運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 不服2005-10183
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17行ケ10490審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ12207特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成14行ケ426特許取消決定取消請求事件 判例 特許
平成19ワ8064特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成19ネ10005損害賠償等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の認定 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  翻訳文 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  国際出願 /  国際公開 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 19年 (行ケ) 10169号 審決取消請求事件
原告ザプロクターアンドギャンブルカンパニー
訴訟代理人弁護士吉武賢次,宮嶋学,高田泰彦
訴訟代理人弁理士永井浩之,岡田淳平,勝沼宏仁
被告特許庁長官肥塚雅博
指定代理人関信之,石原正博,高木彰,森山啓
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/12/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた裁判「特許庁が不服2005-10183号事件について平成18年12月27日にした審決を取り消す。」との判決第2事案の概要本件は,原告が,下記1(1)の特許出願(以下「本件特許出願」という。)についてされた拒絶査定に対して,同1(2)のとおり不服審判請求をしたところ,特許庁は上記審判請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許出願出願人:原告発明の名称:「個々に包装される使い捨て吸収性物品用の再固定可能な接着ファスナシステム」国際出願日:平成5年8月3日(優先権主張日:1992(平成4)年8月21日,米国)出願番号:平成6年特許願第506311号(2)拒絶査定及び不服審判請求等の手続拒絶査定日:平成17年2月22日審判請求日:平成17年5月30日(不服2005-10183号)手続補正日:平成17年6月29日(以下「本件補正」という。)(甲6の3)審決日:平成18年12月27日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」(出訴期間90日附加)審決謄本送達日:平成19年1月12日2本件特許出願に係る発明の要旨(甲6の1〜3)本件特許出願に係る発明の要旨は,本件補正後の明細書(以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認められるところ,請求項1の記載は次のとおりである(以下,請求項1に記載された発明を「本願発明1」という。なお,請求項の数は10個である。)。
「身体に面する側と,下着に面する側と,二つの長さ方向マージンと二つの側方マージンとを有する吸収性物品と,包装本体と包装フラップと有する前記吸収性物品を収容する包装と,前記包装フラップを前記包装本体に固定する接着テープファスナシステムであって,(a)前記包装フラップに固定された第1部分と前記包装フラップを前記包装本体に剥離可能に固定する第2部分とを有し,前記第2部分が接着剤を塗布された固定表面を有しているテープタブと,(b)前記テープタブの前記固定表面が接着されるランディング面と,平均厚さが0.020ミリメートル乃至0.036ミリメートルのフィルムとを有する前記包装本体の部分と,からなる接着テープファスナシステムと,を有し,前記テープファスナシステムは,前記テープタブの10ミリメートル幅の標本片が前記ランディング面に接着され前記標本片と前記ランディング面が毎分508ミリメートルの速さで反対方向に引っ張られたときに900グラム以上の動的剪断強度を有し,これにより再固定可能な接着ファスナシステムを構成している,個々に包装された吸収性物品。」3審決の理由の要旨審決は,本願発明1の要旨を上記2のとおり認定した上,本願発明1は,本件特許出願の優先日前に頒布された国際公開91/18574号パンフレット(甲第1号証。以下「引用文献1」という。),特開平3-176376号公報(甲第2号証。以下「引用文献2」という。)及び実願昭61-25218号(実開昭62-137019号)のマイクロフィルム(甲第3号証。以下「引用文献3」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと判断した。審決の理由は以下のとおりである。
(1)引用文献について・・・当審が平成18年4月20日付で通知した拒絶の理由に引用され,本願優先日前に頒布された国際公開91/18574号パンフレット(引用文献1)には,その翻訳文である特表平5-507427号公報の記載を参酌すると,図面とともに,以下の旨が記載されている。
a第1頁第5〜7行に,「発明の分野本発明は衛生ナプキン,さらに詳しくは個々に包装される衛生ナプキンに関するものである。」b第2頁第8〜10行に,「使用ずみ衛生ナプキンを包装部材の中に包囲して廃棄することが公知である。」c第2頁第24〜26行に,「本発明の目的は,使用ずみ製品の廃棄に使用される包装部材を有する個々に包装される衛生ナプキンを提供するにある。」d第4頁第24〜28行に,「衛生ナプキン20は,液体透過性のトップシート22と,液体不透過性バックシート24と,トップシートとバックシートとの間の吸収性コア26とによって特徴付けられている。衛生ナプキン20の周辺部は,2つの長さ方向の側部マージン30と2つの横方向の側部マージン32とによって画成されている。」と,e第12頁第34〜37行に,「剥離可能な包装材34は,クラフト紙,カレンダー紙,または本発明の精神及び範囲から逸脱しない業界公知の材料で製造することができる。」f第13頁第35行〜第14頁第11行に,「第3図に図示するように,衛生ナプキン20及び剥離可能な包装材34は2本の相互に隔離された横方向折り畳み線に沿って折り畳まれる。この場合「相互に隔離された横方向折り畳み線」とは,長さ方向に偏倚し,横方向にほぼ平行な線であり,それに沿って,衛生ナプキン20と剥離可能な包装材34が共に折り畳まれる。衛生ナプキン20をこの折り畳み線に沿って折り畳むと,製品は3つの3等分部分,すなわち中央部分51及び2つの外側部分52を形成する。外側部分52はさらに内部外側部分52aと外部外側部分52bとなる。」g第14頁第20〜30行に,「第4図の折り畳み構造では,…(中略)…剥離可能な包装材34は接着剤40aが露出しないように3つの部分51,52の全てを覆うのに十分な長さ方向の寸法を有する。」h第14頁第31行〜第15頁第24行に,「第1図を参照すると,剥離可能な包装材34は,さらに衛生ナプキン20及び剥離可能な包装材34を前記の折り畳み状態に保持するための手段を含む。この手段は,商標Vercroで市販されているようなフック/ループ型機械ファスナ,先行技術に見られる接着剤タブ,または好ましくは剥離可能な包装材34の長さ方向縁に並置された接着剤54とすることができる。…(中略)…1つの実施態様において,接着剤54は,外部外側部分52a(「52b」の誤記と解される)の側縁部を超えて長さ方向にタブ55の上に配置することができる。この側縁部を超えて長さ方向に延在していないタブ55の部分の接着剤54は内部外側部材52b(「外部外側部材」の誤記と解される)の露出面に固着される。接着剤は連続ストリップ状,断続ストリップ状あるいは単一のスポット状に付けることができる。接着剤54がどのような形で付けられるかは重要ではなく,着用者が最初に使用するために衛生ナプキン20と剥離可能な包装材34とを開こうとするまでこの折り畳み状態を保持するだけの引っ張り抵抗力を有すればよい。」同じく引用され,本願優先日前に頒布された,特開平3-176376号公報(引用文献2)には,「生理用ナプキンの包装方法」として,包材とナプキンを折り畳んで包装し,折り畳まれた包材の最上位の端部とそれに重なり合う包材の表面を剥離可能なタックシールで固定する方法において,包材としてフィルムが好ましく,基材フィルムの厚さは15〜100μ,好ましくは20〜50μであることが示されている。
また,同じく引用され,本願優先日前に頒布された,実願昭61-25218号(実開昭62-137019号)のマイクロフィルム(引用文献3)には,生理用ナプキンの個装体を構成する包装体において,蓋部を袋部の外面に止着するシールとして複数回の粘着,剥離が可能なものを用い,ナプキンを取り出し後の袋体中に,それまで着用していた生理ナプキンを収納し,袋体を完全に再封鎖することが記載されている。
(2)対比・判断について本願発明1と引用文献1に記載された発明とを対比する。
引用文献1に記載された発明に係る「衛生ナプキン」は,本願発明1の「吸収性物品」に相当し,「身体に面する側と,下着に面する側と,二つの長さ方向マージンと二つの側方マージンとを有する」ものである。
引用文献1に記載された「剥離可能な包装材34」は,本願発明の「包装」に相当し,本願発明の「包装」を構成する「包装本体」及び「包装フラップ」について本願明細書には明確な定義はないが,本願明細書第40頁第15〜18行の「(第1フラップは,個々の包装を閉鎖するのに使用される外部外側部分52bによって形成された上述の包装用フラップである)」の記載及び請求項1の記載から「包装」の,タブ55を固定している外部外側部分52bにおける部分が「包装フラップ」であり,その余の部分が「包装本体」であると推認でき,そうすると,引用文献1に記載された,折り畳み構造の外部外側部分52bを含む3つの部分の全てを覆う「剥離可能な包装材34」(上記摘示記載f及びg参照)も,本願発明1でいう「包装本体」及び「包装フラップ」を有するものということができる。
また,引用文献1に記載されたタブ55は,衛生ナプキン20と剥離可能な包装材を着用者が最初に開こうとするまで折り畳み状態に保持するものであって,本願発明1の「接着テープファスナシステム」を構成するものであり,上記摘示記載hに不明確な部分があるものの,図面の記載等を参酌すれば,折り畳み構造の外部外側部分52b(本願発明1でいう「包装フラップ」に相当)に固着される部分(第1部分)と,そこから延在して,包装材の他の部分である内部外側部分52aの面,すなわちランディング面に固定するように表面に接着剤を設けられた部分(第2部分)を有しており,後者は,使用時に剥離可能であることは明らかである。
してみれば,本願発明1と引用文献1に記載された発明とは,「身体に面する側と,下着に面する側と,二つの長さ方向マージンと二つの側方マージンとを有する吸収性物品と,包装本体と包装フラップと有する前記吸収性物品を収容する包装と,前記包装フラップを前記包装本体に固定する接着テープファスナシステムであって,前記包装フラップに固定された第1部分と前記包装フラップを前記包装本体に剥離可能に固定する第2部分とを有し,前記第2部分が接着剤を塗布された固定表面を有しているテープタブと前記テープタブの前記固定表面が接着されるランディング面とを有する前記包装本体の部分とからなる接着テープファスナシステムとを有する個々に包装された吸収性物品。」である点で一致しており,以下の点で相違している。
[相違点1]本願発明1において,包装本体が「平均厚さが0.020ミリメートル乃至0.036ミリメートルのフィルム」を有するとしているのに対し,引用文献1において,剥離可能な包装材34は,業界公知の材料で製造することができるとされているものの,上記のような特定がなされていない点。
[相違点2]本願発明1において,テープファスナシステムは,「テープタブの10ミリメートル幅の標本片が前記ランディング面に接着され前記標本片と前記ランディング面が毎分508ミリメートルの速さで反対方向に引っ張られたときに900グラム以上の動的剪断強度を有し,これにより再固定可能な接着ファスナシステムを構成している」とされているのに対し,引用文献1には,衛生ナプキン20及び剥離可能な包装材34を前記の折り畳み状態に保持するための手段として公知の接着剤タブを用いた「テープファスナシステム」について,「着用者が最初に使用するために衛生ナプキン20と剥離可能な包装材34とを開こうとするまでこの折り畳み状態を保持するだけの引っ張り抵抗力を有」することは示されているが,本願発明1のような「動的剪断強度」の特定はなされていない点そして,引用文献1のFIG1〜4の記載も,上記相違点を除いては,本願発明の実施例を示す図面として添付された図面のFig1〜4と同様の開示である。
以下,上記の相違点について検討する。
[相違点1]について,生理ナプキンのような吸収性物品を個々に包装する包装材として,合成樹脂等からなるフィルムを用いることは本願出願前周知慣用の技術的事項であり,フィルムの厚さも,素材や包装対象物に応じて当業者が適宜選択決定しうる事項と認められるところ,上記引用文献2には,生理用ナプキンの包材として,厚さが20〜50μ(0.02ミリメートル乃至0.05ミリメートル)のフィルムの使用が好ましいことが記載されており,引用文献1において「業界公知の材料」と記載された包装材として,「平均厚さが0.020ミリメートル乃至0.036ミリメートルのフィルム」を採用することは当業者が適宜なし得る設計的事項である。
〔相違点2]について本願明細書の記載によれば,本願発明1の上記[相違点2]に係る特定事項は,使用ずみの製品の処理に使用することができる包装を備えた,個々に包装された衛生ナプキンを提供するように,再固定可能な包装用ファスナシステムを提供するためのものと認められる。
衛生ナプキンをプラスチックフィルム等で個々に包装し,使用時に,その前に使用した衛生ナプキンを包装部材の中に包囲して廃棄すること,そのために,接着剤を用いた包装体の封止手段を剥離及び再固定可能とすることは本願出願前周知の事項である(必要なら,実願昭62-59449号(実開昭63-166221号)のマイクロフィルム,実願昭63-29457号(実開平1-133915号)のマイクロフィルム等参照)ところ,上記引用文献3には,生理用ナプキンの個装体を構成する包装体において,蓋部を袋部の外面に止着するシールとして複数回の粘着,剥離が可能なものを用い,ナプキンを取り出し後の袋体中に,それまで着用していた生理ナプキンを収納し,袋体を完全に再封鎖することが記載されており,引用文献3に記載されたシールは,本願発明1の「包装フラップ」に相当する蓋部と,本願発明1の「包装本体」に相当する袋体のランディング面とに,複数回の粘着,剥離可能に固定されるものであり,「再固定可能な接着ファスナシステム」を構成するタブということができ,引用文献1に記載された発明も,「使用ずみ製品の廃棄に使用される包装部材を有する個々に包装される衛生ナプキンを提供する」ことを目的とするものであり(上記摘示記載c参照),タブ55の接着剤54は,少なくとも使用前は折り畳み状態を保持するだけの引っ張り抵抗力を有するのである(上記摘示記載h参照)から,該タブを用いた「テープファスナシステム」を,引用文献3に示されたように完全な再封鎖の可能な「再固定可能な接着ファスナシステム」とすることは,当業者が適宜選択しえた設計変更と云うべき事項である。
そして引用文献3に示される使用ずみのナプキンを収容した袋体を「完全に再封鎖」するものであることは,その粘着力は,自然に剥離することのないように,粘着面に平行な方向にも所定値以上の接着強度を具備するものであることは明らかであり,再封鎖状態を保持するだけの所定の引っ張り抵抗力を有するものとすることは,当業者がその設計にあたり,当然に考慮すべき事項である。
さらに,本願発明1が「テープタブの10ミリメートル幅の標本片が前記ランディング面に接着され前記標本片と前記ランディング面が毎分508ミリメートルの速さで反対方向に引っ張られたときに900グラム以上の動的剪断強度」を有することについて,その数値を「900グラム以上」としたものが,引用文献3の「完全に再封鎖」なるものを排除して構成を特定するものかを検討する。
当審で通知した,本願請求項1に規定するようなパラメータで示されるものとしたことに格別の技術的意義を認めない旨の拒絶理由に対し,請求人は,同パラメータが引用文献3のものとは別異の値となることを何等示すことなく,引用文献3のものが,本願発明1と同様の方法で「動的剪断強度」を測定することを開示したものではないことを主張している。たしかに,請求人が主張するとおり,引用文献3には,「動的剪断強度」を測定することは,開示されていないものの,測定方法が新規であることが,物品の構成として,新規な構成を特定するものと直ちにいうことはできず,その特定が従来のものとは,別異の値となることによって,はじめて物品の構成として新規な構成を特定すると云うべきところ,引用文献3のものは,それまで着用していた生理ナプキンを収納し,袋体を完全に再封鎖することは,その直接の記載がなくても,一定範囲の動的剪断強度が達成されていることは,明らかであり,本願発明1が「900グラム以上」とする数値に関して,上限が,剥離時にランディング面を構成する包装材を損傷したのでは発明本来の目的に反することから包装材の材質等から自ずと限定されることを勘案すると,引用文献3のものの「完全に再封鎖」も,上限に関しては,同様であり,その下限も所期の目的に応じた自明の範囲にあることは明らかであり,所期の目的を達成する以上の動的剪断強度であることは,その直接の記載に関わらず,明らかな事項である。
相違点2の数値限定は,引用文献3に記載される「完全な再封鎖」なる構成を排除するものとは認められない。
したがって,「900グラム以上」なる数値もまた,包装の対象である吸収性物品の種類,接着テープ及び接着剤の材質,接着長さなどに応じて,当業者が適宜決定しうる設計的事項である。
したがって,相違点2は,引用文献1,3に記載された発明および周知の技術に基づいて,当業者が容易になしえたものと認める。
そして,本願発明1が奏する効果は,各引用文献に記載される発明及び周知の技術から予測される以上の格別のものとは認められない。
(3)まとめ以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,本願出願前周知の技術的事項を勘案すれば,刊行物1〜3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
第3当事者の主張の要点原告は,審決による本願発明1と引用文献1記載の発明との一致点及び相違点の認定並びに相違点1及び2についての個別の判断の当否を争うものではなく,審決が,本願発明の相違点1及び2に係る構成の組合せの想到困難性を誤認し,ひいては,相違点についての判断を誤ったと主張するものである。
1審決取消事由の要点(相違点についての判断の誤り)(1)審決は,相違点1について,生理用ナプキンの包材として厚さが20〜50ミクロンのフィルムの使用が好ましいことが引用文献2に記載されていることを挙げ,引用文献1に記載された生理用ナプキンの包装材として,本願発明1のように「平均厚さが0.020ミリメートル乃至0.036ミリメートルのフィルム」を採用することは,当業者が適宜なし得る設計的事項であると判断した。
さらに,相違点2について,衛生ナプキンをプラスチックフィルム等で個々に包装し,使用済み時に包装部材の中に包囲して廃棄することは,本件特許出願前に周知の事項であるとした上で,複数回の粘着・剥離が可能で完全な再封鎖が可能な生理用ナプキンの包装部材のシールが,引用文献3に記載されていることを挙げ,引用文献1の「テープファスナシステム」を引用文献3に記載されたような「複数回の粘着・剥離が可能で完全な再封鎖が可能なもの」にすることは,当業者の設計的事項であると判断した。
(2)本願発明は,生理用ナプキンの包装部材の薄いフィルムに対して,複数回粘着と剥離を繰り返しても,該薄いフィルムを引き裂くことなしに,しっかり保持しかつ容易に開放することができる接着ファスナシステムを提供することを目的としており,本願発明1の目的は,被粘着側のフィルムが薄いことと,この薄いフィルムに対して引き裂くことなしに複数回粘着と剥離を繰り返すことができるということの双方を同時に満たすところにある。
このような目的を達成するために,本願発明1は,包装本体の厚さとテープファスナの「動的剪断強度」なる物性値の双方を構成として規定しているのであり,本願発明1の特徴は,平均厚さが0.020ミリメートル乃至0.036ミリメートルの薄いフィルムに対して,複数回粘着と剥離を繰り返しても,該フィルムを引き裂くことなしに再固定可能な接着ファスナシステムを提供しているところにある。
(3)従来から,薄いフィルムの使い捨て吸収性物品で一度開封したら廃棄処分するものは,接着ファスナシステムは開封されるまでしっかり接着されていればよく,開封時の接着ファスナシステムの接着部分の破損は,一般的には問題とされておらず,逆に,再固着を考慮する場合は,テープファスナの粘着と剥離に耐えうるように被粘着部分は十分に厚さがあるものにしていた。
したがって,本願発明の出願前においては,当業者は,個別包装の使い捨て吸収物品の接着ファスナシステムにおいて,被粘着側のフィルムを薄いものにして,かつ,これを損傷させずに再利用できるようにするという課題認識を有していなかったというべきである。
そして,引用文献2には,衛生ナプキンと剥離可能な包装紙を有し,該剥離可能な包装紙が衛生ナプキンのバックシート側から長さ方向縁部を回ってトップシート側の一部を覆い,さらに前記衛生ナプキンと前記包装紙が側方方向に伸びる折り曲げ線に沿って3つに折られ,包装フラップに一端部が固定されたテープタブがその他端部を包装本体に接着されているものが記載され,基材が20〜50ミクロンであることが記載されているが,引用文献2の記載は,複数回粘着・剥離することを念頭においておらず,薄い基材に対して引き裂くことなしに粘着と剥離をすることは,引用文献2には記載はおろか示唆すらされていない。
また,引用文献3には,衛生用品の包装体が記載され,シール22が複数回粘着と剥離をすることができることが記載されているが,引用文献3の包装体は,複数回の粘着と剥離に耐えるよう,適当な袋体の厚さを有しているものであり,複数回粘着と剥離をするテープファスナシステムに対して,必要に応じてランディング部の厚さを厚くするという従来の課題解決の方向を有しており,フィルムの厚さは薄くしつつ安全確実に粘着と剥離を行うことができるようにするという課題解決の方向を有する本願発明1とは,技術思想が異なる。
これらによれば,本件特許出願時において,本願発明のように,薄いフィルムからなる包装本体に対して,開封時に損傷させず,かつ,廃棄処分時に再利用することができるという効果は,当業者が予測し得なかったものである。
(4)審決は,相違点1,2について,引用文献2,3から個別に判断したために,進歩性の判断を誤ったものであり,この判断の誤りが結論に影響を与えることは明らかであるから,審決は取り消されるべきである。
2被告の反論原告の主張は,特許請求の範囲,明細書の記載に基づくものではなく,具体的根拠を欠くものであり,失当である。
(1)本願明細書の特許請求の範囲の請求項1の記載からみて,請求項1には,本願発明1の構成として,次の事項が特定されているにすぎず,包装本体が有するフィルムの平均厚さと接着テープファスナシステムの動的剪断強度との関連については,何ら特定されていない。
?@身体に面する側と,下着に面する側と,二つの長さ方向マージンと二つの側方マージンとを有している吸収性物品。
?A包装本体と包装フラップと有する吸収性物品を収容する包装。
?B次の(a)及び(b)からなる接着テープファスナシステム。
(a)包装フラップに固定された第1部分と包装フラップを包装本体に剥離可能に固定する第2部分とを有し,第2部分が接着剤を塗布された固定表面を有しているテープタブ。
(b)テープタブの固定表面が接着されるランディング面と,平均厚さが0.020ミリメートルないし0.036ミリメートルのフィルムとを有する包装本体の部分。
?C上記?Bの接着テープファスナシステムが,テープタブの10ミリメートル幅の標本片がランディング面に接着され,標本片とランディング面が毎分508ミリメートルの速さで反対方向に引っ張られたときに900グラム以上の動的剪断強度を有し,これにより再固定可能な接着ファスナシステムを構成していること。
(2)審決において,相違点1とされたのは,上記(1)?B(b)の 包装本体の部分が有するフィルムの平均厚さについてであり,相違点2とされたのは,上記(1)?Cの特定試験方法に基づく接着テープファスナシステムとしての動的剪断強度についてであるところ,上記(1)のとおり,請求項1には,相違点1に係るフィルムの平均厚さと相違点2に係る接着テープファスナシステムの動的剪断強度との関連については,何ら特定されていない。
また,本願明細書には,「引き裂き強度に対する補強がなされていない薄いポリプロピレンフィルム」の使用を前提にして,平均厚さが0.020ミリメートルないし0.036ミリメートルのフィルムを使用する記載,あるいは,テープファスナシステムとして求められる動的剪断強度に関する記載が個別にあるにすぎず,これらの記載が互いに関連していることを示す記載は存在しない。
したがって,審決が,相違点1,2について引用文献2,3から個別に判断した点に誤りはない。
(3)原告の主張は,相違点1及び相違点2が相互に関連することにより,薄いフィルム包装本体を引き裂くことなく,容易かつ安全に,粘着と剥離を繰り返すことができるという本願発明1特有の作用,効果を奏するものであるとも考えられるので,この点について反論する。
上記(1)のとおり,請求項1には,フィルムの平均厚さと接着テープファスナシステムの動的剪断強度との関連については何ら特定されておらず,また,上記(2)のとおり,本願明細書においても,これらの関連については,何ら記載されていないから,原告の主張は特許請求の範囲の記載又は明細書の記載に基づかない主張であり,失当である。
(4)なお,原告は,「引用文献3の包装体は,複数回の粘着と剥離に耐えるよう,適当な袋体の厚さを有しているものであり,技術思想としてとらえると,複数回粘着と剥離をするテープファスナシステムに対して,必要に応じてランディング部の厚さを厚くするという従来の課題解決の方向を有して」いると主張するが,引用文献3に記載された生理用ナプキンにおいて,ランディング部が一定範囲の動的剪断強度を達成する上で,当該動的剪断強度の下限を適宜定めることは,包装の対象である吸収性物品の種類,接着テープ及び接着剤の材質,接着長さなどに応じて,当業者が適宜決定し得る設計的事項であって,相違点2に係る動的剪断強度が,複数回の粘着と剥離に耐えるという所期の目的に応じて,適宜選定し得る範囲にあることは明らかである。
第4当裁判所の判断1原告は,本願発明1の目的について,「被粘着側のフィルムが薄いことと,この薄いフィルムに対して引き裂くことなしに複数回粘着と剥離を繰り返すことができるということの双方を同時に満たすところにある」とし,本願発明1は,このような目的を達成するために「包装本体の厚さとテープファスナの『動的剪断強度』なる物性値の双方を構成として規定している」ところ,審決は,相違点1,2について個別に判断したために進歩性の判断を誤ったと主張する。
原告の上記主張に理由があるというためには,本願明細書の特許請求の範囲の記載や発明の詳細な説明の記載から,審決が認定した相違点1,2に係る本願発明1の構成が互いに関連していることが裏付けられる必要があるほか,引用文献に記載された発明に基づいて,相違点1に係る構成と同2に係る構成を同時に採用することに阻害要因があるなど,本件特許出願当時の技術常識から,当業者が上記各相違点に係る構成を同時に採用することが容易であるということができない事情が認められる必要がある。
2上記1を踏まえて,以下において,本願明細書の記載を検討する。
本願明細書の特許請求の範囲の請求項1には,本願発明1に係る包装本体の部分が,「テープタブの固定表面が接着されるランディング面と,平均厚さが0.020ミリメートルないし0.036ミリメートルのフィルムとを有する」こと,及び「接着テープファスナシステムが,テープタブの10ミリメートル幅の標本片がランディング面に接着され,標本片とランディング面が毎分508ミリメートルの速さで反対方向に引っ張られたときに900グラム以上の動的剪断強度を有し,これにより再固定可能な接着ファスナシステムを構成している」ことが記載されている。
他方,本願明細書には,フィルム包装紙の厚さについて,「また,補強を必要としないフィルム包装紙は,約0.02?o(0.8mil)〜約0.036?o(1.4mil)の比較的薄い厚さ(平均呼称厚さ)を有する)」(8頁8〜11行。ただし,明細書中の記載箇所は,本件特許出願当初の明細書(甲第6号証の1)の記載箇所をもって特定する。以下,本願明細書について同じ),「補強を必要としないフィルム包装紙34は,材料コストを減少させるため,約0.020?o(0.8mil)〜約0.036?o(1.4mil),好適には約0.025?o(0.1mil)の比較的薄い計算厚を有する。」(37頁22〜25行)と記載されている。
また,動的剪断強度に関しては,「本発明のテープファスナシステムは,接合安定性を向上させるとともに,接着テープとランディング部材(フィルム包装紙)の性質を慎重に適合させ最適化することによって,引き裂くことなしに薄いポリエチレンフィルムから接着テープを取り外すのを一層容易にする。これらの性質は,テープ,バッキング材料およびフィルム包装紙の物理的性質を適合させることによって最適化され,接着ファスナシステムは,特別の補強材料または補強部分を必要とせずに,かつ,接合安全性を犠牲にすることなしに,所望の再固定可能性を提供することができる。処分のため衛生ナプキンを入れている包装が引張り力を受けるときに接着結合がどのように挙動するかについての試験,かつ,広範な設計,環境および消費者の変動を最も良くシミュレートする試験は,動的剪断試験である。・・・かくして,接着ファスナシステムが後述する試験状態の下で約900g/cm以上の動的剪断強度を有しなければならないことが分かった。」(6頁1〜21行),「接着ファスナシステムの改良された結合安定性および再固定可能性は,ランディング部材のを補強する必要なしに(これは,接着ファスナシステムのコストを減少させ環境に対する影響を改善する),かつ,最小の材料で(これは,コストを減少させ使いやすさ及び美感を改善する)達成される。」(8頁2〜7行),「衛生ナプキンの包装に使用される,本発明の接着ファスナシステムの好適な動的剪断強度は,約900g/cmよりも大きく,より好適には,1000g/cmよりも大きい。」(32頁2〜5行)と記載されている。
3特許請求の範囲の記載及び上記2の本願明細書の記載によると,請求項1には,フィルム包装紙の厚さと接着ファスナシステムの動的剪断強度について個別に記載されており,本願明細書には,その技術的意義に関して,フィルム包装紙は,他の補強する手段を要しなくとも破れることがないよう,また材料コストを減少させる観点から,厚さを約0.020?o(0.8mil)〜約0.036?o(1.4mil)にした比較的薄いものを採用することが記載されているものの,動的剪断強度との関連でその厚さを決定したかどうかや,動的剪断特性を約900g/cmよりも大きくした場合に,フィルム包装紙の厚さを変化させるべきかどうかについての明確な記載は見当たらないといわざるを得ない。
そうすると,本願明細書において,本願発明1のフィルム包装紙の厚さと接着ファスナシステムの動的剪断強度についての事項が,相互に技術的な関連性を有する事項として記載されているとまでいうことはできないから,審決が相違点1と同2を認定した上,個別に判断したことに誤りはないというべきである。
4原告は,上記主張に関連して,「本願発明の出願前では,当業者は,個別包装の使い捨て吸収用物品の接着ファスナシステムにおいて,被粘着側のフィルムを薄いものにして,かつ,これを損傷させずに再利用できるようにするという課題認識を有していなかった」ことを前提として,引用文献に記載された発明と本願発明1とは技術思想も異なり,本願発明1は当業者が予測し得ない効果を奏すると主張するので,この点についても検討する。
引用文献1に,「1つの実施態様において,接着剤54は,外側部材52aの側面縁から長手方に延在するタブ55の上に配置する事ができる。この側面縁から長手方に延在していないタブ部分の接着剤54は外側部材52bの露出面に固着される。接着剤54は連続ストリップ(図示されず)として,介在ストリップとして施用する事ができ,あるいは単一のスポットとする事ができる。接着剤54がどのような形で施用されるかは問題でなく,着用者が最初に使用するために衛生ナプキン20とリリース性ラッパ34とを開こうとするまでこの衛生ナプキンを折り畳み状態に保持するだけの引っ張り抵抗力を有すればよい。」(甲第1号証の訳文8頁左上欄第24行〜同頁右上欄第11行)と記載されているように,引用文献1に記載された発明は,本願発明1と同様に,「タブ55」を有しており,そのタブ55の接着剤54は,少なくとも使用前は折り畳み状態を保持するだけの引っ張り抵抗力を有することが記載されている。
また,引用文献3には,「本考案に係わる生理用ナプキン個装体は,第3図に示すような袋体2の袋部20内に,第4図に示すように三つ折りされたナプキン1を収納し,袋部20の開口頂部を蓋部21で被い,かつ蓋部21の先端部をシール22により袋部20の外面に止着して形成される。シール22としては,複数回の粘着,剥離が可能なものを用いる。・・・また,シール22は複数回の粘着,剥離が可能であるから,ナプキン1を取り出し後の袋体2中に,それまで着用していた生理用ナプキンをきちんと収納し,袋体2を完全に再閉鎖することができる。」(甲第3号証6頁2〜18行)と記載されており,「シール22」は,袋部20の外面に複数回の粘着,剥離が可能なものであると記載され,シール22が接着する袋部20を破損させることなく剥離させることが記載されている。そして,肌に接着させるこの種物品の性質を考慮すると,使い捨て吸収性物品のフィルム包装紙の厚さについては,材料の節約に加え,使用感や美感にも配慮して,可能な限り薄いものにすることは,周知の課題であるというべきである。
以上によれば,本件特許出願当時において,当業者が,「個別包装の使い捨て吸収用物品の接着ファスナシステムにおいて,被粘着側のフィルムを薄いものにして,かつ,これを損傷させずに再利用できるようにするという課題認識を有していた」ことは明らかであるから,原告の主張はその前提において失当である。
第5結論以上のとおり,審決取消事由は理由がなく,原告の請求を棄却すべきであるから,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 田中信義
裁判官 石原直樹
裁判官 杜下弘記