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関連審決 不服2000-20705
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  明細書の記載要件 /  援用権(援用) /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  加工 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 45号 審決取消請求事件
原告 旭化成ライフ&リビング株式会社
訴訟代理人弁理士 酒井正己
同 加々美 紀雄
同 小松純
同 旭宏
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 山崎勝司
同 粟津憲一
同 小曳満昭
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/12/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2000-20705号事件について平成15年12月19日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成5年4月9日,発明の名称を「ラップフィルムの収納箱」とする特許出願(特願平5-83111号,以下「本件出願」という。)をしたが,平成12年11月28日に拒絶の査定を受けたので,同年12月28日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を不服2000-20705号事件として審理した結果,平成15年12月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,平成16年1月8日,原告に送達された。
2 本件出願の願書に添付した明細書(平成11年9月24日付け,平成13年1月23日付け及び平成15年8月26日付け各手続補正書による補正後のもの。
以下,願書に添付した図面と併せて,「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨 前板1,底板2,後板3,蓋板4,脇板8,蓋板4から前板1を覆う方向に延した掩蓋片5,および掩蓋片5の先に切取り線10を介して配した開封片6とを主体部位とする長方形の箱体であって,上記開封片6の裏面と前板1の表面に点在している局部接合部9との貼合部分を引き剥がすこと,および(注,平成15年8月26日付け手続補正書に「おび」とあるのは誤記と認める。)切取り線10から開封片6を切取ることで箱体を開封し,内部に収納されたラップフィルムFの必要量を引き出し,箱体に配備してある切断具Kで切断して用いるラップフィルムの収納箱において,該収納箱は,厚さ0.35〜0.8mmの範囲の板紙で構成され,上記局部接合部9は,前板1のニス塗布処理が施された表面に半切り線で囲まれることなく点在しており,一個当たりの面積が0.8〜19.6mm2であり,この部分は水溶液型,または熱融接着型の接着剤が塗布されているがニスは塗布されておらず,さらに前板1の箱長手方向に適宜な間隔をもって3〜10個配置されていることを特徴とするラップフィルムの収納箱。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,@本願明細書の発明の詳細な説明は,当業者が容易に発明実施をすることができる程度に発明の目的,構成及び効果を記載しているものとは認められないから,特許法36条4項(注,平成6年法律第116号附則6条2項の規定により「なお従前の例による」ものとされる同法による改正前の特許法36条4項の趣旨と認められる。以下,単に「特許法36条4項」という。)に規定する要件を満たしておらず,また,A本願発明は,実願昭47-36583号(実開昭48-111529号)のマイクロフィルム(甲4,以下「刊行物1」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び特開平3-203937号(甲5,以下「刊行物2」)に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして,本件出願は拒絶されるべきものであるとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願明細書の記載事項に関する判断を誤り(取消事由1),かつ,本願発明の容易想到性に関する判断を誤った(取消事由2)結果,本件出願は拒絶されるべきものであるとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(明細書の記載事項に関する判断の誤り) (1) 板紙の剥離強度 審決は,本願明細書(甲2)の「これに対し本発明(注,本願発明)の局部接合部9は,一個当たりの面積約19.6mm2以下と従来品のほぼ半分以下と小さく,且つ半切り線16は存在しないことである。つまりニス塗布処理が施された前板表面上に,局部接合部9のみが長手方向に3〜10個点在しているだけのものである。そしてこの作用は,接着剤で貼合する処は従来品と同じでなるが,剥離時は板紙面強度の弱い開封片の裏側の極小面積部(局部接合部の面積相当部)が表層剥離して,前板上の局部接合部の表面側に付着する形となる。この現象は,表裏間で板紙面強度の差が大きい(表>裏)板紙の表面側に,局部接合部の面積を小さくして配した時に生じる現象で,長年に亘って見出せなかった特異な現象である」(段落【0012】)との記載について,「当該局部接合部一個当たりの面積は数値で特定する必要があるが板紙面強度の差の方は具体的な特定が不要であるとするのは,合理性を欠く主張であるといわざるを得ない」(審決謄本6頁第2段落)とした上で,「本願明細書に記載の表層剥離に係る現象は,上記発明(注,本願発明)の構成には存在しない,使用する板紙に係る上記特定の条件を前提としたものであると認められ,よって,発明の構成に対応する作用を説明したものであるとは認めることができない」(同頁下から第3段落)と判断した。
しかしながら,ラップフィルムの収納箱の材料である板紙は,複数の薄紙の層を接着させた積層体であり,商品として必要な印刷による収縮や層間剥離等の不都合を防止するために,表面側の層間密着力を強めにしているため,表面の層間剥離強度は大きく,裏面の層間剥離強度は表面よりも小さい。この事実は,本願明細書の段落【0011】にも記載されているように,ラップフィルムの収納箱に関する技術常識である(甲8参照)から,特許請求の範囲の請求項1における「ラップフィルムの収納箱」という語によって,「その材料の裏面の剥離強度が表面より小さい」という板紙の剥離強度に関する特性が規定されているということができる。したがって,本願明細書の上記段落【0012】の記載は,特許請求の範囲において規定された本願発明の構成を前提に,その構成に対応する作用を説明したものというべきであり,審決の上記判断は誤りである。
これに対し,被告は,本願明細書の段落【0012】に記載された作用を奏するためには,@表裏間で板紙面強度の差が大きい板紙であること,Aその強度は,表面側の剥離強度が裏面側よりも大きいこと,さらに,B箱の表面側に,上記板紙の表面側を用いるという構成が必要であるが,本願発明の特許請求の範囲の記載においては,上記@〜Bが規定されていない旨主張する。しかしながら,上記@及びAがラップフィルムの収納箱に関する技術常識であることは上記のとおりであり,Bについても,板紙の表面裏面と,ラップフィルム収納箱の表面裏面が一致することは技術常識であるから,被告の上記主張は失当である。
(2) 局部接合部の数と箱体の長さ寸法との関係 審決は,本願明細書(甲2)の「この局部接合部の形状には種々な形のものが採用でき・・・要するに一個当たりの面積で,約19.6mm2・・・から約0.8mm2・・・の面積が工業的に採れるものであればよい。この面積は小さい程,剥離跡は見え難く又剥離が容易になるが,封止の保持性が低下する傾向になる。この調和は,箱体の長さ寸法に応じて点在させる局部接合部の数や面積の異なるものの配列等によって行なうが・・・中心間距離では約3〜8cm間隔の範囲が好ましい」(段落【0013】)との記載について,「当該記載によれば,開封片の封止保持性及び取り外し容易性は,局部接合部の数に対する『箱体の長さ寸法』(ないし局部接合部の『中心間距離』)により影響されることになる。してみれば,この『箱体の長さ寸法』(ないし局部接合部の『中心間距離』)は・・・不可欠の前提を構成するように解される。しかしながら,『箱体の長さ寸法』(ないし局部接合部の『中心間距離』)は,上記発明(注,本願発明)の構成には存在しない条件である」(審決謄本7頁第2段落)と判断した。 しかしながら,本願発明は,ラップフィルムの収納箱の発明であるから,その箱体の大きさは,収納すべきラップフィルムを巻き上げたロールの長さ(ラップフィルムの幅)及び太さ(巻き上げたラップフィルムの長さ)等によって決定される。例えば,ラップフィルムのロールの長さが長ければ,必然的に収納箱の長さも長くしなければならず,ロールが太ければ,収納箱の太さも大きくしなければならない。そして,その結果,収納箱の封止部に掛かる荷重も大きくなると,開封片の封止保持性を大きくする必要が生じるが,その手段は,開封片と前板との局部接合部一つ当たりの面積を大きくするか,局部接合部の数を増やす(中心間距離を小さくする)ことに限られる。以上のような局部接合部の数と箱体の長さ寸法等との関係は,ラップフィルムの収納箱に関する技術常識である。
また,「ラップフィルムの収納箱」の長さは,消費者の生活の常識上,ある一定の範囲(15cm〜45cm程度)に決まっているのであるから,局部接合部の面積とその数を規定すれば,本願明細書に記載された本願発明の効果を達成するための局部接合部の面積とその数との組合せは,技術常識に基づいて容易に決定することができる。
以上によれば,審決の上記判断は誤りである。
(3) 実験結果 審決は,本願明細書(甲2)の段落【0019】〜【0022】記載の実験結果に加え,原告の平成15年8月26日付け意見書(甲7,以下「甲7意見書」という。)記載の実験結果(2頁の表)を参酌しても,「上記発明(注,本願発明)の構成と上記発明の効果との対応を実証的に裏付けるに足る実験成績を見出すことはできないといわねばならない」(審決謄本9頁下から第2段落)と判断した。
しかしながら,本願明細書の発明の詳細な説明においては,本願発明の代表的な実施例として,局部接合部の面積を約7.07mm2とした例を示し(段落【0019】),他方,従来技術の代表例として,局部接合部の面積を約38.5mm2とし,その周囲に直径10mm(面積約78.5mm2)の半切り線を前板の表面に設けた例(比較品)を示した上(段落【0020】),実施例のものは,比較品に比べて開封が容易であり,開封後の箱体の外観品位が優れていたとの実験結果を明記している(段落【0021】及び段落【0022】)。また,甲7意見書においては,実施例として,前板表面に半切れ線を設けずに,局部接合部の接着面積を7.07〜18.1mm2の範囲とした例,比較例として,同じく半切れ線を設けずに,接着面積を本願発明で特定した範囲より小さい0.78mm2にした例及び本願発明で特定した範囲より大きい28.3mm2にした例,並びに半切れ線を設けて本願発明で特定した範囲内の18.1mm2にした例を挙げて,実施例のものは,すべて「封止状態」及び「開封後の前板の外観」は良好,「開封の難易」は容易であったのに対し,比較例は,接着面積が大きいときは「開封の難易」が不良,接着面積が小さいときは「封止状態」が不良であり,本願発明で特定した範囲内の接着面積であっても,半切り線があると「開封後の前板の外観」が不良であったとの試験結果を示している。
以上の実験結果によれば,従来技術との比較において,本願発明の構成と効果との関係は実証されているというべきであるから,審決の上記判断は誤りである。
(4) 以上によれば,「本願明細書の発明の詳細な説明においては,上記発明(注,本願発明)の構成と上記発明の効果との対応に係る作用の説明,及び,上記発明の効果に関連する諸条件についての説明が,ともに十分になされておらず,しかも,上記発明の構成と上記発明の効果との対応を実証的に裏付ける実験成績は,発明の詳細な説明にも,意見書・審判請求書等,本願(注,本件出願)に係る他の書面にも,見出すことができない」(審決謄本10頁第1段落)から,本願明細書の「発明の詳細な説明は,当業者が容易に発明実施をすることができる程度に発明の目的,構成及び効果を記載しているものとは認められないから,本願は,特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない」(同第2段落)とした,審決の本願明細書の記載要件に関する判断は,誤りというべきである。
2 取消事由2(本願発明の容易想到性に関する判断の誤り) (1) 相違点(イ)に関する判断の誤り 審決は,本願発明と引用発明との相違点(イ)として認定した,「点在している局部接合部が,本願発明においては,半切り線で囲まれていないのに対して,引用発明においては,半切り線(半切込部11)で囲まれている点」(審決謄本13頁第2段落,以下「相違点(イ)」という。)について,「刊行物2においては,カートンの側壁部(『1側壁部15』)に半切り線を設けていないことについての明示の記載はなされていない。しかしながら,前記したように,スポット状の接着部では,カートンの側壁部の表面にフラップ部の一部が固着して残るように分離され得ることからみて,該カートンの側壁部において,フラップ部及びスポット状の接着部が該カートンの側壁部から分離するのを促進する半切り線を設けないことは,示唆されているというべきである」(同頁下から第2段落)とした上,「してみると,局部接合部を,半切り線で囲まれていないものとすることは,刊行物2の記載事項に倣って,当業者が容易に想到できたことと認められる」(同頁最終段落〜14頁第1段落)と判断した。
刊行物2(甲5)の第1図及び第2図に示されたカートンの側壁部表面に半切り線がないことは認める。
しかしながら,刊行物2(甲5)の第2図に示される,カートンの側壁部15の表面にフラップ部の一部16が固着して残る例は,第1図の該当個所において,側壁部15の表面に残るフラップ部16に相当する部分の上下に切れ目が描かれているから,側壁部15の表面に残るフラップ部の局部接合部の周囲に深い切れ目(全切り線)が設けられており,開封の際,他のフラップ部と容易に破断することのできる数箇所の非切れ目加工部でつながっている例であると見るべきである。
したがって,この第2図に示された例は,本願発明のもののように,局部接合部のフラップ部の裏面が剥離して側壁部の表面に残る例ではない。他方,第3図に示された例については,第1図では切れ目が描かれていないが,仮に,半切り線がないとすれば,第3図に示されたような形で,きれいに剥離することはできないから,従来技術の常識どおり,該当箇所の側壁部15の表面には半切り線が設けられていると理解するのが相当である。
そうすると,「局部接合部を,半切り線で囲まれていないものとすることは,刊行物2の記載事項に倣って,当業者が容易に想到できたことと認められる」ということはできないから,審決の上記判断は誤りである。
(2) 相違点(ウ)に関する判断の誤り 審決は,本願発明と引用発明との相違点(ウ)として認定した,「局部接合部は,本願発明においては,一個当たりの面積が0.8〜19.6mm2であるのに対して,引用発明の糊剤塗布部においては,面積が特定されていない点」(審決謄本13頁第3段落,以下「相違点(ウ)」という。)について,「局部接合部の一個当たりの面積を0.8〜19.6mm2としたことにより,どのような作用が生じ,本願明細書記載の効果が奏されるのかが明らかでなく,当該面積の限定を含む本願発明の構成と本願明細書記載の効果との間に対応を認めることはできない。してみると,上記数値範囲を採用することが,当業者にとって格別に困難なことであるとも認められない」(同14頁第2段落)と判断した。 しかしながら,上記1(3)のとおり,実験結果によれば,局部接合部1個当たりの面積と効果との対応は明らかである。また,本願明細書の記載及び技術常識によれば,板紙の表面の剥離強度が裏面の剥離強度よりも大きいこと等の前提は,特許請求の範囲において規定されていると解すべきであるから,以上によれば,本願発明の構成と本願明細書の発明の詳細な説明に記載された効果とは対応しているというべきである。したがって,「当該面積の限定を含む本願発明の構成と本願明細書記載の効果との間に対応を認めることはできない」とした審決の上記判断は,明らかに誤りである。
他方,刊行物1及び刊行物2には,本願発明における局部接合部の面積を示唆する記載はないから,審決の上記判断は,本願発明の容易想到性に関する判断を誤ったものである。
(3) 本願発明の作用効果に関する判断の誤り 審決は,本願発明と引用発明との相違点(ア)として認定した,「収納箱を構成している板紙が,本願発明においては,厚さが0.35〜0.8mmの範囲のものであるのに対して,引用発明の厚紙においては,厚さが特定されていない点」(審決謄本12頁最終段落〜13頁第1段落,以下「相違点(ア)」という。),同じく相違点(エ)として認定した,「接着剤が,本願発明においては,水溶液型または熱融接着型であるのに対して,引用発明においては,接着剤(糊剤)の種類が特定されていない点」(同頁第4段落,以下「相違点(エ)」という。)並びに上記相違点(イ)及び(ウ)の組合せが奏する作用効果について,「本願発明の構成と本願明細書記載の効果との間に対応を認めることはできないから,相違点(ア)ないし(エ)の組合せによって,当業者が予測し得た範囲を超える作用効果が生じるとは認められない」(同14頁第4段落)と判断した。
しかしながら,上記(2)のとおり,「本願発明の構成と本願明細書記載の効果との間に対応を認めることはできない」とした審決の上記判断は誤りである。
また,本願発明の作用効果に関する審決の上記判断は,本願発明の顕著な効果を奏するための構成の困難性に関する判断を誤ったものである。本願発明は,ラップフィルムの収納箱の封止性及び開封容易性と,開封後の品位ないし美観との関係で,局部接合部の面積につき最適範囲を限定したものである。開封によって前板の表面にできる剥離痕の醜さが,消費者の心証に与える影響は予想外に大きく,そのことが消費量(販売量)に及ぼす影響は,本願発明の効果として評価されるべきものである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。
1 取消事由1(明細書の記載事項に関する判断の誤り)について (1) 板紙の剥離強度について 本願明細書(甲2)の発明の詳細な説明(段落【0012】)においては,そこでいう「特異な現象」を奏するための条件として,特許請求の範囲において規定された接着点の面積が小さいこと等に加え,@表裏間で板紙面強度の差が大きい板紙であること,Aその強度は,表面側の剥離強度が裏面側よりも大きいことの2点が必要であることが明記されている。さらに,ラップフィルムの収納箱において,上記「特異な現象」を奏するためには,以上のほか,B箱の表面側に,上記板紙の表面側を用いるという構成が必要であるが,本願発明に係る特許請求の範囲の記載においては,板紙の裏表をどのようにラップフィルムの収納箱に用いるかを特定する記載はない。
これに対し,原告は,表面の層間剥離強度は大きく,裏面の層間剥離強度は表面よりも小さいとの事実は,ラップフィルムの収納箱に関する技術常識である旨主張する。しかしながら,原告主張の事実は,現在の商品の状況を示すものにすぎず,「ラップフィルムの収納箱」という語を用いることによって,当該ラップフィルムの収納箱に用いる板紙の性質や用法が,必然的に定まるとすることはできない。
(2) 局部接合部の数と箱体の長さ寸法との関係について 原告も自認するとおり,ラップフィルムの大きさに応じて,ラップフィルムの収納箱の大きさは変化するから,その大きさに応じて,開封片に求められる封止保持性の大きさも当然に異なることになる。しかしながら,例えば,極めて大きく,太いラップフィルムを収納する収納箱について,本願発明に規定する範囲内である0.8mm2×3個の局部接合部を設けた場合,封止部に掛かる荷重に耐えて,流通段階で開封片の剥離,離脱が生じない状態を維持することができるものとは考え難い。そうとすれば,本願明細書(甲2)に記載された,「消費者に渡る迄の流通段階では開封片の剥離・離脱が生じない状態を維持し,それでいて消費者での実用段階では,開封片6の取り外しが容易で,且つ見苦しい剥離状態にならない」(段落【0023】)との効果を,本願発明の効果であるということはできない。
また,本願明細書の発明の詳細な説明の段落【0013】の記載によれば,本願発明は,ラップフィルムの収納箱が一定の長さの範囲である場合において,特に奏する効果を記載しているものと解されるから,発明の詳細な説明に記載された効果を本願発明の効果ということはできない。
なお,本件出願時において,生産販売されている「ラップフィルムの収納箱」の寸法は一定の範囲内のものであるとしても,「ラップフィルム」に係るニーズ等に応じて,収納箱の寸法の範囲も変化し得るものであるから,「ラップフィルムの収納箱」という記載によっては,その箱の長さ等の寸法が定まるものではない。
(3) 実験結果について 審決は,発明の詳細な説明に記載された上記「特異な現象」が実証されていないとするものではなく,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明について,その発明の構成と効果との関係が実証されていないとしているのであって,その判断に誤りはない。
2 取消事由2(本願発明の容易想到性に関する判断の誤り)について (1) 相違点(イ)に関する判断の誤りについて 刊行物2(甲5)には,ラップフィルム用カートンの開封時には,フラップ部の一部が側壁部に残るか,側壁部の一部がフラップ部に残る場合があることが記載され(2頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落),第2図には,スポット状の接着部では,カートンの側壁部の表面にフラップ部の一部が固着して残るように分離されていることが明示されている。そして,仮に,カートンの側壁部に半切り線があるとすれば,フラップ部及びスポット状の接着部の側壁部からの分離が促進されるから,刊行物2の上記記載及び第2図から見て,フラップ部の一部がカートンの側壁部に残っている以上,カートンの側壁部に半切り線を設けないことが示唆されているということができる。
したがって,「カートンの側壁部において,フラップ部及びスポット状の接着部が該カートンの側壁部から分離するのを促進する半切り線を設けないことは,示唆されているというべきである」(審決謄本13頁下から第2段落)とした審決の判断に,誤りはない。
(2) 相違点(ウ)に関する判断の誤りについて 上記1のとおり,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の構成と,発明の詳細な説明に記載された特異な現象に基づく発明の効果とが対応していないことは明らかである。
また,引用発明に刊行物2(甲5)記載の技術を採用した発明の実施に当たり,接着部位(局部接合部)の面積を決定することは,設計者にとって必須の事項であり,かつ,封止の保持性と剥離の容易性とが,接着部位(局部接合部)の面積に応じて,一方が向上すれば他方は低下することは,当業者が当然に予測することのできる関係にある。そうすると,本願発明における局部接合部の面積に係る特定は,上記当然に予測される関係において,局部接合部の面積を実用性の観点から適宜調節したにすぎないものであり,上記数値範囲を採用することが,当業者にとって格別に困難なことであるということはできない。
したがって,相違点(ウ)に関する審決の判断に誤りはない。
(3) 本願発明の作用効果に関する判断の誤りについて 上記1のとおり,本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明の構成と,発明の詳細な発明に記載された本願発明の効果とが対応していないことは明らかであるから,この点に関する審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由2(本願発明の容易想到性に関する判断の誤り)について (1) まず,本願発明の課題と,本件出願当時の当該技術分野における技術水準との関係について確認する。
ア 刊行物1(甲4)には,「ラップフィルムは,通常紙管上に多数巻層状に回巻したものを,フィルム切断用の鋸状刃体を備えた厚紙の箱体に収納して市販され,各家庭においてこの箱体のまま使用されている。従って箱体の表面には美観上からいろいろな模様や色彩がつけられたり,フィルムの引出しに関し箱体に種々の工夫が施されている」(明細書2頁),「閉止部片51,51’には複数個の半円切込部53が設けられる。同様に側面1にも無印刷の円形の半切込部11が形成される。これらの切込部53,11の位置は,箱体が組立てられたとき,互いに合致するような位置に設けられる。前述のように箱体は第2図に示された厚紙を折り込み線によって内方へ折り曲げ箱体に形成し且つ前記閉止部片の半円切込部53と側面1の半切込部11とを互いに接着することにより製作される。使用時の閉止部片51,51’の剥離に際しては前記切込部11,53のみが糊剤によって接着されているので,該切込部に生じた傷付が側面1の化粧印刷された表面におよぶことはなく,従って使用時の箱体表面が醜くくなるのが防止される」(同7頁第2段落),「本考案に係る箱体が使用前の店頭に陳列されているときは側面1の切込み10は掩蓋片5にて完全に隠閉されているためここから塵埃等が侵入するおそれは全くない」(同9頁第2段落)との記載がある。これらの記載によれば,刊行物1には,紙製のラップフィルムの収納箱に関し,店頭に陳列されたりして市販される際は,塵埃等が侵入しないようにラップを完全に封止すること,箱体を開封するために接着された部分を剥離する際の傷付が化粧印刷された表面に及ばないようにして,使用時の箱体表面が醜くなるのを防止することが記載されているものと認められる。
イ また,刊行物2(甲5)には,「本第3の発明は・・・オーバーコート層を有するラップフィルム用カートンであって・・・紙の表面に対しての密着性と・・・接着剤に対して易剥離性とにおいても優れた性質を示すオーバーコート層を具備するものである」(8頁左上欄最終段落),「カートンの開封の際には,カートンの1側壁部15の表面とフラップ部16の裏面との間の接着部で,しかも,オーバーコート層11を介して接着されている部分では,オーバーコート層11が有する・・・易剥離作用によって,オーバーコート層11の表面にフラップ部16の裏面の紙の1部が固着して残るようなことが無く,開封後には側面の美麗なカートンが得られる」(8頁右上欄最終段落〜左下欄第1段落)との記載があり,これらの記載によれば,刊行物2には,紙製のラップフィルムの収納箱に関し,カートンの開封の際には,カートンの接着部を剥離し易くして,カートンの1側壁部15の表面にカートンの紙の1部が固着して残るようなことがなく,開封後には側面の美麗なカートンを得ることが記載されているものと認められる。
ウ 以上のような刊行物1及び刊行物2の記載事項から判断すると,本願明細書(甲2)に【発明が解決しようとする課題】として記載された,「この種の収納箱に寄せられる市場(消費者)要求に,開封片6の前板1への貼合強度を大きくして,消費者にわたる迄の流通段階では開封片の剥離・離脱が生じない状態のものにし,しかも消費者での実用段階では,開封片6の取り外しが容易で,且つ見苦しい剥離状態にならない(箱体の外観品位を保つ状態)ものにして欲しいと言う要求がある」(段落【0004】)との課題は,ラップフィルムの収納箱に関する技術分野において,本件出願当時,周知の技術的課題であったと認めるのが相当である。
(2) 進んで,本願発明の構成の容易想到性について見ると,本願発明と引用発明とが,「前板,底板,後板,蓋板,脇板,蓋板から前板を覆う方向に延した掩蓋片,および掩蓋片の先に切取り線を介して配した開封片とを主体部位とする長方形の箱体であって,上記開封片の裏面と前板の表面に点在している局部接合部との貼合部分を引き剥がすこと,および切取り線から開封片を切取ることで箱体を開封し,内部に収納されたラップフィルムの必要量を引き出し,箱体に配備してある切断具で切断して用いるラップフィルムの収納箱において,該収納箱は,板紙で構成され,上記局部接合部は,前板のニス塗布処理が施された表面に点在しており,この部分は接着剤が塗布されているがニスは塗布されておらず,さらに前板の箱長手方向に適宜な間隔をもって複数個配置されていることからなるラップフィルム(注,「プラスチックフィルム」とあるのは誤記と認める。)の収納箱」(審決謄本12頁下から第2段落)である点(以下「一致点」という。)で一致し,上記相違点(ア)〜(エ)において相違することは,当事者間に争いがない。
審決は,上記相違点(ア)〜(エ)に係る本願発明の構成について,いずれも容易想到性を肯定しているところ(審決謄本13頁第5段落〜14頁第4段落),原告は,相違点(ア)及び(エ)に関する審決の判断を認めた上,相違点(イ)及び(ウ)に関する審決の判断は誤りである旨主張するので,以下,検討する。
ア 相違点(イ)に関する判断の誤りについて (ア) 審決は,本願発明と引用発明との相違点(イ),すなわち,「点在している局部接合部が,本願発明においては,半切り線で囲まれていないのに対して,引用発明においては,半切り線(半切込部11)で囲まれている点」について,「刊行物2においては,カートンの側壁部(『1側壁部15』)に半切り線を設けていないことについての明示の記載はなされていない。しかしながら,前記したように,スポット状の接着部では,カートンの側壁部の表面にフラップ部の一部が固着して残るように分離され得ることからみて,該カートンの側壁部において,フラップ部及びスポット状の接着部が該カートンの側壁部から分離するのを促進する半切り線を設けないことは,示唆されているというべきである」(審決謄本13頁下から第2段落)とした上,「してみると,局部接合部を,半切り線で囲まれていないものとすることは,刊行物2の記載事項に倣って,当業者が容易に想到できたことと認められる」(同頁最終段落〜14頁第1段落)と判断した。
これに対し,原告は,刊行物2(甲5)の第1図及び第2図に示されたカートンの側壁部表面に半切り線がないことは認めるものの,第2図に示された例は,本願発明のもののように,局所接合部のフラップ部の裏面が剥離して側壁部の表面に残る例ではなく,他方,第3図に示された例については,従来技術の常識どおり,該当箇所の側壁部15の表面には半切り線が設けられていると理解するのが相当であるとして,「局部接合部を,半切り線で囲まれていないものとすることは,刊行物2の記載事項に倣って,当業者が容易に想到できたことと認められる」ということはできない旨主張する。
(イ) 刊行物1(甲4)に,「閉止部片51,51’の前記半円切込部53は閉止部片51,51’を側面1から分離する際に該側面の半切込部11と共働して糊剤による側面1の表面の破れを半切込部11内に止どめる作用をする」(明細書7頁末行〜8頁第1段落)と記載され,本願明細書(甲2)に,【発明が解決しようとする課題】として,「この種の収納箱に寄せられる市場(消費者)要求に,開封片6の前板1への貼合強度を大きくして,消費者にわたる迄の流通段階では開封片の剥離・離脱が生じない状態のものにし,しかも消費者での実用段階では,開封片6の取り外しが容易で,且つ見苦しい剥離状態にならない(箱体の外観品位を保つ状態)ものにして欲しいと言う要求がある。この要求に対し現状では,点在する局部接合部一個当たりの実貼合面積を約38.5mm2以上(円換算で直径約7mmの円より大)とすることで貼合面積を保ち,更に個々の局部接合部の剥離は,上記実貼合面積部分の外周域に配した半切り線(板紙厚みのほぼ半分の切込み)で囲まれた領域の面積部分で前板板紙の表層剥離を促進させることで,貼合強度の調節と層剥離範囲の制限とを図って上記要求に対処して来た」(段落【0004】)と記載されていることからすれば,引用発明において,局部接合部を「半切り線」で囲むのは,前板と貼り合わされた開封片を前板からはがす際に,開封片に接着されて,開封片とともに引きはがされる前板の紙の範囲を抑え,開封後の美観を向上させるためであることは明らかである。
他方,刊行物2(甲5)の第1図及び第2図に示されたカートンの表面に半切り線がないことは,当事者間に争いがない。そして,刊行物2の「前記ラップフィルム用カートンは,フラップ部16と1側壁部15とを固着しているスポット状の接着部S1の上方において,フラップ部16に形成されている易破断線Hを破断することによって開封される。前記易破断線Hを利用するラップフィルム用カートンの開封時には,オーバーコート層11が存在しない区画のスポット状の接着部S1では,第2図に明示されているように,カートン13の1側壁部15の表面にフラップ部の1部が固着して残るようにして,カートン13の1側壁部15とフラップ部16とが分離する」(2頁左下欄第2段落〜右下欄第1段落)との記載並びに第1図及び第2図からすれば,カートンの表面に半切り線を設けない理由は,そのようにすることによって,あえて,開封後のフラップ部の一部をカートンの側壁部に残存させるようにすることにある(仮に,半切り線を設けると,カートンの表面部が引きはがされやすくなるため,フラップ部の一部が残存しにくくなる。)と認めるのが相当である。
そして,上記のとおり,引用発明のラップフィルムの収納箱において,半切り線を設ける目的が開封後の美観の向上にあることに照らすと,刊行物2に見られる,掩護片(刊行物2の「フラップ部」に相当)の一部を前板(刊行物2の「カートンの側壁部」に相当)に残存させる方法など,他の方法によっても,開封後の美観を向上させるという目的を達することができるのであれば,局部接合部について,半切り線で囲まない更地のままの構成とすることは当然というべきであり,以上によれば,局部接合部が半切り線で囲まれていない本願発明の構成が,当業者にとって容易に想到し得るものであることは明らかである。
これに対し,原告は,刊行物2の第3図の例を援用するが,仮に,原告が主張するとおり,第3図が半切り線を設けた例を示したものであるとしても,上記のとおり,第2図において,半切り線を設けない例が明示されている以上,そこから,半切り線を設けない構成を想到し得ることは当然であって,第3図の例の存在により,それが妨げられるとする理由はないから,原告の主張は採用の限りではない。
(ウ) 以上によれば,相違点(イ)に関する審決の上記判断に誤りはないというべきである。
イ 相違点(ウ)に関する判断の誤りについて (ア) 審決は,本願発明と引用発明との相違点(ウ),すなわち,「局部接合部は,本願発明においては,一個当たりの面積が0.8〜19.6mm2であるのに対して,引用発明の糊剤塗布部においては,面積が特定されていない点」について,「局部接合部の一個当たりの面積を0.8〜19.6mm2としたことにより,どのような作用が生じ,本願明細書記載の効果が奏されるのかが明らかでなく,当該面積の限定を含む本願発明の構成と本願明細書記載の効果との間に対応を認めることはできない。してみると,上記数値範囲を採用することが,当業者にとって格別に困難なことであるとも認められない」(審決謄本14頁第2段落)と判断した。
これに対し,原告は,実験結果によれば,局部接合部1個当たりの面積と効果との対応は明らかであり,また,本願明細書の記載及び技術常識によれば,板紙の表面の剥離強度が裏面の剥離強度よりも大きいこと等の前提は,特許請求の範囲において規定されていると解すべきであるから,本願発明の構成と本願明細書の発明の詳細な説明に記載された効果とは対応しているというべきであり,他方,刊行物1及び刊行物2には,本願発明における局部接合部の面積を示唆する記載はないから,審決の上記判断は誤りである旨主張する。
(イ) 上記のとおり,原告は,ラップフィルムの収納箱に用いられる板紙について,@表裏間で板紙面強度の差が大きい板紙であること,Aその強度は,表面側の剥離強度が裏面側より大きいこと,及びB当該板紙の表面をラップフィルム収納箱の表面側に用いることは,いずれも当業者の技術常識である旨主張するが,仮に,そうとすれば,引用発明に係るラップフィルムの収納箱においても,そこで用いられる板紙は,当然に上記@〜Bの構成を備えるものであるということになるし,仮に,原告主張の技術常識を認めるに足りないとしても,当業者が引用発明に係るラップフィルムの収納箱につき,上記@〜Bの構成を備えるものとすることは極めて容易なことであることは明らかである。したがって,そのような構成を備えた引用発明に係るラップフィルムの収納箱において,上記アのとおり,当業者が容易に想到し得るものと認められる,局部接合部を半切り線で囲まない構成を採用した上で,その局部接合部一つ当たりの面積を本願発明のものと同じにした場合,当該「ラップフィルムの収納箱」も,本願発明と同様に,本願明細書(甲2)の段落【0012】に記載された,板紙の裏面が剥離する「特異な現象」を奏することになることはいうまでもない。
ところで,上記(1)のとおり,本願明細書に示された「この種の収納箱に寄せられる市場(消費者)要求に,開封片6の前板1への貼合強度を大きくして,消費者にわたる迄の流通段階では開封片の剥離・離脱が生じない状態のものにし,しかも消費者での実用段階では,開封片6の取り外しが容易で,且つ見苦しい剥離状態にならない(箱体の外観品位を保つ状態)ものにして欲しいと言う要求がある」(段落【0004】)との課題は,ラップフィルムの収納箱に関する技術分野において,本件出願当時,周知の技術的課題であったと認められるから,当該課題に基づき,「消費者での実用段階では,開封片6の取り外しが容易で,且つ見苦しい剥離状態にならない(箱体の外観品位を保つ状態)」ようにするためには,局部接合部(接着剤の塗布部)の面積を小さくして,開封片の裏面から引きはがされて前板の表面に残る紙を少なくすればよいことは,当業者に自明の事項というべきである。したがって,引用発明に係るラップフィルムの収納箱について,局部接合部の面積を小さくした上で,不要になった半切り線を設けないこととして,開封後の美観の向上等を図ることは,当業者が容易に想到し得ることであるというほかはない。
他方,封止の保持性と剥離の容易性とは,局部接合部(接着剤の塗布部)の面積に応じて,一方が向上すれば,他方は低下するという関係にあることは,当業者にとって自明の事項というべきであるから,上記周知の課題のうち,「開封片6の前板1への貼合強度を大きくして,消費者にわたる迄の流通段階では開封片の剥離・離脱が生じない状態のもの」にするとの要請についても,実用上必要とされる保持性を得ることのできる最低限の大きさまで,局部接合部の面積を確保することによって達成されることは明らかである。そうすると,結局,「消費者にわたる迄の流通段階では開封片の剥離・離脱が生じない状態のものにし,しかも消費者での実用段階では,開封片6の取り外しが容易で,且つ見苦しい剥離状態にならない(箱体の外観品位を保つ状態)」ようにするとの課題を達成するために,局部接合部一個当たりの面積(接着剤の塗布面積)を,本願発明に規定する「0.8〜19.6mm2」とすることは,上記周知の課題に基づき,局部接合部(接着剤の塗布部)の面積を最適化することにほかならず,その程度のことは,実施に当たり,当業者が適宜に行い得る程度の設計的な事項にすぎないというべきである。
(ウ) 以上によれば,相違点(ウ)について,「上記数値範囲を採用することが,当業者にとって格別に困難なことであるとも認められない」とした審決の判断に誤りはないというべきである。
ウ 以上のとおり,相違点(ア)〜(エ)に係る本願発明の構成は,いずれも,当業者が容易に想到することができたものと認められる。
(3) さらに,本願発明の作用効果について検討する。
ア 審決は,相違点(ア)〜(エ)の組合せが奏する作用効果について,「本願発明の構成と本願明細書記載の効果との間に対応を認めることはできないから,相違点(ア)ないし(エ)の組合せによって,当業者が予測し得た範囲を超える作用効果が生じるとは認められない」(審決謄本14頁第4段落)と判断したのに対し,原告は,「本願発明の構成と本願明細書記載の効果との間に対応を認めることはできない」とした審決の上記判断は誤りであり,また,本願発明の作用効果に関する審決の上記判断は,本願発明の顕著な効果を奏するための構成の困難性に関する判断を誤ったものである旨主張する。
イ しかしながら,上記(2)のとおり,相違点(ア)〜(エ)に係る本願発明は,いずれも当業者が容易に想到することができるものであるところ,上記(1)のとおり,そのような構成を採用するための動機付けとなる課題自体も,本件出願当時,周知の技術的課題であったと認められるから,相違点(ア)〜(エ)に係る構成を引用発明に採用した場合,本願明細書(甲2)に記載された「上記の結果に示す通り本発明の収納箱は,消費者に渡る迄の流通段階では開封片の剥離・離脱が生じない状態を維持し,それでいて消費者での実用段階では,開封片6の取り外しが容易で,且つ見苦しい剥離状態にならない(箱体の外観品位や意匠性を保つ状態になる)効果を発揮する」(段落【0023】)との効果を奏することができることは,当業者が当然に予測可能なことというほかはない。
この点に関し,さらに,原告は,本願発明は,ラップフィルムの収納箱の封止性及び開封容易性と,開封後の品位ないし美観との関係で,局部接合部の面積につき最適範囲を限定したものであるところ,開封によって前板の表面にできる剥離痕の醜さが,消費者の心証に与える影響は予想外に大きく,そのことが消費量(販売量)に及ぼす影響は,本願発明の効果として評価されるべきものである旨主張する。しかしながら,本願発明は,本願明細書に,「この種の収納箱に寄せられる市場(消費者)要求に,開封片6の前板1への貼合強度を大きくして,消費者にわたる迄の流通段階では開封片の剥離・離脱が生じない状態のものにし,しかも消費者での実用段階では,開封片6の取り外しが容易で,且つ見苦しい剥離状態にならない(箱体の外観品位を保つ状態)ものにして欲しいと言う要求がある」(段落【0004】)と記載されるとおり,その課題自体が「市場(消費者)の要求」に基づくものであるから,その効果が,消費者ないし消費量に影響を及ぼすものであることは自明のことというほかはなく,原告の上記主張は採用の限りではない。
ウ したがって,「相違点(ア)ないし(エ)の組合せによって,当業者が予測し得た範囲を超える作用効果が生じるとは認められない」とした審決の判断に誤りはない。
(4) 以上によれば,本願発明の容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはないから,原告の取消事由2の主張は,いずれも理由がない。
2 以上のとおり,原告主張の取消事由2は理由がなく,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,原告主張の取消事由1について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものであるとした審決の結論に誤りはなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴
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