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関連審決 不服2003-11174
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成19行ケ10279審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  先願の地位 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  国内優先権 /  着想 /  技術的意義 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  減縮 /  変更 /  国際公開 / 
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事件 平成 18年 (行ケ) 10449号 審決取消請求事件
原告旭 硝子株式会社
訴訟代理人弁理士三好秀和
同 岩崎幸邦
同 高 久浩一郎
同 原裕子
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理 人廣野知子
同 板橋一隆
同 斉藤信人
同 徳永英男
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/12/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2003−11174号事件について平成18年8月21日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は 「無アルカリガラス,液晶ディスプレイパネル及びガラス板」との ,名称の発明につき,平成7年11月29日に特許出願(特願平7-311019国内優先権主張:特願平6-296522号 平成6年11月30日 以 。 ,(下 「出願1」という )及び特願平7-273235号,平成7年10月2 ,。
0日(以下 「出願2」という。平成15年7月18日付け手続補正書によ ,。)る補正後の請求項の数は10である )をした。。
原告は,本願につき平成15年5月14日付けの拒絶査定を受け,同年6月18日,これに対する不服の審判を請求(不服2003-11174号事件)し,本願につき平成15年7月18日付け手続補正書(甲1)により明細書の補正(以下,同補正後の明細書を「本願明細書」という )をした。 。
特許庁は,平成18年8月21日 「本件審判の請求は,成り立たない 」と , 。
の審決をし,その謄本は同年9月5日,原告に送達された。
2特許請求の範囲(上記補正後のもの),(, 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載は 次のとおりである 以下この発明を「本願発明」という。。)2 23 「 請求項1】モル%表示で実質的に,SiO :60〜72%,Al O 【,,,. :9〜14% B O :5〜10%未満 MgO:1〜5% CaO:0〜1235%,SrO:1〜7%,BaO:1〜5%,MgO+CaO+SrO+BaO:7〜18%からなり,歪点が640℃以上,密度が2.70g/cc以下である無アルカリガラス 」。
3審決の理由等別紙審決書の写しのとおりである。要するに,?@本願発明は,出願1及び出願2との関係において,適法な優先権主張の出願とはいずれも認められないから,国内優先の利益を享受できず,現実の出願日である平成7年11月29日が基準日となる。
?A特願平8-530899号(国際公開第97/11920号,優先権主張日:平成7年9月28日,甲6。以下 「先願」という )は,適法な優先 ,。
権主張の出願であるから 先願の出願日は 優先権主張の基礎となる出願 特 ,, (願平7-276760号,出願日:平成7年9月28日,甲7。以下 「優,先権基礎出願」という )の出願日である平成7年9月28日となる。 。
?B本願発明と,優先権基礎出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明とを対比すると,両者の発明は実質同一であるから,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
というものである。
そして,原告は,本件訴訟において,審決の上記判断中,?@は争わず,?A及び?Bを争っている。
4優先権基礎出願に係る特許請求の範囲の記載等(。「」。) 優先権基礎出願に係る明細書 甲7 以下 優先権基礎出願明細書 という及び先願の明細書(甲6。以下「先願明細書」という )に係る特許請求の範 。
囲の記載は,それぞれ,次のとおりである。
( )優先権基礎出願明細書の特許請求の範囲の記載1「 請求項1】重量百分率で,SiO58.0〜68.0%,Al O 【 2 2..,..,. 3 23 100〜25 0% B O3 0〜15 0%MgO0〜29%,CaO0〜10.0%,BaO0.1〜5.0%,SrO0〜10.0%,ZnO0〜5.0%,ZrO0〜5.0%,TiO02 2〜5.0%の組成を有し,実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことを特徴とする無アルカリガラス基板 」。
( )先願明細書の特許請求の範囲の記載2「1.重量百分率で,SiO58.0〜68.0%,Al O10. 2 230〜25.0%,B O3.0〜15.0%,MgO0〜2.9%,C 23aO0〜8.0%,BaO0.1〜5.0%,SrO0.1〜10.0%,ZnO0〜5.0%,ZrO0〜5.0%,TiO0〜5.2 20%の組成を有し,実質的にアルカリ金属酸化物を含有しないことを特徴とする無アルカリガラス基板 」。
第3原告主張の取消事由審決には,先願につき適法な優先権主張の出願と誤り,出願日を優先権基礎, (), 出願の日と判断して 特許法29条の2を適用した違法があり 取消事由1先願に係る発明(以下「先願発明」という )の認定を誤り,本願発明と先願 。
発明の同一性であると判断した違法がある(取消事由2 。)1取消事由1(先願の優先権主張を適法とした誤り)( )先願は,以下のとおり,優先権基礎出願に基づいた適法な優先権主張に係1る出願ではないから,国内優先の利益を享受することができず,現実の出願日の平成8年9月25日を基準日とすることになり,したがって,本願発明に対し29条の2における先願の地位を有しない。
すなわち,適法な優先権主張に係る出願とされるためには,後の出願に係る発明が先の出願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された発明であることが必要である。そして,先の出願の特許請求の範囲における数値範囲を減縮する場合にあっては,後の出願の数値範囲を特定する数値が先の出願に係る明細書,特許請求の範囲又は図面に記載されていることが必要であるというべきである。
本件においては,先願の特許請求の範囲(請求項1,甲6)には 「Ca,O:0〜0.8%」と記載されているが,優先権基礎出願の特許請求の範囲(請求項1,甲7)には 「CaO:0〜10.0%」と記載され,実施例 ,にもCaO「8.0重量%」の組成は記載されていない。この点から明らかなように,CaOを8.0重量%より多く含むとガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するとの技術的知見は,後の先願に係る出願時に初めて得られたものであり 「8.0重量%」の数値は,後の出願において 「1 , ,0.0重量%」の数値を削除して,新たに追加された値である。
,,「 .() したがって 審決がCaOの組成上限値として8 0% 重量百分率‥‥‥が記載されていないが,これらは,それぞれ先願における‥‥‥CaOの数値範囲:0〜10%(重量百分率)に含まれていることから,先願の優先権主張は認められる (審決書3頁7行〜12行)とした判断は,誤り 」である。
( )被告の主張に対する反論2ア被告は,ガラスの分野における数値は概数であるから 「7.5」の概 ,数として「8.0」は記載されていたに等しいと主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。
確かに原料である天然鉱物は,その産地等により化学組成は異なっているが,製品としてみた場合,製品自体の組成は厳しく管理されており(乙2,作花済夫他編「ガラスハンドブック」282頁8行〜9行 ,0.5 )%もの誤差が許される技術分野ではない。具体的には,その誤差は,CaOであれば,0.008%のオーダにすぎない(乙3 「成瀬省著「ガラ ,ス工学」31頁 。)先願明細書の実施例8に示されたCaO7.5重量%のガラスを8.0重量%のガラスにした場合,その10ポイズ温度は,約10℃低い値2.5に計算される(甲8,甲9 。このことは,ガラスの溶融性特性が実質的 )に異なることを意味し,このような観点からみても,CaO含量が0.5重量%相違することが「無視して差し支えない誤差」でないことは容易に理解できる。
被告の主張は,当該技術分野の常識からみて誤りである。
イ被告は,CaOの上限値について,優先権基礎出願明細書の「10.0%」から先願明細書の「8.0%」と変更した点について,CaO含有量の上限値の数値を変えることは技術的知見としては実質的に何ら変わるものではないと主張する。
しかし,ガラスの組成は,0.05%以内の誤差の範囲で管理されるべきことに照らすならば,優先権基礎出願明細書と先願明細書は,CaOの上限値の臨界的意義について異なる技術的知見を提示していることは明らかであるから,被告の主張は誤りである。
2取消事由2(特許法29条の2における実質同一の判断の誤り)( )先願発明の認定の誤り1特許法41条3項の規定によれば,先の出願と後の出願の双方の明細書に記載されていた発明についてはじめて,特許法29条の2の適用が認められる。
CaO含有量について,後の出願(甲6)は「0〜8.0重量%」と記載され,先の出願(甲7)は「0〜10.0重量%」と記載され,両者の間で一致していないにもかかわらず,審決は,先願発明の内容を「0〜10.0重量%」と認定した点に誤りがある。
( )実質同一の判断の誤り2本願発明は先願明細書に記載されているとした審決の認定は,次のとおり誤りである。
ア先願明細書には,CaOの組成を限定した理由として 「CaOも,M ,gOと同様に歪点を下げずに高温粘性を下げ,ガラスの溶融性を改善する作用を有する成分であり‥‥‥」と記載されている。さらに,先願明細書に具体的に記載された実施例1〜8,比較例9〜12のガラス組成は,いずれもCaO含有量が2.6モル%以上であり,CaOが1.5モル%以下のものは開示されていない。
このように,先願発明は,リン不純物に起因するリーク電流の発生を抑制して良好なTFT特性を実現するとの着想はなく,リーク電流を抑制するためにCaO含有量を一定量以下に抑制するとの技術的思想は存在しない。先願明細書に,CaO含有量を1.5モル%以下にする構成は,記載も示唆もされていないことは明らかである。
イこの点について,審決は 「先願発明発明の重量百分率表示のガラス組 ,2 成物の中から‥‥‥選定した場合,モル%表示に変換し直すと,SiO:68.1%,AlO:9.0%,BO:9.8%,MgO:23 234.2%,CaO:1.2%,SrO:5.9%,BaO:1.8%,MgO+CaO+SrO+BaO:13.1となり,これは本願発明のガラス組成物の組成範囲内である。したがって,両者は,相違しない(審。」決書5頁35行〜6頁8行)と,先願明細書に具体的に記載されたガラス組成物から離れて,先願発明の組成範囲内に理論上含まれるが,記載がない任意のガラス組成物を選定し それをもって本願発明は先願明細書に 記 , 「載された発明」と同一であると判断したが,同判断は誤りである。
確かに,化学の分野において,記載された発明の認定は,明細書に開示された実施例のみからなされるのではなく,発明の詳細な説明その他の明細書の記載全般を総合して行われるが,特許請求の範囲に広範なガラス組成物が開示されている場合に,単に組成範囲内にあることを理由に,明細書に開示された技術的思想から離れた任意の具体的な組成を先願発明の内容として認定することは,先願発明の認定手法として誤りであり,特許法29条の2に違反する。
ウさらに,本願発明は,CaO含有量を抑制し,それによりリーク電流を抑えてTFT特性を向上させる効果を奏する発明である。すなわち,本願発明は,先願発明において認識されていない新たな構成を選択し,それにより先願発明と異なる有利な効果を奏する発明である。
したがって 「本願発明が先願発明に比べて格別顕著な効果を奏すると ,は認められない (審決書6頁15〜20行)とした審決の判断は誤りで 」ある。
( )被告の主張に対する反論3ア被告は,先願明細書には,先願に係る特許請求の範囲に記載された全範囲に属する,理論上組み合わせが可能なすべての具体的組成が実施可能であるように記載されているので,実施例に挙げられていない組成も,実施例に挙げられている組成と同様,実質的に開示されているものと見るべきであると主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。
特許請求の範囲に記載された物質又は成分割合の各々について,具体的技術内容が開示されていないのに,その開示されていない物質又は成分割合を選択したものについても,これが実質的に開示されているとすること,,。 , は 擬制であって 理論的にも誤りである このような前提を採るならばいわゆる選択発明の成立する余地が認められないことになって,妥当を欠く。
先願明細書には,CaO含有量が「0〜1.5モル%」であるガラスは一例もなく,発明の詳細な説明中にもこの点について何ら具体的な開示はない。さらに,被告が選んだガラス組成の歪点は 「631℃」と計算さ ,れ(甲8,甲9 ,このガラスは,650℃以上の高い歪点を要求する先 )願発明の目的を充たすものではなく,先願発明からは除外される組成,つまり選択されるべきでない組成である。
これに対して,本願発明は,CaO含有量が「0〜1.5モル%」の範, 「」 囲に 先願明細書において全く教示するところのない リーク電流の抑制という特有の技術的意義を見出しその顕著な技術効果を奏する特定の狭いCaO含有範囲を選択した発明である。
以上のとおり,本願発明は,先願明細書に記載された発明ではなく,先願発明とは別個の発明であって,独自の保護に値する技術的思想である。
よって,被告の主張は失当である。
イ被告は,本願明細書では,すべての実施例1〜10において「リーク電流」を測定しておらず,実施例1,2を選んでリーク電流を測定してみた程度のことであるから,CaO含有量を1.5モル%以下にしてリン不純物に起因するリーク電流の発生を抑制して良好なTFT特性を得るという顕著な効果が本願当初明細書に直接明りょうに記載されていないと主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり失当である。
本願明細書の段落【0024】〜【0026】及び実施例の各記載によれば,当業者には,CaOの配合量の増加とリーク電流の増大には,一定の相関関係があり,段落【0026】のとおり,リーク電流が関係するTFT特性向上の観点から,CaOのより好ましい範囲は1.5モル%以下であることが明確に理解できる。すなわち 「CaO含有量を1.5モル ,%以下にして‥‥‥良好なTFT特性を得るという顕著な効果」は,本願明細書に直接明りょうに記載されている。
第4被告の反論1取消事由1(先願の優先権主張を適法とした誤り)に対し( )原告は,優先権基礎出願に係る特許請求の範囲又は明細書には,CaO1含有量が 8 0重量% であることが記載されていないから CaOを 0 「.」 ,「〜8.0」重量%と記載した先願は,適法な優先権主張に係る出願ではないと主張する。
しかし,原告の主張は理由がない。
すなわち,ガラスの原料は,天然鉱物原料であり,この天然鉱物原料が一般に多成分系であるため,ある決まったガラス組成を得るためには原料調合比を求める計算を行わなければならないが,他の原料に含まれる微量成分によって目標値と計算値との間で誤差が生じる(乙2,乙3 。ガラスは,そ )の原料が天然鉱物であるために産地によっても組成物が変わり,保管の仕方によっても空気中の湿気を吸収して重量が変わる可能性があり,他の原料から入る微量の成分による計算値との間の誤差等,厳密な数値,つまりある1点の数値からなるガラス組成物を規定することは難しく,必ず誤差を含んでいる技術分野である。
優先権基礎出願明細書の記載によれば,CaOの含有量が10.0重量%より多いとガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪くなるため,ガラスの耐バッファードフッ酸性の観点から,CaOの含有量が10.0重量%以下であることがわかる。してみると,CaO含有量を「0〜8.0」とする先願は ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪くなる上限値である 1 , 「0.0%」を,実施例の最大値である「7.5」を基にして規定するものである。そして,ガラス分野においては,ある程度の幅を持った概数の値を取り得るということから,実施例の最大値の「7.5」を考慮して 「0〜1 ,0」を「0〜8.0」にまで単に減縮したものと理解できる。先願明細書における「0〜8.0」は,優先権基礎出願明細書の記載から自明である。
( )原告は,先願明細書における,CaOを「8.0」重量%より多く含む2とガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するとの技術的知見は,先願の出願時に初めて得られたものであるから この点から見て CaOを 0 ,,「〜8.0」重量%とする出願は,国内優先の利益を享受することはできないと主張する。
しかし,先願明細書及び優先権基礎出願明細書の両者とも,CaO含有量の値が,請求項1に記載された上限値より多い場合には,ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するとの技術的知見が記載されている。
先願明細書において,CaO含有量の上限値を変えたとしても,技術的知見は実質的に何ら変わりはなく,既に優先権基礎出願明細書に開示された知見を記載したものと理解できる。
2取消事由2(特許法29条の2における実質同一の判断の誤り)に対し( )先願発明の認定の誤りの主張について1原告は,先願明細書と優先権基礎出願明細書との間でCaO含有量について一致していないにもかかわらず,CaOを「0〜10重量%」であるガラス組成物を先願発明として認定したことは誤りであると主張する。
確かに,審決は,先願発明の内容を,先願明細書に基づいて認定すべきところ,優先権基礎出願明細書に基づいて認定した点に妥当を欠く点がある。
しかし,上記1において述べたとおり,優先権基礎出願明細書において,CaO含有量が「0〜8.0」であることは自明な事項であるから,優先権基礎出願明細書に記載に係る「0〜10.0」中の「0〜8.0」の範囲では,先願明細書と優先権基礎出願明細書の間に差異はない。
よって,審決は,両方に記載された発明を先願発明と実質的に認定しているものであって,誤りはない。
( )実質同一の判断の誤りの主張について2ア原告は,先願発明のガラス組成において,個々の組成が特定されているのは,実施例のみであり,それ以外の個々の組成が特定されていないものについては実質的に開示されているといえないから,審決において,先願発明の組成範囲内から任意の組成を選定し,それをもって本願発明が記載されていると判断したことは誤りである,と主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
先願発明は,先願に係る特許請求の範囲又は先願明細書の記載により認定される。実施例に記載されていない限り,先願発明の内容として認定できない理由は存在しない。また,先願発明は「物」の発明であり,先願明細書には,物を製造,使用できることが記載されている以上,実施例以外の個々の組成が特定されていないものについて,発明の内容を認定することが不当であるとはいえない。
したがって,先願発明の特許請求の範囲における組成のうち,実施例以外の1点を選んで 「重量%」を「モル%」に単位変換し,これと本願発 ,明と比較して,同一であるとした審決に違法はない。
イ原告は,本願発明は,先願発明と異なるCaO含有量を0〜1モル%に規定したガラス組成を選択し,それにより先願発明と異なる効果,リン不純物に起因するリーク電流を抑制し,TFT特性を向上させる効果を奏する発明であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
先願発明の特許請求の範囲における組成のうち,実施例以外の1点を選択し 「重量%」から「モル%」に単位変換した発明は,本願発明に係る ,「物」と相違しない。そうすると 「物」のリーク電流を測定した場合, ,効果の点で,先願発明と本願発明とは相違しない。
また,本願発明の主たる効果は 「耐バッファードフッ酸・耐塩酸性・ ,耐熱性・溶融成形が優れている」ことにある 「リン不純物に起因するリ 。
ーク電流の発生を抑制して,良好なTFT特性を実現する」という効果に関しては,無アルカリガラスにおける各成分の組成範囲の限定理由において,CaOの含有量の上限値がリーク電流によることを示す記載がある程度にすぎない。
さらに,本願明細書では,すべての実施例1〜10において「リーク電流」を測定しておらず,実施例1,2を選んでリーク電流を測定してみた程度のことである。
してみると,CaO含有量を1.5モル%以下にしてリン不純物に起因するリーク電流の発生を抑制して良好なTFT特性を得るという顕著な効果が本願明細書に直接明りょうに記載されてはいない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(先願の優先権主張を適法とした誤り)について当裁判所は,先願発明は,優先権基礎出願明細書に記載されているということができないから,本願との関係で,先願発明を特許法29条の2所定の発明として同条の規定を適用することはできないと判断する。
その理由は,以下のとおりである。
( )明細書の記載1ア優先権基礎出願明細書の記載(甲7)(ア)「 請求項1】重量百分率で,SiO58.0〜68.0%, 【2Al O10.0〜25.0%,B O3.0〜15.0%,Mg 23 23O0〜2.9%,CaO0〜10.0%,BaO0.1〜5.0%,SrO0〜10.0%,ZnO0〜5.0%,ZrO0〜25.0%,TiO0〜5.0%の組成を有し,実質的にアルカリ金 2属酸化物を含有しないことを特徴とする無アルカリガラス基板(特。」許請求の範囲)(イ)「CaOも,MgOと同様に歪点を下げずに高温粘性を下げ,ガラスの溶融性を改善する作用を有する成分であり,その含有量は,0〜10.0%,好ましくは1.8〜10.0%,さらに好ましくは2.1〜10.0%である。10.0%より多いと,ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するため好ましくない。すなわちガラスをバッファードフッ酸で処理する際に,ガラス中のCaO成分と,バッファードフッ酸による反応生成物が,ガラス表面に多量に析出してガラス基板を白濁させやすくなると共に,反応生成物によってガラス基板上に形成される素子や薬液が汚染されやすくなる(段落【0025 ) 。」】「, , (ウ)SrOは BaOと同様にガラスの耐薬品性を向上させると共に失透性を改善させる成分であり,しかもBaOに比べて,溶融性を悪化させにくいという特徴を有しているが,多量に含有すると,ガラスの密。,,. 度が高くなるため好ましくない 従って SrOの含有量は 0〜100%,好ましくは0.1〜10.0%である(段落【0027 ) 。」】(エ)実施例として,CaOが2.1重量%〜7.5重量%とする例が掲げられている(段落【0035 【0036。】】)イ先願明細書の記載(甲6)2 23 (ア)「1.重量百分率で,SiO58.0〜68.0%,Al O10.0〜25.0%,B O3.0〜15.0%,MgO0〜232.9%,CaO0〜8.0%,BaO0.1〜5.0%,SrO0.1〜10.0%,ZnO0〜5.0%,ZrO0〜5.02%,TiO0〜5.0%の組成を有し,実質的にアルカリ金属酸化 2物を含有しないことを特徴とする無アルカリガラス基板(特許請求。」の範囲)(イ)「CaOも,MgOと同様に歪点を下げずに高温粘性を下げ,ガラスの溶融性を改善する作用を有する成分である。CaOの含有量は,0〜8.0%,好ましくは1.8〜7.5%,さらに好ましくは2.1〜7.5%である。8.0%より多いと,ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するため好ましくない。すなわちガラスをバッファードフッ酸で処理する際に,ガラス中のCaO成分と,バッファードフッ酸による反応生成物が,ガラス表面に多量に析出してガラス基板を白濁させやすくなる。それとともに,反応生成物によってガラス基板上に形成される素子や薬液が汚染されやすくなる(4頁27行〜5頁5行) 。」「, , (ウ)SrOは BaOと同様にガラスの耐薬品性を向上させると共に失透性を改善させる成分である。しかも,SrOはBaOに比べて,溶融性を悪化させにくいという特徴を有している。しかし,SrOを多量に含有すると,ガラスの密度が高くなるため好ましくない。従って,SrOの含有量は,0.1〜10.0%,好ましくは1.0〜9.0%である(5頁10行〜14行) 。」( )検討2優先権基礎出願と先願について,各特許請求の範囲(請求項1)の記載を対比すると,CaO含有量については,前者が「0〜10.0%」であるのに対し,後者が「0〜8.0%」であり,SrO含有量については,前者が「.」,「..」, 0〜10 0% であるのに対し 後者が 0 1〜10 0% でありいずれも,先願における含有量は,優先権基礎出願における含有量の範囲に含まれる。
このうち,SrO含有量については,優先権基礎出願明細書に「好ましくは0.1〜10.0%である」との記載があることに照らすならば 「0.,1〜10.0%」の含有量については,優先権基礎出願明細書に開示されているとみることができる。
しかし,CaO含有量については,優先権基礎出願明細書には 「10. ,0%より多いと,ガラスの耐バッファードフッ酸性が著しく悪化するため好ましくない」と記載され,同記載部分によれば,優先権基礎出願明細書においては 「10.0%」なる数値に上限としての技術的意義を有するものと ,,「.」, して開示されているといえるが0〜8 0% の範囲の数値については何ら技術的な意味を示唆する記載はない。そして,優先権基礎出願明細書の実施例及び比較例によれば,CaOの含有量は,2.1〜7.5%の範囲にあることが示されており,CaOを「8.0%」含有させたガラス組成物についての開示はない。
そうすると,優先権基礎出願明細書には 「8%」を上限とする「0〜8 ,%」のCaO含有量範囲について,何らかの技術的意義を示した記述はないと理解するのが自然である。
以上によれば,先願発明は,優先権基礎出願明細書に記載されているということはできない。
( )被告の主張について3ア被告は,ガラス組成物は,誤差が生ずることは避けられず,特定の数値で規定することが難しく,ある程度の幅を持った概数値で論じられざるを得ない分野であること(乙2,乙3)に鑑みれば,先願明細書に記載されたCaO含有量「0〜8.0%」は,優先権基礎出願明細書に実施例に最「.」 ,,「. 大値 7 5% の記載があることに照らすと 同数値は 概数として 80%」の値を示したものと理解できるから,優先権基礎出願明細書の記載から自明な事項であると主張する。
しかし,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,乙2には 「成分の安定性:大量生産のガラスでは製品の物 ,理的・化学的性質の安定や機械成形の安定性が望まれるため,製品のガラス組成において各成分は一般に0.05%以内の範囲で一定でなければならない (282頁7〜9行)と記載され,乙3には,第4・3表(31 」頁)に,ガラス原料を配合した場合の誤差として,CaO成分については「0.008%」という小さい数値が例示されている。
そうすると,ガラス技術分野において,ガラス組成物の含有量が「ある程度の幅を持った概数の値」で示さざるを得ないとしても,その幅は,せ「.」 ,「.」 いぜい 0 05% のような小さな程度をいうのであって7 5%の概数として「8.0%」まで包含するような大きさであるとは,到底認められない。
イまた,被告は,先願明細書の記載は,優先権基礎出願明細書における実施例の「7.5%」を考慮し「0〜10.0%」を「0〜8.0%」まで単に減縮したものであるとも主張する。
しかし,被告の上記主張も失当である。
すなわち,優先権基礎出願明細書には,ガラス組成物の組成範囲が記載されているだけであって,組成範囲の誤差に関する記載はなく,また,CaO含有量が「7.5%」を超える具体例も記載されていない。そして,ガラス分野における「7.5%」の含有量が「8.0%」まで包含するものでないことは上記アで説示したとおりである。
そうすると,数値的には 「0〜10.0%」を減縮すれば 「0〜8. , ,0%」になり得るとしても,優先権基礎出願明細書において上限値の「10.0%」を「8.0%」という特定の数値に変更する理由が見当たらないから 「0〜8.0%」は「0〜10.0%」を単に減縮したものであ ,るとは認められない。
( )小括4上記のとおり,先願発明は,優先権基礎出願明細書に記載されているということができないから,審決が,本願との関係で,先願発明を特許法29条の2所定の発明として同条の規定を適用したことは誤りである。
2結論, ,。 以上によれば その余の点につき判断するまでもなく 審決には違法があるよって,原告の請求を認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 三村量一
裁判官 上田洋幸