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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19ワ8064特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  優先権 /  国内優先権 /  優先日 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 133号 審決取消請求事件
原告 日特エンジニアリング株式会社
訴訟代理人弁理士 後藤政喜
同 松田嘉夫
同 飯田雅昭
同 三田康成
被告 株式会社多賀製作所
訴訟代理人弁理士 吉田芳春
訴訟代理人弁護士 高橋敬一郎
同 郡司 淳
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/21
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が,無効2001-35256号事件について,平成16年2月23日にした審決のうち,「特許第2693401号の請求項1,2,3,5に係る発明についての特許を無効とする。」との部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「偏向コイルの巻線機及び圧着用導電性部材」とする特許第2693401号の特許(平成7年5月15日出願(国内優先権主張 平成6年10月17日)(以下「本件出願」という。),平成9年9月5日設定登録
以下「本件特許」という。請求項の数は5である。)の特許権者である。
被告は,平成13年6月18日,本件特許を無効にすることについて審判を請求した。特許庁は,この請求を無効2001-35256号事件として審理した。原告は,この審理の過程で,本件出願の願書に添付した明細書(以下,この明細書と図面を併せて,「本件明細書」という。)の訂正の請求をした。特許庁は,審理の結果,平成14年1月29日,「訂正を認める。特許第2693401号の請求項1ないし5に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし(以下,この訂正を「本件第1訂正」という。本件第1訂正により,請求項5は削除され,本件第1訂正前の請求項6が,ここでいう請求項5となり,無効と判断されたものである。),審決の謄本を同年2月8日に原告に送達した。
原告は,平成14年3月2日,東京高等裁判所に上記審決の取消を求める訴えを提起し(平成14年(行ケ)第106号審決取消請求事件),同訴訟の係属中の平成14年5月14日,訂正の審判(訂正2002-39119号)を請求した。
特許庁は,平成14年12月11日,上記訂正を認めるとの審決をした(以下,この訂正を「本件第2訂正」という。本件第2訂正後の請求項5は,本件第1訂正前の請求項5に相当するものであり,本件第2訂正により本件第1訂正前の請求項6(上記審決で無効とされた請求項5)が削除された。)。
東京高等裁判所は,平成15年3月27日,上記訂正審決がなされたことを受けて,上記審決取消請求事件について,「平成14年1月29日付けの審決中,特許第2693401号の請求項1ないし4項(訂正2002-39119号の審決による訂正前の1項ないし4項であり,同審決による訂正後の1項ないし4項でもある。)に係る特許を無効とする旨の部分を取り消す。その余の請求に係る原告の訴えを却下する。」との判決を言渡した(本件第1訂正前の請求項6については,本件第2訂正により削除されたため,訴えが却下されたものである。)。
特許庁は,上記判決の確定を受けて無効審判の審理を再開した。原告は,その審理の過程で,平成15年9月26日,本件明細書の訂正(以下「本件第3訂正」という。)の請求をした。
特許庁は,平成16年2月23日,「訂正を認める。特許第2693401号の請求項1,2,3,5に係る発明についての特許を無効とする。特許第2693401号の請求項4に係る発明についての審判請求は,成り立たない。」との審決をし,審決の謄本を同年3月4日に原告に送達した。
2 特許請求の範囲(本件第3訂正後のもの。以下,審決と同様に【請求項1】ないし【請求項5】の発明を「本件発明1」ないし「本件発明5」という。ただし,【請求項1】のaないしjの符号は便宜上付したものであり,以下「構成要件a」,「構成要件b」などという。別紙図面A参照)。
「【請求項1】 a.被覆導線からなる線材を供給する移動機構を備えた線材供給機構と, b.線材供給機構から供給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備えた偏向コイルの巻線機において, c.線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接または近接して配置される導電性部材と, d.前記導電性部材を線材に圧着し,かつ線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極による圧着通電機構と, e.前記導電性部材を移動する手段と, f.移動した導電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段と, g.この導電性部材と前記圧着通電機構により新たに線材に圧着された導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極とを備えるとともに, h.前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し, i.この帯状連続部材をその最先端部が前記圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給する手段と, j.前記線材供給機構から供給された線材が前記線材供給機構を移動することによって前記最先端部に挟み込まれた前記帯状連続部材を所定の位置で切断する手段と を備えたことを特徴とする偏向コイルの巻線機。
【請求項2】 前記帯状連続部材の一部を所定間隔で切り起こして折り曲げたフープ材で形成したことを特徴とする請求項1に記載の偏向コイルの巻線機。 【請求項3】 前記導電性部材の移動手段が,移動機構を備えた線材供給機構である請求項1に記載の偏向コイルの巻線機。 【請求項4】 前記導電性部材の移動手段が,移動機構と導電性部材の把持機構を備えた前記第1の電極である請求項1に記載の偏向コイルの巻線機。 【請求項5】 前記新たに線材に圧着した導電性部材と金型との間で線材を切断する手段を備えた請求項1に記載の偏向コイルの巻線機。」 3 審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,@本件発明1は,特開昭60-243933号公報(本訴甲3号証,審判甲2号証。以下,審決と同様に「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。),特開平4-95372号公報(本訴甲4号証,審判甲12号証。以下,審決と同様に「刊行物2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。),及び,実願昭57-147932号(実開昭59-53787号)のマイクロフィルム(本訴甲5号証,審判乙2号証。以下,審決と同様に「刊行物7」という。)に記載された発明(以下「引用発明7」という。)あるいはさらに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,A本件発明2は,引用発明1,2,7及び「工場自動化事典」第2版(工場自動化事典編集委員会編,産業調査会出版部発行,昭和59年8月10日,339頁。本訴甲6号証,審判甲6号証。以下,審決と同様に「刊行物5」という。)に記載された発明,あるいはさらに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,B本件発明3は,引用発明1,2,7,あるいはさらに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,C本件発明5は,引用発明1,2,7及び特開昭60-115128号公報(本訴乙1号証,審判甲3号証。以下,審決と同様に「刊行物4」という。)に記載された発明,あるいはさらに周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,いずれも特許法29条2項の規定に該当し,特許を受けることができない,とするものである。
審決が上記結論を導くに当たり,本件発明1と引用発明1との一致点・相違点として認定したところは,次のとおりである。
一致点 「被覆導線からなる線材を供給する移動機構を備えた線材供給機構と,線材供給機構から供給される線材を巻き回して偏向コイルを形成する回転金型とを備えた偏向コイルの巻線機において, 線材供給機構から供給された線材の両側から線材の外周に当接または近接して配置される導電性部材と, 前記導電性部材を線材に圧着し,かつ線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の第1の電極による圧着通電機構と, 前記導電性部材を移動する手段と, 移動した導電性部材を第1の電極以外の場所に係止する手段と, この導電性部材と前記圧着通電機構により新たに線材に圧着された導電性部材との間に電圧を印加する一対の第2の電極 とを備えた偏向コイルの巻線機。」 相違点 「本件発明1は,偏向コイルの巻線機における工程の1つである線材に導電性部材(端子)を通電圧着する工程において,下記ア-1及びア-2の構成を採用したものであるのに対し,刊行物1記載の発明では,このような構成が採用されていない点においてのみ相違するものと認められる。(以下,「相違点ア」とする。) 記 構成ア-1 前記導電性部材を導電性の帯状連続部材で構成し, この帯状連続部材をその最先端部が前記圧着通電機構の第1の電極の間に送り込まれるように供給する手段と, 前記線材供給機構から供給された線材が前記最先端部に挟み込まれた前記帯状連続部材を所定の位置で切断する手段と を備えること 構成ア-2 線材が前記線材供給機構を移動することによって前記最先端部に挟み込まれること」
原告主張の審決取消事由の要点
審決は,相違点アー1について,引用発明1に引用発明2及び7を組み合わせることについて阻害要因があることなどから,容易想到性がないにもかかわらず,これを容易に想到し得るものと誤って判断したものであり(取消事由1),また,引用発明1に引用発明2及び7を組み合わせたとしても,相違点ア-2の構成に想到することはできないのであるから,この点においても誤りであり(取消事由2),さらに,本件発明1が従来技術から予想し得ない顕著な作用効果を奏することを看過しており(取消事由3),これらの誤りは,請求項1のみならず,請求項2,3及び5に係る本件特許についてこれを無効とした審決の結論にそれぞれ影響を及ぼすことが明らかであるから,審決は請求項1,2,3及び5のいずれについても違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(相違点ア-1についての判断の誤り) 引用発明1に対して引用発明2及び7を組み合わせることは困難である。
(1) 審決は,「刊行物1に記載された偏向コイルの巻線機においては,導電性部材(端子)を線材に圧着通電することと,その後圧着通電により線材の端部に接合された端子を用いて通電し,偏向コイルの線材相互を融着せしめてコイル形成体とすることとは,別個に考慮しうる技術的事項であるから,刊行物1記載の発明において,導電性部材を圧着通電する手段として,刊行物2及び刊行物7に記載された技術手段を適用することを阻害する特段の要因もない。」(審決書31頁下から7行〜最下行)と判断した。
しかしながら,導電性部材を線材に圧着通電することと,その後に接合された端子を用いて通電しコイル形成体とすることとが別個に考慮し得る技術事項であるとしても,このことは,引用発明1に引用発明2及び7を組み合わせる阻害要因の一つが存在しないことを意味するにすぎず,進歩性を否定するための必要条件であるが十分条件ではない。審決は,上記事項が別個に考慮し得る事項であることのみをもって,引用発明1に引用発明2及び7を組み合わせることが容易と判断しているのであり,誤りである。
(2) 引用発明1に引用発明2及び7を適用するに当たっては,少なくとも,次の三つの阻害要因が存在する。
(ア) 阻害要因1 引用発明1は,金属片を線材に圧着し通電する際に,小型抵抗溶接機20が線材と平行に移動し,さらに,その溶接電極21,22が線材に対して垂直に移動するものである(別紙参考図2,3)。引用発明1に引用発明2及び7を適用するに当たっては,この小型抵抗溶接機20,溶接電極21,22が移動する構成が阻害要因となる。なぜならば,帯状連続部材の最先端部を溶接電極21,22の間に送り込むためには,当然ながら,帯状連続部材の最先端部を送り込む際に小型抵抗溶接機20及びその溶接電極21,22が静止していなければならず,小型抵抗溶接機20,溶接電極21,22が移動する引用発明1においては溶接電極21,22の間に帯状連続部材の最先端部を送り込み得ないからである。
引用発明1について,仮に,小型抵抗溶接機20の移動機構を排除し,さらに,溶接電極21,22を所定位置に保持するように改変すれば,帯状連続部材の最先端部を溶接電極21,22の間に送り込み,圧着,通電を行うことが可能になるとの反論もあり得る。しかしながら,引用発明1では,別紙参考図2,3に示すように,線材を保持台10に保持しておき,位置A,位置Bの2箇所において金属片を線材に接続する構成であるので(甲3号証2頁右下欄3行〜15行参照),小型抵抗溶接機20及びその溶接電極21,22は位置A,位置Bの間を自由に移動できることが必要不可欠である。そのため,仮に,引用発明1において,小型抵抗溶接機20の移動機構を排除し,溶接電極21,22を所定位置に保持するようにした場合,いずれか一方の位置でのみでしか金属片を接続することができなくなり,巻線機として正常に機能しなくなる。引用発明1を巻線機として正常に機能させるには,位置A,位置Bの2箇所で端子片を接続するのをやめる等,巻線工程全体を見直すことが必要である。
引用発明1について,巻線機として正常に機能しなくなるような改変を当業者が行うとは通常考えられないことから,引用発明1に引用発明2及び7を適用することは困難である。
(イ) 阻害要因2 引用発明1では,ノズル9が移動機構を有しているものの,線材に端子片を接続する工程においては,線材を保持台10に保持して移動させないようにしている(甲3号証2頁左下欄10行〜3頁左上欄最下行)。引用発明1に引用発明2及び7を適用するに当たっては,この構成も阻害要因となる。なぜならば,圧着通電機構の電極の間に帯状連続部材の最先端部を送り込むのであれば,電極の間に載置されて移動することがない端子片(帯状連続部材の最先端部)に代えて,線材を移動させて線材を端子片に挟み込む必要が出てくるからである。線材を移動させないことを前提としている引用発明1にあっては,たとえ引用発明2及び7を適用したとしても線材を端子片に挟み込むことはできない。
仮に,引用発明1の保持台10を排除し,線材を移動させて端子片に線材を挟み込むように改変することが容易かどうか検討してみても,以下に述べるように,それによって引用発明1が本来意図していた性能を発揮できなくなる可能性があり,そのような改変が容易になし得たとは考えられない。
別紙参考図2,3に矢印で示すように,引用発明1では,フィーダ13,金属片支給機構の移動台16及び小型抵抗溶接機20をすべて保持台10上に保持された線材に対して平行に配置,動作させることで,各構成要素間の位置関係の精度を向上させ,これによって,線材に端子片を挟み込む際,及び,圧着通電により端子片を線材に接続する際の精度,効率を高めている。
そのため,引用発明1において線材を移動させて金属片に線材を挟み込むとなると,これらの配置,動作がすべて意味をなさなくなり,当初意図していた性能を達成できなくなる可能性がある。金属片を線材に接続する工程においてノズル9を静止させ線材を移動させないことは,いわば引用発明1の前提,基本となる構成である。
引用発明1に係る巻線機が本来意図していた性能を発揮できなくなるような改変を当業者が行うとは通常考えられず,引用発明1に引用発明2及び7を適用することには阻害要因がある。
(ウ) 阻害要因3 引用発明1では,位置A,位置Bの2箇所において金属片を線材に接続しており,そのためには位置A,位置Bの2箇所において線材を金属片に挟み込む必要がある。また,引用発明1に引用発明2及び7を適用するとなると,上記の通り線材を移動させて端子片に線材を挟み込む必要がある。
しかしながら,引用発明1の位置A,位置Bの2箇所への線材の挟み込みを同時に行う,2回に分けて行う,いずれの手順をとるにしても,一方の端部が巻き終わったコイルに接続され,他方の端部がノズル9に接続された状態にある線材を移動させて,2箇所の端子片への線材の挟み込みを実現するには,当業者であってもかなりの工夫を要すると考えられ,この点においても両者を組み合わせることにつき阻害要因が存在する。
(3) 本件発明1は,請求項1に記載された構成を採用したことにより,巻線機の効率を飛躍的に向上させるものである。にもかかわらず,本件出願前にそのような構成が存在しなかったのは,刊行物3などに示されるように,従来は,固定された線材に対して端子片を移動させることにより端子片への線材の挟み込みを行うのが一般的であり,このような構成においては,前後の送り動作しかできない帯状連続部材では線材を挟み込みにくく,端子片に代えて帯状連続部材を用いるという発想が出てこなかったためである。
また,挟み込みを行う際に線材を固定する従来の構成では,線材供給機構であるノズルが動かないようにするのが当然であり,線材供給機構であるノズルを移動させて挟み込みを行うということは考えられなかった。これらの作業を圧着通電機構の電極の間で行うという考え方に至っては,従来全く存在しない独創的なものである。
2 取消事由2(相違点ア-2についての判断の誤り) (1) 仮に,引用発明1に引用発明2及び7を組み合わせることができたとしても,本件発明1に想到することはできない。なぜならば,線材供給機構から供給された線材を,線材供給機構を移動させることで帯状連続部材の最先端部に挟み込むという相違点ア-2に係る構成は,引用発明1,2及び7のいずれにも開示されておらず,示唆もされていないからである。
すなわち,引用発明1,2及び7において,どのようにして線材を端子片に挟み込んでいるかをみてみると,引用発明1では,保持台10に保持された線材の上に移動台16が搬送してきた金属片を跨乗させることで挟み込みを実現しており,金属片に線材を挟み込む際にノズル9を保持台10の手前に静止させ,線材を移動させない構成を採用している(甲3号証2頁右下欄3行〜15行)。また,刊行物2には,線材の挿入方法が何も記載されておらず,刊行物7では線材を手動又は自動で挿入するとの記載(甲5号証4頁6行〜9行)はあるものの,具体的な挿入方法は何も記載されていない。本件発明1の上記構成は,いずれにおいても開示されていないのである。
また,引用発明1において,線材を移動して端子片に線材を挟み込むようにするに当たっては,阻害要因があることは既に述べたとおりである。
よって,引用発明1に引用発明2及び7を適用したとしても,線材供給機構を移動させて線材を帯状連続部材の最先端部に挟み込むとの相違点ア-2に係る構成を導き出すことはできない。
(2) 審決は,引用発明1の「線材供給機構であるノズル9自体に移動機構を有しているのであるから,線材に帯状連続部材の最先端部を圧着通電する場合に,線材を繰り出すだけでなく,該移動機構を用いて,線材を帯状連続部材へ移動することにより,線材をその最先端部に挟み込むようにする程度のことは,当業者であれば,容易になし得る設計的事項にすぎない。」(審決書33頁末段〜34頁1段)と判断した。しかしながら,審決のこの論理では,移動機構を有するものであれば何であっても,それを移動させて線材を挟み込むことは容易ということになり,例えば,同じく移動機構を有する引用発明1の移動台16,小型抵抗溶接機20,小型抵抗溶接機20の溶接電極21,22を移動させて線材を挟み込むことも容易ということになってしまう。
引用発明1のノズル9が移動機構を有していることのみをもって,ノズル9を移動させて線材を挟み込む構成までもが容易に想到できるとする審決は,論理に飛躍があり,明らかに不当である。
(3) 「移動機構を有する線材供給機構」が出願時に公知であったことをもって相違点ア-2に係る構成を容易に導き出すことができたとする審決の理由には論理の飛躍がある。被告が引用する特公昭60-28379号公報(乙3号証,以下「乙3文献」という。)もガイドノズル12が移動機構を有していることを示すにすぎない。
引用発明1では,端子片に線材を挟み込む際,わざわざ線材を保持台10に保持して動かないようにしているのであり,このような引用発明1において線材供給機構であるノズル9を移動させて端子片への線材の挟み込みを実現するためには,それだけ強い動機付けが必要になるはずである。しかしながら,そのような動機付けは,引用発明1,2及び7には一切示されていない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過) (1) 審決は,本件発明1の進歩性を否定する理由の一つとして,本件発明1が本件明細書の参考例と比較して格別な効果を奏しないことを挙げている(審決書34頁2段〜3段)。
しかしながら,本件発明1の進歩性を判断するに当たっては,従来技術である引用発明1が奏する効果と比較して,有利な効果があるかどうかを判断すべきである。本件明細書中に記載されている参考例は従来技術でないことは明らかであり,このような従来技術でないものとの比較において本件発明1の効果を認定し,本件発明1の進歩性を判断した審決には明らかな誤りがある。
(2) 本件発明1では,線材供給機構を移動させて線材を挟み込む構成を採用したことにより,線材を挟み込むための特別な機構(引用発明1における移動台16,保持台10等)が不要になるという優れた作用効果がある。この作用効果は本件明細書において,「ノズル1は圧着通電機構13に線材8を導き,導電性部材12の間に挟み込む機能を果たすため,線材8の外周に導電性部材12を配置するための特別な機構も不用となる」(甲7号証[0047])と明確に記載されている。審決では,「本件明細書のどこにも・・・・線材供給機構により移動させる方法のほうが,優れている,或いは格別な効果があるとする記載はない」(審決書34頁2段)とされているが,このような認定は本件明細書の上記記載を見落としたものであり,明らかに不当である。
本件発明1と引用発明1との比較においては,引用発明1では,金属片の圧着通電を行うためには,前工程での巻線が終了したら,線材を保持台10に保持し,線材を一旦静止状態にした上で,二つの金属片を順次移送してきて線材上に跨乗させ,さらに別の位置に退避している小型抵抗溶接機20を端子片脇まで移動させ溶接電極21,22を金属片位置まで移動させる必要があるのに対し,本件発明1によれば,前工程での巻線が終了後,圧着通電機構の間に送り込まれている帯状連続部材の最先端部に,線材供給機構を移動させて線材供給機構から供給されている線材を挟み込みさえすれば,直ちに次の巻線のための圧着通電を行うことができ,簡単な構成でありながら少ない工数で効率よく巻線工程を処理できるという優れた作用効果がある。
このような本件発明1の作用効果は,引用発明1が奏する作用効果(甲3号証3頁左下欄下から4行〜右下欄2行),引用発明2及び7が奏する作用効果(甲4号証4頁左上欄下から5行〜右上欄3行,甲5号証8頁7行〜12行)のいずれとも異なるものであり,本件出願時の技術水準から当業者が予測できる範囲を超えるものである。
被告の反論の骨子
審決に,原告主張の誤りはない。
1 取消事由1(相違点ア-1についての判断の誤り)について (1) 導電性部材(端子)を線材に圧着・通電すること(ヒュージング)は,接合技術に属し,線材の端部に接合された端子を用いて通電し,コイルの線材相互を融着せしめてコイル形成体とすること(ボンデイング)は,保形ないし固化技術に属する。両者は,別個に考慮し得る技術的事項であると同時に併用ないし組み合わせが慣用化されている技術的事項である。引用発明1に引用発明2及び7を適用することを阻害する特段の要因はない,とする審決の判断に誤りはない (2) 原告は,引用発明1に引用発明2及び7を適用することについては阻害要因1及び3がある,と主張する。しかし,原告が主張する阻害要因は,いずれも当業者であれば容易に設計変更により解決できるものであり,何ら阻害要因とはならない。
原告が主張する阻害要因2も何ら阻害要因とはならない。すなわち,一般にこの種コイルの巻線機において,線材供給機構であるノズルは,複雑で多様な巻線や端子巻付けの配線を伴う巻線配線に有効に利用できるような移動機構が付属され,ノズル移動機構は巻軸の軸方向,巻軸と直角な左右方向,巻軸と直角な上下方向,周回運動をさせるように構成されているのが通例であり(乙3号証1欄2行〜16行,同23行〜26行参照),また,引用発明1では,線材供給機構であるノズル9自体に移動機構を有しているのであるから,線材に帯状連続部材の最先端部を圧着通電する場合に,線材を繰り出すだけでなく,当該移動機構を用いて線材を帯状連続部材へ移動することにより,線材を挟み込むようにする程度のことは,当業者であれば,容易になし得る設計的事項にすぎないのである。
2 取消事由2(相違点ア-2についての判断の誤り)について 引用発明2及び7においては,電極又は圧着装置に供給された導電性部材の上に,線材が何らかの方法又は機械で自動的に挿入され挟み込まれることが開示されている。
そして,線材供給機構であるノズルの移動機構は周知であり,また,引用発明1における線材供給機構に移動機構が備えられているのであるから,線材に帯状連続部材の最先端部を圧着通電する場合に,線材を繰り出すだけでなく,移動機構を用いて線材を帯状連続部材へ移動し,線材をその最先端部に挟み込む程度のことは,当業者であれば,容易になし得る設計的事項に過ぎない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 本件発明1には格別顕著な作用効果は存在しない。原告の主張は失当である。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点ア-1についての判断の誤り)について (1) 原告は,導電性部材を線材に圧着通電することと,その後に接合された端子を用いて通電しコイル形成体とすることとが別個に考慮し得る技術事項であるとしても,審決が,このことのみをもって,引用発明1に引用発明2及び7を組み合わせることが容易と判断したのは誤りである,と主張する。
しかし,審決は,「導電性部材(端子)を線材に圧着通電することと,その後圧着通電により線材の端部に接合された端子を用いて通電し,偏向コイルの線材相互を融着せしめてコイル形成体とすることとは,別個に考慮しうる技術的事項であるから,刊行物1記載の発明において,導電性部材を圧着通電する手段として,刊行物2及び刊行物7に記載された技術手段を適用することを阻害する特段の要因もない。」(審決書31頁5段 )と判断しているだけである。すなわち,審決は,線材に導電性部材を圧着通電することと,偏向コイルの線材相互を融着することとが別個に考慮し得る事項であることによって,引用発明1に引用発明2及び7を組み合わせることに阻害事由がないと述べているだけであり,別個に考慮し得る事項であることのみから相違点ア-1の容易想到性について判断しているわけではない。審決は,引用発明1に引用発明2及び7を組み合わせることにより相違点アー1の構成に容易に想到し得ることについては,次のとおり判断しているのであり,原告の主張は,審決の判断を誤解するものであり,理由がないことは明らかである。
(ア) 「刊行物2には,導電性部材を線材に圧着し,かつ線材の導電性部材圧着部に所定の電圧を印加する一対の電極による圧着通電機構において,導電性部材として連続した部材を使用するとともに,その端子となる部分の最先端部が圧着通電機構の電極の間に送り込まれるように供給する手段と,線材がその最先端部に挟み込まれた状態で連続した部材を所定の位置で切断する手段を備えることが記載されているといえる。」(審決書30頁末段〜31頁1段 ) (イ) 「刊行物7には,導電性部材を線材に圧着しする圧着機構において,導電性部材として帯状連続部材を使用し,その最先端部が圧着機構に送り込まれるように供給し,線材がその最先端部に挟み込まれた状態で帯状連続部材を所定の位置で切断することが記載されているといえる。」(審決書31頁3段 ) (ウ) 「そして,刊行物2に記載された発明及び刊行物7に記載された発明は,いずれも,線材に導電性部材である端子を接合する装置であるという点では,刊行物1に記載された発明と共通するものであるうえ,特に,刊行物2に記載された発明と刊行物1に記載された発明とは,圧着通電により接合するという点でも共通し,刊行物7に記載された発明と本件発明1とは,連続した部材が帯状連続部材であるという点でも共通している。」(審決書31頁4段 ) (エ) 前記引用部分(審決書31頁5段)のとおり(別個の技術事項であり,組合せに阻害要因がないこと) (オ) 「したがって,当業者であれば,刊行物2及び刊行物7に記載された発明に基づいて,刊行物1に記載された発明において,「断面略U字状の金属片」に代えて,線材が挟み込まれるまでは切断されない連続した部材を用いるとともに,連続した部材の最先端部を小型抵抗溶接機の電極に送り込むように供給する手段を設け,その最先端部に線材が挟み込まれた状態で連続部材を切断する手段を設けるようにすることは,容易になしうることと認められる。」(審決書32頁1段 ) (2) 三つの阻害要因について (ア) 阻害要因1について 原告は,引用発明1に引用発明2及び7を適用するにあたっては,引用発明1における小型抵抗溶接機20,溶接電極21,22が移動する構成が阻害要因となる,と主張する。
しかし,引用発明2及び7におけるクリンパ及びアンビル(引用発明1における小型溶接機に相当する。)は,移動機構を備えていないのであるから,引用発明1に引用発明2及び7を適用すれば,引用発明1の小型溶接機に代えて,引用発明2及び7のクリンパ及びアンビル,すなわち,移動しない小型溶接機を組み合わせることに想到するのが自然である。原告の主張は,引用発明1に引用発明2及び7を適用したものについても小型溶接機が移動することを前提とした主張であり,その前提において失当である。
原告は,仮に,引用発明1において,小型抵抗溶接機20の移動機構を排除し,溶接電極21,22を所定位置に保持するようにした場合,いずれか一方の位置でのみでしか金属片を接続することができなくなり,巻線機として正常に機能しなくなる,とも主張する。
しかし,線材の2箇所に金属片を接続する場合,まず,位置Aで線材の1箇所目に金属片を接続し,次に,線材を送り,同じ位置Aで線材の2箇所目に金属片を接続すれば,小型溶接機を移動させる必要がないことは当業者にとって自明である。小型溶接機が移動しなければ,巻線機として正常に機能しなくなる,との原告の主張に理由がないことは明らかである。
(イ) 阻害要因2について 原告は,引用発明1では,線材に端子片を接続する工程においては線材を保持台10に保持して移動させないようにしているので,電極の間に帯状連続部材の最先端部を送り込む構成を採用したとしても,線材を最先端部に挟み込むことができない,と主張する。
しかし,引用発明2及び7においては,「線材に端子片を接続する工程においては線材を保持台10に保持して移動させないようにしている」構成を採用していないのである。したがって,引用発明1に,引用発明2あるいは7を適用するならば,線材が保持台10に保持される必要はないのであるから,線材を最先端部に挟み込むことができないといえないのは明らかである。原告の主張は,その前提において誤りがあり,採用することができない。
また,原告は,引用発明1の保持台10を排除し,線材を移動させて端子片に線材を挟み込むように改変するとしても,引用発明1においては,フィーダ13,金属片支給機構の移動台16及び小型抵抗溶接機20をすべて保持台10上に保持された線材に対して平行に配置,動作させることで,各構成要素間の位置関係の精度を向上させ,これによって,線材に端子片を挟み込む際,及び,圧着通電により端子片を線材に接続する際の精度,効率を高めているのであるから,引用発明1において線材を移動させて金属片に線材を挟み込むとなると,これらの配置,動作がすべて意味をなさなくなり,当初意図していた性能を達成できなくなる可能性があるのであり,引用発明1に引用発明2及び7を適用することには阻害要因がある,と主張する。
しかし,審決が認定しているとおり,「刊行物5(判決注・甲6号証)にも記載されているように,端子部材として,本件明細書に記載された実施例に用いられている「一部を所定間隔で切り起こして折り曲げたフープ材」のような連続した部材を用いること自体は,本件の優先日の前すでに周知である」(審決書29頁末段〜30頁1段)と認められる(甲6号証)。そして,巻線機の仕事の効率を向上させることは普遍的な課題であることからすれば,この課題を達成するために,引用発明1に上記周知技術を適用すること,すなわち,「線材に端子を接合する装置において,導電性部材として,線材が挟み込まれるまでは切断されない連続した部材を用いると共に,該連続した部材の最先端部を接合装置に送り込む手段,及び線材がその先端部に挟み込まれた状態でその連続した部材を切断する手段を備える」(審決書30頁2段)引用発明2及び7を適用することは当業者であれば容易に想到し得ることである。このように,仕事の効率の向上という動機付けがある以上,引用発明1に引用発明2及び7を適用することは容易であり,その際に,引用発明1における「フィーダ13,金属片支給機構の移動台16及び小型抵抗溶接機20をすべて保持台10上に保持された線材に対して平行に配置,動作させる」との構成が不要となることが,特段の阻害要因とはならないというべきである。
(ウ) 阻害要因3について 原告は,引用発明1においては,位置A,位置Bの2箇所において線材を金属片に挟み込む必要があるものの,線材側を移動させて2箇所に配置された金属片に線材を挟み込むのは,当業者にとっても困難である,と主張する。
しかしながら,上記(ア)において述べたとおり,引用発明1に引用発明2及び7を適用したものにおいて,位置A,位置Bの2箇所において線材を端子片に挟み込む必要があるとする理由はないのであり,原告の主張はその前提において誤っており,理由がないことは明らかである。
(3) 原告は,本件発明1は,請求項1記載の構成を採用したことにより,巻線機の効率を飛躍的に向上させるものであり,本件出願前にそのような構成が存在しなかったのは,従来は,固定された線材に対して端子片を移動させることで端子片への線材の挟み込みを行うのが一般的であり,このような構成においては,前後の送り動作しかできない帯状連続部材では線材を挟み込みにくく,端子片に代えて帯状連続部材を用いるという発想が出てこなかったためである,と主張する。
しかし,固定された線材に対して端子片を移動させることで端子片への線材の挟み込みを行うとの構成に対し,本件発明1のように「前記線材供給機構から供給された線材が前記線材供給機構を移動することによって前記最先端部(判決注・帯状連続部材の最先端部)に挟み込まれた」構成とすることが困難なことではないことについては,後記の取消事由2(相違点ア-2についての判断の誤り)において述べるとおりである。
2 取消事由2(相違点ア-2についての判断の誤り)について (1) 原告は,線材供給機構から供給された線材を,線材供給機構を移動させることで帯状連続部材の最先端部に挟み込むという相違点ア-2に係る構成は,刊行物1,2及び7のいずれにも開示されておらず,示唆もされていないから,引用発明1に引用発明2及び7を適用したとしても,線材供給機構を移動させて線材を帯状連続部材の最先端部に挟み込むという相違点ア-2に係る構成を導出することはできない,と主張する。
しかし,審決は,「刊行物1記載の発明においては,本件発明1の「線材供給機構」に相当する「ノズル9」は,線材に接合された導電性部材をチャック24に係止する際には移動するものであって,ノズル9自体に移動機構を有している。さらに,請求人が提出した甲第14号証(判決注・乙3文献)にも記載されているように,線材供給機構自体に移動機構を備えることは,本件出願前にすでに周知である。・・・ところで,上記刊行物2及び刊行物7に記載された装置においては,電極或いは圧着装置に供給された導電性部材の上に,線材が何等かの方法で挿入され挟み込まれることは自明である。すなわち,前記刊行物2には,「1個の端子17がアンビル9上に位置し,電線13,15が挿入されて両者がアンビル9上に配置されると」(摘記事項(2d)参照)と記載されているとおり,具体的な方法については記載がないものの,何等かの手段で,線材を挿入することが記載されている。また,前記刊行物7には,帯状連続部材を用いて線材に端子を接合する装置に関し,線材(リード線)の供給機構については具体的な記載がないものの,「このように,アンビル27とクリンパー28間にコネクター端子3とリード線1を挿入するには,・・・機械で自動的に行う場合とがある。」と記載されているように自動的に供給する何等かの手段を設けることは当然である。してみれば,前述のとおり,刊行物1記載の発明においては,線材供給機構であるノズル9自体に移動機構を有しているのであるから,線材に帯状連続部材の最先端部を圧着通電する場合に,線材を繰り出すだけでなく,該移動機構を用いて,線材を帯状連続部材へ移動することにより,線材をその最先端部に挟み込むようにする程度のことは,当業者であれば,容易になし得る設計的事項にすぎない。」(審決書33頁3段〜34頁1段)と判断しているのである。すなわち,審決は,引用発明1に引用発明2及び7を適用することにより,相違点ア-2に係る構成に想到することが容易である,と判断しているのではない。審決は,引用発明1における線材を供給するノズル9自体に移動機構が備わっていること,線材供給機構自体に移動機構を備えることは,本件出願前にすでに周知であることを根拠として,引用発明2及び7の電極あるいは圧着装置に供給された導電性部材の上に,何らかの方法で線材が挿入され挟み込まれることが記載されていることからすれば,線材に帯状連続部材の最先端部を圧着通電する場合に,線材供給機構の移動機構を用いて,線材を帯状連続部材へ移動することにより,線材をその最先端部に挟み込むようにする程度のことは,当業者であれば,容易になし得る設計的事項にすぎない,と判断したものである。原告の前記主張は審決の判断を誤解するものであり,その前提において誤りがある。
(2) 原告は,引用発明1のノズル9が移動機構を有していることをもって,ノズル9を移動させて線材を挟み込む構成までもが容易に想到できるとする審決は,論理に飛躍があり,明らかに不当である,と主張する。
しかしながら,刊行物1(甲3号証)には,@ノズル自体が移動機構を有していること,A当該移動機構の移動を制御することにより,ノズル,線材も移動可能であること,B金属片を線材に跨乗する際にノズルは線材と共に元の位置に復帰していることが記載されている。また,刊行物2及び刊行物7から,C電極あるいは圧着装置に供給された導電性部材の上に,線材を何らかの方法で挿入し挟み込ませることは自明であるといえ,その場合,何らかの方法として線材移動装置を用いて線材を移動させることで行うことは,機械分野の技術者においては普通に考えられることである。そして,引用発明1に,引用発明2及び7を組み合わせるに際し,引用発明1のノズルの移動機構により線材を移動させ,帯状連続部材の最先端部に線材を挟み込むようにする程度のことは,通常の創作能力を有する当業者が容易に推考できる程度のものといえる。原告の上記主張は理由がない。
(3) 原告は,引用発明1では,端子片に線材を挟み込む際,わざわざ線材を保持台10に保持して動かないようにしているのであり,このような引用発明1において線材供給機構であるノズル9を移動させて端子片への線材の挟み込みを実現するためには,それだけ強い動機付けが必要になるはずであるが,その様な動機付けは引用発明1,2及び7には一切示されていない,と主張する。しかし,巻線機の仕事の効率を向上させるために,引用発明1に,導電性部材として線材が挟み込まれるまでは切断されない連続した部材を用いると共に,当該連続した部材の最先端部を接合装置に送り込むとの引用発明2及び7の構成を適用することに,十分な動機付けがあることは,前記のとおりである。原告の主張は採用することはできない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について (1) 原告は,本件発明1では,線材供給機構を移動させて線材を挟み込む構成を採用したことにより,線材を挟み込むための特別な機構(引用発明1における移動台16,保持台10等)が不要になるという優れた作用効果がある,と主張する。
しかし,引用発明2及び7も,引用発明1における移動台16,保持台10を備えていないのであるから(甲4,甲5号証),原告が指摘する作用効果は,引用発明1に引用発明2及び7を適用することにより容易に想到し得る構成から当然に予想される作用効果であり,同構成のものから予測し得ない格別な作用効果とはいえないことは明らかである。
(2) 原告は,引用発明1では,金属片の圧着通電を行うためには,前工程での巻線が終了したら,線材を保持台10に保持し,線材を一旦静止状態にした上で,二つの金属片を順次移送してきて線材上に跨乗させ,さらに別の位置に退避している小型抵抗溶接機20を端子片脇まで移動させ溶接電極21,22を金属片位置まで移動させる必要があるのに対し,本件発明1によれば,前工程での巻線が終了後,圧着通電機構の間に送り込まれている帯状連続部材の最先端部に,線材供給機構を移動させて線材供給機構から供給されている線材を挟み込みさえすれば,直ちに次の巻線のための圧着通電を行うことができ,簡単な構成でありながら少ない工数で効率よく巻線工程を処理できるという優れた作用効果がある,と主張する。
しかし,引用発明1に,引用発明2あるいは7を組み合わせるに際し,引用発明1のノズルの移動機構により線材を移動させ,帯状連続部材の最先端部に線材を挟み込むようにする程度のことは,通常の創作能力を有する当業者が容易に推考できる程度のものといえることは,取消事由2(2)で述べたとおりである。そして,原告が主張する上記作用効果は,上記のとおり容易に想到し得る構成から予想し得ない作用効果であるといえないものであることは明らかであり,格別顕著な作用効果である,ということはできない。 原告の主張は,採用できない。
なお,原告は,審決が,本件発明1の進歩性を否定する理由の一つとして,本件発明1が本件明細書の参考例と比較して格別な効果を奏しないことを挙げていることを非難する。しかし,本件発明1が,その構成から予想し得ない格別の作用効果を奏するものということができないことは,上記のとおりであり,審決が「本件発明1のように,線材を「線材供給機構」により移動すると限定したことにより,格別な技術的意義を有している,あるいは予期し得ない格別な作用・効果を奏しているとすることはできない。」(34頁3段)と判断したことは,その結論において誤りはない。
結論
以上に検討したところによれば,原告の主張する取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決には,これを取り消すべき誤りは見当たらない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁