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関連審決 不服2006-28894
関連ワード 優先権 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10271号 審決取消請求事件
原告バイオメット スペイン オルソピー ディクスソシエダッドリミタダ
訴訟代理人弁理 士秋元輝雄
同 加藤宗和
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人大場義則
同 内山進
同 森川元嗣
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/12/26
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2006-28894号事件について平成19年3月27日にした審決を取り消す。
争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯(1)原告は,平成11年11月18日,発明の名称を「可動適合型インサートを有する膝人工関節」とする発明につき特許出願(優先権主張1998年11月19日・スペイン。特願2000-583457号。以下「本件出願」という。)をした。
特許庁は,平成18年9月12日,本件出願につき拒絶査定(以下「本件拒絶査定」という。)をし,その謄本は,同月19日,原告の代理人である秋元輝雄弁理士(以下「秋元弁理士」という。)に送達された(乙5)。なお,本件拒絶査定の謄本には,「この査定に不服があるときは,この査定の謄本の送達があった日から30日以内(在外者にあっては,90日以内)に,特許庁長官に対して,審判を請求することができます(特許法第121条第1項)。」との教示がされている(乙4)。
(2)原告は,平成18年12月28日,本件拒絶査定に対して不服審判請求(不服2006-28894号事件)をした。
そして,特許庁は,平成19年3月27日,「本件審判の請求を却下する。」との審決(以下「審決」という。)をした。
2 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。その理由は,本件拒絶査定に対する不服審判請求は,特許法121条の規定により本件拒絶査定の謄本の送達があった日から90日以内である平成18年12月18日までにされなければならないのに,本件審判の請求は,同月28日にされているので,上記法定期間経過後の不適法な請求であり,その補正をすることができないから,同法135条の規定により却下すべきである,というものである。
当事者の主張
1 取消事由についての原告の主張(1)本件出願の出願人である原告には,法定期間経過後に本件審判の請求をしたことにつき,特許法121条2項の「その責めに帰することができない理由」がある。
すなわち,原告の代理人である秋元弁理士の事務所の事務員は,錯誤(過失)により,本件拒絶査定に対する不服審判請求の期限(平成18年12月18日)を平成19年1月4日と誤解し,原告の現地代理人(ドイツ在住)に対し,不服審判請求の期限が同日である旨報告したため,原告の現地代理人(ドイツ在住)から,秋元弁理士の事務所に対し,本件審判の請求をするよう指示がされたのは,平成18年12月24日となった(甲2,3)。このように出願人である原告本人の「その責めに帰することができない理由」により,本件審判の請求が法定期間経過後になったのであるから,法定期間経過後6か月以内であれば,拒絶査定不服審判請求が認められてしかるべきである。
なお,ヨーロッパ特許庁においては,本件のような場合の期間の不遵守に対しては救済が認められており,世界に協調する姿勢からいっても,審決は取り消されてしかるべきである。
(2)本件審判手続においては,原告が法定期間経過後に本件審判の請求をした理由について審尋がされなかった審理不尽があり,審決は違法である。
(3)以上によれば,法定期間経過後の請求であることを理由に本件審判の請求を却下した審決は違法であり,取り消されるべきである。
2 被告の反論(1) 原告の主張(1)に対し特許法121条2項に規定する「その責めに帰することのできない理由」とは,天変地変その他客観的に避けることができない事故のほか,審判請求人又はその代理人が通常なすべき注意を払っても避けることができなかったと認められる事由をいうものと解される(東京高判昭和63年7月26日・昭和62年(行ケ)第174号事件等参照)。
原告の代理人の事務補助者(事務員)の過失は,代理人の過失と同視すべきものであるから,事務補助者に過失行為があることをもって,審判請求人(原告)又はその代理人が通常なすべき注意を払っても避けることができなかったということはできない。
また,代理人は本人により選任され,本人の委託を受けて本人の名をもって拒絶査定に対する不服審判請求等の行為を行うものであるから,代理人の事務補助者の過失により審判請求期間を徒過した場合,本人がその責めを負うのが当然であって,たとえ,本人に過失がなかったとしても「その責めに帰することができない理由」がある場合に該当しない。
(2) 原告の主張(2)に対し拒絶査定不服審判請求の期間は,特許法121条1項に定める法定期間である。また,出願人,弁理士等の特許関係業務に従事する者は,出願人が在外者である場合,特許法121条2項に該当するときを除き,拒絶査定の謄本の送達日から90日以内に審判請求をしなければならないことを十分に知り得ている。したがって,仮に特許法121条2項に該当するときは,請求人が審判請求時等にその旨述べるべきであり,そのような主張がされない場合に審尋等により審判請求期間を徒過した理由を確認することなく,審決をしたとしても,審理不尽となるものではない。
当裁判所の判断
1 審決の取消事由の有無(1)原告は,原告が法定期間経過後に本件審判の請求をしたのは,原告の代理人である秋元弁理士の事務員が,錯誤(過失)により,本件拒絶査定に対する不服審判請求の期限を誤解したことに起因するものであるから,原告には特許法121条2項の「その責めに帰することのできない理由」がある旨主張する。
しかし,原告の代理人の秋元弁理士の補助者である事務員の過失は,秋元弁理士の過失と同視すべきであるから,同事務員の過失に起因して本件拒絶査定に対する不服審判請求をすることができる法定期間を徒過した場合には,たとえ,その期間徒過が原告本人自身の過失に基づくものでないとしても,特許法121条2項に規定する「拒絶査定不服審判を請求する者がその責めに帰することができない理由により前項に規定する期間内にその請求をすることができないとき」に該当するということはできない。
したがって,原告の上記主張は,その主張自体理由がない。
(2)原告は,本件審判手続には,原告が法定期間経過後に本件審判の請求をした理由について審尋がされなかった点に審理不尽の違法がある旨主張する。
しかし,?@法定期間経過後に拒絶査定不服審判請求があった場合,期間徒過について請求人の「その責めに帰することができない理由」(特許法121条2項)の有無を確認するために審尋することを求める規定はないこと,?Aまた,本件審判の請求に当たり,請求人において,「その責めに帰することができない理由」を何ら述べた形跡はないこと,?Bさらに,本件審判の請求において,前記(1)で判断したとおり,請求人の「その責めに帰することができない理由」は存在しないことに照らすならば,本件審判手続において審尋がされなかったことに審理不尽があるとはいえない。
したがって,原告の上記主張は,失当である。
(3) 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。
2 結論よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀