してプラグ部分21によって水平方向へ拘束されると共に上記の支持面Sによって上下方向へ拘束されることになり,その結果,上記のワークパレット3を上記クランプパレット2に精密かつ強力に位置決め固定できる」(段落【0026】)。 (2)刊行物1(甲2)には,次の記載がある。 ア「【産業上の利用分野】本発明は,パレットのクランプ装置に関し,特に工作機械のテーブルに対してパレットを正確に位置決めするパレットのクランプ装置に関する。」(段落【0001】)イ「従来のパレットのクランプ装置としては,‥‥‥実開昭63-4239号公報及び実開平5-26241号公報のように,テーパ面を有する複数(通常4個)のコーンパッド(テーパピン)を,テーパ穴を有するテーパブッシュにそれぞれ装着してパレットをクランプするものが提案されている。」(段落【0003】)ウ「一方,後者のクランプ装置では,コーンパッドとテーパブッシュとがテーパ部で密着するので水平方向の精度は比較的良いが,端面が非接触なので縦方向(例えば上下垂直方向)の繰り返し精度のばらつきが大きかった。また,テーパ部のみでクランプしているのでクランプ力が弱く,パレットを強固にクランプすることが難しかった。そのため,ワーク加工中にパレットに反力が加わるとパレットが不安定となって動くこともあり,加工精度が低下する虞れがあった。」(段落【0005】)エ「本発明は,斯かる課題を解決するためになされたもので,横方向と縦方向双方の繰り返し位置決め精度が高精度で且つパレットを強固にクランプできるパレットのクランプ装置を提供することを目的とする。‥‥‥」(段落【0006】)。 オ「【作用】本発明においては,パレット側装着部のメス側テーパ穴及び端面に,テーブル側のオス側テーパ面及び端面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束とし,またこの構造のクランプ機構を少なくとも4組設けてパレットをテーブルに装着している。‥‥‥」(段落【0011】)カ「図1及び図2に示すように,クランプ装置22は,少なくとも4組のクランプ機構30,31を備えている。クランプ機構30,31は,パレット20の裏面23側に設けられたパレット側装着部24のメス側テーパ穴25及び端面26に,テーブル1に設けられたオス側テーパ面27及び端面28をそれぞれ密着させて,パレット20をテーブル1に着脱可能に装着している。これにより,パレット側装着部24はテーブル1に対してテーパ面部と端面部との二面拘束によりクランプされる。」(段落【0020】)キ「テーパブッシュ34及びテーパピン40は,テーパ穴25にテーパ面27が密着し,且つ平面状のメス側端面26に平面状のオス側端面28が密着して二面拘束状態になるように高精度に形成されている。」(段落【0026】)ク「なお,両端面26,28の密着の有無の確認のために,テーパピン40には,端面28に開放する空気流路63が形成されている。また,圧縮空気により矢印Dに示すようにエアーブローをしてテーパピン40とテーパブッシュ34との間の密着部のごみ等を除去するための空気流路64が,テーパピン40及びテーブル1に形成されている。これにより,クランプ装置22の密着部が常に清浄な状態に保たれ,高精度でクランプされる。」(段落【0032】)ケ「また,本実施例では‥‥‥押圧点Sが,互いに密着する両端面26,28の近傍に位置するようになっている。また,各押圧点Sはクランプ機構30,31の中心位置から半径方向外方にかなり離れた位置にある。 従って,テーパピン40に対してテーパブッシュ34が傾くことなく安定した姿勢で装着されることとなり,位置決め精度が向上する。」(段落【0033】)コ「次いで,油圧装置を動作させて流路54を介して圧油を下側シリンダ室52に供給すると,ピストン51は油圧とばね57のばね力により押し上げられる。すると,ピストン上部のテーパ面61に押圧されたボール58が,テーパピン40の半径方向外方に押されて,環状溝59側に移動する。ボール58は,テーパピン40の貫通孔65内に遊嵌されているので,貫通孔65の上部内周面66に当接した状態でテーパブッシュ34のテーパ状底面60を矢印Pに示すように略下方に押圧する。これにより,テーパブッシュ34はテーパピン40側に強く引っ張られる。 こうしてピストン51が十分に上昇すると,ボール58の押圧力を介してテーパブッシュ34とテーパピン40とはテーパ面部と端面部とが二面拘束状態で強い圧力で密着してクランプ状態となる。その後,ワーク21を加工する作業工程に移行する。」(段落【0035】)サ図3テーパピン40に形成された右側の空気流路64に示された矢印(符号無し)は,ピストン51に向かっている。また,テーパピン40の内方においてピストン51の上側部外側を始端とする矢印D(図3中で右側)は,ピストン51の頂部を経て,テーパピン40の上端開口部を覆うキャップ47に穿設された小孔48を通ってテーパピン40の外方(メス側テーパ穴25内)を指向している。テーパピン40の外方においてテーパブッシュ34に形成された環状溝59内を始端とする矢印D(図3中で左側)は,テーパピン40の貫通孔65を通ってテーパピン40とピストン51との間を経て,テーパピン40に形成された空気流路64内に入り,空気流路64内をピストンから離れる方向に向かっている。さらに,その下流側に示された矢印(符号無し)は,空気流路64内にて,さらにピストンから離れる方向に向かっている。 (3)刊行物2(甲3)には,次の記載がある。 ア「[実施例]‥‥‥図面において,1は装置テーブルを示し,2は工作テーブルまたは固定台を示す。工作テーブル1(判決注:「装置テーブル1」の誤記と認められる。)には‥‥‥円筒形ハウジング3が固定される。 ‥‥‥ハウジング3にはさらに上部外周部に切頭円錐面15‥‥‥が設けられる。 工作テーブル(固定台)2は‥‥‥凹所18を有しその縁部には環状の肩材19が設けられる。この肩材19の上面には凹所18内の方向に面するクランプ面20が形成され下面にはストッパ面21が形成される。この環状肩材19のフランジ部19’にはリング22が固定される。この環状肩材19,19’は‥‥‥工作テーブル2に固定される。リング22の内面にはハウジング3の円錐面15と協働するための円錐面25が形成される。リング22はその外周部に2つの半径方向のスプリング26を有し,これらのスプリングによりリング22が肩材19,19’内に固定支持される。これらのスプリング26の配置により,リング22従ってその円錐面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作可能となる。」(2頁右下欄14行〜3頁右上欄15行)。 イ「・・この環状肩材19のフランジ部19’にはリング22が固定される。・・リング22はその外周部に2つの半径方向のスプリング26を有し,これらのスプリングによりリング22が肩材19,19’内に固定支持される。これらのスプリング26の配置により,リング22従ってその円錐面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作可能となる。」(3頁右上欄3行〜15行)。 ウ「‥‥‥締付け手段9は第2図に示すように内側に回転する。これにより,鼻部12は肩材19のクランプ面20から離れる。この状態で工作テーブル2のストッパ面21をハウジング3のストッパ面17上に当接させ工作テーブル(固定台)2を装置テーブル1上に装着することができる。これにより,工作テーブル2のZ方向の位置は正確に位置決めされる。ハウジング3の円錐面15が工作テーブル2の円錐面25に係合したときのリング22の弾性のため両ストッパ面17および21同士の当接は確実に行なわれる。両円錐面15および25により工作テーブル2は装置テーブル1上のXおよびY方向(第2図)の正確な位置に固定される。」(3頁左下欄6〜19行)(4)刊行物3(甲4)には,次の記載がある。 ア「前記従来の工具ホルダーは,そのフランジ部の外周面に凹設された周溝部を自動工具交換装置のアームで把持することにより,工作機械の主軸のテーパ孔に着脱自在に装着される。この装着の時,スリーブ外周面のテーパ面が主軸のテーパ孔に嵌合し,主軸端面とフランジ端面との間には,所定の間隙が形成されている。」(段落【0005】)イ「そして,主軸に内装された引張手段により工具ホルダーが主軸内方に引き込まれることによりフランジ端面が主軸端面に当接する。このとき,スリーブは,弾性部材によって押圧され,主軸のテーパ孔との結合を強固にすると共に,スリーブの内径が縮径して,スリーブとシャンク部との結合が強化される。即ち,前記従来の工具ホルダーは,工作機械の主軸のテーパ孔と工具ホルダーのシャンク部のテーパ面,及び,主軸端面と工具ホルダーのフランジ部端面の二個所で主軸に密着当接し,且つ,スリーブとシャンク部との結合を強化することにより,同じ引っ張り力において,テーパ孔とテーパ面の一個所のみにより結合されるものよりも強固な結合剛性を得ようとするものであった。」(段落【0006】)ウ「‥‥‥本発明の工具ホルダーは,工作機械の主軸1のテーパ孔2に嵌合するスリーブ3と,‥‥‥シャンク部4と一体的に設けられて前記主軸の端面に当接するフランジ部5と‥‥‥」(段落【0017】【実施例】),エ「前記フランジ部5のシャンク部側の端面は,前記工作機械の主軸1の端面に面接当する‥‥‥」(段落【0021】),オ「‥‥‥このプルスタッド14の外周部に前記シャンク部4の外径よりも大径とされた突出部16を有し,該突出部16が前記スリーブ3の抜け止めを行っている。この突出部16とスリーブ3との間にプリロード付与手段17が介在されている。」(段落【0023】)カ「このプリロード付与手段17は,‥‥‥スリーブ端面とフランジ面5の平坦面との組立距離を一定にするものである。」(段落【0024】)キ「このとき,主軸1のテーパ孔2と,工具ホルダーのスリーブ3のテーパ面とが密着嵌合する。‥‥‥」(段落【0029】)ク「このとき,スリーブ3は弾性部材6の圧縮による反発力により軸方向に押圧され,該押圧力により,スリーブ3のテーパ面と主軸1のテーパ孔2とのテーパ接触結合が得られる。‥‥‥」(段落【0031】)ケ図1によると,主軸1の端面と工具ホルダーのフランジ部5のシャンク部側の端面とが密着し,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダーのスリーブ3の外周面に形成されたテーパ面とが密着している。 (5)刊行物4(甲5)には,図2と共に次の記載がある。 ア「この前向き回転面52は,半径方向内側に面しており,後方側に向かって小径化するようにテーパになっており,図示のように好ましくは円錐状であり,シャンク14の第1回転面20と同じ角度でテーパ化している。 シャンク14の第1回転面20と穴の前向き回転面52は,弾性的に互いに締り嵌めされると,ツールホルダ10の後向き面16がツール支持部材34の前向き面54に当接する」(4欄19行〜29行)。 イ図2ツール支持部材34の前向き面52とツールホルダの後向き面16とが密着し,ツール支持部材34の穴51の前向き回転面52(テーパ)とツールホルダのシャンク14の第1回転面20(テーパ)とが密着している。 2取消事由1(相違点2の認定の誤り)について審決は,相違点2の認定に当たって,位置決め孔が「ストレート」位置決め孔か否かについて明示的に認定していないが,本件各訂正発明では「ストレート位置決め孔」と認定しているのに対し,引用発明1では単に「位置決め孔」と認定しており,両者の位置決め孔を区別して認定している。 そして,審決は,相違点2の判断において,「(ii)シャトル部材と弾性部材について‥‥‥刊行物3記載の事項では,シャトル部材とプラグ部分及び位置決め孔のそれぞれの対向面であるストレート面とテーパ面が設けられる部位が訂正発明1とは逆となっているが,プラグ部分と位置決め孔の間にテーパ係合を利用して係合させるためのシャトル部材を配置するに当たり,いずれの対向面にテーパ面及びストレート面を採用するかは設計的事項にすぎないものであり,しかも,刊行物2には,内周にテーパ面を有しプラグの軸線方向へ移動自在のリングによりプラグ部分の円錐面とテーパ係合させることが記載されている。」(21頁2行〜22頁1行),「(iii)位置決め孔とプラグ部分について引用発明1に上記刊行物2及び3記載の事項を採用することにより,位置決め孔が「シャトル部材(23)の外周のストレート面(27)を上記ストレート位置決め孔(12)に軸心方向へ所定範囲内で移動自在に支持する」ものとなること,及び,プラグ部分が「環状のシャトル部材の内周面がテーパ係合するプラグ部分」となることは自明の事項である。」と説示しており,引用発明の「位置決め孔」が「ストレート位置決め孔」ではないことを前提に引用発明の「位置決め孔」の形状をストレートとすることの容易想到性を判断しているといえる。 したがって,審決は,本件各訂正発明と引用発明1とにおいて,位置決め孔が「ストレート」位置決め孔か否かについて相違点2において認定しているというべきであり,原告の主張は採用できない。 3取消事由2(相違点1の判断の誤り)について(1)前記1で認定した刊行物1の記載によると,引用発明1は,工作機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定するクランプ装置において,パレット側装着部の端面及びメス側テーパ穴に,テーブル側の端面及びオス側テーパ面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束によりクランプするという構成を採用したものであると認められる。これに対し,「刊行物4記載の事項」が「ツール支持部材34にツールホルダ10のシャンク14を固定するようにしたクランプ装置において,ロックロッド38を基端方向へクランプ駆動することによってシャンク14をツール支持部材へ向けて移動させるものであり,また,ロックロッド38を先端方向へアンクランプ駆動するものであって,そのアンクランプ駆動により,ロックロッド38がシャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68を押し上げる」ものであることは当事者間に争いがないところ,上記事項に加えて,前記1で認定した刊行物4の記載を併せ考慮すると,刊行物4には,ツール支持部材34にツールホルダ10のシャンク14を固定するクランプ装置において,第1回転面20(テーパ)と前向き回転面52(テーパ)とのテーパ係合及び後向き面16と前向き面54との端面密着の二面拘束を行うものであることが記載されていると認められる。そして,引用発明1の「工作機械のテーブル又はクランプパレット」と刊行物4記載の事項の「ツール支持部材34」は,その構造及び機能からみて,本件各訂正発明の「基準部材(R)」に相当し,引用発明1の「ワークパレット」と刊行物4記載の事項の「ツールホルダ10」は,被固定部材という限りにおいて本件各訂正発明の「ワークパレット(3)」に相当するといえる。 そうすると,引用発明1と刊行物4記載の事項とは,基準部材に被固定部材を固定するクランプ装置である点で技術分野を共通にし,テーパ係合によって心合わせしつつ固定するテータム機能付きのクランプ装置であり,かつ,テーパ係合に端面同士の密着を加えた二面拘束を行うものであって,その構造及び機能を共通にするものである。よって,両者を組み合わせることは容易に想到し得るところである。 (2)原告は,引用発明1の二面拘束構造の一部の構造を刊行物4に記載された二面拘束構造の一部の構成に置き換える動機付けはないと主張するが,前記認定判断したとおり,両者は技術分野のみならずその構造及び機能が共通であり,両者を組み合わせる動機付けは存在するというべきである。原告の主張は採用できない。 4取消事由3(相違点2の判断の誤り・その1)について審決は,?@係止孔と位置決め孔及びシャトル部材の位置関係について,刊行物2に記載された基準部材に設けたプラグ部分と被固定部材とをシャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項に基づいて判断し,?Aテーパ面を有するシャトル部材と弾性部材をプラグ部分に設けることについて,刊行物2に記載された前記シャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項に基づき,刊行物2に記載の事項を適用するに当たり,具体的なシャトル部材の係合構造については刊行物3に記載された事項を採用することにより容易になし得たと判断し,?B引用発明1に刊行物2及び刊行物3に記載の事項を採用することにより位置決め孔とプラグ部分の構成が本件各訂正発明の構成となることが自明の事項であると判断したものである。 したがって,審決は,相違点2の判断に当たって,上記?@ないし?Bについては,刊行物2に記載された事項に基づき,それぞれ,基準部材に設けたプラグ部分と被固定部材とをシャトル部材を用いてテーパ係合させるという事項と関連づけて容易になし得たと判断したものである。相違点2についての判断は,?@ないし?Bの相互の関係を考慮してされたものであり,?@ないし?Bを一体と捉えて当業者が容易になし得たものと判断したものであり,それらを別個独立に判断したものではない。 したがって,審決の上記判断手法に誤りはなく,原告の主張は失当である。 5取消事由4(相違点2の判断の誤り・その2)について(1)前記1で認定した刊行物2の記載によると,「リング22」は「軸16」と平行な方向に弾発動作可能とされているのであるから,軸心方向に移動自在であることは明らかである。よって,「リング22」が本件各訂正発明の「シャトル部材」に相当すると判断した審決の判断に誤りはない。 (2)原告は,本件訂正発明1の「シャトル部材」は,位置決め孔(12)に支持された移動自在の独立の物品であるのに対し,刊行物2の「リング22」は,肩材19,19’の一部であって,独立の部材ではないから,「リング22」は本件訂正発明1の「シャトル部材」に相当しないと主張する。 しかし,刊行物2の「FIG.1」及び「FIG.2」によると,「リング22」は「環状肩材19」とは別の部材として図示されているし,前記1で認定した刊行物2の記載においても,「リング22」はスプリング26を通して環状肩材19内に固定されているというにとどまり,両者が一体の部材であると記載されているわけではない。さらに,上記(1)において述べたとおり,「リング22」は移動可能な部材である。よって,原告の主張は採用できない。 (3)原告は,本件訂正発明1の「シャトル部材」に関する「軸心方向へ移動自在」とは,被支持面と支持面との両者を確実に接当させる程度にシャトル部材そのものが全体的に大きく変位することを意味し,刊行物2の「リング22」の弾発動作によるごく僅かな変位を意味しているのではなく,両者はその技術的意義が異なると主張する。 前記1で認定したとおり,本件訂正明細書には,「シャトル部材」に関して,ワークパレットの被支持面が基準部材の支持面に接当することを許容する旨の記載があるが,本件訂正発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)には,「軸心方向へ移動自在」とあるのみであり,その程度をことさら上記記載のものに限定する理由はないから原告の主張は失当である。また,前記1で認定した本件訂正明細書及び刊行物2の各記載によると,本件訂正発明1も刊行物2に記載された発明も,その技術的意義は,基準部材に対して可動部材を水平方向へ正確に位置決めすることであり,両者の技術的意義は共通であるから,原告の主張は理由がない。 (4)原告は,本件訂正発明1の「シャトル部材」が,直径方向へ拡大及び縮小されることにより,その外周面及び内周面が直径方向へ拡大及び縮小されるのに対し,刊行物2の「リング22」はその外周面が直径方向へ拡大及び縮小し得ないから,「リング22」は「シャトル部材」に該当しないと主張する。 前記1で認定した本件訂正明細書によると,「シャトル部材」は直径方向へ拡大および縮小されることにより,その外周面および内周面が直径方向へ拡大および縮小されるとの記載があるが,本件各訂正発明に係る特許請求の範囲には,「シャトル部材」に関して「直径方向へ拡大及び縮小される」とあるのみで,ことさら上記記載のものに限定する理由がないから,原告の上記主張は失当である。 (5)原告は,スプリング26,26は,技術的な意義において「平行ばね」には該当しないと主張する。しかし,乙1に「前記平行ばね機構は,ドーナツ状に形成された2枚の板ばね部材62,62が回転軸52の軸心P2に対して直交方向に且つ平行に配置されている。これらの板ばね部材62,62の内周部に前記取付軸58が固着され,外周部に前記支持環60が固着されている。この平行ばね機構によれば,取付軸58に図2中矢印方向の力が加わると,取付軸58は回転軸52の軸心P2方向にのみ上方に移動される。」(段落【0016】)との記載があるように,刊行物2においては,上下のスプリング26が平行ばねとして機能し,リング22が軸心方向に移動自在であるということができる。原告は,スプリング26と乙1の板ばね材62との具体的相違から両者は異なると主張するが,板ばね材62に平行ばねとしての機能があることは上記記載から明らかであるから,原告の主張は採用できない。 6取消事由5(相違点2の判断の誤り・その3)について(1)審決は,被支持面(開口端),テーパ位置決め孔下部部分,係止孔,テーパ位置決め孔上部部分の順に形成されている引用発明1における係止孔と位置決め孔との位置関係を,刊行物2に記載の,シャトル部材(位置決め孔)を係止孔よりも基準部材側に設けるという事項のように変更して,シャトル部材(位置決め孔)を係止孔よりも開口端側に設けることは,当業者が容易になし得た事項であると判断している。すなわち,審決では,被支持面(開口端)との位置関係も含めて判断しており,被支持面(開口端)との位置関係を看過したものではなく,相違点2の判断に遺脱はない。 (2)原告は,審決が刊行物2の「リング22」と「係止孔」の位置関係のみを捉え,「リング22」と「被支持面」との位置関係を看過していると主張する。 しかし,審決は,「リング22」がプラグ部分の軸線方向に相対移動自在であるテーパ面が形成された部材という限りで「シャトル部材」ということができると判断した上で,「刊行物2には,シャトル部材(位置決め孔)を,工作テーブルに開口させた凹所に形成した係止孔よりも装置テーブル(基準部材)側に設けることが記載されているとすることができる。」と認定しており(審決書20頁12行〜19行),「シャトル部材」と「位置決め孔」とが同位置であることを前提としている。そうすると,刊行物2を上記(1)記載の順に形成されている引用発明1に適用する際に,「係止孔」よりも基準部材側にあるテーパ位置決め孔下部部分を,刊行物2のシャトル部材が係合する位置決め孔とすることは容易に想到し得ることであり,そうすると,引用発明1は本件各訂正発明と同様に,「係止孔」,「シャトル部材」,「被支持面(開口端)」の順に構成されることになる。よって,原告の主張は採用できない。 7取消事由6(相違点2の判断の誤り・その4)について(1)原告主張の阻害事由1について引用発明1に刊行物2に記載の事項を採用する上で各部材の寸法等をどの程度にするかは当業者が適宜設定し得る事項であるから,別紙「γ」部分の高さを変えないように設定することも可能であり,「γ」部分の高さ方向の寸法が増加するとの根拠はない。 また,前記1で認定した刊行物1の段落【0033】の記載によると,押圧点Sが,互いに密接する両端面26,28の近傍に位置することの効果について記載がなく,また「位置決め精度が向上する」との効果は,「各押圧点Sはクランプ機構30,31の中心位置から半径方向外方にかなり離れた位置にある」ことによって奏されるのであって,引用発明1の「γ」部分の高さ方向の寸法が増加しても押圧点Sの位置は変わらないし,むしろ引用発明1の「γ」部分に刊行物2に記載された「リング22」を適用すれば,互いに密着する両端面26,28がクランプ機構30,31の中心位置から半径方向外方に位置し,さらに位置決め精度が高くなるから,原告の主張は採用できない。 (2)原告主張の阻害事由2について引用発明1に刊行物2記載の事項を適用するということは,引用発明1の構成を変更して刊行物2記載の事項のように構成することであるから,上側部分のテーパ穴及びテーパブッシュの改造が必要となることが格別阻害要因になるということはできない。原告の主張は採用できない。 (3)原告主張の阻害事由3について前記1で認定した刊行物2の記載によると,リング22が軸心方向に移動自在であることにより,テーパ穴とテーパ面及び端面同士の二面拘束が行われるものであり,両者の密着により二面拘束状態が形成されるのである。したがって,リング22が位置決め機能を発揮するために「あそび」となる隙間が必要であるとしても,そのことがテーパ穴とテーパ面とが密着する構成を阻害し,強固な二面拘束状態を損なうということはできない。原告の主張は失当である。 8取消事由7(相違点2の判断の誤り・その5)について前記1で認定した刊行物1及び3の各記載によると,引用発明1と刊行物3に記載の事項とは,共に工作機械に使用されるクランプ装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,技術分野を共通にする。そして,刊行物1記載のクランプ装置と刊行物3記載のクランプ装置とは,その設計思想や課題ないしその背景にある技術は基本的に共通するのであるから,引用発明1に刊行物3に記載の事項の二面拘束構造を組み合わせることは,当業者が容易になし得ることである。 したがって,引用発明1に刊行物3に記載の事項を組み合わせることが困難であるとはいえないから,審決における相違点2の判断に誤りはない。 9取消事由8(相違点3の判断の誤り)について(1)前記1で認定した刊行物1の記載によると,引用発明2において,クリーニング流体の流路はテーパピン40とテーパブッシュ34との間に設けられ,噴出口はテーパピン40の先端部分に設けられているが,クリーニング流体の流路及び噴出口は,クリーニング流体をクランプ装置内に導くことができるものであれば,係合部分の清掃及び密着の確認という機能を発揮できることは明らかである。そして,クリーニング流体をクランプ装置内に導くためには,?@クリーニング流体の流路を,引用発明2のようにテーパピン40とテーパブッシュ34との間に設ける,?A本件訂正発明2のようにピストン51内に設ける,?Bテーパピン40内に設ける,との方法が考えられるが,いずれも当業者が適宜なし得る程度のものであると認められる。 そうすると,引用発明2に刊行物4記載の事項を採用してプルロッドを用いるに当たり,流路をプルロッド内に設け,噴出口をプルロッドの先端部分に設けることは,当業者が容易になし得る程度の設計事項に過ぎないというべきである。 (2)原告は,引用発明2に刊行物4記載の事項を適用した場合,刊行物2のクリーニング流体噴出口(エアーブロー用の小孔48)はその機能を奏さないことになり,両技術を組み合わせることには矛盾があると主張する。 しかし,引用発明2に刊行物4記載の事項を適用する際,当業者であれば,機能を奏さない構成に変更を加えたり削除するなどの手段を講じれば足り,そのような手段を講じることに何ら困難は認められない。よって,原告の主張は採用できない。 したがって,審決の相違点3の判断に誤りはない。 10結論(1)上記に検討したところによれば,本件各訂正発明は,いずれも引用発明1,2及び刊行物2〜4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものであり,同法126条5項の規定に適合しないことは,審決の判断のとおりである。 (2)ところで,昭和62年法律第27号による特許法の改正により導入された,いわゆる改善多項制の下において,複数の請求項について訂正審判が請求された場合における訂正の許否については,?@改善多項制導入前と同様に訂正審判請求全体を一体のものとして,一部の請求項に係る訂正につき特許法所定の要件を満たさない点があれば,他の請求項に係る訂正について要件充足の有無を判断するまでもなく,請求に係るすべての請求項についての訂正を許さないものとすべきか(以下,「一体説」という。),あるいは,?A請求項ごとに訂正が特許法所定の要件を満たすものかどうか判断した上で,訂正審判請求のうち,要件を満たさない請求項に係る部分のみについて訂正を許さないものとし,要件を満たす請求項に係る部分については訂正を許すものとすべきか(以下,「請求項基準説」という。)という点で,検討すべき問題が存在する。 (3)審決は,本件において,本件訂正発明1に係る訂正が許されないと判断したにもかわらず,このことのみをもって審決の結論を導くことをせず,進んで本件訂正発明2に係る訂正の許否についての検討を行っている。このような審決の措置は,前記第2,1記載のとおり,本件訂正請求に先だって特許庁によりされた無効審決(無効2005-80265号)において本件特許の請求項1ないし3(本件訂正前)に係る特許が無効とされ,特許権者(原告)により審決の取消しを求めて提訴された訴訟(当庁平成18年(行ケ)第10056号)が当庁に係属していることに照らし,本件訂正審判請求人(原告)において,本件特許の請求項1ないし3について,一部の請求項に係る訂正であっても,これを許す旨の審決を求めていると善解する余地があることを配慮しての措置と理解することが可能である。本件における審判合議体のこのような措置は,改善多項制の下における訂正審判請求のあり方について,前記の請求項基準説を採用したものと即断することはできないにしても,適切な措置と評価することができる。 (4)以上によれば,審決の判断には誤りがない。原告はその他縷々主張するが,いずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 上田洋幸 |