関連審決 | 無効2004-80102 |
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関連ワード | 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 同一技術分野(同一の技術分野) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 技術常識 / 優先権 / 分割出願 / 置換 / 実施 / 加工 / 交換 / 設定登録 / 訂正審判 / 請求の範囲 / 異議申立 / TRIPS協定 / |
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事件 |
平成
18年
(行ケ)
10031号
審決取消請求事件
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原告株 式会社コスメック 訴訟代理人弁護士村林隆一 同 井上裕史 訴訟代理人弁理士梶良之 同 桂川直己 被告パスカルエンジニアリング株 式会社 訴訟代理人弁護士別城信太郎 同 大畑道広 訴訟代理人弁理士深見久郎 同 森田俊雄 同 野田久登 同 吉田昌司 同 荒川伸夫 同 佐々木眞人 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/12/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が無効2004-80102号事件について平成17年12月14日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯(1)原告は,発明の名称を「データム機能付きクランプ装置及びその装置を備えたクランプシステム」とする特許第3527738号(特願2002-192816号の分割出願。平成11年8月3日出願,平成16年2月27日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許の特許権者である。 (2)本件特許については,平成16年7月14日,これを無効とすることを求めて審判の請求があり,無効2004-80102号事件として特許庁に係属した。特許庁は,審理の結果,平成17年4月8日,「特許第3527738号の請求項1ないし3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第一次審決」という。)をした。これに対し,原告は同年5月12日,知的財産高等裁判所に対して,第一次審決の取消しを求める訴訟を提起した(平成17年(行ケ)第469号)が,原告が同年7月19日に訂正審判を請求したので,同裁判所は,同年7月25日に第一次審決を取り消す旨の決定をした。 (3)原告は,上記審理の過程において,平成17年8月18日,訂正請求をしたが,特許庁は,審理の結果,平成17年12月14日,上記訂正請求を認めないとした上で,「特許第3527738号の請求項1〜3に係る発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「本件審決」という。)をした。 2特許請求の範囲本件特許に関する平成17年8月18日付け訂正請求前の明細書(以下「本件明細書」という。)における特許請求の範囲の請求項1ないし3の記載は次のとおりである。 【請求項1】「基準部材(R)に可動部材(M)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記の可動部材(M)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって,上記の可動部材(M)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて,そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ,上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材(23)の内周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の外周面をテーパ面(28)によって構成し,上記のストレート面(27)を前記プラグ部分(21)に軸心方向へ移動自在に支持し,上記のテーパ面(28)を,前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔(12)にテーパ係合させ,上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し,上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して,そのプルロッド(31)の外周空間に,半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し,上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより,そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて,前記の可動部材(M)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ,同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより,同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容すると共に,上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記の可動部材(M)を上記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるように構成した,ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」(以下「本件発明1」という。)【請求項2】「基準部材(R)に可動部材(M)を心合わせして上記の基準部材(R)の支持面(S)に上記の可動部材(M)の被支持面(T)を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって,上記の可動部材(M)の上記の被支持面(T)にソケット穴(11)を開口させて,そのソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ,上記プラグ部分(21)と上記の位置決め孔(12)との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材(23)を配置し,そのシャトル部材(23)の外周面をストレート面(27)によって構成すると共に同上シャトル部材(23)の内周面をテーパ面(28)によって構成し,上記のストレート面(27)を前記の位置決め孔(12)に軸心方向へ移動自在に支持し,上記のテーパ面(28)を,前記の係止孔(13)へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分(21)にテーパ係合させ,上記シャトル部材(23)を弾性部材(24)によって上記のテーパ係合を緊密にする方向へ付勢し,上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して,そのプルロッド(31)の外周空間に,半径方向の外方の係合位置(X)と半径方向の内方の係合解除位置(Y)とに移動される係合具(34)を配置し,上記の基準部材(R)に設けた駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を基端方向へクランプ駆動することにより,そのプルロッド(31)の出力部(36)が上記の係合具(34)を上記の係合位置(X)へ切り換えて前記の係止孔(13)へ係合させて,前記の可動部材(M)を前記の基準部材(R)へ向けて移動させ,同上の駆動手段(D)によって上記プルロッド(31)を先端方向へアンクランプ駆動することにより,同上の係合具(34)が係合解除位置(Y)へ切り換わるのを許容すると共に,上記プルロッド(31)が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記の可動部材(M)を上記プルロッド(31)を介して前記の基準部材(R)に受け止めるように構成した,ことを特徴とするデータム機能付きクランプ装置。」(以下「本件発明2」という。)【請求項3】「請求項1又は2に記載したデータム機能付きクランプ装置を少なくとも一つ備える,ことを特徴とするクランプシステム。」(以下「本件発明3」といい,本件発明1ないし3を併せて「本件各発明」という。)3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,平成17年8月18日付け訂正請求を,本件明細書に記載された事項の範囲内のものではない訂正事項を含むから,特許法134条の2第5項において準用する同法126条3項の規定に適合しないものとして認めないとした上で(審決が同訂正請求を認めないとした判断については,原告は,取消事由を主張していない。),本件各発明は,特開平7-314270号公報(甲2。以下「刊行物1」といい,刊行物1記載の発明を「引用発明」という。)並びに特開昭64-11743号公報(甲3。以下「刊行物2」という。),特許第2784150号公報(甲4。以下「刊行物3」という。)及び米国特許第4747735号公報(甲5,以下「刊行物4」という。)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから,本件各発明に係る特許は無効であるというものである。 審決は,引用発明の内容並びに本件各発明と引用発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。 (1)引用発明の内容「テーブル1に,メス側テーパブッシュ34を一体化したパレット20を心合わせして上記のテーブル1の端面28に上記のパレット20の端面26を固定するようにしたクランプ装置22であって,上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,上記凹部へ挿入される環状のオス側テーパピン40を上記のテーブル1から突設させ,上記のオス側テーパピン40の筒孔21aにピストン51を軸心方向へ移動自在に挿入して,そのピストン51の外周空間に,半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動されるボール58を配置し,上記のテーブル1に設けた圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を先端方向へクランプ駆動することにより,そのピストン51のテーパ面61が上記のボール58を上記の係合位置へ切り換えて前記の環状溝59へ係合させて,前記のパレット20を前記のテーブル1へ向けて移動させ,同上の圧力油流路54,55の圧力油及びコイルばね57によって上記ピストン51を基端方向へアンクランプ駆動することにより,同上のボール58が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した,クランプ装置22及び複数備えるクランプシステム。」(2)一致点ア本件各発明と引用発明と一致点「基準部材Rに可動部材を心合わせして上記の基準部材の支持面に上記の可動部材の被支持面を固定するようにしたデータム機能付きクランプ装置であって,上記の可動部材Mの上記の被支持面にソケット穴を開口させて,そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ,上記のプラグ部分の筒孔にプルロッドを軸心方向へ移動自在に挿入して,そのプルロッドの外周空間に,半径方向の外方の係合位置と半径方向の内方の係合解除位置とに移動される係合具を配置し,上記の基準部材に設けた駆動手段によって上記プルロッドをクランプ駆動することにより,そのプルロッドの出力部が上記の係合具を上記の係合位置へ切り換えて前記の係止孔へ係合させて,前記の可動部材を前記の基準部材へ向けて移動させ,同上の駆動手段によって上記プルロッドをアンクランプ駆動することにより,同上の係合具が係合解除位置へ切り換わるのを許容するように構成した,データム機能付きクランプ装置。」である点(以下「一致点1」という。)。 イ本件発明3と引用発明との一致点「データム機能付きクランプ装置を少なくとも一つ備えるクランプシステム」である点(以下「一致点2」という。)。 (3)相違点ア本件各発明と引用発明との間において共通して相違する相違点(ア)本件各発明は,プルロッドを基端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり,また,プルロッドを先端方向へアンクランプ駆動するものであって,そのアンクランプ駆動により,プルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものであるのに対して,引用発明は,プルロッドを先端方向へクランプ駆動することによって可動部材を基準部材へ向けて移動させるものであり,また,プルロッドを基端方向へアンクランプ駆動するものであって,そのアンクランプ駆動されたプルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げず,そのアンクランプ状態では,前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止めるものではない点(以下「相違点1」という。)。 (イ)本件各発明は,プラグ部分と位置決め孔との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し,そのシャトル部材の内周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の外周面をテーパ面によって構成し,上記ストレート面を前記プラグ部分に軸心方向へ移動自在に支持し,上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記の位置決め孔にテーパ係合させ,上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して,引用発明は,シャトル部材を備えてなく,そのシャトル部材と位置決め孔とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点(以下「相違点2」という。)。 イ本件発明2,3と引用発明との相違点本件発明2,3は,プラグ部分と位置決め孔との間に,直径方向へ拡大および縮小されるシャトル部材を配置し,そのシャトル部材の外周面をストレート面によって構成すると共に同上シャトル部材の内周面をテーパ面によって構成し,上記ストレート面を前記の位置決め孔に軸心方向へ移動自在に支持し,上記テーパ面を,前記の係止孔へ向けてすぼまるように形成すると共に前記プラグ部分にテーパ係合させ,上記シャトル部材を弾性部材によって上記テーパ係合を緊密にする方向へ付勢するものであるのに対して,引用発明は,シャトル部材を備えてなく,そのシャトル部材とプラグ部分とのテーパ係合を緊密にする方向へ付勢する弾性部材も備えてない点(以下「相違点3」という。)。 第3原告主張の取消事由審決には,下記のとおりの取消事由(取消事由1ないし7)が存するところ,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである(審決が訂正請求を認めないとした判断については,原告は,取消事由を主張していない。)。 1取消事由1(刊行物2の認定の誤り)審決は,刊行物2の記載事項として,リング22は,その外周面がスプリング26によって,軸心方向には移動不能に付勢された状態で固定支持されているにもかかわらず,「環状肩材19に固定支持されるリング22内面の円錐面25とが協働して心合わせを行う。」と認定したが誤りである。 2取消事由2(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り)審決は,引用発明の内容として「上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し」と認定したが誤りである。 メス側テーパ穴25は,環状溝59の上側部分であり,環状溝59の下側部分は,単なるテーパ状の穴に過ぎずメス側テーパ穴25ではない。 審決は,上記引用発明の認定を誤った結果,一致点として,「上記の可動部材の上記の被支持面にソケット穴を開口させて,そのソケット穴に係止孔と位置決め孔とを開口端から順に形成し」との誤った認定をし,相違点を看過したものであり,この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。 3取消事由3(本件各発明と引用発明との相違点の看過)本件各発明の「位置決め孔」に相当する引用発明の「テーパ穴25」は,本件各発明の「係止孔」に相当する引用発明の「環状溝」の上側部分に存在する。 したがって,引用発明には本件各発明の「ソケット穴(11)に位置決め孔(12)と係止孔(13)とを開口端から順に形成し」との構成が開示されておらず,上記の点は相違点とされるべきであり,審決はこの相違点の認定を看過したもので誤りである。 4取消事由4(相違点1ないし3の認定の誤り)(1)審決は,相違点1ないし3の認定において,「位置決め孔」等の個々の構成が「基準部材」に設けられているのか,「可動部材」に設けられているのかという前提条件を看過し,相違点を抽象化して認定している点で誤りである。 (2)米国特許商標庁における再審査請求に対する決定や,欧州特許庁における特許異議申立てに対する決定は,本件各発明と刊行物3との技術的な対比をするに当たり,各構成が基準部材にあるのか,可動部材にあるのかを重視した判断をしているから,このような国際的な判断基準を考慮すべきである。 5取消事由5(相違点1の判断の誤り・その1)審決は,刊行物4の「ロックロッド38」が,その構造及び機能からみて,本件各発明の「プルロッド31」に該当すると認定するが誤りである。 本件各発明の「プルロッド31」は,基準部材から突設されたプラグ部分に挿入されて,その基準部材から突出する構造であるのに対し,刊行物4の「ロックロッド38」は,「ツール支持部材34」に埋設されている。よって,「ロックロッド38」は,その構造から「プルロッド31」に該当しない。 6取消事由6(相違点1の判断の誤り・その2)審決は,刊行物4の「シャンク14の円筒部の内部のシャンク押出し面68」は,本件各発明の「ソケット穴(11)の頂壁(11a)」と可動部材に設けられた穴の頂壁の限りで共通すると認定するが誤りである。 本件各発明の「ソケット穴(11)の頂壁(11a)」は,「可動部材の被支持面に設けられたソケット穴(11)の頂壁(11a)」であるから,「シャンク14の円筒部の内部のシャンク押出し面68」は,これに相当しない。 よって,刊行物3記載の事項と引用発明とを組み合わせても,相違点1の「プルロッドがソケット穴の頂壁を押し上げ,そのアンクランプ状態では,前記の可動部材を上記プルロッドを介して前記の基準部材に受け止める」との構成に至ることはない。 7取消事由7(相違点2の判断の誤り)(1)相違点2に関して,引用発明に刊行物3を適用できるとする審決の判断は,下記のとおり,引用発明と刊行物3の課題及び課題解決のための技術的思想が異なる点に照らせば,誤りである。 ア課題の相違刊行物3に記載された「自動工具交換の差異,工具交換用アームが大きくたわむ,所定の周波数において共振が生じる」という課題は,ツールホルダ固有の課題であり,引用発明のようなワークパレットとは無関係であるから,当業者において,刊行物3を引用発明に適用する動機付けはない。 イ課題解決のための技術的思想の相違仮に引用発明と刊行物3との課題において,二面拘束による強固な結合という点が同一であるとしても,両者は同一の課題を解決するための方法が異なっており,課題解決のための技術的思想が全く異なる。 (2)審決は,引用発明と刊行物3が同一の技術分野に属する以外に,引用発明を組み合わせるための動機付けは認定されておらず,それは我が国の特許審査基準にもTRIPS協定の趣旨にも反する。 (3)阻害事由の存在引用発明の別紙「γ」部分に,刊行物3に記載の「シャトル部材」を適用して,テーパピン40のテーパ部分を「シャトル部材」に置換した場合,「シャトル部材」の高さ方向の寸法及びシャトル部材を付勢する「弾性部材」の背丈も併せて考慮すれば,当然,上記「γ」部分の高さ方向の寸法は増加するから,押圧点Sは両端面26,28から遠ざかることになる。すなわち,刊行物3記載の「シャトル部材」を,引用発明に適用すれば,その作用効果を実現するための「押圧点Sが,‥‥‥両端面26,28の近傍に位置する」との必須の構成を実現できない。 したがって,引用発明には,刊行物3の「シャトル部材」を適用することを阻害する事由が記載されているのであり,当業者は,引用発明に刊行物3を適用して本件各発明を想到することはできない。 第4被告の反論審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1取消事由1(刊行物2の認定の誤り)に対し刊行物2には,「リング22は,軸心方向に,移動可能に付勢された状態である」ことが記載されており,原告の主張は失当である。 2取消事由2(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り)に対し引用発明において,テーパブッシュ34とテーパピン40の位置決めは,テーパ穴25とテーパ面27によって達成されるものであることは自明の事項である。そして,このようなテーパ結合においては,上部部分の小径部よりも,下部部分の大径部の方が大きな力を支障することができるので,位置決め精度には,大径部の方が大きく関与することは当業者の技術常識である。したがって,「環状溝59」の下側部分は,単なるテーパ状の穴であって位置決め機能を有する「メス側テーパ穴25」ではないとの原告の主張は,失当である。 3取消事由3(本件各発明と引用発明との相違点の看過)に対し本件審決の「後者の『メス側テーパ穴25の下部部分』は,「メス側テーパ穴25の上部部分」とともに,前者の『位置決め孔12』に相当する。」との認定に誤りがないことは上記2のとおりである。また,引用発明の「環状溝59」は,本件各発明の「係止孔13」に相当することは,当業者の技術水準から明らかである。したがって,原告の主張は失当である。 4取消事由4(相違点1ないし3の認定の誤り)に対し本件審決は,「上記の可動部材Mの上記の被支持面にソケット穴を開口させて,そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ」との構成において一致すると認定し,これを除いた事項を相違点としたのであり,それぞれの部材が「可動部材」と「基準部材」とのいずれに設けられているかについて認定しているから,原告の主張は理由がない。 5取消事由5(相違点1の判断の誤り・その1)に対し相違点1の判断においては,「ロックロッド38」が突設されているか,あるいは埋設されているかの形状は技術的に意味のないことであるから,原告の主張は失当である。 6取消事由6(相違点1の判断の誤り・その2)に対し刊行物3は,?@ロックロッドの前端の当接面66を,シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68に当接させること,?Aロックロッド38がシャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68を押し上げること,との構成であることからすると,刊行物3の「シャンク押し出し面68」は,本件各発明の「ソケット穴11の頂壁11a」に相当することは,当業者の技術常識から判断して自明の事項である。 7取消事由7(相違点2の判断の誤り)に対し審決が認定した刊行物3の課題は,ツールホルダー独自の問題ではなく,二面拘束に関するものであり,この認定に誤りはない。そして,引用発明にも二面拘束を行なうことが記載されているから,引用発明に刊行物3記載の事項を適用する動機付けは存在するので,原告の主張は理由がない。 第5当裁判所の判断1本件明細書(甲1)及び刊行物1ないし4(甲2ないし5)の各記載(1)本件明細書(甲1)には,次の記載がある。 ア「‥‥‥そのソケット穴11は,前記の第1データムリング4bに前記テーパ位置決め孔12とテーパ係止孔13とを下側から順に形成してなる。 上記テーパ位置決め孔12は上向きにすぼまるように形成され,上記テーパ係止孔13は下向きにすぼまるように形成されている。‥‥‥」(段落【0016】)イ「より詳しくいえば,上記の環状のシャトル部材23は,‥‥‥外周面をテーパ面28によって構成してあり,‥‥‥上記テーパ面28は,前記のテーパ位置決め孔12にテーパ係合するように上向きにすぼまるように形成してある。‥‥‥」(段落【0019】)(2)刊行物1(甲2)には,次の記載がある。 ア「【産業上の利用分野】本発明は,パレットのクランプ装置に関し,特に工作機械のテーブルに対してパレットを正確に位置決めするパレットのクランプ装置に関する。」(段落【0001】)イ「従来のパレットのクランプ装置としては,‥‥‥実開昭63-4239号公報及び実開平5-26241号公報のように,テーパ面を有する複数(通常4個)のコーンパッド(テーパピン)を,テーパ穴を有するテーパブッシュにそれぞれ装着してパレットをクランプするものが提案されている。」(段落【0003】)ウ「一方,後者のクランプ装置では,コーンパッドとテーパブッシュとがテーパ部で密着するので水平方向の精度は比較的良いが,端面が非接触なので縦方向(例えば上下垂直方向)の繰り返し精度のばらつきが大きかった。また,テーパ部のみでクランプしているのでクランプ力が弱く,パレットを強固にクランプすることが難しかった。そのため,ワーク加工中にパレットに反力が加わるとパレットが不安定となって動くこともあり,加工精度が低下する虞れがあった。」(段落【0005】)エ「本発明は,斯かる課題を解決するためになされたもので,横方向と縦方向双方の繰り返し位置決め精度が高精度で且つパレットを強固にクランプできるパレットのクランプ装置を提供することを目的とする。‥‥‥」(段落【0006】)。 オ「【作用】本発明においては,パレット側装着部のメス側テーパ穴及び端面に,テーブル側のオス側テーパ面及び端面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束とし,またこの構造のクランプ機構を少なくとも4組設けてパレットをテーブルに装着している。‥‥‥」(段落【0011】)カ「図1及び図2に示すように,クランプ装置22は,少なくとも4組のクランプ機構30,31を備えている。クランプ機構30,31は,パレット20の裏面23側に設けられたパレット側装着部24のメス側テーパ穴25及び端面26に,テーブル1に設けられたオス側テーパ面27及び端面28をそれぞれ密着させて,パレット20をテーブル1に着脱可能に装着している。これにより,パレット側装着部24はテーブル1に対してテーパ面部と端面部との二面拘束によりクランプされる。」(段落【0020】)キ「‥‥‥メス側テーパ穴25及び端面26を有するとともに凹部32内に配設されてパレット20に締結固定されたメス側テーパブッシュ34‥‥‥」(段落【0021】)ク「即ち,パレット20の中心Cから半径Rの位置で且つ例えばZ軸から所定の角度θの位置に,それぞれの凹部32の中心O ,O が一致する11ように凹部32を形成すれば水平方向の位置が決まる。‥‥‥」(【0022】)ケ「凹部32は,パレット裏面23に設けられた突出部36に形成されており,凹部32内に装着されたメス側テーパブッシュ34は,複数の締付けボルト37により突出部36に締結固定されている。‥‥‥」(段落【0024】)コ「オス側テーパ面27及び端面28を有するオス側テーパピン40が,複数の締付けボルト41によりテーブル1に位置決め固定されている。 ‥‥‥」(段落【0025】)サ「テーパブッシュ34及びテーパピン40は,テーパ穴25にテーパ面27が密着し,且つ平面状のメス側端面26に平面状のオス側端面28が密着して二面拘束状態になるように高精度に形成されている。」(段落【0026】)シ「・・Y軸方向に往復動するピストン51が小径シリンダ50及びテーパピン40の内周面40aに摺動自在に嵌合している。‥‥‥」(段落【0029】)ス「テーパピン40に放射状に形成された複数(例えば3個)の貫通孔65内にはそれぞれボール58が遊嵌されている。各ボール58は,テーパピン40の半径方向に移動可能になっており,またテーパブッシュ34に形成された環状溝59内に移動できるようになっている。‥‥‥」,「・・テーパピン40の上端開口部は,ごみ等の侵入防止のためのキャップ47により密閉されており,キャップ47にはエアーブロー用の小孔48が穿設されている。」(段落【0030】)セ「なお,両端面26,28の密着の有無の確認のために,テーパピン40には,端面28に開放する空気流路63が形成されている。また,圧縮空気により矢印Dに示すようにエアーブローをしてテーパピン40とテーパブッシュ34との間の密着部のごみ等を除去するための空気流路64が,テーパピン40及びテーブル1に形成されている。これにより,クランプ装置22の密着部が常に清浄な状態に保たれ,高精度でクランプされる。」(段落【0032】)ソ「また,本実施例では‥‥‥押圧点Sが,互いに密着する両端面26,28の近傍に位置するようになっている。‥‥‥従って,テーパピン40に対してテーパブッシュ34が傾くことなく安定した姿勢で装着されることとなり,位置決め精度が向上する。」(段落【0033】)タ図3?@オス側テーパピン40の端面28とメス側テーパブッシュ34の端面26とは密着し,オス側テーパピン40は,端面28の内側から上方に向けてすぼまるように立ち上がる凸状部分を有し,かつ,メス側テーパブッシュ34の端面26の内側から上方に向けてすぼまるように形成された凹状部分に対し,オス側テーパピン40の貫通孔65,メス側テーパブッシュ34の環状溝59を除いて密着している。 ?A図3によると,テーパピン40に形成された右側の空気流路64に示された矢印(符号無し)は,ピストン51に向かっている。また,テーパピン40の内方においてピストン51の上側部外側を始端とする矢印D(図3中で右側)は,ピストン51の頂部を経て,テーパピン40の上端開口部を覆うキャップ47に穿設された小孔48を通ってテーパピン40の外方(メス側テーパ穴25内)を指向している。 テーパピン40の外方においてテーパブッシュ34に形成された環状溝59内を始端とする矢印D(図3中で左側)は,テーパピン40の貫通孔65を通ってテーパピン40とピストン51との間を経て,テーパピン40に形成された空気流路64内に入り,空気流路64内をピストンから離れる方向に向かっている。さらに,その下流側に示された矢印(符号無し)は,空気流路64内にて,さらにピストンから離れる方向に向かっている。 ?B図3中の上下方向がO 軸とされている。ピストン51は,O 軸方1 1向へ移動自在になっている。 (3)刊行物2(甲3)には,次の記載がある。 「[実施例」‥‥‥図面において,1は装置テーブルを示し,2は工作テーブルまたは固定台を示す。工作テーブル1(判決注:「装置テーブル1」の誤記と認める。)には‥‥‥円筒形ハウジング3が固定される。‥‥‥ハウジング3にはさらに上部外周部に切頭円錐面15‥‥‥が設けられる。工作テーブル(固定台)2は‥‥‥その縁部には環状の肩材19が設けられる。 ‥‥‥この環状肩材19のフランジ部19’にはリング22が固定される。 この環状肩材19,19’は‥‥‥工作テーブル2に固定される。リング22の内面にはハウジング3の円錐面15と協働するための円錐面25が形成される。リング22はその外周部に2つの半径方向のスプリング26を有し,これらのスプリングによりリング22が肩材19,19’内に固定支持される。これらのスプリング26の配置により,リング22従ってその円錐面25がZ方向すなわち前述の軸16と平行な方向に弾発動作可能となる。」(2頁右下欄14行〜3頁右上欄15行)(4)刊行物3(甲4)には,次の記載がある。 ア「前記従来の工具ホルダーは,そのフランジ部の外周面に凹設された周溝部を自動工具交換装置のアームで把持することにより,工作機械の主軸のテーパ孔に着脱自在に装着される。この装着の時,スリーブ外周面のテーパ面が主軸のテーパ孔に嵌合し,主軸端面とフランジ端面との間には,所定の間隙が形成されている。」(段落【0005】)イ「そして,主軸に内装された引張手段により工具ホルダーが主軸内方に引き込まれることによりフランジ端面が主軸端面に当接する。このとき,スリーブは,弾性部材によって押圧され,主軸のテーパ孔との結合を強固にすると共に,スリーブの内径が縮径して,スリーブとシャンク部との結合が強化される。即ち,前記従来の工具ホルダーは,工作機械の主軸のテーパ孔と工具ホルダーのシャンク部のテーパ面,及び,主軸端面と工具ホルダーのフランジ部端面の二個所で主軸に密着当接し,且つ,スリーブとシャンク部との結合を強化することにより,同じ引っ張り力において,テーパ孔とテーパ面の一個所のみにより結合されるものよりも強固な結合剛性を得ようとするものであった。」(段落【0006】)ウ「‥‥‥本発明の工具ホルダーは,工作機械の主軸1のテーパ孔2に嵌合するスリーブ3と,‥‥‥シャンク部4と一体的に設けられて前記主軸の端面に当接するフランジ部5と‥‥‥」(段落【0017】【実施例】),エ「前記フランジ部5のシャンク部側の端面は,前記工作機械の主軸1の端面に面接当する‥‥‥」(段落【0021】),オ「‥‥‥このプルスタッド14の外周部に前記シャンク部4の外径よりも大径とされた突出部16を有し,該突出部16が前記スリーブ3の抜け止めを行っている。この突出部16とスリーブ3との間にプリロード付与手段17が介在されている。」(段落【0023】)カ「このプリロード付与手段17は,‥‥‥スリーブ端面とフランジ面5の平坦面との組立距離を一定にするものである。」(段落【0024】)キ「このとき,主軸1のテーパ孔2と,工具ホルダーのスリーブ3のテーパ面とが密着嵌合する。‥‥‥」(段落【0029】)ク「このとき,スリーブ3は弾性部材6の圧縮による反発力により軸方向に押圧され,該押圧力により,スリーブ3のテーパ面と主軸1のテーパ孔2とのテーパ接触結合が得られる。‥‥‥」(段落【0031】)ケ図1によると,主軸1の端面と工具ホルダーのフランジ部5のシャンク部側の端面とが密着し,主軸1のテーパ孔2と工具ホルダーのスリーブ3の外周面に形成されたテーパ面とが密着している。 (5)刊行物4(甲5)には,次の記載がある。 ア「ロックロッド38の前端には2つの円筒凹部状の当接傾斜路44が形成され,ロックロッド38が引っ張られて図2に示す後退位置に保持される時,上記の当接傾斜路44が,本体42の開口部24を通して球体36を外側へ移動させる。ツールホルダを取り外す為にロックロッド38が前側へ押動されたとき,球体36は凹部46に受容され,ツールホルダを取り外し可能になる。」(3欄66行〜4欄6行)イ「ロックロッド38の後端には,ロックロッド38を一般的な手段により往復運動させる為のネジ部材64が設けられ,ロックロッド38をツール支持部材34に対して後退位置に保持してシャンクをロックし,また,ロックロッドを前進位置に移動させてシャンクをアンロックしてから,ロックロッドの前端の当接面66を,シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68に当接させることにより,シャンクをツール支持部材34から前方へ離脱させる。」(4欄66行〜5欄7行)。 ウ図2ツール支持部材34の前向き面52とツールホルダの後向き面16とが密着し,ツール支持部材34の穴51の前向き回転面52(テーパ)とツールホルダのシャンク14の第1回転面20(テーパ)とが密着している。 2取消事由1(刊行物2の認定の誤り)について前記1で認定した刊行物2の記載によると,リング22は,軸心方向に,移動可能に付勢された状態であることが記載されているということができる。したがって,原告の主張は,その前提を欠くものであり失当である。 3取消事由2(引用発明の認定及び一致点の認定の誤り)について(1)上記1で認定した刊行物1の記載によると,引用発明は,メス側テーパブッシュ34のテーパ穴25及び端面26が,オス側テーパピン40のオス側テーパ面27及び端面28にそれぞれ密着して二面拘束状態になるものであるが,メス側テーパブッシュ34には環状溝59が形成され,オス側テーパピン40には複数の貫通孔65が放射状に形成されている。そして,刊行物1には,図3の上方に向けてすぼまるように形成されたメス側テーパブッシュ34の凹状部分について,環状溝59よりも頂壁側(上側部)のみが二面拘束に関与し,開口端側(下側部)がこれに関与していないことをうかがわせる記載はないから,メス側テーパブッシュ34の凹状部分の内周面は,環状溝59以外が二面拘束に供されるテーパ穴25であると認めるのが相当である。そうすると,オス側テーパピン40の凸状部分の外周面も,同様に,貫通孔65以外が二面拘束に供されるテーパ面27であると認めるのが相当である。 したがって,引用発明が「上記のパレット20の上記の端面28に凹部を開口させて,その凹部にメス側テーパ穴25の下部部分と環状溝59とメス側テーパ穴25の上部部分とを開口端から順に形成し,」との構成を有しているとした審決の認定に誤りはない。 (2)原告は,引用発明のテーパ穴25は,図3のとおり,環状溝59の上側部であり(テーパ穴25が密着するテーパ面27も,ボール58の上側部である。),かつ,刊行物1に,環状溝59の下側部がテーパ穴25であることを示唆する記載はないから,本件発明1の位置決め孔12に相当する刊行物1記載の発明のテーパ穴は,環状溝59よりも頂壁側(上側部)にのみ存在し,開口端側(下側部)には存在しないと主張する。確かに,図3は,テーパ穴25が環状溝59の上側部を指し示し,また,テーパ面27もボール58の上側部を指し示しているかのようであるが,上記刊行物1の記載をも合わせ考えると,上記(1)のとおり,テーパ穴25は,環状溝59以外のメス側テーパブッシュ34の凹状部分の内周面であると認めるのが相当である。 原告の上記主張は,採用できない。 4取消事由3(本件各発明と引用発明との相違点の看過)について上記3で認定判断したとおり,「メス側テーパ穴25の下部部分」は,「メス側テーパ穴25の上部部分」とともに,「位置決め孔12」に相当するとの審決の認定に誤りがないから,原告の主張はその前提を欠き失当である。 5取消事由4(相違点1ないし3の認定の誤り)について(1)原告は,相違点1ないし3を認定するに当たっては,相違点に係る各部材が「基準部材」と「可動部材」とのいずれに設けられているかを明確にすべきであると主張する。 しかしながら,審決は,本件各発明と引用発明について,それぞれの部材が「基準部材」と「可動部材」とのいずれに設けられているかを認定した上,「上記の可動部材の上記の被支持面にソケット穴を開口させて,そのソケット穴に位置決め孔と係止孔とを開口端から順に形成し,上記ソケット穴へ挿入される環状のプラグ部分を上記の基準部材から突設させ,」との構成において一致するとし,これを除いた事項を,相違点1ないし3としたのであって,それぞれの部材が基準部材と可動部材とのいずれに設けられているかについて認定しているのである。原告の主張は採用できない。 (2)原告は,米国特許商標庁も,欧州特許庁も,本件各発明と刊行物3との技術的な対比をするに当たり,各構成が基準部材にあるのか,可動部材にあるのかを重視した判断をしているから,このような国際的な判断基準を考慮すべきであると主張する。 しかしながら,米国特許商標庁が再審査事件において進歩性の判断の基礎となる主引用例は,刊行物2による優先権に基づく米国特許であって,刊行物1ではない(甲8)。また,欧州特許庁異議理由の審理における主引用例も,D1(EP0922529)であって,刊行物1ではない(甲12)。 審決は,進歩性の判断の基礎となる主引用例を刊行物1とするものであり,かつ,上記(1)のとおり,本件発明各発明と引用発明との対比において,各構成が基準部材にあるのか,可動部材にあるのかは相違点にはなっていないから,米国特許商標庁や欧州特許庁の事件とは,事案を異にする。 よって,原告の上記主張は採用できない。 6取消事由5(相違点1の判断の誤り・その1)について本件発明1に係る特許請求の範囲には,「プラグ部分21」については「‥‥‥上記ソケット穴(11)へ挿入される環状のプラグ部分(21)を上記の基準部材(R)から突設させ,」と,基準部材Rから突設させることは規定されているものの,「プルロッド31」については「上記のプラグ部分(21)の筒孔(21a)にプルロッド(31)を軸心方向へ移動自在に挿入して,‥‥‥」と規定しているにとどまるのであり,何ら突設されたものではない。原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない事項を前提とするものであって,失当である。 7取消事由6(相違点1の判断の誤り・その2)について前記1で認定したとおり,刊行物4には,「ロックロッドの前端の当接面66を,シャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68に当接させることにより‥」と記載されており,また,前記のとおり,「アンクランプ駆動により,ロックロッド38がシャンク14の円筒部の内側のシャンク押出し面68を押し上げ」るものと認められる。他方,本件発明1に係る特許請求の範囲には,「ソケット穴11の頂壁11a」について,「‥‥‥上記のアンクランプ駆動時には,上記プルロッド(31)の先端が前記ソケット穴(11)の頂壁(11a)を押圧し,‥‥‥」と記載されている。 そうすると,刊行物4のシャンク押し出し面68と,本件発明1のソケット穴11の頂壁11aとは,前者が,アンクランプ駆動時にロックロッドの前端の当接面66を当接させることにより押し上げられるものであり,後者が,アンクランプ駆動時にプルロッド31の先端を押圧するものである点で,両者は共通しているのであるから,刊行物4の「シャンク押し出し面68」が,本件発明1の「ソケット穴11の頂壁11a」に相当すると認定した審決に誤りはない。原告の主張は,採用できない。 8取消事由7(相違点2の判断の誤り)について(1)前記1で認定した刊行物1の記載によると,工作機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定するクランプ装置において,テーパ面を有する複数(通常4個)のコーンパッド(テーパピン)を,テーパ穴を有するテーパブッシュにそれぞれ装着してパレットをクランプするものは,端面が非接触なので縦方向(例えば上下垂直方向)の繰返し精度のばらつきが大きく,また,テーパ部のみでクランプしているので,クランプ力が弱く,パレットを強固にクランプすることが難しいという課題があったところ,引用発明は,このような課題を解決するために,パレット側装着部の端面及びメス側テーパ穴に,テーブル側の端面及びオス側テーパ面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束によりクランプするという構成を採用したものと認められる。 (2)刊行物3のクランプ装置は,工作機械の主軸に工具ホルダーを固定するものであるところ,前記1で認定した刊行物3の記載に照らすと,主軸1の端面及びテーパ孔2に,工具ホルダーのフランジ部5のシャンク部側の端面及びスリーブ3のテーパ面をそれぞれ同時に密着させて二面拘束するという構成を採用したということができる。 また,刊行物4のクランプ装置も,工作機械の主軸に工具ホルダーを固定するものであるところ,前記1で認定した刊行物4の記載に照らすならば,ツール支持部材34の前向き面52及び穴51の前向き回転面52に,ツールホルダの後向き面16及びシャンク14の第1回転面20をそれぞれ同時に密着させて二面拘束するという構成を採用したということができる。 (3)そして,機械のテーブル又はクランプパレットにワークパレットを固定する引用発明のクランプ装置と,工作機械の主軸に工具ホルダー本体を固定する刊行物3及び刊行物4のクランプ装置とは,共に工作機械に使用されるクランプ装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,技術分野を共通にする。 そうであれば,引用発明に刊行物3又は刊行物4記載の事項を組み合わせることは,当業者が容易になし得るものと認められる。 (4)原告は,引用発明は基準部材とワークパレットが基本的に不動であるのに対し,刊行物3各記載の事項は加工時に基準部材が高速で回転するから,引用発明と刊行物3とは,その設計思想や設計者が直面している課題が根本的に異なると主張する。 しかしながら,上記のとおり,引用発明のクランプ装置と刊行物3のクランプ装置は,ともに工作機械に使用されるクランプ装置であり,2つの部材をテーパ係合によって心合わせするデータム機能付きのクランプ装置であって,かつ,その設計思想や課題ないしその背景にある技術は基本的に共通するのであるから,引用発明に刊行物3の二面拘束の構成を組み合わせることは格別妨げられないというべきである。原告の上記主張は,採用することができない。 (5)原告は,刊行物3の工具ホルダーと引用発明のワークパレットとは,同一の技術課題(二面拘束)の解決のための技術的思想を異にするから,引用発明に刊行物3記載の事項を適用する動機付けがないと主張する。 しかし,前記1で認定した刊行物3の記載に照らすと,刊行物3に接した当業者は,より強固な二面拘束を実現することを期待して,引用発明に刊行物3の適用を試みると考えられる。そうであれば,引用発明に刊行物3を適用することの動機付けはあるということができる。原告の上記主張は,採用できない。 (6)原告は,刊行物1には,刊行物3記載の「シャトル部材」を適用することを阻害する事由が記載されていると主張する。 引用発明に刊行物3に記載の事項を採用する上で各部材の寸法等をどの程度にするかは当業者が適宜設定し得る事項であるから,別紙「γ」部分の高さを変えないように設定することも可能であり,「γ」部分の高さ方向の寸法が増加するとの根拠はない。 また,前記1で認定した刊行物1の段落【0033】の記載によると,押圧点Sが,互いに密接する両端面26,28の近傍に位置することの効果について記載がなく,また「位置決め精度が向上する」との効果は,「各押圧点Sはクランプ機構30,31の中心位置から半径方向外方にかなり離れた位置にある」ことによって奏されるのであって,引用発明の「γ」部分の高さ方向の寸法が増加しても押圧点Sの位置は変わらないし,むしろ引用発明の「γ」部分に刊行物2に記載された「リング22」を適用すれば,互いに密着する両端面26,28がクランプ機構30,31の中心位置から半径方向外方に位置し,さらに位置決め精度が高くなるから,原告の主張は採用できない。 (7)したがって,引用発明に刊行物3記載の事項を組み合わせることに困難はないから,原告の上記取消事由の主張は,理由がない。 9なお,原告は,訂正請求に関する審決の判断を争って平成18年4月3日付け訂正審判請求書(甲6)により訂正審判請求を行い,審判請求は成り立たないとした審決に対して,その取消訴訟(当庁平成18年(行ケ)第10425号)を提起しているが,平成19年12月28日に,審判請求は成り立たないとした審決を維持すべきものとして,当裁判所において原告の請求を棄却する判決をした(当裁判所に顕著な事実)。 10結論以上に検討したところによれば,本件各発明は,引用発明及び刊行物2ないし4に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって,本件各発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反して特許されたものであるから,審決の判断に誤りはない。原告はその他縷々主張するが,いずれも理由がなく,審決を取り消すべきその他の誤りも認められない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 上田洋幸 |