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関連審決 不服2004-23840
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 19年 (行ケ) 10052号 審決取消請求事件
原告古 河電気工業株式会社
訴訟代理人弁理 士河野茂夫
同 山崎京介
被告特許庁長官 肥塚雅博
指定代理人藤井俊明
同 柴沼雅樹
同 高木彰
同 大場義則
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2007/11/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2004-23840号事件について平成18年12月26日にした審決を取り消す。
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯原告は,平成9年9月18日にした特許出願(特願平9-252557号。以下「原出願」という。)の一部を分割して,平成16年2月4日,発明の名称を「冷却装置」とする発明につき特許出願(特願2004-28401号。以下「本願」という。)をし,同年9月21日付け手続補正書をもって本願に係る特許請求の範囲及び明細書の補正(以下「本件補正」という。)をした(以下,本件補正後の明細書を,願書に添付した図面と併せて「本願明細書」という。)。
特許庁は,同年10月19日,本願につき拒絶査定をし,原告は,これに対して不服審判請求(不服2004-23840号事件)をした。
そして,特許庁は,平成18年12月26日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は平成19年1月12日原告に送達された。
2 特許請求の範囲の記載本件補正後の特許請求の範囲は,請求項1及び請求項2からなり,請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。
「【請求項1】発熱部品に熱的に接続されたヒートパイプと,ファンと,前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した,または前記側面にダクトで連結されたフィン部を備える放熱部とを有しており,前記ファンによる排気が前記フィン部を通過する方向を横断するように前記ヒートパイプの放熱側が前記フィン部に接続されており,前記ヒートパイプを含む放熱部の一部が前記ファンの上部に位置している,冷却装置。」3 審決の内容審決の内容は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,引用例1(特開平3?96261号公報。甲2)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び引用例2(特開平8?255858号公報。甲3)に記載された技術事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。
審決は,本願発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点及び相違点があると認定した。
(一致点)「発熱部品に熱的に接続されたヒートパイプと,ファンと,前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接したフィン部を備える放熱部とを有しており,前記ファンによる排気が前記フィン部を通過する方向を横断するように前記ヒートパイプの放熱側が前記フィン部に接続されており,前記ヒートパイプを含む放熱部が前記ファンの上部に位置している,冷却装置。」である点。
(相違点)本願発明では,「放熱部の一部がファンの上部に位置している」のに対して,引用発明では放熱部全体がファンの上部に位置している点。
当事者の主張
1 取消事由についての原告の主張審決には,本願発明と引用発明との一致点の認定の誤り(取消事由1),相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り(取消事由2)がある。
(1) 取消事由1(一致点の認定の誤り)審決は,「(引用例1の)第8,9図に見られるベース板lD,lF,1G及び解放されている側面は,ファン4との関係で,『ファンの空気吸い込み口面に対する側面』に該当し,フィン3C,3Dは,該側面に近接している。よって,第8,9図には『ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接したフィン部を備える放熱部』が示されていると言うことができる。」(審決書2頁36行〜3頁2行)とした上で,本願発明と引用発明とは「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接したフィン部を備える放熱部」を有する点で一致すると認定したが,同認定は誤りである。
ア引用例1(甲2)の「第8,9図に見られるベース板lD,lF,1G及び解放されている側面」は,ファン4との関係で,「ファンの空気吸い込み口面に対する背面側」に配置されたヒートシンクの構成部分であり,「ファンの空気吸い込み口に対する側面」ではない。本願発明は,本願明細書(甲4の段落【0004】,【0007】)に記載されているとおり,従来技術である引用例1記載の「ファンの空気吸い込み口面に対する背面側」にヒートシンクを設けた基本的構成を排除し,その問題点を解消することを課題としたものである。
イ本願の特許請求の範囲(請求項1)によれば,「フィン部を備える放熱部」は,「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した」位置に配置されていると記載されている。そして,ファンの空気吸い込み口面に対する「側面に近接し」ているとは,対象物が側面に対して直角の方向から近付いている状態をいい,ファンと放熱部とを「並列させて」配置させていることを意味する。このことは,本願明細書(甲4)の「ヒートパイプ10吸熱側101から吸熱された熱は,ヒートパイプ10の長手方向を伝わり放熱部100(図1(イ))で放熱される。ファン30にフィン部20が近接して設けられてなる放熱部40は,図示するようにファン30の上方から吸気された空気がファン30の側面であるフィン部20のフィン要素201の部分を通過して排気されるように空気が流れるものである。」(段落【0016】)との記載及び本件審判で提出した平成17年1月20日付け手続補正書(甲5)の「ここで(d)の記載はファンの空気吸い込み口面の側面に放熱部を配置することであり,即ち,ファンと放熱部を並列させて配置することにより,下記のような効果を奏します。(1)放熱部とファンを並列に配置することで,冷却装置全体の高さを低くすることができます。」などの記載からも明らかである。
これに対して,引用例1は,放熱部の周縁がファンの側面の周縁へ近接している状態が示されており,放熱部が,ファンの空気吸い込み口面に対する「側面に近接し」ているとはいえない。
ウ以上のとおり,本願発明は,「フィン部を備える放熱部」が「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した」位置に配置されているのに対して,引用発明は,放熱部が,ファンの空気吸い込み口面に対する「背面側」に配置され,ファンの空気吸い込み口面に対する「側面に近接し」ているとはいえない。したがって,審決が,本願発明と引用発明とは「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接したフィン部を備える放熱部」を有する点で一致すると認定した点には誤りがある。
(2) 取消事由2(相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り)ア引用発明においては,「ヒートパイプを含む放熱部の全体」が,「ファンの空気吸い込み口の背面側」に位置しており,「ファンの(空気吸い込み口より)上部」には位置していないから,「引用発明では放熱部全体がファンの上部に位置している」との審決の相違点の認定は誤りである。
イ審決は,「ヒートパイプを含む放熱部とファンとの上下位置の関係は,例えば前記引用例2(特開平8?255858号公報)に見られるように,当業者が必要に応じてなし得る設計上の事項である。」(審決書4頁12行〜14行)とした上で,「本願発明は,前記引用例2に開示されているような設計上の事項を勘案することにより,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた」(同4頁18行〜20行)と判断した。
しかし,相違点に係る本願発明の構成(「ヒートパイプを含む放熱部の一部が前記ファンの(空気取り入れ口より)上部に位置している」構成)は,単なる設計的事項ではなく,引用発明に基づいて当業者が本願発明を容易に発明をすることができたものではないから,審決の容易想到性の判断は誤りである。
2 被告の反論(1) 取消事由1に対しア確かに,引用例1(甲2)の記載からみて,第8図におけるファン4自体の空気吸い込み面に連なる4つの側面が「ファンの空気吸い込み口面に対する側面」とすべきであるから,審決が「第8,9図に見られるベース板1D,1F,1G及び解放されている側面は,ファンとの関係で,『ファンの空気吸い込み口面に対する側面』に該当」すると記載した点には不適切な点があった。より正確には,「第8,9図に見られるファン4自体の側面が,ファンとの関係で,『ファンの空気吸い込み口面に対する側面』に該当」すると記載すべきであったといえる。
しかし,引用例1の第8,9図の記載に照らすと,「フィン3C,3Dとベース板1D,1F,1G及び解放されている側面」は,発熱素子6D,6E,6F,6Gからの熱を放熱する放熱部に該当し,当該放熱部はファン4自体の側面に近接した位置にある。
したがって,審決には不適切な記載があるものの,「第8,9図には『ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接したフィン部を備える放熱部』が示されていると言うことができる」とした審決の認定に誤りはなく,上記の記載は,審決の結論に影響を及ぼすものではない。
イ本願発明(請求項1)は,「発熱部品に熱的に接続されたヒートパイプと,ファンと,前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した,・・・フィン部を備える放熱部とを有しており,」及び「放熱部の一部が前記ファンの上部に位置している」ものであって,特許請求の範囲に,ヒートシンクについては何らの限定もなく,また,放熱部については,「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した」位置としか特定されておらず,この記載をもって「ファンと放熱部とを並列させて配置」していることが自明であるともいえない。
したがって,ファンの空気吸い込み口面に対する「側面に近接し」ているとは,ファンと放熱部とを「並列させて」配置させていることを意味することを前提に,本願発明と引用発明とは「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接したフィン部を備える放熱部」を有する点で一致するとした審決の認定の誤りをいう原告の主張は,その前提を欠き,失当である。
(2) 取消事由2に対しア前記(1)イのとおり,本願の特許請求の範囲(請求項1)には,「フィン部を有する放熱部」が「ファンの空気吸い込み口面に対する側面」に近接しているとのみ記載され,ファンと放熱部と並列して配置されていると限定して解釈することはできないから,審決の相違点の認定の誤りをいう原告の主張は,その前提を欠くものである。
イそして,本願発明は,「ファンと放熱部とを並列させて配置」しているという限定事項がない以上,相違点に係る本願発明の構成(「ヒートパイプを含む放熱部の一部がファンの上部に位置している」構成)に格別の技術的意義を見出すことはできない。また,冷却効果を高めるために放熱部を広くすることは当業者が必要に応じて適宜なし得ることであり,放熱部の一部がファンの上部に位置している冷却装置の構造は当該技術分野においては周知の技術でもあるから(例えば,引用例2(甲3),乙1,2),放熱部の一部がファンの上部に位置するよう配置することも当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎない。
したがって,引用発明に,上記技術を採用して,相違点に係る本願発明の構成とすることは当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないとした審決の判断に誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について原告は,本願発明(請求項1)の「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した,・・・フィン部を備える放熱部」の記載は,ファンと放熱部とを「並列させて」配置させていることを意味するものであるが,引用発明は,「ファンの空気吸い込み口面に対する背面側」にヒートシンクを設けた構造の冷却装置であって,「フィン部を備える放熱部」が「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した」構成を備えていないから,本願発明と引用発明とは「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接したフィン部を備える放熱部」を有する点で一致するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
(1)本願発明の「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接するフィン部を備える放熱部」の意義について本願の特許請求の範囲(請求項1)には,「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した,・・・フィン部を備える放熱部」との記載があるが,上記記載中の「側面に近接した」の意義を特に規定する記載はない。
そこで,本願明細書の「発明の詳細な説明」を参酌すると,「図1を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。図1(ア)は斜視図で,図1(イ)はその一部断面の正面図である。・・・ヒートパイプ10の吸熱側101から吸熱された熱は,・・・放熱部100(図1(イ))で放熱される。ファン30にフィン部20が近接して設けられてなる放熱部40は,図示するようにファン30の上方から吸気された空気がファン30の側面であるフィン部20のフィン要素201の部分を通過して排気されるように空気が流れるものである。」(甲4の段落【0015】,【0016】)との記載がある。
上記記載からは,放熱部40とファン30との位置関係について,放熱部40が「ファン30にフィン部20が近接して設けられてなる」こと,フィン部20が「ファン30の側面」に位置することは示されているが,「側面」又は「近接」を格別特定する内容は示されていない。また,本願明細書(甲1,4)の「発明の詳細な説明」の他のいかなる箇所にも,これを具体的に特定する記載はなく,本願明細書中には,「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した」(請求項1)構成とすることの技術的意義,作用・効果に関する記載もない。もっとも,本願の願書に添付した図1(ア),図(イ)(甲4)には,フィン部20がファン30の真横に並列に配置されたものが本願発明の実施例として図示されており,他の実施例に係る図2ないし図5(甲4)にも同様の記載があるが,本願明細書中には,フィン部20とファン30との位置関係を実施例として図示されたものに限定するとの記載はない。
以上によれば,本願の特許請求の範囲及び本願明細書(甲1,4)から「側面に近接した」との意義を格別限定することはできないから,本願発明(請求項1)の「フィン部を備える放熱部」は,ファンの空気吸い込み口面の「側面の近くに」配置されていれば足りると解すべきである。
(2)引用発明における「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接するフィン部を備える放熱部」の構成の存否ア 引用例1の記載(ア)引用例1(甲2)には,「2特許請求の範囲外側に素子搭載面が内側にヒートパイプ取付部がそれぞれ設けられており筒形の4面または断面コの字の3面と一方の側面を塞ぐ1面に配置された第1,第2,第3および第4のベース板と,第1,第2,第3および第4のベース板のヒートパイプ取付部に蒸発部が取り付けられ凝縮部が曲げ起こされた1本以上のヒートパイプと,前記ヒートパイプの凝縮部に取り付けられた複数枚のフィンと,前記フィンと直交するいずれかの面に設けられた強制空冷用のファンとから構成したヒートパイプ式冷却器。」(1頁左下欄4行〜15行),「第8図〜第11図は,本発明によるヒートパイプ式冷却器の第2の実施例を示した図であって,第8図は斜視図,第9図は平面図,第10図は正面図,第11図は側面図である。・・・第2の実施例では,ベース板1D,1E,1Fを断面コの字状に配置して,その側面をベース板1Gで覆うように配置した形状であって,・・・各ベース板lD〜1Gの外側の素子搭載面laには,それぞれ発熱素子6D,6E,6F,6Gが密着固定されている。ヒートパイプ2Cは,蒸発部となる腕部2aがベース板lGの取付凹部1bに取り付けられ,基部2bがベース板1Fの取付凹部1bに取り付けられている(第9図)。また,ヒートパイプ2Dは,蒸発部となる腕部2aがベース板1Eの取付凹部1bに取り付けられ,基部2bがベース板lDの取付凹部lbに取り付けられている(第11図)。さらに,各ヒートパイプ2D,2E(判決注・「2E」は「2C」の誤記と認める。)の凝縮部となる腕部2cには,フィン3C,3Dが別々に取り付けられている。ベース板1D,1F,1Gの下側には,ファン4が設けられている。」,「つぎに,本発明によるヒートパイプ式冷却器の実施例の送風方向について説明する。・・・第8図に示した第2の実施例のように,ファン4の対向する面がベース板1Eで覆われており,フィン3とファン4に直交する側面が解放されているので,冷却風air を直角に屈曲して排気することができる。」(以上,3頁左上欄14行〜左下欄12行)との記載がある。
(イ)上記記載と第8図ないし第11図(甲2)によれば,引用例1の実施例2記載のヒートパイプ式冷却器は,?@断面コの字の3面と一方の側面を塞ぐ1面に配置されたベース板lDないし1Gの内側に,ヒートパイプ2C,2Dが設けられ,「各ヒートパイプ2D,2Cの凝縮部となる腕部2cには,フィン3C,3Dが別々に取り付けられ」ており,「フィン部を備える放熱部」を有していること,?Aベース板1Eの対向する面に,ファン4がベース板1D,1F,1Gの下側に接して設けられ,ベース板1Eの対向する面から「冷却風air」を流入(in)することができ,また,「フィン3とファン4に直交する側面」(ベース板1Gに対向する面)が解放されているので,「冷却風air」を直角に屈曲して排気(out)することができることが認められる。
イ 判断以上の認定事実によれば,引用例1記載のヒートパイプ式冷却器は,ベース板1D,1F,1Gの下側に接して設けられたファン4の空気吸い込み口面(ベース板1Eの対向する面)の側面(ベース板1D,1F,1G,ベース板1Gに対向する面)の内側に「フィン部」を備える放熱部が設けられ,「フィン部を備える放熱部」がファン4の空気吸い込み口面(ベース板1Eの対向する面)の側面の近くに配置されているといえるから,本願発明(請求項1)の「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した,・・・フィン部を備える放熱部」を有するものと認められる。
したがって,本願発明と引用発明とは「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接したフィン部を備える放熱部」を有する点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
(3) 原告の主張に対する判断ア原告は,「側面に近接し」ているとは,対象物が側面に対して直角の方向から近付いている状態をいい,本願発明(請求項1)の「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した・・・フィン部を備える放熱部」は,ファンとフィン部を含む放熱部とを「並列させて」配置させていることを意味するものであるから,引用例1のように「ファンの空気吸い込み口面に対する背面側」にヒートシンクを設けた構成のものは,「前記ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した・・・フィン部を備える放熱部」に該当しないと主張する。
しかし,前記(1)で認定したとおり,本願の特許請求の範囲の記載及び本願明細書中には,フィン部とファンとの位置関係を実施例として図示されたもの(フィン部20がファン30の真横に並列に配置されたもの)に限定するとの記載はなく,「フィン部を備える放熱部」がファンの空気吸い込み口面の「側面の近くに」配置された構成のものであれば,ファンとフィン部を含む放熱部とを「並列させて」配置させているもの以外のものであっても,本願発明(請求項1)の「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した,・・・フィン部を備える放熱部」に該当すると解されるから,原告の主張は,その前提を欠き,採用することができない。
イまた,原告は,本件審判で提出した平成17年1月20日付け手続補正書(甲5)の「ここで(d)の記載はファンの空気吸い込み口面の側面に放熱部を配置することであり,即ち,ファンと放熱部を並列させて配置することにより,下記のような効果を奏します。(1)放熱部とファンを並列に配置することで,冷却装置全体の高さを低くすることができます。」などの記載を根拠に,ファンの空気吸い込み口面に対する「側面に近接し」ているとは,ファンと放熱部とを「並列させて」配置させていることを意味すると主張する。
しかし,本願明細書には,「発明の効果」としては,「本発明の冷却装置は,優れた放熱性能を実現するものである。またヒートパイプを適用することで,冷却すべき発熱部品とファンとを近接して配置する必要がなくなるので,より放熱性能が高まる箇所にファンを配置して高い放熱性能を実現させることができる。またファンによる塵や埃の堆積を抑制することもできる。このように本発明の冷却装置は優れたものである。」(甲4の段落【0014】)との記載があるにすぎず,前記(1)認定のとおり,本願明細書中には,「ファンの空気吸い込み口面に対する側面に近接した」(請求項1)構成とすることの技術的意義,作用・効果に関する記載はなく,原告の上記主張は,明細書の記載に基づかないものであり,採用することができない。
(4) 小括以上によれば,原告主張の取消事由1は理由がない。
2 取消事由2(相違点の認定及び容易想到性の判断の誤り)について(1) 相違点の認定の誤りについて原告は,引用発明においては,「ヒートパイプを含む放熱部の全体」が,「ファンの空気吸い込み口の背面側」に位置しており,「ファンの(空気吸い込み口より)上部」には位置していないから,「引用発明では放熱部全体がファンの上部に位置している」との審決の相違点の認定は誤りであると主張する。
しかし,前記1(2)イ認定のとおり,引用例1記載のヒートパイプ式冷却器は,ベース板1D,1F,1Gの「下側」に接して設けられたファン4の空気吸い込み口面(ベース板1Eの対向する面)の側面(ベース板1D,1F,1G,ベース板1Gに対向する面)の内側に「フィン部」を備える放熱部が設けられており,「フィン部を備える放熱部」がファンの(空気吸い込み口より)「上部」に配置されているといえるから,原告の主張は理由がない。
(2) 相違点についての容易相当性の判断の誤りについて原告は,相違点に係る本願発明の構成(「ヒートパイプを含む放熱部の一部が前記ファンの(空気取り入れ口より)上部に位置している」構成)は単なる設計的事項ではなく,引用発明に基づいて当業者が本願発明を容易に発明をすることができたものではないから,これが容易であるとした審決の判断は誤りであると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
すなわち,引用例2(甲3)には,ヒートパイプを含む放熱部の「一部」をフアンの(空気取り入れ口より)上部に位置させる技術(段落【0017】,図2,4)が記載されていること,乙1(特開平6-163770号公報)及び乙2(実願平3-67351号(実開平5ー15488号)のCD-ROM)の各記載に照らすと,引用例2記載の「放熱部の一部がファンの上部に位置している冷却装置の構造」は,冷却装置に関する技術分野において,原出願当時,周知の技術であったことが認められる。
そうすると,引用発明に,引用例2記載の上記技術を適用して,「フィン部を備える放熱部」の一部のみをファンの上部に配置すること(相違点に係る本願発明の構成)は,当業者が適宜なし得る設計的事項にすぎないものと認められるから,当業者が引用発明に基づいて本願発明を容易に発明をすることができたとの審決の判断に誤りはない。
(3) 小括以上によれば,原告主張の取消事由2は理由がない。
3 結論以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 大鷹一郎
裁判官 嶋末和秀