関連審決 | 無効2006-80051 |
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審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成18行ケ10537審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成18行ケ10089審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10160審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成20行ケ10130審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19行ケ10133審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 製造方法 / 加工方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 周知技術 / 出願公開 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 技術的意義 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 設定登録 / 請求の範囲 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10148号
審決取消請求事件
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原告エアパックス株式会社 原告X 両名訴訟代理人弁理士尾崎雄三,梶崎弘一,谷口俊彦,光吉利之,小山靖,丹 野寿典 被告奈良アルミ箔株式会社 訴訟代理人弁理士足立彰 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/12/25 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が無効2006−80051号事件について平成19年3月22日にした審決を取り消す。 訴訟費用は,被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告らの求めた裁判主文と同旨の判決第2事案の概要本件は,特許を無効とした審決の取消しを求める事案であり,原告らは無効とされた特許の特許権者,被告は特許無効審判の請求人である。 1特許庁における手続の経緯(1)原告らは,発明の名称を「フィルム製容器の製造方法」とする特許第3705494号(平成14年9月18日特許出願。平成17年8月5日設定登録。後記本件訂正前の特許請求の範囲の請求項の数は,全部で2である。以下「本件特許」という。)の特許権者である(甲13,14(以下,単に書証番号のみを挙示するときは,本訴における書証番号を指すものとし,審判請求手続における書証番号があるときは,「審判甲8」などと付記する。))。 (2)被告は,平成18年3月28日,本件特許につき,特許無効審判を請求し,無効2006-80051号事件として係属した。 (3)原告らは,同年12月8日,本件特許に係る明細書(甲13)の記載中,特許請求の範囲の請求項1の記載を訂正し,請求項2を削除するなどの訂正請求(甲14。以下,同請求に係る訂正を「本件訂正」といい,本件訂正後の本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)をした。 (4)特許庁は,平成19年3月22日,「訂正を認める。特許第3705494号の請求項1に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は,被請求人の負担とする。」との審決をし,同月31日,その謄本を原告らに送達した。 2発明の要旨審決が対象とした本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の要旨は,以下のとおりである。 【請求項1】「印刷面を内側に含む,2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において,前記樹脂製フィルムの1は,少なくとも一方の表面がマット加工され,20μm以上の厚みを有すると共に,前記ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせて,予め130〜170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造することを特徴とするフィルム製容器の製造方法。」3審決の要点審決は,本件発明は,後記の引用発明及び周知例1ないし4に記載された周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,同法123条1項2号の規定に該当し,無効とすべきものであるとした。 (1)特開平9-314400号公報(甲8,審判甲8。以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)「上下動する上金型1及び第3金型3と上記上金型1及び第3金型3を受ける下金型2の各金型を有し,上記各金型に加熱用電気ヒーターが埋め込まれた容器成形装置を用いて合成樹脂フイルム製の容器を成形する成形方法であって,上記合成樹脂フイルムとして,15μm厚さのOPPフイルムと20μm厚さのOPPフイルムの片側に印刷し,この2枚のOPPフイルムを印刷面を内側にして接着剤で貼り合わされ,離型性ワックスを片面にコートしたものを用い,上記貼り合わされたものの多数枚を上記上金型1及び上記第3金型3と下金型2の間に積層し,上記各金型を成形材料の軟化点以上の温度,具体的には,上記上金型1は209℃,下金型2は200℃,第3金型3は220℃に加熱するとともに,上記上金型1及び上記第3金型3と上記下金型2の間で上記貼り合わされたものの多数枚を加圧して成形加工を行う成形方法。」(2)本件発明と引用発明との対比ア一致点「印刷面を内側に含む,2枚以上の樹脂製フィルムを積層したラミネートフィルムを熱成形してフィルム製容器を製造する方法において,前記樹脂製フィルムの1は,少なくとも一方の表面が特殊な表面処理が施され,20μm以上の厚みを有すると共に,前記ラミネートフィルムの複数枚を互いに異種フィルムである二軸延伸ポリプロピレンフィルムと特殊な表面処理が施された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するように特殊な表面処理を施された面を挟んで重ね合わせて,予め加熱した金型にてプレス成形加工して製造するフィルム製容器の製造方法。」イ相違点「【相違点1】:特殊な表面処理に関して,本件発明では,マット加工であるのに対して,引用発明では,離型性ワックスをコートする加工である点。 【相違点2】:ラミネートフィルムの重ね合わせの態様に関して,本件発明では,二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの重ね合わせであるのに対して,引用発明では,二軸延伸ポリプロピレンフィルムと離型性ワックスをコートした二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの重ね合わせである点。 【相違点3】:二軸延伸ポリプロピレンフィルムに関して,本件発明では,ラミネートフィルムを構成する一方の二軸延伸ポリプロピレンフィルムである,マット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムでない二軸延伸ポリプロピレンフィルムが『透明』であるのに対して,引用発明では,『透明』であるとの特定がされていない点。 【相違点4】:プレス成形加工に使用する金型を予め加熱する加熱温度に関して,本件発明では,『130〜170℃』であるのに対して,引用発明では,軟化点以上の温度,具体的には,上記上金型1は209℃,下金型2は200℃,第3金型3は220℃である点。」(3)相違点についての判断ア相違点1について「引用発明の『離型性ワックスをコート』することの目的は,引用例の『実施態様例1の条件の内,・・・(中略)・・・,紙質材2枚ずつの時に比べて保形性が少し悪く,開口部が開き気味となると共に,40μm厚さのOPPフイルムの分離性に少し難点を感じたが,これは合成樹脂フイルムの片面でよいから,ワックス系樹脂剤とか,シリコン系樹脂剤を塗布したものの活用が無難である事が示された。』との記載からみて,OPPフィルムの分離性,すなわちOPPフィルムどうしのくっつきに対する分離の性能の改善にあるものといえ,本件明細書の段落【0003】に記載の『フィルムどうしが熱接着するため,成形後,個別に容器を取り出すべく剥がそうとしても,剥がし難くなり,作業性が著しく悪くなる。』との従来からの課題と基本的に共通する。 そして,特開2000-109157号公報(甲10。以下『周知例1』という。)の段落【0013】及び【0015】,特開平8-310569号公報(甲11。以下『周知例2』という。)の段落【0002】に記載されているように,容器表面をマット加工することによりそれらの容器を重ね合わせた際の取り出しを改善することは,当業者において周知の技術といえる。 したがって,引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工で置き換えることにより相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者において容易になし得たことといえる。 ここで,上記相違点1に関する被請求人の主張について検討する。 平成18年12月8日意見書において,被請求人は,職権審理による無効理由に対して,『周知例1・・・(中略)・・・周知例2,・・・(中略)・・・これらはマット加工が有するスリップ効果に着目し,容器を重ねた際の取り出し易さを改善したものに過ぎない。当該刊行物には,静電気が蓄積された状態で熱プレス成形加工した場合に,熱接着が生じることについての記載や示唆がないのであるから,熱成形プレス成形加工を行うフィルム製容器の製造方法に於いて,離型性ワックスをマット加工に置き換えることは,当業者に容易でない。』(意見書5.[2](ハ)(ハ-2)34〜40行)と主張している。 しかしながら,静電気の蓄積に起因するフィルムどうしの密着をマット加工により低減させることは,特開平6-121706号公報(甲9,乙2,審判甲9。以下『周知例3』という。)の段落【0011】〜【0013】及び【0022】,特開2002?94214号公報(甲12。以下『周知例4』という。)の段落【0024】に記載されているようにフィルムの帯電防止技術として周知の技術である。 上記のことから,引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工で置き換えることにより奏する効果も,引用発明並びに上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということはできない。」イ相違点2について「相違点1における検討において,引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工の技術で置き換えたならば,ラミネートフィルムの重ね合わせの態様に関しては,相違点2に係る本件発明の発明特定事項と同じく,『二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせ』る態様となるので,相違点2に係る本件発明の発明特定事項も,引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工技術で置き換えることにより,当業者が容易になし得たことといえる。」ウ相違点3について「OPPフィルムは,通常,その透明性に特長を有するものであり,引用発明は,印刷面を内側に含んでOPPフィルムを積層させるものであることからみて,印刷面の視認性を確保するために離型性ワックスをコートしていないOPPフィルムは透明のものとしているとみるのが自然であり,相違点3は実質的な相違点とはいえない。 仮にそうでなくとも,離型性ワックスをコートしていないOPPフィルムを必要に応じて透明なものとすることにより相違点3に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者において格別困難なこととはいえない。」エ相違点4について「金型を予め加熱する具体的温度において,引用発明は,本件発明と若干相違するが,引用発明における金型加熱温度の成形材料との関係における規定は,『成形材料の軟化点以上の温度』とするものである。 そして,本件発明における予め加熱する金型温度の『130〜170℃』も二軸延伸ポリプロピレンの軟化点以上の温度範囲を含むものであることは明らかであり,加熱金型を用いたプレス成形において,成形材料の厚さ,加圧の程度,加圧時間等の要素の違いにより金型の加熱温度を調製することは当然のことであるから,金型の加熱温度を相違点4に係る『130〜170℃』に設定することは,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項といえる。」(4)本件特許の無効理由の存否についての「まとめ」「上記のことから,本件発明は,引用発明(及)び上記周知の技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。」(5)審決の「むすび」「以上のとおりであるから,他の無効理由を検討するまでもなく,本件発明は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであり,本件発明についての特許は,同法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである。」第3審決取消事由の要点審決は,以下のとおり,相違点1及び4並びに相違点2についての各判断を誤った結果,本件特許が特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとの誤った判断をしたものであるから,取り消されるべきである。 1取消事由1(相違点1及び4についての各判断の誤り)(1)審決は,相違点1について,「引用発明の『離型性ワックスをコート』することの目的は,引用例の『実施態様例1の条件の内,・・・(中略)・・・,紙質材2枚ずつの時に比べて保形性が少し悪く,開口部が開き気味となると共に,40μm厚さのOPPフイルムの分離性に少し難点を感じたが,これは合成樹脂フイルムの片面でよいから,ワックス系樹脂剤とか,シリコン系樹脂剤を塗布したものの活用が無難である事が示された。』との記載からみて,OPPフィルムの分離性,すなわちOPPフィルムどうしのくっつきに対する分離の性能の改善にあるものといえ,本件明細書の段落【0003】に記載の『フィルムどうしが熱接着するため,成形後,個別に容器を取り出すべく剥がそうとしても,剥がし難くなり,作業性が著しく悪くなる。』との従来からの課題と基本的に共通する。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 ア審決が引用する引用例の記載は,実施態様例4についてのもの(段落【0028】)であるが,そこでいうところの「OPPフィルムの分離性に少し難点を感じた」とは,積層されたOPPフィルムの上下に備え付けた紙質材上面の上質紙及び下面の段ボール用中心原紙の枚数を減らしたことにより,OPPフィルム同士が融着してブロッキングが発生したものと理解することができる。 イ引用例には,適正な金型温度(130〜170℃)で熱プレス成形を行った場合にも生じる二軸延伸ポリプロピレンフィルム(以下,審決,刊行物等の記載を引用する場合を除き,「OPPフィルム」との表記に統一する。)同士の熱接着の防止に関する開示も示唆もない。 ウ以上からすると,引用例に示されている課題とは,積層されたOPPフィルムの上下に備え付けた紙質材上面の上質紙及び下面の段ボール用中心原紙の枚数を減らしたことに起因してOPPフィルム同士が融着することにより発生した熱接着を防止することであり,上記適正な金型温度で熱プレス成形を行った場合にも生じるOPPフィルム同士の熱接着を防止するとの本件発明の課題とは本質的に相違するのであるから,引用例における「OPPフィルムどうしのくっつきに対する分離の性能の改善」が本件発明の課題と共通するとした審決の判断は誤りである。 (2)審決は,相違点1について,「周知例1の段落【0013】及び【0015】,周知例2の段落【0002】に記載されているように,容器表面をマット加工することによりそれらの容器を重ね合わせた際の取り出しを改善することは,当業者において周知の技術といえる。」,「したがって,引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工で置き換えることにより相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者において容易になし得たことといえる。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 ア周知例1及び2に記載されたマット加工の技術は,表面にマット加工を施すことにより,それと接する面との接触面積を小さくし,両者の間に生じる摩擦係数を低減させて,スリップ効果により両者の剥離性を高めるものである。 そして,周知例1及び2には,適正な金型温度(130〜170℃)で熱プレス成形を行った場合にも生じるOPPフィルム同士の熱接着の防止に関する記載も示唆もない。 イこれに対し,引用例に接した当業者であれば,引用例の「OPPフィルムの分離性に少し難点を感じた」との記載から,熱プレス成形後のOPPフィルム同士の分離性の低下の原因が,上記(1)アのとおり,上質紙及び段ボール用中心原紙の枚数を減らしたことであると認識するのが自然であるから,このような当業者が,フィルム同士の熱接着の防止を図ろうとする場合,離型性ワックスをコートすることによりOPPフィルム同士の熱接着を防ぐか,上質紙及び段ボール用中心原紙の枚数を増やすことを考えるのが通常である。 ウ以上からすると,引用例記載の積層されたOPPフィルムの熱プレス成形において,OPPフィルム同士の分離性の改善を図ることを目的として,周知例1及び2に記載されたマット加工の技術を適用することには動機付けがないというべきである。 そして,審決は,積層されたフィルムの剥がしやすさを改善するという一般的な動機付けをもって,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することが容易であるとするものであり,本件発明が,熱プレス成形加工を行おうとするOPPフィルムに対してマット加工を施すという具体的手段を採用したことの技術的意義を看過したものである。 エ被告は,「本件発明の課題が自明のものであること,マット加工技術及びその特長が周知の事項であることからすると,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することが容易であるとした審決の判断に誤りはない。」と主張する。 (ア)しかしながら,周知例1ないし4から明らかなとおり,マット加工は,一般に,摩擦係数の低減,静電気の蓄積の防止,つや消し等に用いられる技術であり,本件特許出願当時,OPPフィルム同士を130〜170℃で熱プレス成形した際に生じる熱接着の防止に用いられるものではなかった(むしろ,後記甲15ないし甲17公報には,フィルムの熱変形温度以上の温度で熱プレス成形を行えば,熱プレスによるアイロン効果によりマット加工面が消失することが示されている。)。 (イ)また,引用例には,OPPフィルム同士の分離性の改善を目的としてマット加工技術を適用することについての記載も示唆もないところ,引用例に接した当業者がOPPフィルム同士の分離性の改善を図ろうとする場合,上記イにおいて主張したとおりの解決手段を考えるのが通常である。 (ウ)さらに,引用発明の離型性ワックスコートは,上記(1)アにおいて主張したとおりのブロッキングの発生の防止を目的とするものであるのに対し,マット加工は,本件特許出願当時,上記摩擦係数の低減等を目的とするものであり,このようなブロッキングの発生の防止を目的として用いられる技術ではなかった。 (エ)以上によれば,被告の上記主張は理由がない。 オ被告は,「本件明細書におけるマット加工技術についての記載は,例えば,マット加工面の表面粗さ等について一切言及がないなど,一般的なものであり,具体的内容に欠けるから,本件発明は,一般的にマット加工を施した材料を単に選択したという程度の内容のものであって,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することは,当業者にとって何らの困難も伴わないものである。」とも主張する。 (ア)しかしながら,上記エにおいて主張したとおり,マット加工は,摩擦係数の低減等に用いられる技術であり,本件特許出願当時,複数枚が積層された樹脂製フィルムを熱プレス成形した際に生じる熱接着の防止に用いられる技術ではなかった。 (イ)したがって,引用例記載の積層されたOPPフィルムの熱プレス成形において,OPPフィルム同士の分離性の改善を図ることを目的として,周知例1及び2に記載されたマット加工技術を適用することは,当業者にとって容易ではないから,被告の上記主張は理由がない。 (3)審決は,相違点1について,「静電気の蓄積に起因するフィルムどうしの密着をマット加工により低減させることは,周知例3の段落【0011】〜【0013】及び【0022】,周知例4の段落【0024】に記載されているようにフィルムの帯電防止技術として周知の技術である。」,「上記のことから,引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工で置き換えることにより奏する効果も,引用発明並びに上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということはできない。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 ア本件発明は,摩擦係数の低減,静電気の蓄積の防止,つや消し等の目的で使用されていたマット加工技術を,予め130〜170℃に加熱した金型で複数枚のラミネートフィルムに対して行う熱プレス成形に適用した結果,OPPフィルム同士の熱接着を防止することができるという効果を奏するほか,熱プレス成形後においてもマット加工面が消失しないため,静電気の蓄積の防止及び摩擦係数の低減により,成形後のラミネートフィルムの取り扱いやすさを改善するという効果も奏するものである。 イこれに対し,周知例3に記載された技術は,単なるフィルムの帯電防止技術であって,プラスチックシートを1枚ずつ取り出す際の取り出しやすさを改善するものにすぎない。 ウまた,周知例4に記載された技術は,プリント配線基板等に用いられる基板の製造方法に関するものであり,食品容器に使用するフィルム製容器の製造方法に関する本件発明とは,その技術分野において関連性がない。また,周知例4に記載された技術は,銅箔シートと絶縁フィルムの間の帯電を防止し,銅箔シートに浮遊粉塵が吸着するなどするのを防止するものである。 エ上記イ及びウからすると,周知例3及び4は,OPPフィルム同士が適正な金型温度(130〜170℃)で熱プレス成形を行っても生じる熱接着を防止することを開示するものとはいえない。 加えて,上記(2)において主張したとおり,審決が本件発明の技術的意義を看過したものであること,引用発明に,周知例1及び2に記載されたマット加工技術を適用することの動機付けがないことをも併せ考慮すると,「引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工で置き換えることにより奏する効果も,引用発明並びに上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということはできない。」との審決の判断は,マット加工という具体的構成を選択することについての容易想到性を全く判断せずにされた,いわゆる後知恵に基づくものであるというべきである。 オ被告は,「引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することにより奏する効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものではない。」と主張するが,本件特許出願当時,マット加工は,摩擦係数の低減等に用いられる技術であり,複数枚が積層された樹脂製フィルムを熱プレス成形した際に生じる熱接着の防止に用いられる技術ではなかったのであるから,被告の上記主張は理由がない。 (4)審決は,相違点4について,「金型を予め加熱する具体的温度において,引用発明は,本件発明と若干相違するが,引用発明における金型加熱温度の成形材料との関係における規定は,『成形材料の軟化点以上の温度』とするものである。」,「そして,本件発明における予め加熱する金型温度の『130〜170℃』も二軸延伸ポリプロピレンの軟化点以上の温度範囲を含むものであることは明らかであり,加熱金型を用いたプレス成形において,成形材料の厚さ,加圧の程度,加圧時間等の要素の違いにより金型の加熱温度を調製することは当然のことであるから,金型の加熱温度を相違点4に係る『130〜170℃』に設定することは,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項といえる。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 ア本件発明は,適正な金型温度(130〜170℃)で熱プレス成形を行っても生じるOPPフィルム同士の熱接着を防止するものであり,OPPフィルムにマット加工を施すことにより,金型温度を下げることなく熱接着の防止を図るものであるのに対し,引用例には,上記適正な金型温度で熱プレス成形を行った場合にもOPPフィルム同士が熱接着することに関して開示も示唆もないのであるから,本件発明の「予め130〜170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造する」との構成を採用することを設計的事項であるとした審決の判断は,本件発明の技術的意義を看過したものである。 また,引用発明においては,多数枚積層されたOPPフィルムの最上面及び最下面に紙質材を重ねた状態で熱プレス成形が行われ,紙質材を重ねたことを考慮して金型温度が設定されており(上金型1が209℃,下金型2が200℃,第3金型3が220℃),引用発明にいう「成形材料の軟化点以上の温度」とは,本件発明における130〜170℃よりも極めて高い温度(200〜220℃)を意味するものと解されるから,引用例の記載に基づき,金型の温度を130〜170℃に設定することが,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項であるということはできない。 イ本件発明においては,熱プレス成形後においてもマット加工面が消失せずに維持されるよう,金型の温度を130〜170℃に設定したものであるところ,本件発明の「予め130〜170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造する」との構成は,引用例にも周知例1ないし4にも開示されていない事項であるから,これを設計的事項とした審決の判断は,根拠を欠くものである。 ウ特開平5-169788号公報(甲15。以下「甲15公報」という。),特開2002-240131号公報(甲16。以下「甲16公報」という。)及び特開平11-221882号公報(甲17。以下「甲17公報」という。)によれば,本件特許出願当時,マット加工面を有するフィルムを積層した積層物に対し,当該フィルムの熱変形温度以上の温度で熱プレス成形を行えば,熱プレスによるアイロン効果によりマット加工面が消失し,その効果が失われることから,マット加工面を備えるフィルムに対しては,熱プレス成形を回避するのが技術常識であった。 これに対し,本件発明は,この技術常識を覆し,マット加工面が熱プレス成形後においても維持されるよう,金型温度を130〜170℃に設定したものであって,これは,当業者が適宜設定し得る設計的事項ではない。 エ被告は,「金型の加熱温度を『130〜170℃』に設定することは,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項であるといえる」旨主張するが,本件特許出願当時,マット加工は,複数枚が積層された樹脂製フィルムを熱プレス成形した際に生じる熱接着の防止に用いられる技術ではなかったところ,本件発明の技術的意義は,OPPフィルム同士を130〜170℃で熱プレス成形した際に生じる熱接着をマット加工技術の適用により防止することができた点にあるのであるから,このような技術的意義を看過し,本件発明の構成の一部である金型温度(130〜170℃)のみをとらえて設計的事項であるとする被告の上記主張には,理由がない。 オ被告は,「熱プレス成形においては,樹脂製フィルムの材質や表面処理(マット加工等),熱プレス成形に使用する装置(金型形状,配置等)及び具体的な成形条件(金型の加熱温度,成形サイクル,重ねる枚数,重ね方等)が相まって,熱プレス成形の際に樹脂製フィルムの表面に及ぼす影響が異なることが当然に考えられるところ,本件発明の熱プレス成形においては,このような観点からの十分な検証がされていないのみならず,本件明細書には,極めて重要であるマット加工面の状態や熱接着への影響について一切記載がない」,「したがって,本件発明は,マット加工した材料を単に選択した程度の内容のものであって,何ら困難性は認められない。」と主張するが,本件発明の技術的意義は,マット加工面の状態や熱接着への影響を明らかにする点にあるのではなく,従来,摩擦係数の低減等に用いられる技術であったマット加工技術を,OPPフィルム同士を130〜170℃で熱プレス成形した際に生じる熱接着の防止を目的として適用した点にあるから,被告の上記主張は,本件発明の技術的意義を看過したものであり,理由がない。 カ被告は,「本件明細書,特開平6-328552号公報(乙1。以下『乙1公報』という。)及び特開2003-251689号公報(乙4。以下『乙4公報』という。)の各記載によれば,本件発明において予め加熱する金型の温度を『130〜170℃』に設定することは,一般的に,OPPフィルムを熱プレス成形する際に適した範囲内の温度に設定するものであるといえる。」,「加熱金型を用いたプレス成形において,成形材料の厚さ,加圧の程度,加圧時間等の要素の違いにより金型の加熱温度を調製するのは当然のことであるから,金型の加熱温度を上記温度に設定することは,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項であるといえる。」と主張する。 (ア)しかしながら,本件明細書の記載(段落【0003】)は,100〜200℃の金型温度で複数枚の積層されたラミネートフィルムにつき一度のプレス成型を行った場合に熱接着が生じることを述べたものにすぎない。 (イ)また,乙1公報の記載(段落【0004】)は,120〜180℃に加熱した金型で熱プレス成形を行った場合に,積層状態で成形されたフィルムが互いに密着した状態となり,フィルムケースとして容易に剥がれなくなることを述べたものにすぎない。 (ウ)a乙4公報は,本件特許出願後の平成15年9月9日に出願公開されたものであり,このような公報の記載を根拠にすることはできない。 b乙4公報に記載された発明は,材質の異なる2種以上の樹脂製フィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルムとOPPフィルム)を積層したラミネートフィルムを成形してラミネートフィルム製容器を製造する方法に関するものである。 (エ)以上からすると,本件明細書並びに乙1及び乙4公報の各記載を根拠に,透明なOPPフィルムとマット加工が施されたOPPフィルムを用いた場合の金型温度を130〜170℃に設定することが設計的事項であるとはいえないから,被告の上記主張は理由がない。 2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)審決は,相違点2について,「相違点1における検討において,引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工の技術で置き換えたならば,ラミネートフィルムの重ね合わせの態様に関しては,相違点2に係る本件発明の発明特定事項と同じく,『二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせ』る態様となるので,相違点2に係る本件発明の発明特定事項も,引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工技術で置き換えることにより,当業者が容易になし得たことといえる。」と判断したが,以下のとおり,この判断は誤りである。 (1)引用発明における離型性ワックスコート加工の技術をマット加工の技術に置換することに動機付けがないことは,取消事由1の(2)において主張したとおりである。 (2)さらに,甲19の実験報告書2(以下「甲19実験報告書」という。)に記載されたとおり,引用例の段落【0024】,【0025】及び【0028】に記載された実験方法及び条件において,離型性ワックスコートをマット加工に置換した追試実験を行った結果,上金型及び下金型の温度をいずれも210℃とした場合には,OPPフィルムの一方にマット加工技術を適用しても,OPPフィルム同士に,融着による熱接着が生じた。 したがって,単に,マット加工の技術を引用発明に適用しただけでは,合成樹脂フィルム同士の分離性の改善は図れないから,引用発明にマット加工技術を適用することには,明らかな阻害要因がある。 (3)被告は,「当業者であれば,金型の加熱温度を適宜調製するのは当然であるといえるから,甲19実験報告書に基づく原告らの主張は,明らかに失当であり,適用阻害要因とはなり得ない。」と主張する。 しかしながら,引用発明は,合成樹脂フィルム製容器の保形性能を向上させることを目的とするものであるところ,上金型,下金型及び第3金型の加熱温度を130〜170℃の範囲内に設定しても,温度が低すぎる結果,復元性の高いOPPフィルムに対し,当該復元性を喪失させるまでの十分な熱変形を加えることはできず,その結果,著しく保形性に劣ったフィルム製容器が製造されることになるから(引用例の段落【0024】及び【0025】に記載された実験方法及び条件において,離型性ワックスコートをマット加工に置換し,上金型及び下金型の温度をいずれも160℃として行った追試実験に係る甲20の実験報告書3(以下「甲20実験報告書」という。)参照),仮に,当業者が,引用発明に,周知例1及び2に記載されたマット加工技術を適用し,かつ,金型温度を130〜170℃に設定することに想到し得たとしても,引用発明本来の目的である保形性の改善が図れず,したがって,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することには,適用阻害要因があるというべきであるから,被告の上記主張は理由がない。 第4被告の反論の骨子以下のとおり,原告らが主張する各審決取消事由は,いずれも理由がない。 1取消事由1(相違点1及び4についての各判断の誤り)に対して(1)原告らは,「引用例に示されている課題とは,積層されたOPPフィルムの上下に備え付けた紙質材上面の上質紙及び下面の段ボール用中心原紙の枚数を減らしたことに起因してOPPフィルム同士が融着することにより発生した熱接着を防止することであり,適正な金型温度(130〜170℃)で熱プレス成形を行った場合にも生じるOPPフィルム同士の熱接着を防止するとの本件発明の課題とは本質的に相違するのであるから,引用例における『OPPフィルムどうしのくっつきに対する分離の性能の改善』が本件発明の課題と共通するとした審決の判断は誤りである。」旨主張するが,以下のとおり,理由がない。 ア原告らが主張する本件発明の課題である「樹脂製フィルム同士が熱接着するのを防止する」ことは,本件明細書にも引用されている乙1公報の記載によれば,樹脂製フィルムの成形加工技術において,とりわけ,本件発明に関係するフィルムケースの製造方法において,生産性の低下を防ぐために従来から考えられている自明の課題である。 また,「樹脂製フィルム同士が熱接着するのを防止する」ことについては,本件明細書中の「異種フィルム」についての説明を参酌しても,マット加工による表面処理の違いや加熱温度によって樹脂製フィルム同士の熱接着にどのように影響するのかについての具体的言及がないなど,具体的内容に欠けるといわざるを得ない。 なお,本件発明の「異種フィルム」とは,乙4公報に記載された「異種フィルム」と同様,「材質の異なる2種以上の樹脂製フィルム」を指すものと理解するのが相当である。 イ原告らが主張する本件発明の課題である「熱プレス成形後においても摩擦によるラミネートフィルムの剥がし難さを改善する」ことについては,周知例3の記載によれば,樹脂製フィルム同士が静電気の蓄積に起因して密着することは従来から周知の問題であり,したがって,プレス成形加工された樹脂製フィルム同士が密着するのを防止することも,自明の課題であるといえる。 ウ本件発明が採用するマット加工が施された樹脂製フィルムについても,周知例3及び特開昭50-91678号公報(甲3,乙3,審判甲3)の各記載によれば,マット加工技術及びその特長である「離型性,帯電防止性,つや消し」は周知の事項であるため,マット加工面によりOPPフィルム間での接触面積を小さくして摩擦係数を低減させ,スリップ効果によりラミネートフィルム同士の剥離性を高めることは,当業者において周知の技術であるといえる。 エ本件明細書,乙1公報及び原告らの先願にかかる乙4公報の各記載によれば,本件発明において予め加熱する金型の温度を「130〜170℃」に設定することは,一般的に,OPPフィルムを熱プレス成形する際に適した範囲内の温度に設定するものであるといえる。 そして,引用発明における金型加熱温度の成形材料との関係における規定は,「成形材料の軟化点以上の温度」とするものであり,本件発明における上記温度を含むものであるところ,加熱金型を用いたプレス成形において,成形材料の厚さ,加圧の程度,加圧時間等の要素の違いにより金型の加熱温度を調製するのは当然のことであるから,金型の加熱温度を上記温度に設定することは,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項であるといえる。 オ以上からすると,本件発明の課題が,OPPフィルムの分離性,すなわち,OPPフィルム同士のくっつきに対する分離の性能の改善にあることは明らかであるから,これが,従来からの課題と基本的に共通するとした審決の判断に誤りはない。 (2)原告らは,「引用例記載の積層されたOPPフィルムの熱プレス成形において,OPPフィルム同士の分離性の改善を図ることを目的として,周知例1及び2に記載されたマット加工の技術を適用することには動機付けがないというべきである。」,「審決は,積層されたフィルムの剥がしやすさを改善するという一般的な動機付けをもって,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することが容易であるとするものであり,本件発明が,熱プレス成形加工を行おうとするOPPフィルムに対してマット加工を施すという具体的手段を採用したことの技術的意義を看過したものである。」と主張するが,以下のとおり,理由がない。 ア周知例1及び2に記載されたマット加工技術は,表面にマット加工を施すことにより,それと接する面との接触面積を小さくし,両者の間に生じる摩擦係数を低減させて,スリップ効果により両者の剥離性を高めるものであり,このようなマット加工技術が,重ね合わせたもの同士の分離性の改善を図ることを目的として採用される周知の技術であることを裏付けるものであるから,このような分離性の改善という観点から,従来からの課題であるOPPフィルム同士の分離性の改善を図ることを目的として,マット加工面によりOPPフィルム間での接触面積を小さくして摩擦係数を低減させ,スリップ効果によりラミネートフィルム同士の剥離性を高めることは,当業者において周知の技術である。 そして,上記(1)において主張したとおり,原告らが主張する本件発明の課題が自明のものであること,マット加工技術及びその特長が周知の事項であることからすると,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することが容易であるとした審決の判断に誤りはない。 イ周知例1及び2におけるマット加工技術についての具体的な記載と比較して,本件明細書における同技術についての記載は,例えば,マット加工面の表面粗さ等について一切言及がないなど,一般的なものであり,具体的内容に欠けるから,本件発明は,一般的にマット加工を施した材料を単に選択したという程度の内容のものであって,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することは,当業者にとって何らの困難も伴わないものである。 (3)原告らは,「周知例3及び4は,OPPフィルム同士が適正な金型温度(130〜170℃)で熱プレス成形を行っても生じる熱接着を防止することを開示するものではない。」,「加えて,・・・審決が本件発明の技術的意義を看過したものであること,引用発明に周知例1及び2に記載されたマット加工技術を適用することの動機付けがないことをも併せ考慮すると,『引用発明の〔離型性ワックスをコート〕するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工で置き換えることにより奏する効果も,引用発明並びに上記周知の技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものということはできない。』との審決の判断は,マット加工という具体的構成を選択することについての容易想到性を全く判断せずにされた,いわゆる後知恵に基づくものであるというべきである。」と主張するが,以下のとおり,理由がない。 ア前記(1)において主張したとおり,原告らが主張する本件発明の課題が自明のものであること,マット加工技術及びその特長が周知の事項であることからすると,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することが容易であるとした審決の判断に誤りはない。 イ上記(2)において主張したとおり,本件発明は,一般的にマット加工を施した材料を単に選択したという程度の内容のものであって,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することは,当業者にとって何らの困難も伴わないものである。 ウ前記(1)において主張したとおり,本件発明において予め加熱する金型の温度を「130〜170℃」に設定することは,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項であるといえる。 エ引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することにより奏する効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものではない。 (4)ア原告らは,「本件発明の『予め130〜170℃に加熱した金型にてプレス成形加工して製造する』との構成を採用することを設計的事項であるとした審決の判断は,本件発明の技術的意義を看過したものである。」と主張するが,以下のとおり,理由がない。 (ア)前記(1)において主張したとおり,本件明細書並びに乙1及び乙4公報の各記載によれば,本件発明において予め加熱する金型の温度を「130〜170℃」に設定することは,一般的に,OPPフィルムを熱プレス成形する際に適した範囲内の温度に設定するものであるといえる。 また,本件明細書には,上記温度範囲に限定することの臨界的意義について,一切記載がない。 (イ)そして,前記(1)において主張したとおり,引用発明における金型加熱温度の成形材料との関係における規定は,「成形材料の軟化点以上の温度」とするものであり,本件発明における上記温度を含むものであるところ,加熱金型を用いたプレス成形において,成形材料の厚さ,加圧の程度,加圧時間等の要素の違いにより金型の加熱温度を調製するのは当然のことであるから,金型の加熱温度を上記温度に設定することは,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項であるといえる。 イ原告らは,甲15ないし甲17公報を引用し,「マット加工面を有するフィルムを積層した積層物に対し,当該フィルムの熱変形温度以上の温度で熱プレス成形を行えば,熱プレスによるアイロン効果によりマット加工面が消失し,その効果が失われる」と主張するが,熱プレス成形においては,樹脂製フィルムの材質や表面処理(マット加工等),熱プレス成形に使用する装置(金型形状,配置等)及び具体的な成形条件(金型の加熱温度,成形サイクル,重ねる枚数,重ね方等)が相まって,熱プレス成形の際に樹脂製フィルムの表面に及ぼす影響が異なることが当然に考えられるところ,本件発明の熱プレス成形においては,このような観点からの十分な検証がされていないのみならず,本件明細書には,極めて重要であるマット加工面の状態や熱接着への影響について一切記載がないのであるから,原告らの上記主張は,一般論であり,具体性に欠けるものである。 2取消事由2(相違点2についての判断の誤り)に対して(1)原告らは,甲19実験報告書の記載に基づき,「単に,マット加工の技術を引用発明に適用しただけでは,合成樹脂フィルム同士の分離性の改善は図れないから,引用発明にマット加工技術を適用することには,明らかな阻害要因がある。」と主張するが,以下のとおり,理由がない。 ア引用例に記載されているように,樹脂フィルム製容器の熱プレス成形においては,使用する装置(金型形状,配置等)及び具体的な成形条件(金型の加熱温度,成形サイクル,重ねる枚数,重ね方等)が相互に関係し,当該容器の保形性や生産性に大きく影響を及ぼすものであるところ,甲19実験報告書に記載された「成形条件」は,成形サイクル,フィルムの積層枚数並びにフィルムの積層体の上下面に添合させる紙の種類,平米当たりの質量及び枚数において,引用例における成形条件と著しく相違し,比較の対象とはなり得ないものである。 なお,乙1公報に記載されたとおり,熱プレス成形時の加熱温度が高いほどフィルム同士が熱接着しやすくなることは,周知の事項である。 イ前記1(1)において主張したとおり,引用発明における金型加熱温度の成形材料との関係における規定は,「成形材料の軟化点以上の温度」とするものであり,本件発明において予め加熱する金型の温度(130〜170℃)を含むものであるところ,加熱金型を用いたプレス成形において,成形材料の厚さ,加圧の程度,加圧時間等の要素の違いにより金型の加熱温度を調製するのは当然のことであるから,金型の加熱温度を上記温度に設定することは,必要に応じて当業者が適宜設定し得る設計的事項であるといえ,したがって,当業者であれば,金型の加熱温度を適宜調製するのは当然であるといえるから,甲19実験報告書に基づく原告らの主張は,明らかに失当であり,適用阻害要因とはなり得ない。 ウまた,前記1(2)において主張したとおり,本件発明は,一般的にマット加工を施した材料を単に選択したという程度の内容のものであって,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することは,当業者にとって何らの困難も伴わないものであるし,前記1(3)において主張したとおり,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することにより奏する効果も,引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別のものではない。 エ以上からすると,「引用発明にマット加工技術を適用することには,明らかな阻害要因がある」との原告らの主張は,審決の結論に何ら影響しないものであって,理由がない。 (2)また,原告らは,甲20実験報告書の記載に基づき,「引用発明は,・・・上金型,下金型及び第3金型の加熱温度を130〜170℃の範囲内に設定しても,・・・著しく保形性に劣ったフィルム製容器が製造されることになるから・・・引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することには,適用阻害要因がある」と主張するが,同実験報告書に記載された「成形条件」も,成形サイクル及びフィルムの積層枚数において,引用例における成形条件と著しく相違し,比較の対象とはなり得ないものであるから,原告らの上記主張も理由がない。 なお,引用例には,成形サイクルを減少させ,5回/分のサイクルにすると保形性の悪化を改善することができる旨の記載がある。 (3)原告らは,本件発明の熱プレス成形において,樹脂製フィルム同士の分離性のみを問題としているが,樹脂フィルム製容器の熱プレス成形に使用する装置(金型形状,配置等)及び具体的な成形条件(金型の加熱温度,成形サイクル,重ねる枚数,重ね方等)が相互に関係し,当該容器の保形性や生産性に大きく影響を及ぼすといった製造上の問題点については,十分な検証がされていない。 第5当裁判所の判断1各刊行物の記載(1)「合成樹脂フイルム製容器の成形装置及びその成形方法」と称する発明に関する引用例(甲8)の記載ア「【発明の属する技術分野】本発明は,各種の食品を収納するための容器として,異質の食品を同一大型容器内に収納する時の他食品に対する影響を最小限にするための小型容器として利用するものであるが,その小型容器が合成樹脂フイルム製であるため電子レンジ加熱を可能にしたものである。」(段落【0001】)イ「・・・合成樹脂フイルム製成形容器も製作されているが,成形された成形形状の保持能力が劣り,保形性能が悪いので内容物を充分保持出来ないとか,成形時の成形時間に多くの時間を要するとかで,品質的にも生産性にも劣ったものであった。 本発明は,このような問題点を解決することを目的とした合成樹脂フイルム製容器の成形装置,及び,その成形方法を提供するものである。」(段落【0005】,【0006】)ウ「【課題を解決するための手段】上記目的を達成するに至った本発明の合成樹脂フイルム製容器の成形装置は,平判状の合成樹脂フイルムを多数枚積層してなる合成樹脂フイルム製容器成形用材料の最上面及び最下面の両面に,成形金型との成形時の加圧,摺動に耐え得る滑性度を有する紙質材を添えることが有効であることを発見し,紙質材には薄葉紙から上質紙,クラフト紙と各種の紙を試みた。 又,変形させても復元性の高い合成樹脂フイルムに於いては,その変形加工時に加温する事が必要であり,又その後変形させたものを常温近くまでの温度,当然夫々の合成樹脂の軟化点以下の温度まで成形加工させた状態を保持することが必要である事を確認することが出来たので,その保形性を保持させる為に,保形性に有効な上質紙とかクラフト紙とかを多数枚積層した合成樹脂フイルム材料の中に介在させる事で,その保形性を活用するとか,さらに保形性の高いアルミニウム箔等の金属箔も,上述紙質材と同様に多数枚積層された合成樹脂フイルム材に対する紙質材に代わって活用するとか,又紙質材と共に共用することも有効であることが確認できた。」(段落【0007】,【0008】)エ「これらの紙質材に代えて金属箔を使った時は保形性は更に良く効果的であるにかかわらず,合成樹脂フイルムの成形に効果的な加温の効果は紙質材より熱伝導性の高い金属箔の方が有効であることは言うまでもない。合成樹脂フイルムの復元性を無くすためには夫々の合成樹脂フイルムの軟化点より高い温度に保持した状態で変形成形加工する事が効果的である事は言うまでもない。 又,その効果を更に高めるため,合成樹脂フイルムの両面外側に積層された紙質材等の保温保形材を加減して,その加温温度との均衡を保つことで,加工時間を加減して生産性を高めることも可能である。成形加工時の工程的な前加工とも言える予備加工として加えられる第3金型と下側の雌金型の加工材料の加圧作用は,前述の軟化点以上の温度に加温する効果を高める作用を有効にしているのであり,又この加圧力を成形加工工程に雄金型の移動に合わせて次第に挟圧力を高める様に構成した事は,その効果を一段と高める事ができたのである。」段落【0012】,【0013】)オ「〔実施態様例1〕図1に示す容器成形装置を用いて,合成樹脂フイルムとして・・・OPPフイルム40μm厚さを25枚積層し,その上面に90g/?uの上質紙を2枚置き,下面には125g/?u の段ボール用中心原紙を2枚重ねて,図7に示すように円形に断截した材料16を下金型2の上に置き,30回/分の成形速度で成形加工を行った。 この時の上金型1の加熱温度は210℃,下金型2の加熱温度は209℃,第3金型3の加熱温度は220℃であった。この結果,製品の保形性等,また上下面の紙質材への密着性共に,申し分ない評価が得られた。 〔実施態様例2〕実施態様例1で行った同様の材料構成で,第3金型3の温度を上昇させず,15℃常温のままとし,他は実施態様例1と全く同1条件で成形加工を実施した。結果は,上下紙質材への密着性等は問題ないが,保形性が悪く容器の開口部が大きく開き,充分な製品とは言えないもので,第3金型3に対する加熱の必要性を痛感した。 〔実施態様例3〕実施態様例2で行った条件の内,成形速度を30回/分のサイクルから次第に回/分を減少させて,その効果を確認したところ,保形性が実施態様例1と同一になるには5回/分のサイクルである事が解った。また,非常に悪い生産性であることも解った。 〔実施態様例4〕実施態様例1の条件の内,上下に備え付けた紙質材上面の上質紙(90g/?u )1枚とし,又,下面の段ボール用中心原紙(125g/?u )を同じく1枚として,他は全く同1条件で成形加工を実施したら,紙質材2枚ずつの時に比べて保形性が少し悪く,開口部が開き気味となると共に,40μm厚さのOPPフイルムの分離性に少し難点を感じたが,これは合成樹脂フイルムの片面でよいから,ワックス系樹脂剤とか,シリコン系樹脂剤を塗布したものの活用が無難である事が示された。又,上下に備え付けの紙質材が多い方が保形性が良くなる事が解った。 〔実施態様例5〕実施態様例4で行った条件の内,厚さ40μmのOPPフイルムの片面に離型性ワックスコートを行ったものを使用し,上下紙質材それぞれ1枚の内側(フイルム側)にアルミニウム箔硬質50μm厚さ1枚をそれぞれ挿入して,その他の条件を実施態様例1と同じにして成形加工を行った。結果は非常に良好で全て申し分なかった。 〔実施態様例6〕図1に示す容器成形装置を用いて,合成樹脂フイルムとして,15μm厚さのOPPフイルムと20μm厚さのOPPフイルムの片側に印刷し,この2枚のOPPフイルムを印刷面を内側にしてウレタン系二液型のドライラミネート接着剤で貼り合わされたものを用い,このフイルムの25枚を積層してその上面に90g/?u の上質紙を2枚置き,下面には125g/?u の段ボール用中心原紙K3枚を重ねて,図7に示すように円形に断截した材料16を下金型2と第3金型3との間に入れながら,30回/分の成形速度で成形加工を行った。 この時の上金型1の加熱温度は209℃,下金型2の加熱温度は200℃,第3金型3の加熱温度は220℃であった。成形の結果は,離型性ワックスを片面にコートしてあるので,印刷インキの流れ不良も,又フイルム間のブロッキング密着現象も全く問題無く,保形性も申し分ないものであった。」(段落【0024】〜【0031】)カ「〔実施態様例8〕実施態様例6で行ったと同1条件の内,上金型1の温度を80℃,下金型2の温度を850℃,第3金型3の温度を70℃にして,その他の条件は実施態様例6と全く同一にして成形加工を行った。結果は,成形性,保形性共に悪く,製品とは言えなかった。 これで解ったことは,成形金型の温度を加工される樹脂の軟化点以上に維持する必要性があることである。」(段落【0033】)キ「〔実施態様例10〕実施態様例6の条件の内,成形に使用する材料に30μm厚さのOPPフイルムと10μm厚さの印刷されたPETフイルムを印刷面を内側にウレタン系二液型のドライラミネート接着剤で貼り合わせ,その後30μm厚さのOPPフイルム外側に離型性ワックスコートを施して作った成形材料を25枚重ねに積層し,その他は実施態様例6と同じ条件で成形を行った。結果は申し分の(ない)良好なものであった。」(段落【0035】)(2)「食品容器材料」と称する発明に関する周知例1(甲10)の記載ア「【特許請求の範囲】【請求項1】耐油性を有する基材紙上に耐熱性樹脂層を有している食品容器材料。」(2頁1欄1〜3行)イ「【請求項7】請求項1・・・記載の食品容器材料からなる加熱調理用食品容器。」(2頁1欄19,20行)ウ「【発明の属する技術分野】本発明は,耐油性及び耐熱性が優れた食品容器材料に関する。 また本発明は,前記食品容器材料から得られる,特にクッキー等の焼き菓子,マドレーヌ,パイ,クッキー等の洋生菓子のような油脂分を含む菓子の調理時における加熱によっても変色や油染みのない,しかも食品との剥離性のよい加熱調理用食品容器に関する。」(段落【0001】)エ「【課題を解決するための手段】本発明者らは,・・・耐油性と耐熱性を有する材料を組み合わせて得られる容器が,油脂分の多い食品の加熱調理時において,?@変色や油染みが発生せず,製品外観を美しく保つことができ,食べるときに手指に油汚れを付着させないこと,?A食品との適度な密着性を持たせることで,食品との剥離性を最適にして食品の破損等を生じさせないこと,等の優れた機能を発揮することができ・・・ることを見出し,さらには容器を成形する際に容器と金型の離型性も改良できることを見出し,本発明を完成した。本発明は,耐油性を有する基材紙上に耐熱性樹脂層を有している食品容器材料を提供する。また本発明は,上記の食品容器材料からなる加熱調理用食品容器を提供する。」(段落【0005】)オ「【発明の実施の形態】本発明の食品容器材料は,耐油性を有する基材紙の一面又は両面の一部又は全部に耐熱性樹脂層を有しているものである。 耐油性を有する基材紙としては,1層以上の紙・・・と耐油性樹脂を含浸させた紙との積層体が好ましい。」(段落【0006】,【0007】)カ「耐熱性樹脂層は,ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンテレフタレート及びポリメチルペンテンから選ばれる1又は2以上の耐熱性樹脂からなるものを挙げることができる。 これらの中でも,・・・接着剤を用いることなく積層でき,菓子等との剥離性も優れているため,ポリブチレンテレフタレートが好ましい。」(段落【0010】)キ「耐熱性樹脂層の表面のJISB0601による中心線平均荒さ(Ra)は,好ましくは2.5〜15μm,特に好ましくは3.5〜12μm,さらに好ましくは4.5〜9.0μmである。 表面荒さを前記範囲内にすることにより,表面がマット状(微細な凹凸状)になるため外観を美しくすることができ,容器成形時における容器と成形金型の剥離性,容器同士の剥離性を高めることができ,食品容器材料を複数枚重ねて裁断するときの剥離性も高めることができる。 さらに,容器に成形した場合においては,表面に適度な摩擦力を付与できるため食品の保持性が高められ,通常の取り扱い程度では,アルミ箔容器のように食品が容器から滑り出たりすることがない上,容器と洋菓子等の食品との剥離性が非常に優れている。」(段落【0012】,【0013】)ク「本発明の容器材料の製造方法は特に限定されるものではなく,耐油性を有する基材紙上に上記の耐熱性樹脂を,押出し時の樹脂温度290〜310℃程度で共押出して積層する方法,基材紙と耐熱性樹脂フィルムを重ね合わせ,加熱加圧する方法,基材紙に耐熱性樹脂を含浸させ,積層する方法,耐熱性樹脂フィルムを接着剤により基材紙に接着して積層する方法等を適用することができる。なお,本発明においては,積層時の冷却ロールとして,ロール表面が微細なエンボス状の冷却ロールを用いることで,耐熱性樹脂層の表面(非接着面)が上記表面荒さの範囲内になるようにすることが望ましい。」(段落【0015】)ケ「本発明の加熱調理用食品容器は,上記した食品容器材料を公知の成形法,例えば加熱圧縮法により所望形状に成形してなるものであるが,シート状の食品容器材料をそのまま包装紙のようにして使用するものや袋状の容器も本発明の加熱調理用食品容器に含まれる。」(段落【0017】)コ「本発明の加熱調理用食品容器は,電気加熱式又はガス加熱式等で,型天板方式又はベーキングトレー方式等の各種加熱器具に適用することができる。また,加熱条件は,200〜220℃で10〜12分程度の高温域加熱,160〜200℃で10〜12分程度の中温域加熱,100〜120℃で2〜3時間程度の低温域加熱のいずれにも適用することができる。」(段落【0019】)サ「実施例1耐油性を有する基材紙(・・・単位面積当たりの重量240g/?u)上に,押出機により加熱溶融させた耐熱性樹脂(ポリブチレンテレフタレート・・・)を押出して積層し,その後,冷却ロールにより冷却して,食品容器材料を得た。耐熱性樹脂層の厚みは25μmで,中心線平均荒さ(Ra)は4.9μmであった。次に,この食品容器材料を用いて加熱圧縮法により成形し,図2に示すようなカップ状の加熱調理用食品容器(底部22の径68mm,外延部26の径91mm,外延部26までの深さ18mm)を得た。この加熱調理用食品容器の中に,マドレーヌ原料約40gを入れ,電気オーブン中,220℃で10分間加熱調理した。その後,容器の外表面を目視により観察したが,変色及び油染みはほとんど認められなかった。また,通常の取り扱いではマドレーヌが容器から滑り出たりすることはなく,しかも取り出す場合の剥離性は非常によく,容器の底部には殆ど付着物が残らなかった。 実施例2鏡面仕上げの積層ロールを用い,耐熱性樹脂の中心線平均荒さ(Ra)を2.2μmとしたこと以外は実施例1と同様にして,カップ状の容器を得た。この容器を用いて実施例1と同様にしてマドレーヌを加熱調理したところ,変色及び油染みはほとんど認められなかった。しかし,容器成形時,耐熱性樹脂層の金型からの離型性が悪く,連続成形が困難であったほか,菓子と容器の密着性も実施例1と比べて弱く,注意深く取り扱う必要があった。」(段落【0022】,【0023】)(3)「断熱カップ」と称する発明に関する周知例2(甲11)の記載ア「【特許請求の範囲】【請求項1】紙製の側壁及び紙製の底壁を有するカップ本体と,前記側壁を覆い且つこれに貼着された紙製の保護カバーと,を具備する断熱カップにおいて,前記側壁の内面が,厚さ20μm〜60μmの樹脂膜により被覆され,前記樹脂膜の表面がマット加工され,その十点平均粗さが10μm〜30μmであり且つ前記樹脂膜の厚さの60%以下であることを特徴とする断熱カップ。」(2頁1欄1〜9行)イ「【産業上の利用分野】本発明は保護カバーがカップ本体に貼着された断熱カップに関し,特に,内容物に熱湯を注いで喫食に供する所謂インスタント食品や飲料用の断熱カップに関する。」(段落【0001】)ウ「【従来の技術】珈琲等の飲料用のカップとして,内面がポリエチレン膜で被覆された紙カップが用いられている。カップ成型時の型との滑り及び製品の自動販売機でのカップ離れを良好にするため,ポリエ(ン)チレン膜の表面をマット(つや消し)加工する技術が知られている。マット加工によるポリエ(ン)チレン膜の十点平均粗さは約5μmに設定される。」(段落【0002】)エ「【発明が解決しようとする課題】カップ本体が保護カバーにより覆われてなる断熱カップは,しかし,保護カバーの有する弾力性に起因し,カップどうしを入れ子式に重ねた場合の結合力が高い。例えば,この種断熱カップは,内容物を充填する前は,入れ子式に重ねられた状態で輸送及び貯蔵(時)される。従って,この状態から自動供給装置によりカップを1つずつ送ろうとした場合に,カップ離れの問題が生じる。・・・本発明は上述のような従来の問題点に鑑みてなされたものであり,カップ離れが良好な断熱カップを提供することを目的とする。」(段落【0004】)オ「【作用】本発明においては,カップどうしを入れ子式に重ねた場合,マット加工されたカップ内面が,別のカップの保護カバーの外面に接触する。これら内面と外面との間の静摩擦係数はカップ内面のマット加工により低下し,従って,保護カバーの高い弾力性にかかわらず,カップ離れが良好となる。・・・特に,保護カバーの外面がニス層により覆われ且つ平滑であると,カップ離れは更に良好となる。」(段落【0006】)カ「カップ本体12の側壁14及び底壁16を構成する板紙は,白色の上質紙からなり,その坪量は約210g/?u,厚さが約280μmである。側壁14及び底壁16を構成する板紙の内面には,厚さ約45μmのポリエチレン膜13がコーティングされる。側壁14用の板紙は,坪量が170g/?u〜310g/?u,厚さが220μm〜420μmに設定される。また,ポリエチレン膜13の厚さは20μm〜60μmに設定される。 図3図示の如く,側壁14の内面のポリエチレン膜13の表面にはマット加工13aが施され,その十点平均粗さ(JISB0601)が10μm〜30μmに設定される。マット加工13aによる十点平均粗さがこの範囲より小さいと,ブロッキングが発生しやすくなり,この範囲より大きいと,マット加工自体が難しくなる。・・・なお,ポリエチレン膜13に代え,ポリエステル膜等の他の樹脂膜を使用することもできる。」(段落【0011】,【0012】)キ「本発明の効果を確認すると共にポリエ(ン)チレン膜13表面のマット加工とライナー紙28の外面のニス層との関係を調べるため,実験を行った。実験において,マット加工された表面を有するポリエ(ン)チレン膜と,平滑な表面を有するニス層との間の静摩擦力及び静摩擦係数を,JIS-K7125の規定に従って測定した。・・・サンプルA,Bは本発明に係る断熱カップに対応し,サンプルC,Dは従来の断熱カップに対応する。」(段落【0018】)ク「表1から,本発明に係るサンプルA,BではサンプルC,Dに比べて静摩擦係数が小さいことが分かる。即ち,本発明に係る断熱カップによれば従来の断熱カップに比べて良好なカップ離れ特性が得られることが実証された。」(段落【0020】)ケ「次に,本発明の実施例に係る断熱カップの製造方法について説明する。先ず,カップ本体12の側壁14の原料シートを調製する。図5図示の如く,シートロール42から原紙40を繰出しながら,エクストルーダ44において溶融したポリエチレンを供給し,原紙40にポリエチレン膜をコーティングする。続いて,冷却ローラ46においてポリエチレン膜を冷却する際,ポリエチレン膜の表面にマット加工を施す。このため,冷却ローラ46の表面には,予め所定のマット加工が施され,これを転写するようにポリエチレン膜の表面が凹凸に成形される。」(段落【0021】)コ「次に,公知のカップ成形装置によりカップ本体12を形成する。ここで,先ず,円錐台形に丸められた側壁14と浅い筒形状の底壁16とを組合わせて,カップ本体12の原型を形成する。」(段落【0022】)サ「次に,保護カバー20をカップ本体12の側壁14に貼着する。これは,例えば,巻付け装置により,保護カバー20をカップ本体12の側面周囲に巻付けながら糊によって貼着することにより行うことができる。」(段落【0027】)シ「また,保護カバー20を巻付ける方法に代え,予め保護カバー20だけでカップ本体12の側壁14と概ね同じ円錐台形の筒に組立て,その後,保護カバー20をカップ本体12に嵌め込みながら貼着する方法を採用することもできる。」(段落【0028】)(4)「物品収納用透明ケースの製造方法」と称する発明に関する周知例3(甲9)の記載ア「【特許請求の範囲】【請求項1】透明プラスチックシートの製造時に,片面または両面にマット加工を施して,カット版シートを形成し,このカット版シートに枚葉式印刷機で文字・意匠の印刷を施すとともにこのカット版シートのマット加工面の打抜予定部の全面もしくは一部分に,透明インキをコーティングした後,枚葉式加工装置でカット版シートを打ち抜き加工し,この打ち抜いたカット版シートを製函するものである事を特徴とする物品収納用透明ケースの製造方法。」(2頁1欄1〜10行)イ「【産業上の利用分野】本発明は化粧用具,化粧容器等の適宜の物品を収納するための,物品収納用透明ケースの製造方法に係るものである。」(段落【0001】)ウ「【従来の技術】・・・表面を平滑に設けたプラスチックシートは,一般的に静電気が帯電し易く,一旦積み上げると,上下のプラスチックシートが静電気によって密着して,次工程に一枚ずつ供給する事が困難なものとなっていた。そのため,従来方法では,透明プラスチックシートに,帯電防止剤を配合したり,コーンスターチ等から成る微粉末の滑剤を表面に塗布し,静電気による帯電を防止していた。」(段落【0002】)エ「本発明は・・・物品収納用透明ケースを形成する場合,プラスチックシートを,積み重ねても静電気による密着が生じる事がなく,枚葉式印刷機への一枚毎の確実な供給を可能とする。また,この密着防止を,プラスチックシートに,静電気防止剤を配合したり,滑剤を用いない事により,表面が曇ったり,ベタついたり,傷付く等の虞れが全くなく,長期間の透明性を維持できるようにしようとするものである。」(段落【0006】)オ「透明プラスチックシートは,ポリスチレンにより形成しても良い。 また,透明プラスチックシートは,ポリプロピレンにより形成しても良い。」(段落【0008】,【0009】)カ「【実施例】以下本発明の好ましい一実施例を説明する。まず,実施例品に用いる透明プラスチックシートには,ポリプロピレン,ポリスチレン等・・・を使用する。また,本実施例に於ては,厚み200μのポリスチレンシートを用いている。そして,この200μのポリスチレンシートの片面に,マット加工を施し,このポリスチレンシートを一定の長さにカットしてカット版シート(1)を形成する。また,カット版シート(1)は,両面にマット加工を施しても良い。 このように,カット版シート(1)は,片面または両面にマット加工を施すと,このマット加工面(2)に微細な凹凸部(3)を形成できる。そのため,カット版シート(1)は,マット加工面(2)に形成した凹凸部(3)が,重なり合うカット版シート(1)との間に,空気層(4)を形成する。 そのため,複数枚のカット版シート(1)を積み重ねても,静電気が発生して密着する事がなく,確実な一枚ずつの取り出しが可能となる。」(段落【0011】〜【0013】)キ「透明インキ(5)をコーティングしたカット版シート(1)を,枚葉式加工装置により打ち抜き,この打ち抜いたカット版シート(1)をサック貼り機で製函する。」(段落【0016】)ク「【発明の効果】本発明は・・・物品収納用透明ケースを形成する場合,マット加工を施したカット版シートは,積み重ねても上下のシートの間に空気の層を形成し,静電気による密着がなく,枚葉式印刷機への一枚毎の確実な供給が可能となる。 また,この静電気を防止する方法は,静電気防止剤を配合したり,また,滑剤を用いるものではないから,塩化ビニール以外のプラスチックシートを使用しても,表面が曇ったり,ベタついたり,また表面が傷付く虞れが全くなく,長期間の透明性を維持できるものである。」(段落【0022】,【0023】)(5)「基板製造方法及び基板製造装置並びにこの基板製造方法に用いる片面絶縁シート」と称する発明に関する周知例4(甲12)の記載ア「【発明の属する技術分野】本発明は,板状のコア部材の上面にプリプレグシートを挟んで銅箔シートを重ね,積層方向に圧力をかけるとともに加熱して銅箔シートをコア部材に一体接着させる基板の製造方法,製造装置,並びにその基板製造に用いられる銅箔シート材料の構成に関する。」(段落【0001】)イ「【課題を解決するための手段】・・・第1の本発明は,板状のコア部材の上面を覆ってプリプレグシートを重ね,このプリプレグシートの上面を覆って銅箔シートを重ね,重ねられた銅箔シートの上面を覆って金属板を重ねて積層部材を構成し,この積層部材・・・を積層方向に圧縮することにより金属板とコア部材との間に挟持されたプリプレグシートと銅箔シートとを密着させるとともに,銅箔シートにおけるシートの延びる方向に電流を流して銅箔シートを発熱させ,プリプレグシートに含浸されたレジンを溶融させてコア部材に銅箔シートを接着させる基板製造方法である。そのうえで,本発明では,銅箔シートの一方の面に,電気絶縁材料からなり銅箔シートに密着するとともに剥離可能に絶縁フィルムを配設して片面絶縁シートを構成し,この片面絶縁シートにおける銅箔側の面がプリプレグシートと接し,反対側の絶縁フィルム側の面が金属板と接するように片面絶縁シートを配向して積層させ,このように積層された積層部材を圧縮・加熱することによりコア部材に銅箔シートを接着させる。」(段落【0010】)ウ「絶縁フィルムには帯電防止処理が施されて片面絶縁シートが構成されることが望ましい。 このような銅箔シート材料によれば,ロール状に巻き取られた銅箔シートを繰り出すとき,あるいは接着加工後に絶縁フィルムを剥離するときに静電気の発生を抑制することができる。これにより,静電気によって発生する弊害,例えば,銅箔シートに浮遊粉塵を吸着したり,静電気によるスパーク発生,銅箔シートを吸着することによる銅箔シートの変形等を有効に防止して,取り扱い性に優れた銅箔シート材料を提供することができる。」(段落【0016】)エ「銅箔シート11と密着配設される絶縁フィルム12は,銅箔シート11の保護を兼ねた電気絶縁性フィルムであり,例えばポリエステル(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN),ポリフェニレンサルファイド(PPS),ポリイミド(PI),フッ素樹脂(ETFE,PTFE)などの高分子材料を,厚さ25μm程度に成形加工したフィルム材が用いられる。なお,フィルム材には,ベースとなる高分子材料に適合した帯電防止剤を混練ないし塗工処理し,あるいは微細な凹凸を形成するマット処理を行うなどの帯電防止処理を予め行っておくことが好ましい。」(段落【0024】)(6)「絵付け成形品およびその製造方法」と称する発明に関する甲15公報の記載ア「【産業上の利用分野】本発明は,所望のテクスチャーを付与した絵付け成形品と,その製造方法に関する。」(段落【0001】)イ「【従来の技術】家具や家屋の内装材など,さまざまな分野で絵付け成形品が使用されている。この絵付け成形品とは,適宜の基材に化粧シートを積層一体化したものであって,その代表的な製造方法は真空プレス法である。 すなわち,ガス透過孔を有する基盤上に,表面に接着剤を塗布した基材を置き,化粧シートをその上に重ね,化粧シートを加熱軟化させながら真空吸引して,基材と同じ形状に変形させて接着する方法である。 しかしこれらの方法では,表面に望みどおりの凹凸面・・・を有する絵付け成形品を製造することができるとは限らなかった。それは,絵付け成形に使用する化粧シートの表面を所望の凹凸面・・・にしておいても,成形時の熱と圧力によって,凹凸が消失したり・・・するからである。」(段落【0002】,【0003】)ウ「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,表面を所望どおりの凹凸面にしたり・・・して任意のテクスチャーを成形品に与えることのできる絵付け成形品と,その製造方法を提供することにある。」(段落【0004】)エ「【課題を解決するための手段】本発明の絵付け成形品の製造方法は,真空プレス法による製造方法であって,成形装置に配置した基材上に,化粧シート,および賦型用シートを順に重ね,両シートを熱圧成形して基材と同じ形状に変形させて基材に密着させ,その後,賦型用シートを剥離することからなる。」(段落【0005】)オ「賦型用シートは,化粧シートに・・・凹凸面を与えるもの・・・で・・・よいが,成形時の熱および圧力に耐えてその・・・凹凸面を維持できるものであって,化粧シートから剥離しやすいものを使用する。たとえば,シリコンゴム,ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂,ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル,ポリメチルペンテン等のポリオレフィン,あるいはナイロンなどのシートである。 ポリ塩化ビニルのような比較的離型性の悪い樹脂も,化粧シ-トに接する面に離型層を形成すれば使用することができ,成形性が良好であるという利点を生かすことができる。離型層としては,シリコン樹脂,フッ素樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,エポキシ樹脂等を塗布して形成する。 凹凸面を賦型するときは,これらのシート上に硬化樹脂に対して凹凸を設けたものを適用すればよい。このようなシートは,出願人が先に提案したドラムプリンティング法とよばれる方法により得ることができる・・・。すなわち,ロール凹版の凹部に電離放射線硬化性樹脂を充填しておき,このロールにシートを押し当てるとともに電離放射線を照射して樹脂を硬化させ,硬化樹脂がシートと密着した後にシートをロールから剥がすことからなる方法である。 必要であれば,賦型用シートに,シリコン樹脂,フッ素樹脂,ワックスなどを適用して離型層を形成しておいてもよい。」(段落【0009】〜【0011】)カ「【作用】真空プレス法によって基材と化粧シートとを一体化する際に,化粧シートの上に賦型用シート・・・を重ねたことにより,所望の凹凸面・・・を有する絵付け成形品が実現する。」(段落【0013】)キ「【実施例】[実施例1]下記の材料を用意した:1)・・・化粧シート2)厚さ2.5mmのポリエチレンテレフタレートシート・・・に電離放射線硬化性インキで凹凸模様を盛り上げ印刷し,印刷層を硬化させた賦型用シート3)扉の形をした・・・基材・・・基材上に,ポリウレタン系エマルジョンの接着剤・・・をスプレーガンで塗布し,室温で1時間乾燥させた(乾燥時塗布量9g/?u)。 真空プレス成形機のテーブル上に,上記の基材,化粧シートおよび賦型用シートを配置した。 加熱温度90℃,シートにかかる圧力4.0kgf/c?u,加圧時間120秒の条件で真空プレス成形を行なった後に,賦型用シートを剥離した。得られた絵付け成形品は,深みのある意匠を有する扉であった。」(段落【0014】,【0015】)(7)「ポリプロピレン系樹脂フィルムおよびその製造方法」と称する発明に関する甲16公報の記載ア「【発明の属する技術分野】本発明は,充填包装が容易で,積載性に優れる包装袋を与える透明ないし半透明のポリプロピレン系樹脂フィルム,あるいは,印刷紙ラミネ-トフィルム,透明な樹脂製ブロ-瓶のインモ-ルドラベル等に適した,抗ブロッキング性に優れたポリプロピレン系樹脂フィルムおよびその製造方法に関する。」(段落【0001】)イ「【発明が解決しようとする課題】本発明は,充填性,口開き性,積載性に優れた袋を与えることができる,抗ブロッキング性,フィルムの給排紙性に優れ,高光沢に優れたポリプロピレン系樹脂フィルムの提供を目的とする。本発明はまた,かかる性能の優れたポリプロピレン系樹脂フィルムの製造の提供を目的とする。」(段落【0011】)ウ「【課題を解決するための手段】本発明の請求項1は,結晶性ポリプロピレン系樹脂を押出し成形して得られたフィルムであって,該フィルムは次ぎの物性を満足することを特徴とするポリプロピレン系樹脂フィルムを提供するものである。(。)A)フィルム表面同士の縦方向動摩擦係数(JISK-7125)が0.18〜0.50および縦方向静摩擦係数が0.18〜0.50で,フィルム裏面同士の縦方向動摩擦係数が1.0以上および縦方向静摩擦係数が1.0以上,B)フィルム表面とフィルム表面,フィルム裏面とフィルム裏面およびフィルム表面とフィルム裏面を重ね合わせて測定したブロッキングが,いずれも0g/10c?u,C)フィルム裏面の光沢度(JISZ-8741:60度測定)が100%以上。」(段落【0012】)エ「本発明の請求項2は,前記ポリプロピレン系樹脂フィルムは,更に次ぎの物性を満足することを特徴とする。 D)フィルムの表面粗さ(JISB-0601)は,D )算術平均粗さ(R )が,フィルム表面側で0.8〜1.5μm,フィルム裏面側で0.1 a03〜0.12μm,D )最大高さ(R )が,フィルム表面側で5.0〜8.0μm,フィルム裏面側で0.2〜2 y0.8μm,D )十点平均粗さ(R )が,フィルム表面側で3.0〜6.0μm,フィルム裏面側で0.3 z2〜0.5μm,E)フィルムの霞み度(ASTMD-1003)が5〜50%である。 上記D)の物性は,上記A)およびB)の物性を満足させる1条件である。また,動摩擦係数(JISK-7125)が1.0以上のフィルム裏面を袋形成時の外側とすることにより,高い光沢の袋が得られる。更に,動摩擦係数が0.18〜0.50であるフィルム表面側をラミネ-トされる金属板,印刷紙,石材,樹脂剛板等の被ラミネ-ト材側に当て,フィルムを加熱ロ-ルやプレス機でフィルムに圧力を掛けることにより,フィルム表面側が溶解し,マットが消え,フィルム素材の持つ透明性(霞み度が1〜5%)が呈示される。」(段落【0014】,【0015】)オ「フィルム製造中の回転しているマット調ゴムロ-ル4の温度は,10〜40℃の一定温度に保た(てら)れるよう,回転する冷却ロ-ル5(温度5〜15℃)をマット調ゴムロ-ル4の背面に押し当て,マット調ゴムロ-ル4を冷却する。」(段落【0033】)カ「ポリプロピレン系樹脂フィルムまたはポリプロピレン系樹脂積層フィルムは,図1に示すようにT-ダイ(共押出T-ダイ)1よりポリプロピレン系樹脂フィルム2を溶融押出し,このフィルムが溶融状態を保つうちに,前記鏡面またはセミマット調金属チルロ-ル3と,マット調ゴムロ-ル4との間に導き,挟圧しながら冷却し,これをガイドロ-ル6,7,7,8,8でコロナ放電処理器9,9に導き,片面ずつ表面を酸化処理することにより製造される。」(段落【0035】)キ「フィルムの製造:3層樹脂の組成(厚み比率は1:3:1):マット調ゴムロ-ル4面側:メルトフロ-レ-トが7.8g/10分,結晶化度94%のプロピレン単独重合体80重量部と,メルトフロ-レ-トが1.8g/10分,結晶化度78%のプロピレン/エチレン(3.8重量%)ランダム共重合体,20重量部の混合物中間層:メルトフロ-レ-トが1.8g/10分,結晶化度78%のプロピレン/エチレン(3.8重量%)ランダム共重合体100重量部に,アンチブロック剤を1.5ppm配合。 セミマット調金属チルロ-ル3側:メルトフロ-レ-トが7.8g/10分,結晶化度94%のプロピレン単独重合体80重量部と,メルトフロ-レ-トが1.8g/10分,結晶化度78%のプロピレン/エチレン(3.8重量%)ランダム共重合体,20重量部の混合物100重量部。 フィルムの製造:図1に示す製造装置を用い,上記3層樹脂の組成物を別々の押出機を用いて230℃で溶融混練し,これらを1台の共押出T-ダイ1に供給し,T-ダイ内で3層に積層し,ついで220℃でT-ダイよりシ-ト状に押し出し,これを前記セミマット調金属チルロ-ル3と,マット調ゴムロ-ル4との間に導き,挟圧(線圧約1.5kg/cm)しながら冷却し,これをガイドロ-ル6,7,7,8,8でコロナ放電処理器9,9に導き,片面ずつ表面を50w/?u・分のコロナ放電処理し,耳部を切り取った後,巻き取り機に巻き取り,厚み50μmのフィルムを得た。」(段落【0046】,【0047】)(8)「クリスタル調磨りガラス外観のアクリル系樹脂積層板」と称する発明に関する甲17公報の記載ア「【発明の属する技術分野】本発明はクリスタル調磨りガラス外観のアクリル系樹脂積層板に関する。」(段落【0001】)イ「【従来の技術】アクリル系樹脂は,透明性,表面硬度,成形加工性,耐候性等に優れ,照明器具カバー,テールランプなどの車輌外装品,レンズ,導光板,ビデオディスク,プロジェクションテレビ用スクリーンなどの光学用部品,自動販売機の前面板,屋外看板,店装ディスプレイ等の用途に広く使用されている。 この中で照明カバー分野では,多様化する照明に合わせ,装飾性を付与した種々の照明カバー用材料が求められ,クリスタルガラス調外観の材料が要望されている。シート表面に磨りガラス調風合いを付与する方法としては,押出シート生産時に,ポリシングロールにマットロールを用いシート表面に微細な凹凸を転写させる方法,また,炭酸カルシウム,タルク,マイカ等の無機粉末を配合して成形する方法などが一般的に開示されている。 しかしながら,マットロールの転写で得られたシートは熱成形を行うと凹凸面が消失し,その結果ガラス調の外観が失われる。また,上記のような添加物を用いる方法では,ガラス状態を形成するためには多量の添加剤を加える必要があり,全光線透過率の低下や透明感が損なわれ,尚かつ照明カバー用途で要望される透明感を備えたクリスタル調磨りガラスの風合を達成することは困難であった。」(段落【0002】〜【0004】)ウ「【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は,熱成形を行ってもシート表面のガラス調風合が損なわれず,更に添加物を多量に加えることによる欠点を防止するのは言うまでもなく,添加物を加えることによる全光線透過率の低下を極力押さえ,光拡散率のみを効果的にアップさせたクリスタルガラスの透明風合と磨りガラスの重厚な風合を兼ね備えたアクリル系樹脂積層物を提供することにある。」(段落【0005】)エ「本発明におけるクリスタル調磨りガラス風合とは,透明クリスタルガラスに艶消し仕上げを施した風合を意味し,全光線透過率が70%以上の高透過性とへーズ80%以上で且つ光拡散率が10%以上の特性を満足する風合いを指すものである。即ち,本願発明は,アクリル系樹脂層(イ)が基板層(ロ)の片面または両面に積層されている積層板であって,上記アクリル系樹脂層(イ)がアクリル系樹脂(A)99〜70重量%と該アクリル系樹脂との屈折率差の絶対値が0.02〜0.2でかつ平均粒子径が1〜100μmである球状微粒子(B)1〜30重量%とが配合されてなり,基板層(ロ)がアクリル系樹脂(C)99.995〜99重量%に該アクリル系樹脂との屈折率差の絶対値が0.02〜0.2でかつ平均粒子径が1〜100μmである球状微粒子(D)0.005〜1重量%とが配合されてからなることを特徴とするクリスタル調磨りガラス外観のアクリル系樹脂積層板,である。 本発明のクリスタル調磨りガラス外観のアクリル系樹脂積層板は,アクリル系樹脂層(イ)が基板層(ロ)の表面層に積層され,積層部の厚み及び/または基板部の厚みがコントロールされることにより得られる,任意の,好みの風合のクリスタル調磨りガラス板である。」(段落【0007】,【0008】)2取消事由1(相違点1及び4についての各判断の誤り)のうち,相違点1についての判断に係る部分について(1)本件発明及び引用発明におけるフィルム表面の特殊処理の目的(課題)の共通性についてア本件明細書には,次の各記載がある。 (ア)「【従来の技術】・・・。電子レンジでの調理では,金属などいわゆる導体性の容器,包装物を使用することができず,そのため,調理には容器の材質に制限がある。 特に,食品容器あるいは食品包装物として都合の良いアルミニウム製品・・・を使用できないので,これに代わる材料として樹脂製の容器を使用する場合が多い。このようなラミネートフィルムを成形して食品容器を製造しようとした場合,樹脂の表面に静電気が蓄積され易いため,樹脂どうしが接着して取り扱い上煩わしくなり作業性は良くない。しかも,複数枚のラミネートフィルムを重ねて金型に配置し,加熱しつつ(100〜200℃程度)プレス成形して製品を製造するようにすると,一度のプレス成形で多数のフィルム容器を製造できるものの,フィルムどうしが熱接着するため,成形後,個別に容器を取り出すべく剥がそうとしても,剥がし難くなり,作業性が著しく悪くなる。このことは,生産性の低下,使用上の不便さにつながるという問題がある。特に,同種のフィルムどうしを重ねて熱成形すると,熱接着し易い。 もっとも,重ねられた複数枚の樹脂フィルムを熱成形するに際して,剥がしやすくするため,表面にコロナ処理して熱成形する方法が考えられた・・・。」(段落【0002】〜【0004】)(イ)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,成形時の剥がし易さの点では未だ十分でなく,しかも,コロナ放電処理設備を要することから設備コストが高くなり,加えて処理工程のために工程数が増えることにもなり,結果的に生産コストの上昇につながり,好ましくない。」(段落【0005】)(ウ)「本発明の目的は,上記従来技術の有する問題点に鑑みて,樹脂製フィルムに静電気を蓄積し難くし,樹脂製フィルムどうしを接着し難くして取り扱い易くでき,それでいて積層して熱成形するに際しても,樹脂製フィルムどうしが熱接着し難くできるフィルム製容器の製造方法を提供することにある。」(段落【0007】)(エ)「【課題を解決するための手段】上記目的は各請求項記載の発明により達成される。・・・。 この構成によれば,少なくとも一方の表面がマット加工された樹脂製フィルムは表面に静電気が蓄積され難く,従って,取り扱い上,樹脂性フィルムどうしが接着してくっつくといった煩雑さを低減でき,しかも,積層して熱成形しても接着し難いため,作業性は極めて高く,従来技術に比べて顕著に生産性を高めることができる。・・・。 ・・・しかも,異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの熱接着性は極めて乏しいため,互いに透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせてプレス成形加工(金型を予め130〜170℃に加熱)した場合,成形されたラミネートフィルム成形体である容器は互いに接着性を有しておらず,成形された容器を金型から取り出した後も,個別の容器を剥がして分離することが容易となり,作業性に優れ,生産性高く容器を製造することができるので,生産コストを低減できる。」(段落【0008】,【0009】)イ上記アの各記載によれば,本件特許出願当時,樹脂製フィルムにおいては,樹脂の表面に静電気が蓄積されやすいため,樹脂同士が接着して取扱いが煩わしくなること,複数枚の樹脂製フィルムを重ねて金型に配置し,熱プレス成形によりフィルム製容器を製造する場合,フィルム同士が熱接着するため,成形後,個別に容器を取り出す際に,各容器を剥がして分離することが困難となること,といった問題点があったところ,後者の問題点を解決するためのフィルム表面のコロナ処理についても,成型時の剥がしやすさがいまだ十分な域にまで改善されなかったなどの問題があったことから,本件発明は,上記各問題点,とりわけ,後者の問題点(以下「熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題」という。)を解決するため,相違点1に係る構成(2枚以上のOPPフィルムを積層したラミネートフィルムにおいて,そのうち1枚のOPPフィルムの少なくとも一方の表面にマット加工を施すこと)を採用したものといえる。 ウ他方,審決が認定した引用発明(原告らも,特段,その認定を争うものではない。)については,引用例記載のとおり,多数枚の樹脂製フィルムを重ねて金型に配置し,熱プレス成形によりフィルム製容器を製造するに当たり,実施態様例4において,積層された樹脂製フィルムの両面外側に添えられた紙質材の枚数を減らしたことに起因するものではあるものの,「OPPフィルムの分離性に少し難点を感じたが,これは合成樹脂フィルムの片面でよいから,ワックス系樹脂剤とか・・・を塗布したものの活用が無難である事が示された。」というのであるから,熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題が生じたということができるところ,これを解決するため,実施態様例5においては,片面に離型性ワックスコートを施したOPPフィルムを使用し,紙質材とOPPフィルムとの間にアルミニウム箔硬質50μm厚さ1枚を挿入したたところ,「結果は非常に良好で全て申し分なかった。」というのである。 そうすると,引用発明も,熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を解決するため,相違点1に係る構成(2枚以上のOPPフィルムを積層したラミネートフィルムにおいて,そのうち1枚のOPPフィルムの少なくとも一方の表面に離型性ワックスをコートする加工を施すこと)を採用したものということができる。 エしたがって,「引用発明の『離型性ワックスをコート』することの目的は,・・・本件明細書・・・に記載の『フィルムどうしが熱接着するため,成形後,個別に容器を取り出すべく剥がそうとしても,剥がし難くなり,作業性が著しく悪くなる。』との従来からの課題と基本的に共通する。」との審決の判断に誤りはないというべきである。 (2)本件特許出願当時におけるマット加工技術の状況についてアマット加工技術は,被加工面における摩擦係数の低減及び静電気の蓄積の防止,被加工面のつや消し等の目的で,当該被加工面に微細な凹凸を形成する技術である(当事者間に争いがない。)。 そして,周知例1ないし4の各記載によれば,上記マット加工技術は,本件特許出願当時,当業者にとって周知の技術であったものと認めることができる。 イ他方,甲15公報には,「絵付け成形に使用する化粧シートの表面を所望の凹凸面・・・にしておいても,成形時の熱と圧力によって,凹凸が消失したり・・・する」との,甲16公報には,「加熱ロールやプレス機でフィルムに圧力を掛けることにより,フィルム表面側が溶解し,マットが消え(る)」との,甲17公報には,「マットロールの転写で得られたシートは熱成形を行うと凹凸面が消失(する)」との各記載があるのであるから,周知例1に「本発明の加熱調理用食品容器は,上記した食品容器材料を公知の成形法,例えば加熱圧縮法により所望形状に成形してなるものである」,「この食品容器材料を用いて加熱圧縮法により成形し,・・・カップ状の加熱調理用食品容器・・・を得た」との各記載があることを考慮してもなお,本件特許出願当時の当業者において,少なくとも,マット加工面は,熱と圧力が同時に加わることによってマット加工が消失する可能性が高いものと考えられていたものと認めることができ,他にこの認定を左右するに足りる証拠はない。 ウ被告は,「原告らは,甲15ないし甲17公報を引用し,『マット加工面を有するフィルムを積層した積層物に対し,当該フィルムの熱変形温度以上の温度で熱プレス成形を行えば,熱プレス成形によるアイロン効果によりマット加工面が消失し,その効果が失われる』と主張するが,当該主張は,一般論であり,具体性に欠けるものである。」旨主張するところ(取消事由1に対する反論(4)イ),甲15ないし甲17公報の上記記載内容に照らせば,これを一般論というか否かはさておき,本件特許出願当時の当業者において,少なくとも,マット加工面に熱と圧力を同時に加えることによってマット加工が消失する可能性が高く,マット加工をした技術的意味が没却されると考えられていたものと認められるとの上記結論を左右するものではない。 (3)引用発明の離型性ワックスコート加工をマット加工に置換することの容易想到性についてア引用例は,前記(1)のとおり,熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を課題として開示するものといえるが,これを解決するための手段としてのマット加工技術を開示し,又は示唆するものではない。 イ周知例2及び3には,マット加工が施された樹脂膜又はプラスチックシートが,熱と圧力をかけて容器等に成形されるとの記載も示唆もないところ,上記(2)イのとおり,本件特許出願当時の当業者において,マット加工面に熱と圧力を同時に加えると上記のようにマット加工の技術的意味が没却されると考えられていたことに照らすと,熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を解決するため,引用発明に,周知例2又は3に記載されたマット加工技術を適用することについては,その動機付けがないばかりか,その適用を阻害する要因が存在したものというべきである。 ウまた,周知例4は,本件発明や引用発明が属する技術分野とは異なり,基板の製造方法等の技術分野におけるマット加工技術を開示するものであるほか,板状のコア部材の上面にプリプレグシートを挟んで銅箔シートを重ねた上,その上面に金属板を重ね,このように積層された積層部材を積層方向に圧縮・加熱することにより,銅箔シートをコア部材に接着させるという技術において,銅箔シートの一方の面に,あらかじめ帯電防止処理(マット加工処理等)が施された絶縁フィルムを配設しておくことにより,ロール状に巻き取られた銅箔シートを繰り出すときや,接着加工後に絶縁フィルムを剥離するときの静電気の発生を抑制するという技術を開示するものであって,複数枚の樹脂製ラミネートフィルムを重ねて金型に配置し,熱プレス成形によりフィルム製容器を製造する場合に生ずる熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題を開示し,又は示唆するものではない。したがって,上記熱接着の問題を解決するため,引用発明に,周知例4に記載されたマット加工技術を適用することについても,その動機付けがないというべきである。 エ他方,周知例1は,本件発明や引用発明と同種の技術分野におけるマット加工技術を開示するものであるほか,同周知例には,「本発明の加熱調理用食品容器は,上記した食品容器材料を公知の成形法,例えば加熱圧縮法により所望形状に成形してなるものである」,「この食品容器材料を用いて加熱圧縮法により成形し,・・・カップ状の加熱調理用食品容器・・・を得た」との各記載があるところである。 しかしながら,周知例1に記載された食品容器材料は,紙である基材の上に,ポリプロピレンよりも融点が高いポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンテレフタレート,ポリメチルペンテン等の耐熱性樹脂層を有するものであって,ポリプロピレン樹脂製フィルムのみから成る本件発明及び引用発明のラミネートフィルムとはその材質を異にするものであるほか,同周知例には,加熱圧縮法において用いられる加熱温度についての具体的な記載はみられないところ,紙である基材は,復元性の高い樹脂製フィルムとは異なり,折り込みのような機械的な作用のみでも成形が可能であることからすると,その加熱温度が,上記ポリブチレンテレフタレート等の耐熱性樹脂の成形温度(軟化温度)よりも相当低いことも想定され,また,食品容器材料から容器を形成する際の方法についても,複数枚の材料を積層して加熱圧縮するとの方法が示されているものではないから,結局,周知例1が,複数枚の樹脂製ラミネートフィルムを重ねて金型に配置し,熱プレス成形によりフィルム製容器を製造する場合に生ずる熱プレス成形によるフィルム同士の熱接着の問題の解決方法を開示し,又は示唆するものということはできず,したがって,当該問題を解決するため,引用発明に,周知例1に記載されたマット加工技術を適用することについても,その動機付けがないといわざるを得ない。 オその他,引用発明の離型性ワックスコート加工をマット加工に置換することが,本件特許出願当時の当業者において容易になし得たものと認めるに足りる証拠はない。 カ以上からすると,「引用発明の『離型性ワックスをコート』するという加工を上記周知の容器表面に対するマット加工で置き換えることにより相違点1に係る本件発明の発明特定事項とすることは,当業者において容易になし得たことといえる。」との審決の判断は,本件発明及び引用発明の上記具体的課題との関係における周知例1ないし4記載のマット加工の技術的意義を正解せずにされたものであり,誤りであるというほかない。 キ被告は,「原告らが主張する本件発明の課題が自明のものであること,マット加工技術及びその特長が周知の事項であることからすると,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することが容易であるとした審決の判断に誤りはない。」と主張するが,上記説示したところに照らせば,これを採用することはできない。 クまた,被告は,「本件明細書におけるマット加工技術についての記載は,一般的なものであり,具体的内容に欠けるから,本件発明は,一般的にマット加工を施した材料を単に選択したという程度の内容のものであって,引用発明の離型性ワックスコートをマット加工に置換することは,当業者にとって何らの困難も伴わないものである。」旨主張する。 そこで,本件明細書を検討すると,本件明細書には,「この構成によれば,少なくとも一方の表面がマット加工された樹脂製フィルムは表面に静電気が蓄積され難く,従って,取り扱い上,樹脂製フィルムどうしが接着してくっつくといった煩雑さを低減でき,しかも,積層して熱成形しても接着し難いため,作業性は極めて高く,従来技術に比べて顕著に生産性を高めることができる。更に,樹脂がマット加工されていることから,容器に成形した場合に,光の反射が抑制され落ち着いた高級感をかもしだすと共に,厚みを厚くするに伴いパール光沢を呈するようになり,商品価値(の)高いフィルム製容器を製造することができる。のみならず,製造されたフィルム製容器の印刷面がラミネートされたフィルム間に位置するため,容器に食品を収容した場合であっても,印刷面が直接食品と接触することがなく,食品衛生上なんら支障が生じないものであり,印刷による容器の美観性を高めて,商品価値を一層高めた容器とすることができる。そして,従来技術のように,表面にコロナ放電処理を行う必要もない。印刷には,その方法に限定されるものではなく,単なる着色,2色以上の模様,各種図形など,樹脂製フィルムの地色とは異なる外観となるようにする方法が含まれる。しかも,異種フィルムである透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしの熱接着性は極めて乏しいため,互いに透明な二軸延伸ポリプロピレンフィルムとマット加工された二軸延伸ポリプロピレンフィルムどうしが対向するようにマット加工された面を挟んで重ね合わせてプレス成形加工(金型を予め130〜170℃に加熱)した場合,成形されたラミネートフィルム成形体である容器は互いに接着性を有しておらず,成形された容器を金型から取り出した後も,個別の容器を剥がして分離することが容易となり,作業性に優れ,生産性高く容器を製造することができるので,生産コストを低減できる。」(段落【0009】),「マット加工は,特に限定されるものではなく,種々の加工方法を採用できる。要は,樹脂製フィルムの表面に微小な凹凸が形成されて,表面に静電気が蓄積され難くなっていればよい。」(段落【0012】)及び「図1に示す二軸延伸ポリプロピレンフィルム2の片面2aはマット加工がされており,多数の微小な凹凸が形成されて,静電気を蓄積し難くなっている。このマット加工は,特に限定されるものはないが,(1)砂を吹き付けるサンドブラスト法,(2)薬剤を用いてエッチングするエッチングマット法,(3)表面にマット剤をコーティングする表面コーティング法,(4)エンボスロールや梨地ドラムを用いて押圧し表面をマット化する方法などを採用できる。」(段落【0026】)との各記載があり,本件発明における熱接着の課題とその解決手段であるマット加工技術についての説明がされているといえる。 そして,上記(2)アにおいて説示したとおり,本件特許出願当時,マット加工技術は,当業者にとって周知の技術であったのであるから,その技術内容,加工条件等につき,特許請求の範囲や発明の詳細な説明において詳細な特定がないからといって,本件発明がマット加工技術という一般的な技術を単に選択した程度のものであるということはできず,したがって,引用発明の離型性ワックスコート加工をマット加工に置換することが容易であるとした審決の判断が誤りであるとの上記結論を左右するものではない。 そうすると,被告の上記主張を採用することはできない。 (4)以上のとおり,相違点1についての審決の判断は誤りであるから,取消事由1(相違点1及び4についての各判断の誤り)のうち,相違点1についての判断に係る部分は理由がある。 3結論よって,その余の審決取消事由について判断するまでもなく,原告らの請求はいずれも理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中信義 |
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裁判官 | 古閑裕二 |
裁判官 | 浅井憲 |