関連審決 | 不服2004-8955 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 周知技術 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
19年
(行ケ)
10104号
審決取消請求事件
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原告サ ンデン株式会社 訴訟代理人弁理士高橋勝利 被告特 許庁長 官肥塚雅博 指定代理 人早野公恵 同 小谷一郎 同 西本浩司 同 高木彰 同 大場義則 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2007/11/28 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1原告の請求を棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求特許庁が不服2004-8955号事件について平成19年2月7日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「電動式圧縮機」とする発明につき,平成11年4月7日,特許を出願(以下「本願」という。)し,平成15年11月25日付け手続補正書(甲3)により補正を行った。原告は,平成16年3月25日付けの拒絶査定を受け,同年4月30日,審判請求を行い,同年5月28日付け手続補正書(甲4)を提出した(以下この補正を「本件補正」といい,同補正後の明細書及び図面を「本願補正明細書」という。)。 特許庁は,この審判請求を不服2004-8955号事件として審理し,その結果,平成19年2月7日,本件補正を却下するとともに,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした。 2特許請求の範囲(1)本件補正後の本願発明の請求項1(以下「本願補正発明1」という。請求項の数は全部で3項である。)は,次のとおりである。 【請求項1】圧縮部とモータとを一体化して構成した冷媒圧縮用の電動式圧縮機において,前記モータを駆動する駆動回路を内蔵するとともに,前記駆動回路は,前記モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備え,前記制御回路を当該圧縮機の冷媒ガス吸入側であって,モータ駆動軸上において,前記圧縮部とは反対側の前記圧縮機の内部に取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。 (2)本件補正前の本願発明の請求項1(以下「本願発明1」という。請求項の数は全部で3項である。)は,次のとおりである。 【請求項1】圧縮部とモータとを一体化して構成した冷媒圧縮用の電動式圧縮機において,前記モータを駆動する駆動回路を内蔵するとともに,前記駆動回路を当該圧縮機の冷媒ガス吸入側であって,モータ駆動軸上において,前記圧縮部とは反対側に取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機。 3審決の理由別紙審決書の写しのとおりである。要するに,審決は,本願補正発明1は,特開平4-80554号公報(甲5,以下「刊行物1」といい,刊行物1に係る発明を「引用発明」という。)及び周知例(甲6,7。以下順に「周知例1」,「周知例2」という。)記載の周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができるものでないから,本件補正は却下すべきであり,本願発明1は,刊行物1及び上記周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとするものである。 審決は,上記結論を導くに当たり,刊行物1記載の発明(以下「引用発明」という。)の内容並びに本願補正発明1と引用発明との一致点及び相違点を,以下のとおり認定するとともに,相違点1,2につき以下のとおり判断した。 (1)引用発明の内容104圧縮機と103モータとを一体化して構成したモータ一体型空気調和機において,前記103モータを駆動する101パワー半導体モジュールを内蔵するとともに,前記101パワー半導体モジュールをモータ一体型空気調和機のハウジングの一部をなす205ハウジングに取り付けたモータ一体型空気調和機。 (2)一致点圧縮部とモータとを一体化して構成した冷媒圧縮用の電動式圧縮機において,前記モータを駆動する制御部を内蔵するとともに,制御部を前記圧縮機に取り付けた冷媒圧縮用の電動式圧縮機である点。 (3)相違点ア「前記モータを駆動する制御部を内蔵するとともに」に関して,本願補正発明1は,「前記モータを駆動する駆動回路を内蔵するとともに,前記駆動回路は,前記モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備え」であるのに対し,引用発明は,「前記モータを駆動する101パワー半導体モジュールを内蔵するとともに」である点(以下「相違点1」という。)。 イ「制御部を前記圧縮機に取り付けた」に関して,本願補正発明1は,「前記制御回路を当該圧縮機の冷媒ガス吸入側であって,モータ駆動軸上において,前記圧縮部とは反対側の前記圧縮機の内部に取り付けた」のに対し,引用発明は,「前記101パワー半導体モジュールをモータ一体型空気調和機のハウジングの一部をなす205ハウジングに取り付けた」点(以下「相違点2」という。)。 (4)相違点に対する審決の判断の要旨ア相違点1についてモータを駆動する制御部において,モータを駆動する駆動回路を,モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備えるように構成することは例示するまでなく周知の技術である。したがって,引用発明に,上記周知の技術を適用して,相違点1に関して本願補正発明1のように構成することは,当業者が設計において適宜なし得ることである。 イ相違点2について(ア)制御部を圧縮機に取り付ける目的は,圧縮機内部を流れる冷媒ガスによって制御部を冷却するためである。また,冷媒ガスによって冷却する場合,冷媒ガスが低温であるほど,効果的に冷却が行われ得ることは,冷却技術において常識的なことである。ところで,モータは通電によって発熱し,また,圧縮部は冷媒ガスの圧縮によって発熱して,両者は高温になるので,電動式圧縮機において,最も低温で効果的な冷却が期待できる箇所として,モータ駆動軸上において,圧縮部とは反対側に位置する冷媒ガス吸入側が考えられることは,当業者が普通に理解することである。してみると,制御回路を圧縮機の冷媒ガス吸入側であって,モータ駆動軸上において,圧縮部とは反対側に取り付けることは,当業者が容易に想到することである(以下この判断を「相違点2に対する審決の判断1」という。)。 (イ)引用発明においても,本願補正発明1の制御回路に相当する,101パワー半導体モジュールの回路部分は,実質的に圧縮部の内部に取り付けられていると解することができる(以下この判断を「相違点2に対する審決の判断2」という。)。 (ウ)空気調和装置において,制御回路を吸入側の機器の内部を流れる冷媒と接して取り付けることによって,その冷却を図ることは周知の事項である。したがって,引用発明に上記周知の事項を勘案して,制御回路を圧縮機の内部に取り付けるようにすることは,当業者が設計において適宜なし得ることである(以下この判断を「相違点2に対する審決の判断3」という。)。 (エ)本願補正発明1によってもたらされる効果も,引用発明,及び周知の技術,周知の事項から予測し得る程度のものである(以下この判断を「相違点2に対する審決の判断4」という。)。 第3原告主張の取消事由審決は,本願補正発明1と引用発明の一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点1及び相違点2の判断を誤って(取消事由2,3),本件補正が許されないと誤って判断したものであり,これらの誤りがいずれも結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法なものとして取り消されるべきである。 1取消事由1(一致点の認定の誤り)(1)引用発明においては,101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御する制御回路は圧縮機の外部にあり,圧縮機の内部には取り付けられていないから,圧縮機はモータを駆動する制御部を内蔵していないし,制御部を圧縮機に取り付けていない。よって,審決の一致点の認定は誤りである。 (2)被告は,引用発明における101パワー半導体モジュールは,「モータを駆動する制御部」といい得るものであると主張するが,失当である。 引用発明において,「101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御すること」は「103モータへの給電を制御すること」にほかならない。この101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御するものが,「圧縮機の外部に設けられた制御回路」である。したがって,101パワー半導体モジュールは,当該制御回路によって制御されるものであって,103モータへの給電を制御するものではなく,また103モータを制御するものでもない。103モータへの給電を制御し,103モータを制御するものは,圧縮機の外部に設けられた制御回路である。この制御回路が,103モータの駆動を制御する制御部である。101パワー半導体モジュール自体は,圧縮機の外部に設けられた制御回路によって制御され,それによって103モータを駆動するものであるから,103モータを駆動する駆動部(ないしは駆動回路の一部)であって,制御部ではない。 また,審決のいう101パワー半導体モジュールの回路部分は,当該モジュールを構成する基本となるスイッチ素子6個を配線接続したものであって,101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御する制御回路ではないから,103モータの駆動部(ないしは駆動回路の一部)であって,制御部ではない。引用発明においては,101パワー半導体モジュールと101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御する制御回路とで103モータを駆動する駆動回路が構成されていると理解すべきであるから,101パワー半導体モジュールは,「制御部であるところの」ものではなく,「駆動部であるところの」ないしは「駆動回路の一部であるところの」ものである。 2取消事由2(相違点1の判断の誤り)相違点1に関する審決の判断は,引用発明において圧縮機はモータを駆動する制御部を内蔵していないにもかかわらず,これを内蔵していると誤った前記認定を前提としたものであって,判断の前提において誤りである。また,圧縮機がモータを駆動する制御部を内蔵する点については,刊行物1には記載も示唆も一切なく,しかも,この点の技術は上記周知の技術には含まれないから,誤りである。 3取消事由3(相違点2の判断の誤り)(1)相違点2に対する審決の判断1について相違点2に対する審決の判断1は,引用発明において,制御部を圧縮機に取り付けていないにもかかわらず,これを取り付けていると誤った前記認定を前提としてなされたものである。引用発明においては,制御部の制御回路は圧縮機の外部にあり,圧縮機には取り付けていないし,しかも,刊行物1には制御部を圧縮機に取り付けることについて記載も示唆も一切ないから,上記判断は誤りである。 (2)相違点2に対する審決の判断2についてア審決の上記判断は,引用発明においても本願補正発明1の制御回路に相当する回路部分を実質的に圧縮機の内部に取り付けているとの誤った認定を前提としたもので,判断の前提において誤りである。引用発明においては,制御回路は圧縮機の外部にあり,制御回路を圧縮機の内部に取り付けていない。また,刊行物1には,制御回路を圧縮機の内部に取り付けることについて,記載も示唆も一切ない。 イ審決の上記判断において,周知例1及び周知例2を引用したが,いずれにおいても,制御回路又は電力用半導体素子が圧縮機の外部にあるアキュムレータ内に配置されている技術が記載されているだけで,制御回路を圧縮機の内部に取り付ける点については記載も示唆も一切ない。また,周知例2の電力用半導体素子(1)は,「素子」であって制御回路ではない。 周知例2においては,「電力用半導体素子(1)の接続端子部が外部に露出するように配置してネジ(11)で取付ける。」(第3頁左下欄最終行〜同頁右下欄第2行,第3,4,6及び7図)と記載されているところから,電力用半導体素子(1)を制御する制御回路がアキュムレータ(8)の外部に配置され,上記接続端子に配線接続されると理解すべきであるから,電力用半導体素子(1)は制御回路によって制御されるものであって,制御回路ではない。したがって,周知例2は上記周知技術の例示となり得るものではない。 (3)相違点2に対する審決の判断3について上記1のとおり,引用発明においては,101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御する制御回路は圧縮機の外部にあり,圧縮機の内部には取り付けられていないから,上記判断は誤りである。 (4)相違点2に対する審決の判断4について本願補正明細書(甲2ないし4)には,本願補正発明1の効果として,「以上説明したように,本発明によれば,空冷式の放熱器やファン,水冷式の水冷放熱器や水配管がなくなるため,小型,低コスト,組み立て時間の短縮がはかれる電動式圧縮機を提供することができる。」(段落【0053】),「また,本発明によれば,長いリード線が不要である電動式圧縮機を提供することができる。」(段落【0054】),「さらに,本発明によれば,電磁ノイズの放射が減少し,ラジオや他の車載装置への悪影響を与えない電動式圧縮機を提供することができる。」(段落【0055】)と記載されている。 本願補正発明1においては上記の効果が得られるのに対し,引用発明においては,制御回路が圧縮機の外部にあるため,制御回路と圧縮機を長いリード線で接続することを要するし,また,長いリード線から電磁ノイズが放射されラジオや他の車載装置への悪影響が生じる。 したがって,本願補正発明1の前記効果は,本願補正発明1に特有の効果であり,引用発明,周知の技術及び周知の事項がもたらすことのできないものであるから,本願補正発明1の効果は,引用発明,周知の技術及び周知の事項から予測される程度のものではない。 第4被告の反論審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。 1取消事由1(一致点の認定の誤り)に対し審決は,101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御する制御回路について一致点として認定しておらず,相違点1として認定している。引用発明において,103モータを駆動する101パワー半導体モジュールは,103モータへの給電を制御することによって,103モータを制御して駆動する部分であるので,「モータを駆動する制御部」といい得るものである。よって,原告の主張は失当である。 2取消事由2(相違点1についての判断の誤り)に対し(1)審決の一致点の認定には誤りがないので,その誤りを前提とした原告の主張は失当である。 (2)引用発明において,103モータを駆動する101パワー半導体モジュールは,12本の203制御端子を外部に向けて持つものであるから,そのスイッチング動作を制御する制御回路は,刊行物1に記載はないもののモータ一体型空気調和機の外部に設けられている。審決は,引用発明における,101パワー半導体モジュールと制御回路との関係について,「モータを駆動する駆動回路を,モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備えるように構成すること」が周知の技術であるから,101パワー半導体モジュールについてそのスイッチング動作を制御する制御回路を備えるように構成することは当業者が設計において適宜なし得ることであると判断し,「刊行物1記載の発明に,上記周知の技術を適用して,相違点1に関して補正発明のように構成することは,当業者が設計において適宜なし得ることである。」と記載したものである。したがって,原告の主張は理由がない。 3取消事由3(相違点2についての判断の誤り)に対し(1)相違点2に対する審決の判断1について制御部を圧縮機に取り付ける目的は,圧縮機内部を流れる冷媒ガスによって制御部を冷却するためである。また,冷媒ガスによって冷却する場合,冷媒ガスが低温であるほど効果的に冷却が行われ得ることは,冷却技術において常識的なことである。ところで,モータは通電によって発熱し,また,圧縮部は冷媒ガスの圧縮によって発熱して,両者は高温になるので,電動式圧縮機において最も低温で効果的な冷却が期待できる箇所として,モータ駆動軸上において圧縮部とは反対側に位置する冷媒ガス吸入側が考えられることは,当業者が普通に理解することである。そうすると,相違点2に対する審決の判断1のうち,「制御回路」は「制御部」とすべきであるが,その点は審決の結論に影響を及ぼさないから,原告の主張は理由がない。 (2)相違点2に対する審決の判断2について審決が,引用発明を,101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御する制御回路を含まないように認定していることは前記のとおりであるから,原告の主張は失当である。また,審決において,周知例2は,「空気調和装置において,制御回路を吸入側の機器の内部を流れる冷媒と接して取り付けることによって,その冷却を図ること」が周知の事項であることの例示として挙げたものであり,仮に周知例2の開示する技術事項が原告の主張するとおりであるとしても,そのことは審決の判断に影響を与えるものではない。 (3)相違点2に対する審決の判断3について相違点2に対する審決の判断3は,「引用発明においても,制御部であるところの,101パワー半導体モジュールの回路部分は,実質的に圧縮機の内部に取り付けられていると解することができる。」と認定すべきであったことは認める。しかし,審決は,引用発明を,101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御する制御回路を含まないように認定し,それに基づいて相違点1を認定し判断しているから,上記認定の誤りは審決の結論に影響を及ぼすものではない。 (4)相違点2に対する審決の判断4について本願補正発明1の効果のうち,長いリード線が不要となること及び電磁ノイズの放射が減少するという効果は,モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を冷媒ガス吸入側に取り付けることよりも,むしろ,インバータを冷媒ガス吸入側に取り付けることにより生ずるものである。また,本願補正明細書1には,上記効果が,スイッチング動作を制御する制御回路とインバータとの間の配線が短いことにより生ずるとは記載されておらず,またそれを示唆する記載もない。他方,引用発明においても,刊行物1記載の第1,2図によれば,101パワー半導体モジュールの204出力端子と103モータとの間は,短い配線で接続される。そうすると,本願補正発明1の上記効果は,引用発明にも内在するものであるから,本願補正発明1に特有な効果であるとはいえない。仮に,原告の主張が,本願補正発明1は,制御回路3とインバータ2との間の配線が短くなることによって,上記2つの効果が生じているという趣旨であるとしても,それは明細書の記載に基づくものでないのみならず,引用発明に,前記周知の技術を適用して,相違点1に関して本願補正発明1のように構成すれば,制御回路3とインバータ2との間の配線は短くなるので,上記2つの効果が生じ得ることは,予測できる程度のことにすぎない。原告の主張は理由がない。 第5当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却すべきものと判断する。以下,その理由を述べる。 1本願補正明細書及び刊行物1の記載(1)本願補正明細書の記載本願補正明細書(甲2ないし4)には,次の各記載がある。 ア「‥‥‥前記モータを駆動する駆動回路を内蔵するとともに,前記駆動回路は,前記モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備え,前記制御回路を当該圧縮機の冷媒ガス吸入側であって,モータ駆動軸上において,前記圧縮部とは反対側の前記圧縮機の内部に取り付けた‥‥‥」(【特許請求の範囲】【請求項1】)イ「しかしながら,従来の電動式圧縮機において,駆動回路内のインバータは,半導体スイッチング素子によって構成されており,それらのスイッチング素子の電力ロス等によって多量の熱を発生する。」(段落【0009】【発明が解決しようとする課題】)ウ「また,従来の電動式圧縮機では,駆動回路と電動式圧縮機が分離されていたため,その間を接続するための長いリード線が必要であった。さらに,電動式圧縮機のモータには,インバータから高周波数で,チョッピングされた大電流が流れるため,上記の長いリード線から電磁ノイズが放射され,ラジオや他の車載電子装置に悪影響を及ぼすという欠点を有していた。」(段落【0011】)エ「本発明によれば,圧縮部とモータとを一体化して構成した冷媒圧縮用の電動式圧縮機において,前記モータを駆動する駆動回路を内蔵するとともに,前記駆動回路は,前記モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備え,前記制御回路は当該圧縮機の冷媒ガス吸入側であって,モータ駆動上において,前記圧縮部とは反対側の前記圧縮機の内部に取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機が得られる。 圧縮機とモータを一体化して構成した冷媒圧縮用の電動式圧縮機において,前記モータを駆動する駆動回路を内蔵するとともに,前記駆動回路を当該圧縮機の冷媒ガス吸入側であって,モータ駆動軸上において,前記圧縮部とは反対側の前記圧縮機の内部に取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機が得られる。」(段落【0015】【課題を解決するための手段】)オ「また,本発明によれば,前記電動式圧縮機において,前記駆動回路は,インバータ出力端子を更に備え,3端子が直線的に配置されていて,外側の端子がねじ式になっている密封端子を前記インバータ出力端子に直接ナットで取り付けたことを特徴とする電動式圧縮機が得られる。」(段落【0016】)カ「仕切壁1bの外部側には,制御回路3及びインバータ2が一体となり駆動回路4として,吸入ハウジング1の底部側の仕切壁1b面に密着して取り付けられている。また,仕切壁1b面には,インバータ2に隣接して,インバータ出力端子5が設けられており,図示しないリード線を介して密封端子と接続されている」(段落【0030】)キ「吸入ハウジング1の開口の一端の蓋部材6は,電動式圧縮機10内部に設けられた各回路への水や異物から保護するとともに,駆動回路4等からの電磁ノイズの外部への放出を防いでいる。」(段落【0033】)ク「又,インバータ2における各トランジスタ21a,21b,21c,23a,23b,23cはプラス側とマイナス側とに区別されてそれぞれ三相直流モータ12用のバッテリーからなる直流電源18と制御回路3とに接続され,プラス側の各トランジスタ21a,21b,21cで上アームを成し,マイナス側の各トランジスタ23a,23b,23cで下アームを成している。」(段落【0036】)ケ「加えて,各トランジスタ21a,21b,21c,23a,23b,23cのペース側は制御回路3に接続され,上アーム(21a,21b,21c)のコレクタ側と下アーム(23a,23b,23c)のエミッタ側とは各トランジスタ21a,21b,21c,23a,23b,23cに電源供給を行うための直流電源18に接続され,この直流電源18の両極間には平滑用コンデンサ11が介挿されている。」(段落【0038】)コ「制御回路3は,三相直流モータ80を介して電動式圧縮機10を停止する際,駆動制御信号により各トランジスタ21a,21b,21c,23a,23b,23cのスイッチング動作として全部を短時間オフしてから上アーム(21a,21b,21c)をオフにしたまま下アーム(23a,23b,23c)を所定時間以上オンにする。これにより,電動式圧縮機10が停止する。」(段落【0039】)サ「さらに,モータ80と駆動回路4との間の配線は,短くなり,圧縮機のハウジング内に収納することができる。」(段落【0042】)シ「また,本発明によれば,長いリード線が不要である電動式圧縮機を提供することができる。さらに,本発明によれば,電磁ノイズの放射が減少し,ラジオや他の車載装置への悪影響を与えない電動式圧縮機を提供することができる。」(【発明の効果】段落【0054】【0055】)(2)刊行物1の記載他方,刊行物1(甲5)には,次の各記載がある。 ア「モータ一体型空気調和機において,該空気調和機の低圧チャンバーにパワー半導体モジュールを取り付けたことを特徴とするモータ一体型空気調和機。」([特許請求の範囲][請求項1])イ「従来,モーター体型空気調和機は,誘導電動機やDCブラシレスモータと,上記モータの軸出力を直結して駆動する空気調和機とから構成され,これらは冷媒の吸入口と吐出口をもったシェルにより密閉状態に保持固定されている。このようにモーター体型空気調和機は,空気調和機と該空気調和機を駆動するモータとが一体となって密閉されているので冷媒が漏れることなく長期間安定した品質を保つことができる。 一方,上記モータの給電はシェルに密閉を保つために溶接等により固定されたシェルの内外部にそれぞれ複数本の端子を持つハーメチックコネクタを介して行われている。シェル内部のモータ巻線は,ファストン端子等を用いてハーメチックコネクタに配線接続され,シェル外部のハーメチックコネクタ端子からは,外部に設けられた駆動回路の出力スイッチ,例えば三相バイポーラ型出力を持つパワー半導体素子に接続されている。また素子構造として1素子1パッケージのものや1パッケージ内に複数個のパワー半導体素子を封入したモジュール構造の物も使われており,これらはインバータ,モータ駆動回路,UPSなど多方面で利用されている。 パワー半導体素子は理想的なスイッチとはなり得ないためスイッチ内部にエネルギー損失が発生しジュール損として熱に変わる。従って,これらのパワー半導体素子を使用するに際して,冷却について考慮する必要がある。」([従来の技術])ウ「しかしながら,上記のようにアルミブロック,軸流ファンを用いて素子の冷却をするばあい素子自身の体積に比べて非常に大きなスペースが必要となり駆動回路の小型化を阻害する大きな要因となっている。 本発明の目的とするところは,モーター体型空気調和機に使用される冷媒を利用して大型のアルミブロックと軸流ファンを使用することなく素子の冷却ができる構造を提供することにある。([発明が解決しようとする課題及び目的])エ「本発明のモーター体型空気調和機の構成を第1図に基づいて説明する。 モーター体型空気調和機は103モータ,104圧縮機から構成され,これらを密閉固定する102シェルには105吸入口と106吐出口とが設けられ低圧低温状態の冷媒が105吸入口から上記シェル内に流入し103モータの空隙を通って104圧縮機により高温高圧の冷媒となって106吐出口よりシェル外部へ流出する。モータ電機子への給電は従来,シェル内部の密閉状態を保つためシェルに固定され内外部に接続端子を持つ端子台(図示せず)によって配線の接続を行い給電されていたが,本発明では101パワー半導体モジュールを102シェルに溶接等によって固定し,上記シェル内部に配置された出力端子にモータ電機子コイルを配線接続し,シェル外部に配置された入力端子及び制御端子に電源及び制御信号を配線接続する。低温低圧の冷媒は104圧縮機に入る前に101パワー半導体モジュールを冷却する。 次に本発明のパワー半導体モジュールのパッケージ構造の例を第2図によって説明する。201チツプは205ハウジングと絶縁されたベース材上に接着固定され,202入力端子と203制御端子とが207上フタに適当に配置され,それぞれ201チツプの所定の位置に配線固定されている。本実施例では基本となるスイッチ素子が6個205ハウジング内に配置され三相バイポーラ出力が得られるモジュール構成のものを示してあり,207上フタにそれぞれ202入力端子2本(十,-)と203制御端子12本(Gl,El〜G6,E6)とが配設固定され,また上記の上フタは,205ハウジングとの隙間に加熱流動状態となった合成樹脂等を流し込み冷却固化することによって固定されている。一方204出力端子3本は205ハウジング底面から突き出す方向に配置され,上記ハウジングとは206シール剤によって密閉固定され,また201チツプの所定の位置に配線固定されている。」([実施例])オ「以上の構成によればパワー半導体モジュールをシェルに直接取り付けられるので低温低圧の冷媒によってパワー半導体モジュールを冷却することができ,従来使用していた放熱のためのアルミブロックや軸流ファンが不要となり価格低減に寄与すると共に,駆動回路内に上記パワー半導体モジュール,アルミブロック,軸流ファンのためのスペースが不要となるので駆動回路の小型化にも寄与することができる。さらに,パワー半導体モジュールがシェルの内外部を配線接続するための端子台としての機能を持つことから,専用の端子台を用いる必要がなく,また従来パワー半導体モジュールと端子台とを接続していた配線の接続端子が必要なくなる。」([発明の効果])2取消事由1(一致点の認定の誤り)について(1)ア上記1に掲記した本願補正明細書の記載によれば,本願補正発明1において,?@制御回路は,駆動回路に備えられ,いずれも圧縮機の内部に取り付けられるものであること,?Aモータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御するものであること,?B駆動回路内のインバータを構成する半導体スイッチングから発生する熱を圧縮機の冷媒により冷却すること及びインバータからの高周波数でチョッピングされた大電流が流れ,長いリード線を使用するとそこから電磁ノイズが放射されるのでそれを防止することを目的として,駆動回路と制御回路をモータ駆動軸上において,前記圧縮部とは反対側の前記圧縮機の内部に取り付けたものであること,?C駆動回路は,制御回路3とインバータ2とが一体となったものを含み,制御回路3により各トランジスタのスイッチング動作を制御するものといえること,?D実施形態として,制御回路3は,仕切り壁1bの外側で蓋部材6で覆われる部分に配置されているものを含むことが認められる。 イ他方,上記1に掲記した刊行物1の記載によれば,引用発明における「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」は,本願補正発明1の駆動回路を構成する半導体スイッチング素子と同様に,モータ10を駆動制御するためのものであり,その際,電力ロス等によって熱を発生するものである。そして,引用発明においても,圧縮機の冷媒によって101パワー半導体モジュールを冷却するものと認められる。また,引用発明においても, その「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」は,本願補正発明1の駆動回路を構成する半導体スイッチング素子と同様に,インバータでのチョッピングされた大電流によりノイズが発生するものと解される。 そして,「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」は,審決にいう「101パワー半導体モジュールの回路部分」であり,モータの駆動を行うための回路となり,駆動回路モータ一体型空気調和機のハウジングの一部をなす205ハウジングの仕切壁部分(204出力端子が設けられている部分)の外側で207上フタで覆われる部分に配置されているものである。 ウそうすると,本願補正明細書及び刊行物1の記載によれば,引用発明の「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」は,駆動回路からの熱発生に対しての冷却という作用効果及び電磁ノイズ発生に対しての放射防止という作用効果の対象となる点並びに圧縮機の内部に取り付けられている点で,本願補正発明1の駆動回路と共通している。さらに,本願補正発明1においては,「駆動回路は制御回路を備える」ものであるとされているところ,本願補正発明1の「駆動回路」は圧縮機の内部に取り付られたものも含むと解され(本願補正明細書の図面では,「制御回路3」は「駆動回路4」の中に配置されることが図示されている。),引用発明における「101パワー半導体モジュール」の「201チップ」は,モータ10を駆動制御するためのものであるから,その回路部分は,本願補正発明1における「駆動回路」に含まれる制御回路に実質的に相当するということができる。 エ上記によれば,審決が,「ところで,刊行物1記載の発明においても,‥‥‥101パワー半導体モジュールの回路部分は,モータ一体型空気調和機のハウジングの一部をなす205ハウジングの仕切壁部分(204出力端子が設けられている部分)の外側で207上フタで覆われている部分に配置されている。してみると,刊行物1記載の発明においても,補正発明の制御回路に相当する,101パワー半導体モジュールの回路部分は,実質的に圧縮機の内部に取り付けられていると解することができる。」(審決書5頁30行〜37行)と認定したことに,誤りがあるということはできない。 そして,審決は,この点につき,一致点として,「‥‥‥前記モータを駆動する制御部を内蔵するとともに,制御部を前記圧縮機に取り付けた冷媒圧縮用の電動式圧縮機。」とし,相違点として,「前記モータを駆動する制御部を内蔵するとともに」に関して,本願補正発明1が「前記モータを駆動する駆動回路を内蔵するとともに,前記駆動回路は,前記モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備え」であるのに対し,引用発明が「前記モータを駆動する101パワー半導体モジュールを内蔵するとともに」である点,と認定しているのであるから,原告が主張するように,引用発明においては,シェルの外部にある制御回路がシェルの外部に配置された制御端子に配線接続されているとしても,審決の上記認定に誤りがあるということはできない。 (2)ア原告は,引用発明においては,101パワー半導体モジュールのスイッチング動作を制御する制御回路は圧縮機の外部にあり,圧縮機の内部には取り付けられていないから,圧縮機はモータを駆動する制御部を内蔵していないし,制御部を圧縮機に取り付けていない旨を主張する。 しかしながら,審決は,本願補正発明1と引用発明を対比して,本願補正発明1と引用発明とは,「圧縮部とモータとを一体化して構成した冷媒圧縮用の電動式圧縮機において,前記モータを駆動する制御部を内蔵するとともに,制御部を前記圧縮機に取り付けた冷媒圧縮用の電動式圧縮機。」で一致するとしている。そして,引用発明における「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」は,刊行物1の記載に「モータ10の駆動を制御するため三相バイポーラ出力する」ものと記載されており,三相バイポーラの電力をモータに出力しその駆動力及び回転数を変更するためのものであるから,「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」を制御する制御回路が別にあるとしても,モータの駆動を制御することに関与していることは明らかであり,一致点として「モータを駆動する制御部」としたことに誤りはない。 これを言い換えれば,前記のとおり,本願補正発明1においては,駆動回路内のインバータを構成する半導体スイッチングから発生する熱を圧縮機の冷媒により冷却すること及びインバータからの高周波数でチョッピングされた大電流が流れ,長いリード線を使用するとそこから電磁ノイズが放射されるのでそれを防止することを目的として,駆動回路と制御回路をモータ駆動軸上において,前記圧縮部とは反対側の前記圧縮機の内部に取り付けた構成を採用しているところ,引用発明における「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」はモータの駆動を制御することに関与し,駆動回路からの熱発生に対しての冷却という作用効果及び電磁ノイズ発生に対しての放射防止という作用効果の対象となる点並びに圧縮機の内部に取り付けられている点で,本願補正発明1の駆動回路と共通しているのであるから,本願補正発明1の容易想到性を判断するための引用例として本願補正発明1と対比する上では,上記「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」が本願補正発明1の「制御部」に該当するものとして存在すれば足りるものであって,「201チップ」を制御する制御回路が別に存在するとしても,そのことは本願補正発明1との対比に際して影響するものではなく,またそのような事情が本願補正発明1の容易想到性の判断に阻害要因として影響するものでもない。 イ原告は, 引用発明における101パワー半導体モジュール自体は,圧縮機の外部に設けられた制御回路によって制御され,それによって103モータを駆動するものであるから,103モータを駆動する駆動部(ないしは駆動回路の一部)であって,制御部ではないと主張する。 しかしながら,101パワー半導体モジュール自体が圧縮機の外部に設けられた制御回路によって制御されるものであるとしても,上述したように,「モータ10の駆動を制御するため三相バイポーラ出力する」ものと記載されており,三相バイポーラの電力をモータに出力しその駆動力及び回転数を変更するためのものであるから,モータの駆動を制御することに関与していることは明らかであり,「モータを駆動する制御部」としたことに誤りはない。 また,刊行物1の101パワー半導体モジュールの回路部分は,「モータ一体型空気調和機のハウジングの一部をなす205ハウジングの仕切壁部分(204出力端子が設けられている部分)の外側で207上フタで覆われている部分に配置されている。」ものであり,上記アにおいて述べたように,本願補正発明1の「駆動回路」に相当するものであり,電力をモータに出力しその駆動力及び回転数を変更するためのものである点で共通するものであるから,「モータを駆動する制御部」ということができ,一致点として認定したことに誤りはない。 3取消事由2(相違点1の判断の誤り)について原告は,相違点1に関する審決の判断は,引用発明において圧縮機はモータを駆動する制御部を内蔵していないにもかかわらず,これを内蔵しているとした誤った認定を前提としたものであって,判断の前提において誤りである旨を主張する。 しかしながら,上記2において説示したとおり,刊行物1の「パワー半導体モジュール101」の「201チップ」は,上記したように,モータ10の駆動を制御するため三相バイポーラ出力するものであるから,審決がこれを「モータを駆動する制御部」としたことに誤りはない。審決は,「前記モータを駆動する制御部を内蔵するとともに」に関して,本願補正発明1においては「前記モータを駆動する駆動回路を内蔵するとともに,前記駆動回路は,前記モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備え」であるのに対し,引用発明においては「前記モータを駆動する101パワー半導体モジュールを内蔵するとともに」である点を「相違点1」として認定し,相違点1について,「モータを駆動する制御部において,モータを駆動する駆動回路を,モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備えるように構成することは,例示するまでもなく周知の技術である。」と判断している。したがって,審決では,モータを駆動する制御部を「駆動回路」と「制御回路」からなるものとしており,その上で,「モータを駆動する駆動回路を,モータへの電流供給のためのスイッチング動作を制御する制御回路を備えるように構成することは,例示するまでもなく周知の技術である。」と判断しているのである。 審決の相違点1についての判断に誤りはなく,原告の主張は採用できない。 4取消事由3(相違点2の判断の誤り)について(1)相違点2に対する審決の判断1ないし3について原告は,相違点2に対する審決の判断1ないし3は,引用発明において制御部を圧縮機に取り付けていないにもかかわらず,これを取り付けていると誤った認定を前提としてなされたものであると主張する。 しかしながら,上記2において説示したとおり,刊行物1における101パワー半導体モジュールの回路部分は,「モータ一体型空気調和機のハウジングの一部をなす205ハウジングの仕切壁部分(204出力端子が設けられている部分)の外側で207上フタで覆われている部分に配置されている。」ものであり,本願補正発明1の「駆動回路」に相当するものであり,電力をモータに出力しその駆動力及び回転数を変更するためのものである点において共通するから「モータを駆動する制御部」ということができる。そして,101パワー半導体モジュールの回路部分は,圧縮機に取り付けられている。 原告の主張は,その前提を欠くものであり,採用の限りでない。 (2)相違点2に対する審決の判断4について原告は,本願補正発明1では,駆動回路が圧縮機に内蔵され,駆動回路に備えられた制御回路も圧縮機に内蔵されることから,モータと駆動回路とを接続するリード線及び駆動回路内においてインバータを構成する半導体スイッチング素子と制御回路とを接続するリード線のすべてが圧縮機に内蔵されるので,駆動回路のスイッチング動作に伴ってリード線から放射される電磁ノイズは圧縮機の機体によって遮蔽され,電磁ノイズが圧縮機の外部に漏れ出てラジオや他の車載装置へ悪影響を与えることを防止することができるという,引用発明に見られない作用効果を奏する旨を主張する。 しかしながら,本願補正発明1において電磁ノイズが発生するのは,インバータを構成する半導体スイッチング素子からであり,このことは本願補正明細書(段落【0011】)に記載されているとおりである。 そうすると,同様の構成を有する引用発明においても,101パワー半導体モジュールの201チップから電磁ノイズが発生するものと解され,それらは,上フタ207の内部に設けられているから,外部に漏れることが防止されるものと認められる。 上記のとおり,原告の主張する本願補正発明1の作用効果は,引用発明においても同様に奏するものと認められるから,原告の主張は,採用できない。 5結論以上によれば,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がなく,その他原告が縷々主張する点も,上記説示したところに照らせば,いずれも審決を取り消すべき誤りということはできない。そうすると,審決が本件補正を許されないものとして却下した判断に誤りはなく,本願の請求項1の発明を本願発明1として判断を行った点に誤りはない(なお,原告は,本願発明1についての審決の判断については独立した取消事由を主張していないが,本願発明1に更に特定事項を追加した本願補正発明1に上記のとおり進歩性が認められないのであるから,本願発明1についても同様に進歩性が認められないことは明らかである。)。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 上田洋幸 |